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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04B
管理番号 1324042
審判番号 不服2016-6669  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-06 
確定日 2017-02-07 
事件の表示 特願2014-542472「無線周波数パッケージオンパッケージ回路」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月23日国際公開、WO2013/074846、平成26年12月15日国内公表、特表2014-533911、請求項の数(53)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年11月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年11月15日 米国、2012年11月14日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年7月29日付けで拒絶理由が通知され、同年11月26日付けで手続補正がなされ、同年12月22日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という)がなされ、これに対し、平成28年5月6日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において同年9月1日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という)が通知され、同年12月6日付けで手続補正がなされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1-53に係る発明は、平成28年12月6日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-53に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「 【請求項1】
無線周波数パッケージオンパッケージ回路であって、
無線周波数コンポーネントを備える第1の無線周波数パッケージと、
無線周波数コンポーネントを備える第2の無線周波数パッケージと、ここで前記第1の無線周波数パッケージおよび前記第2の無線周波数パッケージは、前記第2の無線周波数パッケージの上部に位置づけられた前記第1の無線周波数パッケージを有する垂直の構成であり、前記第1の無線周波数パッケージ上の前記無線周波数コンポーネントは、前記第2の無線周波数パッケージよりも大きい接地インダクタンスが認められる前記第1の無線周波数パッケージを埋め合わせるように設計される、
を備える、無線周波数パッケージオンパッケージ回路。」


第3 原査定の理由について
1.原査定の理由の概要
平成27年7月29日付けの拒絶理由通知書によれば、原査定の理由の概要は以下のとおり。

「1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

3.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(進歩性)

・請求項 1-53
・引用文献等 1-4
・備考
文献1には、複数の無線周波数パッケージを垂直方向に積み重ねて半田ボールやビアホールで接続し小型化を図る構成が記載されている。
特に段落[0093]-[0113]、[図15]-[図16]参照。
同様の構成は文献2、3にも記載されている。
文献2、特に段落[0019]-[0028]、[図1]-[図3]
文献3、特に段落[0023]-[0045]、[図1]-[図8]参照。

特に請求項2-10、14-19、24、25、27-35、38、39、
44、45、47-49、51-53について、
複数の無線周波数パッケージを垂直方向に積み重ねて構成するに際し、能動回路と受動回路とを区分して別のパッケージとすることや、何れを上或いは下に配置するかを決定すること、電力増幅器等を何れのパッケージに実装するか、或いは、フィルタとしてSAWフィルタ等を用いることを決定することは当業者が適宜選択し得る設計事項である。

特に請求項11-13、36、37について、
所望の設計要求に応じて、或いは搭載部品の高さに合わせてパッケージの厚さを設計することは当業者の通常能力の発揮に過ぎず当業者が容易になし得ることである。たとえば、文献4には、必要に応じて厚さを調整する旨記載されている。
文献4,特に段落[0074]参照。

したがって、本願請求項1-53に係る発明は、文献1-4に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものである。

●理由2(明確性)

・請求項 1-53
本願請求項1には、「前記第1の無線周波数パッケージ上の前記無線周波数コンポーネントは、接地インダクタンスの作用を低減するように設計される」との記載があるが機能的記載であり、「接地インダクタンスの作用を低減する」ための構成ないし手段が不明であり、発明として明確でない。
請求項26、46、50についても同様の点が指摘される。
上記請求項を引用するその余の請求項についても、上記と同様の理由により明確でない。

・・・略・・・

よって、請求項1-53に係る発明は明確でない。

●理由3(実施可能要件)

