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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01Q
審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 H01Q
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01Q
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01Q
管理番号 1324627
審判番号 不服2016-2524  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-19 
確定日 2017-02-28 
事件の表示 特願2014-110589「適応可能アンテナシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月16日出願公開,特開2014-197870,請求項の数(35)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2007年10月25日を国際出願日とする出願である特願2009-536378号(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2006年11月2日 米国)の一部を,平成24年7月6日に新たな特許出願とした特願2012-152229号の一部を,平成26年5月28日に新たな特許出願としたものであって,平成27年2月23日付けで拒絶理由通知がされ,これに対して同年5月27日付けで手続補正され,同年10月23日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,平成28年2月19日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに同日付けで手続補正がされ,同年9月26日付けで同年2月19日付けの手続補正を却下する決定がされ,同日付で拒絶理由通知がされ,同年12月13日付けで手続補正がされ,同日付で意見書が提出され,その後,平成29年1月17日付けで上申書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成27年10月23日付け拒絶査定)の概要は,次のとおりである。

原査定時における請求項1ないし9に係る発明は,以下の引用文献AないしDに記載された発明に基づいて,また,請求項10ないし24に係る発明は,以下の引用文献AないしEに記載された発明に基づいて,その発明の属する技術の分野における知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2001-136026号公報
B.特表2006-504308号公報
C.特開平8-321716号公報
D.特開平11-136025号公報
E.国際公開第01/52445号

第3 当審拒絶理由通知の概要
当審拒絶理由通知の概要は,次のとおりである。
理由1.
(新規事項)平成27年5月27日付けの手続補正は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
理由2.
(明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由3.
(新規性)当審拒絶理由通知時における請求項1ないし35に係る発明は,以下の引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
理由4.
(進歩性)当審拒絶理由通知時における請求項1及び35に係る発明は,以下の引用文献1に記載された発明に基づいて,または,請求項1,16,17に係る発明は,以下の引用文献2ないし4に記載された発明に基づいて,請求項2ないし5に係る発明は,以下の引用文献2ないし5に記載された発明に基づいて,請求項6ないし11に係る発明は,以下の引用文献2ないし6に記載された発明に基づいて,請求項12及び13に係る発明は,以下の引用文献2ないし7に記載された発明に基づいて,請求項14及び15及び18ないし32に係る発明は,以下の引用文献2ないし8に記載された発明に基づいて,請求項33に係る発明は,以下の引用文献2ないし9に記載された発明に基づいて,請求項34に係る発明は,以下の引用文献2ないし10に記載された発明に基づいて,それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2012-239187号公報
2.特開2004-336328号公報
3.特開2001-136026号公報
4.特開2006-238340号公報
5.国際公開第2001/52445号
6.特表2007-507805号公報
7.特開2006-203648号公報
8.特表2005-514844号公報
9.特開2006-93990号公報
10.特開平6-224618号公報

第4 本願発明
本願請求項1ないし35に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明35」という。)は,平成28年12月13日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし35に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は,以下のとおりの発明である。

「 第1の通信モードを第2の通信モードに変更する第1のチューン可能要素を有する第1のアンテナと,
前記第1の通信モードを前記第2の通信モードに変更する第2のチューン可能要素を有する第2のアンテナとを具備し,
前記第1及び第2のアンテナは,異なる通信モードで同時に動作するように構成され,前記第1及び第2のアンテナの各々は,複数の回路のうちの1つと選択的に動作し,各回路は異なる通信モードと関連付けられており,前記第1及び第2のチューン可能要素は,前記第1の通信モードを前記第2の通信モードに変更するために1つ以上の固定キャパシタを切り替え,
前記第1の通信モード及び前記第2の通信モードは,
CDMA,GSM,広帯域CDMA(WCDMA),時分割同期CDMA(TD-SCDMA),直交周波数分割多重(OFDM)及びWiMAXのうちの少なくとも2つを含む,無線通信装置。」

なお,本願発明16は,本願発明1の構成要素を「手段」として特定したものであり,本願発明17は,本願発明1と同一であり,本願発明18及び30は,本願発明1を方法の発明として特定したものであり,本願発明2ないし15,本願発明19ないし29,本願発明31ないし35は,本願発明1,18または30を減縮したものである。

第5 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
当審拒絶理由通知の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2012-239187号公報)は,本願の分割の基礎となるいわゆる親出願であり,その公知日は,平成24年12月6日である。

2.引用文献2について
当審拒絶理由通知の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2004-336328号公報)には,「アンテナ装置及び無線装置」(発明の名称)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

