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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G01M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G01M
管理番号 1323098
審判番号 不服2015-15711  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-08-25 
確定日 2016-12-21 
事件の表示 特願2013-506600「配管漏れをチェックするデータ処理方法およびシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月 3日国際公開、WO2011/134881、平成25年 6月20日国内公表、特表2013-525790〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年4月21日(パリ条約による優先権主張:2010年4月29日(CN)中華人民共和国)を国際出願日とする外国語特許出願であって、平成24年10月30日に手続補正書が提出され、平成26年9月12日付けで拒絶理由が通知され、同年11月10日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年4月20日付けで拒絶査定がなされ、同査定の謄本は同年4月28日に請求人に送達された。
これに対し、同年8月25日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、それと同時に手続補正書が提出された。
その後、当審から、合議体の疑問点に関する審尋(平成28年7月15日格納の応対記録)が複数回なされたものである。


第2 平成27年8月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成27年8月25日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 補正後の請求項1に記載された発明
(1)本件補正は、特許請求の範囲の請求項1の記載を次のとおりに補正する補正事項をその一部に含むものである。

ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】
配管漏れを確認するデータ処理方法であって、前記方法は、
少なくとも1つのセンサによってそのセンサの対応する地域にある配管に関して収集された検出パラメータを受信するステップと、
前記少なくとも1つのセンサによって収集された検出パラメータを集約するステップと、
前記少なくとも1つのセンサの前記対応する地域における検出パラメータの漸進的傾向を得るべく、前記集約済み検出パラメータを分析するステップであって、検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分の特徴を特定する、前記分析するステップと、
前記検出パラメータの前記漸進的傾向が漏れの所定の特徴を満たすか否かを判断するステップであって、
1’)任意の期間内における検出パラメータの周波数スペクトルの一次増分が一様である;
2’)任意の期間内における検出パラメータの周波数スペクトルの二次増分が一様である;
3’)任意の期間内における検出パラメータの周波数スペクトルの一次増分が非減少関数である; および
4’)ピークの期間における検出パラメータの周波数スペクトルの二次増分が通常の期間におけるものと一致する; という、
4つの特徴 1’)、2’)、3’)、4’)のうちの少なくとも1つ以上が満たされれば、漏れが存在すると判断される、前記判断するステップと、
前記検出パラメータの前記漸進的傾向が前記漏れの所定の特徴を満たす場合に、前記対応する地域に配管漏れが存在すると特定するステップと、
を含む、方法。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】
配管漏れを確認するデータ処理方法であって、前記方法は、
少なくとも1つのセンサによってそのセンサの対応する地域にある配管に関して収集された検出パラメータを受信するステップと、
前記少なくとも1つのセンサによって収集された検出パラメータを集約するステップと、
前記少なくとも1つのセンサの前記対応する地域における検出パラメータの漸進的傾向を得るべく、前記集約済み検出パラメータを分析するステップであって、検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分の特徴を、
前記少なくとも1つのセンサによって収集された検出パラメータが時間tに関連し、その値がf(t)である場合、変換後、その値はF(T)となり、自然基底が使用されていれば、f=Fであり、計算によって得られたスペクトル値F(T)を用いることによって、所与の期間([T_(1),T_(2)])における一階微分d_(1)および二階微分d_(2)がそれぞれd_(1)(T)=(F(T_(2))-F(T_(1)))/(T_(2)-T_(1))およびd_(2)(T)=(d_(1)(T_(2))-d_(1)(T_(1)))/(T_(2)-T_(1))と算出されることで、
特定する、前記分析するステップと、
前記検出パラメータの前記漸進的傾向が漏れの所定の特徴を満たすか否かを判断するステップであって、
1’)任意の期間内における検出パラメータの周波数スペクトルの一次増分が一様である;
2’)任意の期間内における検出パラメータの周波数スペクトルの二次増分が一様である;
3’)任意の期間内における検出パラメータの周波数スペクトルの一次増分が非減少関数である; および
4’)ピークの期間における検出パラメータの周波数スペクトルの二次増分が通常の期間におけるものと一致する; という、
4つの特徴 1’)、2’)、3’)、4’)のうちの少なくとも1つ以上が満たされれば、漏れが存在すると判断される、前記判断するステップと、
前記検出パラメータの前記漸進的傾向が前記漏れの所定の特徴を満たす場合に、前記対応する地域に配管漏れが存在すると特定するステップと、
を含む、方法。」(下線は、本件補正による補正箇所を示す。)

