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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
管理番号 1323538
異議申立番号 異議2016-701108  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-30 
確定日 2017-01-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第5928164号発明「IH調理器で使用される調理器具用フェライト系ステンレス鋼およびそれを用いた調理器具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5928164号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5928164号の請求項1?5に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成24年6月1日に特許出願され、平成28年5月13日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 千且和也により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5928164号の請求項1?5の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1号証?甲第6号証を提出し、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であり、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずなされたものであるから、又は、本件発明1?5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1?5は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、請求項1?5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

[証拠方法]
甲第1号証:特開平8-158024号公報
甲第2号証:特開平6-228717号公報
甲第3号証:特開平6-10101号公報
甲第4号証:特開2003-181652号公報
甲第5号証:特開2001-309850号公報
甲第6号証:特開2005-321642号公報

第4 甲号証の記載事項
1 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第1号証には、「電磁誘導加熱用鋼板」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a) 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、渦電流を交番させて発熱させた充填体に流体を接触させて加熱する電磁誘導加熱における当該充填体用として好適な電磁誘導加熱用鋼板に関する。」

(1b) 「【0011】一方、Cr量が17.00 %未満であるか、またはMo量が0.50%未満であると、十分な耐食性が得られない。そこで、本発明の電磁誘導加熱用鋼板にあってはCr量を17.00 ?50.00 %、Mo量を0.50?5.00%と規定する。上記以外の成分については、C,Mn,S,P,O,Nの各成分を増量させると鉄損が大きくなることは明らかではあるが、反面で機械的性質,耐食性その他の特性を阻害することになる。そこで本発明におけるこれらの各成分については、鉄損を除けば特性阻害要因である点を配慮して、製造上許容し得る範囲に止めるべく不可避的に混入する不純物と規定し、その含有量を次のように規制する。
【0012】C量≦0.020 %、Mn≦0.60%、P≦0.035 %,S≦0.007 %,O≦0.008 %,N≦0.020 %・・・」

(1c) 「【0019】
【実施例】以下、この発明の実施例を説明する。先ず、本発明の範囲内の成分組成を有する電磁誘導加熱用鋼板(本発明品)及び本発明の範囲外の成分組成を有する電磁誘導加熱用鋼板(比較例)を製造してそれぞれの鉄損値と耐食性(孔食指数PIによる)の評価を実施した。
【0020】その結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】表中の下線付き数字は、範囲外のものである。鉄損のW10/60 は、磁束密度振幅10キロガウスで交流交番電源周波数60Hzの条件下での測定値 W/kgである。比較例1は、Cr量およびMo量が本発明の許容範囲を下回り、鉄損値,孔食指数値(PI値)共に低い値になっている。」

2 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第2号証には、「電磁ステンレス鋼」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
「【0013】先ず、本発明による電磁ステンレス鋼の主要合金成分たるCrは、耐食性の付与に効果的な元素であり、また、電気抵抗の増加にも効果的な元素である。しかしながら、20%を超える多量のCr添加は、電気抵抗の増加が認められず、経済性が悪化するので好ましくない。一方、Cr添加量の下限は、耐食性の面から4%とすることが効果的であり、Cr含有量が少なくなりすぎると、有効な耐食性を発揮させることが困難となる。従って、Cr添加量としては、4?20%の範囲とした。そして、このようなクロム含有量とすることによって、磁気特性、特に飽和磁束密度(B30)が効果的に保持されることとなる。
【0014】また、同じく主要合金成分たるAlは、電気抵抗の増加に効果的な元素であり、しかも磁気特性を向上させる(保磁力(Hc)を減少させる)ことから、0.2%以上とすることが必要となる。しかしながら、7.0%を超える多量のAlの添加は冷間鍛造性の悪化を招くために、その上限を7.0%とする必要がある。そして、このようなAl含有量とすることにより、電磁ステンレス鋼の電気抵抗特性が効果的に改善される。
【0015】次に、Siは、上記CrやAlと同様に、電気抵抗の増加に効果的な元素であり、ステンレス鋼中のSi含有量の増加に伴って、その電気抵抗を増加させる。また一方、このSiは、磁気特性の改善、換言すれば保磁力(Hc)の減少にも効果的な元素であるので、望ましくは0.01%以上とするのが良い。しかしながら、3.0%を超える多量のSiの添加は冷間鍛造性の悪化を招くことから、その上限は3.0%とする必要がある。」

