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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61L
管理番号 1323943
審判番号 不服2014-25304  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-10 
確定日 2017-01-16 
事件の表示 特願2010-548897「生物医学的応用のための勾配コーティング」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月11日国際公開、WO2009/111300、平成23年 4月28日国内公表、特表2011-512957〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成21年2月27日(パリ条約による優先権主張 2008年2月29日 米国)を国際出願日とする特許出願であって、平成25年10月1日付けで拒絶理由が通知され、平成26年4月8日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月1日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同年12月10日に拒絶査定不服審判が請求され、当審において平成28年1月21日付けで拒絶理由が通知され、同年7月13日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?48に係る発明は、平成28年7月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?48にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。

「少なくとも1つの表面を有する医療用インプラントであって、前記少なくとも1つの表面の少なくとも一部に位置するコーティングを有し、前記コーティングは生物活性物質および抗菌剤を含み、
前記コーティングが複数の層を含み、抗菌剤の濃度が少なくとも2層のコーティング層で異なり、
前記抗菌剤の濃度が、インプラントとコーティングの界面の近くより、インプラントとコーティングの界面から遠い方が高く、
前記抗菌剤が、銀であるか、または銀を含み、
前記生物活性物質が、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、βリン酸三カルシウム、ヒドロキシアパタイトとβリン酸三カルシウムの混合物、リン酸一カルシウム、リン酸オクタカルシウム、リン酸二カルシウム水和物(ブラッシュ石)、リン酸二カルシウム無水物(モネタイト)、リン酸三カルシウム無水物、ホワイトロッカイト、リン酸四カルシウム、非晶質リン酸カルシウム、フルオロアパタイト、クロロアパタイト、非化学量論性アパタイト、炭酸アパタイト、リン酸水素カルシウム、カルシウム水素アパタイト、シリケート、アルミネート、ボレート、ゼオライト、ベントナイト、カオリン、およびこれらの組合せといった骨形成促進物質である、医療用インプラント。」

3.当審で通知した拒絶の理由の概要
当審において平成28年1月21日付けで通知した拒絶理由は、以下の理由4を含むものである。

「4)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。」

「4.理由4・・・先願:特願2006-252933号(特開2008-73098号公報)」

4.当審の判断
(1)引用する出願
特願2006-252933号(以下、「先願」という。)
・出願日:平成18年9月19日(本願優先日 2008年(平成20年)2月29日)
・出願公開:平成20年4月3日(特開2008-73098号)
・発明者:佛淵 孝夫、野田 岩男
・出願人:国立大学法人佐賀大学、日本メディカルマテリアル株式会社

(2)先願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面の記載
先願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願当初明細書等」という。)には、次の記載がある。

ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプラントの所定部位に結晶度が90%以下のリン酸カルシウム系材料からなる消失性コーティング膜を形成し、抗菌剤又は抗菌薬を含有させてなることを特徴とする生体インプラント。
【請求項2】
リン酸カルシウム系材料がハイドロキシアパタイト(HA)、第3リン酸カルシウム(TCP)、第4リン酸カルシウム(TeCP)を含むリン酸カルシウム系セラミックス、リン酸カルシウム系ガラス、およびリン酸カルシウム系ガラスセラミックスから選ばれる1種又は2種以上の混合物からなる請求項1記載の生体インプラント。
【請求項3】
膜形成方法が、フレーム溶射、高速フレーム溶射、プラズマ溶射などの溶射法又はスパッタリング、イオンプレーテイング、イオンビーム蒸着、イオンミキシング法などの物理的蒸着法或いはゾルゲル法などの湿式コーティング法が選択される請求項1記載の生体インプラント。
【請求項4】
コーティング膜消失期間をリン酸カルシウム系材料で形成したコーティング膜の結晶度、組成、および膜厚により調整し、1週間から24ヶ月に設定される請求項1記載の生体インプラント。
【請求項5】
コーティング膜の結晶度をコーティング後の熱処理により調節する請求項4記載の生体インプラント。
【請求項6】
コーティング膜が単層又は複数層からなり、抗菌剤または抗菌薬の単位時間あたりの溶出量を表層に近いほど高くする請求項1記載の生体インプラント。
【請求項7】
コーティング槽が複数層からなり、各層の抗菌剤または抗菌薬の単位時間あたりの溶出量を各層の抗菌剤または抗生物質の含有量又は各層の消失速度により調整する請求項1記載の生体インプラント。
【請求項8】
コーティング位置が関節包との接合部およびその周辺である請求項1記載の生体インプラント。」

