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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B60W 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60W |
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管理番号 | 1323958 |
審判番号 | 不服2015-22999 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-12-28 |
確定日 | 2017-02-07 |
事件の表示 | 特願2014- 84533「車両制御装置、及び車載用画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月25日出願公開、特開2014-177275、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成17年8月19日に出願した特願2005-238746号(以下、「原出願」という。)の一部を平成22年4月30日に新たな特許出願(特願2010-105381号)とし、さらにその一部を平成23年8月12日に新たな特許出願(特願2011-176868号)とし、さらにその一部を平成24年2月17日に新たな特許出願(特願2012-32926号)とし、さらにその一部を平成24年4月13日に新たな特許出願(特願2012-92276号)とし、さらにその一部を平成26年1月10日に新たな特許出願(特願2014-3359号)とし、さらにその一部を平成26年4月16日に新たな特許出願としたものであって、平成26年4月28日に手続補正書及び上申書が提出され、平成27年4月23日付けで拒絶理由(以下、「原審拒絶理由」という。)が通知されたのに対し、平成27年6月29日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年9月29日付けで拒絶査定(以下、「原審拒絶査定」という。)がされ、これに対し、平成27年12月28日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出された後、当審において平成28年9月29日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年11月30日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成28年11月30日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲、平成27年6月29日に提出された手続補正書によって補正された明細書及び願書に最初に添付された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める(以下、請求項1ないし5に係る発明を、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)。 「 【請求項1】 車両に用いられる車両制御装置であって、 車両の周囲の状況を検出する状況検出手段と、 前記状況検出手段の検出結果に基き、前記車両の周囲の検出対象物について、形状、素材、体積、及び色彩を含む複数の要素の少なくとも1つ以上に基づいて、その検出対象物が何であるかを予測する予測手段と、 前記状況検出手段の検出結果に基き画像データを生成する画像生成手段と、 前記画像生成手段により生成された画像データが表す画像を表示手段に表示させる表示制御手段と、を備え、 前記予測手段は、前記検出対象物が人であるか否かと、その人の所定時間後の位置とを予測し、 前記画像生成手段は、前記予測手段により前記検出対象物が人であると予測されたならば、予測された所定時間後の位置に基づいて警告を表す画像データを生成する、 ことを特徴とする車両制御装置。 【請求項2】 請求項1に記載の車両制御装置であって、 前記予測手段により前記検出対象物が人であると予測された場合に自車両の動作を制御する動作制御手段を備えることを特徴とする車両制御装置。 【請求項3】 請求項2に記載の車両制御装置であって、 前記動作制御手段は、 自車両の舵角を制御して自車両の進行方向を調整することを特徴とする車両制御装置。 【請求項4】 請求項2又は請求項3に記載の車両制御装置であって、 前記動作制御手段は、 自車両のブレーキを制御して自車両の速度を調整することを特徴とする車両制御装置。 【請求項5】 請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の車両制御装置であって、 前記検出対象物毎に、形状、素材、体積、及び色彩を含む複数の要素を記憶する記憶手段を備え、 前記予測手段は、前記画像生成手段が生成する画像データの要素と、前記記憶手段に記憶される要素との間において、形状、素材、体積、及び色彩の要素の少なくとも1つを比較して、前記検出対象物を予測する、 ことを特徴とする車両制御装置。」 第3 原審拒絶査定の理由について 1.