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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1323179
審判番号 不服2015-16440  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-07 
確定日 2017-01-23 
事件の表示 特願2013- 98406「電子デバイスに組み込まれた認証システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月14日出願公開、特開2013-232197、請求項の数(18)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由
第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2008年9月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年9月24日(以下,「優先日」という。),米国)を国際出願日とする特願2010-525891号の一部を平成25年5月8日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成25年 5月 9日 :翻訳文の提出
平成25年 6月 5日 :出願審査請求書,手続補正書,上申
書の提出
平成25年10月23日 :手続補正書,上申書の提出
平成25年11月28日付け :拒絶理由の通知
平成26年 6月 6日 :意見書,手続補正書の提出
平成26年12月 8日付け :拒絶理由の通知
平成27年 4月15日 :意見書,手続補正書の提出
平成27年 4月27日付け :拒絶査定
平成27年 9月 7日 :審判請求書,手続補正書の提出
平成27年10月 8日 :前置報告
平成28年 1月15日 :上申書の提出
平成28年 7月12日付け :拒絶理由の通知(当審)
平成28年10月 7日 :意見書,手続補正書の提出


第2 本願発明

本願の請求項に係る発明は,上記平成28年10月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至18に記載されたとおりのものであると認められるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
電子デバイスであって,
タッチスクリーンディスプレイと,
生体センサが組み込まれているボタンであって,前記タッチスクリーンディスプレイと前記ボタンとの両方は前記電子デバイスの第1側に設けられ,前記ボタンは前記電子デバイスの前記第1側の唯一のボタンである,ボタンと,
1以上のプロセッサと,
メモリと,
前記メモリに格納されており,前記1以上のプロセッサによって実行されるように構成された1以上のプログラムとを備え,
前記1以上のプログラムは,
前記タッチスクリーンディスプレイ上にロック画面を表示するための命令と,
前記生体センサが組み込まれている前記ボタンを用いてユーザから入力を受け取るための命令であって,前記入力は指が前記ボタンに置かれることを含む,命令と,
前記生体センサを用いて,前記指が前記ボタンに置かれた時に,前記ユーザの指紋を検出するための命令と,
前記ボタンに組み込まれている前記生体センサを用いて検出された前記指紋に基づいて前記ユーザを認証するための命令と,
前記ボタンに組み込まれている前記生体センサを用いて検出された前記指紋に基づく前記ユーザの認証に応じて,前記タッチスクリーンディスプレイ上において前記ロック画面の表示をアンロックされたユーザインタフェースの表示に切り替えるための命令とを有する,電子デバイス。」


第3 原査定の理由について

1 原査定の理由の概要

この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用例>
1.特開2003-143290号公報
2.田中裕子,林信行,武藤秀毅,ついに登場したアップルの革新的モバイルデバイス 携帯電話+iPod+インターネット端末 iPhone,Mac Fan 第15巻 第9号,日本,株式会社毎日コミュニケーションズ,2007年 9月 1日,第15巻,第9号,p.4-p.13

・請求項 1,2,4-9,11-16,18-21
・引用文献等 1,2
引用文献1の図2等からみて,引用文献1に記載された発明の生体センサが組み込まれているファンクションボタンは,ディスプレイと同じ面に設けられていると把握される。
…(中略)…
(新たな相違点)
生体センサが組み込まれているボタンに関し,
本願の請求項1に係る発明のボタンは,第1側の唯一のボタンであるのに対して,
引用文献1に記載された発明において,生体センサが組み込まれているボタンであるファンクションボタンは,第1側の唯一のボタンとはいえない点
において相違するものといえる。

(新たな相違点の検討)
しかし,引用文献2の第7頁に記載されたスマートフォンiPhoneのように,携帯電話のディスプレイをタッチパネルにすることに加えて,当該ディスプレイの面に設けるボタンを一つとする形態は公知のものであって,携帯電話機の技術分野において,携帯電話機の外観デザインとして公知の形態を採用することは通常の創作能力の発揮にすぎない。
そうすると,引用文献1に記載された発明における携帯電話機の形態として,引用文献2に記載されたiPhoneの形態,すなわち,タッチパネル式のディスプレイと当該ディスプレイの面にボタンを一つのみ設ける形態を採用することは当業者の通常の創作能力の範囲内の事項にすぎないものといえる。
そして,引用文献1に記載された発明において,ディスプレイの面にボタンが一つのみ設けるデザインを採用した場合に,生体センサを設けるボタンを当該ボタンとすることは当業者が当然に行う(他のボタンはないため,選択の余地はない)事項にすぎない。

