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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H02K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H02K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H02K |
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管理番号 | 1323541 |
異議申立番号 | 異議2016-700601 |
総通号数 | 206 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-02-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-07-07 |
確定日 | 2017-01-20 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5844205号発明「ステータコアおよびそれを用いた回転電動機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5844205号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5844205号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成27年11月27日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人西山智裕により請求項1ないし9に対して特許異議の申立てがされ、平成28年9月23日付けで取消理由が通知され、平成28年11月28日付けで意見書の提出がされたものである。 2.本件特許 特許第5844205号の請求項1ないし9に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明9」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項によって特定されるとおりのものである。 3.取消理由の概要 当審において、請求項1ないし5、8及び9に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)甲第1号証(特開2001-258225号公報)により、請求項1ないし5及び9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (2)甲第1号証、及び甲第3号証(特開2005-348474号公報)に記載されている周知技術により、請求項8及び9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 4.甲号証の記載 (1)甲第1号証 (1-1)甲第1号証には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付加した。)。 (ア)「【請求項1】 極数がP、電機子鉄心の溝数がSのモータにおいて、 前記電機子鉄心に等間隔で設けられる凹部の数Nが、溝数がS未満であって、下式で表されることを特徴とするモータ。 N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/P ・・・(中略)・・・ 【請求項3】 前記N個の凹部は、電機子鉄心のバックヨークにQ(Q=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/P)個等間隔で設けられることを特徴とする請求項1のモータ。」 (イ)「【0003】 【発明が解決しようとする課題】・・・(中略)・・・一般的に、電機子鉄心は、鋼板にカシメを設けて積層しているが、歯が小型に作られているため、カシメを設けると磁束の通りが悪くなり、性能が低下する恐れがあった。」 (ウ)「【0005】本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、コギングトルクの発生を防ぎながら性能を向上させ得るモータを提供することにある。」 (エ)「【0011】 【発明の実施の形態】以下、本発明の第1実施形態に係るモータについて図を参照して説明する。図1(A)は、第1実施形態の電気式動力舵取装置に用いられるモータの断面を示し、図1(B)は、図1(A)中の電機子鉄心のB-B断面を示している。該モータ10は、回転子20と固定子30とから構成され、回転子20は、シャフト22の外周に4個の永久磁石24を配設して成る。固定子30は、電機子鉄心32の歯32aに、コイル34を巻回して成る。」 (オ)「【0013】電機子鉄心32は次のように製造される。先ず、電機子鉄心の図示形状に対応する通孔を設けた型の上に、珪素鋼板を載置して打ち抜き、この打ち抜きと同時にカシメ36を形成し、型の通孔内に鋼板に重ねて行くことで製造される。」 (カ)「【0016】即ち、極数P、電機子溝数Sのモータにおいて、電機子鉄心の歯32aに等間隔で設けられるカシメの数Nを、下式で表される数にすることで、カシメのある歯とない歯とのアンバランスに起因するコギングトルクの発生を防ぐことができる。 【数1】 N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/P」 (キ)「【0018】例えば、第1実施形態のモータは、極数Pが4極、電機子溝数Sが12溝であるため、4と12との最小公倍数である12を4で割った数3の整数倍である3,6,9であれば、コギングトルクを発生させることがない。この極数Pと電機子溝数Sと、コギングトルクを発生させないカシメの数Nとの関係を図2中に示す。」 (ク)「【0028】・・・(中略)・・・更に、図8(B)に示すように、溶接溝40を、N個設けることでも、溶接溝のアンバランスに起因するコギングトルクの発生を防ぐことができる。」 さらに、特に記載事項(エ)並びに図1(A)、7及び8(B)の記載からみて、モータはインナーロータ型であること、及び電機子鉄心は内周側に複数の歯および複数の溝が形成されていることが理解できる。 特に記載事項(オ)及び図1(B)からみて、電機子鉄心は、珪素鋼板を厚み方向に積層して構成されることが理解できる。 特に記載事項(ア)及び(ク)並びに図8(B)の記載からみて、電機子鉄心のバックヨークの外周側に複数の溶接溝が等間隔で設けられること、及び該複数の溶接溝のうち少なくとも1つが前記電機子鉄心の前記歯に対応する箇所に設けられることが理解できる。 (1-2)そうすると、これらの記載からみて、刊行物1には、本件特許発明に倣って整理すれば、次の発明が記載されていると認められる。 「インナーロータ型であるモータの電機子鉄心であって、 内周側に複数の溝および複数の歯が形成され、バックヨークの外周側に複数の溶接溝が等間隔で設けられ、 珪素鋼板を厚み方向に積層して構成され、該電機子鉄心の形状に対応する通孔を設けた型の上に、珪素鋼板を載置して打ち抜き、型の通孔内に鋼板に重ねて行くことで製造され、 前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、 P=4,S=12,N=3、 P=4,S=12,N=6、又は P=4,S=12,N=9、 の組合せを含む、 N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/P である、 電機子鉄心。」(以下、「引用発明1」という。) 「インナーロータ型であるモータの電機子鉄心であって、 内周側に複数の溝および複数の歯が形成され、バックヨークの外周側に複数の溶接溝が等間隔で設けられ、 珪素鋼板を厚み方向に積層して構成され、該電機子鉄心の形状に対応する通孔を設けた型の上に、珪素鋼板を載置して打ち抜き、型の通孔内に鋼板に重ねて行くことで製造され、 前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、 P=4,S=12,N=3、 P=4,S=12,N=6、又は P=4,S=12,N=9、 の組合せを含む、 N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/P である電機子鉄心の前記歯に、コイルを巻回して成る固定子と、 シャフトの外周に永久磁石を配設して成る回転子と、 から構成されるモータ。」(以下、「引用発明2」という。) (2)甲第2号証 甲第2号証には、図面とともに、次の記載がある。 (ケ)「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかしながら、かしめ結合した固定子積層鉄心においては、真直度や上下面の平面度には優れるものの、かしめ結合はかしめ突起をかしめ凹部に嵌入させてかしめるので、隣接する鉄心片間に微小な隙間が生じる。この隙間は例えば鉄心にコイルを巻回した後のコイルエンド成型工程において、コイルエンドに所定の加圧力を付加して成型を行う際にスプリングと同様の働き(以下、「スプリングバック」と称す)をして加圧力を低減させるため、コイルエンドが所定の形状に成型されなかったり、仕様の寸法範囲より外れてしまう問題がある。また、かしめ結合においては、鉄心片の厚みが薄いものをかしめ結合のみで接合する場合に、かしめ深さを深くできないと結合力が弱くなり、組み立て後に鉄心片が分解する恐れがあった。この傾向は鉄心片の厚みが薄くかつ直径が大きいものほど顕著である。 一方、各鉄心片を溶接で接合した固定子積層鉄心においては、確実に各鉄心片が接合され、組み立て後に鉄心片が分解やばらける恐れがなく、また、かしめ結合よりスプリングバック量も小さい。しかしながら、溶接作業中の熱により鉄心に歪みが発生するため、かしめ結合と比較すると真直度が劣る。更に、鉄心の上下面に凹凸状のうねりを生じ、このうねりにより鉄心の上下間の高さが不均一となるため、例えばコイルエンドにレーシングを施す際にレーシング針と鉄心の上下端面とが干渉するという問題があった。」 (コ)「【0014】 請求項1?11記載の固定子積層鉄心は、固定子積層鉄心の上下部を除く部分の鉄心片を溶接接合し、固定子積層鉄心の上下部の鉄心片をかしめ結合のみによって連結積層しているので固定子積層鉄心の上下面に溶接による熱歪みが著しく減少する。また、固定子積層鉄心の主要部は溶接によって接合されているので、十分な強度を有する固定子積層鉄心を製造できる。」 (サ)「【0016】 図1(A)、(B)に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る固定子積層鉄心10は、多数枚の同一形状の薄板材からなる鉄心片(即ち、固定子鉄心片)11を積層して形成されたもので、この実施の形態では外側の円環状のヨーク13の半径方向内側に12個の磁極14を有している。各鉄心片11はそれぞれ複数枚の鉄心片11が積層された3つのセグメント鉄心15?17に分けられ、各セグメント鉄心15?17は、互いに120度ずつその回転位相を変えて転積されている。・・・(中略)・・・なお、各セグメント鉄心は同一厚みで、同一金型内で転積なしでかしめ結合されている。図1(A)において18はかしめ部を示す。 【0017】 各セグメント鉄心15?17はそれぞれ鉄心片11の打ち抜き時に金型内でかしめ結合されていると共に、固定子積層鉄心10の上下部を除く各鉄心片11は、円形の周囲に設けられた凹部の一例である円弧状の切欠き19内で溶接されて接合されている。なお、溶接による各鉄心片11の接合は、上側のセグメント鉄心15(即ち、最上部に位置するセグメント鉄心)の上部21を除く部分、中央のセグメント鉄心16の全部、及び下側のセグメント鉄心17(最下部に位置するセグメント鉄心)の下部22を除く部分が、切欠き19内で行われた溶接によって接合されることにより行なわれている。」 そして、前記記載事項(サ)及び図1の記載から以下の事項が理解できる。 (シ)「かしめ部18を、磁極14と、隣り合う前記磁極14の間の前記円環状のヨーク13とに設けるとともに、円弧状の切欠き19を、一つおきの前記磁極14に対応する、前記円環状のヨーク13の外周側に設ける。」 (3)甲第3号証 甲第3号証には、図面とともに、次の記載がある。 (ス)「【0015】 固定子1は、極歯単位で円周方向に12分割して積層した鉄心1aと巻線1cとからなり、絶縁処理した各極歯に集中巻回した巻線1cを施した後、環状に分割面を接合して構成される(図2)。この鉄心1は極歯中央の外周に凹部1bを備えており、環状接合時の精度確保を容易にしている。その後、凹部1bおよび鉄心1の外周に伝熱部材6を塗布し、アルミ製のフレーム3を焼バメして固定子1の外周部に固定する。」 5.判断 (1)取消理由通知に記載した取消理由について ア 特許法第29条第1項について (ア)本件特許発明1について 本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「電機子鉄心」、「溝」及び「溶接溝」は、その構成及び機能からみて、それぞれ、本件特許発明1の「ステータコア」、「スロット」及び「溶接溝」に相当する。そして、本件特許発明1は、「前記ステータコアのスロット数をSとするとき、前記溶接溝の個数Nは、値(S/N×2)が奇数であり、かつその値がスロット数Sの約数のうちの2つの公倍数となるよう定められる」という事項を有するのに対し、引用発明1は、「前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、P=4,S=12,N=3、P=4,S=12,N=6、又はP=4,S=12,N=9の組合せを含む、N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pである」という事項を有する。 引用発明1の「前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、」「N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pである」ことを満たす、ステータコア(電機子鉄心)のスロット(溝)の数と前記溶接溝の数の組合せをみると、その少なくとも一部は本件特許発明1の「前記ステータコアのスロット数をSとするとき、前記溶接溝の個数Nは、値(S/N×2)が奇数であり、かつその値がスロット数Sの約数のうちの2つの公倍数となるよう定められる」ことを満たさないので、本件特許発明1の「前記ステータコアのスロット数をSとするとき、前記溶接溝の個数Nは、値(S/N×2)が奇数であり、かつその値がスロット数Sの約数のうちの2つの公倍数となるよう定められる」ことと、引用発明1の「前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pである」こととは、同一とはいえない。 