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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1323805
審判番号 無効2015-800204  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-11-09 
確定日 2017-01-06 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5134963号発明「テルミサルタンとアムロジピンを含む二層錠剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5134963号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5134963号(請求項の数15)は、平成17年10月29日(優先権主張2004年11月5日、欧州特許庁)を出願日とするものであり、平成24年11月16日に設定登録を受けた(以下、その特許を「本件特許」という。)ものである。
そして、本件特許を無効とすることについて、マイラン製薬株式会社(以下「請求人」という。)から本件審判の請求がされた。
本件審判の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成27年 11月 9日付け 審判請求書(請求人)
平成28年 1月18日付け 上申書(被請求人)
同年 4月 1日付け 答弁書及び訂正請求書(被請求人)
同年 5月17日付け 審理事項通知書
同年 6月21日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 7月 5日 第1回口頭審理
同年 7月12日付け 上申書(被請求人)
同年 7月15日付け 上申書(請求人)

第2 訂正請求
上記訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求の趣旨、及び、訂正の内容は、上記訂正請求書の記載によれば、それぞれ以下のとおりのものであると認める。

なお、上記審理事項通知書の「1.訂正について」において、本件訂正は適法である旨の審判合議体の暫定的な判断を示したところ、請求人は上記口頭審理陳述要領書2頁5-1.(ア)ア-1において「訂正は適法であるとの合議体の御見解に対し、格別異論はない。」と回答している。

1.請求の趣旨
特許第5134963号の特許請求の範囲を、本件請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求める。

(以下、特許第5134963号の明細書及び特許請求の範囲をあわせて「本件特許明細書」という。)

本件訂正前の請求項は、以下の1つの群からなる。
請求項2?5、7?9、11?14はそれぞれ請求項1を引用し、請求項6は請求項1を引用する請求項5を引用し、請求項10は請求項1を引用する請求項9を引用し、請求項15は請求項1を引用する請求項14を引用する、請求項1?15からなる一群。
すなわち、本件訂正前の請求項は、請求項1及び請求項1を直接的または間接的に引用する請求項2?15からなる一群の請求項である。

2.訂正の内容
本件訂正前の一群の請求項に係る訂正事項は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に「テルミサルタンを有する第1層」と記載されているのを、「40mgまたは80mgのテルミサルタンを有する第1層」に訂正し、本件訂正前の請求項11の事項を削除する。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項1に「アムロジピンを有する第2層」と記載されているのを、「5mgのアムロジピンを有する第2層」に訂正し、請求項12の事項を削除する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項8に「テルミサルタンを有する第1錠剤層組成物が、テルミサルタンと塩基性物質を含む水溶液を噴霧乾燥して噴霧乾燥造粒物を得、前記噴霧乾燥造粒物と水溶性希釈剤とを混合してプレミックスを得、前記プレミックスと滑沢剤とを混合して最終ブレンドを得ることにより製造される、請求項1記載の錠剤。」とあるのを、「テルミサルタンを有する第1錠剤層組成物を、テルミサルタンと塩基性物質を含む水溶液を含む水溶液を噴霧乾燥して噴霧乾燥造粒物を得、前記噴霧乾燥造粒物と水溶性希釈剤とを混合してプレミックスを得、前記プレミックスと滑沢剤とを混合して最終ブレンドを得ることにより製造することを含む、請求項1記載の錠剤を製造する方法。」に訂正する。
(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項10に「アムロジピンを有する第2錠剤層組成物が、直接圧縮、湿式造粒又はローラ圧縮プロセスによって製造される、請求項9記載の錠剤。」とあるのを、「アムロジピンを有する第2錠剤層組成物を、直接圧縮、湿式造粒又はローラ圧縮プロセスによって製造することを含む、請求項9記載の錠剤を製造する方法。」に訂正する。

3.訂正の適否の判断
(1)一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであることについて
上記1.で記載した一群の請求項についての本件訂正は、訂正前の一群の請求項である請求項1?15について、請求項1及び請求項1を直接的または間接的に引用する請求項2?10、13?15とするとともに、請求項11及び請求項12の事項を削除するものである。
そうすると、本件訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものといえる。
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第3項の規定に適合するものである。

(2)本件訂正の目的適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1
訂正事項1に係る訂正は、第1層に含まれるテルミサルタンの含有量に関する特定を有しない本件訂正前の請求項1を「40mgまたは80mgのテルミサルタンを有する第1層」に減縮し、かつ本件訂正前の請求項11の「第1層が、10-160mgのテルミサルタンを含有する、請求項1記載の錠剤。」を削除するものである。よって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】には「テルミサルタンの好ましい投与力価は、20mg、40mg、80mgであり」、及び「現在好ましい形態は、それぞれ20/10mg、40/10mg、80/10mg、20/5mg、40/5mg、80/5mg、20/2.5mg、40/2.5mg、80/2.5mgのテルミサルタンとアムロジピンを含む二層錠剤である。」と記載されており、製剤実施例として段落【0027】には「実施例 2: テルミサルタン 80 mg / アムロジピン 5 mgの2層錠剤」、段落【0030】には「実施例 5: テルミサルタン 40 mg / アムロジピン 5 mgの2層錠剤」について記載されている。そうすると、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえるから、すなわち新規事項を追加するものではないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するものである。
さらに、訂正事項1に係る訂正は、上記のとおり特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでなく、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に規定する要件に適合するものである。
イ 訂正事項2
訂正事項2に係る訂正は、第2層に含まれるアムロジピンの含有量に関する特定を有しない本件訂正前の請求項1を「5mgのアムロジピンを有する第2層」に減縮し、かつ本件訂正前の請求項12の「第2層が、1-20mgのアムロジピンを含有する、請求項1記載の錠剤。」を削除するものである。よって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】には「アムロジピンの好ましい投与力価は、2.5mg、5mg、10mgである。」、及び「現在好ましい形態は、それぞれ20/10mg、40/10mg、80/10mg、20/5mg、40/5mg、80/5mg、20/2.5mg、40/2.5mg、80/2.5mgのテルミサルタンとアムロジピンを含む二層錠剤である。」と記載されており、製剤実施例として段落【0027】には「実施例 2: テルミサルタン 80 mg / アムロジピン 5 mgの2層錠剤」、段落【0030】には「実施例 5: テルミサルタン 40 mg / アムロジピン 5 mgの2層錠剤」について記載されている。そうすると、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえるから、すなわち新規事項を追加するものではないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するものである。
さらに、訂正事項2に係る訂正は、上記のとおり特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでなく、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に規定する要件に適合するものである。
ウ 訂正事項3
(ア)本件訂正前の請求項8の記載は「?請求項1記載の錠剤。」であるから、本件訂正前の請求項8に係る発明の対象は「錠剤」という「物」であることは明らかである。そして、本件訂正前の請求項8には「テルミサルタンを有する第1錠剤層組成物が、テルミサルタンと塩基性物質を含む水溶液を噴霧乾燥して噴霧乾燥造粒物を得、前記噴霧乾燥造粒物と水溶性希釈剤とを混合してプレミックスを得、前記プレミックスと滑沢剤とを混合して最終ブレンドを得ることにより製造される」との製造方法に関する事項も記載されていることから、本件訂正前の請求項8に係る発明は製造方法によって特定される物の発明であるといえる。
ここで、「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である」(最高裁第二小法廷判決平成27年6月5日(平成24年(受)第1204号))と判示されている。
そこで、上記判示事項を踏まえて検討すると、本件訂正前の請求項8の製造方法に関する事項が記載されているから、「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがあるものである。 そして、訂正事項3に係る訂正は、「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがある本件訂正前の請求項8を、「テルミサルタンを有する第1錠剤層組成物を、テルミサルタンと塩基性物質を含む水溶液を含む水溶液を噴霧乾燥して噴霧乾燥造粒物を得、前記噴霧乾燥造粒物と水溶性希釈剤とを混合してプレミックスを得、前記プレミックスと滑沢剤とを混合して最終ブレンドを得ることにより製造することを含む、請求項1記載の錠剤を製造する方法。」として、請求項1記載の錠剤を製造する方法を特定する訂正であって、「発明が明確であること」という要件を満たすものである。
よって、当該訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(イ)また、本件の願書に添付した明細書の段落【0019】には、
「本発明の二層錠剤を製造する好ましい方法は、
(i) a)テルミサルタン、少なくとも1つの塩基性物質及び、任意に、可溶化剤及び/又は結晶化抑制剤の水溶液を調製する段階;
b)前記水溶液を噴霧乾燥して噴霧乾燥造粒物を得る段階;
c)前記噴霧乾燥造粒物と水溶性希釈剤とを混合してプレミックスを得る段階;
d)前記プレミックスと滑沢剤とを混合して第1層のための最終のブレンドを得る段階;
e)任意に、工程a)?d)のいずれかにおいて他の賦形剤及び/又は補助剤を添加する段階
によって第1錠剤層組成物を提供する工程;
(ii) a)-ミキサーで有効成分アムロジピン又はその薬学的に許容しうる塩、1以上の充填剤、流動調整剤及び崩壊剤及び/又は他の賦形剤をブレンドする段階;
-任意に混合物を篩によって乾式篩過して凝集性粒子を分離するとともに含量均一性を改善する段階;
-ミキサーで混合物と残りの賦形剤、例えば滑沢剤をブレンドして最終の組成物を得る段階を含む直接圧縮プロセス;
b)-ミキサーで有効成分アムロジピン又はその薬学的に許容しうる塩、1以上の充填剤、結合剤、崩壊剤及び任意に他の賦形剤をブレンドする段階;
-造粒液体、好ましくは水を添加することによって混合物を顆粒化する段階;
-顆粒を篩によって湿式篩過してより大きい集塊を分離する段階;
-流動床乾燥機又は真空棚型乾燥機において顆粒を乾燥する段階;
-任意に顆粒を篩によって乾式篩過して凝集性粒子を分離するとともに含量均一性を改善する段階;
-ミキサーで顆粒と残りの賦形剤、例えば1以上の滑沢剤をブレンドして最終組成物を得る段階
を含む湿式造粒プロセス;
c)-ミキサーで有効成分アムロジピン又はその薬学的に許容しうる塩と1以上の充填剤、1以上の崩壊剤、1以上の結合剤、1以上の流動調整剤及び1以上の滑沢剤の一部か又は賦形剤の全てとをブレンドする段階;
-混合物を適切なローラ圧縮機により圧縮する段階;
-前の段階で得られたリボンを適切なミリング又は篩分け段階によって小さな顆粒に小さくする段階;
-任意にミキサーで顆粒と残りの賦形剤をブレンドして最終組成物を得る段階
を含む乾式造粒プロセス
によって第2錠剤層組成物を準備する工程;
(iii)適切なタブレット成形機により段階(i)と(ii)からの第1と第2の錠剤層組成物を圧縮して二層錠剤を形成する工程
を含む。」
と記載されているから、訂正事項3は、本件の願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものである。
そうすると、訂正事項3に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものといえるから、すなわち新規事項を追加するものではないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するものである。
(ウ)特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項は、第1項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものである。
また、特許法第36条第4項第1号の規定により委任された特許法施行規則の第24条の2には、「特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定されているから、本件訂正前の請求項8に係る発明と本件訂正後の請求項8に係る発明において、発明が解決しようとする課題及びその解決手段が、実質的に変更されたものか否かにより、本件訂正後の請求項8に係る発明の技術的意義が、本件訂正前の請求項8に係る発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更されたものであるか否かについて検討する。
訂正前の本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】の記載から、本件訂正前の請求項8に係る発明の課題は、薬理学的効力、十分な薬剤安定性及び信頼性が高く強力な製造方法の特徴を合わせる、ともに取り扱いが難しい化学化合物であるテルミサルタンとアムロジピンの経口多剤混合薬剤形を提供することであると認められる。
一方、訂正後の本件特許明細書の段落【0007】の記載から、本件訂正後の請求項8に係る発明の課題も、薬理学的効力、十分な薬剤安定性及び信頼性が高く強力な製造方法の特徴を合わせる、ともに取り扱いが難しい化学化合物であるテルミサルタンとアムロジピンの経口多剤混合薬剤形を提供することであると認められる。
してみると、本件訂正前の請求項8に係る発明と訂正後の請求項8に係る発明の課題には、何ら変更はなく、両者で課題解決手段も実質的な変更はない。
したがって、本件訂正後の請求項8に係る発明の技術的意義は、本件訂正前の請求項8に係る発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものではない。
次に、特許請求の範囲は、「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」が記載されたもの(特許法第36条第5項)である。 また、特許法第126条第6項は、第1項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものであって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、言い換えれば、訂正前の発明の「実施」に該当しないとされた行為が訂正後の発明の「実施」に該当する行為となる場合、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるため、そうした事態が生じないことを担保したものである。
以上を踏まえ、本件訂正前の請求項8に係る発明と本件訂正後の請求項8に係る発明において、それぞれの発明の「実施」に該当する行為の異同により、本件訂正後の請求項8に係る発明の「実施」に該当する行為が、本件訂正前の請求項8に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものであるか否かについて検討する。
特許法第2条第3項第1号に規定された「物の発明」(本件訂正前の請求項8に係る発明)及び第3号に規定された「物を生産する方法の発明」(本件訂正後の請求項8に係る発明)の実施について比較する。
「物の発明」の実施(第1号)とは、「その物の生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」であり、「物を生産する方法」の実施(第3号)とは、「その方法の使用をする行為」(第2号)のほか、その方法により生産した「物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」である。ここで、「物を生産する方法」の実施における「その方法の使用をする行為」とは、「その方法の使用により生産される物の生産をする行為」と解されることから、「物の発明」の実施における「その物の生産」をする行為に相当する。
すると、「物の発明」の実施においては、物の生産方法を特定するものではないのに対して、「物を生産する方法の発明」の実施においては、物の生産方法を「その方法」に特定している点で相違するが、その実施行為の各態様については、全て対応するものである。
そして、本件訂正前の請求項8に係る発明は、「テルミサルタンを有する第1錠剤層組成物が、テルミサルタンと塩基性物質を含む水溶液を噴霧乾燥して噴霧乾燥造粒物を得、前記噴霧乾燥造粒物と水溶性希釈剤とを混合してプレミックスを得、前記プレミックスと滑沢剤とを混合して最終ブレンドを得ることにより製造される」という製造方法(以下「特定の製造方法」という)により「錠剤」という物が特定された「物の発明」であるから、前記特定の製造方法により製造された「錠剤」に加え、前記特定の製造方法により製造された「錠剤」と同一の構造・特性を有する物も、特許発明の実施に含むものである。
一方、本件訂正後の請求項8に係る発明は、上記特定の製造方法により「錠剤」という方法が特定された「物を生産する方法の発明」であるから、前記特定の製造方法により製造された「錠剤」を、特許発明の実施に含むものである。
したがって、本件訂正後の請求項8に係る発明の「実施」に該当する行為は、本件訂正前の請求項8に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはないから、本件訂正前の請求項8に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえない。
以上より、本件訂正後の請求項8に係る発明の技術的意義は、本件訂正前の請求項8に係る発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものではなく、本件訂正後の請求項8に係る発明の「実施」に該当する行為は、本件訂正前の請求項8に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえないから、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項4
本件訂正前の請求項10の記載は「?請求項9記載の錠剤。」であるから、本件訂正前の請求項10に係る発明の対象は「錠剤」という「物」であることは明らかである。そして、本件訂正前の請求項10には「アムロジピンを有する第2錠剤層組成物が、直接圧縮、湿式造粒又はローラ圧縮プロセスによって製造される」との製造方法に関する事項も記載されていることから、本件訂正前の請求項10に係る発明は製造方法によって特定される物の発明であるといえる。
そして、上記ウ(ア)で既述の理由と同様の理由から、訂正事項4に係る訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
また、本件の願書に添付した明細書の段落【0022】には、「アムロジピンを含む第2錠剤層組成物を準備するために、数種の異なる製造法、例えば、直接圧縮、湿式造粒又はローラ圧縮プロセスを使用し得る。」と記載されていることから、上記ウ(イ)で既述の理由と同様の理由から、訂正事項4に係る訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえ、すなわち新規事項を追加するものではないといえるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するものである。
さらに、上記ウ(ウ)で既述の理由と同様の理由から、訂正事項4は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(3)独立特許要件
本件特許無効審判においては、全ての請求項が無効審判の請求の対象とされているので、本件訂正に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する第126条第7項の規定(独立特許要件)が適用される請求項はない。

(4)むすび
(1)?(3)に述べたとおり、上記一群の請求項についての訂正請求書による本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第3号または第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第4?6項に規定する要件に適合するものであるので、当該訂正を認める。

第3 本件発明
上記のとおり訂正が認容されたので、本件特許第5134963号の請求項に係る発明は、平成28年4月1日付け訂正請求書により訂正された特許請求の範囲の請求項1?10、13?15に記載される事項により特定されるとおりのものである(以下、訂正後の請求項1?10、13?15に係る各発明をそれぞれの請求項の番号に対応させて、「本件発明1」?「本件発明10」、「本件発明13」?「本件発明15」あるいは、これら各請求項に係る発明をまとめて単に「本件発明」ともいうことがある。)また、上記本件訂正は特許請求の範囲についてのみなされたものであるから、本件明細書の特許請求の範囲以外の記載部分については本件特許公報を参照する。

「 【請求項1】
水溶性希釈剤及び塩基性物質を含む溶解性錠剤マトリックス中に40mgまたは80mgのテルミサルタンを有する第1層と崩壊性又は浸食性錠剤マトリックス中に5mgのアムロジピンを有する第2層を含む医薬錠剤。
【請求項2】
テルミサルタンがアモルファスな形態にある、請求項1記載の錠剤。
【請求項3】
溶解性錠剤マトリックスが即放性特性を有する、請求項1記載の錠剤。
【請求項4】
塩基性物質が、アルカリ金属水酸化物、塩基性アミノ酸及びメグルミンより選ばれる、請求項1記載の錠剤。
【請求項5】
水溶性希釈剤が、単糖類; オリゴ糖類; 及び糖アルコールより選ばれる、請求項1記載の錠剤。
【請求項6】
水溶性希釈剤が、グルコース; スクロース、ラクトース; ソルビトール、マンニトール、又はキシリトールである、請求項5記載の錠剤。
【請求項7】
溶解性錠剤マトリックスが、結合剤、担体、充填剤、滑沢剤、流動調整剤、結晶化抑制剤、可溶化剤、着色剤、pH調整剤、界面活性剤及び乳化剤より選ばれる他の賦形剤及び補助剤をさらに含む、請求項1記載の錠剤。
【請求項8】
テルミサルタンを有する第1錠剤層組成物を、テルミサルタンと塩基性物質を含む水溶液を噴霧乾燥して噴霧乾燥造粒物を得、前記噴霧乾燥造粒物と水溶性希釈剤とを混合してプレミックスを得、前記プレミックスと滑沢剤とを混合して最終ブレンドを得ることにより製造することを含む、請求項1記載の錠剤を製造する方法。
【請求項9】
第2層の崩壊性又は浸食性錠剤マトリックスが、1以上の充填剤、崩壊剤、滑沢剤及び、任意に、結合剤、流動調整剤又は他の賦形剤及び補助剤を含む、請求項1記載の錠剤。
【請求項10】
アムロジピンを有する第2錠剤層組成物を、直接圧縮、湿式造粒又はローラ圧縮プロセスによって製造することを含む、請求項9記載の錠剤を製造する方法。
【請求項11】 (削除)
【請求項12】 (削除)
【請求項13】
耐湿性包装材料に包装された、請求項1記載の錠剤。
【請求項14】
高血圧症を、単独で、又は、慢性安定狭心症、血管痙攣狭心症、脳卒中、心筋梗塞、一過性脳虚血発作、うっ血性心不全、心臓血管疾患、糖尿病、インスリン抵抗、グルコース寛容減損、糖尿病前期、2型糖尿病、糖尿病性腎障害、代謝性症候群(X症候群)、肥満、異脂肪血症、過トリグリセリド血症、C反応性タンパク質の高血清濃度、リポタンパク(a)の高血清濃度、ホモシステインの高血清濃度、低密度リポタンパク質(LDL)-コレステロールの高血清濃度、リポタンパク関連のホスホリパーゼ(A2)の高血清濃度、高密度リポタンパク質(HDL)-コレステロールの低血清濃度、HDL(2b)-コレステロールの低血清濃度、アジポネクチンの低血清濃度、認識衰退及び痴呆からなる群より選ばれる症状の治療又は予防と組み合わせて、治療するための請求項1記載の錠剤の製造方法。
【請求項15】
治療又は予防される症状が慢性安定狭心症、血管痙攣狭心症、脳卒中、心筋梗塞、うっ血性心不全、糖尿病、異脂肪血症又は痴呆である、請求項14記載の方法。」

