• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G01M
管理番号 1324246
審判番号 不服2016-5921  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-21 
確定日 2017-02-13 
事件の表示 特願2012-145977「モニタリング方法およびモニタリング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月20日出願公開、特開2014- 10015、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2012年6月28日の出願であって、平成28年1月29日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という)がされ、同査定の謄本は、同年2月9日に請求人に送達された。
これに対し、同年4月21日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において同年9月23日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という)が通知され、同年11月30日に手続補正書の提出がされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本願発明1」、「本願発明2」などという。)は、平成28年11月30日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1及び2に係る発明は以下のとおりである。

「【請求項1】
風車ブレードが風を受けることにより生じるトルクを増速機を介して発電機に伝える風力発電装置のモニタリング方法であって、前記増速機は前記風力発電装置のナセルに対して相対変位可能に取り付けられており、本方法は、
前記ナセルに対する前記増速機のケーシングの変位の測定結果を取得する変位測定結果取得ステップと、
前記変位を前記増速機に入力されるトルクに変換する変換則を取得する変換則取得ステップと、
前記変換則取得ステップで取得した変換則を登録する変換則登録ステップと、
前記変位測定結果取得ステップで取得した変位の測定結果と登録された変換則とに基づいて前記増速機に入力されるトルクを算出する算出ステップと、を含み、
前記増速機に入力されるトルクは前記増速機の入力シャフトにかかるトルクであり、
前記変換則取得ステップは、前記風車ブレードから前記発電機に至る動力伝達経路において前記入力シャフトよりも前記発電機側の後段シャフトにかかるトルクと前記ナセルに対する前記増速機のケーシングの変位との相関関係を取得する相関関係取得ステップと、
取得された相関関係および前記後段シャフトにかかるトルクと前記入力シャフトにかかるトルクとの相関関係に基づいて、前記ナセルに対する前記増速機のケーシングの変位を前記入力シャフトにかかるトルクに変換するための変換則を導出する変換則導出ステップと
、を含み、
前記算出ステップは、前記変位測定結果取得ステップで取得した変位の測定結果を、前記変換則を使用して前記入力シャフトにかかるトルクに変換する変換ステップを含むことを特徴とするモニタリング方法。
【請求項2】
風車ブレードが風を受けることにより生じるトルクを増速機を介して発電機に伝える風力発電装置のモニタリング方法であって、前記増速機は前記風力発電装置のナセルに対して相対変位可能に取り付けられており、本方法は、
前記ナセルに対する前記増速機のケーシングの変位の測定結果を取得する変位測定結果取得ステップと、
前記増速機を前記ナセルに対して支持する支持部材のばね定数と、前記変位測定結果取得ステップで取得した変位の測定結果と、前記増速機の入力シャフトから前記変位を測定する変位センサまでの距離と、から前記増速機の入力シャフトに入力されるトルクを算出する算出ステップと、を含むことを特徴とするモニタリング方法。」

第3 原査定の理由について

1 原査定の理由の概要
(進歩性)本願の請求項1?3、7に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献2を参照。)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2004-36612号公報
引用文献2:特開昭54-25779号公報

2 原査定の理由の判断

(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は、当審において付加したものである。)。


ア「【請求項12】
タワーと、
少なくとも1つのロータブレードがロータ軸に関してほぼ半径方向に離間して位置し且つ前記タワーの最上部、好ましくは重力の方向にほぼ沿って延出している回転軸に回転自在に支持された装置ナセルで、一部分においてほぼ水平方向の回転軸に関して回転自在に支持されているロータと、
風力発電装置の少なくとも1つの必要荷重を表すセンサ信号を発生するセンサ手段と、
前記センサ信号を受信する少なくとも1つの評価手段、特にデータ処理手段とを有する、特に請求項1から11のいずれか1項に記載の風力発電装置において、前記センサ手段は少なくとも2つのセンサ要素を有し且つ前記評価手段は前記センサ要素の動作有効性を監視し、少なくとも1つのセンサ要素が故障したときに冗長動作モードに切り替わるように設計されていることを特徴とする風力発電装置。
・・・
【請求項14】
前記装置ナセルにギヤサスペンションが弾性的に軸受されており且つ少なくとも1つのセンサ要素は前記ギヤサスペンションの前記弾性軸受に配置されていることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の風力発電装置。
【請求項15】
前記ギヤサスペンションの弾性軸受に少なくとも3つのセンサ要素が配置されており、少なくとも1つのセンサ要素は前記ギヤサスペンションの水平方向変位を感知し、少なくとも1つのセンサ要素は前記ギヤサスペンションの両側の垂直方向変位を感知し、前記センサ要素により供給されるセンサ信号は、測定された変位から前記評価手段により、前記ギヤサスペンションに加えられたピッチモーメント、ヨーモーメント及び/又はトルクを判定できるように評価され、且つ前記出力信号は少なくとも1つの動作パラメータを調整するために使用可能であることを特徴とする請求項14記載の風力発電装置。」

