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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H03B
審判 査定不服 判示事項別分類コード:237 取り消して特許、登録 H03B
管理番号 1324134
審判番号 不服2015-21264  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-01 
確定日 2017-02-07 
事件の表示 特願2011-132647「無線伝送装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月 7日出願公開、特開2013- 5115、請求項の数(21)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年6月14日の出願であって、平成27年2月10日付けで拒絶理由通知(以下、「原審拒絶理由」という。)がされ、同年4月14日付け及び4月17日付けで手続補正がされ、同年8月27日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年12月1日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成28年8月19日付けて当審より拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知1」という。)がされ、同年10月13日付けで手続補正がされ、同年10月31日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知2」という。)がされ、同年12月21日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原審拒絶理由の概要は、次のとおりである。

「 理 由

A.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

B.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

C.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

D.(…中略…)

E.(…中略…)


記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)


・請求項 1、7、16、17、22
・理由 A、B
・引用文献 1
・備考
引用文献1の【0043】?【0046】には、バイアス電圧を負性抵抗が発生する領域に設定することにより共鳴トンネルダイオードを発振させることが記載されており、引用文献1の【0058】には、バイアス電圧を発振直前の状態に設定することにより共鳴トンネルダイオードを電磁波の高感度検出に用いることが記載されており、引用文献1の【図5】には、バイアス電圧を発振直前の状態に設定した際に、共鳴トンネルダイオードは負性抵抗領域ではない非線形特性を示すことが図示されていることから、引用文献1において、共鳴トンネルダイオードは、負性微分抵抗を示す第1動作点で発振素子として動作し、負性抵抗領域ではない非線形特性を示す第2動作点で検出素子として動作するものと認められる。よって、引用文献1には、本願の請求項1、7、16、17、22に係る発明に対応する発明が記載されているものと認められる(引用文献1の【0001】?【0003】、【0031】、【0043】?【0047】、【0058】、【図5】参照)。
したがって、本願の請求項1、7、16、17、22に係る発明と引用文献1に記載された発明に相違点はないから、両者は同一である。
また、本願の請求項1、7、16、17、22に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。

(…中略…)

理由Cについて

・請求項 1-23
・先願 1
・備考
先願1の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(明細書等)には、本願の請求項1-23に係る発明に対応する発明が記載されているものと認められる(先願1の明細書等の【0027】?【0030】、【0035】、【0040】、【0056】?【0058】、【0063】?【0070】、【0074】、【0081】、【0094】、【0112】?【0115】、【0128】、【0145】?【0150】、【図1】、【図2】、【図9】、【図12】、【図14】?【図17】、【図21】?【図23】参照)。
したがって、本願の請求項1-23に係る発明と先願1の明細書等に記載された発明に相違点はないから、両者は同一である。

(…中略…)

引 用 文 献 等 一 覧

引用文献1.特開2009-49692号公報
(…中略…)
先願1.特願2011-54674号(特開2012-191520号公報)
(以下省略)

原査定(平成28年8月27日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。

「●理由A、B(特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項)について

本願の請求項1には、依然として、以下の拒絶理由A、Bが存在している。

・請求項 1
・引用文献 1
・備考
拒絶理由で提示した引用文献1の[図1]には、基板1と、基板1上に配置された電極2と、電極2と電気的に接続されて基板1上に配置され、テラヘルツ波を発振及び検出可能な共鳴トンネルダイオードを備えた半導体層5と、共鳴トンネルダイオードと電気的に接続されて基板1上に配置された電極3と、を備えたTHz発振素子が図示されているものと認められる。また、引用文献1の[0042]には、厚さ調整層を第1と第2で非対称な厚さにすることで、バイアスの極性を反転するだけで異なる周波数で発振することが記載されており、引用文献1の[0043]?[0046]には、バイアス電圧を負性抵抗が発生する領域に設定することにより共鳴トンネルダイオードを発振させることが記載されており、引用文献1の[0058]には、バイアス電圧を発振直前の状態に設定することにより共鳴トンネルダイオードを電磁波の高感度検出に用いることが記載されており、引用文献1の[図5]には、共鳴トンネルダイオードに印加されるバイアス電圧とそれによって発生する電流との関係が非対称の順方向及び逆方向電流電圧特性を有することが図示されており、ここで、引用文献1の[0058]、[図5]において、発振直前の状態のバイアス電圧に対応する動作点は、引用文献1の[図5]の第1象限における極大値以下の範囲であり、第3象限における極小値以上の範囲にあることは明らかであることを考慮すれば、引用文献1において、能動素子は、能動素子に印加されるバイアス電圧とそれによって発生する電流との関係が非対称の順方向および逆方向電流電圧特性を有して、負性微分抵抗を示す第1動作点で発振素子として動作し、負性抵抗領域ではない非線形特性を示し且つバイアス電圧によって発生する電流の変化の極大点以下の範囲であり極小点以上の範囲にある第2動作点で検出素子として動作するものと認められる。よって、引用文献1には、本願の請求項1に係る発明に対応する発明が記載されているものと認められる(拒絶理由で提示した引用文献1の[0001]?[0003]、[0031]?[0033]、[0042]?[0047]、[0058]、[図1]、[図5]参照)。
したがって、本願の請求項1に係る発明と引用文献1に記載された発明に相違点はないから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
また、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 2-5、9、10、12-26
(…中略…)