原審拒絶査定の理由の概要 1.1 原審拒絶理由の概要 「1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ●理由1(新規性)について ・請求項 1 ・引用文献等 1 ・備考 引用文献1([0032]、図6等参照)の「入力画像情報F2」は、本願発明の「画像データ」に相当する。 また、引用文献1の「画像情報群G」は、本願発明の「記憶手段に記憶されるデータ」に相当する。 さらに、引用文献1([0041])の「人体B部分を赤色等に着色表示することによって人体B部分を強調する」ことは、実質的にみて、本願発明の「自身が生成した画像データが表す検出対象物に近似すると判断した検出対象物についてのデータを用いて、前記車両の周囲の画像を表す画像データを生成する」ことに相当する。 そうしてみると、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。 ●理由2(進歩性)について ・請求項 1 ・引用文献等 1 ・備考 前記「理由1(新規性)について]を参照すると、請求項1に係る発明は、引用文献1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもある。 ・請求項 2 ・引用文献等 1 ・備考 引用文献1のものは、人体のみならず、犬や猫等の動物も、画像情報を予め記憶手段に格納しておくことで検出できるものである([0036])。 そして、引用文献1([0041])の「人体B部分を赤色等に着色表示することによって人体B部分を強調する」際に、検出対象物として人体や動物のうちの人体のみ(つまり、「検出対象物についてのデータの一部」)を着色(「自身が生成した画像データと合成」)することに格別の困難性はない。 ・請求項 3 ・引用文献等 1-3 ・備考 検出対象物が複数種類あることについては、引用文献1[0036]の人体及び動物を参照。 なお、車両の走行環境を画像認識する技術において、例えば車という種類において、複数のタイプを識別することは周知技術である(必要ならば、引用文献2[0037]の「大型、中型、小型」や、引用文献3[0086]の「乗用車、バン、トラック」を参照)。 ・請求項 4-5 ・引用文献等 1-4 ・備考 引用文献4[0025]の「形状情報、色情報、輝度情報、動き情報」を参照。 引用文献1記載の発明における画像処理に際し、引用文献4の技術を参考にすることで、請求項4の「要素データ」や、請求項5の「外形、形状、素材、体積、色彩の少なくとも何れかを表すデータ」に相当するものを採用することは当業者にとって容易である。 <引用文献等一覧> 1.特開2004-93167号公報 2.特開平10-187930号公報(周知技術を示す文献) 3.特開2004-240480号公報(周知技術を示す文献) 4.特開2002-288659号公報」 1.2 原審拒絶査定の概要 「 この出願については、平成27年 4月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、2によって、拒絶をすべきものです。 なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。 備考 ●理由1(特許法第29条第1項第3号)について ・請求項 1 ・引用文献等1 引用文献1には、検出対象物の形状に基づいて対象物が人であると予測した場合に警告を表す画像データを生成することが記載されている(段落[0032]、[0041]、図6等参照)。よって、引用文献1には、本願請求項1に係る発明が記載されていると認められる。 なお、請求項1の「形状、素材、体積、及び色彩を含む複数の要素の少なくとも1つ以上に基づいて、その検出対象物が何であるかを予測」との記載は、形状のみに基づいて予測することも含む記載であるから、出願人の「本願発明では…引用文献1からでは得られようがない高い精度で人を判別することができます。もちろん、引用文献1には、そのような要素を用いることについて開示も示唆もされていません。」との主張は、特許請求の範囲に基づいてなされたものでなく、採用できない。 ●理由2(特許法第29条第2項)について ・請求項 1、5 ・引用文献等1-2 車両の周囲の検出対象物が人であるかどうかを予測する際に、複数の要素に基づいて予測することは従来周知の技術である(例えば引用文献2の請求項1、3、段落[0023]、[0030]等には、レーダで形状を、赤外センサで素材を判断している)から、引用文献1において当該周知技術を採用することも当業者にとって容易である。 なお、請求項2-4について付言すると、請求項2-4の発明特定事項は、補正前の特許請求の範囲に記載されたものでないため、拒絶査定の対象となっていないが、人を検出したときに舵角やブレーキを制御することは周知技術(例えば特表2004-504216号公報の段落[0028]、[0036]を参照。 人を他の障害物に対して優先して回避すること、及び、回避動作において舵角やブレーキを制御することが記載されている)であるから、引用文献1のものから当該請求項2-4に係る発明に想到することに、格別の困難は認められない。 <引用文献等一覧> 1.特開2004-93167号公報 2.