イ.「【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インプラントの所定部位に消失性コーティング膜を形成し、抗菌剤又は抗菌薬を含有させるので、膜の消失速度により抗菌剤の放出速度をコントロールすることができる。膜の消失速度は膜の結晶度および膜の組成に依存し、膜の消失期間は消失速度と膜厚に依存するので、これらを調整して最適な抗菌環境を所定の部所に、所定期間形成することができる。しかも膜の消失性を利用して抗菌剤を放出するので、非溶解性の無機系抗菌剤を使用することができるようになる。したがって、術後の感染症を防止する有効な態様を要望に応じて構成することができ、人工関節の抜去、再置換、予後不良時の関節固定や手足の切断という最悪の事態を避けることができる。」

ウ.「【0012】
コーティング膜が単層又は複数層から形成することができる。通常、手術直後は感染率も高いので、2以上の層から形成し、抗菌剤または抗菌薬の単位時間あたりの溶出量を表層に近いほど高くするのが好ましい。その溶出量は通常コーティング膜の消失速度に依存するので、コーティング槽が複数層からなり、各層の抗菌剤または抗菌薬の単位時間あたりの溶出量を各層の抗菌剤または抗生物質の含有量又は各層の消失速度により調整する。」

エ.「【0015】
本発明のコーティング膜に抗菌剤又は抗生剤を担持させる方法は、薬剤の種類によって異なる。即ち、バンコマイシンなどの抗生剤の場合は、コーティング層を先に形成させた後に溶かした抗生剤を含浸させる方法を採用する。ヒノキチオールなどの天然系抗菌剤やベンザルコニウムなどの有機系抗菌剤など液体系の抗菌剤の場合も同様の方法が有効であるが、シランカップリングなどの結合剤で固定して使用することができる。一方、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオンなどの金属イオンの抗菌作用を利用する無機系抗菌剤の場合はこれらを予めリン酸カルシウム系材料に担持させ、上記各種コーティング法を採用して担持させることができる。なお、抗菌剤と抗生剤とを両方担持させることができる。」