a.「【0006】
前記ノッチアンテナにおいては,共振周波数はスリット206の長さLsで決定され,例えばそのスリット206の長さLsは使用周波数の0.2波長程度の長さにされる。したがって,これまで携帯電話市場で主流であったPDC方式(約800MHz)やGSM方式(約800?900MHz)での使用周波数帯域のシステムでは,スリットの長さLsが70?80mm程度と長く,ノッチアンテナを携帯電話機内部に設置するのは困難である。しかしながら,第3世代の携帯電話機(W-CDMAで約2GHz)やGPS機能を搭載した携帯電話機(約1.575MHz)など,高い周波数帯域で使用されるシステムでは,ノッチアンテナを採用することが可能である。
【0007】
この一方,近年の携帯無線端末の小型化の動向に伴い,内蔵アンテナにも更なる小型化が要求される傾向にある。その場合,使用周波数帯全域をカバーするのが困難となる可能性があるが,アンテナの小型化に対応させるべく,アンテナの共振周波数を電気的に切り換える技術を採用することが考えられる。また,近年,携帯電話機の急速な普及に伴って,1つの無線通信システムにおける回線数だけでは当該回線数が不足する傾向にあるため,現状では,異なる周波数帯域を使用している2種類かそれ以上の無線通信システムを併用して必要な回線数を確保している。実際に,1つの携帯電話機で,2種類かそれ以上の無線通信システムを利用することが可能な,いわゆるデュアルバンド又はトリプルバンド対応の携帯無線端末が開発され,実際に発売されている。
【0008】
さらに近年は,携帯無線端末に様々な機能を持たせる傾向にあることから,位置測位システムであるGPS(Global Positioning System)や近距離無線通信方式の一つであるブルートゥース(Bluetooth)といった,携帯電話以外の無線通信システムを搭載する携帯無線端末も開発され発売されている。
【0009】
このように,1つの携帯無線端末に複数の無線通信システムを搭載した場合,端末の小型化によってそれぞれのシステムに対応した内蔵アンテナを搭載するスペースがない場合は,当然,アンテナに複共振化が要求される。」(第3ページ)

b.「【0022】
「携帯電話機の概略構成」
本実施の形態の携帯電話機1は,図1に示すように,アンテナ2,高周波無線回路であるRF回路3及びベースバンド信号回路4からなる無線回路部と,CODEC(コーデック)5と,メモリ6と,表示部7と,キー入力部8と,スピーカ9と,マイクロフォン10と,これらを制御するCPU11とを備えている。
【0023】
アンテナ2は,携帯電話機1の筐体内に内蔵される内蔵アンテナであり,後述する地導体(グランド)に切り欠きを形成することによって構成されたノッチアンテナからなる。
【0024】
CODEC5は,マイクロフォン10から入力された音声信号を符号化してベースバンド信号回路4に送ると共に,ベースバンド信号回路4から受けた信号を復号化することにより得られる音声信号をスピーカ9に供給する。
【0025】
ベースバンド信号回路4は,CODEC5から受けた信号を送信用のベースバンド信号に調整してRF回路3に送ると共に,RF回路3が復調したベースバンド信号からCODEC5が処理可能な信号を取り出す。
【0026】
RF回路3は,ベースバンド信号回路4から送られたベースバンド信号に応じた変調を施したRF信号(高周波信号)をアンテナ2に供給すると共に,アンテナ2を介して受信したRF信号からベースバンド信号を復調してベースバンド信号回路4に送る。
【0027】
メモリ6は,例えばROM(Read Only Memory)などからなり,CPU11が実行するプログラムや各種設定データなどを記憶する。表示部7は,例えば液晶表示装置(LCD駆動装置)などから構成され,電話番号や送受信したメッセージデータ(例えば電子メールなど)などの内容を表示する。キー入力部8は,入力手段であるテンキーによる入力指示をCPU11に指令し,メモリ6に記憶されたプログラムを実行させる。
【0028】
スピーカ9は,CODEC5から送られた音声信号に応じた音声を出力する。一方,マイクロフォン10は,外部から音声を取り込んで,その音声を音声信号に変換してCODEC5へ転送する。
【0029】
「アンテナ装置の構成及び作用」
本実施の形態のアンテナ装置(以下,単にノッチアンテナという)を,図面及び電磁界シミュレーションによる解析結果を参照しながら詳細に説明する。なお,電磁界シミュレーションは,FDTD法(Finite Difference Time Domain Method:有限差分時間領域法)を用いた。」(第5ページ)

c.「【0049】
以上,共振周波数の設定は,容量性リアクタンス素子16の値と,装荷する位置(給電部15からの位置)Lc+またはLc-とによって適宜調整することができる。したがって,使用する周波数帯に応じて,前記容量性リアクタンス素子の値と,その装荷する位置を適宜調整すれば,複数の無線通信システム用のアンテナとして本発明のノッチアンテナを使用することができる。」(第8ページ)

d.「

」(第12ページ)

前記a.ないしd.より,引用文献2には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「 1本のアンテナで送受信を行う携帯無線端末において,容量を制御して,アンテナの共振周波数を電気的に切り換えることにより,アンテナを,使用する通信システム(PDC,W-CDMA又はGSM等)に対応した周波数帯域に適応させる無線装置。」

3.引用文献3(引用文献A)について
当審拒絶理由通知の拒絶の理由に引用文献3として引用され,原査定の拒絶の理由に引用文献Aとして引用された特開2001-136026号公報には,「携帯無線端末」(発明の名称)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

e.「【課題】異なる送受信周波数を同時に使用する通信方式において,送受独立したアンテナを用いかつ送受アンテナ間の干渉を抑えることにより,小型化及び性能向上を図った新規な携帯無線端末を提供する。
【解決手段】異なる送受信周波数を同時に使用する通信方式に用いられる携帯無線端末において,磁流型送信アンテナ101及び磁流型受信アンテナ102を,互いの磁流が一直線上となるよう並列に配置する。」(第1ページ)

