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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1323325
審判番号 不服2015-21117  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-27 
確定日 2017-01-05 
事件の表示 特願2011- 53509「安定ラジカル構造を有する化合物及びこれを用いたゾル、ゲル、キセロゲル」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月 4日出願公開、特開2012-188389〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成23年3月10日の出願であって、平成27年1月28日付けで拒絶理由が通知され、同年4月6日に意見書および手続補正書が提出され、平成27年8月26日付けで拒絶査定され、同年11月27日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書及び手続補足書が提出されたものである。

第2 平成27年11月27日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年11月27日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
平成27年11月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、平成27年4月6日付け手続補正により補正された下記の請求項1(以下、平成27年4月6日付け手続補正により補正された請求項を「旧請求項」という。)を削除の上、
「【請求項1】
1分子中に、安定ラジカル構造として、以下の一般式(W-1)?(W-3)のいずれかの構造:
【化1】

(式中、Ra及びRbは、それぞれ独立的に水素原子又は1?12個の炭素原子を有するアルキルを表す。)
及び水素結合能力を持つ部位として、以下の一般式(X-1)で表される部位:
-(CONY^(1)-CHY^(2))j-R^(2) ・・・(X-1)
(上記式(X-1)中、
Y^(1)は(Z^(3)-A^(3))_(k)-R3を、Y^(2)は(Z^(4)-A^(4))_(l)-R^(4)をそれぞれ表し、
前記A^(3)及びA^(4)は互いに独立してトランス-1,4-シクロヘキシレン基又は1,4-フェニレン基、ナフタレン-2,6-ジイル基、インドール-3,6-ジイル基、ピロリジン-2,4-ジイル基、イミダゾール-4,5-ジイル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、それぞれの基中の芳香環の1個以上のCHは独立的にNに置換されていてもよい。)又は単結合を表し、
前記Z^(3)及びZ^(4)は、それぞれ独立に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(5)-、-NR^(5)CO-、-CH_(2)-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-SCH_(2)-、-CH_(2)S-、-CF_(2)-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-、-CF_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CF_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CF_(2)CF_(2)-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-CH=CH-、又は単結合を表し、
前記R^(3)、R^(4)、R^(5)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表し、
jは1、2又は3を表し、
k及びlは、それぞれ独立的に0、1、2又は3を表す。
R^(2)は水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数1?12のアルコキシル基又は炭素数2?12のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、それぞれの基中の一つ又は二つ以上の-CH_(2)-は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(0)-、-NR^(0)CO-(ここでR^(0)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表す。)、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-CH=CH-、又は単結合に置換されていても良い。)を表す。)
を有する化合物。」

本件補正前の下記の旧請求項2
「【請求項2】
一般式(A1)で表される、請求項1記載の化合物。
【化2】

(式中、Wは、下記一般式(W-1)から一般式(W-3)のいずれかの構造を表し、
【化3】

(式中、Ra及びRbは、それぞれ独立的に水素原子又は1?12個の炭素原子を有するアルキルを表す。)
Rは水素原子又は炭素数1?30のアルキル基、炭素数2?30のアルケニル基、炭素数1?30のアルコキシル基、炭素数2?30のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の-CH_(2)-は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(0)-、-NR^(0)CO-(式中、R^(0)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表す。)、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-又は-CH=CH-置換されていても良い。)、又はP-Sp-を表し、
(式中、Pは以下の式(R-1)から式(R-15)の何れかの構造を表し、
【化4】

-Spは酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、-COO-、-OCO-、又は-OCOO-に置き換えられても良い炭素数2?12のアルキレン基、又は単結合を表す。)
A^(1)及びA^(2)は、それぞれ独立的にトランス-1,4-シクロヘキシレン基又は1,4-フェニレン基、ナフタレン-2,6-ジイル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、また基中の芳香環の1個以上のCHは独立的にNに置換されていてもよい。)、又は単結合を表し、
m及びnは、それぞれ独立的に0、1、2又は3を表すが、m+nは1から6の整数であり、
Z^(1)及びZ^(2)は、それぞれ独立に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(1)-、-NR^(1)CO-、-CH_(2)-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-SCH_(2)-、-CH_(2)S-、-CF_(2)-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-、-CF_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CF_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CF_(2)CF_(2)-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-CH=CH-、又は単結合を表し、
(式中、R^(1)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表す。)
Vは酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、-COO-、-OCO-若しくは-OCOO-に置き換えられても良い炭素数2?12のアルキレン基、又は単結合を表し、
Xは-(CONY^(1)-CHY^(2))_(j)-R^(2)を表し、
(式中、Y^(1)は(Z^(3)-A^(3))_(k)-R^(3)を、Y^(2)は(Z^(4)-A^(4))_(l)-R^(4)をそれぞれ表し、
(式中、A^(3)及びA^(4)は互いに独立してトランス-1,4-シクロヘキシレン基又は1,4-フェニレン基、ナフタレン-2,6-ジイル基、インドール-3,6-ジイル基、ピロリジン-2,4-ジイル基、イミダゾール-4,5-ジイル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、また基中の芳香環の1個以上のCHは独立的にNに置換されていてもよく。)又は単結合を表し、
Z^(3)及びZ^(4)は、それぞれ独立に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(5)-、-NR^(5)CO-、-CH_(2)-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-SCH_(2)-、-CH_(2)S-、-CF_(2)-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-、-CF_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CF_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CF_(2)CF_(2)-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-CH=CH-、又は単結合を表し、R^(3)、R^(4)、R^(5)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表し、
jは1、2又は3を表し、
k及びlは、それぞれ独立的に0、1、2又は3を表す。)
R^(2)は水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数1?12のアルコキシル基又は炭素数2?12のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の-CH_(2)-は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(0)-、-NR^(0)CO-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-CH=CH-、又は単結合に置換されていても良い。)を表す。」
を 補正後の請求項1
「【請求項1】
一般式(A1)で表される、1分子中に、安定ラジカル構造、および水素結合能力を持つ部位を有する化合物。
【化1】

(式中、前記安定ラジカル構造として、Wは、下記一般式(W-1)から一般式(W-3)のいずれかの構造を表し、
【化2】

(式中、Ra及びRbは、それぞれ独立的に1?12個の炭素原子を有するアルキルを表す。)
Rは水素原子又は炭素数1?30のアルキル基、炭素数2?30のアルケニル基、炭素数1?30のアルコキシル基、炭素数2?30のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の-CH_(2)-は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(0)-、-NR^(0)CO-(式中、R^(0)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表す。)、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-又は-CH=CH-置換されていても良い。)、又はP-Sp-を表し、
(式中、Pは以下の式(R-1)から式(R-15)の何れかの構造を表し、
【化3】

