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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1323280
審判番号 不服2015-16377  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-07 
確定日 2017-01-04 
事件の表示 特願2013-103220「医薬グレードの第二鉄有機化合物、その使用およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月 9日出願公開、特開2013-177416〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成18年8月18日(パリ条約による優先権主張 2005年8月18日 (US)米国,2005年8月19日 (US)米国)を国際出願日とする特願2008-527177号の一部を平成25年5月15日に新たな特許出願としたものであって、平成25年5月16日(審査請求時)に手続補正がなされ、拒絶理由通知に応答して平成26年12月15日付けで手続補正がなされたが、平成27年4月22日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成27年9月7日に拒絶査定不服審判が請求され、審判請求と同時に平成27年9月7日付けで手続補正がなされ、その後平成27年9月14日付けで上申書が提出されたものである。

第2.平成27年9月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年9月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲は、
補正前(平成26年12月15日付け手続補正書参照)の
「【請求項1】
少なくとも16.17 sq.m/gのBET活性表面積を有するクエン酸第二鉄と医薬上好適な担体とを含む、以下:
被験体の血清リン酸レベルの減少;
リン酸カルシウム沈着の阻害;
被験体のカルシウム-リン生成物([Ca]x[P])の減少;
被験体の血清カルシウムレベルの低下;および
被験体の軟組織の脱石灰化;
のうちの1つの用途のための、医薬組成物。
【請求項2】
1.88 mg/cm^(2)/分を超える固有溶解速度を有するクエン酸第二鉄と医薬上好適な担体とを含む、以下:
被験体の血清リン酸レベルの減少;
リン酸カルシウム沈着の阻害;
被験体のカルシウム-リン生成物([Ca]x[P])の減少;
被験体の血清カルシウムレベルの低下;および
被験体の軟組織の脱石灰化;
のうちの1つの用途のための、医薬組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の医薬組成物から調製されるクエン酸第二鉄の経口投与可能な形態であって、前記形態が、錠剤、粉末剤、懸濁液、エマルション、カプセル剤、ドロップ剤、顆粒剤、トローチ剤、丸剤、液剤、スピリット、およびシロップ剤から選択される、前記形態。
【請求項4】
前記形態が錠剤である、請求項3に記載のクエン酸第二鉄の経口投与可能な形態。
【請求項5】
前記クエン酸第二鉄の有効量が1日当たり2?30gである、請求項1もしくは2に記載の医薬組成物または請求項3もしくは4に記載の経口投与可能な形態。
【請求項6】
前記クエン酸第二鉄の有効量が1日当たり4?15gである、請求項1もしくは2に記載の医薬組成物または請求項3もしくは4に記載の経口投与可能な形態。
【請求項7】
前記クエン酸第二鉄の有効量が1日当たり2?12gである、請求項1もしくは2に記載の医薬組成物または請求項3もしくは4に記載の経口投与可能な形態。
【請求項8】
前記クエン酸第二鉄の有効量が1日当たり2g、4g、または6gである、請求項1もしくは2に記載の医薬組成物または請求項3もしくは4に記載の経口投与可能な形態。
【請求項9】
前記クエン酸第二鉄の有効量が単位用量形態当たり500mgである、請求項1もしくは2に記載の医薬組成物または請求項3もしくは4に記載の経口投与可能な形態。
【請求項10】
前記被験体が末期腎疾患を有する、請求項1もしくは2に記載の医薬組成物または請求項3もしくは4に記載の経口投与可能な形態。
【請求項11】
前記被験体が透析を受けている、請求項1もしくは2に記載の医薬組成物または請求項3もしくは4に記載の経口投与可能な形態。
【請求項12】
前記透析が血液透析および腹膜透析から選択される、請求項11に記載の医薬組成物または経口投与可能な形態。」から、
補正後の
「【請求項1】
少なくとも16.17 sq.m/gのBET活性表面積を有するクエン酸第二鉄と医薬上好適な担体とを含む、以下:
被験体の血清リン酸レベルの減少;
リン酸カルシウム沈着の阻害;
被験体のカルシウム-リン生成物([Ca]x[P])の減少;
被験体の血清カルシウムレベルの低下;および
被験体の軟組織の脱石灰化;
のうちの1つの用途のための、医薬組成物であって、前記クエン酸第二鉄の有効量が1日当たり2?30gである、前記医薬組成物。
【請求項2】
1.88 mg/cm^(2)/分を超える固有溶解速度を有するクエン酸第二鉄と医薬上好適な担体とを含む、以下:
被験体の血清リン酸レベルの減少;
リン酸カルシウム沈着の阻害;
被験体のカルシウム-リン生成物([Ca]x[P])の減少;
被験体の血清カルシウムレベルの低下;および
被験体の軟組織の脱石灰化;
のうちの1つの用途のための、医薬組成物であって、前記クエン酸第二鉄の有効量が1日当たり2?30gである、前記医薬組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の医薬組成物から調製されるクエン酸第二鉄の経口投与可能な形態であって、前記形態が、錠剤、粉末剤、懸濁液、エマルション、カプセル剤、ドロップ剤、顆粒剤、トローチ剤、丸剤、液剤、スピリット、およびシロップ剤から選択される、前記形態。
【請求項4】
前記形態が錠剤である、請求項3に記載のクエン酸第二鉄の経口投与可能な形態。
【請求項5】
前記クエン酸第二鉄の有効量が1日当たり4?15gである、請求項3もしくは4に記載の医薬組成物または請求項3もしくは4に記載の経口投与可能な形態。
【請求項6】
前記クエン酸第二鉄の有効量が1日当たり2?12gである、請求項1もしくは2に記載の医薬組成物または請求項3もしくは4に記載の経口投与可能な形態。
【請求項7】
前記クエン酸第二鉄の有効量が1日当たり2g、4g、または6gである、請求項1もしくは2に記載の医薬組成物または請求項3もしくは4に記載の経口投与可能な形態。
【請求項8】
前記クエン酸第二鉄の有効量が単位用量形態当たり500mgである、請求項1もしくは2に記載の医薬組成物または請求項3もしくは4に記載の経口投与可能な形態。
【請求項9】
前記被験体が末期腎疾患を有する、請求項1もしくは2に記載の医薬組成物または請求項3もしくは4に記載の経口投与可能な形態。
【請求項10】
前記被験体が透析を受けている、請求項1もしくは2に記載の医薬組成物または請求項3もしくは4に記載の経口投与可能な形態。
【請求項11】
前記透析が血液透析および腹膜透析から選択される、請求項11に記載の医薬組成物または経口投与可能な形態。」(下線は、原文のとおり)
と補正された。

