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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G07G
審判 全部申し立て 2項進歩性  G07G
管理番号 1323458
異議申立番号 異議2016-700109  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-10 
確定日 2016-10-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5789625号発明「商品販売データ処理装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 1 特許第5789625号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について、訂正することを認める。2 特許第5789625号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5789625号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし4についての出願は、平成25年2月28日の特許出願に係るものであって、平成27年8月7日に特許権の設定登録がなされ(特許公報の発行日は平成27年10月7日)、その後、平成28年2月10日に特許異議申立人 矢島 幸恵(以下「申立人A」という。)より特許異議の申立てがなされ、さらに、平成28年2月24日に特許異議申立人 小畑 尚子(以下「申立人B」という。また、申立人A及び申立人Bをまとめて単に「申立人」ということがある。)より特許異議の申立てがなされた。
その後、平成28年5月26日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月25日に意見書の提出及び訂正請求がなされた。そして、申立人に対し平成28年8月3付けで特許法第120条の5第5項に基づく通知がなされ、その指定期間内である同年9月1日に申立人Aから意見書の提出がなされ、また、同年同月同日に申立人Bから意見書の提出がなされたものである。

なお、本決定において、特許法の条文を表記する際に「特許法」という表記を省略することがある。また「甲第1号証」等を単に「甲1」などという。

第2 訂正の適否

1 訂正の内容
平成28年7月25日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。なお、訂正事項1及び2における下線は訂正部分を示す 。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「物品が載置されるカウンタ面を有する第1のカウンタ及び第2のカウンタと、
前記第1及び第2のカウンタの間に設けられ、装置上部の一方側において前記一方側へ向かって斜め上方に向き商品販売に関する表示をする表示画面を有し、且つ、その上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する店員用の第1の表示部と、
前記第1及び第2のカウンタの間に設けられ、前記装置の他方側において前記他方側へ向かって斜め上方に向く表示画面を有し、且つ、その上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する客用の第2の表示部と、
前記一方側に設けられる操作部と、を備える、ことを特徴とする商品販売データ処理装置。」
とあるのを
「物品が載置されるカウンタ面を有する第1のカウンタ及び第2のカウンタと、
前記第1及び第2のカウンタの間に設けられ、装置上部の一方側において前記一方側へ向かって斜め上方に向き商品販売に関する表示をする表示画面を有し、且つ、装置上部の一方側において前記一方側へ向かって斜め上方に向き、上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する店員用の第1の表示部と、
前記第1及び第2のカウンタの間に設けられ、前記装置の他方側において前記他方側へ向かって斜め上方に向く表示画面を有し、且つ、上端部が前記第1の表示部の前記上端部と同高さの客用の第2の表示部と、
前記一方側の第1の表示部に設けられる操作部と、を備える、ことを特徴とする商品販売データ処理装置。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「前記第2の表示部に隣接して配置され、」
とあるのを
「前記第2の表示部の上端部は、前記第1の表示部の前記上端部との間に前記カウンタ面と同高さの面を有し前記カウンタ面の高さ以下に位置し、この第2の表示部が有する前記表示画面に隣接して配置され、」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「前記第1の表示部の表示画面を露出させる開状態と前記表示画面を被覆する閉状態とで開閉可能であり、閉状態において隣接する前記カウンタ面と連続する外面を構成するカバー部材を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の商品販売データ処理装置。」
とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、
「物品が載置されるカウンタ面を有する第1カウンタ及び第2カウンタと、前記第1及び第2カウンタの間に設けられ、装置上部の一方側において前記一方側へ向かって斜め上方に向き商品販売に関する表示をする表示画面を有し、且つ、その上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する店員用の第1表示部と、
前記第1及び第2のカウンタの間に設けられ、前期装置の他方側において、前記他方側に向かって斜め上方に向く表示画面を有し、且つ、その上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する客用の第2の表示部と、
前記一方側に設けられる操作部と、
前記第1の表示部の表示画面を露出させる開状態と前記表示画面を被覆する閉状態とで開閉可能であり、閉状態において隣接する前記カウンタ面と連続する外面を構成するカバー部材と、
を備えることを特徴とする商売販売データ処理装置。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に
「前記第1のカウンタまたは前記第2のカウンタの前記他方側の上端部分に、一体に設けられた商品陳列用の棚を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の商品販売データ処理装置。」
とあるうち、独立形式に改める請求項3を引用するものについて後述の訂正事項6によって 新たに請求項6とすることに伴って、請求項1又は2を引用するものについて従属関係を維持するよう改め、
「前記第1のカウンタまたは前記第2のカウンタの前記他方側の上端部分に、一体に設けられた商品陳列用の棚を備えることを特徴とする請求項1乃至2のいずれか記載の商品販売データ処理装置。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に
「前記第1の表示部の表示画面を露出させる開状態と前記表示画面を被覆する閉状態とで開閉可能であり、閉状態において隣接する前記カウンタ面と連続する外面を構成するカバー部材を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の商品販売データ処理装置。」
とあるうち、請求項2を引用するものについて、独立形式に改め、
「物品が載置されるカウンタ面を有する第1カウンタ及び第2カウンタと、
前記第1及び第2カウンタの間に設けられ、装置上部の一方側において前記一報側へ向かって斜め上方に向き商品販売に関する表示をする表示画面を有し、且つ、その上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する店員用の第1表示部と、
前記第1及び第2のカウンタの間に設けられ、前記装置の他方側において、前記他方側に向かって斜め上方に向く表示画面を有し、且つ、その上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する客用の第2の表示部と、
前記一方側に設けられる操作部と、
前記第2の表示部に隣接して配置され、無線通信媒体の情報を読み取るカード処理部と、
前記第1の表示部の表示画面を露出させる開状態と前記表示画面を被覆する閉状態とで開閉可能であり、閉状態において隣接する前記カウンタ面と連続する外面を構成するカバー部材と、
を備えることを特徴とする商品販売データ処理装置。」と改め、新たに請求項5とする。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4に
「前記第1のカウンタまたは前記第2のカウンタの前記他方側の上端部分に、一体に設けられた商品陳列用の棚を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の商品販売データ処理装置。」
とあるうち、請求項3を引用するものについて従属関係を維持するよう、
「前記第1のカウンタまたは前記第2のカウンタの前記他方側の上端部分に、一体に設けられた商品陳列用の棚を備えることを特徴とする請求項3及び5のいずれか記載の商品販売データ処理装置。」と改め、新たに請求項6とする。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項1ないし6につき、訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否を検討する。