オ.「【実施例1】
【0016】
HA97%、酸化銀3%を混合し、フレーム溶射法にてチタン基板上に平均20μmの溶射被膜を形成させた。その結晶度は10%であった。図1は本発明の機能を示す概念図である。チタン基板上に形成されたコーティング膜は体液中で次第に溶解し、消失する。溶出に伴い、銀イオンを液中に放出する。
1)銀イオン溶出試験
37℃のリン酸緩衝生理食塩水、牛血清で溶出試験を行った所、24時間でそれぞれ520ppb、4000ppbの溶出を示した
2)抗菌性能試験
JIS Z 2801に従って、大腸菌、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性能を評価した所、それぞれ抗菌活性値4.1及び5.0という高い値を示した
3)被膜の消失
37℃の生理食塩水に浸漬した所、約6ヶ月で被膜が溶解、消失した
【実施例2】
【0017】
実施例1で製作した被膜を650℃、3時間熱処理した。結晶度は60%であった。
37℃のリン酸緩衝生理食塩水、牛血清を用いて銀イオン溶出試験を行った所、24時間でそれぞれ19ppb、1800ppbの溶出を示した。結晶度を変化させてやることによって、溶出特性はこのように大きく変化する。
【実施例3】
【0018】
HA97%、酸化銀3%を混合し、スパッタリング法にてチタン基板上に平均2μmの被膜を形成させた。その結晶度は10%であった。
1)銀イオン溶出試験
37℃の牛血清中で溶出試験を行った所、24時間で280ppbの溶出を示した。
2)抗菌性能試験
JIS Z 2801に従って、大腸菌、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性能を評価した所、抗菌活性値はそれぞれ2.4と2.8であった。
(注記)JIS Z 2801では抗菌活性値2.0以上を抗菌活性ありと判定する。
3)被膜の消失
37℃の生理食塩水に浸漬した所、約3週間で被膜が溶解、消失した。
【実施例4】
【0019】
酸化銀3%とα-TCP97%とを混合し、フレーム溶射法にてチタン基板上に平均40μmの被膜を形成させた。その結晶度は100%であった。
1)銀イオン溶出試験
37℃の牛血清中で溶出試験を行った所、24時間で12000ppbの溶出を示した。
2)抗菌性能試験
JIS Z 2801に従って、大腸菌、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性能を評価した所、抗菌活性値は6.4と6.2という高い値を示した。
【実施例5】
【0020】
銀1.85%を含有するリン酸カルシウム系ガラス粉末をフレーム法にてチタン基板上に平均40μmの溶射被膜を形成させた。コーティング層は非晶質であった。
1)銀イオン溶出試験
37℃の牛血清中で溶出試験を行った所、24時間で2500ppbの溶出を示した
2)抗菌性能試験
JIS Z 2801に従って、大腸菌、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性能を評価した所、抗菌活性値は7.8と4.9という高い値を示した
【実施例6】
【0021】
(人工股関節への適用)
図2Aは正常股関節、図2Bは変形性股関節症を患った股関節および図2Cは人工股関節を適用した股関節の間接部を示す断面図で、人工股関節として図3にシェル(A)とステム(B)との斜視図を示す(出典 図説整形外科診断治療講座(第15巻 人工関節・バイオマテリアル)(室田景久等))。
シェル(A)はTi合金からなり、その上方の半球面部全面には結晶性HAコーティング膜が施されており、そのシェル(A)のコーティング膜の下方辺縁部には実施例1と同様にして消失性コーティング膜が形成されている。他方、ステム(B)のネック下には結晶性HAコーティング膜が形成され、そのコーティング膜の上方辺縁部には実施例1と同様にして消失性コーティング膜が形成されている。
これら消失性コーティング膜は間接包の周囲の細菌の侵入がしやすい部分に形成されているので、間接包からの細菌の感染を防止することができる。したがって、インプラント手術後の感染症の発生を有効に防止することができる。」

(3)先願当初明細書等に記載された発明
上記摘示ア?オからみて、先願当初明細書等には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されている。

「インプラントの所定部位に結晶度が90%以下のハイドロキシアパタイト(HA)等のリン酸カルシウム系材料からなる消失性コーティング膜を形成し、銀イオンの抗菌作用を利用する無機系抗菌剤等の抗菌剤を含有させてなる生体インプラントであって、コーティング膜が複数層からなり、抗菌剤の単位時間あたりの溶出量を表層に近いほど高くし、各層の抗菌剤の単位時間あたりの溶出量を各層の抗菌剤の含有量により調整する生体インプラント。」

