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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01G
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01G
管理番号 1322907
審判番号 不服2016-2017  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-09 
確定日 2017-01-10 
事件の表示 特願2014-506077「セラミック電子部品」拒絶査定不服審判事件〔平成25年9月26日国際公開、WO2013/140903、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)2月15日(優先権主張2012年3月19日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年8月6日付けで拒絶理由が通知され、同年10月16日付けで手続補正がなされたが、同年11月13日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対し、平成28年2月9日付けで拒絶査定不服の審判が請求され、同時に手続補正がなされ、その後、当審において同年9月29日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年11月29日付けで意見書が提出されたものである。

第2 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
(1)本件出願の請求項1ないし3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)本件出願の請求項1ないし3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2002-208535号公報

2.当審拒絶理由の判断
(1)本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成28年2月9日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
端面部と側面折返部とを有する外部電極がセラミック素体の両端部に被覆形成されたセラミック電子部品であって、
前記外部電極は、卑金属材料を含有すると共に、前記側面折返部の被覆端部から前記端面部方向への直線距離が少なくとも5μm内の領域に、前記セラミック素体と接する形態で少なくともSi及び卑金属材料を含有したガラス層が形成され、
前記ガラス層の平均厚みは、3?10μmであり、
かつ、前記ガラス層中の前記Si成分の含有量が、11重量%以上40重量%以下であることを特徴とするセラミック電子部品。」