3 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第3号証には、「電磁ステンレス鋼」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
「【0010】Si:0.30?2.50%
Siは、鋼中において脱酸剤として有用なだけではなく、電磁ステンレス鋼の磁気特性のうち、最大透磁率の上昇及び保磁力の低下に有効に寄与し、また比抵抗を増加し高周波領域の応答性の改善にも有用な元素であるので、この発明では少なくとも0.30%を含有させるものとした。しかしながらSiは、一方で硬度を増加し加工性を阻害する元素であり、2.50%を超えて多量に含有すると加工性が阻害されるので、0.30?2.50%の範囲で含有させるものとした。
・・・
【0012】Cr:5.00?20.00 %
Crは、本合金中における主要成分で、耐食性及び比抵抗の改善に効果的な元素の一つである。しかしながら含有量が5.00%に満たないとその添加効果に乏しく、一方 20.00%を超えると磁気特性の劣化を招くだけでなく、加工性も阻害されるので、含有量は5.00?20.00 %の範囲に限定した。
【0013】Al:0.50超?3.00%
Alは、本合金中にあって、脱酸剤として有用なだけでなく、Si同様、最大透磁率の上昇及び保磁力の低下に有効に寄与する。また比抵抗を効果的に増加して高周波領域での応答性を改善する作用もあり、しかもSiに比較して硬度上昇への寄与率は低い。そこでこの発明では、Alの多量添加によって上記特性の改善を図るものとし、少なくとも0.50%を超える量のAlを含有させることとした。しかしながら含有量が3.00%を超えると、特殊な精錬方法が必要になるだけでなく、加工性の劣化を招くので、Alは0.50超?3.00%の範囲で含有させるものとした。」

4 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第4号証には、「被誘導加熱部材用クラッド板およびその製造方法ならびに誘導加熱調理器用被加熱調理具」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
「【0014】ここに、本発明は次の通りである。
(1) 一方の面から他方の面に向かって順に、保護層、均熱層、発熱層を備えるクラッド板であって、前記保護層は、質量%で、C:0.05%以下、Si:1.0 %以下、Mn:1.0 %以下、Cr:14?18%、Cu:0.2 ?1.0 %、Nb:0.2 ?1.0 %を含有するフェライト系ステンレス鋼からなることを特徴とする被誘導加熱部材用クラッド板。
・・・
【0018】(5) 保護層の素材であるフェライト系ステンレス鋼板と、均熱層の素材であるAl板もしくはAl合金板と、発熱層の素材であるFe-Ni系合金板もしくはFe-Ni-Cr系合金板とを順次積層して接合圧延を行うクラッド板の製造方法であって、前記フェライト系ステンレス鋼板は、質量%でC:0.05%以下、Si:1.0 %以下、Mn:1.0 %以下、Cr:14?18%、Cu:0.2 ?1.0 %、Nb:0.2 ?1.0 %を含有するフェライト系ステンレス鋼からなり、前記接合圧延は、250 ℃以上430 ℃以下の温度で総板厚に対して10%以上となる圧下率で圧延するものであることを特徴とする被誘導加熱部材用クラッド板の製造方法。」

5 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第5号証には、「電磁誘導加熱式炊飯器」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
「【0011】
【発明の実施の形態】本発明は、炊飯器本体と、この炊飯器本体内に着脱自在に収納される内釜と、炊飯器本体の内釜収納部の下方に配設された加熱コイルと、加熱コイルの下部に配設される複数個の消磁用のフェライトとを有する電磁誘導加熱式炊飯器において、前記内釜は内釜内底部で且つフェライトと対向した位置に紐状の凸部を複数個設けることにより表面積増大部を形成した電磁誘導加熱式炊飯器としたものである。」

6 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第6号証には、「誘導加熱型定着装置」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
「【0006】
上記課題を解決するため、この発明の誘導加熱型定着装置は、
画像形成用の定着ローラの軸に略平行な中央の延在部と両端の屈曲部とを有するように、上記定着ローラの外周の一部に沿って巻回されて、上記定着ローラを誘導加熱する励磁コイルと、
中央の延在部と両端の屈曲部とを有すると共に、一方の屈曲部が上記励磁コイルの一方の屈曲部と略重なり、かつ、延在部が上記励磁コイルの延在部の一部と略重なって、上記励磁コイルが発生した磁束をキャンセルする消磁コイルとを備え、
上記定着ローラの軸方向の一部に対応する小サイズシートの通過領域の境界が、上記消磁コイルの他方の屈曲部の範囲内に設定されていることを特徴としている。」

第5 判断
1 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の上記(1c)の記載によれば、【表1】の比較例1に注目すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「重量%で、C:0.06%、N:0.035%、Si:0.82%、Al:0.012%、Cr:16.15%、Mn:0.60%、Mo:0.001%、P:0.030%、S:0.006%、O:0.0048%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する電磁誘導加熱用鋼板。」(以下、「甲1発明」という。)

2 本件発明1について
(1) 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「重量%」は、本件発明1の「質量%」に相当する。

イ 甲1発明の「C:0.06%、N:0.035%、・・・Cr:16.15%、Mn:0.60%」は、本件発明1の「C:0.06%以下、N:0.06%以下、・・・Cr:13%以上20%以下、Mn:2.0%以下」とは、C:0.06%、N:0.035%、Cr:16.15%、Mn:0.60%である点で一致する。

ウ 甲1発明の「Si:0.82%、Al:0.012%」は、Si+Al:0.832%であるから、本件発明1の「Si+Al:0.6%以上2%以下」とは、Si+Al:0.832%である点で一致する。

エ 甲1発明の「C:0.06%」、「Cr:16.15%」の含有量、及び、Niを含有していない点からすると、甲1発明の「鋼板」は、フェライト系ステンレス鋼であるといえるから、本件発明1の「フェライト系ステンレス鋼」に相当する。

