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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
管理番号 1324730
審判番号 不服2015-4593  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-09 
確定日 2017-02-09 
事件の表示 特願2013-505968「N-フェニルマレイミド化合物およびそれを使用して得られる共重合体組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月27日国際公開、WO2012/128255〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、平成24年3月19日(優先権主張平成23年3月24日)を国際出願日とする特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成26年 6月 4日付け 拒絶理由通知
平成26年 9月 8日 意見書
平成26年12月 5日付け 拒絶査定
平成27年 3月 9日 本件審判請求、手続補正書
平成27年 4月10日付け 前置報告書
平成28年 7月26日付け 拒絶理由通知
平成28年 9月29日 意見書、手続補正書

第2 当審の拒絶理由通知の概要
当審は、概略、平成28年7月26日付けで下記のとおりの拒絶理由を通知した。

「第3 拒絶理由
しかるに、本願は以下の拒絶理由を有するものである。

理由1:本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第6項の規定を満たしていない。
理由2:本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
理由3:本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


I.理由1について
・・・(中略)・・・

II.理由2及び3について
上記I.で示したとおり、本願の各請求項の記載では、特許を受けようとする発明が明確ではないが、一応、本願発明が各請求項に記載された事項で特定されるとおりであるとして、上記理由2及び3につき以下検討する。

引用刊行物:
1:特開平3-56463号公報(原審で引用された「引用文献4」)
2:特開平6-135931号公報(原審で引用された「引用文献5」)
3:特開平5-25129号公報(原審で引用された「引用文献1」)
4:特開平1-283264号公報(原審で引用された「引用文献2」)
5:特開平1-250348号公報(原審で引用された「引用文献3」)
6:特開平5-140095号公報(原審で引用された「引用文献6」)
(以下、それぞれ項番に従い、「引用文献1」ないし「引用文献6」という
。)
・・・(中略)・・・
3.理由2及び3に係るまとめ
以上のとおりであるから、本願発明1ないし5は、いずれも引用文献1に記載された発明であるか、仮にそうではないとしても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし6の記載の当業者の周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもある。 」

第3 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし7に係る発明は、平成28年9月29日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び国際出願時の明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
N-フェニルマレイミド化合物全量に対して、N-(2,5-ジオキソ-1-フェニル-3-ピロリジニル)-N-フェニルマレアミン酸(PPMA
)を0.005?0.10重量%およびN-フェニルフマルアミン酸(PFA)を0.01?0.30重量%、含有するN-フェニルマレイミド化合物および該N-フェニルマレイミド化合物と共重合可能な一種以上の他の単量体または樹脂を共重合して得られる共重合体樹脂。」

第4 当審の判断
当審は、上記本願発明について、上記第2で示した拒絶理由通知における理由1ないし3が成立するか否かにつき再度検討すると、依然として理由3が成立するものと判断する。以下詳述する。

1 理由3について
(1)引用文献の記載事項
引用刊行物:
1:特開平3-56463号公報(原審で引用された「引用文献4」)
2:特開平6-135931号公報(原審で引用された「引用文献5」)
3:特開平5-25129号公報(原審で引用された「引用文献1」)
4:特開平1-283264号公報(原審で引用された「引用文献2」)
5:特開平1-250348号公報(原審で引用された「引用文献3」)
6:特開平5-140095号公報(原審で引用された「引用文献6」)
(以下、それぞれ項番に従い、「引用文献1」ないし「引用文献6」という。)

ア.引用文献1の記載事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている。(以下、順に「記載1a」ないし「記載1f」という。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。)がある。

1a 「マレイミド化合物は、樹脂原料、医薬農薬などの原料として有用な化合物であるが、本発明は酸成分の含有量の少ない高品質のマレイミド類の有利な製造方法を提供するものである。」(第1ページ左欄第17行ないし第20行)