(2)引用発明
引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)
ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、積層セラミックコンデンサなどの電子部品およびその製造方法に関する。」
イ.「【0002】
【従来の技術】代表的な積層セラミック電子部品の一つである積層セラミックコンデンサは、誘電体層と内部電極層とが交互に積層されたコンデンサ素子本体を有し、このコンデンサ素子本体の両端部には、前記内部電極層と導通する外部端子電極が形成してある。外部端子電極は、通常、Ag、Ag-Pd、Cu、Ni、それらの合金などの金属粉末(導電成分)に、ガラスフリット、有機ビヒクル(バインダーおよび溶剤など)を配合してなる外部端子電極用ペーストを、コンデンサ素子本体の両端部に塗布し、焼き付けることにより固着されて形成される。」
ウ.「【0007】本発明の目的は、複雑な製造工程によらず、低コストで製造でき、素子本体に対する外部端子電極の固着強度が大きく、高い信頼性を有する積層セラミックコンデンサなどの電子部品、およびその製造方法を提供することである。」
エ.「【0034】積層セラミックコンデンサ
図1に示すように、電子部品の一例としての本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2は、誘電体層4と内部電極層6,8とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。コンデンサ素子本体10の形状は、特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよいが、通常、縦(0.6?5.6mm)×横(0.3?5.0mm)×厚み(0.3?1.9mm)程度である。
【0035】コンデンサ素子本体10のX方向両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層6,8と各々導通する一対の外部端子電極12,14が形成してある。本実施形態では、コンデンサ素子本体10のサイズがたとえば縦3.2mm×横1.6mm×厚み1.2mmである場合において、外部端子電極12,14は、素子本体に対して100N以上、好ましくは120N以上の固着強度で固着される。なお、従来の積層セラミックコンデンサにおいて、同一サイズでは、100N未満の固着強度が限界であった。
【0036】外部端子電極
図2および図3に示すように、外部端子電極12は、内部電極層6側から順に、ガラス-素体反応層122、ガラス層124および導電層126が積層される3層構造で構成してある。導電層126の外面には、メッキ層(図示省略)が形成してあってもよい。なお、外部端子電極14は、外部端子電極12と同様の構成であるので、その説明を割愛する。
【0037】ガラス-素体反応層
ガラス-素体反応層122は、後述する外部端子電極用ペースト中に含まれるガラスフリット(ガラス)と、素子本体10の誘電体層4とが化学反応を起こし、互いに混じり合って存在する層であり、主としてガラスと誘電体酸化物とで構成される。反応層122の厚みは、特に限定されないが、通常0.1?10μm程度である。
【0038】ガラス層
ガラス層124には、ガラス中に金属粒子124aが含有して構成される。金属粒子124aは、たとえばAg、Au、Pt、Pd、CuおよびNiから選ばれる少なくとも一種(合金含む)が挙げられるが、好ましくはCu、Niあるいはそれらの合金、より好ましくはCuである。ガラス層124における金属粒子124aの含有量は、好ましくは1?50重量%、より好ましくは5?40重量%である。ガラス層124に含まれる金属粒子124aの平均粒径は、好ましくは0.01?30μm、より好ましくは0.1?10μmである。ガラス層124の厚みは、特に限定されないが、通常、0.1?5μm程度である。ガラス層124を構成するガラスの組成は、特に限定されないが、たとえばケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、アルミナケイ酸塩ガラスなどで構成される。ガラス層124には、必要に応じて、CuO、Cu_(2) O、CaO、BaO、MgO、ZnO、PbO、Na_(2) O、K_(2) O、MnO_(2) などの添加物が含有してあってもよい。
【0039】導電層
導電層126は、上述した金属粒子124aと同一成分の金属で構成される。導電層126の厚みは、特に限定されないが、通常、5?100μm程度である。」
オ.「【0042】本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2では、誘電体層4と内部電極層6,8とが交互に積層してある素子本体10の外面に外部端子電極12,14が形成してある。外部端子電極12,14は、素子本体10の外面に直接に形成され、前記素子本体10の一部とガラスとが反応しているガラス-素体反応層122と、反応層122の外面に形成され、内部に金属124aを含むガラス層124と、ガラス層124の外面に形成された金属で構成してある導電層126とを有する。ここで、素子本体10とガラス層124とはガラス-素体反応層122を介して化学的に強固に接続してあり、ガラス層124と導電層126とはこのガラス層124に含まれる金属粒子124aが導電層126を構成する金属成分と結合して化学的に強固に接続してある。その結果、高い固着強度が得られる。」
カ.「【0053】外部端子電極用ペースト
外部端子電極用ペーストは、導電材と、ガラスフリットと、有機ビヒクルとを少なくとも含有して調整される。
【0054】外部端子電極用ペーストに含まれる導電材には、少なくとも金属酸化物が含まれる。金属酸化物としては、特に限定されないが、Cuの酸化物(たとえばCuOまたはCu_(2) O)、またはNiの酸化物(たとえばNiO)が好ましく、より好ましくはCuの酸化物である。
【0055】外部端子電極用ペーストに含まれる導電材には、さらに金属単体またはその合金が含有してあってもよい。金属としては、たとえばAg、Au、Pt、Pd、CuおよびNiから選ばれる少なくとも一種などが挙げられる。
【0056】導電材の平均粒径は、特に限定されないが、たとえば0.01?30μm程度である。0.01μmよりも平均粒径が小さい場合、粒子の凝集が激しくなり、外部端子電極用ペーストの塗布や乾燥時に、あるいは焼き付け時に、外部端子電極4にクラックが生じやすくなる傾向がある。30μmよりも平均粒径が大きい場合、ペースト化が困難になる傾向がある。
【0057】外部端子電極用ペーストに含まれるガラスフリットは、主として素子本体10に対する外部端子電極12,14の接着を確保する機能を司る。
【0058】ガラスフリットの組成は、特に限定されないが、後述するように本発明では外部端子電極12,14の焼き付け処理を還元性雰囲気で行うことから、その雰囲気下でもガラスとしての機能を果たすものであることが必要である。このようなものとしては、たとえば、ケイ酸塩ガラス{(SiO_(2) :20?80重量%、Na_(2) O:80?20重量%)や(SiO_(2) :7?63重量%、ZnO:37?93重量%)}、ホウケイ酸塩ガラス(B_(2) O_(3) :5?50重量%、SiO_(2) :5?70重量%、PbO:1?10重量%、K_(2) O:1?15重量%)、アルミナケイ酸塩ガラス(Al_(2) O_(3) :1?30重量%、SiO_(2) :10?60重量%、Na_(2) O:5?15重量%、CaO:1?20重量%、B_(2) O_(3) :5?30重量%)等が挙げられる。これらの各種ガラスは、それぞれ単独で用いてもよいし、あるいは二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0059】このようなガラスには、必要に応じて、CuO:0.01?50重量%、Cu_(2) O:0.01?50重量%、CaO:0.01?50重量%、BaO:0.01?50重量%、MgO:0.01?5重量%、ZnO:0.01?70重量%、PbO:0.01?5重量%、Na_(2) O:0.01?10重量%、K_(2) O:0.01?10重量%、MnO_(2) :0.01?40重量%等の添加物を所定の組成になるように混合しても良い。ガラスフリットの平均粒径は、特に限定されないが、たとえば0.01?30μm程度である。0.01μmよりも平均粒径が小さいと導電材の焼結が不均一となり、外部端子電極12,14にクラックを発生させる原因となる傾向があり、30μmよりも平均粒径が大きいと、ガラスの分散が悪くなり、外部端子電極12,14と素子本体10との接着性が低下する傾向にある。
【0060】外部端子電極用ペーストにおける導電材の含有量は、好ましくは80?99重量%、より好ましくは85?93重量%である。ガラスフリットの含有量は、好ましくは1?20重量%、より好ましくは3?15重量%である。
【0061】有機ビヒクルとしては、上述のものを用いれば良い。」
キ.【図1】

