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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1323466
異議申立番号 異議2016-700198  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-07 
確定日 2016-11-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5778711号発明「セル間接続部材の製造方法およびセル間接続部材および固体酸化物形燃料電池用セル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5778711号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔4?6〕について、訂正することを認める。 特許第5778711号の請求項1?3に係る特許を維持する。 特許第5778711号の請求項4?6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5778711号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成25年3月26日に特許出願され、平成27年7月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人馬場資博(以下、「申立人」という。)により特許異議申立書が提出され、平成28年7月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年9月23日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)?(4)のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項4?6を削除する。

(2) 訂正事項2
願書に添付した明細書の【発明の名称】に「セル間接続部材の製造方法およびセル間接続部材および固体酸化物形燃料電池用セル」と記載されているのを、「セル間接続部材の製造方法」に訂正する。

(3) 訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0001】に「本発明は、CrおよびMnを含有する合金または酸化物からなる基材に、金属酸化物からなる保護膜を形成するセル間接続部材の製造方法およびセル間接続部材および固体酸化物形燃料電池用セルに関する。」と記載されているのを、「本発明は、CrおよびMnを含有する合金または酸化物からなる基材に、金属酸化物からなる保護膜を形成するセル間接続部材の製造方法に関する。」と訂正する。

(4) 訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0023】?段落【0028】を削除する。

2 訂正の適否についての判断
(1) 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1は、請求項4?6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項2?4は、訂正事項1に係る訂正によって生じる特許請求の範囲の記載と、発明の名称及び発明の詳細な説明との記載の不整合を解消して、記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項1?4に係る訂正前の請求項4?6について、請求項5は請求項4を引用し、請求項6は請求項4または5を引用するものであるから、訂正前の請求項4?6は一群の請求項であり、本件訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

(2) 訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項?第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔4?6〕について訂正を認める。

第3 特許異議申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
CrおよびMnを含有する合金または酸化物からなる基材に、金属酸化物からなる保護膜を形成するセル間接続部材の製造方法であって、
前記保護膜が、Zn_(x)(Co_(y)Mn_((1-y)))_((3-x))O_(4)(0<x<1、0<y×(3-x)≦2)を含み、
前記基材上に、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成する塗膜形成工程を行い、前記基材に含まれるMnが塗膜成分と反応する条件下で、前記塗膜を1000℃以上1100℃以下で、2時間以上焼成する焼成工程を行い、前記塗膜内に前記塗膜成分とMnとが反応して生じるMn含有緻密層を、前記基材表面に形成されるCr_(2)O_(3)層と密着形成させ、前記Mn含有緻密層の厚さを1μm以上に成長させるセル間接続部材の製造方法。
【請求項2】
CrおよびMnを含有する合金または酸化物からなる基材に、金属酸化物からなる保護膜を形成するセル間接続部材の製造方法であって、
前記保護膜が、Co_(1.5)Mn_(1.5)O_(4)を含み、
前記基材上に、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成する塗膜形成工程を行い、前記基材に含まれるMnが塗膜成分と反応する条件下で、前記塗膜を1050℃以上1100℃以下で焼成する焼成工程を行い、前記塗膜内に前記塗膜成分とMnとが反応して生じるMn含有緻密層を、前記基材表面に形成されるCr_(2)O_(3)層と密着形成させ、前記Mn含有緻密層の厚さを1μm以上に成長させるセル間接続部材の製造方法。
【請求項3】
前記基材上に形成される塗膜がアニオン電着塗装法により形成されたものである請求項1または2に記載のセル間接続部材の製造方法。」

2 申立理由の概要
申立人は、証拠として、
・国際公開第2009/131180号(以下、「甲第1号証」という。)、
・特開2012-216508号公報(以下、「甲第2号証」という。)、
・特開2010-113955号公報(以下、「甲第3号証」という。)、・都地昭宏、外2名、「固体酸化物形燃料電池(SOFC)用セパレータ材ZMG^(*)232Lの開発」、日立金属技報、日立金属株式会社、2007年、Vol.23、p.45-50、写し、上記「*」は○内にRが記載されている(以下、「甲第4号証」という。)、
・「VDM^(*) Crofer 22APU」、Material Data Sheet、VDM Metals GmbH(当審訳:フィディーエムメタルズ有限会社)、2010年5月、No.4046、P.1-11、写し及び抄訳分、上記「*」は○内にRが記載されている(以下、「甲第5号証」という。)、
・特開昭60-184698号公報(以下、「甲第6号証」という。)、
・特開2002-265881号公報(以下、「甲第7号証」という。)、
・“第167回 電着塗装 表面処理技術講座|ミスミの技術講座”、[online]、2004年7月23日、株式会社ミスミ、[2016年2月25日検索]、インターネット<URL:http://koza.misumi.jp/surface/2004/07/167.html>(以下、「甲第8号証」という。)
を提出し、以下の申立理由1?申立理由4-2によって請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

申立理由1
本件特許の請求項2?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
申立理由2
本件特許の請求項1?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された事項、及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
申立理由3
本件特許の請求項1?6に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が確認できる範囲を超えるものであり、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
申立理由4-1
本件特許の請求項1、2に係る発明は、「金属酸化物」なる記載の点で明確ではないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
申立理由4-2
本件特許の請求項4?6に係る発明は、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するものであるから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 取消理由の概要
当審において、本件訂正請求による訂正前の請求項4?6に係る特許に対して通知した取消理由は、上記申立理由4-2に基づく、以下のものである。

本件特許発明4は、「セル間接続部材」という物の発明であるが、当該請求項には、「請求項1?3のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法により製造された」という、物の製造方法が記載されているものと認められる。物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)2658号を参照)。
しかしながら、不可能・非実際的事情が存在することについて、明細書等には何ら記載がなく、また、特許権者から主張・立証がされていないため、その存在を認める理由は見いだせない。
したがって、請求項4に係る発明は明確でない。また、請求項4を引用する請求項5、6に係る発明も、同様に明確でない。

4 判断
本件訂正請求により、請求項4?6は削除されたので、取消理由の対象である請求項4?6に係る特許は存在しなくなった。

5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
5-1 申立理由1、2について(その1)
申立理由1、2は、いずれも、甲第1号証を主引例とした新規性または進歩性についての申立理由であるところ、これら申立理由のうち、本件発明1と、請求項1を引用する本件発明3を対象とする申立理由について検討する。

(1)甲第1号証について
(1-1)甲第1号証の記載事項
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第1号証には、「固体酸化物形燃料電池用セル」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加したものであり、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。

1ア 「[0009]
一方、Cr(III)の酸化物のCr(VI)への酸化を抑制するべく、合金等の表面に単一系酸化物被膜を形成することも考えられている。ところが、酸化力の小さい(平衡解離酸素分圧の小さい)単一系酸化物は、電気抵抗が高いため、実際には特許文献2のように半導体化(すなわち、不純物のドーピング)等を行って導電率を向上させる必要がある。この場合、SOFC用セルの製造工程が増大し、コストアップの原因となり得る。一方、酸化力の大きい(平衡解離酸素分圧の大きい)単一系酸化物は、電気抵抗が低いものが多いが、Cr(III)の酸化物のCr(VI)への酸化を抑制することができない。従って、別の解決策が望まれている。
[0010]
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、Crを含有する合金等と空気極とを接合してなるSOFC用セルにおいて、空気極のCr被毒の発生を良好に抑制するとともに、合金等のCr枯れによる酸化劣化の進行を抑制し得るSOFC用セルを提供する点にある。」

1イ 「[0012]
上述したように、固体酸化物形燃料電池用セルにあっては、合金又は酸化物(合金等)側からのCrの飛散による空気極のCr被毒を防止することが求められている。また、合金等に含まれるCrの減少(Cr枯れ)に起因する合金等の酸化劣化の進行を防止する必要もある。
この点、本構成の固体酸化物形燃料電池用セルによれば、750℃での平衡解離酸素分圧が1.83×10^(-20)?3.44×10^(-13)atmの範囲内にある第1の単一系酸化物と、当該第1の単一系酸化物よりも750℃での平衡解離酸素分圧が低い第2の単一系酸化物とから構成されるスピネル系酸化物を含む被膜を合金等側の表面に形成している。なお、ここでの平衡解離酸素分圧は、単一系酸化物が金属まで還元されるとしたときの値としている。また、平衡解離酸素分圧とは、金属と酸素などの単体から作られる酸化物の標準生成自由エネルギーから求められる値である(すなわち、エリンガム図から算出される値である)。ここで、第1の単一系酸化物は、それ単独では合金等の表面におけるCr(III)の酸化物のCr(VI)への酸化を抑制することは困難である。しかし、この第1の単一系酸化物を第2の単一系酸化物と組み合わせてスピネル系酸化物を構成することで、単一系酸化物として存在するよりも安定化する。スピネル系酸化物は、構成する元素の価数変化が起こり難いので(言い換えると、酸化力が小さい)、結果としてCr(III)の酸化物のCr(VI)への酸化を抑制することがきる。また、スピネル系酸化物は、結晶構造上、カチオン(Crの酸化物も含む)の拡散が遅いという特性を有する。…」

1ウ 「[0025]
更に、これまで説明してきたSOFC用セルCでは、インタコネクト1の材料としては、電子電導性及び耐熱性の優れた材料であるLaCrO_(3)系等のペロブスカイト型酸化物や、フェライト系ステンレス鋼であるFe-Cr合金や、オーステナイト系ステンレス鋼であるFe-Cr-Ni合金や、ニッケル基合金であるNi-Cr合金などのように、Crを含有する合金又は酸化物が利用されている。」