Spは酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、-COO-、-OCO-、又は-OCOO-に置き換えられても良い炭素数2?12のアルキレン基、又は単結合を表す。)
A^(1)は、トランス-1,4-シクロヘキシレン基、1,4-フェニレン基、又はナフタレン-2,6-ジイル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、また基中の芳香環の1個以上のCHは独立的にNに置換されていてもよい。)を表し、
A^(2)は、トランス-1,4-シクロヘキシレン基、1,4-フェニレン基、ナフタレン-2,6-ジイル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、また基中の芳香環の1個以上のCHは独立的にNに置換されていてもよい。)、又は単結合を表し、
mは、1、2又は3を表し、nは0、1、2又は3を表すが、m+nは1から6の整数であり、
Z^(1)及びZ^(2)は、それぞれ独立に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(1)-、-NR^(1)CO-、-CH_(2)-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-SCH_(2)-、-CH_(2)S-、-CF_(2)-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-、-CF_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CF_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CF_(2)CF_(2)-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-CH=CH-、又は単結合を表し、
(式中、R^(1)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表す。)
Vは酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、-COO-、-OCO-若しくは-OCOO-に置き換えられても良い炭素数2?12のアルキレン基、又は単結合を表し、
前記水素結合能力を持つ部位として、Xは-(CONY^(1)-CHY^(2))_(j)-R^(2)を表し、(式中、Y^(1)はR^(3)を、Y^(2)はR^(4)をそれぞれ表し、R^(3)、R^(4)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表し、
jは1、2又は3を表す。)
R^(2)は-COOHを表す。) 」
とする補正(以下、「補正事項1」という。)
及び
補正前の下記の旧請求項7、8
「 【請求項7】
請求項1?4の何れか一項に記載の化合物と水又は有機溶媒を含有するゲル。
【請求項8】
請求項7に記載のゲルを乾燥させることにより作成されるキセロゲル。 」

補正後の下記の請求項6,7
「 【請求項6】
請求項1?3の何れか一項に記載の化合物と水又は有機溶媒を含有するゲル。
【請求項7】
請求項6に記載のゲルを乾燥させることにより作成されるキセロゲル。」
とする補正(以下、「補正事項2」という。)
を含むものである。

2 補正の適否
上記補正事項1は、発明を特定する事項である本件補正前の請求項2の「安定ラジカル構造」の(W-1)?(W-3)の式中のRa及びRbの選択肢から水素原子を削除し、「水素結合能力を持つ部位」としての「-(CONY^(1)-CHY^(2))j-R^(2)」の式中の、Y^(1)及びY^(2)をk=0,l=0の場合であるR^(3)及びR^(4)に限定し、「A^(1)」の選択肢から単結合を削除し、「m」の選択肢から「m=0」の場合を削除し、「R^(2)」の選択肢の範囲を「-COOH」のみに限定したものであり、補正前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記補正事項2も、限定的減縮を目的とした補正がなされた補正後の請求項1を直接又は間接に引用した請求項であるため、同様に限定的減縮を目的とした補正を含むものである。

そこで、補正後の請求項1,7,8に係る発明(以下、それぞれ「本願補正発明1」「本願補正発明7」「本願補正発明8」、まとめて「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するか否か)について検討する。

(1)特許法第36条第6項第1号について

ア 本願補正発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)特許請求の範囲の記載

ア 本願補正発明1に関して

請求項1には、
「 一般式(A1)で表される、1分子中に、安定ラジカル構造、および水素結合能力を持つ部位を有する化合物である
【化1】

として、
安定ラジカル構造として、Wが、下記一般式(W-1)から一般式(W-3)のいずれかの構造
【化2】

(式中、Ra及びRbは、それぞれ独立的に1?12個の炭素原子を有するアルキルを表す。)であることを特定し、

Rに関しては、
水素原子又は炭素数1?30のアルキル基、炭素数2?30のアルケニル基、炭素数1?30のアルコキシル基、炭素数2?30のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の-CH_(2)-は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(0)-、-NR^(0)CO-(式中、R^(0)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル
基を表す。)、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-又は-CH=CH-置換されていても良い。)、
又はP-Sp-を表し、
(式中、
Pは以下の式(R-1)から式(R-15)の何れかの構造を表し、
【化3】

Spは酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、-COO-、-OCO-、又は-OCOO-に置き換えられても良い炭素数2?12のアルキレン基、又は単結合を表す。)ことを特定し、

A^(1)に関しては、
「トランス-1,4-シクロヘキシレン基、1,4-フェニレン基、又はナフタレン-2,6-ジイル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、また基中の芳香環の1個以上のCHは独立的にNに置換されていてもよい。)を表し、」
A^(2)に関しても、
「トランス-1,4-シクロヘキシレン基、1,4-フェニレン基、ナフタレン-2,6-ジイル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、また基中の芳香環の1個以上のCHは独立的にNに置換されていてもよい。)、又は単結合を表し、」と特定し、

m,nに関しては、
「mは、1、2又は3を表し、nは0、1、2又は3を表すが、m+nは1から6の整数であ」ることを特定し、

Z^(1)及びZ^(2)に関しては、
「それぞれ独立に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(1)-、-NR^(1)CO-、-CH_(2)-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-SCH_(2)-、-CH_(2)S-、-CF_(2)-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-、-CF_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CF_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CF_(2)CF_(2)-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-CH=CH-、又は単結合を表し、(式中、R^(1)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表す。)」と特定し、

Vに関しては、
「酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、-COO-、-OCO-若しくは-OCOO-に置き換えられても良い炭素数2?12のアルキレン基、又は単結合を表し」と特定し、

水素結合能力を持つ部位として、Xが
「-(CONY^(1)-CHY^(2))_(j)-R^(2)を表し、
(式中、Y^(1)はR^(3)を、Y^(2)はR^(4)をそれぞれ表し、R^(3)、R^(4)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表し、jは1、2又は3を表す。)R^(2)は-COOHを表す。) 」と特定した化合物の発明が記載されている。

イ 本願補正発明6,7について

請求項6には、請求項1の化合物と「水又は有機溶媒を含有する」「ゾル」の発明が記載され、請求項7には、請求項6の「ゲルを乾燥させることにより作成されるキセロゲル」の発明が記載されている。

(3)発明の詳細な説明の記載
一方、発明の詳細な説明には、一般式(A1)で表される、1分子中に、安定ラジカル構造、および水素結合能力を持つ部位を有する化合物に関して以下の記載がある。

(3a)「【技術分野】【0001】
本発明は安定ラジカル構造を有する化合物及び安定ラジカルをもつゾル、ゲル、キセロゲルに関する。」(下線は当審にて追加した。以下同様)

