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審決分類 審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正しない C10L
審判 訂正 判示事項別分類コード:857 訂正しない C10L
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正しない C10L
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正しない C10L
審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正しない C10L
管理番号 1324695
審判番号 訂正2016-390110  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2016-08-24 
確定日 2017-02-10 
事件の表示 特許第5756972号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第5756972号発明(以下「本件特許」という。)は、平成22年2月24日に出願された特許出願(特願2010-58335号)に対し、平成25年11月11日付けで手続補正書が提出され、平成26年6月16日付けで拒絶理由が通知され、同年7月30日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年12月2日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成27年1月16日付けで意見書及び手続補正書が提出された後に、平成27年6月12日にその請求項1?9に係る発明について特許権の設定登録がなされたものである。

そして、平成28年8月24日に、本件訂正審判の請求がなされ、同年10月18日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年11月18日付けで意見書が提出された。

第2 請求の趣旨及び理由
本件訂正審判請求の趣旨は、「特許第5756972号の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおりに訂正することを認める、との審決を求める。」というものであって、本件特許に係る願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を下記訂正事項1?3のとおりに訂正することを求めるというものである。
1.訂正事項1
特許請求の範囲請求項3の一部に「パラジウム/アルミニウム水素化触媒共存下」と記載されているのを、「パラジウム/アルミナ水素化触媒共存下」に訂正する(請求項3を引用する請求項4?9も同様に訂正する)。
2.訂正事項2
明細書の段落【0015】に、「パラジウム/アルミニウム水素化触媒共存下」と記載されているのを、「パラジウム/アルミナ水素化触媒共存下」に訂正する。
3.訂正事項3
明細書の段落【0032】【表1】に「5質量%バイオディーゼル混合経由と記載されているのを、「5質量%バイオディーゼル混合軽油」に訂正する。

第3 当審の判断
1.訂正事項1について
(1)本件特許の請求項3に係る発明(以下、「本件特許発明3」という。)について
本件特許発明3は、特許請求の範囲の請求項3に記載された次のとおりのものと認める。
「(1)エステル交換反応処理した油脂及び/又は廃食用油から調製した脂肪酸アルキルエステル、及び/又は(2)脂肪酸エステル化反応処理した脂肪酸アルキルエステルを、表面のみにパラジウムを担持させたパラジウム/アルミニウム水素化触媒共存下、1MPa未満の水素圧雰囲気にて水素化処理することを特徴とするバイオディーゼル燃料の製造方法。」

(2)目的要件について
ア 特許請求の範囲の減縮を目的としたものか否かについて
アルミニウムとアルミナとは、それぞれ、金属と金属の酸化物であって、組成も特性も異なる物質であるところ、触媒の分野においては、触媒及び触媒担体に用いられるアルミニウム及びアルミナは、それぞれの、触媒における機能、作用効果は異なり、別個の物質として、明確に区別されるものであることは技術常識である。
そうすると、「パラジウム/アルミニウム水素化触媒共存下」と記載されているのを、「パラジウム/アルミナ水素化触媒共存下」に訂正することは、触媒に用いられている「アルミニウム」を別の物質である「アルミナ」に変更することであるから、特許請求の範囲の減縮に当たらないことは明らかである。

したがって、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的としたものとは認められない。

イ 誤記の訂正を目的としたものか否かについて
本件特許発明3の「パラジウム/アルミニウム水素化触媒」というについて、誤記があるか否かについて、まず、検討する。
本件特許発明3の「表面のみにパラジウムを担持させたパラジウム/アルミニウム水素化触媒」という記載自体は、「水素化触媒」の成分に、「パラジウム/アルミニウム」が含まれると解されるものであって、それ以外の意味には解することができない、きわめて明瞭な記載であり、明細書中の記載等を参酌しなければ理解しえない性質のものではない。
そうすると、「パラジウム/アルミニウム水素化触媒」という記載について、当業者であればその誤記であることに気付いて、「パラジウム/アルミナ水素化触媒」の趣旨に理解することが当然であるとはいえない。

