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審決分類 審判 全部無効 公序、良俗、衛生  A63B
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A63B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A63B
審判 全部無効 2項進歩性  A63B
審判 全部無効 1項2号公然実施  A63B
審判 全部無効 1項1号公知  A63B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A63B
管理番号 1323158
審判番号 無効2014-800175  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-10-31 
確定日 2016-12-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第2670421号発明「筋力トレーニング方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の手続の経緯の概略は、以下のとおりである。

平成 5年11月22日 本件特許の出願(特願平5-313949号)
平成 9年 7月 4日 本件特許の登録(特許第2670421号)
平成23年12月 7日 別件無効審判請求(無効2011-800252号)
平成24年 5月 7日 別件無効審判における訂正請求
10月17日 別件無効審判審決
11月14日 出訴(平成24年(行ケ)10400号)
平成25年 8月28日 請求棄却判決
平成26年10月31日 本件審判請求
平成27年 1月20日 審判事件答弁書
4月10日 審尋
5月 8日 回答書(請求人)
9月16日 審理事項通知
10月 8日 口頭審理陳述要領書(請求人)
10月 9日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
10月23日 口頭審理
11月 6日 上申書(請求人)
11月 6日 上申書(被請求人)


第2 本件特許発明
本件特許第2670421号に係る別件の無効審判事件である無効2011-800252号の「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との結論は、平成26年2月18日に確定したから、本件特許の請求項1?請求項3に係る発明は、上記別件の無効審判事件において、平成24年5月7日に提出された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?請求項3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け、その緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法であって、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法。
【請求項2】
緊締具が、筋肉に流れる血流を阻害する締め付け力を付与するものであり、締め付けの度合いを可変にするロック手段を備えた帯状体又は紐状体とされた請求項1記載の筋力トレーニング方法。
【請求項3】
緊締具が、更に締め付け力の表示手段が接続されたものとされ、少なくとも皮膚に接触する側に皮膚を保護するための素材を配したものとされた請求項2記載の筋力トレーニング方法。」(審決注:以下、請求項1?請求項3に係る各発明を、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明3」といい、これらを総称して「本件特許発明」という。)


第3 請求人の主張
1.請求理由の要約(審判請求書2頁22行?3頁14行)
(1)請求理由2
訂正請求の結果如何を問わず、本件発明は公知発明と同一であるから、新規性を欠き、特許を受けることができないものである(特許法第29条1項各号)。
(2)請求理由3
本件発明は、いわゆる進歩性を有しない(特許法第29条2項)。
(3)請求理由4
本件発明は「安全性の要件」を具備していないので、公序良俗又は公衆衛生を害するおそれがある(特許法第32条)。
(4)請求理由5
本件発明は、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号及び第6項及び第4項の規定に違反するものである。
なお、請求理由1及び請求理由6は取り下げられた。

2.請求理由の詳細
(1)請求理由2
請求理由2における、甲第2号証に基づく新規性(特許法第29条第1項第1号及び第2号)欠如と、甲第4号証に基づく新規性(特許法第29条第1項第3号)欠如とを、便宜的に、それぞれ、「請求理由2の1」、「請求理由2の2」とする。
(1-1)請求理由2の1:特許法第29条第1項第1号及び第2号
a 特許法第29条第1項第1号について
「甲2は、確かに本件発明の出願日以降の刊行物ではありますが、出願日を遡る1973年から1983年当時の歴史的事実について、ほかならぬ発明者である佐藤氏自身が言明したものであり、歴史的事実を証明する証拠としての価値は否定できないものであります。同書21頁には、確かに「加圧トレーニングについて教えてほしいと、大勢の人から頼まれました。しかし、私はその当時、この方法をあまり多くの人に広めたくありませんでした。自分ひとりの宝物のように思っていたからです。そこで、他の人には漏らさないと念書を取ってから、教え始めたのです。」とあります。
したがって、佐藤氏が「教えてほしい」と頼まれた特定の人に「念書を取って」教えたのは事実と思われますが、その数は、「あまり多くの人に広めたくありませんでした」とあることから、多分、数十万人もの数でないことは明らかです(数が多くても秘密の義務があれば特定人)。
ところが、佐藤氏は、これに続けて「それでも、口コミで加圧トレーニングのよさはどんどん広まっていきます。すると私も、多くの人を治し、感謝されることに無上の喜びと幸せを感じるようになりました。その後、10年間で延べ数十万の人を対象に加圧トレーニングを施してきたことで、ノウハウを確立していったのです。」と告白しています。
これから判るのは、「教えてほしい」と頼まれて「念書を取って」教えた人とは別に、加圧トレーニングを施された人が数十万人いるという歴史的事実であります。加圧トレーニングを施された人は、別に目隠しをして加圧トレーニング方法を施されたわけではありません。加圧トレーニングは、伸縮性ベルトを腕部、脚部等に巻き、血流を阻害した状態で筋力トレーニングを繰り返して行い、結果として、筋肉の回復、筋肉強化、筋肉増大、美容効果等の諸効果(被請求人が宣伝している5つの効果)を発生することを要素とする発明であり、この要素の全ては、「念書を取って」教えられた側の人だけではなく、「加圧トレーニングを施された」「数十万人」の人の見ている前で明らかにされたものであります。

したがいまして、甲2には、下記の発明が記載されております。

「筋肉に締めつけ力を付与するための加圧バンドを筋肉の所定部位に巻付け、その加圧バンドの周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、もって筋肉の強化を図る筋力トレーニング方法であって、前記筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を阻害するものである筋力トレーニング方法。(これを「公知発明1」とします。)」」
(平成27年5月8日付け回答書6頁15行?8頁1行)

b 特許法第29条1項2号について
「1○(審決注:「○」は,その前の数字が丸数字であることを表す。以下同じ。)甲2には、下記の事項が記載されております。

・第18頁の最後の行(………加圧・除圧・加圧・除圧……を続けたのです。)。
・第20頁の3行目-4行目(………筋肉が発達し、太くなっているのです。)。
・第21頁の8行目(この怪我を通じて、加圧は筋力強化だけではなく、リハビリにもいいのだと発見しました。)、甲2の22頁の8行目から(「当然ですが、人によって年齢も体型もさまざまであり、腕や脚の太さも違います。脂肪のつき方から血管の太さ、筋肉や体力も、すべて変わってくるのです。その人に合わせて加圧を調整するのは、至難の業。」)。
・第22頁2行目-3行目(「その後、10年間で延べ数十万の人を対象に加圧トレーニング(本件発明)を施しきたことで、ノウハウを確立していったのです。」)。
・第22頁4行目から(1973年から83年までの10年間、加圧トレーニングでさまざまな人にリハビリをして、至難の業、いわば加圧トレーニングのノウハウを確立した旨)。
・第22頁12行目から(………加圧トレーニングは、もはや経験による一種の職人技であること、私の手は完全に匠の手になった旨) 。
・第23頁の最後の行から(この10年の間にサトウトレーニング・ルームはサトウスポーツプラザに生まれ変わり、会員数1500名を超えるフイットネスジムヘと成長した旨。通常会費で、希望者には加圧トレーニングを施すことにしました旨)。
2○上記の歴史的事実を総合的に勘案すると、フイットネスジムを行った(公然実施)、そして、希望者等は加圧トレーニングを「施し(公然実施の可能性)」たならば、世間一般の社会的常識として、上記公知発明1が公然と知られ得る状況にあったと言えます。」
(平成27年5月8日付け回答書8頁3行?8頁下から8行)

c 「被験者が「筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである」ことを。知った理由は、下記の通りである。

1○ 甲2の第22頁11-12行には、甲2に記載の加圧トレーニングは、「その人に合わせて加圧を調整するのは、至難の業。」との記載がある。その理由は、第22頁10-11行に「人によって年齢も体型もさまざまであり、腕や脚の太さが違うから、被験者の脂肪のつき方、血管の太さ、筋力、体力等に合わせるようにして緊締具を巻付ける必要がある旨」が記載されている。
そして、第22頁8-9には、「何があっても知らないからね」と、危険を承知してもらった上で、行っていました。」との記載がある。これは加圧トレーニングを施された被験者が、施術者(発明者の佐藤氏)から、加圧トレーニングの際、ゴムバンド等の緊締具を、目的部位に、被験者の年齢、体型、脂肪のつき方、血管の太さ、筋力、体力等に合わせるようにして緊締具を巻付ける旨、それでも場合によっては腕や脚が痺れるかも知れない旨等の危険性があるような説明を受けない限り、普通一般に社会常識として「危険を承知する」ことはあり得ないからである。
であるから、被験者は加圧トレーニングの際、「筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである」ことを施術者から口頭で直接知り得たものである。
2○ また甲2の第22頁8-9には、「締めつけすぎて痺れが起こり、慌てて病院に行かせたケースもあります。」との記載がある。このような場合、被験者は病院での問診の際にどうして痺れが起こったのかを医師から聞かれるのが普通一般であることから、その前提として、被験者は、施術者(発明者の佐藤氏)から、ゴムバンド等の緊締具の締付け具合について、例えば血流を止めないが相当強く締める説明を受けたものと言える。これは、いわば社会常識であると考えられる。
3○ なお、請求項記載の「筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである」との文言が、請求項の範囲を限定するための何らの要素となっていないことを注意したい。この「筋肉に流れる血流を止めることなく阻害」することは、「緊締具を筋肉の所定部位に巻付ける」ことによるものであるが、およそ「緊締具を筋肉の所定部位に巻き付ける」限りは、血流を「止める」か「止めることなく阻害する」か「阻害しない」かの3つに1つしかあり得ないのであり、血流を止めることは、被請求人提出の乙1にも危険であると認めているとおりであることから実施方法としてはありえず、また「緊締具」の「周の長さを減少させる」以上は、程度の差こそあれ「阻害する」ことは明らかであるから、「緊締具を筋肉の所定部位に巻き付け」て「周の長さを減少させる」以上、必然的に「筋肉に流れる血流を止めることなく阻害」することになるのであり、従って、かかる部分は、請求項の範囲を限定する要素としては、何ら意味を有さないものであることは明らかである。
請求項記載の方法は、この「筋肉に流れる血流を阻害することなく」の文言以外の部分は、いずれも、その方法の実施行為を外から見るだけで、それがいかなる方法であるかを視認できるものばかりであるのに対し、この「筋肉に流れる血流を阻害することなく」の構成だけは、文言上、外見だけでは程度を判断できない加減に関する限定であるかに見えるが、実際には何ら加減を限定する表現となっていないことは、前述のとおりであり、従って、本件発明の方法論の全ては、外見しただけで、それがいかなる方法であることかを視認しかつ認識することが可能であった以上、本件発明は、その実施者のみならず、本件発明の実施を施された被験者にとっても、その方法論を視認していた以上、認識することができたものである。
4○ また、「緊締具の周の長さを減少」させる方法が既に出願前に、発明者佐藤氏その他によって実施され、被験者が視認できていたことは、既に主張したとおりである。
よって、本件発明は、特許法第29条1項1号、同法第29条1項2号に該当するものである。」
(平成27年11月6日付け上申書2頁4行?3頁24行)

(1-2)請求理由2の2:特許法第29条第1項第3号
a 「1○ 構成A…「筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け」ることは、甲4の73頁の最後の行(バラコンバンドは、手軽で、ただ巻くだけで良い。ゆるく巻いても、強く巻いても良い。)、甲4の107頁の左から3行目(他にも「腕巻き」…などもできる。)、甲4の119頁の左から5行目(…手に巻く(腕巻き)。…)等に記載されています。
2○ 構成B…「、その緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、もって筋肉の増大を図る筋肉トレーニング方法であって、」とは、甲4の74頁の10-11行目(バンドは生ゴムで、弾力は理想的である。これを筋肉に巻付けて動作の時、筋肉の弾力と協調して働くから人体のエネルギーが半減するのだ)、及び甲4の75頁の左から3行目(…疲れると老廃物がたまり、栄養素や酸素が欠乏している。この状態のとき、バンドを巻くこと、その圧力で細胞内の老廃物がにじみ出る)に記載されています。
普通一般に、鍛錬者の筋力トレーニング(いわゆる筋トレ)は、健康の増進や筋力の増強を図ることを目的としています(例えば甲5の第2頁8行目、甲6の14行目、甲7の筋力鍛錬具、甲8の握力の強化、甲9のバンドトレーニング器具、甲2の第21頁の8行目の筋力強化、甲3の筋力トレーニングの定義)としております。
換言しますと、健康の増進や筋力の増強を図らない、いわゆる筋トレは特段の理由がない限り存在しないものと考えられます。そして、筋力の増強を図りますと、発明者、トレーニングの経験者や指導者が、必ずしも自然法則の因果関係、つまり、筋肉増大に関する専門的な知識を認識していなくても、社会の経験側(審決注:「経験則」の誤記と思われる。)上、結果として、「筋力の増強」が「筋肉の増大」に繋がれば、それはそれで「発明は成立」するものである、と言えます。
したがって、甲4の第75頁6行目からの「3。筋肉に弾力がつく」からの説明(請求書の第8頁のバラコンバンドの効能である筋肉の復活等)は、甲7の筋力トレーニングが「筋力の増強を図ること」を発明の課題(目的)としていると認定しても良いのではないかと考えます。
3○ 構成C…「筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を阻害するものである筋力トレーニング方法」であることは、甲4の第74頁左から2行目(バンドを強く締めると、そこで、血液が止まる)です。付言しますと、甲4の第74頁一第76頁の「バラコンバンドの効能:筋力強化、筋肉の復活等を得るために血液を阻害すること」の記載が、構成Cに相当します。」
(平成27年5月8日付け回答書9頁6行?10頁2行)

b 「甲4(バラコン法)も訂正後の本件発明と同様に、発明の課題は「筋肉に刺激(運動や動作)という疲労を与えて鍛えること(甲の第76頁12行)」であり、その加圧態様は、「筋肉に流れる血流を完全に止めないように阻害するもの」である。その理由を、甲4の記載を根拠にすると、下記のとおりである。

