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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1324544
審判番号 不服2016-844  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-19 
確定日 2017-02-21 
事件の表示 特願2011-283873「太陽電池」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月 8日出願公開、特開2013-135063、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年12月26日の出願であって、平成27年4月14日付け(同年同月21日発送)で拒絶理由が通知され、同年6月19日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされたが、同年10月16日付け(同年同月20日送達)で拒絶査定(以下、「原査定」という)がなされ、これに対して、平成28年1月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審より同年10月18日付け(同年同月25日発送)で拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知したところ、同年12月16日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(以下、「本願発明」という。)
「一の導電型を有する半導体材料からなる結晶性基板と、前記結晶性基板の一主面の上に配され、前記一の導電型を有する第1のアモルファス半導体層と、前記結晶性基板の前記一主面の上に配されており、他の導電型を有する第2のアモルファス半導体層とを有する光電変換部と、
前記第1のアモルファス半導体層の上に配され、前記第1のアモルファス半導体層と同じ幅に形成された多数キャリアを収集する第1の電極と、
前記第2のアモルファス半導体層の上に配され、前記第2のアモルファス半導体層と同じ幅に形成された少数キャリアを収集する第2の電極と、を備え、
前記第1の電極は、線状の第1のフィンガー部を含み、
前記第2の電極は、線状の第2のフィンガー部を含み、
前記第1のフィンガー部の幅をW1とし、前記第2のフィンガー部の幅をW2としたときに、0.3≦W2/W1<1となる、太陽電池。」

第3 原査定の拒絶理由について
1 原査定の拒絶理由の概要
(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1)引用例1には、n型シリコン基板501、p型拡散領域502、n型拡散領域503、p型拡散領域502上の金属グリッド505(本願の「第2の電極」)、n型拡散領域503上の金属グリッド506(同「第1の電極」)、を有する太陽電池500が開示されている(図5、図6など)。そして、図6などによれば、金属グリッド506(第1の電極)の面積は金属グリッド505(第2の電極)の面積の2倍前後となることは明らかである。
してみれば、請求項1-7は引用例1に対して新規性ないし進歩性はない。
なお、請求項2について、線状のフィンガー部に関して引用例2も参酌されたい。また、請求項3について、引用例1では半導体層が拡散領域から構成されているが、アモルファス層として構成すること(いわゆる、ヘテロ構造)も太陽電池としては周知の事項である点に留意されたい。
(2)なお、意見書では、引用例1には各電極の幅を異ならせることについて開示等がないことを指摘し、本願発明の特許性を主張しているが、請求項1ではそもそも電極の幅自体に言及していないものであるから、前記主張は失当である。
(3)また、引用例2には、p型シリコン基板上に第1の主電極15(本願の「第1の電極」)や第2の電極51(同「第2の電極」)が形成されたものが開示されている(各図面)。
してみれば、請求項1-7は引用例2に対しても新規性ないし進歩性はない。
<引用文献等一覧>
1.特表2009-545158号公報
2.特開平5-259488号公報

2 原査定の拒絶理由の判断
(1)引用例の記載事項、引用発明
ア 引用例1について
(ア)引用例1の記載事項
引用例1には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。以下、同様。)
a「【0004】
一態様では、太陽電池は、背面に形成されたベース拡散領域及びエミッタ拡散領域を有する。エミッタ拡散領域は、太陽電池において小数電荷キャリアを収集するように構成されており、ベース拡散領域は、多数電荷キャリアを収集するように構成されている。エミッタ拡散領域は、ベース拡散領域を分離する連続する領域であってよい。各ベース拡散領域の面積は小さくなっていてよく、それにより、小数電荷キャリアは減少し、多数電荷キャリアの横方向流れによる直列の抵抗損失も実質的に増大することはない。各ベース拡散領域は、例えばドット(dot)の形状を有していてよい。」

b「【0021】
図5に、本発明の一態様による太陽電池500を概略的に示す。太陽電池500は、ワンサン(つまり非集中型)の用途で使用されるように構成されている。この太陽電池500は、ドット状のベース拡散領域503の形態をしている低減された面積を有するベース拡散領域を備えている。図5の例では、ベース拡散領域503はN型拡散領域からなっており、連続するエミッタ拡散領域502はP型拡散領域からなっており、両拡散領域は、N型シリコンウェハ501上に形成されている。金属グリッド506は、ベース拡散領域503(例えば2つ以上のベース拡散領域)に電気的に結合されており、金属グリッド505は、連続するエミッタ拡散領域502に電気的に結合されている。図5に示す金属グリッド506の1つは、ベース拡散領域503の非長方形の形状(この例ではドット)が見えるように、透明に描かれている。金属グリッド505及び506は、掌状に互いに入り組んでいて(inter-digitaged)よい。外部電気回路は、金属グリッド505及び506に結合されており、太陽電池500からの電流を受容する。太陽電池500は、背面電極型太陽電池であって、拡散領域502及び503並びに金属グリッド506及び505は、太陽電池500の背面に形成されている。ウェハ501の、拡散領域503及び502とは反対側の表面は、太陽電池500の前面であり、通常の動作中には太陽の方を向いている。」

