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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02P
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H02P
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02P
管理番号 1324209
審判番号 不服2016-2065  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-10 
確定日 2017-01-26 
事件の表示 特願2014- 97818「モータ駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月 6日出願公開、特開2015-144543〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成26年5月9日(優先日平成25年12月27日)の出願であって、平成27年3月10日付けで拒絶理由が通知され(発送日平成27年3月17日)、平成27年5月15日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年11月10日付けで拒絶査定(発送日平成27年11月17日)がなされ、これに対して、平成28年2月10日に本件審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成28年2月10日付けの手続補正について
[補正の却下の決定の結論]
平成28年2月10日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正における特許請求の範囲についての補正は、本件補正前の平成27年5月15日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲に独立形式で記載された請求項1及び請求項2のうち、補正前の請求項1を削除し、補正前の請求項2を以下に示すとおり変更して補正後の請求項1とするとともに、補正前に引用形式で記載された請求項3ないし7のうち、補正前の請求項7を削除し、補正前の請求項3ないし6における他の請求項の引用について、補正前の請求項1又は請求項2を直接又は間接的に引用するものから補正後の請求項1を直接又は間接的に引用するものに変更した上で、請求項の番号を繰り上げてそれぞれを補正後の請求項2ないし5とするものである。

本件補正前の特許請求の範囲の請求項2は、以下のとおりである。

「 【請求項2】
モータの複数の相それぞれに対応する複数の上下アームそれぞれが、2つのスイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b、D3a、D3b、D4a、D4b、D5a、D5b)を直列に接続することによって構成され、それによって形成された接続点(NU,NV,NW)それぞれから対応する前記相へ電圧を出力するモータ駆動装置であって、
前記上下アームに直流電圧(Vdc)を供給する電源供給部(20)と、
前記上下アームに並列に接続された電圧検出部(23)と、
前記上下アームの上アーム側スイッチング素子(Q3a,Q4a,Q5a)の駆動電源のために、前記スイッチング素子(Q3a,Q4a,Q5a)の低電位側よりも高い電位を生成するブートストラップ回路(31)と、
前記スイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)をオンオフ動作させる制御部(40)と、
を備え、
前記制御部(40)は、前記電圧検出部(23)の検出値が所定の閾値を超えたとき、前記上下アームの両方の前記スイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)をオフにする、
モータ駆動装置(10)。」

これに対し、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1は、以下のとおりである(なお、下線部は補正により変更された箇所である。)。

「 【請求項1】
モータの複数の相それぞれに対応する複数の上下アームそれぞれが、2つのスイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b、D3a、D3b、D4a、D4b、D5a、D5b)を直列に接続することによって構成され、それによって形成された接続点(NU,NV,NW)それぞれから対応する前記相へ電圧を出力するモータ駆動装置であって、
前記上下アームに直流電圧(Vdc)を供給する電源供給部(20)と、
前記上下アームに並列に接続された電圧検出部(23)と、
前記上下アームの上アーム側スイッチング素子(Q3a,Q4a,Q5a)の駆動電源のために、前記スイッチング素子(Q3a,Q4a,Q5a)の低電位側よりも高い電位を生成するブートストラップ回路(31)と、
前記スイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)をオンオフ動作させる制御部(40)と、
を備え、
前記ブートストラップ回路(31)の耐圧が、前記スイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)の耐圧程度に設定され、
前記制御部(40)は、前記電圧検出部(23)の検出値が所定の閾値を超えたとき、前記上下アームの両方の前記スイッチング素子(Q3a、Q3b,Q4a、Q4b,Q5a、Q5b)をオフにする、
モータ駆動装置(10)。」

2.新規事項
本件補正は、補正前の請求項2に記載された発明の発明特定事項である「ブートストラップ回路」について、「前記ブートストラップ回路の耐圧が、前記スイッチング素子の耐圧程度に設定され」という事項を追加して補正後の請求項1に記載された発明とする補正事項を含むものである。
上記補正事項が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものか否かを検討する。