2.補正の適否
補正前後の発明特定事項を対比すると、本件補正により、
a)請求項1,2において、「クエン酸第二鉄」に関して、「有効量が1日当たり2?30gである」との限定を付し(以下、「補正事項1」という。)、
b)補正前の請求項5を削除し、それに伴い、補正前の請求項6以降の項番を1ずつ減じている(以下、「補正事項2」という。)。

ところで、本件補正は、特許法第121条第1項の審判の請求と同時にされたものであって、同法第17条の2第1項第4号の補正に該当し、そのような補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1号?4号に規定する事項を目的にするものに限られているところ、補正事項2は、請求項の削除及びそれに伴って必然的に生じる他の請求項の形式的な補正であるから、上記第17条の2第4項第1号の請求項の削除に該当する。
なお、当該補正により、補正後の請求項11において請求項11を引用する齟齬が生じているところ、請求人は、平成27年9月14日付け上申書において、その齟齬を解消する補正を希望しているが、その如何にかかわらず以下の理由で拒絶査定が維持されるから補正の機会は与えないものとする。

補正事項1は、請求項1,2において、その発明特定事項である「クエン酸第二鉄」の有効量を限定するものであって、補正前の請求項1,2と補正後の請求項1,2に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項2に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定にに適合するか)について、以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、補正後の請求項2に記載の以下のとおりのものである。
「 1.88 mg/cm^(2)/分を超える固有溶解速度を有するクエン酸第二鉄と医薬上好適な担体とを含む、以下:
被験体の血清リン酸レベルの減少;
リン酸カルシウム沈着の阻害;
被験体のカルシウム-リン生成物([Ca]x[P])の減少;
被験体の血清カルシウムレベルの低下;および
被験体の軟組織の脱石灰化;
のうちの1つの用途のための、医薬組成物であって、前記クエン酸第二鉄の有効量が1日当たり2?30gである、前記医薬組成物。」