(3b)「【背景技術】【0002】
近年、安定ラジカル構造を含む液晶材料が見出され磁場制御による物質輸送などへの応用が検討され始めている・・・。また、安定ラジカルを含むポリマー材料が有機ラジカル電池の電極材料として優れた特性をもつことも見出されている・・・。一方、ゲル化剤は広く一般的に用いられており、その応用範囲も広い。
【0003】
ところで、安定ラジカルの機能を活用するには、そのラジカル構造を組織化・高密度化することが重要であり、これまでのところ安定ラジカル構造をもつポリマーとして電極材料に用いられているが、より高性能なラジカル材料とするにはさらなる高密度化が要求されている。
【0004】
安定ラジカル化合物を組織化する手法の一例としては、先に挙げた安定ラジカル構造を有する液晶材料がある。しかしながら、安定ラジカル含有の液晶を用いても、ゲルや三次元網目構造をもつキセロゲルを構築することはできないことから、安定ラジカルの機能活用が遅れていた。」

(3c)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、安定ラジカル化合物を組織化するために、ゲル化剤としての機能を有する安定ラジカル含有化合物を提供し、当該化合物を用いたゾル、ゲル又は三次元網目構造をもつキセロゲルを提供することにある。」

(3d)「【0007】
本発明者らは、安定ラジカルを含む化合物に種々の官能基を付与することを検討して、安定ラジカルを含む化合物に水素結合能力を付与することにより安定ラジカルを含むゾルやゲル、キセロゲルを形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、1分子中に安定ラジカル構造及び水素結合能力を持つ部位を有する化合物を提供し、併せて当該化合物と水又は有機溶媒を含有するゾル、ゲル又はキセロゲルを提供する。
・・・
【0009】
一般的にラジカル化合物は不安定であり、空気中など一般的な環境下では速やかに化学反応を起こして消失してしまう。そのため通常のラジカル化合物を様々な用途に使用される材料として用いることは困難である。一方、ニトロキシドラジカル化合物などは、空気中でも安定であるため、ラジカルとしての特殊な性質を反映させた材料に用いることが可能となる。例えば、組織化されたラジカル材料は常磁性や強磁性などを発現させることが可能である。液晶性を示す化合物に安定ラジカルを組み込むことにより、組織化されたラジカル構造を構築でき、これを磁石などの磁場を用いて移動させることができる。
【0010】
一方、ゲル化剤は水もしくは有機溶媒などと混和することにより、ゾル、ゲルもしくはキセロゲルを形成することができる。ゾルとは液体分散系のコロイドであり、コロイドとは一方が微小な液滴あるいは微粒子を形成し(分散相)、他方に分散した2組の相から構成された物質状態のことである。ゲルは本質的にゾルと同じであるが、分散質のネットワークにより高い粘性を持ち流動性を失い、系全体としては固体状になったものである。そしてこのゲルが乾燥したものがキセロゲルである。一般にキセロゲルは三次元網目構造をもっており、広い表面積を有している。例えばシリカゲルは代表的なキセロゲルであり高い吸湿性をもつ。ゲル化剤は、水もしくは有機溶媒系においてある種の組織構造もしくはネットワーク構造を構築する能力が必要であり、これには分子中に水素結合などの部位を持つことが重要である。すなわち、系内において分子間の水素結合により分子が凝集し、その際に分子全体の分子間相互作用によりある種の組織化が行われる。その凝集レベルによりゾルもしくはゲルが形成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の安定ラジカル構造を有する化合物は、ゲル化剤としての機能を有することから、安定ラジカル構造を含むゾル、ゲル、キセロゲルを容易に製造することが可能となる。
とりわけ安定ラジカル構造をもつキセロゲルは、三次元網目構造を有するためその表面積が大きく、安定ラジカルを活用した各種材料への応用が可能となる。また、安定ラジカルを含むキセロゲルは三次元網目構造を持つため、単位表面積当たりのラジカル密度が高く、有機ラジカル電池などの電極材料に使用することができる。」

(3e)「【0029】
一般式(A2)はR、A^(1)、A^(2)、m、n、Z^(1)、Z^(2)、V、及びXの組み合わせにより種々の化合物を包含するものであるが、具体的には以下に示す化合物が好ましい。
【0030】
【化5】
・・・
【0031】
・・・
【化6】
・・・
【0032】
【化7】
・・・
【0033】
・・・
【化8】
・・・
【0034】
【化9】
・・・
【0035】
・・・
【化10】
・・・
【0036】
(式中、Ra及びRbは、それぞれ独立的に炭素数1?2のアルキル基を表し、Rcは炭素数12?18のアルキル基、炭素数12?18のアルケニル基、炭素数12?18のアルコキシル基又は炭素数12?18のアルケニルオキシ基を表す。)
【0037】
上記化合物のうち、ラジカル密度を高めにしたい場合は一般式(I-a-1)?(I-a-3)で表される化合物が好ましく、親油性を高めたい場合は一般式(I-b-1)?(I-b-3)、(I-c-1)?(I-c-3)又は(I-d-1)?(I-d-3)で表される化合物が好ましい。
一方、水素結合能力を強めたい場合には一般式(II-a-1)?(II-a-3)で表される化合物が好ましい。さらに、ゾルもしくはキセロゲルを形成させた後に重合をさせたい場合には、一般式(III-a-1)?(III-a-3)で表される化合物が好ましい。」

(3f)「【0044】
本発明で使用するための水系溶媒としては、水、水溶性有機溶媒、又は水と水溶性有機溶媒を混合したものが挙げられる。水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t-ブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒を使用することができる。」