ク.【図2】

上記図1の記載からみて、外部端子電極12、14は、X方向両端部の外面だけでなくX方向に平行な外面の一部にも形成されている。
また、上記図2の記載からみて、コンデンサ素子本体10と接する形態でガラス層124が形成されている。
したがって、上記アないしカの記載事項と図1及び2の記載とを総合勘案すると、引用文献1には、積層セラミックコンデンサについて、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「コンデンサ素子本体のX方向両端部に外部端子電極が形成された積層セラミックコンデンサであって、前記外部端子電極は前記X方向両端部の外面だけでなくX方向に平行な外面の一部にも形成されており、かつ、前記外部端子電極は、Cu,Niなどから選ばれる金属を含有するとともに、前記コンデンサ素子本体と接する形態でガラス層が形成され、前記ガラス層の厚みは0.1?5μm程度であり、前記ガラス層はCu,Niなどから選ばれる金属を含有し、かつ、そのガラス組成は、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、アルミナケイ酸塩ガラスなどで構成される積層セラミックコンデンサ。」

(3)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア.引用発明における「外部端子電極」及び「コンデンサ素子本体」は、本願発明における「外部電極」及び「セラミック素体」にそれぞれ相当する。また、引用発明における「外部端子電極」は、X方向両端部の外面だけでなくX方向に平行な外面の一部にも形成されているから、本願発明と同様に「端面部」と「側面折返部」とを有している。
イ.引用発明における「外部端子電極」は、「Cu,Niなどから選ばれる金属」を含有するものであるから、「卑金属材料」を含有している。
ウ.引用発明における「ガラス層」も、「Cu,Niなどから選ばれる金属」を含有するものであるから、「卑金属材料」を含有している。さらに、当該「ガラス層」のガラス組成は、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、アルミナケイ酸塩ガラスなどであるから、Siも含有している。
エ.引用文献1には、「コンデンサ素子本体」は、縦3.2mm×横1.6mm×厚み1.2mm程度の大きさであることが記載されている(段落【0035】参照)。また、引用文献1においては、「ガラス層」が形成される領域について特段の制限がなされておらず、素子本体に対する外部端子電極の固着強度を大きくするという目的も勘案すると、当該「ガラス層」は外部端子電極がコンデンサ素子本体と接する全ての領域で形成されていると解される。そうすると、引用発明も本願発明と同様に、「前記側面折返部の被覆端部から前記端面部方向への直線距離が少なくとも5μm内の領域に」はガラス層が形成されていると認められる。
オ.引用発明における「ガラス層」の厚みは「0.1?5μm程度」であり、その一部の範囲は本願発明における「ガラス層」の平均厚みの範囲(「3?10μm」)に含まれる。
カ.引用発明における「積層セラミックコンデンサ」は、本願発明における「セラミック電子部品」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明は次の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点>
本願発明においては「前記ガラス層中の前記Si成分の含有量が、11重量%以上40重量%以下である」のに対し、引用発明においてはそのような特定がなされていない点。

