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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1324369
審判番号 不服2015-17870  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-01 
確定日 2017-01-25 
事件の表示 特願2011- 31016「光学装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月 1日出願公開、特開2011-170354〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続の経緯
本願は,2011年(平成23年)2月16日にされた特許出願であって(パリ条約による優先権主張 平成22年2月17日 独国),その後の手続の概要は,以下のとおりである。
平成26年 9月18日:拒絶理由通知(同年同月30日発送)
平成26年12月25日:意見書
平成26年12月25日:手続補正書
平成27年 5月27日:拒絶査定(同年6月2日送達)
平成27年10月 1日:審判請求

2 本願発明について
本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。

「光学素子(12;62)と,
前記光学素子(12;62)が固定されているマウント(16;66)とを備え,
前記光学素子(12;62)は少なくとも1つのコンプライアントな支持部(22a-c;72a?d)を介して前記マウント(16;66)に固定され,
前記支持部(22a-c;72a?d)は,第1のスプリングストラット(26;76)及び少なくとも1つの第2のスプリングストラット(28;78)を含む複数のスプリングストラットと,前記光学素子(12;62)が接触点(32;82)にて固定される接触領域(30;80)とを有するスプリングストラット配列(24;74)を有しており,
前記複数のスプリングストラット(26,28;76,78)は,第1の端部(34,36;84,86)を介して前記接触領域(30;80)に,及び前記接触領域から遠い第2の端部(38,40;88,90)を介して前記マウントの外縁部(42;92)に,それぞれ連結される光学装置において,
前記複数のスプリングストラット(26,28;76,78)は,前記接触領域(30;80)の同じ側のみにて前記接触領域(30;80)から延び,互いにコンプライアンスの方向において隔てられ,実質的に互いに平行である
ことを特徴とする光学装置。」

3 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は,概略,この出願の請求項1に係る発明は,本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載されたまたは電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1?3に記載された発明に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1.特開2006-349946号公報
引用文献2.特開昭63-202707号公報
引用文献3.特開2000-28886号公報

第2 当審判体の判断

1 引用例の記載及び引用発明

(1) 引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-349946号公報(以下「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている。なお,下線は当審判体が付したものである。(以下同様。)

ア 「【請求項1】
光学素子を保持する光学素子保持装置において,
枠体と,前記枠体に設けられる保持部とを有し,前記保持部は,前記光学素子の周縁部を載置する載置部と,前記光学素子の接線方向に,または前記光学素子の接線方向に所定の角度をもって交差する方向に延在し,かつ前記光学素子の半径方向に所定間隔離して設けられ,前記載置部を前記光学素子の半径方向に変位可能に接続する複数の弾性変形部とを備えることを特徴とする光学素子保持装置。
【請求項2】
前記弾性変形部は,前記光学素子の光軸方向において,前記載置部とほぼ同等の長さを有する薄板状の弾性変形片を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の光学素子保持装置。
【請求項3】
前記弾性変形部は,前記接線方向または前記交差する方向に関して,前記載置部の一方側と他方側とに設けられる一対の弾性変形片を有することを特徴とする請求項1または2に記載の光学素子保持装置。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば,レンズ,ミラー等の光学素子を保持するための光学素子保持装置に関するものである。また,本発明は,少なくとも1つの光学素子を有する鏡筒に関するものである。さらに,本発明は,例えば半導体素子,液晶表示素子,薄膜磁気ヘッド等のデバイスの製造工程で使用される露光装置及びそのデバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の露光装置における光学系では,厳密に光学調整が行われており,その光学系を構成するレンズ,ミラー等の光学素子は,精密に加工された光学素子保持装置で保持されている。また,光学系の組立時,保存時,搬送時さらに露光装置の動作時においては,温度変化と,個々の光学素子及び光学系の両方にかかる重力,衝撃等の外力の作用による個々の光学素子の歪みをできるだけ小さくする必要がある。
【0003】
ここで,露光装置の重要な一部分を構成する投影光学系の各レンズは,一般的にレンズセルに取り付けられた状態で鏡筒内に収容されている。このレンズセルには,投影光学系の組立中に生じる機械的な問題(例えば鏡筒に加えられた衝撃のレンズへの伝達),温度変化により生じることのある機械的な問題(例えばレンズの伸縮)を解消するような設計がなされていることがある。
【0004】
例えば,半導体素子では,近年の著しい高集積度化要求に伴って,回路パターンがますます微細化してきている。このため,半導体製造用露光装置では,さらなる露光精度の向上及び高解像度化の要求が高まっており,光学素子の光学面を良好な状態に保つ技術はその重要性を増してきている。
【0005】
このようなレンズに作用する種々の機械的な問題を解消する構造を有するレンズ保持装置としては,例えばレンズを,レンズセル内に形成されたカンチレバータイプの屈曲部の上に配置された3つの受座位置に接着したものが提案されている(特許文献1参照)。この従来構成では,温度変化により生じるレンズセル及びレンズの伸縮及び収縮を,カンチレバー屈曲部の曲がりによって吸収し,レンズが機械的応力により歪曲しないようになっている。
【特許文献1】米国特許4,733,945号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが,前記従来構成においては,1つのカンチレバー屈曲部が,レンズを接着した受座を片持ち構造で支持している。このため,カンチレバー屈曲部におけるレンズの光軸方向の剛性が不足がちになりやすく,カンチレバー屈曲部は光軸方向の荷重(例えば,レンズ自身の重量等)によりねじれ応力を受けやすい。これにより,カンチレバー屈曲部の固有振動数が低くなり,場合によってはレンズの望ましくない振動と光学特性の歪みを増大させるおそれがある。
【0007】
本発明は,このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的としては,温度変化,光学素子自身の重量,外部からの衝撃等による光学素子の歪みの発生を効果的に抑制することのできる光学素子保持装置及び鏡筒を提供することにある。」