したがって、訂正事項1は、誤記の訂正を目的としたものとは認められない。

(請求人の主張について)
請求人は、平成28年11月18日付けの意見書(以下、単に「意見書」という。)において、次の(4)(c)?(4)(e)のように主張している。
(4)(c)「確かに、「アルミニウム」だけを取り上げますと、それ自体単独ではきわめて明瞭なものです。しかし、特許発明請求項3の「パラジウム/アルミニウム水素化触媒」における「アルミニウム」は明瞭なものとはいえません。すなわち、特許発明請求項3は、貴金属と特定の担体を明記すべきでして((3-2)(b))、特許発明請求項3の「パラジウム/アルミニウム水素化触媒」において、パラジウムは貴金属ですから、「アルミニウム」は担体ということになります。ところが、特許明細書には、「アルミニウム」は担体であると記載されていませんし、その点が周知であるともいえませんので、特許発明請求項3の「パラジウム/アルミニウム水素化触媒」における「アルミニウム」は「誤記」であるというべきです。したがいまして、本審判請求人は上記訂正拒絶理由通知書第2頁の(3)の「記載」に納得することができません。」(意見書6頁20?29行)
(4)(d)「当業者は、特許発明請求項3に記載された水素化触媒における「アルミニウム」は誤記であることに気付くといえますし((4)(c))、実施例は発明を具体的に裏付けるものといえますから((3-2)(c))、誤記である担体としての「アルミニウム」を含む、特許発明請求項3に記載された「パラジウム/アルミニウム水素化触媒」を、担体としての「アルミナ」を含む特許明細書の実施例8で記載する「パラジウム/アルミナ水素化触媒」の趣旨に理解することは当然であるというべきです。これは、以下の点、すなわち、特許明細書実施例8では、水素化触媒の構成成分を具体的に表記するときには、「/」の前に貴金属を配置し、「/」の後に担体を配置する記載形式であることからみましても(この点は、当初明細書でも同様でして、「/」の後に担体としてのアルミナが記載されています。)、特許発明請求項3の水素化触媒でも同様な記載形式、つまり、「/」の後に担体を記載すべきですから、この点から見ましても、当業者は誤記である担体としての「アルミニウム」を特許明細書の実施例8で記載する担体としての「アルミナ」の趣旨に理解することは当然であるというべきです。」(意見書7頁1?13行)
(4)(e)「以上のとおりですから、今回の訂正は、担体と理解されるべきであるが、技術・常識等から担体とは理解できない、誤記としての「アルミニウム」を、特許明細書の実施例などから担体として明らかな内容の語句に正し、本来の意に戻すものであり、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものといえますので、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書き第2号に規定する誤記の訂正を目的とするというべきです。」(意見書7頁14?19行)

しかしながら、「/」を用いて触媒を表現した場合、請求人の上記主張とは異なり、「/」の前後に記載された物質を含み、担体については特定しない触媒を示すこともあることは周知である(必要であれば、特開平6-211939号公報の次の記載を参照されたい。
「【0042】プロピレンとエチレンの重合をなすにはチタニウム含有触媒成分及び有機アルミニウム触媒成分からなる高活性チーグラー-ナッタ触媒を不可欠として用いる。その様な触媒は既知であり、以降Ti/Al触媒と記す。これらには担体、改質化合物、マグネシウムその他の化合物、電子供与化合物、その他等の付加的化合物を含めてよい。
【0043】本発明に用いるTi/Al触媒は非担持であってよく、また通常の担持材料と結合してもよい。担持する場合の担体はチタニウム成分を取り込む前に処理しうる。シリカ、アルミナ、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムその他等通常の無機材料が担体として用いうる。」)

そうすると、「パラジウム/アルミニウム水素化触媒」という記載について、周知技術に照らせば、当業者が、触媒として、「パラジウム」及び「アルミニウム」を含む「水素化触媒」の趣旨に理解することを排除できない。

また、仮に、請求人が主張するように、「パラジウム/アルミニウム水素化触媒」という記載が、「パラジウム」を「アルミニウム」の担体に担持させた「水素化触媒」と限定的に解釈できるとしても、金属アルミニウムを担体とし、パラジウムを担持させた触媒は周知である(必要であれば、特開昭63-291642号公報の次の記載を参照されたい。
「(従来技術とその問題点)
従来から金属アルミニウムや金属亜鉛を担体とする貴金属触媒が各種化学反応に広く使用されている。該触媒は例えば次の各方法を使用して製造されている。
1(審決注:○の中に1)塩酸を使用して金属アルミニウム担体等の表面処理を行い、その後ジニトロジアンミン白金(又はパラジウム)硝酸液に浸漬し、乾燥し焼成し水素で還元する。
2(審決注:○の中に2)金属アルミニウム担体等を塩化白金酸溶液又は塩化パラジウム酸溶液に浸漬し、還元反応を利用して白金又はパラジウムを前記アルミニウム表面に析出させる。
3(審決注:○の中に3)金属アルミニウム担体等を硝酸で処理し、その後塩化白金酸溶液又は塩化パラジウム酸溶液に浸漬し約500℃で焼成した後、水素還元する。」(1頁右下欄13行?2頁左上欄8行))。