(4)対比
本願発明と先願発明とを対比する。
先願発明の「ハイドロキシアパタイト(HA)等のリン酸カルシウム系材料」が、本願発明の「リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト・・・およびこれらの組合せといった骨形成促進物質である」「生物活性物質」に相当する。
また、先願発明の「銀イオンの抗菌作用を利用する無機系抗菌剤等の抗菌剤」が、本願発明の「銀であるか、または銀を含」む「抗菌剤」に相当する。
そして、先願発明の「ハイドロキシアパタイト(HA)等のリン酸カルシウム系材料」及び「銀イオンの抗菌作用を利用する無機系抗菌剤等の抗菌剤」を含み、「複数層からな」る「インプラントの所定部位」の「消失性コーティング膜」が、本願発明の「生物活性物質および抗菌剤」を含み、「複数の層を含」む「少なくとも1つの表面を有する医療用インプラント」の「前記少なくとも1つの表面の少なくとも一部に位置するコーティング」に相当する。また、先願発明の「複数層からな」る「インプラントの所定部位」の「消失性コーティング膜」の「表層に近い」方が、上記摘示ウからみて、本願発明の「インプラントとコーティングの界面から遠い方」に相当する。(先願発明の「複数層からな」る「インプラントの所定部位」の「消失性コーティング膜」の「表層」から遠い方が、上記摘示ウからみて、本願発明の「インプラントとコーティングの界面の近」い方に相当する。)
そうすると、本願発明と先願発明とは、以下の一致点、一応の相違点を有する。

<一致点>
「少なくとも1つの表面を有する医療用インプラントであって、前記少なくとも1つの表面の少なくとも一部に位置するコーティングを有し、前記コーティングは生物活性物質および抗菌剤を含み、
前記コーティングが複数の層を含み、
前記抗菌剤が、銀であるか、または銀を含み、
前記生物活性物質が、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、βリン酸三カルシウム、ヒドロキシアパタイトとβリン酸三カルシウムの混合物、リン酸一カルシウム、リン酸オクタカルシウム、リン酸二カルシウム水和物(ブラッシュ石)、リン酸二カルシウム無水物(モネタイト)、リン酸三カルシウム無水物、ホワイトロッカイト、リン酸四カルシウム、非晶質リン酸カルシウム、フルオロアパタイト、クロロアパタイト、非化学量論性アパタイト、炭酸アパタイト、リン酸水素カルシウム、カルシウム水素アパタイト、シリケート、アルミネート、ボレート、ゼオライト、ベントナイト、カオリン、およびこれらの組合せといった骨形成促進物質である、医療用インプラント。」

<相違点>
前者は「抗菌剤の濃度が少なくとも2層のコーティング層で異なり、前記抗菌剤の濃度が、インプラントとコーティングの界面の近くより、インプラントとコーティングの界面から遠い方が高く」と特定しているのに対し、後者は(コーティング膜の複数層の)「抗菌剤の単位時間あたりの溶出量を表層に近いほど高くし、各層の抗菌剤の単位時間あたりの溶出量を各層の抗菌剤の含有量により調整する」と特定している点。

(5)判断
上記相違点について検討する。
先願発明は、(コーティング膜の複数層の)「抗菌剤の単位時間あたりの溶出量を表層に近いほど高」くしているから、抗菌剤の単位時間あたりの溶出量が、コーティング膜の複数層の表層から遠い方より、表層に近い方が高いといえる。そして、先願発明は、(コーティング膜の複数層の)「各層の抗菌剤の単位時間あたりの溶出量を各層の抗菌剤の含有量により調整する」ものであるから、抗菌剤の含有量(すなわち抗菌剤の濃度)がコーティング膜の複数層で異なり、抗菌剤の含有量がコーティング膜の複数層の表層から遠い方(すなわちインプラントとコーティングの界面から近い方)より、表層に近い方(すなわちインプラントとコーティングの界面から遠い方)が高いといえる。
よって、上記相違点は実質的には相違点でない。
したがって、本願発明は先願発明と同一である。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、先願当初明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、本願の発明者が、当該先願の発明者と同一ではなく、また、本願出願時において、その出願人が当該先願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、当審で通知した拒絶理由の理由4は妥当なものといえる。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は当審において通知した拒絶理由により、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-10 
結審通知日 2016-08-15 
審決日 2016-09-06 
出願番号 特願2010-548897(P2010-548897)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 裕美子  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 小川 慶子
小久保 勝伊
発明の名称 生物医学的応用のための勾配コーティング  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 村山 靖彦  

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