f.「【0022】<実施例4>実施例3におけるスロットアンテナのインピーダンス整合中心周波数を通話周波数に合わせて変更する制御回路を設けた携帯無線端末の一実施例を図6に示す。長方形状の回路基板200の短辺に平行に並列配置された送信アンテナ131及び受信アンテナ132と,送信アンテナ131及び受信アンテナ132のそれぞれに設けられたインピーダンス可変回路138と,インピーダンス可変回路138に接続された制御回路250が図6に記載されている。制御回路250は送信アンテナ131と受信アンテナ132とに挟まれた領域又は該領域から回路基板200の長辺に平行に延長した領域上に設けられている。シンセサイザ230は論理回路部240から与えられるデータによって特定の局部発振周波数信号を発生する。論理回路部は送信高周波回路210に信号を送り,送信高周波回路はシンセサイザから送られる局部発振周波数信号により信号を送信通話周波数信号に周波数変換して,送信フィルタ301を介して送信スロットアンテナ131から空間に放射する。一方,受信スロットアンテナ132により受信された受信通話周波数信号は受信フィルタ302を介して受信高周波回路220に送られ,受信高周波回路はシンセサイザから送られる局部発振周波数信号により受信通話周波数信号を周波数変換して論理回路部に送り,受信が行われる。制御回路250はシンセサイザの周波数情報を元に,制御線251を介して送受信スロットアンテナ上のインピーダンス可変回路138のインピーダンスを制御する。同インピーダンス可変回路のインピーダンスが変わると,送受信スロットアンテナのインピーダンス整合中心周波数が変化する。
【0023】携帯無線端末の通話に使用される帯域は送受信各々のシステム帯域と比べて非常に狭い。このような携帯無線端末には通話帯域をカバーする帯域を持つ狭帯域アンテナのインピーダンス整合中心周波数を通話周波数に同調させて使用するアンテナ同調方式が適用できる。アンテナ同調方式を図7を用いて説明する。図7はアンテナの整合特性(周波数対VSWR:定在波比)であり,(a)は周波数固定アンテナによりシステム帯域全体をカバーする様子,(b)はアンテナ同調方式によりシステム帯域を等価的にカバーする様子を示す。例えば,アンテナ同調方式によって狭帯域アンテナのインピーダンス整合中心周波数をI/IIの二つの状態に切替えられる場合,両状態によってシステム帯域の半分ずつをカバーすれば等価的にシステム帯域全体をカバーできる。この時狭帯域アンテナの帯域は同図(a)に示す周波数固定アンテナの帯域の約半分にできる。一般的にアンテナの帯域は体積に比例するため,帯域が半分のアンテナは体積も半分程度で実現できる。したがって,本構成によって携帯無線端末をより小型化できる。さらに,アンテナの帯域を狭帯域にすると,送受アンテナ間の干渉が減るため,高周波フィルタの遮断領域における減衰量をより減らすことが可能となり,より通過損失の小さい高周波フィルタを採用することが可能となる。
【0024】本実施例に用いた送受信スロットアンテナの構造を図8を用いて説明する。図8において,スロットアンテナ131は,表面を導体で覆われた導体箱の主面にスロット133が配設されたスロットアンテナであり,導体箱内部にはスロットと交差して導体箱と接しないように帯状導体134が設けられ,帯状導体の一端は導体箱の側面に設けられた側面電極135に接続される。側面電極が導体箱の側面導体と接触しないように,側面電極の周りの側面導体は除去してある。側面導体の一端は導体箱の底面に導体壁面と接触しないように設けられた島状導体136に接続される。島状導体はこのアンテナの給電点となり,この給電点に対して導体箱の壁面を接地電位として給電回路137から高周波電力を供給する。また,138はインピーダンス可変回路,250はインピーダンス可変回路に制御信号を供給する制御回路である。インピーダンス可変回路は,端子間インピーダンスが変化する端子対をスロットの一方の端から他方の端に向かってスロットに沿って一定の距離139だけ離れた位置でスロット両縁の導体にそれぞれ接続され,端子間インピーダンスを変化させるための制御信号を印加する端子に制御回路からの制御線251を接続される。制御回路から供給する制御信号を変化させることにより,前記の位置におけるスロット両縁の導体間のインピーダンスを変化させてアンテナのインピーダンス整合中心周波数を変化させることができる。
【0025】アンテナ同調方式によってスロットアンテナのインピーダンス整合中心周波数,すなわち共振周波数を変化させる原理を図9を用いて説明する。図9はインピーダンス可変回路を設けたスロットアンテナの等価回路と共振周波数特性を示している。図9(a)はスロット部分の等価回路,(b)は(a)のインピーダンス可変回路として可変容量回路を用い,スロットの一方の端からある距離離れた位置からスロットの一方の端までのスロット線路をインダクタンスLで近似したスロットの等価回路,(c)は(b)の等価回路における可変容量回路の容量値Cに対する共振周波数特性である。スロットアンテナの共振周波数はスロット線路の長さにほぼ反比例する。インピーダンス可変回路138が開放の場合スロット線路の長さはX0+X1で,共振周波数は図9(c)のf1になる。インピーダンス可変回路が短絡の場合,スロット線路長はX0と短くなるので共振周波数は高くなり図9(c)のf2になる。インピーダンス可変回路を可変容量Cとし,前記の位置からスロットの一方の端までのスロット線路をインダクタンスLで近似すると,CとLの合成インダクタンスZは式(1)のようになる。
【0026】
Z=jωL/(1-ω2LC)………式(1)
式(1)より,ある値まではCが大きくなるにつれて分母が小さくなるのでZはより大きなインダクタンス成分となるように見え,ある値よりCが大きくなるとZは負となるのでZは小さなキャパシタンス成分として見えさらにCが大きくなるとZはCの値と一致することが分かる。したがって,Cを大きくしていくにつれて,f1から始まった共振周波数はインダクタンス成分が増える,すなわち線路長がX0+X1の長さから等価的に延びていくことにより低下していき,ある容量値を境にキャパシタンス成分が増える,すなわち線路長がX0の長さから等価的に短くなった状態からX0の状態に近づいていくことで,高い周波数から低下してきてf2に落ち着く。Cが大きくなるにつれてZが正から負に移る前後の領域はLCが共振状態にあり,インピーダンス可変回路に損失があるとそこでエネルギーが消費されるため,アンテナの共振品質係数Q値が低下する。この領域はアンテナの使用には適さないため,この領域を除いた範囲をアンテナ同調方式によるスロットアンテナの使用可能領域とする。このような特性を利用すると,例えば前記第一の位置におけるスロット両縁の導体間に小さな容量値C1をもつ容量素子を接続することにより,共振周波数をf1からf3に低下させることができ,同位置に大きな容量値C2をもつ容量素子を接続すれば,共振周波数をf1からf4に上昇させることができる。したがって,本構成によれば,スロットの一方の端からある距離だけ離れた位置においてスロット両縁の導体間に接続する容量値により,アンテナの共振周波数を任意の値に設定できる。」(第5-6ページ)