そうすると,当該相違点も格別のものではない。
…(中略)…
よって,本願の請求項1に係る発明は,前記拒絶理由通知書に理由2として記載したとおり,引用文献1及び2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

さらに,前記拒絶理由通知書で理由2が通知された請求項に各々対応する,請求項2,4-9,11-16,18-21に係る発明についても,前記拒絶理由通知書に理由2として記載したとおり,引用文献1及び2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものといえるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって,前記請求項に係る発明は,文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到できたことである。


2 原査定の理由の判断

(1) 引用例

(1-1)引用例1に記載される技術的事項および引用発明

ア 本願の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,原審の拒絶査定の理由である平成26年12月8日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2003-143290号公報(平成15年5月16日出願公開,以下,「引用例1」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,指紋認証機能を有する携帯電話機に関する。
…(中略)…
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,携帯電話機の所有者が,携帯電話機を紛失したことに気が付かなければ,無線基地局から前記ロック指示データを携帯電話機に送信することができず,所有者が携帯電話機の紛失に気が付き,ロック指示データを携帯電話機に送信し,携帯電話機のロック機能をオンに設定するまでの間に,情報が漏洩する危険性が高い。
【0005】上記問題点を解決するために,本発明は,携帯電話機のロック機能がオフの状態で紛失した場合であっても,正当な利用者以外の人の操作を受け付けない携帯電話機を提供することを目的とする。」

B 「【0009】
【発明の実施の形態】本発明に係る実施の形態として,携帯電話機10について,図面を用いて説明する。
<構成>ここでは,携帯電話機10の構成について説明する。図1に示す様に,携帯電話機10は,送受信部101,制御部102,操作部103,指紋認証部104,表示部105,記憶部106,アンテナ107,スピーカー108及びマイク109から構成される。
【0010】携帯電話機10は,無線電波を用いて移動通信できる可搬型の電話機であり,具体的には,マイクロプロセッサ,ROM,RAM,液晶ディスプレィユニット,及びキー操作部などから構成されるコンピュータシステムである。」

C 「【0016】ここで,電子マネー情報とは,貨幣と同等の価値を有する電子マネーを示す情報である。携帯電話機10は,記憶部106に電子マネー情報を記憶し,レジスター装置に,購入する商品の対価に等しい電子マネー情報を送信することにより,商品の決済を行うことが出来る。
(2) 制御部102
制御部102は,制御用コンピュータプログラムを記憶し,マイクロプロセッサが制御用コンピュータプログラムを実行することにより,携帯電話機10が有する通話,メール送受信,インターネット接続,電子マネーの支払及び指紋認証の機能を制御する。
【0017】制御部102は,指紋登録の処理において,指紋認証部104の受光部305から電気信号を受け取り,受け取った電気信号から指紋情報を生成する。更に,制御部102は,生成した指紋情報を登録指紋情報として,記憶部106に書き込む。制御部102は,指紋認証の処理において,指紋認証部104の受光部305から電気信号を受け取り,受け取った電気信号から指紋情報を生成する。次に,制御部102は,記憶部106から登録指紋情報を読み出し,前記指紋情報と前記登録指紋情報とを比較する。前記指紋情報と前記登録指紋情報とが一致する場合,制御部102は,内部に記憶しているロックフラグを「オフ」に設定する。
【0018】なお,ここで言う,指紋情報の一致とは,前記指紋情報と前記登録指紋情報との誤差が所定値以下であることを示す。ここで,ロックフラグとは,操作部103を介した入力を受け付けないことを示す「オン」及び操作部103を介した入力を受け付けることを示す「オフ」の何れかを示すフラグであり,具体的には,ロックフラグが「オン」の場合,制御部102は,操作部103を介して受け付ける入力により生成される入力情報を破棄し,ロックフラグが「オフ」の場合,制御部102は,操作部103を介して受け付ける入力により生成される入力情報に基づき処理を行う。」