(1)当初明細書等において、「ブートストラップ回路」の耐圧に関する記載事項は、以下のとおりである(なお、下線は当審で付与した。)。

・「 【0034】
本発明の第7観点に係るモータ駆動装置では、過大電圧発生時に上下アームの両方のスイッチング素子をオフすることによって、上下アームの中点電位は最大でも一素子耐圧程度までとなるので、ブートストラップ回路については、DC部の通常の定格電圧(すなわち一素子耐圧)に耐え得る設計で十分である。」
・「 【0135】
下アーム側駆動回路26bにより下アーム側のトランジスタQ3bをオンすることによって、駆動用電源Vb(正極)-ダイオード313-抵抗312-コンデンサ311-下アーム側トランジスタQ3b-駆動用電源Vb(負極)の経路で電流が流れる。このとき、コンデンサ311が充電されるので、上アーム側駆動用電源として用いることが可能となる。Vs電位は、上下アームのトランジスタのスイッチングによってVdc?0の間で変化するが、ダイオード313により、Vb側に電流が流れることはない。ここでダイオード313の耐圧は、通常、DC部の通常の定格電圧(すなわち一素子耐圧)に耐え得る値に設計される。
【0136】
(D-3)ブートストラップ回路31採用時の効果
モータ駆動装置10では、過大電圧発生時に上下アームの両方のトランジスタQ3a?Q5bをオフすることによって、過大電圧は直列接続された2つのスイッチング素子それぞれの両端に分圧され、1つのスイッチング素子(トランジスタQ3a?Q5b、ダイオードD3a?D5b)にかかる過大電圧はどちらか一方が動作していた時の半分に低減されるので、スイッチング素子を破壊から保護することができる。言い換えれば、直列接続された2つのスイッチング素子のそれぞれが素子耐圧まで耐え得るため、DC部の電圧としては、一素子耐圧の倍の電圧まで耐え得ることになる。
【0137】
このとき、上下アームの中点電位は最大でも一素子耐圧程度である(それ以上であれば素子が破壊してしまうため考慮の必要がない)ので、ブートストラップ回路31については、その回路構成上、DC部の通常の定格電圧(すなわち一素子耐圧)に耐え得る設計で十分である。」

(2)これらの摘記した事項によれば、当初明細書等には、ブートストラップ回路31に、「一素子耐圧」、すなわちスイッチング素子Q3a?Q5bの耐圧として設定された値の電圧が印加されても耐え得るように、ブートストラップ回路31(特にダイオード313)の耐圧が設定されることが開示されている。
しかし、上記補正事項において、「スイッチング素子」の「耐圧程度」に該当する範囲には、「スイッチング素子」の耐圧の近傍ではあるが、当該耐圧より低い値も含み得る。「ブートストラップ回路」の耐圧に「スイッチング素子」の耐圧より低い値を設定することは、「一素子耐圧」の電圧印加に耐え得る設計であるとはいえない。
また、当初明細書等の全ての記載を参照しても、「ブートストラップ回路」の耐圧が、「スイッチング素子」の耐圧より低い電圧値に設定されることに関する記載も示唆もない。
したがって、上記補正事項を含む本件補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものと認めることができない。
よって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(3)小括
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

3.独立特許要件について
上記補正事項は、本件補正前の請求項2に記載された発明の発明特定事項である「ブートストラップ回路」について、「前記ブートストラップ回路の耐圧が、前記スイッチング素子の耐圧程度に設定され」という事項を付加して限定することにより、本件補正後の請求項1に記載される発明の発明特定事項を限定するものである。また、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
仮に、本件補正が、上記「2.」に記載した新規事項の追加でなく、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合に、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)を検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記「第2 1.」の本件補正後の請求項1に記載されたとおりのものと認められる。

(2)引用例及びその記載事項
ア.原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2013-13198号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。)。

