• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
管理番号 1323536
異議申立番号 異議2016-700826  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-06 
確定日 2017-01-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第5877708号発明「ハードコート膜付基材および該ハードコート膜形成用塗布液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5877708号の請求項1ないし19に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5877708号の請求項1ないし19に係る特許についての出願は、平成23年12月28日に特許出願され、平成28年2月5日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人冷月鋒により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年10月26日付けで取消理由を通知し、平成28年12月27日付けで意見書が提出されたものである。

2.本件発明
【請求項1】
基材と、基材上に形成された凸部を有するハードコート膜を含むハードコート膜付基材であって、
該ハードコート膜が、(i)界面活性剤で処理された金属酸化物微粒子(A)と、(ii)疎水性マトリックス成分とからなり、前記界面活性剤で処理された金属酸化物微粒子(A)の平均粒子径(D_(A))が30?150nmの範囲にあり、かつ、ハードコート膜上部に前記界面活性剤で処理された金属酸化物微粒子(A)が偏在して、凸部を形成し、該凸部の高さ(H凸)が10?200nmの範囲にあって、
前記界面活性剤で処理された金属酸化物微粒子(A)中の界面活性剤処理量が、該微粒子(A)に対して2?30重量%の範囲にあり、前記ハードコート膜中の前記界面活性剤で処理された金属酸化物微粒子(A)の含有量が0.01?20重量%の範囲にあることを特徴とするハードコート膜付基材。
【請求項2】
前記界面活性剤が、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のハードコート膜付基材。
【請求項3】
前記界面活性剤が、エチレンオキサイド変性骨格を有する界面活性剤であることを特徴とする請求項2に記載のハードコート膜付基材。
【請求項4】
前記ハードコート膜中の前記疎水性マトリックス成分の含有量が、80?99.99重量%の範囲にあることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載のハードコート膜付基材。
【請求項5】
前記界面活性剤で処理された金属酸化物微粒子(A)が、シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、五酸化アンチモン、ボリア、アンチモンドープ酸化錫、リンドープ酸化錫、スズドープ酸化インジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物、ないし2種以上の複合酸化物からなることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のハードコート膜付基材。
【請求項6】
前記疎水性マトリックス成分が、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、n-ラウリルアクリレート、n-ステアリルアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、パーフルオロオクチルエチルメタクリレート、トリフロロエチルメタクリレート、ウレタンアクリレートから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載のハードコート膜付基材。
【請求項7】
さらに、平均粒子径が5?300nmの範囲にある疎水性金属酸化物微粒子(B)を含むことを特徴とする請求項1?6のいずれか1項にハードコート膜付基材。
【請求項8】
前記疎水性金属酸化物微粒子(B)が、シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、五酸化アンチモン、ボリア、アンチモンドープ酸化錫、リンドープ酸化錫、スズドープ酸化インジウムおよびこれらの複合酸化物、混合物からなる金属酸化物微粒子を、
下記式(1)で表される有機珪素化合物で表面処理したものであることを特徴とする請求項7に記載のハードコート膜付基材。
R_(n)-SiX_(4-n) (1)
(但し、式中、Rは炭素数1?10の非置換または置換炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。X:炭素数1?4のアルコキシ基、水酸基、ハロゲン、水素、n:1?3の整数)
【請求項9】
前記ハードコート膜中の前記疎水性金属酸化物微粒子(B)の含有量が、固形分として1?80重量%の範囲にあることを特徴とする請求項7または8に記載のハードコート膜付基材。
【請求項10】
前記ハードコート膜の膜厚が、0.5?20μmの範囲にあることを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載のハードコート膜付基材。
【請求項11】
(i)界面活性剤で処理された金属酸化物微粒子(A)と、(ii)疎水性マトリックス形成成分と有機分散媒を含むハードコート膜形成用塗布液であって、
前記界面活性剤で処理された金属酸化物微粒子(A)の平均粒子径(D_(A))が30?150nmの範囲にあって、
前記界面活性剤で処理された金属酸化物微粒子(A)中の界面活性剤処理量が、該微粒子(A)に対して2?30重量%の範囲にあり、前記塗布液中の前記金属酸化物微粒子(A)濃度が、固形分換算で0.0001?12重量%の範囲にあることを特徴とするハードコート膜形成用塗布液。
【請求項12】
前記界面活性剤が、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項11に記載のハードコート膜形成用塗布液。
【請求項13】
前記界面活性剤が、エチレンオキサイド変性骨格を有する界面活性剤であることを特徴とする請求項12に記載のハードコート膜形成用塗布液。
【請求項14】
前記ハードコート膜形成用塗布液中の前記疎水性マトリックス形成成分の濃度が、0.8?60重量%の範囲にあることを特徴とする請求項11?13のいずれか1項に記載のハードコート膜形成用塗布液。
【請求項15】
前記界面活性剤で処理された金属酸化物微粒子(A)が、 シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、五酸化アンチモン、ボリア、アンチモンドープ酸化錫、リンドープ酸化錫、スズドープ酸化インジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物、ないし2種以上の複合酸化物からなることを特徴とする請求項11?14のいずれか1項に記載のハードコート膜形成用塗布液。
【請求項16】
前記疎水性マトリックス形成成分が、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、n-ラウリルアクリレート、n-ステアリルアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、パーフルオロオクチルエチルメタクリレート、トリフロロエチルメタクリレート、ウレタンアクリレートから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項11?15のいずれか1項に記載のハードコート膜形成用塗布液。
【請求項17】
さらに、平均粒子径が5?300nmの範囲にある疎水性金属酸化物微粒子(B)を含むことを特徴とする請求項11?16のいずれか1項に記載のハードコート膜形成用塗布液。
【請求項18】
前記疎水性金属酸化物微粒子(B)が、シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、五酸化アンチモン、ボリア、アンチモンドープ酸化錫、リンドープ酸化錫、スズドープ酸化インジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物、ないし2種以上の複合酸化物からなる金属酸化物粒子を、
下記式(1)で表される有機珪素化合物で表面処理したものであることを特徴とする請求項17に記載のハードコート膜形成用塗布液。
R_(n)-SiX_(4-n) (1)
(但し、式中、Rは炭素数1?10の非置換または置換炭化水素基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。X:炭素数1?4のアルコキシ基、水酸基、ハロゲン、水素、n:1?3の整数)
【請求項19】
前記ハードコート膜形成用塗布液中の前記疎水性金属酸化物微粒子(B)の濃度が、固形分として0.01?48重量%の範囲にあることを特徴とする請求項17または18に記載のハードコート膜形成用塗布液。