(2)本件補正の目的について
上記請求項1についての補正事項は、本件補正前の請求項1において特定されている「検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分の特徴」を、特定することに関し、「前記少なくとも1つのセンサによって収集された検出パラメータが時間tに関連し、その値がf(t)である場合、変換後、その値はF(T)となり、自然基底が使用されていれば、f=Fであり、計算によって得られたスペクトル値F(T)を用いることによって、所与の期間([T_(1),T_(2)])における一階微分d_(1)および二階微分d_(2)がそれぞれd_(1)(T)=(F(T_(2))-F(T_(1)))/(T_(2)-T_(1))およびd_(2)(T)=(d_(1)(T_(2))-d_(1)(T_(1)))/(T_(2)-T_(1))と算出されることで、特定する」との事項により、記載を明りょうにしつつ、さらに限定するものであって、それにより、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が変更されるものでもないから、当該補正事項による補正の目的は、第17条の2第5項第4号に規定する明りょうでない記載の釈明、及び、同項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮、を目的とするものに該当するものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

2 独立特許要件についての検討
(1)特許法第36条第4項第1号違反について
ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)イで示したとおりのものであり、以下の発明特定事項1及び2を含むものである。

発明特定事項1
「前記少なくとも1つのセンサの前記対応する地域における検出パラメータの漸進的傾向を得るべく、前記集約済み検出パラメータを分析するステップであって、検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分の特徴を、
前記少なくとも1つのセンサによって収集された検出パラメータが時間tに関連し、その値がf(t)である場合、変換後、その値はF(T)となり、自然基底が使用されていれば、f=Fであり、計算によって得られたスペクトル値F(T)を用いることによって、所与の期間([T_(1),T_(2)])における一階微分d_(1)および二階微分d_(2)がそれぞれd_(1)(T)=(F(T_(2))-F(T_(1)))/(T_(2)-T_(1))およびd_(2)(T)=(d_(1)(T_(2))-d_(1)(T_(1)))/(T_(2)-T_(1))と算出されることで、
特定する、前記分析するステップ」

発明特定事項2
「前記検出パラメータの前記漸進的傾向が漏れの所定の特徴を満たすか否かを判断するステップであって、
1’)任意の期間内における検出パラメータの周波数スペクトルの一次増分が一様である;
2’)任意の期間内における検出パラメータの周波数スペクトルの二次増分が一様である;
3’)任意の期間内における検出パラメータの周波数スペクトルの一次増分が非減少関数である; および
4’)ピークの期間における検出パラメータの周波数スペクトルの二次増分が通常の期間におけるものと一致する; という、
4つの特徴 1’)、2’)、3’)、4’)のうちの少なくとも1つ以上が満たされれば、漏れが存在すると判断される、前記判断するステップ」

イ 発明特定事項1及び2に関する実施可能要件について
(ア)総論
(a)発明特定事項1の「検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分」をどのように算出、特定するのか、(b)発明特定事項1で算出、特定された上記「一次増分および二次増分」が発明特定事項2の「1’)ないし4’)」の特徴を満たすときにどのような技術的な関係を根拠として配管漏れが生じているといえるのかという配管漏れの判定原理、それぞれの実施可能要件について検討する。
上記「一次増分および二次増分」の算出、特定に密接に関係する「F(T)」について、以下の仮解釈1ないし3をすることが一応できるが、いずれの仮解釈をしたとしても、上記(a)、(b)の少なくとも一方について、本件補正発明を当業者が実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載されているものであるということができない。その理由の詳細は(イ)ないし(エ)で場合分けしながら後述する。なお、Tが周波数であるのか時間であるのか、F(T)が何であるのか等を、審尋した結果、請求人は、最終的に仮解釈3に基づく主張をしている。

仮解釈1:F(T)が、ある周波数Tにおける検出パラメータを表す関数である。
仮解釈2:F(T)が、ある時間Tにおける周波数スペクトルを表す関数である。
仮解釈3:F(T)が、ある時間Tにおける検出パラメータを表す関数f(T)である。