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、
(i)請求項1における「第1の表示部」について、訂正前は単に「その上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する」と特定していたのを、「装置上部の一方側において前記一方側へ向かって斜め上方に向き、上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する」とより具体的に限定するとともに、「その」を削除し、
(ii)請求項1における「第2の表示部」について、訂正前は単に「その上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する」と特定していたのを、「上端部が前記第1の表示部の前記上端部と同高さの」と限定するとともに、「その」を削除し、
(iii)請求項1における「操作部」について、訂正前は単に「前記一方側に設けられる」と特定していたのを、「前記一方側の第1の表示部に設けられる」と限定しようとするものであるところ、上記(i)?(iii)における各限定は特許請求の範囲の減縮(特許法第120条の5第2項ただし書第1号)を目的とするものに該当し、上記(i)及び(ii)における「その」の削除は、明瞭でない記載の釈明(特許法第120条の5第2項ただし書第3号)を目的とするものに該当する。
次に、訂正事項1に関しては、願書に添付した明細書の段落【0014】に「POS端末20の外面はカバー31で覆われている。カバー31は、チェックアウトカウンタ10の外面と連続しており、カウンタ面10aと同高さで連続する上端部31aと、上端部31aから連続して店員側に下方に傾斜する店員側傾斜部31bと、上端部31aから連続して客側に下方に傾斜する客側傾斜部31cと、客側の側面を構成する側壁部31dと、を連続して備えている。」との記載されていること、及び、願書に添付した図面の図1に示される、店員側傾斜部31b、客側傾斜部31c及び操作部22の配置から、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下単に「本件特許明細書等」ということがある。)に記載された事項の範囲内でしたものということができる。
そして、訂正事項1が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、
(i)請求項2における「第2の表示部」の形状について、「前記第2の表示部の上端部は、前記第1の表示部の前記上端部との間に前記カウンタ面と同高さの面を有し前記カウンタ面の高さ以下に位置し」と限定し、
(ii)請求項2における「カード処理部」の位置について、訂正前は単に「第2の表示部に隣接して配置され」と特定していたのを、「この第2の表示部が有する前記表示画面に隣接して配置され」とより具体的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
次に、訂正事項2に関しては、願書に添付した明細書の上記段落【0014】の記載、及び、願書に添付した図面の図1に、客側傾斜部31cの上端部が店員側傾斜部31bの上端部との間にカウンタ面10aと同高さの面が看取できることなどから、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内でしたものということができる。
そして、訂正事項2が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1又は2の記載を引用する記載であるところ、請求項2を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるとともに、「(カバー部材と、」における)「と、」を追加するための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項3は、実質的な内容の変更を伴うものではないから、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内でしたもので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項3が請求項1又は請求項2の記載を引用するものであるところ、訂正事項3及び訂正事項5によって請求項1又は請求項2を引用しないものとすることに伴って、訂正前の請求項4の請求項3に係る引用関係を解消するためのものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項4は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項3が請求項1又は2の記載を引用する記載であるところ、請求項1を引用する請求項2のみを引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるとともに、(「カバー部材と、」における)「と、」を追加するための訂正であるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
そして、訂正事項5は、実質的な内容の変更を伴うものではないから、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項3が請求項1又は請求項2の記載を引用するものであるところ訂正事項3及び訂正事項5によって請求項1又は請求項2を引用しないものとすることに伴って、訂正前の請求項4の請求項3に係る引用関係を訂正後の請求項6として維持するためのものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
そして、訂正事項6は、実質的な内容の変更を伴うものではないから、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(7)一群の請求項
そして、これら訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。

