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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1323462
異議申立番号 異議2016-700243  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-23 
確定日 2016-10-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5783221号発明「結晶性ポリエステル樹脂、接着剤組成物、接着シートおよびフレキシブルフラットケーブル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5783221号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第5783221号の請求項1-3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5783221号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成20年4月4日の出願である特願2008-97880号の一部を平成25年10月21日に新たな特許出願としたものであって、平成27年7月31日に特許の設定登録がされ、その後、その本件特許の請求項1ないし3に係る特許に対し、特許異議申立人 橋詰隆(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成28年6月3日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年8月4日(受理日:平成28年8月4日)に意見書(なお書面上には、平成28年8月3日の記載あり。)の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正」という。)があり、さらに平成28年9月26日(受理日:平成28年9月27日)に異議申立人から特許法第120条の5第5項に基づく意見書の提出があったものである。


第2 訂正請求について

1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)及び(2)のとおりである。
(1)訂正事項ア
特許請求の範囲の請求項1に
「ポリエステル樹脂の全グリコール成分の合計量を100モル%としたとき、グリコール成分として1,4-シクロヘキサンジメタノールを55?80モル%を含有し、且つガラス転移温度が-20℃?30℃、融点が145℃?170℃、結晶化融解熱が3mJ/mg?10mJ/mgである結晶性ポリエステル樹脂およびトルエンおよびジクロロメタンの有機溶剤を含有することを特徴とする接着剤組成物。」
とあるのを、
「ポリエステル樹脂の全グリコール成分の合計量を100モル%としたとき、グリコール成分として1,4-シクロヘキサンジメタノールを55?80モル%を含有し、且つガラス転移温度が-20℃?30℃、融点が145℃?170℃、結晶化融解熱が3mJ/mg?10mJ/mg、酸価が15?20eq/10^(6)gである結晶性ポリエステル樹脂およびトルエンおよびジクロロメタンの有機溶剤を含有し、トルエンが全溶媒中の20質量%以上であることを特徴とする接着剤組成物。」
に訂正する。

(2)訂正事項イ
明細書の【0012】に
「<1> ポリエステル樹脂の全グリコール成分の合計量を100モル%としたとき、グリコール成分として1,4-シクロヘキサンジメタノールを55?80モル%を含有し、且つガラス転移温度が-20℃?30℃、融点が145℃?170℃、結晶化融解熱が3mJ/mg?10mJ/mgである結晶性ポリエステル樹脂および下記(1)および(2)の有機溶剤を含有することを特徴とする接着剤組成物。
(1)トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチルからなる群より選ばれる1種類以上の有機溶剤
(2)ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロメタン、トリクロロエタンからなる群より選ばれる1種類以上の有機溶剤」
とあるのを、
「<1> ポリエステル樹脂の全グリコール成分の合計量を100モル%としたとき、グリコール成分として1,4-シクロヘキサンジメタノールを55?80モル%を含有し、且つガラス転移温度が-20℃?30℃、融点が145℃?170℃、結晶化融解熱が3mJ/mg?10mJ/mg、酸価が15?20eq/10^(6)gである結晶性ポリエステル樹脂およびトルエンおよびジクロロメタンの有機溶剤を含有し、トルエンが全溶媒中の20質量%以上であることを特徴とする接着剤組成物。」
に訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項ア
訂正事項アは、訂正前の請求項1の結晶性ポリエステル樹脂の酸価の範囲を規定し、溶媒中のトルエンの質量%の範囲を規定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項アは、願書に添付した明細書の【0021】、【0041】の記載を踏まえれば、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、一群の請求項ごとにされたものである。

(2)訂正事項イ
訂正事項イは、訂正事項アに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合性を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項イは、訂正事項アと同様に、願書に添付した明細書の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、一群の請求項ごとにされたものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし3について訂正を認める。


第3 本件発明

上記第2 3.のとおり、本件訂正請求による訂正は認容されるので、特許第5783221号の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)は、平成28年8月4日に提出された訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
ポリエステル樹脂の全グリコール成分の合計量を100モル%としたとき、グリコール成分として1,4-シクロヘキサンジメタノールを55?80モル%を含有し、且つガラス転移温度が-20℃?30℃、融点が145℃?170℃、結晶化融解熱が3mJ/mg?10mJ/mg、酸価が15?20eq/10^(6)gである結晶性ポリエステル樹脂およびトルエンおよびジクロロメタンの有機溶剤を含有し、トルエンが全溶媒中の20質量%以上であることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の接着剤組成物を含有する接着層と絶縁フィルムが積層されている構造を有する接着シート。
【請求項3】
請求項2に記載の接着シートを構成要素として含むフレキシブルフラットケーブル。」


第4 取消理由の概要

当審において平成28年6月3日付けで通知した取消理由の概要は、
・本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、分割出願である本件の原出願前に頒布された甲第1ないし甲第6号証(以下、「甲1」ないし「甲6」ともいう。)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない(以下、「取消理由1」という。)、
・本件特許に係る出願は、特許請求の範囲の記載の不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(以下、「取消理由2」という。)
というものである。

第5 当合議体の判断取消理由

1.取消理由1について(特許法第29条第2項)
(1)引用文献について
甲1:特開2002-371128号公報
甲2:特開2002-371258号公報
甲3:特開2005-97592号公報
甲4:特開昭52-154843号公報
甲5:特開平4-31265号公報
甲6:特開2000-204315号公報

(2)甲1?甲6の記載
ア 甲1
甲1には、以下の記載がある。
(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】 ポリエステル樹脂を構成する成分中に、脂環族ジカルボン酸を含むことを特徴とする溶剤可溶型結晶性ポリエステル樹脂
【請求項2】 請求項1記載のポリエステル樹脂および有機溶剤を含有することを特徴とする接着剤組成物
【請求項3】 少なくともプラスチックフィルム層、請求項1に記載のポリエステル樹脂を含む接着剤層、金属層を含むことを特徴とする積層体。」

(イ)【0020】?【0022】
「さらには本発明の溶剤可溶型結晶性ポリエステル樹脂は脂環族ジオールをも含むことが好ましい。脂環族ジオールとは、化合物中に脂環構造を持ち、かつ水酸基を2つ持つものである。脂環族ジオールを用いることにより、さらに結晶性と溶剤溶解性のバランスを高く保つことができる。
脂環族ジオールとしては、1,4?シクロヘキサンジメタノール、1.3-シクロヘキサンジメタノール、1,2シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、水素添加ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、水素添加ビスフェノールSエチレンオキサイド付加物、水素添加ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物、水素添加ビスフェノールSプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。これらの中でも、1,4?シクロヘキサンジメタノール、1.3-シクロヘキサンジメタノール、1,2シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
全グリコール成分に占める脂環族ジオールの含有率の好ましい上限は70モル%、より好ましい上限は65モル%、最も好ましい上限は60モル%、好ましい下限は10モル%、より好ましい下限は15モル%、最も好ましい下限は20モル%である。」