そうすると、「パラジウム/アルミニウム水素化触媒」という記載について、当業者が、触媒として「パラジウム」及び担体として「アルミニウム」を含む「水素化触媒」の趣旨に理解することも排除できない。

そして、「パラジウム/アルミニウム水素化触媒」によっては、「水素化触媒」として機能し得ない、という証拠は請求人からは示されておらず、又、そのような根拠も見出すことができない。

したがって、「パラジウム/アルミニウム水素化触媒」という記載について、当業者であればその誤記であることに気付いて、「パラジウム/アルミナ水素化触媒」の趣旨に理解することが当然であるとはいえず、請求人の上記主張は採用できない。

ウ 明瞭でない記載の釈明を目的としたものか否かについて
(ア)本件特許明細書には、次の記載がある。
「【0012】
そこで、本発明の目的は、酸化安定性及び低温流動性に優れたバイオディーゼル燃料の製造のために、トランス体の生成を抑制しつつ多価不飽和脂肪酸アルキルエステルから1価不飽和脂肪酸アルキルエステルへの選択的水素化を可能にするバイオディーゼル燃料の製造方法及びバイオディーゼル燃料組成物の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、バイオディーゼル燃料の水素化処理触媒の改善を種々試み、その結果、また、前記触媒は、脂肪酸アルキルエステルと軽油の混合物を低圧下で水素化処理する場合には軽油中の硫黄に対する耐久性の面で有用であるものの、脂肪酸アルキルエステルを単独で処理する場合、水素化触媒組成物に含まれる希土類元素は必ずしも必要でないことを見出した。
【0014】
さらに、炭素-炭素二重結合が多孔性無機酸化物担体上の酸性水酸基に吸着・濃縮され水素化反応とともにトランス体への異性化反応を受け易くなることを抑えるため、多孔性無機酸化物担体として酸点の少ない担体を用いること、さらに活性成分である貴金属を担体の表面のみに担持させることにより、上記要求を満足させうる触媒を得ることができることを見出し、ついに本発明を完成させるに至った。」

(イ)これらの記載から、本件特許発明は、「酸化安定性及び低温流動性に優れたバイオディーゼル燃料の製造のために、トランス体の生成を抑制しつつ多価不飽和脂肪酸アルキルエステルから1価不飽和脂肪酸アルキルエステルへの選択的水素化を可能にするバイオディーゼル燃料の製造方法及びバイオディーゼル燃料組成物」を提供すること(【0012】)を課題とし、酸化安定性及び低温流動性に優れたバイオディーゼル燃料の製造の際の水素化に用いられる水素化触媒組成物に、「希土類元素は必ずしも必要でな」く(【0013】)、「炭素-炭素二重結合が多孔性無機酸化物担体上の酸性水酸基に吸着・濃縮され水素化反応とともにトランス体への異性化反応を受け易くなることを抑えるため、多孔性無機酸化物担体として酸点の少ない担体を用いること、さらに活性成分である貴金属を担体の表面のみに担持させることにより」(【0014】)、上記課題を解決したものということができる。