・「【0001】
本発明は、蓄電装置を備えた直流電源部と交流の回転電機との間に介在されて、直流電源部の直流電力と回転電機の交流電力との間で電力変換するインバータを備えた回転電機駆動装置を制御する回転電機制御装置に関する。」
・「【0014】
第1モータMG1及び第2モータMG2は、図1に示すように、駆動装置1を介してバッテリ3(直流電源部)に電気的に接続されている。…(略)…
【0015】
駆動装置1は、第1モータMG1に対応する第1インバータ5Aと、第2モータMG2に対応する第2インバータ5Bとの2つのインバータを備えている。以下、特に2つのインバータ5A,5Bを区別する必要がある場合を除き、インバータ5と称して説明する。また、本実施形態では、駆動装置1は、2つのインバータ5(5A,5B)に共通の1つのコンバータ4を備えている。コンバータ4は、2つのインバータ5(5A,5B)に共通のシステム電圧Vdcとバッテリ3の電圧との間で直流電力(電圧)を変換するための電圧変換装置である。また、駆動装置1は、バッテリ3の正負両極間の電圧を平滑化する第1平滑コンデンサQ1と、インバータ5の直流電圧であるシステム電圧Vdcを平滑化する第2平滑コンデンサQ2とを備えている。
【0016】
第2平滑コンデンサQ2の端子間電圧、即ちインバータ5の直流電圧(システム電圧Vdc)は、電圧センサ62により検出されて制御装置10(回転電機制御装置)のインバータ制御部11へ提供される。…(略)…」
・「【0019】
第1インバータ5Aは、システム電圧Vdcを有する直流電力と第1モータMG1の交流電力との間の電力変換を行う。第2インバータ5Bは、システム電圧Vdcを有する直流電力と第2モータMG2の交流電力との間の電力変換を行う。第1インバータ5A及び第2インバータ5Bは、ブリッジ回路により構成され、それぞれ複数組のスイッチング素子E3?E8、及びE9?E14を備えている。
【0020】
第1インバータ5A及び第2インバータ5Bは、それぞれ第1モータMG1及び第2モータMG2の各相(U相、V相、W相の3相)のそれぞれのレッグについて一対のスイッチング素子を備えて構成されている。具体的には、U相は、上アーム素子E3及び下アーム素子E4からなるレッグ、上アーム素子E9及び下アーム素子E10からなるレッグにより構成される。V相は、上アーム素子E5及び下アーム素子E6からなるレッグ、上アーム素子E11及び下アーム素子E12からなるレッグにより構成される。W相は、上アーム素子E7及び下アーム素子E8からなるレッグ、上アーム素子E13及び下アーム素子E14からなるレッグにより構成される。これらのスイッチング素子E3?E14として、本実施形態ではIGBTを用いる。また、各スイッチング素子E3?E14には、それぞれフリーホイールダイオードD3?D14が、逆並列接続されている。
【0021】
スイッチング素子E3?E14のそれぞれは、制御装置10のインバータ制御部11から出力されるスイッチング制御信号S3?S14に従って動作する。本実施形態では、スイッチング制御信号S3?S14は、各スイッチング素子E3?E14のゲートを駆動するゲート駆動信号である。インバータ5は、システム電圧Vdcの直流電力を交流電力に変換してモータMGに供給し、不図示の走行制御ECU(electronic control unit)などの上位の制御装置から提供される目標トルクTM(TM1,TM2)に応じたトルクをモータMGに出力させる。この際、各スイッチング素子E3?E14は、スイッチング制御信号S3?S14に従って、後述するパルス幅変調制御モード(以下適宜「PWM制御モード」と称す。)や矩形波制御モード等の制御モードに従ったスイッチング動作を行う。…(略)…」
・「【0026】
ところで、上述したように、本実施形態では、インバータ5のスイッチング形態には、PWM制御モードと矩形波制御モードとがある。PWM制御は、U,V,Wの各相のインバータ5の出力電圧波形であるPWM波形が、上アーム素子がオン状態となるハイレベル期間と、下アーム素子がオン状態となるローレベル期間とにより構成されるパルスの集合で構成されると共に、その基本波成分が一定期間で略正弦波状となるように、各パルスのデューティが設定される制御である。…(略)…
【0027】
これに対して、矩形波制御(1パルス制御)は、3相交流電力の電圧位相を制御してインバータ5を制御する方式である。3相交流電力の電圧位相とは、3相の電圧指令値の位相に相当する。本実施形態では、矩形波制御は、インバータ5の各スイッチング素子のオン及びオフがモータMGの電気角1周期に付き1回ずつ行われ、各相について電気角1周期に付き1パルスが出力される回転同期制御である。…(略)…」
・「【0049】
尚、図3?図6のフローチャートに示した各処理とは別に、第2平滑コンデンサQ2の端子間電圧、つまりシステム電圧Vdcが所定の過電圧しきい値以上となった場合には、インバータ制御部11がインバータ5のシャットダウン制御を実行するように構成されていてもよい。この際の過電圧しきい値は、図3のステップ#102に示す判定しきい値TH1よりも大きい値である。ここで、シャットダウン制御とは、インバータ5Aを構成するスイッチング素子E3?E8の全て、インバータ5Bを構成するスイッチング素子E9?E14の全てがオフ状態にスイッチングされる制御である。インバータ5がシャットダウンされた状態では、モータMGからの電流は、各スイッチング素子E3?E14に対してそれぞれ逆並列接続されたフリーホイールダイオードD3?D14を通って還流し、次第に減少する。」
・「【0052】
(1)上記実施形態においては、2モータスプリット方式のハイブリッド車両用の駆動装置(回転電機駆動装置)を制御する回転電機制御装置を例として説明したが、本発明はこの例に限定されるものではない。図7に示すように、1つの回転電機を駆動する駆動装置を制御する回転電機制御装置であってもよい。また、上記実施形態においては、駆動装置1がコンバータ4を備える場合を例として説明したが、図8に示すようにコンバータを備えることなく駆動装置1が構成されてもよい。」

