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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
管理番号 1324644
審判番号 不服2015-5788  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-30 
確定日 2017-02-08 
事件の表示 特願2013-553764「薄膜により封止された有機発光ダイオード及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月30日国際公開,WO2012/113177,平成26年 4月10日国内公表,特表2014-509050〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,2011年4月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年2月25日,中国)を国際出願日とする出願であって,平成25年8月20日に国際出願日における明細書,特許請求の範囲及び図面の翻訳文が提出され,平成26年7月11日付けで拒絶理由が通知され,同年9月24日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年11月21日付けで拒絶査定がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成27年3月30日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当審において,平成28年3月8日付けで拒絶理由が通知され,同年6月7日に意見書及び手続補正書が提出された。


第2 本願の請求項1に係る発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は,平成28年6月7日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の翻訳文(特許法184条の6第2項の規定により,国際出願日における明細書,特許請求の範囲及び図面の翻訳文は,それぞれ願書に添付して提出した明細書,特許請求の範囲及び図面とみなされる。以下,国際出願日における明細書,特許請求の範囲及び図面の翻訳文を,それぞれ,単に「明細書」,「特許請求の範囲」及び「図面」という。)の請求項1ないし3によって特定されるとおりのものと認められるところ,請求項1の記載は,次のとおりである。

「基板を提供する工程と,
基板上に順次に透明電極層,有機発光材料層および陰極金属層を形成する工程と,
さらに陰極金属層上に,室温で,高い幾何学的密度(緻密度)を有し,かつ,前記透明電極層,前記有機発光材料層および前記陰極金属層表面を覆うような低いスパッタ電力と酸素含有プロセスガスのマグネトロンスパッタリングコーティングプロセスを採用して,厚さが50nm?500nmである五酸化二タンタルの単一層の薄膜を形成する工程とを含むことを特徴とする,薄膜により封止された有機発光ダイオードの製造方法。」(以下,当該発明を「本願発明」という。)


第3 当審において通知した拒絶理由について
当審において平成28年3月8日付けで通知された拒絶理由のうち本願発明に対応する部分について,拒絶理由通知書の記載を抜粋すると,次のとおりである。(なお,本願発明は,当審において通知された拒絶理由が対象とする平成27年3月30日提出の手続補正書による補正後の各請求項においては,請求項1に係る発明に概ね対応する。)

「理由1:この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
・・・(中略)・・・
理由3:この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

1 理由1(明確性要件違反)・・・(中略)・・・について
(1)『低いスパッタパワー』の明確性要件違反
請求項1には,『低いスパッタパワー・・・のマグネトロンスパッタリングコーティングプロセスを採用して』と記載されているが,・・・(中略)・・・
さらに,前記記載中の「低い」という表現では,たとえ明細書の記載及び技術常識等を参酌しても,当該表現が如何なる値を含み,如何なる値を含まないのか,その境界を明確に特定することができない。
したがって,請求項1に係る発明,及び当該請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項2,3に係る発明は,明確でない。
(2)『高い幾何学的密度及び光学密度』の明確性要件違反
請求項1には,『高い幾何学的密度及び光学密度を有し,・・・五酸化二タンタル薄膜』と記載されている。
・・・(中略)・・・
さらに,請求項1の前記記載中の「高い」という表現では,例え明細書の記載及び技術常識等を参酌しても,当該表現が如何なる値を含み,如何なる値を含まないのか,その境界を明確に特定することができない。
したがって,請求項1に係る発明,及び当該請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項2,3に係る発明は,明確でない。
・・・(中略)・・・
2 理由3(進歩性欠如)について
(1)引用例
引用文献1:特開2001-345174号公報
引用文献2:特開平5-234679号公報(原査定の拒絶の理由で「引用文献6」として引用された文献)
引用文献3:特開2007-305332号公報
引用文献4:国際公開第2009/134211号(日本語訳については,特表2011-523977号公報を参照。)
(2)請求項1について
・・・(中略)・・・
したがって,請求項1に係る発明は,引用文献1に記載された発明及び周知の技術に基づいて(少なくとも,引用文献1ないし引用文献4の適宜組み合わせによって),当業者が容易に発明をすることができたものである。 」(以下,当該抜粋中の「理由1(明確性要件違反)」に示した理由を「当審拒絶理由1」といい,当該抜粋中の「理由3(進歩性欠如)」に示した理由を「当審拒絶理由2」という。)


第4 当審拒絶理由1についての判断
当審拒絶理由1において明確でないと指摘された「低いスパッタパワー」及び「高い幾何学的密度」という記載は,平成28年6月7日提出の手続補正書によって,それぞれ「低いスパッタ電力」及び「高い幾何学的密度(緻密度)」という記載に補正されているところ,当該「低いスパッタ電力」及び「高い幾何学的密度(緻密度)」という記載を含む本願発明の発明特定事項は,
「陰極金属層上に,室温で,高い幾何学的密度(緻密度)を有し,かつ,前記透明電極層,前記有機発光材料層および前記陰極金属層表面を覆うような低いスパッタ電力と酸素含有プロセスガスのマグネトロンスパッタリングコーティングプロセスを採用して,厚さが50nm?500nmである五酸化二タンタルの単一層の薄膜を形成する工程」
である。
当該発明特定事項が指し示す内容は,その文言からは明確には特定し難いものの,前記手続補正書とともに平成28年6月7日に提出された意見書において,請求人が,
「・項目(1)「低いスパッタパワー」の明確性要件違反について
・・・(中略)・・・
また,前記記載中の「低い」という表現については,「高い幾何学的密度(緻密度)を有し,かつ,前記透明電極層,前記有機発光材料層および前記陰極金属層表面を覆うような低いスパッタ電力」と,作用的な表現で記載させて頂きました。審判官殿もご存じの通り,ターゲットに印加するスパッタ電力を具体的に数値で特定しても,装置の規模や仕様に依存してしまいます。そこで,上記の記載により,「低い」という状態(用語)を作用的な記載によって明確にさせて頂きました。
・項目(2)「高い幾何学的密度及び光学密度」の明確性要件違反について
高い幾何学的密度とは,この分野で用いることがある緻密度(明細書にも記載があります)或いは高充填密度のことです。」
と説明していることを参酌すると,本願発明の前記発明特定事項は,
「『陰極金属層上』に,『厚さが50nm?500nmである五酸化二タンタルの単一層の薄膜』を,『マグネトロンスパッタリングコーティングプロセス』により形成する工程であって,
(1)『室温』で行うこと,
(2)『酸素含有プロセスガス』を用いること,及び,
(3)『スパッタ電力』として『高い幾何学的密度(緻密度)を有し,かつ,前記透明電極層,前記有機発光材料層および前記陰極金属層表面を覆う』ような薄膜が形成される『低い』値を設定すること
を,前記マグネトロンスパッタリングコーティングプロセスの成膜条件としている工程」
を意味していると解するのが相当である。
そうすると,「低いスパッタ電力」及び「高い幾何学的密度(緻密度)」という記載については,「高い幾何学的密度(緻密度)」が不明確な概念であるのであれば,当該「高い幾何学的密度(緻密度)」を用いて作用的に表現された「低いスパッタ電力」についても不明確な概念ということになり,これらの概念を用いて特定される本願発明は,明確性要件に違反するというべきである。