3.取消理由の概要
当審において、請求項1ないし19に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

1)本件特許の請求項1?19に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2)本件特許の請求項1?19に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3)本件特許は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1、2号に規定する要件を満たしていない。


(29条)
1.特開2011-136490号公報
2.カタログ「スノーテックス コロイダルシリカ」1988年9月、日産化学工業株式会社
3.技術資料「スノーテックスと各種界面活性剤の相溶安定性」1980年3月、日産化学工業株式会社
4.特開昭59-15473号公報
(1?4は、甲第1?4号証に同じ)

理由1:請求項1?19に対し
甲1発明と同一、又は、甲1発明に甲2?4を適用し容易。
理由2:
請求項11?19に対し
甲4発明と同一、又は、甲4発明に甲1、2?3を適用し容易。

(36条)
1.請求項1(引用する請求項2?10も同様)に「金属酸化物微粒子(A)が偏在」とあるが、いかなる状態か不明確である。また、かかる状態をいかに実現するのか不明確である。
2.請求項1(引用する請求項2?10も同様)に「金属酸化物微粒子(A)が偏在して、凸部を形成」とあるが、両者の関係が不明確である。また、かかる状態をいかに実現するのか不明確である。
3.請求項1、11(引用する請求項2?10、12?19も同様)に「界面活性剤で処理された」とあるが、処理タイミングが不明で、いかに実施するのか、実施例との関係が不明確である。また、塗布液のアンチブロッキング性が実証されているのは、実施例のものに限られる。
4.請求項11(引用する請求項12?19も同様)は「塗布液」の発明であり、「基材」の発明ではない。「塗布液」のみで、段落0010?0012、0016の課題、効果と整合しているのか、発明を実施しうるのか、不明確である。

4.甲各号証の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証には、請求項1、3、段落0052等の記載からみて、以下の発明が記載されている。

基材と、基材上に形成された凸部を有するハードコート膜を含むハードコート膜付基材であって、
該ハードコート膜が、親水性金属酸化物微粒子(A)と、疎水性マトリックス成分(M)とからなり、前記親水性金属酸化物微粒子(A)の平均粒子径(D_(A))が80nm?3μmの範囲にあり、かつ、前記親水性金属酸化物微粒子(A)の一部がハードコート膜表面に凸部を形成し、該凸部の高さ(H凸)が50nm?1μmの範囲にあって、
前記ハードコート膜中の前記親水性金属酸化物微粒子(A)の含有量が0.01?20重量%の範囲にある
ハードコート膜付基材。