ウ 「【0009】
前記目的を達成するために,請求項1に記載の発明は,光学素子を保持する光学素子保持装置において,枠体と,前記枠体に設けられる保持部とを有し,前記保持部は,前記光学素子の周縁部を載置する載置部と,前記光学素子の接線方向に,または前記光学素子の接線方向に所定の角度をもって交差する方向に延在し,かつ前記光学素子の半径方向に所定間隔離して設けられ,前記載置部を前記光学素子の半径方向に変位可能に接続する複数の弾性変形部とを備えることを特徴とするものである。
【0010】
この請求項1に記載の発明では,光学素子が温度変化により伸縮したときには,複数の弾性変形部が光学素子の半径方向に変位することで,光学素子の伸縮または収縮が吸収される。このため,光学素子保持装置における,温度変化,光学素子自身の重量及び外部からの衝撃による光学素子の歪みの発生が,効果的に抑制される。これにより,光学素子を,使用中における状態変化に起因するへの影響を低減して,光学性能を安定に保つことが可能となる。
【0011】
また,請求項2に記載の発明は,請求項1に記載の発明において,前記弾性変形部は,前記光学素子の光軸方向において,前記載置部とほぼ同等の長さを有する薄板状の弾性変形片を有するものであることを特徴とするものである。
【0012】
この請求項2に記載の発明では,請求項1に記載の発明の作用に加えて,弾性変形片における光学素子の半径方向への十分な弾性変形性を確保しつつ,光学素子の光軸方向の剛性をさらに高めることができて,一層安定に光学素子を保持することが可能となる。
【0013】
また,請求項3に記載の発明は,請求項1または2に記載の発明において,前記弾性変形部は,前記接線方向または前記交差する方向に関して,前記載置部の一方側と他方側とに設けられる一対の弾性変形片を有することを特徴とするものである。
【0014】
この請求項3に記載の発明では,請求項1または2に記載の発明の作用に加えて,載置部が,一対の弾性変形片により両持ち構造で支持されることになり,弾性変形部における光学素子の光軸方向の剛性が格段に高められる。
【0015】
また,請求項4に記載の発明は,請求項3に記載の発明において,前記載置部が前記枠体に対して前記光学素子の光軸方向に貫通するスリットで区画され,前記弾性変形片が前記枠体に対して前記光学素子の光軸方向に貫通するスリットで区画された板バネからなることを特徴とするものである。
【0016】
この請求項4に記載の発明では,簡単な構成で,請求項3に記載の発明の作用を奏させることが可能となる。また,枠体と弾性変形片と載置部とを,一体の部材で構成することができ,光学素子保持装置における部品点数及び組立工数の削減を図ることが可能となる。
【0017】
また,請求項5に記載の発明は,請求項3または4に記載の発明において,前記載置部における前記光学素子の支持点を,前記弾性変形片の各々による前記光学素子の支持剛性がほぼ等しくなる中立軸上に形成したことを特徴とするものである。
【0018】
この請求項5に記載の発明では,請求項3または4に記載の発明の作用に加えて,光学素子を載置部に載置した際に生じる光学素子の接線方向を軸線とする回転モーメントを小さくすることができる。このため,載置部に生じる光学素子の光軸方向へのねじり応力を小さくすることが可能となり,光学素子が一層安定に保持される。
【0019】
また,請求項6に記載の発明は,請求項2?5のうちいずれか一項に記載の発明において,前記弾性変形片の各々の前記光学素子の半径方向における厚さが均一であることを特徴とするものである。
【0020】
この請求項6に記載の発明では,請求項2?5のうちいずれか一項に記載の発明の作用に加えて,構成が簡単で,弾性変形片の加工を容易に行うことが可能となる。
また,請求項7に記載の発明は,請求項3?6のうちいずれか一項に記載の発明において,前記光学素子側の前記一対の弾性変形片と,前記枠体側の前記一対の弾性変形片とが,前記光学素子の接線方向にずれた位置で前記載置部に接続されていることを特徴とするものである。
【0021】
この請求項7に記載の発明では,請求項3?6のうちいずれか一項に記載の発明の作用に加えて,外側の一対の弾性変形片を内側の一対の弾性変形片より間隔が狭くなるように配置することで,弾性変形部を小型化することができて,ひいては円環状の枠体であっても該枠体の小型化を図ることが可能となる。」