(ウ)そして、上記水素化触媒組成物について、本件特許明細書には、次の記載がある。
「【0024】
水素化処理時には、水素化触媒を共存させることが必要である。水素化触媒としては、周期律表第8?10族貴金属から選ばれた少なくとも一種の貴金属を含有する水素化触媒を用いることが好都合である。前記貴金属としては、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、レニウム(Re)、ルテニウム(Ru)等が挙げられるが、それらに限定されない。これら貴金属を単独で用いてもよいが、複数の貴金属を用いてもよい。これら貴金属の中では、特にパラジウム(Pd)、白金(Pt)単独、あるいはそれらを共存させることが好ましい。それらのパラジウム(Pd)、白金(Pt)に、さらにロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、レニウム(Re)、ルテニウム(Ru)などを共存させることも有効である。また、燃料精製用水素化触媒組成物には通常希土類元素が共存されるが、本発明では、前記希土類元素は必ずしも必要でない。
それら貴金属は、多孔性の担体に担持させることが好ましい。担体として、とくに制限されないのであり、公知の多孔性無機酸化物や結晶性アルミノシリケートゼオライト、多孔性炭素含有物などからなる担体を利用することが出来る。多孔性無機酸化物としては、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、シリカ-アルミナ、アルミナ-ボリア、アルミナ-チタニア、アルミナ-リン、シリカ-チタニア、チタニア-ジルコニア、超安定化Y型ゼオライトなど、通常、軽油などの水素化処理触媒に使用される多孔性無機酸化物が使用可能である。好ましい担体としては、例えば酸点が低い担体など表面酸性が少ない担体を示すことができる。また、表面酸性が少なく、金属含浸液が内部に浸透せず、担体表面上にのみ担持される細孔構造を持つ担体などが好ましい担体として挙げられる。前記酸点の測定法としては幾つかの方法が知られているが、酸点前記酸点の測定法としては幾つかの方法が知られている。前記酸点が低い担体としては、酸点へアンモニアが吸着する際の熱量を測定することにより、酸強度分布を測定するアンモニア吸着熱法を用いて測定したときに、吸着熱が90kJ/molよりも小さい値の担体を例示することができる。具体的な担体としては、シリカ、アルミナ、シリカ/アルミナ比が40以上のゼオライトなどが挙げられる。
また、該貴金属の担体への担持方法としては、通常の水素化処理触媒の製造方法が採用でき、例えば、担体に該含浸溶液を公知の含浸方法で担持する方法や担体前駆物質と該含浸溶液を混練した後、成型、乾燥、焼成する方法などが挙げられる。
前記貴金属が担持された水素化触媒では、好ましい貴金属担持量として0.1?10質量%である。また、前記貴金属がパラジウムと白金からなる場合、好ましいPd/Pt原子比は0.1/10?10/1である。
水素化触媒の使用量は水素化処理する脂肪酸アルキルエステル等の原料、水素化処理条件などにより変動するので一概に規定することが出来ないが、例えば、懸濁床で用いる場合、好ましい触媒と水素化処理する材料の質量比は10^(-4)?10^(-1)の範囲が好ましく、より好ましくは10^(-3)?3×10^(-2)である。」

(エ)この記載から、水素化処理時に用いられる水素化触媒は、「周期律表第8?10族貴金属から選ばれた少なくとも一種の貴金属を含有する水素化触媒を用いることが好都合であ」って、「前記貴金属としては、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、レニウム(Re)、ルテニウム(Ru)等が挙げられ」、「それら貴金属は、多孔性の担体に担持させることが好ましい」ことが記載されている。
そして、上記担体について、「担体として、とくに制限されないのであり、公知の多孔性無機酸化物や結晶性アルミノシリケートゼオライト、多孔性炭素含有物などからなる担体を利用することが出来る」と記載され、「多孔性無機酸化物としては、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、シリカ-アルミナ、アルミナ-ボリア、アルミナ-チタニア、アルミナ-リン、シリカ-チタニア、チタニア-ジルコニア、超安定化Y型ゼオライトなど、通常、軽油などの水素化処理触媒に使用される多孔性無機酸化物が使用可能であ」って、「好ましい担体としては、例えば酸点が低い担体など表面酸性が少ない担体を示すことができ」、「シリカ、アルミナ、シリカ/アルミナ比が40以上のゼオライトなどが挙げられる」ことが記載されている。

(オ)また、金属のアルミニウムが、水素化触媒の一成分として、適宜用いられることは当業者にとって周知である(必要であれば、特表2008-505103号公報の【0048】の、「水素化触媒はまた、ルチルの二酸化チタン担体上の、パラジウム、銀、レニウム及び少なくとも1種の鉄、アルミニウム、コバルト及びそれらの混合物を備えることができる。」という記載、特開平2-202856号公報の2頁右下欄20行?3頁左上欄9行の、「具体的には、該接触水素化触媒は、例えば、・・・(略)・・・パラジウム-アルミニウム等の類似合金粉末触媒;・・・(略)・・・等が用いられる。」という記載、特開平2-157251号公報の2頁左下欄7行?右下欄3行の、「本発明は、炭素数8?24の長鎖不飽和あるいは飽和脂肪族ニトリルを、白金、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムの内一種以上と銅を組合せた水素化触媒の存在下、・・・(略)・・・該触媒には・・・(略)・・・任意成分として・・・(略)・・・アルミニウム、モリブデン及びタングステンなどを添加してもよい。」という記載を参照されたい。)。