1○甲4の第73頁の最後の行に「バラコンバンドは、手軽で、ただ巻くだけでよい。ゆるく巻いても強く巻いても良い。」との記載がある点。
2○バンドを強く止めると、そこで血流が止まる点。ここでの「止まる」は医療行為でなければ完全に止まることを意味しないものである。
3○甲4の第75頁の人の図形の両脚の間には、「骨盤巻きで腰回し運動が全て基本。簡単で効果抜群」の記載がある。
4○甲4の第107頁には、「ワンタッチたすき巻き(肩)用のバンドは、平ゴムでマジック付」の記載がある。
5○甲4の第118頁には、「バラコン法の基本は、正常で活発な血液循環を促すことである」との記載がある。
6○甲4の第220頁には、母体が出産の準備のために、バラコン法を利用することができ、その場合、「あまりきつく締めないこと」という記載がある。
付言すると、甲4(バラコン法)は、訂正後の本件発明と基本原理は一緒であり、その用途は、「治療行為」のみならず、健康な人(母体が健康であれば)が、筋力強化のために伸縮性のバラコンバンドでもってバラコン法の効果を得ることができる旨の記載がある。なお、甲4の第107頁には「いろいろな用途に応用できる」ことが明記されている。また発明の課題は、甲(審決注:「甲4」の誤記と思われる。)の第76頁12行に記載されている。 したがって、甲4には、下記の発明が記載されている。

「筋肉に締めつけ力を付与するための伸縮性の加圧バンドを筋肉の所定部位に巻付け、その加圧バンドの周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、もって筋肉を鍛える筋肉強化即筋肉増強運動方法であって、筋肉を鍛える時、少なくとも、前記筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、前記加圧バンドがその周方向に伸縮することにより、筋肉に流れる血流を完全に止めないように阻害するものである筋肉強化即筋肉増強運動方法(これを「公知発明2」とする)」。つまり、甲4と甲2は同一の発明である。」
(平成27年10月8日付け口頭審理陳述要領書3頁下から2行?4頁下から4行)

(2)請求理由3
請求理由3における、甲第5号証に基づく進歩性欠如と、甲第6号証に基づく進歩性欠如とを、便宜的に、それぞれ、「請求理由3の1」、「請求理由3の2」とする。
(2-1)請求理由3の1:特許法第29条第2項(甲第5号証を主引例)
a 「本件発明は、甲5(実開昭54-55460号公報)又は甲6(実開昭54-17364号)のいずれかに、「筋力トレーニングの際、弾性バンドを用いて血流を阻害する、或いは血流を阻害しないような適度の締付け力を人体の適宜部位に付与すると、筋力がアップするという周知事項」、例えば甲4(五味氏の公知刊行物)、甲7(実開昭57-113167号)、甲8(実開昭63-11515号)、甲9(実開平4-77955号)等を適用すれば、筋力アップ即筋肉増強が予測可能であり、当業者が容易に創作することができるものであり、いわゆる進歩性を有しない(特許法第29条2項)。」
(平成26年10月31日付け審判請求書12頁下から2行?13頁6行)

b 「甲5の考案は「複数の袋部を有する帯体の一端側に固定部を設けると共に、他端側に掛止位置の調節可能な掛止部を設け、かつ上記複数の袋部の夫々に着脱自在に重量体を収容して成るトレーニングサポーター。」である。

それ故に、本件発明と甲5とは、下記のような〈一致点〉と〈相違点〉があるものと認められる。
〈一致点〉
両者は、筋肉に締めつけ力を付与するための伸縮性の帯体(緊締具)1を筋肉の所定部位に巻付け、該帯体(緊締具)1を締め付けることによりその帯体(緊締具)1の周の長さを減少させるようにし、もって腕部又は脚部の筋力を増強させる筋力トレーニング方法である点で一致する。
〈相違点〉
イ、本件発明は、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせるのに対して、甲5はそれが不明である点。
ロ、本件発明は、前記筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものであるのに対して、甲5はそれが不明である点。
ハ、本件発明は、筋肉を増強させる筋力トレーニング方法であるのに対して、甲5は筋力を増強させる筋力トレーニング方法である点。

周知事項は、…例えば甲4、甲7、甲8、甲9等である。…
それ故に、例えば甲5を主文献とした場合、周知事項の適用は、甲2に記載の「加圧トレーニング」と、甲4の「バラコン法」と、これらに加えて、甲6、甲7、甲8、甲9、甲22を適宜に加味することができる。
そこで、甲2及び甲4を含め、甲5、甲6、甲7、甲8、甲9等の技術分野の関連性、発明(考案)の課題の共通性、作用・機能の共通性、又は内容中の示唆(動機付け)を検討し、構成の組み合わせに阻害要因があるか否かを検討する。

本件発明と甲2、甲4とは、技術分野が関連し、本件発明と甲2、甲4とは、当業者が同一であり、本件発明と甲5、甲6、甲7、甲8、甲9、甲22とは、技術分野が同一か又は関連するものであると言え、本件発明の課題と作用・機能は、甲2と甲4の課題と作用・機能と共通し、甲5、甲6、甲7等の課題と作用・機能とも共通し、甲5又は甲6に周知事項を適用する阻害要因がない。」
(平成27年11月6日付け上申書4頁27?29行、5頁14?29行、6頁下から3行?7頁5行、7頁9行?12頁21行)

(2-2)請求理由3の2:特許法第29条第2項(甲第6号証を主引例)
a 「甲6の考案は「複数条のゴム入り布片(2)が並列に配置され、その両端部分が固定片(4)(4)‘に固着されてなるゴムバンド(1)と、該ゴムバンド(1)の長さ方向と直角に着脱自在に装着された複数個の重錘ユニット(8)、とよりなることを特徴とする筋力強化用具。」である。

〈一致点〉
両者は、筋肉に締めつけ力を付与するための伸縮性のゴムバンド(1)を筋肉の所定部位に巻付け、該ゴムバンド(1)を締め付けることによりそのゴムバンド1の周の長さを減少させるようにし、もって腕部又は脚部の筋力強化をさせる筋力トレーニング方法である点で一致する。
〈相違点〉
イ、本件発明は、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせるのに対して、甲6はそれが不明である点。
ロ、本件発明は、前記筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものであるのに対して、甲6はそれが不明である点。
ハ、本件発明は、筋肉を増強させる筋力トレーニング方法であるのに対して、甲6は筋力を強化させる筋力トレーニング方法である点。

周知事項は、…例えば甲4、甲7、甲8、甲9等である。…
そこで、甲2及び甲4を含め、甲5、甲6、甲7、甲8、甲9等の技術分野の関連性、発明(考案)の課題の共通性、作用・機能の共通性、又は内容中の示唆(動機付け)を検討し、構成の組み合わせに阻害要因があるか否かを検討する。

本件発明と甲2、甲4とは、技術分野が関連し、本件発明と甲2、甲4とは、当業者が同一であり、本件発明と甲5、甲6、甲7、甲8、甲9、甲22とは、技術分野が同一か又は関連するものであると言え、本件発明の課題と作用・機能は、甲2と甲4の課題と作用・機能と共通し、甲5、甲6、甲7等の課題と作用・機能とも共通し、甲5又は甲6に周知事項を適用する阻害要因がない。」
(平成27年11月6日付け上申書5頁下から5行?7頁5行、7頁9行?12頁21行)

(3)請求理由4:特許法第32条
a 「本件発明は「安全性の要件」を具備していないので、公序良俗又は少なくとも公衆衛生を害するおそれがある(特許法第32条)。

被請求人(関連グループも含む)は、加圧トレーニング指導資格制度を創設し、この資格制度の基で、本件発明を実施するためには、医療行為や治療行為を職業とする医師・歯科医の資格が必要である旨を主張している(甲14-1:加圧トレーニング指導資格制度のご案内)。そして、被請求人は、医師・歯科医の医療行為にいわば準じる行為(法令で許された範囲内での針灸治療行為)をする針灸治療業者が、前記加圧トレーニング指導資格制度を利用して、かつ、被請求人(法律上・経済上・契約上、いわゆる傘下の者も含む)から、本件発明の実施に必要な安全確保のための知識、資格の更新等を受けない限り、「本件発明の安全性」を確保できない旨を主張している。
この点に関して、具体例を指摘すると、例えば2013年8月29日付の警告書によると、針灸治療院を業とする株式会社サーナアルフア(代表者 永井氏)は、正当な加圧トレーニングの指導資格を有する者でないから、契約を更新しないと、方法論(本件発明)についての正しい知識とノウハウを学ぶことができず、安全かつ効果的に実施をすることができない旨の内容になっている(甲15:通告書)。このようなことは、「法が全く予期していないこと」である。

このような実施契約の強要等は、特許権者の利益と公共の利益の調和を図る特許法第1条の目的及び同法第29条1項柱書(産業上利用可能性の要件)の規定の趣旨、安全性を問題とする最判昭和44.1.28の原子核分裂を利用するエネルギー発生装置の判決内容、さらには、公衆の衛生まで問題とする特許法第32条の規定の趣旨に照らして、法が全く予期しないことと言わざるを得ない。」
(平成26年10月31日付け審判請求書15頁9?10行、15頁下から6行?16頁下から3行)

b 「(1)理由の1

被請求人は、本件発明の内容について、医者如何を問わず、例えば接骨院を業とする者に資格制度を介して実質的に実施許諾を与えている(甲14)。そして、契約の更新を拒むと、安全性を確保できない等を理由に、接骨院という場所で本件発明を実施している者に対して、本件発明の実施に深く関与している法人を介して、本件発明の存在を背景にして、当グループの知的財産権等の侵害である旨の警告をしている(特に、甲15の第13項の最後の行から第14頁の1行参照)。
そもそも、人体を構成要件とする本件発明は、当初から危険性を含むものであることを発明者が認識しているのは事実である(甲2の第22頁、第29頁)。そして、危険性がある旨を本件発明の明細書に記載すると、特許要件(特許法第29条1項柱書、公序良俗違反、明細書記載の実施可能性)が問題になることを、代理人は知っていた筈である。
それにも関わらず、特許庁の合議体や裁判官の認定判断に背き、方法論について「安全性の確保」を理由にして、リハビリ等を行う者に実質的に実施許諾(緊締具の使用)を与え、かつ、被請求人のいうことを受け入れなければ当グループの知的財産権等の侵害だ、と警告することは、知的財産権の内容に詳しくない、或いは本件発明はリハビリ、治療等の医療行為或いは医療行為に準じる美容行為は含まれないという知識(無知)。加圧で怪我を治すという経験(無経験)、本件発明を効果的に実施するためには加圧の資格を取得しなければならないという軽率さ等につけこんで行われた一種の「違法性が極めて高い手段」であると言わざるを得ない。したがって、これはもはや一般法の民法の契約自由の問題を超えたものであり、民法の特別法である特許法の視点から、少なくとも次の(2)の理由を加味して公序良俗又は公衆衛生に違反するもの、というべきである。
(2)理由の2
本件発明は、加圧トレーニングの際、ゴムバンド等の緊締具を、目的部位に、被験者の年齢、体型、脂肪のつき方、血管の太さ、筋力、体力等に合わせるようにして緊締具を巻付ける旨、それでも場合によっては腕や脚が痺れるかも知れない旨等の危険性があるものである(甲2の第22頁8-9、第29頁)。しかるに、本件発明は危険防止の具体的手段が何ら開示されていないので、公序良俗等に違反する。
(3)理由の3
本件発明は、緊締具自体は危険ではないものの、この緊締具は人体を構成要件とするものであり、その使用如何によって、例えば血行を止めないで該緊締具を強く締め付けた場合は「止血状態」に近い可能性になるものと推測され得るので、非常に危険である(乙1の第1頁、「止血状態」の説明をご参照)。それにも関わらず、本件発明は、被経験者に対する危険防止の目安となる負荷条件を全く限定せず、生理的現象に対して、文言上、特許発明の技術的範囲を非常に広く解釈し得るように認めたものであるから、発明の保護と実施のバランスを図って産業の発達を目的とする特許法第1条の規定の趣旨、実施に際して安全性を配慮した原子力エネルギー発生装置に関する最高裁判所の判例(最判昭和44.2.28民集23巻1号54頁)の趣旨に照らして、「社会的妥当性」を欠くというべきである。」
(平成27年11月6日付け上申書12頁26行?14頁12行)

(4)請求理由5
請求理由5における、特許法第36条第4項違反と、特許法第36条第5項第2号違反とを、便宜的に、それぞれ、「請求理由5の1」、「請求理由5の2」とする。
(4-1)請求理由5の1:特許法第36条第4項
a 「(1)本件発明は、特許法第36条第4項の「前項第3号の発明の詳細な説明には、その発明の属する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない。」に違反すると主張する。
その理由は、本件発明の明細書の段落0017には、「筋肉の増強」について、短期間で「3倍」の効果を得ることが確認できたとの記載があるが、例えば甲4のバラコン法の如く、「加圧と除圧を一定時間繰返すものかどうか」、「締め付け部位」、「加圧条件」、「軽いダンベル」等の特定要件が存在しないので、ありふれた発明の課題である「筋肉の増強」は理解することはできるものの、発明の構成、該構成に基づく効果を全く理解することができない。これに加えて、本件発明を実施する際、一種の職人技としてのノウハウが必要というならば尚更のことである。
であるから、どのような者に対して、体のどの部位を緊締し、どのような加圧条件でトレーニングをするのか、どの筋肉が、どのような評価により、当業者の常識では全く考えられない短期間での「3倍」効果があるのか、当業者は相当な期間が経過しても、つまり、いくら試行錯誤しても実施をすることができない状況である。
よって、本件発明の当該明細書及び図面の記載は、「当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を強いるものである」、というべきであり、特許法第36条第4項の規定に違反する。」
(平成27年10月8日付け口頭審理陳述要領書10頁13?下から3行)

b 「(5)請求理由4において主張した事実との関連
請求理由4において主張した理由は、公序良俗違反を示すものであると同時に、本件発明が不完全なものであることをも示すものである。
なぜなら、特許は、その明細書の記載だけを見て、その方法を実施することが可能であることが完全な特許発明であることの条件であるが、先に主張立証したとおり、本件発明は、明細書に記載された方法を実施するだけでは、およそ安全に実施できる保証はない。多少とも安全に実施するためには、発明者、特許権者とほぼ一体であるKAATSU JAPANによる、加圧の程度などに関する安全な実施方法に関する講習を受ける必要があることは、被請求人側が自ら認めていることである。
このように、(多少なりとも)安全に本件発明を実施するためには、加圧の程度その他の限定が必要であり、その限定が施されていない本件発明は安全に実施することができない不完全な発明であると言わざるを得ない。それ故に、実施可能性の要件を欠くものである。」
(平成27年11月6日付け上申書18頁13?下から7行)