そこで,「高い幾何学的密度(緻密度)」が明確な概念であるのか否かについて検討すると,請求項1を含め特許請求の範囲の記載からは,如何なる値の幾何学的密度(緻密度)が「高い幾何学的密度(緻密度)」に含まれ,如何なる値の幾何学的密度(緻密度)が「高い幾何学的密度(緻密度)」に含まれないのか,その境界を明確に特定することができない。

また,本願発明が属する技術分野において,「高い幾何学的密度(緻密度)」なる文言が如何なる値の幾何学的密度を指すのかが技術常識であったことを示す証拠は見当たらない。

さらに,本願明細書の発明の詳細な説明等の記載を参酌してみると,「高い幾何学的密度(緻密度)」に関しては,
「【0023】
本発明の実施例に提供された技術案は,有機発光ダイオードの陰極金属層上に,高い幾何学密度と光学密度を有し,かつ表面が平坦な五酸化二タンタル薄膜を形成して,当該ダイオード内部の有機材料を封止し,前記有機材料と水蒸気及び酸素ガスとの接触を隔絶するようにしたものであり,この技術案は,プロセスが簡単で,封止隔絶効果が優れ,使用寿命が長い有機発光ダイオードを得ることができる。」,
「【0039】
五酸化二タンタル薄膜は,高い幾何学的密度と光学密度を有し,かつ表面が平坦であり,有機材料と水蒸気及び酸素ガスとを隔絶する封止層として非常に適用する。五酸化二タンタル薄膜の厚さが50nm?500nmであるのが好ましい。」,
「【0044】
本実施例が提供する有機発光ダイオードは,陰極金属層上に高い幾何学的密度及び光学密度を有し,かつ表面が平坦な五酸化二タンタル薄膜が被覆されて,当該ダイオード内部の有機材料を封止し,有機材料と水蒸気及び酸素ガスとの接触を隔絶するようにしたものである。この有機発光ダイオードは,製造プロセスが簡単で,かつ良い封止隔絶効果を有し,有機発光ダイオードの使用寿命を効果的に向上できる。」,及び
「【0056】
本実施例が提供する有機発光ダイオードの製造方法では,陰極金属層上に,高い幾何学的密度及び光学密度を有し,かつ表面が平坦な五酸化二タンタル薄膜を形成して,当該ダイオード内部の有機材料を封止し,前記有機材料と水蒸気および酸素ガスとの接触を隔絶するようにでき,この方法は,プロセスが簡単で,優れた有機材料の封止隔絶効果を有しかつ使用寿命が長い有機発光ダイオードを得ることができる。」
との記載が存在するのみであって,「高い幾何学的密度(緻密度)」の定義は記載されていない。
前述した本願明細書の発明の詳細な説明の各記載から理解できるのは,「高い幾何学的密度(緻密度)」を有する五酸化二タンタル薄膜が,水蒸気及び酸素ガスに対する封止隔絶効果に優れたものであるといった程度の事項であって,どの程度の封止隔絶効果を有していれば「高い幾何学的密度(緻密度)」といえるのかは不明である。
その上,本願明細書の発明の詳細な説明には,どのような値のスパッタ電力のマグネトロンスパッタリングによって成膜することによって,どの程度の幾何学的密度の五酸化二タンタル薄膜が形成され,当該五酸化二タンタル薄膜によってどの程度の封止隔絶効果が得られるのかといったような具体的な実施例が記載されているわけでもないから,本願明細書の発明の詳細な説明の記載には,「高い幾何学的密度(緻密度)」という概念の外延を特定もしくは推測するための手がかりすらないというほかない。

以上によれば,請求項1に記載された「高い幾何学的密度(緻密度)」なる発明特定事項は,たとえ技術常識や本願明細書の記載を参酌したとしても,如何なるものが当該発明特定事項に含まれ,如何なるものが当該発明特定事項に含まれないのか,その境界が明確に特定できない概念であるといわざるを得ず,当該「高い幾何学的密度(緻密度)」を用いて作用的に表現される「低いスパッタ電力」についても不明確な概念であるといわざるを得ない。
したがって,これらの不明確な概念により特定される本願発明は,明確でない。
よって,本願は,特許請求の範囲の記載が,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。


第5 当審拒絶理由2についての判断
1 引用例
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載
当審拒絶理由2で引用された引用文献1は,本願の優先権主張の日(以下,「本願優先日」という。)より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献1には次の記載がある。(下線部は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【請求項14】陽極,EL層及び陰極からなるEL素子を有する自発光装置の作製方法であって,前記EL素子を覆う無機材料からなる膜をCVD法または蒸着法により成膜し,前記無機材料からなる膜を覆う有機材料からなる膜をインクジェット法により成膜することを特徴とする自発光装置の作製方法。」

