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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G02F
管理番号 1324005
審判番号 不服2016-2090  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-10 
確定日 2017-02-10 
事件の表示 特願2012- 93047「光学表示パネルの連続製造方法および光学表示パネルの連続製造システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月28日出願公開、特開2013-222036、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年4月16日の出願であって、平成27年8月21日付け(同年同月25日発送)で拒絶理由が通知され、同年10月6日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされたが、同年12月1日付け(同年同月3日送達)で拒絶査定(以下、「原査定」という)がなされ、これに対して、平成28年2月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
1(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載において、「初期の撓み」の意味が把握できないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

2(進歩性)この出願の請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1,2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2011-197651号公報
2.特開2012-73423号公報

第2 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明6」という。)は、平成27年10月6日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願発明1は、以下のとおりである。
「粘着剤を介して偏光フィルムのシート片が形成されているキャリアフィルムをキャリアフィルム搬送部で搬送するキャリアフィルム搬送工程と、前記キャリアフィルム搬送工程により搬送されたキャリアフィルムを内側にして先端で折り返して当該キャリアフィルムから偏光フィルムを粘着剤とともに剥離部で剥離する剥離工程と、前記剥離工程によりシート片が剥離されたキャリアフィルムを巻取部で巻き取る巻取工程と、光学セルを搬送しながら、前記剥離工程によりキャリアフィルムから剥離されたシート片を粘着剤を介して当該光学セルに貼付部で貼り付けて光学表示パネルを形成する貼付工程とを有する光学表示パネルの連続製造方法であって、
前記貼付工程における前記シート片の貼付処理の貼付開始から貼付終了までの間において、前記貼付処理の貼付速度が、前記剥離工程で剥離される、前記キャリアフィルム搬送部によるキャリアフィルムの搬送速度より速く、かつ、前記貼付位置から前記剥離部の先端部までの間で、前記シート片に生じた撓みがなくなるように、前記貼付速度および前記キャリアフィルムの搬送速度を設定し、および
前記貼付処理の貼付開始から貼付終了までの間において、前記貼付位置から前記剥離部の先端部までの距離(L)が、前記剥離部の先端部から前記キャリアフィルムが折り返された部分である屈曲部までの距離(Ls)より長くなるように、前記貼付処理の貼付速度が、前記キャリアフィルム搬送部による前記キャリアフィルムの搬送速度よりも速くなるように制御する速度制御工程を有し、
貼付開始から貼付終了までの期間をT、撓みがなくなるときの時間をtとすると、t/T=0.3以下である、光学表示パネルの連続製造方法。」

なお、本願発明2は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明3は、本願発明2を減縮した発明である。また、本願発明4?6は、それぞれ「光学表示パネルの連続製造方法」の本願発明1?3に対応する「光学表示パネルの連続製造システム」の発明であり、本願発明1?3とカテゴリ表現上の差異となる発明である。

第4 当審の判断
1 実施可能要件について
発明の詳細な説明の段落【0020】には、「偏光フィルムのシート片先端が貼付部の貼付位置に送りこまれる際に、シート片先端部はキャリアフィルムが剥離されているために不安定となっていて撓みやすく、貼付開始直後においては、撓みが生じやすい、この撓みが生じることで、貼付中にシート片が振動しやすくなり貼付気泡発生の原因になる。」と記載されている。
してみると、「初期の撓み」とは、キャリアフィルムからシート片先端部が剥離されて貼付位置に送り込まれる際に生じる不安定に起因する撓みのことであると解されるから、「初期の撓み」の意味が把握できないとまではいえない。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないということはできない。