第4 当事者の主張、及び、提出した証拠方法
1.請求人の主張する無効理由、及び、提出した証拠方法
請求人が提出した上記の、審判請求書、口頭審理陳述要領書及び上申書によれば、請求人は、「特許第5134963号発明の特許請求の範囲の請求項1乃至15に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求めている。そして、上記の3通の提出書類及び調書の陳述の要領の記載によれば、請求人は、訂正後の本件特許発明にかかる本件特許は、以下の無効理由1、及び無効理由2により、無効とされるべきであると主張しており、証拠方法として下記の書証を提出している。
なお、被請求人による訂正請求に伴い、口頭審理陳述要領書において請求人は無効理由3を撤回した。また、請求人は、訂正後の請求項8、10、14及び15に対する無効理由2についても主張しないとした。

無効理由1
本件特許の訂正後の請求項1?10、13?15に係る各特許発明は、甲第1号証乃至甲第7号証、甲第11号証、甲第14号証、及び甲第15号証、並びに甲第8号証及び甲第9号証に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

無効理由2
本件特許の訂正後の請求項1?7、9、13に係る各特許発明は、甲第10号証、甲第1号証、甲第2号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第11号証、甲第14号証、及び甲第15号証、並びに甲第12号証及び甲第13号証に記載された周知技術及び甲第8号証、甲第9号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(証拠方法)
甲第1号証:国際公開第2003/059327号
甲第2号証:Journal of Clinical Pharmacology,2000,Vol.40,No.12,p.1347-1354:2000年発行
甲第3号証:特開2003-231634号公報
甲第4号証:特表2002-520274号公報
甲第5号証の1:Pharmaceutical Development and Technology,2004,Vol.9,No.1,p.15-24:2004年2月発行
甲第5号証の2:Researchgate.netの甲第5号証の1の掲載ページ
甲第6号証:国際公開第2004/028505号
甲第7号証:特開昭62-240660号公報
甲第8号証:特表2002-535315号公報
甲第9号証:国際公開第2004/062729号
甲第10号証:Micardis(登録商標)(テルミサルタン)錠20mg、40mg、及び80mgインタビューフォーム、2003年11月5日改訂
甲第11号証:国際公開第2004/067003号
甲第12号証:The Theory and Practice of Industrial Pharmacy,Third Edition,p.330-331:1986年発行
甲第13号証:Modern Pharmaceutics,Second Edition,Marcel Dekker,INC.p.398:1990年発行
甲第14号証:米国特許第6071939号明細書
甲第15号証:医学と薬学、47巻5号、753?756頁:2002年発行
<以上、審判請求書に添付。>

甲第16号証:特開2003-048852号公報
甲第17号証:特許第3057471号公報
甲第18号証:医療薬 日本医薬品集 2004 株式会社じほう発行 135頁、1394?1395頁:2003年10月25日発行
甲第19号証:医薬品インタビューフォーム ミコンビ(登録商標)(テルミサルタン/ヒドロクロロチアジド)配合錠1頁:2015年4月改訂
甲第20号証:医薬品インタビューフォーム ミカルディス(登録商標)(テルミサルタン)錠4、6、14、44頁:2015年4月(改訂第20版)
甲第21号証:Micardis HCTのFDA承認情報,CenterWatchのHP(http://www.centerwatch.com/)より得た結果を平成28年6月17日に印字したものhttp://www.centerwatch.com/drug-information/fda-approved-drugs/drug/654/micardis-hct-telmisartan-and-hydrochlorothiazide/
甲第22号証:薬理と治療、Vol.30 supplement p.S209-S218、S231-S234:2002年発行
甲第23号証:薬剤学 理論・応用 薬剤学体系I 廣川書店 70頁:昭和53年4月15日発行
甲第24号証:薬科学大辞典 第2版 廣川書店 849頁 「多層錠」の項:平成5年4月5日発行
<以上、口頭審理陳述要領書に添付。>

2.被請求人の主張、及び、提出した証拠方法
被請求人が提出した答弁書によれば、被請求人は、「請求のとおり訂正を認める、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、本件特許には、上記無効理由は存在しない点を主張し、証拠方法として、乙第1?14号証を提出している。
なお、被請求人が口頭審理陳述要領書とともに証拠方法として提出していた乙第15号証は、被請求人により取下げられた(第1回口頭審理調書)。

(証拠方法)
乙第1号証:Journal of Clinical Pharmacology,2000,Vol.40,No.12,p.1347-1354:2000年発行
乙第2号証:Pharmaceutical Development and Technology,2004,Vol.9,No.1,p.15-24:2004年2月発行
乙第3号証:医薬品インタビューフォーム ミカルディス(登録商標)(テルミサルタン)錠13頁:2015年4月(改訂第20版)
乙第4号証:ミカルディス(登録商標)錠13の資料(Scientific Discussion 4頁 URL:http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/EPAR_-_Scientific_Discussion/human/000209/WC500027637.pdf):2005年
乙第5号証:最新 薬剤学 第8版3刷 廣川書店 220?222頁:平成16年3月15日
乙第6号証:The Theory and Practice of Industrial Pharmacy,Third Edition,p.330-331:1986年発行
乙第7号証:Modern Pharmaceutics,Second Edition,Marcel Dekker,INC.,p.398:1990年発行
<以上、答弁書に添付。>

乙第8号証:製剤の達人による製剤技術の伝承・上巻 経口投与製剤の製剤設計と製造法 株式会社じほう、4?9頁:平成25年5月20日発行
乙第9号証:ミクス薬学シリーズ4 製剤学(改訂版)、エルゼビア・サイエンス株式会社 ミクス、26?31頁:2002年3月29日
乙第10号証:製剤の達人による製剤技術の伝承・上巻 経口投与製剤の製剤設計と製造法 株式会社じほう、344?354頁:平成25年5月20日発行
乙第11号証:International Journal of Pharmaceutical Sciences and Research,2011,Vol.2,No.10,2534-2544:2011年発行
乙第12号証:International Journal of PharmaTech Research,Sep-Oct 2014,Vol.6,No.5,p.1416-1428:2014年発行
乙第13号証:製剤の達人による製剤技術の伝承・上巻 経口投与製剤の製剤設計と製造法 株式会社じほう、35?37頁:平成25年5月20日発行
乙第14号証:欧州特許第1814528号に対する通知書(申立書、特許維持決定)
<以上、口頭審理陳述要領書に添付。>

参考資料1:乙第14号証 2?7頁の訳文
参考資料2:欧州特許庁異議部によるPreparation for oral proceedingsとAnnex 1
参考資料3:医薬品インタビューフォーム ミカルディス(登録商標)(テルミサルタン)錠 3?5、39頁:2015年4月(改訂第20版)
<以上、平成28年7月12日付け上申書に添付。>

以下、書証は、その証拠番号により、甲第1号証を「甲1」、乙第1号証を「乙1」などという。

第5 無効理由1についての当審の判断

請求人の主張する無効理由1は、本件特許の訂正後の請求項1?10、13?15に係る各特許発明は、甲第1号証乃至甲第7号証、甲第11号証、甲第14号証、及び甲第15号証、並びに甲第8号証及び甲第9号証に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである、
というものである(調書、審判請求書「第3」I.(19頁)及び口頭審理陳述要領書5-1.(ア)ア-1及びア-2(1)(2?4頁)参照。)。
無効理由1の対象とされる訂正後の請求項1?10、13?15に係る発明を、以下、第3で記載したとおり、それぞれ、本件発明1?10、13?15ともいい、「第5」において、これらをまとめて、「本件発明」ということもある。

そして、本件発明は、以下の理由により、無効理由1によって無効にすべきとは判断できない。

1.証拠方法の記載事項
各証拠方法には、以下の記載がある。
(1)甲第1号証(甲1)の記載
甲1は英語の文献であるので、以下、合議体が請求人による訳文を参考にして訳出した。
(1a) (1頁「Field of invention」の項、対応する特表2005-514439号公報の段落【0001】)
「発明の分野
本発明は、アンギオテンシンII受容体拮抗剤テルミサルタンをヒドロクロロチアジド(HCTZ)のような利尿剤と組合わせて含有する二層医薬錠剤の配合剤に関する。本発明は、また、前記二層錠剤の製法を提供する。」

(1b) (2頁1行?5頁4段落目、対応する特表2005-514439号公報の段落【0004】?【0010】)
「 ヒドロクロロチアジド(HCTZ)は、チアジド利尿剤であり、浮腫や高血圧症の治療に経口投与される。
HCTZの化学名は、下記構造

を有する6-クロロ-3,4-ジヒドロ-2H-1,2,4-ベンゾチアジアジン-7-スルホンアミド-1,1-ジオキシドである。
発明の目的
テルミサルタンとHCTZのような利尿剤との併用治療は、高血圧症の治療に相乗的な治療効果を示すと考えられる。
それ故、本発明の目的は、テルミサルタンとHCTCのような利尿剤とを含有する一定用量の併用薬剤であって、前記併用薬剤が、必要とされる急速溶解と即効性薬剤放出プロファイルが十分な安定性と組合わされている、前記薬剤を提供することであった。
一般的には、即効性放出が企図された薬剤の一定用量の併用はそれらの2つの有効成分の粉末混合物又は共顆粒を必要な賦形剤と製造し、通常は対応する単一薬剤調製物の塩基性配合剤を保存し、第二薬剤成分を簡単に添加することにより調製される。
テルミサルタンとHCTZの併用においては、HCTZと従来のテルミサルタン配合剤の一成分である塩基性化合物、例えば、メグルミン(N-メチル-D-グルカミン)とが不適合であり、且つ崩壊性錠剤からの溶解と比べて溶解性マトリックスからHCTZの溶解速度が遅いために、この方法は実行可能でなかった。
不適合性の問題を克服するためにいくつかのガレヌス法が探究された。古典的な方法は、流動床造粒機中のHCTZ粒子をヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はポリビニルピロリドンのような水溶性ポリマーを含有するポリマー溶液でコーティングし、よって混合や圧縮中にHCTZ粒子とテルミサルタン配合剤との接触表面積を減少させることである。しかし、これらの手段によって所望の長時間寿命を十分得る程度まで圧縮錠剤においてHCTZとテルミサルタン配合剤との接触面積を減少させることは可能でなかった。
更に、テルミサルタン配合剤においてコーティングしたHCTZを含有する錠剤からのHCTZの溶解速度は、ポリマーのゲル形成特性のために更に低下した。
他の方法は、テルミサルタンとHCTZのための別個のフィルムコーティング錠剤をカプセルへ充填しうるようなサイズと形で製造することであった。テルミサルタンについては2つ?4つの単一の小錠剤へ、HCTZについては1つ又は2つの小錠剤へ用量を分割することにより、サイズ1?0の長さのカプセルに充填することができる。しかし、この方法においては、テルミサルタンの薬剤溶解速度は、大きなカプセルシェルの吸収待ち時間を引き起こすために単一の物質と比べて低下した。更に、患者のコンプライアンスに関して、ゼロ長さのカプセルは信頼できない。
発明の概要
本発明によれば、ここでテルミサルタンと利尿剤とを含有する一定用量の併用薬剤の調製において従来の方法に伴う上記問題がテルミサルタンを本質的にアモルファス形態で溶解性錠剤マトリックス中に含有する第一層と、利尿剤を崩壊性錠剤マトリックス中に含有する第二層とを含有する二層医薬錠剤によって克服することができることを見出した。
本発明の二層錠剤は、難水溶性テルミサルタンの溶解をほとんど非pH依存性にし、よって薬剤の生理的pHレベルでの溶解を容易にし、利尿剤の急速崩壊性マトリックスからの即効性放出も与える。同時に、二層錠剤構造はHCTZのような利尿剤とテルミサルタン配合剤の塩基性成分との不適合性に起因する安定性の問題を克服する。
更に、態様においては、本発明は、二層打錠技術の改善に関し、二層医薬錠剤の製造方法であって、
(i) 第一錠剤層組成物を供給する工程であって、
a) テルミサルタンと、少なくとも1種の塩基性物質と、任意により溶解剤(solubilizer)及び/又は結晶抑制剤との水溶液を調製する段階;
b) 前記水溶液を噴霧乾燥して噴霧乾燥した顆粒を得る段階;
c) 前記噴霧乾燥した顆粒と水溶性希釈剤とを混合してプレミックスを得る段階;
d) 前記プレミックスと滑沢剤とを混合して第一錠剤層のための最終混和物(ブレンド)を得る段階;
e) 任意により、a)?d)のいずれかの段階で他の賦形剤及び/又は補助剤を添加する段階
による、前記工程;
(ii) 第二錠剤層組成物を供給する工程であって、
f) 利尿剤と崩壊性錠剤マトリックスの成分と、任意により更に賦形剤及び/又は補助剤とを混合及び/又は造粒する段階;
g) 滑沢剤を混合して第二錠剤層のための最終混和物を得る段階
による、前記工程;
(iii) 第一錠剤層組成物又は第二錠剤層組成物のいずれかを錠剤圧縮機へ導入する工程;
(iv) 前記錠剤層組成物を圧縮して錠剤層を形成する工程;
(v) もう一方の錠剤層組成物を錠剤圧縮機へ導入する工程; 及び
(vi) 双方の錠剤層組成物を圧縮して二層錠剤を形成する工程
を含む、前記方法を提供する。
定義
本明細書で用いられる“本質的にアモルファス形態”という用語は、X線粉末回折測定によって求められるように少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の割合でアモルファス形態の成分を含有する生成物を意味する。
“溶解性錠剤マトリックス”という用語は、生理的水性媒体に容易に溶解する即効性放出(急速溶解)特性を有する医薬錠剤塩基配合剤を意味する。
“利尿剤”とは、ヒドロクロロチアジド(HCTZ)、クロパミド、キシパミド又はクロロタリドンのようなチアジドやチアジド類似利尿剤、又は高血圧症の治療に適したあらゆる他の利尿剤、例えば、フロセミドやピレタニド、又はアミロイドやトリアムテレンとのその組合わせを意味する。
“崩壊性錠剤マトリックス”という用語は、生理的水性媒体中で容易に膨潤し崩壊する即効性放出特性を有する医薬錠剤塩基配合剤を意味する。
好適実施態様の説明
本発明の二層錠剤は、テルミサルタンを本質的にアモルファス形態で溶解性錠剤マトリックス中に含有する第一層と、利尿剤を崩壊性錠剤マトリックス中に含有する第二層とを含んでいる。
活性成分テルミサルタンは、一般的には、その遊離酸の形で供給されるが、薬学的に許容しうる塩も用いることができる。続いての処理で、テルミサルタンは、通常は溶解され、本質的にアモルファス形態に変換され、その最初の結晶形態や粒子径は得られる二層錠剤配合剤の物理的性質と生物薬剤的性質にほとんど重要でない。しかしながら、更に処理で湿潤や溶解を容易にするために、例えば、篩過により出発物質から集合体を除去することが好ましい。
本質的にアモルファス形態のテルミサルタンは、当業者に既知の適切な方法、例えば、水溶液の凍結乾燥、流動床における担体粒子のコーティング、糖沈降物又は他の担体に対する溶媒沈着により製造することができる。しかしながら、好ましくは、本質的にアモルファス形態のテルミサルタンは後述される特定の噴霧乾燥法により調製される。」

(1c) (9頁2段落目、対応する特表2005-514439号公報の段落【0014】)
「 最適溶解/崩壊と薬剤放出特性については、本発明の二層錠剤を製造する特定の方法が開発されており、その方法は
(i) 第一錠剤層組成物を供給する工程であって、
a) テルミサルタンと、少なくとも1種の塩基性物質と、任意により溶解剤及び/又は結晶抑制剤との水溶液を調製する段階;
b) 前記水溶液を噴霧乾燥して噴霧乾燥した顆粒を得る段階;
c) 前記噴霧乾燥した顆粒と水溶性希釈剤とを混合してプレミックスを得る段階;
d) 前記プレミックスと滑沢剤とを混合して第一錠剤層のための最終混和物を得る段階;
e) 任意により、a)?d)のいずれかの段階で他の賦形剤及び/又は補助剤を添加する段階
による、前記工程;
(ii) 第二錠剤層組成物を供給する工程であって、
f) 利尿剤と崩壊性錠剤マトリックスの成分と、任意により更に賦形剤及び/又は補助剤とを混合及び/又は造粒する段階;
g) 滑沢剤を混合して第二錠剤層のための最終混和物を得る段階
による、前記工程;
(iii) 第一錠剤層組成物又は第二錠剤層組成物を錠剤圧縮機へ導入する工程;
(iv) 前記錠剤層組成物を圧縮して錠剤層を形成する工程;
(v) もう一方の錠剤層組成物を錠剤圧縮機へ導入する工程; 及び
(vi) 双方の錠剤層組成物を圧縮して二層錠剤を形成する工程
を含んでいる。」

(1d) (16頁1行?17頁最終行、対応する特表2005-514439号公報の段落【0025】?【0027】)
「実施例 3


製造:
製造は実施例2のように行なわれる。実施例2に記載される湿式造粒法の代りに、(09)?(13)を適切なフリーフォールブレンダ、例えば、1 m^(3)コンテナミキサで10 rpmの速度で200回転乾燥混合することにより第二層組成物を製造した。次に(08)を主混合物にコンテナミキサで更に50回混合した。着色顔料の均一な分布を得るために、イエロ酸化鉄と、8 mmメッシュスクリーンに手で篩過した後に主混合物に導入されるミクロクリスタリンセルロースの一部、例えば、2,000 kgとの予備混合を更に行なうことができる。得られた二層錠剤は、呈色以外は実施例2と同じ物理的特性を示す。

実施例4
テルミサルタン/ヒドロクロロチアジド二層錠剤の組成(mg/錠剤):

