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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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異議2016700046 | 審決 | 特許 |
異議2016700048 | 審決 | 特許 |
異議2016701146 | 審決 | 特許 |
異議2016701033 | 審決 | 特許 |
異議2016700047 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A61L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61L 審判 全部申し立て 発明同一 A61L |
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管理番号 | 1324818 |
異議申立番号 | 異議2016-700264 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-03-30 |
確定日 | 2016-12-14 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5788179号発明「コーティングおよびコーティング方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5788179号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし22〕、〔23ないし29、41〕、〔30ないし40〕について訂正することを認める。 特許第5788179号の請求項1、4ないし8、11ないし14、16ないし23、25ないし47に係る特許を維持する。 特許第5788179号の請求項2ないし3、9ないし10、15、24に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5788179号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし47に係る特許についての出願は、平成21年2月27日(パリ条約による優先権主張 2008年2月29日、2008年5月9日 いずれも米国(US))を国際出願日として出願され、平成27年8月7日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成28年3月30日に特許異議申立人 清水 正憲(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年6月6日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年9月7日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、その訂正の請求に対して異議申立人から平成28年10月21日付けで意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 一群の請求項1?22に係る訂正 (1)訂正の内容 本件訂正請求による一群の請求項1?22に係る訂正は、以下の訂正事項1?18のとおりである。なお、下線は訂正請求書のとおりである。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「医療用インプラントのためのコーティングであって、前記コーティングの少なくとも一部が骨結合剤を含有し、前記コーティングの同じおよび/または異なる部分が抗菌金属剤を含有し、前記抗菌金属剤が個々の粒子で構成され、抗菌金属剤が銀を含み、さらに、コーティングが骨結合剤に置換された銀をさらに含み、前記銀置換骨結合剤がコーティングの厚さ全体にわたって均質に分布されている銀濃度を有し、さらに、骨結合剤がカルシウム誘導体であるコーティング。」を「医療用インプラントのための、還元条件下でプラズマ溶射されているコーティングであって、前記コーティングが、置換された銀を含む銀置換カルシウム誘導体である銀置換骨結合剤を含有し、前記コーティングの少なくとも一部に金属銀または銀化合物の粒子である抗菌金属剤をさらに含有し、前記銀置換骨結合剤がコーティングの厚さ全体にわたって均質に分布されている銀濃度を有する、コーティング」に訂正する。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 エ 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4の「金属剤が、個々の金属銀粒子としてコーティング中に存在する、請求項1から3のいずれか一項に記載のコーティング。」を「抗菌金属剤が、個々の金属銀粒子としてコーティング中に存在する、請求項1に記載のコーティング」に訂正する。 オ 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5の「金属銀粒子の形状が球または不規則である、請求項3または4に記載のコーティング。」を「金属銀粒子の形状が球または不規則である、請求項1または4に記載のコーティング」に訂正する。 カ 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項7の「銀置換骨結合剤が、銀を0.1から10重量%含有する、請求項1から6の何れか1項に記載のコーティング。」を「銀置換骨結合剤が、銀を0.1から10重量%含有する、請求項1、および4から6の何れか1項に記載のコーティング」に訂正する。 キ 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項9を削除する。 ク 訂正事項8 特許請求の範囲の請求項10を削除する。 ケ 訂正事項9 特許請求の範囲の請求項11の「プラズマ溶射が真空中で実施される、請求項10に記載のコーティング。」を「プラズマ溶射が真空中で実施される、請求項1、および4から8のいずれか一項に記載のコーティング」に訂正する。 コ 訂正事項10 特許請求の範囲の請求項12の「抗菌金属剤の濃度が、抗菌効果を有するのに十分である、請求項1から11のいずれか一項に記載のコーティング。」を「抗菌金属剤の濃度が、抗菌効果を有するのに十分である、請求項1、4から8、および11のいずれかー項に記載のコーティング」に訂正する。 サ 訂正事項11 特許請求の範囲の請求項13の「金属剤の濃度が0.1から10重量%である、請求項12に記載のコーティング。」を「抗菌金属剤の濃度が0.1から10重量%である、請求項12に記載のコーティング」に訂正する。 シ 訂正事項12 特許請求の範囲の請求項14の「前記カルシウム誘導体が、ヒドロキシアパタイトおよび/またはβ型リン酸3カルシウムの1種または組合せである、請求項1から13の何れか1項に記載のコーティング。」を「前記カルシウム誘導体が、ヒドロキシアパタイトおよび/またはβ型リン酸3カルシウムの1種または組合せである、請求項1、4から8、および11から13の何れか1項に記載のコーティング」に訂正する。 ス 訂正事項13 特許請求の範囲の請求項15を削除する。 セ 訂正事項14 特許請求の範囲の請求項16の「コーティングの厚さが、1μmよりも厚い、請求項1から15のいずれか一項に記載のコーティング。」を「コーティングの厚さが、1μmよりも厚い、請求項1、4から8、および11から14のいずれか一項に記載のコーティング」に訂正する。 ソ 訂正事項15 特許請求の範囲の請求項19の「金属基材に対するコーティングの引張り接着強さが15MPa以上である、請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。」