・請求項 1-53
本願明細書の段落[0037]には、「接地インダクタンスの影響を低減させる」ことに関し、
「接地インダクタンスの影響を低減させることは、さらなる接地インダクタンスに耐えるために、1つまたは複数のフィルタ110(例えば、表面弾性波(SAW)およびバルク弾性波(BAW)フィルタ)を設計することによって、取得されうる。例えば、表面弾性波(SAW)フィルタまたはバルク弾性波(BAW)フィルタ等といったフィルタ110は、無線周波数パッケージの下部(例えば、第2の無線周波数パッケージ108)に配置された場合より、無線周波数パッケージの上部(例えば、第1の無線周波数パッケージ106)に配置された場合に、増大した接地インダクタンスを認めうる。フィルタ110は、第1の無線周波数パッケージ106の接地寄生が、フィルタ110の望ましい周波数応答を獲得するために配置される(例えば、接地インダクタンス)と仮定して、設計されうる。さらに、第1の無線周波数パッケージ106上の他の無線周波数コンポーネントは、第1の無線周波数パッケージ106のさらなる接地インダクタンスを埋め合わせるために修正されうる。この接地インダクタンスの予想は、第1の無線周波数パッケージ106上の他の無線周波数コンポーネント、およびフィルタ110の帯域外のアイソレーションの劣化を減少または排除しうる。」
と記載されているが、「接地インダクタンス」をどのように予想するのか、また、予想された「接地インダクタンス」の影響を低減するために、どのようにフィルタ等の設計をするのかについての言及はない。また当該予想や具体的設計方法ないし構成は、当業者に自明であるとも認められない。

よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-53に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

<引用文献等一覧>

1:特開2008-270581号公報
2:特開2000-223656号公報
3:特開2003-197863号公報
4:特開2010-199178号公報」


2.原査定の理由の判断
2-1 理由1について
(1)引用文献の記載事項
引用文献1には、以下に摘記する事項が記載されている。

あ.「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップおよびこれを搭載した半導体装置の技術に関し、特に、デカップリングコンデンサを搭載した半導体チップにおいて、例えば、パソコン・サーバ・ルータ・ストレージなどの情報処理機器、情報車載端末やテレビ、カメラなどの情報家電に組み込まれるプロセッサやメモリなど、機能回路を搭載する半導体装置とその応用製品に適用して有効な技術に関する。」