(3g)「(実施例1)カルボン酸性プロキシル3の合成
【0046】
【化11】
・・・
【0047】
マグネシウム(243mg, 10mmol)を加熱して1時間真空乾燥した。THFにp-ブロモベンズアルデヒドジエチルアセタール(2.591g, 10mmol)を溶解させマグネシウムに加えた。さらにヨウ素を少量加え、加熱をして4時間攪拌しグリニャール試薬を得た。よく乾燥させたニトロン(565mg, 5mmol)をTHF(10mL)に溶解させ、先ほどのグリニャール試薬の中に-78℃の条件下で加え一晩攪拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液(50mL)を加え、ジクロロメタン(50mL×2)で抽出した。無水MgSO_(4)で乾燥後溶媒を除去し、残渣をメタノール(20mL)に溶解させ、25%濃アンモニア水(2mL)とCu(OAc) _(2)・H_(2)O(160mg)を加え、酸素を2分間注入した。溶液が濃青色に変化した後溶媒を除去し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50mL)を加え、クロロホルム(50mL×2)で抽出した。無水MgSO_(4)で乾燥後溶媒を除去した。
マグネシウム(243mg, 10mmol)を加熱して1時間真空乾燥した。THF(10mL)に臭化アルキル(3.682g, 10mmol)を溶解させマグネシウムに加えた。さらに1,2-ジブロモエタンを少量加え、加熱をして4時間攪拌しグリニャール試薬を得た。先ほどの残渣をTHFに溶解させ、このグリニャール試薬の中に-78℃の条件下で加え一晩攪拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液(50mL)を加え、ジクロロメタン(50mL×2)で抽出した。無水MgSO_(4)で乾燥後溶媒を除去し、残渣をメタノール(20mL)に溶解させ、25%濃アンモニア水(2mL)とCu(OAc)_(2)・H_(2)O(160mg)を加え、酸素を2分間注入した。溶液が濃青色に変化した後溶媒を除去し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50mL)を加え、クロロホルム(50mL×2)で抽出した。無水MgSO_(4)で乾燥後溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(hexane-ether: v/v 90:10)で精製した。
得られたジアリールプロキシルはジエチルアセタール保護体であるのでTHF(5mL)に溶解させ、希硫酸(5%)3mLを加え、脱保護を行った。飽和塩化ナトリウム水溶液(50mL)を加え、ジクロロメタン(50mL×2)で抽出した。無水MgSO_(4)で乾燥後溶媒を除去した。
Ag_(2)O(89mg, 0.40mmol)と水酸化ナトリウム水溶液(10%)1mLの中にTHF (2mL)に溶解させた残渣を加え、60℃の条件下で1時間攪拌した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(hexane-ether: v/v 50:50)で精製し、カルボン酸性プロキシル3を得た(総収率: 6%)。」

(3h)「(実施例2) (S,S,S)-1の合成
【0049】
【化12】
・・・
【0050】
カルボン酸3 (30mg, 0.114mmol)をDMF(500μL)に溶かしてHOBt (1-hydroxybenzotriazole)(5mg, 1.1eq)とEDC(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide) (6mg, 1.1eq)を加え、室温で1時間攪拌した。水(100μL)に溶解させたアラニン(20mg, 2eq)と炭酸カリウム(4mg, 1eq)を加えて2時間攪拌させた。水(10mL)とジクロロメタン(10mL)を加えて水相のpHを3にし、有機相を分液した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(chloroform-methanol: v/v 95:5)で精製し、(S,S,S)-1を得た(収率48%)。」

(3i)「【0053】
(実施例3) ゲルの調製
ゲル化剤 (S,S,S)-1を水に加熱溶解させ、室温まで冷却するとヒドロゲルが生成した(図4)。このヒドロゲルは加熱時にゾル、冷却時にゲルへと繰り返し転移する熱可逆性ヒドロゲルであった。DSC測定の結果から、ゲル-ゾル転移温度が60℃であることがわかった(図5)。また、偏光顕微鏡観察により、60℃で複屈折が消失し、ゲル-ゾル転移が確かめられた(図6)。キセロゲルのSEM観察により特徴的な3次元網目構造を確認した(図7)。ヒドロゲルのEPRスペクトルの温度依存性を測定したところ、60℃で線幅(ΔH)とg値が大きく変化することがわかった(図8、9)。」

(4)対比・判断
ア 本願補正発明1について
(ア)本願補正発明1の課題について
本願補正発明1の課題は、摘記(3a)から摘記(3d)の記載及び明細書全体の記載を参酌して、安定ラジカル化合物を組織化するために、ゲル化剤としての機能を一定程度有する安定ラジカル含有化合物を提供することにあると認める。

(イ)特許請求の範囲に記載された発明に係る化合物を製造できるかに関して

まず、判断に際して、請求項1に記載された発明に係る化合物を製造できるかを検討する。
特許請求の範囲には、一般式(A1)で特定された、R,Z^(1),A^(1),W,A^(2),Z^(2),V,Xに関して、多くの化合物の部分構造を含む形で特定され、種々の化合物が包含されるようにものが特定されているのに対して、実際に合成をしたことが記載されているのは、実施例1で合成したカルボン酸性プロキシル3を中間体原料として、実施例2において、合成された(SSS)-1の1種のみである。

特許請求の範囲に含まれる、Rに関する範囲のみを検討しても、「Rは」「水素原子又は炭素数1?30のアルキル基、炭素数2?30のアルケニル基、炭素数1?30のアルコキシル基、炭素数2?30のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の-CH_(2)-は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(0)-、-NR^(0)CO-(式中、R^(0)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表す。)、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-又は-CH=CH-置換されていても良い。)」、「又はP-Sp-を表し、
(式中、Pは以下の式(R-1)から式(R-15)の何れかの構造を表し、
【化4】

-Spは酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、-COO-、-OCO-、又は-OCOO-に置き換えられても良い炭素数2?12のアルキレン基、又は単結合を表す。)」と特定されており、置き換える対象の置換基、その中に含まれる-CH_(2)-の数や位置、置き換えられる多数の置換基の種類も特定されていない範囲に含まれる膨大な数の化合物のR部分に関して、RがC_(14)H_(29)O-である摘記(3e)の実施例1の合成を参酌してもなお、全ての化合物のR部分をどのように製造することができるのか、当業者といえども不明である。
さらにいえば、Rを「P-Sp-」とする場合に関しては、該当する具体例は全くなく、当業者といえども、製造することはなお一層困難であるといえる。

また、記載がなくとも、全ての範囲の化合物を製造できるとする出願時点の技術常識も存在しない。

(ウ)請求項1に係る化合物が本願補正発明1の課題を解決しているかについて

(イ)で述べたように、請求項1の化合物は、全ての化合物が本願出願時の技術常識を参酌しても、製造できるように記載されていないのであるから、ゲル化剤としての有用性を一定程度有することの確認もなされておらず、本願補正発明1の課題である、ゲル化剤としての機能を一定程度有する安定ラジカル含有化合物を提供することはできていないことになり、当業者が課題が解決できると認識できる範囲を超えたものである。
また、摘記(3d)摘記(3e)には、水素結合能力を付与すれば、ゲル化、キセロゲル化できる旨の記載や特許請求の範囲の一部に該当する好ましい化合物に関する記載があるが、具体的結果としてラジカル密度やゲルとなったことを示唆する記載がなく、特許請求の範囲を裏付けるものとはいえない。

イ 本願補正発明6,7について

(ア)本願補正発明6,7の課題について

請求項6は、ゲルの発明であるから、本願補正発明6に係る発明の課題は、安定ラジカル化合物を組織化するために、ゲル化剤としての機能を一定程度有する安定ラジカル含有化合物と有機溶媒、水からなるゲルを提供することにあると認める。

請求項7は、キセロゲルの発明であるから、本願補正発明7に係る発明の課題は、安定ラジカル化合物を組織化するために、ゲル化剤としての機能を一定程度有する安定ラジカル含有化合物と有機溶媒、水からなるゲルを作成し、さらに乾燥したキセロゲルを提供することにあると認める。

