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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1323333
審判番号 不服2016-2732  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-24 
確定日 2017-01-24 
事件の表示 特願2010-181404「有機電界発光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月 1日出願公開、特開2012- 43850、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成22年8月13日の出願であって、平成26年3月27日付けで拒絶理由が通知され、同年10月6日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成27年3月3日付けで拒絶理由が通知され、同年6月4日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年11月13日付けで同年6月4日になされた手続補正が却下されるとともに同日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して、平成28年2月24日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

2 平成28年2月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の適否
(1)補正の内容
平成28年2月24日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、平成26年10月6日付け手続補正により補正された特許請求の範囲、すなわち、本件補正前の特許請求の範囲に、
ア 「【請求項1】
反射電極と、有機電界発光層と、透明基板と、光取出し層とをこの順に少なくとも有する有機電界発光装置であって、
前記有機電界発光層は少なくとも透明電極と前記透明電極を覆う発光層とを含み、
前記有機電界発光層の有効発光領域は前記透明電極を覆う発光層であり、前記有機電界発光層の非発光領域は前記発光層に覆われていない前記透明電極であり、
前記反射電極と前記光取出し層の間に存在する層及び部材の合計平均厚みdと、前記有機電界発光層の前記有効発光領域の外周縁部からはみ出した前記非発光領域における最小幅wとの比(w/d)が9以上であり、
前記有効発光領域、及び前記非発光領域が矩形であることを特徴とする有機電界発光装置。
【請求項2】
反射電極と光取出し層の間に存在する層及び部材の合計平均厚みdが、有機電界発光層、及び透明基板の合計平均厚みである請求項1に記載の有機電界発光装置。
【請求項3】
有機電界発光層からの発光を光取出し層から出射する請求項1から2のいずれかに記載の有機電界発光装置。
【請求項4】
反射電極がAgからなる請求項1から3のいずれかに記載の有機電界発光装置。
【請求項5】
透明基板の屈折率が、有機電界発光層の屈折率以上である請求項1から4のいずれかに記載の有機電界発光装置。
【請求項6】
透明基板の屈折率が、有機電界発光層の屈折率と同じである請求項5に記載の有機電界発光装置。
【請求項7】
光取出し層が、ポリマーと、微粒子とを含有する微粒子層である請求項1から6のいずれかに記載の有機電界発光装置。
【請求項8】
微粒子層におけるポリマーの屈折率が、微粒子の屈折率と異なる請求項7に記載の有機電界発光装置。
【請求項9】
微粒子層におけるポリマーの屈折率が、透明基板の屈折率と同じである請求項7から8のいずれかに記載の有機電界発光装置。
【請求項10】
微粒子の平均粒径が0.5μm?10μmである請求項7から9のいずれかに記載の有機電界発光装置。
【請求項11】
微粒子層における微粒子の体積充填率が20%?70%である請求項7から10のいずれかに記載の有機電界発光装置。
【請求項12】
微粒子層の平均厚みが5μm?200μmである請求項7から11のいずれかに記載の有機電界発光装置。
【請求項13】
微粒子の平均粒径が0.5μm?6μmであり、微粒子層における微粒子の体積充填率が20%?70%であり、かつ微粒子層の平均厚みが50μm以下である請求項7から12のいずれかに記載の有機電界発光装置。」とあったものを、