特開平11-16099号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)」 2.原審拒絶査定の理由に対する当審の判断 2.1 引用文献1 2.1.1 引用文献1の記載 原出願の出願前に頒布され、原審拒絶理由に引用された特開2004-93167号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「物体検出装置」に関し、図面とともに次の記載がある。 (ア)「【請求項1】 車輌の前方風景を撮影する撮影手段と、所定の物体の形状に基づく所定の画像サイズからなる画像情報群を格納する記憶手段と、前記撮影手段から得られる入力画像情報を拡大処理または縮小処理することによって前記画像情報群と同様の画像サイズに合わせ、前記拡大処理または縮小処理された入力画像情報と前記画像情報群とを比較判定することにより所定の物体を検出する制御手段と、を備えてなることを特徴とする物体検出装置。 …(中略)… 【請求項3】 前記撮影手段による撮影画像を表示する表示手段を備え、前記制御手段は、前記比較判定に基づいて検出された前記所定の物体を前記表示手段に強調表示させてなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の物体検出装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項3】) (イ)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、車輌等に搭載される撮影手段によって所定の物体を検出する物体検出装置に関し、例えば、赤外線式の撮影手段を用いて、人や動物等の発熱物体を精度良く検出する物体検出装置に関するものである。」(段落【0001】) (ウ)「【0011】 【発明の実施の形態】 以下、本発明の物体検出装置の実施の形態を、車輌に搭載され発熱物体である人体(所定の物体)を検出するための人体検出装置に適用したものを例に挙げ、添付図面を用いて説明する。 【0012】 図1において、人体検出装置1は、赤外線カメラ(撮影手段)2と、画像処理手段(制御手段)3と、記憶手段4と、画像表示手段(表示手段)5と、警報手段6とから構成されている。 【0013】 赤外線カメラ2は、赤外線波長域の光を検出することができ、車輌(例えば、自動車)7内のフロントグリルやフロントバンパー等に配設される。赤外線カメラ2は、図2に示すように、例えば240画素×320画素からなる撮影画像Aを出力する。 【0014】 画像処理手段3は、車輌7に搭載された赤外線カメラ2による撮影画像Aに基づく情報(入力画像情報)から後述する処理によって人体Bである発熱物体を検出するためのものであり、マイクロコンピュータによって構成されている。 【0015】 記憶手段4は、人体Bを撮影した場合の画像データ,位置データ,大きさ等の表示形状に基づいた情報(人体認識用の情報)を格納するものであり、ROM等からなる記憶媒体から構成されている。また、記憶手段4は、前記情報を画像情報群として複数パターン用意している。なお、前記画像情報群は、それぞれが16画素×32画素の画像サイズに対応した情報である。 【0016】 画像表示手段5は、例えば、バックライト付き液晶表示装置から構成され、前記液晶表示装置からの表示光となる人体Bの映像をフロントガラス8に投影する、所謂ヘッドアップディスプレイであり、車輌7内の運転者9は、前記映像を前方風景から視線を逸らさなくとも視認できるものである。 【0017】 警報手段6は、ランプやLED,ブザー等によって構成されるものである。また、警報手段6は、画像処理手段3によって、赤外線カメラ2からの撮影画像A内に人体Bが存在すると判断された際に、画像処理手段3から出力される所定の駆動信号に基づいて動作するものである。 【0018】 以上の各部によって人体検出装置1が構成される。」(段落【0011】ないし【0018】) (エ)「【0029】 次に上述した、ステップS7の判定処理について、図6及び図8を用いて説明する。なお、図8に基づく以下の説明は、固有空間を2次元的に表したものである。 【0030】 画像処理手段3は、第1の入力画像情報F2が、記憶手段4に予め記憶された画像情報群Gに類似しているか否かを判定するものである。すなわち、画像処理手段3は、入力画像情報F2を画像情報群Gの固有空間Pに投影した際のベクトルP1大きさ(図7においては長さとなる)を所定の演算によって求め、このベクトルP1の大きさを比較することによって、入力画像情報F2が人体認識用の固有空間Pに近い画像情報であるかを求め、人体Bに類似する形状であるかを判定するものである。なお、画像処理手段3に予め記憶されている固有空間Pは、16画素×32画素の画像サイズ内に撮影された人体Bを想定した固有空間である。また、記憶手段3には、同様の固有空間が画像情報群Gとして複数パターン格納され、それぞれのベクトルが入力画像情報F2と比較される。 【0031】 この判定処理によって、画像情報群Gのうち入力画像情報F2に類似するものがあるか否かを判定することができる。すなわち、切り出し領域F内に人体Bが存在するか否かを判定することができる。 