●理由C(特許法第29条の2)について

本願の請求項1には、依然として以下の拒絶理由Cが存在している。

・請求項 1
・先願 1
・備考
拒絶理由で提示した先願1の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(明細書等)の[図1]には、半導体基板1と、半導体基板1上に配置された第2の電極2と、第2の電極2と電気的に接続されて半導体基板1上に配置され、テラヘルツ波を発振及び検出可能な能動素子90を備えた共振器60と、能動素子90と電気的に接続されて半導体基板1上に配置された第1の電極4と、を備えたテラヘルツ発振素子が図示されているものと認められる。また、先願1の明細書等の[0045]、[図3]には、アンドープGaInAs層93a・93bの厚さを2nm・20nmと非対称にすることが記載されており、先願1の明細書等の[0058]、[0063]、[0064]、[図9]には、負性微分抵抗領域に動作点を有する振幅遷移変調によって、テラヘルツ電磁波を発生するとともに、非発振状態にある動作点Pにおいて、テラヘルツ電磁波を検出することが記載されており、ここで、先願1の明細書等の[図9]において、非発振状態にある動作点Pは、先願1の明細書等の[図9]の負性抵抗領域ではない非線形特性を示す領域であって、第1象限における極大値以下の範囲であり、第3象限における極小値以上の範囲にある領域に属することは明らかであることを考慮すれば、先願1の明細書等において、能動素子は、能動素子に印加されるバイアス電圧とそれによって発生する電流との関係が非対称の順方向および逆方向電流電圧特性を有して、負性微分抵抗を示す第1動作点で発振素子として動作し、負性抵抗領域ではない非線形特性を示し且つバイアス電圧によって発生する電流の変化の極大点以下の範囲であり極小点以上の範囲にある第2動作点で検出素子として動作するものと認められる。よって、先願1の明細書等には、本願の請求項1に係る発明に対応する発明が記載されているものと認められる(拒絶理由で提示した先願1の明細書等の[0027]、[0028]、[0045]、[0056]?[0058]、[0063]、[0064]、[図1]?[図3]、[図9]、[図12]参照)。
したがって、本願の請求項1に係る発明と先願1の明細書等に記載された発明は同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

(…中略…)

<意見書について>
(…中略…)
<引用文献等一覧>

引用文献1.特開2009-49692号公報
(…中略…)
先願1.特願2011-54674号(特開2012-191520号公報)
(以下省略)」

第3 当審拒絶理由通知の概要
1.当審拒絶理由通知1(平成28年8月19日付けの拒絶理由通知)の概要

「 理 由

1.(明確性)(…中略…)
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(明確性)について
(…中略…)

●理由2(進歩性)について
(1)請求項1について
引用文献1、2

引用文献1(特に、【0033】ないし【0035】、【0058】、図1及び図5参照。)には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「 基板(1)と、
前記基板上に配置された第2の電極(2)と、
前記第2の電極と電気的に接続されて前記基板上に配置され、テラヘルツ波を発振および検出可能な共鳴トンネルダイオードを構成する半導体領域(5)を備えた共振器(図1(a)の「←→」が指し示すスロットアンテナ構造部分)と、
前記半導体領域と電気的に接続されて前記基板上に配置された第1の電極(3)と、
を備えた発振素子であって、
前記半導体領域は、
前記半導体領域に印加されるバイアス電圧とそれによって発生する電流との関係が非対称の順方向および逆方向電流電圧特性を有し(図5参照)て、負性微分抵抗を示す第1動作点(図5のV1及びV2の領域)で発振素子として動作し、発振直前の状態に調整したバイアス電圧に対応する動作点で外部から入射した電磁波の高感度検出を行う発振素子を備えた無線装置。」

引用発明の「発振直前の状態」とは、「発振」しない状態から「発振」する状態に変化する「直前」の「状態」であると解される。そうすると、「発振素子」として動作する、負性微分抵抗を示す第1動作点である図5のV1の領域に対する「発振直前の状態」は、前記V1の領域に隣接する近傍の微小領域を指すから、V1の両端にある極大点又は極小点を含む微小領域であり、また、負性微分抵抗を示す第1動作点である図5のV2の領域に対する「発振直前の状態」は、前記V2の領域に隣接する近傍の微小領域を指すから、V2の両端にある極大点又は極小点を含む微小領域である。
一方、引用文献2の【0001】、【0004】、【0005】、【0010】及び図3には、無線電子ラベルのような無線装置に使用される「トンネルダイオード」が、装置が後方散乱モード(送信モード)で使用される場合にその電流-電圧特性の負性抵抗領域にバイアスされ、装置が受信モードで動作する場合にその谷電圧にバイアスされること、が記載されている。
ここで、引用文献2に記載の「谷電圧」とは、図3を参照すると、バイアス電圧によって発生する電流の変化の「極小点」であることが明らかである。ここで、当該「極小点」は、電流電圧特性の傾きがゼロであり、検出感度が極大となる動作点であることは当業者であれば自明のことである。
そして、引用発明において、検出感度を向上させることは自明な課題であるから、引用発明の「V1の両端にある極大点又は極小点を含む微小領域」を、検出感度が極大となる動作点に限定しようとすることは当業者であれば当然のことであり、そして、その具体的な動作点を、引用文献2に記載の「極小点」に限定すること、または、「極小点」と同様に検出感度が極大となる「極大点」に限定することは当業者が容易に想到し得ることである。