イ「【0018】
本発明の更に別の有利な実施例においては、システムの信頼性に関して、ブレード荷重に加えて又はブレード荷重の代わりに、ナセルにおけるブレード荷重の結果としてのピッチモーメント及びヨーモーメントをも感知するような構成になっている。この場合、現在広く使用されているロータ軸受の構造、いわゆる3点軸受において、弾性ギヤサスペンションの距離センサによりピッチモーメント及びヨーモーメント、並びにロータトルクを感知することが特に有利である。この場合にも冗長性が望まれるのであれば、垂直方向に4つ、水平方向に2つの合わせて6つの距離センサが必要であり、このセンサはギヤサスペンションの両側に対称形に配分されなければならない。そうでない場合には、3つのセンサ要素だけで十分である。」

ウ「【0022】
ロータ軸と同軸に延在する円上に配置された4つのセンサ要素が設けられている限り、測定結果の評価の計算上の複雑さを軽減することに関して、それらの要素を方形、特に正方形の辺に配置すると適切であることが判明している。5つ以上のセンサ要素を使用する場合、それらのセンサ要素は対応する正多角形の辺に配置されるのが好ましい。ピッチモーメント又はヨーモーメントを感知するために、ロータ軸に対して垂直に延在する平面の、好ましくはロータ軸と同軸に延在する円上に配置されるセンサ要素を、ロータに結合され且つロータ軸と同軸に延出するロータ軸及び/又はロータ軸をギヤボックスに接続するクラッピングセット及び/又は風力発電装置のその他の可動構成要素に配置することができる。センサ要素がロータ軸に結合されたギヤボックスの外側に配置されている限り、測定はギヤボックス内で作用する力、例えば、遊星歯車内部における遊星力の分布による影響を受けない。しかし、このようにセンサ要素をロータ軸又はクランピングセットに配置する構成においては、ロータ軸軸受の半径方向軸受遊隙に起因する影響は顕著である。」