を「医療用インプラントの金属基材に対するコーティングの引張り接着強さが15MPa以上である、請求項1、4から8、11から14、および16から18のいずれか一項に記載のコーティング」に訂正する。 タ 訂正事項16 特許請求の範囲の請求項20の「1つまたは複数の骨伝導性、骨促進性、および/または抗菌特性を有する、請求項1から19のいずれか一項に記載のコーティング。」を「1つまたは複数の骨伝導性、骨促進性、および/または抗菌特性を有する、請求項1、4から8、11から14、および16から19のいずれか一項に記載のコーティング」に訂正する。 チ 訂正事項17 特許請求の範囲の請求項21の「骨結合剤が、下記の物質、即ち、カーボネート、フッ化物、ケイ素、マグネシウム、ストロンチウム、バナジウム、リチウム、銅、および/または亜鉛の1種または複数で置換されている、請求項1から20のいずれか一項に記載のコーティング。」を「銀置換骨結合剤が、下記の物質、即ち、カーボネート、フッ化物、ケイ素、マグネシウム、ストロンチウム、バナジウム、リチウム、銅、および/または亜鉛の1種または複数で置換されている、請求項1、4から8、11から14、および16から20のいずれか一項に記載のコーティング」に訂正する。 ツ 訂正事項18 特許請求の範囲の請求項22の「少なくとも1つの面が、請求項1から21のいずれか一項に記載のコーティングによって少なくとも部分的にコーティングされている、少なくとも1つの面を含む医療用インプラント。」を「少なくとも1つの面が、請求項1、4から8、11から14、および16から21のいずれか一項に記載のコーティングによって少なくとも部分的にコーティングされている、少なくとも1つの面を含む医療用インプラント」に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項9及び10に基づいて、「還元条件下でプラズマ溶射されている」コーティングに限定し、骨結合剤と金属抗菌剤に関して、それぞれ、本件特許明細書の【0026】、【0031】、及び訂正前の請求項2、3、本件特許明細書の【0020】、【0030】、【0039】に基づいて、「前記コーティングが、置換された銀を含む銀置換カルシウム誘導体である銀置換骨結合剤を含有し」と「前記コーティングの少なくとも一部に金属銀または銀化合物の粒子である抗菌金属剤をさらに含有し」と明確にするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 イ 訂正事項2、3、7、8、13について 訂正事項2、3、7、8、13は、それぞれ、訂正前の請求項2、3、9、10、15を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 ウ 訂正事項4について 訂正事項4は、引用する請求項1との用語の不一致を訂正するとともに、訂正事項2、3で削除された請求項を引用しないものに訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 エ 訂正事項11について 訂正事項11は、引用する請求項12との用語の不一致を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 オ 訂正事項15について 訂正事項15は、本件特許明細書の【0039】、【0049】に基づいて、「医療用インプラントの金属基材」と限定するとともに、訂正事項2、3、7、8、13で削除された請求項を引用しないものに訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 カ 訂正事項17について 訂正事項17は、引用する請求項1との用語の不一致を訂正するとともに、訂正事項2、3、7、8、13で削除された請求項を引用しないものに訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 キ 訂正事項5、6、9、10、12、14、16、18について 訂正事項5、6、9、10、12、14、16、18は、それぞれ訂正事項2、3、7、8、又は13で削除された請求項を引用しないものに訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 ク 一群の請求項について 訂正前の請求項2?22は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項であるから、請求項1?22は一群の請求項であり、上記訂正事項1?18は、一群の請求項に対して請求されたものである。 2 一群の請求項23?29、41に係る訂正 (1)訂正の内容 本件訂正請求による一群の請求項23?29、41に係る訂正は、以下の訂正事項1?6のとおりである。なお、下線は訂正請求書のとおりである。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項23の「銀含有カルシウム誘導体粉末が、イオン交換によって生成され、その後、基材上にプラズマ溶射される、抗菌コーティングを調製するための方法であって、銀含有カルシウム誘導体粉末が、a.カルシウムイオンを銀イオンと交換するのに十分な時間および温度で、カルシウム誘導体粉末を銀塩溶液中に懸濁するステップと、b.前記イオン交換され洗浄されたカルシウム誘導体を乾燥するステップとによって生成される、方法。」を「銀含有カルシウム誘導体粉末が、イオン交換によって生成され、その後、基材上にプラズマ溶射され、プラズマ溶射するステップが、金属銀粒子の形成をもたらし、プラズマ溶射が還元環境下で実施される、医療用インプラントのための抗菌コーティングを調製するための方法であって、銀含有カルシウム誘導体粉末が、a.カルシウムイオンを銀イオンと交換するのに十分な時間および温度で、カルシウム誘導体粉末を銀塩溶液中に懸濁するステップと、b.前記イオン交換されたカルシウム誘導体粉末を洗浄するステップと、c.前記イオン交換され洗浄されたカルシウム誘導体を乾燥するステップとによって生成される、方法。」に訂正する。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項24を削除する。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項25の「カルシウム誘導体がリン酸カルシウムである、請求項23または24に記載の方法。」を「カルシウム誘導体がリン酸カルシウムである、請求項23に記載の方法。」に訂正する。 エ 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項27の「カルシウム誘導体粉末と銀塩溶液との間のイオン交換反応が、20℃から95℃の温度で24から168時間引き起こされる、請求項23から26のいずれか一項に記載の方法。」を「カルシウム誘導体粉末と銀塩溶液との間のイオン交換反応が、20℃から95℃の温度で24から168時間引き起こされる、請求項23、25、および26のいずれか一項に記載の方法。」に訂正する。 オ 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項28の「銀塩溶液が、10^(-2)?10^(-4)Mの濃度を有する硝酸銀またはフッ化銀であり、HA粉末に対する硝酸銀の質量比が0.01?0.1の範囲内にある、請求項23から27のいずれか一項に記載の方法。」を「前記カルシウム誘導体粉末がHA粉末であり、銀塩溶液が、10^(-2)?10^(-4)Mの濃度を有する硝酸銀であり、前記HA粉末に対する硝酸銀の質量比が0.01?0.1の範囲内にあるか、または、銀塩溶液が、10^(-2)?10^(-4)Mの濃度を有するフッ化銀であり、前記HA粉末に対するフッ化銀の質量比が0.01?0.1の範囲内にある、請求項23および25から27のいずれか一項に記載の方法」に訂正する。 