(イ) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,陽極,陰極及びそれらの間にEL(Electro Luminescence)が得られる発光性有機材料(以下,有機EL材料という)を挟んだ構造でなるEL素子を絶縁体上に形成した自発光装置及びその自発光装置を表示部(表示ディスプレイまたは表示モニター)として有する電気器具の作製方法に関する。なお,上記自発光装置はOLED(Organic Light Emitting Diodes)ともいう。
【0002】
【従来の技術】近年,発光性有機材料のEL現象を利用した自発光素子としてEL素子を用いた表示装置(自発光装置)の開発が進んでいる。自発光装置は自発光型であるため,液晶表示装置のようなバックライトが不要であり,さらに視野角が広いことから電気器具の表示部として有望視されている。
【0003】なお,EL素子は,エレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence:電場を加えることで発生するルミネッセンス)が得られる有機化合物を含む層(以下,EL層と記す)と,陽極層と,陰極層とを有する。・・・(中略)・・・
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明はEL層,及びEL素子上にEL素子を覆って形成される有機材料(有機樹脂)からなる膜(以下,カバー層とよぶ)を同一の方法を用いて形成するというものである。なお,カバー層とは,陽極,EL層及び陰極からなるEL素子の陰極上に形成される有機材料からなるものであり,このカバー層を設けることでTFTまたは,EL素子の応力緩和に効果的である。さらに水分や酸素のEL層への進入を防ぐことができ,これによりEL層の劣化を防ぐことができる。さらに,カバー層の上に無機材料からなる膜(以下,バリア層とよぶ)を形成することにより,水分や酸素がカバー層,またはEL層へ進入するのを防ぐことができる。
・・・(中略)・・・
【0009】
【課題を解決するための手段】上記課題を達成するために用いるマルチチャンバーとは,EL層及び有機材料からなるカバー層を電界塗布法又は,インクジェット法で塗布形成するための塗布室と陰極を蒸着法で形成するための蒸着室と窒化珪素や酸化タンタルからなるバリア層を形成するためのスパッタリング室を有する成膜装置である。
・・・(中略)・・・
【0012】なお,本発明に於いては,EL素子の陰極上にカバー層を形成した後でバリア層を形成しても良いし,EL素子の陰極上にバリア層を形成した後でカバー層を形成する構造としても良い。」

(ウ) 「【0013】
【発明の実施の形態】ここで本発明の実施の形態について図1を用いて説明する。図1(A)に示すように,EL層,陰極,バリア層及びカバー層を連続的に同一のマルチチャンバーで形成することができる。
【0014】なお,バリア層とは水分や酸素のEL層への進入を防ぐために設ける無機材料で形成されるパッシベーション膜のことをいう。
【0015】まず,塗布室で電界塗布法又は,インクジェット方式を用いてEL層を形成する。次に蒸着室で陰極を蒸着法により形成させ,さらにこの陰極上にバリア層として窒化珪素,酸化タンタル,窒化アルミニウムもしくは炭素からなるダイヤモンドライクカーボン(DLC)といった無機材料からなる無機膜をスパッタリング法やプラズマCVD法を用いて形成する。最後に,バリア層の上にEL層を形成したときと同様に塗布室でインクジェット法によりカバー層を形成することで自発光装置の封止構造を完成することができる。
【0016】以上説明したように,EL層及びカバー層を形成するときに同じ方法を用いているために所望の位置のみに選択的に膜を形成することができ,同一チャンバー内で処理することが可能である。
【0017】本発明において形成する積層膜の断面構造を図1(B)に示す。図1(B)において101はガラス基板であり,102は電流制御用TFTである。さらに,103は,電流制御用TFTに電気的に接続された透明性の導電膜からなる画素電極である。画素電極103上には,EL層104を前に述べたような方法で形成する。さらに,EL層104上に,陰極105を蒸着法で形成する。
【0018】さらに,陰極105上に窒化珪素,酸化タンタルまたは,炭素からなるDLC膜といった無機膜からなるバリア層106を形成した後,有機樹脂膜からなるカバー層107をEL層と同様の塗布方法で形成する。
【0019】図1(C)には,EL層及びカバー層107を形成する際に電界で塗布液を制御して塗布する電界塗布法を示す。図1(C)において,110は,図1(B)に示す積層構造のうちバリア層まで形成した基板である。また,111は,カバー層を形成するための有機樹脂液が備えられている材料室である。材料室111には,超音波振動子112を設け,有機樹脂液が放出される材料室111の先端のノズル113には,電極114を設ける。
【0020】本発明の場合,有機樹脂液は材料室111で超音波振動子112に与えられる超音波振動により霧状になる。ここで霧状になった有機樹脂液は材料室111のノズル113に設けた電極114により帯電して帯電粒子となり,アクティブマトリクス基板110上の所望の位置に成膜される。
【0021】帯電粒子となった有機樹脂を,引き出し電極115がノズル113から引き出し,加速電極116が飛翔方向に加速し,さらに制御電極117が塗布位置を制御して基板110の所望の位置に塗布する。
【0022】これにより,図1(B)に示すような積層構造を同一のマルチチャンバー内で形成することができ自発光装置の封止構造が完成する。」

(エ) 「【0024】
【実施例】〔実施例1〕・・・(中略)・・・
【0068】なお,上述のようにEL層は熱に弱いので,陰極43はなるべく低温(好ましくは室温から120℃までの温度範囲)で成膜するのが望ましい。従って,プラズマCVD法,スパッタリング法が望ましい成膜方法といえる。又,ここまで完成したものを本明細書中では,アクティブマトリクス基板という。」