1エ 「[0028]
また、このSOFC用セルCは、その製造工程において、インタコネクト1と空気極31及び燃料極32との間の接触抵抗をできるだけ小さくするなどの目的で、それらを積層配置した状態で、作動温度よりも高い1000℃?1150℃程度の焼成温度で焼成する焼成処理を行う場合がある。
[0029]
そして、上記のようにCrを含有する合金等からなるインタコネクト1と空気極31とを接合してなるSOFC用セルCでは、焼成処理時又は作動時において、高温にさらされることで、インタコネクト1に含まれるCrが酸化蒸発して空気極31側に飛散し、その空気極31のCr被毒が発生するという問題がある。」

1オ 「[0031]
本発明に係るSOFC用セルCでは、空気極31のCr被毒の発生を良好に抑制し、且つ合金等のCr枯れを抑制するための特徴を有しており、その詳細について以下に説明する。
[0032]
かかるSOFCは、インタコネクト1に含まれるCrにおけるCr(VI)の酸化物の生成を抑制するべく、インタコネクト1の表面に、SOFCの作動温度(通常は、750℃)におけるCo(III)の平衡解離酸素分圧(3.44×10^(-13)atm)以下の平衡解離酸素分圧を有する第1の単一系酸化物と、この第1の単一系酸化物よりも前記作動温度における平衡解離酸素分圧が小さい第2の単一系酸化物とから構成されるスピネル系酸化物を含む被膜を形成し、インタコネクト1と空気極31とを接合した状態で1000℃?1150℃程度の焼成温度で焼成する焼成処理を行って作製されるものである。…」

1カ 「[0033]
次に、インタコネクト1に含まれるCrにおけるCr(VI)の酸化物の生成を抑制するために形成する本発明のスピネル系酸化物を含む被膜の実施例、及び比較例について、以下に詳細に説明する。
[0034]
〔被膜を形成した合金サンプルの準備〕
「スピネル系酸化物」は、2種の金属を含む複合酸化物であり、一般に、化学式AB_(2)O_(4)(A及びBは金属元素)で表される。
本発明では、湿式成膜法、又は乾式成膜法により、スピネル系酸化物を含む被膜を、インタコネクト1となるフェライト系ステンレス鋼からなる合金平板の表面に形成した。合金平板の表面は、サンドペーパーで#600まで研磨したものを使用した。
湿式成膜法は、ディッピング法を採用した。先ず、スピネル系酸化物粉末、アルコール(1-メトキシ-2-プロパノール)、及びバインダ(ヒドロキシプロピルセルロース)に、ジルコニアボールを加え、ペイントシェーカーを用いて混合した。次に、スピネル系酸化物粉末を含む混合液に合金平板をディップし、引き上げ後、50℃に調整した恒温槽中で乾燥させた。そして、乾燥後の合金平板を、電気炉を使用して1000℃で2時間焼成し、その後除冷して合金サンプルを得た。…」

1キ 「[0036]
なお、これらの効果確認試験では、実施例及び比較例とも、合金としてFe-Cr系合金(Cr含有量:22wt%)、空気極として(La,Sr)(Co,Fe)O_(3)を使用した。」

1ク 「[0110]
〔第9実施形態〕
本第9実施形態では、スピネル系酸化物としてMn(Mn _(0.25) Co _(0.75) ) _(2) O _(4) を選択した。焼成処理を行う前に、インタコネクト1の少なくとも空気極31に対する境界面1a(図2参照)を含む表面に、Mn(Mn _(0.25) Co _(0.75) )_( 2) O _(4) 被膜を形成した。
[0111]
即ち、インタコネクト1の境界面1aにMn(Mn _(0.25) Co _(0.75) ) _(2) O _(4) 被膜が形成されているSOFC用セルCでは、Mn(Mn _(0.25) Co _(0.75) )_( 2) O _(4) 被膜を構成する第1の単一系酸化物であるCo_( 2) O _(3) の平衡解離酸素分圧は、Co _(3 )O _(4 )の平衡解離酸素分圧を代用すると、3.44×10^(-13 )atmであると推定される。一方、Mn(Mn_( 0.25) Co_( 0.75) )_( 2) O_( 4) 被膜を構成する第2の単一系酸化物であるMnOの平衡解離酸素分圧は、2.38×10^(-32) atmであり、Co _(2) O _(3) の平衡解離酸素分圧よりも低い。なお、このMn(Mn _(0.25) Co _(0.75) )_( 2) O _(4) 被膜は、耐熱性に優れている上に緻密な構造を有することから、そのMn(Mn_( 0.25 )Co _(0.75) ) _(2) O _(4) 被膜を介したインタコネクト1側への酸化剤としての酸素や水蒸気の供給が阻止され、更には、同Mn(Mn _(0.25) Co _(0.75) )_( 2) O_( 4) 被膜を介した空気極31側へのCr(VI)の酸化物の移動が阻止される。その結果、製造時の焼成処理や作動時において、インタコネクト1が高温にさらされた場合でも、空気極31のCr被毒が良好に抑制される。
[0112]
〔実施例9〕
上記第9実施形態のように焼成処理を行う前にインタコネクト等に使用される合金の表面(両面)に湿式成膜法によりMn(Mn_( 0.25) Co _(0.75) ) _(2) O _(4) 被膜を形成して製造したSOFC用セル(実施例9)について、合金と空気極との接合部付近の断面のCr分布を観察した実験結果を、以下に示す。
[0113]
上記実施例9のSOFC用セルにおいて、合金の表面にMn(Mn _(0.25) Co _(0.75) ) _(2) O _(4) 被膜を形成するための湿式成膜法は、ディッピング法を採用し、Mn(Mn _(0.25 )Co _(0.75) ) _(2) O _(4) 被膜の厚みを約5?30μmとした」

(1-2)甲第1号証に記載された発明
ア 上記1クの記載によれば、実施例9のSOFC用セルは、インタコネクトの表面に、ディッピング法によって、第1の単一系酸化物であるCo_( 2) O _(3) と、第2の単一系酸化物であるMnOとから構成される、スピネル系酸化物のMn(Mn_( 0.25) Co _(0.75) ) _(2) O _(4) 被膜を形成し、焼成処理を行うことによって、作成されている。

イ 上記1クには、インタコネクト1の材料について記載されていないが、上記1カの「本発明のスピネル系酸化物を含む被膜の実施例、及び比較例について、以下に詳細に説明する。」、「 本発明では、湿式成膜法、又は乾式成膜法により、スピネル系酸化物を含む被膜を、インタコネクト1となるフェライト系ステンレス鋼からなる合金平板の表面に形成した。」、及び、上記1キの「実施例及び比較例とも、合金としてFe-Cr系合金(Cr含有量:22wt%)…を使用した」との記載を参照すれば、上記実施例9のインタコネクト1の材料は、Cr含有量22wt%のFe-Cr系合金であるフェライト系ステンレス鋼であるものと認められる。

ウ 上記1クには、焼成処理の条件について記載されていないが、上記1カの「本発明のスピネル系酸化物を含む被膜の実施例、及び比較例について、以下に詳細に説明する。」、「乾燥後の合金平板を、電気炉を使用して1000℃で2時間焼成し」との記載を参照すれば、上記実施例9の焼成処理の条件は、1000℃で2時間の焼成であるものと認められる。

エ 上記1カによれば、ディッピング法とは、スピネル系酸化物粉末を含む混合液に合金平板をディップし、引き上げ、乾燥させることを意味している。してみると、上記アで検討した、第1の単一系酸化物であるCo_( 2) O _(3) と、第2の単一系酸化物であるMnOは、スピネル系酸化物粉末として提供されて、ディッピングを行うための混合液を形成しているものと認められる。

オ 上記ア?エの検討事項に基づき、実施例9における、SOFC用セルを構成するインタコネクタに注目し、当該インタコネクタの製造方法に関する記載を、本件発明1の記載ぶりに則して整理すると、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「Cr含有量が22wt%のFe-Cr系合金であるフェライト系ステンレス鋼からなる合金平板に、スピネル系酸化物からなる被膜を形成するインタコネクトの製造方法であって、
前記被膜が、Mn(Mn_( 0.25) Co _(0.75) ) _(2) O _(4)を含み、
前記合金平板上に、第1の単一系酸化物であるCo_( 2) O _(3) と、第2の単一系酸化物であるMnOからなるスピネル系酸化物粉末を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成するディッピング工程を行い、前記塗膜を1000℃で、2時間焼成する焼成工程を行うインタコネクトの製造方法」(以下「甲1発明」という。)