* 最終生成物中にはない」

(1e) (特許請求の範囲の請求項1?5)
「特許請求の範囲
【請求項1】
テルミサルタンを本質的にアモルファス形態で溶解性錠剤マトリックス中に含有する第一層と、利尿剤を崩壊性錠剤マトリックス中に含有する第二層とを含有する二層医薬錠剤。
【請求項2】
利尿剤が、ヒドロクロロチアジド、フロセミド、クロロタリドン、ピレタニド及びアミロリドの少なくとも1種より選ばれる、請求項1記載の二層医薬錠剤。
【請求項3】
利尿剤がヒドロクロロチアジドである、請求項2記載の二層医薬錠剤。
【請求項4】
溶解性錠剤マトリックスが即効性放出特性を有する、請求項1?3のいずれか1項に記載の二層医薬錠剤。
【請求項5】
溶解性錠剤マトリックスが、塩基性物質と、水溶性希釈剤と、任意により他の賦形剤や補助剤とを含有する、請求項1?4のいずれか1項に記載の二層医薬錠剤。」

(2)甲第2号証(甲2)の記載
甲2は英語の文献であるので、以下、合議体が請求人による訳文を参考にして訳出した。
(2a) (要旨)
「この本非盲検交差研究は、薬物動態及び安全性に基づいて、アンジオテンシンII拮抗薬であるテルミサルタンとクラスII(ジヒドロピリジン系)カルシウムチャネル拮抗薬であるアムロジピンとの相互作用を示す証拠の有無を確認するために行った。二元交差試験で、健常白人男性12名を、経口アムロジピン10mgと経口テルミサルタン120mgまたは経口アムロジピン10mgのみが1日1回9日間投与されるように無作為に割り付けた。13日間以上の休薬期間後、対象をもう一方の投薬レジメンに移行させた。単独投与の場合、アムロジピンの定常状態(9日目)における主要薬物動態パラメーターの幾何平均は、最大血漿中濃度(Cmax)17.7ng/mL、血漿中濃度-時間曲線の曲線下面積(AUC)331ng・時/mL、及び腎クリアランス39.5mL/分であり、総アムロジピン用量の8%が排泄された。テルミサルタンを併用投与した場合、各値は18.7ng/mL、352ng・時/mL及び43.0mL/分であり、総アムロジピン用量の9.4%が腎臓で排泄された。これらの定常状態パラメーターの比に関する90%信頼区間(CI)の限界は、Cmaxでは0.97?1.14、AUCでは0.98?1.16であり;いずれも、生物学的同等性に関する所定の基準範囲内(0.8?1.25)であった。アムロジピンの尿中排泄は対象間変動が大きいため、生物学的同等性は腎クリアランスについては証明されなかった。アムロジピンの単独投与またはアムロジピンとテルミサルタンとの併用投与のいずれであっても、有害作用はわずかしか認められず、強度が軽度?中等度であり、一過性であった。血圧以外の生命徴候及び臨床検査値は、いずれの投薬によっても影響されなかった。本研究の知見は、テルミサルタンの存在下でアムロジピンの主要薬物動態パラメーターに臨床的に有意な変動が認められないので、テルミサルタンとアムロジピンの併用投与が可能であること、及びこの併用の安全性がアムロジピン単独の安全性と同等であることを示している。」

(2b) (1348頁左欄3段落目)
「カルシウムチャネル遮断薬は、カルシウムイオンの細胞内への流入を防ぐことによって抗血圧作用を示す。これは、筋収縮に対するカルシウムの利用を減少させ、続いて末梢の血管抵抗の減少や血圧の減少を引き起こす。カルシウムチャネル遮断薬は、また心筋細胞に対して負イオンチャネル型の効果を有している。クラスII剤(すなわち、アムロジピンやニフェジピンなどのジヒドロピリジン系)は、クラスI剤(すなわち、ベラパミルなどのフェニルアルキルアミン類)よりも、心筋の血管系に対して優れた選択性を有している。」

(2c) (1349頁左欄「Study Design」の項)
「研究計画
本研究は、ヘリシンキ宣言の原則ならびにドイツ及び欧州共同体の適用される全ての規制要件に従って実施した。本研究の開始前に、医学倫理委員会の承認を得た。本研究は、非盲検であり、二元交差無作為計画の研究であった。対象は、第1の投薬量の投与の前日である研究施設入院の7?14日前にスクリーニングした。1日目から9日間、対象に、単一経口一日量の、5mg錠剤2錠として与えられるアムロジピン10mgまたはアムロジピン10mg+テルミサルタン120mg(80mg錠剤1錠+40mg錠剤1錠)のいずれかを投与した。投薬は無作為に割り付けた。錠剤は、監督下で水道水150mLと共に服用させ、40秒以内に嚥下させなければならなかった。対象は、研究の4日目の朝に第4の用量を投与されるまで研究施設にとどまり、設定された時間に標準化された食事を与えられた。その後、対象は、5日目、6日目、7日目及び8日目の朝に研究施設に戻った。8日目の版に、対象は施設に再入院し、10日目の朝の退院まで施設にとどまった。13日以上の休薬期間の後、対象をもう一方の投薬に切り替え、手順を繰り返した。第2の投薬期間の12日目または13日目のいずれかに、対象は検査のために施設に戻った。
本研究中、同時に行うことが許可されていた唯一の療法は、緊急目的または対症目的のものであった。重度の動脈性低血圧が発生した場合には、カテコールアミンを投与することとした。」

(2d) (1353頁右欄3段落目)
「当該研究の知見から、アムロジピンとテルミサルタンとの間で臨床的に関連のある相互作用の薬物動態上の証拠はなかった。単独で及びテルミサルタンとの組み合わせで与えられた時のアムロジピンの安全性プロファイルを監視することで、二つの抗高血圧症剤間に相互作用がないこと、及び組み合わせ薬療法に十分耐えうることを示している。また、この結果は、組み合わせで用いられる場合には、アムロジピン及びテルミサルタンともに、それぞれの薬剤の投与量を調整する必要なく、一日一回投与されることを示している。」

(3)甲第3号証(甲3)の記載


(3a) (特許請求の範囲の請求項1?6)
「 【請求項1】 a) バルサルタンもしくは薬学的に許容されるその塩の有効量を含む、固体経口剤形の全重量に対し35重量%以上の活性成分;および
b) 崩壊剤を2から20重量%含む、固体経口剤形の製造に適当な薬学的に許容される添加剤;を含有する、圧縮固体経口剤。
【請求項2】 活性成分が40から65重量%存在する、請求項1に記載の圧縮固体経口剤。
【請求項3】 活性成分が45から65重量%存在する、請求項1に記載の圧縮固体経口剤。
【請求項4】 活性成分が50重量%以上存在する、請求項1に記載の圧縮固体経口剤。
【請求項5】 バルサルタンが単位用量中で40mg、80mg、または160mg 存在する、請求項1に記載の圧縮固体経口剤。
【請求項6】 活性成分として、さらにヒドロクロロチアジド(HCTZ)を含む、請求項1に記載の圧縮固体経口剤。」

(3b) (明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】)
「【従来の技術】
アンジオテンシン II レセプターアンタゴニスト-バルサルタンは、鬱血性心不全処置に効果的であること、年齢、性別もしくは人種に関係なく血圧を降下させることが知られ、また、よく耐溶化されている。HCTZとの配合物は、高血圧の処置にも知られている。」

(3c) (明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】)
「【0012】
約6?60mgの用量範囲のヒドロクロロチアジドと配合する約10?250mgの用量範囲のバルサルタンもしくは薬学的に許容されるその塩が高血圧のより効果的な処置として適切であることが判明した。これらの用量範囲で配合活性成分を用いると、バルサルタンだけを単一治療(monotherapy)で同じ用量範囲で使用するときよりも高血圧を正常レベルに下げる効果が高いことがわかった。さらには、ヒドロクロロチアジドをバルサルタンと組み合わせて投与すると、利尿作用は上記用量範囲における単一治療と比べてより効果的となる。特に適当であるのは、バルサルタンもしくは薬学的に許容されるその塩が約50?100mgならびにヒドロクロロチアジドが約10?30mgの用量範囲である。さらに好ましいのは、約80mgのバルサルタンと12.5mgもしくは25mgのヒドロクロロチアジドならびに160mgのバルサルタンと12.5mgもしくは25mgのヒドロクロロチアジドの単位用量である。ヒドロクロロチアジドに対するバルサルタンもしくは薬学的に許容されるその塩の重量比は、約1:6?約42:1、さらに好ましくは2:1?13:1、最も好ましくは2:1?10:1である。」

(3d) (明細書の発明の詳細な説明の段落【0027】)
「【0027】
活性成分の放出の量的コントロールは、当分野では既知である通常の技術によりなされ得る。そういった剤形は、oral osmotic systems(OROS)、被覆錠剤、マトリックス錠剤、圧縮被覆錠剤、多重層錠剤等として知られる。」

(4)甲第4号証(甲4)の記載
(4a) (特許請求の範囲の請求項1?3)
「 【請求項1】 高血圧、(急性および慢性)鬱血性心不全、左心室機能不全および肥大性心筋症、心筋梗塞およびその続発症、上室性および心室性不整脈、心房細動または心房粗動、アテローム性動脈硬化症、アンギナ(安定性であれ、不安定性であれ)、腎不全(糖尿病性および非糖尿病性)、心不全、狭心症、糖尿病、糖尿病患者の高血圧、NIDDMを有する患者の高血圧、2次アルドステロン症、1次および2次肺性アルドステロン症、1次および肺性高血圧、腎不全状態、糖尿病性腎障害、糸球体腎炎、硬皮症、糸球体硬化症、1次腎臓疾患の蛋白尿、腎臓血管性高血圧、糖尿病性網膜症、他の血管性疾患の管理、偏頭痛、レイノー病、管増殖、認識障害、アルツハイマー病および発作からなる群から選択される状態または疾患の処置または予防のための医薬の製造における、(i)AT_(1)レセプターアンタゴニストバルサルタンまたはその薬学的に許容される塩と(ii)カルシウムチャンネルブロッカーまたはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項2】 カルシウムチャンネルブロッカーが、代表してアムロジピン、フェロジピン、リオシジン、イスラジピン、ラシジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニグルジピン、ニルジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピンおよびニバルジピンからなる群から選択されるDHP、またはフルナリジン、プレニルアミン、ジルチアゼム、フェンジリン、ガロパミル、ミベフラジル、アニパミル、チアパミルおよびベラパミルからなる群から選択される非DHP、およびいずれの場合も薬学的に許容されるそれらの塩を成分(ii)として使用する
、請求項1記載の使用。
【請求項3】 アムロジピンまたはベラパミル、またはいずれの場合も薬学的に許容されるそれらの塩を成分(ii)として使用する、請求項1記載の使用。」

(4b) (明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】?【0015】)
「【0007】
アンギオテンシンIIは、標的細胞の特異的レセプターと相互作用する。例えば、AT_(1)-およびAT_(2)-レセプターと呼ぶレセプターのサブタイプに同定することが可能である。近年、AT_(1)-レセプターに結合する物質の同定に非常な努力が向けられている。このような活性成分はしばしばアンギオテンシンIIアンタゴニストと呼ばれる。AT_(1)-レセプターの阻害のために、このような拮抗作用は、例えば、抗高血圧剤として、または鬱血性心不全の処置に使用できる。
【0008】
アンギオテンシンIIアンタゴニストは、したがって、AT_(1)-レセプターサブタイプに結合するが、レセプターの活性化をもたらさない活性成分と理解されるべきである。
【0009】
長期化した未制御の高血圧性血管疾患は、最終的に心臓および腎臓のような標的臓器における種々の病理学的変化を導く。持続性高血圧は、脳卒中の発生の増加を同様に導き得る。したがって、抗高血圧治療の効果の評価、更なる心臓血管エンドポイントの試験が、これらの血圧低下以外に、非常に必要であり、組合わせ処置の利点の更なる考察を得る。
【0010】
高血圧性血管疾患の性質は多機能性である。ある状況下で、作用の異なる機構の医薬を組合わせている。しかし、異なる作用の形態の医薬の組合わせを考慮することだけが、必ずしも有利な作用を有する組合わせを導かない。 【0011】
AT1アンタゴニストおよびCCBは、細胞内カルシウムを異なるそして相補的な機構により減少させ、一酸化窒素の血管拡張神経効果を促進し、内皮機能不全の回復に特に有効である。
【0012】
最も驚くことは、AT_(1)-アンタゴニストであるバルサルタンまたはその薬学的に許容される塩とCCBまたはその薬学的に許容される塩の組合わせが、相乗的治療効果だけでなく、効果の驚くべき延長および治療的処置のより広い種類のような、組合わせ処置により得られる更なる利点をもたらす。これは、血行力学、腎臓、抗増殖性、抗血栓および抗アテローム発生性特性を含む。
【0013】
肥大の処置抑制を評価するための心臓質量の測定は、本発明の組合わせの更に付加的な効果を支持するデータを提供する。左心室肥大は、心筋梗塞の発症の独立した危険因子である。このように、左左心室肥大の発症の抑制または予防をする能力と組み合わさった有効な血圧低下は、心臓疾患に二つの重要なそして貢献的な因子を有する。
【0014】
更なる利点は、本発明に従って組合わせる個々の医薬の少ない用量が、例えば、少なくするだけでなく、適用頻度もすくなくするために必要な用量の減少に使用でき、または副作用の発症の低下に使用できる。これは、処置する患者の望みおよび要求に従う。
【0015】
バルサルタンとカルシウムチャンネルブロッカーの組合わせ治療は、改善された効果ならびに大きい応答速度を介して、より有効な抗高血圧治療(悪性、本態性、腎血管性、糖尿病性、遊離心収縮性、または他の2次タイプの高血圧であっても)をもたらすことを示すことができる。組合わせはまた(急性または慢性)鬱血性心不全、左心室機能不全および肥大性心筋症、糖尿病性心筋疾患、上室性および心室性不整脈、心房細動または心房粗動の処置または予防にも有用である。更に、バルサルタン+CCB組合わせは、心筋梗塞およびその続発症の処置および予防に有利である。バルサルタン+CCB組合わせはまたアテローム性動脈硬化症、アンギナ(安定性であれ、不安定性であれ)、腎不全(糖尿病性および非糖尿病性)の処置にも有用である。更に、バルサルタンとCCBを使用した組合わせ治療は、内皮機能不全を改善でき、それにより心不全、狭心症および糖尿病、例えば、非インシュリン依存性糖尿病(NIDDM)のような正常な内皮機能が混乱した疾患に利点を提供する。更に、本発明の組合わせは、2次アルドステロン症、1次および2次肺性アルドステロン症、1次および肺性高血圧、糖尿病性腎障害、糸球体腎炎、硬皮症、糸球体硬化症、1次腎臓疾患の蛋白尿のような腎不全状態、およびまた腎臓血管性高血圧、糖尿病性網膜症、偏頭痛のような他の血管性疾患の管理、レイノー病、管増殖、(アルツハイマーのような)認識障害および発作の処置または予防に使用し得る。」

(5)甲第5号証の1(甲5)の記載
甲5は英語の文献であるので、以下、合議体が請求人による訳文を参考にして訳出した。
(5a) (タイトル)
「固体剤形でのベシル酸アムロジピン-賦形剤の相互作用」

(5b) (要旨)
「本論文は、種々の薬物賦形剤を用いたその固体製剤におけるベシル酸アムロジピンの適合性を検討するものである。ベシル酸アムロジピンの安定性に影響を及ぼす種々の因子を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して試験した。ベシル酸アムロジピンと賦形剤の二成分1:1混合物は、65℃及び40℃/75%RHで安定であることがわかっている。実際の製剤での混合物を含む多成分混合物におけるベシル酸アムロジピンの安定性を試験するために、さらなる検討を実施した。この試験は、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム及び水の混合物がベシル酸アムロジピンに対していくらかの不安定性を誘発することを明らかにする。HPLC-質量分析によって確認された主要分解生成物はアムロジピンベシレートグリコシルである。これは、第一級アミンとラクトースの間の周知のメイラード反応と一致している。したがって、ラクトースを含まないアムロジピン製剤は、安全性、品質、効能及びプロセスコストの観点から推奨されるものである。」

(5c) (16頁左上のスキーム1)

スキーム1.ベシル酸アムロジピン.

(5d) (17頁右欄「Stability of Amlodipine Besylate in the Presence of Excipients in the Solid Form」との見出し?19頁左欄1段落目、表1)
「固体形態での賦形剤の存在下におけるベシル酸アムロジピンの安定性
この試験で使用したHPLC法は、加速されたストレス条件下で貯蔵した固体製剤でのベシル酸アムロジピンの濃度変化及び分解生成物の出現を検出するのに適していることが証明された。分解生成物は、標準物質として入手することができないまたはそれが既知ではないので、ベシル酸アムロジピンと分解生成物についてのHPLC検出器の応答係数が同じであるという仮定に基づいて、固体分解生成物中のそれらのパーセンテージを計算した。したがって、分解が著しい場合、表2及び表3に示したパーセンテージは足しても100にならない。
アムロジピンの分解を、ベシル酸アムロジピンと以下の賦形剤:トウモロコシデンプン、ラクトース、コロイド無水シリカ、微結晶性セルロース、クロスポピドン、デンプングリコール酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム及びステアリン酸マグネシウムのそれぞれを含む二成分混合物(1:1、w/w)でチェックした。それらを、開放容器中、40℃及び65℃/75%RHの加速条件で2ヵ月間貯蔵した後、これらの混合物のHPLCクロマトグラムは、ベシル酸アムロジピンの分解の兆候を示さなかった。
しかし、表1が示すように、25℃/65%RH及び40℃/75%RHで1、3及び6ヵ月間の貯蔵期間の後、ベシル酸アムロジピンを、トウモロコシデンプン、ラクトース、コロイド状無水シリカ及びステアリン酸マグネシウムと一緒に含む多成分の実際的な製剤(製剤1)を、HPLCにより分析した。加速条件40℃/75%RHについての結果は、分解生成物:それぞれ約0.8及び0.9の相対保持時間での化合物I及び化合物IIに帰属する2つの二次ピークを示した。表1は、同じ条件下で、ラクトースが微結晶性セルロースで置き換えられている点で製剤1と異なる製剤2は、分解して化合物I及びIIを生成しなかったことも示している。」

表1.25℃/65%RHと40℃/75%RHでのベシル酸アムロジピン製剤の安定性データ.

