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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1323363
審判番号 不服2014-18820  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-19 
確定日 2017-01-04 
事件の表示 特願2010-529131「テトラ-アザポルフィリンを含む有機感光性光電子デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月16日国際公開、WO2009/049273、平成23年 3月 3日国内公表、特表2011-507217〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年10月11日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2007年10月12日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年6月7日付けで明細書、請求の範囲、要約及び図面の国際出願翻訳文が提出され、平成25年5月17日付け(発送同年同月21日)で拒絶理由が通知され、同年11月21日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出されたが、平成26年5月12日付け(謄本送達同年同月20日)で拒絶査定がされ、これに対し、同年9月19日付けで拒絶査定不服の審判が請求されるとともに同時に手続補正がされ、同年12月3日付けで前置報告がされ、平成27年2月23日に上申書が提出され、同年11月18日付けで当審より拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年5月24日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成26年9月19日になされた手続補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定される下記のとおりのものと認められる(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明18」といい、また、これらをまとめて「本願発明」という。)
「【請求項1】
(i)少なくとも一方が透明である第1電極および第2電極と、
(ii)前記第1電極と前記第2電極との間に配置され、
(a)第1の有機半導体物質、および
(b)第2の有機半導体物質
を含む有機光活性物質と、
を含む、有機感光性光電子デバイスであって、
この際、前記第1の有機半導体物質が前記第2の有機半導体物質と直接接触し、
前記第1の有機半導体物質が前記第2の有機半導体物質に対する少なくとも一つのドナー物質を含み、前記第2の有機半導体物質が少なくとも一つのアクセプタ物質を含むか、または、前記第1の有機半導体物質が前記第2の有機半導体物質に対する少なくとも一つのアクセプタ物質を含み、前記第2の有機半導体物質が少なくとも一つのドナー物質を含み、
この際、前記ドナー物質および前記アクセプタ物質の少なくとも一つは式Iで表されるテトラ-アザポルフィリン化合物の少なくとも一つを含み、前記少なくとも一つの式Iで表されるテトラ-アザポルフィリン化合物は、テトラ-アザポルフィリンコアの中心に結合した4価の金属原子Mを有し、
この際、Mは、(a)式IIIに示すように2つの1価のアニオン性リガンドX’およびX”を有する4価の金属原子、または、(b)式IVに示すように二つの1価のアニオン性リガンドX’およびX”を有する4価の金属原子である、デバイス:
【化1】