(4-2)請求理由5の2:特許法第36条第5項第2号
a 「そこで、被請求人が、仮に、本件発明の効果が、甲2や甲4と相違する、或いは甲5や甲6に対して「顕著な効果」がある、従来の鍛錬具に対して短期間で「3倍」効果がある、効果確認は段落0017の記載で十分である等と主張するならば、血流の適度な阻害と筋力アップとの因果関係を、もっと具体的に明らかにする必要があると言わざるを得ない。であるから、本件発明は、因果関係を特定する「加圧条件」、「なんらかの運動」、「所要の重さを有るダンベルの所持」等が必要であるというべきである。

ところで、被請求人は、例えば答弁書第7頁29?36に於いて、「甲4等の各甲号証は、血流の適度な阻害と節カアップとの因果関係について開示されない旨」を主張するが、該因果関係を問題にするならば、本件発明の構成は、少なくとも加圧条件が明確ではなく、また血流の適度な阻害と筋肉増強との具体的な因果関係も不明であり、さらに、実施の際の安全性の具体的要件も記載されていないのであるから、当業者は当然納得することができない、というべきである。
当業者の立場からは、本件発明の顕著な効果を得るためには、「少なくとも所要の加圧条件」を満たさなければならないと考えられるので、特許法第36条第5項第2号に規定に違反するものである。」
(平成27年10月8日付け口頭審理陳述要領書11頁7?下から2行)

b 「請求人が特許請求の範囲の記載の文言に基づいて本件発明の認定する限り、具体的な運動方法及び具体的な加圧条件を発明の必須構成としで限定しない限り、筋力を強化或いは筋力の増強効果が、同じ増強効果となるトレーニング期間の明らかに優位な期間短縮効果が得られるとは到底考えられない。であるから、本件発明は、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号の規定に違反するものである。」
(平成27年11月6日付け上申書15頁27?32行)

3.証拠方法
請求人が本件審判請求にあたり提示した証拠方法は、以下のとおりである。
(1)平成26年10月31日付けの審判請求書に添付されたもの
甲第1号証:新村出編 広辞苑 第六版、株式会社 岩波書店、2008年1月11日発行、1636頁
甲第2号証:佐藤義昭、加圧トレーニングの奇跡 免疫力を高める、株式会社講談社、2004年7月28日発行、16頁?35頁
甲第3号証:黄勇・三村寛一・鉄口宗弘・秋武寛・北野裕大、加圧トレーニングにおける血中成長ホルモンへの影響、2011年2月、大阪教育大学紀要 第4部門 第59巻 第2号 219?227頁(審決注:「第4部門」の「4」は、原文ではローマ数字大文字である。)
甲第4号証:五味雅吉、腰痛 自分で治すバンドの本、株式会社八広社、平成元年12月20日発行、72?77頁・106?107頁・118?220頁
甲第5号証:実願昭52-128928号(実開昭54-55460号)のマイクロフィルム
甲第6号証:実願昭52-89468号(実開昭54-17364号)のマイクロフィルム
甲第7号証:実願昭55-190039号(実開昭57-113167号)のマイクロフィルム
甲第8号証:実願昭61-106107号(実開昭63-11515号)のマイクロフィルム
甲第9号証:実願平2-121532号(実開平4-77955号)のマイクロフィルム
甲第10号証:実願昭59-68953号(実開昭60-180459号)のマイクロフィルム
甲第11号証:特開平5-15518号公報
甲第12号証:実願昭63-11807号(実開平1-117376号)のマイクロフィルム
甲第13号証:特開平2-215478号公報
甲第14号証-1:加圧トレーニング指導資格制度のご案内(http://www.kaatsu.-is.jp/pdf/trainingcourse[annai].pdf)
甲第14号証-2:スタジオリストーナ港北店リーフレット
甲第15号証:株式会社サーナアルファに対するKAATSU JAPAN株式会社からの通告書、2013年8月29日
甲第16号証:特開平7-144027号公報
甲第17号証:無効2011-800252号審決、平成24年10月17日
甲第18号証:平成24年(行ケ)第10400号審決取消請求事件判決、平成25年8月28日
甲第19号証:株式会社ベストライフの登記簿(履歴事項全部証明書)、平成24年10月30日
第20号証:株式会社サトウスポーツプラザ及びKAATSU JAPAN株式会社の登記簿(履歴事項全部証明書)、平成24年10月18日
甲第21号証:無効2011-800252号の平成24年5月7日付け訂正請求書
(2)平成27年5月8日付けの回答書に添付されたもの
甲第22号証:実願平1-66340号(実開平3-5452号)のマイクロフィルム
甲第23号証:東京シナジークリニックのウェブサイト(http://www.synergy-clinic.com/service/fitness/kaatsu/)
甲第24号証:からだのお話 加圧筋トレ 医療に応用、本池英人、日本経済新聞、2006年2月23日 3版 17頁


第4 被請求人の主張
1.答弁の理由
(1-1)請求理由2の1:特許法第29条第1項第1号及び第2号
a 「請求人は,本件特許発明が甲第2号証の記載内容から認定される発明と同一であることから新規性を欠く旨主張する(審判請求書5頁下から3行乃至7頁13行)。
しかしながら,甲第2号証には,少なくとも,筋肉に流れる血流を止めることなく阻害する程度に,筋肉に負荷を与え,これにより筋肉に疲労を生じさせて筋肉を増大させることは何ら開示されていない上に,そもそも,本件特許発明の発明者は,甲第2号証において言及されている「加圧トレーニング」によるリハビリについては,「他の人には漏らさない」と念書を取ってから他人に教えていたのであるから(甲第2号証21頁13行及び14行),本件特許発明の出願時において「公然と」行われていた訳ではなく,また甲第2号証自体は,本件特許発明に係る特許出願後の平成16年(2004年)に発行されたものに過ぎないのであるから,上記「加圧トレーニング」によるリハビリの内容が「公知発明」であるなどとは到底いえない。
したがって,かかる請求人の主張は失当である。」
(平成27年1月20日付け審判事件答弁書4頁10?24行)

b 「本件特許発明の発明者が本件特許発明の出願時において,甲第2号証において言及されている「加圧トレーニング」によるリハビリを行ったことがあることについては争わないが,本件特許発明を「実施」していたことについては争う。
その理由は.以下のとおりである。
たしかに,甲第2号証には,本件特許発明の発明者が,「1973年から83年までの10年間」,同号証において言及されている「加圧トレーニングでさまざまな人にリハビリをしてい」た旨が記載されている(甲第2号証22頁)。
しかし,本件特許発明1は「筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け,その緊締具の周の長さを減少させ,筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ,もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法であって,筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が,筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法。」であるところ,甲第2号証には,少なくとも,筋肉に流れる血流を止めることなく阻害する程度に,筋肉に負荷を与え,これにより筋肉に疲労を生じさせて筋肉を増大させることは何ら開示されておらず,また,そのような発明(本件特許発明1)が実施されたことも記載されていない。なお,本件特許発明における「阻害」とは,本件特許発明に関する審決(甲第17号証)26頁に記載のとおり,「緊締具を用いない(ママ)行う従来のトレーニングと比較して,同じトレーニング量に対して明らかに優位な目的筋肉の増大効果,同じ増大量となるトレーニング期間の明らかに優位な期間短縮効果が得られる程度」のものであるが,甲第2号証には,かかる阻害の程度についての開示もなければ,そのような阻害の程度によるトレーニングが行われたとの記載もない。結局のところ,本件特許発明の出願時に広く知られていたのは,本件特許発明の発明者「の怪我が驚くべき速さで回復したという話」や「加圧トレーニングのよさ」に過ぎない。

甲第2号証には,少なくとも,筋肉に流れる血流を止めることなく阻害する程度に,筋肉に負荷を与え,これにより筋肉に疲労を生じさせて筋肉を増大させることは何ら開示されていないことから,かかる請求人の主張は,「もし患者の目前で公開されたものが本件特許でありそれで実施可能であるとすれば」との前提において誤りであって,成り立たない。」
(平成27年10月9日付け口頭審理陳述要領書2頁19行?3頁14行、6頁27?下から3行)

c 「6-1 口頭審理陳述要領書2頁20行乃至21行における「加圧トレーニング」の内容について
被請求人が口頭審理陳述要領書2頁20行乃至21行において言及した、甲第2号証22頁5行目に記載のある、本件特許発明の発明者が1973年から83年までの10年間に行ったとされる「加圧トレーニング」の内容は、甲第2号証18頁11行乃至12行に記載されているとおり、体の一部を「ゴムバンドで縛り、加圧」するというものである。
当該「加圧トレーニング」による加圧を施した部位として「右大腿部の付け根」(甲第2号証18頁11行)が含まれること、当該「加圧トレーニング」の態様として「きつくなったら緩めて、少し休んでから、また加圧をかけます。加圧・除圧、加圧・除圧・・・を続けた」(同13行及び14行)ことが含まれること、また、当該「加圧トレーニング」を行った結果として「締めつけすぎて痺れが起こり、慌てて病院に行かせたケース」があること(同22頁11行及び12行)は、いずれも甲第2号証に記載のとおりである。しかしながら、口頭審理陳述要領書2頁乃至3頁において既に述べたとおり、甲第2号証には、少なくとも、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害する程度に、筋肉に負荷を与え、これにより筋肉に疲労を生じさせて筋肉を増大させること等は何ら開示されておらず、また、そのような発明(本件特許発明1)が実施されたことも記載されていない。」
(平成27年11月6日付け上申書2頁19行?3頁6行)

(1-2)請求理由2の2:特許法第29条第1項第3号
a 「本件特許発明は,緊締具の周の長さを減少させて筋肉に与える負荷が,「筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するもの」であって,「筋肉に疲労を生じさせ」るためのものであり,「もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法」であるのに対し,甲第4号証に記載されたものは,バンドを巻き筋肉に与える負荷が,バンドをできるだけきつめに巻いて血流を「止める」ものであって,筋肉に流れる血流を「止めることなく阻害するもの」でないし,筋肉に疲労を生じさせるためのものか否かも明らかでなく,さらには「もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法」であるかどうかも明らかでない。このように,甲第4号証に記載の内容と,本件特許発明とはその内容において全く異なるものであるから,甲第4号証を理由に本件特許発明の新規性が否定されることにはならない(同旨の審決及び判決につき,甲第17号証18頁5行乃至24頁14行,及び,甲第18号証18頁下から4行乃至同2行参照)。
したがって,かかる請求人の主張は失当である。」
(平成27年1月20日付け審判事件答弁書5頁17?下から5行)

(2)請求理由3:特許法第29条第2項
a 「甲第4号証に記載された事項は,上記7-2(2)で述べたとおり,科学的な根拠がなく具体性・客観性を欠くものであり,そもそも技術常識に反した誤ったものである。この点を措くとしても,甲第4号証には,バンドをできるだけきつめに巻いて血流を「止める」ことが開示されているに過ぎず,血流を(止めることなく)適度に阻害することについては開示されておらず,血流の適度な阻害と筋力アップとの因果関係についても開示されていない。
甲第7号証には,ゴム等の軟質弾性体からなる巻付部材1と,巻付部材1の挿入孔5に挿入される鉛等からなる棒状の重量部材6と,を備える筋力鍛錬具(即ち,バンド型のダンベル)に関する事項が記載されているに過ぎず,血流を適度に阻害することについては開示されておらず,血流阻害と筋力アップとの因果関係についても全く開示されていない。
甲第8号証には,手の甲側をゴム等の伸縮性素材で構成したトレーニング用の手袋に関する事項が記載されているに過ぎず,そもそもバンドを用いた血流阻害について開示がない(血流阻害と筋力アップとの因果関係について開示がないことは言うまでもない)。
甲第9号証には,ゴム紐状バンドの伸縮弾性により巻き付けられた部分を締めつけ,バンドに設けられた突起で人体の局所を押圧することが記載されているに過ぎず,血流阻害と筋力アップとの因果関係については全く開示されていない。
従って,甲第4号証,甲第7号証,甲第8号証,甲第9号証は,本件特許発明1の構成要件Bに相当する事項を開示するものでは全くない。
また,甲第5号証には,腕部や脚部を挿通させる輪状の固定部2と,固定部2に連続する袋部3と,袋部3に抜き差し自在な重量体5と,を備えるトレーニングサポーターに関する事項が記載されているに過ぎず,血流を適度に阻害することについては開示されておらず,血流阻害と筋力アップとの因果関係についても全く開示されていない。
甲第6号証には,ゴムバンド1と,ゴムバンド1の長さ方向に直角に着脱自在に装着された複数個の重錘ユニット8と,を備える筋力強化用具に関する事項が記載されているに過ぎず,血流を適度に阻害することについては開示されておらず,血流阻害と筋力アップとの因果関係についても全く開示されていない。
すなわち,甲第5号証及び甲第6号証には,いわば,バンド型のダンベルに関する事項が記載されているに過ぎず,そもそも血流を阻害することすら開示がない。
従って,仮に,当業者が,甲第5号証又は甲第6号証に,甲第4号証明,甲第7号証,甲第8号証及び甲第9号証を組み合わせたとしても,血流を止めることなく阻害する負荷を与えて筋肉を疲労させ,もって筋肉を増大させるという本件特許発明1の技術的思想に想到することは困難である。従って,本件特許発明1は,甲第4号証乃至甲第9号証に基づいて,当業者が容易に想到できたものではなく,進歩性を有する。

また,甲第10号証乃至甲第13号証には,本件特許発明1において規定されている,「血流阻害」についてそもそも開示されておらず,また,「血流阻害」,「筋肉疲労」及び「筋肉の増大」の因果関係についても全く開示されていない。せいぜい甲第10号証においては,ゴム状弾性体よりなるエンドレスバンドにバンドの伸びを表示するゲージを設けることが,甲第11号証においては,使用者の持ち上げ運動の状況を監視するシステムが,甲第12号証においては,鉛等を収容する袋を備えた繊維製バンドが,甲第13号証においては,感触が滑らかとなるように布地で形成した帯を有する腹巻が,それぞれ開示されているに過ぎない。
仮に,当業者が,甲第5号証(又は甲第6号証)に甲第10号証乃至甲第13号証を組み合わせたとしても,血流を止めることなく阻害する負荷を与えて筋肉を疲労させ,もって筋肉を増大させるという本件特許発明1の技術的思想に想到することは困難である。以上から,本件特許発明1は,甲第5号証,甲第10号証乃至甲第13号証に基づいて,当業者が容易に想到できたものではなく,進歩性を有する。
そして,本件特許発明2及び3は,本件特許発明1の構成を全て備えるものであることから,本件特許発明1の進歩性が肯定される以上,甲第10号証乃至甲第13号証の存在にかかわらず進歩性を有する。」
(平成27年1月20日付け審判事件答弁書7頁24行?9頁23行)

