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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61H
管理番号 1323488
異議申立番号 異議2016-700334  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-20 
確定日 2016-11-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5797682号発明「車椅子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5797682号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第5797682号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 特許第5797682号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5797682号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成25年 3月14日に特許出願され、平成27年 8月28日にその特許権の設定登録がなされ(特許公報の発行日は平成27年10月21日)、その後、その特許について、特許異議申立人オージー技研株式会社により特許異議の申立てがされ、平成28年 6月21日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年 8月18日付けで意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成28年10月 4日付けで意見書が提出されたものである。


2 訂正の適否についての判断
2-1 訂正の内容
平成28年 8月18日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。なお、訂正事項1における下線は訂正部分を示す。
(1)訂正事項1
特許権者は、特許請求の範囲の請求項1に「座面を有する椅子部と、
前記椅子部を支持するとともに走行用の車輪が取り付けられるフレーム部と、
を備える車椅子であって、
前記フレーム部には、前記車輪が取り付けられる下フレームと、前記下フレームの上に配置されて前記椅子部を分離可能に支える上フレームと、が含まれ、
前記下フレームには、前後の車輪を連結する左右の連結バーと、前記左右の連結バーをつなぐ橋渡しバーと、が含まれ、
前記左右の連結バーのうちの少なくとも一方は、内側に向けて曲げられ、
前記左右の連結バーの各端部には、上下方向に延びると共に下端側に前記車輪が取り付けられる垂直バーが設けられ、
前記橋渡しバーは、当該車椅子を左右方向に沿って側面視した場合に、前後方向に並ぶ前記垂直バーの間に設けられていることを特徴とする車椅子。」とあるのを「座面を有する椅子部と、
前記椅子部を支持するとともに走行用の車輪が取り付けられるフレーム部と、
を備える車椅子であって、
前記フレーム部には、前記車輪が取り付けられる下フレームと、前記下フレームの上に配置されて前記椅子部を分離可能に支える上フレームと、が含まれ、
前記下フレームには、前後の車輪を連結する左右の連結バーと、前記左右の連結バーをつなぐ橋渡しバーと、が含まれ、
前記左右の連結バーのうちの少なくとも一方は、内側に向けて曲げられ、
前記左右の連結バーの各端部には、上下方向に延びると共に下端側に前記車輪が取り付けられる垂直バーが設けられ、
前記橋渡しバーは、当該車椅子を左右方向に沿って側面視した場合に、前後方向に並ぶ前記垂直バーの間に設けられ、
前記上フレームは、前記下フレームに対して昇降することなく固定され、
前記下フレームは、前記垂直バーからずれた位置に、前記垂直バーと平行な方向に延びるとともに前記上フレームを支持する複数の支柱が設けられ、
前記複数の支柱は、当該車椅子を前後方向から見た場合に、左右方向に並ぶ前記垂直バーの間に設けられていることを特徴とする車椅子。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許権者は、特許請求の範囲の請求項5を削除する。

2-2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1は、「上フレーム」と「下フレーム」との関係について、「前記上フレームは、前記下フレームに対して昇降することなく固定され、前記下フレームは、前記垂直バーからずれた位置に、前記垂直バーと平行な方向に延びるとともに前記上フレームを支持する複数の支柱が設けられ、前記複数の支柱は、当該車椅子を前後方向から見た場合に、左右方向に並ぶ前記垂直バーの間に設けられている」との記載により、上フレームと下フレームとの関係を具体的に特定し、限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)訂正事項1に関し、本件図8から「支持フレーム24」が支柱により「連結バー21a,b」に連結されていることが看取され、そうすると、「支持フレーム24」は「連結バー21a、b」に対して昇降することなく固定されていると言える。
また、支柱が「垂直バー25a?d」とは異なる位置で「垂直バー25a?d」と平行な方向に延び、「支持フレーム24」を支持し、前後方向から見た場合に、左右方向に並ぶ「垂直バー25a?d」の間に設けられていることも同図から看取できる事項である。
したがって、訂正事項1は願書に添付した図面から導ける事項であるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項2は、請求項5の記載を削除しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(4)そして、これら訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。