(イ)請求項6,7に係るゲル、キセロゲルが本願補正発明6,7の課題を解決しているかについて

ア(イ)で述べたとおり、発明の詳細な説明には、請求項1に記載された発明に係る全て化合物を製造できるようには記載されていないため、それを用いたゲルやキセロゲルを実際に作成した記載もない。
また、摘記(3d)摘記(3e)には、水素結合能力を付与すれば、ゲル化、キセロゲル化できる旨の記載や摘記(3f)には、用いる水系溶媒や水溶性有機溶媒の例の羅列記載があるが、具体的結果としてラジカル密度やゲルとなったことを示唆する記載がなく、特許請求の範囲を裏付けるものとはいえない。

また、何らかの水又は有機溶媒との混合を行った場合にも、それがゲルを形成できるかどうかは、その化合物の全体構造や用いる溶媒に依存することは明らかである。

そして、そのような記載や示唆がなくとも、安定ラジカル化合物を組織化したゲルや該ゲルを乾燥させて作成したキセロゲルが提供できるとする本願出願時の技術常識も明らかにされていない。

したがって、請求項6,7に係るゲル又はキセロゲルの発明も、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

(5)小括
以上のとおり、本願補正発明1,6,7は、発明の詳細な説明に記載されたものということはできず、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 補正却下のまとめ
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

第2で検討したとおり、平成27年11月27日付け手続補正は却下されることとなったので、この出願の請求項1?8に係る特許を受けようとする発明は、平成27年4月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載のとおりであるが、その請求項1,2,7,8に記載された特許を受けようとする発明は以下のとおりである。

「【請求項1】
1分子中に、安定ラジカル構造として、以下の一般式(W-1)?(W-3)のいずれかの構造:
【化1】

(式中、Ra及びRbは、それぞれ独立的に水素原子又は1?12個の炭素原子を有するアルキルを表す。)
及び水素結合能力を持つ部位として、以下の一般式(X-1)で表される部位:
-(CONY^(1)-CHY^(2))_(j)-R^(2) ・・・(X-1)
(上記式(X-1)中、
Y^(1)は(Z^(3)-A^(3))_(k)-R^(3)を、Y^(2)は(Z^(4)-A^(4))_(l)-R^(4)をそれぞれ表し、
前記A^(3)及びA^(4)は互いに独立してトランス-1,4-シクロヘキシレン基又は1,4-フェニレン基、ナフタレン-2,6-ジイル基、インドール-3,6-ジイル基、ピロリジン-2,4-ジイル基、イミダゾール-4,5-ジイル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、それぞれの基中の芳香環の1個以上のCHは独立的にNに置換されていてもよい。)又は単結合を表し、
前記Z^(3)及びZ^(4)は、それぞれ独立に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(5)-、-NR^(5)CO-、-CH_(2)-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-SCH_(2)-、-CH_(2)S-、-CF_(2)-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-、-CF_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CF_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CF_(2)CF_(2)-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-CH=CH-、又は単結合を表し、
前記R^(3)、R^(4)、R^(5)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表し、
jは1、2又は3を表し、
k及びlは、それぞれ独立的に0、1、2又は3を表す。
R^(2)は水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数1?12のアルコキシル基又は炭素数2?12のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、それぞれの基中の一つ又は二つ以上の-CH_(2)-は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(0)-、-NR^(0)CO-(ここでR^(0)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表す。)、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-CH=CH-、又は単結合に置換されていても良い。)を表す。)
を有する化合物。」

「【請求項2】
一般式(A1)で表される、請求項1記載の化合物。
【化2】

(式中、Wは、下記一般式(W-1)から一般式(W-3)のいずれかの構造を表し、
【化3】

(式中、Ra及びRbは、それぞれ独立的に水素原子又は1?12個の炭素原子を有するアルキルを表す。)
Rは水素原子又は炭素数1?30のアルキル基、炭素数2?30のアルケニル基、炭素数1?30のアルコキシル基、炭素数2?30のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の-CH_(2)-は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(0)-、-NR^(0)CO-(式中、R^(0)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表す。)、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-又は-CH=CH-置換されていても良い。)、又はP-Sp-を表し、
(式中、Pは以下の式(R-1)から式(R-15)の何れかの構造を表し、
【化4】

Spは酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、-COO-、-OCO-、又は-OCOO-に置き換えられても良い炭素数2?12のアルキレン基、又は単結合を表す。)
A^(1)及びA^(2)は、それぞれ独立的にトランス-1,4-シクロヘキシレン基又は1,4-フェニレン基、ナフタレン-2,6-ジイル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、また基中の芳香環の1個以上のCHは独立的にNに置換されていてもよい。)、又は単結合を表し、
m及びnは、それぞれ独立的に0、1、2又は3を表すが、m+nは1から6の整数であり、
Z^(1)及びZ^(2)は、それぞれ独立に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(1)-、-NR^(1)CO-、-CH_(2)-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-SCH_(2)-、-CH_(2)S-、-CF_(2)-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-、-CF_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CF_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CF_(2)CF_(2)-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-CH=CH-、又は単結合を表し、
(式中、R^(1)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表す。)
Vは酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、-COO-、-OCO-若しくは-OCOO-に置き換えられても良い炭素数2?12のアルキレン基、又は
単結合を表し、
Xは-(CONY^(1)-CHY^(2))_(j)-R^(2)を表し、
(式中、Y^(1)は(Z^(3)-A^(3))_(k)-R^(3)を、Y^(2)は(Z^(4)-A^(4))_(l)-R^(4)をそれぞれ表し、
(式中、A^(3)及びA^(4)は互いに独立してトランス-1,4-シクロヘキシレン基又は1,4-フェニレン基、ナフタレン-2,6-ジイル基、インドール-3,6-ジイル基、ピロリジン-2,4-ジイル基、イミダゾール-4,5-ジイル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、また基中の芳香環の1個以上のCHは独立的にNに置換されていてもよく。)又は単結合を表し、Z^(3)及びZ^(4)は、それぞれ独立に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、
-OCS-、-SCO-、-CONR^(5)-、-NR^(5)CO-、-CH_(2)-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-SCH_(2)-、-CH_(2)S-、-CF_(2)-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-、-CF^(2)CH_(2)-、-CH_(2)CF_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CF_(2)CF_(2)-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-CH=CH-、又は単結合を表し、R^(3)、R^(4)、R^(5)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表し、
jは1、2又は3を表し、
k及びlは、それぞれ独立的に0、1、2又は3を表す。)
R^(2)は水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数1?12のアルコキシル基又は炭素数2?12のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の-CH_(2)-は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(0)-、-NR^(0)CO-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-CH=CH-、又は単結合に置換されていても良い。)を表す。」