(4)判断
平成28年11月29日付け意見書における審判請求人の主張の概要は以下のとおりである。
「しかしながら、本願請求項1に係る発明は、ガラス層中のSi含有量が11?40重量%であるのに対し、引例1は、CuO粉末に対し、例えば亜鉛系マンガン含有ガラスフリットを5重量%添加した実施例しか記載されておらず、本願請求項1に係る発明は、引例1に記載された発明とはいえない。
引例1は、SiO2:20?80重量%、7?63重量%又は5?70重量%のガラスフリットが記載されているが(同引例、段落[0058])、これらはケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、アルミナケイ酸塩ガラス等の一般的なガラスフリットの組成を記載したに過ぎず、実施例でどのような組成のガラスフリットを使用したかは不明である。
すなわち、引例1にガラス層中のSi成分の組成範囲が形式的に重複するガラスフリットが記載されているとしても、実施例で使用したガラスフリットの組成が不明であり、したがって本願請求項1記載のガラス層中のSi含有量が本願発明を実施できる程度に引例1に記載されているとはいえず、本願請求項1係る発明の新規性が引例1を根拠に否定されるものではないと思料する。」
「引例1は、単に素子本体と外部端子電極の固着強度を向上させようとしたに過ぎず、外部電極にめっき処理を施す場合に生じる課題を何ら予測させる記載はない。
すなわち、引例1は素子本体の外面に、金属酸化物およびガラスフリットを含む外部端子電極用ペーストを塗布し、還元雰囲気で焼き付け処理し、外部端子電極を形成することにより、金属酸化物を還元させて金属粒子を析出させると共に、素子本体とガラス層と間にガラス-素体反応層を形成し、これにより素子本体と外部端子電極の固着強度を向上させようとしたものである。
これに対し本願発明は、外部電極にめっき処理を施した場合にセラミック素体の溶出を抑制しようとしたものであり、斯かる課題を解決するために、セラミック素体と接する形態でガラス層を形成すると共に、ガラス層の厚み及びガラス層中のSi成分の含有量を規定している。そしてこれらガラス層の厚み及びガラス層中のSi成分の含有量の数値限定については、その臨界的意義を本願明細書中に明記している(本願明細書、段落[0031]?[0037]、表1)。
このように本願請求項1に係る発明は、引例1には何らの開示・示唆もない新規で独創的な技術的事項を発明特定事項としたものである。すなわち、本願請求項1に係る発明は、上記発明特定事項(a)?(e)を具備することにより、外部電極の形成後にめっき処理を行い、めっき皮膜を形成した場合であっても、外部電極表面へのガラス浮きが生じることもなくめっき付き性を確保でき、かつセラミック素体を形成するセラミック材料がめっき液中に溶出するのを抑制できることから、外部電極が良好な機械的強度を有するセラミック電子部品を得ることができるという引例1からは予測困難で異質かつ顕著な効果を奏することができる。」