^(a)製剤1(Formulation 1)はアムロジピン、トウモロコシデンプン、ラクトース、コロイド状無水シリカ、ステアリン酸マグネシウムを含む。
^(b)製剤2(Formulation 2)はアムロジピン、トウモロコシデンプン、微結晶性セルロース、コロイド状無水シリカ、ステアリン酸マグネシウムを含む。

(5e) (19頁左欄2段落目?同頁右欄1段落目、表2)
「上記挙動の結果として、Serajuddinら^([9])によって提案されているモデルに基づいた迅速スクリーニング実験を、すべて25%水を含むかまたは含まないで、ベシル酸アムロジピンだけか、あるいは同じ割合のベシル酸アムロジピンとラクトースもしくはステアリン酸マグネシウムまたはその両方との混合物の1g試料で、100℃で実施した(表2)。表2に示すように、3hr後のこれらの混合物のHPLC分析は、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム及び水がすべて存在する(66.5%ベシル酸アムロジピンが残る。)場合を除いて、ベシル酸アムロジピンの有意な分解を示さなかった。4つすべての成分を含む混合物(表2の最後の列)についてのHPLCクロマトグラムは、上記した化合物Iと同じ保持時間を有していたことから、化合物Iに帰属する二次ピークを示した。この分解生成物は27.5%であると推定された。」

表2.水(25%,w/w)^(a)の不存在または存在下での100℃3時間の貯蔵後のラクトース及びステアリン酸マグネシウムとのベシル酸アムロジピンのスクリーニング。

^(a)試料は、成分の等割合の1.0g混合物として調製した。
^(b)(+)と(-)の印は成分の存在と不存在を示している。

(5f) (20頁左欄?同頁右欄の「Effect of Humidity on Degradation of Amlodipine Besylate in Solid Formulation」の項、図3)
「固体製剤におけるベシル酸アムロジピンの分解に対する湿度の影響
等しい割合(それぞれ0.5g)のベシル酸アムロジピン-ラクトース-ステアリン酸マグネシウムの混合物中の成分間の適合性に対する水分含量の影響をチェックした。図3は、最大で約25%(w/w)の水が存在する水分量で、残留するベシル酸アムロジピンの割合の大幅な低下を示している。この減少と関連しているのは、分解生成物、化合物Iの割合の増大である。約25%(w/w)の水分含量を超えると、ベシル酸アムロジピンの割合は相対的にやや増大し、他方、化合物Iのパーセンテージにかなりの減少があり、水分含量が増加するのに応じて新たな分解生成物が出現し、やや増大している。この分解生成物は、上記の化合物IIと同じ保持時間を有しているので、化合物IIに帰属している。固体状態でのいくつかの薬物の分解に対する水分含量の影響についての従来の研究に照らして^([10,11])、化合物IIの出現は、約25%(w/w)超またはそれ未満の水分含量での異なる分解機構に起因していると推測することができる。」

図3.混合物を80℃で4時間曝露した後での、固体形態のラクトース及びステアリン酸マグネシウムの存在下でのベシル酸アムロジピンの分解に対する水分含有量の影響

(5g) (20頁右欄?21頁右欄の「Compatibility of Amlodipine Besylate with Lactose in the Presence of Various Lubricants and Basic Excipients」の項、表3)
「種々の滑沢剤及び塩基性賦形剤の存在下での、ベシル酸アムロジピンのラクトースとの適合性
25%(w/w)の水の存在下でベシル酸アムロジピン、滑沢剤及びラクトース(それぞれ0.5g)の混合物を調製し、80℃で4hr貯蔵した。残留するベシル酸アムロジピン及び生成した分解生成物のパーセンテージを、本試験で採用したHPLC法を用いて決定した。結果を表3に示す。
その分解は、非常に低い溶解度を有するステアリン酸亜鉛及び炭酸カルシウムの場合、及び固体薬物粒子を取り囲む水層に対して相対的により低いpHをもたらすリン酸水素カルシウムの場合において最少であった。しかし、ステアリン酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウムの場合、第2の分解生成物、化合物IIが相対的により高い割合で出現した(図4)。この分解生成物は、ベンズアゼピンの第二アミンカルシウムチャネル遮断薬の塩酸塩の場合と同様に、化合物Iのさらなる分解または加水分解に起因している可能性がある。ここで、Serajuddinら^([9])によれば、新規の生成物を生成するのと同じ条件下で、このカルシウムチャネル遮断薬の加水分解生成物はラクトースと反応する。あるいは、ベシル酸アムロジピンは、化合物IIへ直接分解している可能性がある。この物質の解明(resolution)はさらなる試験を必要とする。対照的に、炭酸ナトリウムは非常に高い非適合性を示し、褐色のスラリーが形成され、そこでは化合物IIだけが検出された。化合物Iの非存在下及びスラリー形成は、炭酸ナトリウムの高い塩基性に起因している可能性がある。
上記した実験結果は、ラクトースの存在下でのベシル酸アムロジピンの分解が、ベシル酸アムロジピンで飽和した水層に対して滑沢剤によってもたらされる塩基度に大幅に依存していることを示している^([9])。」

表3.80℃で4時間保存後の水2.5%(w/w)存在下での、ベシル酸アムロジピンとラクトース及び他の賦形剤との適合性


(5h) (21頁右欄?22頁右欄の「Identification of the Degradation Products by HPLC/MS」の項、スキーム2)
「HPLC/MSによる分解生成物の同定
図5は、化合物Iの陽イオンモード質量スペクトルを示す。そこでは、m/z=733で分子イオンM+が出現し;分子量は、単一の水分子の除去によって生成するベシル酸アムロジピン-ラクトース縮合生成物と一致している。この発見は、最終生成物としてグリコシルアミン(アムロジピンベシレートグルコシル、化合物I)が生成する、ラクトース(還元性炭水化物)とベシル酸アムロジピン(第一級アミン基を含む)の間のメイラード型の反応と一致している。^([9,12,13])この反応をスキーム2に示す。この反応は、塩基及び水によって容易に触媒作用されることが報告されている^([13])。事実、ここで使用されるステアリン酸マグネシウム塩基性滑沢剤(審決注:請求人が口頭審理陳述要領書とともに提出した「甲第5号証の訳文」の11頁最下行から2行目では原文の「magnesium stearate base lubricant」が「ステアリン酸マグネシウムベースの滑沢剤」と訳されているが、「ステアリン酸マグネシウム塩基性滑沢剤」の方が適切な訳であると判断した。)の役割と一致している。ステアリン酸マグネシウムの触媒効果は、滑沢剤に起因した固体内での物理的移動性の変化ではなく、むしろpHの局在化した変化による結果であった^([13])。この事実は、ベンズアゼピンの第二アミンカルシウムチャネル遮断薬の塩酸塩についての同様の試験でも確認されている。ここで、この反応が固体状態で起こるためには、湿度及びpHの最適ミクロ環境条件が要求されることになると報告されている^([9])。これらの条件下で、その薬物の求核性遊離塩基が遊離して、ラクトースと反応し付加対を形成することが提案されている。Serajuddinら^([9])によれば、カルシウムチャネル遮断薬化合物の加水分解生成物は、同じ条件下でラクトースと反応することができる。これは、25%(w/w)水及びいくらかの滑沢剤(表3及び図4)の存在下で、ベシル酸アムロジピンについて記録されたクロマトグラムにおける第2のピーク(そのピークは分解生成物、化合物IIと帰属される)の出現を説明し得る。
25%(w/w)水の存在下での、ラクトース及びステアリン酸マグネシウムの、末端第一級または第二級アミン基を含まない1,4-ジヒドロピリジン誘導体、すなわちニモジピン、ニトレンジピン及びニフェジピンのカルシウムチャネル遮断薬との混合物は、100℃で2hr貯蔵した場合、分解の兆候を示さなかった。この挙動は、ベシル酸アムロジピン中の末端第一級アミン基が、上記の分解反応に関与していることを示している。同じ実験を、そのベシル酸塩の代わりにアムロジピン塩基を使用して繰り返した。同じ付加体(化合物I)が形成された。これは、遊離塩基としての末端アミンまたはそのベシル酸塩が、そうした反応を被り得ることを示している。」

スキーム2.グリコシルアミン、アムロジピンベシレートグリコシル(化合物I)の生成

(5i) (22頁右欄?23頁右欄の「Stability of Amlodipine Besylate in Solution」の項、図6、図7)
「溶液中におけるベシル酸アムロジピンの安定性
この部分での研究は、溶液中でのアムロジピンベシレートの分解についての文献情報が存在しないこと、及び固体中でのそのような分解との関連を示すことを試みたいとの願望から、実施された。
溶液中の分解によるアムロジピンベシレートの濃度の減少を調査するための好適な方法として上記HPLC法が用いられた。様々なpH値におけるリン酸緩衝液中のアムロジピンベシレート溶液の測定が、pHに対するその安定性の依存度を調査するために実施された。室温保存下で8日経過後のアムロジピンベシレートのpH分解プロファイル(図6)によると、pH1及び10で、それぞれ、当初濃度の約75%及び50%まで減少したことを示している。pH4?7の領域内では、分解は重大ではなく、その分解率はpHからほとんど独立していた。この分解は、アムロジピンのアセチル基の酸及びアルカリ加水分解の両方に起因している^([14])。65℃で40hr貯蔵した、0.1M HCl(pH=約1)ならびにpH値2、5及び9のリン酸緩衝液中でのベシル酸アムロジピンの安定性も、やはりHPLCによりモニターした。図7は、種々のpH値でのベシル酸アムロジピンの分解プロファイルを示す。
結果は、酸性領域におけるベシル酸アムロジピンの分解速度は、pHが低下するとともに増大することを示している。pH9についての結果は、塩基性領域におけるベシル酸アムロジピンの分解速度についての傾向が、同じでないことを示している。測定は、塩基性領域において、その速度はpHとともに増大することを示している。この見方は、pH8.5(75%)及び10(50%)で8日間後の残留するベシル酸アムロジピンについての図6に示す結果によって支持されている。この結果は、ベシル酸アムロジピンは、pH5の近傍で最も安定であることも示している。
上記条件下での溶液中におけるベシル酸アムロジピン分解の動力学を、残留ベシル酸アムロジピンのパーセント対貯蔵時間をプロットすることによって検討した。その関係は、試験した4つのpH値について0.95より良好な相関係数でほぼ線形であった。これは一次反応であることを示している。溶液中での分解の速度定数を、残留ベシル酸アムロジピンのパーセント対時間(勾配=-k)の勾配から推定し、pH1、9、2及び5について、それぞれ0.057、0.0229、0.0115、及び0.00415hr^(-1)であることが分かった。
溶液中で生じた分解生成物は、HPLCクロマトグラムでは認められなかった。これは、ベシル酸アムロジピンが溶液中にある場合、HPLC法では検出されない異なった分解生成物が得られていることを意味している。溶液中におけるベシル酸アムロジピンの安定性の判定のためのHPLC法を開発するためのさらなる検討が必要である。」

図6.イオン強度0.2Mでの様々なpHのリン酸緩衝液中における、室温で8日間保存した後のベシル酸アムロジピンのpH分解プロファイル

図7.イオン強度0.2Mでの様々なpHのリン酸緩衝液中における65℃の保存中のベシル酸アムロジピンの分解プロファイル

(5j) (結論)
「結論
本研究は、ステアリン酸マグネシウムまたは他の任意の塩基性賦形剤及び水の存在下での、ベシル酸アムロジピンとラクトースの間の固体製剤における不適合性を示した。この不適合性は、ラクトースなどの還元糖と、ベシル酸アムロジピンなどの末端第一級または第二級アミン基を有する任意の化合物との間のメイラード反応の結果として生じる、アムロジピンベシレートグリコシル(化合物I)の生成と関連しているベシル酸アムロジピン分解によって実証された。ラクトース及び塩基性滑沢剤は、ベシル酸アムロジピンの固体製剤では回避すべきである;あるいは、高度に水分保護された包装材料(アルミニウム/アルミニウム)を考慮すべきである。ベシル酸アムロジピン製剤からラクトースを排除することが、純度、安全性及び製造プロセスの観点の関連で最良の選択である可能性がある。最後に、予備製剤段階は単一の賦形剤に限定されるべきではなく、再製剤化のリスクを最小限にするために、この段階で多成分の適合性を考慮すべきである。」

(6)甲第6号証(甲6)の記載
甲6は英語の文献であるので、以下、合議体が請求人による訳文を参考にして訳出した。
(6a) (10頁29行?11頁20行、対応する特表2006-502194号公報の明細書の発明の詳細な説明の段落【0015】)
「本発明の錠剤調合物はまた、(例えば第2の活性成分として利尿剤と一緒にした)多剤混合薬製品の調製にも使用し得る。適切な利尿剤は、ハイドロクロロチアジド(HCTZ)、クロパミド、キシパミド(xipamide)、またはクロロタリドンなどの、チアジド系およびチアジド系アナログ(thiazide-analogue)利尿剤、並びに、例えばフロセミドおよびピレタニド、および、それらとアミロライドおよびトリアムテレンとの組み合わせなどの、高血圧症の治療に適切な他のあらゆる利尿剤である。HCTZは、本発明のテルミサルタン錠剤調合物の成分である塩基性試薬と混和性がない。この問題は、本発明の第1態様において前述した医薬組成物から調製したテルミサルタン含有第1錠剤層、および、崩壊錠剤媒体中に利尿剤を含有する第2錠剤層を有する、二層医薬錠剤とすることで克服できる。
第2錠剤層の組成物は、概して、1.5から35重量%、好ましくは2から15重量%の活性成分;25から75重量%、好ましくは35から65重量%の充填剤;10から40重量%、好ましくは15から35重量%の乾燥結合剤;0.5から5重量%、好ましくは1から4重量%の湿式造粒用結合剤;および1から10重量%、好ましくは2から8重量%の崩壊剤を含有する。他の賦形剤および補助剤は、概して、第1錠剤層組成物の場合と同じ量で使用される。充填剤は、無水ラクトース、噴霧乾燥ラクトース、およびラクトース一水和物から選択し得る。
本発明の錠剤は、吸湿性が非常に低い傾向にあり、PVC-ブリスター、PVDC-ブリスター、または、アルミニウム箔ブリスターパック、ポリプロピレンチューブ、ガラス瓶、およびHDPE瓶などの耐湿包装材料を使用して包装し得る。」

(6b) (16頁10行?17頁16行、対応する特表2006-502194号公報の明細書の発明の詳細な説明の段落【0022】、【0023】)
「本発明の第2態様において述べた二層錠は、以下の工程によって調製し得る:(i)前述した流動層造粒工程(A)または噴霧乾燥工程(B)を使用して、テルミサルタンを含有する第1錠剤層組成物を調製する工程、(ii)a)利尿剤を、崩壊錠剤媒体の成分、必要により、さらなる賦形剤および/または補助剤と共に混合および/または造粒し;b)滑沢剤を混合して第2錠剤層の最終混合物を得る;ことによって第2錠剤層組成物を調製する工程、(iii)第1または第2錠剤層組成物を打錠機に入れる工程、(iv)前記錠剤層組成物を圧縮して錠剤層を形成する工程、(v)他方の錠剤層組成物を打錠機に入れる工程;そして、(vi)両錠剤層組成物を圧縮して二層錠を形成する工程。
本発明の二層錠を調製するために、第1および第2の錠剤層組成物を、例えば二層錠加工モードの高速ロータリー打錠機などの二層錠打錠機で、普通の方法で圧縮し得る。しかしながら、第1錠剤層に対して過剰な圧縮力を加えないように注意すべきである。好ましくは、第1錠剤層の圧縮の際に加えられる圧縮力と、第1および第2の両錠剤層の圧縮の際に加えられる圧縮力の比は、1:10から1:2の範囲内である。例えば、第1錠剤層は、4から8kNの中程度の力で圧縮し得、一方、第1および第2層のメインの圧縮は、10から20kNの力で行われる。
二層錠圧縮の際には、粒子間の距離引力(分子間力)および機械的結合によって、二層の間に適当な結合形成がなされる。
(HTCZの分解につながる可能性のある)第1および第2錠剤層の間のいかなる交差汚染をも防止するため、打錠室内のダイテーブル(die table)を強く吸引することによって、打錠の際にあらゆる顆粒残留物を注意深く取り除く必要がある。」

(6c) (特許請求の範囲の請求項1?11)
「【請求項1】
溶解媒体中に分散した3から50重量%のテルミサルタンを含有する医薬組成物であって、(a)モル比で、塩基性試薬:テルミサルタン=1:1から10:1の塩基性試薬、(b)最終組成物に対して、約1から20重量%の量の界面活性剤または乳化剤、および、(c)25から70重量%の水溶性希釈剤を含有し、(d)必要により、0から20重量%のさらなる賦形剤および/または補助剤を含有してもよく、すべての成分の合計は100%である、医薬組成物。
【請求項2】
塩基性試薬が、NaOHおよびKOHなどの金属水酸化物である;または、NaHCO_(3)、KHCO_(3)、Na_(2)CO_(3)、K_(2)CO_(3)、Na_(2)HPO_(4)、K_(2)HPO_(4)、アルギニンなどの塩基性アミノ酸;および、メグルミン(N-メチル-D-グルカミン)から選択される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
界面活性剤および乳化剤が、ポロクサマーまたはプルロニック、ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリソルベート、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリエトキシル化および硬化ヒマシ油から選択される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
界面活性剤および乳化剤が、平均分子量が約2000から12000であるポロクサマーから選択される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
ポロクサマーが、ポロクサマー182LF、ポロクサマー331、およびポロクサマー188から選択される、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
水溶性希釈剤が、グルコースなどの単糖類;スクロースなどの多糖類;並びに、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、リビトール、およびキシリトールなどの糖アルコール、などの炭水化物から選択される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項7】
他の賦形剤および/または補助剤が、結合剤、担体、滑沢剤、流動化剤、結晶化抑制剤、可溶化剤、および着色剤から選択される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1つに記載の医薬組成物から作製される、即使用/投与可能な固形経口医薬調合物。
【請求項9】
カプセル剤または錠剤の剤形である、請求項8記載の調合物。
【請求項10】
10から160mgの単位用量のテルミサルタンを含有する、請求項8または9記載の調合物
【請求項11】
請求項1から7のいずれか1つに記載の医薬組成物から調製されるテルミサルタン含有第1錠剤層、および、崩壊錠剤媒体中に利尿剤を含有する第2錠剤層を有する二層医薬錠剤。」

(7)甲第7号証(甲7)の記載
(7a) (2頁右下欄4行?3頁右下欄6行)
「アムロジピンは遊離塩基として有効であるけれども、実際には、これは、薬学的に受容できる酸との塩の形で投与するのが最もよい。この目的に適するためには、この薬学的に受容できる塩は、次の4つの生理化学的判定基準:(1)良好な溶解性;(2)良好な安定性;(3)非吸湿性;(4)錠剤処方のための加工性;などを満足しなくてはならない。
上に略述した塩の多くはこれらの判定基準のいくつかを満足するけれども、どれも、それらをすべて満足はせず、好ましいマレイン酸塩でさえ、優れた溶解性を示すけれども数週間後には溶液中で分解する傾向がある。したがって、本発明者らは一連のアムロジピンの薬学的に受容できる塩類を製造し、次の判定基準を用いて評価した:
(中略)
3.安定な処方物を与えるためには、非吸湿性であることが望ましい。薬剤含量の高い固体状態では、吸収された水分の皮膜は加水分解および化学分解のための促進因子として作用することがありうる。普通不安定性の原因となる自由水分に寄与するのは、薬剤またはその塩の吸湿性である。
マレイン酸塩、トシレート塩およびベシレート塩のみは、37℃で24時間、相対湿度75%に暴露されたとき、水分を全く吸収しない。30℃で3日間、相対湿度95%に暴露されたときでさえ、ベシレート塩およびマレイン酸塩の両者は、無水のままであるが、一方トシレート塩は二水和塩を形成した。このためベシレート塩は非吸湿性であると考えることができ、従って、内因性の化学分解の危険を最小にしながら安定な処方物を与える。」

(8)甲第8号証(甲8)の記載
(8a) (明細書の発明の詳細な説明の段落【0003】)
「テルミサルタン及び生理学的に許容されるその塩のデザインは、価値ある薬理学特性を有する。テルミサルタンはアンジオテンシン拮抗薬であり、特に、種々のその薬理学特性により、例えば高血圧症及び心不全の治療、虚血性末梢循環性疾患、心筋虚血(アンギナ)の治療、心筋梗塞後の心不全の進行の予防、糖尿病性神経傷害、緑内障、胃腸疾患及び膀胱疾患の治療のために使用してもよいアンジオテンシン-II-拮抗薬である。その他の可能な治療用途は、EP 502314 B1で明らかにされ、その内容は本明細書で参照されるものとする。
テルミサルタンの合成の過程において、合成の最終工程は、ダイヤグラム1のtert.ブチルエステル(II)をけん化する工程を含む。」