c「【図5】



(イ)引用発明1
上記記載から、引用例1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明1」という。)。

「ドット状のベース拡散領域503はN型拡散領域からなっており、連続するエミッタ拡散領域502はP型拡散領域からなっており、両拡散領域は、N型シリコンウェハ501上に形成され、
エミッタ拡散領域502は、太陽電池において小数電荷キャリアを収集するように構成されており、ベース拡散領域503は、多数電荷キャリアを収集するように構成され、
金属グリッド506は、ベース拡散領域503に電気的に結合され、金属グリッド505は、連続するエミッタ拡散領域502に電気的に結合され、
金属グリッド505及び506は、掌状に互いに入り組んでいる
背面電極型太陽電池。」

イ 引用例2について
(ア)引用例2の記載事項
引用例2には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。以下、同様。)
a「【0018】本図において、1は本実施例のシリコン太陽電池素子であり、p型導電性のシリコン基板の受光面となる一方の主表面11、一方の主表面11と反対側に位置する他方の主表面12に形成されたp+型導電性の第1の層13、第1の層13に隣接する第1の層13と反対側の導電性のn+型でその表面濃度が1×10^(19)/cm^(3)以下の第2の層14、第1の層13に隣接するp型不純物源及びアルミニウムシリコン合金層からなる第1の主電極15とを有する半導体である。一方の主表面11及び他方の主表面12は微小凹凸の存在するテクスチュア面となっており、その上に酸化膜2、3が形成されている。4は酸化膜2上に形成したTiO_(2)膜である。アルミニウムシリコン合金層からなる第1の電極15は、他方の主表面12上にあってp+層13と共に、n+層14に対して櫛の歯を噛み合わせた形状となっており、第1の層13を介してn+層14とpn接合で接触し、p型シリコン基板とはオーミック接触し、酸化膜3によりp+層13と、n+層14とは絶縁されている。51は第2の電極であり、他方の主表面上にあってn+層14に接触し、酸化膜3によりn+層14とは絶縁されている。アルミニウムシリコン合金層からなる第1の電極15は、第1の層13のp型不純物源となっているため、第1の層13と接触させるための位置合わせをすることなく第1の層13と同時に形成できるので、製造コストを低減させることができる。第2の層12の1×10^(19)/cm^(3)以下の表面濃度は第2の層12中で発生した電子正孔対の再結合を少なくし、起電圧と光生成電流を向上させる働きがある。」

b「【図1】



(イ)引用発明2
上記b(【図1】)には、第1の電極15は櫛の歯形状であり、第2の電極51は直線状であり、第1の電極15と第2の電極51は、交互に並んで配置されることが見て取れるから、引用例2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「シリコン太陽電池素子であって、
p型導電性のシリコン基板の受光面となる一方の主表面11、一方の主表面11と反対側に位置する他方の主表面12に形成されたp+型導電性の第1の層13、第1の層13に隣接する第1の層13と反対側の導電性のn+型の第2の層14、第1の層13に隣接するp型不純物源及びアルミニウムシリコン合金層からなる第1の主電極15とを有し、
第1の電極15は、他方の主表面12上にあってp+層13と共に、n+層14に対して櫛の歯を噛み合わせた形状となっており、第1の層13を介してn+層14とpn接合で接触し、p型シリコン基板とはオーミック接触し、酸化膜3によりp+層13と、n+層14とは絶縁され、第2の電極51は、直線状であり、他方の主表面上にあってn+層14に接触し、酸化膜3によりn+層14とは絶縁されており、
第1の電極15と第2の電極51は、交互に並んで配置される、
シリコン太陽電池素子。」

(2)対比、判断
ア 本願発明と引用発明1との対比、判断について
(ア)本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「N型シリコンウェハ501」は、本願発明の「一の導電型を有する半導体材料からなる結晶性基板」に相当する。