(2)引用例の記載事項
拒絶査定に引用された本願優先権主張日前に頒布された刊行物である国際公開第2004/074444号(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次のような技術事項が記載されている。なお、引用例1が英文であるため、摘示は、当該文献のパテントファミリーである特表2006-518391号公報を参考にして翻訳文で示し、下線は当審で付した。

(1-i)「【請求項37】
式C_(6)H_(5)O_(7)Feを有し、かつ溶解速度により決定される物理特性を有する、クエン酸第二鉄の形態。
【請求項38】
水中におけるUSP固有溶解アッセイにより決定された固有溶解速度範囲が、1.9?4.0mg/cm2/分である、請求項37に記載のクエン酸第二鉄の形態。
【請求項39】?【請求項44】 ・・・略・・・
【請求項45】
第二鉄有機化合物療法に対して応答性の疾患に罹患したヒトを治療するための、請求項37?42のいずれか1項に記載のクエン酸第二鉄の形態の使用。
【請求項46】
前記疾患が、高リン酸血症、および代謝性アシドーシスからなる群より選択される、請求項45記載の使用。
【請求項47】?【請求項48】 ・・・略・・・
【請求項49】
第二鉄有機化合物療法に対して応答性の疾患に罹患したヒトを治療する方法であって、該ヒトに、治療上有効な量の請求項37?42のいずれか1項に記載のクエン酸第二鉄の形態を投与することを含む前記方法。
【請求項50】
前記疾患が、高リン酸血症、および代謝性アシドーシスからなる群より選択される、請求項49記載の方法。
【請求項51】 ・・・略・・・
【請求項52】
クエン酸第二鉄の形態が、錠剤、粉剤、懸濁液剤、乳剤、カプセル剤、粒剤、トローチ剤、丸剤、液剤、酒精剤、およびシロップ剤からなる群より選択される経口投与形態である、請求項25および37?42のいずれか1項に記載のクエン酸第二鉄の形態。
【請求項53】 ・・・略・・・
【請求項54】
請求項24もしくは25記載の形態または請求項34?42のいずれか1項に記載の形態と製薬上許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項55】
第二鉄有機化合物療法に対して応答性の疾患を治療するための、有効量の請求項24もしくは25記載の形態または請求項34?42のいずれか1項に記載の形態を含む医薬組成物。」(第31頁13行?第34頁5行、なお、【】は当審で追加した)

(1-ii)「技術分野
本出願は、第二鉄有機化合物、該第二鉄有機化合物を製造する方法、および様々な疾患の治療における該第二鉄有機化合物の使用に関する。
発明の背景
本出願全体にわたって、様々な刊行物を参照する。これらの刊行物の開示内容は全て、本発明が属する技術の現状をより十分に説明するために、参照により本出願に含まれるものとする。
1)鉄化合物の使用
第二鉄イオンを含有する化合物は、高リン酸血症および代謝性アシドーシスを含むがこれらに限定されない、数多くの疾患の治療に有用である。これまでの研究および発明では、食物由来のリン酸塩との結合における第二鉄化合物の使用について報告されており、かかる第二鉄化合物は腎不全患者における高リン酸血症の治療に有用でありうる(米国特許第5,753,706号、1998; CN 1315174, 2001; Yang W.C.ら、Nephrol. Dial. Transplant 17:265:270 (2002))。血中の高濃度のリン酸塩は、クエン酸第二鉄などの化合物を投与することで除去できる。一旦溶解すると、第二鉄イオンがリン酸塩と結合し、このリン酸第二鉄化合物が消化管内に析出するので、結果として食物由来のリン酸塩が体内から効果的に除去される。また、クエン酸第二鉄由来の吸収されたクエン酸塩は重炭酸塩へと変換され、これが代謝性アシドーシス、すなわち腎不全患者に共通する症状を治すとも考えられている。
米国特許第5,753,706号には、食物由来の可溶性リン酸塩に結合させて該リン酸塩をリン酸第二鉄またはリン酸第一鉄として消化管内に析出させることにより食物起源由来の可溶性リン酸塩の経口吸収を防ぐために、結晶形のクエン酸第二鉄および酢酸第二鉄を含む第二鉄含有化合物を、経口で有効な1グラム製剤として使用することが開示されている。消化管における第二鉄イオンの可溶性リン酸塩への結合には経口投与されたクエン酸第二鉄の溶解が必要であり、また結晶性クエン酸第二鉄の溶解速度は遅い(37℃で10?12時間)ので、1gというかなり大量のクエン酸第二鉄を経口投与する必要がある。関連する中国特許出願(CN 1315174)にも、腎不全患者において高リン酸血症を治療するための、内用液剤剤形のクエン酸第二鉄および関連化合物の同様の使用について開示されている。」(第1頁11行?第2頁27行)