3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 本件訂正発明
上記第2のとおり本件訂正は認容されるので、本件訂正後の本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下「本件訂正発明1」などということがある。また、これらをまとめて単に「本件訂正発明」ということがある。)は、明細書及び図面の記載からみて、訂正特許請求の範囲に記載により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
物品が載置されるカウンタ面を有する第1のカウンタ及び第2のカウンタと、
前記第1のカウンタ及び第2のカウンタの間に設けられ、装置上部の一方側において前記一方側へ向かって斜め上方に向き商品販売に関する表示をする表示画面を有し、且つ、装置上部の一方側において前記一方側へ向かって斜め上方に向き、上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する店員用の第1の表示部と、
前記第1及び第2のカウンタの間に設けられ、前記装置の他方側において前記他方側へ向かって斜め上方に向く表示画面を有し、且つ、上端部が前記第1の表示部の前記上端部と同高さの客用の第2の表示部と、
前記一方側の第1の表示部に設けられる操作部と、を備える、ことを特徴とする商品販売データ処理装置。
【請求項2】
前記第2の表示部の上端部は、前記第1の表示部の前記上端部との間に前記カウンタの面と同高さの面を有し前記カウンタ面の高さ以下に位置し、この第2表示部が有する前記表示画面に隣接して設置され、無線通信媒体の情報を読み取るカード処理部を備える、ことを特徴とする請求項1記載の商品販売データ処理装置。
【請求項3】
物品が載置されるカウンタ面を有する第1のカウンタ及び第2のカウンタと、
前記第1のカウンタ及び第2のカウンタの間に設けられ、装置上部の一方側において前記一方側へ向かって斜め上方に向き商品販売に関する表示をする表示画面を有し、且つ、その上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する店員用の第1表示部と、
前記第1及び第2のカウンタの間に設けられ、前記装置の他方側において前記他方側へ向かって斜め上方に向く表示画面を有し、且つ、上端部が前記前記カウンタ面の高さ以下に位置する客用の第2の表示部と、
前記一方側に設けられる操作部と、
前記第1の表示部の表示画面を露出させる開状態と前記表示画面を被覆する閉状態とで開閉可能であり、閉状態において隣接する前記カウンタ面と連続する外面を構成するカバ一部材と、
を備えることを特徴とする商品販売データ処理装置。
【請求項4】
前記第1のカウンタまたは前記第2のカウンタの前記他方側の上端部分に、一体に設けられた商品陳列用の棚を備えることを特徴とする請求項1乃至2のいずれか記載の商品販売データ処理装置。
【請求項5】
物品が載置されるカウンタ面を有する第1のカウンタ及び第2のカウンタと、
前記第1のカウンタ及び第2のカウンタの間に設けられ、装置上部の一方側において前記一方側へ向かって斜め上方に向き商品販売に関する表示をする表示画面を有し、且つ、その上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する店員用の第1表示部と、
前記第1及び第2のカウンタの間に設けられ、前記装置の他方側において前記他方側へ向かって斜め上方に向く表示画面を有し、且つ、上端部が前記前記カウンタ面の高さ以下に位置する客用の第2の表示部と、
前記一方側に設けられる操作部と、
前記第2の表示部に隣接して配置され、無線通信媒体の情報を読み取るカード処理部と、
前記第1の表示部の表示画面を露出させる開状態と前記表示画面を被覆する閉状態とで開閉可能であり、閉状態において隣接する前記カウンタ面と連続する外面を構成するカバ一部材と、
を備えることを特徴とする商品販売データ処理装置。
【請求項6】
前記第1のカウンタまたは前記第2のカウンタの前記他方側の上端部分に、一体に設けられた商品陳列用の棚を備えることを特徴とする請求項3及び5のいずれか記載の商品販売データ処理装置。」

第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1、2及び4に係る特許に対して平成28年5月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 請求項1に係る発明は、刊行物1記載の発明に、刊行物2記載の技術事項並びに刊行物3及び刊行物4に示されるような従来周知の技術事項を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 請求項2に係る発明は、刊行物1記載の発明に、刊行物2記載の技術事項、並びに刊行物3及び刊行物4に示されるような従来周知の技術事項を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
ウ 請求項4に係る発明は、刊行物1記載の発明に、刊行物2記載の技術事項、並びに刊行物3及び刊行物4に示されるような従来周知の技術事項、さらに刊行物5記載の技術事項を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものであるから、請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

刊行物1:実願平3-82345号(実開平5-25590号)
のCD-ROM (申立人Bの甲1、申立人Aの甲6)
刊行物2:特開平3-246794号公報(申立人Bの甲2)
刊行物3:特開2000-194945号公報(申立人Bの甲4、
申立人Aの甲7)
刊行物4:特開2002-109633号公報(申立人Bの甲5)
刊行物5:実願昭58-30252号(実開昭59-134454号)
のマイクロフィルム(申立人Bの甲6)