D 「【0022】更に,制御部102は,操作部103のキーロックが解除された状態において,操作部103が最後に操作入力を受け付けた時点からの時間を測定し,測定時間が,予め内部に記憶している所定の時間以上経過すると,ロックフラグの設定を「オフ」から「オン」に替えて記憶する。
(3) 操作部103
操作部103は,図2に示す様に,携帯電話機10の操作面に設けられたファンクションボタン(以下では「Fボタン」という)201と複数の操作ボタン202とを含む。
【0023】Fボタン201は,項目の選択,項目の決定,アイコンの選択,アイコンの決定及びカーソルの移動を行うボタンである。Fボタンは,光の透過性が高い材質から成り,表面には,指紋認証部104の一部である指紋読取面が設けられている。指紋認証部104については,次項に詳しく述べる。操作ボタン202は,「電源」,「0」,「1」,・・・,「9」等,Fボタン以外の全てのボタンを示す。」

E 「【0032】(2) ボタンの処理
ボタンの処理における携帯電話機10の処理について,図5に示すフローチャートを用いて説明する。なお,ここで説明する動作は,図4のフローチャートにおけるステップS103の詳細である。制御部102は,操作部103を介して入力を受け付けたボタンが,「Fボタン」であるか否か判断する(ステップS201)。受け付けたボタンが「Fボタン」であるなら(ステップS201でYES),制御部102は,内部に記憶しているロックフラグを読み,操作部103がキーロック状態であるか否か判断する(ステップS202)。ロックフラグが「オフ」に設定され,操作部103がキーロック状態でないなら(ステップS202でNO),ステップS101に戻り処理を続ける。ロックフラグが「オン」に設定され,操作部103がキーロック状態であるなら(ステップS202でYES),制御部102は,指紋認証部104を起動する指示を出力し,指紋認証部104は,当該利用者の指紋情報が登録指紋情報と一致するか否か判断することにより指紋認証を行う(ステップS203)。当該利用者の指紋情報が登録指紋情報と一致し,正当な利用者であることが認証されると(ステップS204でOK),制御部102は,ロックフラグを「オフ」に設定することにより,キーロックを解除する(ステップS205)。その後,ステップS101に戻り処理を続ける。当該利用者の指紋情報が登録指紋情報と一致せず,正当な利用者でないと判断されると(ステップS204でNG),ステップS101に戻る。」

イ 以上,A乃至Eの記載事項(特に下線部分を参照)から,引用例1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「携帯電話機であって,
マイクロプロセッサ,ROM,RAM,液晶ディスプレイユニット,及びキー操作部,指紋認証部などから構成され,
前記キー操作部は携帯電話機の操作面に設けられ,光の透過性が高い材質から成り,表面には,前記指紋認証部の一部である指紋読取面を有するFボタンを含み,
前記マイクロプロセッサは,
受け付けたボタンが「Fボタン」であるなら,内部に記憶しているロックフラグを読み,前記キー操作部がキーロック状態であるか否か判断し,ロックフラグが「オン」に設定され,前記キー操作部がキーロック状態であるなら,前記指紋認証部を起動する指示を出力し,前記指紋認証部は,当該利用者の指紋情報が登録指紋情報と一致するか否か判断することにより指紋認証を行い,当該利用者の指紋情報が登録指紋情報と一致し,正当な利用者であることが認証されると,前記マイクロプロセッサは,ロックフラグを「オフ」に設定することにより,キーロックを解除する,
携帯電話機。」


(1-2)引用例2に記載される技術的事項

本願の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,原審の拒絶査定の理由である平成26年12月8日付けの拒絶理由通知において引用された,田中裕子,林信行,武藤秀毅,“ついに登場したアップルの革新的モバイルデバイス 携帯電話+iPod+インターネット端末” iPhone,Mac Fan 第15巻 第9号,日本,株式会社毎日コミュニケーションズ,2007年 9月 1日,第15巻,第9号,p.4-p.13(以下,「引用例2」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

F 「携帯電話の常識を覆した操作性
OSXをベースに携帯電話とiPod,メールやインターネットへの接続機能を一体化したiPhone。
…(中略)…
そのiPhoneの革新的な機能を支えるのが,シンプルさを極めたデザインとインターフェイスだ。iPhoneは,3.5インチの大型液晶ディスプレイを搭載しながら,第5世代iPod(30GBモデル)とほぼ同サイズ&重さ。本体厚は折り畳み携帯電話の半分程度しかない。
また,多くのスマートフォンがキーボードや多数の操作ボタンを搭載しているのに対し,iPhoneの前面にはホームボタンしかない。操作は「マルチタッチ」と呼ばれる静電式のタッチパネルを使って行う。トラックパッドと同じ原理で人の指の位置を検知できるため,画面をなぞる指の本数と動きでスクロールやズーム操作などが可能なのだ。」