(1-iii)「2.新規形態の第二鉄有機化合物の溶解プロフィール
本発明者らは、上記方法に従って作成した新規形態の第二鉄有機化合物が、より広範囲のpH値において、市販の第二鉄有機化合物よりも溶けやすいことを見出した。新規第二鉄有機化合物の溶解度におけるこの増大は、この新規形態の第二鉄有機化合物が持つ特有の、極めて広い活性表面積に起因すると考えられる。
3.疾患の治療における新規形態の第二鉄有機化合物の使用
新規形態の第二鉄有機化合物は、高リン酸血症、代謝性アシドーシス、および第二鉄有機化合物療法に対して応答性の他の疾患の治療に有用である。この新規形態の第二鉄有機化合物は市販の第二鉄有機化合物よりも溶けやすいので、より少量の第二鉄有機化合物を使用して、かかる疾患に罹患した患者を効果的に治療することができる。
改善された水溶解度は、第二鉄有機化合物療法に対して応答性の疾患の治療における新規形態の第二鉄有機化合物の使用に特に関係がある。新規形態の第二鉄有機化合物はより溶けやすいので、それらを経口摂取した場合にはより効果的であり、そのため低用量で摂取することができる。新規形態の第二鉄有機化合物は、より広いpH範囲で市販の第二鉄有機化合物よりも溶けやすいため、小腸内で溶けることによってさらに効果を発揮することができる。結果として、患者は、薬物をより低用量で服用することにより副作用の発生率を低減できる。
本発明の一実施形態では、新規形態のクエン酸第二鉄は、生理条件下で市販の形態のクエン酸第二鉄よりも有意に高い水溶解度を示すため、該新規形態は、より少ない量のクエン酸第二鉄の経口での有効な使用を有意に改善すると考えられる。クエン酸第二鉄の経口での有効な投与量を減らすことにより、この新規形態のクエン酸第二鉄は、市販のクエン酸第二鉄化合物に付き物の潰瘍性消化管副作用の発生率を下げると考えられる。さらに、新規形態のクエン酸第二鉄の溶解速度の増大は、食物由来のリン酸塩に結合する際の作用の発現を早めると考えられる。
新規形態の第二鉄有機化合物は、この新規形態の第二鉄有機化合物を単独で、または製薬上許容される担体と一緒に含みうる経口投与形態を含む、数多くの形態で投与することができる。経口投与形態は、錠剤、粉剤、懸濁液剤、乳剤、カプセル剤、粒剤、トローチ剤、丸剤、液剤、酒精剤、およびシロップ剤からなる群より選択することができる。この組成物は、第二鉄有機化合物療法に対して応答性の病気に罹患した人間または他の動物に投与することができる。」(17頁7行?19頁2行)

(1-iv)「市販のクエン酸第二鉄の固有溶解速度を、新規形態のクエン酸第二鉄と比較した。固有溶解速度は、一定表面積という条件下の純物質の溶解速度と定義される。薬物の溶解速度およびバイオアベイラビリティは、その固体物性、すなわち結晶化度、非晶質、多形、水和、溶媒和、粒径および粒子表面積、の影響を受ける。測定される固有溶解速度はこれらの固体物性に依存し、典型的には、物質の一定表面積を、一定の温度、攪拌速度、およびpHを維持しながら適当な溶媒に曝露することにより確認する。固有溶解速度を表3に示す。


図2は、新規形態のクエン酸第二鉄の溶解プロフィールを、市販のクエン酸第二鉄化合物の溶解プロフィールと比較したグラフである。
本発明の方法により作成した新規形態のクエン酸第二鉄の固有溶解速度は、平均すると、市販のクエン酸第二鉄物質について測定したものよりもおよそ3.8倍速かった。新規形態のクエン酸第二鉄の溶解速度におけるこの増大は、この新規形態のクエン酸第二鉄の、市販の物質と比べて有意に広い活性表面積に起因するものと考えられる。」(第22頁13行?第24頁6行)