(3)請求理由4:特許法第32条
a 「請求人は,(1)本件特許発明が,安全性の要件を具備していないこと及び(2)被請求人の行為が,法が全く予期していない行為であること,を理由に,本件特許発明は特許法第32条に該当し,本件特許は無効であると主張する(審判請求書15頁8行乃至17頁5行)。しかしながら,以下に述べるとおり,請求人の主張はいずれも失当である。
(1) まず,請求人は,甲第14号証の1,同2及び甲第15号証を根拠に,本件特許発明の安全な実施には資格制度の利用が不可欠であり,安全性の要件を具備していない旨主張する。しかし,かかる主張は,いずれも上記各証拠の理解を誤ったものであり,失当と言わざるを得ない。
すなわち請求人は,甲第14号証の1を根拠に,被請求人が,「本件発明を実施するためには,医療行為や治療行為を職業とする医師・歯科医の資格が必要である旨を主張している」と主張する(審判請求書15頁下から4行乃至3行)が,甲第14号証の1には,加圧トレーニング指導資格制度の説明があるのみであり,請求人が主張するような記載は何ら存在しない。
また,請求人は,甲第14号証の2を根拠に,「美容的・医療的効果がある旨を宣伝・広告をしている」と主張する(審判請求書16頁12行乃至15行)。そもそも,かかる主張が,いかなる意味を持つか判然としないが,甲第14号証の2は,披請求人が作成したものですらなく,本件審判と何ら関連しないものである。
さらに,請求人は,甲第15号証を根拠に,「契約を更新しないと,…安全かつ効果的に実施をすることができない旨の内容になっている。」等と主張する(審査請求書16頁5行乃至10行)が,これもまた誤りである。甲第15号証は,「資格者各自が,効果的かつ安全な加圧トレーニングの指導・施術を行うためのルールを遵守する必要があることから,…」(甲第15号証,9頁下から2行乃至10頁1行)と記載しており,資格者として遵守すべきルールが存在することを記載したに過ぎず,請求人が主張するような記載は存在しない。
(2) 次に,請求人は,被請求人が,本件特許発明の安全な実施には資格制度の利用が不可欠である旨を事業者等に対して述べ,ライセンス契約の締結を強要する行為は,法が全く予期していない行為であることを理由に,本件特許発明は特許法第32条に該当し,本件特許は無効であるなどと主張する。
しかしながら,上述したとおり,本件特許発明の安全な実施には資格制度の利用が不可欠であるという事実は存在しない。被請求人の資格制度は,被請求人が,あくまでも希望者に対して講習を実施することにより,被請求人所定の資格を認定するとともに,指導者として養成することを主たる目的としているのであって,ライセンス契約の締結や資格の取得を強要するものなどではない。
さらに,発明に「法が全く予期していない行為が含まれる」ことが,公序良俗及び公衆の衛生を害するおそれがある発明に該当するとの主張は,請求人の独自の見解に基づくものに過ぎず,到底成り立つものではない。
したがって,請求人の上記主張はいずれも失当である。」
(平成27年1月20日付け審判事件答弁書9頁下から5行?11頁5行)

(4-1)請求理由5の1:特許法第36条第4項
a 「本件特許発明に係る特許維持審決(甲第17号証)26頁にも記載のとおり,本件特許の明細書の段落【0017】では,緊締具を用いたグループと緊締具を用いないグループのそれぞれにつき一回2時間のトレーニングを週2回の周期で6か月間行い,緊締具を用いるグループには,図1のように三角筋と該上腕二頭筋の間に堅締具(審決注:「緊締具」の誤記と思われる。)を施して,該上腕二頭筋部位への血流を適度に阻害してやることにより,疲労を効率的に発生させ,トレーニングを始めてから6か月後の該上腕二頭筋部位における周囲寸法を計測したところ,緊締具を用いたグループの筋肉増強効果は,緊締具を用いないグループに比べ,約3倍であることが確認できたことが開示されているところ,これら開示内容を踏まえると,出願当時において,当業者が,増強しようとする目的筋肉に対する緊締具の巻付け位置,緊締具による締め付け程度及び条件等について当業者に期待しうる程度の試行錯誤を行うことにより,筋肉を増大させることができることは明らかである。」
(平成27年10月9日付け口頭審理陳述要領書11頁6?19行)

(4-2)請求理由5の2:特許法第36条第5項第2号
a 「本件特許の特許請求の範囲の記載が平成6年改正前特許法第36条第5項第2号に違反しないことについては、既に審決(甲第17号証)17頁及び26頁並びに判決(甲第18号証)17頁乃至18頁により判断されているとおりである(なお、「本件発明に係る発明の詳細な説明の記載に照らし、特許請求の範囲に、緊締具の装着方法、回数等の事項を逐一記載しなければならない技術的意義は何ら見いだし難」いことについても、既に判決(甲第18号証)18頁により判断されているとおりである。)。
そもそも、「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」とは、まとまりのある一の技術的思想を把握できる事項を意味すると解されるところ(特許庁編「特許・実用新案審査基準」(平成5年6月公表。以下「審査基準」という。)第1部3頁下から2行及び最終行等参照(審決注:「第1部」の「1」は、原文ではローマ数字大文字である。))、本件特許発明の特許請求の範囲の記載事項からは、まとまりのある一の技術的思想を把握することが可能である。すなわち、ダンベルやバーベル等の重量物や、バネ、ゴム等の弾性力に基づく抵抗力等を利用して所望の筋肉部位に負荷を与え、その状態で一定の疲労を得る程度にその筋肉部位を伸縮運動させることによってトレーニング効果を得る従来の筋肉のトレーニング方法においては、トレーニング効果を更に上げるためには、器具の重量や抵抗力を増したり、伸縮運動の回数を増やしたりするしかなかったところ、これにより目的外の筋肉が増強されてしまったり、場合によっては、筋肉や関節等を損傷したりするといった課題が存在した。そこで、本件特許発明は、上記課題を解決すべく、「目的の筋肉への血行を阻害した状態でトレーニングを行うと、大幅にトレーニング効果が上がる」(【0004】段落)という知見に基づき、筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け、その緊締具の周の長さを減少させることで、筋肉への血行(血流)を阻害させる締め付け力を調整しつつ目的の筋肉部位へ施し、これによって筋肉に疲労を生じさせその増大を図るという方法を採用したものである。このように、本件特許発明には、本件特許発明の上記課題を解決するための構成に欠くことのできない事項が記載されているといえる。したがって、本件特許発明の請求項の記載が「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した請求項」に該当することは明らかである。
なお、この点に関連して、請求人は、本件特許の特許請求の範囲の記載が平成6年改正前特許法第36条第5項第2号に違反する根拠として、当業者が「本件発明の顕著な効果」を得るためには少なくとも所要の加圧条件を満たさなければならないと考えられることを主張している。請求人の主張する「本件発明の顕著な効果」の具体的内容は不明であるが、仮にこの点を措くとしても、同号は、「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」が記載されていなければならないと定めるものであり、請求人の主張するような「本件発明の顕著な効果を得るために」必要な事項を記載することを要求するものではない。請求人の上記主張は、独自の見解に基づくものに過ぎず、到底成り立つものではない。
以上より、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号違反に係る請求人の上記主張は成り立たない。」
(平成27年11月6日付け上申書3頁16行?4頁下から4行)

2.証拠方法
被請求人が本件審判事件にあたり提示した証拠方法は、以下のとおりである。
乙第1号証:森田敏宏氏作成の陳述書、平成24年4月29日

第5 主な各甲号証に記載されている事項
1.甲第2号証
(1)「最初のうちは自分の筋力アップのために、ひとりで黙々とトレーニングに励んでいたのです。」(16頁3?4行)
(2)「加圧トレーニングによる自力リハビリ
いま考えると、危険な行為なのですが、翌日からさっそく、右大腿部の付け根をゴムバンドで縛り、加圧してみました。みるみるうちに、ギプスがきつくなるほど、大腿・ふくらはぎがパンプアップ(筋肉が緊張して大きくなること)してきます。きつくなったら緩めて、少し休んでから、また加圧をかけます。加圧・徐圧、加圧・徐圧……を続けたのです。」(18頁10?末行)
(3)「筋肉が発達し、太くなっているのです。」(20頁3?4行)
(4)「この怪我を通して、加圧は筋力強化だけではなく、リハビリにもいいのだと発見しました。
…「加圧トレーニングについて教えてほしい」と、大勢の人から頼まれました。
しかし、私はその当時、この方法をあまり多くの人に広めたくありませんでした。自分ひとりの宝物のように思っていたからです。そこで、「他の人には漏らさない」と念書を取ってから、教え始めたのです。
それでも、口コミで加圧トレーニングのよさはどんどん広まっていきます。すると私も、多くの人を治し、感謝されることに無上の喜びと幸せを感じるようになりました。
その後、一〇年間で延べ数十万の人を対象に加圧トレーニングを施してきたことで、ノウハウを確立していったのです。

一九七三年から八三年までの一〇年間、加圧トレーニングでさまざまな人にリハビリをしていました。
…何があっても知らないからね」と、危険を承知してもらったうえで、行っていました。
当然ですが、人によって年齢も体型もさまざまであり、腕や脚の太さも違います。脂肪のつき方から血管の太さ、筋肉や体力も、すべて変わってくるのです。その人に合わせて加圧を調整するのは、至難の業。
…締めつけすぎて痺れが起こり、慌てて病院に行かせたケースもあります。」(21頁8行?22頁12行)
(5)「目をつぶってその人の手や脚を触ると、どのくらい締めたらいいかがパッと思い浮かびます。これは、もはや経験による一種の職人技でしょう。…いまだに私は、この方法で加圧の具合を決めます。多くの人に触れることで、私の手は完全に匠の手になったのです。
この一〇年の間にサトウトレーニング・ルームはサトウスポーツプラザに生まれ変わり、会員数一五〇〇名を超えるフイットネスジムヘと成長。」(23頁12?第24頁1行)
(6)上記記載(2)、(4)等から、「加圧トレーニング方法」が示されているといえる。

上記記載(1)?(6)から、甲第2号証の著者が他人に施した「加圧トレーニング方法」は、
「右大腿部の付け根をゴムバンドで縛り、人に合わせて加圧を調整し、筋肉が発達し、太くなり、筋力強化を行う加圧トレーニング方法。」(審決注:以下、便宜上「加圧トレーニング方法1」という。)と認められる。
また、甲第2号証の著者が「「他の人には漏らさない」と念書を取ってから、教え」た人が知り得た「加圧トレーニング方法」は、著者が他人に施した上記「加圧トレーニング方法1」と同じ「加圧トレーニング方法」(審決注:以下、便宜上「加圧トレーニング方法2」という。)であることは明らかである。
また、上記記載(1)?(6)から、加圧の調整は人に合わせてなされるものであって、加圧の程度は人によって異なるものであるから、加圧トレーニングを施された人が知り得た「加圧トレーニング方法」は、
「右大腿部の付け根をゴムバンドで縛り、加圧し、筋肉が発達し、太くなり、筋力強化を行う加圧トレーニング方法。」(審決注:以下、便宜上「加圧トレーニング方法3」という。)と認められる。

ここで、甲第2号証の著者は、「加圧トレーニング方法1」を施してはいるが、このことをもって「加圧トレーニング方法1」が公知であるとはいえない。甲第2号証の著者が施し、行為の外観上現われるのは、上記「加圧トレーニング方法3」であって、施しを受けた人が知り得るものであるから、「加圧トレーニング方法3」が、公然実施をされた発明といえる。
また、「加圧トレーニング方法3」は、施しを受けた人が知り得たものであるから、公然知られた発明といえる。
他方、「加圧トレーニング方法2」は、甲第2号証の著者が念書を取って教えたものであるから、公然知られた発明とも公然実施をされた発明ともいえない。
また、甲第2号証の著者が「「他の人には漏らさない」と念書を取ってから、教え」た人により加圧トレーニングを施された人は、上記と同様に、加圧の程度は人によって異なるものであるから、前記加圧トレーニングを施された人が知り得た「加圧トレーニング方法」は、「加圧トレーニング方法3」といえ、公然知られた発明といえる。
そうすると、甲第2号証から本件特許の出願前に公然知られた発明及び公然実施をされた発明は、上記「加圧トレーニング方法3」と認められる。(審決注:以下、便宜上「公知・公用発明」という。)