(カ)そうすると、本件特許明細書の記載によれば、本件特許発明3における水素化触媒の担体は、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、シリカ-アルミナ、アルミナ-ボリア、アルミナ-チタニア、アルミナ-リン、シリカ-チタニア、チタニア-ジルコニア、超安定化Y型ゼオライトなど、通常、軽油などの水素化処理触媒に使用される多孔性無機酸化物が使用可能であり、シリカ、アルミナ、シリカ/アルミナ比が40以上のゼオライトなど表面酸性が少ない担体が好ましいことは理解できるものの、本件特許明細書の記載及び周知技術ないし技術常識に照らせば、水素化触媒において、アルミニウムを含むことはできない、ないしは、担体としてアルミニウムを用いることはできない、とまでは理解することはできないというべきである。

したがって、本件特許明細書に接した当業者は、「表面のみにパラジウムを担持させたパラジウム/アルミニウム水素化触媒」という記載の「アルミニウム」が「アルミニウム」ではなく、「アルミナ」であると理解するとはいえない。

(キ)また、上述したように、本件特許発明は、「活性成分である貴金属を担体の表面のみに担持させる」ことにより、発明の課題を解決したものであるから、本件特許発明3の上記「表面のみにパラジウムを担持させたパラジウム/アルミニウム水素化触媒」という記載の「アルミニウム」が「アルミニウム」ではなく、「アルミナ」でなければならない理由は見当たらない。

(請求人の主張について)
請求人は、意見書において、次の(3-1)(b)、(3-1)(d)、(3-2)(b)及び(3-2)(c)のように主張している。
(3-1)(b)「特許第5756972号発明(以下、本件特許発明といいます)での水素化触媒は、貴金属および特定の担体が必須成分であるというべきです。この点について、以下説明しますと、特許明細書の【0014】には「炭素-炭素二重結合が多孔性無機酸化物担体上の酸性水酸基に吸着・濃縮され水素化反応と共にトランス体への異性化反応を受け易くなることを抑えるため、多孔性無機酸化物担体として酸点の少ない担体を用いること、さらに活性成分である貴金属を担体の表面にのみに担持させることにより、上記要求を満足させうる触媒を得ることを見出し、」と記載されています。この数行の文章での「さらに」は、「その上に、加えて等」の意味を有するということが明らかですから、【0014】では、『「炭素-炭素二重結合が多孔性無機酸化物担体上の酸性水酸基に吸着・濃縮され水素化反応と共にトランス体への異性化反応を受け易くなることを抑える」ために、「多孔性無機酸化物担体として酸点の少ない担体を用いること」、その上、「炭素-炭素二重結合が多孔性無機酸化物担体上の酸性水酸基に吸着・濃縮され水素化反応と共にトランス体への異性化反応を受け易くなることを抑える」ために、「活性成分である貴金属」を「多孔性無機酸化物担体として酸点の少ない担体」の「表面に担持させること」により』、「上記要求を満足させうる触媒を得ることができることを見出し」だ、と理解することが、自然であるというべきです。以上のことから、本件特許発明での水素化触媒を構成する成分は、貴金属および特定の担体を必須成分とすること、そして該水素化触媒を使用すると、「炭素-炭素二重結合が多孔性無機酸化物担体上の酸性水酸基に吸着・濃縮され水素化反応と共にトランス体への異性化反応を受け易くなることを抑える」ことができるといえるのであり、発明の課題を解決できるといえます。したがいまして、上記訂正拒絶理由通知書第6頁の「キ」(審決注:上記「(キ)」)での記載を、本審判請求人は納得することができません。」(意見書3頁4?25行)
(3-1)(d)「上記(3-1)(b)で述べましたように、発明の課題を、貴金属および特定の担体を必須成分とする水素化触媒を使用して解決するというべきですから、特許発明請求項3では、それら必須成分が明記されるべきです。ところが、特許発明請求項3の「水素化触媒」は、「表面のみにパラジウムを担持させたパラジウム/アルミニウム水素化触媒」と記載され、前記必須成分としての貴金属はパラジウムであることが明らかですが、もう一つの必須成分である担体が何であるか明瞭であるとはいえません。しかも、特許明細書には、「表面のみにパラジウムを担持させたパラジウム/アルミニウム水素化触媒記載」について一切説明されず、実施例も記載されていませんので((2)(d))、該「水素化触媒」の製法、奏する効果等が不明ですし、どのような担体を使用したかも不明です。したがいまして、上記訂正拒絶理由通知書第6頁の「ク」(審決注:上記「(ク)」)での記載に本審判請求人は納得することができません。」(意見書4頁14?25行)
(3-2)(b)「特許明細書に接した当業者は、次の点に気づくといえます。(i)本件特許発明の水素化触媒は、貴金属、および特定の担体を必須成分とすること、((3-1)(b))、(ii)「表面のみにパラジウムを担持させたパラジウム/アルミニウム水素化触媒」についての具体的な説明がなく、実施例でも採用しておらず、奏する効果が不明であること、(iii)「表面のみにパラジウムを担持させたパラジウム/アルミナ水素化触媒」を採用した実施例が記載されていること、(iv)特許明細書の水素化触媒の説明では、アルミニウムについて何ら説明されていないこと、(v)アルミニウムが触媒の担体として周知でもなく、「表面のみにパラジウムを担持させたパラジウム/アルミニウム水素化触媒」での担体が何であるか理解できないこと。」(意見書5頁4?12行)
(3-2)(c)「実施例は、当業者が発明を実施できるように発明を説明するものであり、また、実施例は発明を具体的に示し、裏付けるものと理解できますから(審査基準第1部第1章3.2.1.(5))、訂正後の請求項3の水素化触媒は、特許明細書請求項3の担体が明記されていない不明瞭さを、実施例に基づいて改めたものと、当業者は理解できるというべきです。すなわち、特許請求項3の水素化触媒は必須成分である担体が記載されておらず、明瞭であるとはいえないところ、特許請求項3の水素化触媒における、担体として機能すると理解できないアルミニウムを、特許明細書の実施例に記載された水素化触媒の記載に基づいて「アルミナ」に訂正したものが今回の訂正というべきです。また、今回の訂正は、明瞭であるとはいえない特許請求項3の水素化触媒の記載上の不備を、特許明細書の実施例に記載された水素化触媒の記載に基づいて訂正し、本来の意を明らかにしたものともいうべきです。」(意見書5頁13?23行)