引用発明1において、「ベース拡散領域503はN型拡散領域からなっており、連続するエミッタ拡散領域502はP型拡散領域からなっており、両拡散領域は、N型シリコンウェハ501上に形成され」ているから、引用発明1の「ベース拡散領域503」及び「エミッタ拡散領域502」と、本願発明の「前記結晶性基板の一主面の上に配され、前記一の導電型を有する第1のアモルファス半導体層」及び「他の導電型を有する第2のアモルファス半導体層」とは、共に、「前記結晶性基板の一主面の上に配され、前記一の導電型を有する第1の半導体層」及び「他の導電型を有する第2の半導体層」の点で共通する。

引用発明1は、「ベース拡散領域503はN型拡散領域からなっており、連続するエミッタ拡散領域502はP型拡散領域からなっており、両拡散領域は、N型シリコンウェハ501上に形成され」る「背面電極型太陽電池」であるから、引用発明1の、ベース拡散領域503、エミッタ拡散領域502及び両拡散領域が形成されたN型シリコンウェハ501は、本願発明の「光電変換部」に相当する。

引用発明1において、「エミッタ拡散領域502は、太陽電池において小数電荷キャリアを収集するように構成されており、ベース拡散領域503は、多数電荷キャリアを収集するように構成され、金属グリッド506は、ベース拡散領域503に電気的に結合され、金属グリッド505は、連続するエミッタ拡散領域502に電気的に結合され」ているから、引用発明1の「金属グリッド506」及び「金属グリッド505」と、本願発明の「前記第1のアモルファス半導体層の上に配され、前記第1のアモルファス半導体層と同じ幅に形成された多数キャリアを収集する第1の電極」及び「前記第2のアモルファス半導体層の上に配され、前記第2のアモルファス半導体層と同じ幅に形成された少数キャリアを収集する第2の電極」とは、共に、「前記第1の半導体層の上に配されており、多数キャリアを収集する第1の電極」及び「前記第2の半導体層の上に配されており、少数キャリアを収集する第2の電極」である点で共通する。

引用発明1において、「金属グリッド505及び506は、掌状に互いに入り組んでいる」ことは、本願発明の「前記第1の電極は、線状の第1のフィンガー部を含み、前記第2の電極は、線状の第2のフィンガー部を含」むとする構成に相当する。

引用発明1の「背面電極型太陽電池」は、本願発明の「太陽電池」に相当する。

(イ)してみると、本願発明と引用発明1は、以下の点で一致する。

「一の導電型を有する半導体材料からなる結晶性基板と、前記結晶性基板の一主面の上に配され、前記一の導電型を有する第1の半導体層と、前記結晶性基板の前記一主面の上に配されており、他の導電型を有する第2の半導体層とを有する光電変換部と、
前記第1の半導体層の上に配されており、多数キャリアを収集する第1の電極と、
前記第2の半導体層の上に配されており、少数キャリアを収集する第2の電極と、を備え、
前記第1の電極は、線状の第1のフィンガー部を含み、
前記第2の電極は、線状の第2のフィンガー部を含む、
太陽電池。」

(ウ)そして、以下の点で相違する。
a 相違点1
第1の半導体層及び第2の半導体層について、本願発明は、アモルファスであるのに対し、引用発明1は、拡散領域で構成されている点。

b 相違点2
本願発明では、
・第1のアモルファス半導体層の幅=第1の電極(線状の第1フィンガー部)の幅(W1)
・第2のアモルファス半導体層の幅=第2の電極(線状の第2フィンガー部)の幅(W2)
・0.3≦W2/W1<1
となる「幅の関係」を有するのに対し、引用発明1では、「ドット状のベース拡散領域503」と「金属グリッド506」の幅の関係、「連続するエミッタ拡散領域502」と「金属グリッド505」の幅の関係及び「金属グリッド505及び506」の幅の関係が不明である点。

(エ)判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
上記相違点2の「幅の関係」について、引用例1の図5を見るに、「ドット状のベース拡散領域503」と「金属グリッド506」は、異なる形状をしており、「連続するエミッタ拡散領域502」と「金属グリッド505」も異なる形状をしているから、「ドット状のベース拡散領域503」と「金属グリッド506」の幅を同じ幅に形成し、「連続するエミッタ拡散領域502」と「金属グリッド505」の幅を同じ幅に形成する形状の関係とはなっていない。
さらに、引用発明1において、「ドット状のベース拡散領域503」と「金属グリッド506」の幅を同じ幅にし、「連続するエミッタ拡散領域502」と「金属グリッド505」を同じ幅とした上で、「金属グリッド505及び506」の幅の関係を「0.3≦W2/W1<1」とすることは、引用例1に開示も示唆もされておらず、本願出願日における周知技術でもない。
これに対して、本願発明は、上記相違点2の「幅の関係」の構成により、「太陽電池の出力特性が改善される」という効果を奏するものであるから(本願明細書段落【0022】参照。)、相違点1について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明1であるとはいえず、また引用発明1に基づいて当業者が容易に想到することができたとはいえなくなった。