エ「【0040】
図5は、ギヤサスペンション200の弾性軸受におけるセンサ要素の配置を示す。この場合、6つの距離センサ120が設けられており、そのうちの4つは垂直方向の距離センサであり、残る2つは水平方向の距離センサである。距離センサはギヤサスペンション200の両側に対称形に配分されている。垂直センサは同じ方向及び逆方向でフルブリッジに接続されているため、トルク(図5(B)を参照)とヨーモーメント(図5(C)を参照)の双方を温度補正方式で高分解能で感知することが可能である。
【0041】
図6は、ロータ軸軸受320を貫通し、ロータ軸310と同軸に延出しているロータ軸300を示す。ロータ軸300はクランピングセット330を介して遊星歯車340に結合され、遊星歯車は弾性変形自在の要素470(図7を参照)によって支持構造に弾性的に指示されている。図6に示す本発明の実施例では、センサ手段は、ロータ軸300に装着され、ピッチモーメント及びヨーモーメントを感知するためにロータ軸310と同軸に延在する円上に配置された合わせて4つのセンサ要素350を具備する。このような配列によって、ロータ軸軸受320におけるロータ軸300の軸方向の遊隙とは無関係に、ピッチモーメントとヨーモーメントを感知することができる。ロータ軸310と同軸に延在する円上にセンサ要素350を配置することにより、わずか4つのセンサ要素350を使用するだけで、ピッチモーメント及びヨーモーメントを感知する際の冗長性が実現されると同時に、欠陥のあるセンサ要素の検出が容易になる。センサ要素350をロータ軸300に配置することに加えて、又はその代わりに、図6に示す本発明の実施例では、ロータ軸310と同軸に延在する円上と、クランピングセット330又はその他の結合歯車とにセンサ要素352を配置しても良い。ロータ軸300は、固定リングギヤを有する遊星歯車340のピニオンケージ(Planetentrager)に結合されており、遊星歯車340の主駆動ピニオンは太陽輪に配置されている。
【0042】
図7(A)は、本発明の一実施例による風力発電装置で使用可能である遊星歯車の概略図を示す。図7(B)は、図7(A)に示す遊星歯車の概略側面図である。図7(A)によれば、2つの側方アーム420を有するトルク支え400が遊星歯車340に関連付けられ、リングギヤの正面に配置されている。図7(A)に示すように、トルク支えの領域でロータ軸と同軸に延在する円上に、ピッチモーメント及びヨーモーメントを感知するために使用されるセンサ要素を配置することができる。これにより、ロータ軸軸受320に受け入れられているロータ軸300の半径方向軸受からの妨害なく、ピッチモーメントとヨーモーメントを感知することが可能になる。遊星力の分布を更に診断することが望まれる場合、トルク支えの領域に配置されたセンサ要素450に加えて、又はそれらのセンサ要素の代わりに、トルク支えから軸方向に離間して、例えば、リングギヤの中央の外周部分に、ピッチモーメント及びヨーモーメントに加えてリングギヤの変形をも感知する別のセンサ要素452を設けることができる。更に、図7に示す風力発電装置はアーム420の領域の、好ましくは弾性変形自在の要素470の上方に配置された、ロータ軸に関する駆動列のねじれを感知するセンサ要素を具備することも可能である。それらのセンサ要素454はセンサ要素450と同じ平面に適宜配置される。」

オ 図5

カ 図6


キ 図7


(2)引用文献1に記載された発明の認定

ア 上記(1)アの記載から、風力発電装置の評価手段は、センサ要素の動作有効性を監視していることから、センサ要素を用いた風力発電装置の監視方法が開示されているといえる。

イ 風力発電装置が発電機を備えることは自明であり、上記(1)ア?ウの記載から、風力発電装置は、ロータブレードが風を受けることにより、ロータ軸が生じるトルクを遊星歯車を介して発電機に伝えていることが理解できる。

ウ 上記(1)ウの記載及び上記(1)オ?キ(図5?7)から、遊星歯車はギヤボックスに格納されていることが理解できる。

エ 上記(1)オ(図5(A))には、ギヤボックスとクラッピングセットは、一体的に接続されていることが図示されている。

オ 上記(1)エの記載及び上記(1)オ?キ(図5?7)から、クラッピングセットは、2つの側方アームを有するトルク支えと、ギヤサスペンションとを含むことが理解できる。

カ 上記エ及びオに鑑みると、上記(1)ア及びエの記載から、ギヤサスペンションは、一体的に接続されたギヤボックスとクラッピングセットを、側方アームと装置ナセルとの間で弾性的に支持し、センサ要素を配置し、センサ要素は変位を測定する距離センサであり、
評価手段は、距離センサにより測定された変位からギヤサスペンションに加えられた、ロータ軸に生じるトルクを判定することが理解できる。

キ 上記ア?カに鑑み、上記(1)ア?エの記載及び上記(1)オ?キ(図5?7)の図面を総合すると、引用文献1には、

「タワーと、
少なくとも1つのロータブレードがロータ軸に関してほぼ半径方向に離間して位置し且つ前記タワーの最上部に回転自在に支持された装置ナセルで、一部分においてほぼ水平方向の回転軸に関して回転自在に支持されているロータと、
風力発電装置の少なくとも1つの必要荷重を表すセンサ信号を発生するセンサ手段と、
前記センサ信号を受信する少なくとも1つの評価手段とを有し、
前記センサ手段は少なくとも2つのセンサ要素を有し且つ前記評価手段は前記センサ要素の動作有効性を監視する、
風力発電装置の監視方法であって、
前記ロータブレードが風を受けることにより、前記ロータ軸に生じるトルクを遊星歯車を介して発電機に伝えており、
遊星歯車はギヤボックスに格納され、前記ギヤボックスとクラッピングセットは、一体的に接続されており、
前記クラッピングセットは、2つの側方アームを有するトルク支えと、ギヤサスペンションとを含み、
前記ギヤサスペンションは、一体的に接続された前記ギヤボックスと前記クラッピングセットを、前記側方アームと前記装置ナセルとの間で弾性的に支持し、前記センサ要素を配置し、前記センサ要素は変位を測定する距離センサであり、
前記評価手段は、前記距離センサにより測定された変位から前記ギヤサスペンションに加えられた、前記ロータ軸に生じるトルクを判定する、
監視方法。」