(9)甲第9号証(甲9)の記載
甲9はドイツ語の文献であるので、以下、合議体が請求人による訳文を参考にして訳出した。
(9a) (8頁21行?9頁8行、対応する特表2006-515877号公報の明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】の2段落目)
「PPARγ調節遺伝子の転写の誘導は、抗糖尿病薬(例えばロシグリタゾン)として用いられるチアゾリジンジオンより知られ、それらのPPARγ受容体への結合とその活性化によってもたらされる。ここで用いられる試験系の範囲内で、この作用は形質転換細胞系の誘導ルシフェラーゼ活性として定量化することができる。テルミサルタンの場合、予想に反して、ルシフェラーゼ活性の同じ誘導が活性物質のPPARγ受容体への結合によって起こらない。テルミサルタンのPPARγ受容体への結合は、種々の試験系で検出することができない。それ故、アンギオテンシンII受容体拮抗剤テルミサルタンによって生じるPPARγ補因子タンパク質の親和性の増加は、高親和性合成PPARγリガンドが存在しない場合には補因子タンパク質が補充されることになると推定される。このことにより、次に、PPARγ受容体によって調節される遺伝子の転写の活性化がもたらされ、この活性化はこれらの補因子によって仲介されている。これらの遺伝子の誘導がチアゾリジンジオンの抗糖尿病活性の原因となるので、テルミサルタンによる同じ遺伝子の誘導が匹敵する抗糖尿病活性を生じると考えることができる。従って、テルミサルタンは、高血圧の治療だけでなく、2型糖尿病の治療や予防に適切である。このことは、代謝性症候群、エックス症候群又はインスリン抵抗性症候群の治療や予防を含んでいる。」

(10)甲第10号証(甲10)の記載
甲10は英語の文献であるので、以下、合議体が請求人による訳文を参考にして訳出した。
(10a) (1頁目「DESCRIPTION」の項)
「ミカルディス(登録商標)(テルミサルタン)は、非ペプチドアンジオテンシンIIレセプター(タイプAT1)拮抗剤である。テルミサルタンは、化学的には、4’-[(1,4’-ジメチル-2’-プロピル[2,6’-ビ-1H-ベンゾイミダゾール]-1’-イル)メチル]-[1,1’-ビフェニル]-2-カルボン酸として説明される。その実験式は、C_(33)H_(30)N_(4)O_(2)であり、分子量は514.63で、以下の構造式を有する。
(構造式は略)
テルミサルタンは、白にわずかに黄色みがかった固体である。水中、及びpH3?9ではほとんど溶解しない一方、強酸下では溶解しにくく(塩酸には非溶解性であることを除く)、強塩基下で溶解する。
ミカルディスは、20mg、40mgまたは80mgのテルミサルタンを含み、経口投与のための錠剤として利用されている。当該錠剤は、以下の不活性を癌揺する;水酸化ナトリウム、メグミン、ポピドン、ソルビトール、及びステアリン酸マグネシウム。ミカルディス錠は、吸湿性で湿気からの保護が必要とされる。」

(10b) (2頁目「Pharmacokinetics」の項)
「一般
経口投与ののちに、テルミサルタンの血中濃度は0.5?1時間ピーク(Cmax)に達した。食物は、40mg錠剤で約6%の、または160mg服用した後では約20%の血中濃度-時間曲線下面積(AUC)の減少を伴い、わずかにテルミサルタンのバイオアベイラビリティを減少させた」

(10c) (4頁目「INDICATIONS AND USAGE」の項)
「ミカルディス(テルミサルタン)は、高血圧症の治療に効能を有する。そして、単独で、または他の高血圧症剤との組み合わせで用いられる。」

(10d) (9頁目「Storage」の項)
「25°C(77°F)で保存のこと;遠出の際は15?30°C(59?86°F)までならばよい[USPの制御室温参照]。錠剤は、投与の直前までブリスターから取出さないこと。」

(11)甲第11号証(甲11)の記載
(11a) (明細書1頁下から2段落目?2頁2段落目)
「現在、カルシウム拮抗剤及ぴレニン・アンジオテンシン系の抑制薬は、臨床において高血圧の治療や予防のための医薬として広く用いられている。カルシウム 拮抗剤としては種々の系列の薬剤が用いられているが、なかでも1,4-ジヒドロピリジン系化合物であるアムロジピン、ベニジピン、ニトレンジピン、マニジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニソルジピン、シルニジピン、レルカニジピン、ニグルジピン、ニモジピン、アラニジピン、エホニジピン、パルニジピン、フェロジピン、ニルバジピン、及びアゼルニジピンなどは持続性のカルシウム拮抗剤であり、高血圧症の第一選択薬として臨床で汎用されている。また、レニン・アンジオテンシン系の抑制薬としては、アンジオテンシンII受容体拮抗剤が、従来のアンジオテンシン変換酵素(ACE) 阻害剤にみられる咳などの副作用がなく、また、心血管や腎臓の障害に対し保護効果を示すことから使用が拡大している。しかし、これら既存の1種類の薬剤では、患者の血圧を十分にコントロールできない場合も多い。
カルシウム拮抗剤は、血管拡張作用に加え、ナトリウム利尿作用も有することから、体液貯留性(レニン非依存性)の高血圧にも有効である。 一方、アンジオテンシンII受容体拮抗剤は、レニン依存性の高血圧に特に有効であり、また、優れた臓器保護効果を有している。 従って、カルシウム拮抗剤とアンジオテンシンII受容体拮抗剤の併用により、高血圧の病因によらず安定かつ十分な降圧治療が 期待できる。
カルシウム拮抗剤及びアンジオテンシンII 受容体拮抗剤を組み合わせた医薬 が種々提案されており(例えば、国際公開第 01/15674号パンフレット、国際公開 第 01/78699号パンフレット、国際公開第 02/43807号パンフレット、国際公開第 01/76632号パンフレット、国際公開第 01/74390号パンフレット、特表2002-524408号公報、国際公開第92/10097号パンフレット、特公平7-035372号公報、英国特許出願公開 2268743号明細書、特開平6-56789号公報、特開平5-155867号公報、米国特許出願公開第2001/0004640号明細書、米国特許第6204281号明細書、特許第3057471号公報、特許第2930252 号公報、特表2002-507213 号公報、特表2001-513498号公報、特表2000-508632号公報、特公平7-91299号公報、特公平7-14939号公報、特開平6- 65207号公報、特開平5-213894号公報、特表 2002-518417 号公報、特表2002-506010号公報、及ぴ特表 2001 - 522872号公報)、これらのうちのいくつかの刊行物には、両者の組み合わせにより、いっそう望ましい降圧作用が達成されることが開示されている。しかしながら、本発明の特定のアンジオテンシンII 受容体拮抗剤と特定のカルシウム拮抗剤とを併用した例については知られていない。」

(11b) (明細書10頁2?6行)
「本発明の医薬は、(A)上記の式(I)で表される化合物及ぴ薬理学的に許容される そのエステル、並びに薬理学的に許容されるそれらの塩からなる群から選ばれる 物質を含むアンジオテンシンII受容体拮抗剤;及び (B) l,4-ジヒドロピリジン系化合物及び薬理学的に許容されるその塩からなる群から選ばれる物質を含むカルシウム拮抗剤を有効成分として含むことを特徴としている。」

(11c) (明細書17頁24行?18頁3行)
「本発明の医薬としては、上記の成分 (A)及び (B)の両者を有効成分として含む医薬組成物(いわゆる「合剤」の形態である)として調製することもできる。例えば、両者の有効成分を混合して物理的に 1個の単位投与形態として調製すること ができる。また、上記の成分 (A)及び (B)をそれぞれ別々の単位投与形態として調 製しておき、それらの投与形態の組み合わせを含む医薬として提供することもできる。後者の医薬は、上記の成分 (A)及び (B)を同時に、又は時間を変えて投与するための医薬として用いることができる。」

(12)甲第12号証(甲12)の記載
甲12は英語の文献であるので、以下、合議体が請求人による訳文を参考にして訳出した。
(12a) (330頁右欄7行?331頁左欄9行)
「多層圧縮錠 多層圧縮錠には、多層錠と圧縮コーティング錠の2種類存在する(中略)。このカテゴリーの錠剤は、たいてい、不適合な成分を物理的または化学的に分離するため、または繰り返しまたは持続的な作用を呈する製品の製造のための、二つに一つの理由で製造される。いくつかの場合において、2層錠は反応性成分の十分な表面分離を提供し、安定性のために完全に物理的に分離することが求められる場合には、3層錠が採用される。多層錠は、層間の表面接触が低減され、製造が簡便でより早い圧縮コーティング錠が好ましい。」

(13)甲第13号証(甲13)の記載
甲13は英語の文献であるので、以下、合議体が請求人による訳文を参考にして訳出した。
(13a) (398頁1?17行)
「相容れない薬剤は、一方をコア中に、もう一方をコーティング処方中に組み入れる方法によって同時に処方されうる。(中略)機能性と新規性を追求するため、錠剤は原材の上面に第2層(または第3層までも)を圧縮可能なプレス加工によって製造されてきた。(中略)このような製剤工程は、相容れない原料の同時処方や複雑な放出パターンを容易にする。(中略)現在要求される厳格な薬事規制に合致したこれらの錠剤の処方化とその錠剤の安定した製造にはかなりの専門技術を要する。」

(14)甲第14号証(甲14)の記載
甲14は英語の文献であるので、以下、合議体が請求人による訳文を参考にして訳出した。
(14a) (1欄1?45行)
「高血圧症の治療のための薬剤
本発明はジエチル(E)-4-[2-[(tert-ブチルオキシカルボニル)ビニル]フェニル-1,4-ジヒドロ-2,6-ジメチルピリジン-3,5-ジカルボキレート](ラシジピン)と4’-[[2-n-プロピル-4-メチル-6-(1-メチルベンジイミダゾール-2-イル)-ベンズイミダゾール-1-イル]-メチル]-ビフェニル-2-カルボン酸(テルミサルタン)からなる治療的な組み合わせ、当該組み合わせを含有する薬学的組成物、及び高血圧症を含む心臓血管障害の治療の使用に関する。
ラシジピンは英国特許第2164336号に記載されており、これは高血圧症の治療のために特に有用な、強力で長期間作用するカルシウム拮抗剤である。その化合物は、アテローム性動脈硬化、末梢血管障害、虚血性心臓障害、鬱血性心不全を含む、他の心臓血管障害の治療にも有用である。
テルミサルタンは欧州特許第0502314号に記載されており、高血圧症及び血管機能不全の治療と、虚血性末梢血液循環障害、心筋虚血(狭心症)を含む他の心臓血管障害の治療に有用なアンジオテンシンII拮抗剤である。
(中略)
我々は、ラシジピンとテルミサルタンの組み合わせが、高血圧、アテローム性動脈硬化、虚血性心臓障害といった心臓血管障害の治療に有用で予想外に有利な組み合わせを提供することを見出した。
特に、ラシジピンとテルミサルタンを組み合わせることによって、相乗的な抗高血圧効果が達成されることが今回発見された。そうした薬剤の組み合わせが一つあるいはそれ以上の次の効果、すなわち、相乗的な抗高血圧効果、より長い期間の抗高血圧効果を提供し、強力な薬剤関連の副作用のよりよい管理を可能とするというのがこの発明の特徴である。さらに、そうした薬剤の組み合わせの使用によって達成された血圧管理の改善により、高血圧症によって引き起こされる関連疾患からより保護されることが可能になるであろう。」

(14b) (5欄22?38行)
「2つの有効成分を含有する本発明の薬学的組成物は、製薬業界においてよく知られた従来技術に従って調製してもよい。そのため、例えば、ラシジピンとテルミサルタンは、有効成分のそれぞれを別々に製剤化するために上記のような適切な賦形剤とともに一緒に混合してもよい。例えば、錠剤はそうした混合物の直接圧縮によって、あるいは他の従来方法を用いて調製してもよい。二層錠剤は従来の手順に従って調製してもよい。そのため、例えば、2つの充填ステーションを有する適切な打錠機において2つの混合物を別々に圧縮することによって調製してもよい。カプセルは、適切な打錠機を使って適切な賦形剤とともに混合物をゼラチンカプセルに充填することにより調製してもよい。経口または直腸投与のための制御された放出剤型は、制御された放出剤型に関連した従来の方法によって製剤化してもよい。」

(14c) (7欄43行?62行)
「実施例2


下記の製剤は、テルミサルタンのスプレードライ顆粒をソルビトール及びステアリン酸マグネシウムと混合することにより調製された。ラシジピン顆粒は残りのステアリン酸マグネシウム及び最終的にソルビトールと混合した。当該2つの混合物は、2つの充填ステーションを有する適切な打錠器中で別々に圧縮されて、二層錠を得た。」


(15)甲第15号証(甲15)の記載
(15a) (753頁左欄1行?同頁右欄6行)
「はじめに
アンジオテンシンII受容体拮抗薬(AIIA)の降圧効果はCa拮抗薬、ACE阻害薬と同等であり^(1)2))、副作用の頻度はCa拮抗薬、ACE阻害薬などより少ないことが報告され^(3))、本邦においてもロサルタン、カンデサルタン、バルサルタンの三つのAIIAが使用可能となっている。
近年の高血圧治療ガイドラインにおいて降圧目標血圧は130/85mmHg未満と以前より低く設定され^(4)5))、治療開始時の血圧が高い場合には単独の降圧薬のみでは到達できず、降圧薬の併用が行われる。AIIAの併用の対象としては利尿薬が良いとされている^(4)5))。しかし、Ca拮抗薬との併用も臨床現場では用いられていると思われるが、併用の成績は少ない。そこで、本態性高血圧患者においてロサルタンとCa拮抗薬の併用の効果を検討したので報告する。」

(16)甲第16号証(甲16)の記載
(16a) (特許請求の範囲の請求項1)
「【請求項1】
一般式(I)
(化学式(I)は略)
を有する化合物、その薬理上許容される塩、その薬理上許容されるエステル又はその薬理上許容されるエステルの薬理上許容される塩からなる群から選択されるアンジオテンシンII受容体拮抗剤及び1種又は2種以上の利尿剤を有効成分として含有する医薬組成物。」

(16b) (明細書の発明の詳細な説明の段落【0039】)
「【0039】
なお、被験物質は、それぞれ、ヒドロクロルチアジド(HCTZ)、CS-866及びHCTZとCS-866であり、HCTZは、最終濃度が10mg/2mLの懸濁液となるように0.5%CMC水溶液を用いて調製し、CS-866は、最終濃度が1mg/2mLの懸濁液となるように0.5%CMC水溶液を用いて調製し、HCTZとCS-866は、最終濃度が[10mg(HCTZ)+1mg(CS-866)]/2mLの懸濁液となるように0.5%CMC水溶液を用いて調製した。」

(16c) (明細書の発明の詳細な説明の段落【0042】、【0043】)
「【0042】
製剤例1
錠剤
【0043】
【表3】(表3は略)
上記表3に示す処方の粉末を混合し、打錠機により打錠して、1錠350mgの錠剤とする。この錠剤は必要に応じて、糖衣を施すことができる。」

(17)甲第17号証(甲17)の記載
(17a) (特許請求の範囲の請求項1)
「一般式(I)
【化1】(化学式(I)は略)
(式中、R1は水素または置換されていてもよい炭化水素残基を示し、R^(2)はエステル化されていてもよいカルボキシル基を示し、R^(3)は陰イオンを形成しうる基またはそれに変じ得る基を示し、Xはフェニレン基とフェニル基が直接または原子鎖2以下のスペーサーを介して結合していることを示し、nは1または2を示し、環AはR^(2)で表される基以外にさらに置換基を有していてもよいベンゼン環を示し、Yは結合手,-O-,-S(O)m-(式中、m は0,1または2を示す)または-N(R^(4))-(式中、R^(4)は水素または置換されていてもよいアルキル基を示す)を示す)で表されるアンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物またはその塩と利尿作用を有する化合物またはカルシウム拮抗作用を有する化合物とを組み合わせてなるアンジオテンシンII介在性諸疾患の予防または治療剤。」

(17b)(明細書の発明の詳細な説明の段落【0033】?【0042】)
製剤例として、化学式(I)で表され、アンジオテンシンII拮抗作用を有する化合物、及びヒドロクロロチアジドまたは塩酸マニジピンを含有した、カプセル錠もしくは錠剤が記載されている。

(18)甲第18号証(甲18)の記載
(18a) (135頁左欄?右欄の「ベシル酸アムロジピン」の項)
ベシル酸アムロジピンがジヒドロピリジン系Ca拮抗剤であることが記載されている。

(18b) (1394頁左欄?1395頁右欄の「テルミサルタン」の項)
テルミサルタンが持続性AT_(1)受容体遮断剤であること、製品としてミカルディスMicardisカプセル20-40mgがあること、及び正常血圧動物で降圧作用は弱く、利尿剤及びカルシウムチャネル拮抗剤との併用で降圧作用が増強することが記載されている。

(19)甲第19号証(甲19)の記載
(19a) (フロントページ、1頁)
テルミサルタン/ヒドロクロロチアジド配合錠であるミコンビ(登録商標)配合錠AP及び配合錠BPの医薬品インタビューフォームとして、テルミサルタン/ヒドロクロロチアジド配合錠が胆汁排泄型持続性AT_(1)受容体ブロッカー/利尿剤であることが記載されている。
そして、甲19は2015年4月(改訂第11版)に作成されたものであるが、甲19の「開発の経緯」の項目には以下のように記載されている。
「ドイツのベーリンガーインゲルハイム社では、アンジオテンシンII受容体拮抗剤であるテルミサルタンと代表的な利尿薬であるヒドロクロロチアジドの併用による効果の増強及びアドヒアランスの向上を期待して、1994年12月よりこれらの配合剤の開発に着手した。
米国においては2000年11月、EUにおいては2002年4月に承認を取得している。」

(20)甲第20号証(甲20)の記載
(20a) (フロントページ、4頁、44頁)
テルミサルタン錠であるミカルディス(登録商標)錠20mg、40mg、80mgの医薬品インタビューフォームとして、テルミサルタン錠が胆汁排泄型持続性AT_(1)受容体ブロッカーであることが記載されている。
また、4頁の「(2)添加物」の項には、ミカルディス錠20mg、40mg、80mgの添加物が記載されている。
そして、甲20は2015年4月(改訂第11版)に作成されたものであるが、甲20の44頁「1.主な外国での発売状況」の項には以下のように記載されている。
「アメリカにおいては1997年9月に承認申請が行われ、ヨーロッパでは1997年10月に中央認可方式により承認申請が行われた。アメリカでは1998年11、ヨーロッパでは1998年12月に承認されて以来、世界97ヵ国で発売されている。
外国における発売状況アメリカにおいて1998年11月、MICARDISを発売した。剤形は錠剤であり、本邦における効能・効果、用法・用量とは異なっている。」

(21)甲第21号証(甲21)の記載
(21a) (1頁)
甲21には、テルミサルタン及びヒドロクロロチアジドを含有するミカルディスHCTのFDA(米国食品医薬品局)における承認情報が記載されており、ミカルディスHCTが2000年11月に承認されたこと、及びミカルディスがヒドロクロロチアジド及びテルミサルタンからなる2つの薬剤を含有する錠剤であることが記載されている。
ただし、甲21の公知日は記載されていない。