イ 「【請求項1】
反射電極と、有機電界発光層と、透明基板と、光取出し層とをこの順に少なくとも有する有機電界発光装置であって、
前記有機電界発光層は少なくとも透明電極と発光層とを含み、
前記有機電界発光層が有効発光領域と非発光領域を有し、
前記反射電極と前記光取出し層の間に存在する層及び部材の合計平均厚みdと、前記有機電界発光層の前記有効発光領域の外周縁部からはみ出した前記非発光領域における最小幅wとの比(w/d)が40以上であり、
前記有効発光領域、及び前記非発光領域が矩形であることを特徴とする有機電界発光装置。
【請求項2】
反射電極と光取出し層の間に存在する層及び部材の合計平均厚みdが、有機電界発光層、及び透明基板の合計平均厚みである請求項1に記載の有機電界発光装置。
【請求項3】
有機電界発光層からの発光を光取出し層から出射する請求項1から2のいずれかに記載の有機電界発光装置。
【請求項4】
反射電極がAgからなる請求項1から3のいずれかに記載の有機電界発光装置。
【請求項5】
透明基板の屈折率が、有機電界発光層の屈折率以上である請求項1から4のいずれかに記載の有機電界発光装置。
【請求項6】
透明基板の屈折率が、有機電界発光層の屈折率と同じである請求項5に記載の有機電界発光装置。
【請求項7】
光取出し層が、ポリマーと、微粒子とを含有する微粒子層である請求項1から6のいずれかに記載の有機電界発光装置。
【請求項8】
微粒子層におけるポリマーの屈折率が、微粒子の屈折率と異なる請求項7に記載の有機電界発光装置。
【請求項9】
微粒子層におけるポリマーの屈折率が、透明基板の屈折率と同じである請求項7から8のいずれかに記載の有機電界発光装置。
【請求項10】
微粒子の平均粒径が0.5μm?10μmである請求項7から9のいずれかに記載の有機電界発光装置。
【請求項11】
微粒子層における微粒子の体積充填率が20%?70%である請求項7から10のいずれかに記載の有機電界発光装置。
【請求項12】
微粒子層の平均厚みが5μm?200μmである請求項7から11のいずれかに記載の有機電界発光装置。
【請求項13】
微粒子の平均粒径が0.5μm?6μmであり、微粒子層における微粒子の体積充填率が20%?70%であり、かつ微粒子層の平均厚みが50μm以下である請求項7から12のいずれかに記載の有機電界発光装置。」
とする補正である(下線は当審で付した。以下同様。)。

(2)補正の適否
ア 本件補正は、本件補正前の請求項1の「前記有機電界発光層は少なくとも透明電極と前記透明電極を覆う発光層とを含み、前記有機電界発光層の有効発光領域は前記透明電極を覆う発光層であり、前記有機電界発光層の非発光領域は前記発光層に覆われていない前記透明電極であり、」を「前記有機電界発光層は少なくとも透明電極と発光層とを含み、前記有機電界発光層が有効発光領域と非発光領域を有し、」とし、平成27年3月3日付け拒絶理由通知に係る拒絶の理由1(特許法第17条の2第3項)を解消するために、当該拒絶の理由1に示す事項についてするものであるから、特許法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ 本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記反射電極と前記光取出し層の間に存在する層及び部材の合計平均厚みdと、前記有機電界発光層の前記有効発光領域の外周縁部からはみ出した前記非発光領域における最小幅wとの比(w/d)」について、願書に最初に添付された明細書の【0014】の「発明においては、前記反射電極と前記光取出し層の間に存在する層及び部材の合計平均厚みdと、前記有機電界発光層の有効発光領域の外周縁部からはみ出した非発光領域における最小幅wとの比(w/d)が9以上であり、20以上であることが好ましく、光取出し効率が収束し、より高い光取出し効率が得られる点から40以上であることがより好ましい。」の記載に基づいて、「9以上」を「40以上」との限定をしたものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
ウ また、本件補正は、特許法第17条の2第3項、第4項の規定に違反するところはない。
エ そこで、本件補正後の請求項1ないし13(上記(1)イ)に記載された発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明13」という。)が原査定の理由により拒絶すべきか否かについて以下に検討する。

3 原査定の理由の概要
(1)(新規事項)平成26年10月 6日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

請求項1に記載の「前記有機電界発光層の非発光領域は前記発光層に覆われていない前記透明電極である」事項は、この出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、当初明細書等という)に記載した事項の範囲内にないし、当初明細書等の記載から自明な事項でもない。
出願人が補正の根拠の一つとして主張する段落【0112】には、上記事項は何ら記載されていない。同じく補正の根拠として出願人が主張する実施例にも、シミュレーション上、有効発光領域と非発光領域を設定したことが記載されているに過ぎず、非発光領域にまで透明電極が存在する事項(非発光領域が発光層に覆われていない透明電極である事項)は記載されていないし、自明な事項でもない。

(2)(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

上記(1)において述べたように、(平成26年10月 6日付け手続補正により補正された)請求項1に記載の「前記有機電界発光層の非発光領域は前記発光層に覆われていない前記透明電極である」事項は、当初明細書等に記載した事項の範囲内にない。そうすると、請求項1に係る発明における「前記有機電界発光層の有効発光領域は前記透明電極を覆う発光層であり、前記有機電界発光層の非発光領域は前記発光層に覆われていない前記透明電極であ」る構成を、如何にして形成することができるのかが発明の詳細な説明に記載されておらず、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-13に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