(ウ)【0031】?【0034】
「本発明のポリエステル樹脂のガラス転移点は-60℃?20℃の範囲が好ましい。また、より好ましい下限は-30℃であり、最も好ましい下限はー10℃である。ガラス転移点が、-60℃未満になると高温下での弾性率が低下し、接着力が不足することがある。例えば、自動車用部品や家電製品の接着剤として用いる場合、夏場の高温環境下での接着強度の低下が起こり、部品と部品を十分に接着しておくことが難しくなることがある。さらには、樹脂のブロッキングが生じ易くなることもあり、接着剤を塗布したあと、フィルム等の基材の取り扱いが難しくなることがある。また、ガラス転移点が20℃を超えると、室温付近での弾性率が高くなり樹脂自体が堅すぎて被着体に対して接着性が発現しないことがある。
本発明のポリエステル樹脂の軟化点(JIS規格K2207の環球法による)の好ましい上限は160℃で、より好ましい上限は150℃、最も好ましい上限は145℃であり、好ましい下限は100℃、より好ましい下限は110℃、最も好ましい下限は115℃である。樹脂の軟化点が100℃未満になると、溶剤に対する溶解性が非常に良好であるが、軟化点が低くなり、耐熱性が低下することがる。
・・・本発明の樹脂の結晶融解エネルギー(示差走査熱量測定による)は、15mJ/mg未満が好ましく、より好ましくは14mJ/mg未満であり、さらに好ましくは12.5mJ/mg未満、よりさらに好ましくは12mJ/mg以下、特に好ましくは11mJ/mg以下、最も好ましくは10mJ/mg以下である。結晶融解エネルギーが15mJ/mg未満であるときには溶剤溶解性が良好で、さらに安定性が優れている。これは、結晶融解熱が小さい場合、結晶化度が低いので溶剤溶解性が向上するが、逆に大きいと結晶化度が上がり、溶剤に難溶となるからである。
なお、本発明の溶剤可溶型結晶性ポリエステル樹脂において、溶剤可溶性とは、トルエン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、酢酸エチルの単独またはこれら内の任意の複数種からなる任意の混合比からなる混合溶媒の内のいずれか一種以上に25℃で3%以上溶解するものをいう・・・。(後略)」

(エ)【0037】
「本発明ポリエステル樹脂の酸価は40当量/10^(6)g以上であることが好ましく。さらには45当量/10^(6)g以上であることが好ましい。」(合議体注:記載のママ)

(オ)【0047】
「本発明のポリエステル樹脂およびこれを用いた接着剤組成物は、PETフィルム、銅箔に対して優れた接着性が発現されるので、これを同時に使用している電気配線部品、特にフラットケーブル等の接着剤として用いると非常に好適である。」

イ 甲2
甲2には、以下の記載がある。
(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】 ポリエステル樹脂を構成する成分中に脂環族ジカルボン酸または脂環族ジオールのうち少なくとも1種以上を含有することを特徴とする溶剤可溶型結晶性ポリエステル樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)からなることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】 請求項1に記載の接着剤組成物が電気配線部品の金属層とプラチックフィルム層とを接着・積層するための電気配線部品用接着剤組成物であることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項3】 電気配線部品がフラットケーブルであることを特徴とする請求項2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】 少なくともプラスチックフィルム層、請求項1に記載のポリエステル樹脂を含む接着剤層、金属層を含むことを特徴とする積層体。
【請求項5】 少なくともプラスチックフィルム層、請求項1に記載のポリエステル樹脂を含む接着剤層、金属層を含むことを特徴とするフラットケーブル。」

(イ)【0015】?【0017】
「本発明のポリエステル樹脂は脂環族ジオールを必須成分として含むことが好ましい。脂環族ジオールとは、化合物中に脂環構造を持ち、かつ水酸基を2つ持つものである。脂環族ジオールを用いることにより、結晶性と溶剤溶解性のバランスを高く保つことができる。
脂環族ジオールとしては、1,4?シクロヘキサンジメタノール、1.3-シクロヘキサンジメタノール、1,2シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、水素添加ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、水素添加ビスフェノールSエチレンオキサイド付加物、水素添加ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物、水素添加ビスフェノールSプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。これらの中でも、1,4?シクロヘキサンジメタノール、1.3-シクロヘキサンジメタノール、1,2シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
全グリコール成分に占める脂環族ジオールの含有率の好ましい上限は70モル%、より好ましい上限は65モル%、最も好ましい上限は60モル%、好ましい下限は10モル%、より好ましい下限は15モル%、最も好ましい下限は20モル%である。」

(ウ)【0031】?【0034】
「本発明のポリエステル樹脂のガラス転移点は-60℃?20℃の範囲が好ましい。また、より好ましい下限は-30℃であり、最も好ましい下限はー10℃である。ガラス転移点が、-60℃未満になると高温下での弾性率が低下し、接着力が不足することがある。例えば、自動車用部品や家電製品の接着剤として用いる場合、夏場の高温環境下での接着強度の低下が起こり、部品と部品を十分に接着しておくことが難しくなることがある。さらには、樹脂のブロッキングが生じ易くなることもあり、接着剤を塗布したあと、フィルム等の基材の取り扱いが難しくなることがある。また、ガラス転移点が20℃を超えると、室温付近での弾性率が高くなり樹脂自体が堅すぎて被着体に対して接着性が発現しないことがある。
本発明のポリエステル樹脂の軟化点(JIS規格K2207の環球法による)の好ましい上限は160℃で、より好ましい上限は150℃、最も好ましい上限は145℃であり、好ましい下限は100℃、より好ましい下限は110℃、最も好ましい下限は115℃である。樹脂の軟化点が100℃未満になると、溶剤に対する溶解性が非常に良好であるが、軟化点が低くなり、耐熱性が低下することがる。
・・・本発明の樹脂の結晶融解エネルギー(示差走査熱量測定による)は、15mJ/mg未満が好ましく、より好ましくは14mJ/mg未満であり、さらに好ましくは12.5mJ/mg未満、よりさらに好ましくは12mJ/mg以下、特に好ましくは11mJ/mg以下、最も好ましくは10mJ/mg以下である。結晶融解エネルギーが15mJ/mg未満であるときには溶剤溶解性が良好で、さらに安定性が優れている。これは、結晶融解熱が小さい場合、結晶化度が低いので溶剤溶解性が向上するが、逆に大きいと結晶化度が上がり、溶剤に難溶となるからである。
なお、本発明の溶剤可溶型結晶性ポリエステル樹脂において、溶剤可溶性とは、トルエン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、酢酸エチルの単独またはこれら内の任意の複数種からなる任意の混合比からなる混合溶媒の内のいずれか一種以上に25℃で3%以上溶解するものをいう・・・。(後略)」」

(エ)【0036】
「本発明ポリエステル樹脂の酸価は40当量/10^(6)g以上であることが好ましく。さらには45当量/10^(6)g以上であることが好ましい。」(合議体注:記載のママ)