第5 取消理由についての判断
以下、本件訂正発明1、2及び4について順次、取消理由の成否を検討する。なお、本件訂正発明3、5及び6は取消理由の対象外である。

1 刊行物の記載
当審の取消理由に引用した、本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である以下の刊行物1ないし刊行物5には、以下の発明又は事項が記載されていると認められる。なお、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。また、下線は当審で付したものである。


(1)刊行物1
ア 刊行物1に記載された事項
刊行物1には、「受付用コンピュータレジスタ」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【0003】
【考案が解決しようとする課題】
しかし、上記したような従来の構成のコンピュータレジスタの場合、クリーニング店等の店頭において使用する場合には、受付台(カウンタ)上に大きなスペースが必要であり、スペース効率が非常に悪い欠点があった。また、店頭カウンタ等においては洗濯物の受け渡しなどを行う必要があり、これらコンピュータレジスタ等の機器の存在は非常に作業の邪魔になる欠点があった。また、カウンタ上における作業を行いながらTVモニタ53の表示を見る必要があり、その都度視線を動かす必要があるため、作業性が悪くなる欠点があった。
本考案は上記した従来の欠点を改善するためになされたもので、受付台上のスペースを占めることなく、スペース効率の高いコンピュータレジスタを提供することを目的とする。」

(イ)「【0006】
【実施例】
以下本考案の実施例を図面に基づいて説明する。
図1は本考案をクリーニング店頭に設置される受付用コンピュータレジスタに適用した実施例を示す斜視図である。このコンピュータレジスタは受付台1とここに設けられたTVモニタ2とキーボード4とプリンタ/コンピュータ本体5及びキャッシュボックス6とから構成されている。受付台1は図1に示すように所定の高さを有するカウンタ形状をなしており、店頭の適宜の位置に設置できるようになっている。また後述するように、横長の広いカウンタに組み込み可能或いは一体に形成しても良い。
受付台1の表面15上にはガラス板30がはめ込まれており、その下側にTVモニタ2を収納するためのTVモニタ収納部3が形成されている。このTVモニタ収納部3はTVモニタ2の画面が手前側(店側)に向くようにTVモニタ2を傾斜させて設置できるように構成されている。TVモニタ収納部3の縁部にはガラス板30を係止するための係止縁31が形成されており、この係止縁31にガラス板30を図2の下側から装入することにより、該TVモニタ収納部3に蓋をするようになっている。このガラス板30は表面15と同一レベルにあり、表面15と連続的なフラットな面を形成するようになっている。またこのガラス板30を通してTVモニタ2の画面を視認できるように構成されている。」

(ウ)「【0007】
TVモニタ収納部3の手前側(図2の下側)にはキーボード4を設置するためのキーボード設置部10が形成されている。このキーボード設置部10は表面15よりもキーボード4の厚みの分だけ段を低くしてあり、キーボード4を設置すると、該キーボード4の表面と表面15の表面が同一レベルになるようになっている。・・・」

(エ)「【0009】
図3に他の実施例を示す。この実施例の受付台1’では表面15と連続する延長表面16を左右に形成しており、全体でカウンター形状を構成している。延長表面16は表面15と一体的に形成しても良いし、或いは図1に示す受付台1の左右又は一方に延長表面16を有する他の受付台を設置するように構成しても良い。また店に作り付けの延長表面16部に図1の受付台1をはめ込むようにする事も可能である。」

(オ)「【0010】
図4はモニタ受け台12を台表面に設けた状態を客側から見た斜視図である。TVモニタ収納部3に設けられたTVモニタ2は客側からは見えないため、必要があればモニタ受け台12を設けてこの上にもう1つTVモニタ2を追加して設けて、客に表示を提示するようにすることも可能である。」

(カ)「【0011】
以上の構成においては、表面15とガラス板30が同一なフラットな面を形成し、またキーボード4及びプリンタ/コンピュータ本体5の表面も表面15とフラットな面を形成するから、コンピュータレジスタが台の表面に突出してスペースを占めることがない。また、TVモニタ2は台表面において視認できるから、視線を動かす必要がなく、作業性が向上する。
更に図3に示すように延長表面16を設けることにより完全にフラットな広い面を確保することができる。また図4に示すようにモニタ受け台12を設けてモニタを追加することにより客にTVモニタ2の表示を提示することも可能になる。」

イ 刊行物1発明
上記記載事項(ア)ないし(カ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて本件訂正発明1に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認める(以下「刊行物1発明」という。)。
<刊行物1発明>
「物品が載置されるカウンタ面を有する左の延長表面16及び右の延長表面16と、
前記左右の延長表面16の間に設けられ、装置上部において、画面が店側に向くように傾斜させて設置された商品販売に関する表示をするTVモニタ2を有し、且つ、その上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する店員用の表示部と、
前記店側に設けられる操作部と、
客にTVモニタ2の表示を提示する追加モニタのためのモニタ受け台12と、
を備える、コンピュータレジスタ。」