2.甲第4号証
(1)「独自の治療法「骨盤調整法」を創案して、治療活動を通して仙腸関節理論の正しさを証明してきたのだった。その骨盤調整の自分で治す方法として考案したのがバラコンバンドを使っての「バラコン法」なのだ。」(第72頁上段12行?下段7行)
(2)「仙腸関節理論とゴムバンド療法
1○ バラコン法
胸鎖関節の重要さに着目
健康は何にも勝る宝だ。
文明が進み、人々の生活が豊かになるにつれて、わけのわからない病気や症状が増えてきた。
一億半病人といわれている。病気で寝込むほどではないが、健康でもない、ということだ。
新聞や雑誌にも健康欄は、かならずと言っていいほど載っている。立派な健康器具も数え切れないほどある。高い金を出した健康器具を購入しても、ほとんどの人は三日坊主で終わってしまう。
効果が思ったほどなかった。複雑でやっかいだ。あきてしまった。と理由はさまざまであろう。
バラコンバンドは、手軽で、ただ巻くだけでよい。ゆるく巻いても強く巻いてもよい。バンドの効果について本書ではいろいろ書いているが、なによりのことは、その場で効果がわかるということだ。
腰に巻けば腰が軽くなる。片足に巻けば、その場で巻いた足が二倍軽くなって歩くのが楽だ。それが、疲れを半減させる。
人間の病気の大部分は疲れ、慢性疲労からくるものだ。疲れた体は抵抗力を失い、バイ菌にやられるわけだ。
(バラコンバンドの効能)
1。エネルギーの消耗が半分ですむ。
筋肉は、伸び縮むという弾力があるから、人体の行動がとれる。
伸び縮みの幅が大きいほど、弾力があって理想的である。バンドは生ゴムで、弾力は理想的である。これを筋肉に巻き付けて動作の時、筋肉の弾力と協調して働くから人体のエネルギーが半減するのだ。
2。血管内を清掃し血管にも弾力がでる。
バンドを強く締めると、そこで血流が止まる。
心臓からは絶え間なく血液は送られてくる。
血液は、バンドの所で滞留し、血量はその部で倍加される。
バンドをはずすと、血は倍の速力で血管内を流れる。その時血管壁を掃除し、動脈硬化を治し、血管そのものも弾力がでる。
3。筋肉に弾力がつく。 ●骨盤巻きで腰回し運動が全ての基本。簡単で効果抜群
筋肉は筋細胞の集まりで、筋繊維を造り、さらに束になって伸縮する。筋細胞の一つひとつは、膜があって中はコロイド状で、栄養素と酸素が化合してエネルギーを造り出すという、生命に直結する重要な働きをしている。疲れると老廃物がたまり、栄養素や酸素が欠乏している。この状態のとき、バンドを巻くこと、その圧力で細胞内の老廃物がにじみ出る。
動作の際、体に力が入れば巻いたバンドはゆるむ。そのとき、血液は細胞内に流れ込む。(栄養素、酸素を供給する)力が抜ければ、バンドは締まる。そのとき、老廃物が排泄される、といった繰り返しで筋細胞が復活する。
つまり、あんま、マッサージ、指圧をしているようなもので、筋肉は復活する。神経管、靭帯なども同じ。
4。骨に弾力がでる
骨は常に、破骨細胞、増殖細胞が同時に働いて新陳代謝が行われている。
カルシウム、燐などの必要物質があり、膠原質もあって骨に弾力を保ち、骨折などをふせぐ。カルシウムは血液が酸性化すると、中和し、その他の重要な働きを数々している。
5。造血作用
骨髄で造血作用をしている。
思春期までは、長骨で造られているが、大人になると扁平骨(骨盤、頭蓋骨)で造られる。筋肉は刺激(運動や動作)に対応して鍛えられる。骨もまったく同じ原理である。
宇宙飛行士が無重力の中に一定期間生活していると、筋肉が弱り、特に骨はぼろぼろになる。地球上では、何もしなくても、地球の重力が常にかかっている。それに対応するため骨は常に抵抗し、人体を支える力ができているのだ。
骨は、特に老化すると復活しにくくなる。バンドでしめる刺激、更に行動、動作という運動の刺激が加わって骨は太くガッチリする。骨が太いのは健康のバロメーターである。ローマは一日にしてならず、常に適刺激を加えることが大切である。バンド巻きは理想的と言える。」(73頁1行?77頁2行)
(3)「ワンタッチたすき巻き(肩)用バンドの応用法
手軽でよく効くニューバンド解説
腰痛に悩む人は実に多い。それ以上に多いのが肩こりの人だ。だが、ほとんどの人が「肩こりは体質だから」と、あきらめているようだ。そして、これはもむ。
しかし、肩こりはもんでも治らない。むしろ、もみ過ぎると炎症をおこして逆効果になることがある。ところが、仙腸関節と胸鎖関節を矯正すると、たちどころに肩こりが解消されてしまう。つまり、肩こりの原因は「腰」にあるのだ。腰の要である骨盤(仙腸関節)が狂うと脊柱がS字状に歪み、胸鎖関節が変位するため肩の筋肉を萎縮させて肩こりや痛みとなるのだ。それと、手と腕の疲れ。それが血液の循環を悪くし、鬱血状態にする。肩を動かす筋肉や酸素に栄養素が送れなくなるのである。こうした症状が悪化すると、呼吸が荒くなる、胃が重い、心臓が苦しい、風邪をひきやすくなる、といったことになる。
だから、肩こりだからとたかをくくっていてはいけない。
そうした肩こり等を解消するには、L(大)2mのバンドで「たすき巻き」にするのが一番効果的であるが、下着の上に着けて洋服を着るにはかさばりすぎて適さない。長時間着用して日常の動きでも同じことが言える。大バンドはもともと治療用だからだ。そこで新たに開発したのが、ニューバンド「ワンタッチたすき巻き(肩)用」のバンドである。平ゴムでマジックテープ付きだから、着脱が実に簡単で手軽なうえに、当たりが実にソフトだ。座りっぱなしや中腰になることの多い仕事の人や、肩こりや背中の張る人にはもってこいのバンドだ。また本項で説明しているように、単に脊柱矯正のたすき巻きばかりでなく、いろんな用途に応用できる。今回紹介する他にも「腕巻き」「ゲートル巻き」などもできる。簡単で効果のある、新しいバンドだ。」(106頁1行?107頁13行)
(4)「ニューバンド「平M2m」の活用法
手と足-おどろき自己療法
血液は生命の源である。血の流れが体に及ぼす作用は測り知れぬ。血液循環は文字通り「神秘の流れ」なのだ。健康とは、正常な血液循環があってはじめていえることである。
バラコン法の基本は、正常で活発な血液循環を促すことにある。正しい骨格の矯正→正常な血液循環→生命の力(良くなろうとする力=自然良能力)を生む。
こうしたことに、1本のバラコンバンドがおどろくばかりの効果を発揮する。ただのゴムバンド。表も裏もない。しかもいたって簡単な方法で、びっくりするほどの効果があがる。その秘密はいったいどこにあるのだろうか?
ただ足首に巻く(かかと三角巻き)。手に巻く(腕巻き)。それだけで、おどろくほどの効果がある。例えば、二の腕にぐるぐる巻く。できるだけきつめにする。痛いほどにだ。そして我慢できなくなったらはずそう。これで、腕ばかりでなく、首や肩のこり、痛みがとれて、実に軽くなっている。また、足首に巻く。同じ要領で痛くなったらはずす。下肢の疲れ、しびれ、痛みばかりか、腰の疲れも解消する。その効果はおどろくばかりだ。
なぜか?
血液の流れにその因がある。
人体の骨格筋は両端にある腱によってふたつの骨に付着している。その付着点で、心臓に近いところを起始(不動点)といい、関節一つ通りこしたところを停止(運動点)というのである。
この停止部分にバンドを巻く。一つでも関節を越したほうがよく効くので、手の場合なら肘の下の二つの腕にバンドを巻くといい。(肘の上から巻き込んでいてもかまわない)きつめに巻いて、我慢できなくなったらはずそう。すると、ダムの水門を開いたように、血液がどっと流れ込み、これまで充分にいきわたっていなかったところまで威勢よく入り込む。疲れのある箇所にたまっていた老廃物が、バンドをしめることでにじみ出て、はずしたことで奔流のように流こんできた血液がそれらを回収するのだ。体が軽くなったり、痛みが消えるのは当然のことである。そればかりか「足裏指巻き」で長年悩まされた水虫がきれいになくなる。全て同じ原理だ。
こうした手足に巻くバンドとて新たに開発されたのが「平M2m」で平ゴム状のもの。手足ばかりではなく、はち巻きや、巻いた部分がごろごろしなくて抜群の使用感なので、長時間使用にも適している。このニューバンド、評判は上々である。
手と足を巻く。少し痛いかも知れないが、腕を何度も曲げたり、踵を回す運動をするとより効果的だ。体の他の障害部位にも効果があらわれてくる。おどろくばかりだ……。」(118頁1行?121頁末行)
(5)「母体が健康であれば胎児の子供にもよい影響を与える。ただし、あまりきつく締めないこと。」(220頁10?12行)

上記記載(1)?(5)から、甲第4号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「独自の治療法で、骨盤調整の自分で治す方法である、バラコンバンドを使っての「バラコン法」であって、筋肉に巻き付けて動作するもので、バンドを強く締めると、そこで血流が止まり、血液は、バンドの所で滞留し、血量はその部で倍加され、バンドをはずすと、血は倍の速力で血管内を流れ、その時血管壁を掃除し、動脈硬化を治し、血管そのものも弾力がで、また、バンドをきつめに巻いて、我慢できなくなったらはずすと、ダムの水門を開いたように、血液がどっと流れ込み、これまで充分にいきわたっていなかったところまで威勢よく入り込み、疲れのある箇所にたまっていた老廃物が、バンドをしめることでにじみ出て、はずしたことで奔流のように流こんできた血液がそれらを回収するもの。」(審決注:以下「甲第4号証発明」という。)

3.甲第5号証
(1)「2.実用新案登録請求の範囲
複数の袋部を有する帯体の一端側に固定部を設けると共に、他端側に掛止位置の調節可能な掛止部を設け、かつ上記複数の袋部の夫々に着脱自在に重量体を収容してなるトレーニングサポーター。」(1頁4?8行)
(2)「腕部又は脚部の筋力を増強するためのトレーニングサポーターに関するものであり、特に腕部又は脚部に巻付けて固定し、腕部又は脚部に平均した荷重を与えてトレーニング効果を増大しようとするものである。」(1頁10?14行)
(3)「腕部又は脚部の筋力増強のためのトレーニング」(2頁8行)
(4)「1は帯体であり、伸縮性を有する布体」(2頁12行)
(5)「掛止部6は、帯体1を腕又は足に巻き付けた後上部から帯体1を締め付けて腕部又は脚部からの脱落を防止するためのものであり」(3頁2?5行)
(6)「該一層部分の表裏にマジックフアスナー7、8を縫着して構成する。」(3頁7?8行)
(7)「本考案に係るトレーニングサポーターは、腕部又は脚部に装着し、腕部又は脚部に荷重をかけたままかけあし、うさぎ跳び、スイング練習等のトレーニング及び空突き空蹴り練習をし、腕部又は脚部の筋力を増強し、腕力、跳躍力、走力等の鍛錬をすることができる。」(3頁17行?4頁2行)
(8)「使用者の体力に応じて総重量を加減調整し」(4頁3?4行)

上記記載(1)?(8)から、甲第5号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「複数の袋部を有し、伸縮性を有する布体からなる帯体の一端側に固定部を設けると共に、他端側に掛止位置の調節可能な帯体を腕又は足に巻き付けた後上部から帯体を締め付けて腕部又は脚部からの脱落を防止するための掛止部を設け、かつ上記複数の袋部の夫々に着脱自在に重量体を収容し、腕部又は脚部に平均した荷重を与えて腕部又は脚部の筋力を増強するためのトレーニングサポーター。」(審決注:以下「甲第5号証発明」という。)

4.甲第6号証
(1)「2.実用新案登録請求の範囲
複数条のゴム入り布片(2)が並列に配置され、その両端部分が固定片(4)(4)’に固着されてなるゴムバンド(1)と、該ゴムバンド(1)の長さ方向と直角に着脱自在に装着された複数個の重錘ユニツト(8)、とよりなることを特徴とする筋力強化用具。」(1頁4?10行)
(2)「本案は手首及び足首への着脱が自在である筋力強化用具に係る。」(1頁12?13行)
(3)「運動に際しては手首の立体形状の変動に即応しにくいこと」(2頁1?2行)
(4)「本案の筋力強化用具は、複数条のゴム入り布片が並列に配置され、その両端部分が非伸縮性固定片に固着されてなるゴムバンドと、該ゴムバンドの長さ方向と直角に配置固着された重錘ユニツト装着具の複数個と、さらに該装着具に着脱自在に装着された重錘ユニツトの複数個とを以て構成される。」(2頁10?16行)
(5)「固定片は手首又は足首に本案の用具が套着する際の固定用の係止具を備えており」(2頁17?19行)
(6)「ゴムバンド(1)が、平行に配置された3条のゴム入り布片(2)」(3頁5?6行)
(7)「固定片(4)には紐環付の係止具(7)が、又固定片(4)’には該係止具(7)に係合可能の係止具(7)’がそれぞれ固着されている。」(3頁15?17行)
(8)「重錘ユニツトのホツクの側を肘又は膝に向けて固定片(4)’の側から順次巻回し、係止具(7)、(7)’により、ゴムバンドを引張下にその両端を係止する。」(4頁15?18行)
(9)「運動の際の手首部或いは足首部の立体形状の複雑微妙な変形に無理なく即応し」(5頁4?5行)
(10)「ゴムバンドの伸縮性によつてかなり幼少の児童にも装着できる」(5頁10?11行)
(11)「長時間着用されるので児童の体力の向上に寄与するところ大」(5頁14?15行)
(12)上記(3)、(9)及び(11)より、筋力強化用具を手首及び足首に套着し運動することにより筋力の強化が図られるといえる。

上記記載(1)?(10)から、甲第6号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「複数条のゴム入り布片(2)が並列に配置され、その両端部分が固定片(4)(4)’に固着されてなるゴムバンド(1)と、該ゴムバンド(1)の長さ方向と直角に着脱自在に装着された複数個の重錘ユニツト(8)、とよりなり、重錘ユニツトのホツクの側を肘又は膝に向けて固定片(4)’の側から順次巻回し、係止具(7)、(7)’により、ゴムバンドを引張下にその両端を係止する、手首及び足首への着脱が自在であり、手首及び足首に套着し運動することにより筋力の強化が図られる筋力強化用具。」(審決注:以下「甲第6号証発明」という。)

5.甲第7号証
(1)「2.実用新案登録請求の範囲
1.ゴム等の軟質弾性体からなり、延伸すると略長方形となる断面C字状の巻付部材と、該巻付部材の長辺間方向に穿孔した複数個の挿入孔と、該挿入孔に個々に挿入した複数本の棒状の重量部材と、巻付部材を被巻付体に固定するために巻付部材に取付けた繋止部材とを具備することを特徴とする筋力鍛錬具。」(1頁4?11行)
(2)「本考案は、手首や足首に巻付けて手足の筋力を鍛錬するための筋力鍛錬具に関するものである。」(1頁13?14行)
(3)「手首や足首に容易に密着して装着することができるとともに、異和感がなく使用でき、しかも負荷の調整を可能とする筋力鍛錬具を提供することにあり」(2頁6?9行)
(4)「ゴム等の軟質弾性体から成り、延伸すると略長方形となる断面C字状の巻付部材と、該巻付部材の長辺間方向に穿孔した複数個の挿入孔と、該挿入孔に個々に挿入した複数本の棒状の重量部材と、巻付部材を被巻付体に固定するために巻付部材に取付けた繋止部材とを具備すること」(2頁10?15行)
(5)「ゴムや合成樹脂製の軟質弾性体からなる巻付部材」(2頁19?20行)
(6)「軟質弾性体のため異和感なく皮膚に密着するもの」(4頁1行)
(7)「重量部材6は挿入孔5に対し、抜き挿し自在なので、負荷の調整が容易である。」(4頁3?4行)