2-3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正を認める。


3 本件発明
上記2のとおり本件訂正は認容されるので、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件発明1ないし4」という。)は、その訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「 【請求項1】
座面を有する椅子部と、
前記椅子部を支持するとともに走行用の車輪が取り付けられるフレーム部と、
を備える車椅子であって、
前記フレーム部には、前記車輪が取り付けられる下フレームと、前記下フレームの上に配置されて前記椅子部を分離可能に支える上フレームと、が含まれ、
前記下フレームには、前後の車輪を連結する左右の連結バーと、前記左右の連結バーをつなぐ橋渡しバーと、が含まれ、
前記左右の連結バーのうちの少なくとも一方は、内側に向けて曲げられ、
前記左右の連結バーの各端部には、上下方向に延びると共に下端側に前記車輪が取り付けられる垂直バーが設けられ、
前記橋渡しバーは、当該車椅子を左右方向に沿って側面視した場合に、前後方向に並ぶ前記垂直バーの間に設けられ、
前記上フレームは、前記下フレームに対して昇降することなく固定され、
前記下フレームは、前記垂直バーからずれた位置に、前記垂直バーと平行な方向に延びるとともに前記上フレームを支持する複数の支柱が設けられ、
前記複数の支柱は、当該車椅子を前後方向から見た場合に、左右方向に並ぶ前記垂直バーの間に設けられていることを特徴とする車椅子。
【請求項2】
前記橋渡しバーは、前記垂直バーから前後方向と平行な方向に離れて設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車椅子。
【請求項3】
前記橋渡しバーは、前後方向に間隔をあけて2つ設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車椅子。
【請求項4】
フットレスト部を更に備え、
前記フットレスト部が、前記椅子部の下に収容可能であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車椅子。」


4 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし5に係る特許に対して平成28年 6月21日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。なお、「甲第1号証」を単に「甲1」などという。
(1)請求項1ないし3に係る特許は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に反してなされたものである。
(2)請求項4に係る特許は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項並びに甲6,7に記載されるような周知事項1に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に反してなされたものである。
(3)請求項5に係る特許は、甲1に記載された発明並びに甲2に記載された事項及び甲9に記載される事項に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に反してなされたものである。

特許異議申立書に添付された甲1ないし12は次のとおりである。
甲1:特開2004-154241号公報
甲2:MINATO GENERAL CATALOGUE 2002、表紙及び裏表紙並びに第134-137,311頁、2002年
甲3:特開2006-42974号公報
甲4:特開平9-51916号公報
甲5:特開2005-204704号公報
甲6:OG GIKEN GENERAL CATALOG 2010-11、表紙及び裏表紙並びに第90,250頁、2010年5月1日発行
甲7:特開2004-261446号公報
甲8:特表2001-511047号公報
甲9:特開2000-254193号公報
甲10:特公平5-83254号公報
甲11:特開2005-342372号公報
甲12:本件特許発明に係る特許出願の審査段階で提出された平成27年 5月19日付け意見書の写し

また、平成28年10月4日付け意見書に添付された甲13,14は次のとおりである。
甲13:特開2005-557号公報
甲14:ヤマハ株式会社「シャワーヘルパーシリーズ」パンフレット、表紙及び裏表紙並びに第11頁、1999年3月作成


5 取消理由についての判断
以下、本件発明1ないし4について順次、取消理由の成否を検討する。
5-1 各甲号証の記載
特許異議申立書に添付され、本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である甲1ないし11、及び、平成28年10月4日付け意見書に添付された本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である甲13,14には、以下の発明又は事項が記載されていると認める。