ウ 甲3
甲3には、以下の記載がある。
(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
非結晶性の熱可塑性樹脂と低結晶性の熱可塑性樹脂とを有機溶剤に溶解して成ることを特徴とする熱可塑性樹脂接着剤。
【請求項2】
請求項1記載の熱可塑性樹脂接着剤において、有機溶剤として、トルエン若しくはキシレン等の芳香族炭化水素、またはメチルエチルケトン若しくはジメチルケトン等のケトン類から選ばれる単独若しくは2種類以上の混合溶剤を採用したことを特徴とする熱可塑性樹脂接着剤。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の熱可塑性樹脂接着剤において、無機酸化物を配合したことを特徴とする熱可塑性樹脂接着剤。
【請求項4】
請求項3記載の熱可塑性樹脂接着剤において、無機酸化物として、タルクを採用したことを特徴とする熱可塑性樹脂接着剤。
【請求項5】
請求項1?4いずれか1項に記載の熱可塑性樹脂接着剤において、非結晶性樹脂としてガラス転移温度(Tg)が-40?7℃で軟化点が60?130℃のポリエステル樹脂を採用し、低結晶性樹脂としてガラス転移温度(Tg)が-20?0℃で融点が70?120℃のポリエステル樹脂を採用したことを特徴とする熱可塑性樹脂接着剤。
【請求項6】
請求項5記載の熱可塑性樹脂接着剤において、非結晶性ポリエステル樹脂40?70重量部と、低結晶性ポリエステル樹脂60?30重量部とを、両者合わせて100重量部となるように配合して有機溶剤に溶解したことを特徴とする熱可塑性樹脂接着剤。
【請求項7】
請求項6記載の熱可塑性樹脂接着剤において、非結晶性ポリエステル樹脂と低結晶性ポリエステル樹脂との混合物100重量部に対してタルクを20?100重量部分散したことを特徴とする熱可塑性樹脂接着剤。
【請求項8】
電気・電子機器の内部配線材として用いられるフレキシブルフラットケーブルに貼着される熱可塑性樹脂接着剤付き補強板であって、この補強板は、合成樹脂フィルムに請求項1?7いずれか1項に記載の熱可塑性樹脂接着剤が塗布乾燥されていることを特徴とする熱可塑性樹脂接着剤付き補強板。
【請求項9】
請求項8記載の熱可塑性樹脂接着剤付き補強板において、合成樹脂フィルムとして、ポリエチレンテレフタレート若しくはポリイミドフィルムを採用したことを特徴とする熱可塑性樹脂接着剤付き補強板。」

(イ)【0003】?【0004】
「通常、高結晶性ポリエステル樹脂は、押出し成形法(押出し機中で高結晶性ポリエステル樹脂を高温加熱して溶融し、これを押出して被着体に塗布する方法)により熱可塑性樹脂接着剤として利用される。この方法は溶剤を用いない為、塗布厚に誤差が生じ易い。特に塗布厚が小さい場合、誤差は大きく問題となる。
溶剤を用いる別の方法として、溶解法(高結晶性ポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解し、これを被着体に塗布する方法)がある。この場合、有機溶剤としては塩化メチレン等のハロゲン系有機溶剤が多用されるが、この塩化メチレン等のハロゲン系有機溶剤は、環境に負荷を与えるものであるため好ましくなく、よって、ハロゲン系有機溶剤を用いず低温且つ短時間で接着力を発揮する熱可塑性樹脂接着剤の開発が望まれている。」

(ウ)【0023】?【0024】
「また、前記低結晶性の熱可塑性樹脂は、融点が存在し、結晶化状態ではあるが結晶化度が比較的低い、Tgが-20?0℃の範囲のものを採用している。この低結晶性の熱可塑性樹脂は、ハロゲン系有機溶剤やトルエン等の汎用有機溶剤にも溶解する。
Tgが-60℃以下の高結晶性の熱可塑性樹脂は採用しない。何故ならば、実験の結果、Tgが-60℃以下の高結晶性の熱可塑性樹脂は、塩化メチレン等の非極性のハロゲン系有機溶剤のみにしか溶解しないためである。(後略)」

(エ)【0060】
「<従来例>
結晶性の熱可塑性樹脂として、100重量部の東洋紡社製バイロンGM-920(分子量30000、Tg-60℃、融点108℃)と、56重量部のトルエン及び320重量部の塩化メチレンの混合溶剤に溶解・分散して懸濁溶液を調整し、熱可塑性樹脂接着剤を得た。(後略)」

エ 甲4
甲4には、以下の記載がある。
(ア)特許請求の範囲
「酸成分が(1)テレフタル酸および(2)脂肪族ジカルボン酸および/またはテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸もしくは芳香族オキシ酸からなり、アルコール成分が少なくともl種以上のグリコール(ただしポリアルキレングリコールを除く)からなる共重合ポリエステルに、芳香族ジカルボン酸を主たる酸成分とし、アルキレングリコールおよびポリアルキレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエーテルエステル共重合体を配合した組成物を有効成分とするポリエステル系接着剤組成物。」

(イ)第1頁右上下欄第12?17行
「本発明の目的は容易に実現可能の方法でポリエステル系接着剤の耐熱性、耐寒性を著しく高め、耐ヒートショック性、金属に対する接着性を改善し、そして金属とプラスチックとの複合材料の製造、高性能を要求される電気用途、自動車用途等に使用可能な接着剤を提供することにある。」


(ウ)第4頁右上欄第4?11行
「本発明に於けるポリエステル系接着剤組成物は主として溶剤型接着剤として使用する。通常使用される溶剤は工業用有機溶媒、たとえばベンゼン、トルエン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレン、酢酸エチル、酢酸-n-ブチル、ジオキサン、テトラハイドロフラン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、フェノールなどであり、単独もしくは混合溶剤として使用することができる。」

(エ)第4頁右下欄第10?20行
「II)T剥離接着力(g/cm)
ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製ルミラー厚さ50μ)およびアルミニウム箔(日本製箔製厚さ60μ)の各々にポリマーの塩化メチレン/トルエン=2/8(重量比)溶液をアプリケーターで塗布し乾燥させた。
(乾燥後のポリマーの塗布厚さは約10-12μであった。)
次いでフィルム、アルミニウム箔の各々について塗布面同士を貼り合せ4kg/cm^(2)、140℃、15秒加熱圧着した。」

オ 甲5
甲5には、以下の記載がある。
(ア)特許請求の範囲
「1)芳香族ポリカーボネート0乃至100重量%と熱可塑性ポリエステル100乃至0重量%とよりなる組成の容器本体に、ピーラブル接着層と支持層とよりなる積層体を蓋材として熱圧着してなる包装容器。
2)熱可塑性ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート又はこれらの混合物である請求項1に記載の包装容器。
3)支持層のピーラブル接着層を設置する面が、エチレングリコールを主成分とするグリコールとテレフタル酸とイソフタル酸との混合された2塩基酸とよりなる共重合ポリ(イソ-/テレ-)フタレートであり、該2塩基酸におけるテレフタル酸対イソフタル酸の比が0.75乃至0.95対0.25乃至0.05である請求項1又は2に記載の包装容器。
4)支持層が共重合ポリ(イソ-/テレ-)フタレートのフィルムであって、該フィルムがタテ、ヨコそれぞれの方向に2.7乃至3.8倍に二軸延伸され、かつ160℃乃至230℃の温度で熱固定されたものである請求項1又は3に記載の包装容器。
5)ピーラブル接着層が支持層に接して設けられる易剥離層と該易剥離層の上に設けられる熱圧着層とからなり、該易剥離層は低結晶性共重合ポリエステル単独か又は非晶性ポリエステルとの混合物よりなり、該熱圧着層は結晶性共重合ポリエステルよりなる請求項1に記載の包装容器。
6)蓋材を容器本体に熱圧着した後における該蓋材と該容器本体との剥離強度が0.3?0.8kg/7mm巾の範囲である請求項1乃至5のいずれかに記載の包装容器。」