上記記載(1)?(7)から、甲第7号証には、以下の技術事項が記載されているものと認められる。
「ゴム等の軟質弾性体からなる、手首や足首に巻付けて手足の筋力を鍛錬するための筋力鍛錬具。」(審決注:以下「甲第7号証に記載された技術事項」という。)

6.甲第8号証
(1)「2.実用新案登録請求の範囲
手袋(1)において、掌側(A)を皮、布等の非伸縮性素材(1a)で構成し、手の甲側(B)をゴム等の伸縮性素材(1b)で構成することを特徴とする握力アップ用等の手袋。」(1頁4?8行)
(2)「例えばバットを握ったり、ゴルフクラブを握るなど物をつかむ際、平素よりより以上に指を曲げる力が必要となり、この命令を脳が出し、指先に微圧が加わる。この時、微圧は脳に伝わり、脳は筋肉に命令する。
そこで指先を常に刺激することにより逆に脳を絶えず刺激する結果となり、横紋筋、平滑筋、心筋の三つの筋肉の発達と老化の防止に役立つものである。
手の甲側(B)をゴム等の伸縮性素材(1b)で構成したため手を嵌めると常に手の甲側に縮まろうとするため、手の各指先部に力が加わり、指先部を刺激するため脳に常に刺激を与え、握力の強化の他、…効果があり、能率的である等極めて有益なる効果を奏するものである。」(3頁2?下から2行)

上記記載(1)?(2)から、甲第8号証には、以下の技術事項が記載されているものと認められる。

「手袋(1)において、掌側(A)を皮、布等の非伸縮性素材(1a)で構成し、手の甲側(B)をゴム等の伸縮性素材(1b)で構成することにより、手を嵌めると常に手の甲側に縮まろうとするため、手の各指先部に力が加わり、指先部を刺激するため脳に常に刺激を与え、握力の強化をする握力アップ用等の手袋。(審決注:以下「甲第8号証に記載された技術事項」という。)

7.甲第9号証
(1)「2.実用新案登録請求の範囲
人体の手や足等に巻付け可能な長さで、その長手方向に伸縮自在となしたゴム紐状のバンドに、滑らかな角面となる突起を複数個、所定間隔をおいて設けたことを特徴とするバンドトレーニング器具。」(1頁3?8行)
(2)「健康を促進したり、或いは、運動をするために用いられる紐状のバンドトレーニング器具」(1頁13?15行)
(3)「人体に紐伏のバンドを巻付け巻き解しをすること、また、このバンドトレーニング器具を用いて運動を行う,所謂、バンドトレーニング器具を用いて健康を促進しようとすることは、例えば、「腰痛自分で治すバンドの本」(著者:五味雅吉、発行:八広社)等で広く一般に知られ、実施されているところである。」(1頁17?2頁1行)
(4)「上記のゴム紐は人体に巻き付けて運動するとき、身体の動作に伴い自在に伸縮するので用い易く、また、これに伴い血流を緩急自在に変化させるので、健康に極めて効果的であり、多くの利点を有する。」(2頁10?14行)
(5)「人体に巻付けたとき、外れ易く、また、締めつけ効果のみで指圧効果に欠ける」(2頁17?19行)
(6)「これら突起4を指標(目印)として人体の所定位置に的確に装着し易く,より効果的な指圧作用ができるとともに、紐の巻き過ぎや不足を防ぐことができる。」(4頁11?14行)
(7)「このように装着すると紐1の伸縮弾性により、人体は巻き付けられた部分が適度に締め付けられる」(7頁8?10行)
(8)「紐の伸縮弾性により、巻きつけられた部分は適度に締め付けられるとともに、それぞれの突起はその位置において、人体の局所を点的に接触し押圧することとなるので、締めつけ効果によるバンド療法に加え、人体のつぼを押圧して指圧効果を同時に奏することができる。」(15頁8?13行)

上記記載(1)?(8)から、甲第9号証には、以下の技術事項が記載されているものと認められる。
「人体の手や足等に巻付け可能な長さで、その長手方向に伸縮自在となしたゴム紐状のバンドに、滑らかな角面となる突起を複数個、所定間隔をおいて設け、人体は巻き付けられた部分が適度に締め付けられるバンドトレーニング器具。」(審決注:以下「甲第9号証に記載された技術事項」という。)

8.甲第10号証
(1)「2.実用新案登録請求の範囲
ゴム状弾性体によりなるエンドレスバンドであって、該バンドにゲージが付いたことを特徴とする筋強化バンド。」(1頁4?7行)

上記記載(1)から、甲第10号証には、以下の技術事項が記載されているものと認められる。
「ゴム状弾性体によりなるエンドレスバンドであって、該バンドにゲージが付いたことを特徴とする筋強化バンド。」(審決注:以下「甲第10号証に記載された技術事項」という。)

9.甲第11号証
(1)「【請求項1】 使用者の持ち上げ運動を監視する身体運動監視システムであって、使用者の腰周縁に締着するように適応し構成されたベルトと、筋力信号を形成する整流され平均化された信号を送信する少なくとも一つの筋電図センサであって、該センサはベルトに固定され、当該ベルトを巻くと電極が使用者の下部背近傍に配置され、持ち上げ動作中に下部背によって働く筋力を感知するような少なくとも一つの電極を具備することを特徴とする使用者の持ち上げ運動を監視する身体運動監視システム。」
(2)「【0005】
【課題を解決するための手段及び作用】筋肉が働く力量は直接には構成する運動のポテンシャルの大きさや頻度による衰弱と関連がある。それ故、筋電図(EMG)の技術で筋力を測定することが可能である。統合筋電図(IEMG)においては筋電性信号が整流され筋力と関わるEMG信号エネルギーを正確に表示するために時間平均化がなされる。」
(3)「【0012】図4はトレーニング監視装置の電気的ブロック図である。監視装置はアナログ・ディジタル変換器26を介して制御装置に機能的に接続される筋電図センサ22を有する。ゴニオメータ20もまたアナログ・ディジタル変換器26を介して制御装置に接続される。制御装置は内部クロックとしての役割も果たすマイクロプロセッサユニット24からなり、記録装置を構成する電子メモリ25とインタフェースする。マイクロプロセッサ24は表示装置27と接続され、表示装置27はマイクロプロセッサ24にプログラムされた事前設定パラメータを超える持ち上げ状態を使用者に聴覚と振動の両方或いはいずれか一方で伝えることができる。」
(4)「【0019】図7-12は持ち上げトレーニング監視システムと同様な運動トレーニングシステムを示している。図8に見られるように回路構成は運動トレーニングシステムがバーグラフからなる可聴フィードバック表示装置や三つの発光ダイオードからなる警報装置52を装備している点を除いては同様である。リフトトレーニングシステムに於て表示装置である可聴フィードバック要素すなわちスピーカ27は本実施例では、トリガされたことを患者に可聴的に知らせる可聴表示装置や警報装置と協動して用いられる。
【0020】バーグラフ表示装置50はこの装置の使用中に使われる筋力を示すために用いられる液晶表示装置か発光ダイオード表示装置である。運動トレーニングシステムはバーグラフに関連する自動範囲設定でありバーグラフを自動範囲設定するためのアルゴリズムは図9に示している。運動期間中発光ダイオード54は筋電図電極に装着された筋肉群を収縮するよう表示を使用者に照らし出す。使用者は発光ダイオード54が消えるまで筋肉群を収縮させておき、後に発光ダイオード56が筋肉群を弛緩させるよう表示を使用者に照らし出す。収縮及び弛緩の周期は予めプログラムされたマイクロプロセッサ24によって決められたように繰り返される。筋肉の収縮の度は使われた筋力を表示するバーグラフ表示装置50を参照することによって使用者にフィードバックされる。」

上記記載(1)?(4)から、甲第11号証には、以下の技術事項が記載されているものと認められる。
「使用者の持ち上げ運動を監視する身体運動監視システムであって、使用者の腰周縁に締着するように適応し構成されたベルトと、筋力信号を形成する整流され平均化された信号を送信する少なくとも一つの筋電図センサであって、該センサはベルトに固定され、当該ベルトを巻くと電極が使用者の下部背近傍に配置され、持ち上げ動作中に下部背によって働く筋力を感知するような少なくとも一つの電極を具備する使用者の持ち上げ運動を監視する身体運動監視システム。」(審決注:以下「甲第11号証に記載された技術事項」という。)

10.甲第12号証
(1)「2.実用新案登録請求の範囲
(1) 主として周方向へ伸縮性をもたせ、かつ内外二枚合わせとして内部に空間を設けて無端状に形成した繊維製バンドにおける上記空間内に、このバンドの周方向長さより横巾を短く形成した鉛等の粒状物収納袋を収容せしめたことを特徴とする運動強化用の加重補助具。」(1頁4?10行)
(2)「本考案によるときは、バンドが繊維でもって伸縮し易いよう無端状に形成され、かつ重量収納袋がバンドの内部空間に収められているので、手首や足首に着合し易く、身体面に柔らかく密着するため違和感や離脱の懸念が生じないのである。」(4頁11?16行)

上記記載(1)?(2)から、甲第12号証には、以下の技術事項が記載されているものと認められる。
「主として周方向へ伸縮性をもたせ、かつ内外二枚合わせとして内部に空間を設けて無端状に形成した繊維製バンドにおける上記空間内に、このバンドの周方向長さより横巾を短く形成した鉛等の粒状物収納袋を収容せしめた運動強化用の加重補助具。」(審決注:以下「甲第12号証に記載された技術事項」という。)

11.甲第13号証
(1)「2.特許請求の範囲
(1) 背面部の両側に両側面部を、該一方の側面部の端に腹面部をそれぞれ伸縮性、通風性の富んだ化学繊維製で形成し、その背面部、腹面部は表面布地、裏面布地にて二層構成とし、該二層間に複数介装した永久磁石のそれぞれの周囲表裏を固定し、前記両側面部の下端箇所には、山形円弧状のくびれ部を形成し、背面部、両側面部、腹面部の上端及び下端に沿って伸縮性固定帯を取り付けたことを特徴とした女性用磁気腹巻。」(1頁左下欄4?13行)
(2)「装着感が良好で、且つズレにくく、フィットし易い女性用磁気腹巻」(1頁左下欄16?17行)
(3)「特に、その腹面部1、背面部2、両側面部3.3は、それぞれ伸縮性、通風性の富んだ化学繊維製で構成されている。」(2頁左上欄10?12行)
(4)「そして腹面部1、背面部2及び両側面部3.3の上端辺及び下端辺の長手方向には伸縮自在な伸縮性固定帯8が取り付けられている。該伸縮性固定帯8はゴム等の伸縮性素材が主原料となり、且つ人体(女性)に当接したときに、感触が滑らかとなるように布地にて混合形成されている。」(2頁右下欄3?8行)
(5)「それぞれ伸縮性に富んだ化学繊維製なる腹面部1、背面部2及び両側面部3、3の布地と、伸縮性固定帯8,8とによって伸縮自在であり、装着時においてあらゆる体型であっても伸縮性固定帯8、8が伸縮して腹部に巻き付けることができフィット性が良好となっている。さらに、通風性の富んだ材質であることから蒸れることなく装着でき、極めて快適な使用に供することができる利点がある。」(4頁右下欄10?18行)

上記記載(1)?(5)から、甲第13号証には、以下の技術事項が記載されているものと認められる。
「背面部の両側に両側面部を、該一方の側面部の端に腹面部をそれぞれ伸縮性、通風性の富んだ化学繊維製で形成し、その背面部、腹面部は表面布地、裏面布地にて二層構成とし、該二層間に複数介装した永久磁石のそれぞれの周囲表裏を固定し、前記両側面部の下端箇所には、山形円弧状のくびれ部を形成し、背面部、両側面部、腹面部の上端及び下端に沿って伸縮性固定帯を取り付けた女性用磁気腹巻。」(審決注:以下「甲第13号証に記載された技術事項」という。)

12.甲第22号証
(1)「2.実用新案登録請求の範囲
略平板状の金属体からなる錘部材本体の一側辺に該錘部材本体から上方向に向かう立板部を設けた第1の錘部材と、湾曲可能な錘用の材料で略平板状に構成されその一端辺を前記第1の錘部材の立板部の上端辺に取り付けた第2の錘部材と、前記第1と第2の錘部材の両者を接続しない側の両端部に取り付けられるとともに人の足の甲を挿入できるベルトと、前記第1と第2の錘部材の外周に取り付けられ該第1と第2の錘部材を外側から締め付ける締め付けベルトとを具備することを特徴とする簡易脚筋力強化器具。」(1頁4?15行)
(2)「本考案は上述の点に鑑みてなされたものであり、脚に大きな負荷をかけることができるとともに、太ももばかりでなく、ふくらはぎも有効に強化できる簡易脚筋力強化器具を提供することにある。」(3頁7?11行)

上記記載(1)?(2)から、甲第22号証には、以下の技術事項が記載されているものと認められる。
「略平板状の金属体からなる錘部材本体の一側辺に該錘部材本体から上方向に向かう立板部を設けた第1の錘部材と、湾曲可能な錘用の材料で略平板状に構成されその一端辺を前記第1の錘部材の立板部の上端辺に取り付けた第2の錘部材と、前記第1と第2の錘部材の両者を接続しない側の両端部に取り付けられるとともに人の足の甲を挿入できるベルトと、前記第1と第2の錘部材の外周に取り付けられ該第1と第2の錘部材を外側から締め付ける締め付けベルトとを具備する簡易脚筋力強化器具。」(審決注:以下「甲第22号証に記載された技術事項」という。)

13.甲第24号証
(1)「からだのお話 加圧筋トレ 医療に応用」(主見出し)
(2)「加圧筋力トレーニングとは、専用のベルトで腕や脚の付け根を適度に締めて、血流を制限した状態で運動を行うもの。…軽い負荷で成長ホルモンの分泌が活発になり、筋力がアップする。」(1段14?22行)
(3)「血管の新生を促す血管内皮細胞増殖因子など30種類以上の物質が、加圧トレにより分泌されることがわかった。」(5段5?10行)

上記記載(1)?(3)から、甲第24号証には、以下の技術事項が記載されているものと認められる。
「専用のベルトで腕や脚の付け根を適度に締めて、血流を制限した状態で運動を行うという、加圧筋力トレーニング。」(審決注:以下「甲第24号証に記載された技術事項」という。)