エ 「【発明の効果】
【0030】
以上詳述したように,本発明によれば,温度変化,光学素子自身の重量,外部からの衝撃等による光学素子の歪みの発生を効果的に抑制することのできる光学素子保持装置及び鏡筒を提供することができる。また,高集積度のデバイスを効率よく,また歩留まりよく製造することのできる露光装置及びデバイスの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(第1実施形態)
以下に,本発明の露光装置と光学素子保持装置と鏡筒とを,例えば半導体素子製造用の露光装置と,レンズ等の光学素子を保持する光学素子保持装置と,投影光学系を収容する鏡筒とに具体化した第1実施形態について図1?図8に基づいて説明する。
【0032】
図1は,露光装置21の概略構成を示す図である。図1に示すように,露光装置21は,光源22と,照明光学系23と,マスクとしてのレチクルRを保持するレチクルステージ24と,投影光学系25と,基板としてのウエハWを保持するウエハステージ26とから構成されている。
【0033】
前記光源22は,ArFエキシマレーザ光源からなっている。照明光学系23は,図示しないリレーレンズ,フライアイレンズ,ロッドレンズ等のオプティカルインテグレータ,コンデンサレンズ等の各種レンズ系及び開口絞り等を含んで構成されている。そして,光源22から出射される露光光ELが,この照明光学系23を通過することにより,レチクルR上のパターンを均一に照明するように調整される。
【0034】
前記レチクルステージ24は,照明光学系23の下方,すなわち,後述する投影光学系25の物体面側において,そのレチクルRの載置面が投影光学系25の光軸方向とほぼ直交するように配置されている。投影光学系25は,鏡筒27内に,光学素子としての複数のレンズ28を,光学素子保持装置としてのレンズセル29を介して収容保持するように構成されている。ウエハステージ26は,投影光学系25の像面側において,ウエハWの載置面が投影光学系25の光軸方向と交差するように配置されている。そして,前記露光光ELにて照明されたレチクルR上のパターンの像が,投影光学系25を通して所定の縮小倍率に縮小された状態で,ウエハステージ26上のウエハWに投影転写されるようになっている。
【0035】
次に,レンズセル29の詳細構成について説明する。
図2は,レンズセル29を示す部分破断斜視図である。図2に示すように,前記レンズ28は合成石英や蛍石等の硝材からなり,その周縁部にはフランジ部28aが形成されている。レンズセル29は,鏡筒27の一部を構成する枠体32と,その枠体32上に等角度間隔をおいて配設された3つの保持部33とから構成されている。枠体32は金属材料により円環状に形成され,この枠体32が複数積み重なって1つの鏡筒27が構成されている。そして,これらの保持部33において,レンズ28のフランジ部28aが保持されるようになっている。
【0036】
図3は保持部33を示す斜視図であり,図4はその保持部33を分解して示す斜視図である。図3及び図4に示すように,保持部33は,大きく分けて載置部34とクランプ部材35を備える。
【0037】
図5は,載置部34を中心とした枠体32の部分平面図である。なお,図5においては,理解を容易にするために,切り欠きバネ37a,37bの厚さTを大きくした状態で描いている。
【0038】
図5に示すように,枠体32には,ワイヤ放電加工によって,レンズ28の光軸と平行な方向に貫通した複数のスリット36a?36cが形成され,これらのスリット36a?36cによって,平面略凸字状の載置部34が区画形成されている。この複数のスリット36a?36cの存在により,載置部34が,枠体32に対して,薄板状をなす複数対(本実施形態では2対)の弾性変形片としての切り欠きバネ37a,37bを介して,レンズ28の半径方向に変位可能な状態で連結されている。
【0039】
ここで,載置部34と切り欠きバネ37a,37bとは,ともに枠体32と一体に(一個の部材で)形成され,レンズ28と枠体32とのレンズ28の半径方向における相対変位を許容するタンジェントバー構造の弾性変形部38を構成する。各切り欠きバネ37a,37bは,レンズ28の接線方向に対する直交平面内にある載置部34の側面34a,34bから,レンズ28の接線方向に延びるように形成されている。
【0040】
載置部34の内周側には,レンズ28のフランジ部28aの外周縁と干渉しないように凹部39が形成されている。この凹部39の中央には,レンズ28のフランジ部28aを支持する座面40を有する座面ブロック41が形成されている。この座面40は,その中心が切り欠きバネ37aと切り欠きバネ37bとによる載置部34の支持剛性がほぼ等しくなる中立軸NA上に位置するように形成されている。
【0041】
図6は,図5の6-6線における断面図であり,保持部33を中心としたレンズセル29の部分断面図である。図6に示すように,座面40は,レンズ28の光軸方向において載置部34の高さのほぼ半分の高さとなるように形成されている。また,図5に示すように,切り欠きバネ37aと切り欠きバネ37bとは,厚さTが等しくなるように形成されているので,中立軸NAは,切り欠きバネ37aと切り欠きバネ37bとの中間においてレンズ28の接線方向に延びるとともに,レンズ28の光軸方向において載置部34の肉厚のほぼ半分の位置を通る軸線となる。
【0042】
図4に示すように,クランプ部材35は,座面ブロック41の上方に対応して配置され,クランプ本体42とパッド部材43とからなっている。
クランプ本体42は,押さえ面ブロック44と,枠体32に取り付けるための取付部45と,押さえ面ブロック44と取付部45とを連結する腕部46とからなっている。これら押さえ面ブロック44と取付部45と腕部46とは,一体に形成されている。
【0043】
押さえ面ブロック44の下面には,座面ブロック41の座面40に対向するように押さえ面47が形成されている。取付部45と押さえ面ブロック44とは所定の間隔をおいて離間されている。そして,この取付部45を,パッド部材43を介して枠体32に接合させた状態でボルト48により締結することにより,クランプ部材35が枠体32に対して固定されるようになっている。
【0044】
また,腕部46は,押さえ面ブロック44と取付部45との両端を接続するように一対設けられている。各腕部46は,平面コ字状になし,取付部45を枠体32にパッド部材43を介して接合させた状態で弾性変形可能なだけの長さをもって形成されている。
【0045】
パッド部材43は,クランプ本体42の取付部45と枠体32との間に挟持される挟持部49と,押さえ面47とレンズ28のフランジ部28aの上面との間に介装される作用部50と,それら挟持部49と作用部50とを連結するとともに弾性変形可能な薄板状の薄板部51とからなっている。作用部50の下面には,レンズ28のフランジ部28aの上面に係合する作用面52が,座面ブロック41の座面40に対応するように平面状に形成されている。
【0046】
そして,このように構成されたクランプ部材35は,図6に示すように,ボルト48を締め込むことにより,クランプ本体42の腕部46が弾性変形されて,押さえ面ブロック44の押さえ面47に座面ブロック41側への押圧力を付与する。この押圧力は,パッド部材43の作用面52を介して,レンズ28のフランジ部28aの上面に作用する。これにより,レンズ28のフランジ部28aが,座面ブロック41の座面40と,押さえ面ブロック44の押さえ面47との間に挟持される。
【0047】
図7は,隣り合う保持部33間において,枠体32に複数配設されている重量支持機構53の具体的構成を示す平面図である。この重量支持機構53の数は,レンズ28の重量,厚さ,直径,形状,材質及び保持部33の数の少なくとも1つに応じて設定されている。ちなみに,この実施形態では,隣り合う保持部33間に,それぞれ3つの重量支持機構53が配設されている。
【0048】
図7に示すように,各重量支持機構53は,枠体32の下面側に凹設された切欠部54内に配置される支持板バネ55で構成されている。支持板バネ55には,レンズ28のフランジ部28aの下面に当接する当接部56と,一対のボルト57により枠体32に取り付け支持される一対の支持部58と,当接部56及び支持部58間を接続する一対の屈曲部59とが設けられている。そして,この支持板バネ55の弾性作用により,レンズ28の重量の一部が支持されるようになっている。
【0049】
ところで,本実施形態のように,載置部34を複数対の切り欠きバネ37a,37bで支持する場合には,切り欠きバネ37a,37b全体でのレンズ28が熱変形したときに,レンズ28に作用する反力を,一対の切り欠きバネで支持する場合と同等またはそれ以下に設定する必要がある。図8は,厚さhの一対の切り欠きバネで載置部34を支持した場合と同等の反力を生じせしめる複数対の切り欠きバネ37a,37bの厚さの設定方法に関する説明図である。
【0050】
ここでは,図8に示すように,載置部34にレンズ28の半径方向への所定の力が作用したときにおいて,切り欠きバネに生じる断面二次モーメントIが一定となるように設定することとする。断面二次モーメントIは,次式により求められる。

