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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 6項4号請求の範囲の記載形式不備  H01L
管理番号 1323447
異議申立番号 異議2015-700276  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-07 
確定日 2016-10-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5730484号発明「厚みのある擬似格子整合型の窒化物エピタキシャル層」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5730484号の特許請求の範囲を,平成28年5月16日付け訂正請求書に添付され平成28年7月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?9〕,〔10?20〕,〔21?25〕及び〔26?30〕について訂正することを認める。 特許第5730484号の請求項1?7,9?23,25?28,30に係る特許を維持する。 特許第5730484号の請求項8,24,29に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5730484号の請求項1ないし30に係る特許についての出願は,平成20年1月25日に特許出願され,平成27年4月17日にその特許権の設定登録がされ,その後,平成27年12月7日に,その特許について,特許異議申立人 星 正美 により特許異議の申立てがなされ,平成28年2月9日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である同年5月16日に意見書の提出及び訂正の請求があり,同年6月14日付けで訂正拒絶理由が通知され,その指定期間内である同年7月11日に意見書の提出及び手続補正書並びに訂正特許請求の範囲の提出があったものである。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
平成28年7月11日付け手続補正書により補正された,平成28年5月16日付け訂正請求書(以下「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のアないしチのとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記窒化アルミニウム単結晶基板上にエピタキシャル成長させた少なくとも1つの擬似格子整合型の膜であって,AlN,GaN,InN又はそれらの任意の二元若しくは三元の合金の組合せの少なくとも1つを含む少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「前記窒化アルミニウム単結晶基板上の少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜であって,AlN,GaN,InN又はそれらの任意の二元若しくは三元の合金の組合せの少なくとも1つを含む少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(請求項1の記載を引用する請求項2?7及び9も同様に訂正する),同請求項1に「前記少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」(3箇所)と記載されているのをいずれも,「前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(請求項1の記載を引用する請求項2?7及び9も同様に訂正する),同請求項1に「当該少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「当該少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(請求項1の記載を引用する請求項2?7及び9も同様に訂正する),請求項2に「前記少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(請求項2の記載を引用する請求項3?7及び9も同様に訂正する),請求項3に「前記少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(請求項3の記載を引用する請求項4?7及び9も同様に訂正する),請求項4に「前記少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(請求項4の記載を引用する請求項5?7及び9も同様に訂正する),請求項5に「前記少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(請求項5の記載を引用する請求項6?7及び9も同様に訂正する),請求項6に「前記少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」2箇所)と記載されているのをいずれも,「前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(請求項6の記載を引用する請求項7及び9も同様に訂正する),同請求項6に「該少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「該少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(請求項6の記載を引用する請求項7及び9も同様に訂正する),請求項7に「前記少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(請求項7の記載を引用する請求項9も同様に訂正する),同請求項7に「該少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「該少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(請求項7の記載を引用する請求項9も同様に訂正する),請求項9に「前記少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「貫通転移密度」(2箇所)と記載されているのをいずれも,「貫通転位密度」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?7及び9も同様に訂正する)。

ウ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

エ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9に「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項1から8のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造」と記載されているのを,「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造」に訂正する。

オ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10に「貫通転移密度」(2箇所)と記載されているのをいずれも,「貫通転位密度」に訂正する(請求項10の記載を引用する請求項11?20も同様に訂正する)。

カ 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項16に「前記擬似格子整合型の膜の堆積の際のトリメチルガリウムの初期流量が,トリメチルガリウムの最終流量より大きい」と記載されているのを,「前記擬似格子整合型の膜の堆積の際のトリメチルガリウムの初期流量が,トリメチルガリウムの最終流量より小さい」に訂正する(請求項16の記載を引用する請求項17?20も同様に訂正する)。

キ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項17に「前記窒化アルミニウム単結晶基板が,10μm×10μmの面積に対して約0.5nm,未満のRMS表面粗さ,約0.3°?4°の表面の配向ずれ,及び約10^(4)cm^(-2)未満の貫通転位密度を有する」と記載されているのを,「前記窒化アルミニウム単結晶基板が,10μm×10μmの面積に対して0.5nm未満のRMS表面粗さ,0.3°?4°の表面の配向ずれ,及び10^(4)cm^(-2)未満の貫通転位密度を有する」に訂正する(請求項17の記載を引用する請求項18?20も同様に訂正する)。

ク 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項18に「前記擬似格子整合型の膜の貫通転位密度が,前記窒化アルミニウム単結晶基板の貫通転位密度にほぼ等しい」と記載されているのを,「前記擬似格子整合型の膜の貫通転位密度が,前記窒化アルミニウム単結晶基板の貫通転位密度に等しい」に訂正する(請求項18の記載を引用する請求項19及び20も同様に訂正する)。

ケ 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項21に「前記窒化アルミニウム単結晶基板上にエピタキシャル成長させた少なくとも1つの擬似格子整合型の膜であって,AlN,GaN,InN又はそれらの任意の二元若しくは三元の合金の組合せの少なくとも1つを含む少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「前記窒化アルミニウム単結晶基板上の少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜であって,AlN,GaN,InN又はそれらの任意の二元若しくは三元の合金の組合せの少なくとも1つを含む少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(請求項21の記載を引用する請求項22,23及び25も同様に訂正する),同請求項21に「前記少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」(3箇所)と記載されているのをいずれも,「前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(請求項21の記載を引用する請求項22,23及び25も同様に訂正する),同請求項21に「当該少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「当該少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(請求項21の記載を引用する請求項22,23及び25も同様に訂正する),請求項22に「前記少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(請求項22の記載を引用する請求項23及び25も同様に訂正する),請求項23に「前記少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(請求項23の記載を引用する請求項25も同様に訂正する),請求項25に「前記少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正する。

コ 訂正事項12
特許請求の範囲の請求項21に「貫通転移密度」(2箇所)と記載されているのをいずれも,「貫通転位密度」に訂正する(請求項21の記載を引用する請求項22,23,及び25も同様に訂正する)。

サ 訂正事項14
特許請求の範囲の請求項24を削除する。

シ 訂正事項15
特許請求の範囲の請求項25に「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項21から24のいずれか一項に記載のデバイス」と記載されているのを,「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項21から23のいずれか一項に記載のデバイス」に訂正する。

ス 訂正事項16
特許請求の範囲の請求項26に「前記窒化アルミニウム単結晶基板上にエピタキシャル成長させた複数の擬似格子整合型の膜であって,前記複数の擬似格子整合型の膜の各々が,AlN,GaN,InN又はそれらの任意の二元若しくは三元の合金の組合せの少なくとも1つを含む,複数の擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「前記窒化アルミニウム単結晶基板上の複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜であって,前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜の各々が,AlN,GaN,InN又はそれらの任意の二元若しくは三元の合金の組合せの少なくとも1つを含む,複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(訂正事項18に係る訂正により請求項26の記載を引用することになる請求項27,並びに請求項26の記載を引用する請求項28及び30も同様に訂正する),同請求項26に「前記複数の擬似格子整合型の膜」(3箇所)と記載されているのをいずれも,「前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(訂正事項18に係る訂正により請求項26の記載を引用することになる請求項27,並びに請求項26の記載を引用する請求項28及び30も同様に訂正する),同請求項26に「当該複数の擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「当該複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(訂正事項18に係る訂正により請求項26の記載を引用することになる請求項27,並びに請求項26の記載を引用する請求項28及び30も同様に訂正する),請求項27に「前記複数の擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(請求項27を引用する請求項28及び30も同様に訂正する),請求項28に「前記複数の擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し(請求項28を引用する請求項30も同様に訂正する),請求項30に 「前記複数の擬似格子整合型の膜」と記載されているのを,「前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正する。

セ 訂正事項17
特許請求の範囲の請求項26に「貫通転移密度」(2箇所)と記載されているのをいずれも,「貫通転位密度」に訂正する(訂正事項18に係る訂正により請求項26の記載を引用することになる請求項27,並びに請求項26の記載を引用する請求項28及び30も同様に訂正する)。

ソ 訂正事項18
特許請求の範囲の請求項27に「請求項28に記載のデバイス」と記載されているのを,「請求項26に記載のデバイス」に訂正する(請求項27の記載を引用する請求項28及び30も同様に訂正する)。

タ 訂正事項20
特許請求の範囲の請求項29を削除する。

チ 訂正事項21
特許請求の範囲の請求項30に「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項26からう29のいずれか一項に記載のデバイス」と記載されているのを,「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項26から28のいずれか一項に記載のデバイス」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否,一群の請求項,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正事項1
訂正事項1は,訂正前の請求項1に記載されていた「前記窒化アルミニウム単結晶基板上にエピタキシャル成長させた少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」を「前記窒化アルミニウム単結晶基板上の少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し,これに合わせて,同請求項1の余の部分及び請求項2?7及び9における引用箇所を訂正するものである。訂正事項1は,「エピタキシヤル成長させた」という経時的な要素を,単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない記載に訂正することで発明の明確化を図るものであり,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして,訂正事項1は,訂正前の請求項1に記載されていた「前記窒化アルミニウム単結晶基板上にエピタキシャル成長させた少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」を「前記窒化アルミニウム単結晶基板上の少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し,これに合わせて,同請求項1の余の部分及び請求項2?7及び9における引用箇所を訂正するものである。訂正の根拠として,願書に添付した明細書の段落0015は「一態様では,半導体基板200は,AlNを含むか又は本質的にAlNからなっている。半導体基板200の上面210が,その上に1つ以上のエピタキシャル層を堆積させる前に,(例えば化学機械研磨による)平坦化又は洗浄の少なくとも1つによってエピタキシャル成長のために準備(処理)される。次に,半導体基板200上に,歪みエピタキシャル層220を,例えば有機金属気相エピタキシーによって,その予測臨界厚みを超える厚みにまで堆積させる。」と記載している。よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに,訂正事項1は,訂正前の請求項1に記載されていた「前記窒化アルミニウム単結晶基板上にエピタキシャル成長させた少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」を「前記窒化アルミニウム単結晶基板上の少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し,これに合わせて,同請求項1の余の部分及び請求項2?7及び9における引用箇所を訂正するものである。訂正事項1は,「エピタキシャル成長させた」という経時的な要素を,単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない記載に訂正することで発明の明確化を図るものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではない。よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