カ 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項29の「銀含有カルシウム誘導体粉末もまた、以下の物質、即ち、カーボネート、フッ化物、ケイ素、マグネシウム、ストロンチウム、バナジウム、リチウム、銅、および亜鉛の1種または複数で置換される、請求項24から28のいずれか一項に記載の方法。」を「銀含有カルシウム誘導体粉末もまた、以下の物質、即ち、カーボネート、フッ化物、ケイ素、マグネシウム、ストロンチウム、バナジウム、リチウム、銅、および亜鉛の1種または複数で置換される、請求項23、および25から28のいずれか一項に記載の方法」に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項42及び本件特許明細書の【0014】に基づいて、「プラズマ溶射するステップが、金属銀粒子の形成をもたらし、プラズマ溶射が還元環境下で実施される、医療用インプラントのための」抗菌コーティングを調製するための方法と限定するとともに、訂正前の請求項24に基づき、「b.前記イオン交換されたカルシウム誘導体粉末を洗浄するステップ」を有するものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 イ 訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項24を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 ウ 訂正事項3、4、6について 訂正事項3、4、6は、それぞれ訂正事項2で削除された請求項を引用しないものに訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 エ 訂正事項5について 訂正事項5は、本件特許明細書の【0016】、【0017】、【0079】及び【0080】の記載に基づき、訂正前の請求項28の「HA粉末」について、「前記カルシウム誘導体粉末がHA粉末であり」として、引用する請求項23との関係を明確にするとともに、銀塩溶液が硝酸銀である場合とフッ化銀である場合とを明確に分けて記載することによって、それぞれの質量比の範囲を明瞭にし、さらに、訂正事項2で削除された請求項を引用しないものに訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 オ 一群の請求項について 訂正前の請求項24?29及び41は、訂正前の請求項23を直接又は間接的に引用する請求項であるから、請求項23?29及び41は一群の請求項であり、上記訂正事項1?6は、一群の請求項に対して請求されたものである。 3 一群の請求項30?40に係る訂正 (1)訂正の内容 本件訂正請求による一群の請求項30?40に係る訂正は、以下の訂正事項1のとおりである。なお、下線は訂正請求書のとおりである。 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項30の「銀含有カルシウム誘導体粉末が、ゾルゲル法によって生成され、その後、基材上にプラズマ溶射される、抗菌コーティングを調製するための方法であって、銀含有カルシウム誘導体粉末が、(a)カルシウム、銀、および/またはリン前駆体の組合せを混合して、均質なゾルゲル溶液を得るステップ、(b)ゾルゲル溶液を、20?95℃の温度で適切な時間、経時変化させるステップ、(c)ゾルゲル溶液を、室温を超える温度で適切な時間、乾燥し焼成するステップ、(d)焼成した粉末を、後で行われるプラズマ溶射プロセスに合わせて所望の粒度分布に加工するステップによるゾルゲル法によって生成される、方法。」を「銀含有カルシウム誘導体粉末が、ゾルゲル法によって生成され、その後、基材上にプラズマ溶射され、プラズマ溶射するステップが、金属銀粒子の形成をもたらし、プラズマ溶射が還元環境下で実施される、医療用インプラントのための抗菌コーティングを調製するための方法であって、銀含有カルシウム誘導体粉末が、(a)カルシウム、銀、およびリン前駆体の組合せを混合して、均質なゾルゲル溶液を得るステップ、(b)ゾルゲル溶液を、20?95℃の温度で適切な時間、経時変化させるステップ、(c)ゾルゲル溶液を、室温を超える温度で適切な時間、乾燥し焼成するステップ、(d)焼成した粉末を、後で行われるプラズマ溶射プロセスに合わせて所望の粒度分布に加工するステップによるゾルゲル法によって生成される、方法」に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項42及び本件特許明細書の【0014】に基づいて、「プラズマ溶射するステップが、金属銀粒子の形成をもたらし、プラズマ溶射が還元環境下で実施される、医療用インプラントのための」抗菌コーティングを調製するための方法と限定するとともに、全ての成分が必須の前駆体とはならない場合を含む技術的に不明瞭であった記載を、「(a)カルシウム、銀、およびリン前駆体の組合せを混合して、均質なゾルゲル溶液を得るステップ」と明確にするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 イ 一群の請求項について 訂正前の請求項31?40は、訂正前の請求項30を直接又は間接的に引用する請求項であるから、請求項30?40は一群の請求項であり、上記訂正事項1は、一群の請求項に対して請求されたものである。 4 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?22〕、〔23?29、41〕、〔30?40〕についての訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 上記第2で述べたように、本件訂正請求は認められるので、本件の請求項1?47に係る発明(以下、「本件訂正発明1」などともいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?47に記載された事項により特定されるとおりのものである。 2 取消理由の概要 請求項1?47に係る特許に対して平成28年6月6日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 なお、以下、甲第1号証などを単に「甲1」という。 (1)本件特許の請求項1?6、9?20、22に係る発明は、引用文献1(甲1)又は引用文献2(甲2)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (2-1)本件特許の請求項1?22に係る発明は、引用文献1又は引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (2-2)本件特許の請求項23?29、41に係る発明は、引用文献3(甲18)、引用文献4(甲11)、引用文献5(甲16)、引用文献6(甲7)、引用文献7(甲3)、引用文献8(甲5)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (2-3)本件特許の請求項30?40に係る発明は、引用文献9(甲19)、引用文献4、引用文献5、引用文献6、引用文献7、引用文献10(甲6)、引用文献11(甲21)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (3)本件特許の請求項1?6、9?20、22に係る発明は、先願1(甲1)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が先願1に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が先願1の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (4)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は取り消すべきものである。 (5)本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は取り消すべきものである。 (6)本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は取り消すべきものである。 3 甲号証の記載 (1)引用文献1(先願1)、2、3、9の記載及び引用発明1?4 ア 引用文献1、先願1(いずれも甲1):特開2008-73098号公報 引用文献1には、以下のことが記載されている。 (1a)「【請求項1】 インプラントの所定部位に結晶度が90%以下のリン酸カルシウム系材料からなる消失性コーティング膜を形成し、抗菌剤又は抗菌薬を含有させてなることを特徴とする生体インプラント。 【請求項2】 リン酸カルシウム系材料がハイドロキシアパタイト(HA)、第3リン酸カルシウム(TCP)、第4リン酸カルシウム(TeCP)を含むリン酸カルシウム系セラミックス、リン酸カルシウム系ガラス、およびリン酸カルシウム系ガラスセラミックスから選ばれる1種又は2種以上の混合物からなる請求項1記載の生体インプラント。 【請求項3】 膜形成方法が、フレーム溶射、高速フレーム溶射、プラズマ溶射などの溶射法又はスパッタリング、イオンプレーテイング、イオンビーム蒸着、イオンミキシング法などの物理的蒸着法或いはゾルゲル法などの湿式コーティング法が選択される請求項1記載の生体インプラント。」 (1b)「【0010】 膜形成方法が、フレーム溶射、高速フレーム溶射、プラズマ溶射などの溶射法又はスパッタリング、イオンプレーテイング、イオンビーム蒸着、イオンミキシング法などの物理的蒸着法或いはゾルゲル法などの湿式コーティング法が選択されるが、膜生成方法は生成膜の結晶度に関連する。・・・ ・・・ 他方、溶射方法は5μm以上100μmまでの厚いコーティング膜を形成するのに適しており、結晶度100%のHAを溶射すると通常結晶度10%程度のコーティング膜が形成される。・・・」 (1c)「【0015】 本発明のコーティング膜に抗菌剤又は抗生剤を担持させる方法は、薬剤の種類によって異なる。・・・一方、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオンなどの金属イオンの抗菌作用を利用する無機系抗菌剤の場合はこれらを予めリン酸カルシウム系材料に担持させ、上記各種コーティング法を採用して担持させることができる。なお、抗菌剤と抗生剤とを両方担持させることができる。」 (1d)「【実施例1】 【0016】 HA97%、酸化銀3%を混合し、フレーム溶射法にてチタン基板上に平均20μmの溶射被膜を形成させた。・・・ ・・・ 【実施例5】 【0020】 銀1.85%を含有するリン酸カルシウム系ガラス粉末をフレーム法にてチタン基板上に平均40μmの溶射被膜を形成させた。・・・」 これを踏まえて、本件訂正発明1に倣って書き直すと、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。 「生体インプラントのための、フレーム溶射、高速フレーム溶射、プラズマ溶射などの溶射法で溶射されている消失性コーティング膜であって、前記消失性コーティング膜が、結晶度が90%以下のヒドロキシアパタイト(HA)などのリン酸カルシウム系材料を含有し、前記消失性コーティング膜の少なくとも一部に銀などの抗菌剤をさらに含有する、消失性コーティング膜。」 イ 引用文献2(甲2):J Mater Sci:Mater Med(2008)19:3603-3609 引用文献2には、以下のことが記載されている。なお、引用文献2は英語のため、記載箇所は翻訳文で示す。 (2a)「プラズマ溶射銀含有HAコーティングの抗菌及び細胞毒性」(標題) (2b)「銀含有ヒドロキシアパタイト(HA)コーティングを、真空プラズマ溶射(VPS)法でチタン基板に作製し、コーティングの抗菌特性を試験した。」(3603頁左欄1?4行) (2c)「骨に対するインプラントの結合を向上させるために、プラズマ溶射を用いて、チタンやチタン合金インプラントにヒドロキシアパタイト(HA)コーティングが一般的に適用されている[1]。しかし、細菌感染症は、通常コーティングされたインプラント上の細菌の付着及びコロニー形成によって引き起こされる[2,3]。術後感染症の発生率を低減するために、ラクトフェリン、ビオロゲン、ケイ素、銀、銅、亜鉛などの様々な物質を含む抗菌材料について研究が行われている[4-8]。 銀と銀イオンは、広い抗菌活性スペクトルを有するだけでなく、強い抑制及び殺菌効果を有することが知られている[9-14]。ゾル-ゲル法、イオン注入、イオン交換及びスパッタリングのような、コーティング材料に銀を導入する異なる方法がある[15-19]。いくつかの研究で、銀含有HAコーティングとフィルムの抗菌効果が報告され[7、18、20]、これらのコーティングとフィルムは、良好な抗菌効果を発揮することが示された。しかし、プラズマ溶射HAコーティングは広く臨床応用されているが、銀を添加したその抗菌特性は報告されていない。 本論文では、プラズマ溶射銀含有HAコーティングの抗菌及び生物学的特性を研究した。」(3603頁左欄20行?同頁右欄21行) (2d)「2.1 コーティングの作製 15?50μmの粒径範囲を有するHA粉末を、スイスのSulzer Metco社から入手した。純度99.9%、代表サイズ40?100μmである銀粉末を、本研究の抗菌添加剤として用いた。表1に示す組成を有するHA粉末と銀粉末を、2時間ボールミルを行い、コーティングの作製に供した。 表2 溶射パラメータ プラズマガス Ar 40slpm プラズマガス H_(2) 10slpm スプレー距離 300mm チャンバ圧力 100mbar 粉末キャリアガス Ar 2.0slpm 電流 650A 電圧 68V slpm:毎分標準リットル 10×30×2mm^(3)のチタン板を基板に用いた。真空プラズマ溶射(VPS)システム(F4-VB、Sulzer Metco社、スイス)を用い、表2に示す溶射パラメータ条件で、HAと銀含有HAのコーティングを作製した。」(3603頁右欄27行?3604頁左欄8行) (2e)「溶射HA、HA1、HA3及びHA5コーティングのXRDパターンを図1に示す。これは、銀含有HAコーティングはHA、TCP、CaO及びAgから構成されていることを示している。TCPとCaOのピークは、プラズマ溶射時にHAが分解したことを示す。・・・ 大腸菌、緑膿菌及び黄色ブドウ球菌に対する銀含有HAコーティングの抗菌効果を図2-4に示す。・・・銀含有HAコーティングの計算された抗菌率を表3に示す。これは、3種類のすべての細菌に対して抗菌率が95%以上であることを明らかにする。」(3606頁左欄2行?同頁右欄4行) これを踏まえて、本件訂正発明1に倣って書き直すと、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。 「チタンやチタン合金インプラントのための、還元条件下でプラズマ溶射されているコーティングであって、前記コーティングが、ヒドロキシアパタイト(HA)である骨結合剤を含有し、前記コーティングの少なくとも一部に金属銀である抗菌金属剤をさらに含有する、コーティング。」 ウ 引用文献3(甲18):Key Engineering Materials Vols.280-283(2005)pp.1529-1532 引用文献3には、以下のことが記載されている。なお、引用文献3は英語のため、記載箇所は翻訳文で示す。 (3a)「銀含有抗菌ヒドロキシアパタイト粉末の製造及び効果」(標題) (3b)「本論文では、Ag含有ヒドロキシアパタイト抗菌セラミック粉末の製造及びその抗菌活性が報告される。この抗菌粉末は、強力な抗菌効果を発揮するだけでなく、高い熱及び化学侵食に対する耐性を有する。さらに、白色度が高い。したがって、セラミック、プラスチック、繊維、合成樹脂又は抗菌材料用などに広く使用することができる[3]。」(1529頁の「Introduction」の項目の8?12行) (3c)「抗菌銀含有ヒドロキシアパタイト粉末の製造。