(3)(進歩性)この出願の請求項1ないし13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・引用文献
引用文献1.特開2008-171993号公報
引用文献2.特開2004-296429号公報
引用文献3.特表2004-513484号公報
引用文献4.特開平7-43712号公報

引用文献1に記載の発明において、非発光領域の最小幅(w)をどの程度にするかは、当業者ならば適宜に設計し得た事項であるから、引用文献1に記載の発明において、周知の光取り出し層(例.引用文献2、3)を採用するとともに、比(w/d)が9以上になるようにして、請求項1に係る発明の構成とすることは、当業者ならば容易に想到し得たことである。
また、引用文献4(【請求項2】【0022】【0026】等参照)には、反射電極の面積を、有効発光領域の面積より大きくすることにより発光効率を向上させることが開示されており、引用文献1に記載の発明において、引用文献4に記載の上記技術思想を採用し、発光効率を向上させるために、反射電極の面積を有効発光領域の面積より大きくなる(有効発光領域からはみ出した反射電極の部分に対応する非発光領域がある程度の幅wを有する)ようにして、請求項1に係る発明の構成とすることは容易に想到し得たことである、ということもできる。


4 原査定の理由についての当審の判断
4-1 進歩性(上記3(3))について
(1)引用文献1の記載事項
原査定の理由に引用文献1として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2008-171993号公報には、次の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に、第一電極層、発光層を含む複数の有機層からなる発光部、第二電極層を順に積層してなる有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記発光部が、一対の第一電極層と第二電極層の間に、その面積が0.2mm^(2)以下である発光部ユニットを、多数縦横に並べて構成されたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記発光部ユニット同士の隙間に絶縁層を設けた封止構造を有することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を光源とした光通信用光源。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を光源とした照明装置。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンスを用いた発光素子に関し、詳しくは発光特性の優れた有機エレクトロルミネッセンス素子、これを光源とした光通信用光源及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と記す)は、透明なガラスもしくは透明な樹脂基板の表面に、第一電極層(陽極)、発光層を含む有機層、第二電極層(陰極)が積層された基本構成を有する。通常、有機EL素子の第一電極層(陽極)は、ITO(スズ添加酸化インジウム)に代表される透明導電材料から形成される。有機層は、有機発光材料層、電子輸送材料層、ホール輸送材料層など、複数層から形成される。第二電極層(陰極)は、Mg:Ag、Al、Caなどの金属材料で構成される。
【0003】
有機EL素子は、薄型でかつ自発光するという特徴を活かして、次世代のディスプレイとして多くの研究機関で研究開発が進められており、その発光特性(発光効率、最大輝度、消費電力など)は飛躍的に向上してきている。例えば、新規の有機層材料の開発やそれらを利用した新しい素子構造、有機層の蒸着、印刷技術の向上などによって、優れた発光特性を有する有機EL素子が実現されている。」

ウ 「【発明の効果】
【0012】
本発明の有機EL素子は、面積が0.2mm^(2)以下である多数の発光部ユニットを一対の第一電極層と第二電極層の間に縦横に並べた発光部を有する構成としたので、広い面積で高輝度・高照度の発光が可能な有機EL素子を提供することができる。」