g.「【0027】<実施例5>実施例4における送受信フィルタの代りに帯域切替型フィルタ回路を用いた携帯無線端末の一実施例を図10に示す。311a,311bはそれぞれ異なる通過帯域を有する送信部分帯域フィルタ,312a,312bはそれぞれ異なる通過帯域を有する受信部分帯域フィルタ,313a,313b,313c,313dは高周波スイッチである。
【0028】送信高周波回路210を高周波スイッチ313a,送信部分帯域フィルタ311a,311b,高周波スイッチ313bにより構成される送信帯域切替型フィルタ回路を介して送信同調型スロットアンテナ131に接続する。受信同調型スロットアンテナ132を高周波スイッチ313c,受信部分帯域フィルタ312a,312b,高周波スイッチ313dにより構成される受信帯域切替型フィルタ回路を介して受信高周波回路220に接続する。送受信同調型スロットアンテナのインピーダンス整合中心周波数は,それぞれのアンテナ上のインピーダンス可変回路138に対しシンセサイザ230と接続された制御回路250から制御線251を介して制御信号が印加されることで制御される。帯域切替型フィルタ回路の帯域は,制御回路250から送受信帯域切替型フィルタ回路の高周波スイッチに対して制御線252,253を介して制御信号が印加されることで切替えられる。制御回路250は送信帯域切替型フィルタ回路と受信帯域切替型フィルタとに挟まれた領域又は該領域から上記回路基板の長辺に平行に延長した領域上に設けられている。
【0029】帯域切替型フィルタ回路の帯域切替動作を図11を用いて説明する。図11はフィルタの帯域特性(周波数対通過損失)であり,(a)は帯域固定フィルタによりシステム帯域全体をカバーする様子,(b)は帯域切替型フィルタ回路によりシステム帯域を等価的にカバーする様子を示す。送信帯域切替型フィルタ回路を例に取ると,送信部分帯域フィルタ311aが の帯域を有し,送信部分帯域フィルタ311bが の帯域を有すれば,高周波スイッチ313a,313bを制御して送信高周波回路と送信同調型スロットアンテナとの間に接続するフィルタを311a,311bのどちらかに切替えることで,フィルタの通過帯域を通話に必要な周波数帯域に設定することができる。通過帯域が使用周波数と比べて極端に狭くない場合には,一般に通過帯域の狭いフィルタは通過帯域の広いフィルタと比べて容易に実現できるとともに,通過損失を小さくできるため,送受信電力の通過損失をより低減して電池容量を減らして携帯無線端末を小型化することができる。同様に,受信系では受信電力の通過損失をより低下できることから携帯無線端末の最低受信感度性能を向上できる。
【0030】このとき,同調型スロットアンテナが取りうる状態数及びある状態においてカバーする帯域と帯域切替型フィルタ回路が取りうる状態数及びある状態における通過帯域とを一致させれば,両者を同じ制御信号で制御することが可能となるため,新たな制御回路を設ける必要は無い。」(第6-7ページ)

h.「

」(第9ページ)

i.「

」(第9ページ)

前記e.ないしi.より,引用文献3には,次の発明(以下,「引用発明A」という。)が記載されていると認める。

「 送信アンテナと,受信アンテナと,送信アンテナ及び受信アンテナのそれぞれに設けられ,各アンテナのインピーダンス整合中心周波数を変化させるためのインピーダンス可変回路と,
前記送信アンテナ及び前記受信アンテナに選択的に接続される帯域切替型フィルタ回路と,
前記インピーダンス可変回路と,前記帯域切替型フィルタ回路を,同じ制御信号で制御する制御回路と,を含む携帯無線端末。」

4.引用文献4について
当審拒絶理由通知の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開2006-238340号公報)には,「通信端末装置及び通信方法」(発明の名称)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

j.「【0101】
(第2の実施形態)
次に,第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態における通信端末装置は,受信用のアンテナと,送信用のアンテナと,を個別に設けたことを特徴とするものである。これにより,第2の実施形態における通信端末装置は,省電力および受信感度を更に改善することが可能となる。以下,図4を参照しながら,第2の実施形態における通信端末装置について説明する。なお,図4は,第2の実施形態におけるデュアルモード対応型の通信端末装置の内部構成を示す。
【0102】
第2の実施形態における通信端末装置は,図1との構成の違いとして,送受信用アンテナ(1)を,受信用アンテナ(1?1)と,送信用アンテナ(1-2)と,に分離することで,回路の集積度を保持しつつ,省電力および受信感度の改善を図ることが可能となるものである。
【0103】
第1の実施形態における通信端末装置は,送信信号と,受信信号と,をDUP(2)に入力し,送受信用アンテナ(1)と接続する構成としたが,DUP(2)の挿入損失が大きい場合に,受信特性面から考えると受信感度の劣化が懸念されることになる。また,送信特性面から考えても送信パワーロスによる消費電力の増大が懸念される。
【0104】
このため,第2の実施形態の通信端末装置は,受信用アンテナ(1-1)と,送信用アンテナ(1-2)と,を個別に設けることで,受信用アンテナ(1-1)と,送信用アンテナ(1-2)と,の間のアイソレーションを確保することが可能となり,省電力および受信感度の改善を図ることが可能となる。」(第14ページ)

k.「

」(第16ページ)