G 「17 ホームボタン
どんな作業をしている時でも押すだけで,すべてのアプリケーションが並んだホーム画面に戻ることができる。」

H 「iPhoneを使い始める時は,画面に表示されるスライダーを横に移動してロックを解除する。また,電源をオフにする時は,上部のスリープボタンを押して表示されるスライダーを横に移動させる。」

(1-3)参考文献3に記載される技術的事項

本願の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開2006-115043号公報(平成18年4月27日出願公開,以下,「参考文献3」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

J 「【0028】
以下,図1?図7を参照して本発明の実施例を説明する。
図1は,この実施例におけるスライド型の携帯電話装置の外観図であり,(A)は,装置本体を閉じた状態を示した正面図,(B)は,装置本体を開いた状態の正面図である。
このスライド型の携帯電話装置には,持ち運び時などの誤操作を防止するためにキーロック機能が備えられており,このキーロック機能がON状態(有効状態)にセットされている際には,一部のキー,たとえば,電源ON/OFFキー,キーロックを解除するキーを除き,他の何れかのキーが操作されても,当該操作キーに対応する処理を実行不能な状態,つまり,操作無効な状態とするようにしている。
【0029】
この装置本体は,2つの筐体1,2から構成されており,表示部3およびキー操作部4を備えた第1の筐体(上部筐体)1と,キー操作部5を備えた第2の筐体(下部筐体)2とを重ね合わせてスライド可能に取り付けられたスライド型の装置本体である。 …(中略)… なお,キーロックONの設定時には,待受画面内に“キーロック設定中”を示すメッセージが表示される。」

(1-4)参考文献4に記載される技術的事項

本願の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開2007-148801号公報(平成19年6月14日出願公開,以下,「参考文献4」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

K 「【0018】
図3にこの指紋照合装置2のハード構成の概略を示す。指紋照合装置2は,選択キー(スタートキー兼情報選択キー)2-1と,確定キー(指紋入力部兼情報確定キー)2-2と,表示部2-3と,CPU2-4と,RAM2-5と,フラッシュメモリ2-6と,赤色のLED2-7と,インタフェース2-8?2-11とを備えている。
…(中略)…
【0023】
そして,矢印マークYを「指紋照合」の位置に合わせた状態で,確定キー2-2をタッチする(図4(d))。すると,操作メニューMにおける「指紋照合」が有効情報として確定され,表示部2-3の画面上に指紋の入力を促す操作案内(メッセージ)が表示される(図4(e))。この操作案内に促されて,入室希望者は,指紋入力部を兼ねる確定キー2-2に指を置く(図4(f))。
【0024】
すると,CPU2-4は,この確定キー2-2に置かれた指の指紋を読み取り,フラッシュメモリ2-6に格納されている登録指紋と照合する(図4(g))。この場合,確定キー2-2を介して読み取った照合指紋とフラッシュメモリ2-6に格納されている全ての登録指紋との照合(1:N照合)を行い,照合指紋と一致する登録指紋があれば,表示部2-3に「照合OK」の表示を行う((図4(h))。また,電気錠コントローラ6に指令を送り,電気錠5を解錠する(図4(i))。」

(1-5)参考文献5に記載される技術的事項

本願の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開2001-92554号公報(平成13年4月6日出願公開,以下,「参考文献5」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

L 「【0050】(情報処理装置の処理手順)図13は,実施の形態2にかかる情報処理装置の処理の手順を示すフローチャートである。図13において,まず,電源が投入された(ステップS1301)後,つぎに,指紋検出のため指定位置(所定のキー)に指を置くように指示する表示をおこなう(ステップS1302)。具体的には,「登録した指をエンターキーの上に置いてください。」というメッセージをディスプレイ703に表示する。」