の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)本願発明1と引用発明との対比

ア 引用発明の「ロータブレード」及び「遊星歯車」は、それぞれ本願発明1の「風車ブレード」及び「増速機」に相当する。
引用発明の「前記ロータブレードが風を受けることにより、前記ロータ軸に生じるロータトルクを遊星歯車を介して発電機に伝え」る「風力発電装置の監視方法」は、本願発明1の「風車ブレードが風を受けることにより生じるトルクを増速機を介して発電機に伝える風力発電装置のモニタリング方法」に相当する。

イ 引用発明の「装置ナセル」は、本願発明1の「ナセル」に相当する。
引用発明において、「遊星歯車はギヤボックスに格納され、前記ギヤボックスとクラッピングセットは、一体的に接続されており、
前記クラッピングセットは、2つの側方アームを有するトルク支えと、ギヤサスペンションとを含み、
前記ギヤサスペンションは、一体的に接続された前記ギヤボックスと前記クラッピングセットを、前記側方アームと前記装置ナセルとの間で弾性的に支持し」ていることは、「遊星歯車は」、風力発電装置の「装置ナセル」に対して「弾性的」すなわち相対変位可能に「支持し」ていることであるから、本願発明1の「前記増速機は前記風力発電装置のナセルに対して相対変位可能に取り付けられており、」に相当する。

ウ 引用発明の「遊星歯車」が「格納され」た「ギヤボックス」は、本願発明1の「増速機のケーシング」に相当する。
引用発明の「前記ギヤサスペンションは、一体的に接続された前記ギヤボックスと前記クラッピングセットを、前記側方アームと前記装置ナセルとの間で弾性的に支持し、前記センサ要素を配置し、センサ要素は変位を測定する距離センサであり」、「前記距離センサにより」「変位」を「測定」することは、本願発明1の「前記ナセルに対する前記増速機のケーシングの変位の測定結果を取得する変位測定結果取得ステップ」に相当する。

エ 引用発明の「前記評価手段は、前記距離センサにより測定された変位から前記ギヤサスペンションに加えられた、前記ロータ軸に生じるトルクを判定する」ことと、本願発明1の「前記変位測定結果取得ステップで取得した変位の測定結果と登録された変換則とに基づいて前記増速機に入力されるトルクを算出する算出ステップ」とは、「前記変位測定結果取得ステップで取得した変位の測定結果に基づいて前記増速機に入力されるトルクを算出する算出ステップ」である点で共通する。

オ 引用発明の「ロータ軸に生じるトルク」は、本願発明1の「前記増速機に入力されるトルクは前記増速機の入力シャフトにかかるトルク」に相当する。

カ 上記オを踏まえると、引用発明の「前記評価手段は、前記距離センサにより測定された変位から前記ギヤサスペンションに加えられた、前記ロータ軸に生じるトルクを判定する」ことと、本願発明1の「前記算出ステップは、前記変位測定結果取得ステップで取得した変位の測定結果を、前記変換則を使用して前記入力シャフトにかかるトルクに変換する変換ステップ」とは、「前記算出ステップは、前記変位測定結果取得ステップで取得した変位の測定結果を、前記入力シャフトにかかるトルクに変換する変換ステップ」の点で共通する。