【0032】 かかる人体検出装置1は、車輌7の前方風景を撮影する赤外線カメラ2と、人体Bの形状に基づく所定の画像サイズからなる画像情報群Gを格納する記憶手段4と、赤外線カメラから得られる入力画像情報F1を拡大処理または縮小処理することによって画像情報群Gと同様の画像サイズに合わせ、前記拡大処理または縮小処理された入力画像情報F2と画像情報群Gとを比較判定することにより所定の物体を検出する画像処理手段3と、を備えてなることによって、人体Bと赤外線カメラ2との距離に応じてそれぞれ異なる画像サイズを有する入力画像情報に対応して画像情報群Gを用意し、それぞれを比較判定することなく人体検出を行うことができる。また、撮影手段からの入力画像情報に対して迅速で信頼性の高い判定処理を行うことのできる人体検出装置を提供することができる。 【0033】 また、赤外線カメラ2による撮影画像Aを表示する画像表示手段5を備え、画像処理手段3は、判定処理S7に基づいて検出された人体Bを画像表示手段5に強調表示させたり、LEDやランプ,ブザー等の警報手段6を設けることによって、運転者9が車輌7の前方に存在する人体Bを容易に判断できる人体検出装置1となる。 …(中略)… 【0036】 また、本発明の実施の形態では、人体8を検出する人体検出装置1を用いて説明したが、犬や猫等の動物の特徴を表す画像情報(固有空間のデータ)群を予め記憶手段に格納しておけば、人体B以外の発熱物体をも検出することが可能な物体検出装置として用いることができる。 …(中略)… 【0041】 また、本発明の実施の形態では、画像表示手段5により検出された人体B部分のみを表示するようにしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、画像表示手段5により背景を含む画像で撮影画像A内を表示し、人体B部分を赤色等に着色表示することによって人体B部分を強調することができる。また、ステップS5で処理された切り出し領域F内の発熱部分(人体の候補)Cを黄色等に着色表示して示すことで、人体検出における、さらに強調された警告表示を可能とする。」(段落【0029】ないし【0041】) 2.1.2 引用文献1記載の事項 上記2.1.1(ア)ないし(エ)並びに図1、2及び6ないし8の記載から、引用文献1には、次の事項が記載されていることが分かる。 (カ)上記2.1.1(ア)ないし(エ)並びに図1、2及び6ないし8の記載から、引用文献1には、車両に搭載される人体検出装置1が記載されていることが分かる。 (キ)上記2.1.1(ア)及び(ウ)並びに図1の記載から、引用文献1に記載された人体検出装置1は、車両の前方風景を撮影する撮影手段2を備えることが分かる。 (ク)上記2.1.1(ア)、(ウ)及び(エ)並びに図1、2及び6ないし8の記載から、引用文献1に記載された人体検出装置1は、制御手段3を備え、該制御手段3は撮影手段2から得られる入力画像情報を処理することによって、車両の前方の発熱物体について、大きさと形状に基づいて、該発熱物体が人体や動物であることを検出するものであることが分かる。 (ケ)上記2.1.1(ア)、(ウ)及び(エ)並びに図1、2及び6ないし8の記載から、引用文献1に記載された人体検出装置1は、画像表示手段5を備え、該画像表示手段5は撮影手段2による撮影画像を表示するものであって、制御手段3は検出された物体が人体であるか否かを検出し、検出された人体Bを画像表示手段5に強調表示させるものであることが分かる。 2.1.3 引用発明 上記2.1.1及び2.1.2並びに図1、2及び6ないし8の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「車両に搭載される人体検出装置1であって、 車両の前方風景を撮影する撮影手段2と、 撮影手段2から得られる入力画像情報を処理することによって、車両の前方の発熱物体について、大きさと形状に基づいて、該発熱物体が人体や動物であることを検出する制御手段3と、 撮影手段2による撮影画像を表示する画像表示手段5を備え、 前記制御手段3は検出された物体が人体であるか否かを検出し、検出された人体Bを画像表示手段5に強調表示させるものである人体検出装置1。」 2.2 引用文献2 2.2.1 引用文献2の記載 原出願の出願前に頒布され、原審拒絶査定で従来周知の技術の例として引用された特開平11-16099号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「自動車走行支援装置」に関し、図面とともに次の記載がある。 (サ)「【特許請求の範囲】 【請求項1】自車外のある方向の画像を撮影する赤外センサと、 前記赤外センサが撮影する方向へ電波を発射し、物体からの反射波を受けて前記物体までの距離と方向とを検出するレーダと、 前記赤外センサで得られ情報と前記レーダで得られた情報とを電子回路内で重ね合わせ手段と、 前記レーダから得た物体が前記赤外センサの画像上の温点であるか否かを判断する判断手段と、 前記判断手段の結果に基づいて、前記温点が自車の走行上の障害物か否かを判断する障害物判断手段と、を備えた自動車走行支援装置。 …(中略)… 【請求項3】請求項1において、 前記判断手段の結果、温点を持たないと判断された物体が自車の走行上の障害物であるか否かを判断する第2の障害物判断手段と、 前記障害物判断手段または前記第2の障害物判断手段の結果により警報を発生する手段と、を備えたことを特徴とする自動車走行支援装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項3】) 2.2.2 引用文献2記載技術 上記2.2.1(サ)並びに図1及び5の記載から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載技術」という。)が記載されているといえる。 「自動車走行支援装置において、赤外センサとレーダで得られた情報の重ね合わせにより検出した物体が、自車の走行上の障害物か否かを判断し、その結果により警報を発生する技術。」 2.3 引用文献3 2.3.1 引用文献3の記載 原出願の出願前に頒布され、原審拒絶査定で従来周知の技術の例として引用された特表2004-504216号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「車両用自動制動及び操縦システム」に関し、図面とともに次の記載がある。 (タ)「【0028】 最後に行なわれる回避経路の決定の間に、さらに心に留めるべき周囲の状況と両立しないそれらの回避経路がまず排除される。これらの障害物は、そのような周囲の状況として、ドライバー自身の車両についてのあるいは外部の人間あるいは物体についての相異なる水準の危険度で評価される階層的な範疇に分類することができる。このようにすることで、問題の車両の外側にいる人間、例えば経路の縁に立っていてセンサーユニットによって人として識別される人間については、どんなときにも衝突を回避しなければならない障害物の範疇に置くことができる。さまざまな範疇への配分と分類によって、決定される複数の回避経路の中で事前分類を行なうことができる。」(段落【0028】) (チ)「【0036】 図2では、自動制動及び操縦システムの備わった車両1が車線2に存在している。この車両1は、そのセンサーシステムを使って、車線2において車両の前方にある障害物3を検出することができるとともに、その障害物を迂回する回避経路を決定することができ、さらに、操縦アセンブリー、ブレーキアセンブリー、適切な場合には他のエンジンアセンブリーにも作用することで、その選択された回避経路を自動的にたどることができる。この車両1には、車両の瞬間絶対位置を決定するための位置決めシステムと、現在走行している道路の地形学的形態および環境が記憶されている電子道路地図とからなるナビゲーションシステムも備わっている。この位置決めシステムは、便宜上、衛星支援型位置決めシステムである。」(段落【0036】) 2.3.2 引用文献3記載技術 上記2.3.1(タ)及び(チ)並びに図1及び25の記載から、引用文献3には、次の技術(以下、「引用文献3記載技術」という。)が記載されているといえる。 「車両用自動制動及び操縦システムにおいて、センサーユニットによって人間を識別し、どんなときにも衝突を回避しなければならない障害物として、その障害物を迂回する回避経路を決定し、操縦アセンブリー、ブレーキアセンブリー、他のエンジンアセンブリーに作用して、回避経路を自動的にたどることができる車両に関する技術。」 2.4 本願発明1についての対比・判断 本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「車両」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明1における「車両」に相当し、「車両に用いられる装置」という限りにおいて、引用発明における「車両に搭載される人体検出装置1」は、本願発明1における「車両に用いられる車両制御装置」に相当する。 そして、引用発明における「車両の前方風景を撮影する撮影手段2」は、車両前方に物体があるか否かを検出するために「車両の前方風景を撮影する」ものであって、「少なくとも車両の前方の状況を検出する状況検出手段」であるということができるから、「少なくとも車両の前方の状況を検出する状況検出手段」という限りにおいて、引用発明における「車両の前方風景を撮影する撮影手段2」は、本願発明1における「車両の周囲の状況を検出する状況検出手段」に相当する。 また、引用発明における「発熱物体」は撮影手段2である赤外線カメラの検出対象であるから、本願発明1における「検出対象物」に相当し、引用発明において「該発熱物体が人体や動物であることを検出する」ことは、本願発明1において「その検出対象物が何であるかを予測する」ことに相当する。 