1b 「マレイミド類は特に耐熱樹脂原料として有用な化合物であり、近年ABS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂などの耐熱性向上のために共重合成分の1つとして多く用いられている。
このようなマレイミド系樹脂の製造方法として多くの場合、乳化重合法、けんだく重合法などが採用されている。ところがこれら重合法において重合系への酸成分の混入は重合系を不安定にし凝固、合一などをひきおこすため好ましくないことが知られている。
また、かかる酸成分の重合系への混入はマレイミド類の製造工程中において副生したマレイン酸、フマル酸などの不純物がマレイミド類製品中に多く含有されていることが大きな原因となっている。
また、それだけでなく、このような酸成分がABS樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等の樹脂製品中へ混入した場合は当該酸成分が加熱により容易に分解してしまうために樹脂を著るしく着色させたり、樹脂製品中に銀条を発生させるために樹脂そのものの商品価値を著るしく低下させてしまうという問題がある。」(第1ページ右欄第2行ないし第2ページ左上欄第3行
)

1c 「(発明が解決しようとする課題)
このようにして製造されたマレイミド類から酸成分を除去するためにマレイミド類を含む有機溶媒層を水洗することが提案されている。しかしながら
、上述のような方法で製造されたマレイミド類の有機溶媒層中には反応中に副生した少量の、水および有機溶媒双方に溶解しにくい不純物が存在しており、かかる不溶性の不純物が反応液の水洗時に有機溶媒層中の水洗水粒子の安定化効果を有しているため、水層と有機溶媒層が完全に混合して乳化してしまうという問題がある。そのため、条件によっては水層と有機溶媒層双方の分離ができなくなり、水洗は不可能となる場合がある。」(第2ページ右上欄第2行ないし第14行)

1d 「(課題を解決するための手段)
本発明者らは上記目的を達成すべく検討した結果、イミド化反応において副生する水および有機溶媒に不溶性または難溶性の不純物は意外にも比較的高い温度で水中で容易に分解し、水溶性化合物に変化することを見い出し、この知見に基づき本発明を完成した。
すなわち、本発明は、無水マレイン酸と第1級アミン類とからえられるマレインアミド酸類を、水不溶性または水不混和性の不活性有機溶媒中で酸触媒の存在下に加熱し、生成水を該有機溶媒との混合物として系外に留去しつつ、閉環イミド化せしめてえられたマレイミド類を含む有機溶媒層を70℃以上の温度で水洗処理したのち有機溶媒層と水層とを分離することを特徴とするマレイミド類中の酸成分の低減方法である。
本発明の最も特徴とするところはイミド化反応後の水洗処理を70℃以上の温度で実施し、水および有機溶媒双方に対して不溶解性の副反応生成物を水溶性化合物に容易に分解せしめるところにある。」(第2ページ右下欄第4行ないし第3ページ左上欄第4行)

1e 「本発明の実施方法としては、まず、無水マレイン酸の有機溶媒の溶液に第1級アミン類を加え、150℃以下、好ましくは30?120℃で、15?120分間反応させることによりマレインアミド酸をえる。この場合、反応系に加える無水マレイン酸全量の反応系に加えた第1級アミン類全量に対するモル比が1を越え2以下、好ましくは1を越え1.3以下で行なわれる。
次にマレインアミド酸を単離することなしに、前記の触媒を加え、100?250℃、好ましくは110?220℃の温度にて生成した水を溶媒との混合物として系外に留去せしめながら反応が行なわれる。また、反応の途中に無水マレイン酸の一部を追加添加することも可能である。」(第4ページ右上欄第15行ないし左下欄第8行)