・段落0019,0020、図1の記載事項から、第1モータMG1の3相(U相、V相、W相)それぞれに対応する上アーム素子及び下アーム素子E3及びE4、E5及びE6、E7及びE8は、それぞれ2つのスイッチング素子を直列接続することによって構成されることが理解できる。
・段落0019?0021,0026、図1の記載事項から、第1インバータ5Aの出力電圧波形が、上アーム素子E3,E5,E7がオン状態となるハイレベル期間と、下アーム素子E4,E6,E8がオン状態となるローレベル期間とにより構成されるパルスの集合で構成され、上アーム素子E3,E5,E7がオン状態となるハイレベル期間では、上アーム素子及び下アーム素子E3及びE4、E5及びE6、E7及びE8を直列接続する接続点から第1モータMG1の各相へ電圧を出力することが理解できる。
・段落0014,0015、図1の記載事項から、コンバータ4はバッテリ3の電圧をシステム電圧Vdcに変換し、第2平滑コンデンサQ2はシステム電圧Vdcを平滑化するものであるから、コンバータ4及び第2平滑コンデンサQ2は第1インバータ5Aの直流電圧であるシステム電圧Vdcを出力するものであることが理解できる。
・段落0016,0019,0020、図1の記載事項から、電圧センサ62は、第1インバータ5Aの上アーム素子及び下アーム素子E3及びE4、E5及びE6、E7及びE8に並列に接続されることが理解できる。
・段落0021,0026,0027、図1の記載事項から、スイッチング素子E3?E8は、インバータ制御部11から出力されるスイッチング制御信号S3?S8に従って、PWM制御モードや矩形波制御モードに従ったオンオフ動作を行うものであるから、インバータ制御部11はスイッチング素子E3?E8をオンオフ動作させるものであることが理解できる。
・段落0016,0049、図1の記載事項から、インバータ制御部11へ提供される電圧センサ62の検出値が所定の過電圧しきい値以上となった場合には、インバータ制御部11がインバータ5のシャットダウン制御を実行することが理解できる。

