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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1324363
審判番号 不服2015-13168  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-10 
確定日 2017-01-25 
事件の表示 特願2011-552469「成型可能な骨代用材の生成」拒絶査定不服審判事件〔平成22年9月10日国際公開、WO2010/100277、平成24年8月30日国内公表、特表2012-519517〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年3月8日(パリ条約による優先権主張 2009年3月6日(米国)、2010年3月5日(米国))を国際出願日とする特許出願であって、平成23年11月14日に手続補正書及び上申書が提出され、平成26年4月1日付けで拒絶理由が通知され、同年10月8日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年3月3日付けで拒絶査定がなされたのに対して、同年7月10日に拒絶査定不服の審判請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1-16に係る発明は、平成26年10月8日提出の手続補正書により補正された、特許請求の範囲の請求項1-16に記載されたとおりのものであって、そのうち、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。
「ナノ結晶性ハイドロキシアパタイト(HA)、
複合体の硬化速度を制御する能力を有する、オレイン酸、トコフェロール、オイゲノール又は1,2,3-トリアセトキシプロパンから選択される生物分解性の親油性物質及びモノオレイン又はオクチル-β-D-グルコピラノシドから選択される両親媒性物質からなる群から選択される生体吸収性可塑剤又は2つの可塑剤の混合物、並びに
生物分解性ポリエステルから選択される生分解性ポリマー
を含む、長時間にわたる成形性及び最終的に高い強度を有する骨成長のための複合体であって、但し該複合体はポリ(DL-ラクチド)/オイゲノール/HA複合体ではない、上記複合体。」

第3 原査定の理由
原査定の理由は、「この出願については、平成26年 4月 1日付け拒絶理由通知書に記載した[理由1、2]、[理由2]、[理由3、4]によって、拒絶をすべきものである。」というものであり、要するに、当該理由1として、本願発明は、その出願の優先日前に頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、という拒絶理由を含むものである。
刊行物1.Kim Hae-Won, Biomedical nanocomposites of hydroxyapatite/polycaprolactone obtained by surfactant mediation, Journal of biomedical materials research Part A, 2007年10月, Vol.83A, No.1, p.169-177

第4 刊行物1の記載事項
拒絶の理由において引用され、本願出願前(本願優先日前)に頒布されたことが明らかである刊行物1には、以下の記載がなされている。なお、刊行物1は英語で記載されているところ、下記摘示はその訳である。