100gのヒドロキシアパタイト、8gの硝酸銀、2gの硝酸アルミニウム、及び2gのフッ化ナトリウムを、100mlの蒸留水に添加し、1時間撹拌し、5時間静置し、蒸留水で十分に洗浄し、次いで乾燥する。約5%の銀を含有する抗菌銀含有ヒドロキシアパタイト粉末が得られる。その粉末を、1100℃で1時間処理した。」(1529頁の「Experimental」の項目の5?9行) (3d)「抗菌メカニズムと効果の考察・・・ 黄色ブドウ球菌と大腸菌に対する抗菌Ag含有ヒドロキシアパタイトセラミック粉末の抗菌効果の結果を表1と表2に示す。銀粉末を含有するヒドロキシアパタイトは、黄色ブドウ球菌と大腸菌に対する強力な抗菌活性を有することが表1から明らかである。・・・ ・・・銀は、粉末中で二つの状態を有することができ、一つは、ヒドロキシアパタイトの構造内に入り、他方は、リン酸銀複合体である。抗菌粉末は、高温で銀単量体を含む。それがどのような状態であるかによらず、少量の銀は、強力な抗菌能力を示す。」(1531頁5行?1532頁6行) (3e)「伝統的な生物学的セラミックであるため、Ag含有ヒドロキシアパタイトセラミック粉末は、人間にまったく有害でない。また、異なる温度で白色度が高い。したがって、銀含有ヒドロキシアパタイトは様々な用途があり、抗菌材料の様々な製品に加えることができる。」(1532頁15?18行) これらを踏まえて、本件訂正発明23に倣って書き直すと、引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているといえる。 「抗菌銀含有ヒドロキシアパタイト粉末が、 a.ヒドロキシアパタイト粉末を、硝酸銀、硝酸アルミニウム及びフッ化ナトリウムと蒸留水に添加し、1時間攪拌し、5時間静置するステップと、 b.前記イオン交換されたヒドロキシアパタイト粉末を蒸留水で洗浄するステップと、 c.前記イオン交換され洗浄されたヒドロキシアパタイト粉末を乾燥するステップと によって生成される、方法。」 エ 引用文献9(甲19):Journal of Sol-Gel Science and Technology 33,229-239,2005 引用文献9には、以下のことが記載されている。なお、引用文献9は英語のため、記載箇所は翻訳文で示す。 (9a)「ゾル-ゲル法により合成した抗菌ハイドロキシアパタイト粒子」(標題) (9b)「ゾル-ゲル法を、銀200?20000ppm又は亜鉛塩の添加による抗菌ヒドロキシアパタイト(HAp)粉末を合成するために適用した。・・・カルシウム源とリン源として、それぞれ、Ca(NO_(3))_(2)-4H_(2)O及びトリエチルホスフェート、溶媒としてエタノール、80℃で16時間熟成し、24時間80℃でゲル化し乾燥し、その後、350℃以上で焼成する。・・・ブレインハートインフュージョン(BHI)寒天プレート上の固体抗菌テストでは、Ag/Zn添加(2000ppm以上)サンプルのまわりに微生物阻害ゾーンが形成された。・・・したがって、この研究で開発されたAg/Zn添加HAp粉末は微生物阻害特性を示し、固体抗菌剤としての可能性を示す。」(Abstract) (9c)「骨伝導性を向上させるためや、一次治癒期を向上させるために、HApコーティングが広く、金属インプラントの表面に適用されている[10]。」(230頁左欄13?16行) (9d)「ほとんどのインプラントは、直接ヒト組織にそのまま適用され、整形外科手術後の感染症は頻繁かつ深刻である。そのため、抗菌機能を持つ生体材料は、少ない感染の可能性の利点を提供し、したがって、その適用可能性と保存期間を延長する。」(230頁左欄28?33行) (9e)「ヒドロキシアパタイトへの抗菌イオンの添加は、公開された文献のほとんどがイオン交換プロセスを利用した。しかし、抗菌剤は単に表面上に蓄積し、急速に放出し、高い毒性にもつながった[14,16,21]。ゾル-ゲル法は置換イオンを直接HAp格子中に挿入し[22,23]、HApの非常に少ない溶出特性による安定な化合物を提供する[14,24]。よく均一に置換したHApは、良好な徐放性担体として期待される。」(230頁右欄5?15行) (9f)「2.1.ゾル-ゲル法で得られるHAp粉末 HAp前駆体は、無水エタノール(・・・)中でCa(NO_(3))_(2)-4H_(2)O(・・・)とトリエチルホスフェート(・・・)を混合して製造した。原子比Ca/Pは1.67であった。・・・AgNO_(3)(・・・)及びZn(NO_(3))_(2)-6H_(2)O(・・・)を、それぞれ、抗菌剤として前駆体に添加した。前駆体への添加量は、カルシウム原子に対する原子比で200?20000ppmとした。前駆体を16時間80℃で熟成し、次いで24時間ゲル化させ、80℃で乾燥した。・・・ 乾燥したゲルを、次いで5℃/分の昇温速度で、異なる温度(250?650℃)で焼成し、30分維持し、その後空冷した。」(230頁右欄19行?231頁左欄6行) (9g)「図2(b)に、600℃で焼成した後のAg/Zn添加焼成粉末のXRDパターンを示す。すべてのサンプルは、HAp結晶相を有し、20000ppm-Agサンプル以外は他の結晶相が存在しない。Agの添加が20000ppmに達したときAg_(2)OとCaOのピークが観察される。」(232頁右欄8?13行) (9h)「本研究で開発した方法及びHAp粉末は、接触微生物阻害を明らかにし、これらはコーティング及び他の抗菌用途に適用するのに適している。」(239頁左欄18?21行) これらを踏まえて、本件訂正発明30に倣って書き直すと、引用文献9には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されているといえる。 「銀添加ヒドロキシアパタイト(HAp)粉末が、 (a)Ca(NO_(3))_(2)-4H_(2)O、AgNO_(3)、トリエチルホスフェートを混合して、均質なゾルゲル溶液を得るステップ、 (b)ゾルゲル溶液を、80℃の温度で16時間熟成し、24時間ゲル化させるステップ、 (c)ゾルゲル溶液を、80℃で乾燥し、250?650℃で焼成するステップ、 によるゾルゲル法によって生成される、方法。」 (2)引用文献4?8、10?11、及び取消理由で参照した他の甲号証の記載 ア 引用文献4(甲11):Journal of the Ceramic Society of Japan,108[9],865-868(2000) ヒドロキシアパタイトを、生体材料の基材表面に溶射・被覆することが記載されている(865頁左欄2?10行)。 イ 引用文献5(甲16):歯科学報、103(6):481-490(2003) ヒドロキシアパタイトを溶射材料として生体インプラントの溶射コーティングに利用することが記載されている(484頁左欄下から7行?同頁右欄17行及び表3)。 ウ 引用文献6(甲7):第37回日本人工関節学会 プログラム・抄録集、会期:平成19年2月2日(金)・3日(土) 「P1-1 銀系抗菌生体材料の開発(1)-コーティング技術の開発-」において、酸化銀を添加したハイドロキシアパタイト粉末をフレーム溶射法でチタン基材に被膜形成したところ、被膜はチタン表面に均一にコーティングされており、放射法に特有の溶融粒子の積層構造が観察されたことが示されている(203頁上段)。 エ 引用文献7(甲3):Materials Science Forum Vols.544-545(2007)pp841-844 銀担持リン酸ジルコニウム抗菌剤を含む真空プラズマ溶射ヒドロキシアパタイトコーティングが記載されている(「Abstract」の1?2行)。 また、銀含有HAコーティングは、HA及び銀担持リン酸ジルコニウム抗菌剤の混合粉末を、真空プラズマ溶射して調製したことが記載されている(842頁1?7行及び表1)。 オ 引用文献8(甲5):J Biomed Mater Res A,80(3)581-591(2007) ヒドロキシアパタイトのCa^(2+)へのAg^(+)の置換は、銀の量に応じて格子パラメータの増加をもたらすこと(582頁左欄8?13行)、結晶サイズ及び単位格子パラメータには、大きな変化がないことが示されている(584頁、表1)。 