(3)引用発明との対比、判断
上記摘示(1-i)において、請求項55の医薬組成物は、有効量について請求項38で特定される「固有溶解速度1.9?4.0mg/cm2/分であるクエン酸第二鉄の形態」を含む、第二鉄有機化合物療法に対して応答性の疾患を治療するのに有効であることが理解できる。そして、請求項38を引用する請求項46、49の記載から、第二鉄有機化合物療法に対して応答性の疾患とは「高リン酸血症」であり得ること、請求項38を引用する請求項54の記載から「製薬上許容される担体」を含む態様を採り得ることが理解できる。これらのことは、摘示(1-ii)における先行技術として、クエン酸第二鉄が高リン酸血症の治療に有効であるとされてきたことや、摘示(1-iii)において、市販の第二鉄よりも溶けやすく、より少量で高リン酸血症の患者に効果的であるとの記載と共に、担体と一緒に含み得るとの記載からも妥当であるといえる。
なお、引用例1には、高リン酸血症の治療に関する薬理データは記載されていないが、その中で先行技術として引用され、また、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0004】でも引用されるように本願出願人も認識している、米国特許第5,753,706号(以下、「参考A」という。)、CN 1315174(以下、「参考B」という。),Yang W.C.ら、Nephrol. Dial. Transplant 17:265:270 (2002)(以下、「参考C」という。)には、薬理データ相当の記載を見いだすことができるから、引用例1は、前記のように既にクエン酸第二鉄が高リン酸血症の治療に有効であるとの前提に立って、クエン酸第二鉄の溶解性を改善しようとする技術に関するものであることが明らかである。
してみると、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用例1発明>
「固有溶解速度範囲が、1.9?4.0mg/cm2/分である、クエン酸第二鉄の形態と、製薬上許容される担体とを含む、
高リン酸血症を治療するための医薬組成物。」

そこで、本願補正発明と引用例1発明を対比する。
(a)本願補正発明と引用例1発明はいずれも、用いるクエン酸第二鉄の表面積を広くすることによって所期の溶解性を有する形態を実現するものであり(摘示(1-iii)参照)、その固体溶解速度に関して、引用例1発明の「固有溶解速度範囲が、1.9?4.0mg/cm2/分」は、本願補正発明の「1.88 mg/cm^(2)/分を超える固有溶解速度」と合致するものである。(引用例1における具体的な固有溶解速度に関する表3(摘示(1-iv)参照)は、本願明細書に記載された固有溶解速度のデータを示す表1(段落【0082】)と同じものである。)してみると、末尾の表現は異なるが、引用例1発明における「固有溶解速度範囲が、1.9?4.0mg/cm2/分である、クエン酸第二鉄の形態」は、本願補正発明における「1.88 mg/cm^(2)/分を超える固有溶解速度範囲を有するクエン酸第二鉄」に相当する。
(b)引用例1発明の「製薬上許容される担体」と、本願補正発明の「医薬上好適な担体」は、単に表現上の相違にすぎない。

してみると、両発明は、
「 1.88 mg/cm^(2)/分を超える固有溶解速度範囲を有するクエン酸第二鉄と医薬上好適な担体とを含む、医薬組成物」
である点で一致し、次の相違点1,2で一応相違する。

相違点1)医薬組成物の用途について、本願補正発明では、
「 被験体の血清リン酸レベルの減少;
リン酸カルシウム沈着の阻害;
被験体のカルシウム-リン生成物([Ca]x[P])の減少;
被験体の血清カルシウムレベルの低下;および
被験体の軟組織の脱石灰化; のうちの1つの用途のため」
と特定されているのに対し、引用例1発明では、
「 高リン酸血症を治療するため」とされている点
相違点2)クエン酸第二鉄の有効量について、本願補正発明では「1日当たり2?30gである」と特定されているのに対し、引用例1発明ではそのような特定はなされていない点