(1)甲1
甲1の段落【0013】-【0016】、【0023】、【0027】及び【図3】の記載などからみて、甲1には次に示す発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「椅子本体を有する椅子部と、椅子部を入浴用の受け台に移動可能に支持するキャスター付きの台車とを備える入浴用車椅子であって、台車にはキャスターが取り付けられる台車フレームと、台車フレームの上に配置されて椅子部を浴槽に移動可能に支持する横架材が含まれ、台車フレームは平行視四角形状に組まれて前後及び左右のキャスターを連結し、台車フレームの各隅部から上下方向に延びると共に下端にはキャスターが取り付けられる脚部と、足載せ部と、を備えている入浴用車椅子」

また、甲1の段落【0002】の「体が不自由で介助が必要な者(以下、要介助者と記す。)を入浴させる際に、要介助者等を浴槽に移動するために、入浴用車椅子または入浴用担架が使用される。入浴用車椅子は、下部にキャスターが設けられて上部に第1のレールが二列平行に付設されている台車と、下部に車輪が設けられている椅子部とからなるものであり、入浴用担架は、下部にキャスターが設けられて上部に第1のレールが二列平行に付設されているストレッチャーと、下部に車輪が設けられている担架本体とからなるものである。これらは、椅子部または担架本体の車輪が第1のレールの上を走行することで、椅子部または担架本体が台車上またはストレッチャー上を前後または左右に移動可能になっている。そして、この入浴用車椅子または入浴用担架は、浴槽や洗浄台に横付けされ、入浴用車椅子等にある第1のレールと浴槽側等にある第2のレールとが同軸上になるように位置合わせされることで、椅子部または担架本体が車輪を介して第1のレールから第2のレールへ移動して浴槽や洗浄台に移されるようになっている。」という記載、及び段落【0003】の「介助者」に関する記載からみて、甲1には次に示す技術事項(以下、「甲1事項」という。)も記載されていると認める。
<甲1事項>
「入浴用椅子の椅子部と入浴用担架の担架本体とは台車またはストレッチャーに設けられたレールの上を走行することで浴槽へ移動されるという点で類似の機能・作用を有し、介助者等が要介助者を浴槽に移動させるために、入浴用車椅子または入浴用担架を操作するものであること」

(2)甲2
甲2の第136頁右中段の「【MAB-1000】、【MAB-10RT】×2、【MAB-10KS】×2の組み合わせ」に関する「ストレッチャーから浴槽への担架移動は、レールの上を滑らせるだけ。しかも安心して介護にあたっていただけるように、落下防止機能も搭載しています。」という説明に着目すると、担架移動を行う際に担架をレールの上で滑らせる操作を行う主体は、介護にあたる介助者であると認められ、そして、第136頁右中段の「【MAB-1000】、【MAB-10RT】×2、【MAB-10KS】×2の組み合わせ」に関する写真並びに第134頁上段の「【ASB-3000】、【ASB-3040SE】、【ASB-3035V】の組み合わせ」に関する写真におけるストレッチャーと浴槽との位置関係並びに形状を考慮すると、担架移動を行う際には、介助者はストレッチャーの側部の位置でレールを滑らせる操作を行うことが看取される。
そこで、甲2の第134頁上段の「【ASB-3000】、【ASB-3040SE】、【ASB-3035V】の組み合わせ」に関する写真、同頁下段の「ASB-3000(気泡発生装置内蔵)」に関する説明並びに写真、第135頁右上の「ASB-3040SE 低床式電動ストレッチャー」に関する説明並びに写真を参照しつつ上記の「担架移動を行う際には、介助者はストレッチャーの側部の位置でレールを滑らせる操作を行う」という認定を踏まえながら、特に、「ASB3040SE 低床式電動ストレッチャー」に関する説明の「材質 水受台(ビオラ型形状):FRP フレーム:SUS-304」、機能の欄の「キャスター」という記載、外形寸法の欄の「レール高さ(MIN)430(MAX)790(mm)」という記載、写真に示された水受台と2つのレール、キャスターを含むフレーム部分の形状及びに着目して整理すると、甲2には以下の技術事項(以下「甲2事項」という。)が記載されていると認める。
<甲2事項>
「担架を載置するストレッチャーにおいて、フレームの長手部及び水受台の長手部は介助者がレールの上を滑らせる操作を行いやすいように内側に向けて凹ませ、フレームの長手部の各端部には、上下方向に延びると共に下端にキャスターが取り付けられるパイプ状部材が備えられ、フレームの短手部はフレームの長手方向に沿って側面視した場合に長手方向に並ぶパイプ状部材の間に設けられ、フレームの短手部はパイプ状部材から長手方向と平行な方向に離れて設けられていること」