(オ) 「【0072】〔実施例2〕本発明の実施例における画素部とその周辺に設けられる駆動回路部のTFTを同時に作製する方法について図4?図6を用いて説明する。但し,説明を簡単にするために,駆動回路に関しては基本回路であるCMOS回路を図示することとする。
【0073】まず,図4(A)に示すように,ガラス基板300上に下地膜301を300nmの厚さに形成する。・・・(中略)・・・
【0074】次に下地膜301の上に50nmの厚さの非晶質珪素膜(図示せず))を公知の成膜法で形成する。・・・(中略)・・・
【0075】そして,公知の技術により非晶質珪素膜を結晶化し,結晶質珪素膜(多結晶シリコン膜若しくはポリシリコン膜ともいう)302を形成する。・・・(中略)・・・
【0078】次に,図4(B)に示すように,結晶質珪素膜302上に酸化珪素膜でなる保護膜303を130nmの厚さに形成する。・・・(中略)・・・
【0079】そして,その上にレジストマスク304a,304bを形成し,保護膜303を介してn型を付与する不純物元素(以下,n型不純物元素という)を添加する。・・・(中略)・・・
【0081】次に,図4(C)に示すように,保護膜303およびレジスト304a,304bを除去し,添加した15族に属する元素の活性化を行う。・・・(中略)・・・
【0084】次に,図4(D)に示すように,結晶質珪素膜の不要な部分を除去して,島状の半導体膜(以下,活性層という)306?309を形成する。
【0085】次に,図4(E)に示すように,活性層306?309を覆ってゲート絶縁膜310を形成する。・・・(中略)・・・
【0086】次に,200?400nm厚の導電膜を形成し,パターニングしてゲート電極311?315を形成する。・・・(中略)・・・
【0091】次に,図5(A)に示すように,ゲート電極311?315をマスクとして自己整合的にn型不純物元素(本実施例ではリン)を添加する。・・・(中略)・・・
【0092】次に,図5(B)に示すように,ゲート電極等を覆う形でレジストマスク324a?324dを形成し,n型不純物元素(本実施例ではリン)を添加して高濃度にリンを含む不純物領域325?329を形成する。・・・(中略)・・・
【0094】次に,図5(C)に示すように,レジストマスク324a?324dを除去し,新たにレジストマスク332を形成する。そして,p型不純物元素(本実施例ではボロン)を添加し,高濃度にボロンを含む不純物領域333?336を形成する。・・・(中略)・・・
【0096】次に,レジストマスク332を除去した後,それぞれの濃度で添加されたn型またはp型不純物元素を活性化する。・・・(中略)・・・
【0098】次に,活性化工程が終了したら図5(D)に示すように300nm厚のゲート配線337を形成する。・・・(中略)・・・
【0100】次に,図6(A)に示すように,第1層間絶縁膜338を形成する。・・・(中略)・・・
【0101】さらに,3?100%の水素を含む雰囲気中で,300?450℃で1?12時間の熱処理を行い,水素化処理をする。・・・(中略)・・・
【0103】次に,第1層間絶縁膜338及びゲート絶縁膜310に対してコンタクトホールを形成し,ソース配線339?342と,ドレイン配線343?345を形成する。・・・(中略)・・・
【0104】次に,50?500nm(代表的には200?300nm)の厚さで第1パッシベーション膜346を形成する。・・・(中略)・・・
【0106】次に,図6(B)に示すように有機樹脂からなる第2層間絶縁膜347を形成する。・・・(中略)・・・
【0107】次に,第2層間絶縁膜347及び第1パッシベーション膜346に対してコンタクトホールを形成し,ドレイン配線345と電気的に接続する画素電極348を形成する。本実施例では酸化インジウム・スズ(ITO)膜を110nmの厚さに形成し,パターニングを行って画素電極とする。また,酸化インジウムに2?20%の酸化亜鉛(ZnO)を混合した化合物や,酸化亜鉛と酸化ガリウムからなる化合物を透明電極として用いても良い。この画素電極がEL素子の陽極となる。
【0108】次に,図6(C)に示すように,樹脂材料からなるバンク349を形成する。バンク349は合計で1?2μmの膜厚のアクリル樹脂膜またはポリイミド膜といった膜をパターニングして形成すれば良い。このバンク349は図6に示したように,画素と画素との間にストライプ状に形成する。本実施例ではソース配線341に沿って形成するがゲート配線337に沿って形成しても良い。
【0109】次に,EL層350を,図1(C)で説明した電界塗布法により形成する。なお,ここでは一画素しか図示していないが,実施例1で説明したようにR(赤),G(緑),B(青)の各色に対応したEL層をそれぞれ形成する。
・・・(中略)・・・
【0114】EL層350としては公知の材料を用いることができる。公知の材料としては,駆動電圧を考慮すると有機材料を用いるのが好ましい。なお,本実施例ではEL層350は,上記EL材料から形成される,いわゆる発光層のみの単層構造とするが,必要に応じて電子注入層,電子輸送層,正孔輸送層,正孔注入層,電子阻止層もしくは正孔素子層を設けても良い。また,本実施例ではEL素子の陰極351としてMgAg電極を用いた例を示すが,公知の他の材料であっても良い。
・・・(中略)・・・
【0117】EL層350を形成した後,陰極(MgAg電極)351を真空蒸着法により形成する。なお,EL層350の膜厚は80?200nm(典型的には100?120nm),陰極351の厚さは180?300nm(典型的には200?250nm)とすれば良い。
【0118】さらに,陰極351上には,保護電極352を設ける。保護電極352としてはアルミニウムを主成分とする導電膜を用いると良い。保護電極352は,マスクを用いて真空蒸着法で形成すると良い。なお,基板上に保護電極まで形成した状態を本明細書中では,アクティブマトリクス基板という。
【0119】保護電極352まで完成したアクティブマトリクス基板上には,さらに外気に曝されないようにして,バリア層353を形成する。本実施例においては,バリア層353を形成する材料として酸化タンタルを用いるが,窒化珪素,窒化アルミニウムもしくは炭素膜,具体的にはDLC膜といった無機材料を用いても良い。また,本実施例においてバリア層353は,スパッタリング法を用いて形成するが,プラズマCVD法といった室温で成膜できる方法を用いることもできる。
【0120】バリア層353を形成したら,バリア層353の上に有機樹脂からなるカバー層354を形成する。なお,有機樹脂を溶媒に溶解したり,有機樹脂自体の粘度を適度に調節して有機樹脂液を作製した後,これを材料室に備えて電界塗布法により塗布し,カバー層354を形成する。このとき有機樹脂液の粘性は,1×10^(-3)?3×10^(-2)Pa・sであることが好ましい。
【0121】また,この時カバー層を形成する有機樹脂液の内部に酸化バリウムといった吸湿剤や酸化防止剤を加えるとEL素子の劣化原因である水分や酸素の進入を防ぐのに効果的である。」

(カ) 「【0162】〔実施例4〕本実施例では本発明をパッシブ型(単純マトリクス型)の自発光装置に用いた場合について説明する。・・・(中略)・・・
【0177】保護電極1306を形成した後で,無機材料からなるバリア層1307を形成する。ここでは,窒化珪素,酸化タンタル,窒化アルミニウム,炭素(具体的にはDLC膜)といった無機材料を用いると良く,プラズマCVD法,スパッタリング法または蒸着法により形成することができるが,本実施例では,窒化珪素膜をスパッタリング法により形成する。なお,このときバリア層1307の膜厚は,10nm?100nmが好ましい。」