したがって、 「状況検出手段の検出結果に基き、車両の周囲の検出対象物について、形状、素材、体積、及び色彩を含む複数の要素の少なくとも1つ以上に基づいて、その検出対象物が何であるかを予測する手段と、 画像を表示手段に表示させる手段と、を備え、 前記予測手段は、前記検出対象物が人であるか否かを予測し、 前記予測手段により前記検出対象物が人であると予測されたならば、警告を表す画像データを生成する」という限りにおいて、 引用発明において「撮影手段2から得られる入力画像情報を処理することによって、車両の前方の発熱物体について、大きさと形状に基づいて、該発熱物体が人体や動物であることを検出する制御手段3と、 撮影手段2による撮影画像を表示する画像表示手段5を備え、 前記制御手段3は検出された物体が人体であるか否かを検出し、検出された人体Bを画像表示手段5に強調表示させる」ことは、 本願発明1において「状況検出手段の検出結果に基き、車両の周囲の検出対象物について、形状、素材、体積、及び色彩を含む複数の要素の少なくとも1つ以上に基づいて、その検出対象物が何であるかを予測する予測手段と、 前記状況検出手段の検出結果に基き画像データを生成する画像生成手段と、 前記画像生成手段により生成された画像データが表す画像を表示手段に表示させる表示制御手段と、を備え、 前記予測手段は、前記検出対象物が人であるか否かと、その人の所定時間後の位置とを予測し、 前記画像生成手段は、前記予測手段により前記検出対象物が人であると予測されたならば、予測された所定時間後の位置に基づいて警告を表す画像データを生成する」ことに相当する。 よって、本願発明1と引用発明とは、 「 車両に用いられる装置であって、 少なくとも車両の前方の状況を検出する状況検出手段と、 前記状況検出手段の検出結果に基き、前記車両の周囲の検出対象物について、形状、素材、体積、及び色彩を含む複数の要素の少なくとも1つ以上に基づいて、その検出対象物が何であるかを予測する手段と、 画像を表示手段に表示させる手段と、を備え、 前記予測手段は、前記検出対象物が人であるか否かを予測し、 前記予測手段により前記検出対象物が人であると予測されたならば、警告を表す画像データを生成する車両に用いられる装置。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> (a)「車両に用いられる装置」に関し、本願発明1においては「車両に用いられる車両制御装置」であるのに対し、引用発明においては「車両に搭載される人体検出装置1」である点(以下、「相違点1」という。)。 (b)「状況検出手段の検出結果に基き、車両の周囲の検出対象物について、形状、素材、体積、及び色彩を含む複数の要素の少なくとも1つ以上に基づいて、その検出対象物が何であるかを予測する手段と、画像を表示手段に表示させる手段と、を備え、前記予測手段は、前記検出対象物が人であるか否かを予測し、前記予測手段により前記検出対象物が人であると予測されたならば、警告を表す画像データを生成する」ことに関し、 本願発明1においては「前記状況検出手段の検出結果に基き、前記車両の周囲の検出対象物について、形状、素材、体積、及び色彩を含む複数の要素の少なくとも1つ以上に基づいて、その検出対象物が何であるかを予測する予測手段と、前記状況検出手段の検出結果に基き画像データを生成する画像生成手段と、前記画像生成手段により生成された画像データが表す画像を表示手段に表示させる表示制御手段と、を備え、前記予測手段は、前記検出対象物が人であるか否かと、その人の所定時間後の位置とを予測し、前記画像生成手段は、前記予測手段により前記検出対象物が人であると予測されたならば、予測された所定時間後の位置に基づいて警告を表す画像データを生成する」ものであるのに対し、 引用発明においては「撮影手段2から得られる入力画像情報を処理することによって、車両の前方の発熱物体について、大きさと形状に基づいて、該発熱物体が人体や動物であることを検出する制御手段3と、撮影手段2による撮影画像を表示する画像表示手段5を備え、前記制御手段3は検出された物体が人体であるか否かを検出し、検出された人体Bを画像表示手段5に強調表示させる」ものであり、すなわち、 本願発明1においては「予測手段は、前記検出対象物が人であるか否かと、その人の所定時間後の位置とを予測し」、「状況検出手段の検出結果に基づき画像データを生成する画像生成手段は、前記予測手段により前記検出対象物が人であると予測されたならば、予測された所定時間後の位置に基づいて警告を表す画像データを生成する」ものであるのに対し、 引用発明は、「制御手段3は検出された物体が人体であるか否かを検出し、検出された人体Bを画像表示手段5に強調表示させる」ものである点(以下、「相違点2」という。)。 まず、相違点1について検討する。 「車両制御装置において、センサーにより人間を識別し、衝突を回避するために車両を制御する技術」は、本願の出願前に既に周知の技術(以下、「周知技術」という。例えば、上記引用文献3記載技術等参照。)であるから、引用発明において、車両の制御に上記周知技術を用いることによって、検出された人体Bとの衝突を回避するために車両を制御することにより、相違点1に係る本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。 次に、相違点2について検討する。 引用発明は、「制御手段3は検出された物体が人体であるか否かを検出し、検出された人体Bを画像表示手段5に強調表示させる」ものではあるが、人体Bの所定時間後の位置とを予測し、予測された所定時間後の位置に基づいて警告を表す画像データを生成するものではない。 そして、検出した人体の所定時間後の位置とを予測し、予測された所定時間後の位置に基づいて警告を表す画像データを生成することは、引用文献1及び2に何らの記載も示唆もない。 