そうすると、これらの事項に基づいて、本願補正発明の表現に倣って整理すると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「第1モータMG1のU相、V相、W相のそれぞれに対応する第1インバータ5Aの上アーム素子及び下アーム素子E3及びE4、E5及びE6、E7及びE8が、それぞれ2つのスイッチング素子を直列接続することによって構成され、前記直列接続の接続点から前記第1モータMG1の各相へ電圧を出力する駆動装置1であって、
前記第1インバータ5Aの直流電圧であるシステム電圧Vdcを出力するコンバータ4及び第2平滑コンデンサQ2と、
前記上アーム素子及び下アーム素子E3及びE4、E5及びE6、E7及びE8に並列に接続された電圧センサ62と、
前記スイッチング素子E3?E8をオンオフ動作させるインバータ制御部11と、
を備え、
前記インバータ制御部11は、前記電圧センサ62の検出値が所定の過電圧しきい値以上となった場合には、前記スイッチング素子E3?E8の全てがオフ状態にスイッチングされる制御であるシャットダウン制御を実行する、
駆動装置1。」

イ.原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2012-196065号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

・「【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明によるインバータ装置の第1の実施形態の概略構成を示す回路図である。このインバータ装置1は、インバータ回路の直列接続された第1及び第2のスイッチング素子のうち、下アームの第2のスイッチング素子をオンオフ駆動してブートストラップコンデンサを初期充電するもので、インバータ回路2と、第1の駆動回路3と、第2の駆動回路4と、ブートストラップコンデンサ5と、電流制限抵抗6と、制御手段7と、を備えて構成されている。」
・「【0016】
上記インバータ回路2の第1のスイッチング素子8に接続して、第1の駆動回路3が設けられている。この第1の駆動回路3は、第1のスイッチング素子8をパルス幅変調(以下「PWM」という)信号によりオンオフ駆動するもので、外部の直流電源である第1の直流電源10により後述のブートストラップコンデンサ5に充電された電力を電源電圧として使用するようになっている。」
・「【0023】
上記ブートストラップコンデンサ5と第1の直流電源10との間には、電流制限抵抗6が設けられている。この電流制限抵抗6は、ブートストラップコンデンサ5への充電電流を制限するもので、一端部をブートストラップコンデンサ5の上記他端部(第1の駆動回路3の電源端子部b)に接続し、他端部を第1の直流電源10の出力側に設けられたダイオード13のカソードに接続している。」

ウ.原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2013-162646号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

・「【0009】
図1は、一実施形態に係るモータ駆動装置の回路図である。図1に示すように、モータ駆動装置は、モータ制御回路100と、ブートストラップコンデンサCと、三相モータMと、電源安定用コンデンサCVと、を備える。」
・「【0011】
モータ制御回路100は、3つのハイサイドスイッチ10U,10V,10Wと、3つのダイオード11U,11V,11Wと、3つのローサイドスイッチ20U,20V,20Wと、3つのダイオード21U,21V,21Wと、3つのハイサイドドライバ30U,30V,30Wと、3つのローサイドドライバ40U,40V,40Wと、ドライバ制御回路50と、充電回路60と、切り替え回路70と、ブートストラップコンデンサ切り替え制御回路(以下、切り替え制御回路と称す)80と、を備える。」
・「【0029】
充電回路60は、モータ制御回路100の外付け部品である外部のブートストラップコンデンサCを充電する。充電回路60は、3つのブートストラップダイオードDU,DV,DWと、3つの抵抗RU,RV,RWと、を有する。
【0030】
ブートストラップダイオードDU,DV,DWは、アノードが電源端子VCCを介して第2の電源V2に接続される。第2の電源V2は、第2の電源電圧Vccを供給する。第2の電源電圧Vccは、第1の電源電圧Vbbより低く、例えば、10?20Vである。」

(3)発明の対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「第1モータMG1」は前者の「モータ」に相当し、以下同様に、「U相、V相、W相」は「複数の相」に、「電圧センサ62」は「電圧検出部」に、「インバータ制御部11」は「制御部」に、「過電圧しきい値」は「閾値」に、それぞれ相当する。また、引用発明の「駆動装置1」は「第1モータMG1」を駆動するものであるから、本願補正発明の「モータ駆動装置」に相当する。