カ 引用文献10(甲6):Ann.Chim.Sci.Mat,1998,23,pp.61-64 銀含有ヒドロキシアパタイトを、リン酸塩溶液(Na2HPO4)及び硝酸カルシウムと硝酸銀の混合溶液から化学量論的に沈殿させて製造することが記載されている(62頁1?2行)。 キ 引用文献11(甲21):特開2005-132659号公報 ヒドロキシアパタイトの製造時にフッ化アンモニウムや炭酸アンモニウムを添加することが記載されている(【請求項8】、【0041】)。 ク 甲8:「溶射工学便覧」、日本溶射協会、2010年1月 「溶射における成膜の素過程は,(1)熱源による溶射材料の加熱と加速,(2)溶滴の基材への衝突,偏平化そして凝固,(3)偏平化した粒子(スプラットと呼ぶ)の積層過程から構成されると言える.」(3頁17?20行)、「図1.1-1 溶射における成膜素過程と皮膜特性に影響する溶滴・基材因子」(3頁)、「図1.1-4 直流(DC)プラズマ溶射によって形成した鋳鉄皮膜の脆性破壊面」及び「図1.1-5 スプラット積層過程における欠陥形成の模式図」(5頁) ケ 甲9:ACS Appl Mater Interfaces.2012 March;4(3):1341-1349 ヒドロキシアパタイトと酸化銀の混合物を原料とした特定条件のプラズマ溶射被膜中に、銀及び酸化銀に加えて、ヒドロキシアパタイト格子構造のCa^(2+)と置換したAg^(+)の取り込みが確認されることが示されている(「3.1 Physico-chemical analysis」の項目の1?9行、「4.Discussion」の項目の19?21行、また同箇所の異議申立人による翻訳参照)。 コ 甲12:特開平5-270945号公報 骨の再生、その他の医療的用途に用いられる材料として有用な多孔質セラミック材料の原料は、組成式Ca_(5)(PO_(4))_(3)OH又はCa_(10)(PO_(4))_(6)(OH)_(2)を有する化合物を基本成分とするヒドロキシアパタイトや、そのCa成分、(PO_(4))成分、又は(OH)成分の一部分が置換されているものでもよいことが記載されている(【0001】、【0017】)。 サ 甲23及び甲24:米国仮出願61/032621及び米国仮出願61/051783 本件特許出願の優先権主張の基礎となる出願である。 4 判断 (1)取消理由通知に記載した取消理由について ア 特許法第36条第6項第2号について (ア)請求項1は、コーティング、骨結合剤、抗菌金属剤に関して不明瞭であったところ、本件訂正請求によりこれらは明瞭となり、よって、本件訂正発明1は明確である。 (イ)請求項4、13、19、28、30は、引用請求項との関係や、その記載自体が不明瞭であったところ、本件訂正請求によりこれらは明瞭となり、よって、本件訂正発明4、13、19、28、30は明確である。 (ウ)請求項15、24は削除されたので、取消理由は存在しない。 イ 特許法第29条第1項第3号について (ア)引用発明1と同一であるとした理由について a 本件訂正発明1と引用発明1とを対比すると、引用文献1の記載を参酌しても、引用発明1は、「還元条件下でプラズマ溶射されているコーティング」ではなく、前記コーティングが、「置換された銀を含む銀置換カルシウム誘導体である銀置換骨結合剤」と「金属銀または銀化合物の粒子である抗菌金属剤」の両方を含有し、「銀置換骨結合剤がコーティングの厚さ全体にわたって均質に分布されている銀濃度」を有するものであるとはいえないため、本件訂正発明1は引用文献1に記載された発明ではない。 そして、本件訂正発明4?8、11?14、16?22は、いずれも本件訂正発明1を引用するものであるから、同様に、引用文献1に記載された発明ではない。 b ここで、取消理由通知では、引用文献1には、ヒドロキシアパタイト(以下、「HA」という。)と酸化銀との混合物をプラズマ溶射してコーティングを形成できる旨記載されているところ、甲9の記載から、引用発明1のコーティングも、金属銀粒子及び銀置換骨結合剤の両方を含有すると解するのが相当であるとした。 しかしながら、甲9は、特定条件のプラズマ溶射被膜中に、銀及び酸化銀に加えて、銀置換HAが確認されたことを示すにとまり、引用文献1に記載されるプラズマ溶射の場合に、本件訂正発明1のような還元条件下でプラズマ溶射されているコーティングと同じく、銀置換骨結合剤と金属銀又は銀化合物の粒子である抗菌金属剤の両方を含有するコーティングが得られることを示すものではない。 よって、甲9の記載を考慮しても、本件訂正発明1、4?8、11?14、16?22は、引用文献1に記載された発明ではない。 (イ)引用発明2と同一であるとした理由について a 本件訂正発明1と引用発明2とを対比すると、引用文献2の記載を参酌しても、引用発明2は、コーティングが、「置換された銀を含む銀置換カルシウム誘導体である銀置換骨結合剤」と「金属銀または銀化合物の粒子である抗菌金属剤」の両方を含有し、「銀置換骨結合剤がコーティングの厚さ全体にわたって均質に分布されている銀濃度」を有するものではないため、本件訂正発明1は引用文献2に記載された発明ではない。 そして、本件訂正発明4?8、11?14、16?22は、いずれも本件訂正発明1を引用するものであるから、同様に、引用文献2に記載された発明ではない。 b ここで、取消理由通知では、引用発明2においても、引用発明1について検討したのと同様に、甲9の記載から、金属銀粒子及び銀置換骨結合剤の両方を含有すると解するのが相当であるとした。 しかしながら、甲9は、HAと酸化銀の混合物を原料とした特定条件のプラズマ溶射被膜中に、銀及び酸化銀に加えて、銀置換HAが確認されたことを示すにとまり、引用文献2の上記(2d)に示される、HA粉末と銀粉末との混合物を真空プラズマ溶射した場合に、本件訂正発明1のような還元条件下でプラズマ溶射されているコーティングと同じく、銀置換骨結合剤と金属銀又は銀化合物の粒子である抗菌金属剤の両方を含有するコーティングが得られることを示すものではない。 よって、甲9の記載を考慮しても、本件訂正発明1、4?8、11?14、16?22は、引用文献2に記載された発明ではない。 ウ 特許法第29条の2について 先願1と同一であるとした理由については、上記「イ 特許法第29条第1項第3号について」の「(ア)引用発明1と同一であるとした理由について」で検討したのと同様に、本件訂正発明1、4?8、11?14、16?22は、先願1に記載された発明ではない。 エ 特許法第29条第2項について (ア)引用発明1又は引用発明2から容易になし得たものであるとした理由について 引用文献1及び2のいずれにも、銀置換HAを原料として用いて、「置換された銀を含む銀置換カルシウム誘導体である銀置換骨結合剤」と「金属銀または銀化合物の粒子である抗菌金属剤」の両方を含有し、「前記銀置換骨結合剤がコーティングの厚さ全体にわたって均質に分布されている銀濃度を有する」、「還元条件下でプラズマ溶射されているコーティング」を得るという動機付けがなく、本件訂正発明1は、このような事項を採用することにより、本件特許明細書の【0013】に記載の「骨結合を促進させかつ/または同時に埋込み部位での感染の危険性を低減させ、または無くすことができる」という効果を奏するものである。 よって、本件訂正発明1は、引用発明1又は引用発明2から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 そして、本件訂正発明4?8、11?14、16?22は、いずれも本件訂正発明1を引用するものであるから、同様に、引用発明1又は引用発明2から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ)引用発明3から容易になし得たものであるとした理由について 引用文献3には、抗菌銀含有HA粉末をイオン交換によって生成する方法は記載されているものの、引用文献4?8の記載を参酌しても、真空プラズマ溶射によってコーティングを調製することが想起されるにとまり、「プラズマ溶射するステップが、金属銀粒子の形成をもたらし、プラズマ溶射が還元環境下で実施される」ことまでを動機付けるものではない。