「【請求項7】
請求項1?4の何れか一項に記載の化合物と水又は有機溶媒を含有するゲル。
【請求項8】
請求項7に記載のゲルを乾燥させることにより作成されるキセロゲル。」

第4 原査定の拒絶の理由
平成27年1月28日付け拒絶の理由の一つは概略以下のとおりである。

理由2:この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

理由2
請求項2?7について

請求項2には、式(A1)で表される化合物が記載され、この化合物群は、多種多様な化学構造を有する化合物が包含されるが、発明の詳細な説明において、具体的に製造され、かつ、ゲルの生成効果が確認されている化合物は、WがW-1であり、m及びnが1であり、A^(1)及びA^(2)がフェニレン基であり、Z^(1)がOであり、Rがアルキルであり、Z^(2)-V-Xの末端がカルボキシル基であるような、特定の構造を有する化合物の例しかない。そのような化合物をも包含する請求項2に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張乃至一般化するための根拠を見いだせない。
したがって、請求項2?7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

なお、拒絶査定の対象となった、平成27年4月6日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項2?8は、拒絶理由通知の対象となった、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項2?7に対応するものである。

第5 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、請求項2,7,8の特許を受けようとする発明については、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 請求項2の特許を受けようとする発明について

(2)特許請求の範囲の請求項2の記載について
特許請求の範囲の請求項2には、「一般式(A1)で表される、請求項1記載の化合物。」が特定され、第3に記載されたとおりの発明が記載され、本願補正発明1との対比でいうと、本願補正発明1の「安定ラジカル構造」の(W-1)?(W-3)の式中のRa及びRbの選択肢に水素原子の場合を追加し、「水素結合能力を持つ部位」としての「-(CONY^(1)-CHY^(2))_(j-)R^(2)」の式中の、Y^(1),Y^(2),k,lに関して,「Y^(1)は(Z^(3)-A^(3))_(k)-R^(3)を、Y^(2)は(Z^(4)-A^(4))_(l)-R^(4)をそれぞれ表し、
(式中、A^(3)及びA^(4)は互いに独立してトランス-1,4-シクロヘキシレン基又は1,4-フェニレン基、ナフタレン-2,6-ジイル基、インドール-3,6-ジイル基、ピロリジン-2,4-ジイル基、イミダゾール-4,5-ジイル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、また基中の芳香環の1個以上のCHは独立的にNに置換されていてもよく。)又は単結合を表し、Z^(3)及びZ^(4)は、それぞれ独立に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、
-OCS-、-SCO-、-CONR^(5)-、-NR^(5)CO-、-CH_(2)-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-SCH_(2)-、-CH_(2)S-、-CF_(2)-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-、-CF_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CF_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CF_(2)CF_(2)-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-CH=CH-、又は単結合を表し、R^(3)、R^(4)、R^(5)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表し、
jは1、2又は3を表し、
k及びlは、それぞれ独立的に0、1、2又は3を表す。)」との範囲にし、
「A^(1)」の選択肢に単結合を追加し、「m」の選択肢に「m=0」の場合を追加し、「R^(2)」の選択肢の範囲を「水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数1?12のアルコキシル基又は炭素数2?12のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の-CH_(2)-は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(0)-、-NR^(0)CO-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-CH=CH-、又は単結合に置換されていても良い。)を表す。」と広範なものを含む形にしたものである。

(3)発明の詳細な説明に記載された発明について
一方、発明の詳細な説明においては、第2 2(3)に記載したとおり、一般式(A1)で表される、1分子中に、安定ラジカル構造、および水素結合能力を持つ部位を有する化合物に関して記載がある。

(4)対比・判断

ア 請求項2記載の特許を受けようとする発明の課題について
【0003】?【0004】の【背景技術】の「【0003】
ところで、安定ラジカルの機能を活用するには、そのラジカル構造を組織化・高密度化することが重要であり、これまでのところ安定ラジカル構造をもつポリマーとして電極材料に用いられているが、より高性能なラジカル材料とするにはさらなる高密度化が要求されている。
【0004】
安定ラジカル化合物を組織化する手法の一例としては、先に挙げた安定ラジカル構造を有する液晶材料がある。しかしながら、安定ラジカル含有の液晶を用いても、ゲルや三次元網目構造をもつキセロゲルを構築することはできないことから、安定ラジカルの機能活用が遅れていた。」
」(下線は当審にて付加した。以下同様)との記載、【0006】?【0009】の【発明が解決しようとする課題】の「【0007】本発明者らは、安定ラジカルを含む化合物に種々の官能基を付与することを検討して、安定ラジカルを含む化合物に水素結合能力を付与することにより安定ラジカルを含むゾルやゲル、キセロゲルを形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、1分子中に安定ラジカル構造及び水素結合能力を持つ部位を有する化合物を提供し、併せて当該化合物と水又は有機溶媒を含有するゾル、ゲル又はキセロゲルを提供する。
【0009】
一般的にラジカル化合物は不安定であり、空気中など一般的な環境下では速やかに化学反応を起こして消失してしまう。そのため通常のラジカル化合物を様々な用途に使用される材料として用いることは困難である。一方、ニトロキシドラジカル化合物などは、空気中でも安定であるため、ラジカルとしての特殊な性質を反映させた材料に用いることが可能となる。例えば、組織化されたラジカル材料は常磁性や強磁性などを発現させることが可能である。液晶性を示す化合物に安定ラジカルを組み込むことにより、組織化されたラジカル構造を構築でき、これを磁石などの磁場を用いて移動させることができる。」との記載及び明細書全体の記載を参酌して、請求項2記載の特許を受けようとする発明の課題は、安定ラジカル化合物を組織化するために、ゲル化剤としての機能を一定程度有する安定ラジカル含有化合物を提供することにあると認める。

(イ)特許請求の範囲に記載された請求項2の発明に係る化合物を製造できるかに関して

まず、判断に際して、請求項2に記載された発明に係る化合物を製造できるかを検討する。
特許請求の範囲には、一般式(A1)で特定された、R,Z^(1),A^(1),W,A^(2),Z^(2),V,Xに関して、多くの化合物の部分構造を含む形で特定され、種々の化合物が包含されるようにものが特定されているのに対して、実際に合成をしたことが記載されているのは、実施例1で合成したカルボン酸性プロキシル3と、該カルボン酸性プロキシル3を中間体原料として、実施例2において、合成された(SSS)-1の2種のみである。

特許請求の範囲に含まれる、Rに関する範囲に関して検討すると、「Rは」「水素原子又は炭素数1?30のアルキル基、炭素数2?30のアルケニル基、炭素数1?30のアルコキシル基、炭素数2?30のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の-CH_(2)-は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(0)-、-NR^(0)CO-(式中、R^(0)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表す。)、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-又は-CH=CH-置換されていても良い。)」、「又はP-Sp-を表し、
(式中、Pは以下の式(R-1)から式(R-15)の何れかの構造を表し、
【化4】