本願補正発明の「モータの複数の相それぞれに対応する複数の上下アーム」とは、本願明細書の「インバータ25は、モータ51のU相、V相及びW相の駆動コイルLu,Lv,Lwそれぞれに対応する3つの上下アームが互いに並列に、且つ平滑コンデンサ22の出力側に接続されている。」(本件補正後では段落0040、本件補正前では段落0050)、「トランジスタQ3aとQ3b、Q4aとQ4b、Q5aとQ5bは、それぞれ互いに直列に接続されることによって各上下アームを構成しており、それによって形成された接続点NU,NV,NWそれぞれから対応する相の駆動コイルLu,Lv,Lwに向かって出力線が延びている。」(本件補正後では段落0042、本件補正前では段落0052)との記載、及び図1の記載事項から、「モータ」の各相に対応して「複数の上下アーム」がそれぞれ存在する(つまり、U相、V相及びW相のいずれにも「複数の上下アーム」が存在する)のではなく、「モータ」の各相に対応して「上下アーム」が存在し、「モータ」に複数の相が存在することから、「上下アーム」も全体として複数存在するものであると解される。そして、引用発明の「第1インバータ5Aの上アーム素子及び下アーム素子E3及びE4、E5及びE6、E7及びE8」も、「第1モータのU相、V相、W相のそれぞれに対応」して、全体としては3つの「上アーム素子及び下アーム素子」、すなわち「上アーム素子及び下アーム素子E3及びE4、E5及びE6、E7及びE8」が存在するのであるから、引用発明の「第1モータMG1のU相、V相、W相のそれぞれに対応する第1インバータ5Aの上アーム素子及び下アーム素子E3及びE4、E5及びE6、E7及びE8」は本願補正発明の「モータの複数の相それぞれに対応する複数の上下アーム」に相当する。更に、引用発明の「前記直列接続の接続点」は本願補正発明の「それによって形成された接続点」に相当し、引用発明の「第1インバータ5Aの上アーム素子及び下アーム素子E3及びE4、E5及びE6、E7及びE8が、それぞれ2つのスイッチング素子を直列接続することによって構成され、前記直列接続の接続点から前記第1モータMG1の各相へ電圧を出力する」ことは、本願補正発明の「モータの複数の相それぞれに対応する複数の上下アームそれぞれが、2つのスイッチング素子を直列に接続することによって構成され、それによって形成された接続点それぞれから対応する前記相へ電圧を出力する」ことに相当する。また、引用発明の「上アーム素子」は本願補正発明の「上アーム側スイッチング素子」に相当する。

引用発明において「前記第1インバータ5Aの直流電圧であるシステム電圧Vdc」とは、「第1インバータ5Aの上アーム素子及び下アーム素子E3及びE4、E5及びE6、E7及びE8」に供給される電圧であるので、引用発明の「前記第1インバータ5Aの直流電圧であるシステム電圧Vdcを出力するコンバータ4及び第2平滑コンデンサQ2」は本願補正発明の「前記上下アームに直流電圧を供給する電源供給部」に相当する。

引用発明において「前記スイッチング素子E3?E8の全てがオフ状態にスイッチングされる」ことは、「上アーム素子及び下アーム素子E3及びE4、E5及びE6、E7及びE8」の両方のスイッチング素子がオフにされることであるから、引用発明の「前記インバータ制御部11は、前記電圧センサ62の検出値が所定の過電圧しきい値以上となった場合には、前記スイッチング素子E3?E8の全てがオフ状態にスイッチングされる制御であるシャットダウン制御を実行する」ことは、本願補正発明の「前記制御部は、前記電圧検出部の検出値が所定の閾値を超えたとき、前記上下アームの両方の前記スイッチング素子をオフにする」ことに相当する。

そうすると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

〈一致点〉
「モータの複数の相それぞれに対応する複数の上下アームそれぞれが、2つのスイッチング素子を直列に接続することによって構成され、それによって形成された接続点それぞれから対応する前記相へ電圧を出力するモータ駆動装置であって、
前記上下アームに直流電圧を供給する電源供給部と、
前記上下アームに並列に接続された電圧検出部と、
前記スイッチング素子をオンオフ動作させる制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記電圧検出部の検出値が所定の閾値を超えたとき、前記上下アームの両方の前記スイッチング素子をオフにする、
モータ駆動装置。」