イ 訂正事項2
訂正事項2は,訂正前の請求項1に記載されていた「貫通転移密度」(2箇所)をいずれも,「貫通転位密度」に訂正し,請求項1の記載を引用する請求項2?7及び9も同様に訂正するものである。訂正事項2は,錯誤による明らかな誤記を訂正するものであり,特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。
そして,訂正事項2は,訂正前の請求項1に記載されていた「貫通転移密度」(2箇所)をいずれも,「貫通転位密度」に訂正し,請求項1の記載を引用する請求項2?7及び9も同様に訂正するものである。訂正の根拠として,願書に添付した明細書の段落0026は,「貫通転位密度」という語を記載している。よって,訂正事項2は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに,訂正事項2は,訂正前の請求項1に記載されていた「貫通転移密度」(2箇所)をいずれも,「貫通転位密度」に訂正し,請求項1の記載を引用する請求項2?7及び9も同様に訂正するものである。訂正事項2は,錯誤による明らかな誤記を訂正するものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。よって,訂正事項2は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 訂正事項4
訂正事項4は,訂正前の請求項8を削除するものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,訂正事項4は,訂正前の請求項8を削除するものであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
さらに,訂正事項4は,訂正前の請求項8を削除するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

エ 訂正事項5
訂正事項5は,訂正前の請求項9に記載されていた「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項1から8のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造」を「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造」に訂正するものであり,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,訂正事項5は,訂正前の請求項9に記載されていた「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項1から8のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造」を「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造」に訂正するものである。訂正の根拠として,願書に添付した特許請求の範囲の請求項9は「前記少なくとも1つの擬似格子整合型の膜上に設けられた緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項1から8のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造。」と記載している。よって,訂正事項5は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに,訂正事項5は,訂正前の請求項9に記載されていた「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項1から8のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造」を「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造」に訂正するものである。訂正事項5は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,発明の課題や解決手段を実質的に変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しない。よって,訂正事項5は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

オ 訂正事項6
訂正事項6は,訂正前の請求項10に記載されていた「貫通転移密度」(2箇所)をいずれも,「貫通転位密度」に訂正し,請求項10の記載を引用する請求項11?20も同様に訂正するものである。訂正事項6は,錯誤による明らかな誤記を訂正するものであり,特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。
そして,訂正事項6は,訂正前の請求項10に記載されていた「貫通転移密度」(2箇所)をいずれも,「貫通転位密度」に訂正し,請求項10の記載を引用する請求項11?20も同様に訂正するものである。訂正の根拠として,願書に添付した明細書の段落0026は,「貫通転位密度」という語を記載している。よって,訂正事項6は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに,訂正事項6は,訂正前の請求項10に記載されていた「貫通転移密度」(2箇所)をいずれも,「貫通転位密度」に訂正し,請求項10の記載を引用する請求項11?20も同様に訂正するものである。訂正事項6は,錯誤による明らかな誤記を訂正するものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。よって,訂正事項6は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

カ 訂正事項8
訂正事項8は,訂正前の請求項16に記載されていた「前記擬似格子整合型の膜の堆積の際のトリメチルガリウムの初期流量が,トリメチルガリウムの最終流量より大きい」を,「前記擬似格子整合型の膜の堆積の際のトリメチルガリウムの初期流量が,トリメチルガリウムの最終流量より小さい」に訂正し,請求項16の記載を引用する請求項17?20も同様に訂正するものである。これらの訂正はいずれも,特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤訳の訂正を目的とするものである。
そして,訂正事項8は,訂正前の請求項16に記載されていた「前記擬似格子整合型の膜の堆積の際のトリメチルガリウムの初期流量が,トリメチルガリウムの最終流量より大きい」を,「前記擬似格子整合型の膜の堆積の際のトリメチルガリウムの初期流量が,トリメチルガリウムの最終流量より小さい」に訂正し,請求項16の記載を引用する請求項17?20も同様に訂正するものである。訂正の根拠として,国際出願日における国際出願(PCT/US2008/001003)の請求の範囲の請求項17は,“17. The method of claim 16, wherein aninitial flow rate of the trimethylgallium during the deposition of the strained layer is lower than a final trimethylgallium flow rate.”(日本語訳:「前記歪み層の堆積の際のトリメチルガリウムの初期流量が,トリメチルガリウムの最終流量より小さい,請求項16に記載の方法。」)と記載している。よって,訂正事項8は,特許法第184条の19の規定により読替えて特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに,訂正事項8は,訂正前の請求項16に記載されていた「前記擬似格子整合型の膜の堆積の際のトリメチルガリウムの初期流量が,トリメチルガリウムの最終流量より大きい」を,「前記擬似格子整合型の膜の堆積の際のトリメチルガリウムの初期流量が,トリメチルガリウムの最終流量より小さい」に訂正し,請求項16の記載を引用する請求項17?20も同様に訂正するものである。訂正事項8は,錯誤による明らかな誤訳を訂正するものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。よって,訂正事項8は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

キ 訂正事項9
訂正事項9は,訂正前の請求項17に記載されていた「前記窒化アルミニウム単結晶基板が,10μm×10μmの面積に対して約0.5nm,未満のRMS表面粗さ,約0.3°?4°の表面の配向ずれ,及び約10^(4)cm^(-2)未満の貫通転位密度を有する」を,「前記窒化アルミニウム単結晶基板が,10μm×10μmの面積に対して0.5nm未満のRMS表面粗さ,0.3°?4°の表面の配向ずれ,及び10^(4)cm^(-2)未満の貫通転位密度を有する」に訂正し,請求項17の記載を引用する請求項18?20も同様に訂正するものである。訂正事項9のうち,「約」(3箇所)の削除は,発明の明確化を図るためのものであり,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。訂正事項9のうち,「,」(句読点)の削除は,特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。
そして,訂正事項9は,訂正前の請求項17に記載されていた「前記窒化アルミニウム単結晶基板が,10μm×10μmの面積に対して約0.5nm,未満のRMS表面粗さ,約0.3°?4°の表面の配向ずれ,及び約10^(4)cm^(-2)未満の貫通転位密度を有する」を,「前記窒化アルミニウム単結晶基板が,10μm×10μmの面積に対して0.5nm未満のRMS表面粗さ,0.3°?4°の表面の配向ずれ,及び10^(4)cm^(-2)未満の貫通転位密度を有する」に訂正し,請求項17の記載を引用する請求項18?20も同様に訂正するものである。訂正の根拠として,願書に添付した明細書の段落0009は「窒化アルミニウム単結晶基板は,10μm×10μmの面積に対して約0.5nmより小さいRMS表面粗さを有し,約0.3°?4°の表面配向のずれ(misiorientation),及び約10^(4)cm^(-2)より小さい貫通転位密度を有していてよい。」と記載している。よって,訂正事項9は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに,訂正事項9は,訂正前の請求項17に記載されていた「前記窒化アルミニウム単結晶基板が,10μm×10μmの面積に対して約0.5nm,未満のRMS表面粗さ,約0.3°?4°の表面の配向ずれ,及び約10^(4)cm^(-2)未満の貫通転位密度を有する」を,「前記窒化アルミニウム単結晶基板が,10μm×10μmの面積に対して0.5nm未満のRMS表面粗さ,0.3°?4°の表面の配向ずれ,及び10^(4)cm^(-2)未満の貫通転位密度を有する」に訂正し,請求項17の記載を引用する請求項18?20も同様に訂正するものである。訂正事項9のうち,「約」(3箇所)の削除は,発明の明確化を図るためのものであり,「,」(句読点)の削除は,単純な誤記の訂正であり,これらの訂正はいずれも,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。よって,訂正事項9は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ク 訂正事項10
訂正事項10は,訂正前の請求項18に記載されていた「前記擬似格子整合型の膜の貫通転位密度が,前記窒化アルミニウム単結晶基板の貫通転位密度にほぼ等しい」を「前記擬似格子整合型の膜の貫通転位密度が,前記窒化アルミニウム単結晶基板の貫通転位密度に等しい」に訂正し,請求項18の記載を引用する請求項19及び20も同様に訂正するものである。訂正事項10は,訂正前の請求項10から「ほぼ」を削除することで発明の明確化を図るためのものであり,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして,訂正事項10は,訂正前の請求項18に記載されていた「前記擬似格子整合型の膜の貫通転位密度が,前記窒化アルミニウム単結晶基板の貫通転位密度にほぼ等しい」を「前記擬似格子整合型の膜の貫通転位密度が,前記窒化アルミニウム単結晶基板の貫通転位密度に等しい」に訂正し,請求項18の記載を引用する請求項19及び20も同様に訂正するものである。訂正の根拠として,願書に添付した明細書の段落0009は「歪み層の貫通転位密度は,窒化アルミニウム単結晶基板の貫通転位密度にほぼ等しくなっていてよい。」と記載している。よって,訂正事項10は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに,訂正事項10は,訂正前の請求項18に記載されていた「前記擬似格子整合型の膜の貫通転位密度が,前記窒化アルミニウム単結晶基板の貫通転位密度にほぼ等しい」を「前記擬似格子整合型の膜の貫通転位密度が,前記窒化アルミニウム単結晶基板の貫通転位密度に等しい」に訂正し,請求項18の記載を引用する請求項19及び20も同様に訂正するものである。訂正事項10は,訂正前の請求項10から「ほぼ」を削除することで発明の明確化を図るためのものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。よって,訂正事項10は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ケ 訂正事項11
訂正事項11は,訂正前の請求項21に記載されていた「前記窒化アルミニウム単結晶基板上にエピタキシャル成長させた少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」を「前記窒化アルミニウム単結晶基板上の少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し,これに合わせて,同請求項21の余りの部分及び請求項22,23及び25における引用箇所を訂正するものである。訂正事項11は,「エピタキシャル成長させた」という経時的な要素を,単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない記載に訂正することで発明の明確化を図るものであり,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして,訂正事項11は,訂正前の請求項21に記載されていた「前記窒化アルミニウム単結晶基板上にエピタキシャル成長させた少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」を「前記窒化アルミニウム単結晶基板上の少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し,これに合わせて,同請求項21の余の部分及び請求項22,23及び25における引用箇所を訂正するものである。訂正の根拠として,願書に添付した明細書の段落0015は「一態様では,半導体基板200は,AlNを含むか又は本質的にAlNからなっている。半導体基板200の上面210が,その上に1つ以上のエピタキシャル層を堆積させる前に,(例えば化学機械研磨による)平坦化又は洗浄の少なくとも1つによってエピタキシャル成長のために準備(処理)される。次に,半導体基板200上に,歪みエピタキシャル層220を,例えば有機金属気相エピタキシーによって,その予測臨界厚みを超える厚みにまで堆積させる。」と記載している。よって,訂正事項11は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに,訂正事項11は,訂正前の請求項21に記載されていた「前記窒化アルミニウム単結晶基板上にエピタキシャル成長させた少なくとも1つの擬似格子整合型の膜」を「前記窒化アルミニウム単結晶基板上の少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し,これに合わせて,同請求項21の余の部分及び請求項22,23及び25における引用箇所を訂正するものである。訂正事項11は,「エピタキシャル成長させた」という経時的な要素を,単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない記載に訂正することで発明の明確化を図るものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではない。よって,訂正事項11は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