(…中略…)

引 用 文 献 等 一 覧

1.特開2009-49692号公報
2.特開平8-307326号公報
3.特開2010-57161号公報
(以下省略)」

2.当審拒絶理由通知2(平成28年11月1日付けの拒絶理由通知)の概要

「 理 由

1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.(拡大先願)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(明確性)及び理由2(サポート要件)について
(1)請求項5の記載
「前記基板は絶縁体基板であり、
前記絶縁体基板上と前記第1の電極との間に配置された層間絶縁膜と、
前記第2の電極上に配置されると共に、前記能動素子の少なくとも一部を構成する半導体層と、
を有し、
前記共振器には、2つの凹部が形成されており、前記2つの凹部に挟まれて、凸部が形成されており、前記半導体層の前記凸部の略中央部には突起部が形成され、前記突起部の下側に前記第1の電極に挟まれるように前記能動素子が配置される」
において、
(1-1)「前記突起部の下側に前記第1の電極に挟まれるように前記能動素子が配置される」は、明細書及び図面には記載されていない。つまり、明細書の段落【0118】には、「この突起部8の下側に第1の電極4aと挟まれるように、能動素子90が配置される。」と記載されている。(サポート要件)
仮に、「前記突起部の下側に前記第1の電極に挟まれるように前記能動素子が配置される」が「前記突起部の下側に前記第1の電極と挟まれるように前記能動素子が配置される」の誤記であるとしても、「能動素子」が、「第1の電極と挟まれる」とは、どのような態様であるのか明確でない。つまり、「能動素子」は、「第1の電極」と何との間に「挟まれる」のか、不明である。(明確性要件)
(1-2)請求項5に記載の「層間絶縁膜」を備える実施例は、明細書の段落【0113】ないし【0143】及び図27ないし図32に記載された「変形例2」であることから、請求項5に係る発明は、当該「変形例2」に相当すると解するのが合理的である。
そして、明細書の段落【0114】の記載「絶縁体基板10上に配置された層間絶縁膜9と、層間絶縁膜9上に配置され、かつ第1の電極4aに対して絶縁層3を介して第1の電極4に対向して配置された第2の電極2,2a」及び図29の記載からして、請求項5に記載の「前記絶縁体基板上と前記第1の電極との間に配置された層間絶縁膜」に記載の「第1の電極」は、「変形例2」における「第2の電極」(2、2a)に相当する。(主たる実施例(図2)と変形例2(図29)とでは、明細書中の記載において、「第1の電極」に相応するものと「第2の電極」に相応するものとが逆であることに留意されたい。)
そうすると、請求項5の記載における「第2の電極」は、必然的に、「変形例2」における「第1の電極」(4、4a、4b、4c)に相当することになる。
ここで、「変形例2」に係る明細書の段落【0118】には、「この突起部8の下側に第1の電極4aと挟まれるように、能動素子90が配置される。」と記載されている。
一方、請求項5には、「前記突起部の下側に前記第1の電極に挟まれるように前記能動素子が配置される」と記載されている。(この記載における「第1の電極」は、「変形例2」における「第2の電極」に相当する。)
したがって、仮に、「前記突起部の下側に前記第1の電極に挟まれるように前記能動素子が配置される」が「前記突起部の下側に前記第1の電極と挟まれるように前記能動素子が配置される」の誤記であるとしても、請求項5に係る発明は、明細書及び図面に記載したものではない。(サポート要件)
(2)前記(1)にも関連するが、請求項1ないし17に係る「能動素子」は、明細書(段落【0047】ないし【0052】)及び図面(特に、図2(b)、図3(a)(b)、図29(b))の記載を参酌しても、n+InGaAs層91aと91bとその間のすべての層とからなるものであるのか、または、AlAs層(94a、94b)とInGaAs層(95)の3層部分であるのか、明確ではない。
そうすると、「能動素子を備えた共振器」の構成も明確とはいえない。(明確性要件)

よって、請求項1ないし17に係る発明は、明確でなく、かつ、請求項5ないし17に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

●理由3(拡大先願)について
(1)請求項1について
先願1

先願1は、本願の出願前に出願されかつ本願の出願後に出願公開されたものであり、また、本願の出願人と先願1の出願人とは同一(完全同一)ではなく、本願の発明者と先願1の発明者とは同一(完全同一)ではない。