(ア)「要約: 生理活性セラミックス及び分解性ポリマーを組み合わせる複合的なアプローチは、骨の再生マトリックスの開発において有望な戦略である。また、複合材料の製造において、各成分のナノスケールの組織は構造的統合のレベルだけではなく、結果として機械的及び生物学的特性を向上させる必要がある。本研究の目的は、ハイドロキシアパタイト(HA)とポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)からなる新規なナノ複合系材料であって、HAナノ粒子がPCLマトリックス中に均一に分散したナノ複合系材料を開発することである。戦略は、HAとPCLとの間に、両親媒性界面活性剤を適用することを基礎とするものである。本件の場合は、オレイン酸である。オレイン酸は脂肪酸族に含まれるものであり、この研究において使用するレベルでは、一般に無毒であり、親水性のHAと親油性のPCLとの間の相互作用を媒介するものと考えられている。オレイン酸の媒介によりHAナノ粒子は、PCLマトリックス中に均一に分散し、ナノスケール(1μmに満たない分散粒子サイズ)となり、従来の混合HA-PCLの複合体においてHA粒子が極端に凝集するのに対して、極めて対照的である。開発したナノ複合体は、従来の複合体が有するものあるいは純粋なPCLよりも格段に高い機械的強度を有している。さらに、骨芽細胞は、ナノ複合体において、従来の複合体におけるよりも、優れた増殖作用を示した。オレイン酸により媒介されたこのHA-PCLナノ複合体は、骨の再生分野において有望であるものとして期待される。さらにこの方法論は、他の生体材料のナノ複合体の処理においても適用可能である。」(要約の欄)
(イ)「これを達成するために、我々は、両親媒性界面活性剤である脂肪酸族に属するオレイン酸を導入した。オレイン酸の生物学的影響は、文献や我々の毒性に関する試験により評価された。界面活性剤は、親水性セラミック(HA)と疎水性ポリマーであるポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)の溶解溶液との間の相互作用を仲介することを意図し、それによって、ポリマーマトリックス中にセラミックナノ粒子の均一な分散を製造し、結果としてHA-PLCナノ複合体を得るものである。」(170頁左欄14行-右欄2行)
(ウ)「別々に、市販のポリ(ε-カプロラクトン)(PCL;アルドリッチ)をクロロホルム中に24時間攪拌しながら溶解した。PCL溶液を0.5%オレイン酸を含有するか含有しないクロロホルム中HA粉末分散液に加え、続いて、追加的に2時間攪拌した。HA/PCLの混合比は0.3に固定された。混合溶液は純粋エタノールを使用して3日間にわたる真空乾燥による溶媒抽出により固化した。乾燥複合体は、構造の観察や細胞試験のために80℃5分間一軸熱圧縮により緻密化され、あるいは機械的な引張り試験のためにオリフィス(φ=500μm)を通して押出され緻密化された。」(171頁左欄5-17行)
(エ)「HA-PLCナノ複合体
PCLは、続いて、よく分散したHAを含むクロロホルム中で、混合し均質化した。混合溶液はまた、初期懸濁状態が維持されていることが観察された(データは示していない)。これは、PCLは、オレイン酸による媒介の役割の作用を阻害しないことを示唆している。混合溶液は、続いて乾燥され、高密度のナノ複合体を製造するために熱プレスされた。
…対照的に、0.5%オレイン酸で媒介されたHA-PCL複合体は、典型的なナノ複合体の形態を確認し、HAナノ結晶が均一にマイクロメートル未満のサイズで分布された[図3(c)]、著しく異なる表面形態を示した。」(173頁左欄3行-右欄1行)
(オ)「ナノ複合体の機械的特性
HA-PCLナノ複合体の機械的特性が引張加重の下で評価され、従来の複合体や純粋PCLのものと比較された。」(173頁右欄9-13行)
(カ)「表1に試験した材料の機械的特性をまとめる。従来型の複合体は、純粋のPCL(?16MPa)よりも、わずかに低い引張強度(?14MPa)を有した。ナノ複合体は、3種類の中で最も高い強度(?22MPa)を有した。両方のHA-PCL複合体の弾性率は、純粋なPCL(?120MPa)のそれよりもかなり高く(?320-330MPa)、二つの複合体の値は類似していた。」(174頁左欄11-19行)
(キ)「この結果に基づいて、追加のサンプル(オレイン酸添加PCL及びそれとHAとの複合体)が比較のために調製された。特に、直接混合されたオレイン酸添加PCLのHA複合体の形態は、オレイン酸を含まないHA-PCL複合体のそれと類似であることが観察された。…図6は、試料を3日間培養した後の細胞増殖のレベルを示したものである。PCLグループ(aとb)において、0.5%オレイン酸添加したものはわずかに細胞増殖が増加した(p>0.05)。これらのPCLにHAを加えたグループ(cとd)は細胞増殖が改善した。しかしながら、これらのHA-PCL複合体の間においては顕著な相違はなかった。一方、オレイン酸媒介のHAとPCLから製造されたナノ複合体(e)は、オレイン酸を含むマイクロサイズのHA-PCL複合体(d)あるいはオレイン酸を含まないもの(c)と比較して細胞増殖の顕著な改善を示した。」(175頁左欄3-23行)
(ク)「結論
HA-PCLナノ複合体はオレイン酸の界面活性剤の媒介により製造することができる。オレイン酸の使用により、HAナノ粉末は効果的に有機溶媒中に分散できる。HAナノ粉末は、PCLマトリックス中に均一に分散し、従来の複合体におけるHA粉末が、マイクロメートルサイズの粒子に極端に凝集するのに比較して著しく異なっている。均一に分散したHA成分はPCLの機械的な強度を改善した。」(177頁左欄9-19行)

第5 刊行物1に記載された発明
上記(ア)?(ク)、特に(エ)の記載から、刊行物1には、
「ナノ結晶性ハイドロキシアパタイト(HA)、
オレイン酸、並びに
ポリカプロラクトン(PCL)を含む複合体」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

第6 対比・判断
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明のポリカプロラクトン(PCL)は、生物分解性ポリエステルからなる生分解性ポリマーといえる。したがって、両者は、
「ナノ結晶性ハイドロキシアパタイト(HA)、オレイン酸、生物分解性ポリエステルからなる生分解性ポリマーを含む複合体」の点で一致し、次の点で一応相違している。