(3)甲3
甲3の段落【0048】の記載などからみて、甲3には、「ロック確認手段を入浴用車椅子に代えて入浴用担架に適用すること」などが記載されていると認める。

(4)甲4
甲4の段落【0004】、【0008】、【0013】の記載などからみて、甲4には、「入浴後の患者等から落ちる水滴で床を塗らさないようにする構成を、車椅子又はストレッチャーに設けること」などが記載されていると認める。

(5)甲5
甲5の【請求項1】、段落【0011】、【0012】の記載などからみて、甲5には、「乗座部分を昇降させる昇降手段を備えた車椅子兼ストレッチャーにおいて、座位姿勢を保持することの出来る入浴者の姿勢を任意に変換して、寝浴用の特殊浴槽で入浴させること」などが記載されていると認める。

(6)甲6
甲6の第250頁右下には、「2010年5月1日発行」と記載され、一般に、カタログは、なるべく最新の商品情報を伝えなければならない性質のものであるから、本件カタログも、作成後遅滞なく頒布されたものと推認すべきであり、遅くとも本件発明の出願日である2013年3月14日より前に頒布されたものと認める。
そして、甲6の第90頁左上段の「完全収納式フットレスト」の説明及び図の記載などからみて、甲6には、次に示す技術事項(以下、「甲6事項」という。)が記載されていると認める。
<甲6事項>
「入浴装置用の搬送車において、フットレストがシートの下に完全に収納できること」

(7)甲7
甲7の段落【0049】-【0050】及び【図6】-【図8】の記載などからみて、甲7には、次に示す技術事項(以下、「甲7事項」という。)が記載されていると認める。
<甲7事項>
「介護用車椅子において、フットレストをシートの下部に退避させることができること」

(8)甲8
甲8の第34頁最下行?第35頁第8行及び図1の記載などからみて、甲8には、「椅子20において足支持面48が座席部38の下方に収納可能に設けられていること」などが記載されていると認める。

(9)甲9
甲9の段落【0028】-【0029】、【図1】、【図4】の記載などからみて、甲9には、次に示す技術事項(以下、「甲9事項」という。)が記載されていると認める。
<甲9事項>
「入浴用搬送車において、上フレーム部と下フレーム部とを連結する上下方向に延びるフレーム部がキャスターとは異なる位置で連結されていること」

(10)甲10
甲10の段落【0013】-【0014】、図1の記載などからみて、甲10には、「上部フレームがキャスタが取り付けられる脚部とは別に上下方向に延びる昇降手段によって支えられること」などが記載されていると認める。

(11)甲11
甲11の段落【0029】、図14の記載などからみて、甲11には、次に示す技術事項(以下、「甲11事項」という。)が記載されていると認める。
<甲11事項>
「車イス入浴装置において、左後キャスターと右後キャスター間の幅が左前キャスターと右前キャスターの幅より広く、台車フレーム93のうち、前後のキャスターCSを連結するフレームが内側に向けて曲げられ、台車フレーム93のうち、左右のキャスターと平行に設けられたフレームが当該車椅子を左右方向に沿って側面視した場合に、前後方向に並ぶキャスターCSの間に設けられていること」

(12)甲13
甲13の段落【0011】-【0013】、【図1】の記載などからみて、甲13には、次に示す技術事項(以下、「甲13事項」という。)が記載されていると認める。
<甲13事項>
「前後の移動用車6を連結する脚部2と、左右の脚部2をつなぐ横部材が設けられ、横部材には移動用車6からずれた位置に上方へ延びるとともに着座部3を支持する複数の支柱が設けられ、複数の支柱は、車椅子を前後方向から見た場合に、左右方向に並ぶ移動用車6の間に設けられていること」