-Spは酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、-COO-、-OCO-、又は-OCOO-に置き換えられても良い炭素数2?12のアルキレン基、又は単結合を表す。)」と特定されており、置き換える対象の置換基、その中に含まれる-CH_(2)-の数や位置、置き換えられる多数の置換基の種類も特定されていない範囲に含まれる膨大な化合物のR部分に関して、RがC_(14)H_(29)O-である摘記(3e)の実施例1の合成を参酌してもなお、全ての化合物のR部分をどのように製造することができるのか、当業者といえども不明である。
さらにいえば、Rを「P-Sp-」とする場合に関しては、該当する具体例は全くなく、当業者といえども、製造することはなお一層困難であるといえる。

また、水素結合能力を持つ部位として、一般式X「-(CONY^(1)-CHY^(2))_(j)-R^(2)」で表される部位に関して検討すると、
「Y^(1)は(Z^(3)-A^(3))_(k)-R^(3)を、Y^(2)は(Z^(4)-A^(4))l-R^(4)をそれぞれ表し、前記A^(3)及びA^(4)は互いに独立してトランス-1,4-シクロヘキシレン基又は1,4-フェニレン基、ナフタレン-2,6-ジイル基、インドール-3,6-ジイル基、ピロリジン-2,4-ジイル基、イミダゾール-4,5-ジイル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、それぞれの基中の芳香環の1個以上のCHは独立的にNに置換されていてもよい。)又は単結合を表し、
前記Z^(3)及びZ^(4)は、それぞれ独立に-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(5)-、-NR^(5)CO-、-CH_(2)-、-OCH_(2)-、-CH_(2)O-、-SCH_(2)-、-CH_(2)S-、-CF_(2)-、-OCF_(2)-、-CF_(2)O-、-CF_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CF_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CF_(2)CF_(2)-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-CH=CH-、又は単結合を表し、
前記R^(3)、R^(4)、R^(5)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表し、
jは1、2又は3を表し、
k及びlは、それぞれ独立的に0、1、2又は3を表す。
R^(2)は水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数1?12のアルコキシル基又は炭素数2?12のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、それぞれの基中の一つ又は二つ以上の-CH_(2)-は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-OCS-、-SCO-、-CONR^(0)-、-NR^(0)CO-(ここでR^(0)は水素原子又は炭素数1?12のアルキル基を表す。)、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-CH=CH-、又は単結合に置換されていても良い。)を表す。)」と特定しており、
置き換える対象の置換基、その中に含まれる-CH-、-CH_(2)-の数や位置、置き換えられる多数の置換基の種類も特定されていない範囲に含まれる膨大な化合物に関して、Y^(1),Y^(2)、R^(2)を、Y^(1)がR^(3)で水素であり、Y^(2)がR^(4)でメチルであり、R^(2)がカルボキシル基である摘記(3e)摘記(3f)の実施例1,2の合成を参酌してもなお、全ての化合物のY^(1),Y^(2)、R^(2)によって種々の化合物が含まれるXの部分をどのように製造することができるのか、当業者といえども不明である。

また、記載がなくとも、全ての範囲の化合物を製造できるとする出願時点の技術常識も存在しない。

ウ 請求項2に係る化合物が請求項2に係る発明の課題を解決しているかについて

イで述べたように、請求項2に係る化合物は、全ての化合物が本願出願時の技術常識を参酌しても、製造できるように記載されていないのであるから、ゲル化剤としての有用性を一定程度有することの確認もなされておらず、請求項2に係る発明の課題である、ゲル化剤としての機能を一定程度有する安定ラジカル含有化合物を提供することはできていないことになり、当業者が課題が解決できると認識できる範囲を超えたものである。

2 請求項7,8の特許を受けようとする発明について

(1)特許請求の範囲の請求項7,8の特許を受けようとする発明について

請求項7には、請求項1記載の化合物と水又は有機溶媒を含有するゲルの発明が記載され、請求項8には、請求項7に記載のゲルを乾燥させたキセロゲルの発明が記載されている。

(2)請求項7,8の特許を受けようとする発明に関する発明の詳細な説明の記載

一方、発明の詳細な説明においては、第2 2(3)に記載したとおり、一般式(A1)で表される、1分子中に、安定ラジカル構造、および水素結合能力を持つ部位を有する化合物と水又は有機溶媒を含有するゲル、該ゲルを乾燥して形成したキセロゲルに関して記載がある。

(3)対比・判断
(ア)請求項7,8の特許を受けようとする発明の課題について

請求項7は、ゲルの発明であるから、請求項7に係る発明の課題は、安定ラジカル化合物を組織化するために、ゲル化剤としての機能を一定程度有する安定ラジカル含有化合物と有機溶媒、水からなるゲルを提供することにあると認める。

請求項8は、キセロゲルの発明であるから、請求項8に係る発明の課題は、安定ラジカル化合物を組織化するために、ゲル化剤としての機能を一定程度有する安定ラジカル含有化合物と有機溶媒、水からなるゲルを作成し、乾燥したキセロゲルを提供することにあると認める。

(イ)請求項7,8に係るゲル、キセロゲルが請求項7,8の特許を受けようとする発明の課題を解決しているかについて

1で述べたとおり、発明の詳細な説明には、請求項2に記載された発明に係る全て化合物を製造できるようには記載されていないため、(S,S,S)-1場合以外に、それを用いたゲルやキセロゲルを実際に作成した記載もない。

また、第2 2(4)イで検討したとおり、何らかの水又は有機溶媒との混合を行った場合にも、それがゲルを形成できるかどうかは、その化合物や用いる溶媒に依存することは明らかである。

そして、そのような記載や示唆がなくとも、安定ラジカル化合物を組織化したゲルや該ゲルを乾燥させて作成したキセロゲルが提供できるとする本願出願時の技術常識も明らかにされていない。

したがって、請求項7,8に係るゲル又はキセロゲルの発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

上記検討のとおり、安定ラジカル含有化合物が製造できない以上、ゲルを提供できない上に、仮に化合物自体がそのすべての範囲にわたって製造できたとしても、化合物の広範な構造のものが全てゲル化するかどうかは不明である。