コ 訂正事項12
訂正事項12は,訂正前の請求項21に記載されていた「貫通転移密度」(2箇所)をいずれも「貫通転位密度」に訂正し,請求項21の記載を引用する請求項22,23,及び25も同様に訂正するものである。訂正事項12は,錯誤による明らかな誤記を訂正するものであり,特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。
そして,訂正事項12は,訂正前の請求項21に記載されていた「貫通転移密度」(2箇所)をいずれも「貫通転位密度」に訂正し,請求項21の記載を引用する請求項22,23,及び25も同様に訂正するものである。訂正の根拠として,願書に添付した明細書の段落0026は,「貫通転位密度」という語を記載している。よって,訂正事項12は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに,訂正事項12は,訂正前の請求項21に記載されていた「貫通転移密度」(2箇所)をいずれも「貫通転位密度」に訂正し,請求項21の記載を引用する請求項22,23,及び25も同様に訂正するものである。訂正事項12は,錯誤による明らかな誤記を訂正するものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。よって,訂正事項12は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

サ 訂正事項14
訂正事項14は,訂正前の請求項24を削除するものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,訂正事項14は,訂正前の請求項24を削除するものであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
さらに,訂正事項14は,訂正前の請求項8を削除するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

シ 訂正事項15
訂正事項15は,訂正前の請求項25に記載されていた「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項21から24のいずれか一項に記載のデバイス」を「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項21から23のいずれか一項に記載のデバイス」に訂正するものであり,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,訂正事項15は,訂正前の請求項25に記載されていた「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項21から24のいずれか一項に記載のデバイス」を「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項21から23のいずれか一項に記載のデバイス」に訂正するものである。訂正の根拠として,願書に添付した特許請求の範囲の請求項25は「前記少なくとも1つの擬似格子整合型の膜上に設けられた緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項21から24のいずれか一項に記載のデバイス。」と記載している。よって,訂正事項15は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに,訂正事項15は,訂正前の請求項25に記載されていた「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項21から24のいずれか一項に記載のデバイス」を「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項21から23のいずれか一項に記載のデバイス」に訂正するものである。訂正事項15は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,発明の課題や解決手段を実質的に変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しない。よって,訂正事項15は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ス 訂正事項16
訂正事項16は,訂正前の請求項26に記載されていた「前記窒化アルミニウム単結晶基板上にエピタキシャル成長させた複数の擬似格子整合型の膜」を「前記窒化アルミニウム単結晶基板上の複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し,これに合わせて,同請求項16の余の部分,訂正事項18に係る訂正により請求項26の記載を引用することになる請求項27,並びに請求項26の記載を引用する請求項28及び30における引用箇所を訂正するものである。訂正事項16は,「エピタキシャル成長させた」という経時的な要素を,単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない記載に訂正することで発明の明確化を図るものであり,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして,訂正事項16は,訂正前の請求項26に記載されていた「前記窒化アルミニウム単結晶基板上にエピタキシャル成長させた複数の擬似格子整合型の膜」を「前記窒化アルミニウム単結晶基板上の複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し,これに合わせて,同請求項16の余の部分,訂正事項18に係る訂正により請求項26の記載を引用することになる請求項27,並びに請求項26の記載を引用する請求項28及び30における引用箇所を訂正するものである。訂正の根拠として,願書に添付した明細書の段落0015は「一態様では,半導体基板200は,AlNを含むか又は本質的にAlNからなっている。半導体基板200の上面210が,その上に1つ以上のエピタキシャル層を堆積させる前に,(例えば化学機械研磨による)平坦化又は洗浄の少なくとも1つによってエピタキシャル成長のために準備(処理)される。次に,半導体基板200上に,歪みエピタキシャル層220を,例えば有機金属気相エピタキシーによって,その予測臨界厚みを超える厚みにまで堆積させる。」と記載している。よって,訂正事項16は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに,訂正事項16は,訂正前の請求項26に記載されていた「前記窒化アルミニウム単結晶基板上にエピタキシャル成長させた複数の擬似格子整合型の膜」を「前記窒化アルミニウム単結晶基板上の複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜」に訂正し,これに合わせて,同請求項16の余の部分,訂正事項18に係る訂正により請求項26の記載を引用することになる請求項27,並びに請求項26の記載を引用する請求項28及び30における引用箇所を訂正するものである。訂正事項16は,「エピタキシャル成長させた」という経時的な要素を,単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない記載に訂正することで発明の明確化を図るものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではない。よって,訂正事項16は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

セ 訂正事項17
訂正事項17は,訂正前の請求項26に記載されていた「貫通転移密度」(2箇所)をいずれも「貫通転位密度」に訂正し,訂正事項18に係る訂正により請求項26の記載を引用することになる請求項27,並びに請求項26の記載を引用する請求項28及び30も同様に訂正するものである。訂正事項17は,錯誤による明らかな誤記を訂正するものであり,特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。
そして,訂正事項17は,訂正前の請求項26に記載されていた「貫通転移密度」(2箇所)をいずれも「貫通転位密度」に訂正し,訂正事項18に係る訂正により請求項26の記載を引用することになる請求項27,並びに請求項26の記載を引用する請求項28及び30も同様に訂正するものである。訂正の根拠として,願書に添付した明細書の段落0026は,「貫通転位密度」という語を記載している。よって,訂正事項17は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに,訂正事項17は,訂正前の請求項26に記載されていた「貫通転移密度」(2箇所)をいずれも「貫通転位密度」に訂正し,訂正事項18に係る訂正により請求項26の記載を引用することになる請求項27,並びに請求項26の記載を引用する請求項28及び30も同様に訂正するものである。訂正事項17は,錯誤による明らかな誤記を訂正するものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。よって,訂正事項17は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ソ 訂正事項18
訂正事項18は,訂正前の請求項27に記載されていた「請求項28に記載のデバイス」を「請求項26に記載のデバイス」に訂正し,請求項27の記載を引用する請求項28及び30も同様に訂正するものである。訂正事項18は,錯誤による明らかな誤記を訂正するものであり,特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。
そして,訂正事項18は,訂正前の請求項27に記載されていた「請求項28に記載のデバイス」を「請求項26に記載のデバイス」に訂正し,請求項27の記載を引用する請求項28及び30も同様に訂正するものである。訂正の根拠として,願書に添付した明細書の段落0009は,「本発明の態様は,以下の1つ以上の特徴を含み得る。歪み層を堆積させる前に,バッファ層を基板上に形成することができ,またバッファ層と歪み層との間に傾斜層を形成することができる。」と記載している。よって,訂正事項18は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに,訂正事項18は,訂正前の請求項27に記載されていた「請求項28に記載のデバイス」を「請求項26に記載のデバイス」に訂正し,請求項27の記載を引用する請求項28及び30も同様に訂正するものである。訂正事項18は,錯誤による明らかな誤記を訂正するものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。よって,訂正事項18は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

タ 訂正事項20
訂正事項20は,訂正前の請求項29を削除するものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,訂正事項20は,訂正前の請求項29を削除するものであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
さらに,訂正事項20は,訂正前の請求項29を削除するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

チ 訂正事項21
訂正事項21は,訂正前の請求項30に記載されていた「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項26からう29のいずれか一項に記載のデバイス」を「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項26から28のいずれか一項に記載のデバイス」に訂正するものである。
また,訂正事項21のうち,「う」の削除は,特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものであり,訂正事項21のうち「29」から「28」への訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,訂正事項21は,訂正前の請求項30に記載されていた「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項26からう29のいずれか一項に記載のデバイス」を「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項26から28のいずれか一項に記載のデバイス」に訂正するものである。訂正の根拠として,願書に添付した特許請求の範囲の請求項30は「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項26からう29のいずれか一項に記載のデバイス」と記載しており,記載中の「う」が誤記であることは明らかである。よって,訂正事項21は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに,訂正事項21は,訂正前の請求項30に記載されていた「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項26からう29のいずれか一項に記載のデバイス」を「緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項26から28のいずれか一項に記載のデバイス」に訂正するものである。訂正事項21は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,発明の課題や解決手段を実質的に変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しない。よって,訂正事項21は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

そして,これら訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び,同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので,訂正後の請求項〔1?9〕,〔10?20〕,〔21?25〕及び〔26?30〕について,本件訂正請求による訂正を認める。

3 特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?7,9?23,25?28,30に係る発明(以下「本件発明1?7,9?23,25?28,30」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1?7,9?23,25?28,30に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
窒化アルミニウム単結晶基板,及び
前記窒化アルミニウム単結晶基板上の少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜であって,AlN,GaN,InN又はそれらの任意の二元若しくは三元の合金の組合せの少なくとも1つを含む少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシヤル膜
を備え,
(i)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の厚みが,当該少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜に関する,Matthews-Blakeslee理論により計算される予測臨界厚みを少なくとも5倍で上回り,(ii)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜が,10,000cm^(-2)未満の平均の貫通転位密度を有し,及び(iii)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の前記平均の貫通転位密度が,前記窒化アルミニウム単結晶基板の平均の貫通転位密度の10倍以下の大きさである,半導体ヘテロ構造。

【請求項2】
前記窒化アルミニウム単結晶基板と前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜との間にバッファ層をさらに備えている,請求項1に記載の半導体ヘテロ構造。