2 進歩性について
(1)引用文献、引用発明等
ア 引用文献1について
(ア)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した。

a「【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、製造される液晶表示装置が湾曲することを抑制することができる液晶表示装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、液晶表示装置が湾曲する原因について鋭意究明した結果、液晶パネルに偏光フィルムを貼合するときに用いる製造装置の個々の特性(いわゆる、装置のクセ)が、製造される液晶表示装置の湾曲に関係していることを突き止めて、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明に係る液晶表示装置の製造方法は、上記の課題を解決するために、長尺の偏光フィルムを切断しながら液晶パネルに貼合する貼合工程を、液晶パネルの両面に対して各々行う液晶表示装置の製造方法であって、少なくとも一方の上記貼合工程における液晶パネルの搬送速さを、偏光フィルムの搬送速さよりも速くすることを特徴としている。」

b「【0028】
〔液晶表示装置の製造方法〕
本発明に係る液晶表示装置の製造方法を採用した製造装置の構成の一例について説明する。図1に示すように、本実施の形態に係る液晶表示装置の製造装置10は、液晶表示装置1を連続的に製造するいわゆるRoll to Panel方式を採用した製造装置であり、下段(1階)部分に偏光フィルム搬送機構21、上段(2階)部分にパネル搬送機構30を備えた二段構造となっている。これにより、製造装置10の省スペース化を図ることができる。
【0029】
偏光フィルム搬送機構21は、ロール状に巻き取られた長尺の偏光フィルム原反3aを巻き出して貼合部31まで搬送し、不要となった長尺の剥離フィルム3bを巻き取るようになっている。
【0030】
上記偏光フィルム原反3aは、偏光フィルム、粘着剤層、保護フィルムおよび剥離フィルム3bから構成されるフィルム積層体であり、偏光フィルムにおける液晶パネル2に貼合される側の面に、粘着剤層(接着剤層であってもよい)を介して剥離可能な剥離フィルム3bが貼合されており、上記面の裏面に、粘着剤層(接着剤層であってもよい)を介して保護フィルムが貼合されてなっている。つまり、剥離フィルム3bに対して、粘着剤層、偏光フィルム、粘着剤層および保護フィルムがこの順に積層されることにより、偏光板が形成されており、偏光フィルム原反3aは、偏光板および剥離フィルム3bから構成されている。上記粘着剤層としては、特に限定されるものではなく、当該技術分野に用いられる公知の粘着剤(或いは接着剤)を塗布することにより構成される。粘着剤層の厚さは適宜設定すればよい。
・・・(途中省略)・・・
【0034】
ナイフエッジ21cは、所定の長さに切断された偏光フィルムから剥離フィルム3bを剥離するようになっている。偏光フィルムと剥離フィルム3bとの間に形成されている粘着剤層は、剥離フィルム3bが剥離された後は偏光フィルム側に残存する。」

c「【0040】
また、製造装置10は、上記各搬送機構の動作を制御する制御部(図示しない)を備えている。即ち、制御部は、パネル搬送機構30における液晶パネル2の搬送速さ(複数の搬送ローラーの回転速さ)、偏光フィルム搬送機構21における巻出部21aおよび巻取部21b間の偏光フィルム原反3aの搬送速さ(巻出部および巻取部の回転速さ)、ハーフカッターによる偏光フィルムの切断のタイミング(偏光フィルムの搬送方向における長さの設定)、貼合部31による液晶パネル2に対する偏光フィルムの貼合のタイミング(液晶パネル2に対する偏光フィルムの位置合わせ)、並びに、ニップロール31a・31aの回転速さ調節、圧力(ニップ圧)調節および温度調節等の各種製造条件を、制御するようになっている。そして、制御部が具体的にどのような制御を行うかについては、オペレーター等の使用者によって予め入力(指示)されるようになっている。
【0041】
上記構成の製造装置10を用いた液晶表示装置1の製造方法について説明する。液晶表示装置1の製造工程は、主に、搬送工程、貼合工程等で構成されている。
【0042】
先ず、搬送工程として、パネル搬送機構30における複数の搬送ローラーを駆動することによって液晶パネル2を一定の速さで搬送する。また、貼合部31のニップロール31a・31aを一定の回転速さで回転駆動させる。この搬送工程は、貼合工程を行っている間も行う。つまり、搬送工程は、製造工程全体を通じて行う。
【0043】
次に、偏光フィルム搬送機構21における巻出部21aおよび巻取部21bを所定の回転速さで回転駆動することによって、偏光フィルム原反3aを、液晶パネル2の搬送速さとは異なる搬送速さ(つまり、液晶パネル2の搬送速さよりも遅い搬送速さ)で搬送すると共に、ハーフカッターによって長尺の偏光フィルムを設定された長さに切断する。そして、ナイフエッジ21cによって偏光フィルムから剥離フィルム3bを剥離すると共に、液晶パネル2に対する偏光フィルム(つまり、偏光板)の貼合のタイミングを図りながら、即ち、液晶パネル2に対する偏光フィルムの位置合わせを行いながら、当該偏光フィルムを貼合部31のニップ部に搬送する。その後、パネル搬送機構30における貼合部31にて所定の圧力(ニップ圧)を加えながら、液晶パネル2に偏光フィルムを貼合する(貼合工程)。従って、貼合工程は、液晶パネル2の搬送速さよりも遅い搬送速さで長尺の偏光フィルムを搬送し、切断しながら液晶パネル2に貼合する工程である。つまり、貼合工程においては、液晶パネル2の搬送速さを、偏光フィルムの搬送速さよりも速く設定している。」