1f 「実施例l
200ccのビーカー中にオルソリン酸20gを添加し次に粒状シリカゲル担体(キャリアクト30、フジ・デビソンケミカル社製)を加えオルソリン酸を担持せしめた。
温度計、水分離器をそなえた冷却管、滴下ロートおよび撹拌機をそなえたフラスコに無水マレイン酸55gをキシレン50gに溶解せしめた液を仕込んだ。次にフラスコ内部の温度を80℃に調整しアニリン50gをキシレン400gに溶解した液を30分かけて少しずつ添加しN-フェニルマレインアミド酸のキシレンスラリー液を合成した。
かくしてえられたスラリー液に前もってビーカー中において調整した触媒とジブチルジチオカルバミン酸銅0.1gを添加し140℃にて3時間反応させた。
反応終了後、反応液を触媒層から分離した。分離した反応液を85?90℃に冷却し、87℃の150gの純水をこの反応液に加えて5分間撹拌した。
次に撹拌を停止させたところ反応液層と水層はすみやかに分離した。また、この両層の界面は極めて明確であり両層の分離は容易であった。
つづいてこの操作をもう一度くりかえしたのち反応液層からキシレンを留去せしめ92gの黄色の結晶をえた。
次に、この結晶を3mmHgの減圧下160℃で蒸留を行ない85gの彩やかな黄色の結晶をえた。
この結晶を液体クロマトグラフイーで分析したところ下記の組成を有していることがわかった。
N-フェニルマレイミド 99.5重量%以上
無水マレイン酸 0.01重量%以下
フマル酸 0.01 〃
N-フェニルマレアミン酸 0.01 〃
」(第5ページ左上欄第3行ないし右上欄第15行)

イ.引用文献2の記載事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。

・「【請求項1】 マレイミド化合物中の第1アミン類の含有量が500ppm以下、かつ2-アミノ-N-置換スクシンイミド化合物の含有量が300ppm以下であることを特徴する貯蔵安定性の改良されたマレイミド化合物。」(請求項1)

・「この2-アミノ-N-置換スクシンイミド化合物の生成を抑制するには、無水マレイン酸と第1アミン類の反応モル比を1以上とするか、または反応後半に無水マレイン酸を添加し、2-アミノ-N-置換スクシンイミド化合物を分解する方法が採用される。」(段落【0019】)

・「前記脱水反応により得られた粗製マレイミド化合物は、つづいて精製工程に供され、精製処理が施される。この精製工程においては、反応液から析出したマレイミドの結晶を水洗する。あるいは、反応液のままの形で水洗処理を施して、反応液中に含有される第1アミン類、無水マレイン酸、フマル酸、マレインアミド酸類、その他、水可溶性の不純物を除去する。この水洗処理においては、粗製マレイミド化合物は有機溶媒に溶解しておく方が、水洗処理が容易となるので、好ましい。」(段落【0026】)

・「製品中の2-アミノ-N-置換スクシンイミド化合物の量については、最終製品のマレイミド化合物中に1?300ppmとなるように調整されることが必要である。300ppmを越えると、貯蔵中において、マレイミド化合物の変色が助長される。この理由は明らかでないが、第1アミン類が2-アミノ-N-置換スクシンイミド化合物の介在により、着色成分に変化するものと考えられる。さらに、この2-アミノ-N-置換スクシンイミド化合物はマレイミド化合物を用いてなる樹脂製品の耐熱性を低下させたり、あるいは、成形品に銀条を発生させるなど、その品質に悪影響を及ぼすことになり好ましくないからである。」(段落【0035】)

ウ.引用文献3の記載事項
引用文献3には、以下の事項が記載されている。

・「洗浄操作としては、反応液に特定量の温水を添加し5分?1時間の範囲で混合攪拌した後、静置し有機層と水層との二層に分離する。これにより、反応液から過剰の未反応の無水マレイン酸のほか、酸触媒および非プロトン極性溶媒などの水溶性の反応助剤などがほぼ全量水層に回収される。」(段落【0018】)

エ.引用文献4の記載事項
引用文献4には、以下の事項が記載されている。

・「本発明における反応混合物の洗浄は希アルカリ性水溶液、水および希酸性水溶液から選ばれた少なくとも1種で、1回以上行う。」(第4ページ左下欄第5行ないし第7行)

・「洗浄操作としては反応混合物に洗浄水溶液を添加し5分?1時間の範囲で混合攪拌した後、静置し二層分離する。」(第4ページ右下欄第4行ないし第6行)

・「次に反応液を60℃まで冷却し、これに6%炭酸ナトリウム水溶液200grを添加し、20分間攪拌混合した後、20分間静置し二層分離した水層を除いた。」(第5ページ左下欄第18行ないし右下欄第1行)