【請求項3】
前記バッファ層と前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜との間に傾斜層をさらに備えている,請求項2に記載の半導体ヘテロ構造。

【請求項4】
前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の厚みが,前記予測臨界厚みを少なくとも10倍で上回る,請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造。

【請求項5】
前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜が実質的にIn不含である,請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造。

【請求項6】
前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜に対して平行な歪みが,該少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜と同じ組成を有する歪みのない合金の平行格子パラメータと前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の下に設けられた緩和プラットフォームの平行格子パラメータとの差の80%より大きい,請求項1から5のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造。

【請求項7】
前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜が,Al_(x)Ga_(1-x)Nを含み,該少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の厚みが200nmより大きく,xが0.65未満である,請求項1から6のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造。

【請求項8】(削除)

【請求項9】
前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜上に設けられた緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造。

【請求項10】
半導体ヘテロ構造を形成する方法であって,
窒化アルミニウム単結晶基板を設け,
前記窒化アルミニウム単結晶基板上に,AlN,GaN,InN又はそれらの任意の二元若しくは三元の合金の組合せの少なくとも1つを含む擬似格子整合型の膜をエピタキシャル堆積させることを含み,
(i)前記擬似格子整合型の膜の厚みが,当該擬似格子整合型の膜に関する,Matthews-Blakeslee理論によって計算される予測臨界厚みを少なくとも5倍で上回り,(ii)前記擬似格子整合型の膜が,10,000 cm^(-2)未満の平均の貫通転位密度を有し,及び(iii)前記擬似格子整合型膜の前記平均の貫通転位密度が,前記窒化アルミニウム単結晶基板の平均の貫通転位密度の10倍以下の大きさである,方法。

【請求項11】
前記擬似格子整合型の膜を堆積させる前に,前記窒化アルミニウム単結晶基板上にバッファ層を形成することをさらに含む,請求項10に記載の方法。

【請求項12】
前記バッファ層と前記擬似格子整合型の膜との間に傾斜層を形成することをさらに含む,請求項11に記載の方法。

【請求項13】
前記擬似格子整合型の膜の厚みが,前記予測臨界厚みを少なくとも10倍で上回る,請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。

【請求項14】
前記擬似格子整合型の膜が実質的In不含である,請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。

【請求項15】
前記擬似格子整合型の膜がAlGaNを含み,前記擬似格子整合型の膜をエピタキシャル堆積させることが,トリメチルアルミニウム及びトリメチルガリウムを反応器内に導入することを含む,請求項10から14のいずれか一項に記載の方法。

【請求項16】
前記擬似格子整合型の膜の堆積の際のトリメチルガリウムの初期流量が,トリメチルガリウムの最終流量より小さい,請求項15に記載の方法。

【請求項17】
前記窒化アルミニウム単結晶基板が,10μm×10μmの面積に対して0.5nm未満のRMS表面粗さ,0.3°?4°の表面の配向ずれ,及び10^(4)cm^(-2)未満の貫通転位密度を有する,請求項10から16のいずれか一項に記載の方法。

【請求項18】
前記擬似格子整合型の膜の貫通転位密度が,前記窒化アルミニウム単結晶基板の貫通転位密度に等しい,請求項10から17のいずれか一項に記載の方法。

【請求項19】
前記擬似格子整合型の膜上に,緩和されたキャップ層を形成することをさらに含み,前記擬似格子整合型の膜が,前記緩和されたキャップ層を形成した後,歪みを維持している,請求項10から18のいずれか一項に記載の方法。

【請求項20】
前記擬似格子整合型の膜は,1100°Cより高い温度から1300°Cまでの範囲の成長温度で堆積される,請求項10から19のいずれか一項に記載の方法。

【請求項21】
電界効果トランジスタ,発光ダイオード及び半導体レーザからなる群から選択されたデバイスであって,
前記デバイスが,歪みヘテロ構造の少なくとも一部を含み,該歪みヘテロ構造の少なくとも一部が,
窒化アルミニウム単結晶基板,及び
前記窒化アルミニウム単結晶基板上の少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜であって,AlN,GaN,InN又はそれらの任意の二元若しくは三元の合金の組合せの少なくとも1つを含む少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜
を含み,
(i)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の厚みが,当該少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜に関する,Matthews-Blakeslee理論により計算される予測臨界厚みを少なくとも10倍で上回り,(ii)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜が,10,000cm^(-2)未満の平均の貫通転位密度を有し,及び(iii)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の前記平均の貫通転位密度が,前記窒化アルミニウム単結晶基板の平均の貫通転位密度の10倍以下の大きさである,デバイス。

【請求項22】
前記窒化アルミニウム単結晶基板と前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜との間にバッファ層をさらに備えている,請求項21に記載のデバイス。

【請求項23】
前記バッファ層と前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜との間に傾斜層をさらに備えている,請求項22に記載のデバイス。

【請求項24】(削除)

【請求項25】
前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜上に設けられた緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項21から23のいずれか一項に記載のデバイス。

【請求項26】
電界効果トランジスタ,発光ダイオード及び半導体レーザからなる群から選択されるデバイスであって,
前記デバイスが,歪みヘテロ構造の少なくとも一部を含み,該歪みヘテロ構造の少なくとも一部が,
窒化アルミニウム単結晶基板,及び
前記窒化アルミニウム単結晶基板上の複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜であって,前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜の各々が,AlN,GaN,InN又はそれらの任意の二元若しくは三元の合金の組合せの少なくとも1つを含む,複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜
を含み,
(i)前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜の全厚みが,当該複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜に関する,Matthews-Blakeslee理論により計算される予測臨界厚みを少なくとも10倍で上回り,(ii)前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜が,10,000cm^(-2)未満の平均の貫通転位密度を有し,及び(iii)前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜の前記平均の貫通転位密度が,前記窒化アルミニウム単結晶基板の平均の貫通転位密度の10倍以下の大きさである,デバイス。

【請求項27】
前記窒化アルミニウム単結晶基板と前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜との間にバッファ層をさらに備えている,請求項26に記載のデバイス。

【請求項28】
前記バッファ層と前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜との間に傾斜層をさらに備えている,請求項27記載のデバイス。

【請求項29】(削除)

【請求項30】
前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜上に設けられた緩和されたキャップ層をさらに含む,請求項26から28のいずれか一項に記載のデバイス。」

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1?30に係る特許に対して平成28年2月9日付けで特許権者に通知した取消理由は,要旨次のとおりである。

1 本件特許は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号,第2号に規定する要件を満たしていない。


・理由1(特許法第36条第4項第1号)
・請求項1,6,8,10,21,26,29,及び,これらの請求項を引用する請求項

・理由1(特許法第36条第6項第1号)
・請求項1,6,8,10,16,21,26,29,及び,これらの請求項を引用する請求項

・理由1(特許法第36条第6項第2号)
・請求項1,3,12,17,18,21,23,24,26,28,及び,これらの請求項を引用する請求項

・備考
(1)特許法第36条第6項第2号
(1.1)本件特許発明1,本件特許発明21,26について
本件特許発明1は,半導体ヘテロ構造という「物」の発明であり,また本件特許発明21,26はデバイスという「物」の発明であるが,「エピタキシャル成長させた」との記載は,製造に関して経時的な要素の記載がある場合に該当するため,当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで,物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において,当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である(最判平成27年6月5日平成24年(受)第1204号,同2658号)。
しかしながら,不可能・非実際的事情が存在することについて,明細書等に記載がなく,また,本件特許権者も本件の審査過程において何ら主張・立証していないため,その存在を認める理由は見いだせない。
したがって,これら請求項1,21,26,及び,これらの請求項を引用する請求項に係る発明は明確でない。

(1.2)本件特許発明3,12,23,28について
本件特許発明3,12,23,28では,バッファ層と擬似格子整合膜との間に「傾斜層」を有することが規定されている。
しかし,「傾斜層」の意味するところが明確でない。
すなわち,「傾斜層」が,「擬似格子整合型の膜」とは異なる,別箇独立の構成層であるのか,「擬似格子整合型の膜」の一部であるのか不明瞭である。

(1.3)本件特許発明17,本件特許発明18について
本件特許発明17には「約」,本件特許発明18には「ほぼ」という表現が使用されており,発明の範囲が不明確となっている。

(1.4)本件特許発明24について
本件特許発明24はデバイスの電極構造に関し,少なくとも1つの互いに入り込むコンタクトを含む発光ダイオードである,と規定している。
ここで,「少なくとも1つ」とあることから,コンタクトが1つの場合を包含する規定である。しかし,1つのコンタクトが「互いに」入り込むということは文理上有り得ない。したがって,本件特許発明24は技術的な誤りを含む。
よって,本件特許には特許法第36条第6項第2号に違反する不備がある。