(2)甲第2号証について
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第2号証には、「固体酸化物形燃料電池用セルおよびセル間接続部材」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
2ア 「【0003】
インターコネクタは燃料と空気の隔壁となる部材である。
近年の開発の進展に伴い、SOFCの作動温度が下がってきている。
従来の作動温度は1000℃程度であり、耐熱性の観点からランタンクロマイトに代表される金属酸化物が使用されていたが、最近は作動温度が700℃?800℃まで下がっており、合金が使用できるようになってきた。合金使用により、コストダウン、ロバスト性の向上が期待できる。
【0004】
前記合金としては、接合される金属酸化物の熱膨張率との整合性から、フェライト系ステンレス鋼が用いられることが多いが、耐熱性により優れたオーステナイト系ステンレス鋼であるFe-Cr-Ni合金や、ニッケル基合金であるNi-Cr合金などが用いられることもある。また、合金ではなく、(La,Ca)CrO_(3)(カルシウムドープランタンクロマイト)に代表される金属酸化物が用いられることもある。
【0005】
これらの合金等は、ほぼ例外なくCrを含んでおり、作動環境である高温大気雰囲気で表面にCr_(2)O_(3)やMnCr_(2)O_(4)の酸化被膜を形成する。この酸化被膜は経時的に膜厚が厚くなり、電気抵抗が増大するとともに、作動環境である高温大気雰囲気で6価クロムの化合物として蒸発し、空気極を被毒させて劣化を引き起こすことが知られている(Cr被毒と呼ばれる)。また、(La,Ca)CrO_(3)(カルシウムドープランタンクロマイト)を用いた場合でも合金を用いた場合よりも少ないが、Cr被毒が生じる場合がある。そこ
で、合金、(La,Ca)CrO_(3)(カルシウムドープランタンクロマイト)の表面に耐熱性に優れた金属酸化物材料をコーティングして劣化を抑制する試みがなされている。」

2イ 「【0007】
一方、SOFC用セルで利用されるセル間接続部材用の基材の表面に、単一系酸化物に不純物をドープしてなるn型半導体保護膜を形成し、このような保護膜形成処理を行うことによって、合金中に含まれるCrが飛散し易い6価の酸化物へと酸化されることを抑制しようとする技術もあった(例えば、特許文献3を参照。)。」

2ウ 「【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、セル間接続部材とセルとが接続された燃料電池において、燃料電池の温度変動時にセル間接続部材用の基材と保護膜、保護膜とセルとの接合部分等に作用する応力を低減する技術を提供する点にある。」

2エ 「【課題を解決するための手段】
【0013】
〔構成1〕
上記目的を達成するための本発明のセル間接続部材用のCrを含有する合金または酸化物からなる基材に、保護膜を形成してある燃料電池用セル間接続部材の特徴構成は、前記セル間接続部材用基材上にZn(Co_(x)Mn_(1-x))_(2)O_(4)(0<x<1)を含む保護膜を形成してある点にある。」

2オ 「【0036】
<セル間接続部材>
前記セル間接続部材1は、図1、図3に示すように、例えば、フェライト系ステンレス合金製のセル間接続部材用の基材11の表面に保護膜12を設けて構成してある。そして、前記各単セル3の間に空気流路2a、燃料流路2bを形成しつつ接続可能にする溝板状に形成してある。」

2カ 「【0039】
<保護膜>
前記保護膜12は、例えば、Crを22%、Mnを約0.5%含むフェライト系ステンレス鋼等からなる前記基材の表面に、保護膜としてZn(Co_(0.5)Mn_(0.5))_(2)O_(4)(X=0.5)[平均粒径0.5μm]等の金属酸化物膜を形成した。
形成方法は、湿式成膜法、または乾式成膜法により、スピネル系酸化物を含む被膜を、フェライト系ステンレス鋼からなる合金平板(基材11)の表面に形成した。基材11の表面は、サンドペーパーで#600まで研磨したものを使用した。
湿式成膜法は、ディッピング法を採用した。先ず、スピネル系酸化物粉末、アルコール(1-メトキシ-2-プロパノール)、およびバインダ(ヒドロキシプロピルセルロース)に、ジルコニアボールを加え、ペイントシェーカーを用いて混合した。次に、スピネル系酸化物粉末を含む混合液に基材11をディップし、引き上げ後、50℃に調整した恒温槽中で乾燥させた。そして、乾燥後、電気炉を使用して1000℃で2時間焼成し、その後除冷してセル間接続部材を得た。
前記金属酸化物微粒子としては、例えば、Zn(Co_(x)Mn_(1-x))_(2)O_(4)(0<x<1)の平均粒径が0.1μm以上2μm以下のものが好適に用いられる。」

(3)甲第3号証について
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第3号証には、「固体酸化物形燃料電池用インターコネクト、その製造方法及び固体酸化物形燃料電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。

3ア 「【0020】
図1中、インターコネクト3は、Cr含有合金基材1と、該Cr含有合金基材1の一方の面にコーティングされている第一の金属酸化物膜2とからなる。そして、図2に示すように、該インターコネクト3は、1の固体酸化物形燃料電池用セル14aと、他の固体酸化物形燃料電池用セル14bとを電気的に接続するために用いられる。ここで、該固体酸化物形燃料電池用セル14aは、電解質11aを、燃料極12aと空気極13aによって挟み込むようにして形成されている。同様に、該固体酸化物形燃料電池用セル14bは、電解質11bを、燃料極12bと空気極13bによって挟み込むようにして形成されている。そのため、該インターコネクト3の該第一の金属酸化物膜2が、該固体酸化物形燃料電池用セル14aの該空気極13aと接合される。また、該インターコネクト3の他方の面(図1中、符号6で示す面)が、該固体酸化物形燃料電池用セル14bの該燃料極12
bと接合される。
【0021】
該Cr含有合金基材1は、クロム元素を含有する合金であり、例えば、ステンレスと呼ばれるFe-Cr(-Ni)合金、Inconel、Hastelloy等のNi-Cr(-Fe)合金、UMCO-50等のCo-Cr合金、Duraclloy等のCr-Fe合金が挙げられ、これらのうち、SUS405、SUS410L、SUS430、SUS434、SUS447J等のフェライト系ステンレスが、燃料電池の構成部材と熱膨張係数が近いという点で好ましい。SOFC用として開発された日立金属製ZMG232や、ThyssenKrup蒸着法M社製Crofer22APUは、微量に含まれるSi、Al、Mn、Ti、La等の元素が適正化されているために、市販のフェライト系ステンレスよりも高い耐酸化性と導電性を併せ持つという点で特に好ましい。」

(3)本件発明1と甲1発明の対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
ア 甲1発明の「Cr含有量が22wt%のFe-Cr系合金であるフェライト系ステンレス鋼」と、本件発明1の「CrおよびMnを含有する合金」は、少なくともCrを含有する合金の点で共通する。

イ 甲1発明の「合金平板」、「被膜」、「インタコネクト」、「第1の単一系酸化物であるCo_( 2) O _(3) と、第2の単一系酸化物であるMnOからなるスピネル系酸化物粉末」、「ディッピング工程」は、それぞれ、本件発明1の「基材」、「保護膜」、「セル間接続部材」、「金属酸化物微粒子」、「塗膜形成工程」に相当する。

ウ 甲1発明の「Mn(Mn_( 0.25) Co _(0.75) ) _(2) O _(4)」と、本件発明1の「Zn_(x)(Co_(y)Mn_((1-y)))_((3-x))O_(4)(0<x<1、0<y×(3-x)≦2)」は、Mn及びCoを含有する金属酸化物の点で共通する。

上記の検討から、本件発明1と甲1発明の一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「少なくともCrを含有する合金または酸化物からなる基材に、金属酸化物からなる保護膜を形成するセル間接続部材の製造方法であって、
前記保護膜が、Mn及びCoを含有する金属酸化物を含み、
前記基材上に、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成する塗膜形成工程を行い、前記塗膜を1000℃以上1100℃以下で、2時間以上焼成する焼成工程を行う、セル間接続部材の製造方法」

≪相違点≫
相違点1:「少なくともCrを含有する合金または酸化物からなる基材」が、本件発明1においては、「Mn」をさらに含有するのに対して、甲1発明においては、「Mn」をさらに含有すると特定されていない点。

相違点2:「Mn及びCoを含有する金属酸化物」が、本件発明1においては、「Zn_(x)(Co_(y)Mn_((1-y)))_((3-x))O_(4)(0<x<1、0<y×(3-x)≦2)」であるのに対して、甲1発明においては「Mn(Mn_( 0.25) Co _(0.75) ) _(2) O _(4)」である点。

相違点3:「焼成工程」が、本件発明1においては、「前記基材に含まれるMnが塗膜成分と反応する条件下で」行われ、「前記塗膜内に前記塗膜成分とMnとが反応して生じるMn含有緻密層を、前記基材表面に形成されるCr_(2)O_(3)層と密着形成させ、前記Mn含有緻密層の厚さを1μm以上に成長させる」工程であるのに対して、甲1発明においては、そのような工程であるか不明である点。

(4)判断
(4-1)相違点2についての判断
ア 甲1発明において、「フェライト系ステンレス鋼からなる合金平板」に形成される「スピネル系酸化物からなる被膜」は、「第1の単一系酸化物であるCo_( 2) O _(3) と、第2の単一系酸化物であるMnOからなるスピネル系酸化物粉末を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成するディッピング工程」の後、「焼成工程」を行うことにより製造されるものであるところ、第1及び第2の二つの単一系酸化物を用いる理由は、上記1ア及び1イの記載によれば、酸化力の大きい第1の単一系酸化物と酸化力の小さい第2の単一系酸化物について、「第1の単一系酸化物は、それ単独では合金等の表面におけるCr(III)の酸化物のCr(VI)への酸化を抑制することは困難である。しかし、この第1の単一系酸化物を第2の単一系酸化物と組み合わせてスピネル系酸化物を構成することで、単一系酸化物として存在するよりも安定化する。スピネル系酸化物は、構成する元素の価数変化が起こり難いので(言い換えると、酸化力が小さい)、結果としてCr(III)の酸化物のCr(VI)への酸化を抑制することがきる」からである。
このことを別の観点から言えば、甲1発明におけるスピネル系酸化物は、上記1カに記載されているように、化学式AB_(2)O_(4)(A及びBは金属元素)で表される、2種の金属を含む複合酸化物である。