オ 以上から、本件発明1と甲1発明とは、「質量%で、C:0.06%、N:0.035%、Si+Al:0.832%、Cr:16.15%、Mn:0.60%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するフェライト系ステンレス鋼。」である点で一致し、以下の2点で相違する。

相違点1:本件発明1は、Mo、P、S、Oを、いずれも含有していないのに対し、甲1発明は、「Mo:0.001%、P:0.030%、S:0.006%、O:0.0048%を含有し」ている点。

相違点2:フェライト系ステンレス鋼について、本件発明1は、「IH(Induction Heating)調理器で使用される調理器具用」であるのに対して、甲1発明は、「電磁誘導加熱用」である点。

(2) 相違点についての判断
ア 相違点1について
まず、相違点1が、実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲第1号証の上記(1b)の「Mo量が0.50%未満であると、十分な耐食性が得られない。そこで、本発明の電磁誘導加熱用鋼板にあっては・・・Mo量を0.50?5.00%と規定する。」との記載によれば、比較例である甲1発明の「Mo:0.001%」は、Moを積極的に添加しているとはいえないから、不可避的不純物であるといえる。
また、同(1b)の「S,P,O・・・の各成分については、鉄損を除けば特性阻害要因である点を配慮して、製造上許容し得る範囲に止めるべく不可避的に混入する不純物と規定し、その含有量を次のように規制する。
・・・P≦0.035 %,S≦0.007 %,O≦0.008 %」との記載によれば、甲1発明の「P:0.030%、S:0.006%、O:0.0048%」は、いずれも不可避的不純物であるといえる。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

イ 相違点2について
(ア) まず、相違点2が、実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲1号証の前記(1a)には、「本発明は、渦電流を交番させて発熱させた充填体に流体を接触させて加熱する電磁誘導加熱における当該充填体用として好適な電磁誘導加熱用鋼板に関する」と記載されているから、甲1発明は、渦電流を交番させて発熱させた充填体に流体を接触させて加熱する電磁誘導加熱における当該充填体用として好適な電磁誘導加熱用鋼板であるといえる。
一方、本件発明の「IH(Induction Heating)調理器で使用される調理器具」は、渦電流を交番させて発熱させて流体を加熱するものであるといえなくもない。
しかし、渦電流を交番させて発熱させて流体を加熱するものとしては、「IH(Induction Heating)調理器で使用される調理器具」のみに限られるものではないし、また、甲第1号証には、「電磁誘導加熱用鋼板」の用途として、「IH(Induction Heating)調理器で使用される調理器具」は、何ら記載も示唆もされていない。
したがって、相違点2は実質的な相違点である。

(イ) 次に、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項とすることが、当業者にとって容易に想到し得るものであるか否か検討する。
前記1によれば、甲1発明は、甲第1号証の比較例1に基づいて認定したものであるところ、甲第1号証の上記(1c)の【0022】の「比較例1は、Cr量およびMo量が本発明の許容範囲を下回り、鉄損値,孔食指数値(PI値)共に低い値になっている」との記載からすると、甲1発明は、鉄損値及び孔食指数値(PI値)が共に低い値の電磁誘導加熱用鋼板であるから、そのような電磁誘導加熱用鋼板を、「IH(Induction Heating)調理器で使用される調理器具」として用いることの動機付けがあるとはいえない。
また、甲第2号証?甲第6号証のいずれにも、甲1発明の「電磁誘導加熱用鋼板」を、「IH(Induction Heating)調理器で使用される調理器具」として用いることを動機付ける記載は見当たらない。
そして、本件特許明細書【0014】の記載によれば、本件発明1は、「SUS430系のフェライト系ステンレス鋼と同等な加工性を有し、かつSUS430系のフェライト系ステンレス鋼に比べて熱効率が極めて優れた、すなわち70?85%程度の消費電力量で済むIH調理器で使用される調理器具用フェライト系ステンレス鋼を製造できる」という効果を奏するものであって、この効果は、甲第1号証?甲第6号証の記載からは予測し得ないものである。
したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者にとって容易に想到し得るものであるとはいえない。

ウ 以上から、本件発明1は、甲1発明であるとはいえないし、また、甲1発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得るものともいえない。

3 本件発明2?5について
本件発明2?5は、いずれも、本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、前記(2)で検討したのと同様の理由により、本件発明2?5は、いずれの、甲1発明とは、少なくとも前記相違点2で相違しており、また、甲1発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。

4 まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、また、本件発明1?5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-01-11 
出願番号 特願2012-125708(P2012-125708)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C22C)
P 1 651・ 113- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 静野 朋季  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 河本 充雄
松本 要
登録日 2016-05-13 
登録番号 特許第5928164号(P5928164)
権利者 JFEスチール株式会社
発明の名称 IH調理器で使用される調理器具用フェライト系ステンレス鋼およびそれを用いた調理器具  
代理人 森 和弘  
代理人 きさらぎ国際特許業務法人  
代理人 井上 茂  

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