I = bh^(3)/12 ……(1)
なお,bは,切り欠きバネのレンズ28の光軸方向における長さ。
hは,切り欠きバネの径方向における厚さ。
【0051】
ここで,各切り欠きバネの光軸方向における長さが一定であるので,bを定数として取り扱うことができる。そして,上記(1)より,複数対の切り欠きバネにおける各切り欠きバネの厚さを,一対の切り欠きバネの厚さhの何倍とすればよいかを求めると,次のようになる。
【0052】
2対の場合では,切り欠きバネ37a,37bの厚さを,一対の場合の1/^(3)√2倍(≒0.794倍),つまりおおよそ0.8hとすれば,レンズ28に与える反力がほとんど同等となる。この場合,2対の切り欠きバネ37a,37b合計での厚さ(総厚さ)は,1.588hでおおよそ1.6hとなる。このため,レンズ28に与える反力をほとんど同等に保ちながら,載置部34を合計1.6hの厚さの切り欠きバネ37a,37bで支持することができて,レンズ28をその光軸方向においてより安定した状態で保持することができるようになる。
【0053】
以下,3対以上の切り欠きバネの厚さについて列挙すると,以下のようになる。
1枚の厚さ 総厚さ
3対の場合:1/^(3)√3倍 0.693h 2.079h
4対の場合:1/^(3)√4倍 0.630h 2.520h
5対の場合:1/^(3)√5倍 0.693h 2.925h
従って,切り欠きバネの数が多くなるほど,載置部34におけるレンズ28の光軸方向の支持剛性は大きくなることになる。
【0054】
従って,本実施形態によれば,以下のような効果を得ることができる。
(ア) このレンズセル29では,レンズ28のフランジ部28aを載置する載置部34からレンズ28の接線方向に延在し,レンズ28の半径方向に所定間隔離して設けられ,載置部34をレンズ28の半径方向に変位可能に接続する複数の切り欠きバネ37a,37bを備えている。
【0055】
このため,レンズ28が温度変化により伸縮または収縮したときには,切り欠きバネ37a,37bがレンズ28の半径方向に変位することで,レンズ28の伸縮または収縮が吸収される。ここで,載置部34が複数の切り欠きバネ37a,37bで支持されるため,弾性変形部38におけるレンズ28の光軸方向の支持剛性が高められる。これにより,レンズセル29における,温度変化,レンズ28自身の重量及び外部からの衝撃によるレンズ28の歪みの発生を効果的に抑制することができる。従って,レンズ28への使用中における状態変化に起因するへの影響を低減して,レンズ28の光学性能を安定に保つことができる。
【0056】
(イ) このレンズセル29では,切り欠きバネ37a,37bが,薄板状をなし,レンズ28の光軸方向において,載置部34とほぼ同等の長さを有するものとなっている。
このため,切り欠きバネ37a,37bにおけるレンズ28の半径方向への十分な弾性変形性を確保しつつ,レンズ28の光軸方向の剛性をさらに高めることができて,一層安定にレンズ28を保持することができる。
【0057】
(ウ) このレンズセル29では,切り欠きバネ37a,37bが,レンズ28の接線方向における載置部34の一方側の側面34aと他方側の側面34bとから,対をなすように形成されている。
【0058】
このため,載置部34が,切り欠きバネ37a,37bにより,両持ち構造で支持され,しかも複数対の切り欠きバネ37a,37bで支持されている。これにより,弾性変形部38におけるレンズ28の光軸方向の支持剛性が格段に高められ,レンズセル29におけるレンズ28自身の重量及び外部からの衝撃によるレンズ28の歪みの発生を効果的に抑制することができる。
【0059】
(エ) このレンズセル29では,載置部34が枠体32に対してレンズ28の光軸方向に貫通するスリット36a?36cで区画され,切り欠きバネ37a,37bが枠体32に対してレンズ28の光軸方向に貫通するスリット36a?36cで区画された板バネとなっている。
【0060】
このため,このレンズセル29では,簡単な構成で,前記(ア)?(ウ)に記載の効果を発揮させることができる。また,枠体32と切り欠きバネ37a,37bと載置部34とを,一体の部材で構成することができ,レンズセル29における部品点数及び組立工数の削減を図ることができる。
【0061】
(オ) このレンズセル29では,載置部34におけるレンズ28を座面40の中心が,切り欠きバネ37a,37bの各々によるレンズ28の支持剛性がほぼ等しくなる中立軸NA上に形成されている。
【0062】
このため,レンズ28を載置部34に載置した際に生じるレンズ28の接線方向を軸線とする回転モーメントを小さくすることができる。従って,載置部34に生じるレンズ28の光軸方向へのねじり応力を小さくすることができ,レンズ28を一層安定に保持することができる。
【0063】
(カ) このレンズセル29では,切り欠きバネ37a,37bの各々のレンズ28の半径方向における厚さが,均一なものとなっている。
このため,レンズセル29の構成が簡単なものとなり,切り欠きバネ37a,37bの加工を容易に行うことができる。
【0064】
(キ) このレンズセル29では,載置部34の両側に配置される切り欠きバネ37a,37bが,一方は載置部34の1つの側面34a上に接続されるとともに,他方は載置部34の側面34aと対向する側面34b上に接続されている。
【0065】
このため,弾性変形部38の構成を簡素化することができて,弾性変形部38の加工を容易に行うことができる。」