したがって、引用発明において引用文献2記載技術及び周知技術を適用することによって、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことではない。 2.5 本願発明2ないし5についての判断 本願発明2ないし5は、本願発明1を直接又は間接的に引用し、本願発明1をさらに限定した発明であるから、当業者が引用発明並びに引用文献2記載技術及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 2.6 小活 以上から、本願発明1ないし5は、引用発明並びに引用文献2記載技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明ができたものではない。 よって、原審拒絶査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 第4 当審拒絶理由について 1.当審拒絶理由の概要 「 本願は、特許請求の範囲の記載が、次の点で不備であるから、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)本願の請求項1の記載中「前記予測手段は、前記検出対象物が人であるか否かと、その人の所定時間後の位置とを予測し、前記画像生成手段は、前記予測手段により前記検出対象物が人であると予測されたならば、警告を表す画像データを生成する」は、以下の点で、発明の課題を解決するための手段であるとして発明の詳細な説明に記載されている技術的特徴に関連する事項を反映したものではない。 請求項1に係る発明の内容として、発明の詳細な説明に開示されている技術は、「本発明は、こうした問題に鑑みなされたもので、車両の周囲の状況を画像で正確に再現して車両の窓部に表示することで、運転手が安全に車両を運転できるようにすることを目的とする。」(段落【0006】)及び「また、本実施形態においては、検出された対象物について、ミリ波レーダ12により検出される相対速度を表すデータに基づき、その対象物の所定時間後の外形(言い換えると、大きさ)及び位置についての予測のデータを生成することもできる。そして、対象物の画像を表示ガラスパネル40に表示させる際には、その予測のデータに基づく対象物の画像を表示させるようにすることもできる。」(段落【0059】)の記載からみて、「運転手が安全に車両を運転できるようにすること」を課題とし、その予測のデータに基づく対象物の画像を表示することを前提に、検出対象物の所定時間後の位置を予測するものであると認められる。 しかしながら、本願の請求項1は、上記前提を発明特定事項とするものではないから、発明の課題を解決するための手段を反映していない。 このため、本願の請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし5に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本願は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。 (2)本願の請求項1の記載中「前記予測手段は、前記検出対象物が人であるか否かと、その人の所定時間後の位置とを予測し、前記画像生成手段は、前記予測手段により前記検出対象物が人であると予測されたならば、警告を表す画像データを生成する」において、予測手段が「その人の所定時間後の位置」を予測することの技術的意義が不明確である。 このため、請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし5に係る発明は明確でないから、本願の請求項1ないし5の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 」 2.当審拒絶理由に対する判断 平成28年11月30日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)によって、画像生成手段が「予測された所定時間後の位置に基づいて」警告を表す画像データを生成することが特定された。 これによって、本願の請求項1の記載は、予測のデータに基づく対象物の画像を表示するとの前提を発明特定事項とし、発明の課題を解決するための手段を反映したものとなった。また、予測手段が「その人の所定時間後の位置」を予測することの技術的意義が明確となった。 よって、当審拒絶理由は解消した。 第5 むすび 以上のとおり、原審拒絶査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-01-23 |
出願番号 | 特願2014-84533(P2014-84533) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B60W)
P 1 8・ 537- WY (B60W) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 小原 一郎、本庄 亮太郎 |
特許庁審判長 |
伊藤 元人 |
特許庁審判官 |
三島木 英宏 中村 達之 |
発明の名称 | 車両制御装置、及び車載用画像表示装置 |
代理人 | 名古屋国際特許業務法人 |