(イ)仮解釈1の場合の実施可能要件
a 仮解釈1の根拠
「F(T)」は、「f(t)」を「変換」したものであり、ここでの「変換」は、本願の段落0023の「周波数スペクトル変換の上記方法のうちのいずれか1つを介すことにより、センサによって収集された元のデータが時間tに関連しその値がf(t)である場合、変換後、その値は、F(T)となる。」との記載のとおり、「周波数スペクトル変換」を意味すると解されることから、「F(T)」とは、「f(t)」を「周波数スペクトル変換」した「周波数スペクトル」であり、「T」は「周波数(または角周波数)」、すなわち、F(T)が、ある周波数Tにおける検出パラメータを表す関数を意味すると仮の解釈をすることができる。

b 実施可能要件の検討
上記仮解釈1を前提としたとき、「F(T)」から算出される「一階微分d_(1)(T)」及び「二階微分d_(2)(T)」は、「周波数T」による周波数スペクトルの「一階微分」及び「二階微分」となる。
ここで、「検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分」を解釈するために、「時間に関連する」の部分がどこに修飾しているかについて検討する。平成26年11月10日に提出された意見書の「<理由A>については、・・・・、(3)「一次増加」及び「二次増加」という記載については、「一次増分」及び「二次増分」という記載に変更した上で、さらに「周波数スペクトルの時間に関連する一次増分および二次増分」という説明的記載を採用することにしております。」との主張(下線部は当審が付した。)、及び、「周波数スペクトル」に修飾すると仮定すると「周波数スペクトル」が「時間に関連する」との一般的な性質を述べるのみで有意な限定とならないことを考慮すると、「時間に関連する」の部分は「一次増分および二次増分」に修飾していると理解するのが相当である。
そうすると、「周波数スペクトル」である「F(T)」を周波数微分することで算出される「一階微分d_(1)(T)」及び「二階微分d_(2)(T)」が、「周波数スペクトル」のみにより定義されるものであるのに対して、「検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分」との記載における「一次増分および二次増分」が、「時間」と「周波数スペクトル」の両要素により定義されるものということになるから、両者は異なるものである。
以上のとおりであるから、本願の発明の詳細な説明を参酌して、「一階微分d_(1)(T)」及び「二階微分d_(2)(T)」を算出することはできるものの、それらとは異なる「検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分」をどのように算出、特定すればよいのかを、本願の発明の詳細な説明から理解できるとはいえない。
さらに、上記のとおり、本願の発明の詳細な説明を参酌しても「周波数スペクトルの一次増分および二次増分」を算出することができないから、「周波数スペクトルの一次増分」または「周波数スペクトルの二次増分」を判定条件として用いる発明特定事項2をどのように実施すればよいかも理解できない。

また、段落0021において、時間tにおける検出パラメータ(流量等)を表す関数である「f(t)」に関する「1)ないし4)」との「経時的」な漏れの変化の特徴を、段落0025において「一次増分」または「二次増分」を判定条件として含む「1’)ないし4’)」との特徴を、それぞれ列挙しているものの、上記「1)ないし4)」と上記「1’)ないし4’)」との間の技術的な関係については、発明の詳細な説明において明示的に記載されていないから、発明特定事項2における「1’)ないし4’)」の特徴を用いることで、なぜ配管漏れを判定することができるのかという技術的な原理についても発明の詳細な説明から理解できるとはいえない。

したがって、上記仮解釈1を前提とした場合に、上記(ア)の(a)及び(b)に関して、本願の発明の詳細な説明が、本件補正発明を当業者が実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載されているものであるということはできない。

(ウ)仮解釈2の場合の実施可能要件
a 仮解釈2の根拠
上記(イ)aでの検討に加えて、「所与の期間([T_(1),T_(2)])」との記載をさらに考慮すると、「F(T)」は、「f(t)」を「周波数スペクトル変換」したものではあるが、「T」が「周波数」ではなく「時間」である、すなわち、「F(T)」が、ある時間Tにおける周波数スペクトル(縦軸:検出パラメータ(検出強度)、横軸:周波数)を表す関数であるとの、仮解釈1とは異なる仮解釈をすることもできる。

b 実施可能要件の検討
上記仮解釈2を前提としたとき、「F(T)」から算出される「一階微分d_(1)(T)」及び「二階微分d_(2)(T)」は、「時間T」による周波数スペクトルの「一階微分」及び「二階微分」となる。
「F(T)」から算出される「一階微分d_(1)(T)」及び「二階微分d_(2)(T)」は、「時間」と「周波数スペクトル」の両要素により定義されるものであるのに対して、上記(イ)bでの検討を踏まえると、「検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分」との記載における「一次増分および二次増分」が、「時間」と「周波数スペクトル」の両要素により定義されるものということになるから、両者は対応すると言い得る。
そうすると、本願の発明の詳細な説明を参酌して、「一階微分d_(1)(T)」及び「二階微分d_(2)(T)」を求め、対応する「検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分」を算出することができるといえる。