オ 「【図1】



カ 「【図2】



キ 「【図4】



ク 「【図5】



ケ 「【図6】



コ 「【0077】
(変形例)
なお,本発明の実施形態は,以下のように変形してもよい。
(中略)
【0079】
・ 前記各実施形態において,各切り欠きバネ37a,37bを,レンズ28の接線方向に関して,載置部34の一方の側面34aまたは他方の側面34bのいずれかのみに,レンズ28の半径方向に所定の間隔をおいて設けるようにしてもよい。
【0080】
・ 前記各実施形態において,各切り欠きバネ37a,37bをレンズ28の接線と交差するように,例えば斜めになるように形成してもよい。
・ 前記各実施形態において,切り欠きバネ37a,37bと載置部34との少なくとも1つを,枠体32とは別体の部材で形成してもよい。」

(2) 引用発明

上記(1)からみて,引用例1には,第1実施形態として,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,引用発明の認定に際して参考にした引用例1の記載箇所を,段落番号で付記する。
「【0035】レンズセル29は,枠体32と,その枠体32上に等角度間隔をおいて配設された3つの保持部33とから構成され,
保持部33において,レンズ28のフランジ部28aが保持され,
【0036】保持部33は,載置部34とクランプ部材35を備え,
【0038】枠体32には,レンズ28の光軸と平行な方向に貫通した複数のスリット36a?36cが形成され,これらのスリット36a?36cによって,平面略凸字状の載置部34が区画形成され,載置部34が,枠体32に対して,薄板状をなす2対の弾性変形片としての切り欠きバネ37a,37bを介して,レンズ28の半径方向に変位可能な状態で連結され,
【0039】各切り欠きバネ37a,37bは,レンズ28の接線方向に対する直交平面内にある載置部34の【0057】一方側の側面34aと他方側の側面34bとから,レンズ28の接線方向に延びるように形成され,
【0039】載置部34と切り欠きバネ37a,37bとは,ともに枠体32と一体に形成され,レンズ28と枠体32とのレンズ28の半径方向における相対変位を許容する弾性変形部38を構成し,
【0055】レンズ28が温度変化により伸縮または収縮したときには,切り欠きバネ37a,37bがレンズ28の半径方向に変位することで,レンズ28の伸縮または収縮が吸収され,
【0040】載置部34の内周側には,凹部39が形成され,この凹部39の中央には,レンズ28のフランジ部28aを支持する座面40を有する座面ブロック41が形成され,【0040】座面40は,その中心が切り欠きバネ37aと切り欠きバネ37bとによる載置部34の支持剛性がほぼ等しくなる中立軸NA上に位置するように形成され,
【0046】クランプ部材35は,レンズ28のフランジ部28aの上面に作用する押圧力を付与する
【0035】レンズセル29。」

(3) 引用例2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭63-202707号公報(以下「引用例2」という。)には,以下の事項が記載されている。

ア (9頁右上欄6行目?左下欄3行目)
「 第2A図は本発明によるたわみ機構の1実施例を示す。
たわみ機構22はレンズセル85の内側壁と一体である。レンズ座29は,たわみ機構22から半径方向内向きに延びかつそれに取付けられている。レンズ座29はそれに形成されたトラフ38を有し,該トラフは第3図を参照して以下に説明するような接着剤の受けとして役立ちかつ特殊な接着剤層厚さを規定する。
たわみ機構22は,例えばレンズ85の壁内にスロット42をワイヤ電子放出加工又はフライス削りより形成される。このようなスロット42は半径方向でレンズセル85の内側壁内の深さ“d″に配置されている。スロット42はレンズ座29の一方端部から始りかつレンズセル85の中心のまわりに長さ“a”の弧を描く。出来上つたたわみ機構22の幅は“w“で示されている。」

イ (9頁左下欄4行目?7行目)
「 第2B図は,レンズ36をたわみ機構22に結着する形式を示す。接着剤,例えば3M社から市販のEC1838は,レンズ36をレンズ座29に接着するためにトラフ内に充填される。」

ウ (第2図)

エ (10頁左上欄1行目?右上欄1行目)
「 次に第2A図及び第2B図を参照して,たわみ機構22の動作を説明する。周囲温度サイクルが昇降すると,レンズセル85の相対的直径及びレンズ36の直径は変化する。例として,レンズセル85の膨張率がレンズ36のそれよりも著しく大きい場合を考察する。温度が基準温度から上昇すると,レンズセル85は膨張しかつレンズセル85の内径は大きくなる。同時にレンズ36,ひいてはその外径は大きくなるが,但しレンズセル85と同じ程度には増大しない。たわみ機構が存在しない先行技術の構成においては,レンズはレンズ座に対して相対的運動を行い,ひいては応力が発生することにより接着剤結合部がずれ又は破壊される。第2A図及び第2B図に示した本発明の実施例においては,レンズ座29はレンズ36に対して実質的に固定位置に残る。レンズセル85の内径はレンズ36から遠ざかる方向に膨張するので,たわみ機構22のアーム25は曲げられる。すなわち,アーム25はたわみ機構のスロット幅fが増大するように運動する。」

(4) 引用例3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-28886号公報(以下「引用例3」という。)には,以下の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 光学要素(1)とマウント(5)とを有するアセンブリであって,
アセンブリされた光学要素は,多数の接合板(2)を介して剛性のある中間リング(3)と結合されていて,その中間リングはアクチュエータ(4),あるいは受動的減少結合器(35)を介してハウジング(7)および/または別のフレームに接続するためにマウント(5)と結合されているアセンブリ。
【請求項2】 前記接合板(22)は,バネリンク,とりわけ板バネとして設計されていることを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項3】 前記接合板(2)は,光学要素と結合されていることを特徴とする請求項1,あるいは2に記載のアセンブリ。
【請求項4】 前記光学要素(1)と前記接合板(2)との結合は,紫外線,とりわけ波長300nm以下の紫外線に対して耐久性があることを特徴とする請求項3に記載のアセンブリ。
【請求項5】 前記光学要素(1)は,ガラス,あるいは結晶によって構成され,前記接合板(2)は金属製であり,そして前記結合は有機成分を含んでいないことを特徴とする請求項4に記載のアセンブリ。
【請求項6】 前記結合は,とりわけ拡散溶接,あるいは超音波溶接によって溶接されていることを特徴とする請求項5に記載のアセンブリ。
【請求項7】 前記結合は,ろう付けされていることを特徴とする請求項5に記載のアセンブリ。
【請求項8】 前記接合板(22)は,中間リング(32)と一体に形成していることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のアセンブリ。
【請求項9】 前記接合板(2)は,中間リング(3)に結合されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のアセンブリ。
【請求項10】 前記接合板(2)と中間リング(3)との結合は,紫外線,とりわけ波長300nm以下の紫外線に対して耐久性があることを特徴とする請求項9に記載のアセンブリ。
【請求項11】 前記結合は,有機成分を含んでいないことを特徴とする請求項10に記載のアセンブリ。
【請求項12】 前記結合は,とりわけレーザ溶接によって溶接されていることを特徴とする請求項11に記載のアセンブリ。」