(キ) 「【0210】
【発明の効果】本発明を実施することで,EL層及びカバー層を同一の塗布方法で形成することができる。これにより,大気解放することなく効率的にEL層,陰極,バリア層及びカバー層を同一のマルチチャンバーで連続的に形成することが可能である。また,バリア層及びカバー層を形成させることでEL層への水分や酸素の進入を防ぎ,EL層の劣化対策に効果的である。また,バリア層及びカバー層を形成することで封止構造が完成するので,通常の封止構造に比べると小型化,軽量化が可能となる。」

(ク) 「【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の薄膜形成方法を示す図。
・・・(中略)・・・
【図4】 自発光装置の作製工程を示す図。
【図5】 自発光装置の作製工程を示す図。
【図6】 自発光装置の作製工程を示す図。
・・・(中略)・・・
【図1】

・・・(中略)・・・
【図4】

【図5】

【図6】



イ 引用文献1に記載された発明
前記ア(オ)の【0114】に記載された「有機材料」である「EL材料」とは,前記ア(イ)の【0001】に記載された「発光性有機材料(以下,有機EL材料という)」のことであることが明らかである。
また,前記ア(ク)の図6(B)及び図6(C)から,画素電極348が第2層間絶縁膜347上に形成され,EL層350が画素電極348上に形成され,陰極351がEL層350上に形成され,バリア層353が保護電極352上に形成されていることを看取できる。
そして,前記ア(エ)の【0068】の「上述のようにEL層は熱に弱いので,陰極43はなるべく低温(好ましくは室温から120℃までの温度範囲)で成膜するのが望ましい。従って,プラズマCVD法,スパッタリング法が望ましい成膜方法といえる。」という記載,及び前記ア(オ)の【0119】の「また,本実施例においてバリア層353は,スパッタリング法を用いて形成するが,プラズマCVD法といった室温で成膜できる方法を用いることもできる。」という実施例2に関する記載から,当該実施例2に関する記載中の「スパッタリング法」によるバリア層353の形成を室温で行う態様の実施例2を把握できる。
したがって,前記ア(ア)ないし(ク)の記載から,引用文献1に,前記室温のスパッタリング法でバリア層353を形成する実施例2に対応するOLEDの作製方法として,次の発明が記載されていると認められる。

「ガラス基板300上に,下地膜301,島状の半導体膜である活性層306?309,ゲート絶縁膜310,ゲート電極311?315,前記活性層306?309中の高濃度にリンを含む不純物領域325?329及び高濃度にボロンを含む不純物領域333?336,ゲート配線337,第1層間絶縁膜338,ソース配線339?342,ドレイン配線343?345,第1パッシベーション膜346及び第2層間絶縁膜347を順次形成する工程と,
前記第2層間絶縁膜347上にITO膜を形成し,当該ITO膜にパターニングを行って,前記ドレイン配線345と電気的に接続する透明電極である画素電極348を形成する工程と,
前記画素電極348上に,電界塗布法により,発光性有機材料からなる発光層のみの単層構造のEL層350を形成する工程と,
前記EL層350上に,真空蒸着法により,MgAg電極である陰極351を形成する工程と,
前記陰極351上に,真空蒸着法により,保護電極352を形成する工程と,
前記保護電極352上に,室温でのスパッタリング法により,水分や酸素の前記EL層350への進入を防ぐための,酸化タンタルからなるバリア層353を形成する工程と,
前記バリア層353上に,電界塗布法により,有機樹脂からなるカバー層354を形成する工程と,
を有するOLEDの作製方法。」(以下,当該発明を「引用発明」という。)

(2)周知の技術的事項
ア 引用文献2の記載
当審拒絶理由2で引用された引用文献2は,本願優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献2には次の記載がある。(下線部は,後述する周知技術の認定に特に関係する箇所を示す。)

「【0012】
【実施例】以下添付図面を参照し実施例により本発明を詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施例を示す交流薄膜EL素子の構成図である。ガラス基板1上に錫添加酸化インジウム(In_(2)O_(3):Sn)の透明電極2(膜厚200nm),さらにその上にTa_(2)O_(5)の第1誘電体層3(膜厚200nm)が形成されている。Ta_(2)O_(5)薄膜の製作は高周波マグネトロンスパッタリング法を用い,Ta_(2)O_(5)焼結ターゲットを酸素とアルゴンの混合ガスプラズマでスパッタリングした。成膜時の基板温度は200℃とした。第1誘電体層3の上に発光層4(膜厚500nm)を電子ビーム蒸着法で形成する。蒸着源としては,硫化亜鉛(ZnS)粉末に発光中心として2mol%の濃度でフッ化テルビウム(TbF_(3))粉末を混合,成型したペレットを用い成膜時の基板温度は180℃とした。発光層成膜後400℃,1時間の熱処理を行った。発光層4の上には第2誘電体層5(膜厚50nm)を成膜する。製作方法は第1誘電体層3と同様である。第2誘電体層5の上部にアルミニウムを抵抗加熱法で蒸着し(膜厚200nm)背面電極6とする。EL素子はシリカゲルと共にプラスチック容器に封入する。透明電極2と背面電極6の間に交流または両極性パルス電圧を印加して素子を駆動する。」

イ 引用文献3の記載
当審拒絶理由2で引用された引用文献3は,本願優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献3には次の記載がある。(下線部は,後述する周知技術の認定に特に関係する箇所を示す。)