〈相違点〉
本願補正発明では、「前記上下アームの上アーム側スイッチング素子の駆動電源のために、前記スイッチング素子の低電位側よりも高い電位を生成するブートストラップ回路」を備え、「前記ブートストラップ回路の耐圧が、前記スイッチング素子の耐圧程度に設定され」たのに対して、引用発明では、当該構成について特定されていない点。

(4)相違点についての検討
上アーム側スイッチング素子の駆動電源のために、上アーム側スイッチング素子の低電位側よりも高い電位を生成する必要があることは、当業者にとって自明な課題であり(例えば、特開2012-227300号公報(特に段落0005?0009、図11参照)には、モータ制御用インバータを構成するパワーモジュール71のパワーデバイスである絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)Q1?Q6のうち、主電源VCC2の高電位側VCC2Hにコレクタが接続されるQ1?Q3がオン状態の時はQ1?Q3のエミッタ電位がそれぞれ高電圧になり、これらのゲートを駆動する場合にエミッタ電位より更に高い電圧で駆動しなければならないことが記載されている。)、当該課題を解決するための回路としてブートストラップ回路を備えることは、例えば引用例2及び引用例3に記載されている(更に必要があれば、上記特開2012-227300号公報(特に段落0014?0021、図14参照)にも、ブートストラップ回路を備えることが記載されている。)ように、本願優先日前周知の事項である。したがって、引用発明において、「上アーム素子」のゲート駆動信号を生成する電源を得るために、上記周知の事項を適用し、「上アーム素子」の低電位側よりも高い電位を生成するブートストラップ回路を備えることは、当業者が容易に想到し得たものである。
また、ブートストラップ回路を備えたインバータ回路において、上アーム側スイッチング素子がオンされているときには、インバータ回路の入力電圧が、オフ状態の下アーム側スイッチング素子のみならず、ブートストラップ回路にも印加されるので、インバータ回路のスイッチング素子と同様に、ブートストラップ回路(特にブートストラップダイオード)にも上記入力電圧の印加に耐え得る設計が求められることは、当業者にとって自明な事項である(例えば、上記特開2012-227300号公報(特に段落0005?0021、図11?14参照)には、ハイサイド側のハイサイドIGBT(Q1)のゲートがオンしている期間では、U-OUT電圧(Q1の低電位側の電圧)は、U-VCC電源電圧(インバータ回路の入力電圧)または、過渡的にはサージでそれ以上の高電圧になるため、ブートストラップダイオードDbの逆耐圧は、レベルシフト回路(LSU)に用いられる高耐圧nチャネルMOSFET61と同等の600Vから1700V程度の耐圧値が要求され、更に、前記高耐圧nチャネルMOSFET61については、三相モータ70を駆動するIGBT(Q1?Q6)と同等の600Vから1400V程度の耐圧値が要求されることが記載されている。)。したがって、引用発明に上記周知の事項を適用したものにおいて、「第1インバータ5A」の「スイッチング素子E3?E8」及びブートストラップ回路(特にブートストラップダイオード)に、上記入力電圧の印加に耐え得るような同程度の耐圧を有する素子を選択することは、当業者が適宜なし得た設計的事項である。
そして、本願補正発明の効果について検討しても、引用発明及び上記周知の事項からみて格別顕著なものがもたらされるものではない。
以上を総合すると、上記相違点にかかわらず、本願補正発明は、引用発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。

(5)小括
したがって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

4.まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定、又は同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成28年2月10日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項2に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年5月15日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される、上記「第2 1.」の本件補正前の請求項2に記載されたとおりのものと認められる。

2.引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2 3.(2)」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、本願補正発明から、「前記ブートストラップ回路の耐圧が、前記スイッチング素子の耐圧程度に設定され」るという発明特定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 3.」に記載したとおり、引用発明及び上記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び上記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に記載された発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-22 
結審通知日 2016-11-29 
審決日 2016-12-13 
出願番号 特願2014-97818(P2014-97818)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02P)
P 1 8・ 575- Z (H02P)
P 1 8・ 561- Z (H02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 樋口 幸太郎田村 耕作宮崎 基樹上野 力  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 永田 和彦
中川 真一
発明の名称 モータ駆動装置  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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