(イ)第3頁右下欄第7行?第4頁右上欄第9行
「ここで述べる易剥離層(I)は、支持層と容器本体面を熱接着層(If)を介して繋ぐ接着性の機能をなす。・・・(中略)・・・層(I)は、低結晶性共重合ポリエステル又はこれと非晶性ポリエステルとの混合物・・・(中略)・・・を例えば混合溶剤[トルエン(60?80重量部)/メチルエチルゲトン(10?40重量部)/ジメチルホルムアミド(1?20重量部)]或いは[塩化メチレン(50?90重量部)/トルエン(10?30重量部)/メチルエチルケトン(0?20重量部)]に、固形分10?40重量部・・・(中略)・・・となるよう溶解し、・・・(中略)・・・支持層の上に、乾燥後の厚みが5?15μm・・・(中略)・・・となる様塗布せしめるものである。熱接着層(II)は、結晶性の共重合ポリエステル(G)[ガラス転移点50℃以上]を用いることにより55℃程度の温度で容器内の内容物及び内容物中の油類によるしみ出し、層(I)の劣化を防ぐ効果がある。層(II)は共重合ポリエステルを混合溶剤[トルエン(60?90重量部)/メチルエチルゲトン(40?10重量部)]或いは[塩化メチレン(50?90重量部)/トルエン(10?30重量部)/メチルエチルゲトン(0?20重量部)]に固形分10?30重量部・・・(中略)・・・となる様溶解し、・・・(中略)・・・、支持層に設けられた層(I)の上に、更に0.5?8μm程度・・・(中略)・・・塗布されるものである。」

カ 甲6
甲6には、以下の記載がある。
(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】 1種類以上のグリコール成分と1種類以上のジカルボン酸成分とからなる共重合ポリエステル樹脂であって、下記式○1?○3(合議体注:たとえば、○1は丸囲み数字の1を示す。)
【化1】(式は省略)
〔式中、nは1?4の整数を表す。R_(1)?R_(4)は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1?6の脂肪族炭化水素基もしくは脂環式炭化水素基を表し、R_(5)、R_(6)は炭素数1?12の脂肪族アルキレン基を表す。〕で示されるいずれかの構造を有する芳香族グリコール成分が、全グリコール成分に対して5?95モル%の範囲にあることを特徴とする被膜形成用共重合ポリエステル樹脂。
【請求項2】 請求項1記載の被膜形成用共重合ポリエステル樹脂とこの樹脂を溶解する有機溶剤とよりなることを特徴とする塗工液。」

(イ)【0023】
「本発明の被膜形成用共重合ポリエステル樹脂は、汎用の有機溶剤に対して高い溶解性を有しているので、容易に塗工液とすることができる。塗工液とするときに用いる有機溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系の溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン等の塩素系の溶剤、・・・(中略)・・・エステル系の溶剤、・・・(中略)・・・ケトン系の溶剤、・・・(中略)・・・エーテル系の溶剤、・・・(中略)・・・アルコール系の溶剤、・・・(中略)・・・脂肪族炭化水素系の溶剤、・・・(中略)・・・脂環族炭化水素系の溶剤等が挙げられる。これらは単独で使用することもできるが、複数種混合して使用することもできる。」

(ウ)【0027】
「本発明の共重合ポリエステル樹脂は、バインダー用樹脂、フィルム用樹脂、接着剤用樹脂、コーティング用樹脂、塗料用樹脂等として用いられ、前記のような塗工液として流延法により、あるいは溶融押し出し法又はカレンダー法等により、被覆物やフィルムを製造することができ、モーター、変圧器、発電器等の電気機器の絶縁材料、電線の被覆材料、フラットケーブル、コンデンサー等の誘電体フィルム材料として用いられ、さらには液晶の表示板や各種基板等への応用が可能であり、電気・電子材料分野へ広く応用することができる。さらに、機械分野、食品分野、建築分野、自動車分野の接着剤、具体的には、PCM塗料、建材、ふすま、食品や医薬品等の包装材の接着剤用樹脂として好適に利用することができる。」

(エ)【0030】
「実施例1
・・・(中略)・・・共重合ポリエステル樹脂を得た。次に、この共重合ポリエステル樹脂を、トルエン/メチルエチルケトンの混合溶媒(体積比 1/1)もしくは塩化メチレンに、樹脂濃度が15重量%となるように溶解し、塗工液を調製した。(後略)」

(3)甲1記載の発明及び甲2記載の発明
上記(2)ア(ア)?(オ)から、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
「ポリエステル樹脂の全グリコール成分の合計量を100モル%としたとき、グリコール成分として1,4-シクロヘキサンジメタノールを10?70モル%を含有し、且つガラス転移温度が-60℃?20℃、結晶化融解熱が15mJ/mg未満、酸価が40eq/10^(6)g以上である結晶性ポリエステル樹脂および有機溶剤を含有する接着剤組成物。」
また、上記(2)イ(ア)?(エ)から、甲2には、以下の発明が記載されているといえる。
「ポリエステル樹脂の全グリコール成分の合計量を100モル%としたとき、グリコール成分として1,4-シクロヘキサンジメタノールを10?70モル%を含有し、且つガラス転移温度が-60℃?20℃、結晶化融解熱が15mJ/mg未満、酸価が40eq/10^(6)g以上である結晶性ポリエステル樹脂および有機溶剤を含有する接着剤組成物。」
以下、2つの発明を総称して「引用発明」ともいう。

(4)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明とを対比すると、以下の点で相違するものである。

(ア)相違点1
本件特許発明1では、「融点が145℃?170℃」と特定されているのに対し、引用発明では、軟化点の好ましい上限が160℃であり、好ましい下限が100℃であるとされているものの、融点については明らかでない点。

(イ)相違点2
有機溶剤について、本件特許発明1では、「トルエンおよびジクロロメタン」を含有すると特定されているのに対し、引用発明では、「トルエン」は一致するがジクロロメタンを含有することは特定されていない点。

(ウ)相違点3
ポリエステル樹脂の酸価について、本件特許発明1では、「15?20eq/10^(6)g」であるとされているのに対し、引用発明では、40eq/10^(6)g以上とされている点。

イ 判断
事案に鑑み、まず相違点3を検討する。
甲1、甲2には、酸価を40eq/10^(6)gよりも小さな値とすることについて記載はなく(上記(2)ア(エ)、(2)イ(エ))、これを示唆するものがあるとも認めることができない。また、甲3ないし甲6にも、引用発明の酸価を小さな値とする動機となる記載や示唆があるものとも認めることができない。そして、本願明細書によって、特定の「ガラス転移温度」、「融点」、「結晶化融解熱」を有することに加えて、酸価が「15?20eq/10^(6)g」であるポリエステル樹脂を使用することによって、本件特許発明1の効果を奏することも確認することができる。
そうしてみると、相違点1、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1又は甲2に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明できたものとすることができない。

(5)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用して更に発明特定事項を加えたものである。
上記(4)イで検討したのと同様に、上記(4)ア(ウ)の相違点3の点をもって、本件特許発明2は、甲1又は甲2に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明できたものとすることができない。

(6)本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明2を引用して更に発明特定事項を加えたものである。
上記(4)イで検討したのと同様に、上記(4)ア(ウ)の相違点3の点をもって、本件特許発明2は、甲1又は甲2に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明できたものとすることができない。