これに対し、本件訂正発明23は、このような事項を採用することにより、本件特許明細書の【0013】に記載の「骨結合を促進させかつ/または同時に埋込み部位での感染の危険性を低減させ、または無くすことができる」、医療用インプラントに適した抗菌コーティングの調製方法が提供されるという効果を奏するものである。 よって、本件訂正発明23は、引用発明3から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 そして、本件訂正発明25?29、41は、いずれも本件訂正発明23を引用するものであるから、同様に、引用発明3から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)引用発明4から容易になし得たものであるとした理由について 引用文献9には、銀添加HA粉末をゾルゲル法によって生成する方法は記載されているものの、引用文献4?7、10?11の記載を参酌しても、真空プラズマ溶射によってコーティングを調製することが想起されるにとまり、「プラズマ溶射するステップが、金属銀粒子の形成をもたらし、プラズマ溶射が還元環境下で実施される」ことまでを動機付けるものではない。これに対し、本件訂正発明30は、このような事項を採用することにより、本件特許明細書の【0013】に記載の「骨結合を促進させかつ/または同時に埋込み部位での感染の危険性を低減させ、または無くすことができる」、医療用インプラントに適した抗菌コーティングの調製方法が提供されるという効果を奏するものである。 よって、本件訂正発明30は、引用発明4から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 そして、本件訂正発明31?40は、いずれも本件訂正発明30を引用するものであるから、同様に、引用発明4から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ 特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号について (ア)請求項1?22は、本件訂正請求により、医療用インプラントのためのコーティングが、還元条件下でプラズマ溶射されているコーティングに特定されたので、いわゆる実施可能要件及びサポート要件に関する不備はない。 (イ)請求項23?41は、本件訂正請求により、医療用インプラントのための抗菌コーティングを調製するための方法に特定されたので、いわゆるサポート要件に関する不備はない。 カ 異議申立人の意見について (ア)本件訂正発明1、4?8、11?14、16?22の明確性要件について 本件訂正発明1は、「還元条件下でプラズマ溶射されているコーティングであって」という製造方法の記載を含むものであるから、特許法第36条第6項第2号の明確性要件に適合しない、と主張する。 しかしながら、上記記載は、コーティングが「還元条件下でプラズマ溶射されている」と、単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているに過ぎないものであって、製造方法が記載されているものではないから、明確性要件に違反しない。 (イ)引用発明1又は先願1に基づく、本件訂正発明1、4?8、11?14、16?22の新規性欠如及び拡大先願について 甲9には、スラリー状態での混合によってではなく、高温環境下でHA格子構造の中でのAg^(+)の取り込みが生じていることが開示されているから、酸化銀とHAの混合粉末をフレーム溶射という高温環境下に曝す引用文献1又は先願1においても、HA格子構造の中でのAg^(+)の取り込みが生じ得ることは明らかであると主張し、したがって、引用発明1は、置換された銀を含む銀置換カルシウム誘導体である銀置換骨結合剤を含んでいると主張する。 しかしながら、甲9は、酸化銀とHAの混合粉末が還元条件下でプラズマ溶射されているコーティングの状態を明らかにするものではなく、そもそも、引用文献1には、還元条件下でプラズマ溶射されているコーティングは記載されていないから、本件訂正発明1、4?8、11?14、16?22は、引用文献1に記載された発明ではない。 (2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について ア 上記「4 判断」「(1)取消理由通知に記載した取消理由について」「イ 特許法第29条第1項第3号について」の「(ア)引用発明1と同一であるとした理由について」に関連して (ア)異議申立人は、更に下記の甲号証も示し、請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であると主張する。 ・甲4:特開2000-143219号公報 高温でリン酸カルシウムに亜鉛などが固溶されることが記載されている。 ・甲10:8^(th) World Biomaterials Congress 2008 Proceedings,No.P-Sat-F-439 HAと酸化銀を原料としてフレーム溶射で作製したコーティング膜が、PBS中で、長時間にわたって安定的に銀イオンを放出できることが記載されている。 ・甲13:特開平6-1708号公報 イオン交換により、銀を担持したHA抗菌剤が記載されている。 ・甲14:国際公開第2007/022211号 Zn置換リン酸カルシウムを原料として、歯科矯正用ブラケットにプラズマ溶射コーティングを作製することが記載されている。 ・甲15:Weichang Xue et al.,Surface&Coatings Technology 201(2007)4685-4693 Sr置換HAを原料として、インプラントにプラズマ溶射コーティングを作製することが記載されている。 ・甲22:特開平3-218765号公報 HAに銀の水溶性金属塩を吸着保持させた後焼成して得られる抗菌性HA材料が記載されている。 (イ)しかしながら、これらの甲号証の記載を参照しても、引用文献1に、「還元条件下でプラズマ溶射されているコーティング」が記載されているということはできないから、異議申立人の主張は理由がない。 イ 上記「4 判断」「(1)取消理由通知に記載した取消理由について」「イ 特許法第29条第1項第3号について」の「(イ)引用発明2と同一であるとした理由について」に関連して (ア)異議申立人は、上記引用発明1に関する主張と同様の主張をする。 (イ)しかしながら、これらの甲号証の記載を参照しても、引用文献2に、「置換された銀を含む銀置換カルシウム誘導体である銀置換骨結合剤」と「金属銀または銀化合物の粒子である抗菌金属剤」の両方を含有し、「銀置換骨結合剤がコーティングの厚さ全体にわたって均質に分布されている銀濃度」を有するコーティングが記載されているということはできないから、異議申立人の主張は理由がない。 ウ 請求項1?47に係る発明は、甲3に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるとの主張について (ア)本件訂正発明1、4?8、11?14、16?22について 異議申立人は、甲3に記載された真空プラズマ溶射により銀含有HAコーティングを調製する方法において、インプラントの一般的な課題である骨伝導性を向上させるという目的のために、原料の銀担持リン酸ジルコニウム抗菌剤について、その一部を銀置換リン酸カルシウムに代えることは容易であると主張する。 さらに、甲17(特開平3-208807号公報:リン酸ジルコニウムが1200℃以上で熱分解することが記載されている)から、真空プラズマ溶射時に、銀担持リン酸ジルコニウム抗菌剤の一部が熱分解することで、金属銀又は銀化合物が生成することは、当業者が容易に認識できることであることや、金属の酸化を抑制するために還元条件とすることは、当業者が容易に想到し得ることとも主張する。 