【化2】


式中、
X’およびX”はそれぞれ独立して、同一であるかまたは異なる二つの1価のアニオン性リガンドであり;並びに
R_(1)、R_(2)、R_(3)、R_(4)、R_(5)、R_(6)、R_(7)およびR_(8)は、それぞれ独立して、Cl原子、Br原子、I原子、At原子、アルキル基、置換されたアルキル基、アルケニル基、置換されたアルケニル基、アルキニル基、置換されたアルキニル基、シクロアルキル基、置換されたシクロアルキル基、シクロアルケニル基、置換されたシクロアルケニル基、シクロアルキニル基、置換されたシクロアルキニル基、アリール基、置換されたアリール基、ヘテロ環基、置換されたヘテロ環基、および前記テトラ-アザポルフィリンコアのピロール環またはジヒドロピロール環のβ炭素結合原子を含む化学基からなる群より選択され、この際、前記β炭素結合原子は、N、O、Sからなる群より選択され、
この際、前記デバイスが有機太陽電池である。
【請求項2】
置換されたアルキル基が、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、シクロアルコキシ基、シクロアルケニルオキシ基、シクロアルキニルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、シクロアルキルカルボニルオキシ基、シクロアルケニルカルボニルオキシ基、シクロアルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、チオール基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、シクロアルケニルチオ基、シクロアルキニルチオ基、アリールチオ基、ホルミル基、アシル基、カルバモイル基、アミノ基、少なくとも一つのアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、N-アシル-N-アルキルアミノ基、N-アシル-N-アルケニルアミノ基、N-アシル-N-アルキニルアミノ基、N-アシル-N-シクロアルキルアミノ基、N-アシル-N-シクロアルケニルアミノ基、N-アシル-N-アリールアミノ基、ニトロ基、ヘテロ環基およびハロゲン原子からなる群より独立して選択される少なくとも一つのラジカルを有する置換されたアルキル基であり;
置換されたアルケニル基が、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、シクロアルコキシ基、シクロアルケニルオキシ基、シクロアルキニルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、シクロアルキルカルボニルオキシ基、シクロアルケニルカルボニルオキシ基、シクロアルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、チオール基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、シクロアルケニルチオ基、シクロアルキニルチオ基、アリールチオ基、ホルミル基、アシル基、カルバモイル基、アミノ基、少なくとも一つのアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、N-アシル-N-アルキルアミノ基、N-アシル-N-アルケニルアミノ基、N-アシル-N-アルキニルアミノ基、N-アシル-N-シクロアルキルアミノ基、N-アシル-N-シクロアルケニルアミノ基、N-アシル-N-アリールアミノ基、ニトロ基、ヘテロ環基およびハロゲン原子からなる群より独立して選択される少なくとも一つのラジカルを有する置換されたアルケニル基であり;
置換されたアルキニル基が、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、シクロアルコキシ基、シクロアルケニルオキシ基、シクロアルキニルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、シクロアルキルカルボニルオキシ基、シクロアルケニルカルボニルオキシ基、シクロアルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、チオール基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、シクロアルケニルチオ基、シクロアルキニルチオ基、アリールチオ基、ホルミル基、アシル基、カルバモイル基、アミノ基、少なくとも一つのアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、N-アシル-N-アルキルアミノ基、N-アシル-N-アルケニルアミノ基、N-アシル-N-アルキニルアミノ基、N-アシル-N-シクロアルキルアミノ基、N-アシル-N-シクロアルケニルアミノ基、N-アシル-N-アリールアミノ基、ニトロ基、ヘテロ環基およびハロゲン原子からなる群より独立して選択される少なくとも一つのラジカルを有する置換されたアルキニル基であり;
置換されたシクロアルキル基が、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、シクロアルコキシ基、シクロアルケニルオキシ基、シクロアルキニルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、シクロアルキルカルボニルオキシ基、シクロアルケニルカルボニルオキシ基、シクロアルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、チオール基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、シクロアルケニルチオ基、シクロアルキニルチオ基、アリールチオ基、ホルミル基、アシル基、カルバモイル基、アミノ基、少なくとも一つのアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、N-アシル-N-アルキルアミノ基、N-アシル-N-アルケニルアミノ基、N-アシル-N-アルキニルアミノ基、N-アシル-N-シクロアルキルアミノ基、N-アシル-N-シクロアルケニルアミノ基、N-アシル-N-アリールアミノ基、ニトロ基、ヘテロ環基およびハロゲン原子からなる群より独立して選択される少なくとも一つのラジカルを有する置換されたシクロアルキル基であり;
置換されたシクロアルケニル基が、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、シクロアルコキシ基、シクロアルケニルオキシ基、シクロアルキニルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、シクロアルキルカルボニルオキシ基、シクロアルケニルカルボニルオキシ基、シクロアルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、チオール基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、シクロアルケニルチオ基、シクロアルキニルチオ基、アリールチオ基、ホルミル基、アシル基、カルバモイル基、アミノ基、少なくとも一つのアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、N-アシル-N-アルキルアミノ基、N-アシル-N-アルケニルアミノ基、N-アシル-N-アルキニルアミノ基、N-アシル-N-シクロアルキルアミノ基、N-アシル-N-シクロアルケニルアミノ基、N-アシル-N-アリールアミノ基、ニトロ基、ヘテロ環基およびハロゲン原子からなる群より独立して選択される少なくとも一つのラジカルを有する置換されたシクロアルケニル基であり;
置換されたシクロアルキニル基が、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、シクロアルコキシ基、シクロアルケニルオキシ基、シクロアルキニルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、シクロアルキルカルボニルオキシ基、シクロアルケニルカルボニルオキシ基、シクロアルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、チオール基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、シクロアルケニルチオ基、シクロアルキニルチオ基、アリールチオ基、ホルミル基、アシル基、カルバモイル基、アミノ基、少なくとも一つのアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、N-アシル-N-アルキルアミノ基、N-アシル-N-アルケニルアミノ基、N-アシル-N-アルキニルアミノ基、N-アシル-N-シクロアルキルアミノ基、N-アシル-N-シクロアルケニルアミノ基、N-アシル-N-アリールアミノ基、ニトロ基、ヘテロ環基およびハロゲン原子からなる群より独立して選択される少なくとも一つのラジカルを有する置換されたシクロアルキニル基であり;