d「【0048】
液晶パネル2の搬送速さを偏光フィルムの搬送速さよりも速くすると、上記搬送速さの違いによって、貼合部31において液晶パネル2に貼合されるときに偏光フィルムが引っ張られることになり、当該偏光フィルムに張力を掛けることができる。このため、液晶パネル2の両面に貼合される偏光フィルムの少なくとも一方の張力を調節することにより、貼合工程を行うときに用いる製造装置10の個々の特性(いわゆる、装置のクセ)を矯正することができるので、液晶パネル2の湾曲(反り)を抑制することができる。つまり、張力が掛かった偏光フィルムによって液晶パネル2の湾曲度合いを調節することができるので、製造される液晶表示装置1が湾曲することを抑制することができる。」

e「【図1】


(イ)引用発明
したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「長尺の偏光フィルムを切断しながら液晶パネルに貼合する貼合工程を、液晶パネルに対して行う液晶表示装置の製造方法であって、
偏光フィルム搬送機構21は、ロール状に巻き取られた長尺の偏光フィルム原反3aを巻き出して貼合部31まで搬送し、不要となった長尺の剥離フィルム3bを巻き取るようになっており、
上記偏光フィルム原反3aは、偏光フィルムにおける液晶パネル2に貼合される側の面に、粘着剤層(接着剤層であってもよい)を介して剥離可能な剥離フィルム3bが貼合されており、
搬送工程として、パネル搬送機構30によって液晶パネル2を一定の速さで搬送し、
偏光フィルム搬送機構21における巻出部21aおよび巻取部21bを所定の回転速さで回転駆動することによって、偏光フィルム原反3aを、液晶パネル2の搬送速さとは異なる搬送速さ(つまり、液晶パネル2の搬送速さよりも遅い搬送速さ)で搬送し、
上記搬送速さの違いによって、当該偏光フィルムに張力を掛け、
ハーフカッターによって長尺の偏光フィルムを設定された長さに切断し、そして、ナイフエッジ21cによって偏光フィルムから剥離フィルム3bを剥離すると共に、
偏光フィルムと剥離フィルム3bとの間に形成されている粘着剤層は、剥離フィルム3bが剥離された後は偏光フィルム側に残存し、
液晶パネル2に対する偏光フィルム(つまり、偏光板)の貼合のタイミングを図りながら、即ち、液晶パネル2に対する偏光フィルムの位置合わせを行いながら、当該偏光フィルムを貼合部31のニップ部に搬送し、その後、パネル搬送機構30における貼合部31にて所定の圧力(ニップ圧)を加えながら、液晶パネル2に偏光フィルムを貼合する(貼合工程)
液晶表示装置の製造方法。」