(22)甲第22号証(甲22)の記載
(22a) (S209頁右欄4行?S211左欄10行)
「BIBR277(テルミサルタン)はベーリンガーインゲルハイム社で開発されたアンジオテンシンIIタイプ1(AT_(1))受容体に選択的かつ強力に結合するアンジオテンシンII(AII)受容体拮抗薬であり、すでにEU諸国、アメリカ等ではその有用性、安全性が確認され、60ヵ国以上で高血圧症の治療に使用されている。
欧米における試験成績と同様に、本邦における臨床試験によると、本薬は高血圧症に対して20mg?80mgの1日1回投与で、血圧の日内変動に影響を与えることなく、単独投与あるいはCa拮抗薬や利尿薬との併用投与で確実に血圧を下降させ、良好な降圧効果を示す。一方、安全性の面でも臨床使用上留意すべき副作用の少ないことが確認されている。」

(23)甲第23号証(甲23)の記載
(23a) (70頁「iv)多層錠」の項)
「iv)多層錠 multilayer tablets
二層あるいは三層となっており、薬品相互間に配合変化を起こしやすいものは別別の層に入れて打錠したもので、胃腸薬やビタミン剤等に使用される。また層によって顆粒の崩壊時間を変えれば、効力持続化を図ることもできる。」

(24)甲第24号証(甲24)の記載
(24a) (B49頁「多層錠」の項)
「多層錠(中略)錠剤の成分薬品を分離して打錠するもので、一方の成分を軽く予圧し、ほかの成分の成分顆粒をその上に加圧成型する。層が二つ、三つでそれぞれ二層錠、三層錠という。それぞれの成分の安定性を図る目的や、外層の薬品が内層の薬物の作用しやすいようにpH等を調節するときに用いられる。」

(25)乙第5号証(乙5)の記載
(25a) (220頁下から2段落目)
「薬物の製剤設計にあたっては、薬物の特性を生かし、有効性を最大限に発揮でき、安全性が高く、使用に便利な、最適で合理的な剤形を得ることが目的である。すなわち、製剤設計とは対象薬物の物理化学的な性質、薬理作用、体内動態および対象となる疾病の知識などの情報と、医薬品添加剤、包装材料、製剤機械やGMPなどのレギュレーションに関する種々の技術・情報を総合した上で行われる学際的な研究領域である。したがって、これを達成するためには、製剤研究者の広い知識、深い経験、優れたバランス感覚などが求められる。この過程は薬物の物理化学的および生物薬剤学的特性を検討し、最適な候補化合物を選択して、最適な剤形のプロトタイプを得るプレフォーミュレーションpreformulation研究の段階と、それをベースにさらに詳細な化合物の種々の特性を検討し、試作と評価を繰り返し、製剤の機能性、使用性、生産性、市場性などを考慮し、最終的な剤形の製品規格の設定、製造法の確立に至るフォーミュレーションformulation研究の段階の二つのステージに分けて考えられる。」

(26)乙第9号証(乙9)の記載
(26a) (27頁1?3行)
「(3)多層錠multi-layer tablets
組成の異なる粉末または顆粒を2層、3層と層状に積み重ねた錠剤。2層のものを2層錠、3層のものを3層錠ともいう。」

なお、乙第1号証は甲第2号証に相当する。また、同様に、乙第2号証は甲第5号証、乙第3号証及び参考資料3は甲第20号証、乙第6号証は甲第12号証、乙第7号証は甲第13号証にそれぞれ相当する。そのため、以下では乙第1号証、乙第2号証、乙第3号証、乙第6号証、乙第7号証は、それぞれ甲1、甲5、甲20、甲12、甲13とまとめて表記する。
また、乙第4号証はミカルディス(登録商標)錠の資料であり、マウス、ラット、ウサギ及びイヌにおける薬物動態試験の結果が示されている。
そして、乙第8、10?13はいずれも錠剤製造に関する一般文献であるが、いずれも本件特許の優先権主張日以降に公表された文献である。
さらに、乙第14号証の1頁は、本件特許の対応欧州特許である欧州特許第1814527号に対する異議申立手続において、欧州特許庁異議部が口頭審理手続後に発行した、最終決定についての正式な通知書であり、乙第14号証の2?7頁は、欧州特許庁異議部の予備的な見解である。そして、参考資料1は乙第14号証の2?7頁の訳文である。

2.甲1に記載された発明
甲1には、テルミサルタンを本質的にアモルファス形態で溶解性マトリックス中に含有する第一層と、利尿剤を崩壊性錠剤マトリックス中に含有する第二層とを含有する医薬錠剤が記載されており(上記1.における記載事項1e(以下、単に「記載事項1e」などとする。)の請求項1)、前記利尿剤がヒドロクロロチアジド、フロセミド、クロロタリドン、ピレタニド及びアロリドの少なくとも1種より選ばれること(記載事項1eの請求項2)、及び前記溶解性錠剤マトリックスが、塩基性物質と、水溶性希釈剤と、任意により他の賦形剤や補助剤とを含有すること(記載事項1eの請求項5)も記載されている。
そうすると、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「塩基性物質と、水溶性希釈剤と、任意により他の賦形剤や補助剤とを含有する溶解性マトリックス中にテルミサルタンを本質的にアモルファス形態で有する第一層と、利尿剤を崩壊性錠剤マトリックス中に含有する第二層とを含有する医薬錠剤。」

3.本件発明と甲1発明との対比・判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明と対比すると、水溶性希釈剤及び塩基性物質を含む溶解性錠剤マトリックス中にテルミサルタンを有する第1層と、崩壊性マトリックスを有する第2層を含む医薬錠剤である点で一致するものの、以下の点で両者は相違する。
相違点1:本件発明1では、第2層にアムロジピンが含まれているのに対 して、甲1発明では第2層に利尿剤が含まれているものの、ア ムロジピンが含まれていない点。
相違点2:本件発明1ではテルミサルタンの含有量が40mgまたは80 mgであり、アムロジピンの含有量が5mgと特定されている のに対して、引用発明1ではテルミサルタンが40mgまたは 80mg、アムロジピンが5mgとは特定されていない点。

イ 相違点1についての判断
[前提]
(1)アンジオテンシンII受容体拮抗剤とカルシウム拮抗剤とを組み合わせて用いることは本件特許の優先権主張日において当業者に広く知られていたといえる(記載事項4a、4b、記載事項11a?11c、記載事項14a?14c、記載事項15a)。
(2)甲2にはテルミサルタンを含む錠剤とアムロジピンを含む錠剤とを患者に同時に投与したことが記載されていることから(記載事項2a?2d)、テルミサルタンとアムロジピンを組み合わせることが本件特許の優先権主張日に当業者に知られていたといえる。
(3)アンジオテンシンII受容体拮抗剤であるバルサルタンとヒドロクロロチアジド(HCTZ)とを合剤として製剤化することは本件特許の優先権主張日に当業者に知られていたといえる(記載事項3a?3d)。
(4)バルサルタンとアムロジピンとを合剤として製剤化することは本件特許の優先権主張日に当業者に知られていたといえる(記載事項4a、4b)。
(5)テルミサルタン及び利尿剤とを二層錠とすることは本件特許の優先権主張日に当業者に知られていたといえる(記載事項1a?1e、記載事項6a?6c)。
(6)テルミサルタンは高血圧症及び心不全等の治療に使用されるアンジオテンシンII拮抗薬であることは本件特許の優先権主張日に当業者に広く知られていたといえる(記載事項8a)。
(7)テルミサルタンが2型糖尿病の治療にも使用されることが本件特許の優先権主張日に当業者に知られていたといえる(記載事項9a)。
(8)テルミサルタン20mg、40mg、80mg錠がミカルディス(登録商標)として本件特許の優先権主張日に当業者に知られていたといえる(記載事項10a?10d)。
(9)甲16の請求項1の一般式(I)で表されるアンジオテンシンII受容体拮抗剤と利尿剤との合剤(記載事項16a?16c)、及び甲17の請求項1の一般式(I)で表されるアンジオテンシンII受容体拮抗剤と利尿剤との合剤(記載事項17a、17b)が本件特許の優先権主張日に当業者に知られていたといえる。
(10)テルミサルタンが利尿剤、カルシウム拮抗剤との併用で降圧作用が増強されることは本件特許の優先権主張日前に既に当業者に広く知られていたといえる(記載事項18b、記載事項22a)。
(11)テルミサルタンの錠剤は本件特許の優先権主張日前に既に米国、欧州、日本で販売されており(記載事項20a)、さらに併用薬として良いとされていた利尿剤(記載事項18b)との配合剤は米国、EUにおいて承認されていたといえ(記載事項19a、記載事項21a)、米国ではミカルディスHCTという錠剤で販売されていたといえる(記載事項21a)。

これらの前提を踏まえて、以下、甲1発明において利尿剤に代えてアムロジピンを用いることを当業者が容易に想到し得るかを検討する。

(i)(ア)甲1には「発明の分野」として「本発明は、アンギオテンシンII受容体拮抗剤テルミサルタンをヒドロクロロチアジド(HCTZ)のような利尿剤と組合わせて含有する二層医薬錠剤の配合剤に関する。」と記載されており(記載事項1a)、「発明の目的」として「本発明の目的は、テルミサルタンとHCTCのような利尿剤とを含有する一定用量の併用薬剤であって、前記併用薬剤が、必要とされる急速溶解と即効性薬剤放出プロファイルが十分な安定性と組合わされている、前記薬剤を提供することであった。」(記載事項1b)と記載されている。そして、甲1には「その他の有効成分、即ち、利尿剤は、通常、微細結晶粉末として、任意によりファインミルド、ペグミルド又は微分化の形で用いられる。」(記載事項1b)と記載されている。これらの記載から、テルミサルタンと利尿剤が有効成分として必須であると解され、これらの一方が欠如することは甲1から認識されていないといえる。さらに、甲1の他の記載を検討しても、テルミサルタン及び利尿剤以外の有効成分をさらに加えるとの記載は何らなされていない。
(イ)次に、アムロジピンはカルシウム拮抗剤(カルシウムチャネル遮断薬、カルシウムチャネルブロッカー、カルシウムチャネル拮抗剤、CCB)であることは本件特許の優先権主張日前既に当業者に知られていたといえる(記載事項4a、記載事項11a)。そして、甲18には利尿剤及びカルシウム拮抗剤との併用で降圧作用が増強する旨記載されており(記載事項18b)、また甲22にはテルミサルタンについて「本薬は(中略)単独投与あるいはCa拮抗薬や利尿薬との併用投与で確実に血圧を下降させ、良好な降圧効果を示す。」(記載事項22a)と記載されている。また、一般にカルシウムチャネル遮断薬はナトリウム利尿作用も有することも知られている(記載事項11a)。さらに、上記前提(1)?(6)、(9)?(11)をも考慮すれば、テルミサルタンとアムロジピンとの合剤を得ようと試みる程度のことは、当業者であれば発想し得るといえる。
(ウ)もっとも、甲1発明は二層錠(二層錠剤)に関する発明であるところ、二層錠とは組成の異なる粉末または顆粒を2層に層状に積み重ねた錠剤である(記載事項26a)。そして、二層錠はたいてい不適合性の成分を物理的または化学的に分離するために、もしくは繰り返しまたは持続的な作用を呈する製品の製造のために製造される(記載事項12a、記載事項23a、記載事項24a)。しかしながら、要求される厳格な薬事規制に合致した二層錠を安定して製造するにはかなりの専門技術を要することは、本件特許の優先権主張日の技術常識であった(記載事項13a)。そもそも、薬物の特性を生かし、有効性を最大限に発揮でき、安全性が高く、使用に便利な、最適で合理的な剤形を得るための製剤設計には製剤研究者の広い知識、深い経験、優れたバランス感覚などが要求されることも本件特許の優先権主張日の技術常識であった(記載事項25a)。そうすると、特定の二層錠の製造は当業者でも相当の試行錯誤を要し、困難性を伴うものと認められる。
そのため、不適合性の成分を分離する等の技術課題解決の強い要請がない限り、通常、二剤以上の薬剤を合剤とする際に、当業者は製造困難な二層錠を選択しないといえる。
なお、乙8、10?13はいずれも錠剤製造に関する一般文献であるが、いずれも本件特許の優先権主張日以降に公表された文献であり、これらの文献からは本件の優先権主張日当時の技術水準を推認できるとは直ちにはいえない。
(エ)そうすると、たとえ上記前提を考慮しても、甲1発明において利尿剤をアムロジピンに置換することは当業者でも容易であるとはいえない。
(オ)この点、請求人は審判請求書44?45頁において、テルミサルタンを含むアンジオテンシンII受容体拮抗剤と、アムロジピンを含むカルシウム拮抗剤とを組み合わせで用いることは本件特許の優先権主張日において広く知られていたところ、甲2では、その組み合わせとして、テルミサルタンとアムロジピンが採用されたことが記載されているから、テルミサルタンとアムロジピンを組み合わせて用いることに十分に動機づけられた旨主張する。
しかしながら、上記(ウ)で既述のとおり、不適合性の成分を分離する等の技術課題解決の強い要請がない限り、通常、当業者は製造困難な二層錠を選択しないといえることから、たとえテルミサルタンとアムロジピンを組み合わせることが甲2から当業者に知られていたとしても、二層錠の製造上の困難性を加味すると、これをもって直ちにテルミサルタンとアムロジピンとを含有する二層錠を製造することまでもが動機づけられたとはいえない。
(カ)また、請求人は審判請求書45頁最終段落?46頁1行において、甲1には、アンジオテンシンII受容体拮抗剤の一つであるテルミサルタンをヒドロクロロチアジド(HCTZ)と組み合わせた錠剤が記載されているが、当該テルミサルタンにおいても、甲3及び甲4に接した当業者であれば、当該HCTZに代えてアムロジピンとを組み合わせた構成とすることは、容易に想到できたものである旨主張する。
しかしながら、上記(ウ)で上述のとおり、不適合性の成分を分離する等の技術課題解決の強い要請がない限り、通常、当業者は製造困難な二層錠を選択しないといえることから、たとえ甲3及び甲4を参酌しても、二層錠の製造上の困難性を加味すると、直ちにテルミサルタンとアムロジピンとを含有する二層錠を製造することまでもが当業者であっても容易に想到できたものとはいえない。