しかしながら、発明特定事項1において算出、特定される「一次増分」または「二次増分」が、発明特定事項2において「1’)ないし4’)」との漏れの特徴を満たした場合になぜ配管漏れが生じていると判断できるのかという配管漏れの判定原理が、発明の詳細な説明を参酌しても理解することができない。その理由は、以下のとおりである。
上記(イ)bで説示したとおり、段落0021の「1)ないし4)」と段落0025の「1’)ないし4’)」との間の技術的な関係については、発明の詳細な説明において明示的に記載されていない。
さらに、上記仮解釈2を前提とすると、算出される「一次増分」及び「二次増分」は、横軸を周波数とするスペクトルの形態となり、例えば、1’)の「任意の期間内」において「一様(一定)」との特徴を「一次増分」が満たすとすると、任意期間の開始時から終了時まで「一次増分」を示すスペクトルの形状が一様(一定)になるが、このことと上記「1)ないし4)」で列挙される漏れの特徴との間にどのような技術的な関係が成立するかについても発明の詳細な説明及び優先権主張日前の技術常識から理解することはできない。同様に、「2’)ないし4’)」について上記仮解釈2に基づいて「一次増分」または「二次増分」を算出してみても、やはり上記「1)ないし4)」で列挙される漏れの特徴との間の技術的な関係を理解することはできない。
してみると、発明特定事項2における「1’)ないし4’)」の特徴を用いることで、なぜ配管漏れを判定することができるのかという技術的な原理については発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

したがって、上記仮解釈2を前提とした場合に、上記(ア)の(b)に関して、本願の発明の詳細な説明が、本件補正発明を当業者が実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載されているものであるということはできない。

(エ)仮解釈3の場合の実施可能要件
a 仮解釈3の根拠
発明特定事項1における「自然基底が使用されていれば、f=Fであ」るとの記載は、本願の段落0023の「・・・・、変換用のユークリッド空間の直交基底それ自体を用いて、一連の適切な直交基底、単純には自然基底すなわち恒等行列を成す一連の基底が選択され、その結果変換された値は当初の値に等しくなる。」及び「自然基底が使用されていれば、f=Fである。」という記載、並びに、請求人の審尋における主張(平成28年7月15日格納の応対記録を参照。)を参酌すると、「f(t)からF(T)への変換は、恒等行列を用いた恒等変換であり、F(T)=f(t)かつT=tとなる」ことを意味するといえる。したがって、「F(T)」は、時間Tにおける検出パラメータを表す関数「f(T)」そのものであり、「T」は「時間」を意味するとの、仮解釈1及び2とは異なる仮解釈をすることもできる。

b 実施可能要件の検討
上記仮解釈3を前提としたとき、「F(T)」から算出される「一階微分d_(1)(T)」及び「二階微分d_(2)(T)」は、「時間T」によるf(T)の「一階微分」及び「二階微分」となる。
f(t)を「恒等変換」した「F(T)」は、あくまで時間軸を有する関数のままであって、「周波数スペクトル」のような周波数軸を有する関数に変換されるものではなく、そのような「F(T)」から算出される「一階微分d_(1)(T)」及び「二階微分d_(2)(T)」には、「周波数スペクトル」との要素は生じ得ず、「時間」の要素により定義されるものであるのに対して、上記(イ)bでの検討を踏まえると、「検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分」との記載における「一次増分および二次増分」が、「時間」と「周波数スペクトル」の両要素により定義されるものということになるから、両者は全く異なるものである(「周波数スペクトル変換」と「恒等変換」との全く異なる変換をあたかも同様の変換であるかのように発明の詳細な説明に記載したが故の矛盾である。)。
そうすると、本願の発明の詳細な説明を参酌して、「一階微分d_(1)(T)」及び「二階微分d_(2)(T)」を算出することはできるものの、それらとは異なる「検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分」をどのように算出、特定すればよいのかを、本願の発明の詳細な説明から理解できるとはいえない。
そして、上記のとおり、本願の発明の詳細な説明を参酌しても「周波数スペクトルの一次増分および二次増分」を算出することができないから、「周波数スペクトルの一次増分」または「周波数スペクトルの二次増分」を判定条件として用いる発明特定事項2をどのように実施すればよいかも理解できない。