一応の相違点(a)
オレイン酸について、本願発明1が、「複合体の硬化速度を制御する能力を有する」及び「生体吸収性可塑剤」としているのに対し、引用発明では、格別明記していない点
一応の相違点(b)
複合体について、本願発明1が、「長時間にわたる成形性及び最終的に高い強度を有する骨成長のための複合体であって、但し該複合体はポリ(DL-ラクチド)/オイゲノール/HA複合体ではない、」としているのに対し、引用発明では、そのような規定はなされていない点

これら一応の相違点について検討する。
・一応の相違点(a)について
本願明細書(平成23年11月14日付け全文訂正明細書、以下、同じ)【0026】には、「可塑剤は、完全に又は部分的にポリマーマトリックスに溶解する。複合体が加熱されると、粘度は、ポリマー鎖の可動性の増大により低減する。室温に冷却すると、可塑剤によってポリマー鎖の急速な凝集が防止されるため、複合体はその成形性を保持する。一定時間後、一般に30分後に、ポリマー鎖は凝集し始め、粘度及び強度が急速に増大する。硬化過程を制御する能力を有する可塑剤には、オレイン酸、トコフェロール及びオイゲノールなどの生分解性の親油性物質、1,2,3-トリアセトキシプロパン(トリアセチン)などのトリグリセリドが含まれるが、モノオレイン及びオクチル-β-D-グルコピラノシドなどの両親媒性の物質も含まれ得る。」と記載されている。
一方、引用発明においても、ナノ結晶性HAとオレイン酸とポリカプロラクトンからなる複合体が記載されており、オレイン酸の配合目的はナノ結晶性HAをポリカプロラクトン中に分散するための分散剤として配合するものではあるが(上記第4(ア)、(イ)、(ク))、得られた複合体中には、混合時に配合されたオレイン酸が依然として存在しているものといえるから、複合体中に存在するオレイン酸は、結果的に、本願発明の複合体中のオレイン酸と同等の作用効果も奏しているものといえる。
そうすると、得られた複合体中に存在するオレイン酸は、複合体を構成する一成分としての作用も有するものといえるから、オレイン酸を含有する複合体において、複合体中のオレイン酸の作用効果に差異があるとはいえない。
また、引用発明のHA-PCLナノ複合体は、溶融物としてオリフィスから押し出されるものであること(上記第4(ウ))に鑑みると、加熱により溶融するものであることも示されているといえる。
そして、本願発明1において、オレイン酸が可塑剤としての作用効果を奏することにより、複合体の溶融後の硬化過程を制御できる能力を有するものであれば、引用発明においても、複合体中にオレイン酸を含有するものであるから、本願明細書【0026】の記載を勘案すれば、引用発明のオレイン酸も本願発明1と同様に溶融後の複合体の硬化速度を制御できる能力を有するものといえる。
また、引用発明のオレイン酸も生体吸収性化合物である以上、本願発明1の「生体吸収性可塑剤」と同等の作用効果を奏しているものといえる。
したがって、一応の相違点(a)に実質的な差異があるとはいえない。