イ 引用文献2について
(ア)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した。
a「【手続補正書】
【提出日】平成23年1月17日(2011.1.17)
・・・(途中省略)・・・
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤を介して偏光フィルムのシート片が形成されているキャリアフィルムを搬送するキャリアフィルム搬送手段と、前記キャリアフィルム搬送手段により搬送されたキャリアフィルムを内側にして先端で折り返して当該キャリアフィルムからシート片を粘着剤とともに剥離する剥離手段と、前記剥離手段によりシート片が剥離されたキャリアフィルムを巻き取る巻取手段と、液晶パネルを搬送しながら、前記剥離手段でキャリアフィルムから剥離されたシート片を粘着剤を介して当該液晶パネルに貼り付けて液晶表示素子を形成する貼付手段とを有する、液晶表示素子の連続製造システムであって、
前記シート片を貼り付け始める貼付開始時点から途中の時点までは、前記キャリアフィルムを前記剥離手段の先端にて折り返し、当該途中の時点から、当該キャリアフィルムから当該シート片を剥離し終える剥離完了時点までは、当該キャリアフィルムを当該剥離手段の先端よりも前記貼付手段側に張り出させながら折り返すように、前記巻取手段及び前記貼付手段を制御する速度制御手段を有する液晶表示素子の連続製造システム。
【請求項2】
前記速度制御手段は、前記巻取手段による前記キャリアフィルムの巻取速度をV1とし、前記貼付手段による前記シート片の貼付速度をV2としたときに、シート片を貼り付け始める貼付開始時点からシート片の剥離完了時点までの間に、少なくともV1<V2とな
る特定期間を設ける、請求項1に記載の液晶表示素子の連続製造システム。」(第13頁図面の記載の後から第14頁第1行まで)

b「【図3】


c「【図4】


d「【図5】


(イ)引用文献2に記載された技術的事項
したがって、上記引用文献2には、「シート片を貼り付け始める貼付開始時点から途中の時点までは、キャリアフィルムを剥離手段の先端にて折り返し、当該途中の時点から、当該キャリアフィルムから当該シート片を剥離し終える剥離完了時点までは、当該キャリアフィルムを当該剥離手段の先端よりも貼付手段側に張り出させながら折り返すように、巻取手段及び貼付手段を制御する速度制御手段は、前記巻取手段による前記キャリアフィルムの巻取速度をV1とし、前記貼付手段による前記シート片の貼付速度をV2としたときに、シート片を貼り付け始める貼付開始時点からシート片の剥離完了時点までの間に、少なくともV1<V2となる特定期間を設ける。」という技術的事項が記載されていると認められる。

(2)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明において、「偏光フィルム原反3aは、偏光フィルムにおける液晶パネル2に貼合される側の面に、粘着剤層(接着剤層であってもよい)を介して剥離可能な剥離フィルム3bが貼合されて」いることから、引用発明の「剥離フィルム3b」及び「偏光フィルム原反3a」は、それぞれ本願発明1の「キャリアフィルム」及び「粘着剤を介して偏光フィルムのシート片が形成されているキャリアフィルム」に相当する。

引用発明において、「偏光フィルム搬送機構21は、ロール状に巻き取られた長尺の偏光フィルム原反3aを巻き出して貼合部31まで搬送し、不要となった長尺の剥離フィルム3bを巻き取るようになって」いることから、引用発明の「偏光フィルム搬送機構21」は、本願発明1の「キャリアフィルム搬送部」に相当する。よって、引用発明は、本願発明1の「キャリアフィルム搬送工程」に相当する構成を有しているといえる。

引用発明において、「ナイフエッジ21cによって偏光フィルムから剥離フィルム3bを剥離すると共に、偏光フィルムと剥離フィルム3bとの間に形成されている粘着剤層は、剥離フィルム3bが剥離された後は偏光フィルム側に残存し」ており、ナイフエッジ21cによる剥離フィルム3bの剥離は、ナイフエッジ21cの先端により剥離フィルム3b折り曲げることで行われることは明らかであるから、引用発明は、本願発明1の「前記キャリアフィルム搬送工程により搬送されたキャリアフィルムを内側にして先端で折り返して当該キャリアフィルムから偏光フィルムを粘着剤とともに剥離部で剥離する剥離工程」に相当する構成を有しているといえる。