そこで、これらの相違点について検討する。
(相違点1について)
「高リン酸血症」とは、血液中(血清中や血漿中)のリン酸(またはリン酸塩)の濃度が高いことを指す疾病と認められるから、その治療とは血液中のリン酸レベルをより低くすることに他ならない。このことは、引用例1の先行技術の説明(摘示(1-ii)参照)において、クエン酸第二鉄が溶解し、第二鉄イオンがリン酸塩と結合し析出することにより食物中のリン酸成分の体内への吸収が抑えられると説明されているように、それによって体内すなわち血液中のリン酸レベルが低く抑えられると理解されることからも明らかである。また、本願の出願当初の特許請求の範囲においては、高血清リン酸塩レベルを特徴とする障害(請求項19)として「高リン酸血症」(請求項20)を認識していたものと認められる。
よって、相違点1に係る「被験体の血清リン酸レベルの減少」と「高リン酸血症の治療」は、単に表現上の差異に過ぎないといえることから、本願補正発明で特定する他の用途について検討するまでもなく、実質的な相違点ではない。

(相違点2について)
引用例1には、クエン酸第二鉄の1日当たりの用量は言及されていないが、奏する作用効果を確認しながら、治療に好適な医薬の用量を決めることは当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。しかも、引用例1中で引用する先行技術に、1g製剤を用いたことが示されているのであるから(摘示(1-ii)参照)、少なくともそれ以上の用量でクエン酸第二鉄が用いられていたことは明らかである。なるほど、引用例1には、クエン酸第二鉄を含む製剤をどの数で(例えば錠剤の数)用いたかまでは言及されていないから、1日当たりの用量は必ずしも明らかではない。そこで、引用例1で先行技術として挙げられている参考A?C(摘示(1-ii)参照)を参照するに、参考Aでは、投与すべき第二鉄含有化合物の量は患者の消化管内で要求されるリン酸塩結合のレベルに応じて変えるものであり、毎日の投与量5?10gが効果的であること(第3欄20?24行)、透析患者は1日当たり4?5gのクエン酸第2鉄、酢酸第二鉄、又はそれらの組合せが正常なリン酸塩代謝を行うために必要と推定されること(9欄53?56行)が記載されている。参考Bでは、患者の消化管中のリン酸濃度を考慮すると、毎日の鉄化合物の投与量は5?10gが有効であること(3頁21?23行)、透析患者にクエン酸鉄、酢酸鉄、又はそれらの組合せを毎日4?5g投与することが必要であること(13頁30?32行)が示されている。また、参考Cには、1日当たり1gのクエン酸第二鉄を3回、即ち3gを用いた実施例が示されている(269頁左欄下から10行?下から7行)。してみると、従来から本願補正発明と同程度の用量が想定されていたというべきである。
したがって、本願補正発明で特定する「1日当たり2?30gである」との用量は、格別のものと認められず、当業者が容易に採用し得る程度のものというほかない。また、本願補正発明による効果として、溶解性が高いために、少ない量で済むことを強調しているが、引用例1にも、同様な作用効果が明示されている(摘示(1-iii)の3.を参照)ことから、本願補正発明により奏する効果は引用例1の記載から当業者が予想できない格別のものとはいえない。

よって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成27年9月7日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?12にかかる発明は、平成26年12月15日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のものである。
「【請求項2】
1.88 mg/cm2/分を超える固有溶解速度を有するクエン酸第二鉄と医薬上好適な担体とを含む、以下:
被験体の血清リン酸レベルの減少;
リン酸カルシウム沈着の阻害;
被験体のカルシウム-リン生成物([Ca]x[P])の減少;
被験体の血清カルシウムレベルの低下;および
被験体の軟組織の脱石灰化;
のうちの1つの用途のための、医薬組成物。」

2.引用例
拒絶査定の理由に引用される引用例、およびその記載事項は、前記第2の[理由]2.(2)に記載したとおりである。

3.対比、判断
本願発明は、前記第2の[理由]2.で検討した本願補正発明から「クエン酸第二鉄」の限定事項である「有効量が1日当たり2?30gである」との発明特定事項(下線部のみ)を削除したものである。
そうすると、本願補正発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2の[理由]2.(3)に記載したとおり、引用例1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願請求項2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-27 
結審通知日 2016-08-02 
審決日 2016-08-24 
出願番号 特願2013-103220(P2013-103220)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 服部 智
特許庁審判官 渕野 留香
松澤 優子
発明の名称 医薬グレードの第二鉄有機化合物、その使用およびその製造方法  
代理人 田中 夏夫  
代理人 新井 栄一  
代理人 花井 秀俊  
代理人 平木 祐輔  
代理人 藤田 節  
代理人 菊田 尚子  
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