しかしながら、請求人の主張するように、本件特許発明3について、「炭素-炭素二重結合が多孔性無機酸化物担体上の酸性水酸基に吸着・濃縮され水素化反応と共にトランス体への異性化反応を受け易くなることを抑える」ために、「活性成分である貴金属」を「多孔性無機酸化物担体として酸点の少ない担体」の「表面に担持させること」により、「上記要求を満足させうる触媒を得ることができ」たものだとしても、本件特許明細書には、「好ましい担体としては、例えば酸点が低い担体など表面酸性が少ない担体を示すことができる。また、表面酸性が少なく、金属含浸液が内部に浸透せず、担体表面上にのみ担持される細孔構造を持つ担体などが好ましい担体として挙げられる。」と「酸点の少ない担体」は、好ましい程度のものであると記載しており、さらに、具体的な担体として、それぞれ酸点の異なる「シリカ」、「アルミナ」及び「ゼオライト」について、「シリカ、アルミナ、シリカ/アルミナ比が40以上のゼオライトなどが挙げられる」(【0024】)と記載するにとどまり、「アルミナ」が、特段、「酸点が低い担体」であって、「アルミナ」であれば、「シリカ」や「ゼオライト」などと比較して、格別、「水素化反応と共にトランス体への異性化反応を受け易くなることを抑える」ものであるという記載は見当たらない。
また、請求人の主張からは、「アルミナ」は、「シリカ」や「ゼオライト」などと比較して、格別、酸点が低いという根拠は見出せないし、「アルミニウム」を含む水素化触媒が、トランス体への異性化反応によって、本件特許発明3の課題を解決できない、という根拠も見出せない。

してみると、請求人の主張は、「パラジウム/アルミニウム水素化触媒」の実施例が発明の詳細な説明に記載されていない点を主張するにとどまるものであって、「パラジウム/アルミニウム水素化触媒」によっては、本件特許発明3の課題を解決することができない、とまではいうことができないことから、請求人の上記主張は、採用できない。