(2)刊行物2
ア 刊行物2に記載された事項
刊行物2には、「POSターミナルカウンタ」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「従来の技術
一般に、専門店等においては、商品を包装するカウンタがあり、このカウンタの上にPOSターミナルを載置して使用している。そのため、カウンタのフラットな作業台の一部が上方へ突出するPOSターミナルのための専用領域となり、商品の包装作業の障害になるとともに店員と客との間に大きなPOSターミナルが存在することになり、両者のコミュニケーションが阻害される。
このようなことから、表示部を除いてPOSターミナルのプリンタやドロワ等をカウンタ内に埋め込み形成することが行われている。」 (公報第1ページ右下欄第6行?下から3行)

(イ)「しかも、取付フレームの寸法設定により上面はカウンタの天板に略一致させて平坦とすることができ、とくに、表示部もカウンタの上面から突出するものではないが、オペレータ用表示部と客用表示部とを有して両側から必要な情報を読み取ることができるものである。
実施例
本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。まず、カウンタ1は、側方及び後方にコの字形の側面板部2を有し、底面には底板3が一体的に設けられ、かつ、ユニット収納部4を残して天板5が設けられている。そして、垂直な中板6と水平な棚板7とが設けられ、これらにより、複数個のユニット部品収納部8が形成されている。また、前記底板3の上部には、物入れのための複数個の収納棚9が形成されている。また、前記天板5の一側手前側には、テープカッタ10が配設されている。
ついで、前記ユニット収納部4には、POSターミナルユニット11が取付けられている。このPOSターミナルユニット11は、相対向する側板12を基本としてユニット形成されているものであり、これらの側板12間には、前後方向にスライドする棚としてのスライド棚13.14が取付けられている。上方の前記スライド棚13には、ターミナル部品としてのプリンタ15が載置されており、下方の前記スライド棚14には、CPUやFDDが設けられた本体ケース17とドロワ18とのターミナル部品が載置されている。これらのターミナル部品は、その形状が前記ユニット部品収納部8に隙間なく収納されるようにその寸法が定められている。
さらに、前記側板12の上には、その上面を前記カウンタ1の天板5に略一致させた取付フレーム19が載置されている。この取付フレーム19は、組立後には前記側板12と一体的でよいものである力く、カウンタlの形状に合せてその形状が設定されるものである。」(公報第2ページ右上欄下から4行?右下欄下から3行)

(ウ)「また、前記取付フレーム19には、その上面が前記カウンタ1の天板5に略一致するようにしてキーボード21が埋め込まれるキーボード収納凹部22が形成されている。さらに、前記取付フレーム19の後部には、横長の開口23が形成されており、この間口23の中央にはユニット化された表示部24が取付けられている。この表示部24は、その内部にオペレータ用表示部25と客用表示部26とが互いにV字形をなすように埋設されて形成されているものである。そして、前記オペレータ用表示部25と前記客用表示部26とは、角度調整機構27によりその傾斜角度が調整自在に設けられている。」(公報第3ページ左上欄第2行?下から5行)

イ 刊行物2事項
上記記載事項(ア)ないし(ウ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、刊行物2には以下の事項が記載されていると認める(以下「刊行物2事項」という。)。
<刊行物2事項>
「物品が載置されるカウンタ面を有するカウンタ1に隣接して取付フレーム19を設け、前記取付フレーム19の後部に、オペレータ用表示部25と客用表示部26とが互いにV字形をなすように埋設されて形成された表示部24を取付け、且つ、該表示部24の上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置するPOSターミナルユニット11」

(3)刊行物3及び刊行物4
(3-1)刊行物3
ア 刊行物3に記載された事項
刊行物3には、「商品販売登録データ処理システム」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)
「【0017】図1は本実施の形態である商品販売登録データ処理システム
の外観斜視図であって、本システムは、POS端末10とICカードリーダライタ20とからなり、POS端末10とICカードリーダライタ20とはインタフェースケーブル30によって接続されている。」

(イ)
「【0018】POS端末10は、ドロワ11上に載置されており、このドロワ11の引出11aの開閉を制御する。このPOS端末10には、図2に示すように、商品コードや金額等を入力するための置数キ-12a,売上登録処理において現金による決済を宣言するための預/現計キ-12b・・・がPOS端末10の正面側に設けられている。さらに、POS端末10の正面側には操作者用の表示部として機能するディスプレイ16が配置され、背面側には客用の表示部として機能するタッチセンサパネル付の客用ディスプレイ17が配設されている。また、このPOS端末10には、商品コードを光学的に読み取るためのバーコードスキャナ18が接続されている。」

(ウ)
「【0019】ICカードリーダライタ20は、電子マネーである現金価値等を記憶したICカード40の挿入を受け付け、そのICカード40の表面に露出して設けられる外部接続端子を介してデータを授受するカードリーダライタ部21を備えている。また、このICカードリーダライタ20には、図3に示すように、モードを切り替えるファンクションキ-22a,暗証番号等を入力するための置数キー22b,処理の実行を宣言するエンターキー22c,処理の実行拒否を宣言するキャンセルキ-22d等の各種キーを配設したキーボード22と、取引内容や操作案内等を表示するディスプレイ23とが設けられている。」