(13)甲14
甲14の下段の写真などからみて、甲14には、次に示す技術事項(以下、「甲14事項」という。)が記載されていると認める。
<甲14事項>
「前後の移動用車を連結する脚部と、左右の脚部をつなぐ横部材が設けられ、横部材には移動用車からずれた位置に上方へ延びるとともに着座部を支持する複数の支柱が設けられ、複数の支柱は、車椅子を前後方向から見た場合に、左右方向に並ぶ移動用車の間に設けられていること」

5-2 対比・判断
5-2-1 本件発明1について
(1)対比
甲1発明の「椅子本体」はその機能・作用から明らかなように本件発明1の「座面」に相当する。以下、同様に甲1発明の「キャスター」は本件発明1の「車輪」に、「入浴用車椅子」は「車椅子」に、「台車フレーム」は「下フレーム」に、「脚部」は「垂直バー」に、相当する。
甲1発明の「椅子部を入浴用の受け台に移動可能に支持するキャスター付きの台車」において、「台車」から「キャスター」を取り除いた部分は、椅子部を支持するとともに、キャスターが取り付けられていると言えるから、甲1発明の「台車からキャスターを取り除いた部分」は本件発明1の「フレーム部」に相当すると言い改められる。
また、甲1発明の「台車フレーム」は、平面視四角形状に組まれており、甲1図3を参照すると明らかなように「短手部」と「長手部」を備えていると認められる。
そうすると、甲1発明の「台車フレームの長手部」は前後の「キャスター」を連結していることから、本件発明1の「連結バー」に相当し、また、甲1発明の「台車フレームの短手部」は「台車フレームの長手部」をつないでいるとも言えるから、本件発明1の「橋渡しバー」に相当する。
さらに、甲1図3を参照すると、甲1発明の「横架材」は脚部により高さが固定的に支持されているから、台車フレームに対して昇降することなく固定されていると言え、甲1発明の「横架材」は本件発明1の「上フレーム」に相当する。
したがって、甲1発明と本件発明1とを対比すると、両者は以下の相違点1ないし3で相違し、その余の点は一致している。

<相違点1>
本件発明1は、左右の連結バーのうちの少なくとも一方は、内側に向けて曲げられているのに対し、甲1発明の台車フレームの長手部は内側に向けて曲げられていない点。

<相違点2>
本件発明1の橋渡しバーは、当該車椅子を左右方向に沿って側面視した場合に、前後方向に並ぶ垂直バーの間に設けられているのに対し、甲1発明の台車フレームの短手部はそのようになっていない点。

<相違点3>
本件発明1は、下フレームに、垂直バーからずれた位置に、垂直バーと平行な方向に延びるとともに上フレームを支持する複数の支柱が設けられ、複数の支柱は、当該車椅子を前後方向から見た場合に、左右方向に並ぶ垂直バーの間に設けられているのに対し、甲1発明の、横架材は下端にキャスターが取り付けられる脚部により支持されており、それゆえ、脚部からずれた位置で横架材を支持していない点。

(2)判断
(2-1)相違点1,2について
甲1事項を踏まえると、甲1発明の入浴用車椅子と甲2事項のストレッチャーとは、要介護者を浴槽に入れる際に、介助者がレールをスライドさせるための操作を行うという点で共通しており、そして、ユーザの操作性を向上させることは自明の課題であるといえるから、介助者がレールをスライドさせる操作を行いやすいように、甲1発明の「台車フレーム」において、甲2事項の「担架を載置するストレッチャーにおいて、フレームの長手部及び水受台の長手部は介助者がレールの上を滑らせる操作を行いやすいように内側に向けて凹ませ、フレームの長手部分の各端部には、上下方向に延びると共に下端にキャスターが取り付けられるパイプ状部材が備えられ、フレームの短手部はフレームの長手方向に沿って側面視した場合に長手方向に並ぶパイプ状部材の間に設けられ、フレームの短手部はパイプ状部材から長手方向と平行な方向に離れて設けられていること」という構成を採用することに格別の困難は認められない。
そして、甲1発明に甲2事項を適用して、相違点1,2に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことにすぎない。