第6 当審の判断
1.請求理由2の1:特許法第29条第1項第1号及び第2号
(1)本件特許発明1について
本件特許発明1と「公知・公用発明」とを対比すると、
ア 後者の「ゴムバンド」は、「右大腿部の付け根を縛り、加圧」するものであるから、前者の「筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具」に相当する。
イ 後者は、「右大腿部の付け根を縛り、加圧」するものであるから、「筋肉の所定部位に巻付け、その緊締具の周の長さを減少させ」るものとはいえるものの、筋肉に疲労が生じているか否か不明であるから、本件特許発明1の一体不可分な「筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ」るとはいえない。
ウ 後者の「筋肉が発達し、太くなり」は、前者の「筋肉を増大させる」に相当する。
エ 後者の「加圧トレーニング方法」は、前者の「筋力トレーニング方法」に相当する。

したがって、本件特許発明1のうち、
「筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け、その緊締具の周の長さを減少させ、もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法。」
は、公然知られた又は公然実施されたものといえる。
ここで、本件特許発明1の「筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するもの」であることが、公然知られた又は公然実施されたものといえるかについて、以下、検討する。

請求人は、上記「第3 2. (1) (1-1) c」に記載されているように、「公知・公用発明」を実施するにあたって、「筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉を流れる血流を止めることなく阻害する」ことは、明らかであったと主張する。
そこで、乙第1号証についてみるに、乙第1号証には、「一般的に、15分以上止血状態が続くと、組織は不可逆的(回復不可能)なダメージを受けます。」(1頁下2行)及び「止血帯法によれば、止血帯より先の箇所における血流を止めることができますが、かかる方法には、先述した壊死の危険や血栓が形成される危険があります…止血帯法による場合、血流を急に止めて一気に戻してしまうと、活性酸素が大量に発生し、組織を痛めてしまう危険があります。」(2頁13?17行)と記載されている。
確かに乙第1号証には、止血帯法による危険性が記載されているが、止血帯法自体が全く危険なものであると記載されているのではなく、「15分以上止血状態が続」けたり、「血流を急に止めて一気に戻してしまう」と危険であると記載されていることから、止血帯法の用い方次第で危険になり得ることがあるものの、全ての止血帯法が危険であるとは当業者に認識されないことがわかる。すなわち、「血流を止めることは、…危険であると認めているとおりであることから実施方法としてはありえ」ないとする請求人の主張は、乙第1号証からは認められない。
そして、「公知・公用発明」は、「右大腿部の付け根をゴムバンドで縛り、加圧」するものであるが、この加圧する程度が危険でない程度に止血する止血帯法(すなわち、血流を止めること)であるのか、否かであるかは明らかでなく、乙第1号証から認められる事項を考慮しても、「公知・公用発明」から「筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するもの」であることが明らかでない。
そうすると、「筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するもの」であることまで公然知られた又は公然実施されたものであったとはいえない。
したがって、本件特許発明1が、「公知・公用発明」であるとすることはできない。

(2)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、何れも本件特許発明1を引用して本件特許発明1を更に限定したものであって、上記のとおり、本件特許発明1が、「公知・公用発明」であるとすることはできないから、同様に本件特許発明2及び3は、「公知・公用発明」であるとすることはできない。

(3)小括
よって、上記(1)及び(2)のとおり、本件特許発明は、本件の出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明でもなく、また、公然実施された発明でもないから、本件特許発明についての特許は、請求理由2の1により無効とすることはできない。

2.請求理由2の2:特許法第29条第1項第3号
(1)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲第4号証発明とを対比すると、
ア 後者の「筋肉」、「バラコンバンド」、「バンドを強く締める」及び「血流」は、それぞれ、前者の「筋肉」、「緊締具」、「緊締具の周の長さを減少させ」及び「血流」に相当する。
イ 後者は、「バラコンバンドを筋肉に巻き付け」るものであるから、「筋肉の所定部位に巻付け」るといえる。
ウ 後者は、「バンドを強く締めると、そこで血流が止ま」るものであるから、「筋肉に流れる血流を阻害するもの」といえる。
エ 後者の「独自の治療法であって、骨盤調整の自分で治す方法である、バラコンバンドを筋肉に巻き付けて動作する「バラコン法」」と前者の「筋力トレーニング方法」とは、「方法」との概念で共通する。

したがって、本件特許発明の1のうち、
「筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け、その緊締具の周の長さを減少させる方法であって、筋肉に流れる血流を阻害するものである方法。」
の点は甲第4号証発明に記載されているといえる。
ここで、本件特許発明1の「筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法であって、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法」であることが、甲第4号証発明に記載されているかについて、以下、検討する。

甲第4号証発明は、「治療法」であるから、本件特許発明1のような「筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法」とは明らかに相違する。
また、甲第4号証発明のように、「バンドを強く締めると、そこで血流が止」まることと、本件特許発明1のように「筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するもの」とは明らかに相違するものである。
したがって、本件特許発明1が、甲第4号証に記載された発明であるということはできない。

なお、請求人は、「甲4の第75頁6行目からの「3。筋肉に弾力がつく」からの説明(請求書の第8頁のバラコンバンドの効能である筋肉の復活等)は、甲7の筋力トレーニングが「筋力の増強を図ること」を発明の課題(目的)としていると認定しても良いのではないかと考えます。 3○ 構成C…「筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を阻害するものである筋力トレーニング方法」であることは、甲4の第74頁左から2行目(バンドを強く締めると、そこで、血液が止まる)です。付言しますと、甲4の第74頁一第76頁の「バラコンバンドの効能:筋力強化、筋肉の復活等を得るために血液を阻害すること」の記載が、構成Cに相当します。」(上記「第3 3. (1-2) b」)及び「【甲4の補強主張】 甲4の第73頁の最後の行には、バラコンバンドは、手軽で、ただ巻くだけで良いし、またゆるく巻いても強く巻いてもよい」との記載がある。 したがって、バラコン法は、バンドをできるだけきつめに巻いて筋肉に流れる血流を「止める」ものではないことは明らかである。」(上記「第3 3. (1-2) c」)と主張する。
しかし、上記「第5 2. (2)」に記載されているように、「筋肉に弾力がつく」、「筋細胞が復活する」及び「筋肉は復活する」と記載されているものの、筋力の増強や筋力強化等の筋力が向上することに関しては記載も示唆もない。また、用途に関しても、「治療法」とは記載されているものの、筋力トレーニング方法に関しては記載も示唆もない。
よって、甲第4号証発明は上記のとおり「独自の治療法で、骨盤調整の自分で治す方法である、バラコンバンドを筋肉に巻き付けて動作する「バラコン法」」であって、本件特許発明1の「筋力トレーニング方法」とは異なるものであるから、請求人の上記の主張は、理由がない。
また、上記「第5 2. (2)」に「ゆるく巻いて」と記載されているが、その締め付け力の程度に関しては何ら記載されていない。そうすると、甲第4号証の「ゆるく巻いて」とは、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせるものなのか否かさえ明らかでないから、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものであるとはいえない。よって、請求人の上記の主張は、理由がない。

(2)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、何れも本件特許発明1を引用して本件特許発明1を更に限定したものであって、上記のとおり、本件特許発明1が、甲第4号証に記載された発明ではないから、同様に本件特許発明2及び3は、甲第4号証に記載された発明ではない。

(3)小括
よって、上記(1)及び(2)のとおり、本件特許発明は、本件の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明ではないから、本件特許発明についての特許は、請求理由2の2により無効とすることはできない。


3.請求理由3の1:特許法第29条第2項(甲第5号証を主引例)
(1)本件特許発明1について
(1-1)対比
本件特許発明1と甲第5号証発明とを対比すると、
ア 後者の「伸縮性を有する布体からなる帯体」は、「帯体を腕又は足に巻き付けた後上部から帯体を締め付けて腕部又は脚部からの脱落を防止するための掛止部」が設けられたものであるから、後者の「伸縮性を有する布体からなる帯体」と前者の「筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具」とは、「筋肉の所定部位に巻付け」る「具」との概念で共通するいえる。
イ 後者の「トレーニングサポーター」は、「帯体を腕又は足に巻き付けた後上部から帯体を締め付けて腕部又は脚部からの脱落を防止する」のみであって、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、もって筋肉を増大させるとはいえない。
ウ 後者の「トレーニングサポーター」は、腕部又は脚部の筋力を増強するものであるから、筋力トレーニング方法に用いるものであって、筋力トレーニング方法を含むといえる。

したがって、両者は、
「具を筋肉の所定部位に巻付け、もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

【相違点1】
本件特許発明1が、「『筋肉に締めつけ力を付与するための緊締』具を筋肉の所定部位に巻付け、『その緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、』もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法『であって、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法』」であるのに対し、甲第5号証発明は、複数の袋部を有し、伸縮性を有する布体からなる帯体の複数の袋部の夫々に着脱自在に重量体を収容し、帯体を腕又は足に巻き付けた後上部から帯体を締め付けて腕部又は脚部からの脱落を防止し、腕部又は脚部に平均した荷重を与えて腕部又は脚部の筋力を増強する点で相違する。

(1-2)判断
上記相違点1について検討する。
上記「1. (2)」で判断したように、「公知・公用発明」からは、上記相違点1に係る本件特許発明1の「『筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、』もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法であって、『筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するもの』である筋力トレーニング方法」は明らかとはいえない。
また、上記「2. (2)」で判断したように、甲第4号証発明は、上記相違点1に係る本件特許発明1の「『筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、』もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法『であって、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法』」であるとはいえない。
また、甲第6号証発明は、ゴムバンドを引張下にその両端を係止し、手首及び足首に套着し運動することにより筋力の強化が図られる筋力強化用具であるから、「『筋肉に締めつけ力を付与するための緊締』具を筋肉の所定部位に巻付け、『その緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、』もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法『であって、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法』」とはいえない。
また、甲第7号証に記載された技術事項は、ゴム等の軟質弾性体を、手首や足首に巻付けて手足の筋力を鍛錬するための筋力鍛錬具であるから、「『筋肉に締めつけ力を付与するための緊締』具を筋肉の所定部位に巻付け、『その緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、』もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法『であって、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法』」とはいえない。
また、甲第8号証に記載された技術事項は、手袋を、掌側を皮、布等の非伸縮性素材で構成し、手の甲側をゴム等の伸縮性素材で構成することにより、手を嵌めると常に手の甲側に縮まろうとするため、手の各指先部に力が加わり、指先部を刺激するため脳に常に刺激を与え、握力の強化をする握力アップ用等の手袋であるから、「『筋肉に締めつけ力を付与するための緊締』具を筋肉の所定部位に巻付け、『その緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、』もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法『であって、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法』」とはいえない。
また、甲第9号証に記載された技術事項は、ゴム紐状のバンドに、滑らかな角面となる突起を複数個、所定間隔をおいて設け、人体は巻き付けられた部分が適度に締め付けられるバンドトレーニング器具であるから、「筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を『止めることなく』阻害するものである」とはいえない。
また、甲第22号証に記載された技術事項は、人の足の甲を挿入できるベルトと、第1と第2の錘部材の外周に取り付けられ第1と第2の錘部材を外側から締め付ける締め付けベルトとを具備する簡易脚筋力強化器具であるから、「『筋肉に締めつけ力を付与するための緊締』具を筋肉の所定部位に巻付け、『その緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、』もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法『であって、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法』」とはいえない。
そして、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証?甲第9号証及び甲第22号証を含む、請求人の提出したいずれの証拠にも、上記相違点1に係る本件特許発明1の「筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を『止めることなく』阻害するものである」ことは記載も示唆もされていない。
また、上記相違点1に係る本件特許発明1の「筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を『止めることなく』阻害するものである」ことが周知の技術事項ともいえない。
また、甲第5号証発明において、他に相違点1に係る本件特許発明1の上記の発明特定事項を備えるものとなすことを当業者が容易に想到し得たといえる根拠も見当たらない。
そして、本件特許発明1は、「筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を『止めることなく』阻害するものである」との発明特定事項を備えることにより、「目的の筋肉部位への血行を適度に阻害してやることにより疲労を効率的に発生させることができるものであるため、この状態でトレーニングを行えば、トレーニング時間が短くて済むと同時に、目的外の筋肉に影響を与えたり関節の損傷を招くなどの事態を有効に阻止できる」(本件訂正明細書【0022】参照。)という効果を奏するものである。
よって、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項は、甲第5号証発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、何れも本件特許発明1を引用して本件特許発明1を更に限定したものであって、上記のとおり、本件特許発明1が、甲第5号証発明及び周知の技術事項から容易に発明できたものであるとすることはできないから、同様に本件特許発明2及び3は、甲第5号証発明及び周知の技術事項から容易に発明できたものであるとすることはできない。

(3)小括
よって、上記(1)及び(2)のとおり、本件特許発明は、本件の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明から容易に発明できたものではないから、本件特許発明についての特許は、請求理由3の1により無効とすることはできない。

4.請求理由3の2:特許法第29条第2項(甲第6号証を主引例)
(1)本件特許発明1について
(1-1)対比
本件特許発明1と甲第6号証発明とを対比すると、
ア 後者の「ゴムバンド(1)」は、複数条のゴム入り布片(2)が並列に配置され、引張下にその両端を係止する、手首及び足首への着脱が自在であるから、後者の「ゴムバンド(1)」と前者の「筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具」とは、「筋肉の所定部位に巻付け」る「具」との概念で共通する。
イ 後者の「筋肉強化用具」は、「ゴムバンドを引張下にその両端を係止し、手首及び足首への着脱する」のみであって、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、もって筋肉を増大させるとはいえない。
ウ 後者の「筋肉強化用具」は、筋力を強化するためのものであるから、筋力トレーニング方法に用いるものであって、筋力トレーニング方法を含むといえる。

したがって、両者は、
「具を筋肉の所定部位に巻付け、もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

【相違点2】
本件特許発明1が、「『筋肉に締めつけ力を付与するための緊締』具を筋肉の所定部位に巻付け、『その緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、』もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法『であって、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法』」であるのに対し、甲第6号証発明は、ゴムバンドと、ゴムバンドの長さ方向と直角に着脱自在に装着された複数個の重錘ユニツト、とよりなり、重錘ユニツトのホツクの側を肘又は膝に向けて固定片の側から順次巻回し、係止具により、ゴムバンドを引張下にその両端を係止する、手首及び足首への着脱が自在であり、手首及び足首に套着し運動することにより筋力の強化が図られる点で相違する。