また、そもそも、本件明細書の【0015】は、平成27年1月16日付けの手続補正書によって補正されているところ、該【0015】の「請求項3の発明は、・・・パラジウム/アルミニウム水素化触媒共存下」という記載は、平成25年11月11日付けの手続補正書及び平成26年7月30日付けの手続補正書の、いずれも【0015】に見出されるものである。
そうすると、仮に、請求人が主張するように、「パラジウム/アルミニウム水素化触媒」という記載が不明瞭であるというのであれば、平成26年6月16日付けの拒絶理由通知及び同年12月2日付けの最後の拒絶理由通知に対して補正を行うことが可能であったところ、これらの2回の補正の機会があったのにもかかわらず、請求人は補正を行わなかったのであるから、「パラジウム/アルミニウム水素化触媒」と解するのが通常であって、「パラジウム/アルミニウム水素化触媒」という記載が明瞭でないとか、該記載を「パラジウム/アルミナ水素化触媒」と解するべきであるという請求人の主張は採用できない。

(ク)まとめ
以上のことから、本件特許発明3は、特許明細書の記載に照らしても発明が不明確になるものではなく、明瞭でない、ということはできず、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的としたものとは認められない。

エ 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするか否かについて
訂正事項1は、このようなことを目的としたものではないことは明らかである。

オ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものか否かについて
上記アで述べたように、触媒の分野において、アルミニウムと、アルミナとが明確に区別されることは技術常識であり、「パラジウム/アルミニウム水素化触媒共存下」と記載されているのを、「パラジウム/アルミナ水素化触媒共存下」に訂正することは、実質上特許請求の範囲を変更するものである。

カ 訂正による第三者の不測の不利益について
請求人は、意見書において、訂正による第三者の利益を害することにならないと主張しているので、念のため、訂正による第三者の不測の不利益について検討する。
特許請求の範囲は、「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」が記載されたもの(特許法第36条第5項)である。
また、特許法第126条第6項は、第1項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものであって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる場合、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるため、そうした事態が生じないことを担保したものである。
以上を踏まえ、訂正前の請求項3に係る発明(本件特許発明3)と訂正後の請求項3な係る発明(以下、「訂正後発明」という。)において、それぞれの発明の「実施」に該当する行為の異同により、訂正後発明の「実施」に該当する行為が、本件特許発明3の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものであるか否かについて検討する。
本件特許発明3は、「表面のみにパラジウムを担持させたパラジウム/アルミニウム水素化触媒」を発明特定事項としていることから、「水素化触媒」は、「アルミニウム」を含むものである。
一方、訂正後発明は、「水素化触媒」に、「アルミナ」を含むものであるところ、「アルミニウム」は含まれなくてもいいものとなる。
そうすると、アルミニウムを含まない「表面のみにパラジウムを担持させたパラジウム/アルミナ水素化触媒」を用いた「バイオディーゼル燃料の製造方法」を実施していた第三者にとって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた実施に該当する行為が、この訂正によって、訂正後の特許請求の範囲に含まれることが生じることになる。
したがって、訂正後発明の「実施」に該当する行為が、訂正前の本件特許発明3の「実施」に該当する行為を実質上変更するものであるということができ、この訂正によって、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるというべきである。

キ 上記イ?エで述べたように、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書各号のいずれにも該当せず、また、上記オで述べたように、訂正事項1は、同条第6項の規定に適合せず、上記カで述べたように、訂正による第三者の不測の不利益が生じるおそれがあるので、本件訂正は認められない。

第4 むすび
以上のとおり、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書各号のいずれにも該当せず、同条第6項の規定にも適合しないのであるから、訂正事項2及び3について判断するまでもなく、本件訂正は認められない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-08 
結審通知日 2016-12-12 
審決日 2016-12-27 
出願番号 特願2010-58335(P2010-58335)
審決分類 P 1 41・ 855- Z (C10L)
P 1 41・ 853- Z (C10L)
P 1 41・ 852- Z (C10L)
P 1 41・ 857- Z (C10L)
P 1 41・ 851- Z (C10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福山 則明藤代 亮  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 日比野 隆治
川端 修
登録日 2015-06-12 
登録番号 特許第5756972号(P5756972)
発明の名称 バイオディーゼル燃料の製造方法及びバイオディーゼル燃料組成物  
代理人 江幡 敏夫  

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