そこで、審判請求人の上記主張も参酌して、上記相違点について検討する。
引用文献1の実施例1には、外部端子電極の材料としてCuO粉末に対して亜鉛系マンガン含有ガラスフリット(平均粒径:2.0μm)を5重量%添加すること、及び、得られたガラス層の厚みは4μm程度で、固着強度は120Nであることが記載されており(段落【0088】ないし【0095】参照)、実施例2には、外部端子電極の材料としてCuO粉末に対してバリウム系ガラスフリット(平均粒径:2.0μm)を5重量%添加すること、及び、得られたガラス層の厚みは1.2μm程度で、固着強度は155Nであることが記載されており(段落【0099】ないし【0101】参照)、実施例3には、外部端子電極の材料としてCuO粉末に対してカリウム系ガラスフリット(平均粒径:2.0μm)を5重量%添加すること、及び、得られたガラス層の厚みは4μm程度で、かつ、固着強度は106Nであることが記載されている(段落【0105】ないし【0107】参照)。
しかしながら、上記実施例1ないし3のいずれにも、使用したガラスフリット中のSiO_(2)の含有量は記載されていない。また、引用文献1には、ガラスフリットとして、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、アルミナケイ酸塩ガラスを単独であるいは二種以上組合わせて用いてもよいことや、これらのガラス中のSiO_(2)の含有量の範囲が記載されている(段落【0058】参照)が、それらを参酌しても、上記実施例1ないし3で使用したガラスフリット中のSiO_(2)の含有量を特定することはできない。そして、使用したガラスフリット中のSiO_(2)の含有量を特定することができないから、得られたガラス層中の前記Si成分の含有量も特定できない。
以上のとおり、ガラス層中のSi成分の含有量を、当該ガラス層を形成する際に用いたガラスフリットの組成から特定することもできないから、本願発明は、引用文献1に記載された発明(引用発明)であるということはできない。

また、本願発明は、セラミック素体の溶出を抑制するのに十分な厚さ(3μm以上)を確保するために、ガラス層中のSi成分の含有量を11重量%以上とするとともに、外部電極表面へのガラス浮きが生じないようにするために、ガラス層中のSi成分の含有量を40重量%以下とするものである。
これに対して、引用文献1には、外部端子電極12の外面にメッキ層を形成することも記載されている(段落【0036】、【0040】ないし【0041】参照)が、そのためのめっき処理によってセラミック素体が溶出して機械的強度が低下するという課題やセラミック素体の溶出を抑制することができるという効果については記載も示唆も無い。加えて、引用文献1には、外部電極表面へのガラス浮きについても何ら言及されていない。
さらに、引用発明の目的は外部端子電極の固着強度を大きくすることであり(上記第2 2.(2)ウ参照)、十分な固着強度が得られるのであれば、上記実施例2のように本願発明のガラス層の平均厚み(3?10μm)よりも小さい1.2μmのガラス層であってもよく、また、上記実施例1ないし3におけるガラス層の厚みと固着強度を比較すると、ガラス層の厚みと固着強度は比例関係にはない(ガラス層の厚みが最も小さい実施例2の固着強度が最も大きい)から、単純にガラス層の厚みを大きくすればよいというものではない。
以上を総合すると、セラミック素体の溶出を抑制するのに十分な厚さを確保するために、ガラス層中のSi成分の含有量を11重量%以上とすること、及び、外部電極表面へのガラス浮きが生じないようにするために、ガラス層中のSi成分の含有量を40重量%以下とすることは、当業者といえども引用発明から容易に想到することはできない。
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明(引用発明)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5)まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるとはいえず、かつ、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
また、本願の請求項2及び3に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、引用文献1に記載された発明であるとはいえず、かつ、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、当審で通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第3 原査定の理由について
1.原査定の理由の概要
現査定の理由は、平成27年10月16日付けの手続補正による補正後の請求項1ないし4に係る発明は、特開2011-204778号公報(以下、「引用文献2」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