先願1の図1、図2、図13、図14及び図16ないし図18と対応する明細書の段落には、半導体基板(1)(又は絶縁体基板(10))、第2の電極(2、2a)、テラヘルツ検出素子としてのRTD(共鳴トンネルダイオード)(90)、共振器(60)を備えたテラヘルツ送受信器(100、200)(本願の「無線伝送装置」に相当。)が記載されている。
先願1の【0060】ないし【0062】及び図11には、能動素子に印加されるバイアス電圧とそれによって発生する電流との関係が非対称の順方向および逆方向電流電圧特性を有することが実質的に記載されている。
先願1の【0062】には、
「図11に示すように、電流-電圧特性上の動作点QではNDR領域であることから、発振状態にある。したがって、実施の形態に係るテラヘルツ検出素子においては、電流-電圧特性上の動作点を非発振状態とする必要がある。一方、実施の形態に係るテラヘルツ検出素子において検出感度を増大するためには、電流-電圧特性上の動作点を非発振状態とするとともに、微分抵抗の変化率を最大化することが望ましい。このような動作点は、実施の形態に係るテラヘルツ検出素子の電流-電圧特性上の動作点Pおよび動作点Qに相当する。すなわち、電流-電圧特性上の動作点Pおよび動作点Rでは、非発振状態にあり、しかも検出感度が極大値を取る。」
と記載されている。(なお、「動作点Pおよび動作点Qに相当する」は、後続の「すなわち、電流-電圧特性上の動作点Pおよび動作点Rでは、…」の記載から、「動作点Pおよび動作点Rに相当する」の誤記と解される。)
ここで、「電流-電圧特性上の動作点QではNDR領域であることから、発振状態にある。」との記載から、先願1の「RTD」は、負性微分抵抗領域(NDR)において、発振状態にあることがわかる。そして、先願1の【0047】には、テラヘルツ発振素子RTD(O)とテラヘルツ検出素子RTD(D)とは、同一工程で製造されることが記載され、図4の記載から、テラヘルツ発振素子RTD(O)とテラヘルツ検出素子RTD(D)とは同一構造の半導体であり、また、【0065】には、送信器と検出器とで同一構成のRTDを用いることが記載されている。
よって、先願1の「RTD」は、「負性微分抵抗を示す第1動作点で発振素子として動作」することは明らかである。
また、先願1の図11の記載から「動作点P」は「極大点」であり、「動作点R」は「極小点」であり、両者はいずれも「負性抵抗領域ではない非線形特性」を示す部分であること、「一方、実施の形態に係るテラヘルツ検出素子において検出感度を増大するためには、電流-電圧特性上の動作点を非発振状態とするとともに、微分抵抗の変化率を最大化することが望ましい。このような動作点は、実施の形態に係るテラヘルツ検出素子の電流-電圧特性上の動作点Pおよび動作点Qに相当する。」との記載、及び、微分抵抗の変化率は、動作点P又は動作点Rが最大(極大)となるため、動作点P及び動作点Rにおいて検出感度が最大(極大)となることは自明であることから、先願1の「RTD」は、「負性抵抗領域ではない非線形特性を示し且つ前記バイアス電圧によって発生する電流の変化の極大点または極小点であると共に、電流-電圧特性上の動作点が非発振状態にあり、且つ微分抵抗の変化率を最大化して検出感度を極大とする第2動作点で検出素子として動作する」ものである。
そうすると、先願1の「RTD」は、本願の「能動素子」に相当するといえる。
よって、請求項1に係る発明は、先願1に記載された発明である。
(…中略…)

<引用文献等一覧>
先願1. 特願2011-81855号(特開2012-216714号公報)
(以下省略)」


第4 本願発明
本願の請求項1ないし21に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明21」という。)は、平成28年12月21日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された事項により特定される発明であり、このうち、本願発明1は、以下のとおりである。

「 基板と、
前記基板上に配置された第2の電極と、
前記第2の電極と電気的に接続されて前記基板上に配置され、テラヘルツ波を発振および検出可能な共振器と、
前記共振器と電気的に接続されて前記基板上に配置された第1の電極と、
を備えた無線伝送装置であって、
前記共振器は、
前記共振器に印加されるバイアス電圧とそれによって発生する電流との関係が非対称の順方向および逆方向電流電圧特性を有して、負性微分抵抗を示す第1動作点で発振素子として動作し、負性抵抗領域ではない非線形特性を示し且つ前記バイアス電圧によって発生する電流の変化の極大点又は極小点であると共に、電流-電圧特性上の動作点が非発振状態にあり、且つ微分抵抗の変化率を最大化して検出感度を極大とする第2動作点で検出素子として動作し、
所定のオフセット電圧をオフレベルとして前記非発振状態である前記第2の動作点に設定し、前記オフセット電圧のバイアスレベルから入力電圧をパルス状に変化させて、前記入力電圧の印加されるレベルをオンレベルとして、発振状態である前記第1の動作点に設定することを特徴とする無線伝送装置。」

(なお、「前記第2の動作点」は、「前記第2動作点」の誤記であることが明らかである。)

第5 引用発明及び周知事項
1.引用発明
(1)引用発明1
原審拒絶理由2で引用された特願2011-81855号(特開2012-216714号公報)(以下、「先願1」という。)には、「テラヘルツ検出素子」(発明の名称)に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【0027】
実施の形態に係るテラヘルツ検出素子の模式的鳥瞰構造は、図1?図2に示すように、半導体基板1と、半導体基板1上に配置された第2の電極2,2aと、第2の電極2上に配置された絶縁層3と、第2の電極2に対して絶縁層3を介して配置され、かつ半導体基板1上に第2の電極2に対向して配置された第1の電極4(4a,4b,4c)と、絶縁層3を挟み第1の電極4aと第2の電極2間に形成されたMIMリフレクタ50と、MIMリフレクタ50に隣接して、半導体基板1上に対向する第1の電極4と第2の電極2間に配置された共振器60と、共振器60の略中央部に配置された能動素子90と、共振器60に隣接して、半導体基板1上に対向する第1の電極4と第2の電極2間に配置された導波路70と、導波路70に隣接して、半導体基板1上に対向する第1の電極4と第2の電極2間に配置されたホーン開口部80とを備える。」(第9ページ)