エ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、後述する実施例は本発明の単なる例示であり、本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0014】
(参考例1)
図1に示すように、発光部の面積を通常よりも小さくした参考例1の有機EL素子Aを作製した。
まずガラス基板1上に、第一電極層2としてITO膜をスパッタリング法によって100nmの厚さで成膜した。次に、第一電極層2上に、ポジ型レジストからなり、フォトリソグラフィによって発光部形成用の直径0.5mm(面積は約0.2mm^(2))の丸穴を設けた絶縁層3を形成した。次に、前記丸穴内に有機層(/α-NPD(45nm)/質量比0.5%rubrene:Alq_(3)(20nm)/Alq_(3)(40nm)/LiF(0.5nm))を蒸着法により順番に積層して発光部4を形成した。次に、発光部4及び絶縁層3上に、第二電極層5(Mg:Ag(150nm)/Ag(100nm))を蒸着法で成膜し、図1に示す参考例1の有機EL素子Aを作製した。
【0015】
(比較例1)
図2に示すように、発光部を通常の面積とした参考例2の有機EL素子Bを作製した。
発光部形成用の穴を、2mm×2mmの正方形としたこと以外は、参考例1と同様にして、この正方形の穴内に有機層を積層して発光部6とし、図2に示す比較例1の有機EL素子Bを作製した。
【0016】
(異なる発光部のサイズの有機EL素子の最大輝度の比較)
参考例1で作製した有機EL素子Aと、比較例1で作製した有機EL素子Bとを、第一、第二電極層間に電圧を印加して発光させ、電圧を高くして最終的に有機EL素子が破壊される直前の輝度を最大輝度として測定した。結果を表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
表1の結果から、発光部を小さくした参考例1の有機EL素子Aでは、発光部が通常の大きさである比較例1の有機EL素子と比べて、約3倍の輝度が得られることが実証された。
【0019】
(実施例1)
参考例1では発光部の面積が小さくなっているので、単位面積当たりの最大輝度は向上しているが、素子全体の照度は低下している。そこで、この問題を解決するために図3及び図4に示すように、一対の第一、第二電極間に面積の小さい発光部ユニット7を縦横に配列して発光部8を形成することで、得られる有機EL素子Cは、素子全体の照度を向上させることができる。
【0020】
比較例1の発光部6と同じ面積のサイズ(2mm×2mmの正方形)に参考例1の発光部4(直径0.5mm)と同じ大きさの発光部ユニット7を、縦4個×横4個の合計16個配置し、本発明に係る実施例1の有機EL素子Cを作製した。各層の材料、成膜方法は、参考例1と同様とした。
【0021】
(発光領域の大きさが同じ場合の照度の比較)
実施例1で作製した有機EL素子Cと、比較例1で作製した有機EL素子Bとを、第一、第二電極層間に電圧を印加して発光させ、有機EL素子が破壊される直前の電圧におけるそれぞれの照度を測定した。結果を表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
表2から、本発明に係る実施例1の有機EL素子Cは、比較例1の有機EL素子Bと比べ、約2.4倍の照度の向上が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】参考例1で作製した有機EL素子の概略断面図である。
【図2】比較例1で作製した有機EL素子の概略断面図である。
【図3】実施例1で作製した有機EL素子の概略断面図である。
【図4】実施例1の有機EL素子の発光部の平面図である。」

オ 「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】



カ 上記アないしオから、実施例1の各層の材料、成膜方法は参考例1と同様であるから、引用文献1には、実施例1について次の発明(引用発明の認定に関係する箇所について、段落番号等はそのまま併記する。)が記載されているものと認められる。
「【0014】【0020】ガラス基板1上に、第一電極層2としてITO膜をスパッタリング法によって100nmの厚さで成膜し、第一電極層2上に、発光部ユニット形成用の丸穴を2mm×2mmの正方形に縦4個×横4個の合計16個配置されるように絶縁層3を形成し、前記丸穴内に有機層を蒸着法により積層して16個の発光部ユニット7を形成し、発光部ユニット7及び絶縁層3上に、第二電極層5(Mg:Ag(150nm)/Ag(100nm))を蒸着法で成膜している、
有機EL素子。」(以下「引用発明」という。)

(2)引用文献4の記載事項
原査定の理由に引用文献4として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-43712号公報には、次の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 光透過形の液晶パネルと、
前記液晶パネルの背後側に配置され、複数のエレクトロルミネッセンス素子から成るバックライト用のELパネルと、
前記液晶パネルとELパネルとの間に、ELパネルからの光を拡散するための拡散部材を設けることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】 前記ELパネルは、パターン化された透明電極の形成された透明基板と、該透明基板に対向配置される金属電極との間に、RGBの三原色の発光成分を含む単一の白色発光層を封入して構成され、前記金属電極は前記発光層の発光領域よりも大きな面積に形成されることを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置。
【請求項3】 前記ELパネルは、パターン化された透明電極の形成された透明基板と、該透明基板に対向配置される金属電極との間に、RGBの三原色の各発光層が同一平面上に並置された状態で封入されて構成され、前記金属電極は前記発光層の発光領域よりも大きな面積に形成されることを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置。」