2.当審の判断
(1)引用発明2
引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)
ア.「【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミック電子部品の製造方法に関する。」
イ.「【0024】
(1)積層セラミック素体の作製
図1に示すように、積層セラミック素体10は、対向する一対の端面3と端面3を連結する側面5とからなり、積層された複数のセラミック層2とセラミック層2の間に形成された複数の内部電極4とを有する。内部電極4は端面3のいずれか一方に露出するように形成されている。なお、セラミック層2の間には、内部電極4に加えて、いずれの端面3にも露出しない浮き電極が形成されていてもよい。」
ウ.「【0027】
(2)ガラス層の形成
次に、第1のガラス材料であるガラスフリット、バインダ、有機溶剤を含むガラスペーストを作製する。ガラスフリットの組成は、特に限定されないが、例えばB-Si-Bi-O系ガラス、B-Si-Ba-O系ガラス、B-Si-Zn-O系ガラス、B-Si-Al-O系ガラスなど従来から外部電極ペーストに含まれているものを用いることができる。
(中略)
【0030】
このガラスペーストを、図2に示すように、積層セラミック素体10の側面5のみにスクリーン印刷によって塗布することで、ガラス層6を形成する。ガラス層6を側面5のみに形成するのは、端面3にガラス層6が存在すると、内部電極と外部電極とが物理的に接触しなくなり、内部電極4と外部電極とが電気的に接続できなくなるからである。特に、内部電極としてNi、外部電極としてCuという卑金属の組合せを用いる場合、内部電極と外部電極との間にガラス層が存在すると、後述する外部電極ペーストを焼き付ける工程において、CuからNiへの液相拡散よりもNiからCuへの液相拡散が多く生じるため、内部電極と外部電極との距離が広がってしまい電気的に接続することができなくなる。これに対し、内部電極と外部電極との間にガラス層が存在しないと、ガラス層が存在する場合とは逆に、CuからNiへの固相拡散がNiからCuへの固相拡散よりも多く生じるため、外部電極のCuが内部電極に入り込むようになり、電気的な接続信頼性が向上する。したがって、ガラス層6は、内部電極4が露出している端面3には形成せず、側面5のみに形成する。なお、図2は断面図であるため正確に図示していないが、上述した通り、積層セラミック素体10が直方体状である場合、対向する端面3を連結する残りの四面が側面5となるため、四面にガラス層6を形成する。
(中略)
【0032】
図2に示すように、第1の実施形態では、積層セラミック素体10の側面5の端面3に接する側端部15に塗布される外部電極ペースト8の下に位置するようにガラス層6を形成する。言い換えると、ガラス層6は、積層セラミック素体10の側面5の端面3に接する位置7から外部電極ペースト8の端9と同じ位置まで形成される。なお、ガラス層6は、外部電極ペースト8の端9と同じ位置を超えて形成されていてもよい。これにより、外部電極を形成する工程において、外部電極ペースト8の端9と積層セラミック素体10との間に確実にガラス層6を存在させた状態で金属粉末の焼結を開始させることができる。
(中略)
【0034】
また、ガラス層6の厚みは0.5μm以上5μm以下の範囲であることが好ましい。0.5μm以上であるとガラス層の接着性がより向上するからである。ただし、ガラス層の厚みは0μmを除いて、0.5μm未満であってもよい。また、ガラス層の厚みが5μmを超えると、ガラス層6に含まれる第1のガラス材料が外部電極の表面に析出し易くなり、めっき付着性が低下する。」
エ.「【0035】
(3)外部電極ペーストの塗布
Cu粉末などの金属粉末と、第2のガラス材料としてのガラスフリットと、バインダと、有機溶剤とを含む外部電極ペーストを作製する。なお、外部電極ペーストには第2のガラス材料が含まれていなくてもよい。
【0036】
ここで、第2のガラス材料は第1のガラス材料と同じものを用いると、複数の種類のガラス材料を用意しなくてもよい点で好ましい。
【0037】
また、第2のガラス材料として第1のガラス材料よりも軟化温度が高いものを用いると、化学的安定性に優れたガラス材料を選択することができるため耐めっき液性を向上させることができる点で好ましい。また、外部電極ペーストを焼き付ける際に第2のガラス材料の流動性を抑えることができるため、外部電極の表面に第2のガラス材料が析出するのを抑制することができる。
【0038】
図2に示すように、この外部電極ペースト8を、積層セラミック素体10の端面3に塗布する。このとき、外部電極ペースト8は、端面3だけでなく、側面5の端面3に接する側端部15にも塗布される。外部電極ペースト8を塗布する方法としては、従来からある公知の方法を用いることができるが、例えば以下のような方法を用いる。まず、平面テーブル上に外部電極ペーストを配置する。この外部電極ペーストに積層セラミック素体を端面から浸漬した後、引き上げる。これを他方の端面についても行うことで積層セラミック素体10に外部電極ペースト8を塗布することができる。」
オ.「【0039】
(4)外部電極ペーストの焼き付け
次に、外部電極ペースト8を焼き付けて外部電極を形成する。
(中略)
【0041】
外部電極を形成した後には、必要に応じて外部電極の表面にめっきを施す。このとき、外部電極の端に浮きが起こっていないため、積層セラミック素体へのめっき液の浸入による絶縁信頼性の劣化を抑制することができる。以上の工程により、外部電極の端に起こる浮きを抑制した積層セラミックコンデンサが得られる。」