さらに、引用発明1において具体的に特定された、前記モータの極数、前記ステータコアの前記スロットの数及び前記溶接溝の数の組合せである「前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、P=4,S=12,N=3、P=4,S=12,N=6、又はP=4,S=12,N=9」も、本件特許発明1の「前記ステータコアのスロット数をSとするとき、前記溶接溝の個数Nは、値(S/N×2)が奇数であり、かつその値がスロット数Sの約数のうちの2つの公倍数となるよう定められる」ことを満たさない。 そうすると、本件特許発明1は甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 (イ)本件特許発明2について 本件特許発明2と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「電機子鉄心」及び「溶接溝」は、その構成及び機能からみて、それぞれ、本件特許発明2の「ステータコア」及び「溶接溝」に相当する。そして、本件特許発明2は、「それぞれの外周側に実質的に等間隔に配置されるN個(Nは偶数の整数)の溶接溝を有し、」「前記N個の溶接溝のうち奇数番目のそれらにおいて前記複数の鉄心片を固着したときの前記ステータコアの内径の角度方向の分布と、前記N個の溶接溝のうち偶数番目のそれらにおいて前記複数の鉄心片を固着したときの前記ステータコアの内径の角度方向の分布とは、ある真円の径を基準として極性を反転した関係にある」という事項を有するのに対し、引用発明1は、「バックヨークの外周側に複数の溶接溝が等間隔で設けられ、」「前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、P=4,S=12,N=3、P=4,S=12,N=6、又はP=4,S=12,N=9の組合せを含む、N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pである」という事項を有する。 本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の記載を参照すると、本件特許発明2において、前記N個(Nは偶数の整数)の溶接溝のうち奇数番目のそれらにおいて前記複数の鉄心片を固着したときの前記ステータコアの内径の角度方向の分布と、前記N個の溶接溝のうち偶数番目のそれらにおいて前記複数の鉄心片を固着したときの前記ステータコアの内径の角度方向の分布とが、ある真円の径を基準として極性を反転した関係になるためには、少なくとも、前記奇数番目の溶接溝と前記偶数番目の溶接溝と前記鉄心片の剛性が異なる箇所に配置される(例えば、一方がティースに対応する箇所に配置され、他方がスロットに対応する箇所に配置される。)ことが必要と認められる。 一方,引用発明1の「バックヨークの外周側に複数の溶接溝が等間隔で設けられ、」「前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、」「N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pである」ことを満たす、前記ステータコア(電機子鉄心)の前記溝(本件特許発明2の「スロット」に相当)の数と前記溶接溝の数の組合せの中には、前記溶接溝の数が前記スロット(溝)の数の約数であるものも含まれる。この場合、前記溶接溝の1つが、打ち抜かれた「珪素鋼板」(本件特許発明2の「鉄心片」に相当)の歯(本件特許発明2の「ティース」に相当)に対応する箇所に配置されると、残りの前記溶接溝も全て前記ティース(歯)に対応する箇所に配置されることとなる。したがって、引用発明1の「前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、」「N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pである」ことを満たす、前記ステータコア(電機子鉄心)の前記スロット(溝)の数と前記溶接溝の数の組合せの少なくとも一部は本件特許発明2の「前記N個の溶接溝のうち奇数番目のそれらにおいて前記複数の鉄心片を固着したときの前記ステータコアの内径の角度方向の分布と、前記N個の溶接溝のうち偶数番目のそれらにおいて前記複数の鉄心片を固着したときの前記ステータコアの内径の角度方向の分布とは、ある真円の径を基準として極性を反転した関係にある」ことを満たさないので、本件特許発明2の「それぞれの外周側に実質的に等間隔に配置されるN個(Nは偶数の整数)の溶接溝を有し、」「前記N個の溶接溝のうち奇数番目のそれらにおいて前記複数の鉄心片を固着したときの前記ステータコアの内径の角度方向の分布と、前記N個の溶接溝のうち偶数番目のそれらにおいて前記複数の鉄心片を固着したときの前記ステータコアの内径の角度方向の分布とは、ある真円の径を基準として極性を反転した関係にある」ことと、引用発明1の「バックヨークの外周側に複数の溶接溝が等間隔で設けられ、」「前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pである」こととは、同一とはいえない。 