イ 本願発明と引用発明2との対比、判断について
(ア)本願発明と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「p型導電性のシリコン基板」は、本願発明の「一の導電型を有する半導体材料からなる結晶性基板」に相当する。

引用発明2において、「他方の主表面12に形成されたp+型導電性の第1の層13」、「第1の層13に隣接する第1の層13と反対側の導電性のn+型の第2の層14」と、本願発明の「前記結晶性基板の一主面の上に配され、前記一の導電型を有する第1のアモルファス半導体層」及び「他の導電型を有する第2のアモルファス半導体層」とは、共に、「前記結晶性基板の一主面の上に配され、前記一の導電型を有する第1の半導体層」及び「他の導電型を有する第2の半導体層」の点で共通する。

引用発明2は、「p型導電性のシリコン基板の受光面となる一方の主表面11、一方の主表面11と反対側に位置する他方の主表面12に形成されたp+型導電性の第1の層13、第1の層13に隣接する第1の層13と反対側の導電性のn+型の第2の層14、第1の層13に隣接するp型不純物源及びアルミニウムシリコン合金層からなる第1の主電極15とを有」する「シリコン太陽電池素子」であるから、引用発明2の、p+型導電性の第1の層13及びn+型の第2の層14を他方の主表面12に形成されたp型導電性のシリコン基板は、本願発明の「光電変換部」に相当する。

引用発明2において、「第1の電極15は、他方の主表面12上にあってp+層13と共に、n+層14に対して櫛の歯を噛み合わせた形状となっており、第1の層13を介してn+層14とpn接合で接触し、p型シリコン基板とはオーミック接触し、酸化膜3によりp+層13と、n+層14とは絶縁され、第2の電極51は、直線状であり、他方の主表面上にあってn+層14に接触し、酸化膜3によりn+層14とは絶縁されている」から、引用発明2の「第1の電極15」及び「第2の電極51」と、本願発明の「前記第1のアモルファス半導体層の上に配され、前記第1のアモルファス半導体層と同じ幅に形成された多数キャリアを収集する第1の電極」及び「前記第2のアモルファス半導体層の上に配され、前記第2のアモルファス半導体層と同じ幅に形成された少数キャリアを収集する第2の電極」とは、共に、「前記第1の半導体層の上に配されており、多数キャリアを収集する第1の電極」及び「前記第2の半導体層の上に配されており、少数キャリアを収集する第2の電極」である点で共通する。

引用発明2において、「第1の電極15と第2の電極51は、交互に並んで配置される」ことは、第1,2の電極がそれぞれフィンガー部を構成しているといえるから、引用発明2の「第1の電極15は、」「櫛の歯を噛み合わせた形状となっており、」「第2の電極51は、直線状であり、」ことと、本願発明の「前記第1の電極は、線状の第1のフィンガー部を含み、前記第2の電極は、線状の第2のフィンガー部を含」むこととは、共に「前記第1の電極は、第1のフィンガー部を含み、前記第2の電極は、線状の第2のフィンガー部を含」む点で共通する。

引用発明2の「シリコン太陽電池素子」は、本願発明の「太陽電池」に相当する。

(イ)してみると、本願発明と引用発明2は、以下の点で一致する。

「一の導電型を有する半導体材料からなる結晶性基板と、前記結晶性基板の一主面の上に配され、前記一の導電型を有する第1の半導体層と、前記結晶性基板の前記一主面の上に配されており、他の導電型を有する第2の半導体層とを有する光電変換部と、
前記第1の半導体層の上に配されており、多数キャリアを収集する第1の電極と、
前記第2の半導体層の上に配されており、少数キャリアを収集する第2の電極と、を備え、
前記第1の電極は、第1のフィンガー部を含み、前記第2の電極は、線状の第2のフィンガー部を含む、
太陽電池。」