イ 一方、甲第2号証の上記2ア?2カには、セル間接続部材用の基材の表面に保護膜を形成して、当該セル間接続部材用の合金中に含まれるCrが飛散し易い6価の酸化物へと酸化されることを抑制する技術であって、上記保護膜として、「Zn(Co_(x)Mn_(1-x))_(2)O_(4)(0<x<1)」を使用することが記載されている。また、上記保護膜が形成されるセル間接続部材用の基材には、Cr及びMnを含有するフェライト系ステンレス鋼が利用可能であることも記載されている。

ウ そこで、甲1発明の「Mn(Mn_( 0.25) Co _(0.75) ) _(2) O _(4)を含」む「スピネル系酸化物からなる被膜」と、甲第2号証に記載の「Zn(Co_(x)Mn_(1-x))_(2)O_(4)(0<x<1)」からなる「保護膜」を対比すると、いずれも、Cr被毒を抑制するために、フェライト系ステンレス鋼からなるインタコネクト上に形成される、Mn及びCoを含有する金属酸化物の点で共通しているから、甲1発明における「スピネル系酸化物からなる被膜」として、「Mn(Mn_( 0.25) Co _(0.75) ) _(2) O _(4)」を「Zn(Co_(x)Mn_(1-x))_(2)O_(4)(0<x<1)」に置換することが可能であるように見える。

エ しかしながら、甲1発明は、上記アで確認したように、酸化力の異なる第1及び第2の二つの単一系酸化物からなり、化学式AB_(2)O_(4)(A及びBは金属元素)で表される、2種の金属を含む複合酸化物を被膜とすることを、発明の本質的部分、すなわち、課題を解決する手段としていることから、2種よりも多い金属元素を含むような複合酸化物を被膜として採用することは、甲1発明の技術思想とは相違することとなるので、そのような変更をなすことは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

オ また、仮に、甲第2号証に記載された「Zn(Co_(x)Mn_(1-x))_(2)O_(4)(0<x<1)」を、甲1発明の「Mn(Mn_( 0.25) Co _(0.75) ) _(2) O _(4)」に置き換えたとしても、本件発明1の「Zn_(x)(Co_(y)Mn_((1-y)))_((3-x))O_(4)」において、Znの組成比xは、0<x<1であって、x=1は排除されているから、すなわち、Znの組成比xが1である、甲第2号証に記載された「Zn(Co_(x)Mn_(1-x))_(2)O_(4)(0<x<1)」は排除されているから、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることはできない。

(4-2)判断のまとめ
甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
よって、本件発明1は、相違点1及び相違点3について検討するまでもなく、また、技術常識に照らしても、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を有し、これをさらに限定したものであるから、上記(3)で検討したと同様に、甲1発明と少なくとも相違点1?相違点3の点で相違しており、上記(4)で検討したとおり、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが容易であるとはいえないから、甲1発明と少なくも相違点2において相違している本件発明3についても同様に、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(6)まとめ
以上より、本件発明1、3は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載の事項、及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

5-2 申立理由1、2について(その2)
申立理由1、2は、いずれも、甲第1号証を主引例とした新規性または進歩性についての申立理由であるところ、これら申立理由のうち、本件発明2と、請求項2を引用する本件発明3を対象とする申立理由について検討する。

(1)本件発明2と甲1発明の対比
本件発明2と甲1発明を対比する。なお、甲1発明は、上記5-1の(1)(1-2)オにおいて認定している。
ア 甲1発明の「Cr含有量が22wt%のFe-Cr系合金であるフェライト系ステンレス鋼」と、本件発明2の「CrおよびMnを含有する合金」は、少なくともCrを含有する合金の点で共通する。

イ 甲1発明の「合金平板」、「被膜」、「インタコネクト」、「第1の単一系酸化物であるCo_( 2) O _(3) と、第2の単一系酸化物であるMnOからなるスピネル系酸化物粉末」、「ディッピング工程」は、それぞれ、本件発明2の「基材」、「保護膜」、「セル間接続部材」、「金属酸化物微粒子」、「塗膜形成工程」に相当する。

ウ 甲1発明の「Mn(Mn_( 0.25) Co _(0.75) ) _(2) O _(4)」は、本件発明2の「Co_(1.5)Mn_(1.5)O_(4)」に相当する。

上記の検討から、本件発明2と甲1発明の一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「少なくともCrを含有する合金または酸化物からなる基材に、金属酸化物からなる保護膜を形成するセル間接続部材の製造方法であって、
前記保護膜が、Co_(1.5)Mn_(1.5)O_(4)を含み、
前記基材上に、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成する塗膜形成工程を行い、前記塗膜を焼成する焼成工程を行う、セル間接続部材の製造方法」

≪相違点≫
相違点4:「少なくともCrを含有する合金または酸化物からなる基材」が、本件発明2においては、「Mn」をさらに含有するのに対して、甲1発明においては、「Mn」をさらに含有すると特定されていない点。

相違点5:「焼成工程」が、本件発明2においては、「前記塗膜を1050℃以上1100℃以下で焼成する」のに対して、甲1発明においては、「前記塗膜を1000℃で、2時間焼成する」点。

相違点6:「焼成工程」が、本件発明2においては、「前記基材に含まれるMnが塗膜成分と反応する条件下で」行われ、「前記塗膜内に前記塗膜成分とMnとが反応して生じるMn含有緻密層を、前記基材表面に形成されるCr_(2)O_(3)層と密着形成させ、前記Mn含有緻密層の厚さを1μm以上に成長させる」工程であるのに対して、甲1発明においては、そのような工程であるか不明である点。

(2)判断
(2-1)相違点4についての判断
ア 甲1発明のフェライト系ステンレス鋼は、FeとCrを含有する合金であるが、この合金が、FeとCr以外にMnを含有することは、甲第1号証には記載されていない。

イ しかしながら、例えば、甲第3号証の上記3アに記載されているように、SUS405、SUS410L、SUS430等のフェライト系ステンレスや、ZMG232、Crofer22APUは、インターコネクト用のフェライト系ステンレス鋼として、当業者によって普通に使用されているものであり、ZMG232、Crofer22APUに微量のMnが含まれていることは明記されているし、SUS405、SUS410L、SUS430等の上記フェライト系ステンレスに微量のMnが含有されていることは技術常識である。

ウ したがって、相違点4は実質的な相違点ではない。

(2-2)相違点5と相違点6についての判断
ア 相違点5と相違点6は、いずれも、焼成工程に係るものであるので、両者合わせて検討する。

イ 上記(2-1)の検討を勘案すると、甲1発明は、CrおよびMnを含有するフェライト系ステンレス鋼に、Mn(Mn_( 0.25) Co _(0.75) ) _(2) O _(4)を含む被膜を形成し、これを1000℃、2時間焼成する方法であるといえる。

ウ 一方、本件特許明細書の段落【0051】の表1に実施例9として記載されたインタコネクトは、CrとMnを含有するフェライト系ステンレス(ZMG232L)に、Co_(1.5)Mn_(1.5)O_(4) の塗膜を形成し、これを1000℃、2時間焼成したものであり、0.9μmの厚さのMg含有緻密層が形成されているものである。
また、上記表1に実施例8として記載されたインタコネクトは、焼成条件を1050℃、5時間に変更した点で実施例9と異なるものであり、そのMg含有緻密層の厚さは1.7μmである。

エ 上記イ及びウの検討から、甲1発明と、本件特許明細書に記載された実施例9は同様の材料を用いて、同じ条件で焼成されたものであるから、甲1発明にも実施例9と同程度の厚さのMg含有緻密層が形成されていると推定されるところ、甲1発明に形成されていると推定される緻密層の厚さは0.9μmであって、「1μm以上」であるとはいえないから、本件発明2と甲1発明は、少なくとも、緻密層の厚さの点で相違している。
したがって、上記相違点6は、本件発明2と甲1発明の実質的な相違点である。

オ 次に、甲1発明において、相違点5、6に係る本件発明2の特定事項とすることが容易であるかを検討する。

カ 甲第1号証には、上記1オに摘記したように、インタコネクトの焼成温度として、1000℃?1150℃の温度範囲とすることは記載されているが、当該温度範囲のうち1050℃?1100℃の範囲を選択するための具体的な動機付けを与える記載は何ら認められない。
ここで、具体的な動機がなくても、仮に、甲第1号証に記載された「1000℃?1150℃」の温度範囲のうち、例えば、1050℃の焼成温度に設定することが設計的な事項であるとしても、焼成温度を1050℃に設定した際に、焼成時間を何時間に設定するか(例えば上記ウに記載した5時間と設定するか)については何ら指針がないため、このとき、1μm以上の厚さの緻密層が形成されるか不明である。

キ また、CrおよびMnを含有する合金からなる基材に、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成し、焼成する方法において、焼成温度を1050℃以上にすることによって、厚さ1μm以上のMn含有緻密層を成長させるとの技術思想は、甲第1号証にも他の甲号証にも記載も示唆もされていないし、当業者にとって技術常識であるともいえない。
したがって、Mn含有緻密層を形成するという技術思想が明らかにされていない甲1発明において、Mn含有緻密層を1μm以上の厚さに成長させるという動機付けは存在せず、そのため、焼成温度について、1000℃に代えて「1050℃以上1100℃以下」とするとともに、「Mn含有緻密層の厚さを1μm以上に成長させる」ことが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