オ.引用文献5の記載事項
引用文献5には、以下の事項が記載されている。

・「マレイミド類中の酸成分を減少せしめる方法としては、マレイミド類の十分なる水洗により酸成分を除去する方法、マレイミド類製造時において反応条件を選択することにより酸性不純物の副生を抑制する方法、などがある。」(第3ページ右上欄第7行ないし第11行)

カ.引用文献6の記載事項
引用文献6には、以下の事項が記載されている。

・「(後処理法)反応終了後、有機溶媒反応液中に含まれる、生成したマレイミド1重量部に対し、0.1?20重量部、好ましくは0.3?10重量部の水を加えて、攪拌後、静置し、油水分離して洗浄する。攪拌は、一般に、回転数30?300rpmで、3?30分間攪拌することにより行われる。洗浄は、20?95℃の温度範囲で、1?5回、好ましくは2回以上行う。」(段落【0011】)

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1の記載1aには、マレイミド化合物の利用分野として「樹脂原料、医薬農薬などの原料として有用な化合物」であることが示され、特に樹脂原料について記載1bには、「マレイミド類は特に耐熱樹脂原料として有用な化合物であり、近年ABS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂などの耐熱性向上のために共重合成分の1つとして多く用いられている」点に触れ、樹脂の1つであるABS樹脂の共重合成分としてマレイミド類が用いられている点が指摘され、続けて「このようなマレイミド系樹脂」と記載していることから、記載1a及び1bにおける上記記載から、マレイミド類をABS樹脂の共重合成分として用いたマレイミド系樹脂が記載されていると認められる。
その上で、このマレイミド系樹脂の製造時に従来から知られている問題点として、記載1bには「重合系への酸成分の混入は重合系を不安定」にして好ましくなく、その酸成分の混入は「マレイミド類の製造工程中において副生したマレイン酸、フマル酸などの不純物」が原因との記載があり、更に酸成分は「ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等の樹脂製品中へ混入した場合は当該酸成分が加熱により容易に分解してしまうために樹脂を著るしく着色させたり、樹脂製品中に銀条を発生」させると指摘されている。そこで、これらマレイミド系樹脂の原料であるマレイミド類が抱える問題点の解決手段として、記載1dには特に「マレイミド類を含む有機溶媒層を70℃以上の温度で水洗処理したのち有機溶媒層と水層とを分離することを特徴とするマレイミド類中の酸成分の低減方法」が提示され、具体的には記載1fの実施例1において、マレイミド類である「N-フェニルマレイミド」が「99.5重量%以上」となる一方、酸成分は例えば「N-フェニルマレアミン酸」が「0.01」重量%以下にまで低減されることが示されている。このような、酸成分が低減化された記載1fの実施例1のマレイミド類は、マレイミド系樹脂の製造時に抱える問題点を解決するものであり、当然、マレイミド系樹脂の共重合成分として利用されるものと理解することができる。

したがって、上記記載1a、1b、1d及び1fからみて、 引用文献1には、
「N-フェニルマレイミドを99.5重量%以上、N-フェニルマレアミン酸を0.01重量%以下含有するマレイミド類をABS樹脂の共重合成分として用いたマレイミド系樹脂。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(3)本願発明に対する対比・検討
ア.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「マレイミド類」は、N-フェニルマレイミドを99.5重量%以上、N-フェニルマレアミン酸を0.01重量%以下含有しているところ、その各含有量はN-フェニルマレイミド及びN-フェニルマレアミン酸を含めた化合物全量に対して算出され、上記「マレイミド類」はほぼその全量がN-フェニルマレイミド化合物であることから、本願発明における「N-フェニルマレイミド化合物」に相当すると認められる。
そして、引用発明における「マレイミド類をABS樹脂の共重合成分として用いたマレイミド系樹脂」について、上記のとおり「マレイミド類」は「N-フェニルマレイミド化合物」に相当し、「マレイミド系樹脂」は「マレイミド類をABS樹脂の共重合成分として用い」て得られたものであり、共重合体樹脂の一種と考えられることから、引用発明における「マレイミド類をABS樹脂の共重合成分として用いたマレイミド系樹脂」は、本願発明における「N-フェニルマレイミド化合物および該N-フェニルマレイミド化合物と共重合可能な一種以上」の「樹脂を共重合して得られる共重合体樹脂」に相当する。