イ 「【請求項19】 前記光学要素(1)は,主平面(H)を有し,その主平面は光学要素の縁部を閉じた曲線を突き通していることを特徴とする請求項1から18のうちの少なくとも1つの項に記載のアセンブリ。
【請求項20】 前記接合板(22)は,基本的に前記主平面(H)に対して垂直に配置されていることを特徴とする請求項19に記載のアセンブリ。」

ウ 「【0026】図4は,同じ上面図でレンズ1に接線方向で作用している接合板24を有する本発明に基づく装置を示している。この接合板は,ここでは紙面に対して垂直にもなっていて,このため請求項20の意味においてx軸とy軸を有する主平面X,Yに(図1の懸下式接合板と同様に)垂直になっている。中間リング34は,ここでは図1に記述した構造を有する,120°の等間隔で配置された3つのアクチュエータ4を介してマウント5と結合されている。」

エ 「【図4】



2 対比
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。

(1) 光学素子,マウント
引用発明の「レンズ28」は,本願発明の「光学素子」に相当する。
そして,引用発明において「レンズセル29は,枠体32と,その枠体32上に等角度間隔をおいて配設された3つの保持部33とから構成され」,3つの「保持部33において,レンズ28のフランジ部28aが保持され」ている。また,引用発明の「保持部33は,載置部34とクランプ部材35を備え」るところ,「クランプ部材35は,レンズ28のフランジ部28aの上面に作用する押圧力を付与し」,「載置部34の内周側には,凹部39が形成され,この凹部39の中央には,レンズ28のフランジ部28aを支持する座面40を有する座面ブロック41が形成され」ている。
そうしてみると,引用発明の「枠体32」は,本願発明の「マウント」に相当する。また,引用発明の「枠体32」は,本願発明の「前記光学素子(12;62)が固定されているマウント(16;66)」との要件を満たす。

(2) コンプライアントな支持部,スプリングストラット,スプリングストラット配列
引用発明において,3つの「保持部33は,載置部34とクランプ部材35を備え」,「載置部34」は,「枠体32に対して,薄板状をなす2対の弾性変形片としての切り欠きバネ37a,37bを介して,レンズ28の半径方向に変位可能な状態で連結され」ている。そうしてみると,引用発明の「レンズ28」は,少なくとも1つの「保持部33」(の載置部34)と「薄板状をなす2対の弾性変形片としての切り欠きバネ37a,37b」を併せた部材(以下「弾性支持部材」という。)を介して「枠体32」に保持されている。したがって,引用発明の「切り欠きバネ」,「保持部33」及び「弾性支持部材」は,本願発明の「スプリングストラット」,「接触領域」及び「マウント」に相当するとともに,引用発明の3つの「弾性支持部材」は,本願発明の「少なくとも1つのコンプライアントな支持部」との要件を満たす。加えて,引用発明は,本願発明の「前記光学素子(12;62)は少なくとも1つのコンプライアントな支持部(22a-c;72a?d)を介して前記マウント(16;66)に固定され」るとの要件を満たすとともに,引用発明の3つの「弾性支持部材」と,本願発明の「支持部」は,「第1のスプリングストラット(26;76)及び少なくとも1つの第2のスプリングストラット(28;78)を含む複数のスプリングストラットと,前記光学素子(12;62)が」「固定される接触領域(30;80)とを有するスプリングストラット配列(24;74)を有しており」の点で共通する。

(3) 第1の端部,第2の端部
引用発明の「保持部33」の「載置部34」は,「枠体32に対して,薄板状をなす2対の弾性変形片としての切り欠きバネ37a,37bを介して,レンズ28の半径方向に変位可能な状態で連結され」ているから,引用発明の「切り欠きバネ」は,その一端に「載置部34」との連結部を具備し,その他端に「枠体32」との連結部を具備するといえる(図5からも見て取れる事項である。以下「一端の連結部」及び「他端の連結部」という。)。そうしてみると,引用発明の「一端の連結部」及び「他端の連結部」は,それぞれ,本願発明の「第1の端部」及び「第2の端部」に相当する。また,引用発明の「他端の連結部」は,「保持部33」の「載置部34」からみて,「一端の連結部」よりも遠い位置にある。
そうしてみると,引用発明の「切り欠きバネ37a,37b」と本願発明の「複数のスプリングストラット」は,「第1の端部(34,36;84,86)を介して前記接触領域(30;80)に,及び前記接触領域から遠い第2の端部(38,40;88,90)を介して前記マウント」「に,それぞれ連結される」点で共通する。

(4) 複数のスプリングストラット
引用発明の「切り欠きバネ37a,37b」は,「レンズ28の接線方向に対する直交平面内にある載置部34の」「一方側の側面34aと他方側の側面34bとから,レンズ28の接線方向に延びるように形成され」たものである。
したがって,引用発明の「切り欠きバネ37a,37b」は,「載置部34」から延びたものであり,また,互いに隔てられ,実質的に互いに平行である(図5からも見て取れる事項である。)。また,引用発明の「切り欠きバネ37a,37b」は,「レンズ28が温度変化により伸縮または収縮したときには,切り欠きバネ37a,37bがレンズ28の半径方向に変位することで,レンズ28の伸縮または収縮が吸収され」る,というものであるから,引用発明の「切り欠きバネ37a,37b」は,コンプライアンスの方向において互いに隔てられている。
そうしてみると,引用発明の「切り欠きバネ37a,37b」と本願発明の「複数のスプリングストラット」は,「前記接触領域(30;80)から延び,互いにコンプライアンスの方向において隔てられ,実質的に互いに平行である」点で共通する。