置換されたアリール基が、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、シクロアルコキシ基、シクロアルケニルオキシ基、シクロアルキニルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、シクロアルキルカルボニルオキシ基、シクロアルケニルカルボニルオキシ基、シクロアルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、チオール基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、シクロアルケニルチオ基、シクロアルキニルチオ基、アリールチオ基、ホルミル基、アシル基、カルバモイル基、アミノ基、少なくとも一つのアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、N-アシル-N-アルキルアミノ基、N-アシル-N-アルケニルアミノ基、N-アシル-N-アルキニルアミノ基、N-アシル-N-シクロアルキルアミノ基、N-アシル-N-シクロアルケニルアミノ基、N-アシル-N-アリールアミノ基、ニトロ基、ヘテロ環基およびハロゲン原子からなる群より独立して選択される少なくとも一つのラジカルを有する置換されたアリール基であり;並びに
置換されたヘテロ環基が、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、シクロアルコキシ基、シクロアルケニルオキシ基、シクロアルキニルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、シクロアルキルカルボニルオキシ基、シクロアルケニルカルボニルオキシ基、シクロアルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、チオール基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、シクロアルケニルチオ基、シクロアルキニルチオ基、アリールチオ基、ホルミル基、アシル基、カルバモイル基、アミノ基、少なくとも一つのアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基で置換されたアミノ基、アシルアミノ基、N-アシル-N-アルキルアミノ基、N-アシル-N-アルケニルアミノ基、N-アシル-N-アルキニルアミノ基、N-アシル-N-シクロアルキルアミノ基、N-アシル-N-シクロアルケニルアミノ基、N-アシル-N-アリールアミノ基、ニトロ基、ヘテロ環基およびハロゲン原子からなる群より独立して選択される少なくとも一つのラジカルを有する置換されたヘテロ環基である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
R_(1)-R_(8)基の少なくとも一つが、アルキル基、置換されたアルキル基、アリール基または置換されたアリール基である、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
R_(1)-R_(8)基の少なくとも一つが、前記テトラ-アザポルフィリンコアのピロール環またはジヒドロピロール環のβ炭素結合原子を含む化学基であり、この際、前記β炭素結合原子がOである、請求項1?3のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項5】
β炭素結合原子としてOを有するR_(1)-R_(8)基の少なくとも一つが、ヒドロキシ、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、シクロアルコキシ、シクロアルケニルオキシ、シクロアルキニルオキシ、アラルキルオキシ、アラルケニルオキシ、アラルキニルオキシ、アリールオキシ、アルキルカルボニルオキシ、アルケニルカルボニルオキシ、アルキニルカルボニルオキシ、ヒロドキシカルボニルオキシまたはアルコキシカルボニルオキシである、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
β炭素結合原子としてOを有するR_(1)-R_(8)基の少なくとも一つが、ヒドロキシまたはアルコキシである、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
R_(1)-R_(8)基の少なくとも一つが、それぞれ独立して、Cl原子、Br原子、I原子およびAt原子からなる群より選択される、請求項1?5のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項8】
R_(1)-R_(8)基の少なくとも一つが、前記テトラ-アザポルフィリンコアのピロール環またはジヒドロピロール環のβ炭素結合原子を含む化学基であり、この際、前記β炭素結合原子がNである、請求項1?7のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項9】
R_(1)-R_(8)基の少なくとも一つが、前記テトラ-アザポルフィリンコアのピロール環またはジヒドロピロール環のβ炭素結合原子を含む化学基であり、この際、前記β炭素結合原子がSである、請求項1?8のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項10】
X’またはX”が、それぞれ独立して、ハロゲン化物、シュードハロゲン化物、アルキル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アラルキルオキシ、アラルケニルオキシ、アラルキニルオキシ、シクロアルキルアルコキシ、シクロアルキルアルケニルオキシ、シクロアルキルアルキニルオキシ、アミド、シクロアルキル、ヘテロ環、ヘテロアリール、シクロアルコキシ、ヘテロ環オキシ、ヘテロアリールオキシ、シクロアルケニルオキシ、シクロアルキニルオキシ、アラルキルオキシ、アラルケニルオキシ、アラルキニルオキシ、アリールオキシ、アルキルカルボニルオキシ、アルケニルカルボニルオキシ、アルキニルカルボニルオキシ、ヒドロキシカルボニルオキシまたはアルコキシカルボニルオキシ、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、モノアリールアミノ、ジアリールアミノ、N-アルキル-N’-アリールアミノ、アシル、アシルオキシ、ニトロ、ヒドロキシ、チオール、アルキルチオ、アルケニルチオ、アルキニルチオ、アラルキルチオ、アラルケニルチオ、アラルキニルチオ、シクロアルキルアルキルチオ、シクロアルケニルアルキルチオ、シクロアルキニルアルキルチオ、シクロアルキルチオ、シクロアルケニルチオ、シクロアルキニルチオおよびアリールチオより選択される、請求項1?9のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項11】
X’またはX”が、それぞれ独立して、ハロゲン化物、シュードハロゲン化物、アルキル、アリール、アルコキシおよびアミドより選択される、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
Mが、ゲルマニウム、スズ、鉛、チタン、マンガン、ジルコニウム、ハフニウム、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、パラジウムおよび白金からなる群より選択される、請求項1?11のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項13】
MがPt、PdまたはIrである、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
二つの電極間に位置し、二つの電極の少なくとも一方に隣接している、少なくとも一つの励起子遮蔽層をさらに含む、請求項1?13のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項15】
前記ドナー物質が、少なくとも一つの式Iで表されるテトラ-アザポルフィリン化合物を含む、請求項1?14のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項16】
前記アクセプタ物質がC_(60)を含む、請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
前記ドナー物質が式(I)で表されるテトラ-アザポルフィリン化合物を含み、前記アクセプタ物質が式(I)で表される他のテトラ-アザポルフィリン化合物を含む、請求項1?14のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項18】
ドナー物質およびアクセプタ物質を準備し、この際、前記ドナー物質は少なくとも一つの式(I)で表されるテトラ-アザポルフィリン化合物を含み、
前記ドナー物質を前記アクセプタ物質と接触させて有機感光性光電子デバイスを製造する、ことを含む、請求項1に記載の有機感光性デバイスの製造方法。」