してみると、本願発明と引用発明とは、
「N-フェニルマレイミド化合物および該N-フェニルマレイミド化合物と共重合可能な一種以上の樹脂を共重合して得られる共重合体樹脂。」の点で一致し、下記の点で相違するものと認められる。

<相違点>
本願発明では、N-フェニルマレイミド化合物が、「N-(2,5-ジオキソ-1-フェニル-3-ピロリジニル)-N-フェニルマレアミン酸(PPMA)を0.005?0.10重量%およびN-フェニルフマルアミン酸(PFA)を0.01?0.30重量%」で含むのに対して、引用発明では、N-フェニルマレイミド化合物が、「N-(2,5-ジオキソ-1-フェニル-3-ピロリジニル)-N-フェニルマレアミン酸(PPMA)を0.005?0.10重量%およびN-フェニルフマルアミン酸(PFA)を0.01?0.30重量%」で含むかどうか不明な点。

イ.相違点に係る検討
上記相違点について検討する。なお、以下では、それぞれ、
N-フェニルマレイミドを「PMI」、
N-(2,5-ジオキソ-1-フェニル-3-ピロリジニル)-N-フェニルマレアミン酸を「PPMA」、
N-フェニルフマルアミン酸を「PFA」、
N-フェニルマレアミン酸を「PMA」、及び
2-アミリノ-N-フェニルスクシンイミドを「APSI」という。

引用文献1の記載1bには、「酸成分がABS樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等の樹脂製品中へ混入した場合は当該酸成分が加熱により容易に分解してしまうために樹脂を著しく着色させたり、樹脂製品中に銀条を発生」させるといった課題が指摘されており、引用文献1の記載1cには「製造されたマレイミド類から酸成分を除去するためにマレイミド類を含む有機溶媒層を水洗」する手段が示されている。さらに、引用文献1では記載1dに示されるとおり、上記水洗工程を困難にする不溶性又は難溶性の不純物を分解するために、「マレイミド類を含む有機溶媒層を70℃以上の温度で水洗処理したのち有機溶媒層と水層とを分離」することにより、上記不純物を分解させつつ酸成分をマレイミド類から除去することで、斯かる課題の解決を達成している。
このように、引用文献1では、目的とする共重合体樹脂に対して酸成分は問題を引き起こす原因として捉えられ、酸成分を可能な限り除去することが課題として認識されていることから、引用文献1の記載1fには明示的にPMA、無水マレイン酸やフマル酸が酸成分として挙げられるが、除去すべき酸成分としては、これらに限定される理由はなく、広く酸成分全般を対象としていると考えることが自然であり、その酸成分に包含される各種化合物の含有量もまた可能な範囲で少なくすることが求められているといえる。
ここで、引用文献1において、酸成分の除去方法は上述したとおり、70℃以上の温度で水洗処理し有機溶媒層と水層とを分離することであるから、その方法を繰り返すことで、酸成分の含有量が低減化することは当然想定されることであり、また水洗工程や静置後水層分離工程を繰り返す精製手段は、当業者の周知技術(必要ならば、引用文献2ないし6の記載事項を参照されたい。)でもある。
してみると、引用文献1の課題である、酸成分の低減化を実現するために、引用文献1に記載の事項及び当業者の周知技術を参照して、引用発明における「マレイミド類」に対して、水洗工程及び静置後水層分離工程を繰り返し、精製することで、PMIにおける酸成分をより一層減らし、マレイミド系樹脂としての性能に優れたものを得ようとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
また、PPMA及びPFAを含有する点及びその含有量についても、引用文献1の記載1fに示されるPMIの製造方法は、本願明細書の段落【0098】の比較例1に記載の方法と同じであることに鑑みると、引用発明におけるPMIは酸成分としてPPMA及びPFAを少なくとも含有していることは自明である。そして、それらの含有量については、上記精製手段は酸成分全般を対象とするものであるから、PMAだけにとどまらず、PMAと同様に酸成分の一種であるPPMAやPFAの低減化も同時に達成され、本願発明の含有量範囲を満足すると考えられる。
したがって、PPMAやPFAは引用文献1に明示的には記載されていない酸成分ではあるが、これら新しい酸成分を同定して酸成分の低減化の状態を特定したとしても、引用発明のPMAを一層低減化しようとして上記水洗工程及び静置後水層分離工程の精製工程を繰り返すことで達成される低減化の状態とは、何ら相違するものではない。つまり、PPMA及びPFAを同定し含有量を特定することにより、新たな低減化状態が実現されるものでもないことから、引用発明のPMAが一層低減化された状態を表現する方法として、新たな酸成分としてPPMA及びPFAを同定しその含有量を特定することについても、当業者が所望に応じて適宜選択すればよいことにすぎず、この点に新たな技術的意義が導き出せるものでもない。