また、以下の理由からも、発明特定事項2における「1’)ないし4’)」の特徴を用いることで、なぜ配管漏れを判定することができるのかという技術的な原理については発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
まず、上記(イ)bで説示したとおり、段落0021の「1)ないし4)」と段落0025の「1’)ないし4’)」との間の技術的な関係については、発明の詳細な説明において明示的に記載されていない。
さらに、グラフの傾き等のような経時変化の特徴について時間の「一階微分」、「二階微分」を用いて分析できることが優先権主張日前の技術常識であることに鑑みると、「時間T」によるf(T)の「一階微分」及び「二階微分」である「一階微分d_(1)(T)」及び「二階微分d_(2)(T)」を用いて、段落0021の「時間」に関する漏れの特徴「1)ないし4)」を分析できるとの技術的な関係があると一応言い得るものの、ここでの「一階微分d_(1)(T)」及び「二階微分d_(2)(T)」は、あくまで「時間微分」であって「周波数微分」ではなく、上述のとおり「周波数スペクトルの一次増分」及び「周波数スペクトルの二次増分」に当たるものではないから、上記仮解釈3を前提にしても、段落0021の「時間」に関する漏れの特徴「1)ないし4)」と、発明特定事項2における「検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトル」の「一次増分」または「二次増分」に関する漏れの特徴「1’)ないし4’)」との間に技術的な関係が成立するとはいえない。

したがって、上記仮解釈3を前提とした場合に、上記(ア)の(a)及び(b)に関して、本願の発明の詳細な説明が、本件補正発明を当業者が実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載されているものであるということはできない。

ウ 小括
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明は、本件補正発明を当業者が実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載されているものとはいえないから、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2) 特許法第36条第6項第2号違反について
ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)イで示したとおりのものであり、上記2(1)アで示した発明特定事項1及び2を含むものである。

イ 発明特定事項1及び2に関する明確性について
(ア)総論
(a)発明特定事項1の「検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分」をどのように算出、特定するのか、(b)発明特定事項1で算出、特定された上記「一次増分および二次増分」が発明特定事項2の「1’)ないし4’)」の特徴を満たすときにどのような技術的な関係を根拠として配管漏れが生じているといえるのかという配管漏れの判定原理、それぞれの明確性について検討する。
上記「一次増分および二次増分」の算出、特定に密接に関係する「F(T)」について、上記(1)イ(ア)で列挙した仮解釈1ないし3をすることが一応できるが、いずれの仮解釈をしたとしても、上記(a)、(b)の少なくとも一方について、本件補正発明が明確であるとはいえない。その理由の詳細は(イ)ないし(エ)で場合分けしながら後述する。

(イ)仮解釈1の場合の明確性
a 仮解釈1の根拠
上記(1)イ(イ)aで説示したとおりの理由で、仮解釈1をすることができる。
b 明確性の検討
上記(1)イ(イ)bで説示した理由と同様の理由で、「一階微分d_(1)(T)」及び「二階微分d_(2)(T)」と「検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分」とは異なるものであるから、本願の発明の詳細な説明を参酌しても「検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分」がどのように算出、特定されるのかが不明確である。
そして、上記のとおり、「周波数スペクトルの一次増分および二次増分」が不明確であるから、「周波数スペクトルの一次増分」または「周波数スペクトルの二次増分」を「1’)ないし4’)」で判定条件として用いる発明特定事項2においてどのように漏れの存在を判定するのかも不明確となる。

(ウ)仮解釈2の場合の明確性
a 仮解釈2の根拠
上記(1)イ(ウ)aで説示したとおりの理由で、仮解釈2をすることができる。
b 明確性の検討
上記(1)イ(ウ)bで説示した理由と同様の理由で、発明特定事項2における「1’)ないし4’)」の特徴を用いることで、なぜ配管漏れを判定することができるのかが、発明の詳細な説明及び優先権主張日の技術常識を参酌しても理解できないから、上記「1’)ないし4’)」の特徴の技術的意味が不明確である。