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
「本件出願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号及び同条6項第1号に規定する要件を満たしていない。



1 本願請求項1に係る発明は、下記「式1」で示される「テトラーアザポルフィリン化合物」を「ドナー物質」または「アクセプタ物質」として含む有機半導体物質を含む、有機感光性光電子デバイスの発明である。
そして、本願請求項2ないし13に係る発明は、「式1」で示される「テトラーアザポルフィリン化合物」において、さらに下記事項に関し非常に多くの選択肢を示して特定するものである。
(1)テトラ-アザポルフィリンコアの中心に結合した4価の金属原子M(請求項12及び13)
(2)当該金属原子Mが有するアニオン性リガンド(請求項10及び11)
(3)テトラーアザポルフィリン化合物のR_(1)ないしR_(8)として選択される化学基(請求項2ないし9)
【化1】


2 本願発明の解決すべき課題について
(1)本願明細書には、本願発明の解決すべき課題について、段落【0020】に下記の記載がある(下線は当審が付した。)。
「(式中、P_(0)は入射光量(incident optical power)である)を用いて、開放端電圧(open circuit voltage、「Voc」)、短絡回路電流密度(short-circuit current density、「J_(sc)」)、および曲線因子(fill factor、「FF」)に依存する。ここで、FFは直列抵抗に依存し、一般的には、高性能の低分子有機太陽光発電では0.5から0.65の間である。最大J_(sc)は、有機物の吸収と太陽スペクトルの間の重なりおよび減衰係数と吸収する層の厚みと他の因子などによって決定される。しかしながら、電荷流量の抵抗性が電池性能の重要な課題を示すため、光電流は物質の電荷輸送特性に高く依存している。電池性能を参照した場合、他の重要なパラメーターは、励起子拡散長さだと考えられる。物質の励起子拡散長さは、励起子が再結合の前に動くことができる距離を表す。したがって、吸収した光子によって作られる励起子の数に比較して、電荷キャリアのパーセントを高めるためには、励起子をヘテロ接合のLD内で、形成することが好ましい。励起子拡散長さ(LD)は、励起子拡散係数(D)および励起子寿命(τ)に関係し、LD=√Dτで表される。有機半導体の励起子拡散長さは、一般的に、光吸収長さLAと比較して短い。したがって、励起子は、電荷分離のためにドナー-アクセプタ界面に達する能力が相対的に低いため、用いられる有機層の厚みを制限する。この効果は、吸収する物質の量を制限するだけでなく、効率的な光変換のためには望ましくない分離した電荷の抵抗経路を作る。」

(2)上記(1)によれば、本願発明の解決すべき課題の1つは、有機感光性光電子デバイスの有機半導体物質において、効率的な光変換ができる、「ドナー物質」または「アクセプタ物質」としての「テトラーアザポルフィリン化合物」を得ることにあると解することができる。

3 ここで、化合物(テトラーアザポルフィリン化合物)を製造するに際し、どのような反応条件を設定すればどのような結果が得られるのか、及び、得られた化合物がどのような作用を有するのかを予測することは困難であるところ、本願明細書には、上記式(I)の化合物(テトラーアザポルフィリン化合物)を実際に製造し、どのような作用を示すかを確認した実施例が何ら記載されていない。
また、本願特許請求の範囲に記載された「テトラーアザポルフィリン化合物」を用いて、有機感光性光電子デバイスの構成となし、有機感光性光電子デバイスとして機能した、あるいは、その効率等の実施例、実験例が何ら記載されていない。

4 一般に、『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人…が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。

また、一般に『いわゆる化学物質の発明は,新規で,有用,すなわち産業上利用できる化学物質を提供することにその本質が存するから,その成立性が肯定されるためには,化学物質そのものが確認され,製造できるだけでは足りず,その有用性が明細書に開示されていることを必要とする。』とされている〔平成20年(行ケ)10483号判決参照。〕。

5 判断
(1)本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項1ないし13に係る発明の式(I)を有する化合物(テトラーアザポルフィリン化合物)の具体的な実施例あるいは実験例についての記載が存在しない。