さらに、引用発明1において具体的に特定された、前記モータの極数、前記ステータコアの前記スロットの数及び前記溶接溝の数の組合せである「前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、P=4,S=12,N=3、P=4,S=12,N=6、又はP=4,S=12,N=9」も、3及び6は12の約数であり、またN=9の場合も前記溶接溝の配置からみて、本件特許発明2の「それぞれの外周側に実質的に等間隔に配置されるN個(Nは偶数の整数)の溶接溝を有し、」「前記N個の溶接溝のうち奇数番目のそれらにおいて前記複数の鉄心片を固着したときの前記ステータコアの内径の角度方向の分布と、前記N個の溶接溝のうち偶数番目のそれらにおいて前記複数の鉄心片を固着したときの前記ステータコアの内径の角度方向の分布とは、ある真円の径を基準として極性を反転した関係にある」ことを満たさない。 そうすると、本件特許発明2は甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 (ウ)本件特許発明3ないし5及び9について 本件特許発明3ないし5は、本件特許発明1又は2を減縮したものであり、本件特許発明1又は2と同様の理由で、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 また、本件特許発明9を特定する事項は、本件特許発明1を特定する事項又は本件特許発明2を特定する事項の全てを含む。そうすると、前記「5.(1)ア(ア)、(イ)」で検討した理由と同様の理由により、本件特許発明9と引用発明2は同一ではないから、本件特許発明9は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 イ 特許法第29条第2項について (ア)本件特許発明8について 本件特許発明8は、本件特許発明1又は2を減縮したものであるから、前記「5.(1)ア(ア)、(イ)」で検討したとおり、本件特許発明8と引用発明1とを対比すると、両者は、前者が「前記ステータコアのスロット数をSとするとき、前記溶接溝の個数Nは、値(S/N×2)が奇数であり、かつその値がスロット数Sの約数のうちの2つの公倍数となるよう定められる」のに対し、後者は「バックヨークの外周側に複数の溶接溝が等間隔で設けられ、」「前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、P=4,S=12,N=3、P=4,S=12,N=6、又はP=4,S=12,N=9の組合せを含む、N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pである」点(以下、「相違点1」という。)、又は前者が「それぞれの外周側に実質的に等間隔に配置されるN個(Nは偶数の整数)の溶接溝を有し、」「前記N個の溶接溝のうち奇数番目のそれらにおいて前記複数の鉄心片を固着したときの前記ステータコアの内径の角度方向の分布と、前記N個の溶接溝のうち偶数番目のそれらにおいて前記複数の鉄心片を固着したときの前記ステータコアの内径の角度方向の分布とは、ある真円の径を基準として極性を反転した関係にある」のに対し、後者は「バックヨークの外周側に複数の溶接溝が等間隔で設けられ、」「前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、P=4,S=12,N=3、P=4,S=12,N=6、又はP=4,S=12,N=9の組合せを含む、N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pである」点(以下、「相違点2」という。)で少なくとも相違する。 そして、前記相違点1又は2に係る、本件特許発明8を特定する事項は、甲第3号証には記載されておらず、周知でもない。したがって、本件特許発明8は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (イ)本件特許発明9について 本件特許発明9を特定する事項は、本件特許発明1又は2を特定する事項の全てを含むから、前記「5.(1)ア(ア)?(ウ)」で検討したように、本件特許発明9と引用発明2とを対比すると、両者は、少なくとも、前者のステータコアと後者のステータコア(電機子鉄心)が前記相違点1又は2で相違する。 そして、前記相違点1又は2に係る、本件特許発明9を特定する事項は、甲第3号証には記載されておらず、周知でもない。したがって、本件特許発明9は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について ア 特許法第29条第2項について (ア)本件特許発明1について 本件特許発明1と引用発明1を対比すると、前記「5.(1)ア(ア)」で検討したとおり、両者は、前記相違点1(前記「5.(1)イ(ア)」参照)で相違する。 