(2) 対比

本願発明と引用発明とを対比すると,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

<一致点>

「 電子デバイスであって,
ディスプレイと,
生体センサが組み込まれているボタンであって,前記ディスプレイと前記ボタンとの両方は前記電子デバイスの第1側に設けられたボタンと,
1以上のプロセッサと,
メモリと,
前記メモリに格納されており,前記1以上のプロセッサによって実行されるように構成された1以上のプログラムとを備え,
前記1以上のプログラムは,
前記電子デバイスをロック状態にする命令と,
前記生体センサが組み込まれている前記ボタンを用いてユーザから入力を受け取るための命令と,
前記ボタンに組み込まれている前記生体センサを用いて検出された前記指紋に基づいて前記ユーザを認証するための命令と,
前記ボタンに組み込まれている前記生体センサを用いて検出された前記指紋に基づく前記ユーザの認証に応じて,前記電子デバイスのロック状態をアンロック状態に切り替えるための命令とを有する,電子デバイス。」

<相違点1>
ディスプレイに関し,本願発明は,「タッチスクリーンディスプレイ」を備えるのに対して,引用発明は,「液晶ディスプレイユニット」を備える点。

<相違点2>
生体センサが組み込まれているボタンに関し,本願発明では,「ボタンは前記電子デバイスの前記第1側の唯一のボタンである」のに対して,引用発明では,「Fボタン」は「液晶ディスプレイユニット」と同じ面に設けられているものの,携帯電話機の操作面の唯一のボタンではない点。

<相違点3>
電子デバイスのロック状態に関し,本願発明では,「タッチスクリーンディスプレイ上にロック画面を表示する」のに対して,引用発明では,「キー操作部がキーロック状態」となるものの,「液晶ディスプレイユニット」にロック画面を表示することについて言及されていない点。

<相違点4>
ボタンを用いた入力の受け取りに関し,本願発明では,「ボタンを用いてユーザから入力を受け取る」ことが「入力は指が前記ボタンに置かれることを含む」のに対して,引用発明では,「受け付けたボタンが「Fボタン」である」ことを判定するものの,指が「Fボタン」に置かれただけで入力を受け付けることについて言及されていない点。

<相違点5>
電子デバイスのアンロック状態への切り替えに関し,本願発明では,「ユーザの認証に応じて,前記タッチスクリーンディスプレイ上において前記ロック画面の表示をアンロックされたユーザインタフェースの表示に切り替える」のに対して,引用発明では,「正当な利用者であることが認証されると,前記マイクロプロセッサは,ロックフラグを「オフ」に設定することにより,キーロックを解除する」ものの,「液晶ディスプレイユニット」のロック画面をアンロック表示に切り替えることについて言及されていない点。


(3) 判断

上記相違点1乃至5について検討する。

ア 相違点1,3について

引用発明の「携帯電話機」は,「液晶ディスプレイユニット」及び「キー操作部」を備えるところ,端末装置において,キー入力手段のほかにタッチスクリーンディスプレイを備えて,入力の一部をディスプレイ上で行うことを可能とすることは,本願優先日前には当該技術分野における周知技術であった。
また,携帯電話機において,キーロック状態であることをディスプレイに表示することも,例えば参考文献3(上記Jを参照)に記載されるように,本願優先日前には当該技術分野における周知技術であった。
そして,引用発明において上記周知技術を適用し,液晶ディスプレイユニットに代えてタッチスクリーンディスプレイを具備させ,キーロック状態であることを表示すること,すなわち,上記相違点1,3に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得たものである。