い.「【0093】
(第5の実施の形態)
本発明の第5の実施の形態を、図12?図15を用いて説明する。
【0094】
本実施の形態は、第1?第4の実施の形態で説明した半導体装置の半導体チップを積層構造にして、ビアホールを設けた半導体チップを多段に接続し、最上層の半導体チップの裏面にコンデンサを搭載した各例である。
【0095】
図12に、本実施の形態の半導体装置の断面図を示す。図12に示す半導体装置は、ビアホールを設けたチップ20-a?20-dを多段(4段の例)に接続し、最上層のチップ20-dの裏面にコンデンサ40を搭載した例である。最上層のチップ20-dには信号用ビアホールが必要ない。
【0096】
パッケージ10に対してC4半田ボール30を介してチップ20の電極51-aが接続されている。このチップ20-aにはビアホール70-aが形成されており、このビアホールはチップ裏面の電極50-aに電気的に接続されている。このチップ20-aでは、電極50-aは電源用ばかりでなく信号用もある。この電極50-a上にさらに半田ボール31を介して第2のチップ20-bが接続されている。このチップ20-bもビアホールを有し、さらに半田ボール32を介して第3のチップ20-c、半田ボール33を介して第4のチップ20-dがそれぞれ接続される。
【0097】
このような3次元のスタック構造を持つ半導体装置9で、最上層のチップを20-dで表す。このチップ20-dにもビアホール70-dとチップ裏面の電極50-dが形成され、電極50-dにコンデンサ40が搭載される。
【0098】
3次元積層構造の半導体装置では、最上層のチップ20-dの電源環境が一番条件が悪い。この理由として一つ目は、チップ20-a?20-d内の配線とビアホールには抵抗成分があり、これによるiRドロップがある。二つ目は、各チップ内の電源配線およびビアホールによるインダクタンスによる誘導ノイズがある。これは例えパッケージ10上のコンデンサ41を搭載していても最上層のチップ20-dには電気的には遠すぎ、電荷を充分供給できないという課題である。
【0099】
このチップ20-dの裏面に搭載されたコンデンサ40は、このノイズのうちiRドロップには効果がないものの、誘導ノイズの低減には効果がある。これは、第1?第4の実施の形態までの議論と同じく、高さに制約を受けない大容量のコンデンサ40を電気的にパッケージ10のコンデンサ41から最も遠いチップ20-dであっても、この最も近い部位に搭載できるためであり、これがLPFを形成するためである。
【0100】
また、図13に示す半導体装置のように、ビアホールの抵抗値を変えることでQ値を制御することも可能である。図13の70-aと70-a1はチップ20-aのビアホールであるが、ビアホール70-aは信号用であり、低抵抗材料でできている。また、ビアホール70-a1は高抵抗材料でできており、ビアホール70-aより抵抗値が大きい。また、同様にチップ20-dのビアホール70-d1とビアホール70-dとはその抵抗値が異なる。
【0101】
コンデンサ40を搭載しないチップ20-a,20-b,20-cでは、信号用は低抵抗のビアホールを形成し、給電用のビアホールには、高抵抗のビアホールを形成してもよい。この場合、ビアホール(例えば70-d1)が高抵抗であるのでチップ20-dの電流ループのQ値を低減でき、共振周波数のノイズを低減できるという効果がある。そして、そのQ値を適切に制御するために、信号用ビアホール70-dとは異なる抵抗値を持たせること、あるいは電源用ビアホール70-d1の本数を加減することで、Q値制御が可能となる。
【0102】
同様に、図14に示す半導体装置のような3次元チップ積層実装であっても、同様な効果を得ることができる。すなわち、チップ20-a,20-bには一つのチップに一つのチップを積層実装するが、チップ20-c上には2つのチップ20-dとチップ20-eを搭載する。このチップ20-dと20-eにはビアホールを介して裏面にコンデンサ40-dと40-eが搭載されている。またチップ20-cにはビアホールを介してコンデンサ40-cが搭載されている。このコンデンサ40-cはチップ20-dとチップ20-eの間隙に搭載されており、コンデンサ40-cも高さによる制限を受けない。
【0103】
このようにチップの間にコンデンサを実装することで、最上層のチップ20-d,20-eばかりでなく、それよりも下のチップ裏面にコンデンサを搭載することができる。これは、当然パッケージ10上のコンデンサ41のみを搭載した場合に比べて、チップ20-c,20-d,20-eの給電ノイズを低減できる効果がある。この場合であっても、C4半田ボールと同じ場所に搭載されるわけではないので、チップ回路面のC4パッド数に制約を与えるものではないのは明らかである。
【0104】
さらに、図15に示す半導体装置のように、第1?第4の実施の形態を組み合わせることも可能である。すなわち、パッケージ10に対してC4半田ボール30を介してチップ
20-aが接続されている。このチップ20-aにはビアホール70-aが形成されており、このビアホールはチップ裏面の電極50-aに接続されている。ここで、電極50-aは電源ばかりでなく信号用もある。この電極50-a上にさらに半田ボール31を介して第2のチップ20-bが接続されている。このチップ20-bもビアホールを有し、さらに第3のチップ2-cが接続される。
【0105】