(2)このため、本願明細書の発明の詳細な説明の記載によっては、本願請求項1ないし13に係る発明の式(I)の化学構造を有する化合物(テトラーアザポルフィリン化合物)そのものが実際に確認され、その化合物が実際に製造でき、かつ、本願の課題を解決できるものができたことまでもが実質的に裏付けられているとは認められない。

(3)そして、一般に化学物質の発明の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり、試験してみなければ判明しないのが当業者にとっての技術常識であるところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、実際に試験を行った具体例が何ら記載されていないので、本願請求項1ないし13に記載された事項により特定されるとおりのもの全てが、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が上記2の発明の課題を解決できると認識できるものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本願優先日当時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるものであるとも認められない。

(4)化合物の技術分野における技術常識
そもそも、化合物の技術分野においては、類似する骨格構造を有していても、置換基の種類や置換位置の違いにより実際には所望の作用を有する化合物は得られない場合もあることは良く知られたことである。
したがって、本願優先日当時の技術常識を斟酌するに、本願の明細書及び図面の記載並びに本願優先日当時の技術常識に基づき当業者が本願請求項1ないし13に係る発明の式(I)の化学構造を有する化合物を製造するには、過度の試行錯誤を強いると認められる。

(5)また、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項1ないし13に係る発明の式(I)を有する化合物を実際に製造し、効果を確認した実施例が何ら記載されていないので、本願の発明の詳細な説明の記載及び本願優先日当時の技術常識を参照しても、本願請求項1ないし13に係る発明の全てが、上記2の本願所定の課題を解決できると当業者が認識できるものであるとは認められない。

6 結論
(1)上記1ないし5によれば、本願請求項1ないし13に係る発明の化合物(テトラーアザポルフィリン化合物)のすべてが、本願発明の解決すべき課題である、有機感光性光電子デバイスの有機半導体物質において、効率的な光変換ができる、「ドナー物質」または「アクセプタ物質」としての「テトラーアザポルフィリン化合物」ということはできず、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項1に記載された式(I)を有する化合物(テトラーアザポルフィリン化合物)を実際に製造し、効果を確認した実施例が何ら記載されていないので、本願の発明の詳細な説明の記載及び本願優先日当時の技術常識を参照しても、本願請求項1ないし13に係る発明の全てが、本願所定の課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。
また、本願請求項14ないし18に係る発明についても、同様である。
したがって、本願請求項1ないし18は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載した範囲のものではないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

(2)また、上記1ないし5によれば、本願請求項1ないし13に係る発明の化合物(テトラーアザポルフィリン化合物)を合成するに際し、当業者は過度の試行錯誤を要するものと認められるから、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1ないし13に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
また、本願請求項14ないし18に係る発明についても、同様である。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願請求項1ないし18に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」

第4 平成28年5月24日付けで請求人が提出した意見書の概要
「(1)記載不備に対する対処
・・・実施可能要件について、本願出願人は、上記ご認定に対して、本願明細書には、請求項に記載の化合物に関して、当業者が当該化合物を容易に理解でき、またどのように当該化合物を製造するのかを理解できるように開示されていると考えております。
例えば、本願明細書の段落『0099』?『0101』には、以下のように記載されております。
式(I)で表されるテトラ-アザポルフィリン化合物は、公知の化学合成方法によって製造されうる。例えば、テトラ-アザポルフィリン化合物は以下に示す反応スキームにより合成されうる。この際、R1-R8基はR基によって一般的に示されている。