ウ.本願発明の効果について
本願明細書の段落【0016】には、本願発明の効果として、共重合体の着色、銀条、フィッシュアイなどの現象が低減され、共重合体の品質である外観、耐熱性、強度が向上する点が挙げられている。しかし、引用文献1の記載1bには酸成分が混入すると樹脂を著しく着色させたり、銀条を発生させることが示されている。よって、引用発明のマレイミド系樹脂から酸成分を減少させることで、上記着色や銀条などの外観に係る現象が低減されることは、当業者であれば予測し得る事項であり格別顕著なものではない。
また、引用文献1の記載1bには「重合法において重合系への酸成分の混入は重合系を不安定にし凝固、合一などをひきおこすため好ましくない」ことが挙げられており、重合系が不安定化すれば当然に得られる共重合樹脂の各種物性にも悪影響が出ることは当然に想定される。よって、引用発明のマレイミド類から酸成分が低減化することで、マレイミド類やそれと共重合する樹脂の本来持ち得る物性である耐熱性や強度が、酸成分が存在する場合に比べ向上することについても予測可能なことである。
したがって、本願発明の効果が、引用発明、引用文献1に記載の事項及び当業者の周知技術から、当業者が予期し得ない程度の格別顕著なものとは認められない。

エ.小括
したがって、本願発明は、引用発明、すなわち引用文献1に記載された発明、引用文献1に記載の事項及び当業者の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)請求人の主張について
請求人は、平成28年9月29日提出の意見書において、上記理由3につき、概ね、以下の点を主張する。

ア. 引用文献1ないし6には、PPMA及びPFA自体は何ら記載されておらず、ましてやPPMA及びPFAが得られる共重合体樹脂の外観、耐熱性、強度に影響を及ぼすことは何ら記載されていない点。

イ. 本願明細書の段落【0116】の表1の実施例2及び3では、PMAの含有量が0.030重量%及び0.022重量%と比較例1より高いものの、PPMA、PFA及びAPSIの含有量は比較例1より低い点を挙げ、「ある不純物量が低減されているPMI」と「本願特定の不純物の量が低減されているPMI」とは組成が異なるものである点。

ウ. 反応系中に無水マレイン酸が存在すると、APSIと反応してPPMAを生成してしまうことなど、反応後の混合物中には様々な不純物が様々な量および比率で混在するため、単に洗浄を(複数回)行ったとしても、一様に『特定の不純物を特定量の範囲まで低減されたもの』は得られない点。