前記j.及びk.より,引用文献4には,次の事項(以下,「技術事項4」という。)が記載されていると認める。

「複数の無線通信システムを使用する端末において,各無線通信システムの各々において送信アンテナ及び受信アンテナの2本のアンテナを同時に使用する通信方式。」

5.引用文献Bについて
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献B(特表2006-504308号公報)には,「無線デバイス装置およびアンテナ構造」(発明の名称)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

l.「【0003】
移動局などの小規模無線デバイスでは,その目的は多くの場合,全てのシステムおよび周波数帯域において単一のアンテナにより送信と受信とを実現することであった。小規模無線デバイスにはスペースが殆ど無く,従って1つのアンテナのみを使用するのは多くの場合もっともなことである。このような場合,しかしながら損失を伴うスイッチにより種々の周波数帯域を1つの共通アンテナに統合しなければならない。この問題点は,特にWCDMAシステムに関して深刻であり,WCDMAシステムでは送信と受信が同時に行われるので,送受信の両方に単一アンテナを使用すると「複式フィルタ(duplex filter)」が必要になる。US-WCDMA1900では,例えば送信と受信との間の周波数の「二重分離(duplex sepration)」は非常に小さく,従って厳密なフィルタリングの要求によりセラミック送受切換器(duplexer)などの損失の出来るだけ小さい複式フィルタを使用しなければならない。そのような複式フィルタはかなり大きく,かつさらに典型的に有利にはアンテナ下部に実装され,これによりアンテナには少ししかスペースを与えられず,かつアンテナの放射効率が低下することを意味する。」(第4ページ)

m.「【0021】
図1のアンテナ構造を好ましくは多重周波数移動局のためのアンテナ構造として動作するように構成することが出来る。多重周波数移動局の例は,以下のシステムおよび周波数帯域をサポートするように構成した移動局である:EGSM900(880から960MHz),GSM1900(1850から1990MHz),WCDMA2000(1920から2170MHz)。次いで,GSM1900とWCDMA2000の周波数帯域は部分的に重複する。類似の状況は,US-WCDMA1900(1850から1900MHz)およびGSM1900(1850から1990MHz)の周波数帯域あるいはUS-WCDMA1700/2100(Tx1710から1770MHz,Rx2110から2170MHz)およびGSM1800(1710から1880MHz)システムを採用する移動局において生じる。上述の通り,移動局の大きさと損失の最小化の両方のために,そのような移動局では2本のアンテナを含むアンテナ構造を使用し,かつWCDMAシステムにおける送信と受信を異なるアンテナ間で分割するのが有利である。これにより,損失を招く大きい複式フィルタを回避し,状況に応じて,低域通過,高域通過あるいは帯域通過フィルタであり得る2つのより簡単な低損失フィルタにより代替することが可能になる。」(第7ページ)

n.「

」(第13ページ)

前記l.ないしn.より,引用文献Bには,次の事項(以下,「技術事項B」という。)が記載されていると認める。

「アンテナA1により,GSM900の送信又は受信並びにWCDMAの送信のいずれかを行い,アンテナA2により,GSM1900の送信又は受信並びにWCDMAの受信のいずれかを行い,アンテナA1によるWCDMAの送信とアンテナA2によるWCDMAの受信を同時に行う,無線デバイス装置。」

6.引用文献Cについて
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献C(特開平8-321716号公報)には,「アンテナ装置」(発明の名称)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

o.「【0023】
【実施例】
実施例1.以下,この発明の一実施例を図1および図2について説明する。図1は実施例1のTDMA無線機の構成を示すブロック図で,図2は同じくその動作を説明するタイミング図である。図1において,1は送信信号を変調・増幅しアンテナへ出力する送信部,2は入力電波を増幅・復調する受信部,4は送信部1の出力端と受信部2の入力端をそれぞれアンテナに整合させて接続する送受信共用分波器(デュプレクサ),50は電気長を切り替える手段を有する送受信共用のアンテナ,10はアンテナ50の電気長を切り替える電気長切替信号である。図2において,11はTDMAの当該無線機が電波を放射することができる送信タイムスロットT,12は当該無線機が電波を受信することができる受信タイムスロットR,13は当該無線機が自局チャネルに関する送受信に与らない時間枠,すなわちアイドルタイムスロットIである。なお,アイドルタイムスロット13中に,周辺基地局の電界強度を測定するために,無線機は受信動作を行う例もある。42はTDMA無線機がダイバーシチ受信動作をする場合のダイバーシチ切替判定期間である。また,アンテナ50の電気長を切り替える電気長切替信号10が,送信タイムスロット11に対応するタイミングにアンテナ50の電気長をlTに,受信タイムスロット12など送信タイムスロット11以外のタイミングにアンテナ50の電気長をlRに切り替えることを示している。(第3-4ページ」

p.「

」(第10ページ

前記0.及びp.より,引用文献Cには,次の事項(以下,「技術事項C」という。)が記載されていると認める。

「送信部,受信部,前記送信部と前記受信部とに接続されるデュプレクサ,並びに,前記デュプレクサに接続され,電気長を切り替える手段を有する送受信共用のアンテナとを備える無線機。」