(ア) 「【0029】
次に,有機EL素子10を覆う保護膜15について,以下に説明する。
【0030】
本発明において,保護膜15は,スパッタリング法により成膜されるが,スパッタリング法とは,以下の過程で薄膜を形成する成膜法である。
【0031】
先ず,スパッタ装置内にAr,He,N_(2),Xe,Kr等の不活性なスパッタガスを導入し,ターゲットに百V?数kVの電圧を印加して,グロー放電を起こさせ,スパッタガスによるプラズマを発生させる。このプラズマ内の高エネルギーをもった電子,イオンや中性粒子がターゲット表面に衝突して,運動量の交換によりターゲット表面を構成している原子や分子が,外部に放出される。この現象をスパッタと呼び,スパッタにより放出されたターゲット材料の表面原子や分子を,有機EL素子が形成された基板上に堆積させて,外気と遮断する保護膜として,これを有機EL素子上に形成する。
【0032】
有機EL素子10を覆う保護膜15としては,シリコン系の窒化膜や,酸化膜等であり,保護膜として,これらを有機EL素子上に成膜するには,前記ターゲット材料として,シリコンを用い,シリコンのターゲットに,窒素ガスや酸素ガス等の反応性ガスを導入して,例えば,DC放電スパッタによって窒化膜や,窒化酸化膜,酸化膜等を成膜する。
【0033】
本発明のスパッタ装置においては,ターゲットから発生するプラズマの発光強度を,センサにより,リアルタイムでモニタして,これにより,反応性ガスの導入量を制御して,スパッタ中のプラズマの発光強度が所定の値となるように,制御しつつ行うものである。
【0034】
本発明のスパッタリング法に用いられるスパッタ装置としては,シリコンのターゲットに対向して基板を配置して,ターゲットのスパッタを行う近傍にマグネットを配置して磁界を印加し,ターゲット表面のイオンや中性粒子の衝突を増加させて,成膜速度を大きくしたマグネトロン方式と,一対のシリコンターゲット間の側方に基板を配置し,ターゲット面とほぼ垂直方向に磁界を印加して,発生磁界に対して基板を,ほぼ平行に,離してセットする対向ターゲット方式がある。
【0035】
従来のマグネトロン方式は,基板がターゲットと対向しているため成膜速度の増加が容易であるが,発生したプラズマによる有機EL素子のダメージは比較的大きい。また,対向ターゲット方式は,発生したプラズマはターゲット間に拘束されるため,有機EL素子へのダメージは,低減されるものの,基板がターゲットの側方(側面側)にあるため成膜速度が比較的低いという特徴がある。本発明のスパッタリング法は,上述したどちらの方式にも適用可能である。
【0036】
図2は,本発明の第一の実施の形態である,マグネトロン方式によるマグネトロンスパッタ装置の模式図である。
【0037】
マグネトロンスパッタ装置100は,真空槽20,排気口21,ターゲット30,カソード31,マグネット32,成膜を行う基板11,DC電源50などからなる。
【0038】
真空槽20は,外気と遮断された減圧空間を提供する槽で,排気口21に接続された図示しない真空ポンプにより槽内が減圧に維持される。
【0039】
ターゲット30は,有機EL素子の保護膜を形成する場合,シリコン材料から構成されるターゲットで,有機EL素子が形成された基板11のサイズよりも大きい。
【0040】
スパッタガス供給ボード33は,Ar等のスパッタガスの,真空槽20への導入口,反応性ガス供給ポート35は,窒素,酸素等の反応性ガスの真空槽20への導入口で基板11の近傍に配置される。
【0041】
ターゲット30は,カソード31と接続されており,DC電源50からカソード31を介して電圧が印加されると,所定のガス圧の環境下において,ターゲット30の近傍にプラズマが発生してスパッタリングが行われる。
【0042】
40は,プラズマエミッションモニター(PEM)であり,プラズマエミッションモニターは,センサ41を介してプラズマの発光スペクトルをリアルタイムでモニタし,取り込んで,これにより,スパッタ中のプラズマの発光強度が所定の値となるように,プラズマエミッションモニター中の,コントロールユニットにより,マスフローコントローラを制御して,反応性ガス導入流量を制御バルブ36によって調整する。
【0043】
プラズマエミッションモニターには,例えば,アーステック製,スピードフロTMスパッタリング反応ガスコントローラ等を用いることができる。
【0044】
本発明においては,反応ガスによるプラズマの発光状態に合わせて,成膜を行うことで,成膜速度の劣化なく,高品質のガスバリア膜(保護膜)を,有機EL素子のダメージを低減させて,成膜することが可能である。」

(イ) 「【0053】
《好ましい実施の形態》
先ず,有機EL素子を以下の様に作製した。
【0054】
有機EL素子の一例として,陽極/正孔輸送層/発光層/陰極からなる有機EL素子を作製した。
・・・(中略)・・・
【0058】
作製したボトムエミッションの有機EL素子の基板を真空環境を維持したまま,スパッタリングを行う前記図2で示されるスパッタ装置に移した。
【0059】
ターゲットとしては,円筒形状のシリコン材料のターゲット(8インチ径,厚み20mm)を用いて,この上端と,有機EL素子の基板との距離を7cmとした。
放電条件は,以下のように設定した。即ち,放電電圧550Vのパルス(14.3kHz,On-time 50μsec,Off-time 20μsec),放電電力3W/cm^(2)を用い,スパッタガスとしてArを流量50sccm,N_(2)を流量30sccmの条件で,ガス圧力0.45Paで,センサ41を介してプラズマの発光スペクトルをファイバによりプラズマエミッションモニターにリアルタイムで取り込んで,プラズマエミッションモニターのマスフローコントローラを制御して,反応性ガス流量を制御しつつ,樹脂基板上に,窒化珪素膜を成膜した。成膜速度を,水晶振動子によりモニターすると40nm/minであった。
【0060】
この条件で有機EL素子上に500nmの厚さのバリア膜を形成してサンプル1を作製した。
【0061】
また,別に,ターゲットへの印加電力を4.0W/cm^(2),3.0W/cm^(2),0.2W/cm^(2),0.1W/cm^(2),0.09W/cm^(2),とした以外,同様の条件で,同じく前記で作製した有機EL素子上に500nmの厚さのバリア膜を形成する試験を行った。
【0062】
印加電力0.09W/cm^(2)ではプラズマが弱く,実質的に膜形成が行えなかったが,4.0W/cm^(2),3.0W/cm^(2),0.2W/cm^(2),0.1W/cm^(2)では,それぞれサンプル1同様に,成膜時間を変えることで,500nm厚のバリア膜(窒化珪素膜)を形成することができた。それぞれサンプル2(4.0W/cm^(2)),3(3.0W/cm^(2)),4(0.2W/cm^(2)),5(0.1W/cm^(2))とした。
・・・(中略)・・・
【0065】
本発明に係わる,プラズマエミッションモニターによる制御を行ったマグネトロンスパッタ装置によって,保護膜を形成した,サンプル1,3,4,5は,量子収率が高く,良好な発光効率を示すことが示されたほか,プラズマエミッションモニタリング制御によりガス流量を制御しつつ,効率的な窒化珪素膜形成を行える本発明のスパッタリング法においても,ターゲットへの印加電力が,3.0W/cm^(2),を超えると,高エネルギーのプラズマにより,有機EL素子が,ダメージを被ることで,発光の量子効率が明らかに低下するのが認められる。
【0066】
従って,本発明のプラズマエミッションモニタリング制御を用いた有機EL素子の保護膜形成の好ましい態様においては,プラズマのエネルギー強度が余り強くならないよう,ターゲットへの印加電力を,0.1W/cm^(2)?3.0W/cm^(2)の範囲に調整すべきである。」