(1-2)判断
上記相違点2について検討する。
上記「1. (2)」で判断したように、「公知・公用発明」からは、上記相違点2に係る本件特許発明1の「『筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、』もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法であって、『筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するもの』である筋力トレーニング方法」が明らかとはいえない。
また、上記「2. (2)」で判断したように、甲第4号証発明は、上記相違点2に係る本件特許発明1の「『筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、』もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法『であって、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法』」であるとはいえない。
また、甲第5号証発明は、複数の袋部を有し、伸縮性を有する布体からなる帯体を腕又は足に巻き付け、かつ上記複数の袋部の夫々に着脱自在に重量体を収容し、腕部又は脚部に平均した荷重を与えて腕部又は脚部の筋力を増強するためのトレーニングサポーターであるから、「『筋肉に締めつけ力を付与するための緊締』具を筋肉の所定部位に巻付け、『その緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、』もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法『であって、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法』」とはいえない。
また、甲第7号証に記載された技術事項は、ゴム等の軟質弾性体を、手首や足首に巻付けて手足の筋力を鍛錬するための筋力鍛錬具であるから、「『筋肉に締めつけ力を付与するための緊締』具を筋肉の所定部位に巻付け、『その緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、』もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法『であって、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法』」とはいえない。
また、甲第8号証に記載された技術事項は、手袋を、掌側を皮、布等の非伸縮性素材で構成し、手の甲側をゴム等の伸縮性素材で構成することにより、手を嵌めると常に手の甲側に縮まろうとするため、手の各指先部に力が加わり、指先部を刺激するため脳に常に刺激を与え、握力の強化をする握力アップ用等の手袋であるから、「『筋肉に締めつけ力を付与するための緊締』具を筋肉の所定部位に巻付け、『その緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、』もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法『であって、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法』」とはいえない。
また、甲第9号証に記載された技術事項は、ゴム紐状のバンドに、滑らかな角面となる突起を複数個、所定間隔をおいて設け、人体は巻き付けられた部分が適度に締め付けられるバンドトレーニング器具であるから、「筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を『止めることなく』阻害するものである」とはいえない。
また、甲第22号証に記載された技術事項は、人の足の甲を挿入できるベルトと、第1と第2の錘部材の外周に取り付けられ第1と第2の錘部材を外側から締め付ける締め付けベルトとを具備する簡易脚筋力強化器具であるから、「『筋肉に締めつけ力を付与するための緊締』具を筋肉の所定部位に巻付け、『その緊締具の周の長さを減少させ、筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ、』もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法『であって、筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法』」とはいえない。
そして、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証?甲第9号証及び甲第22号証を含む、請求人の提出したいずれの証拠にも、上記相違点2に係る本件特許発明1の「筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を『止めることなく』阻害するものである」ことは記載も示唆もされていない。
そうすると、上記相違点2に係る本件特許発明1の「筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を『止めることなく』阻害するものである」ことが周知の技術事項とはいえない。
また、甲第6号証発明において、他に相違点2に係る本件特許発明1の上記の発明特定事項を備えるものとなすことを当業者が容易に想到し得たといえる根拠も見当たらない。
そして、本件特許発明1は、「筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が、筋肉に流れる血流を『止めることなく』阻害するものである」との発明特定事項を備えることにより、「目的の筋肉部位への血行を適度に阻害してやることにより疲労を効率的に発生させることができるものであるため、この状態でトレーニングを行えば、トレーニング時間が短くて済むと同時に、目的外の筋肉に影響を与えたり関節の損傷を招くなどの事態を有効に阻止できる」(本件訂正明細書【0022】参照。)という効果を奏するものである。
よって、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項は、甲第6号証発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、何れも本件特許発明1を引用して本件特許発明1を更に限定したものであって、上記のとおり、本件特許発明1が、甲第6号証発明及び周知の技術事項から容易に発明できたものであるとすることはできないから、同様に本件特許発明2及び3は、甲第6号証発明及び周知の技術事項から容易に発明できたものであるとすることはできない。

(3)小括
よって、上記(1)及び(2)のとおり、本件特許発明は、本件の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明から容易に発明できたものではないから、本件特許発明についての特許は、請求理由3の1により無効とすることはできない。

5.請求理由4 :特許法第32条
(1)本件特許発明について
本件特許発明の目的(【0003】)及び実施状況(【0002】、【0011】?【0020】)をみて、本件特許発明が、通常使用において、公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生(以下「公序良俗等」という。)を害するような、人体に重大な危険を及すような筋力トレーニング方法であるといえる理由はない。
したがって、本件特許発明が公序良俗等を害するとはいえない。

(2)請求人の主張について
ア 請求人は、被請求人(関連グループも含む)が、加圧トレーニング指導資格制度を創設していること(甲14-1)、そして、針灸治療業者が、前記加圧トレーニング指導資格制度を利用して、かつ、被請求人(法律上・経済上・契約上、いわゆる傘下の者も含む)から、本件発明の実施に必要な安全確保のための知識、資格の更新等を受けないと、方法論(本件発明)についての正しい知識とノウハウを学ぶことができず、安全かつ効果的に実施をすることができないこと、及び加圧トレーニングの事業者等に実施許諾契約を締結していること(甲15)は、「法が全く予期していないこと」である、と主張する(上記「第3 3. (3) a」参照。)。
イ 請求人は、本件特許発明の実施に当たり、必ずしも危険防止、安全確保の手段が十分に確保されていないから、 本件特許発明が公序良俗に反すると主張する(上記「第3 3. (3) b」参照。)。
ウ 請求人は、被経験者に対する危険防止の目安となる負荷条件を全く限定せず、生理的現象に対して、本件特許発明は、文言上、特許発明の技術的範囲を非常に広く解釈し得るように認めたものであるから、「社会的妥当性」を欠くと主張する(上記「第3 3. (3) b「(3)理由の3」」参照。)。
しかし、上記(1)の判断のとおりであって、危険防止、安全確保の手段が開示されていないからといって、本件特許発明が公序良俗等を害するとはいえなし、「社会的妥当性」を欠くようなこともないから、本件特許発明の特許請求の範囲の記載から、本件特許発明が公序良俗等を害するともいえない。
また、被請求人が前記制度を設けたり、事業者等と実施許諾契約を締結したり等の行為を行うことと、本件特許発明が特許法第32条の規定を満たすか否かの判断とは関係のないことであるから、本件特許発明が公序良俗等を害するとすることにはならない。

(3)小括
よって、上記(1)及び(2)のとおり、本件特許発明は、公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれがある発明とはいえないから、本件特許発明は、請求理由4により無効とすることはできない。

6.請求理由5の1:特許法第36条第4項
(1)本件訂正明細書の記載
本件訂正明細書には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0002】
【発明の背景】筋力トレーニングを行う場合、一般には、ダンベルやバーベル等の重量物や、バネ、ゴム等の弾性力に基づく抵抗力等を利用して所望の筋肉部位に負荷を与え、その状態で一定の疲労を得る程度にその筋肉部位を伸縮運動させることによってトレーニング効果を得るようにしている。このトレーニング方法による場合、トレーニング効果を更に上げるには、器具の重量や抵抗力を増やしたり、伸縮運動の回数を増やしたりするしかなかった。しかし、筋肉への負荷を無定見に増やしても、その増えた負荷を他の筋肉がかばって負荷の分散がおこなわれ目的外の筋肉が増強してしまったり、場合によっては筋肉や関節等を損傷したりする。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような事情を背景になされたもので、目的筋肉をより特定的に増強できるとともに関節や筋肉の損傷がより少なくて済み、さらにトレーニング期間を短縮できる、筋力トレーニング方法の提供を目的としている。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者は、長年筋力トレーニングの研究に携わって来たが、その中で、以下のような事実を見出した。即ち、目的の筋肉への血行を阻害した状態でトレーニングを行うと、大幅にトレーニング効果が上がるということである。本発明は、このような知見に基づいてなされたもので、筋肉への血行を阻害させる締め付け力を筋肉部位へ施し、その締め付け力を調整することによって筋肉に疲労を生じさせることを特徴とする筋肉のトレーニング方法を提供する。」
イ 「【0007】緊締具によってこのようなトレーニング効果の増大をもたらすことの理由は必ずしも明かではないが、一応以下のようなメカニズムが推測される。
【0008】即ち、よく知られているように筋肉増強は、トレーニングにより疲労した筋肉が、疲労の回復過程で以前の状態を越えた状態になる、いわゆる「超回復」によりなされる。従って、トレーニングによる疲労をより効率的に生じさせる条件を与えてやれば、トレーニング効率も上げることができる。
【0009】ところで、筋肉の疲労は筋肉へのエネルギー源や酸素の供給、さらにはエネルギー代謝過程で生じる乳酸の処理に大きく関係しており、これらはまた筋肉への血行に大きく左右されている。従って、目的の筋肉部位への血行を緊締具により適度に阻害してやることにより、疲労を効率的に発生させることができる。」
ウ 「【0013】第1実施例(図1)
【0014】この実施例による緊締具1は、本体2に、ロック手段3を形成してなっている。本体2は、ゴムのような弾性素材を用いて帯状に形成され、皮膚に直接接触する側には伸縮性と吸水性の高い素材で形成した裏打層4が与えられている。
【0015】ロック手段3は、本体2の一端側に形成された第1ファスナー面5aと第2ファスナー面5b及び本体2の他端に縫着された角形の支持環6からなっている。その使用法は、第1のファスナー面5aが形成された部分を支持環6に通した後に適当な部位で本体2の中央部側へ折返し、この折返し状態で第1ファスナー面5aを第2ファスナー面5bに押しつけることにより、締め付けループLを所望径及び所望の締め付け力で固定できるとともに緊締具合の一定性を保つことができるようにされている。
【0016】ここで、図1では、三角筋と上腕二頭筋の間の部位を締め付けるようにしているが、この部位に限られるものでなく、さまざまな部位に用いることができるのは勿論である。サイズも様々なものとすることができ、また、例えば両肩からのたすき掛けによってX字状に緊締するように、適宜組み合わせて用いることも可能である。さらにまた、本体2の色、図柄、形状等を適宜デザインすれば、スポーツやトレーニングの場にふさわしい外観意匠性を与えることができる。
【0017】効果を確認するため、この緊締具を用いたグループと、この緊締具を用いないグループの二つに分け、それぞれのグループにつき一回2時間のトレーニングを週2回の周期で6か月間行った。緊締具を施す部位は三角筋と上腕二頭筋の間とした。トレーニングを始める前とトレーニングを始めてから6か月後の上碗二頭筋部位における周囲寸法を計測したところ、この緊締具を用いたグループの筋肉増強効果は、緊締具を用いないグループに比べ、約3倍であることが確認できた。」

(2)判断
本件特許発明1に関し、本件訂正明細書には、上記「2. (2) イ」でした検討と同様に、その推測されるメカニズムとして、筋肉増強は、疲労の回復過程での超回復によりなされるところ、筋肉の疲労はエネルギー源や酸素の供給、乳酸の処理に大きく関係しており、これらは筋肉への血行に大きく左右されており、特定的に増強しようとする目的の筋肉部位への血行を緊締具により適度に阻害してやることにより、疲労を効率的に発生させて、目的筋肉をより特定的に増強できることが開示され(上記「(1) イ」参照。)、効果を確認するため、緊締具を用いたグループと緊締具を用いないグループのそれぞれにつき一回2時間のトレーニングを週2回の周期で6か月間行い、緊締具を用いるグループには、図1のように三角筋と該上腕二頭筋の間に緊締具を施して、該上腕二頭筋部位への血流を適度に阻害してやることにより、疲労を効率的に発生させ、トレーニングを始めてから6か月後の該上腕二頭筋部位における周囲寸法を計測したところ、緊締具を用いたグループの筋肉増強効果は、緊締具を用いないグループに比べ、約3倍であることが確認できたことが開示されている(上記「(1) ウ」参照。)。
そして、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載内容からみて、当業者が、これら開示内容を頼りに、増強しようとする目的筋肉に対する緊締具の巻付け位置、緊締具による締め付け程度、目的筋肉に対するトレーニング強度等について試行錯誤を行うことにより、容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているといえる。

(3)小括
よって、上記のとおり、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、本件特許発明についての特許は、請求理由3の1により無効とすることはできない。

7.請求理由5の2:特許法第36条第5項第2号
(1)判断
従来の方法には、目的外の筋肉が増強されてしまったり、場合によっては、筋肉や関節等を損傷したりするといった課題が存在したところ、本件特許発明は、これらの課題を解決すべく、「目的の筋肉への血行を阻害した状態でトレーニングを行うと、大幅にトレーニング効果が上がる」(【0004】)との知見に基づき、筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻き付け、その緊締具の周の長さを減少させることにより、筋肉への血行(血流)を阻害させる締め付け力を調整しつつ目的の筋肉部位へ施し、これによって緊締具を巻き付けた筋肉に疲労を生じさせその増大を図るという方法を採用したものである。
そうすると、本件特許発明の特許請求の範囲には、本件特許発明の構成に欠くことのできない事項のみが記載されているといえる。
この点、請求人は、本件発明の顕著な効果を得るためには、「少なくとも所要の加圧条件」を満たさなければならないと主張する(上記「第3 3. (4-2) a」参照。)。しかし、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載に照らし、特許請求の範囲に、「所要の加圧条件」(例えば、緊締具の装着方法、回数等の事項)を逐一記載しなければならない技術的意義は何ら見いだし難く、この点の請求人の主張は、採用の限りでない。

(2)小括
よって、上記のとおり、本件特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載したものであるから、本件特許発明についての特許は、請求理由3の2により無効とすることはできない。


第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件訂正についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-31 
結審通知日 2016-04-04 
審決日 2016-04-20 
出願番号 特願平5-313949
審決分類 P 1 113・ 111- Y (A63B)
P 1 113・ 121- Y (A63B)
P 1 113・ 113- Y (A63B)
P 1 113・ 112- Y (A63B)
P 1 113・ 536- Y (A63B)
P 1 113・ 537- Y (A63B)
P 1 113・ 24- Y (A63B)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 吉村 尚
藤本 義仁
登録日 1997-07-04 
登録番号 特許第2670421号(P2670421)
発明の名称 筋力トレーニング方法  
代理人 友村 明弘  
代理人 皆川 由佳  
代理人 津城 尚子  
代理人 佐藤 宏樹  
代理人 三浦 光康  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 佐藤 睦  
代理人 根本 浩  
代理人 栢原 崇行  
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