テトラ-アザポルフィリンの合成は、R基および金属塩に依存して、無溶媒反応としてまたはブタノール中で、フマロニトリル(E)誘導体またはマレオニトリル(Z)誘導体(種々のR基)のいずれかとの金属塩(上記に記載)の反応を含む。次いで、沈殿物を酢酸中で温浸および洗浄するか、または単に溶媒を用いて洗浄する。フタロシアニン化合物は、ジシアノベンゼン誘導体を出発原料として同1条件下で合成される。例えば、Mashenkov, V. A. et al. Zhurnal Prikladnoi Spektroskopii, 1974, 21(1), 73-81; Fitzgerald, Jeffery et al. Synthesis, 1991, 9, 686-688; Chizhova, N. V.; Khelevina, O. G.; Berezin, B. D. Russian Journal of General Chemistry 2003, 73(10), 1645-1647を参照。
したがって、上記ご認定とは異なり、本願明細書には、本願発明の化合物をどのように製造するのかについて、当業者が理解できるように開示しております。拒絶理由において、なぜ請求項に記載の化合物の製造に試行錯誤を必要とするのか、明確に指摘されておらず、過度の試行錯誤についてもなおさら指摘されていないと思われます。一方、上記のとおり、本願明細書には少なくとも4つの参考文献を記載しており、これらの参考文献には、『同1条件下で』合成されることが記載されており、したがって、この種の化合物の合成技術が予測可能であることを示しております。以上より、本願明細書の記載から、当業者が、『公知の化学的方法』によって、どのように本願請求項に記載の化合物を製造するのかについて理解できるであろうと思われます。また、拒絶理由において、これらの合成を行うに際し、当業者が有する十分な技術水準を認定されていないものと思料いたします。
次に、サポート要件について、拒絶理由では、メカニズム(どのように本発明の課題を解決するのか)および本発明の効果が本願明細書に記載されていないことが認定されていると思われます。
本願出願人は、上記認定について承服いたしかねます。
本願発明は、新規の有機感光性光電子デバイスに関するものであります。特に、本願発明は、とりわけ、有機太陽電池におけるドナー物質としてのテトラ-アザポルフィリン化合物および/またはアクセプタ物質の使用に関するものであります。上述のとおり、本願明細書には、どのように本願発明の化合物を製造するのかについて記載されており、さらに当業者が参照できるように、公知の化学的合成法についても記載されております。
本願明細書の段落『0014』には、『キャリア移動度および相対的なHOMOおよびLUMO準位に基づき、光電ヘテロ接合でドナーおよびアクセプタとして機能する二つの有機光導電性物質を対にする方法は、従来よく知られており、ここでは説明しない』、および段落『0017』には、『有機感光性デバイスの技術水準のさらなる背景説明および記述のために、それらの一般的な構造、性質、材料および特徴を含む、Forrestらの米国特許第6,657,378号明細書、Forrestらの米国特許第6,580,027号明細書およびBulovicらの米国特許第6,352,777号明細書を参照によりここに組み入れる』と記載されております。
加えて、本願明細書には、『ドナー物質がアクセプタ物質を接触させて』新規性かつ進歩性を有する有機感光性光デバイスを製造することについて記載しております(段落『0090』?『0098』)。したがって、本願明細書には、当業者が理解しうる、キャリア移動度ならびにHOMOおよびLUMOレベルの原理によって、請求項に記載の有機太陽電池におけるドナーおよび/またはアクセプタ物質としての、請求項に記載のテトラ-アザポルフィリン化合物およびその使用について、明確に記載されていると思われます。
4.むすび
以上述べましたように、本意見書と同日付で提出した手続補正書により補正をいたしましたので、拒絶理由は解消したものと確信いたします。
よって、本意見書と同日付で提出した手続補正書によりご審査のうえ、特許査定を賜わりますようお願い申し上げます。」

第5 本願特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしていないことについて
1 上記第2によれば、本願発明は、「テトラ-アザポルフィリン化合物」に関するものであって、
当該テトラ-アザポルフィリン化合物は、
(1)「前記第1の有機半導体物質が前記第2の有機半導体物質に対する少なくとも一つのドナー物質を含み、前記第2の有機半導体物質が少なくとも一つのアクセプタ物質を含むか、または、前記第1の有機半導体物質が前記第2の有機半導体物質に対する少なくとも一つのアクセプタ物質を含み、前記第2の有機半導体物質が少なくとも一つのドナー物質を含み、この際、前記ドナー物質および前記アクセプタ物質の少なくとも一つ」である(以下、「要件1」という。)。

(2)「少なくとも一つの式Iで表され」、「テトラ-アザポルフィリンコアの中心に結合した4価の金属原子Mを有し」、「この際、Mは、(a)式IIIに示すように2つの1価のアニオン性リガンドX’およびX”を有する4価の金属原子、または、(b)式IVに示すように二つの1価のアニオン性リガンドX’およびX”を有する4価の金属原子である」(以下、「要件2」という。)。

(3)「式(III、IV)中、X’およびX”はそれぞれ独立して、同一であるかまたは異なる二つの1価のアニオン性リガンドであ」る(以下、「要件3」という。)。

(4)「式(I、III、IV)中、R_(1)、R_(2)、R_(3)、R_(4)、R_(5)、R_(6)、R_(7)およびR_(8)は、それぞれ独立して、Cl原子、Br原子、I原子、At原子、アルキル基、置換されたアルキル基、アルケニル基、置換されたアルケニル基、アルキニル基、置換されたアルキニル基、シクロアルキル基、置換されたシクロアルキル基、シクロアルケニル基、置換されたシクロアルケニル基、シクロアルキニル基、置換されたシクロアルキニル基、アリール基、置換されたアリール基、ヘテロ環基、置換されたヘテロ環基、および前記テトラ-アザポルフィリンコアのピロール環またはジヒドロピロール環のβ炭素結合原子を含む化学基からなる群より選択され、この際、前記β炭素結合原子は、N、O、Sからなる群より選択され」る(以下、「要件4」という。)。