チップ20-cにもビアホールが形成され、チップ裏面に電極50-cが形成されている。この電極50-cとC4半田ボール30-dを介してチップ20-dの信号と信号電流帰還用のグランドが接続されている。チップ20-dの電源はボンディングワイヤ80-dでパッケージ10から直接給電されている。また、コンデンサ40-dとボンディングワイヤ80-dとはLPFを構成し、チップ20-dへのあるいはチップ20-dから外部への高周波電源ノイズを低減させている。
【0106】
また、必要に応じてチップ20-dの裏面の電極50-d’にボンディングワイヤ80-d1で電源を接続することで、チップ20-cの電源安定化も可能である。すなわち、信号とその帰還電流はC4半田ボール30-dを流し、ボンディングワイヤ80-dとコンデンサ40-dとでLPFが形成された電源は、さらにボンディングワイヤ80-d1でチップ20-cへと給電され、チップ20-c上に搭載されるコンデンサ40-cがLPFを構成し、安定化した電源供給が可能である。
【0107】
また、チップ20-eは、回路の配線層60-eが図面上面を向いており、この図には記載されていないシートやモールドなどの材料で固定されている。この固定材料は本実施の形態には大きな影響を与えない。このチップ20-eの配線層60-eの表面には電極51-eが形成され、これとパッケージ10とがボンディングワイヤ80-eで接続されている。このチップ20-eは、C4半田ボールでは接続されておらず、信号も電源もボンディングワイヤ80-eでパッケージ10に接続されている。また、チップ20-eにはビアホールが形成されており、チップ裏面に電極が形成され、コンデンサ40-eが実装されている。これにより、ボンディングワイヤ80-eがチップ20-eの配線層60-eと同じ表面にボンディング接続されることで、信号と電源が供給される場合であっても、ビアホール接続されたコンデンサ40-eは同一平面にないので、ボンディングワイヤ用の電極の配置に制限を与えないというこれまでの実施の形態と同じ効果を有する。
【0108】
また、必要に応じてチップ20-cの裏面の電極50-cにボンディングワイヤ80-e1でチップ20-eの信号並びに電源を接続することも可能である。これにより、ボンディングワイヤ80-eばかりでなく、ボンディングワイヤ80-e1も使えるので、チップ20-eに搭載されるこれらコンデンサ40-e,40-cの高さは、C4半田ボールの高さに制限されるわけではないので、大容量化が可能である。
【0109】
そしてさらなる効果として、ビアホールとボンディングワイヤと、コンデンサを自在に組み合わせて用いることで、大容量コンデンサを用いたLPFを半導体装置9内のチップ内の様々な場所に作ることができ、各チップでの低電源ノイズを実現できる。さらなる効果としてパッケージ10あるいはC4半田ボール30で給電用のボールを削減できるので、低コストに信号線本数を増加できるという効果もある。
【0110】
第4の課題を解決する方法として、チップ20内の電源用のビアホール70に抵抗成分が大きい材料を用いることで、Q値を小さくすることができる。しかし、信号用には低抵抗の材料を用いたビアホールにすることで信号の信号振幅の低下を防ぐことができる。このように、電源コンデンサ用には高抵抗のビアホールと、信号用には低抵抗のビアホールの2種類を用意することで、給電系のLPFと低Q値設計で安定した電源を印加することができ、かつ低抵抗のビアホールで信号を接続するので信号の劣化が少ないという効果がある。これは、以下の議論にも同じである。
【0111】
(第6の実施の形態)
本発明の第6の実施の形態を、図16を用いて説明する。
【0112】
本実施の形態は、第1?第5の実施の形態の半導体装置を応用して情報処理システムを構成した例である。
【0113】
図16に、本実施の形態の情報処理システムの構成を示す。情報処理システム300には、半導体装置9と、記憶装置310、入力デバイス350、表示デバイス340、アンテナ320、バッテリを含む電源回路360を有している。半導体装置9には、演算処理回路(MPU)のチップ20-aと、メモリ回路のチップ20-b,20-cと、アナログ回路のチップ20-dと、無線回路(RF)のチップ20-eが搭載されている。これらのチップ20-a?20-eには、チップ内にビアホールを有し、チップ裏面にここには示していないコンデンサを搭載している。そして、これらのチップ20-a?20-eには電源回路360から半導体装置9内のパッケージを介して給電されている。
【0114】
半導体装置9は、記憶装置310、表示デバイス340、アンテナ320、入力デバイス350と信号を送受信するように配線で接続されている。情報処理システム300は、入力デバイス350やアンテナ320を介したデータにより、記憶装置310に格納されている命令により情報処理を行い、これをアンテナ320を通じて送信し、あるいは表示デバイス340に表示する。
【0115】
この半導体装置9は、第1?第5の実施の形態のように構成されているので、それぞれのチップ20-a?20-eの回路表面に形成された接続用電極を少なくできるので、チップ20-a?20-e自身の大きさを小さくでき、低コスト化できるという効果がある。また、チップ20-a?20-eに搭載されているコンデンサ40がLPFを構成するので、電源回路360に安定化のための容量をより少なく搭載することができるという効果もある。」