引用発明の「不要となった長尺の剥離フィルム3bを巻き取る」ことは、本願発明1の「前記剥離工程によりシート片が剥離されたキャリアフィルムを巻取部で巻き取る巻取工程」に相当する。

引用発明の「偏光フィルムと剥離フィルム3bとの間に形成されている粘着剤層は、剥離フィルム3bが剥離された後は偏光フィルム側に残存し、液晶パネル2に対する偏光フィルム(つまり、偏光板)の貼合のタイミングを図りながら、即ち、液晶パネル2に対する偏光フィルムの位置合わせを行いながら、当該偏光フィルムを貼合部31のニップ部に搬送し、その後、パネル搬送機構30における貼合部31にて所定の圧力(ニップ圧)を加えながら、液晶パネル2に偏光フィルムを貼合する(貼合工程)」は、本願発明1の「光学セルを搬送しながら、前記剥離工程によりキャリアフィルムから剥離されたシート片を粘着剤を介して当該光学セルに貼付部で貼り付けて光学表示パネルを形成する貼付工程」に相当する。

引用発明において、「搬送工程として、パネル搬送機構30によって液晶パネル2を一定の速さで搬送」されており、引用文献1の【図1】には、複数の液晶パネル2が記載されていることから、引用発明の「液晶表示装置の製造方法」において、その製造は連続的に行われることは明らかである。よって、引用発明の「液晶表示装置の製造方法」は、本願発明1の「光学表示パネルの連続製造方法」に相当する。

引用発明において、「偏光フィルム原反3aを、液晶パネル2の搬送速さとは異なる搬送速さ(つまり、液晶パネル2の搬送速さよりも遅い搬送速さ)で搬送し、上記搬送速さの違いによって、当該偏光フィルムに張力を掛ける」ことによって、張力が掛けられた偏向フィルムは撓みがなくなることは明らかである。
してみると、引用発明の「偏光フィルム原反3aを、液晶パネル2の搬送速さとは異なる搬送速さ(つまり、液晶パネル2の搬送速さよりも遅い搬送速さ)で搬送し、上記搬送速さの違いによって、当該偏光フィルムに張力を掛ける」ことは、本願発明1の「前記貼付工程における前記シート片の貼付処理の貼付開始から貼付終了までの間において、前記貼付処理の貼付速度が、前記剥離工程で剥離される、前記キャリアフィルム搬送部によるキャリアフィルムの搬送速度より速く、かつ、前記貼付位置から前記剥離部の先端部までの間で、前記シート片に生じた撓みがなくなるように、前記貼付速度および前記キャリアフィルムの搬送速度を設定し」ていることに相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「粘着剤を介して偏光フィルムのシート片が形成されているキャリアフィルムをキャリアフィルム搬送部で搬送するキャリアフィルム搬送工程と、前記キャリアフィルム搬送工程により搬送されたキャリアフィルムを内側にして先端で折り返して当該キャリアフィルムから偏光フィルムを粘着剤とともに剥離部で剥離する剥離工程と、前記剥離工程によりシート片が剥離されたキャリアフィルムを巻取部で巻き取る巻取工程と、光学セルを搬送しながら、前記剥離工程によりキャリアフィルムから剥離されたシート片を粘着剤を介して当該光学セルに貼付部で貼り付けて光学表示パネルを形成する貼付工程とを有する光学表示パネルの連続製造方法であって、
前記貼付工程における前記シート片の貼付処理の貼付開始から貼付終了までの間において、前記貼付処理の貼付速度が、前記剥離工程で剥離される、前記キャリアフィルム搬送部によるキャリアフィルムの搬送速度より速く、かつ、前記貼付位置から前記剥離部の先端部までの間で、前記シート片に生じた撓みがなくなるように、前記貼付速度および前記キャリアフィルムの搬送速度を設定した、
光学表示パネルの連続製造方法。」