(2)甲第2号証
甲第2号証は「スノーテックス コロイダルシリカ」と題する日産化学工業株式会社のカタログであり、コロイダルシリカが界面活性剤と適合し、相溶安定性を有する旨の記載がある。

(3)甲第3号証
甲第3号証は「スノーテックスと各種界面活性剤の相溶安定性」と題する日産化学工業株式会社の技術資料であり、スノーテックスと各種界面活性剤との相溶安定性についての記載がある。

(4)甲第4号証
甲第4号証には、特許請求の範囲、4ページ右下欄2?18行、5ページ右上欄15?18行等の記載からみて、以下の発明が記載されている。

界面活性剤とコロイド状シリカと、
水酸基含有ビニル単量体成分を主成分とし、酸基含有ビニル単量体成分を0.1?40重量%含有する共重合体又はその部分もしくは完全中和物(以下「共重合体等」)と、
炭素数1?8の脂肪族アルコールを含む防曇剤組成物であって、
コロイド状シリカの粒径が8?25ミリミクロンであり、
コロイド状シリカを分散させた脂肪族アルコール中のコロイド状シリカを無機固体粒子として100重量部としたときの界面活性剤の配合割合が0.1?50重量部であり、
組成物中の共重合体等100重量部に対して、コロイド状シリカを分散させた脂肪族アルコール中のコロイド状シリカを、無機固体粒子として20?300重量部含む
防曇剤組成物。

5.判断
(1)理由1(甲1による29条)
ア.請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明とを対比する。
「金属酸化物微粒子」について、請求項1に係る発明は「界面活性剤で処理された」ものであるのに対し、甲第1号証に記載された発明は「界面活性剤で処理された」かどうか明らかでなく「親水性」のものである点で相違する。

この相違点については、実質的相違点であるから、請求項1に係る発明が甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。

請求項1に係る発明の課題、効果は、「界面活性剤で処理された金属酸化物微粒子を疎水性マトリックス形成成分に分散させて用いると、界面活性剤で処理された金属酸化物微粒子は疎水性マトリックス形成成分に凝集することなく分散し、ハードコート膜を形成した場合、金属酸化物微粒子が凝集することなくハードコート膜表面に偏在して凸部を形成できる」(段落0011)、「界面活性剤で処理された金属酸化物微粒子(A)は金属酸化物粒子の親水性を界面活性剤が適度に抑制するためか、・・・疎水性マトリックス成分へ凝集することなく分散し、・・・界面活性剤で処理された金属酸化物微粒子(A)が凝集することなく膜表面に浮上するとともに凸部を形成し、アンチブロッキング性を発現するとともに耐擦傷性、透明性等に優れたハードコート膜が得られる」(段落0026)というものである。

甲第1号証に記載された発明の課題、効果は、「アンチブロッキング性に優れ、しかも基材との密着性、透明性、耐擦傷性、スクラッチ強度、鉛筆硬度等に優れたハードコート膜付基材の出現が望まれていた。・・・本発明者らは、疎水性を有する有機樹脂マトリックス成分に、マトリックス成分と相溶性がなく、親水性を有する金属酸化物微粒子を含ませ、しかも両者の屈折率を特定の範囲となるように調整することによって、ハードコート膜表面に特定の高さの凸部を形成することができ、しかも、透明性や耐擦傷性・強度などの上記課題を解決しうる」(段落0010?0011)というものである。

甲第2?3号証により、界面活性剤で処理されたコロイド状シリカ自体は周知である。
しかし、甲第1号証に記載された発明では、金属酸化物微粒子(A)の凝集という課題について、何ら認識されていない。
よって、界面活性剤で処理されたコロイド状シリカ自体が周知であったとしても、かかる周知技術を適用する動機はない。
請求項1に係る発明を容易想到とすることはできない。

申立人は、甲第2?3号証を踏まえれば、甲第1号証に記載された発明は「界面活性剤で処理された」ものであるから、容易想到である旨、主張する。
しかし、「界面活性剤で処理された」ものが周知であることと、甲第1号証に記載された発明の「金属酸化物微粒子」が「界面活性剤で処理された」ものであるかは別問題であるし、適用の動機もないから、申立人の主張は根拠がない。