(イ)「【0060】
一方、実施の形態に係るテラヘルツ検出素子(RTD)の電流-電圧特性は、模式的に図11に示すように表される。実施の形態に係るテラヘルツ検出素子(RTD)は、負性抵抗を有するため、SBDに比べて非線形性の大きい領域が存在し、感度が高くなる。
【0061】
(…中略…)
【0062】
図11に示すように、電流-電圧特性上の動作点QではNDR領域であることから、発振状態にある。したがって、実施の形態に係るテラヘルツ検出素子においては、電流-電圧特性上の動作点を非発振状態とする必要がある。一方、実施の形態に係るテラヘルツ検出素子において検出感度を増大するためには、電流-電圧特性上の動作点を非発振状態とするとともに、微分抵抗の変化率を最大化することが望ましい。このような動作点は、実施の形態に係るテラヘルツ検出素子の電流-電圧特性上の動作点Pおよび動作点Qに相当する。すなわち、電流-電圧特性上の動作点Pおよび動作点Rでは、非発振状態にあり、しかも検出感度が極大値を取る。
【0063】
(…中略…)
【0064】
実施の形態に係るテラヘルツ検出素子(RTD)を検出素子として適用するテラヘルツ無線通信方式の模式的ブロック構成は、図13に示す示すように、テラヘルツ発振素子38を備えるテラヘルツ送信器100と、テラヘルツ検出素子44を備えるテラヘルツ受信器200とを備える。ここで、テラヘルツ検出素子44は、実施の形態に係るテラヘルツ検出素子(RTD)を適用可能である。ここで、テラヘルツ発振素子38は、例えば、負性微分抵抗領域(NDR)に動作点を有し、テラヘルツ電磁波を発生すると共に、テラヘルツ検出素子44は、テラヘルツ発振素子38から発生されたテラヘルツ電磁波を検出する。
【0065】
実施の形態に係るテラヘルツ検出素子(RTD)と同一構成のテラヘルツ発振素子(RTD)を利用したテラヘルツ無線通信方式の構成は、図14に示すように表される。図14においては、図1に示された実施の形態に係るテラヘルツ検出素子(RTD)と同一構成のテラヘルツ発振素子(RTD)を利用している。このため、同一工程で製造したテラヘルツ発振素子と組み合わせることによって、送信器および検出器が、飛躍的に小さくなり、高感度、低雑音でテラヘルツ電磁波の無線送受信方式を提供することができる。」(第13ページ)

前記(イ)の【0062】の「このような動作点は…動作点P及び動作点Q」は、以降の「すなわち、…動作点Pおよび動作点Rでは、…」との記載から、「このような動作点は…動作点P及び動作点R」の誤記と認められる。
前記(イ)の【0065】より、「テラヘルツ検出素子」は、「テラヘルツ発振素子」としても動作するものである。よって、これらを総称して、「テラヘルツ素子」と称することは任意である。
先願1の図11より、「前記共振器に印加されるバイアス電圧とそれによって発生する電流との関係が非対称の順方向および逆方向電流電圧特性を有して」いることは自明である。
前記(イ)の【0062】より、NDR領域、すなわち、負性微分抵抗を示す領域の動作点Qでは、発信状態である。この動作点Qを総称して「第1動作点」と称することは任意である。
また、先願1の図11の記載から、「動作点P」は「極大点」であり、「動作点R」は「極小点」であり、両者はいずれも「負性抵抗領域ではない非線形特性」を示す部分であること、前記(イ)の【0062の】「一方、実施の形態に係るテラヘルツ検出素子において検出感度を増大するためには、電流-電圧特性上の動作点を非発振状態とするとともに、微分抵抗の変化率を最大化することが望ましい。このような動作点は、実施の形態に係るテラヘルツ検出素子の電流-電圧特性上の動作点Pおよび動作点Qに相当する。」との記載、及び、微分抵抗の変化率は、動作点P又は動作点Rが最大(極大)となるため、動作点P及び動作点R(「第2動作点」と称することは任意。)において検出感度が最大(極大)となることは自明であることから、「テラヘルツ素子」は、「負性抵抗領域ではない非線形特性を示し且つ前記バイアス電圧によって発生する電流の変化の極大点または極小点であると共に、電流-電圧特性上の動作点が非発振状態にあり、且つ微分抵抗の変化率を最大化して検出感度を極大とする第2動作点で検出素子として動作する」ものである。

したがって、先願1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

「 基板と、
前記基板上に配置された第2の電極と、
前記第2の電極と電気的に接続されて前記基板上に配置され、テラヘルツ波を発振および検出可能な共振器と、
前記共振器と電気的に接続されて前記基板上に配置された第1の電極と、
を備えた無線伝送装置であって、
前記共振器は、
前記共振器に印加されるバイアス電圧とそれによって発生する電流との関係が非対称の順方向および逆方向電流電圧特性を有して、負性微分抵抗を示す第1動作点で発振素子として動作し、負性抵抗領域ではない非線形特性を示し且つ前記バイアス電圧によって発生する電流の変化の極大点又は極小点であると共に、電流-電圧特性上の動作点が非発振状態にあり、且つ微分抵抗の変化率を最大化して検出感度を極大とする第2動作点で検出素子として動作することを特徴とする無線伝送装置。」