そうすると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「 最上位が無線回路(RF)のチップ20-eとなるように、半導体のチップ20-a、20-b、20-c、20-eをパッケージ10上に積層した半導体装置であって、
各チップ内の電源配線およびビアホールによるインダクタンスによる誘導ノイズにより、最上層のチップ20-eの電源環境が一番条件が悪くなっているため、チップ上のコンデンサ40-eと前記電源配線およびビアホールによりLFPを構成し低電源ノイズとした、半導体装置。」

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「チップ」は、本願発明の「パッケージ」のようにコンポーネントを備えているか明確ではないものの、積層されるように板形状に構成され、回路として機能することから「回路板」と呼ぶことができる点では、本願発明の「パッケージ」と共通する。
そして、引用発明における「チップ」が本願発明の「パッケージ」に相当していると言えないことから、引用発明は「無線周波数パッケージオンパッケージ回路」ということはできないものの、「無線周波数を扱う積層された構造を有する回路」といえる点では、本願発明と共通する。

引用発明における「最上位」の「無線回路(RF)のチップ20-e」は、本願発明の「無線周波数コンポーネントを備える第1の無線周波数パッケージ」と「第1の無線周波数回路板」といえる点では共通する。
また、引用発明における半導体のチップ20-a?20-cの内のいずれか一つは、「無線周波数コンポーネントを備える」とはいえないものの、「第2の回路板」といえる点では本願発明の「無線周波数コンポーネントを備える第2の無線周波数パッケージ」と共通する。

引用発明においては「インダクタンスによる誘導ノイズにより、最上層のチップ20-eの電源環境が一番条件が悪くなっているため、チップ上のコンデンサ40-eと前記電源配線およびビアホールによりLFPを構成し低電源ノイズ」としているが、本願発明のように「前記第1の無線周波数パッケージ上の前記無線周波数コンポーネントは、前記第2の無線周波数パッケージよりも大きい接地インダクタンスが認められる前記第1の無線周波数パッケージを埋め合わせるように設計される」かどうかは明らかではない。

したがって、本願発明と引用発明とは、次の点で一致ないし相違していると認められる。

(一致点)
無線周波数を扱う積層された構造を有する回路であって、
第1の無線周波数回路板と、
第2の回路板と、ここで、前記第1の無線周波数回路板および前記第2の回路板は、前記第2の回路板の上部に位置づけられた前記第1の無線周波数回路板を有する垂直の構成である、
を備える、無線周波数を扱う積層された構造を有する回路。

(相違点1)
引用発明における「チップ」は、本願発明の「パッケージ」のようにコンポーネントを備えているか明確ではなく、本願発明の「パッケージ」と異なる点。そして、その結果として、引用発明は「無線周波数パッケージオンパッケージ回路」とはいえない点。

(相違点2)
一致点とした「第2の回路板」に関し、本願発明では「無線周波数」を扱うのに対して、引用発明ではこのような構成を備えていない点。

(相違点3)
本願発明では「前記第1の無線周波数パッケージ上の前記無線周波数コンポーネントは、前記第2の無線周波数パッケージよりも大きい接地インダクタンスが認められる前記第1の無線周波数パッケージを埋め合わせるように設計される」のに対して、引用発明は「各チップ内の電源配線およびビアホールによるインダクタンスによる誘導ノイズにより、最上層のチップ20-eの電源環境が一番条件が悪くなっているため、チップ上のコンデンサ40-eと前記電源配線およびビアホールによりLFPを構成し低電源ノイズとし」ている点。


(3)判断
上記相違点3について検討する。
本願発明において「前記第1の無線周波数パッケージ上の前記無線周波数コンポーネントは、前記第2の無線周波数パッケージよりも大きい接地インダクタンスが認められる前記第1の無線周波数パッケージを埋め合わせるように設計」することは、本願明細書の【0037】段落の記載を参照すれば、第1の無線周波数パッケージ上の無線周波数コンポーネントである表面弾性波フィルタなどを設計するにあたり、接地インダクタンスの存在を考慮して設計することを意味していると解される。これに対して、引用発明は、チップ上にコンデンサを設けることによって、寄生インダクタンスとLFPを新たに構成し、電源ノイズの影響を低減しようとしているものであるから、本願発明と引用発明とでは、寄生インダクタンスの影響を回避しようとする点で共通しているものの、解決する手段が異なっている。そして,引用発明1には本願発明のような構成への変更を示唆する記載も存在しない。さらに、引用文献2-4を参照しても、本願発明のような解決手段を示唆する記載はない。