キ 以上から、相違点5と相違点6はいずれも実質的な相違点であり、しかも、甲1発明において、相違点5と相違点6に係る本件発明2の特定事項とすることが容易であるとはいえない。

(2-3)判断のまとめ
本件発明2と甲1発明は、相違点5と相違点6で相違しているので、本件発明2は甲第1号証に記載された発明ではない。
また、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載の事項、及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明2の発明特定事項を有し、これをさらに限定したものであるから、上記(1)、(2)で検討したと同様に、甲1発明と少なくとも相違点5と相違点6の点で相違しているので、本件発明3は甲第1号証に記載された発明ではない。
また、上記(2)で検討したとおり、甲1発明において、相違点5、6に係る本件発明2の特定事項とすることが容易であるとはいえないから、甲1発明と少なくも相違点5、6において相違している本件発明3についても同様に、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載の事項、及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)まとめ
以上より、本件発明2、3は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではない。
また、本件発明2、3は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載の事項、及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものでもない。

5-3 申立理由4-1について
ア 申立理由3と申立理由4-1はいずれも、本件特許の請求項1、2に記載された「金属酸化物」に関するものであるが、初めに、申立理由4-1について検討する。

イ 本件発明1には、「CrおよびMnを含有する合金または酸化物からなる基材に、金属酸化物からなる保護膜を形成するセル間接続部材の製造方法」について、「前記基材上に、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成する塗膜形成工程を行い、前記基材に含まれるMnが塗膜成分と反応する条件下で、前記塗膜を1000℃以上1100℃以下で、2時間以上焼成する焼成工程を行い、前記塗膜内に前記塗膜成分とMnとが反応して生じるMn含有緻密層を、前記基材表面に形成されるCr_(2)O_(3)層と密着形成させ」たものであることが特定されている。
上記特定事項から、「基材」の表面には、焼成工程で形成された「Cr_(2)O_(3)層」が存在し、また、当該「Cr_(2)O_(3)層」に密着形成するように「前記塗膜内に塗膜成分とMnとが反応して生じるMn含有緻密層」が存在し、また、焼成工程によって焼結した「塗膜」内には「Mn含有緻密層」が生じていない領域があることが理解できる。
以上の検討から、本件発明1の製造方法によって形成される「セル間接続部材」は、「CrおよびMnを含有する合金または酸化物からなる基材/基材表面のCr_(2)O_(3)層/塗膜成分とMnとが反応して生じたMn含有緻密層/Mn含有緻密層以外の領域の焼結した塗膜」という4層からなる構造(以下「4層構造」という。)を有しているものであることが理解できる。

ウ ここで、上記4層構造のうち「基材表面のCr_(2)O_(3)層」は、本件特許明細書の段落【0005】の記載「これらの合金等は、ほぼ例外なくCrを含んでおり、作動環境である高温大気雰囲気で表面にCr_(2)O_(3)やMnCr_(2)O_(4)の酸化被膜を形成する。この酸化被膜は経時的に膜厚が厚くなり、電気抵抗が増大するとともに、作動環境である高温大気雰囲気で6価クロムの化合物として蒸発し、空気極を被毒させて劣化を引き起こすことが知られている」によれば、Cr被毒の原因となる層であって、保護膜ではないのは明らかである。そして、「セル間接続部材」とは、「CrおよびMnを含有する合金または酸化物からなる基材」に「金属酸化物からなる保護膜」を形成したものであることも勘案して、「セル間接続部材」の上記4層構造と対比すると、「金属酸化物からなる保護膜」とは具体的に「塗膜成分とMnとが反応して生じたMn含有緻密層/Mn含有緻密層以外の領域の焼結した塗膜」という2層からなる構造を有しているものであることが理解できる。なお、このことは、本件特許公報の図4に、保護膜12の一部分が緻密層12aであると示されていることとも整合している。
ここで、「塗膜」とは、「前記基材上に、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成する塗膜形成工程」によって形成されたものであり、「金属酸化物微粒子を主成分として含有」するものである。
したがって、「金属酸化物からなる保護膜」のうち「Mn含有緻密層以外の領域の焼結した塗膜」とは、主成分として含有される金属酸化物微粒子が焼結した層のことであるから、当該層において「金属酸化物」とは、「金属酸化物微粒子」が焼結したものであるといえる。また、「金属酸化物からなる保護膜」のうち「塗膜成分とMnとが反応して生じたMn含有緻密層」とは、主成分として含有される金属酸化物微粒子とMnとが反応した層のことであるから、当該層において、「金属酸化物」とは、「金属酸化物粒子」に「Mn」が反応したものである。

エ 以上の検討から、本件発明1の「金属酸化物からなる保護膜」における「金属酸化物」と、「金属酸化物粒子」における「金属酸化物」とは、同じ概念を表すものであるとはいえないから、「金属酸化物粒子」に「前記」が付されていないことをもって、不明瞭な記載であるということはできない。

オ なお、「金属酸化物粒子」に「前記」を付すことによって、同じ概念とはいえない、「金属酸化物からなる保護膜」における「金属酸化物」と、「金属酸化物粒子」における「金属酸化物」とが同じものであることを示すことになるので、逆に、発明が不明確となる。

カ したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、「金属酸化物」なる記載の点で明確でないとはいえない。また、本件特許の請求項2に係る発明についても同様である。
よって、本件発明1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。

5-4 申立理由3について
ア 本件特許明細書には、
「【0010】
そこで、本発明は上記実状に鑑み、より均一でかつ緻密な保護膜を形成することにより、Crの飛散を抑制し、耐久性の向上を図る技術を提供することを目的とする。」
と記載されているから、本件特許に係る発明が解決しようとする課題とは、より均一でかつ緻密な保護膜を形成することにより、Crの飛散を抑制し、耐久性の向上を図る技術を提供することである。

イ また、本件特許明細書には、
「【0012】
前記基材に塗膜形成工程を行うと、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜が形成される。前記塗膜を熱処理すると、熱処理によって、ステンレスの表面に形成されるCr_(2)O_(3)酸化被膜と保護膜の間に緻密な膜が形成され、上記緻密層となる。前記熱処理は、保護膜の製造工程においても行われうるし、実使用時における発熱によっても自然に進行することが知られている。
【0013】
この緻密層は基材中のMn成分と保護膜成分が相互拡散し、反応することでできた層であるため、非常に緻密であり、酸素のバリア性が高いと考えられる。緻密層の存在により、Crの飛散(Cr被毒)の抑制による空気極劣化の低減、Cr_(2)O_(3)酸化被膜の膜厚増大速度の抑制によるオーミック抵抗増加の抑制、などが実現できる。
そのため、この緻密層を十分機能させることによって、SOFCの耐久性を延長できると考えられる。そこで、本発明者らが検討した結果、前記基材表面に形成されるCr_(2)O_(3)層と密着形成させ、前記緻密層厚さ前記を1μm以上に成長させることによって、前記緻密層は十分なCrの飛散防止を実現できるとともに抵抗増加の抑制を実現でき、好適な耐久性向上効果が期待できることがわかる。」
と記載されているから、基材に、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成し、前記塗膜を熱処理することによって、基材の表面に形成されるCr_(2)O_(3)酸化被膜と保護膜の間に緻密な膜を密着形成させ、前記緻密層の厚さを1μm以上に成長させることによって、前記緻密層は十分なCrの飛散防止を実現できるとともに抵抗増加の抑制を実現でき、好適な耐久性向上効果が期待できるものである。

ウ したがって、「基材に、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成し、前記塗膜を熱処理することによって、基材の表面に形成されるCr_(2)O_(3)酸化被膜と保護膜の間に緻密な膜を密着形成させ、前記緻密層の厚さを1μm以上に成長させる」という製造方法によって、上記アに記載した本件特許に係る発明が解決しようとする課題を解決することができるものと認められる。つまり、「基材に、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成し、前記塗膜を熱処理することによって、基材の表面に形成されるCr_(2)O_(3)酸化被膜と保護膜の間に緻密な膜を密着形成させ、前記緻密層の厚さを1μm以上に成長させる」ことは、本件特許に係る発明が解決しようとする課題を解決するための手段であると認められる。

エ 一方、本件発明1は、「前記基材上に、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成する塗膜形成工程を行い、前記基材に含まれるMnが塗膜成分と反応する条件下で、前記塗膜を1000℃以上1100℃以下で、2時間以上焼成する焼成工程を行い、前記塗膜内に前記塗膜成分とMnとが反応して生じるMn含有緻密層を、前記基材表面に形成されるCr_(2)O_(3)層と密着形成させ、前記Mn含有緻密層の厚さを1μm以上に成長させる」なる発明特定事項を有するものであり、上記ウに記載した、本件特許に係る発明が解決しようとする課題を解決するための手段を備えているといえるから、本件発明1は、本件特許に係る発明が解決しようとする課題を解決することができるものである。