(2)引用発明2
原査定及び原審拒絶理由1で引用された特開2009-49692号公報(以下、「引用例」という。)には、「発振素子、及び検査装置」(発明の名称)に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(ウ)「【0033】
図1(a)、(b)は本発明に係るTHz発振素子の構造を説明する図である。基板1上に電極兼アンテナとなるTi/Pd/Au層2、3が絶縁層6を介して形成されている。上部の電極3には一部に電極2、3を除去した窓領域4があり、スロットアンテナ構造を形成している。本発明ではこのスロットアンテナで共振器が構成され、矢印で示された窓領域の長さが発振周波数を決めるファクターとなっている。また、5はポスト状に形成された半導体領域であり、そのA-A’断面図が図1(b)に示されている。
【0034】
半絶縁性のInP基板1には、以下の層が形成されている。15は第1のn+-InGaAsコンタクト層、14はn-InGaAs層、13は第1のノンドープInGaAs厚さ調整層である。12は第1のノンドープInAlAsバリア層、11はノンドープInGaAs量子井戸層、10は第2のノンドープInAlAsバリア層である。そして、9は第2のノンドープInGaAs厚さ調整層、8はn-InGaAs層、7は第2のn+-InGaAsコンタクト層であり、これらの層は、例えば、分子線エピタキシー装置などにより結晶成長される。そして、一辺2.5μmの矩形ポストになるようにICP法などのドライエッチングにより形成される。
【0035】
電源21または22に接続した電極2、3を通してこれらの層に電圧が印加されることになる。このうち、10、11、12の層よって2重障壁量子井戸構造による活性層を構成し、負性抵抗を有する共鳴トンネルダイードとなって利得部を形成することになる。」(第6ページ)

(エ)「【0058】
また、ここまでの実施例において発振素子の説明を行ったが、同様の構造で発振直前の状態にバイアス電圧を調整しておき、外部から入射した電磁波の高感度検出を行うこともできる。その場合、発振周波数の近傍でのみ高感度で検出できるため、狭帯域周波数フィルタ付検出器として動作する。この場合も、バイアス電圧の極性によって異なる2周波数の検出が可能なものとなる。」(第9ページ)

(オ)「

」(第11ページ)

(カ)「

」(第12ページ)

前記(ウ)ないし(カ)より、引用例には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

「 基板(1)と、
前記基板上に配置された第2の電極(2)と、
前記第2の電極と電気的に接続されて前記基板上に配置され、テラヘルツ波を発振および検出可能な共鳴トンネルダイオードを構成する半導体領域(5)を備えた共振器(図1(a)の「←→」が指し示すスロットアンテナ構造部分)と、
前記半導体領域と電気的に接続されて前記基板上に配置された第1の電極(3)と、
を備えた発振素子であって、
前記共振器は、
前記共振器に印加されるバイアス電圧とそれによって発生する電流との関係が非対称の順方向および逆方向電流電圧特性を有し(図5参照)て、負性微分抵抗を示す第1動作点(図5のV1及びV2の領域)で発振素子として動作し、発振直前の状態に調整したバイアス電圧に対応する動作点で外部から入射した電磁波の高感度検出を行う発振素子を備えた無線装置。」

(3)引用発明3
原査定で引用された特願2011-54674号(特開2012-191520号公報)(以下、「先願2」という。)には、「テラヘルツ無線通信方式」(発明の名称)に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(キ)「【0027】
実施の形態に係るテラヘルツ無線通信方式に適用可能なテラヘルツ発振素子の模式的鳥瞰構造は、図1?図2に示すように、半導体基板1と、半導体基板1上に配置された第2の電極2,2aと、第2の電極2上に配置された絶縁層3と、第2の電極2に対して絶縁層3を介して配置され、かつ半導体基板1上に第2の電極2に対向して配置された第1の電極4(4a,4b,4c)と、絶縁層3を挟み第1の電極4aと第2の電極2間に形成されたMIMリフレクタ50と、MIMリフレクタ50に隣接して、半導体基板1上に対向する第1の電極4と第2の電極2間に配置された共振器60と、共振器60の略中央部に配置された能動素子90と、共振器60に隣接して、半導体基板1上に対向する第1の電極4と第2の電極2間に配置された導波路70と、導波路70に隣接して、半導体基板1上に対向する第1の電極4と第2の電極2間に配置されたホーン開口部80とを備える。」(第9ページ)

(ク)「【0058】
図9に示すように、電流-電圧特性上の動作点Pでは、非発振状態にあり、動作点QではNDR領域であることから、発振状態にある。したがって、電流-電圧特性上の動作点を非発振状態と発振状態間で、ダイナミックに変化させることによって、振幅シフトキーイング(ASK)変調方式を実現することができる。図9では、オフセット電圧Voffsetをオフ(off)レベルとして動作点P(非発振状態)に設定している。また、オフセット電圧Voffsetのバイアスレベルから入力電圧VACをパルス状に変化させて、入力電圧VACの印加されるレベルをオン(on)レベルとして、動作点Q(発振状態)に設定している。」(第12ページ)

(ケ)「【0063】
実施の形態に係るテラヘルツ無線通信方式は、図12に示すように、テラヘルツ発振素子38を備えるテラヘルツ送信器100と、テラヘルツ検出素子44を備えるテラヘルツ受信器200とを備える。ここで、テラヘルツ発振素子38は、負性微分抵抗領域(NDR)に動作点を有する振幅遷移変調によって、テラヘルツ電磁波を発生すると共に、テラヘルツ検出素子44は、テラヘルツ発振素子38から発生されたテラヘルツ電磁波を検出する。」(第13ページ)