・一応の相違点(b)について
引用発明のHA-PCLナノ複合体については、骨成長のための複合体であり、従来品に比較して、骨芽細胞の増殖が良好なものであることや、純粋なPCLや従来のHA-PCLよりも高い強度を有する複合体であること、使用時において高い強度を有するHA-PCLナノ複合体であることが記載されている(上記第4(ア)、(カ))。
そうすると、引用発明のHA-PCLナノ複合体も、高い強度を有する骨成長のための複合体であることから、本願発明1において規定している「最終的に高い強度を有する骨成長のための複合体」としての機能を有している点において実質的な相違があるとはいえない。
また、複合体の「成形性」については、本願発明1と引用発明とでは、複合体を構成する成分において格別の相違はなく、本願発明1の複合体を構成する生物分解性ポリエステルから選択される生分解性ポリマーの具体例としてPCLを例示し、そのPCLについて、本願明細書【0005】には、「組成(C_(6)H_(10)O_(2))_(n)のポリエステルである。PCLは-60℃のTg及び60℃の溶融温度を有する。生体材料への適用では、PCLは、縫合糸、根管充填剤及び薬物送達適用で使用される。PCLは、破断まで著しく高い伸長度を示し(>700%)、これによりPCLが耐力適用に適したものになっている。PCLが溶融すると、分子量に伴って増大する粘度を有するペーストが得られる。80000g/molの分子量を有するPCL溶融物は、粘性の粘着性物質である。溶融温度を超えると、PCLは任意の望ましい形状に流延することができる。冷却すると、ポリマー鎖が凝集し、その移動度が低下するため、ポリマーは急速に粘性を増す。PCL/HAの複合体は、文献に報告されており、良好な機械特性を有し、骨細胞の成長を誘発することも示されている。」と記載されている。
一方、引用発明のHA-PCLナノ複合体も、溶融物としてオリフィスから押し出すことが記載され、HA-PCLナノ複合体が溶融するものであることが示されている(上記第4(ウ))。
ところで、PCLは、おおよそ60℃の溶融温度を有するものであるから(本願明細書の上記記載及び特開平5-78912号公報【0005】、特開平5-163424号公報【0006】、特開平11-240942号公報【0003】、特開2000-351687号公報【0005】の各記載参照。)、PCLに分散したHAを含有する複合体もPCLの溶融温度において溶融するものといえる。
そうすると、引用発明のHA-PCLナノ複合体において、複合体を構成する成分としては、本願発明1の複合体を構成する成分と実質的に相違しないし、また、引用発明のHA-PCLナノ複合体も、加熱により溶融するものであること、及び両者ともオレイン酸を含有するものであること、さらに本願明細書【0026】の記載を勘案すれば、引用発明の複合体は、本願発明1の複合体と同様の物性(塑性変形)を有しているものといえるから、結果的に、本願発明1で規定する「長時間にわたる成形性」を有しているものといえる。
また、刊行物1には、ポリ(DL-ラクチド)/オイゲノール/HA複合体についての記載はされていないから、引用発明が、「複合体はポリ(DL-ラクチド)/オイゲノール/HA複合体」を含まないことも明らかである。
したがって、一応の相違点(b)に実質的な差異があるとはいえない。

以上のとおり、本願発明1は、引用発明と実質的に相違するものではなく、刊行物1に記載された発明である。

第7 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、
「(2)新規性進歩性の拒絶理由について
1)引用文献1は、本発明における可塑剤としての機能を有するオレイン酸の使用を開示するものではありません。引用文献1においてオレイン酸は、ポリ(カプロラクトン)にハイドロキシアパタイト(HA)を分散させる目的で使用されています(引用文献1、abstract)。
一方、本願明細書段落0026に「可塑剤は完全に又は部分的にポリマーマトリックスに溶解し、複合体が加熱されると、粘度は、ポリマー鎖の可動性の増大により低減する。室温に冷却すると、可塑剤によってポリマー鎖の急速な凝集が防止されるため、複合体はその成形性を保持する。」と記載されるように、本発明においてオレイン酸などの可塑剤は、ポリマー鎖の凝集を抑制し複合体を自由に形成できる時間を増大させ、硬化速度を制御する能力を有します(段落0047、1?3行)。よって、引用文献1は本発明のような可塑剤としてのオレイン酸の使用を記載も示唆もするものではありません。」(3頁5?17行)と主張する。
しかし、刊行物1に記載のハイドロキシアパタイト(HA)とオレイン酸とポリ(カプロラクトン)からなる複合体は、組成物として把握した場合は、ハイドロキシアパタイト(HA)とオレイン酸とポリ(カプロラクトン)の3成分からなるものであり、組成物を構成する成分として、本願発明1の複合体を構成する成分と実質的に相違するものではない。請求人は、本願発明のオレイン酸は、可塑剤としての作用を有するものであると記載しているが、複合体中に存在する成分が同じ化学物質であれば、その化学物質により奏される作用効果に格別の相違があるとはいえない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

第8 むすび
以上のことから、本願発明1は、引用発明と相違する点が存在せず、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。このため、本願については、他の請求項について検討するまでもなく上記理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-25 
結審通知日 2016-08-26 
審決日 2016-09-12 
出願番号 特願2011-552469(P2011-552469)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 裕美子  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 関 美祝
齊藤 光子
発明の名称 成型可能な骨代用材の生成  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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