(7)小括
本件特許発明1ないし3は、甲1ないし甲6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

2.取消理由2について(特許法第36条第6項第1号)
本件訂正により、本件特許発明1の接着剤組成物に含有される「トルエン及びジクロロメタンの有機溶剤」において、「トルエンが全溶媒中の20質量%以上である」ことが特定されることとなった。
甲3?甲6によれば(上記1.(2)ウ(イ)、同ウ(ウ);同エ(ウ)、同エ(エ);同オ(イ);同カ(イ)、同カ(エ)など)、トルエン、ジクロロメタンは、いずれも結晶性ポリエステル樹脂を溶解させる溶媒として通常使用されるものであることが認められる。そして、甲1?甲6には、溶媒としてトルエン、あるいはジクロロメタンを使用することによって、結晶性ポリエステル樹脂の保存安定性に悪影響を及ぼすことを示す記載や、それを示唆する記載はないし、そのようなことが当該技術分野の常識であるともすることができない。
そうしてみると、「トルエンが全溶媒中の20質量%以上である」「トルエン及びジクロロメタンの有機溶剤」を含有する場合に保存安定性を示さないとまですることはできない。

3.まとめ
上記のとおり、取消理由1、取消理由2によっては、本件特許発明1ないし3を取り消すことができない。


第6 むすび

以上のとおりであるから、取消理由1、取消理由2によっては、本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
結晶性ポリエステル樹脂、接着剤組成物、接着シートおよびフレキシブルフラットケーブル
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種プラスチックフィルム、木材、紙、皮革、金属等に対する接着性に優れており、特に、電気、電子機器の配線等に使用されるフレキシブルフラットケーブル用途において、ポリエステルフィルムや錫メッキ銅および電解銅箔に対して優れた接着性、耐熱性を有すると共に、汎用溶媒に優れた溶解性を示し、且つ良好な保存安定性を持つ結晶性ポリエステル樹脂およびこれを用いた接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル樹脂は、各種材料の接着剤として使用されており、用途別、使用装置別に無溶剤型のホットメルト接着剤と溶剤型の溶剤系接着剤が使い分けられているのが現状である。近年は、環境問題等の関係から無溶剤型のホットメルト接着剤が多用される傾向にあるが、溶剤系接着剤の特徴である薄膜コーティング、作業の簡便さ等により依然として需要は多いため、ホットメルト接着剤と同等の性能を持ち、溶剤に可溶でかつ保存安定性に優れている溶剤系接着剤が求められている。
【0003】
非結晶性のポリエステル樹脂は、溶剤に易溶なので溶剤系接着剤を得ることは容易であるが、一般に耐熱性に乏しく凝集力が小さいので、得られた溶剤系接着剤の接着性は低いものとなる傾向にある。一方、一般的にホットメルト接着剤として多く用いられている結晶性のポリエステル樹脂は、凝集力に優れるので接着性の良好な溶剤系接着剤を得ることができるものと期待されるものの、一般に溶剤に難溶であるため溶剤系接着剤を得ることは非常に難しい。
【0004】
この問題に対して、特許文献1に示されるように結晶性ポリエステル樹脂に溶剤に可溶な非結晶性ポリエステル樹脂を溶融混合する方法が提案されているが、溶融混合工程が必要となるため大掛かりな装置を導入しなければならないという問題が生じた。
【特許文献1】 特開平4-164957号公報
【0005】
これまでに種々の用途で使用されてきたホットメルト接着剤に用いられてきた結晶性ポリエステル樹脂は、例えば、高い耐熱性が要求性能として挙げられてきたにもかかわらず、接着(ラミネート)時の生産効率を重視するために、樹脂の融点を低くして、低温ラミネート化を実現してきた。このような結晶性ポリエステル樹脂を溶剤系接着剤に使用すると、樹脂の融点が低いので、用途、使用環境によっては、樹脂が軟化して流動するために作業性が低下し、また凝集力が減少して接着強度が低下するなど接着剤としての特性が損なわれる傾向にある。一方、樹脂の融点を高くすると溶剤溶解性が非常に悪くなる傾向にあるため、溶剤系接着剤を得ることは困難となる。したがって、溶剤系接着剤を得るためにはこれらの特性のバランスを取ることが非常に重要となる。
【0006】
例えば、特許文献2には、溶剤溶解性と保存安定性を向上させた結晶性ポリエステル樹脂が提案されている。これら樹脂について検討したところ、溶解性、安定性には優れているが、融点が低いために、耐熱性が不足気味で、高温環境下での使用には耐えない。また、実際に樹脂を使用する場合、生産性、コスト等の観点を考慮すると、ワニスに対する樹脂の固形分濃度を高めておくことが必要となるが、実用上問題が生じないレベルでの溶液安定性を可能にすることは、非常に難しい。
【特許文献2】 特開平6-184515号公報
【0007】
特に、電気、電子機器の配線等の接着剤として用いる場合は、接着層の耐熱性、耐ブロッキング性、接着性の要求性能を満たす必要があり、これらの性能とともに、製造設備上の問題から、溶剤に可溶で、しかも、保存安定性に優れた溶剤系接着剤が求められている。
【0008】
電気、電子機器の回路基板同士の配線に多用される多芯平型のフレキシブルフラットケーブル(以下FFCと略することがある)は、導電体である錫メッキ銅を、接着剤を介して絶縁フィルムと貼り合わせる構造、すなわち、例えば、絶縁フィルム/接着剤/金属導線/接着剤/絶縁フィルムといった積層構造を有している。絶縁フィルムとしては、機械特性、電気特性の優れた二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム層が用いられていることが多い。
【0009】
従来、FFC用の接着剤は無溶剤型のホットメルト接着剤と溶剤型の溶剤系接着剤が使い分けられており、ホットメルト接着剤には結晶性ポリエステル樹脂、溶剤系接着剤には非晶性樹脂が用いられる。非結晶性のポリエステル樹脂は、溶剤に易溶であるが一般に耐熱性に乏しく、凝集力が小さいため接着性も低い。一方、一般的にホットメルト接着剤として多く用いられる結晶性のポリエステル樹脂は、凝集力に優れ、接着性は良好であるものの一般に溶剤に難溶であり、両者を満足できる溶剤系のポリエステル樹脂系接着剤を得ることは、非常に難しい。近年は、耐熱性の要求や、環境問題等の関係から無溶剤型のホットメルト接着剤が増加傾向にあるが、溶剤系接着剤の特徴である薄膜コーティング、作業の簡便さ等により依然として需要は多いため、ホットメルト接着剤と同等の性能を持ち、溶剤に可溶でかつ保存安定性に優れている結晶性ポリエステル接着剤が求められている。
【0010】
特に最近、FFCは自動車用途の様々な部分に用いられることが多くなり、これに伴い、使用環境温度が高い部位にも用いられるようになり、耐熱性の要求が一層高くなっている。非晶性のポリエステル樹脂や溶剤に可溶であるこれまでの結晶性ポリエステル樹脂では耐熱性が不足しており、90℃以上の雰囲気下では機械的強度が低下してしまい、接着不良や接着剤層の変形が起こり使用に耐えられない。つまり、高耐熱性、耐ブロッキング性、接着性に優れ、且つ汎用溶剤に対して溶解性が良好であり、高固形分濃度のワニスでも優れた安定性を保持する結晶性ポリエステル樹脂が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、各種プラスチックフィルム、木材、紙、皮革、金属等に対する接着性に優れており、特に、電気、電子機器の配線等に使用されるフレキシブルフラットケーブル用途において、ポリエステルフィルムや錫メッキ銅および電解銅箔に対して優れた接着性、耐熱性を有すると共に、汎用溶媒に優れた溶解性を示し、且つ溶解物が良好な保存安定性を持つ結晶性ポリエステル樹脂およびこれを用いた接着剤組成物に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、鋭意検討した結果、以下に示す手段により上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の構成からなる。
<1> ポリエステル樹脂の全グリコール成分の合計量を100モル%としたとき、グリコール成分として1,4-シクロヘキサンジメタノールを55?80モル%を含有し、且つガラス転移温度が-20℃?30℃、融点が145℃?170℃、結晶化融解熱が3mJ/mg?10mJ/mg、酸価が15?20eq/10^(6)gである結晶性ポリエステル樹脂およびトルエンおよびジクロロメタンの有機溶剤を含有し、トルエンが全溶媒中の20質量%以上であることを特徴とする接着剤組成物。
<2> <1>に記載のポリエステル樹脂を含有する接着層と絶縁フィルムが積層されている構造を有する接着シート。
<3> <2>記載の接着シートを構成要素として含むフレキシブルフラットケーブル。