イ 「【0013】
【実施例】
・・・略・・・
【0020】図3は本発明の第2実施例である視覚ディスプレイ2aの断面図であり、図4は前記視覚ディスプレイ2aの一部を切欠いて示す斜視図である。視覚ディスプレイ2aは、第1実施例の視覚ディスプレイ2と類似の構造であるので、同一の部材には同一の参照符号を用いる。本実施例は、前述の第1実施例における視覚ディスプレイ2の液晶パネル4の使用者側の表面にマイクロカラーフィルタ19を備え、さらに、透明電極13aをストライプ状にパターン化して形成するとともに、背面の金属電極18の外方側表面にシールガラス20を備えたことを特徴とする。
【0021】マイクロカラーフィルタ19は、たとえば、アクリル系樹脂に顔料を分散させる方式によって作成され、ELパネル7aからの照明光を該マイクロカラーフィルタ19を透過させることによって、視覚ディスプレイ2a上にカラー表示を行うことができる。また、シールガラス20は、前記視覚ディスプレイ2aの最も外方側の表面に臨む面に配され、ELパネル7aが放射した光を使用者側に反射し、漏光を防止するとともに発光効率の向上を図る。
【0022】たとえばITO膜から成る透明電極13aは、ガラス基板6の外方側表面に一定の間隔を有してストライプ状に形成される。前記透明電極13aの外方側表面には、第1絶縁層15と、SrS・Ce、Eu膜から成る発光層21と、第2絶縁層17とを積層し、さらに、金属電極18を、真空蒸着法によって、前記発光層21の発光領域よりも大きい面積である全面に形成する。前記透明電極13aは、前述のとおりストライプ状に形成されているので、発光領域には非発光の部分が存在し、ストライプ状に発光する。前記拡散シート5に前述のストライプ状の放射光を透過させると、該拡散シート5の光拡散作用によって均一な照明を得ることができる。本実施例では、SrS・Ce、Eu発光層21の代りに、SrS・Ce/ZnS・Mn発光層や、SrS・Ce/CaS・Eu発光層などを用いてもよい。
【0023】ここで、従来技術で用いられている透明電極と金属電極とを共に全面に形成して拡散シートを使用しない方式「パネルA」と、本実施例に示すような透明電極を規則的に配して、拡散シートを使用した方式「パネルB」とにおける、発光輝度、消費電力、発光効率および絶縁破壊特性の比較を表1に示す。なお、パネルA,パネルBともに200Hz、200Vの交流パルス電圧の同1条件で駆動する。なお、評価に用いたサンプルサイズは30mm×40mmである。
【0024】
【表1】

【0025】上記表1より、発光輝度では、パネルBのフィルファクタが1以下であることと、拡散シートの光透過率が100%でないことに起因すると思われる低下が見られる。また、パネルBのパネルAに対する消費電力比率は、フィルファクタに依存して73%に低下している。しかし、発光効率はパネルBの方が26%上まわっており、同一輝度での比較では、パネルBの消費電力が約21%低くなる。したがって、パネルBの方がパネルAに比べて効率の良い照明が行われることが理解される。
【0026】このことから、透明電極13aを規則性を有してストライプ状に配すると、透明電極13aの端部から隣合う透明電極へ発せられた光がEL膜14aの内部を伝播し、背面の金属電極18で反射され、その反射光が全面に出射されるものと思われ、光の取出し効率を改善することができる。さらに、透明電極13a同士の間隔および透明電極13aの幅を改善することによって、より一層の発光効率の向上が可能であると考えられる。この効果を得るためには、背面の金属電極18には、発光領域よりも面積が大きく、かつ光の反射率が良好な金属材料を用いることが重要である。本実施例では、Al金属膜を使用したが、Ag、Ni、Ptなどの金属膜を用いても有効である。
【0027】また、パネルAで見られる破壊孔がパネルBでは見られないが、これは、透明電極の等価抵抗の増大によって、電極に蓄積された静電エネルギが破壊部分に投入される際にエネルギ密度が小さくなり、破壊が生じにくくなるか、または、たとえ破壊が生じたとしても、極めて小規模なものに留まるためであると考えられる。
【0028】したがって、本実施例では、拡散シート5が、透明電極13aのストライプ状の配置によって生じるELパネル7aの非発光部分を補うように均一に光を拡散し、形成すべき透明電極13aの面積が格段に小さくてすむので、前記第1実施例の効果に加えて、低コスト化を図ることができる。さらに、マイクロカラーフィルタ19を設けることによって、カラー表示が可能となる。
【0029】図5は、本発明の第3実施例である視覚ディスプレイ2bの断面図である。視覚ディスプレイ2bは図3の視覚ディスプレイ2aと類似の構造であるので、同一の部材には同一の参照符号を用いる。本実施例の特徴は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の各EL発光成分を、同一平面上に透明電極13aに対応してストライプ状に配したRGB発光層22を、前記第2実施例におけるEL膜14の発光層21で示すようなRGBの三原色の各発光成分を含む単一の白色発光層の代りに設けたことである。
【0030】前記RGB発光層22は、透明電極13aを任意に選択して、各発光成分を個別に駆動することができ、さらにRGB成分の1つだけを抽出することができるようにした。放射された単色光は、拡散シート5で均一に拡散され、液晶パネル4の内方側表面の全面に照射される。すべての発光成分を一度に駆動すると、白色発光が得られる。各発光成分を液晶パネル4の走査信号と同期して個別に駆動することで第2実施例で用いたマイクロカラーフィルタ19などのような特別な部材を必要とせずにカラー表示を行うことができるので、より一層薄形で軽量な視覚ディスプレイ2bが実現できる。」