そして、甲第1号証の記載全体をみても、引用発明1の「前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、」「N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pである」ことを満たす、前記ステータコア(電機子鉄心)の前記スロット(溝)の数と前記溶接溝の数の複数の組合せの中から、本件特許発明1の「前記ステータコアのスロット数をSとするとき、前記溶接溝の個数Nは、値(S/N×2)が奇数であり、かつその値がスロット数Sの約数のうちの2つの公倍数となるよう定められる」ことを満たすものを選ぶことを開示又は示唆する記載はない。したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。 また、前記記載事項(シ)からみて、特許異議申立人が主張するように、甲第2号証の記載から、奇数番目のかしめ部18をティースに対応する箇所に、偶数番目のかしめ部18をスロットに対応する箇所に配置することが看取できるとはいえる。しかしながら、甲第2号証に記載された技術は、前記かしめ部18とは別に円弧状の切欠き19を設けるものであって、該円弧状の切欠き19は、その構成及び機能からみて、本件特許発明1の「溶接溝」に相当するものであり、さらに前記記載事項(ケ)及び(コ)を参酌すれば、甲第2号証における前記かしめ部18の配置を引用発明1における前記溶接溝の配置に適用することが当業者にとって容易であるとはいえない。そうすると、甲第2号証には、前記相違点1に係る、本件特許発明1を特定する事項が開示も示唆もされていないといえるから、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ)本件特許発明3について 本件特許発明3と引用発明1を対比すると、前記「5.(1)ア(ア)、(イ)」における検討を踏まえれば、前者は、「前記ステータコアのスロット数をSとするとき、前記溶接溝の個数Nは、値(S/N×2)が奇数であり、かつその値がスロット数Sの約数のうちの2つの公倍数となるよう定められる」もの又は「それぞれの外周側に実質的に等間隔に配置されるN個(Nは偶数の整数)の溶接溝を有し、」「前記N個の溶接溝のうち奇数番目のそれらにおいて前記複数の鉄心片を固着したときの前記ステータコアの内径の角度方向の分布と、前記N個の溶接溝のうち偶数番目のそれらにおいて前記複数の鉄心片を固着したときの前記ステータコアの内径の角度方向の分布とは、ある真円の径を基準として極性を反転した関係にある」ものであって、かつ「前記複数の溶接溝は、奇数番目のそれらが、ティースに対応する箇所に配置され、偶数番目のそれらがスロットに対応する箇所に配置される」のに対し、引用発明1は、「バックヨークの外周側に複数の溶接溝が等間隔で設けられ、」「前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、P=4,S=12,N=3、P=4,S=12,N=6、又はP=4,S=12,N=9の組合せを含む、N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pである」点で相違する。 前記「5.(2)ア(ア)」において検討したとおり、甲第2号証における前記かしめ部18の配置を引用発明1における前記溶接溝の配置に適用することが当業者にとって容易であるとはいえない。そうすると、甲第2号証には、前記相違点に係る、本件特許発明3を特定する事項が開示も示唆もされていないといえるから、本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)本件特許発明4ないし7について 本件特許発明4ないし7は、本件特許発明1又は2を減縮した発明である。 a.本件特許発明1を減縮した本件特許発明4ないし7は、本件特許発明1と同様の理由で、甲第1号証に記載された発明に基いて又は甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術に基いて,当業者が容易に発明することができたものではない。 b.本件特許発明2と引用発明1を対比すると、前記「5.(1)ア(イ)」で検討したとおり、両者は、前記相違点2(前記「5.(1)イ(ア)」参照)で相違する。 そして、前記「5.(1)ア(イ)」で検討したとおり、本件特許発明2において、前記N個(Nは偶数の整数)の溶接溝のうち奇数番目のそれらにおいて前記複数の鉄心片を固着したときの前記ステータコアの内径の角度方向の分布と、前記N個の溶接溝のうち偶数番目のそれらにおいて前記複数の鉄心片を固着したときの前記ステータコアの内径の角度方向の分布とが、ある真円の径を基準として極性を反転した関係になるためには、少なくとも、前記奇数番目の溶接溝と前記偶数番目の溶接溝と前記鉄心片の剛性が異なる箇所に配置される(例えば、一方がティースに対応する箇所に配置され、他方がスロットに対応する箇所に配置される。)ことが必要と認められる。しかしながら、甲第1号証の記載全体をみても、引用発明1の「前記モータの極数がP、前記電機子鉄心の溝数がS、前記溶接溝の数がNとするとき、」「N=n(整数)×(SとPとの最小公倍数)/Pである」ことを満たす、前記ステータコア(電機子鉄心)の前記スロット(溝)の数と前記溶接溝の数の複数の組合せの中から、奇数番目の溶接溝と偶数番目の溶接溝と前記鉄心片の剛性が異なる箇所に配置されるものを選ぶことを開示又は示唆する記載はない。