(5)「(i)少なくとも一方が透明である第1電極および第2電極と、
(ii)前記第1電極と前記第2電極との間に配置され、
(a)第1の有機半導体物質、および
(b)第2の有機半導体物質
を含む有機光活性物質と、
を含む、有機感光性光電子デバイスであって、
この際、前記第1の有機半導体物質が前記第2の有機半導体物質と直接接触」する、デバイス:
この際、前記デバイスが有機太陽電池である」(以下、「要件5」という。)。

2 本願明細書の記載について
(1)本願明細書には、上記要件2に関して、下記の記載がある。
「【0081】
Mの例としては、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、タングステン、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、銀および金が挙げられる。
【0082】
本発明の感光性光電子デバイスの実施形態のいくつかにおいて、MはAlではない。
【0083】
本発明の感光性光電子デバイスの実施形態のいくつかにおいて、MはPt、PdまたはIrである。好ましくは、Mは、PtまたはPdである。より好ましくは、MはPtである。」

(2)本願明細書には、上記要件3に関して、下記の記載がある。
「【0039】
「1価のアニオン性リガンド」(monoanionic ligand)の例としては、ハロゲン化物、シュードハロゲン化物、アルキル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アラルキルオキシ、アラルケニルオキシ、アラルキニルオキシ、シクロアルキルアルコキシ、シクロアルキルアルケニルオキシ、シクロアルキルアルキニルオキシ、アミド、シクロアルキル、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、シクロアルコキシ、ヘテロシクリルオキシ、ヘテロアリールオキシ、シクロアルケニルオキシ、シクロアルキニルオキシ、アラルキルオキシ、アラルケニルオキシ、アラルキニルオキシ、アリールオキシ、アルキルカルボニルオキシ、アルケニルカルボニルオキシ、アルキニルカルボニルオキシ、ヒドロキシカルボニルオキシまたはアルコキシカルボニルオキシ、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、モノアリールアミノ、ジアリールアミノ、N-アルキル-N’-アリールアミノ、アシル、アシルオキシ、ニトロ、ヒドロキシ、チオール、アルキルチオ、アルケニルチオ、アルキニルチオ、アラルキルチオ、アラルケニルチオ、アラルキニルチオ、シクロアルキルアルキルチオ、シクロアルケニルアルキルチオ、シクロアルキニルアルキルチオ、シクロアルキルチオ、シクロアルケニルチオ、シクロアルキニルチオおよびアリールチオが挙げられる。」

3 本願発明について
(1)本願発明の発明特定事項「M」に関して、本願発明書では、「4価の金属原子」とのみ特定されるところ、上記2(1)によれば、本願明細書では、金属として、「アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、タングステン、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、銀および金」が例示されている。

(2)本願発明の発明特定事項「X’」及び「X”」に関して、本願発明では、「独立して、同一であるかまたは異なる二つの1価のアニオン性リガンド」とのみ特定されるところ、上記(2)イによれば、本願明細書では、1価のアニオン性リガンドとして、「ハロゲン化物、シュードハロゲン化物、アルキル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アラルキルオキシ、アラルケニルオキシ、アラルキニルオキシ、シクロアルキルアルコキシ、シクロアルキルアルケニルオキシ、シクロアルキルアルキニルオキシ、アミド、シクロアルキル、ヘテロシクリル、ヘテロアリール、シクロアルコキシ、ヘテロシクリルオキシ、ヘテロアリールオキシ、シクロアルケニルオキシ、シクロアルキニルオキシ、アラルキルオキシ、アラルケニルオキシ、アラルキニルオキシ、アリールオキシ、アルキルカルボニルオキシ、アルケニルカルボニルオキシ、アルキニルカルボニルオキシ、ヒドロキシカルボニルオキシまたはアルコキシカルボニルオキシ、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、モノアリールアミノ、ジアリールアミノ、N-アルキル-N’-アリールアミノ、アシル、アシルオキシ、ニトロ、ヒドロキシ、チオール、アルキルチオ、アルケニルチオ、アルキニルチオ、アラルキルチオ、アラルケニルチオ、アラルキニルチオ、シクロアルキルアルキルチオ、シクロアルケニルアルキルチオ、シクロアルキニルアルキルチオ、シクロアルキルチオ、シクロアルケニルチオ、シクロアルキニルチオおよびアリールチオ」が例示されている。