以下に、本発明の詳細を述べる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、各種プラスチックフィルム、木材、紙、皮革、金属等に対する接着性に優れており、特に、電気、電子機器の配線等に使用されるフレキシブルフラットケーブル用途において、ポリエステルフィルムや錫メッキ銅および電解銅箔に対して優れた接着性、耐熱性を有すると共に、汎用溶媒に優れた溶解性を示し、且つ溶解物が良好な保存安定性を持つ結晶性ポリエステル樹脂およびこれを用いた接着剤組成物が得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の結晶性ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分としては、1,4-シクロヘキサンジメタノール55?80モル%、好ましくは55?75モル%、より好ましくは60?70モル%である。55モル%未満であると樹脂の結晶性および機械的強度が不足し、接着性、耐熱性が低下してしまい、80モル%以上であると、溶媒への溶解性および保存安定性が低下してしまう傾向にある。
【0015】
本発明の結晶性ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分としては、1,4-シクロヘキサンジメタノール以外にエチレングリコ-ル、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオ-ル、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオ-ル、1,6-ヘキサンジオ-ル、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2,2,4-トリメチル-1,5-ペンタンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、1,9-ノナンジオール、2-メチルオクタンジオール、1,10-デカンジオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリカーボネートグリコール等が挙げられる。これらのグリコール成分の中ではエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオ-ル、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリカーボネートグリコールが耐熱性、溶媒への溶解性および保存安定性の点から特に好ましい。
【0016】
ポリアルキレンエーテルグリコールであるポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリカーボネートグリコールの分子量は500?5000のものを用いることが好ましい。分子量が500未満では芳香族ポリエステルセグメントとの相溶性が高くなり、樹脂の凝集力が低下し接着力が低くなる傾向にある。また分子量が5000を超えると芳香族ポリエステルセグメントとの相溶性が低くなり、均一な溶液が得られにくくなる傾向にある。
【0017】
本発明において用いられる結晶性ポリエステル樹脂の二塩基酸成分としては、以下に示す多価カルボン酸、もしくはそのアルキルエステル、酸無水物を使用できる。
多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボンル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族二塩基酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族や脂環族のジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)等の芳香族多価カルボン酸等が挙げられる。耐熱性や屈曲性を考慮すると、テレフタル酸を全酸成分のうち、40モル%以上とするのが好ましい。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂のガラス転移温度は-20℃?30℃、好ましくは-15℃?25℃、より好ましくは-10℃?20℃である。ガラス転移温度が-20℃未満になると、高温下での弾性率が低下し、接着力が不足することがある。例えば、自動車用部品や家電製品の接着剤として用いる場合、夏場の高温環境下での接着強度の低下が起こり、部品と部品を十分に接着しておくことが難しくなる場合がある。さらには、樹脂のブロッキングが生じ易くなることもあり、接着剤を塗布した後、フィルム等の基材の取り扱いが難しくなることがある。また、ガラス転移温度が30℃を超えると、室温付近での弾性率が高くなり樹脂自体が堅すぎて被着体に対して接着性が発現しないことがある。
【0019】
本発明において、結晶性ポリエステル樹脂とは、示差走査熱量計測定(昇温速度20℃/min)により、融点ピークが観測されるポリエステル樹脂である。融点は145?170℃、好ましくは150?165℃、より好ましくは150?160℃である。樹脂の融点が120℃未満になると、溶媒に対する溶解性は良好であるが、耐熱性が低下してしまう傾向にあり、樹脂の融点が170℃を超えると耐熱性は向上するが、溶媒への溶解性および保存安定性が大きく低下する傾向にある。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂の結晶化融解熱(示差走査熱量計測定、昇温速度20℃/min)は3mJ/mg?10mJ/mg、好ましくは3mJ/mg?9mJ/mg、より好ましくは3mJ/mg?8mJ/mgである。結晶化融解熱が3mJ/mgより低いと樹脂の凝集力が低く接着力が低下する。逆に結晶化融解熱が10mJ/mgより高いと、溶媒に対する溶解性および保存安定性が低下する傾向にある。
【0021】
本発明の接着剤組成物において用いられる溶媒は、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチルから選ばれる溶媒を少なくとも1種類以上含んでいることが好ましく、前記5種の溶媒が全溶媒中の20質量%以上であることが更に好ましい。前記5種の溶媒は、沸点が70?140℃の工業的な汎用溶媒であり、コスト、作業性が優れている。必要に応じて、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジオキサン、ジオキソラン、フェノール、ベンジルアルコール、アセテート系有機溶剤、及びセロソルブ系有機溶剤の溶媒(左記シクロヘキサノン以下セルソルブ系有機溶剤までを、以下、シクロヘキサノン等の溶媒と記す)を併用することができる。シクロヘキサノン等の溶媒を併用すると、前記5種の溶媒のみを使用したときに比べ、接着剤組成物の溶解保存安定性を向上することができるが、溶媒の価格が高い、溶媒の沸点が高く塗膜に残存しやすい、溶媒の有害性が高い、のいずれかまたは複数の問題点があり、工業的にあまり使用は好まれていない。ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロメタン、トリクロロエタン等の塩素系溶媒も溶解安定性を大きく向上させる点については効果があり、単独で、あるいは前述の5種の溶媒と併用して使用できるが、近年の環境問題より、実際に使用することが困難な場合がある。
【0022】
本発明において、結晶性ポリエステルは、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチルの合計濃度が全混合溶剤中の20質量%以上である少なくとも一種の混合溶剤に固形分濃度15質量%で溶解可能であり、該溶解物を25℃で5日間保存したときにB型粘度計で測定した溶液粘度(25℃測定)が溶解直後の1.5倍以下であることが好ましい。
【0023】