(4)一致点及び相違点
よって、本願発明1と引用発明とは、

「風車ブレードが風を受けることにより生じるトルクを増速機を介して発電機に伝える風力発電装置のモニタリング方法であって、前記増速機は前記風力発電装置のナセルに対して相対変位可能に取り付けられており、本方法は、
前記ナセルに対する前記増速機のケーシングの変位の測定結果を取得する変位測定結果取得ステップと、
前記変位測定結果取得ステップで取得した変位の測定結果に基づいて前記増速機に入力されるトルクを算出する算出ステップと、を含み、
前記増速機に入力されるトルクは前記増速機の入力シャフトにかかるトルクであり、
前記算出ステップは、前記変位測定結果取得ステップで取得した変位の測定結果を、前記入力シャフトにかかるトルクに変換する変換ステップを含む、モニタリング方法。」

の発明である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本願発明1は、
前記ナセルに対する前記増速機のケーシングの変位の測定結果を取得する変位測定結果取得ステップと、
「前記変位を前記増速機に入力されるトルクに変換する変換則を取得する変換則取得ステップと、
前記変換則取得ステップで取得した変換則を登録する変換則登録ステップと、」
前記変位測定結果取得ステップで取得した変位の測定結果と「登録された変換則と」に基づいて前記増速機に入力されるトルクを算出する算出ステップと、を含み、
前記増速機に入力されるトルクは前記増速機の入力シャフトにかかるトルクであり、
「前記変換則取得ステップは、前記風車ブレードから前記発電機に至る動力伝達経路において前記入力シャフトよりも前記発電機側の後段シャフトにかかるトルクと前記ナセルに対する前記増速機のケーシングの変位との相関関係を取得する相関関係取得ステップと、
取得された相関関係および前記後段シャフトにかかるトルクと前記入力シャフトにかかるトルクとの相関関係に基づいて、前記ナセルに対する前記増速機のケーシングの変位を前記入力シャフトにかかるトルクに変換するための変換則を導出する変換則導出ステップと、を含み、」
前記算出ステップは、前記変位測定結果取得ステップで取得した変位の測定結果を、「前記変換則を使用して」前記入力シャフトにかかるトルクに変換する変換ステップを含むのに対し、
引用発明は、このように特定されていない点。

(5)当審の判断
相違点1について検討する。

上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項、特に、「前記変換則取得ステップは、前記風車ブレードから前記発電機に至る動力伝達経路において前記入力シャフトよりも前記発電機側の後段シャフトにかかるトルクと前記ナセルに対する前記増速機のケーシングの変位との相関関係を取得する相関関係取得ステップと、
取得された相関関係および前記後段シャフトにかかるトルクと前記入力シャフトにかかるトルクとの相関関係に基づいて、前記ナセルに対する前記増速機のケーシングの変位を前記入力シャフトにかかるトルクに変換するための変換則を導出する変換則導出ステップと、を含」む点については、原査定及び当審の拒絶理由で引用した引用文献のいずれにも開示も示唆もされていない。
よって、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことではない。

(6)本願発明2と引用発明との対比

ア 引用発明と本願発明2の「風車ブレードが風を受けることにより生じるトルクを増速機を介して発電機に伝える風力発電装置のモニタリング方法であって、前記増速機は前記風力発電装置のナセルに対して相対変位可能に取り付けられており、本方法は、
前記ナセルに対する前記増速機のケーシングの変位の測定結果を取得する変位測定結果取得ステップ」との対比については、上記(3)ア?ウを参照されたい。

イ 引用発明の「ロータ軸に生じるトルク」は、本願発明2の「前記増速機に入力されるトルクは前記増速機の入力シャフトにかかるトルク」に相当する。
この点を踏まえると、引用発明の「前記評価手段は、前記距離センサにより測定された変位から前記ギヤサスペンションに加えられた、前記ロータ軸に生じるトルクを判定する」ことと、本願発明2の「前記増速機を前記ナセルに対して支持する支持部材のばね定数と、前記変位測定結果取得ステップで取得した変位の測定結果と、前記増速機の入力シャフトから前記変位を測定する変位センサまでの距離と、から前記増速機の入力シャフトに入力されるトルクを算出する算出ステップ」とは、「前記変位測定結果取得ステップで取得した変位の測定結果から前記増速機の入力シャフトに入力されるトルクを算出する算出ステップ」の点で共通する。