(3)本願発明の発明特定事項「R_(1)」、「R_(2)」、「R_(3)」、「R_(4)」、「R_(5)」、「R_(6)」、「R_(7)」および「R_(8)」として、本願発明では、「それぞれ独立して、Cl原子、Br原子、I原子、At原子、アルキル基、置換されたアルキル基、アルケニル基、置換されたアルケニル基、アルキニル基、置換されたアルキニル基、シクロアルキル基、置換されたシクロアルキル基、シクロアルケニル基、置換されたシクロアルケニル基、シクロアルキニル基、置換されたシクロアルキニル基、アリール基、置換されたアリール基、ヘテロ環基、置換されたヘテロ環基、および前記テトラ-アザポルフィリンコアのピロール環またはジヒドロピロール環のβ炭素結合原子を含む化学基からなる群より選択され、この際、前記β炭素結合原子は、N、O、Sからなる群より選択され」、8つのRそれぞれ独立して選ぶものとされる。

(4)そうすると、本願発明及び本願明細書によれば、発明特定事項「M」、発明特定事項「X’」及び「X”」、並びに、発明特定事項「R_(1)」、「R_(2)」、「R_(3)」、「R_(4)」、「R_(5)」、「R_(6)」、「R_(7)」および「R_(8)」に関してそれぞれ多数例示されるから、本願発明は、「テトラ-アザポルフィリン化合物」として、これら多数の発明特定事項から選択して組み合わせた、膨大な数の種類の「テトラ-アザポルフィリン化合物」を含むものであると理解される。

(5)しかしながら、本願明細書及び図面をみても、これら本願発明が特定事項とする、数多くの種類の「テトラ-アザポルフィリン化合物」の全てが、有機半導体物質に対する少なくとも一つのアクセプタ物質ないしドナー物質として作用する(要件1)とともにデバイスが有機太陽電池として機能する(要件5)ことを示す実施例、実験例が何ら記載されていない。
請求人は、意見書(上記第4)で、「テトラ-アザポルフィリン化合物は、公知の化学合成方法によって製造されうる」ものであると主張するが、要件2ないし4の発明特定事項により特定されるテトラ-アザポルフィリン化合物の全てが、有機半導体物質に対する少なくとも一つのアクセプタ物質ないしドナー物質として作用する(要件1)とともにデバイスが有機太陽電池として機能する(要件5)ことは示していない。
また、要件2ないし4の発明特定事項により特定されるテトラ-アザポルフィリン化合物が、有機半導体物質に対する少なくとも一つのアクセプタ物質ないしドナー物質として作用する(要件1)とともにデバイスが有機太陽電池として機能する(要件5)ことまでが本願優先日当時の技術常識であったとまではいえない。
つまり、「テトラ-アザポルフィリン化合物は、公知の化学合成方法によって製造されうる」ものであっても、得られたテトラーアザポルフィリン化合物のそれぞれがどのような作用を有するのかを予測することは困難であるところ、本願明細書には、上記式(I)の化合物(テトラーアザポルフィリン化合物)の全てについてどのような作用を示すかを確認した実施例が何ら記載されていない。
したがって、上記「第2 当審拒絶理由の概要」「3」の拒絶理由は、意見書(上記第4)を参酌しても依然解消されない。

(6)以上(1)ないし(5)での検討によれば、本願発明1は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載した範囲のものではないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(7)以上(1)ないし(5)での検討によれば、本願発明1の化合物(テトラーアザポルフィリン化合物)のどの化合物(テトラーアザポルフィリン化合物)が、有機半導体物質に対する少なくとも一つのアクセプタ物質ないしドナー物質として作用する(要件1)とともにデバイスが有機太陽電池として機能する(要件5)のかが分からないから、本願発明1の実施にあたっては、膨大な数の種類の「テトラーアザポルフィリン化合物」の1つ1つの作用を確認する必要がある。
すると、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

4 請求人の意見書での主張の「4.むすび」について
請求人は、意見書(上記第4)の「4.むすび」において、「以上述べましたように、本意見書と同日付で提出した手続補正書により補正をいたしましたので、拒絶理由は解消したものと確信いたします。よって、本意見書と同日付で提出した手続補正書によりご審査のうえ、特許査定を賜わりますようお願い申し上げます。」と主張する。
しかしながら、「本意見書」(平成28年5月24日付け)と同日付で、「手続補正書」は提出されていない。また、当審拒絶理由の応答期間内に「手続補正書」は提出されていない。
さらに、意見書の内容をみても、当該「手続補正書」の補正に基づく主張は「4.むすび」以外にないから、上記「手続補正書」に係る請求人の主張は採用できない。

5 まとめ
以上によれば、本願発明が本願明細書の発明の詳細な説明に記載されているものとは認められないから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願の発明の詳細な説明は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。
よって、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-04 
結審通知日 2016-08-09 
審決日 2016-08-23 
出願番号 特願2010-529131(P2010-529131)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (H01L)
P 1 8・ 537- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 俊彦  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 松川 直樹
森林 克郎
発明の名称 テトラ-アザポルフィリンを含む有機感光性光電子デバイス  
代理人 八田国際特許業務法人  
代理人 八田国際特許業務法人  

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