本発明の接着剤組成物において、ポリエステル樹脂と溶媒の配合割合は、10/90?30/70質量%であり、好ましくは15/90?25/75質量%である。ポリエステル樹脂の濃度が30質量%より大きいと、接着剤の溶解安定性が不良となり、10質量%未満であると、接着層の厚みを高める際には接着剤の塗布回数を増やすといった操作が必要となり、作業効率が悪く生産性が低下する。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂の還元粘度(単位dl/g)は、0.60?0.95であり、好ましくは0.65?0.90、より好ましくは0.70?0.85である。還元粘度が0.60未満であると、ポリエステル樹脂の凝集力が低く接着力が低下してしまうおそれがあり、0.95より大きいと、溶媒に難溶となってしまうことがある。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂は、前述の溶媒に各種の添加剤を混合し、接着剤組成物に用いることができる。添加剤としては、難燃剤、顔料、ブロッキング防止剤を配合して使用することが好ましい。難燃剤としてはデカブロモジフェニルエーテル、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、テトラブロモビスフェノールA等の臭素系難燃剤やトリフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート、トリエチルフォスフェート、クレジルジフェニルフォスフェート、キシレニルジフェニルフォスフェート、クレジルビス(2,6-キシレニル)フォスフェート、2-エチルヘキシルフォスフェート、ジメチルエチルフォスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニル)フォスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニル)フォスフェート、ビスフェノールAビス(ジクレジル)フォスフェート、ジエチル-N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノメチルフォスフェート、リン酸アミド、有機フォスフィンオキサイド、赤燐等のリン系難燃剤、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン、シクロフォスファゼン、トリアジン、メラミンシアヌレート、サクシノグアナミン、エチレンジメラミン、トリグアナミン、シアヌル酸トリアジニル塩、メレム、メラム、トリス(β-シアノエチル)イソシアヌレート、アセトグアナミン、硫酸グアニルメラミン、硫酸メレム、硫酸メラム等の窒素系難燃剤、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸カリウム、芳香族スルフォンイミド金属塩、ポリスチレンスルフォン酸アルカリ金属塩等の金属塩系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ドロマイト、ハイドロタルサイト、水酸化バリウム、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化ジルコニウム、酸化スズ等の水和金属化合物系難燃剤、シリカ、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化タングステン、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、スズ酸亜鉛等無機系難燃剤、シリコーンパウダー等のシリコン系難燃剤である。このうち、特にビス(ペンタブロモフェニル)エタン等の臭素系難燃剤が好ましく使用される。また、これらの難燃剤を2種類以上組み合わせて使用することが可能であり、特に、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン等の臭素系難燃剤と酸化アンチモン等の無機系難燃剤の組み合わせが好ましい。顔料には酸化チタン、カーボンブラック等が用いられる。ブロッキング防止剤にはシリカ、炭酸カルシウム、タルク等が用いられ、接着性の面より、特にシリカが好ましい。
【0026】
本発明の接着剤組成物には必要に応じてシランカップリング剤、タッキファイヤー、結晶核剤、紫外線吸収剤、エポキシ化合物、イソシアネート化合物等を配合することができる。
【0027】
FFCは、典型的には導電体である錫メッキ銅を、接着剤を介して絶縁フィルムと貼り合わせる構造、すなわち、例えば、絶縁フィルム/接着剤/金属導線/接着剤/絶縁フィルムといった積層構造を有している。
【0028】
本発明に用いられる絶縁フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下PETフィルムと略す)、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリオキサベンザゾールフィルム等、任意のプラスチックフィルムが用いられるが、ポリエチレンテレフタレートフィルムが経済性や汎用性の面で好ましい。プラスチックフィルムには、必要に応じコロナ処理や易接着層を設けることができる。
【0029】
本発明の接着剤組成物を乾燥後の厚みが5μm以上60μm以下となるように絶縁フィルムに塗布し、乾燥した積層体とすることで接着シートを得ることができる。この接着シートのコーティング層を内側にして、導電体を挟み込んで接着することにより製造することにより、FFCを製造することが出来る。
【0030】
【実施例】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例になんら限定されるものではない。実施例中単に部とあるのは質量部を示す。なお、実施例に記載された測定値は以下の方法によって測定したものである。
【0031】
樹脂組成:樹脂を重クロロホルムに溶解し、ヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)ジェミニ-200を用いて、^(1)H-NMR分析を行ってその積分比より決定した。
【0032】
融点、結晶化融解熱、ガラス転移温度:示差走査熱量計を用い、測定試料5mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封し、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量分析計(DSC)DSC-220を用いて、20℃/minの昇温速度で室温から260℃まで昇温した。次に50℃/minの降温速度で250℃から-100℃まで急冷した後、すぐに20℃/minの昇温速度で再度260℃まで昇温した。急冷後のDSC測定において、融解ピークの最大値を示す温度を融点とし、その融解ピークの面積から結晶化融解熱を算出した。また、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と遷移部における最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。
【0033】
酸価:ポリエステル0.2gを20mlのクロロホルムに溶解し、0.1Nの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、樹脂10^(6)gあたりの当量(eq/10^(6)g)を求めた。
【0034】
還元粘度:ポリエステル0.1gをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)混合溶媒25ccに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定することにより還元粘度η_(sp)/C(dl/g)を求めた。
【0035】
保存安定性:ポリエステル樹脂を固形分濃度15%となるように、必要により加熱混合を加え、トルエン/ジクロロメタン=20/80質量%の混合溶媒に溶解した。左記溶液を内容積200mLのマヨネーズ瓶に移し、25℃に温度調整した恒温槽に浸漬し、2時間密閉放置した。次いで、B型回転粘度計(東京計器(株)製,EM型)を用いて溶液粘度を測定し、これを溶解直後の粘度とした。左記溶液を25℃の暗所で5日間密閉保存し再度B型回転粘度計を用いて溶液粘度を測定し、溶解直後の粘度に対する比率を下記判定基準に従って判定し、保存安定性の評価とした。
7日後の溶液粘度が溶解直後の1.0倍以上1.3倍未満:◎
7日後の溶液粘度が溶解直後の1.3倍以上1.5倍未満:○
7日後の溶液粘度が溶解直後の1.5倍以上2.0倍未満:△
7日後の溶液粘度が溶解直後の2.0倍以上:×
【0036】
<結晶性ポリエステル樹脂の合成例1>
撹拌器、温度計、留出用冷却器を装備した反応缶内に、テレフタル酸299部、イソフタル酸50部、アジピン酸110部、セバシン酸30部、エチレングリコール223部、1,4-シクロヘキサンジメタノール324部、テトラブチルチタネート0.4部、チバガイギー製酸化防止剤「イルガノックス-1330」0.7部を仕込み、4時間かけて230℃まで徐々に上昇し、留出する水を系外に除きつつエステル化反応を実施した。これに数平均分子量1000のポリテトラメチレングリコールを75部仕込み次いで反応系を20分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行うと共に温度を250℃まで昇温し、更に1mmHg以下で1.5時間後期重合を行った。このようにして結晶性ポリエステル樹脂合成例1を得た。結晶性ポリエステル樹脂合成例1の^(1)H-NMRによる組成分析の結果および特性値を表1に示す。
【0037】
<結晶性ポリエステル樹脂合成例1の樹脂溶液の調製>
撹拌翼、温度計、還流冷却管を装備した反応缶内に、結晶性ポリエステル樹脂合成例1を15部、トルエンを17部、ジクロロメタンを68部仕込み、30℃で3時間かけて完全に溶解し、ポリエステル樹脂溶液を得た。樹脂溶液の保存安定性を表1に示す。
【0038】
<結晶性ポリエステル樹脂の比較合成例1>