(2-2)相違点3について
相違点3に係る構成が甲1ないし甲14に記載または示唆されているかを検討すると、上記5-1(12)及び(13)にて示したように、甲13、甲14には、相違点3に係る構成が少なくとも部分的に開示されていると認める。
次に、相違点1,2の検討を踏まえ、甲1発明に甲2事項を適用した場合にどのような構成となるかを検討すると、「介助者がレールの上を滑らせる操作を行いやすいように内側に向けて凹ませ」るという動機付けを考慮すれば、元々ある台車フレームの長手部をより内側に向けて凹ませる構成となるために、キャスターの位置は変更せずに台車フレームの長手部を内側に向けて凹ませるという構成が直ちに想起されるものと考えられる。
しかし、そのために、甲13事項、甲14事項に開示される技術をも適用することを直ちに想起し得たか検討すると、甲1発明、甲2事項、甲13事項、甲14事項に共通するのは入浴用の車椅子という点に留まり、甲1発明、甲2事項はスライド移動させる構成を有するのに対し、甲13事項、甲14事項はスライド移動させる車椅子に関するものではない。
そうすると、スライド移動させる構成とスライド移動させるものでない技術の構成の一部のみを組み合わせて、スライド移動させる本件発明1に係る構成に至ることを当業者が容易に想到し得たとは認められない。

そして、本件発明1は、相違点3に係る構成のように、複数の支柱が車椅子を前後方向から見た場合に、左右方向に並ぶ垂直バーの間に設けられていることにより、「分離後のフレーム部が、介助者の作業を邪魔する可能性を低減できる」という顕著な効果を奏するものであり、本件発明1は、引用発明等から当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(2-3)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は平成28年10月 4日付け意見書第4頁第8行?第5頁第5行において、本件発明1に対する進歩性について、訂正により付加された点は甲13及び甲14から周知の技術事項であり、甲1発明に甲2事項及び甲13又は甲14記載の周知の技術事項を適用することにより容易に発明できた旨、連結バー上に支柱を設けることは甲9に記載され、連結バーと橋渡しバーが交わる箇所に支柱を設けることは甲1発明に記載されているから、支柱を橋渡しバー上や連結バー上のどこに設けるのかは適宜変更可能な設計事項である旨、主張している。
しかしながら、上述したように、相違点3に係る構成は、甲1発明、甲2事項には記載されておらず、甲13事項、甲14事項とは異なる技術であって、当業者が容易になし得たものとはいえず、この主張は採用できない。

(3)小括
したがって、本件発明1に係る特許は、取消理由によって取り消すことはできない。

5-2 本件発明2ないし4
本件発明2ないし4は、本件発明1を引用するものであるところ、本件発明1に係る特許を取消理由(第29条第2項)により取り消すことはできないことは、上記5-2にて説示したとおりである。
したがって、本件発明1を引用する本件発明2ないし4に係る特許も、取消理由によって取り消すことはできない。