7.引用文献Dについて
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献D(特開平11-136025号公報)には,「周波数切換型表面実装型アンテナおよびそれを用いたアンテナ装置およびそれを用いた通信機」(発明の名称)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

q.「【0012】
【発明の実施の形態】図1に,本発明の周波数切換型表面実装型アンテナおよびそれを用いたアンテナ装置の一実施例を示す。図1において,周波数切換型表面実装型アンテナ1は,誘電体からなり,一方主面と他方主面と4つの端面を有する直方体状の基体2と,基体2の一方主面のほぼ全面に形成されたグランド電極3と,基体2の主として他方主面に形成され,一端が他方主面上および部分的に1つの端面に回り込んで開放端を形成し,他端が1つの端面を介して一方主面に回り込んでグランド電極3に接続されたストリップ状の放射電極4と,放射電極4の開放端に第1のギャップ5を介して近接して,基体2の他方主面から1つの端面を介して一方主面にかけて形成された給電電極6と,放射電極4の部分的に1つの端面に回り込んで形成された開放端に第2のギャップ7を介して近接して,基体2の1つの端面から一方主面にかけて形成された制御電極8からなる。そして,制御電極8はスイッチ9を介して接地され,また,給電電極6は信号源10に接続されて,全体としてアンテナ装置11を形成している。
【0013】ここで,図2に,周波数切換型表面実装型アンテナ1を含むアンテナ装置11の等価回路を示し,図1と図2を使ってその動作を説明する。なお,図2において,図1と同一もしくは同等の部分には同じ記号を付し,その説明を省略する。
【0014】図2において,C1は給電電極6とグランド電極3の間で形成される静電容量を,C2は給電電極6と放射電極4の開放端との間で形成される静電容量を,C3は放射電極4の開放端とグランド電極3の間で形成される静電容量を,C4は放射電極4の開放端と制御電極8の間で形成される静電容量を表している。ここで,信号源10は静電容量C2を介して放射電極4の一端に接続され,放射電極4の他端は接地されている。静電容量C2の信号源10との接続部は,静電容量C1を介して接地されている。静電容量C2の放射電極4との接続部は,静電容量C3を介して接地されると共に,静電容量C4とスイッチ9を直列に介して接地されている。
【0015】このように構成されたアンテナ装置11において,信号源10から給電電極6に入力された信号は,第1のギャップ5の部分に形成される静電容量C2を介して放射電極4に入力される。放射電極4は,一端が開放,他端が短絡の長さがλ/4のマイクロストリップ線路共振器として,これに並列に加わる静電容量C3と共に共振する。そして,その共振の電力の一部が空間に放射されることによって周波数切換型表面実装型アンテナ1はアンテナとして機能する。
【0016】ここで,静電容量C4は,スイッチ9がオフの場合はどこにも接続されないが,スイッチ9がオンになると放射電極4の開放端とグランド電極3との間の静電容量として,静電容量C3に並列に接続されることになる。そのため,周波数切換型表面実装型アンテナ1の共振周波数は,スイッチ9がオンの時の方がオフの時に比べて静電容量C4の分だけ共振周波数が低下する。この結果,アンテナ装置11は,スイッチ9がオフの時に高い周波数帯域に対応し,スイッチ9がオンの時に低い周波数帯域に対応するアンテナとして機能することができる。このようにして,アンテナ装置11は1つで複数の周波数帯域に対応することができるようになる。また,1つの表面実装型アンテナを共振周波数を切り換えて使用することにより,複数の表面実装型アンテナを使用する必要がなくなり,表面実装型アンテナの実装面積を縮小し,アンテナ装置のコストダウンを図ることができる。
【0017】なお,周波数切り換え用のスイッチとしてはダイオードやトランジスタ,FETなどを用いることができる。
【0018】図3に,本発明の周波数切換型表面実装型アンテナおよびそれを用いたアンテナ装置の別の実施例を示す。図3において,図1と同一もしくは同等の部分には同じ記号を付し,その説明を省略する。
【0019】図3において,周波数切換型表面実装型アンテナ20は,基体2の他方主面から部分的に1つの端面に回り込んで形成された放射電極21の開放端の近傍に,それぞれ第2のギャップ22,23,24を介して近接して,基体2の1つの端面から一方主面にかけて形成された制御電極25,26,27を有する。制御電極25,26,27は,それぞれスイッチ28,29,30を介して接地されて,全体としてアンテナ装置31を形成している。
【0020】ここで,図4に,周波数切換型表面実装型アンテナ20を含むアンテナ装置31の等価回路を示す。なお,図4において,図2で説明した点については省略する。また,図3と同一もしくは同等の部分には同じ記号を付し,その説明を省略する。
【0021】図4において,C5,C6,C7は,放射電極21の開放端と制御電極25,26,27の間でそれぞれ形成される静電容量を表している。
【0022】このように構成されたアンテナ装置31においては,アンテナ装置11と同様の原理で,スイッチ28,29,30をオンにすることにより,オフの時に比べて共振周波数を低下させることができる。この場合,3つのスイッチのオン-オフの組み合わせによって共振周波数を8通りに切り換えることができ,アンテナ装置11よりもさらに幅広い周波数範囲に対応できるようになる。」(第3-4ページ)

r.「

」(第6ページ)