(2)特許法第36条第4項第1号および同条第6項第1号
(2.1)本件特許発明1,10,21,26の実施可能要件,サポート要件
ア 本件特許の独立請求項である請求項1,10,21,26,及び,これらの請求項を引用する請求項は,いずれも特定の要件を満足する「半導体ヘテロ構造」又は「歪みヘテロ構造」(以下,まとめて「半導体ヘテロ構造等」という。)に関する規定を含む。
これら請求項における「半導体ヘテロ構造等」の規定に関して表現上の微差はあるが,下記のようにまとめられる。
すなわち,本件特許における半導体ヘテロ構造等とは,
(i)AlN単結晶基板上にエピタキシャル成長させた「擬似格子整合型の膜」(但し,「擬似格子整合型」という用語は,本件特許明細書の【0014】の「また,『擬似格子整合型』という用語は,ここでは,下層の基板の格子パラメータの少なくとも約80%にまで歪まされた(つまり,その固有の格子パラメータに対し約20%未満で緩和されている)エピタキシャル層を指すものとして用いられる。」との記載から,「下層の基板の格子パラメータの少なくとも約80%にまで歪まされた(つまり,その固有の格子パラメータに対し約20%未満で緩和されている)エピタキシャル層」という技術的意義を有する用語として定義されているものと認められる。)を含み,当該少なくとも1つの「擬似格子整合型の膜」の厚みが,当該少なくとも1つの擬似格子整合型の膜に関する,Matthews-Blakesless理論により計算される予測臨界厚みを少なくとも5倍(または10倍)で上回り,
(ii)「擬似格子整合型の膜」が,10,000cm^(-2)未満の平均の貫通転位密度を有し,及び
(iii)「擬似格子整合型の膜」の平均の貫通転位密度が,AlN単結晶基板の平均の貫通転位密度の10倍以下の大きさである,半導体ヘテロ構造等である。
そして,上記半導体ヘテロ構造等は,独立請求項に共通する要件であり,本件特許発明の中核ともいうべき発明特定事項である。実際,本件特許の審査中では半導体ヘテロ構造等を規定する要件(i)?(iii)に基づいて特許性が主張されている。したがって,本発明が実施可能なように記載されているというためには,上記要件(i)?(iii)を満足する半導体ヘテロ構造等が製造可能な程度に明細書に製法等が記載されている必要がある。
すなわち,本件特許発明に係る「半導体ヘテロ構造等」は,「擬似格子整合型の膜」の厚み,「擬似格子整合型の膜」の平均貫通転位密度および,「擬似格子整合型の膜」の平均貫通転位密度とAlN単結晶基板の平均貫通転位密度との比が,いずれも特定の範囲内にあることをによって定義されているので,前記「半導体ヘテロ構造等」が実施可能な程度に記載されているというためには,前記「擬似格子整合型の膜」の厚み,「擬似格子整合型の膜」の平均貫通転位密度,および,「擬似格子整合型の膜」の平均貫通転位密度とAlN単結晶基板の平均貫通転位密度との比の3つのパラメータが前記特定の範囲内である「半導体ヘテロ構造等」を,当業者が過度の試行錯誤なく作製できるように,十分かつ明確な記載が発明の詳細な説明においてなされていることが必要である。

イ そこで,本件特許明細書の記載について検討する。
(ア)本件特許明細書【0022】には,本件特許発明の製造例として,AlN基板として転位密度5×10^(3)cm^(-2)のc面AlN基板を用いたこと,0.6μm厚みのエピタキシャル層を成長したこと,及び,エピタキシャル層の貫通転位密度が0.8?3×10^(5)cm^(-2)(すなわち,80000?300000cm^(-2))であったことが記載されているが,上記製造例で製造された半導体ヘテロ構造等は,上記の要件(ii)および(iii)を満足しない。
また,本件特許明細書【0030】?【0035】には,PUVLEDの製造例として,基板として転位密度2×10^(3)cm^(-2)のAlN基板を用いたこと,AlGaNのエピタキシャル層を成長したこと,及び,エピタキシャル層の貫通転位密度が10^(5)cm^(-2)であったことが記載されているが,上記製造例で製造された半導体ヘテロ構造等も,上記の要件(ii)および(iii)を満足しない。
そして,本件特許明細書の他の製造例の記載を見ても,要件(ii)および(iii)を満足する半導体ヘテロ構造等に関する記載はない。たとえば【0024】には,転位密度5×10^(3)cm^(-2)のc面AlN基板を用いてAlGaNのエピタキシャル成長を行ったことが記載されているが,エピタキシャル層の貫通転位密度に関する記載はないので,当該半導体ヘテロ構造等が要件(ii)および(iii)を満足するか否か確認できない。
そうすると,本件特許明細書には,本件特許発明における上記「半導体ヘテロ構造等」を製造するための実施例が記載されているとは認められない。

(イ) さらに,本件特許明細書の実施例以外の記載を見ても,要件(i),(ii)および(iii)を満足する半導体ヘテロ構造等を製造できる程度に記載されているとは到底認められない。
すなわち,要件(ii)については,明細書【0014】において「本発明者は,このAl濃度の層を1マイクロメートル(μm)を上回る厚みにまで成長させ,しかも極めて高品質で鏡面のように滑らかな擬似格子整合型の歪み層を得ることができた。ここで用いる限り,「高品質」という用語は,約10^(6)cm^(-2)以下の貫通転位密度を有するエピタキシャル層を指す。特定の態様では,高品質層は,約10^(4)cm^(-2)以下又はさらには約10^(2)cm^(-2)以下もの貫通転位密度を有する。」との記載はあるが,エピタキシャル層の貫通転位密度を10^(4)cm^(-2)以下とするための具体的手段についての記載はなく,「特定の態様」についての記載もない。
また,要件(iii)については,明細書【0026】に「別の態様では,エピタキシャル層220の貫通転位密度は,半導体基板200の貫通転位密度の約10倍以下の大きさである場合がある。」との記載がある程度であり,その具体的達成手段については何らの記載もなく,「別の態様」についての記載もない。

ウ ところで,本件特許明細書の【0018】には,「基板,例えば特定のAlN基板上に,低い貫通転位密度(「TDD」)で,III族窒化物の極めて大きな歪みを有する合金を成長させることができる能力は,(i)基板結晶品質,(ii)表面処理,(iii)基板表面の結晶配向,(iv)合金濃度,(v)成長中の基板温度及びV-III比を含む成長条件,並びに/又は(vi)合金濃度の傾斜率に依存することが分かった。」との記載がされている。
してみれば,上記要件(i),(ii)および(iii)を満足する半導体ヘテロ構造等を製造,すなわち,特定のAlN基板上に,低い貫通転位密度(「TDD」)で,III族窒化物の極めて大きな歪みを有する合金を成長させるためには,少なくとも上記(i)ないし(v)の成長条件について最適化(好適化)することが必要とされるものと理解される。
しかしながら,上記イより,本件特許明細書には,本件特許発明における,上記要件(i),(ii)および(iii)を満足する半導体ヘテロ構造等を製造することができる,具体的な成長条件が一例も例示されていない。
そうすると,当業者が本件特許発明を実施するためには,上記(i)ないし(v)の成長条件のそれぞれについて,上記要件(i),(ii)および(iii)を満足する半導体ヘテロ構造等を製造することができる値を見出すための試行錯誤が必要となるところ,技術常識を勘案しても,上記要件(i),(ii)および(iii)を満足する半導体ヘテロ構造等を製造することができる具体的な成長条件が一例も例示されていない本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは,過度の試行錯誤を要することなく当業者が本件特許発明を実施することができるとは認めることができない。

エ したがって,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,(ii)「擬似格子整合型の膜」が,10,000cm^(-2)未満の平均の貫通転位密度を有し,及び(iii)「擬似格子整合型の膜」の平均の貫通転位密度が,AlN単結晶基板の平均の貫通転位密度の10倍以下の大きさである半導体ヘテロ構造等を得ることができる程度に明確かつ十分なものとは認められないから,本件特許明細書には,本件特許発明が実施可能なように記載されているということはできない。

オ 加えて,上記イより,本件特許請求の範囲に記載された発明は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるということもできない。

カ よって,本件特許は,実施可能要件およびサポート要件を満足せず,特許法第36条第4項第1号および同条第6項第1号に違反する不備がある。

(2.2)本件特許発明6の実施可能要件,サポート要件
本件特許発明6では,擬似格子整合型の膜に対して平行な歪みが,該擬似格子整合型の膜と同じ組成を有する歪みのない合金の平行格子パラメータと前記擬似格子整合型の膜の下に設けられた緩和プラットフォームの平行格子パラメータとの差の80%より大きい,と定義している。
しかし,本件特許明細書【0022】に記載の具体例では,「平行な歪み(つまり,基板の平面での歪み)は,0.8%よりわずかに大きく,」「界面に対して平行な歪みは,ほぼ1%であることが測定され」との記載があり,80%より大きいという範囲とはまったく整合しない。
また,本件特許明細書【0030】?【0035】に記載の具体例では,平行格子パラメータについて何ら具体的な記載がない。
本件明細書の記載からは,本件特許発明6に係るパラメータ値の差を制御する手段も不明であり,また当該パラメータ値の差を80%以上と定義することは,本件特許明細書の記載を超える。
よって,本件特許発明6は,実施可能要件およびサポート要件を満足せず,特許法第36条第4項第1号および同条第6項第1号に違反する不備がある。

(2.3)本件特許発明8の実施可能要件,サポート要件
本件特許発明8では,「擬似格子整合型の膜」の厚みが1μmより大きい,と定義している。
しかし,本件特許明細書【0022】に記載の具体例における「擬似格子整合型の膜」の厚みは0.6μmである。
また,本件特許明細書【0030】?【0035】に記載の具体例では,各構成層の厚みを範囲を用いて記載されているが,「擬似格子整合型の膜」に相当する層の合計厚は最大でも0.57μmである。
本件明細書の記載からは,「擬似格子整合型の膜」の厚みを1μm以上とする手段も不明であり,また「擬似格子整合型の膜」の厚みを1μm以上と定義することは,本件特許明細書の具体例によりサポートされる範囲を超える。
よって,本件特許発明8は,実施可能要件およびサポート要件を満足せず,特許法第36条第4項第1号および同条第6項第1号に違反する不備がある。

(2.4)本件特許発明29の実施可能要件,サポート要件
特許発明29に関する本件明細書の記載は【0011】における「複数の歪み層の各層の,窒化アルミニウム単結晶基板の表面に対して平行な格子パラメータは,窒化アルミニウム単結晶基板の格子パラメータとは0.2%未満で異なる。」との記載のみである。この記載からは,特許発明29で規定される状態を達成するための手段を理解できない。また,明細書の記載は,単に特許請求の範囲の繰り返しであって,何ら具体的に説明されていない。したがって,特許発明29は実施可能要件およびサポート要件を満足せず,特許法第36条第4項第1号および同条第6項第1号に違反する不備がある。

(2.5)本件特許発明16のサポート要件
本件特許発明16は,擬似格子整合型の膜の堆積の際のトリメチルガリウムの初期流量が,トリメチルガリウムの最終流量より大きいと規定している。
すなわち,TMG初期流量>TMG最終流量であると規定している。
一方,擬似格子整合膜(歪み層)の堆積におけるTMG流量に関する唯一の記載は明細書【0009】における「歪み層の堆積中のトリメチルガリウムの初期流量は,トリメチルガリウムの最終流量よりも小さくてよい。」との記載があるのみである。
すなわち,TMG初期流量<TMG最終流量であると開示している。
したがって,本件特許発明16は,本件特許明細書に開示されたものではない。
よって,本件特許は,特許法第36条第6項第1号に違反する不備がある。