イ.請求項2ないし19に係る発明について
請求項2ないし10に係る発明は請求項1に係る発明を減縮したものである。請求項11ないし19に係る発明は「ハードコート膜形成用塗布液」に関するもので、「金属酸化物微粒子(A)」が「界面活性剤で処理された」旨、特定されている。
よって、請求項1に係る発明と同様の理由で、請求項2ないし19に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできず、甲第1号証に記載された発明から容易想到であるとすることもできない。

(2)理由2(甲4による29条)
ア.請求項11に係る発明について
請求項11に係る発明と甲第4号証に記載された発明とを対比する。
金属酸化物微粒子(A)(甲第4号証の「コロイド状シリカ」が相当)の平均粒子径(D_(A))について、請求項1に係る発明は「30?150nmの範囲」であるのに対し、甲第4号証に記載された発明は「8?25ミリミクロン」である点で相違する。

この相違点については、実質的相違点であるから、請求項11に係る発明が甲第4号証に記載された発明であるとすることはできない。

請求項1に係る発明の課題、効果は、上記(1)アのとおりである。

甲第4号証に記載された発明の課題、効果は、「耐水性に優れていて初期防曇性及び防曇性の持続性の良好な優れた防曇剤を提供する」(2ページ右上欄16?18行)というものである。

甲第4号証に記載された発明では、かかる課題解決のためにコロイド状シリカの平均粒子径が「8?25ミリミクロン」に特定されている。そして、金属酸化物微粒子(A)の凝集という課題、透明性への悪影響と粒子径との関係について、何ら認識されていない。
よって、甲第4号証に記載された発明のコロイド状シリカの平均粒子径を「30?150nmの範囲」に変更する動機はない。
請求項11に係る発明を容易想到とすることはできない。

イ.請求項12ないし19に係る発明について
請求項12ないし10に係る発明は請求項11に係る発明を減縮したものである。
よって、請求項11に係る発明と同様の理由で、請求項12ないし19に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であるとすることはできず、甲第4号証に記載された発明から容易想到であるとすることもできない。

(3)理由3(36条)
ア.「偏在」について
「偏在」とは、乙第1号証にみられるごとく「かたよって存在すること」を意味する用語である。
そして、請求項1に係る発明は、ハードコート膜が、金属酸化物微粒子(A)と疎水性マトリックス成分とからなる、すなわち異種成分により膜を形成するものであるから、本件特許明細書段落0021の記載のとおり、金属酸化物微粒子が均一に分散するとは限らないことは、明らかである。
このことは、用語の一般的解釈とも整合する。
よって、「偏在」が、いかなる状態か不明確である、いかに実現するのか不明確であるとは言えない。
申立人は、「トレース実験」をしたが、実証されていない旨、主張する。しかし、かかる実験は客観性に欠け、根拠がない。

イ.偏在と凸部の関係
表面粗さRaは、表面の縦方向の粗さを示すものであり、表面からの高さを示しているから、本件特許明細書段落0058の記載に不明確な点はない。
また、段落0020、0021、0027の記載によれば、ハードコート膜上部に偏在する金属酸化物微粒子の一部により、凸部が形成されることは明らかで、両者の関係は明確であるから、実施可能である。

ウ.界面活性剤の処理タイミング
本件発明は、全て「物」の発明であるから、「物」として明確であれば良く、「界面活性剤の処理タイミング」を、特定することは必須ではない。
また、段落0069?0072等の実施例において、ハードコート膜形成用塗布液、及び塗布液を用いて形成されたハードコート膜付基材を構成する界面活性剤で処理された金属酸化物微粒子について記載されているから、本件発明は実施可能である。

エ.塗布液と基材
ハードコート膜を得るためには、塗布液を用いることは、本件特許明細書段落0059にも記載されているように常套手段である。
請求項11?19に係る発明は、「ハードコート膜形成用塗布液」であり、用途が特定されている。
よって、「ハードコート膜形成用塗布液」に係る発明と、「ハードコート膜付基材」に係る発明とは、課題、効果が整合し、実施可能であり、不明確ではない。

6.むすび
請求項1ないし19に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1ないし19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-01-12 
出願番号 特願2011-289346(P2011-289346)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B)
P 1 651・ 113- Y (B32B)
P 1 651・ 537- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 千葉 成就
渡邊 豊英
登録日 2016-02-05 
登録番号 特許第5877708号(P5877708)
権利者 日揮触媒化成株式会社
発明の名称 ハードコート膜付基材および該ハードコート膜形成用塗布液  
代理人 特許業務法人SSINPAT  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