前記q及びr.より,引用文献Dには,次の事項(以下,「技術事項D」という。)が記載されていると認める。

「放電電極と接地電極との間にある複数の静電容量に対するスイッチをオン又はオフすることにより,共振周波数を切り替えることが可能なアンテナ装置。」

第6 当審の判断
1.理由1(新規事項)について
当審では,出願当初の明細書等には,3つ又は4つのアンテナを備えていることを前提に,「異なる通信モード」で「同時」に「動作」する態様しか記載がなく,一方,補正後の請求項1等には,「第1のアンテナ」と「第2のアンテナ」とが「異なるモード」で「同時」に「動作する」ことが,出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内ではない旨の拒絶の理由を通知している。
これに対し,請求人は,平成28年12月13日付けで提出された意見書において,「第1及び第2のアンテナが,異なるモードで同時に動作する」態様は,出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内である旨主張し,また,平成29年1月17日付けで提出された上申書において,出願当初の明細書の段落【0048】には,「2つのアンテナは同時に異なる帯域で動作可能であり」との記載があり,かつ,出願当初の図6及び図7Bには,それぞれ,3本及び4本のアンテナを備える例が開示されており,補正後の請求項1等には,あくまで,複数あるアンテナのうちの2つに着目して記載したものである旨釈明をしている。
確かに,補正後の請求項1ないし35に係る発明は,無線通信端末が備えるアンテナが「第1のアンテナ」と「第2のアンテナ」の2本のみとは限定されておらず,複数(3本以上)あるアンテナの2つに着目して記載したものといい得るものである。
そうすると,平成28年12月13日付けの手続補正による補正後の請求項1ないし35に係る発明は,出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内のものであるから,前記手続補正は,特許法第17条の2第3項に適合するものである。
よって,当該理由1は,解消した。

2.理由2(明確性)について
当審では,請求項1等に係る発明(特に,「第1及び第2のアンテナは,異なる通信モードで同時に動作する」との事項)が,技術的に異なる2つの発明を包含しているから,発明が明確でない旨の拒絶の理由を通知している。この理由に対する前記意見書及び前記上申書における請求人による主張により,請求項1等に係る発明の解釈が明らかとなったから,この拒絶の理由は解消した。
当審では,請求項15の記載「前記アンテナの動作周波数及び通信モードは,リソース及び性能が,予め設定された基準又はユーザの好み及び選択に基づいて,装置において最大限必要とされている場合に適応可能である」は,日本語として明確でない旨の拒絶の理由を通知している。これに対し,平成28年12月13日付けの手続補正により,請求項15の記載は,「前記アンテナの動作周波数及び通信モードは,予め設定された基準,又は,ユーザの好み及び選択に基づいて,装置のリソース及び性能が最適化されるように適応可能である」と補正されることにより明確となったから,この拒絶の理由は解消した。
当審では,請求項6に記載した事項が,引用する請求項1に記載の「通信モード」との関係が明確で無い旨の拒絶の理由を通知している。これに対し,前記手続補正により,請求項6には,「前記第1および第2の通信モードで使用される周波数帯域は,…」と,請求項1に記載した事項との関係を明確化する事項が付加され,請求項6に係る発明は明確となったから,この拒絶の理由は解消した。
当審では,請求項35に記載の「本体又は外部の効果を緩和する」が,日本語として意味が明確で無い旨の拒絶の理由を通知している。これに対し,前記手続補正により,請求項35の前記記載は,「人体又は外部からの効果を緩和する」と補正されることにより,請求項35に係る発明は明確となったから,この拒絶の理由は解消した。
よって,当該理由2は,解消した。

3.出願日の遡及及び理由3(新規性)について
理由3は,請求項1ないし35に係る発明が,いわゆる新規事項を含み,分割出願の要件を満たしていないため,出願日が遡及しないことを前提としたものであるが,前記理由1が解消することにより,本願は,分割出願の要件を満たすこととよって,出願日が遡及するものとなった。
そうすると,本願の出願日は,平成23年10月5日に遡及するから,当審拒絶理由通知の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2012-239187号公報)は,本願の遡及出願日の後の平成24年12月6日に公知となったものであり,特許法第29条第1項第3号に係る公知刊行物の要件を満たさないものとなった。
よって,当該理由3は,解消した。
なお,理由4(進歩性)において,引用文献1を引用する拒絶の理由についても同様である。

4.理由4(進歩性)について
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

引用発明の「W-CDMA」及び「GSM」はそれぞれ,本願発明1の「広帯域CDMA(WCDMA)」及び「GSM」に相当する。また,引用発明において,便宜的に,「通信システム」に含まれる「W-CDMA」を「第1の通信システム」,「GSM」を「第2の通信システム」と称することは任意である。
そうすると,引用発明において「第1の通信システム」及び「第2の通信システム」はそれぞれ,本願発明1の「第1の通信モード」及び「第2の通信モード」に相当する。
そして,引用発明は,「容量を制御して,…アンテナを,使用する通信システム…に対応した周波数帯域に適応させる」ものであるから,「アンテナ」が,「第1の通信システム」から「第2の通信システム」に変更するための容量を制御する手段を備えることは自明であり,当該容量を制御する手段は,本願の「チューン可能要素」に相当する。よって,引用発明と,本願発明1とは,「第1の通信モードを第2の通信モードに変更するチューン可能要素を有するアンテナ」を備える点において共通する。また,本願発明1の「1つ以上の固定キャパシタを切り替え」ることは,使用される「1つ以上の固定キャパシタ」の容量を変更(制御)することであるから,引用発明の「容量を制御」することとは,「容量を変更」することにおいて共通する。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

