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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01G
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01G
管理番号 1323170
審判番号 不服2016-4789  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-01 
確定日 2017-01-17 
事件の表示 特願2015-501489「炭素材料およびそれを用いた電極材料」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月28日国際公開、WO2014/129532、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成26年2月20日(優先権主張 平成25年2月20日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年9月24日付け拒絶理由通知に対して同年11月30日付けで手続補正がなされたが、同年12月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成28年4月1日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2 本願発明

本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成27年11月30日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
比表面積が、750?3000m^(2)/gであり、
メチレンブルー吸着性能が、150ml/g以上であり、
励起波長532nmのレーザーラマン分光測定により求めたスペクトルが、1250?1700cm^(-1)の範囲に少なくとも3つのピークを示し、
ゼータ電位の等電点が、pH3.0?pH5.5の範囲内にある、炭素材料。」


第3 原査定の理由の概要

1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用例1:特開2012-023196号公報
引用例2:特開2007-234346号公報

・理由1(特許法第29条第1項第3号)、理由2(特許法第29条第2項)について
・請求項 1-4、7、8
・引用例 1

・理由2(特許法第29条第2項)について
・請求項 5,6
・引用例 1,2


第4 当審の判断

1.引用例の記載事項
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1(特開2012-23196号公報)には、「多孔性炭素材料複合体」に関し、図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

ア.「【0014】 以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明の複合体は、窒素原子を有する導電性高分子と多孔質炭素材料との複合体であって、上記導電性高分子が上記多孔質炭素材料の表面に結合しており、全比表面積が1300?2500m^(2)/gであり、MP法で測定した0.5nm以上1.0nm未満の直径を有する細孔の比表面積比率が上記全比表面積の25%以上70%未満であり、MP法で測定した1.0nm以上2.0nm未満の直径を有する細孔の比表面積比率が上記全比表面積の25%超70%以下であり、BJH法で測定した2.0nm以上10.0nm未満の直径を有する細孔の比表面積比率が上記全比表面積の5%超20%以下である複合体である。」

イ.「【0027】 <複合体の製造方法>
上述した導電性高分子および多孔質炭素材料を用いた本発明の複合体の製造方法としては以下の方法が例示できる。
具体的には、導電性高分子および多孔質炭素材料を混合させた後、脱ドープによりドーパントを取り除くことで、導電性高分子と多孔質炭素材料とを複合化させることができる。
ここで、導電性高分子および多孔質炭素材料の混合方法は特に限定されず、具体的には、例えば、導電性高分子の分散液と多孔質炭素材料の全量とを混合させる方法;導電性高分子の分散液を多孔質炭素材料の一部と混合して予め複合体を調製した後、この複合体と残りの多孔質炭素材料とを混合させる方法;等が挙げられる。」

よって、引用例1には、上記アによれば、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「導電性高分子と多孔質炭素材料との複合体であって、全比表面積が、1300?2500m^(2)/gである複合体。」

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された引用例2(特開2007-234346号公報)には、「電極材料」に関し、図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

ウ.「【0007】 そこで、高エネルギー密度と、高出力特性を有する、導電性高分子や金属酸化物を電極材料として用いた電気化学キャパシタが開発されている。この電気化学キャパシタは、電解液中のアニオン、カチオンの電極への吸脱着を電荷貯蔵機構としており、エネルギー密度、出力特性ともに優れている。なかでも、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセン、ポリチオフェン誘導体などの導電性高分子を用いた電気化学キャパシタは、非水系電解液中のアニオン、もしくはカチオンが導電性高分子にp-ドーピングまたはn-ドーピングすることによって、充放電を行う。このドーピングの電位は負極側では低く、正極側では高いので、2.5V以上の高電圧特性が得られる。」

エ.「【0013】 本発明のポリフルオレンまたはその誘導体は、フルオレンまたはその誘導体のモノマーを化学重合、または電解重合によって重合させて得ることができる。そして、電解重合または化学重合によって得たポリフルオレンまたはその誘導体をクロロホルム、テトラヒドロフラン、N-メチルピロリドン等の塩基性の溶媒に溶解し、この溶液に直径2?5nm、長さ0.3?3mmの単層カーボンナノチューブを浸漬して引きあげ、溶媒を蒸発させて電極を形成する。この時に、ポリフルオレンまたはその誘導体の薄く均一な層を形成することができ、ポリマーと炭素材料の良好な密着性による電極材料の抵抗の低減に加えて、層の抵抗も低減するので、放電の際のIRドロップがさらに小さくなり、高容量、低インピーダンス特性を得ることができる。」

2.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「全比表面積」は、本願発明の「比表面積」に相当する。そして、引用発明の「全比表面積」と本願発明の「比表面積」とは、「1300?2500m^(2)/g」において重なるものである。

b.引用発明の「複合材」は、多孔質炭素材料を含むものであるから、本願発明の「炭素材料」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「比表面積が、1300?2500 m^(2)/gである、炭素材料。」

<相違点1>
本願発明は「メチレンブルー吸着性能が、150ml/g以上」であるのに対し、引用発明はその旨の特定がない点。

<相違点2>
本願発明は「励起波長532nmのレーザーラマン分光測定により求めたスペクトルが、1250?1700cm^(-1)の範囲に少なくとも3つのピークを示」すものであるのに対し、引用発明はその旨の特定がない点。

<相違点3>
本願発明は「ゼータ電位の等電点が、pH3.0?pH5.5の範囲内にある」ものであるのに対し、引用発明はその旨の特定がない点。

3.判断
相違点3について検討する。
引用例1には、複合体について、ゼータ電位の等電点に関する記載はなく、また、示唆する記載もない。
なお、炭素材料の製造方法に関して、引用例1は「導電性高分子分散液と多孔質炭素材料を混合」させることで炭素材料からなる複合体を製造する(上記イを参照。)のに対し、本願発明は「導電性高分子分散液と多孔質炭素材料分散液を混合」させることで炭素材料を製造するものであって(本願明細書段落【0026】等を参照。)、両者は相違するから、本願発明と引用発明とは導電性高分子と多孔質炭素材料からなる点で共通するものの、ゼータ電位の等電点のpH値が共通するとは導けない。

よって、相違点1ないし相違点2について検討するまでもなく、引用発明から本願発明の新規性及び進歩性を否定することはできない。
そして、本願発明は、相違点3の発明特定事項を備えることにより、静電容量の高い電気化学素子を得ることができるという効果を奏するものである(本願明細書段落【0010】を参照)。
したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明ではなく、また、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

また、請求項2-4、7、8に係る発明は、本願発明をさらに限定した発明であるから、請求項2-4、7、8に係る発明も、請求項1と同様に、引用例1に記載された発明ではなく、また、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

更に、引用例2には、電極材料に用いられる導電性高分子として、ポリチオフェン、ポリフルオレン等を用いることが記載されているが(上記ウおよびエを参照。)、電極材料のゼータ電位の等電点については記載がなく、また、示唆する記載もない。
よって、請求項5、6に係る発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし8に係る発明は、引用例1に記載された発明ではなく、また、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-05 
出願番号 特願2015-501489(P2015-501489)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (H01G)
P 1 8・ 121- WY (H01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 晃洋  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 酒井 朋広
井上 信一
発明の名称 炭素材料およびそれを用いた電極材料  
代理人 伊東 秀明  
代理人 三橋 史生  
代理人 渡辺 望稔  
代理人 三和 晴子  

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