イ 刊行物3事項
上記記載事項(ア)ないし(ウ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、刊行物3には以下の事項が記載されていると認める(以下「刊行物3事項」という。)。
「商品販売登録データ処理システムにおいて、装置上部の正面側において前記正面側へ向かって斜め上方に向き操作者用の表示部として機能するディスプレイ16と、前記装置の背面側において前記背面側へ向かって斜め上方に向く客用ディスプレイ17を備えること」

(3-2)刊行物4
ア 刊行物4に記載された事項
刊行物4には、「レジスタおよびレジスタ管理システム」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】 顧客から支払われた商品の購入金額の精算処理を行うレジスタにおいて、
前記顧客側を向いて配設された第1の表示画面と、
店員側を向いて配設された第2の表示画面と、
前記第1の表示画面に少なくとも前記顧客が購入した商品の購入金額およびつり銭額を表示するする表示制御手段とを具備することを特徴とするレジスタ。」

(イ)
「【0036】図1において、このレジスタ100は、顧客が購入する商品の金額を店員が入力装置101を用いてレジスタに入力し、顧客側を向いて配設された第1の表示画面102に購入金額が表示され、顧客は貨幣投入口103に貨幣を投入し、つり銭が有る場合には貨幣払出口104でつり銭を受け取るように構成される。」

(ウ)
「【0051】また、購入金額の支払いの際に、貨幣に代えてクレジットカードやプリペイドカードなどを用いて行っても良い。
【0052】このとき、金額照会部114では、購入金額の合計をクレジットカードなどの図示しないカード処理機に送信し、顧客はカードをカード挿入口106に挿入して、カード処理機で支払いの処理が行われる。」

イ 刊行物4事項
上記記載事項(ア)ないし(ウ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、刊行物4には以下の事項が記載されていると認める(以下「刊行物4事項」という。)。
「レジスタにおいて、装置上部の店員側において前記店員側へ向かって斜め上方に向く第2の表示画面と、前記装置の顧客側において前記顧客側へ向かって斜め上方に向く第1の表示画面を備えること」

(3-3)従来周知の技術事項
上記刊行物3事項と刊行物4事項とは、いずれも同様の技術事項であるあることを踏まえ、以下の事項を従来周知の技術事項ということができる(以下「従来周知の技術事項A」という。)。
「商品販売データ処理装置において、装置上部の一方において前記一方側へ向かって斜め上方に向く店員用の第1の表示画面と、前記装置の他方側において前記他方側へ向かって斜め上方に向く客用の第2の表示画面を備えること」

(4)刊行物5
刊行物5には、その第1図等の記載などからみて、カウンタの上端部分に商品陳列用の棚を一体に設けることが記載されている。

2 本件訂正発明1
(1)対比
本件訂正発明1と刊行物1発明とを対比すると、
刊行物1発明は、画面が店員側に向くように傾斜させて設置された表示画面(TVモニタ2)と、上端部がカウンタ面の高さ以下に位置する店員用の表示部と、客用の第2の表示部のためのモニタ受け台を有するものの、
本件訂正発明1のような、
(i)装置上部の一方側において一方側へ向かって斜め上方に向き商品販売に関する表示をする表示画面を有した、装置上部の一方側において前記一方側へ向かって斜め上方に向き、上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する操作部を備えた店員用の第1の表示部と、
(ii)装置の他方側において他方側へ向かって斜め上方に向く表示画面を有した、上端部が第1の表示部の上端部と同高さの客用の第2の表示部、
という構成を有していない点で相違する。

(2)相違点についての判断
ア 上記1(2)イにて指摘したように刊行物2事項は、「物品が載置されるカウンタ面を有するカウンタ1に隣接して取付フレーム19を設け、前記取付フレーム19の後部に、オペレータ用表示部25と客用表示部26とが互いにV字形をなすように埋設されて形成された表示部24を取付け、且つ、該表示部24の上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置するPOSターミナルユニット11」というものであるところ、これを本件訂正発明1の用語で表現すれば、「物品が載置されるカウンタ面を有するカウンタに隣接して取付フレーム19を設け、前記取付フレーム19の後部に、店員用の表示画面と客用の表示画面とが互いにV字形をなすように埋設されて形成された表示部24を取付け、且つ、該表示部24の上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する商品販売データ処理装置」と言い改めることができる。
ここで、刊行物2事項と刊行物1発明とは、商品販売データ処理装置において、表示部上端部をカウンタ面の高さ以下の位置とする点で共通しており、刊行物2事項を刊行物1発明に適用することには格別困難性はない。そうした場合、刊行物1発明におけるTVモニタ2は、店員用の表示画面と客用の表示画面とが互いにV字形をなすように埋設されて形成された表示画面となる。