5-3 取消理由に関する判断のまとめ
したがって、本件発明1ないし4に係る特許は、取消理由によって取り消すことはできない。


6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
6-1 甲2に記載された製品(以下、「甲2製品」という。)を主発明とした取消理由について
特許異議申立人は特許異議申立書第36頁及び第36頁で引用する第30頁において、甲1、甲3、甲4に記載されるように、入浴用車椅子及び入浴用担架の技術分野において互いの技術を転用することは慣用的に行われる設計的事項であるから、甲2製品に係る構造を入浴用車椅子に転用することは容易である旨主張している。
しかしながら、甲2製品は、担架を載置するストレッチャーにおいて、フレームの長手部及び水受台の長手部は介助者がレールの上を滑らせる操作を行いやすいように内側に向けて凹ませる構成を有するものであり、当該構成は担架をスライドさせることを前提とするものと認める。
そうすると、組み合わせる動機付けとしては、入浴用車椅子及び入浴用担架の技術分野において互いの技術を転用することは慣用的に行われるというのみでは足りず、甲1発明のように、レールをスライドする入浴用車椅子を要するものと認める。
次に、甲2製品に甲1発明を適用した場合にどのような構成となるかを検討すると、甲1発明の「台車フレーム」と「横架材」とは「脚部」によって連結されていることから、この「脚部」によって「横架材」を支える構成を含めて甲2製品に適用することとなり、甲2製品におけるキャスター上に「横架材」を支える「脚部」を有する構成が直ちに想起されるものと考えられる。
そうすると、本件発明1の「垂直バーからずれた位置に、垂直バーと平行な方向に延びるとともに上フレームを支持する複数の支柱が設けられ」という構成は、甲2製品に甲1発明を適用した場合も、なお相違点となる。
甲2製品に甲1発明を適用した上で、甲13事項、甲14事項に開示される技術を適用できるか否かを検討すると、上記5-2(2-2)における検討と同様に、甲1発明、甲2製品、甲13事項、甲14事項に共通するのは入浴用の車椅子という点に留まり、甲1発明、甲2製品はスライド移動させる構成を有するのに対し、甲13事項、甲14事項はスライド移動させる車椅子に関するものではない。
そうすると、スライド移動させる構成とスライド移動させるものでない技術の構成の一部のみを組み合わせて、スライド移動させる本件発明1に係る構成に至ることを当業者が容易に想到し得たとは認められない。

6-2 甲11を副引用例とした取消理由について
特許異議申立人は特許異議申立書第40頁において、甲1発明と甲11発明とは、「椅子部」(「椅子部8」、「シート部分C」)と「フレーム部」(「台車7」、「台車部分D」)とが分離可能か否かという点で相違しているものの、いずれも入浴用の「車椅子」(「入浴用車椅子6」、「車イスB」)であるという点で一致している。従って、甲1発明に対して甲11発明が備える「連結バー」及び「橋渡しバー」の構成を適用することにより、当業者は、本件特許発明1を容易に想到することができる旨主張している。
これについて検討すると、甲1には段落【0016】に「台車7は、平面視四角形状に組まれた台車フレーム9の各隅部から脚部10が上下方向に延び、その脚部10の下端にはキャスター11が取り付けられ、上端には横架材12が二列平行に架設され、横架材12上には椅子部8を移動可能に支持する第1のレール13が横架材12の設置方向と直交する向きで二列平行に架設された構造になっている。」と記載され、段落【0023】に、「一方、図6に示すように、椅子部8は、台車フレーム9と同形の平面視四角形状に形成された椅子フレーム32上に椅子本体33が取り付けられた構造になっている。椅子フレーム32には、二列平行に設けられた第1のレール13上を走行する複数(図では各二個)の車輪34がそれぞれ取り付けられており、椅子フレーム32は車輪34によって移動可能に支持されている。」と記載されるから、甲1発明は、入浴する際に、入浴用受け台1と台車7とが平行に横付けされることを前提とする技術である。
一方で、甲11事項は、5-1(11)に示したように、「車イス入浴装置において、左後キャスターと右後キャスター間の幅が左前キャスターと右前キャスターの幅より広く、台車フレーム93のうち、前後のキャスターCSを連結するフレームが内側に向けて曲げられ」る構成を有するため、入浴用受け台1と台車7とが平行に横付けされることを前提とする甲1発明に甲11事項を適用すると、左後キャスターと右後キャスター間の幅が左前キャスターと右前キャスターの幅より広くなる。
そうすると、入浴用受け台1と台車7とが平行に横付けさせることが出来なくなるから、甲11事項は甲1発明に適用する阻害要因を有していると言うべきである。
したがって、引用発明1と甲11事項とを組み合わせる動機付けがあるとは言えない。