したがって、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された引用発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。 更に、前記「5.(2)ア(ア)」において検討したとおり、甲第2号証における前記かしめ部18の配置を引用発明1における前記溶接溝の配置に適用することが当業者にとって容易であるとはいえない。そうすると、甲第2号証には、前記相違点2に係る、本件特許発明2を特定する事項が開示も示唆もされていないといえるから、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 そうすると、本件特許発明2を減縮した本件特許発明4ないし7は、本件特許発明2と同様の理由で、甲第1号証に記載された発明に基いて又は甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術に基いて,当業者が容易に発明することができたものではない。 (エ)本件特許発明8について 前記「5.(1)イ(ア)」で検討したとおり、本件特許発明8は、本件特許発明1又は2を減縮したものであって、本件特許発明8と引用発明1とを対比すると、両者は、前記相違点1又は2で少なくとも相違する。 そして、前記「5.(1)イ(ア)」及び「5.(2)ア(ア)、(ウ)b.」で検討したとおり、前記相違点1又は2に係る、本件特許発明8を特定する事項は、甲第1ないし3号証のいずれにも開示も示唆もされていない。 したがって、本件特許発明8は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2及び3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (オ)本件特許発明9について 前記「5.(1)イ(イ)」で検討したとおり、本件特許発明9を特定する事項は、本件特許発明1を特定する事項又は2を特定する事項の全てを含むから、本件特許発明9と引用発明2とを対比すると、両者は、少なくとも、前者のステータコアと後者のステータコア(電機子鉄心)が前記相違点1又は2で相違する。 そして、前記「5.(1)イ(ア)」及び「4.(2)ア(ア)、(ウ)b.」で検討したとおり、前記相違点1又は2に係る、本件特許発明9を特定する事項は、甲第1ないし3号証のいずれにも開示も示唆もされていない。 したがって、本件特許発明9は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 イ 特許法第36条第6項第2号について 請求項1の「前記ステータコアのスロット数をSとするとき、前記溶接溝の個数Nは、値(S/N×2)が奇数であり、かつその値がスロット数Sの約数のうちの2つの公倍数となるよう定められる」との記載(下線は、当審で付与した。)における「その値」が、直前に記載されている「値(S/N×2)」のことであることは、文理解釈からいって、更には本件特許明細書、特に段落0049の記載を参酌すれば明らかであるから、本件の請求項1及び同請求項を引用する請求項3ないし9に係る発明は、明確である。 したがって、特許異議申立人の「本件請求項1における「その値」が何を意味しているのか、また、「その値がスロット数Sの約数のうちの2つの公倍数となる」とは、どのような技術的意味を持つものであるのかが明確でない。」よって、本件請求項1、および、これを引用する請求項3-9に係る発明は、不明確であり、本件特許は、法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない。」との主張は理由がない。 6.むすび したがって、本件特許発明1ないし9に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。 また、ほかに本件特許発明1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-01-11 |
出願番号 | 特願2012-89109(P2012-89109) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(H02K)
P 1 651・ 537- Y (H02K) P 1 651・ 113- Y (H02K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 槻木澤 昌司 |
特許庁審判長 |
中川 真一 |
特許庁審判官 |
矢島 伸一 久保 竜一 |
登録日 | 2015-11-27 |
登録番号 | 特許第5844205号(P5844205) |
権利者 | 住友重機械工業株式会社 |
発明の名称 | ステータコアおよびそれを用いた回転電動機 |
代理人 | 三木 友由 |
代理人 | 富所 輝観夫 |
代理人 | 村田 雄祐 |
代理人 | 森下 賢樹 |