(ii)(ア)次に、上記(i)(ウ)で既述のとおり、二層錠は不適合性の成分を分離するために適用されるものであり(記載事項12a)、実際に、甲1はテルミサルタンとHCTZとを含有する二層錠によって、HCTZとテルミサルタン配合剤中の塩基性化合物との不適合性の問題を克服できることが記載されている(記載事項1b)。そこで、アムロジピンとテルミサルタン配合剤中の塩基性化合物との不適合性の技術課題が本件特許の優先権主張日において当業者に知られており、その技術課題の解決のために、甲1発明においてクロロチアジドに代えてアムロジピンを適用することが当業者に動機づけられたか否かという観点から、甲1発明における利尿剤とアムロジピンとの置換の容易想到性を検討する。
(イ)まず、アムロジピンと塩基性化合物との不適合性の技術課題が本件の優先権主張日に当業者に知られていたかを検討する。
以下、甲5の記載を見ていく。甲5はタイトルが「固体剤形でのベシル酸アムロジピン-賦形剤の相互作用」とする論文であり(記載事項5a。なお、ベシル酸アムロジピンの構造式は記載事項5c)、本論文は、種々の薬物賦形剤を用いた固体製剤におけるベシル酸アムロジピンの適合性を検討するものと記載されている(記載事項5b)。そして、ベシル酸アムロジピンの安定性に影響を及ぼす種々の因子を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して試験したところ、ベシル酸アムロジピンと賦形剤の二成分1:1混合物は、65℃及び40℃/75%RH(審決注:RHはRelative Humidityすなわち相対湿度のこと)で安定であるものの、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム及び水の混合物がベシル酸アムロジピンに対していくらかの不安定性を誘発すると記載されている(記載事項5b)。さらに、HPLC-質量分析によって確認された主要分解生成物はアムロジピンベシレートグリコシルであり、これは、第一級アミンとラクトースの間の周知のメイラード反応と一致しており、このことから、ラクトースを含まないアムロジピン製剤は、安全性、品質、効能及びプロセスコストの観点から推奨されると記載されている(記載事項5b)。
(ウ)また、アムロジピンの分解を、ベシル酸アムロジピンと以下の賦形剤:トウモロコシデンプン、ラクトース、コロイド無水シリカ、微結晶性セルロース、クロスポピドン、デンプングリコール酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム及びステアリン酸マグネシウムのそれぞれを含む二成分混合物(1:1、w/w)を、開放容器中、40℃及び65℃/75%RHの加速条件で2ヵ月間貯蔵したところ、これらの混合物のHPLCクロマトグラムは、ベシル酸アムロジピンの分解の兆候を示さなかった(記載事項5d)。一方、25℃/65%RH及び40℃/75%RHで1、3及び6ヵ月間の貯蔵期間の後、ベシル酸アムロジピンを、トウモロコシデンプン、ラクトース、コロイド状無水シリカ及びステアリン酸マグネシウムと一緒に含む多成分の実際的な製剤(製剤1)の加速条件40℃/75%RHでの結果は、それぞれ約0.8及び0.9の相対保持時間での化合物I及び化合物IIに帰属する2つの分解生成物の二次ピークが見られたことも記載されている(記載事項5d、表1)。そして、表1は同じ条件下で、ラクトースの代わりに微結晶性セルロースが用いられている点で製剤1と異なる製剤2は、分解して化合物I及びIIを生成しなかったことも記載されている(記載事項5d、表1)。
このことから、ベシル酸アムロジピンの分解は、40℃及び65℃/75%RHの加速条件でベシル酸アムロジピン、トウモロコシデンプン、ラクトース、コロイド状無水シリカ及びステアリン酸マグネシウムと一緒に含む多成分(製剤1)において生じるものの、ベシル酸アムロジピンとトウモロコシデンプン、ラクトース、コロイド無水シリカ、微結晶性セルロース、クロスポピドン、デンプングリコール酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウムまたはステアリン酸マグネシウムのそれぞれを含む二成分混合物、及びベシル酸アムロジピン、トウモロコシデンプン、微結晶性セルロース、コロイド状無水シリカ及びステアリン酸マグネシウムと一緒に含む多成分(製剤2)では生じなかったことが理解できる。
(エ)また、甲5には、25%水を含むかまたは含まない条件下で、ベシル酸アムロジピンだけか、あるいは同じ割合のベシル酸アムロジピンとラクトースもしくはステアリン酸マグネシウムまたはその両方との混合物の試料を用いた100℃3時間における迅速スクリーニング実験の結果も示している(記載事項5e、表2)。そして、3時間後のこれらの混合物のHPLC分析は、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム及び水がすべて存在する(66.5%ベシル酸アムロジピンが残る。)場合を除いて、ベシル酸アムロジピンの有意な分解を示さなかったこと、及び4つすべての成分を含む混合物(表2の最後の列)についてのHPLCクロマトグラムから、27.5%の化合物Iに帰属される分解生成物が検出されたことも記載されている(記載事項5e、表2)。
このことから、ベシル酸アムロジピンの分解が生じるのは、100℃3時間において、ベシル酸アムロジピン、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム及び水がすべて存在する場合であり、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、水のいずれかが欠如した場合には100℃3時間においてでもベシル酸アムロジピンの分解が生じないこと、ベシル酸アムロジピンの分解生成物として化合物Iが生じることが理解できる。
(オ)そして、甲5には、固体製剤におけるベシル酸アムロジピンの分解に対する湿度の影響に関する結果も記載されており(記載事項5f)、等しい割合(それぞれ0.5g)のベシル酸アムロジピン-ラクトース-ステアリン酸マグネシウムの混合物中の成分間の適合性に対する水分含量の影響を調査したところ最大で約25%(w/w)の水が存在する水分量で、残留するベシル酸アムロジピンの割合が大幅に低下することが記載されている(記載事項5f、図3)。さらに、ベシル酸アムロジピンの割合の減少とともに分解生成物である化合物Iの割合が増大すること、及び約25%(w/w)の水分含量を超えるとベシル酸アムロジピンの割合は相対的にやや増大し、他方、化合物Iの割合がかなり減少し、水分含量が増加するのに応じて新たな分解生成物である化合物IIが出現し、やや増大することも記載されている(記載事項5f、図3)。加えて、固体状態でのいくつかの薬物の分解に対する水分含量の影響についての従来の研究に照らして、化合物IIの出現は、約25%(w/w)超またはそれ未満の水分含量での異なる分解機構に起因していると推測することができると記載されている(記載事項5f)。
これらの記載から、甲5には、ベシル酸アムロジピン-ラクトース-ステアリン酸マグネシウムの混合物中の成分間の適合性に対する水分含量の影響について、水分含有量が約25%(w/w)超とそれ未満ではベシル酸アムロジピンの分解機構は異なることが示唆されているといえる。
(カ)次に、甲5には、種々の滑沢剤及び塩基性賦形剤の存在下での、ベシル酸アムロジピンのラクトースとの適合性に関する結果も記載されており(記載事項5g)、25%(w/w)の水の存在下でベシル酸アムロジピン、滑沢剤及びラクトース(それぞれ0.5g)の混合物を調製し、80℃で4時間貯蔵した後の残留するベシル酸アムロジピン及び生成した分解生成物の割合を決定したことも記載されている(記載事項5g、表3)。そして、ベシル酸アムロジピンの分解は、非常に低い溶解度を有するステアリン酸亜鉛及び炭酸カルシウムの場合、及び固体薬物粒子を取り囲む水層に対して相対的により低いpHをもたらすリン酸水素カルシウムの場合において最少であった一方、ステアリン酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウムの場合、第2の分解生成物である化合物IIが高い割合で出現したことも記載されている(記載事項5g)。この分解生成物である化合物IIとして、化合物Iのさらなる分解または加水分解に起因するものと、ベシル酸アムロジピンが直接分解して生じたものの二つが挙げられているものの、化合物IIの解明にはさらなる実験が必要であると記載されている(記載事項5g)。さらに、炭酸ナトリウムは非常に高い非適合性を示し、褐色のスラリーが形成され、そこでは化合物IIだけが検出されること、及び化合物Iの非存在下及びスラリー形成は炭酸ナトリウムの高い塩基性に起因している可能性があることも記載されている(記載事項5g、表3)。そして、甲5には、ラクトースの存在下では、ベシル酸アムロジピンの分解はベシル酸アムロジピンで飽和した水層に対して滑沢剤によってもたらされる塩基度に大幅に依存していることを示していると記載されている(記載事項5g)。
これらの記載から、25%(w/w)水の存在下、ベシル酸アムロジピン及びラクトース中ベシル酸アムロジピンの分解度合いは、共存する滑沢剤及び塩基性賦形剤の存在によって大きく異なり、ラクトースの存在下では、ベシル酸アムロジピンの分解はベシル酸アムロジピンで飽和した水層に対して滑沢剤によってもたらされる塩基度に大幅に依存していることが読み取れる。
(キ)また、甲5には、HPLC/MSによりベシル酸アムロジピンの分解生成物の同定を行ったことが記載されており(記載事項5h)、化合物Iがベシル酸アムロジピン-ラクトース縮合生成物であること、及び最終生成物としてグリコシルアミン(アムロジピンベシレートグルコシル、化合物I)が生成する、ラクトース(還元性炭水化物)とベシル酸アムロジピン(第一級アミン基を含む)の間のメイラード型の反応と一致することも記載されている(記載事項5h、スキーム2)。そして、この反応は、塩基及び水によって容易に触媒作用され、ステアリン酸マグネシウムの触媒効果はpHの局在化した変化によることも記載されている(記載事項5h)。
このことから、ベシル酸アムロジピンの分解生成物である化合物Iはベシル酸アムロジピン-ラクトース縮合生成物であり、この生成物はステアリン酸マグネシウムと水との触媒存在下でベシル酸アムロジピン及びラクトースとの間にメイラード型反応が生じた結果によることが読み取れる。
(ク)さらに、甲5には、溶液中におけるベシル酸アムロジピンの安定性についての結果も記載されており(記載事項5i)、この部分での研究は、溶液中でのベシル酸アムロジピンの分解についての文献情報が存在しないこと、及び固体中でのそのような分解との関連を示すことを試みたいとの願望から、実施されたことが記載されている(記載事項5i)。また、様々なpH値におけるリン酸緩衝液中室温保存下での8日経過後のベシル酸アムロジピンのpH分解プロファイルから、pH1及び10で、それぞれ、当初濃度の約75%及び50%まで減少し、pH4?7の領域内では、分解は重大ではなく、その分解率はpH非依存的であったこと、及びこの分解はアムロジピンのアセチル基の酸及びアルカリ加水分解の両方に起因していることも記載されている(記載事項5i、図6)。また、65℃で40hr貯蔵した、0.1M HCl(pH=約1)ならびにpH値2、5及び9のリン酸緩衝液中でのベシル酸アムロジピンの安定性に関するベシル酸アムロジピンの分解プロファイルが示されており(記載事項5i、図7)、塩基性領域においてベシル酸アムロジピンの分解はpHとともに増大することも記載されている(記載事項5i)。また、溶液中で生じた分解生成物はHPLCクロマトグラムでは検出されず、ベシル酸アムロジピンが溶液中にある場合、HPLC法では検出されない分解生成物が得られることも記載されている(記載事項5i)。
ここには、溶液中におけるベシル酸アムロジピンの安定性のpH依存性について記載されており、アルカリ領域では溶液中のベシル酸アムロジピンの分解速度が速いことは読み取れる。しかしながら、固体中でのそのような分解との関連を示すことを試みたいとの願望があった旨記載されているものの、溶液中でのベシル酸アムロジピンの分解と固体中でのベシル酸アムロジピンの分解とがどのように関連しているかは何ら記載されていない。また、ベシル酸アムロジピンが溶液中にある場合、HPLC法では検出されない分解生成物が得られることが記載されていることから、溶液中におけるベシル酸アムロジピンの分解は固体製剤中におけるベシル酸アムロジピンの分解とは異なると示唆されているといえる。
(ケ)そして、甲5には、結論として、本研究は、ステアリン酸マグネシウムまたは他の任意の塩基性賦形剤及び水の存在下での、ベシル酸アムロジピンとラクトースの間の固体製剤における不適合性を示したこと、この不適合性はメイラード反応の結果として生じる、アムロジピンベシレートグリコシル(化合物I)の生成と関連しているベシル酸アムロジピン分解によること、ラクトース及び塩基性滑沢剤はベシル酸アムロジピンの固体製剤では回避すべきであること、高度に水分保護された包装材料(アルミニウム/アルミニウム)を考慮すべきであること、ベシル酸アムロジピン製剤からラクトースを排除することが純度、安全性及び製造プロセスの観点の関連で最良の選択である可能性があることが記載されている(記載事項5j)。
ここには、固体製剤において、ベシル酸アムロジピンの分解がステアリン酸マグネシウムまたは他の任意の塩基性賦形剤及び水の存在下での、ベシル酸アムロジピンとラクトースの間の固体製剤における不適合性によるとしているものの、ベシル酸アムロジピンの分解が塩基性成分だけによるとは記載されていない。そして、甲5はベシル酸アムロジピンの固体製剤では、ラクトース及び塩基性滑沢剤の併用を回避し、高度な水分保護を行うべきとしているものの、ベシル酸アムロジピンの固体製剤で塩基性成分の使用を一切避けるべきとは結論づけていない。さらに、甲5の結論は、溶液中におけるベシル酸アムロジピンの安定性とベシル酸アムロジピンの固体製剤におけるベシル酸アムロジピンの安定性との関連性については何ら言及していない。
(コ)以上のことから、甲5についてまとめると、ステアリン酸マグネシウムまたは他の任意の塩基性賦形剤及び水の存在下での、ベシル酸アムロジピンとラクトースの間の固体製剤における不適合性が示されており(上記(イ)?(カ)、(ケ))、この不適合性がメイラード反応の結果として生じる、アムロジピンベシレートグリコシル(化合物I)の生成と関連しているベシル酸アムロジピン分解によること(上記(イ)、(キ)、(ケ))が記載されているといえる。そして、ベシル酸アムロジピン-ラクトース-ステアリン酸マグネシウムの混合物中の成分間の適合性に対する水分含量の影響について、水分含有量が約25%(w/w)超とそれ未満ではベシル酸アムロジピンの分解機構は異なることが示されているとともに(上記(カ))、溶液中でのベシル酸アムロジピンの分解と固体中でのベシル酸アムロジピンの分解とがどのように関連しているかは何ら記載されておらず(上記(ク))、溶液中におけるベシル酸アムロジピンの分解は固体製剤中におけるベシル酸アムロジピンの分解とは異なると示唆されているといえる(上記(ク))。そして、甲5は、ベシル酸アムロジピンの固体製剤では、ラクトース及び塩基性滑沢剤の併用を回避し、高度な水分保護を行うべきであると結論づけている(上記(イ)、(ケ))。
しかしながら、甲5には、アムロジピン固体製剤においてアムロジピンと塩基性化合物とを併用することまでは排除していないことから、甲5にはアムロジピン固体製剤においてアムロジピンと塩基性化合物との不適合性の問題までは記載も示唆もしていないといえる。事実、甲5には、ベシル酸アムロジピンと塩基性滑沢剤であるステアリン酸マグネシウムの混合物中では、ベシル酸アムロジピンは分解しなかったと記載されている(記載事項5e)。その上、甲5にはアムロジピンと強塩基性化合物のみを含有する固体製剤におけるアムロジピンの分解を確認した実験結果は何ら示されていない。
また、甲5以外の証拠を参酌しても、固体製剤におけるアムロジピンと塩基性化合物との不適合性の技術課題に関する記載は何ら認められない。
そして、一般に薬剤の溶液中における分解と薬剤の固体製剤における分解が同一の機構によって生じるとの技術常識もない。むしろ、上記のとおり、ベシル酸アムロジピンの分解機構は水分含有量が約25%(w/w)超とそれ未満で異なると解される。
したがって、固体製剤におけるアムロジピンと塩基性化合物との不適合性の技術課題は本件特許の優先権主張日に当業者に知られていなかったといえる。そのため、アムロジピンとテルミサルタン配合剤中の塩基性化合物との不適合性の技術課題解決の要請が当業者に認識されていたとは認められず、甲1発明においてクロロチアジドに代えてアムロジピンを適用して二層錠とすることが当業者に動機づけられたとはいえない。
(サ)この点、請求人は口頭審理陳述要領書22頁2段落目?23頁2段落目にかけて、以下のように主張する。
「被請求人は、水溶液と固体における化合物の安定性は全く異なるかのように主張するが、錠剤は固体であるとしても、水分と全く無縁で存在するわけではない。
例えば、錠剤の製造時、特に造粒時には水の添加が行われることはよく知られており、例えば甲第1号証では、テルミサルタンと塩基性物質とを含有する水溶液を噴霧乾燥して顆粒が製造されている。この水溶液は当然にアルカリ性であるから、アムロジピンベシル酸塩を添加した場合に分解が起こるであろうことは甲第5号証の記載から容易に予測可能である。
また、アムロジピンベシル酸塩を別に造粒(湿式造粒を採用した場合には水分の添加が行われる)し、テルミサルタンと塩基性物質を含む噴霧乾燥物と混合する場合であっても、造粒物から完全に水分を排除することは難しく、錠剤中の塩基性物質がアムロジピンベシル酸塩周辺の微環境中の水分に溶解し、分解反応が起こることは容易に予測できる。
さらに、製造後の錠剤の安定性に温度、光のほか湿度(水分)が影響することは当業者によく知られていることであり、甲第5号証(第3図)においても、湿度の影響について調査するために、各種の水分濃度において固体状態のラクトース、ステアリン酸マグネシウム存在下でのアムロジピンベシレートの分解の程度が調査され(甲第5号証20頁左欄20行?右欄15行)、塩基および水によって触媒されるメイラード型の反応が、湿度およびpHの最適ミクロ環境条件がそろえば固体状態でも起こることも記載されている(甲第5号証21頁右欄?22頁左欄8行)。
甲第7号証においても、『安定な処方物を与えるためには、非吸湿性であることが望ましい。薬剤含量の高い固体状態では、吸収された水分の被膜は加水分解および化学分解のための促進因子として作用することがありうる。』(3頁左下欄)との記載がされている。
このように、固体状態であっても吸湿により大気中の水分が薬物の近傍に水性環境を形成する。したがって、塩基性水溶液中で薬物が安定でない場合、吸湿により塩基性環境を形成する製剤中では、当該薬物が不安定化されることは、当業者であれば十分に予測可能である。」

そこで、上記主張について検討する。
(a)まず、テルミサルタン含有製剤の製造時の水分について、甲1には二層錠剤を製造する際に、テルミサルタンを含有する水溶液を用いているものの圧縮工程の前に噴霧乾燥が行われていることから(記載事項1c)、テルミサルタンを含有する第一錠剤層組成物と利尿剤を含有する第二錠剤層組成物とが接する圧縮工程時にはほとんどの水分は排除されていると解される。事実、甲1の実施例3及び実施例4では、「精製水」は「最終生成物中にない」と明記されている(記載事項1d)。また、テルミサルタン含有製剤が吸湿性を示すため湿気からの保護が必要であること(記載事項10a)、及び、固形製剤の製造技術、株式会社シーエムシー出版、2003年1月27日普及版第1刷、141頁には「6.1.2 乾式法(中略)薬物が水や熱に対して不安定であったり、吸湿性であったり、また直打法を採用するには流動性がわるかったりするときに、選択される方法であるといえよう。」と記載されているように、吸湿性の薬物原料を製造する際に乾式法を適用することは本件特許の優先権主張日に当業者に知られていたことであるから、当業者であればテルミサルタン含有製剤の吸湿性を考慮して、テルミサルタン含有製剤を製造する際にも当然乾式法を適用するといえる。
また、第2層に含有されるアムロジピンについても、たとえアムロジピン含有組成物を湿式造粒法で造粒した場合であっても、甲1の実施例1では噴霧乾燥が行われることが示されるように、造粒された組成物は乾燥されるため、アムロジピン含有組成物の造粒物に多量の水分が残存しているとも認められない。
そうすると、実際の品質管理された製剤工程において多量の水分が固体製剤に包含されることは考え難いといえる。
(b)また、テルミサルタン含有製剤の保存時の安定性について、そもそもテルミサルタン自体には吸湿性はない(被請求人による7月12日付け上申書ととも提出された参考資料3の3頁III.1.(3))。そして、テルミサルタン含有製剤であるミカルディス(登録商標)錠20mg、40mgについて、25℃、60%及び75%R.H.(暗所)で1ヵ月間・無包装の苛酷試験条件下では「性状がわずかに質変した」と記載されるのみである(上記参考資料3の5頁の上側の表)。さらに、ミカルディス錠80mgについて、25℃、75%R.H.(暗所)で1ヵ月間・無包装の苛酷試験条件下では「変化及び変動は認められなかった。」とされている(上記参考資料3の5頁の下側の表)。また、ミカルディス錠20mg、40mg、及び80mgにおいて、93%R.H.で1ヵ月間保存という苛酷試験において吸湿が見られたものの、無包装、50℃(暗所)で1ヵ月・無包装の苛酷試験条件下でもこれらの錠剤は「変化なし」もしくは「変化及び変動は認められなかった。」とされている(上記参考資料3の5頁に記載された2つの表)。
そうすると、長期間苛酷条件でようやくテルミサルタン含有製剤は吸湿するのであって、通常の保存条件においてテルミサルタン含有製剤が多量の水分を吸収するとは通常考え難い。
また、ミカルディス錠20mg、40mg、及び80mgの貯法・保存条件について、「室温保存」とともに「【取扱い上の注意】分包後は吸湿して軟化、黄変することがあるので、高温・多湿を避けて保存すること。」とされている(上記参考資料3の39頁「3.貯法・保存条件」の項)。加えて、甲1の9頁1?4行にはわずかに吸湿性の傾向を示す錠剤を、アルミニウム箔ブリスターパック、乾燥剤を含有するポリプロピレンチューブやHDPEびんのような防湿包装材料を用いて包装することが記載されており、甲10には「錠剤は、投与の直前までブリスターから取出さないこと。」(記載事項10(d))と記載されており、上記参考資料3には「分包後は吸湿して軟化、黄変することがあるので、高温・多湿を避けて保存すること。」(上記参考資料3の39頁「3.貯法・保存条件」の項)と記載されている。
そうすると、当業者は保存の際に放湿包装したりして、テルミサルタン含有製剤の水分吸収を極力回避するといえる。そして、このような通常の保存条件において、請求人が主張するような、甲5に記載されるメイラード反応が起きる湿度(25%水分)及びpHのミクロ環境条件がテルミサルタン含有製剤の吸湿によって生じるとも考え難い。
(c)これらのことから、テルミサルタンとアムロジピンを含有する固体製剤(合剤)とする場合において含まれる水分量は低く、テルミサルタン含有製剤に含まれていた水分が隣接するアムロジピン含有製剤へ多量に到達するとは考え難い。すなわち、テルミサルタンとアムロジピンを含有する固体製剤(合剤)において、テルミサルタン含有製剤によってアムロジピン溶液と同視し得る状態が惹起されるとは解されない。したがって、製造中に吸着された水分及び保存中の吸湿による水分によって、固体製剤中のアムロジピンが塩基性水溶液中と同視できる程の環境に置かれるとは認められず、上記主張は採用できない。
なお、請求人が援用する甲7には、薬剤含量の高い固体状態では吸収された水分の被膜は加水分解及び化学分解のための促進因子となり得るという一般論が記載されているに過ぎない(記載事項7a)。それどころか、甲7にはベシル酸アムロジピン(アムロジピンベシレート)は非吸湿性であり、そのため、内因性の化学分解の危険を最小にしながら安定な処方物が得られる旨記載されている(記載事項7a)。そのため、甲7を参酌しても上記判断は左右されない。
(シ)また、請求人は、審判請求書46頁4段落目において、強塩基環境下でアムロジピンのアセチル基が加水分解されて、不安定となることが知られていたと主張する。
しかしながら、請求人の主張の根拠となる甲5の記載は溶液中のベシル酸アムロジピンに関する記載であり、上述のとおり、甲5には溶液中におけるベシル酸アムロジピンの分解は固体製剤中におけるベシル酸アムロジピンの分解とは異なると示唆されている。そして、甲5にはベシル酸アムロジピンと塩基性滑沢剤であるステアリン酸マグネシウムの混合物中では、ベシル酸アムロジピンは分解しなかったと記載されていることからも(記載事項5e)、甲5にはアムロジピン固体製剤においてアムロジピンと塩基性化合物との不適合性の技術課題を記載も示唆もしていないといえる。
そうすると、甲5に溶液中において強塩基環境下でアムロジピンのアセチル基が加水分解されて不安定となることが記載されていることをもって、固体製剤においても強塩基環境下でアムロジピンのアセチル基が加水分解されて不安定となることは当業者が認識できたとは認められない。