前記(キ)ないし(ケ)より、先願2には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認める。

「 基板と、
前記基板上に配置された第2の電極と、
前記第2の電極と電気的に接続されて前記基板上に配置され、テラヘルツ波を発振可能な共振器と、
前記共振器と電気的に接続されて前記基板上に配置された第1の電極と、
を備えた無線伝送装置であって、
前記共振器は、
前記共振器に印加されるバイアス電圧とそれによって発生する電流との関係が非対称の順方向および逆方向電流電圧特性を有して、負性微分抵抗を示す第1動作点で発振素子として動作し、
所定のオフセット電圧をオフレベルとして前記非発振状態である第2動作点に設定し、前記オフセット電圧のバイアスレベルから入力電圧をパルス状に変化させて、前記入力電圧の印加されるレベルをオンレベルとして、発振状態である前記第1の動作点に設定することを特徴とするテラヘルツ送信器と、
テラヘルツ検出素子を備えるテラヘルツ受信器とを備える、
テラヘルツ無線通信方式。」

4.周知事項
当審拒絶理由2で引用された特開平8-307326号公報(以下、「周知例」という。)には、「RF装置」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。

(コ)「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明による装置(例えば、無線ラベル)は、アンテナの後方散乱を変調するためにアンテナに接続された別個の変調モジュールを使用することにより、入射無線周波数(RF)信号の改良された後方散乱を提供する。別個の検出器ダイオードは、アンテナに接続されて、アンテナにより受信された変調信号を検出する。検出器ダイオードは、整合回路網を介してアンテナに検出されており、所定のRF周波数における検出器ダイオードのインピーダンスが整合回路網により変換されたアンテナポート・インピーダンスと共役的に整合するようにする。アンテナは、ダイポール、パッチ、モノポールまたは折返しモノポールであってもよい。
【0005】本発明の一実施形態において、検出器ダイオードはインピーダンス整合回路網を介してアンテナポートに接続される。本発明の他の一実施例において、変調器ダイオードはトンネルダイオードであり、装置が後方散乱モードで動作する場合にその電流-電圧特性の負性抵抗領域にバイアスされ、装置が受信モードで動作する場合にその谷電圧にバイアスされる。」(第2ページ)

(サ)「【0010】受信モードと後方散乱モードとの間の正確なタイミングは、基地局と無線ラベルとの間に確立される所定の通信プロトコルを具現化する図示しないラベル回路により決定される。後方散乱モードにおいて、無線ラベルは、基地局に送られるべき情報と共に基地局から受信した搬送波信号を変調し、アップリンク信号を形成する。アップリンク信号は、以下に説明するように、ベースバンド変調器回路124から受信した情報信号を使用して、変調器ダイオード121をスイッチングオン・オフさせることにより変調される。」(第3ページ)

前記(コ)の【0005】において、「谷電圧」は、負性抵抗領域ではない非線形特性を示し、発生する電流の変化の極小点であるバイアス電圧であることは明らかである。

前記(コ)及び(サ)より、周知例には、次の周知事項が記載されていると認める。(以下、これを「周知事項」という。)

「 無線装置に使用されるトンネルダイオードが、装置が後方散乱モード(送信モード)で使用される場合に、その電流-電圧特性の負性抵抗領域となるバイアス電圧にバイアスされ、装置が受信モードで動作する場合に、負性抵抗領域ではない非線形特性を示し且つ発生する電流の変化の極小点であるバイアス電圧にバイアスされること。」

第6 当審の判断
1.当審拒絶理由通知2について
(1)理由1(明確性)及び理由2(サポート要件)について
平成28年12月21日付けの手続補正により、補正後の請求項1ないし21に係る発明において、定義が不明確であった「能動素子」は、定義が明確な「共振器」という語に補正された。
また、発明の詳細な説明との記載と対応せず、かつ、「挟まれる」の語の意味が不明確であった補正前の請求項5に係る発明は上記手続補正により削除された。
よって、当審拒絶理由通知2の理由1(明確性)及び理由2(サポート要件)はいずれも解消した。

(2)理由3(拡大先願)について
本願発明1と引用発明1とを対比すると、
[相違点]
本願発明1は、「所定のオフセット電圧をオフレベルとして前記非発振状態である前記第2の動作点に設定し、前記オフセット電圧のバイアスレベルから入力電圧をパルス状に変化させて、前記入力電圧の印加されるレベルをオンレベルとして、発振状態である前記第1の動作点に設定すること」との技術的事項を有しているのに対し、引用発明1は、当該技術的事項を備えていない点、
において相違し、それ以外の点において一致している。
そして、前記[相違点]は、本願の出願時における技術常識を参酌しても、課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえない。
よって、本願発明1は、先願1に記載された発明と同一ではない。
本願発明2ないし本願発明21は、本願発明1に係る技術的事項をすべて包含しているから、本願発明1と同様に、先願1に記載された発明と同一ではない。