(3)判断
ア 特許法第36条第6項第2号について
(ア)本件特許発明1,21,26の明確性要件
請求項1,21,26に記載された「エピタキシャル膜」のうち「エピタキシャル」の部分は,製造方法の記載ではなく,単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているに過ぎない要素だと理解されるので,請求項1,21,26及びこれらを引用する請求項に係る特許発明は明確である。

(イ)本件特許発明3,12,23,28の明確性要件
特許明細書の発明の詳細な説明の【0009】には,以下の記載がある。
・「本発明の態様は,以下の1つ以上の特徴を含み得る。歪み層を堆積させる前に,バッファ層を基板上に形成することができ,またバッファ層と歪み層との間に傾斜層を形成することができる。歪み層はAlGaNを含むことができ,歪み層を堆積させることは,トリメチルアルミニウム及びトリメチルガリウムを反応器内に導入することを含み得る。」
そして,前記記載の「歪み層」,「傾斜層」が,本件特許発明3,12,23,28に係る発明の「少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」(「擬似格子整合型の膜」),「傾斜層」に該当することは明らかである。
そうすると,本件特許発明3,12,23,28において,「傾斜層」が,「少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜」(「擬似格子整合型の膜」)とは異なる,独立した層であることは,発明の詳細な説明を参酌することで明確といえる。

(ウ)本件特許発明17,18の明確性要件
請求項17及び請求項18の記載は,「約」及び「ほぼ」という表現を含まないから,不明確な点はない。

(エ)本件特許発明24の明確性要件
請求項24は削除されたので,記載不備の問題は解消した

イ 特許法第36条第4項第1号および第6項第1号について
(ア)本件特許発明1,10,21,26の実施可能要件,サポート要件
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
(本a)「【0004】
擬似格子整合型層は,少なくとも2つの理由から有用である。第1の理由は,エピタキシャル層を低転位基板上で成長させた場合,擬似格子整合型エピタキシャル層も極めて低い転位密度で,多くの場合には基板と同じ転位密度で成長することができることである。」

(本b)「【0014】
製造技術
Matthews-Blakeslee理論に基づいて計算された予測臨界厚みを,c面AlN基板上に成長させたAl_(x)Ga_(1-x)N層中のAl濃度の関数として,図1に示す。図1には,緩和なしで得られたAl_(x)Ga_(1-x)N層の擬似格子整合型の歪みも示す。予想に反して,予測臨界厚みよりずっと大きな厚みを有する擬似格子整合型層を成長させることができることが見出された。例えば,図1に示すように,x=0.6でのAl_(x)Ga_(1-x)N層の臨界厚みは,約40ナノメートル(nm)である。さらに,本発明者は,このAl濃度の層を1マイクロメートル(μm)を上回る厚みにまで成長させ,しかも極めて高品質で鏡面のように滑らかな擬似格子整合型の歪み層を得ることができた。ここで用いる限り,「高品質」という用語は,約10^(6)cm^(-2)以下の貫通転位密度を有するエピタキシャル層を指す。特定の態様では,高品質層は,約10^(4)cm^(-2)以下又はさらには約10^(2)cm^(-2)以下もの貫通転位密度を有する。また,「擬似格子整合型」という用語は,ここでは,下層の基板の格子パラメータの少なくとも約80%にまで歪まされた(つまり,その固有の格子パラメータに対し約20%未満で緩和されている)エピタキシャル層を指すものとして用いられる。いくつかの態様では,擬似格子整合型層は,下層の基板の格子パラメータに対しほぼ完全に歪まされていてよい。『鏡面のように滑らかな』という用語は,5μm×5μmの面積における約5nm未満の層二乗平均平方根での(「RMS」)表面粗さ(原子間力顕微鏡によって測定)を指す。好ましい態様では,RMS表面粗さは,5μm×5μmの面積において約1nm未満である。」

(本c)「【0018】
基板,例えば特定のAlN基板上に,低い貫通転位密度(「TDD」)で,III族窒化物の極めて大きな歪みを有する合金を成長させることができる能力は,(i)基板結晶品質,(ii)表面処理,(iii)基板表面の結晶配向,(iv)合金濃度,(v)成長中の基板温度及びV-III比を含む成長条件,並びに/又は(vi)合金濃度の傾斜率に依存することが分かった。エピタキシャル層220の緩和は,エピタキシャル成長の際に低い表面粗さを維持することによって最小限化又は排除することができる。層表面の粗面化又はアイランド(island)の形成は,層の不都合な緩和を招き得る。表面に伝搬した基板中の欠陥又は不適切な表面洗浄によって生じ得る半導体基板200の表面での欠陥も,エピタキシャル層220の粗面化を引き起こし得る。粗面化が生じると,歪みの緩和が,エピタキシャル表面上のテラス及びアイランドの側壁で生じる。このテラスやアイランドが融合すると,融合境界で,不都合な高い貫通転位密度が形成されてしまう。
【0019】
エピタキシャル堆積中にステップフロー成長(step flow growth)を維持することによって,緩和の防止を助成され,ステップフロー成長のための適切な条件は,半導体基板200の基板配向に依存する。基板が極めて軸上近くで配向している(つまり,基板の表面法線が,主たる結晶軸に極めて近似に整列している)場合,基板の表面にわたってのステップの密度は低い。よって,成長するエピタキシャル層にステップのエッジに組み込まれる,つまり,ステップフロー成長が維持されるためには,到来するAl,Ga又はIn原子が,比較的大きな距離で拡散し易くなっていなければならない。よって,ステップフロー成長は,(i)成長種の到来原子の長距離拡散を増大させること及び/又は(ii)ステップのエッジに到達するのに必要とされる拡散距離を減少させること(つまり,表面におけるステップの密度を増大させること)によって維持することができる。上記長距離拡散は,より高温(つまり,約1100℃まで)で又はIn不含の場合には高いAl含量(例えば,約50%より大きなAl含量)で,成長温度を約1100℃?約1300℃より大きな範囲まで増大させてエピタキシャル成長を行うことによって増大させることができる。いくつかの態様では,例えば,50%より大きなAl濃度に対し,長距離拡散は,エピタキシャル反応器内で,窒素種(つまりV族種)のIII族種と比較した比率を減少させることによって,増大させることもできる。一態様では,成長種の長距離拡散を増大させるために有利なV-III比率は,約1,000未満であり,約10未満であってもよい。半導体基板200上でのステップのエッジの密度も,主たる結晶軸と基板の表面法線との間での配向のずれを大きくすることによって,増大させることができる(それにより,ステップに到達するのに必要な所要拡散距離が低減する)。一態様では,半導体基板200の配向のずれは約1°である。
【0020】
歪み緩和に対するキネティックバリア(動力学的バリア,kinetic barriers)も,厚い擬似格子整合型のエピタキシャル層を生成するために,有利に利用することができる。AlN,GaN及びInNの任意の合金(GaN又はInNの含量がゼロではない)は,下層のAlN基板よりも大きな緩和格子パラメータを有するので,これらのエピタキシャル膜は,典型的には,クラッキングによって緩和することはない。緩和は,AlN基板とエピタキシャル合金層との間の界面に平行に走るミスフィット転位の形成によって起こり得る。このようなミスフィット転位は,半導体基板200からエピタキシャル層220へ伝搬する既存の貫通転位の運動によって,又は表面から若しくは基板200の表面上のいくつかの巨視的な欠陥から形成される新しい転位ループによって起こり得る。よって,半導体基板200中の欠陥源の排除によって,緩和に対するキネティックバリアが生成し,厚い擬似格子整合型のエピタキシャル層220の製造が簡単になる。一態様で,半導体基板200は,約10^(6)cm^(-2)未満の貫通転位密度を有する。別の態様で,半導体基板200は,約10cm^(-2)未満又はさらに約10^(2)cm^(-2)未満の貫通転位密度を有する。半導体基板200は,約100cm^(-2)未満の粒子表面欠陥密度を有していてもよい。このような最適化された半導体基板の利用によって,緩和機構としての既存の転位の滑り及び表面欠陥での転核生成が最小限化又は排除される。残りの緩和機構は,転位ループの表面核生成であるが,これは,厚い擬似格子整合型エピタキシャル層の製造を容易にするには十分に高い歪みエネルギーでしか起こらない。したがって,その予測臨界厚みより少なくとも約5倍大きい厚みを有する厚い歪みエピタキシャル層220の製造は,容易である。さらに,Inには,転位の運動及びそれと同時に起こる緩和を妨げる追加的な効果があるので,Inを含む歪みエピタキシャル層220は,その予測臨界厚みより大きな擬似格子整合型厚みを少なくとも約10倍で達成することができる。
【0021】
加えて,極めて大きな歪み合金の厚いエピタキシャル層の製造では,半導体基板200の特定の結晶配向が,特に好ましい。特に,Liuらは,GaN及びその合金のウルツ鉱型結晶構造の主たる滑りシステムが<11.2>{00.2}であることを指摘している。(参照によりその開示全体がここに援用される,R. Liu, J. Mei, S. Srinivasan, H. Omiya, F.A. Ponce, D. Cherns, Y. Narukawa and T. Mukai,「Misfit Dislocation Generation in InGaN Epilayers on Free-Standing GaN」,Jap. J. Appl. Physics 45, L549 (2006)を参照。)この滑りシステムは,良好に配向されたc面基板(つまり,表面法線が結晶のc軸と整合している基板)において活性ではなく,それというのは,格子不整合歪みは,この面に沿って転位が移動するいかなる歪み緩和も起こさないからである。この現象は,c面基板に対する許容可能なミスカット(miscut)を限定し,その上の極めて大きな歪み及び/又は厚い擬似格子整合型エピタキシャル層を可能にする。しかし,上述のように,有限の表面の配向のずれによってステップフロー成長が簡単になる。よって,一態様では,半導体基板200の配向のずれは,0°より大きく,約4°未満である。」