さらにゲルを乾燥することを前提とするキセロゲルが形成できるかどうかも不明である。

(3)請求人の主張の検討
ア 請求人は、意見書3頁15?31行に「本願の実施例においては、一般式(W-1)で表される「安定ラジカル構造」を有する化合物(S,S,S)-1の合成方法を開示しております。
本願発明に含まれる一般式(W-2)?(W-3)で表される他の安定ラジカル構造及び化学的性質は、一般式(W-1)と類似していますので、当業者であれば実施例と同様に合成できると思料致します。また、本願発明の一般式(X-1)で表される水素結合能力を持つ部位は、アミド結合を主体とするものであり、アミノ酸を重合して得られるペプチドの一般的な合成方法で得られる部位です。さらに、一般式(X-1)におけるY1及びY2が包含する複数の基は、出願人がこれまでに多数の特許出願を行っている液晶化合物の分野において、比較的剛性の高い基(メソゲン基)として良く知られた、化学的性質が互いに似た基であります。よって、当業者であれば、請求項1で限定した比較的剛性の高い環構造を有する「水素結合能力を持つ部位」は、実施例で示したフェニレン基の場合と同様に合成することができます。
したがいまして、本願発明が有する「安定ラジカル構造」及び「水素結合能力を持つ部位」は、実施例で開示した化合物(S,S,S)-1と同様の合成方法によって得ることができますので、本願発明の製造に際して当業者に過度な試行錯誤を強いることはありません。
また、本願発明が包含する複数の化合物の特徴部は互いに類似していますので、実施例で開示した化合物(S,S,S)-1と同様の効果が奏されることは、当業者であれば理解されると思料致します。」と記載し、安定化ラジカル構造、水素結合能力を持つ部位は、実施例と同様の合成方法によって得ることができ、本願発明が包含する複数の化合物の特徴部が互いに類似しているので、(S,S,S)-1と同様の効果が奏されると当業者は理解できる旨主張している。

しかしながら、前記のとおり、Wの部分や請求項2のXの部分に一定の構造の共通性があるとしても、Rの広範な部分をどのように合成できるかは、不明なままといわざるを得ない。
また、化合物のゲル化に化合物構造全体が影響することは明らかで、特許請求の範囲に記載された膨大な化合物全体において、ゲル化剤として一定の有用性を持つ程度の安定化ラジカル含有化合物としての性質を有するかどうかは不明で、(S,S,S)-1と同様の効果が奏されるとはいえない。

さらに、請求項2の特許を受けようとする発明に関する主張として見た場合、Ra、Rbの選択肢には水素が含まれているのであるから、特許請求の範囲の記載に基づいた主張であるともいえない。

イ また、請求人は、審判請求書11頁11行?12頁2行において、参考資料を提示して、「参考資料1の第366頁(7)、第369頁(54)、第372頁(65)、第372頁(102)、第372頁(104)にそれぞれ、本願の請求項1の安定ラジカル(W-1)?(W?3)の基を備え、かつ窒素の両隣にある炭素原子に、水素原子ではなければ、剛性の高い環構造を有する基が置換されていなくとも、安定ラジカル化合物として存在することが記載されています。
本願の請求項1においては、上記の通り、「Ra及びRbは、それぞれ独立的に1?12個の炭素原子を有するアルキルを表す。」と補正して、Ra及びRbが水素原子ではない旨を明確にしましたので、この点における、実施可能要件及びサポート要件の拒絶理由は解消したと思料します。

上述の通り、また、参考資料1の上述の記載からも理解される通り、本願の請求項1に係る化合物は、Ra及びRbは、それぞれ独立的に1?12個の炭素原子を有するアルキルを表し、Ra及びRbが水素原子ではないので、安定なラジカル構造を有します。
本願の請求項1に係る化合物は、1分子中に、N-O・の安定ラジカル構造を有し、かつ、Xの「-(CONY^(1)-CHY^(2))_(j)-R^(2)」が水素結合部位を有するので、N-O・のラジカル同士の相互作用、アミド結合及びカルボキシル基の水素結合部位同士が相互作用によって、安定ラジカル化合物が組織化し、ゲル化剤としての機能を有し、そして、当該化合物を用いたゾル、ゲル又は三次元網目構造をもつキセロゲルを提供することができます(本願明細書の段落番号[0006]等)。 」と記載し、Ra及びRbが水素原子でなければ、ラジカルは、安定化し、1分子中に、N-O・の安定ラジカル構造を有し、かつ、Xの「-(CONY^(1)-CHY^(2))_(j)-R^(2)」が水素結合部位を有するので、N-O・のラジカル同士の相互作用、アミド結合及びカルボキシル基の水素結合部位同士が相互作用によって、安定ラジカル化合物が組織化し、ゲル化剤としての機能を有し、そして、当該化合物を用いたゾル、ゲル又は三次元網目構造をもつキセロゲルを提供することができる旨主張している。

しかしながら、本願明細書に記載のない参考資料1の記載を明細書の記載としてそのまま参酌できるとはいえない上に、参考資料1は、種々の安定ラジカルの事実の紹介をしたものであって、ラジカル間の安定性に差があり、安定化の機構については、推測が記載されているにすぎず、請求人の主張するような「窒素の両隣にある炭素原子に、水素原子ではなければ、剛性の高い環構造を有する基が置換されていなくとも、安定ラジカル化合物として存在する」との記載があるわけでもない。
また、本願明細書には、請求人の主張するような「1分子中に、N-O・の安定ラジカル構造を有し、かつ、Xの「-(CONY^(1)-CHY^(2))j-R^(2)」が水素結合部位を有するので、N-O・のラジカル同士の相互作用、アミド結合及びカルボキシル基の水素結合部位同士が相互作用によって、安定ラジカル化合物が組織化し、ゲル化剤としての機能を有し、そして、当該化合物を用いたゾル、ゲル又は三次元網目構造をもつキセロゲルを提供することができます」との記載はなく、前記のとおり、ゾル、ゲル又は三次元網目構造をもつキセロゲルに関しては、水素結合などの部位の重要性を推測する記載はあるものの、具体的結果を伴った記載としては(S,S,S)-1の一例の記載があるだけである。
参考資料1の中でも安定化ラジカルの安定性に差があることの記載があることも考慮すると、一定の水素結合が作用するからといって、(S,S,S)-1の例と同様に、化合物全てがゲル化するかは不明で、水素結合部位を有するかどうかと、化合物が組織化してゲル化するかどうかは、直接の関係があるとはいえず、Rの部分も含めた化合物全体の構造が影響していると考えることが自然である。

さらに、請求項2,7,8の特許を受けようとする発明に関する主張として見た場合、R^(2)がカルボキシル基を有するかどうか特定されていないものであり、特許請求の範囲の記載に基づいた主張であるともいえない。

4 まとめ
以上のとおり、請求項2,7,8記載の特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-02 
結審通知日 2016-11-08 
審決日 2016-11-21 
出願番号 特願2011-53509(P2011-53509)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C07D)
P 1 8・ 575- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀 洋樹井上 典之  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 加藤 幹
瀬良 聡機
発明の名称 安定ラジカル構造を有する化合物及びこれを用いたゾル、ゲル、キセロゲル  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 三國 修  
代理人 三國 修  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 五十嵐 光永  

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