2.当審拒絶理由通知1について
本願発明1と引用発明2とを対比する。
引用発明2において、「発振素子」は、「発振直前の状態に調整したバイアス電圧に対応する動作点」で「外部から入射した電磁波の高感度検出を行う」ものであるから、当該「動作点」において「検出素子」として動作することは明らかである。そうすると、引用発明2の当該「動作点」と、本願発明1の「第2の動作点」とは、所定の動作点である点において共通する。
また、引用発明2の「発振素子」は、「装置」といい得るものである。
そうすると、本願発明1と引用発明2とは、以下の点において一致ないし相違する。

[一致点]
「 基板と、
前記基板上に配置された第2の電極と、
前記第2の電極と電気的に接続されて前記基板上に配置され、テラヘルツ波を発振および検出可能な共振器と、
前記共振器と電気的に接続されて前記基板上に配置された第1の電極と、
を備えた無線伝送装置であって、
前記共振器は、
前記共振器に印加されるバイアス電圧とそれによって発生する電流との関係が非対称の順方向および逆方向電流電圧特性を有して、負性微分抵抗を示す第1動作点で発振素子として動作し、所定の動作点で検出素子として動作する装置。」

[相違点1]
「検出素子」として動作する「所定の動作点」が、本願発明1は、「負性抵抗領域ではない非線形特性を示し且つ前記バイアス電圧によって発生する電流の変化の極大点又は極小点であると共に、電流-電圧特性上の動作点が非発振状態にあり、且つ微分抵抗の変化率を最大化して検出感度を極大とする第2動作点」であるのに対し、引用発明2は、「発振直前の状態に調整したバイアス電圧に対応する動作点」である点。

[相違点2]
本願発明1は、「所定のオフセット電圧をオフレベルとして前記非発振状態である前記第2の動作点に設定し、前記オフセット電圧のバイアスレベルから入力電圧をパルス状に変化させて、前記入力電圧の印加されるレベルをオンレベルとして、発振状態である前記第1の動作点に設定すること」との技術的事項を有しているのに対し、引用発明2は、当該技術的事項を備えていない点。

事案に鑑みて、[相違点2]について先に検討するに、当該「相違点2」に係る本願発明1の技術的事項は、周知例1を含めいずれの提示文献にも記載されておらず、また、本願の出願時における技術常識を参酌しても当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、[相違点1]について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明2に基づいて周知事項を参酌することにより当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本願発明2ないし本願発明21は、本願発明1に係る技術的事項をすべて包含しているから、本願発明1と同様に、引用発明2に基づいて周知事項を参酌することにより当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 原査定についての判断
1.理由A(新規性)及び理由B(進歩性)について
平成28年12月21日付けの手続補正により、補正後の請求項1に係る発明は、前記[相違点2]に係る本願発明1の技術的事項を有することとなった。そして、前記[相違点2]に係る本願発明1の技術的事項は、原査定における引用文献1(当審拒絶理由通知1における引用例)には記載されておらず、本願の出願日における周知事項でもないので、本願発明1ないし本願発明21は、当業者であっても、原査定における引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明できたものではない。

2.理由C(拡大先願)について
本願発明1と引用発明3とを対比する。
引用発明3の「検出素子」は、「無線伝送装置」といい得るものである。
また、引用発明3に係る「テラヘルツ無線通信方式」は、「検出素子」として動作する「共振器」を備える「テラヘルツ送信器」とは別に「テラヘルツ検出素子を備えるテラヘルツ受信器」を備えているものの、当該「テラヘルツ検出素子」が、どのようなものであるのかについて具体的に構成が特定されておらず、かつ、「テラヘルツ送信器」の「共振器」が「検出素子」としても動作することが、本願の出願時における技術常識を参酌しても自明であるともいえない。
そうすると、本願発明1と引用発明3とは、次の点において一致ないし相違する。

[一致点]
基板と、
前記基板上に配置された第2の電極と、
前記第2の電極と電気的に接続されて前記基板上に配置され、テラヘルツ波を発振可能な共振器と、
前記共振器と電気的に接続されて前記基板上に配置された第1の電極と、
を備えた無線伝送装置であって、
前記共振器は、
前記共振器に印加されるバイアス電圧とそれによって発生する電流との関係が非対称の順方向および逆方向電流電圧特性を有して、負性微分抵抗を示す第1動作点で発振素子として動作し、
所定のオフセット電圧をオフレベルとして前記非発振状態である第2の動作点に設定し、前記オフセット電圧のバイアスレベルから入力電圧をパルス状に変化させて、前記入力電圧の印加されるレベルをオンレベルとして、発振状態である前記第1の動作点に設定することを特徴とする無線伝送装置。

[相違点]
本願発明1の「共振器」は、所定の「第2動作点」において「検出素子」としても動作するものであるのに対し、引用発明3の「共振器」は、「検出素子」としても動作するかどうか不明である点。

そして、当該[相違点]は、本願の出願時における技術常識を参酌しても、課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえない。
よって、本願発明1は、先願2に記載された発明と同一ではない。
また、本願発明2ないし本願発明21は、本願発明1に係る技術的事項をすべて包含しているから、本願発明1と同様に、先願2に記載された発明と同一ではない。

3.小括
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-24 
出願番号 特願2011-132647(P2011-132647)
審決分類 P 1 8・ 237- WY (H03B)
P 1 8・ 121- WY (H03B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 徳浩鬼塚 由佳  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 林 毅
中野 浩昌
発明の名称 無線伝送装置  
代理人 三好 秀和  
代理人 三好 秀和  

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