(本d)「【0022】
1つの工程で,低転位密度(ほぼ5×10^(3)cm^(-2))の大きなc面AlN基板を,'660号出願明細書に記載のように,準備した。この基板のミスカットは,約1°であった。c面AlN基板のAl極性表面,つまり(0001)面を,参照によりそのその開示全体がここに援用される米国特許第7,037,838号明細書(「'838号特許明細書」)に記載のように,準備した。基板をAixtron model 200/4 RF-S有機金属気相エピタキシー(「OMVPE」)反応器内に導入した後,水素及びアンモニアガス混合物の流れ下で,基板を1100℃まで加熱した。続いて,トリメチルアルミニウム(「TMA」)を導入し,厚み0.3μmAlNバッファ層を,基板上に,0.6μm/時のおおよその成長速度で成長させた。続いて,傾斜層Al_(x)Ga_(1-x)Nを,TMGガス流の量を上昇させ,TMAガス流の量を低下させてトリメチルガリウム(「TMG」)を切り換えることによって成長させ,それにより,15分の間隔にわたり目標のAl%に達し,線形的に傾斜(勾配)する合金が約0.1μmが成長した。この遷移層の後,TMA及びTMG流を一定に維持し,63%Al濃度及び約0.6μm厚みの最終層を,1.0μm/時のおおよその成長速度で成長させた。成長の間,チャンバ圧力は,上限25?100mbarまでに維持した。V-III比率は,成長連続工程中では500?2,000に維持した。層が予測臨界厚みを1桁より大きな度合いで上回っていても,平行な歪み(つまり,基板の平面での歪み)は,0.8%よりわずかに大きく,擬似格子整合型成長を示すと測定された。Al_(x)Ga_(1-x)N層に対する,(00.2)及び(10.2)反射についての複結晶ωロッキング曲線幅(Philip X'Pertシステムにより測定)は,それぞれ50秒角及び60秒角であった。界面に対して平行な歪みは,ほぼ1%であることが測定され,エピタキシャル層は,下層のAlN基板に対して擬似格子整合型であった。AlxGa1-xNエピタキシャル層における貫通転位密度を決定するために,エッチピット密度が溶融KOHのエッチングを利用して測定される。測定された密度は,0.8?3×10^(5)cm^(-2)の範囲であった。」

(本e)「【0024】
別の工程では,約5×10^(3)cm^(-2)の転位密度を有する大きなc面AlN基板を,第'660号出願明細書に記載のように準備した。c面AlN基板のAl極性表面(約1.5°で不整合)を,第'838号特許明細書に記載のように処理した。基板をVeeco D180 OMVPE反応器内に導入した後,基板を,水素及びアンモニアガス混合物の流れ下で,約1100℃に加熱した。さらに,TMAを導入し,厚み0.4μmのAlNバッファ層を0.4μm/時のおおよその成長速度で基板が成長した。次に,傾斜層Al_(x)Ga_(1-x)Nを,TMAガス流を維持しながらTMG流の量を上昇させながらTMGを切り換え導入することによって成長させ,それにより,6分の間隔にわたり目標のAl%に達し,線形的に傾斜した合金約0.05μmを成長させた。この遷移層の後,TMA及びTMG流を一定に維持し,?58%のAl濃度及び約0.5μmの厚みを有する最終層を,0.8μm/時のおおよその成長速度で成長させた。成長の間,チャンバ圧力を,約20Torrに維持した。V-III比率は,成長連続工程の間,900?3,200に維持した。層が予測臨界厚みを1桁を超える大きさで上回っていても,平行な歪みは,1.0%よりわずかに大きく,擬似格子整合型成長であったことがが測定された。」

(本f)「【0026】
擬似格子整合型エピタキシャル層220は,格子緩和をほとんど受けていないか全く受けていないので,その層における貫通転位密度は,半導体基板200の貫通転位密度にほぼ等しくなり得る。例えば,第'660号出願明細書に記載の技術によて成長させたAlNブールから得た基板は,極めて低い転位密度,つまり10,000cm^(-2)未満,典型的には約1,000cm^(-2)未満,特定の態様では,500cm^(-2)未満,さらには100cm^(-2)未満の転位密度を有していてよく,これは,その上に成長させた擬似格子整合型エピタキシャル層によって『受け継がれる』。別の態様では,エピタキシャル層200の貫通転位密度は,半導体基板200の貫通転位密度よりも約10倍を超える度合いで大きくなっていてよい。このような低い貫通転位密度によって,高い効率の紫外発光ダイオード(「UVLED」)及び半導体レーザ(「LD」),並びに電子デバイス,例えば高周波数(例えば,>2GHz),高出力動作用のトランジスタの製造が可能となる。」

すなわち,上記摘記(本d),(本e)から,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,「窒化アルミニウム単結晶基板,及び 前記窒化アルミニウム単結晶基板上の少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜であって,A1N,GaN,InN又はそれらの任意の二元若しくは三元の合金の組合せの少なくとも1つを含む少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜を備え,(i)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の厚みが,当該少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜に関する,Matthews-Blakeslee理論により計算される予測臨界厚みを少なくとも5倍で上回る,半導体ヘテロ構造。」を製造する方法が,具体的に記載されていると認められる。

そして,前記摘記(本d),(本e)に記載された方法によって製造された半導体ヘテロ構造は,「(ii)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜が,10,000cm^(-2)未満の平均の貫通転位密度を有し,及び(iii)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の前記平均の貫通転位密度が,前記窒化アルミニウム単結晶基板の平均の貫通転位密度の10倍以下の大きさである」という条件は満たさないが,上記摘記(本b)には,「さらに,本発明者は,このAl濃度の層を1マイクロメートル(μm)を上回る厚みにまで成長させ,しかも極めて高品質で鏡面のように滑らかな擬似格子整合型の歪み層を得ることができた。ここで用いる限り,「高品質」という用語は,約10^(6)cm^(-2)以下の貫通転位密度を有するエピタキシャル層を指す。特定の態様では,高品質層は,約10^(4)cm^(-2)以下又はさらには約10^(2)cm^(-2)以下もの貫通転位密度を有する。」と記載されており,上記摘記(本f)には,「擬似格子整合型エピタキシャル層220は,格子緩和をほとんど受けていないか全く受けていないので,その層における貫通転位密度は,半導体基板200の貫通転位密度にほぼ等しくなり得る。例えば,第'660号出願明細書に記載の技術によて成長させたAlNブールから得た基板は,極めて低い転位密度,つまり10,000cm^(-2)未満,典型的には約1,000cm^(-2)未満,特定の態様では,500cm^(-2)未満,さらには100cm^(-2)未満の転位密度を有していてよく,これは,その上に成長させた擬似格子整合型エピタキシャル層によって『受け継がれる』。別の態様では,エピタキシャル層200の貫通転位密度は,半導体基板200の貫通転位密度よりも約10倍を超える度合いで大きくなっていてよい。」と記載されていることから,上記摘記(本d),(本e)と,上記摘記(本b),(本f)の記載を併せて検討すると,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,「窒化アルミニウム単結晶基板,及び 前記窒化アルミニウム単結晶基板上の少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜であって,AlN,GaN,InN又はそれらの任意の二元若しくは三元の合金の組合せの少なくとも1つを含む少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜を備え,(i)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の厚みが,当該少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜に関する,Matthews-Blakeslee理論により計算される予測臨界厚みを少なくとも5倍で上回る,半導体ヘテロ構造。」において,「(ii)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜が,10,000cm^(-2)未満の平均の貫通転位密度を有し,及び(iii)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の前記平均の貫通転位密度が,前記窒化アルミニウム単結晶基板の平均の貫通転位密度の10倍以下の大きさである」発明が開示されているものと理解することができる。

さらに,本件特許明細書の発明の詳細な説明の上記摘記(本a)には,「エピタキシャル層を低転位基板上で成長させた場合,擬似格子整合型エピタキシャル層も極めて低い転位密度で,多くの場合には基板と同じ転位密度で成長することができること」が,また,上記摘記(本c)には,「エピタキシャル層220の緩和は,エピタキシャル成長の際に低い表面粗さを維持することによって最小限化又は排除することができる。層表面の粗面化又はアイランド(island)の形成は,層の不都合な緩和を招き得る。表面に伝搬した基板中の欠陥又は不適切な表面洗浄によって生じ得る半導体基板200の表面での欠陥も,エピタキシャル層220の粗面化を引き起こし得る。粗面化が生じると,歪みの緩和が,エピタキシャル表面上のテラス及びアイランドの側壁で生じる。このテラスやアイランドが融合すると,融合境界で,不都合な高い貫通転位密度が形成されてしまう。」,「ステップフロー成長は,(i)成長種の到来原子の長距離拡散を増大させること及び/又は(ii)ステップのエッジに到達するのに必要とされる拡散距離を減少させること(つまり,表面におけるステップの密度を増大させること)によって維持することができる。上記長距離拡散は,より高温(つまり,約1100℃まで)で又はIn不含の場合には高いAl含量(例えば,約50%より大きなAl含量)で,成長温度を約1100℃?約1300℃より大きな範囲まで増大させてエピタキシャル成長を行うことによって増大させることができる。」,「いくつかの態様では,例えば,50%より大きなAl濃度に対し,長距離拡散は,エピタキシャル反応器内で,窒素種(つまりV族種)のIII族種と比較した比率を減少させることによって,増大させることもできる。一態様では,成長種の長距離拡散を増大させるために有利なV-III比率は,約1,000未満であり,約10未満であってもよい。」,「半導体基板200上でのステップのエッジの密度も,主たる結晶軸と基板の表面法線との間での配向のずれを大きくすることによって,増大させることができる(それにより,ステップに到達するのに必要な所要拡散距離が低減する)。一態様では,半導体基板200の配向のずれは約1°である。」,及び,「別の態様で,半導体基板200は,約10cm^(-2)未満又はさらに約10^(2)cm^(-2)未満の貫通転位密度を有する。半導体基板200は,約100cm^(-2)未満の粒子表面欠陥密度を有していてもよい。このような最適化された半導体基板の利用によって,緩和機構としての既存の転位の滑り及び表面欠陥での転核生成が最小限化又は排除される。」等の,擬似格子整合型のエピタキシャル膜の平均の貫通転位密度の増加を抑制する種々の方法が,さらに,上記摘記(本f)には,「擬似格子整合型エピタキシャル層220は,格子緩和をほとんど受けていないか全く受けていないので,その層における貫通転位密度は,半導体基板200の貫通転位密度にほぼ等しくなり得る。例えば,第'660号出願明細書に記載の技術によて成長させたAlNブールから得た基板は,極めて低い転位密度,つまり10,000cm^(-2)未満,典型的には約1,000cm^(-2)未満,特定の態様では,500cm^(-2)未満,さらには100cm^(-2)未満の転位密度を有していてよく,これは,その上に成長させた擬似格子整合型エピタキシャル層によって『受け継がれる』。別の態様では,エピタキシャル層200の貫通転位密度は,半導体基板200の貫通転位密度よりも約10倍を超える度合いで大きくなっていてよい」ことが開示されている。