ウ 引用文献2及び引用文献3の記載から把握される周知の技術的事項
前記ア及びイの記載からみて,
「酸素含有プロセスガスを用いたマグネトロンスパッタリング法により,無機酸化物の薄膜を形成する技術」
が,本願優先日前に周知であったと認められる(以下,当該技術を「周知技術」という。)。

2 対比
(1) 引用発明の「透明電極である画素電極348」,「発光性有機材料からなる発光層のみの単層構造のEL層350」,「MgAg電極である陰極351」及び「OLEDの作製方法」は,本願発明の「透明電極層」,「有機発光材料層」,「陰極金属層」及び「有機発光ダイオードの製造方法」に,それぞれ相当する。

(2) 引用発明では,「ガラス基板300上に,下地膜301,島状の半導体膜である活性層306?309,ゲート絶縁膜310,ゲート電極311?315,前記活性層306?309中の高濃度にリンを含む不純物領域325?329及び高濃度にボロンを含む不純物領域333?336,ゲート配線337,第1層間絶縁膜338,ソース配線339?342,ドレイン配線343?345,第1パッシベーション膜346及び第2層間絶縁膜347を順次形成する工程」によって,ガラス基板300上にTFTを形成しているところ,引用発明の当該工程を,「TFTが形成されたガラス基板300」(以下,便宜上「TFT基板」という。)を提供する工程ということができ,引用発明の当該工程が提供する「TFT基板」が,本願発明の「基板」に相当する。
したがって,引用発明は,「基板を提供する工程」を含むという本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(3) 引用発明では,「TFT基板」の第2層間絶縁膜347上にITO膜を形成し,当該ITO膜にパターニングを行って,前記ドレイン配線345と電気的に接続する透明電極である画素電極348を形成する工程と,前記画素電極348上に,電界塗布法により,発光性有機材料からなる発光層のみの単層構造のEL層350を形成する工程と,前記EL層350上に,真空蒸着法により,MgAg電極である陰極351を形成する工程とを有しているところ,これらの工程では,「TFT基板」(本願発明の「基板」に相当する。以下,「2 対比」の欄において,引用発明の構成に付したカッコ内の文言は,これに相当する本願発明の発明特定事項を表す。)に,「透明電極である画素電極348」(透明電極層),「発光性有機材料からなる発光層のみの単層構造のEL層350」(有機発光材料層)及び「MgAg電極である陰極351」(陰極金属層)を順次形成している。
したがって,引用発明は,「基板上に順次に透明電極層,有機発光材料層および陰極金属層を形成する工程」を含むという本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(4)ア 「五酸化二タンタル」とは酸化タンタルの一つであるから,引用発明の「バリア層353」の材料である「酸化タンタル」と,本願発明の「単一層の薄膜」の材料である「五酸化二タンタル」は,「酸化タンタル」である点で共通する。
また,引用発明の「酸化タンタルからなるバリア層353」は,複数の層から構成されたものではなく,一つの層であるから,「単一層の薄膜」といえる。
さらに,引用発明の「バリア層353」は,保護電極352上に形成されるところ,当該保護電極352は,「陰極351」(陰極金属層)上に形成されるのだから,「バリア層353」は,「MgAg電極である陰極351」(陰極金属層)上に保護電極352を介して形成されるものといえる。
したがって,引用発明と本願発明は,「陰極金属層上に,酸化タンタルの単一層の薄膜を形成する」工程を有する点で共通する。

イ 引用発明の「スパッタリング法」と,本願発明の「マグネトロンスパッタリングコーティングプロセス」は,「スパッタリングコーティングプロセス」である点で共通し,両者はともに室温で行われている。
また,引用発明の「バリア層353」は,水分や酸素のEL層350への進入を防ぐためのものであるから,「画素電極348」,「EL層350」及び「陰極351」表面を覆うことが自明であり(なお,この点は,引用文献1の図1(B)からも看取できることでもある。),当該「バリア層353」を形成する引用発明の「スパッタリング法」における「スパッタ電力」は,「『画素電極348』(透明電極層),『EL層350』(有機発光材料層)及び『陰極351』(陰極金属層)表面を覆うようなスパッタ電力」といえる。
したがって,引用発明の「酸化タンタルからなるバリア層353」を形成する工程で用いる「スパッタリング法」と,本願発明の「五酸化二タンタルの単一層の薄膜」を形成する工程で用いる「マグネトロンスパッタリングコーティングプロセス」は,「室温で,透明電極層,有機発光材料層および陰極金属層表面を覆うようなスパッタ電力のスパッタリングコーティングプロセス」である点で共通する。

ウ 前記ア及びイに照らせば,引用発明の「保護電極352上に,室温でのスパッタリング法により,水分や酸素のEL層350への進入を防ぐための,酸化タンタルからなるバリア層353を形成する工程」と,本願発明の「陰極金属層上に,室温で,高い幾何学的密度(緻密度)を有し,かつ,前記透明電極層,前記有機発光材料層および前記陰極金属層表面を覆うような低いスパッタ電力と酸素含有プロセスガスのマグネトロンスパッタリングコーティングプロセスを採用して,厚さが50nm?500nmである五酸化二タンタルの単一層の薄膜を形成する工程」は,「陰極金属層上に,室温で,透明電極層,有機発光材料層および陰極金属層表面を覆うようなスパッタ電力のスパッタリングコーティングプロセスを採用して,酸化タンタルの単一層の薄膜を形成する工程」である点で共通する。

(5) 引用発明により作製された「OLED」(有機発光ダイオード)は,「バリア層353」により,水分や酸素のEL層350への進入が防がれるのだから,「バリア層353」(薄膜)により封止されたものといえる。
したがって,引用発明と本願発明は,「薄膜により封止された有機発光ダイオードの製造方法」である点で一致する。

(6) 前記(1)ないし(5)によれば,本願発明と引用発明は,
「基板を提供する工程と,
基板上に順次に透明電極層,有機発光材料層および陰極金属層を形成する工程と,
さらに陰極金属層上に,室温で,前記透明電極層,前記有機発光材料層および前記陰極金属層表面を覆うようなスパッタ電力のスパッタリングコーティングプロセスを採用して,酸化タンタルの単一層の薄膜を形成する工程とを含む,薄膜により封止された有機発光ダイオードの製造方法。」
である点で一致し,次の点で一応相違する。