(5) 光学装置
したがって,引用発明の「レンズセル29」は,本願発明の「光学装置」に相当し,上記(1)?(4)の範囲で本願発明の「光学装置」の要件を満たす。

3 一致点
本願発明と引用発明は,以下の構成において一致する。
「光学素子と,
前記光学素子が固定されているマウントとを備え,
前記光学素子は少なくとも1つのコンプライアントな支持部を介して前記マウントに固定され,
前記支持部は,第1のスプリングストラット及び少なくとも1つの第2のスプリングストラットを含む複数のスプリングストラットと,前記光学素子が固定される接触領域とを有するスプリングストラット配列を有しており,
前記複数のスプリングストラットは,第1の端部を介して前記接触領域に,及び前記接触領域から遠い第2の端部を介して前記マウントに,それぞれ連結される光学装置において,
前記複数のスプリングストラットは,前記接触領域から延び,互いにコンプライアンスの方向において隔てられ,実質的に互いに平行である
光学装置。」

4 相違点
本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。

(1) 相違点1
本願発明の「接触領域」は,「前記光学素子(12;62)が接触点(32;82)にて固定される」のに対して,引用発明の「保持部33」は,レンズ28が「接触点」にて固定されるものか,必ずしも明確ではない点。

(2) 相違点2
本願発明の「スプリングストラット」の端部は,マウントの「外縁部」に連結されるのに対して,引用発明の「切り欠きバネ」の端部は,枠体の「外縁部」に連結されるか,必ずしも明確ではない点。

(3) 相違点3
本願発明の「複数のスプリングストラット」は,「接触領域の同じ側のみにて前記接触領域から延び」るのに対して,引用発明の「切り欠きバネ」は,「載置部の一方側の側面と他方側の側面とから」延びるように形成される点。

5 判断
(1) 相違点1について
引用発明の「座面40」は,「レンズ28のフランジ部28aを支持する」ものであり,「クランプ部材35」は,「レンズ28のフランジ部28aの上面に作用する押圧力を付与」している。そして,引用発明の「座面40は,その中心が切り欠きバネ37aと切り欠きバネ37bとによる載置部34の支持剛性がほぼ等しくなる中立軸NA上に位置するように形成され」ているところ,引用例1の段落【0061】及び【0062】には,それぞれ,「このレンズセル29では,載置部34におけるレンズ28を座面40の中心が,切り欠きバネ37a,37bの各々によるレンズ28の支持剛性がほぼ等しくなる中立軸NA上に形成されている。」及び「このため,レンズ28を載置部34に載置した際に生じるレンズ28の接線方向を軸線とする回転モーメントを小さくすることができる。従って,載置部34に生じるレンズ28の光軸方向へのねじり応力を小さくすることができ,レンズ28を一層安定に保持することができる。」と記載されている。
そうしてみると,引用発明の「座面40」は,「レンズ28」との関係においては,レンズ28を中立軸NA上で支持する接触点として機能し,この位置で固定されていることが理解できる。
したがって,相違点1は,実質的な相違点であるとはいえないか,少なくとも,当業者が容易に発明できた事項である。

(2) 相違点2について
引用発明において,例えば,引用例1の【図1】のレチクルR側のレンズセル29のように「枠体32」を比較的薄く設計した場合や,「切り欠きバネ37a,37b」を比較的長く設計した場合には,「切り欠きバネ37a,37b」の他端の端部は,「枠体32」の「外縁部」に連結されるレイアウトとなる。あるいは,引用例1の段落【0080】には,「前記各実施形態において,各切り欠きバネ37a,37bをレンズ28の接線と交差するように,例えば斜めになるように形成してもよい。」と記載されているところ,例えば,引用例1の【図1】のウエハW側のレンズセル29のようにレンズの径が小さい場合や,保持部33の数を増やした場合には,「切り欠きバネ37a,37b」が枠体32の外縁部に延びるようレイアウトしなければ,「切り欠きバネ37a,37b」の長さを確保できない(引用発明のスリットは,枠体32を貫通するものであるから,重ねてレイアウトできない。)。
したがって,相違点2は,「切り欠きバネ37a,37b」等のレイアウト設計上の事項に過ぎず,少なくとも,当業者が容易に発明できた事項である。

(2) 相違点3について
引用発明の「切り欠きバネ37a,37b」は,「レンズ28の接線方向に対する直交平面内にある載置部34の」「一方側の側面34aと他方側の側面34bとから,レンズ28の接線方向に延びるように形成され」たものであるから,引用発明は,引用例1の特許請求の範囲に記載された各発明のうち,請求項3の「前記弾性変形部は,前記接線方向または前記交差する方向に関して,前記載置部の一方側と他方側とに設けられる一対の弾性変形片を有する」という構成を具備した発明に対応する。
しかしながら,引用例1には,請求項1に係る発明として,請求項3の「前記弾性変形部は・・・前記載置部の一方側と他方側とに設けられる一対の弾性変形片を有」しない発明も記載されているから,引用例1には,弾性変形片が載置部の一方側のみに設けられた,いわゆるカンチレバータイプ(引用例2の第2A図及び第2B図のアーム25,引用例3の図4の接合板24を参照。)のものであっても良いことが,示唆されている。
そうしてみると,引用例1の記載に接した当業者が,引用例2及び3に記載された構成を踏まえ,引用発明の「切り欠きバネ37a,37b」の構成を「レンズ28の接線方向に対する直交平面内にある載置部34の」「一方側の側面34a」「から,レンズ28の接線方向に延びるように形成され」たものとすることは,引用例1の記載が示唆する範囲内の事項にすぎない。
また,そのようにしてなるものは,相違点3に係る構成を具備したものとなる。