(4)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明、及び引用文献2-4に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2-25に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、同様に、当業者が引用発明、及び引用文献2-4に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願の請求項26,46,50に係る発明は本願発明と実質的に同様の技術的特徴を有し、カテゴリーを変更したり、「生成する方法」や「生成する装置」として記載したものであるから、本願発明と同様の理由により、容易に発明できたものとはいえない。
そして、本願の請求項27-45,47-49,51-53に係る発明は、本願の請求項26,46,50に係る発明を、それぞれさらに限定したものであるから、本願発明と同様の理由により、容易に発明できたものとはいえない。

2-2 理由2,3について
本願請求項1の「前記第1の無線周波数パッケージ上の前記無線周波数コンポーネントは、前記第2の無線周波数パッケージよりも大きい接地インダクタンスが認められる前記第1の無線周波数パッケージを埋め合わせるように設計される」との記載は、本願明細書の【0037】段落の記載を参照すれば、第1の無線周波数パッケージ上の無線周波数コンポーネントである表面弾性波フィルタなどを設計するにあたり、接地インダクタンスの存在を考慮して設計することを意味していると解される。
そして、【0037】段落に「フィルタ110は、第1の無線周波数パッケージ106の接地寄生が、フィルタ110の望ましい周波数応答を獲得するために配置される(例えば、接地インダクタンス)と仮定して、設計されうる。」と記載されているように、具体的には、フィルタなどの無線周波数コンポーネントを設計する際に、接地側にインダクタンスが存在することを考慮してパラメータなどの設定すればいいことは明らかであり、具体的設計は無線周波数コンポーネントの種類に応じて異なり、適宜行える事項といえる。
よって、本願特許請求の範囲、及び発明の詳細な説明に、特許法36条6項1号及び2号に係る不備があるとは言えない。

2-3 まとめ
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
平成28年9月1日付け当審拒絶理由の概要は次のとおり。

「本件出願は、明細書、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


請求項46は、「無線周波数パッケージオンパッケージ回路を生成するための装置」について特定したものである。ところが、当該請求項の「ここで前記第1の無線周波数パッケージ上の前記無線周波数コンポーネントは、前記第2の無線周波数パッケージよりも大きい接地インダクタンスが認められる前記第1の無線周波数パッケージを埋め合わせるように設計される」という記載に関しては、「無線周波数パッケージオンパッケージ回路を生成するための装置」が「・・・埋め合わせをするような設計」をしているわけで

はないから、上記引用した「ここで前記第1の無線周波数パッケージ上の・・・・・を埋め合わせるように設計される」の記載は、「無線周波数パッケージオンパッケージ回路を生成するための装置」の構成を特定するものではなく、当該記載は本願発明の構成を不明瞭にしている。(6項2号)
また、上記引用した記載が「パッケージオンパッケージ回路を生成するための装置」を特定するものではないから、当該記載を除いて請求項46の構成を特定したとしても、そのような発明が、どのような技術的貢献をもたらし、発明が解決しようとする課題やその解決手段などの、当業者が発明の技術的意義を理解するために必要な事項が、発明の詳細な説明の欄に記載されているとはいえない。(4項1号委任省令違反)
請求項47?49についても同様である。また、単に方法のクレームとした請求項26?45、及びプログラムとした請求項50?53に関しても同様である。」


2.当審拒絶理由の判断
平成28年12月6日付け手続補正書によって、本願の請求項26,46,50は補正され発明は明確となった。
よって、当審拒絶理由は解消した。


第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-23 
出願番号 特願2014-542472(P2014-542472)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04B)
P 1 8・ 537- WY (H04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石田 昌敏  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 山本 章裕
吉田 隆之
発明の名称 無線周波数パッケージオンパッケージ回路  
代理人 岡田 貴志  
代理人 井関 守三  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 福原 淑弘  

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