オ ここで、「金属酸化物からなる保護膜」について検討するに、上記5-3のウに記載したように、「金属酸化物からなる保護膜」のうち「Mn含有緻密層以外の領域の焼結した塗膜」とは、主成分として含有される金属酸化物微粒子が焼結した層のことであり、「金属酸化物からなる保護膜」のうち「塗膜成分とMnとが反応して生じたMn含有緻密層」とは、主成分として含有される金属酸化物微粒子とMnとが反応した層のことである。つまり、「保護層」を構成する「金属酸化物」とは、未焼結の塗膜に含まれる「金属酸化物粒子」を焼結したものと、上記「金属酸化物粒子」にMnが反応したものの両者を含む概念であり、同じ「金属酸化物粒子」に基づいて生成されるものであるから、本件発明1において、「金属酸化物からなる保護膜」における「金属酸化物」と、「金属酸化物微粒子」における「金属酸化物」が、互いに異なる、全く関係のない組成であるような態様は含まれないといえる。

カ したがって、本件発明1が、「金属酸化物からなる保護膜」における「金属酸化物」と、「金属酸化物微粒子」における「金属酸化物」が互いに異なる、全く関係のない組成となることによって、保護膜がCrの飛散を抑制し、耐久性を向上するという機能を有しないような態様を含むことはないといえる。

キ 以上から、本件発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が確認できるものである。
また、本件発明1と同様の発明特定事項を備えた、本件発明2、3についても同様である。
よって、本件発明1?3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。