ウ 上記ア及びイから、引用文献4には次の事項が記載されているものと認められる。
「ELパネルにおいて、光の取出し効率を改善するために、金属電極18を、真空蒸着法によって、発光層21の発光領域よりも大きい面積である全面に形成すること。」(以下「引用文献4の記載事項」という。)

(4)本願発明1と引用発明との対比
ア 一般的な有機EL素子において、Mg:Ag及びAgからなる電極と、ITO膜からなる電極とを有していた場合、Mg:Ag及びAgからなる電極が反射電極、ITO膜からなる電極が透明電極であることは技術常識であるから、引用発明の「第二電極層5(Mg:Ag(150nm)/Ag(100nm))」及び「ITO膜」からなる「第一電極層2」は、本願発明1の「反射電極」及び「透明電極」にそれぞれ相当する。
イ 引用発明の「発光部ユニット」は、本願発明1の「発光層」に相当する。
ウ 引用発明は、ガラス基板1上に第一電極層2としてITO膜をスパッタリング法によって100nmの厚さで成膜し、「ガラス基板1」は、「第一電極層2」(本願発明1の「透明電極」に相当。以下、「」に続く()内の用語は対応する本願発明1の用語を表す。)の「第二電極層2」(反射電極)とは反対側の面に隣接配置されているものである。そうすると、「第一電極層2」(透明電極)を通過した「発光部ユニット」(発光層)からの光を「ガラス基板1」から取り出すこととなっていることは明らかであるから、「ガラス基板1」が透明であることは明らかである。したがって、引用発明の「ガラス基板1」は、本願発明1の「透明基板」に相当する。
エ 引用発明は、発光部ユニット形成用の丸穴を2mm×2mmの正方形に縦4個×横4個の合計16個配置されるように絶縁層3を形成し、前記丸穴内に有機層を蒸着法により積層して16個の「発光部ユニット7」(発光層)を形成しているから、絶縁層3と、発光ユニット7とは、「第一電極層2」(透明電極)を含めて1つの層、すなわち、言い換えれば有機電界発光層を構成しているといえる。そうすると、該有機電界発光層において、発光部ユニット7の領域は有効発光領域といえ、絶縁層3の領域は非発光領域といえるから、引用発明は、本願発明の「有機電界発光層は少なくとも透明電極と発光層とを含み」、且つ、「有機電界発光層が有効発光領域と非発光領域を有し」との構成を備える。
オ 上記アないしエからみて、引用発明は、本願発明1の「反射電極と、有機電界発光層と、透明基板とをこの順に少なくとも有する有機電界発光装置」との構成を備えることは明らかである。

カ 上記アないしオからみて、本願発明1と引用発明とは、
「反射電極と、有機電界発光層と、透明基板とをこの順に少なくとも有する有機電界発光装置であって、
前記有機電界発光層は少なくとも透明電極と発光層とを含み、
前記有機電界発光層が有効発光領域と非発光領域を有する、
有機電界発光装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本願発明1では、「光取出し層」を有するのに対し、
引用発明では、「光取出し層」を有していない点。

相違点2:
本願発明1では、「反射電極と光取出し層の間に存在する層及び部材の合計平均厚みdと、有機電界発光層の有効発光領域の外周縁部からはみ出した非発光領域における最小幅wとの比(w/d)が40以上」であるのに対し、
引用発明では、前記dと前記wとの比(w/d)が明らかでない点。