イ さらに、上記1(3)(3-3)にて指摘したように、「商品販売データ処理装置において、装置上部の一方において前記一方側へ向かって斜め上方に向く店員用の第1の表示画面と、前記装置の他方側において前記他方側へ向かって斜め上方に向く客用の第2の表示画面を備えること」、すなわち、店員用の表示画面と客用の表示画面とが互いに逆V字形をなすように設置することは従来周知の技術事項である(「従来周知の技術事項A」)。そこで、該従来周知の技術事項Aをさらに刊行物1発明に適用し得るかにつき検討するに、刊行物1発明と刊行物2事項はいずれも、(少なくとも店員側)表示部上端部をカウンタ面の高さ以下の位置とするためのものであるところ、刊行物1発明に(あるいは刊行物1発明に刊行物2事項を適用したものに)従来周知の技術事項Aを適用しようとすると、店員用の表示画面と客用の表示画面とが互いに逆V字形となり、(少なくとも店員側)表示部上端部をカウンタ面の高さ以下の位置とするという刊行物1発明及び刊行物2事項の本来の技術的意義が全く損なわれてしまうこととなるから、従来周知の技術事項Aの適用には阻害事由があるというべきである。

ウ もっとも、従来周知の技術事項Aの適用に際し、逆V字形となる表示画面以外のキーボード等が設けられる箇所の高さを更に下げて、逆V字形となる表示部上端部をカウンタ面の高さ以下に保つ構成も、実用的有益性はともかくとして、考えられなくはない。しかしながら、そうした場合でも、平坦な面の一部に逆V字形となる表示画面が設けられる構成に過ぎず、本件訂正発明の上記(1)にて指摘した(i)及び(ii)の構成とは大きく異なるものが得られるに過ぎない。

エ そもそも、本件訂正発明1は、「第1の表示部」及び「第2の表示部」の全体面を斜め上方に向くように構成したことに技術的特徴を有するものであるから、表示画面が存在する一部の箇所のみを傾斜させた刊行物1発明及び刊行物2事項を出発点として、上記(1)にて指摘した本件訂正発明1の(i)及び(ii)の構成に到達するのは至極困難といわざるを得ない。

オ よって、刊行物1発明及び刊行物2ないし4に記載された事項から、本件訂正発明1の構成を想到することは、当業者にとって容易であるとすることはできない。

(3)特許異議申立人の意見について
申立人Bは、平成28年9月1日付け意見書にて、本件訂正発明1は、本件訂正により明確化された店員側表示画面と顧客側表示画面を逆V字形とする構成は、上記意見書に添付された参考資料2(特開2001-338345号公報)、参考資料3(特開2009-123027号公報)、参考資料4(特開2001-134838号公報)に示されるように従来周知の技術事項であり、本件訂正発明1の進歩性は否定されるべきものと主張し、申立人Aも同様の主張をしている。
しかしながら、参考資料2ないし4に示される技術事項は、取消理由通知にて引用した刊行物3及び刊行物4と同様のものに過ぎず、それらによっては本件訂正発明1の進歩性は否定し得ないことは、上記(2)にて説示したとおりである。

(4)小括
したがって、本件訂正発明1に係る特許は、取消理由によって取り消すことはできない。

3 本件訂正発明2及び4
本件訂正発明2及び4は、本件訂正発明1を引用するものであるところ、本件訂正発明1に係る特許を取消理由(第29条第2項)により取り消すことはできないことは、上記2にて説示したとおりである。したがって、本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2及び4に係る特許も、取消理由によって取り消すことはできない。

4 取消理由に関する判断のまとめ
したがって、本件訂正発明1、2及び4に係る特許は、取消理由によって取り消すことはできない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 本件請求項3並びに本件訂正発明3、5及び6
申立人Bは、本件請求項3において特定される、第1の表示部の表示画面を露出させる開状態と表示画面を被覆する閉状態とで開閉可能であり、閉状態において隣接するカウンタ面と連続する外面を構成するカバ一部材を有する構成については、刊行物1記載の「ガラス板30」(上記第5の1(1)(イ)参照)が同様の機能を果たすものであるから、想到容易と主張している。しかしながら、刊行物1記載の「ガラス板30」は、「カウンタ面と連続する外面を構成する」ものではなく、申立人Bの上記主張には理由がない。
申立人Bは、さらに、平成28年9月1日付け意見書にて、本件訂正発明3は、上記意見書に添付された参考資料6(特開平10-164195号公報)、参考資料7(実公昭62-11669号公報)、参考資料8(特開2008-25943号公報)、及び参考資料9(特開平10-192073号公報)に示されるように従来周知のカバー類を併せ適用することにより想到容易と主張し、申立人Aも同様の主張をしている。
これにつき検討するに、まず、本件訂正発明3は、本件訂正により実質的に訂正されたものではないから、申立人提出の上記カバー類に関する新たな資料は、異議申立期間を6ヶ月間に制限した制度の趣旨からすれば、採用し難いものである。また、仮に採用したとしても、上記カバー類に関する技術事項は、技術分野が大きく異なり、適用の動機付けを欠くものである。
上記本件訂正発明3に関する説示は、本件訂正発明3と同様なカバーに関する特定事項を有する本件訂正発明5及び6についても同様である。

2 申立人Bの甲3
申立人Bが提出した甲3(特許第2683136号公報)は、上記刊行物2(特開平3-246794号公報)に係る出願の特許公報であり、刊行物2の開示される事項以外のものは実質的に記載されていないから、刊行物2を検討すれば足りるものである。