(エ)仮解釈3の場合の明確性
a 仮解釈3の根拠
上記(1)イ(エ)aで説示したとおりの理由で、仮解釈3をすることができる。
b 明確性の検討
上記(1)イ(エ)bで説示した理由と同様の理由で、「一階微分d_(1)(T)」及び「二階微分d_(2)(T)」と「検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分」とは異なるものであるから、本願の発明の詳細な説明を参酌しても「検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分」がどのように算出、特定されるのかが不明確である。
そして、上記のとおり、「周波数スペクトルの一次増分および二次増分」が不明確であるから、「周波数スペクトルの一次増分」または「周波数スペクトルの二次増分」を「1’)ないし4’)」で判定条件として用いる発明特定事項2においてどのように漏れの存在を判定するのかも不明確となる。

ウ 小括
以上のとおり、本件補正発明は明確でないから、本件補正後の請求項1の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

3 補正の却下の決定のまとめ
上記2のとおり、本件補正後の請求項1の記載及び発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていないため、本件補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし20に係る発明は、平成26年11月10日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるものであって、その請求項1に係る発明は、以下のとおり上記第2の1(1)アで示したとおりのものである。(以下、「本願発明」という。)

2 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由(平成26年9月12日付けの拒絶理由)のうち、本願発明に関連する部分は以下のとおりである。なお、本願発明は、平成26年11月10日に提出された手続補正書により、平成24年10月30日に手続補正書における請求項1に、請求項10及び11の発明特定事項を付加することで限定しつつ、「一次増加」及び「二次増加」を「一次増分」及び「二次増分」に変更する等の明確化を行う補正がなされたものである。
「<理由A>
この出願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


・・・・
(3)請求項10、11、22、23に記載の「一次増加」及び「二次増加」が、周波数スペクトルの、周波数に対する増分(特定の期間の値f(t)の周波数スペクトルF(w)に対して、(F(w+Δw)-F(w))/Δw)を指すのか、あるいは、時間に対する周波数スペクトルの増分(特定の期間の値f1(t)の周波数スペクトルF1(w)と、時間Δtずれた特定の期間の値f2(t)の周波数スペクトルF2(w)に対して、(F2(w)-F1(w))/Δt)を指すのかわからず意味が不明確である。
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また、具体的にどのようにして一次増加及び二次増加を求め、どのようにして漏れの特定を行うのか、発明の詳細な説明を参酌しても、理解することができない。」

3 当審の判断
本願発明は、「検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分の特徴」を、特定することに関し、「前記少なくとも1つのセンサによって収集された検出パラメータが時間tに関連し、その値がf(t)である場合、変換後、その値はF(T)となり、自然基底が使用されていれば、f=Fであり、計算によって得られたスペクトル値F(T)を用いることによって、所与の期間([T_(1),T_(2)])における一階微分d_(1)および二階微分d_(2)がそれぞれd_(1)(T)=(F(T_(2))-F(T_(1)))/(T_(2)-T_(1))およびd_(2)(T)=(d_(1)(T_(2))-d_(1)(T_(1)))/(T_(2)-T_(1))と算出されることで、特定する」との限定を上記第2で検討した本件補正発明から省いたものである。
しかし、当該限定を請求項の記載から省いても、「検出パラメータの時間に関連する周波数スペクトルの一次増分および二次増分」の意味が明らかではないところ、段落0021、0023、0025等の発明の詳細な説明を参酌することになり、結局、上記第2の2(1)及び(2)で検討した理由と同じ理由に帰着するから、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないし、本願発明は明確でもない。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1の記載及び発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号の要件を満たしていないものであるから、本願は、特許を受けることができない。
よって、その他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
したがって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-22 
結審通知日 2016-07-26 
審決日 2016-08-08 
出願番号 特願2013-506600(P2013-506600)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G01M)
P 1 8・ 537- Z (G01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 萩田 裕介  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 小川 亮
▲高▼見 重雄
発明の名称 配管漏れをチェックするデータ処理方法およびシステム  
代理人 上野 剛史  
代理人 太佐 種一  

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