ジカルボン酸成分とグリコール成分の仕込量を変更した他は結晶性ポリエステル樹脂の合成例1と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂比較合成例1の合成を行った。結晶性ポリエステル樹脂比較合成例1の^(1)H-NMRによる組成分析の結果および特性値を表2に示す。
<結晶性ポリエステル樹脂の合成例2>
撹拌器、温度計、留出用冷却器を装備した反応缶内に、テレフタル酸299部、イソフタル酸25部、アジピン酸153部、エチレングリコール166部、1,4-ブタンジオール122部、1,4-シクロヘキサンジメタノール286部、テトラブチルチタネート0.4部、チバガイギー製酸化防止剤「イルガノックス-1330」0.7部を仕込み、4時間かけて230℃まで徐々に上昇し、留出する水を系外に除きつつエステル化反応を実施しし、次いで反応系を20分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行うと共に温度を260℃まで昇温し、更に1mmHg以下で1.5時間後期重合を行った。このようにして結晶性ポリエステル樹脂合成例2を得た。結晶性ポリエステル樹脂合成例2の^(1)H-NMRによる組成分析の結果および特性値を表1に示す。
【0039】
<結晶性ポリエステル樹脂の合成例3?6、比較合成例2、3、非晶性ポリエステル樹脂の比較合成例4?6>
ジカルボン酸成分とグリコール成分の仕込量を変更した他は結晶性ポリエステル樹脂の合成例2と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂合成例3?6、比較合成例2、3、非晶性ポリエステル樹脂比較合成例4?6の合成を行った。このようにして得られた結晶性ポリエステル樹脂および非晶性ポリエステル樹脂の^(1)H-NMRによる組成分析の結果および特性値を表1と表2に示した。
【0040】
<ポリエステル樹脂合成例2?6および比較合成例1?6の樹脂溶液の調製>
結晶性ポリエステル樹脂合成例1の場合と同様にしてポリエステル樹脂合成例2?6および比較合成例1?6を溶媒に溶解し、ポリエステル樹脂溶液を得た。このようにして得られた結晶性ポリエステル樹脂溶液および非晶性ポリエステル樹脂溶液の保存安定性を表1と表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
<接着剤組成物1の調製>
直径2mmのガラスビーズを入れた70mlのガラス瓶に、<結晶性ポリエステル樹脂合成例1の樹脂溶液の調製>で得られた結晶性ポリエステル樹脂の溶液を666部、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン(アルベマール社製SAYTEX8010)を50部、三酸化アンチモンを36部、酸化チタンを10部、シリカ(日本アエロジル(株)製アエロジルR972)を4部仕込み、シェーカーにて3時間分散を行い、目的とする接着剤組成物1を得た。
このようにして得られた接着剤組成物1の組成を表3に示す。
【0044】
<接着剤組成物2?6、比較組成物1?6の調製>
接着剤組成物1と同様に結晶性ポリエステル樹脂の合成例2?6、比較合成例1?6で得られた樹脂を用いて、各種添加剤を配合し、目的とする接着剤組成物2?6、比較組成物1?6を得た。このようにして得られた接着剤(比較)組成物の組成を表3に示す。
【0045】
<実施例1>
接着剤組成物1で得られた接着剤を、以下に示す通りの評価項目に従い評価を行った。
【0046】
接着強度:接着剤組成物1で得られた接着剤組成物を25μmの二軸延伸PETフィルム上に乾燥後の厚みが30μmとなるように塗布し、60℃で3分乾燥した後、120℃で5分乾燥して接着シートを作成した。このようにして得られた接着シートの接着剤塗布面と電解銅箔の光沢面とをテスター産業社製ロールラミネータを用いて、ラミネート温度170℃、圧力0.3MPa、速度1m/minの条件にて貼り合わせた。このようにして得られた貼り合わせ品を1cm幅に切断し、東洋ボールドウイン社製RTM100を用いて、25℃雰囲気下で、50mm/minの引っ張り速度で引っ張り試験を行い、90°剥離接着力を測定した。
上記の電解銅箔は日本電解(株)製USLPSE-18μmを用いた。
(判定)◎:20N/cm以上
○:10N/cm以上20N/cm未満
△:5N/cm以上10N/cm未満
×:5N/cm未満
【0047】
耐熱性:接着剤組成物1で得られた接着剤組成物を25μmの二軸延伸PETフィルム上に乾燥後の厚みが30μmとなるように塗布し、60℃で5分乾燥した後、120℃で5分乾燥して接着シートを作成した。このようにして得られた接着シートを、幅0.8mm、厚さ0.05mmの錫メッキ銅線を10本、銅線の線間が1.0mm幅となるように平行に揃え、その上に50μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを離型フィルムとして重ねた状態で、テスター産業社製ロールラミネータを用いて、ラミネート温度150℃、圧力0.3MPa、速度1m/minの条件にて貼り合わせた。この後、ポリプロピレンフィルムを取り外し、錫メッキ銅線を上向きにし、1N/cm^(2)となるように重りを載せて、80℃にて72時間の熱処理を行った。このようにして熱処理を行ったサンプルの錫メッキ銅線の接着剤層への沈み込みの深さを測定した。
(判定)◎:2μm未満
○:2μm以上5μm未満
△:5μm以上10μm未満
×:10μm以上
【0048】
<実施例2?6および比較実施例1?6>
接着剤組成物1と同様に接着剤組成物2?6、比較組成物1?6について評価を行った結果を表3に示す。
【0049】
比較組成物1は耐熱性および接着性は優れるが、保存安定性に劣る。比較組成物1に含まれる結晶性ポリエステル樹脂は、融点が低く、結晶化融解熱が高く、特許請求の範囲外である。
比較組成物2は耐熱性に優れるが、接着性と保存安定性に劣る。比較組成物2に含まれる結晶性ポリエステル樹脂は、結晶化融解熱とガラス転移温度が高く、特許請求の範囲外である。
比較組成物3は優れた耐熱性を有するが、接着性と保存安定性に劣る。比較組成物3に含まれる結晶性ポリエステル樹脂は、融点と結晶化融解熱が高く、特許請求の範囲外である。
比較組成物4および比較組成物5は、保存安定性は優れるものの、接着性と耐熱性は劣る。比較組成物4および比較組成物5に含まれるポリエステル樹脂は融点が検出されず、特許請求の範囲外である。
比較組成物6は接着性および保存安定性は良いが、耐熱性に劣る。比較組成物6に含まれるポリエステル樹脂は1,4-シクロヘキサンジメタノールを用いておらず、また非晶性であり、特許請求の範囲外である。
【0050】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明で得られた結晶性ポリエステル樹脂および接着剤組成物は従来技術と比較して、優れた耐熱性、ポリエステルフィルムや錫メッキ銅および電解銅箔に対する優れた接着性を有すると共に、汎用溶媒に優れた溶解性を示し、且つ良好な保存安定性を持つ。このため、接着剤組成物として有用であり、特に、電気、電子機器の配線等に使用されるフレキシブルフラットケーブル用途において優れた性能を発揮するものである。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂の全グリコール成分の合計量を100モル%としたとき、グリコール成分として1,4-シクロヘキサンジメタノールを55?80モル%を含有し、且つガラス転移温度が-20℃?30℃、融点が145℃?170℃、結晶化融解熱が3mJ/mg?10mJ/mg、酸価が15?20eq/10^(6)gである結晶性ポリエステル樹脂およびトルエンおよびジクロロメタンの有機溶剤を含有し、トルエンが全溶媒中の20質量%以上であることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の接着剤組成物を含有する接着層と絶縁フィルムが積層されている構造を有する接着シート。
【請求項3】
請求項2に記載の接着シートを構成要素として含むフレキシブルフラットケーブル。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-10-18 
出願番号 特願2013-218310(P2013-218310)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 北澤 健一阪野 誠司  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 橋本 栄和
守安 智
登録日 2015-07-31 
登録番号 特許第5783221号(P5783221)
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 結晶性ポリエステル樹脂、接着剤組成物、接着シートおよびフレキシブルフラットケーブル  

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