相違点1:
本願発明では,「単一層の薄膜」を形成するスパッタリングコーティングプロセスとして,「高い幾何学的密度(緻密度)を有するような低いスパッタ電力と酸素含有プロセスガスのマグネトロンスパッタリングコーティングプロセス」を採用しているのに対して,
引用発明では,「バリア層353」を形成する「スパッタリング法」が,このような成膜条件の「マグネトロンスパッタリングコーティングプロセス」であることは特定されていない点。

相違点2:
本願発明では,「単一層の薄膜」の材料である酸化タンタルが,「五酸化二タンタル」であるのに対して,
引用発明では,「バリア層353」の材料である酸化タンタルが,「五酸化二タンタル」であるのか否かは定かでない点。

相違点3:
本願発明では,「単一層の薄膜」の厚さが50nm?500nmであるのに対して,
引用発明では,「バリア層353」の厚さは定かでない点。

3 容易想到性の判断
(1)相違点1について
引用発明において,「バリア層353」を形成する「スパッタリング法」として,どのような方式のスパッタリング法を用いるのかは,成膜速度やEL層等へのダメージ等を考慮して,当業者が適宜選択すれば足りる設計上の事項にすぎないところ,前記1(2)ウで認定したように,酸素含有プロセスガスを用いたマグネトロンスパッタリング法により,無機酸化物の薄膜を形成する技術は周知の技術であったのだから,引用発明において,「酸素含有プロセスガスを用いたマグネトロンスパッタリング法」によって,「酸化タンタルからなるバリア層353」を形成することは,当業者が適宜なし得たことである。
しかるに,前記「第4 当審拒絶理由1についての判断」の欄で説示したように,「高い幾何学的密度(緻密度)」なる発明特定事項は,如何なるものが当該発明特定事項に含まれ,如何なるものが当該発明特定事項に含まれないのか,その境界が明確に特定できない概念であるところ,前述した構成の変更を行った引用発明によって製造される「バリア層353」が,本願発明と同様に「水分や酸素の進入を防ぐため」の構成である以上,当該「バリア層353」は「高い幾何学的密度(緻密度)」を有しているというほかない。
そうすると,前述した構成の変更を行った引用発明において,「バリア層353」を形成する「酸素含有プロセスガスを用いたマグネトロンスパッタリング法」のスパッタ電力は,「高い幾何学的密度(緻密度)を有するような低いスパッタ電力」といえる。
以上のとおりであるから,引用発明において,「酸化タンタルからなるバリア層353」を形成するスパッタリング法として,「高い幾何学的密度(緻密度)を有するような低いスパッタ電力」の「酸素含有プロセスガスを用いたマグネトロンスパッタリング法」を用いること,すなわち,引用発明を,相違点1に係る本願発明の発明特定事項を具備したものとすることは,周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
ガスバリア層に用いる「酸化タンタル」としては,「五酸化二タンタル」が一般的な材料であるから(例えば,特開2006-253106号公報(請求項15,【0086】等),国際公開第2007/010736号([0023],[0024],[0056],[0057]等),特開2010-73548号公報(【0042】等)を参照。),たとえ,引用文献1に,「バリア層353」の材料である「酸化タンタル」が「五酸化二タンタル」であることが明記されていなくとも,当業者は,引用文献1に記載された「酸化タンタル」を「五酸化二タンタル」のこととして理解するものと認められる。
したがって,相違点2は実質的な相違点ではない。
また,仮に,当業者が,引用文献1に記載された「酸化タンタル」を「五酸化二タンタル」のこととして理解するのが当然とまでいえないとしても,少なくとも,引用発明において,「バリア層353」の材料として周知の「五酸化二タンタル」を用いること(すなわち,引用発明を,相違点2に係る本願発明の発明特定事項を具備したものとすること)は,当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
ア 引用文献1には,引用発明の「ガスバリア層353」の膜厚については明記されていないものの,実施例4の「窒化珪素」からなる「バリア層1307」の膜厚については,【0177】に「10nm?100nmが好ましい」と記載されている。

イ また,引用文献3の【0054】ないし【0062】には,有機EL素子上に,500nmの厚さのバリア膜を形成した実施例が,記載されている。

ウ さらに,例えば,特開2004-146244号(【0036】,【0037】,【0039】等を参照。)や特開2005-251769号公報(【0035】,【0036】,【0038】等を参照。)には,有機EL素子を封止するガスバリア層の厚さが,「10nm以上,500nm以下であるのが好ましい」ことが記載され,特開2006-163241号公報(【0043】ないし【0045】等を参照。)には,バリア層の厚さが,「20nmから600nmの範囲内であることが好ましく,より好ましくは100nm?300nmの範囲内である」ことが記載されている。

エ 前記アないしウによれば,相違点3に係る本願発明の「50nm?500nm」という範囲内の値が,OLEDにおけるガスバリア層の膜厚として好適であることは,本願優先日前に周知であったと認められる。

オ 引用発明において,「バリア層353」の膜厚をどのような値にするのかは,得られる封止性能や成膜コスト等を総合的に勘案して,当業者が適宜決定すれば足りる設計上の事項にすぎないところ,前記エで認定したとおり,相違点3に係る本願発明の「50nm?500nm」という範囲内の値が,OLEDにおけるガスバリア層の膜厚として好適であることは,本願優先日前に周知であったのだから,引用発明において,「バリア層353」の膜厚を,「50nm?500nm」という範囲内の値とすること,すなわち,引用発明を,相違点3に係る本願発明の発明特定事項を具備したものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(4)効果について
本願発明が有する効果は,引用文献1の記載及び周知技術に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

4 小括
以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6 むすび
本願は,特許請求の範囲の記載が,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
また,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願は,同法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-07 
結審通知日 2016-09-13 
審決日 2016-09-26 
出願番号 特願2013-553764(P2013-553764)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H05B)
P 1 8・ 121- WZ (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 博一  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 清水 康司
多田 達也
発明の名称 薄膜により封止された有機発光ダイオード及びその製造方法  
代理人 平木 祐輔  
代理人 松丸 秀和  
代理人 関谷 三男  
代理人 今村 健一  
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