6 むすび
以上のとおり、上記取消理由1、2、3、4-1によっては、請求項1?3に係る本件特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正請求により、請求項4?6に係る特許は存在しなくなったので、当該請求項4?6に係る特許については、特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
セル間接続部材の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、CrおよびMnを含有する合金または酸化物からなる基材に、金属酸化物からなる保護膜を形成するセル間接続部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かかるSOFC用セルは、電解質膜の一方面側に空気極を接合するとともに、同電解質膜の他方面側に燃料極を接合してなる単セルを、空気極または燃料極に対して電子の授受を行う一対の電子伝導性の基材(セル間接続部材)により挟み込んだ構造を有する。
そして、このようなSOFC用セルでは、例えば700?900℃程度の作動温度で作動し、空気極側から燃料極側への電解質膜を介した酸化物イオンの移動に伴って、一対の電極の間に起電力が発生し、その起電力を外部に取り出し利用することができる。セル間接続部材にはインターコネクタやインターコネクタを介してセル間を電気的に接続する部材が該当する。
【0003】
インターコネクタは燃料と空気の隔壁となる部材である。
近年の開発の進展に伴い、SOFCの作動温度が下がってきている。従来の作動温度は1000℃程度であり、耐熱性の観点から基材としてランタンクロマイトに代表される金属酸化物が使用されていたが、最近は作動温度が700℃?800℃まで下がっており、合金が使用できるようになってきた。基材として合金を使用することにより、コストダウン、ロバスト性の向上が期待できる。
【0004】
前記合金としては、接合される金属酸化物の熱膨張率との整合性から、フェライト系ステンレス鋼が用いられることが多いが、耐熱性により優れたオーステナイト系ステンレス鋼であるFe-Cr-Ni合金や、ニッケル基合金であるNi-Cr合金などが用いられることもある。また、合金ではなく、(La,Ca)CrO_(3)(カルシウムドープランタンクロマイト)に代表される金属酸化物が用いられることもある。
【0005】
これらの合金等は、ほぼ例外なくCrを含んでおり、作動環境である高温大気雰囲気で表面にCr_(2)O_(3)やMnCr_(2)O_(4)の酸化被膜を形成する。この酸化被膜は経時的に膜厚が厚くなり、電気抵抗が増大するとともに、作動環境である高温大気雰囲気で6価クロムの化合物として蒸発し、空気極を被毒させて劣化を引き起こすことが知られている(Cr被毒と呼ばれる)。また、(La,Ca)CrO_(3)(カルシウムドープランタンクロマイト)を用いた場合でも合金を用いた場合よりも少ないが、Cr被毒が生じる場合がある。そこで、合金、(La,Ca)CrO_(3)(カルシウムドープランタンクロマイト)の表面に耐熱性に優れた金属酸化物材料を保護して劣化を抑制する試みがなされている。また、これらの合金等としてMnを含む材料も一般的に用いられることがある。
また、合金はSOFCの他の構成材料との熱膨張率の整合性を取るため、フェライト系ステンレスが使用されることが多い。(例:日立金属社製 ZMG232L)フェライト系ステンレスはFe、Crの他にMnを0.1?1重量%含むものが多い。
【0006】
また、SOFC用セルは、その製造工程において、セル間接続部材用の基材と空気極および燃料極との間の接触抵抗をできるだけ小さくするなどの目的で、それらを積層した状態で、作動温度よりも高い1000℃?1250℃程度の焼成温度で焼成する焼成処理を行う場合がある(例えば、特許文献1、2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-259643号公報
【特許文献2】国際公開WO2009/131180号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記実情から、SOFC合金インターコネクタに対して、スピネル系酸化物に代表されるSOFC作動温度付近において導電性を発現する金属酸化物材料からなる保護することは、SOFCの長期耐久性を確保する上で必須の技術となっている。スピネル系酸化物は特に緻密な構造を有するため、Crの飛散抑制効果が特に高いと考えられている。
保護膜材料としては、Co-Mn系スピネル、Zn-Co系スピネル、Zn-Co-Mn系スピネル、Zn-Mn系スピネル、スピネル酸化物でないものとしてもZnO等が用いられている。
【0009】
しかし、このような材料からなる保護膜によっても、Crの飛散抑制や、長期耐久性の向上について、さらなる改良が望まれていた。
【0010】
そこで、本発明は上記実状に鑑み、より均一でかつ緻密な保護膜を形成することにより、Crの飛散を抑制し、耐久性の向上を図る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の特徴構成は、CrおよびMnを含有する合金または酸化物からなる基材に、金属酸化物からなる保護膜を形成するセル間接続部材の製造方法であって、
前記保護膜が、Zn_(x)(Co_(y)Mn_((1-y)))_((3-x))O_(4)(0<x<1、0<y×(3-x)≦2)を含み、
前記基材上に、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成する塗膜形成工程を行い、前記基材に含まれるMnが前記塗膜成分と反応する条件下で、前記塗膜を1000℃以上1100℃以下で、2時間以上焼成する焼成工程を行い、前記塗膜内に前記塗膜成分とMnとが反応して生じるMn含有緻密層(以下単に緻密層と称する)を、前記基材表面に形成されるCr_(2)O_(3)層と密着形成させ、前記緻密層の厚さを1μm以上に成長させる点にある。
【0012】
前記基材に塗膜形成工程を行うと、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜が形成される。前記塗膜を熱処理すると、熱処理によって、ステンレスの表面に形成されるCr_(2)O_(3)酸化被膜と保護膜の間に緻密な膜が形成され、上記緻密層となる。前記熱処理は、保護膜の製造工程においても行われうるし、実使用時における発熱によっても自然に進行することが知られている。
【0013】
この緻密層は基材中のMn成分と保護膜成分が相互拡散し、反応することでできた層であるため、非常に緻密であり、酸素のバリア性が高いと考えられる。緻密層の存在により、Crの飛散(Cr被毒)の抑制による空気極劣化の低減、Cr_(2)O_(3)酸化被膜の膜厚増大速度の抑制によるオーミック抵抗増加の抑制、などが実現できる。
そのため、この緻密層を十分機能させることによって、SOFCの耐久性を延長できると考えられる。そこで、本発明者らが検討した結果、前記基材表面に形成されるCr_(2)O_(3)層と密着形成させ、前記緻密層厚さ前記を1μm以上に成長させることによって、前記緻密層は十分なCrの飛散防止を実現できるとともに抵抗増加の抑制を実現でき、好適な耐久性向上効果が期待できることがわかる。
【0014】
なお、前記焼成工程により、前記基材表面には基材に含まれるCrに由来するCr_(2)O_(3)層が形成される。このCr_(2)O_(3)層は、通常前記緻密層との密着性が高く、緻密層と基材との間における層間剥離等を防止する効果も発揮している。
【0016】
保護膜材料としては、Co-Mn系スピネル、Zn-Co系スピネル、Zn-Co-Mn系スピネル、Zn-Mn系スピネル、ZnO等の、Co、Zn、Mnから選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を含むものが有効に用いられる。
これらの金属酸化物成分を用いると、基材として用いられる種々材料との密着性が高く、受熱に対する耐久性が高く、かつ、緻密層を形成した際に、スピネル構造の酸素バリア性が高く、Cr飛散防止効果の高い保護膜に形成されることが明らかになっているので好ましい。本発明者らは、(Zn_(x)Co_(1-x))Co_(2)O_(4)(0.45≦x≦1.00)等のZn-Co系材料や、Co_(1.5)Mn_(1.5)O_(4)等のMn-Co系材料に代表されるものが特に有利に用いられることを既に見出している。さらに、複合酸化物として種々の化合物を検討したところ、Zn_(x)(Co_(y)Mn_((1-y)))_((3-x))O_(4)(0<x<1、0<y×(3-x)≦2)を含む保護膜は、基材、空気極等との熱膨張率の不一致(差)が小さく、特に製造工程時(保護膜の焼成時)において、一度は晒される800℃?1000℃の環境下においても基材、空気極等との熱膨張率の不一致(差)が小さいうえに、Crの飛散抑制効果がきわめて高いことを見出している。
【0018】
上記緻密層を1μm以上に成長させるには、塗膜をある程度の高温で長時間焼成することが必要であると考えられるが、実際には、後述の実施の形態より800℃では全く緻密層の形成が見られないのに対し、1000℃以上で緻密層の形成が観測された。さらに1100℃においても比較的短時間で緻密層が成長することが確認されている。当然のことながら、1100℃を超える温度ではさらに短時間で緻密層を成長させることができると予想されるが、基板のステンレス部材の耐熱性の上限温度を超えてしまい、焼成時の酸化劣化が著しくなるため、1100℃以下とすることが望ましい。
なお、1000℃以上とした場合2時間以上の加熱で1μm以上の緻密層が成長するとともに、塗膜全体を均一に焼成することができるので好ましい。なお、さらに長時間焼成することを妨げるものではないが、塗膜全体が緻密層に成長してしまうと、それ以上の加熱は基板のステンレス部材の酸化劣化を促進するだけになるため、塗膜の厚さと、目標となる緻密層の厚さを勘案して、加熱時間を適宜設定することが好ましい。
【0019】
上記目的を達成するための本発明の特徴構成は、CrおよびMnを含有する合金または酸化物からなる基材に、金属酸化物からなる保護膜を形成するセル間接続部材の製造方法であって、
前記保護膜が、Co_(1.5)Mn_(1.5)O_(4)を含み、
前記基材上に、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成する塗膜形成工程を行い、前記基材に含まれるMnが塗膜成分と反応する条件下で、前記塗膜を1050℃以上1100℃以下で焼成する焼成工程を行い、前記塗膜内に前記塗膜成分とMnとが反応して生じるMn含有緻密層を、前記基材表面に形成されるCr_(2)O_(3)層と密着形成させ、前記Mn含有緻密層の厚さを1μm以上に成長させる点にある。
【0020】
上記緻密層を1μm以上に成長させるには、塗膜をある程度の高温で長時間焼成することが必要であると考えられるが、実際には、後述の実施の形態より1000℃×2hrでは、緻密層の厚みが0.9μmと不十分な厚みでしか形成できていなかった。一方、1050℃×5hrの焼成では1.7μmの緻密層の形成が観測された。
さらに高温の1100℃ではより短時間で厚い緻密層の形成が期待できると考えられる。
当然のことながら、1100℃を超える温度ではさらに短時間で緻密層を成長させることができると予想されるが、基板のステンレス部材の耐熱性の上限温度を超えてしまい、焼成時の酸化劣化が著しくなるため、1100℃以下とすることが望ましい。
なお、1050℃以上とした場合5時間以上の加熱で1μm以上の緻密層が成長するとともに、塗膜全体を均一に焼成することができるので好ましい。なお、さらに長時間焼成することを妨げるものではないが、塗膜全体が緻密層に成長してしまうと、それ以上の加熱は基板のステンレス部材の酸化劣化を促進するだけになるため、塗膜の厚さと、目標となる緻密層の厚さを勘案して、加熱時間を適宜設定することが好ましい。
【0021】
また、前記基材上に形成される塗膜がアニオン電着塗装法により形成することができる。
【0022】
一般的な成膜法として、たとえば、ウエットコーティング法、あるいはドライコーティング法によって形成することができる。ウエットコーティング法としては、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、スプレーコート法、インクジェット法、スピンコート法、ディップコート、電気めっき法、無電解めっき法、電着塗装法等が例示できる。また、ドライコーティング法としては、たとえば蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相成長(CVD)法、電気化学気相成長(EVD)法、イオンビーム法、レーザーアブレーション法、大気圧プラズマ成膜法、減圧プラズマ成膜法、溶射法等が例示できる。ただし、ドライコーティング法は製造装置が複雑であることに加え、製造コストが高くなることから、ウエットコーティング法が推奨される。
ウエットコーティング法により金属酸化物被膜を成膜する場合、金属酸化物そのものには結着性がほとんどないので、金属酸化物微粒子と樹脂組成物との混合液を用いて、金属酸化物微粒子と樹脂からなる被膜を形成する被膜形成工程を行い、その被膜から樹脂成分を除去することにより金属酸化物を主成分とする手法が採用される。中でも、電着塗装法によると、アニオン電着を行うことによって、基材の表面には金属酸化物微粒子と樹脂組成物との混合液が付着した被膜が形成される。この被膜は、金属酸化物微粒子と樹脂組成物主成分となり、前記樹脂成分の重合に伴い、前記金属酸化物微粒子が凝集一体化されることにより形成されている。この被膜から樹脂成分を除去することによって、金属酸化物微粒子同士が凝集して被膜を形成した保護膜を形成することができる。すると、得られる保護膜は、たとえばディップコートに比べて比較的薄くて均一な塗膜を得ることができるので好ましい。
したがって、アニオン電着塗装を行うと、前記塗膜は基材の全領域に均一に製膜されるので望ましい。
【0023】 (削除)
【0024】 (削除)
【0025】 (削除)
【0026】 (削除)
【0027】 (削除)
【0028】 (削除)
【発明の効果】
【0029】
したがって、主に固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材をきわめて耐久性高く設けることができるので、長期使用によっても安定に動作しうるSOFCを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】固体酸化物形燃料電池の概略図
【図2】固体酸化物形燃料電池のセル接続部材の使用形態を示す図
【図3】保護膜を形成したセル接続部材試験片の断面図
【図4】基材上に形成された塗膜を焼成した後の層構造を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明のSOFCに用いられるCrを含有する合金または酸化物からなる基材の表面に、保護膜を形成する保護膜形成方法およびSOFC用セル接続部材およびSOFC用セルを説明する。なお、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例は、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0032】