[一致点]
「 第1の通信モードを第2の通信モードに変更するチューン可能要素を有するアンテナと,
前記チューン可能要素は,前記第1の通信モードを前記第2の通信モードに変更するために容量を変更し,
前記第1の通信モード及び前記第2の通信モードは,
少なくともGSM,広帯域CDMA(WCDMA)を含む,無線通信装置。」

[相違点1]
本願発明1は,「第1のアンテナ」と「第2のアンテナ」を備え,各「アンテナ」が,「チューン可能要素」を有し,かつ,「第1及び第2のアンテナは,異なる通信モードで同時に動作する」ように構成されるのに対し,引用発明において,「アンテナ」は1つであり,よって,2つの「アンテナ」を前提とする構成を有さない点。

[相違点2]
本願発明1は,各「アンテナ」が,「複数の回路のうちの1つと選択的に動作」するのに対し,引用発明は,当該構成を有しない点。

イ 相違点についての判断
まず,[相違点1]について検討する。
[相違点1]に係る本願発明1の構成は,引用文献2(技術事項2)又は引用文献3(引用発明A)には記載されておらず,本願の優先日における技術常識でもない。
したがって,上記[相違点2]について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明に基づいて,引用文献2及び3に記載された技術事項又は発明を参酌して容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)本願発明2ないし35について
本願発明2ないし35も,上記[相違点1]に係る本願発明1の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明に基づいて,引用文献2及び3に記載された技術事項を参酌しても容易に発明できたものとは認められない。なお,当審拒絶理由通知において引用した引用文献4ないし10に記載した事項を考慮しても同様である。
よって,本願発明1ないし35は,当業者であっても,当審拒絶理由通知において引用した引用文献1ないし10に基づいて容易に発明することができたものではない。

したがって,当該理由4は,解消した。

5.小括
以上より,当審拒絶理由通知の拒絶の理由は,解消した。

第7 原査定についての判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明Aとを対比すると,次のことがいえる。

引用発明Aにおいて,「送信アンテナ」と「受信アンテナ」とは,「インピーダンス可変回路」により,「インピーダンス整合中心周波数」を変化させることはできるものの,「送信アンテナ」による送信と「受信アンテナ」による受信が,「異なる」「通信モード」(CDMA,GSM,等)において実行されることまでは引用文献Aには記載されておらず,また,そのことが,本願の優先日における技術常識であるともいえない。
そうすると,引用発明Aにおける「送信アンテナ」と「受信アンテナ」と,本願発明1における「第1のアンテナ」と「第2のアンテナ」とは,異なる2つのアンテナ(以下,「第1アンテナ」,「第2アンテナ」と称する。)である限りにおいて共通する。

また,引用発明Aにおける「インピーダンス可変回路」と,本願発明の「チューン可能要素」は,前記2つのアンテナの各アンテナのそれぞれが有し,アンテナをチューニングする要素(以下,「第1チューニング要素」,「第2チューニング要素」と称する。)である点において共通する。

引用発明Aの「携帯無線端末」は,「無線通信装置」といい得るものである。

したがって,本願発明1と引用発明Aとの間には,次の一致点,相違点があるといえる。

[一致点]
「 第1チューニング要素を有する第1アンテナと,
第2チューニング要素を有する第2アンテナと,
を含む,無線通信装置。」

[相違点1]
「第1アンテナ」及び「第2アンテナ」が,本願発明1は,「異なる」「通信モード」(CDMA,GSM等)で「同時に動作する」「第1のアンテナ」及び「第2のアンテナ」であり,よって,各「アンテナ」が有する「第1チューニング要素」及び「第2チューニング要素」が,「第1の通信モードを第2の通信モードに変更する」ものであるのに対し,引用発明Aは,「送信アンテナ」及び「受信アンテナ」であり,各アンテナが有する「インピーダンス可変回路」が,各アンテナの「インピーダンス整合中心周波数を変化させるため」のものであって,「通信モード」の概念が存在しない点。

[相違点2]
前記[相違点1]に関連して,各「チューニング要素」が,本願発明1においては,「1つ以上の固定キャパシタを切り替え」るものであるのに対し,引用発明Aは,「インピーダンス」を可変とするものである点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討するに,[相違点1]に係る本願発明1の構成は,引用文献B(技術事項B),引用文献C(技術事項C)又は引用文献D(技術事項D)には記載されておらず,本願の優先日における技術常識でもない。
したがって,上記[相違点2]について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明Aに基づいて,引用文献BないしDに記載された技術事項を参酌して容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2ないし35について
本願発明2ないし35も,上記[相違点1]に係る本願発明1の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明Aに基づいて,引用文献BないしDに記載された技術事項を参酌しても容易に発明できたものとは認められない。なお,原査定において引用した引用文献Eに記載した事項を考慮しても同様である。

よって,本願発明1ないし35は,当業者であっても,原査定における引用文献Aないし引用文献Eに基づいて容易に発明することができたものではない。
したがって,原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-13 
出願番号 特願2014-110589(P2014-110589)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01Q)
P 1 8・ 55- WY (H01Q)
P 1 8・ 121- WY (H01Q)
P 1 8・ 113- WY (H01Q)
最終処分 成立  
前審関与審査官 緒方 寿彦角田 慎治  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 林 毅
中野 浩昌
発明の名称 適応可能アンテナシステム  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 井関 守三  
代理人 福原 淑弘  
代理人 奥村 元宏  

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