7 その他(記載要件について)
特許異議申立人は同意見書第3頁第20行?30行において、記載要件違反として次の主張をしている。
支持できなければ、車椅子として機能せず、本件発明の効果を奏さないのだから、前記「ずれた位置」の範囲、支柱の本数等が記載されていない本件明細書では、訂正後の本件発明が明確かつ十分に記載されているとは言えない旨、また、前記支柱が配置される位置が垂直バーから「ずれた位置」で、かつ、「垂直バーの間」であり、支柱の本数が「複数」なる記載のみで、どのように配置をすれば椅子部を支持できるかについて記載されていないのだから、訂正後の本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとは言えず、また、訂正後の本件発明は明確ではない旨、主張している。
これについて検討すると、訂正前の請求項5には、「前記下フレームには、前記垂直バーとは別に上下方向に延びる複数の支柱が設けられ、前記上フレームは、前記複数の支柱によって支持されている」と記載されている。
そうすると「複数の支柱」が「垂直バーとは別に」設けられるという点については、特許異議申立人により特許異議の申立てが行われた時点において、既に請求項5として記載されていたものである。
そして、訂正前の請求項5の記載においても「ずれた位置」の範囲、支柱の本数等が記載されていないことからも明らかなように、今般の記載不備に関する特許異議申立人の主張は、訂正の請求の内容に付随して生じる理由ではないため、この主張は採用できない。
また、訂正の請求の内容に付随して生じる理由ではない点はさておくとしても、本件発明1には、「前記下フレームは、前記垂直バーからずれた位置に、前記垂直バーと平行な方向に延びるとともに前記上フレームを支持する複数の支柱が設けられ」と記載され、支柱により上フレームを支持することが明示され、本件図8等を参照すれば、支柱により上フレームを支持していることは明らかなのだから、明確性要件違反、サポート要件違反であるとは言えない。


8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項5に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項5に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座面を有する椅子部と、
前記椅子部を支持するとともに走行用の車輪が取り付けられるフレーム部と、
を備える車椅子であって、
前記フレーム部には、前記車輪が取り付けられる下フレームと、前記下フレームの上に配置されて前記椅子部を分離可能に支える上フレームと、が含まれ、
前記下フレームには、前後の車輪を連結する左右の連結バーと、前記左右の連結バーをつなぐ橋渡しバーと、が含まれ、
前記左右の連結バーのうちの少なくとも一方は、内側に向けて曲げられ、
前記左右の連結バーの各端部には、上下方向に延びると共に下端側に前記車輪が取り付けられる垂直バーが設けられ、
前記橋渡しバーは、当該車椅子を左右方向に沿って側面視した場合に、前後方向に並ぶ前記垂直バーの間に設けられ、
前記上フレームは、前記下フレームに対して昇降することなく固定され、
前記下フレームには、前記垂直バーからずれた位置に、前記垂直バーと平行な方向に延びるとともに前記上フレームを支持する複数の支柱が設けられ、
前記複数の支柱は、当該車椅子を前後方向から見た場合に、左右方向に並ぶ前記垂直バーの間に設けられていることを特徴とする車椅子。
【請求項2】
前記橋渡しバーは、前記垂直バーから前後方向と平行な方向に離れて設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車椅子。
【請求項3】
前記橋渡しバーは、前後方向に間隔をあけて2つ設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車椅子。
【請求項4】
フットレスト部を更に備え、
前記フットレスト部が、前記椅子部の下に収容可能であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車椅子。
【請求項5】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-11-15 
出願番号 特願2013-51411(P2013-51411)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A61H)
P 1 651・ 537- YAA (A61H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久郷 明義  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 宮下 浩次
熊倉 強
登録日 2015-08-28 
登録番号 特許第5797682号(P5797682)
権利者 酒井医療株式会社
発明の名称 車椅子  
代理人 特許業務法人 佐野特許事務所  
代理人 佐野 静夫  
代理人 井上 温  
代理人 上村 喜永  
代理人 齊藤 武志  
代理人 特許業務法人佐野特許事務所  
代理人 井上 温  
代理人 齊藤 武志  
代理人 佐野 静夫  
代理人 前川 真貴子  
代理人 安藤 順一  
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