しかし、請求人の上記主張ア.ないしウ.は、いずれも以下のとおり理由がなく、採用することができない。

まず、ア.の主張については、確かに、引用文献1ないし6には、PPMAやPFAに直接言及する記載はない一方、これらは共に酸成分の一種であることに相違はない。引用文献1の記載1bには「かかる酸成分の重合系への混入はマレイミド類の製造工程中において副生したマレイン酸、フマル酸などの不純物がマレイミド類製品中に多く含有」とあり、引用文献1ではマレイミド類の製造工程中において不純物として酸成分が副生することを認識しているが、この不純物としての酸成分は、マレイン酸やフマル酸に限らず、記載1fには他に無水マレイン酸やPMAも例示されており、目的化合物であるPMIを得る際に副生し得る酸化合物全般を認識していると考えらえる。また前述のとおり、記載1bでは酸成分が種々の問題を引き起こす原因であり、その酸成分の低減方法の工程において、記載1dには「不溶解性の副反応生成物」を分解せしめ、酸成分を除外するための手段を講じていることも勘案すると、引用文献1では、マレイミド類を得る際に副生し得る酸成分を広く捉え、積極的にその低減化を検討していたと解される。してみると、PPMA及びPFAについて、引用文献1では酸成分として明示的に記載されていないにしても、目的化合物であるPMIを得る際に副生し得る酸成分である以上、PPMA及びPFAもまた除去すべき酸化合物に包含されるものとして、引用文献1では認識されていたと理解することができる。
したがって、前述の「イ.相違点に係る検討」で説示したとおり、引用文献1に記載されている水洗工程及び静置後水層分離工程を繰り返し実施することで、引用発明におけるマレイミド類における酸成分をより一層減らし共重合体樹脂としての性能に優れたものを得ようとする工程の中で、上記PPMAやPFAも他の酸成分と同様に低減化され、本願発明の含有量となっているものと認められる。
また、共重合体樹脂の外観、耐熱性、強度への影響についても、前述の「イ.相違点に係る検討」において説示したとおり、本願発明の効果が、引用発明、引用文献1に記載の事項及び当業者の周知技術から、当業者が予期し得ない程度の格別顕著なものとは認められない。

次に、イ.の主張については、本願明細書の比較例1、実施例2、及び実施例3の結果は、確かにPMAがそれぞれ0.010重量%、0.030重量%、0.022重量%と増えているのに対して、PPMA及びPFAは0.12及び0.31重量%、0.07及び0.30重量%、0.10及び0.25%と低くなっている。しかし、引用発明の共重合体樹脂を製造する方法は、記載1fにあるとおりPMAが0.01重量%である実施例1に基いており、さらにその酸成分を減らそうとする場合に、PMAを0.030重量%や0.022重量%とすることで達成しようとするよりは、PMAを0.01重量%をより少なくしようと検討することが自然である。そして、酸成分の低減化方法としては、前述の「イ.相違点についての判断」において説示したとおり、水洗工程及び静置後水層分離工程を繰り返す精製手段を採用することにある。そうすることで、上記PMAは除去され、その含有量は0.01重量%から低減化し、その他の酸成分も上述のとおり減少していくものと認められる。また、このことは本願明細書の実施例1、4及び5をみれば、PMAが比較例1にある0.010重量%に比べ、それぞれ0.008重量%、0.009重量%、0.008重量%と減るにつれ、PPMA及びPFAも0.06及び0.014重量%、0.08及び0.08重量%、0.02及び0.06重量%と減少しており、これらの点からも裏付けられることである。

そして、ウ.の主張については、引用文献1には無水マレイン酸とAPSIとが反応してPPMAを生成することは記載されていないが、マレイミド類中の酸成分を低減することが技術課題であり、「マレイミド類を含む有機溶媒層を70℃以上の温度で水洗処理」を行うことでPPMAの生成要因である無水マレイン酸も低減し、酸成分全般が水洗処理により低減していく中で、当然にPPMA、ほか酸成分も減少するものといえることから、上記「特定の不純物」が酸成分である以上、その含有量は一様に低減化していくと考えるのが自然であるといえる。

(5)理由3についてのまとめ
よって、本願発明は、引用発明、すなわち引用文献1に記載された発明、引用文献1に記載の事項及び当業者の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 当審の判断のまとめ
以上のとおり、本願発明、すなわち本願請求項1に係る発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に係る発明につき検討するまでもなく、本願は、同法第49条第2号に該当するものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願は、その余につき検討するまでもなく、特許法第49条第2号に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-25 
結審通知日 2016-11-29 
審決日 2016-12-15 
出願番号 特願2013-505968(P2013-505968)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C08F)
P 1 8・ 537- WZ (C08F)
P 1 8・ 121- WZ (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 幸司  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 橋本 栄和
山本 英一
発明の名称 N-フェニルマレイミド化合物およびそれを使用して得られる共重合体組成物  
代理人 八田国際特許業務法人  

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