(7)一致点及び相違点
よって、本願発明2と引用発明とは、

「風車ブレードが風を受けることにより生じるトルクを増速機を介して発電機に伝える風力発電装置のモニタリング方法であって、前記増速機は前記風力発電装置のナセルに対して相対変位可能に取り付けられており、本方法は、
前記ナセルに対する前記増速機のケーシングの変位の測定結果を取得する変位測定結果取得ステップと、
前記変位測定結果取得ステップで取得した変位の測定結果から前記増速機の入力シャフトに入力されるトルクを算出する算出ステップを含む、モニタリング方法。」

の発明である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点2)
本願発明2は、
「前記増速機を前記ナセルに対して支持する支持部材のばね定数と、前記変位測定結果取得ステップで取得した変位の測定結果と、前記増速機の入力シャフトから前記変位を測定する変位センサまでの距離と、から前記増速機の入力シャフトに入力されるトルクを算出する算出ステップ」を含むのに対し、引用発明は、このように特定されていない点。

(8)当審の判断
相違点2について検討する。

上記相違点2に係る本願発明2の発明特定事項は、原査定及び当審の拒絶理由で引用した引用文献のいずれにも開示も示唆もされていない。
よって、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明2の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことではない。

(9)小括
上記(5)及び(8)で検討したとおりであるから、本願発明1及び2は、いずれも引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願発明3は、本願発明1または2をさらに限定したものであるので、本願発明1または2と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願発明4は、本願発明1から3のいずれかに記載のモニタリング方法における発明特定事項を変更せずに、発明のカテゴリーを装置に変更しただけのものであるので、本願発明1ないし3と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について

1 当審拒絶理由の概要
(1)(新規性)この出願の請求項1及び5に係る発明は、下記の引用文献1または引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)(進歩性)この出願の請求項1及び5に係る発明は、下記の引用文献1または引用文献2に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2004-36612号公報(原査定の理由で用いた引用文献1と同じ)
引用文献3:国際公開第2011/107209号

(3)(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

ア 請求項1において、「変位を測定する」ことと、「変位の測定結果」との関係が不明である。請求項2及び3も、同様の理由で明確でない。
イ 請求項3において、「前記増速機の入力シャフトから前記測定ステップで使用される変位センサまでの距離」と、「前記増速機に入力されるトルクを算出する」こととの関係が不明である。
ウ 請求項3を引用する請求項4において、支持部材とアクチュエータの関係が不明である。

2 当審拒絶理由の判断

(1)新規性について
本願発明1と引用発明(引用文献1に記載された発明)とを対比すると、両者は、上記「第3 2(4)」で説示したとおり、上記相違点1で相違するから、本願発明1は、引用文献1に記載された発明であるとはいえない。
また、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項は、上記「第3 2(5)」で説示したとおり、引用文献3に記載も示唆もされていないから、本願発明1は、引用文献3に記載された発明であるともいえない。
また、本願発明4(補正前の請求項5に係る発明)は、本願発明1から3のいずれかに記載のモニタリング方法における発明特定事項を変更せずに、発明のカテゴリーを装置に変更しただけのものであるので、本願発明1と同様に、引用文献1または3に記載された発明であるとはいえない。

(2)進歩性について
本願発明1と引用発明とを対比すると、両者は、上記「第3 2(4)」で説示したとおり、上記相違点1で相違し、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項は、原査定及び当審の拒絶理由で引用した引用文献(引用文献3を含む)のいずれにも開示も示唆もされていないことは、上記「第3 2(5)」で説示したとおりである。
よって、本願発明1は、引用発明または引用文献3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願発明4(補正前の請求項5に係る発明)は、本願発明1から3のいずれかに記載のモニタリング方法における発明特定事項を変更せずに、発明のカテゴリーを装置に変更しただけのものであるので、本願発明1と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)明確性要件について
本願発明1ないし4は、平成28年11月30日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものとなったことで、当審拒絶理由(3)は解消された。

(4)小括
上記(1)ないし(3)で検討したとおりであるから、もはや、当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、原査定及び当審拒絶理由通知の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-23 
出願番号 特願2012-145977(P2012-145977)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01M)
P 1 8・ 113- WY (G01M)
P 1 8・ 537- WY (G01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 福田 裕司  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
信田 昌男
発明の名称 モニタリング方法およびモニタリング装置  
代理人 小島 誠  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