相違点3:
本願発明1では、「有効発光領域、及び非発光領域が矩形である」のに対し、
引用発明では、有効発光領域、及び非発光領域が矩形でない点。

(5)判断
上記相違点2について検討する。
ア 引用文献1(【0014】ないし【0023】(上記4-1(1)エ)参照。)には、実施例1と、参考例1及び比較例1との比較について、概略、以下の事項が記載されている。
(ア)異なる発光部のサイズの有機EL素子の最大輝度の比較として、発光部を小さくした参考例1の有機EL素子Aでは、発光部が通常の大きさである比較例1の有機EL素子と比べて、約3倍の輝度が得られることが実証されていること。
(イ)参考例1では発光部の面積が小さくなっているので、単位面積当たりの最大輝度は向上しているが、素子全体の照度は低下しているところ、この問題を解決するために第一、第二電極間に面積の小さい発光部ユニット7を縦横に配列して発光部8を形成して実施例1としたこと、すなわち、引用発明のようにすることで、得られる有機EL素子全体の照度を向上させていること。
(ウ)発光領域の大きさが同じ場合の照度の比較として、実施例1の有機EL素子C(引用発明)は、発光部形成用の穴を2mm×2mmの正方形とした比較例1の有機EL素子Bと比べ、約2.4倍の照度の向上が確認できること。
イ 引用例4の記載事項(上記4-1(2)ウ)は、ELパネルにおいて、光の取出し効率を改善するために、金属電極を、発光層の発光領域よりも大きい面積である全面に形成することである。
ウ 上記アからみて、引用発明を認定した実施例1は、有機EL素子全体としての照度を向上させるために、参考例1の発光部4と同様の発光部ユニット7を縦横に配列し、結果として、発光部ユニット7群からなる有効発光領域の面積を拡大しているものである。そうすると、引用発明において、引用文献4の記載事項を考慮したとしても、絶縁層3からなる非発光領域をこれ以上拡大するという発想には到らない。
エ また、引用文献1の参考例1を引用発明として本願発明1の進歩性を検討すると、参考例1は、あくまで発光部の面積を小さくしたものの輝度の優位性を実証するためのものであり、単位面積当たりの最大輝度は向上しているが、素子全体の照度は低下しているという問題点があるから、反射電極に比べて発光部を極めて小さなものとしている参考例1の構成を維持したまま実際の有機EL素子として用いることには阻害要因がある。そうすると、参考例1において、平均厚みdと、非発光領域における最小幅wとの比(w/d)を定義し、w/dを40以上とする発想には到らず、当業者が適宜なし得た設計的事項ともいえない。
オ そして、本願発明1の奏する効果は、引用発明の奏する効果から当業者が予測することができたものではない。
カ 以上のとおり、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明1の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
キ したがって、引用文献1には、上記相違点2に係る事項が開示されてなく、しかも、当該事項が引用文献4の記載事項から想到容易であるともいえないから、上記相違点1及び3について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者が引用文献1に記載された発明及び引用文献4の記載事項に基づいて容易に発明することができたものではない。

(6)本願発明2ないし13について
本願発明1は、当業者が引用文献1に記載された発明及び引用文献4の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものでないのであるから、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本願発明2ないし13も同様に、当業者が引用文献1に記載された発明及び引用文献4の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4-2 新規事項(上記3(1))について
本件補正によって、補正前の請求項1の「前記有機電界発光層の非発光領域は前記発光層に覆われていない前記透明電極であ」ることは、補正後の請求項1において「前記有機電界発光層が有効発光領域と非発光領域を有し、」と補正されることにより、当初明細書等に記載した事項の範囲内となり、原査定の理由の上記3(1)は解消した。

4-3 実施可能要件(上記3(2))について
本件補正によって、補正前の請求項1の「前記有機電界発光層の非発光領域は前記発光層に覆われていない前記透明電極であ」ることは、補正後の請求項1において「前記有機電界発光層が有効発光領域と非発光領域を有し、」と補正されることにより、原査定の理由の上記3(2)は解消した。

5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-10 
出願番号 特願2010-181404(P2010-181404)
審決分類 P 1 8・ 561- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 536- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 野田 洋平  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 河原 正
鉄 豊郎
発明の名称 有機電界発光装置  
代理人 廣田 浩一  
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