(iii)相違点1についての判断のまとめ
以上のとおり、甲1発明において利尿剤に代えてアムロジピンを用いる動機づけがなく、当業者であっても相違点1に係る構成を容易に想到し得ない。

ウ 相違点2についての判断
用量に関する相違点2は相違点1を前提としており、上記のとおり相違点1に係る構成が当業者であっても容易に想到し得ない以上、相違点2に係る構成も当業者であっても容易に想到し得ない。

エ 本件発明1の効果の予測性について
本件発明の効果については、明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】に次のように記載されている。「本発明によれば、テルミサルタンとアムロジピンを含む多剤混合薬の調製と関連している問題は、溶解性錠剤マトリックス中に好ましくは実質的にアモルファスな形態のテルミサルタンを有する第1層と、崩壊性又は浸食性錠剤マトリックス中にアムロジピンを有する第2層を含む二層医薬錠剤によって最良に取り扱うことができる。/本発明による錠剤は、難水溶性テルミサルタンが著しくpH非依存的に溶解し、それによって、生理的pHレベルでの薬剤の溶解、及びアムロジピンの十分な安定性及び薬剤放出が容易になる。錠剤構造は、また、アムロジピンとテルミサルタン製剤の塩基性成分との不適合性によって引き起こされる安定性の問題を克服する。」。すなわち、本件発明の効果は、アムロジピンとテルミサルタン製剤の塩基性成分との不適合性によって引き起こされる安定性の技術課題を解決するものである。
一方、上記イ(ii)(イ)?(コ)で既述のとおり、本件特許の優先権主張日当時には、アムロジピンとテルミサルタン製剤中の塩基性成分との不適合性は当業者に知られていなかった以上、甲1発明においても、アムロジピンとテルミサルタン製剤の塩基性成分との不適合性によって引き起こされる安定性の技術課題を認識し得なかったといえる。そうすると、本件発明1の効果は甲1発明から予測できるとはいえない。

なお、効果の点につき、請求人は本件特許発明の効果は、甲1発明の効果と比べて格別顕著ではないとしているが(審判請求書47頁最終段落?48頁1段落目)、当該主張はアムロジピンがHCTZと同じく塩基性成分との不適合性を有することが甲5から本件特許の優先権主張日当時に当業者に知られていることを前提としており、妥当でない。

オ 小括
以上の理由から、訂正後の本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?10、13?15について
本件発明2?7、9、13は本件発明1をさらに限定するものであり、また、本件発明8、10、14、15は本件発明1を直接的または間接的に引用する方法の発明であるところ、本件発明1が当業者でも容易に発明し得たものでない以上、本件発明2?10、13?15も当業者が容易に発明し得たものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり、訂正後の本件特許の請求項1?10、13?15に係る発明は、無効理由1によっては無効とすることができない。

第6 無効理由2についての当審の判断

請求人の主張する無効理由2は、本件特許の訂正後の請求項1?7、9、13に係る各特許発明は、甲第10号証、甲第1号証、甲第2号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第11号証、甲第14号証、及び甲第15号証、並びに甲第12号証及び甲第13号証に記載された周知技術及び甲第8号証、甲第9号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである、
というものである(調書、審判請求書「第3」II.(20頁)及び口頭審理陳述要領書5-1.(ア)ア-1及びア-2(1)(2?4頁)参照。)。
前記「第5」と同様、無効理由2の対象とされる訂正後の請求項1?7、9、13に係る発明を、以下、前記「第3」で記載したとおり、それぞれ、本件発明1?7、9、13ともいい、「第6」において、これらをまとめて、「本件発明」ということもある。

そして、本件発明は、以下の理由により、無効理由2によって無効にすべきとは判断できない。

1.証拠方法の記載事項

「第5」1.と同様である。

2.甲10に記載された発明
記載事項10a及び記載事項10cから、甲10には「テルミサルタンと水酸化ナトリウム、メグルミン、ポピドン、ソルビトール及びステアリン酸マグネシウムを含み、他の抗高血圧症剤との組み合わせで用いられる錠剤」(以下、「甲10発明」という。)が記載されている。

3.本件発明と甲10発明との対比・判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0014】には水溶性希釈剤としてソルビトールが記載されており、水酸化ナトリウム及びメグルミンが塩基性物質であることも記載されていることから、甲10のソルビトールは水溶性希釈剤、水酸化ナトリウム及びメグルミンは塩基性物質に相当する。 さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0011】に「“溶解性錠剤マトリックス”という用語は、生理的水性媒体に容易に溶解する即放性(高速溶解)特性を有する医薬錠剤ベース製剤を意味する。」と記載されており、段落【0018】には「得られた二層錠剤は、迅速に、かつ著しくpH非依存的な様式において有効成分を放出し、完全な放出は60分未満に生じ、主要な部分の放出は15分未満に生じる。/本発明によれば、有効成分、特に、テルミサルタンの実質的に増大した溶解速度が達成される。薬剤荷重の少なくとも通常は70%、典型的には少なくとも90%が30分後に溶解する。」(「/」は改行を意味する。)と記載されている。さらに、甲10の錠剤は「経口投与ののちに、テルミサルタンの血中濃度は0.5?1時間でピーク(Cmax)に達した。」(記載事項10b)と記載されており、この最大血中濃度の達成時間からすると、テルミサルタンの溶解速度は当然に甲10の錠剤マトリックスにおいても達成されていると推認される。
よって、甲10の錠剤マトリックスは、溶解性助剤マトリックスであるといえる。
そうすると、本件発明1と甲10記載の発明とは、水溶性希釈剤及び塩基性物質を含む溶解性錠剤マトリックス中にテルミサルタンを有する医薬錠剤である点で一致するものの、以下の点で相違する。
相違点A:本件発明1は、第1層にテルミサルタンを、第2層にアムロジ ピンを有する二層錠剤の形態とするのに対して、甲10発明には 他の抗高血圧症剤を組み合わせで用いられるとしても、第1層に テルミサルタンを、第2層にアムロジピンを有する二層錠とする とは特定されていない点。
相違点B:本件発明1ではアムロジピンを有する第2層を崩壊性又は浸食 性錠剤マトリックスで構成すると特定されているのに対して、甲 10発明ではそのような特定がなされていない点。
相違点C:本件発明1ではテルミサルタンが40mgまたは80mgであ り、アムロジピンが5mgと特定されているのに対して、甲10 発明ではテルミサルタン40mg/ヒドロクロロチアジド12. 5mg、もしくはテルミサルタン80mg/ヒドロクロロチアジ ド12.5mgの組み合わせを具備しているものの、テルミサル タンが40mgまたは80mg、アムロジピンが5mgとは特定 されていない点。

イ 相違点Aについての判断
[前提]
(1)アンジオテンシンII受容体拮抗剤とカルシウム拮抗剤とを組み合わせて用いることは本件特許の優先権主張日において当業者に広く知られていたといえる(記載事項4a、4b、記載事項11a?11c、記載事項14a?14c、記載事項15a)。
(2)甲2にはテルミサルタンを含む錠剤とアムロジピンを含む錠剤とを患者に同時に投与したことが記載されていることから(記載事項2a?2d)、テルミサルタンとアムロジピンを組み合わせることが本件特許の優先権主張日に当業者に知られていたといえる。
(3)アンジオテンシンII受容体拮抗剤であるバルサルタンをヒドロクロロチアジド(HCTZ)とを合剤として製剤化することは本件特許の優先権主張日に当業者に知られていたといえる(記載事項3a?3d)。
(4)バルサルタンとアムロジピンとを合剤として製剤化することは本件特許の優先権主張日に当業者に知られていたといえる(記載事項4a、4b)。
(5)テルミサルタン及び利尿剤とを二層錠とすることは本件特許の優先権主張日に当業者に知られていたといえる(記載事項1a?1e、記載事項6a?6c)。
(6)テルミサルタンは高血圧症及び心不全等の治療に使用されるアンジオテンシンII拮抗薬であることは本件特許の優先権主張日に当業者に広く知られていたといえる(記載事項8a)。
(7)テルミサルタンが2型糖尿病の治療にも使用されることが本件特許の優先権主張日に当業者に知られていたといえる(記載事項9a)。
(8)テルミサルタン20mg、40mg、80mg錠がミカルディス(登録商標)として本件特許の優先権主張日に当業者に知られていたといえる(記載事項10a?10d)。
(9)甲16の請求項1の一般式(I)で表されるアンジオテンシンII受容体拮抗剤と利尿剤との合剤(記載事項16a?16c)、及び甲17の請求項1の一般式(I)で表されるアンジオテンシンII受容体拮抗剤と利尿剤との合剤(記載事項17a、17b)が本件特許の優先権主張日に当業者に知られていたといえる。
(10)テルミサルタンが利尿剤、カルシウム拮抗剤との併用で降圧作用が増強されることは本件特許の優先権主張日前に既に当業者に広く知られていたといえる(記載事項18b、記載事項22a)。
(11)テルミサルタンの錠剤は本件特許の優先権主張日前に既に米国、欧州、日本で販売されており(記載事項20a)、さらに併用薬として良いとされていた利尿剤(記載事項18b)との配合剤は米国、EUにおいて承認されていたといえ(記載事項19a、記載事項21a)、米国ではミカルディスHCTという錠剤で販売されていたといえる(記載事項21a)。

これらの前提を踏まえて、以下、甲10発明において第1層にテルミサルタンを、第2層にアムロジピンを有する二層錠とすることを当業者が容易に想到し得るかを検討する。

(ア)まず、甲10は既に市販されているミカルディス(登録商標)錠の医薬品インタビューフォームであることから、甲10発明は完成した錠剤である。そして、二層錠は組成の異なる粉末または顆粒を層状に積み重ねて錠剤したものであるから(記載事項26a)、二層錠の原料として粉末または顆粒が用いられることは本件特許の優先権主張日の技術常識である。そのため、完成された錠剤を二層錠の原料に用いることは技術常識であったとはいえない。
そうすると、甲10に「他の高血圧症剤との組み合わせで用いられる。」(記載事項10c)と記載されているからといって、テルミサルタンと他の高血圧症剤とを二層錠化することまでは示唆されているとはいえない。
(イ)そして、二層錠はたいてい不適合性の成分を物理的または化学的に分離するために、もしくは繰り返しまたは持続的な作用を呈する製品の製造のために製造される(記載事項12a、記載事項23a、記載事項24a)。しかしながら、要求される厳格な薬事規制に合致した二層錠を安定して製造するにはかなりの専門技術を要することは、本件特許の優先権主張日の技術常識であった(記載事項13a)。そもそも、薬物の特性を生かし、有効性を最大限に発揮でき、安全性が高く、使用に便利な、最適で合理的な剤形を得るための製剤設計には製剤研究者の広い知識、深い経験、優れたバランス感覚などが要求されることも本件特許の優先権主張日の技術常識であった(記載事項25a)。そうすると、特定の二層錠の製造は当業者でも相当の試行錯誤を要し、困難性を伴うものと認められる。
そのため、不適合性の成分を分離する等の技術課題解決の強い要請がない限り、通常、二剤以上の薬剤を合剤とする際に、当業者は製造困難な二層錠を選択しないといえる。
(ウ)そして、上記「第5」3.(1)イ(ii)で検討したとおり、アムロジピンと塩基性化合物との不適合性の技術課題は本件特許の優先権主張日当時に当業者に知られていなかったといえる。そのため、アムロジピンとテルミサルタン配合剤中の塩基性化合物との不適合性の問題が当業者に認識されていたとは認められず、甲10発明において第1層にテルミサルタンを、第2層にアムロジピンを有する二層錠とすることの動機づけは認められない。

よって、たとえ上記前提があったとしても、甲10発明において第1層にテルミサルタンを、第2層にアムロジピンを有する二層錠とすることを当業者が容易に想到し得ない。

この点、請求人は、テルミサルタンとアムロジピンを含む合剤として製剤化したときに、二層錠の形態をとることは、本件特許の優先日における周知技術に基づいて当業者が容易に想到できた旨主張する(審判請求書57頁2段落目?58頁3段落目)。しかしながら、前記「第5」3.(1)イ(ii)で検討したとおり、固体製剤におけるアムロジピンと塩基性化合物との不適合性の技術課題が本件特許の優先権主張日当時に当業者に知られていたとはいえないことから、上記主張はアムロジピンがHCTZと同じく塩基性成分との不適合性を有することが甲5から当業者に知られていることを前提としており、妥当でない。

ウ 相違点B及び相違点Cについての判断
アムロジピンを有する第2層のマトリックスに関する相違点B及び用量に関する相違点Cは相違点Aを前提としており、上記のとおり相違点Aに係る構成が当業者であっても容易に想到し得ない以上、相違点B及び相違点Cに係る構成も当業者であっても容易に想到し得ない。

エ 本件発明1の効果の予測性について
本件発明の効果については、明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】に次のように記載されている。「本発明によれば、テルミサルタンとアムロジピンを含む多剤混合薬の調製と関連している問題は、溶解性錠剤マトリックス中に好ましくは実質的にアモルファスな形態のテルミサルタンを有する第1層と、崩壊性又は浸食性錠剤マトリックス中にアムロジピンを有する第2層を含む二層医薬錠剤によって最良に取り扱うことができる。/本発明による錠剤は、難水溶性テルミサルタンが著しくpH非依存的に溶解し、それによって、生理的pHレベルでの薬剤の溶解、及びアムロジピンの十分な安定性及び薬剤放出が容易になる。錠剤構造は、また、アムロジピンとテルミサルタン製剤の塩基性成分との不適合性によって引き起こされる安定性の問題を克服する。」。すなわち、本件発明の効果は、アムロジピンとテルミサルタン製剤の塩基性成分との不適合性によって引き起こされる安定性の技術課題を解決するものである。
一方、上記のとおり、本件特許の優先権主張日には、アムロジピンとテルミサルタン製剤の塩基性成分との不適合性は当業者に知られていなかった以上、甲10発明においても、アムロジピンとテルミサルタン製剤の塩基性成分との不適合性によって引き起こされる安定性の技術課題を認識し得なかった。そうすると、本件発明1の効果は甲10発明から予測し得るものとはいえない。

なお、効果の点につき、請求人は本件特許発明の効果は、甲10発明の効果と比べて格別顕著ではないとしているが(審判請求書59頁最終段落?60頁3段落目)、当該主張はアムロジピンがHCTZと同じく塩基性成分との不適合性を有することが甲5から当業者に知られていることを前提としており、妥当でない。

オ 小括
以上の理由から、訂正後の本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?7、9、13について
本件発明2?7、9、13は本件発明1をさらに限定するものであり、本件発明1が当業者でも容易に発明し得たものでない以上、本件発明2?7、9、13も当業者が容易に発明し得たものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり、訂正後の本件特許の請求項1?7、9、13に係る発明は、無効理由2によっては無効とすることができない。

第7 むすび

以上のとおりであるから、平成28年4月1日付け訂正請求書に係る訂正の請求は認め、当該訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?10、13?15に係る発明は、無効理由1によっては無効とすることができず、また、当該訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?7、9、13に係る発明は、無効理由2によっては無効とすることができない。

そして、審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性希釈剤及び塩基性物質を含む溶解性錠剤マトリックス中に40mgまたは80mgのテルミサルタンを有する第1層と崩壊性又は浸食性錠剤マトリックス中に5mgのアムロジピンを有する第2層を含む医薬錠剤。
【請求項2】
テルミサルタンがアモルファスな形態にある、請求項1記載の錠剤。
【請求項3】
溶解性錠剤マトリックスが即放性特性を有する、請求項1記載の錠剤。
【請求項4】
塩基性物質が、アルカリ金属水酸化物、塩基性アミノ酸及びメグルミンより選ばれる、請求項1記載の錠剤。
【請求項5】
水溶性希釈剤が、単糖類;オリゴ糖類;及び糖アルコールより選ばれる、請求項1記載の錠剤。
【請求項6】
水溶性希釈剤が、グルコース;スクロース、ラクトース;ソルビトール、マンニトール、又はキシリトールである、請求項5記載の錠剤。
【請求項7】
溶解性錠剤マトリックスが、結合剤、担体、充填剤、滑沢剤、流動調整剤、結晶化抑制剤、可溶化剤、着色剤、pH調整剤、界面活性剤及び乳化剤より選ばれる他の賦形剤及び補助剤をさらに含む、請求項1記載の錠剤。
【請求項8】
テルミサルタンを有する第1錠剤層組成物を、テルミサルタンと塩基性物質を含む水溶液を噴霧乾燥して噴霧乾燥造粒物を得、前記噴霧乾燥造粒物と水溶性希釈剤とを混合してプレミックスを得、前記プレミックスと滑沢剤とを混合して最終ブレンドを得ることにより製造することを含む、請求項1記載の錠剤を製造する方法。
【請求項9】
第2層の崩壊性又は浸食性錠剤マトリックスが、1以上の充填剤、崩壊剤、滑沢剤及び、任意に、結合剤、流動調整剤又は他の賦形剤及び補助剤を含む、請求項1記載の錠剤。
【請求項10】
アムロジピンを有する第2錠剤層組成物を、直接圧縮、湿式造粒又はローラ圧縮プロセスによって製造することを含む、請求項9記載の錠剤を製造する方法。
【請求項11】 (削除)
【請求項12】 (削除)
【請求項13】
耐湿性包装材料に包装された、請求項1記載の錠剤。
【請求項14】
高血圧症を、単独で、又は、慢性安定狭心症、血管痙攣狭心症、脳卒中、心筋梗塞、一過性脳虚血発作、うっ血性心不全、心臓血管疾患、糖尿病、インスリン抵抗、グルコース寛容減損、糖尿病前期、2型糖尿病、糖尿病性腎障害、代謝性症候群(X症候群)、肥満、異脂肪血症、過トリグリセリド血症、C反応性タンパク質の高血清濃度、リポタンパク(a)の高血清濃度、ホモシステインの高血清濃度、低密度リポタンパク質(LDL)-コレステロールの高血清濃度、リポタンパク関連のホスホリパーゼ(A2)の高血清濃度、高密度リポタンパク質(HDL)-コレステロールの低血清濃度、HDL(2b)-コレステロールの低血清濃度、アジポネクチンの低血清濃度、認識衰退及び痴呆からなる群より選ばれる症状の治療又は予防と組み合わせて、治療するための請求項1記載の錠剤の製造方法。
【請求項15】
治療又は予防される症状が慢性安定狭心症、血管痙攣狭心症、脳卒中、心筋梗塞、うっ血性心不全、糖尿病、異脂肪血症又は痴呆である、請求項14記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-08-04 
結審通知日 2016-08-08 
審決日 2016-08-29 
出願番号 特願2007-538343(P2007-538343)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (A61K)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 服部 智
特許庁審判官 渕野 留香
横山 敏志
登録日 2012-11-16 
登録番号 特許第5134963号(P5134963)
発明の名称 テルミサルタンとアムロジピンを含む二層錠剤  
代理人 日野 真美  
代理人 結田 純次  
代理人 今里 崇之  
代理人 西澤 恵美子  
代理人 竹林 則幸  
代理人 日野 真美  
代理人 今里 崇之  
代理人 小林 浩  
代理人 小林 浩  
代理人 森田 ひとみ  
代理人 西澤 恵美子  
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