したがって、上記アないしオの記載事項と図1及び2の記載とを総合勘案すると、引用文献2には、積層セラミックコンデンサについて、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「外部電極が積層セラミック素体の両側の端面と側端部に形成された積層セラミックコンデンサであって、
前記外部電極は、Cuを含有し、
前記積層セラミック素体の側面の前記端面に接する位置から外部電極ペーストの端と同じ位置まで、前記積層セラミック素体と接する形態で少なくともSiを含有したガラス層が形成され、
前記ガラス層の厚みは、0.5μm以上5μm以下である積層セラミックコンデンサ。」

(2)対比
本願発明と引用発明2とを対比する。
ア.引用発明2における「積層セラミック素体」及び「積層セラミックコンデンサ」は、本願発明における「セラミック素体」及び「セラミック電子部品」にそれぞれ相当する。
イ.引用発明2における「外部電極」は、端面だけでなく側端部にも形成されているから、本願発明と同様に「端面部」と「側面折返部」とを有している。
ウ.引用発明2における「外部電極」は、「Cu」を含有するものであるから、「卑金属材料」を含有している。
エ.引用発明2において「ガラス層」が形成される領域、すなわち、「前記積層セラミック素体の側面の前記端面に接する位置から外部電極ペーストの端と同じ位置まで」は、本願発明における「前記側面折返部の被覆端部から前記端面部方向への直線距離が少なくとも5μm内の領域」を含んでいる。
オ.引用発明2における「ガラス層」の厚みは「0.5μm以上5μm以下」であり、その一部の範囲は本願発明における「ガラス層」の平均厚みの範囲(「3?10μm」)に含まれる。

そうすると、本願発明と引用発明2は次の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点1>
本願発明においては「前記ガラス層中の前記Si成分の含有量が、11重量%以上40重量%以下である」のに対し、引用発明においてはそのような特定がなされていない点。
<相違点2>
本願発明おいては、外部電極に形成された「ガラス層」が「卑金属材料」を含有するのに対して、引用発明2においては、「ガラス層」は外部電極とは別の材料を用いて別の工程で形成されるため、「卑金属材料」を含有していない点。

(3)判断
上記相違点1について検討する。
引用文献2には、ガラス層を形成するために使用したガラスフリット中のSiO_(2)の含有量は記載されておらずその量は不明であるから、ガラス層中のSi成分の含有量を、当該ガラス層を形成する際に用いたガラスフリットの組成から特定することもできない。
また、原査定で周知技術を示す文献として引用された特開2006-253094号公報及び特開2005-179105号公報には、ガラスフリットの組成について例示はあるものの、本願発明におけるガラス層と引用発明におけるガラス層は、形成する際の材料も工程も異なるものであるから、周知のガラスフリットの組成を参酌しても、引用発明におけるガラス層中の
Si成分の含有量が、11重量%以上40重量%以下となるかは不明である。
したがって、上記相違点2について検討するまでもなく、本願発明は、引用文献2に記載された発明(引用発明2)及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)まとめ
以上のとおり、本願発明は引用文献2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本願の請求項2及び3に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、引用文献2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 むすび
以上のとおり、当審で通知した拒絶理由、及び、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-12-27 
出願番号 特願2014-506077(P2014-506077)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01G)
P 1 8・ 113- WY (H01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小林 大介  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 関谷 隆一
國分 直樹
発明の名称 セラミック電子部品  
代理人 國弘 安俊  

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