(ウ)そして、以下の点で相違する。
a 相違点3
第1の半導体層及び第2の半導体層について、本願発明は、アモルファスであるのに対し、引用発明2は、アモルファスであるとの特定がない点。

b 相違点4
本願発明では、「前記第1の電極は、線状」の形状であるのに対し、引用発明2では、「第1の電極15は、」「櫛の歯を噛み合わせた形状となって」いる点。

c 相違点5
本願発明では、
・第1のアモルファス半導体層の幅=第1の電極(線状の第1フィンガー部)の幅(W1)
・第2のアモルファス半導体層の幅=第2の電極(線状の第2フィンガー部)の幅(W2)
・0.3≦W2/W1<1
となる「幅の関係」を有するのに対し、引用発明2では、「p+型導電性の第1の層13」と「第1の電極15」の幅の関係、「n+型の第2の層14」と「第2の電極51」の幅の関係及び「第1の電極15」と「第2の電極51」の幅の関係が不明である点。

(エ)判断
事案に鑑み、相違点5について検討する。
上記相違点5の「幅の関係」について、引用例2の図1を見ても、「n+型の第2の層14」と「第2の電極51」は、異なる形状をしており、「n+型の第2の層14」と「第2の電極51」とが同じ幅に形成される形状の関係とはなっていない。
さらに、引用発明2において、「p+型導電性の第1の層13」と「第1の電極15」の幅を同じ幅にし、「n+型の第2の層14」と「第2の電極51」を同じ幅とした上で、「第1の電極15」と「第2の電極51」の幅の関係を「0.3≦W2/W1<1」とすることは、引用例2に開示も示唆もされておらず、本願出願日における周知技術でもない。
これに対して、本願発明は、上記相違点5の「幅の関係」の構成により、「太陽電池の出力特性が改善される」という効果を奏するものであるから(本願明細書段落【0022】参照。)、相違点3,4について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明2であるとはいえず、また引用発明2に基づいて当業者が容易に想到することができたとはいえなくなった。

(3)原査定の拒絶の理由の判断のむすび
上記のとおりであるから、原査定の拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(1)(進歩性)この出願の請求項1ないし6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例:特表2009-545158号公報

(2)(サポート要件)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第1、第2の電極の面積比(S2/S1)に関する特定がなされた請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(3)(委任省令要件)(実施可能要件)本願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

ア(委任省令要件)
結晶性基板とアモルファス半導体層の界面の寸法関係とは無関係に、第1、第2の電極の面積比だけが、光電変換効率に寄与する指標になるのか、技術的に不明である。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。また、請求項1を引用する請求項2ないし6に係る発明についても、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。
イ(実施可能要件)
本願の発明の詳細な説明には、「Ωcm^(2)」を単位とする「直列抵抗の和」をどのようにして求めるのか、また、裏面接合型太陽電池の光電発電効率を20%以上、または21%以上とするための構成が記載されておらず、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

2 当審拒絶理由の判断
(1)本件補正について
ア 補正前の請求項1を削除し、請求項2を独立請求項1とするとともに、第1の電極が「前記第1のアモルファス半導体層と同じ幅に形成され」、第2の電極が「前記第2のアモルファス半導体層と同じ幅に形成され」たことを規定する補正がなされた。

イ 補正前の請求項3?6を削除する補正がなされた。

(2)当審拒絶理由(1)について
当審拒絶理由(1)で引用した特表2009-545158号公報は、原査定の拒絶理由で引用した引用例1と同じである。
よって、引用例1の記載事項、引用発明1は、上記「第3」「2」「(1)」「ア」に記載のとおりであり、本願発明と引用発明1との対比、判断については、上記「第3」「2」「(2)」「ア」に記載のとおりである。
したがって、本願発明は、引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。

(3)当審拒絶理由(2)、(3)アについて
補正後の請求項1に係る発明は、第1、第2の電極の面積比についての特定は削除され、発明の詳細な説明に記載されている(補正前の請求項2に係る発明で特定されていた)第1、第2のフィンガー部の幅の比について特定された。
したがって、補正後の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえなくなった。また、本願の発明の詳細な説明は、補正後の請求項1に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではないとはいえなくなった。

(4)当審拒絶理由(3)イについて
「Ωcm^(2)」を単位とする「直列抵抗の和」及び裏面接合型太陽電池の光電発電効率についての特定がされた請求項は、本件補正により削除された。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、補正後の請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえなくなった。

(5)小括
以上のとおり、本件補正により、当審拒絶理由で指摘した理由は解消した。

第5 結論
以上のとおりであり、原査定の拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。また、他に、本願を拒絶する理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-06 
出願番号 特願2011-283873(P2011-283873)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 113- WY (H01L)
P 1 8・ 536- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 濱田 聖司  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 森林 克郎
森 竜介
発明の名称 太陽電池  
代理人 新居 広守  
代理人 道坂 伸一  
代理人 寺谷 英作  

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