してみれば,上記(本d),(本e)に記載された方法の製造条件を,上記(本a),(本c),(本f)に開示された上記の技術的知見に基づいて実験等によって変更して,「(ii)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜が,10,000cm^(-2)未満の平均の貫通転位密度を有し,及び(iii)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の前記平均の貫通転位密度が,前記窒化アルミニウム単結晶基板の平均の貫通転位密度の10倍以下の大きさである」という条件を満たす半導体ヘテロ構造を製造することは,当業者が過度の試行錯誤を要することなく実施することができると認められる。

したがって,発明の詳細な説明には,特許を受けようとする発明が記載されており,かつ,発明の詳細な説明の記載は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであると認められるから,記載不備はない。

(イ)本件特許発明6の実施可能要件,サポート要件
請求項6の「前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜に対して平行な歪みが,該少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜と同じ組成を有する歪みのない合金の平行格子パラメータと前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の下に設けられた緩和プラットフォームの平行格子パラメータとの差の80%より大きい」との記載は,特許明細書の発明の詳細な説明の【0014】の「また,「擬似格子整合型」という用語は,ここでは,下層の基板の格子パラメータの少なくとも約80%にまで歪まされた(つまり,その固有の格子パラメータに対し約20%未満で緩和されている)エピタキシャル層を指すものとして用いられる。」,及び,【0023】の「同様の工程が利用されて,Al濃度50%のAl_(x)Ga_(1-x)N合金の厚み0.6μmのエピタキシャル層を成長させた。この場合,界面に平行な歪みは,?1%にとどまり,これは完全な擬似格子整合型の歪みの約80%であった。」との記載から,サポートされており,また,実施可能であると理解される。
したがって,請求項6に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものであり,発明の詳細な説明は,請求項6に係る発明を当業者が実施できる程度に明確且つ十分に記載している。

(ウ)本件特許発明8の実施可能要件,サポート要件
請求項8は削除されたので,記載不備の問題は解消した。

(エ)本件特許発明29の実施可能要件,サポート要件
請求項29は削除されたので,記載不備の問題は解消した。

(オ)本件特許発明16のサポート要件
本件特許発明16は,特許明細書の発明の詳細な説明の【0009】の記載によってサポートされている。したがって,記載不備はない。

エ むすび
以上のとおりであるから,取消理由によっては,本件請求項1?7,9?23,25?28,30に係る特許を取り消すことはできない。
そして,他に本件請求項1?7,9?23,25?28,30に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また,請求項8,24,29に係る特許は,訂正により,削除されたため,本件特許の請求項8,24,29に対して,特許異議申立人 星 正美 がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム単結晶基板、及び
前記窒化アルミニウム単結晶基板上の少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜であって、AlN、GaN、InN又はそれらの任意の二元若しくは三元の合金の組合せの少なくとも1つを含む少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜
を備え、
(i)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の厚みが、当該少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜に関する、Matthews-Blakeslee理論により計算される予測臨界厚みを少なくとも5倍で上回り、(ii)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜が、10,000cm^(-2)未満の平均の貫通転位密度を有し、及び(iii)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の前記平均の貫通転位密度が、前記窒化アルミニウム単結晶基板の平均の貫通転位密度の10倍以下の大きさである、半導体ヘテロ構造。
【請求項2】
前記窒化アルミニウム単結晶基板と前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜との間にバッファ層をさらに備えている、請求項1に記載の半導体ヘテロ構造。
【請求項3】
前記バッファ層と前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜との間に傾斜層をさらに備えている、請求項2に記載の半導体ヘテロ構造。
【請求項4】
前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の厚みが、前記予測臨界厚みを少なくとも10倍で上回る、請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造。
【請求項5】
前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜が実質的にIn不含である、請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造。
【請求項6】
前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜に対して平行な歪みが、該少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜と同じ組成を有する歪みのない合金の平行格子パラメータと前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の下に設けられた緩和プラットフォームの平行格子パラメータとの差の80%より大きい、請求項1から5のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造。
【請求項7】
前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜が、Al_(x)Ga_(1-x)Nを含み、該少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の厚みが200nmより大きく、xが0.65未満である、請求項1から6のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜上に設けられた緩和されたキャップ層をさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体ヘテロ構造。
【請求項10】
半導体ヘテロ構造を形成する方法であって、
窒化アルミニウム単結晶基板を設け、
前記窒化アルミニウム単結晶基板上に、AlN、GaN、InN又はそれらの任意の二元若しくは三元の合金の組合せの少なくとも1つを含む擬似格子整合型の膜をエピタキシャル堆積させることを含み、
(i)前記擬似格子整合型の膜の厚みが、当該擬似格子整合型の膜に関する、Matthews-Blakeslee理論によって計算される予測臨界厚みを少なくとも5倍で上回り、(ii)前記擬似格子整合型の膜が、10,000cm^(-2)未満の平均の貫通転位密度を有し、及び(iii)前記擬似格子整合型の膜の前記平均の貫通転位密度が、前記窒化アルミニウム単結晶基板の平均の貫通転位密度の10倍以下の大きさである、方法。
【請求項11】
前記擬似格子整合型の膜を堆積させる前に、前記窒化アルミニウム単結晶基板上にバッファ層を形成することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記バッファ層と前記擬似格子整合型の膜との間に傾斜層を形成することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記擬似格子整合型の膜の厚みが、前記予測臨界厚みを少なくとも10倍で上回る、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記擬似格子整合型の膜が実質的In不含である、請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記擬似格子整合型の膜がAlGaNを含み、前記擬似格子整合型の膜をエピタキシャル堆積させることが、トリメチルアルミニウム及びトリメチルガリウムを反応器内に導入することを含む、請求項10から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記擬似格子整合型の膜の堆積の際のトリメチルガリウムの初期流量が、トリメチルガリウムの最終流量より小さい、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記窒化アルミニウム単結晶基板が、10μm×10μmの面積に対して0.5nm未満のRMS表面粗さ、0.3°?4°の表面の配向ずれ、及び10^(4)cm^(-2)未満の貫通転位密度を有する、請求項10から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記擬似格子整合型の膜の貫通転位密度が、前記窒化アルミニウム単結晶基板の貫通転位密度に等しい、請求項10から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記擬似格子整合型の膜上に、緩和されたキャップ層を形成することをさらに含み、前記擬似格子整合型の膜が、前記緩和されたキャップ層を形成した後、歪みを維持している、請求項10から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記擬似格子整合型の膜は、1100℃より高い温度から1300℃までの範囲の成長温度で堆積される、請求項10から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
電界効果トランジスタ、発光ダイオード及び半導体レーザからなる群から選択されたデバイスであって、
前記デバイスが、歪みヘテロ構造の少なくとも一部を含み、該歪みヘテロ構造の少なくとも一部が、
窒化アルミニウム単結晶基板、及び
前記窒化アルミニウム単結晶基板上の少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜であって、AlN、GaN、InN又はそれらの任意の二元若しくは三元の合金の組合せの少なくとも1つを含む少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜
を含み、
(i)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の厚みが、当該少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜に関する、Matthews-Blakeslee理論により計算される予測臨界厚みを少なくとも10倍で上回り、(ii)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜が、10,000cm^(-2)未満の平均の貫通転位密度を有し、及び(iii)前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜の前記平均の貫通転位密度が、前記窒化アルミニウム単結晶基板の平均の貫通転位密度の10倍以下の大きさである、デバイス。
【請求項22】
前記窒化アルミニウム単結晶基板と前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜との間にバッファ層をさらに備えている、請求項21に記載のデバイス。
【請求項23】
前記バッファ層と前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜との間に傾斜層をさらに備えている、請求項22に記載のデバイス。
【請求項24】(削除)
【請求項25】
前記少なくとも1つの擬似格子整合型のエピタキシャル膜上に設けられた緩和されたキャップ層をさらに含む、請求項21から23のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項26】
電界効果トランジスタ、発光ダイオード及び半導体レーザからなる群から選択されるデバイスであって、
前記デバイスが、歪みヘテロ構造の少なくとも一部を含み、該歪みヘテロ構造の少なくとも一部が、
窒化アルミニウム単結晶基板、及び
前記窒化アルミニウム単結晶基板上の複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜であって、前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜の各々が、AlN、GaN、InN又はそれらの任意の二元若しくは三元の合金の組合せの少なくとも1つを含む、複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜
を含み、
(i)前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜の全厚みが、当該複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜に関する、Matthews-Blakeslee理論により計算される予測臨界厚みを少なくとも10倍で上回り、(ii)前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜が、10,000cm^(-2)未満の平均の貫通転位密度を有し、及び(iii)前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜の前記平均の貫通転位密度が、前記窒化アルミニウム単結晶基板の平均の貫通転位密度の10倍以下の大きさである、デバイス。
【請求項27】
前記窒化アルミニウム単結晶基板と前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜との間にバッファ層をさらに備えている、請求項26に記載のデバイス。
【請求項28】
前記バッファ層と前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜との間に傾斜層をさらに備えている、請求項27に記載のデバイス。
【請求項29】(削除)
【請求項30】
前記複数の擬似格子整合型のエピタキシャル膜上に設けられた緩和されたキャップ層をさらに含む、請求項26から28のいずれか一項に記載のデバイス。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-10-14 
出願番号 特願2009-547307(P2009-547307)
審決分類 P 1 651・ 538- YAA (H01L)
P 1 651・ 537- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 河合 俊英  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 加藤 浩一
柴山 将隆
登録日 2015-04-17 
登録番号 特許第5730484号(P5730484)
権利者 クリスタル アイエス インコーポレイテッド
発明の名称 厚みのある擬似格子整合型の窒化物エピタキシャル層  
代理人 西山 清春  
代理人 古谷 聡  
代理人 細井 玲  
代理人 西山 清春  
復代理人 細井 玲  
代理人 古谷 聡  

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