イ 相違点2,4,5について

引用発明は,携帯電話機において,生体センサが組み込まれている「Fボタン」が「液晶ディスプレイユニット」と同じ面に設けられるところ,他にも番号等を入力するためのボタンが設けられており,「Fボタン」は操作面の唯一のボタンではなく,指が「Fボタン」に置かれただけで認証の入力を受け付けることについて明記されていない。また,引用例1の発明の詳細な説明を参酌しても,引用発明において,「液晶ディスプレイ」に代えてタッチスクリーンディスプレイを備え,生体センサが組み込まれている「Fボタン」を,ディスプレイと同じ面である携帯電話機の操作面の唯一のボタンと成し,指が唯一のボタンに置かれただけで認証の入力を受け付けるようにすることの動機付けは認められない。
一方,表示部をタッチスクリーンディスプレイで構成すると共に,当該タッチスクリーンディスプレイ上にロック状態のときにロック画面を表示し,さらにユーザの操作によりロックが解除されるとユーザインタフェースを表示する携帯端末(例えば,スマートフォンiPhone)は,引用例2(上記F,G,Hを参照)に記載されるように,本願優先日前にはすでに公知であり,ディスプレイと同じ面には唯一のボタンが配置された。
また,生体センサが組み込まれているボタンに対し,ユーザの指が置かれた時に当該ユーザの識別情報を検出する旨の技術は,例えば,参考文献4(上記Kを参照),参考文献5(上記Lを参照)に記載されるように,本願優先日前には当該技術分野における周知技術であったといえる。
しかしながら,生体センサが組み込まれたボタンによるユーザ認証を,タッチスクリーンディスプレイと唯一のボタンを備えた携帯端末において実現し,指が唯一のボタンに置かれただけで認証の入力を受け付けるようにすることが,当該技術分野における普遍の技術的課題であったとは認められない。
加えて,携帯端末にタッチスクリーンディスプレイを備え,生体センサが組み込まれているボタンを,ディスプレイと同じ操作面の唯一のボタンと成し,指が唯一のボタンに置かれただけで認証の入力を受け付けるようにし,ユーザ認証に応じて,ディスプレイ上においてロック画面の表示をアンロックされたユーザインタフェースの表示に切り替えることが,本願優先日前に当該技術分野における周知技術であったとも認められない。
そうすると,引用発明において,生体センサが組み込まれているFボタンをディスプレイユニットと同じ面に設けられている携帯電話機の操作面の唯一のボタンと成し,指が唯一のボタンに置かれただけで認証の入力を受け付け,ユーザ認証に応じて,ディスプレイ上においてロック画面の表示をアンロックされたユーザインタフェースの表示に切り替えること,すなわち,上記相違点2,4,5に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得たものであるとすることはできない。

ウ 小括

上記で検討したごとく,本願発明は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることができないものである。


(4) 請求項2乃至18に係る発明について

請求項2乃至6に係る発明は,本願発明をさらに限定したものであるので,同様に,当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないものである。

請求項7に係る発明は,本願発明を「電子デバイスにおける方法」の発明として記載したものであり,請求項8乃至12に係る発明は,請求項7に係る発明をさらに限定したものであるので,同様に,当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないものである。
また,請求項13に係る発明は,本願発明を「プログラム」の発明として記載したものであり,請求項14乃至18に係る発明は,請求項13に係る発明をさらに限定したものであるので,同様に,当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないものである。


(5) まとめ

以上のとおりであるから,本願の請求項1乃至18に係る発明は,引用発明及び当該技術分野の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないものである。
よって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由について

1 当審拒絶理由の概要

本件出願は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第1号,第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)特許法第36条第6項第1号について

ア 請求項3に関して,「請求項1又は2に記載の電子デバイスであって,」と請求項1又は2を引用し,「前記1以上のプログラムは,前記ロック画面の表示をアンロックされたユーザインタフェースの表示に切り替えた後,」と特定して,請求項1における「ユーザの認証」に応じた「アンロックされたユーザインタフェースの表示に切り替えた後」に改めて実行される「ユーザの指紋」による認証であることを明示した上で, 「第1の情報の不鮮明なバージョンを含む個別のユーザインタフェースを前記タッチスクリーンディスプレイ上に表示するための命令と,
前記第1の情報の前記不鮮明なバージョンを前記タッチスクリーンディスプレイ上に表示してい
る間に,前記生体センサ上に指入力を検出するための命令と,
前記生体センサ上に前記指入力を検出したことに応じて,
前記指入力が,許可されたユーザの指紋に一致する指紋を含むとの判断に従って,前記第1の情報の前記不鮮明なバージョンの表示を前記第1の情報の鮮明なバージョンに置き換え,
前記指入力が,許可されたユーザの指紋に一致する指紋を含まないとの判断に従って,前記タッチスクリーンディスプレイ上での前記第1の情報の前記不鮮明なバージョンの表示を維持するための命令とを有する,電子デバイス。」が発明特定事項として記載されている。
そこで,請求項3で特定される「第1の情報の不鮮明なバージョンを含む個別のユーザインタフェースを前記タッチスクリーンディスプレイ上に表示する」態様について,本願明細書(翻訳文)の発明の詳細な説明の段落【0029】-【0030】,図3を参酌すると,
…(中略)…
と記載されており,ユーザ認証を必要とする一実施形態として,「認証前には,無許可ユーザがリソースを閲覧することを防ぐために,情報310は,不鮮明になってい」る「ディスプレイスクリーン」が例示されていると解され,「ロック画面の表示をアンロックされたユーザインタフェースの表示に切り替えた後」に改めて実行されるユーザ認証であることについて言及されていない。
そうすると,請求項1における「ユーザの認証」に応じた「アンロックされたユーザインタフェースの表示に切り替えた後」に改めて実行される「ユーザの指紋」による認証であることを明示するために,請求項1又は2を引用し,「前記1以上のプログラムは,前記ロック画面の表示をアンロックされたユーザインタフェースの表示に切り替えた後」に実行されることを特定した請求項3に記載の事項は,上記の本願明細書(翻訳文)の発明の詳細な説明に記載の事項と整合していない。
よって,請求項3に記載の発明は,発明の詳細な説明に記載したものではない。