(相違点1)
本願発明1は、「前記貼付処理の貼付開始から貼付終了までの間において、前記貼付位置から前記剥離部の先端部までの距離(L)が、前記剥離部の先端部から前記キャリアフィルムが折り返された部分である屈曲部までの距離(Ls)より長くなるように、前記貼付処理の貼付速度が、前記キャリアフィルム搬送部による前記キャリアフィルムの搬送速度よりも速くなるように制御する速度制御工程を有し」ているのに対し、引用発明は、そのような「速度制御工程」を有しているか不明である点。

(相違点2)
本願発明1は、「貼付開始から貼付終了までの期間をT、撓みがなくなるときの時間をtとすると、t/T=0.3以下である」のに対し、引用発明は、そのようになっているか不明である点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
引用文献1の【図1】に記載された「ナイフエッジ21c」、「貼合部31」、「偏光フィルム原反3a」及び「剥離フィルム3b」の配置関係を見るに、「剥離フィルム3b」が折り返されるのは、「ナイフエッジ21c」の先端であり、液晶パネル2の搬送速さよりも遅い搬送速さの場合に、偏光フィルムと剥離フィルム3bの剥離位置が「ナイフエッジ21c」の先端から「貼合部31」側に仮に移動したとすると、「剥離フィルム3b」が折り返されるのは、偏光フィルムと剥離フィルム3bの剥離位置と「ナイフエッジ21c」の先端の2点となる。
しかしながら、引用文献1には、液晶パネル2の搬送速さよりも遅い搬送速さの場合に、偏光フィルムと剥離フィルム3bの剥離位置が「ナイフエッジ21c」の先端から「貼合部31」側に移動することは記載されておらず、また、剥離フィルム3bの折り返しが2点となることも図示されていないことから、引用発明において、相違点1に係る「キャリアフィルムが折り返された部分である屈曲部までの距離(Ls)」が生じることを前提とした「速度制御工程」を採用する動機付けがあるとはいえない。
一方、引用文献2に「シート片を貼り付け始める貼付開始時点から途中の時点までは、キャリアフィルムを剥離手段の先端にて折り返し、当該途中の時点から、当該キャリアフィルムから当該シート片を剥離し終える剥離完了時点までは、当該キャリアフィルムを当該剥離手段の先端よりも貼付手段側に張り出させながら折り返すように、巻取手段及び貼付手段を制御する速度制御手段は、前記巻取手段による前記キャリアフィルムの巻取速度をV1とし、前記貼付手段による前記シート片の貼付速度をV2としたときに、シート片を貼り付け始める貼付開始時点からシート片の剥離完了時点までの間に、少なくともV1<V2となる特定期間を設ける。」との技術的事項が記載されている。
ここで、当該途中の時点において、シート片の貼付速度V2とキャリアフィルムの巻取速度V1を、V1<V2となるように制御することは、途中の時点前後でシート片に掛かる張力が変化することは明らかである。
そして、引用発明は、搬送速さの違いによって、偏光フィルムに張力を掛け、「一定の速さ」で搬送される液晶パネル2に偏光フィルムを貼り付けるものであるから、貼り付け途中で偏光フィルムに掛かる張力が変化するような引用文献2に記載された技術的事項を引用発明に適用するには困難性があるといえる。
よって、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項から、相違点1に係る本願発明1の「速度制御工程」を容易に想到することはできない。

(イ)小括
したがって、上記相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとは認められない。

(3)請求項2,3について
本願発明2,3も、本願発明1の「速度制御工程」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとは認められない。

(4)請求項4?6について
本願発明4?6は、それぞれ「光学表示パネルの連続製造方法」の本願発明1?3に対応する「光学表示パネルの連続製造システム」の発明であり、本願発明1の「速度制御工程」に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとは認められない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないということはできない。また、本願発明1?6は、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-31 
出願番号 特願2012-93047(P2012-93047)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02F)
P 1 8・ 536- WY (G02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小濱 健太  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 森 竜介
星野 浩一
発明の名称 光学表示パネルの連続製造方法および光学表示パネルの連続製造システム  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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