3 記載不備
申立人Bは、特許請求の範囲の記載に関し、特許異議申立書において、請求項1記載の「商品販売データ処理装置」は、そのデータ処理装置という性質上、「カウンタ」を備え得るものではないから、サポート要件(第36条第6項第1号)違反及び明確性要件(第36条第6項第2号)違反である旨主張するが、「商品販売データ処理装置」を電子機能を有する処理装置本体に限定して解釈すべき事情は見当たらず、「カウンタ」等の備品を含むものと解釈しても格段不合理とはいえないから、かかる主張には理由がない。

4 申立人Aの主張について
申立人Aは、特許異議申立書において、本件請求項1ないし4に係る発明につき、甲第1ないし甲4のカタログ並びに甲5及び甲6の公報を主な証拠として、その進歩性を否定すべき旨主張する。しかし、申立人Aの主張は、カタログ等のある記載を断片的に指摘しては、他のカタログ等の断片的記載と結びつけて、結果的に本件請求項1ないし4に係る発明の構成が得られると主張するものであるところ、各断片的記載を結びつける動機付けは殆どなく、いわゆる事後的観察というほかはない。
よって、申立人Aの特許異議申立書記載の主張には理由がない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品が載置されるカウンタ面を有する第1のカウンタ及び第2のカウンタと、
前記第1及び第2のカウンタの間に設けられ、装置上部の一方側において前記一方側へ向かって斜め上方に向き商品販売に関する表示をする表示画面を有し、且つ、装置上部の一方側において前記一方側へ向かって斜め上方に向き、上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する店員用の第1の表示部と、
前記第1及び第2のカウンタの間に設けられ、前記装置の他方側において前記他方側へ向かって斜め上方に向く表示画面を有し、且つ、上端部が前記第1の表示部の前記上端部と同高さの客用の第2の表示部と、
前記一方側の第1の表示部に設けられる操作部と、を備える、ことを特徴とする商品販売データ処理装置。
【請求項2】
前記第2の表示部の上端部は、前記第1の表示部の前記上端部との間に前記カウンタ面と同高さの面を有し前記カウンタ面の高さ以下に位置し、この第2の表示部が有する前記表示画面に隣接して配置され、無線通信媒体の情報を読み取るカード処理部を備える、ことを特徴とする請求項1記載の商品販売データ処理装置。
【請求項3】
物品が載置されるカウンタ面を有する第1のカウンタ及び第2のカウンタと、
前記第1及び第2のカウンタの間に設けられ、装置上部の一方側において前記一方側へ向かって斜め上方に向き商品販売に関する表示をする表示画面を有し、且つ、その上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する店員用の第1の表示部と、
前記第1及び第2のカウンタの間に設けられ、前記装置の他方側において前記他方側へ向かって斜め上方に向く表示画面を有し、且つ、その上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する客用の第2の表示部と、
前記一方側に設けられる操作部と、
前記第1の表示部の表示画面を露出させる開状態と前記表示画面を被覆する閉状態とで開閉可能であり、閉状態において隣接する前記カウンタ面と連続する外面を構成するカバー部材と、
を備えることを特徴とする商品販売データ処理装置。
【請求項4】
前記第1のカウンタまたは前記第2のカウンタの前記他方側の上端部分に、一体に設けられた商品陳列用の棚を備えることを特徴とする請求項1乃至2のいずれか記載の商品販売データ処理装置。
【請求項5】
物品が載置されるカウンタ面を有する第1のカウンタ及び第2のカウンタと、
前記第1及び第2のカウンタの間に設けられ、装置上部の一方側において前記一方側へ向かって斜め上方に向き商品販売に関する表示をする表示画面を有し、且つ、その上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する店員用の第1の表示部と、
前記第1及び第2のカウンタの間に設けられ、前記装置の他方側において前記他方側へ向かって斜め上方に向く表示画面を有し、且つ、その上端部が前記カウンタ面の高さ以下に位置する客用の第2の表示部と、
前記一方側に設けられる操作部と、
前記第2の表示部に隣接して配置され、無線通信媒体の情報を読み取るカード処理部と、前記第1の表示部の表示画面を露出させる開状態と前記表示面面を被覆する閉状態とで開閉可能であり、閉状態において隣接する前記カウンタ面と連続する外面を構成するカバー部材と、
を備えることを特徴とする商品販売データ処理装置。
【請求項6】
前記第1のカウンタまたは前記第2のカウンタの前記他方側の上端部分に、一体に設けられた商品陳列用の棚を備えることを特徴とする請求項3及び5のいずれか記載の商品販売データ処理装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-10-18 
出願番号 特願2013-39682(P2013-39682)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (G07G)
P 1 651・ 121- YAA (G07G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 太田 良隆古川 峻弘  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 長屋 陽二郎
関谷 一夫
登録日 2015-08-07 
登録番号 特許第5789625号(P5789625)
権利者 東芝テック株式会社
発明の名称 商品販売データ処理装置  
代理人 登原 究  
代理人 登原 究  

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