<固体酸化物形燃料電池>
本発明にかかるSOFC用セル接続部材およびその製造方法の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1および図2に示すSOFC用セルCは、酸化物イオン電導性の固体酸化物の緻密体からなる電解質膜30の一方面側に、酸化物イオンおよび電子電導性の多孔体からなる空気極31を接合するとともに、同電解質膜30の他方面側に電子電導性の多孔体からなる燃料極32を接合してなる単セル3を備える。
【0033】
さらに、SOFC用セルCは、この単セル3を、空気極31または燃料極32に対して電子の授受を行うとともに空気および水素を供給するための溝2が形成された一対の電子電導性の合金または酸化物からなる基材11に保護膜12を形成してあるセル接続部材1(図3に形状が断面長方形の単純形状である場合の模式図を示す)により、適宜外周縁部においてガスシール体を挟持した状態で挟み込んだ構造を有する。そして、空気極31側の上記溝2が、空気極31とセル接続部材1とが密着配置されることで、空気極31に空気を供給するための空気流路2aとして機能し、一方、燃料極32側の上記溝2が、燃料極32とセル接続部材1とが密着配置されることで、燃料極32に水素を供給するための燃料流路2bとして機能する。
【0034】
なお、上記SOFC用セルCを構成する各要素で利用される一般的な材料について説明を加えると、たとえば、上記空気極31の材料としては、LaMO_(3)(たとえばM=Mn,Fe,Co)中のLaの一部をアルカリ土類金属AE(AE=Sr,Ca)で置換した(La,AE)MO_(3)のペロブスカイト型酸化物を利用することができ、上記燃料極32の材料としては、Niとイットリア安定化ジルコニア(YSZ)とのサーメットを利用することができ、さらに、電解質膜30の材料としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を利用することができる。
【0035】
さらに、これまで説明してきたSOFC用セルCでは、セル接続部材1の材料としては、CrおよびMnを含有する合金または酸化物を用いる。
【0036】
そして、複数のSOFC用セルCが積層配置された状態で、複数のボルトおよびナットにより積層方向に押圧力を与えて挟持され、セルスタックとなる。
このセルスタックにおいて、積層方向の両端部に配置されたセル接続部材1は、燃料流路2bまたは空気流路2aの一方のみが形成されるものであればよく、その他の中間に配置されたセル接続部材1は、一方の面に燃料流路2bが形成され他方の面に空気流路2aが形成されるものを利用することができる。なお、かかる積層構造のセルスタックでは、上記セル接続部材1をセパレータと呼ぶ場合がある。
このようなセルスタックの構造を有するSOFCを一般的に平板型SOFCと呼ぶ。本実施の形態では、一例として平板型SOFCについて説明するが、本願発明は、その他の構造のSOFCについても適用可能である。
【0037】
そして、このようなSOFC用セルCを備えたSOFCの作動時には、図2に示すように、空気極31に対して隣接するセル接続部材1に形成された空気流路2aを介して空気を供給するとともに、燃料極32に対して隣接するセル接続部材1に形成された燃料流路2bを介して水素を供給し、たとえば800℃程度の作動温度で作動する。すると、空気極31においてO_(2)が電子e^(-)と反応してO^(2-)が生成され、そのO^(2-)が電解質膜30を通って燃料極32に移動し、燃料極32において供給されたH_(2)がそのO^(2-)と反応してH_(2)Oとe^(-)とが生成されることで、一対のセル接続部材1の間に起電力Eが発生し、その起電力Eを外部に取り出し利用することができる。
【0038】
<セル接続部材>
前記セル接続部材1は、図1、図3に示すように、セル接続部材用の基材11の表面に保護膜12を設けて構成してある。そして、前記各単セル3の間に空気流路2a、燃料流路2bを形成しつつ接続可能にする溝板状に形成してある。
【0039】
前記保護膜12は、導電性セラミックス材料を含有する塗膜形成用材料を、前記基材11に電着塗装することにより保護膜12を厚膜として形成してある。
【0040】
<保護膜>
前記保護膜12は、たとえば、Crを22%、Mnを約0.5%含むフェライト系ステンレス鋼(日立金属製ZMG232L)等からなる前記基材11の表面にたとえば、ZnCoMnO_(4)等の金属酸化物微粒子とポリアクリル酸等のアニオン型樹脂とを質量比で(金属酸化物微粒子:アニオン型樹脂)=(0.5:1)?(1.7:1)の割合で含有している混合液を用いて、アニオン電着塗装法により金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成する塗膜形成工程を行い、前記塗膜を焼成して前記塗膜中の樹脂成分を焼失させた焼成被膜を形成し、さらに前記焼成被膜を前記基材に含まれるMnが前記塗膜成分と反応する条件下で焼成させて、前記基材11表面に形成されるCr_(2)O_(3)層11aと密着する金属酸化物からなる保護膜12を形成する焼成工程を行うことにより形成されている。
【0041】
なお、前記塗膜形成工程はアニオン電着塗装法によったが、ディップコート、スプレーコート等他の方法によることも可能である。
【0042】
以下に前記保護膜12の具体的な製造方法を詳述するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例>
前記ステンレス鋼材からなるインターコネクタ用の基材11表面にスピネル型の金属酸化物よりなる塗膜を設けた試験片を作成し、前記試験片を各種温度で、所定時間加熱する熱処理を行うことにより、前記塗膜を焼成し(焼成工程)、保護膜12を作成した。前記保護膜12は、各試験片とも保護膜の膜厚が5?10μm程度になる条件でアニオン電着塗装し、前記保護膜12の表面に、接着層を接着して熱処理の試験を行った。各試験片について、前記保護膜12に占める緻密層12aの厚さをSEMにより測定し、熱処理による緻密層12aの変化を調べた。
【0043】
<実施例1>(B:参考)
前記金属酸化物としてZnCoMnO_(4)を用い、アニオン電着塗装により前記基材上に塗膜を形成し、1000℃で2時間焼成して保護膜12のサンプルを作成した。保護膜12の断面形状を確認したところ、図4に示すように、基材11の表面にCr_(2)O_(3)層11aが形成されるとともに、形成された塗膜が、Cr_(2)O_(3)層11aに密着する緻密層12a(本願に言うMn含有緻密層)と、塗膜表面側の多孔層とからなる保護膜12に形成されていることが分かった。この緻密層12aの厚さは約2μmであった。
【0044】
(通電試験)
上記サンプルを空気極材料に埋め込み、1000℃×200hrの通電試験を行ったところ、初期の電圧降下は、55mV程度で200hr後の電圧降下増加量(劣化量)は3mV以下であり、抵抗増加が十分抑制されているとともに、長期耐久性が期待できることがわかった。
【0045】
(Cr飛散数の測定)
なお、上記サンプルを切断して断面をEPMAにより観察し、Crの飛散状態を調べたところ、飛散カウント数が2945となっており、ZnCoMnO_(4)に由来する高いCr飛散抑制効果を発揮していることもわかった。
【0046】
<実施例2>(A)
実施例1における焼成時間を200時間とした以外は、実施例1と同様にサンプルを形成し、通電試験およびCr飛散数の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0047】
<比較例3>(D)
実施例1における焼成温度を800℃に変更した以外は実施例1と同様にサンプルを形成し、通電試験を行った。その結果を表1に示す。
【0048】
<実施例4?7>(C)
実施例1における焼成温度と焼成時間を種々変更した以外は実施例1と同様にサンプルを形成し、通電試験を行った。その結果を表1に示す。
【0049】
<実施例8>(E)
前記金属酸化物としてCo_(1.5)Mn_(1.5)O_(4)を用い、アニオン電着塗装により前記基材上に塗膜を形成し、1050℃で5時間焼成して保護膜12のサンプルを作成し、実施例1と同様の試験を行った。その結果を表1に示す。
【0050】
<比較例9>(F)
前記金属酸化物としてCo_(1.5)Mn_(1.5)O_(4)を用い、アニオン電着塗装により前記基材上に塗膜を形成し、1000℃で2時間焼成して保護膜12のサンプルを作成し、実施例1と同様の試験を行った。その結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
<結果>
(焼成時間について)
実施例2では、焼成時間が十分長く、基材に含まれるMnが塗膜成分と十分に反応していると考えられ、塗膜がすべて緻密層となっており、その厚みが7μmであった。
また、初期の電圧降下は、55mV程度で200hr後の電圧降下増加量(劣化量)は3mV以下であり、実施例1と同等の性能を示すとともに、Cr飛散量が330(カウント)となっており、緻密層の膜厚が増加すると、さらに高いCr飛散抑制効果を発揮することがわかった。
【0053】
(緻密層の組成について)
また、実施例2において、緻密層の組成をEDX分析により調べたところ、Zn:Co:Mn=0.77:1.0:1.64(モル比)であった。なお、初期のモル比は1:1:1であるため、量が増えているMnは外部由来であることがわかる。
なお、実施例5,7において多孔層の組成を調べたところ、多孔層の組成はあまり変化しておらず(若干の変化は、組成のばらつき、あるいはZn、Co成分の飛散により相対的に他の成分量が増えたことによると予想される)、このMnが基材由来であることを示している。
【0054】
(焼成温度について)
また、比較例3では焼成温度が低かったため、前記基材に含まれるMnが前記塗膜成分と反応する条件となっていなかったと考えられ、緻密層は観測できなかった。
また、このようにして得られた保護膜は、多孔層のみからなるため、通電試験において、初期の電圧降下は、55?60mV程度で2500hr後の電圧降下増加量(劣化量)は5mV(評価区間1250hr?2500hr)となっており、900℃、1310hrの評価値に換算すると41mV程度の電圧低下に相当すると考えられ、実施例4?7に比べて長期耐久性が低くなっているものと考えられる。
【0055】
(焼成工程について)
また、実施例1、5,7および比較例3を比較すると、焼成温度が高いほど、緻密層の厚さは増え、焼成工程を高温で行うほど緻密層が速く形成されることがわかり、基材に含まれるMnが前記塗膜成分と反応する条件は、1000℃以上でよいことがわかる。
また、実施例1、2、4を比較すると、焼成時間は2時間以上とすることにより、1μm以上の緻密層が得られ、十分なCr飛散防止効果が発揮されていることがわかる。
【0056】
(塗膜組成について)
実施例1、比較例9を比較すると、塗膜の組成の違いにより緻密層厚さが1μm以上となる焼成条件が異なることがわかる。また、実施例8、比較例9を比較すると、塗膜の組成が異なっても、Co、Zn、Mnから選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を含む保護膜を形成し、膜厚を1μm以上とすれば、長期使用による電圧低下が低く抑制されることがわかり、長期耐久性を向上できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
したがって、主に固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材をきわめて耐久性高く設けることができるので、長期使用によっても安定に動作しうるSOFCを提供することができる。
1 :セル接続部材
2 :溝
2a :空気流路
2b :燃料流路
3 :単セル
11 :基材
11a :Cr_(2)O_(3)層
12 :保護膜
12a :緻密層
15 :接着層
30 :電解質膜
31 :空気極
32 :燃料極
C :SOFC用セル
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CrおよびMnを含有する合金または酸化物からなる基材に、金属酸化物からなる保護膜を形成するセル間接続部材の製造方法であって、
前記保護膜が、Zn_(x)(Co_(y)Mn_((1-y)))_((3-x))O_(4)(0<x<1、0<y×(3-x)≦2)を含み、
前記基材上に、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成する塗膜形成工程を行い、前記基材に含まれるMnが塗膜成分と反応する条件下で、前記塗膜を1000℃以上1100℃以下で、2時間以上焼成する焼成工程を行い、前記塗膜内に前記塗膜成分とMnとが反応して生じるMn含有緻密層を、前記基材表面に形成されるCr_(2)O_(3)層と密着形成させ、前記Mn含有緻密層の厚さを1μm以上に成長させるセル間接続部材の製造方法。
【請求項2】
CrおよびMnを含有する合金または酸化物からなる基材に、金属酸化物からなる保護膜を形成するセル間接続部材の製造方法であって、
前記保護膜が、Co_(1.5)Mn_(1.5)O_(4)を含み、
前記基材上に、金属酸化物微粒子を主成分として含有する未焼結の塗膜を形成する塗膜形成工程を行い、前記基材に含まれるMnが塗膜成分と反応する条件下で、前記塗膜を1050℃以上1100℃以下で焼成する焼成工程を行い、前記塗膜内に前記塗膜成分とMnとが反応して生じるMn含有緻密層を、前記基材表面に形成されるCr_(2)O_(3)層と密着形成させ、前記Mn含有緻密層の厚さを1μm以上に成長させるセル間接続部材の製造方法。
【請求項3】
前記基材上に形成される塗膜がアニオン電着塗装法により形成されたものである請求項1または2に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項4】 (削除)
【請求項5】 (削除)
【請求項6】 (削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-10-26 
出願番号 特願2013-64855(P2013-64855)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤原 敬士  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 池渕 立
河本 充雄
登録日 2015-07-17 
登録番号 特許第5778711号(P5778711)
権利者 大阪瓦斯株式会社
発明の名称 セル間接続部材の製造方法  
代理人 東 邦彦  
代理人 特許業務法人R&C  
代理人 北村 修一郎  
代理人 特許業務法人R&C  
代理人 東 邦彦  
代理人 北村 修一郎  

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