また,請求項3を引用する請求項4乃至7に記載の発明も同様の理由により,発明の詳細な説明に記載したものではない。

イ 請求項10に関して,上記ア.と同様に,請求項8における「ユーザの認証」に応じた「アンロックされたユーザインタフェースの表示に切り替える工程の後」に改めて実行される「ユーザの指紋」による認証であることを明示するために,請求項8又は9を引用し,「前記ロック画面の表示をアンロックされたユーザインタフェースの表示に切り替える工程の後」に実行されることを特定した請求項10に記載の事項は,本願明細書(翻訳文)の発明の詳細な説明に記載の事項と整合していない。
したがって,請求項10に記載の発明は,発明の詳細な説明に記載したものではない。

また,請求項10を引用する請求項11乃至14に記載の発明も同様の理由により,発明の詳細な説明に記載したものではない。

ウ 請求項17に関して,上記ア.と同様に,請求項15における「ユーザの認証」に応じた「アンロックされたユーザインタフェースの表示に切り替えた後」に改めて実行される「ユーザの指紋」による認証であることを明示するために,請求項15又は16を引用し,「前記ロック画面の表示をアンロックされたユーザインタフェースの表示に切り替えた後」に実行されることを特定した請求項17に記載の事項は,本願明細書(翻訳文)の発明の詳細な説明に記載の事項と整合していない。
したがって,請求項17に記載の発明は,発明の詳細な説明に記載したものではない。

また,請求項17を引用する請求項18乃至21に記載の発明も同様の理由により,発明の詳細な説明に記載したものではない。


(2)特許法第36条第6項第2号について

エ 請求項1には,「前記生体センサを用いて,前記指が前記ボタンに置かれた時に,前記ユーザの識別情報を検出するための命令」と,「前記ボタンに組み込まれている前記生体センサを用いて検出された前記識別情報に基づいて前記ユーザを認証するための命令と」が特定されるところ,
「識別情報」は,「指が前記ボタンに置かれた時に」,「ボタンに組み込まれている前記生体センサ」により検出される「ユーザ」の「指」に対応する情報であると解されるが,「識別情報」と請求項3で特定される「指紋」との関係はどのようなものであるか,「識別情報」はユーザを特定するID番号のようなユーザ識別番号を含むか否かなど,「識別情報」が特定する事項が不明瞭である。
そこで,請求項1で特定される「識別情報」がどのような情報であるか,本願明細書(翻訳文)を参酌すると,発明の詳細な説明の段落【0004】にユーザの認証に係る「識別情報」について記載されているものの,この記載からは上記の点について明確に把握することができない。
したがって,請求項1で特定される「識別情報」は不明瞭であり,それに伴い請求項1に記載の発明の構成全体が不明確になっている。

また,請求項1を引用する請求項2乃至7,請求項1と発明カテゴリの異なる請求項8,15,請求項8,15を引用する請求項9乃至14,16乃至21も同様の理由により,発明の構成全体が不明確になっている。


2 当審拒絶理由の判断

(1)平成28年10月7日付け手続補正により,本願の請求項3,10,17は削除された。
よって,当審拒絶理由ア乃至ウは解消した。

(2)平成28年10月7日付け手続補正により,本願の請求項1,7,13は「指紋」(補正前は「識別情報」)と補正された。このことにより,請求項1,7,13に係る発明は明確となった。
よって,当審拒絶理由エは解消した。


第5 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-10 
出願番号 特願2013-98406(P2013-98406)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宮司 卓佳  
特許庁審判長 高木 進
特許庁審判官 辻本 泰隆
須田 勝巳
発明の名称 電子デバイスに組み込まれた認証システム  
代理人 木村 秀二  
代理人 下山 治  
代理人 大塚 康徳  
代理人 大塚 康弘  
代理人 永川 行光  
代理人 高柳 司郎  
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