6 効果について
本願発明の効果に関して,本件出願の発明の詳細な説明には明示的な記載が存在しないが,段落【0013】には,「本発明は,マウントによって光学素子ができるだけ安定かつできるだけ低応力な状態で固定される,最初に言及した種類の,光学装置を提供することを目的としている。」と記載されているから,この目的を達成することが本願発明の課題であると解される。
しかしながら,引用発明においてもこの目的は達成されているから,引用発明は本願発明と同じ効果を奏するといえる。
なお,段落【0015】には,「本発明による光学装置の平行スプリングストラットは,光学素子の膨張が生じた場合に,接着剤又はハンダの接触点での剥離を生じさせるような,接触領域と光学素子との間の接触点におけるトルクを発生させない利点を有する。これは,平行スプリングストラット自身がその構造によって最初から接触領域において,光学素子の中心の移動を伴わない光学素子の回転のみをもたらすような接触領域の平行移動しか生じさせないモーメントを発生させるからである。」と記載されている。
しかしながら,引用発明は,本願発明のスプリングストラット配列(平行スプリングストラット)と同じ構成を具備している。あるいは,引用例1の段落【0061】及び【0062】には,上記5(1)で指摘したとおりの記載があるから,この利点は,引用発明も具備する利点である。
以上のとおりであるから,本願発明が奏する効果は,引用発明が奏する効果であるか,あるいは,引用発明から予測可能な効果に過ぎない。

7 請求人の主張について
請求人は,審判請求書の3.(2)において「引用文献1の切り欠きバネ37a,37bを,レンズの載置部34の接線方向両側に設ける構成は,光学素子の光軸方向の剛性を格段に高めるものである(段落[0013])。引用文献2および3に開示された構成では,そのような光軸方向の剛性を高めるという効果がないため,当業者は,引用文献2および3を参照しても,引用文献1の切り欠きバネ37a,37bを片持ち構造とすることは,容易に想到し得ないものと思量する。また,引用文献1においては,カンチレバータイプの屈曲部を用いた,レンズの片持ち構造の問題点を指摘しており(段落[0006]参照),引用文献1において,載置部の単一の側面のみから切り欠きバネを延びるように形成する構成を採用することは当業者に困難である。」と主張する。
しかしながら,引用例1には,(A)発明が解決しようとする課題として,「1つのカンチレバー屈曲部が,レンズを接着した受座を片持ち構造で支持している。このため,カンチレバー屈曲部におけるレンズの光軸方向の剛性が不足がちになりやすく,カンチレバー屈曲部は光軸方向の荷重(例えば,レンズ自身の重量等)によりねじれ応力を受けやすい。これにより,カンチレバー屈曲部の固有振動数が低くなり,場合によってはレンズの望ましくない振動と光学特性の歪みを増大させるおそれがある。」(段落【0006】)と記載され,(B)発明の目的として「温度変化,光学素子自身の重量,外部からの衝撃等による光学素子の歪みの発生を効果的に抑制することのできる光学素子保持装置及び鏡筒を提供することにある。」(段落【0007】)と記載され,(C)課題を解決するための手段として,(C1)まず,「請求項1に記載の発明は,光学素子を保持する光学素子保持装置において,枠体と,前記枠体に設けられる保持部とを有し,前記保持部は,前記光学素子の周縁部を載置する載置部と,前記光学素子の接線方向に,または前記光学素子の接線方向に所定の角度をもって交差する方向に延在し,かつ前記光学素子の半径方向に所定間隔離して設けられ,前記載置部を前記光学素子の半径方向に変位可能に接続する複数の弾性変形部とを備える」(段落【0009】)と記載されるとともに「請求項1に記載の発明では,光学素子が温度変化により伸縮したときには,複数の弾性変形部が光学素子の半径方向に変位することで,光学素子の伸縮または収縮が吸収される。このため,光学素子保持装置における,温度変化,光学素子自身の重量及び外部からの衝撃による光学素子の歪みの発生が,効果的に抑制される。これにより,光学素子を,使用中における状態変化に起因するへの影響を低減して,光学性能を安定に保つことが可能となる。」(段落【0010】)と記載され,(C2)その後,「請求項3に記載の発明は,請求項1または2に記載の発明において,前記弾性変形部は,前記接線方向または前記交差する方向に関して,前記載置部の一方側と他方側とに設けられる一対の弾性変形片を有することを特徴とするものである。」(段落【0013】)と記載されるとともに「請求項3に記載の発明では,請求項1または2に記載の発明の作用に加えて,載置部が,一対の弾性変形片により両持ち構造で支持されることになり,弾性変形部における光学素子の光軸方向の剛性が格段に高められる。」(段落【0014】)と記載されている。
すなわち,引用例1において,弾性変形片(切り欠きバネ37a,37b)の両持ち構造は,「弾性変形部における光学素子の光軸方向の剛性が格段に高められる」構造であるとしても必須の構造ではなく,引用例1には,「光学素子保持装置における,温度変化,光学素子自身の重量及び外部からの衝撃による光学素子の歪みの発生が,効果的に抑制される」ことを目的課題とした,「前記光学素子の半径方向に所定間隔離して設けられ,前記載置部を前記光学素子の半径方向に変位可能に接続する複数の弾性変形部とを備える」構造を有する(しかし,両持ち構造ではない)発明も示唆されている。
この点は,引用例1の段落【0079】に,「前記各実施形態において,各切り欠きバネ37a,37bを,レンズ28の接線方向に関して,載置部34の一方の側面34aまたは他方の側面34bのいずれかのみに,レンズ28の半径方向に所定の間隔をおいて設けるようにしてもよい。」と記載されていることからみても明らかである。
したがって,請求人の主張は採用できない。

第3 まとめ
以上のとおり,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,引用例1に記載された発明及び引用例2及び3に記載された技術に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

したがって,他の請求項に係る発明について審究するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-24 
結審通知日 2016-08-30 
審決日 2016-09-14 
出願番号 特願2011-31016(P2011-31016)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 雅明  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 鉄 豊郎
多田 達也
発明の名称 光学装置  
代理人 杉村 憲司  
代理人 下地 健一  

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