しかしながら、甲3及び甲17並びに他の証拠を考慮しても、甲3に記載された銀担持リン酸ジルコニウム抗菌剤の一部のみを銀置換リン酸カルシウムに代えるに足る動機付けは見いだせず、また、金属の酸化を抑制するべき動機付けもないから、上記主張は理由がない。 (イ)本件訂正発明23、25?47について 本件訂正発明23、25?47に関する異議申立人の主張はすべて、甲3に記載された真空プラズマ溶射により銀含有HAコーティングを調製する方法において、インプラントの一般的な課題である骨伝導性を向上させるという目的のために、原料の銀担持リン酸ジルコニウム抗菌剤について、その一部を銀置換リン酸カルシウムに代えることは容易であるという前提に立つものである。 したがって、他の証拠方法、例えば、甲20(特開平7-2505号公報:HAの製法に関し、リン前駆体としてリン酸2水素アンモニウムを用いることが記載されている。)などを考慮しても、少なくとも、甲3に記載された銀担持リン酸ジルコニウム抗菌剤の一部のみを銀置換リン酸カルシウムに代えるに足る動機付けは見いだせないから、異議申立人の主張は理由がない。 (ウ)異議申立人の意見について 上記のとおりであるが、さらに、平成28年10月21日付け意見書で、「プラズマ溶射するステップが、金属銀粒子の形成をもたらし、プラズフ溶射が還元環境下で実施される」ことについて、金属銀が酸化されないように還元環境下とすることも容易に想到できると主張し、したがって、上記特定事項は、プラズマ溶射であれば起こる自明な事項あるいは周知技術に過ぎないものであると主張する点についても検討する。 異議申立人の意見書の主張を考慮しても、甲3に記載された銀担持リン酸ジルコニウム抗菌剤の一部のみを銀置換リン酸カルシウムに代えたうえで、金属銀が酸化されないように還元環境下で実施するに足る動機付けはなく、意見書の主張も採用できない。 エ 本件訂正発明1、4?8、11?14、16?22の記載不備に関する主張について 「均質に分布されている銀濃度」に関して、具体的な銀濃度や分布の程度などなんら特定されておらず、発明の詳細な説明にも記載されていないため、いわゆるサポート要件、実施可能要件又は明確性要件を満たさないと主張する。 しかしながら、本件訂正発明1、4?8、11?14、16?22は、医療用インプラントに関するところ、本件特許明細書の実施例には、プラズマ溶射前の銀変性HA粉末の濃度が示されており、また、得られたコーティングにおける銀濃度や分布状態、機械的強度、骨内殖、抗菌活性などが示されている。 したがって、当業者は、これら本件特許明細書の記載及び医療用インプラントに関する技術常識から、本件訂正発明1、4?8、11?14、16?22の課題を解決できることが認識でき、かつ、実施することができ、不明確なところもないから、上記主張は理由がない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び取消理由通知において採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1、4?8、11?14、16?23、25?47に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1、4?8、11?14、16?23、25?47に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、請求項2?3、9?10、15、24に係る特許は、本件訂正請求により削除されたため、異議申立人の請求項2?3、9?10、15、24に係る特許についての特許異議申立は、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 医療用インプラントのための、還元条件下でプラズマ溶射されているコーティングであって、前記コーティングが、置換された銀を含む銀置換カルシウム誘導体である銀置換骨結合剤を含有し、前記コーティングの少なくとも一部に金属銀または銀化合物の粒子である抗菌金属剤をさらに含有し、前記銀置換骨結合剤がコーティングの厚さ全体にわたって均質に分布されている銀濃度を有する、コーティング。 【請求項2】(削除) 【請求項3】(削除) 【請求項4】 抗菌金属剤が、個々の金属銀粒子としてコーティング中に存在する、請求項1に記載のコーティング。 【請求項5】 金属銀粒子の形状が球または不規則である、請求項1または4に記載のコーティング。 【請求項6】 金属銀粒子の直径が、15nmから10μmまでの範囲のサイズである、請求項5に記載のコーティング。 【請求項7】 銀置換骨結合剤が、銀を0.1から10重量%含有する、請求項1、および4から6の何れか1項に記載のコーティング。 【請求項8】 銀置換骨結合剤が、銀を0.5から3.0重量%含有する、請求項7に記載のコーティング。 【請求項9】(削除) 【請求項10】(削除) 【請求項11】 プラズマ溶射が真空中で実施される、請求項1、および4から8のいずれか一項に記載のコーティング。 【請求項12】 抗菌金属剤の濃度が、抗菌効果を有するのに十分である、請求項1、4から8、および11のいずれか一項に記載のコーティング。 【請求項13】 抗菌金属剤の濃度が0.1から10重量%である、請求項12に記載のコーティング。 【請求項14】 前記カルシウム誘導体が、ヒドロキシアパタイトおよび/またはβ型リン酸3カルシウムの1種または組合せである、請求項1、4から8、および11から13の何れか1項に記載のコーティング。 【請求項15】(削除) 【請求項16】 コーティングの厚さが、1μmよりも厚い、請求項1、4から8、および11から14のいずれか一項に記載のコーティング。 【請求項17】 コーティングの厚さが、10μmから200μmである、請求項16に記載のコーティング。 【請求項18】 コーティングの厚さが、30μmから100μmである、請求項16に記載のコーティング。 【請求項19】 医療用インプラントの金属基材に対するコーティングの引張り接着強さが15MPa以上である、請求項1、4から8、11から14、および16から18のいずれか一項に記載のコーティング。 【請求項20】 1つまたは複数の骨伝導性、骨促進性、および/または抗菌特性を有する、請求項1、4から8、11から14、および16から19のいずれか一項に記載のコーティング。 【請求項21】 銀置換骨結合剤が、下記の物質、即ち、カーボネート、フッ化物、ケイ素、マグネシウム、ストロンチウム、バナジウム、リチウム、銅、および/または亜鉛の1種または複数で置換されている、請求項1、4から8、11から14、および16から20のいずれか一項に記載のコーティング。 【請求項22】 少なくとも1つの面が、請求項1、4から8、11から14、および16から21のいずれか一項に記載のコーティングによって少なくとも部分的にコーティングされている、少なくとも1つの面を含む医療用インプラント。 【請求項23】 銀含有カルシウム誘導体粉末が、イオン交換によって生成され、その後、基材上にプラズマ溶射され、プラズマ溶射するステップが、金属銀粒子の形成をもたらし、プラズマ溶射が還元環境下で実施される、医療用インプラントのための抗菌コーティングを調製するための方法であって、 銀含有カルシウム誘導体粉末が、 a.カルシウムイオンを銀イオンと交換するのに十分な時間および温度で、カルシウム誘導体粉末を銀塩溶液中に懸濁するステップと、 b.前記イオン交換されたカルシウム誘導体粉末を洗浄するステップと、 c.前記イオン交換され洗浄されたカルシウム誘導体を乾燥するステップと によって生成される、方法。 【請求項24】(削除) 【請求項25】 カルシウム誘導体がリン酸カルシウムである、請求項23に記載の方法。 【請求項26】 リン酸カルシウムが、ヒドロキシアパタイトおよび/またはβ型リン酸3カルシウムの1種または組合せである、請求項25に記載の方法。 【請求項27】 カルシウム誘導体粉末と銀塩溶液との間のイオン交換反応が、20℃から95℃の温度で24から168時間引き起こされる、請求項23、25、および26のいずれか一項に記載の方法。 【請求項28】 前記カルシウム誘導体粉末がHA粉末であり、 銀塩溶液が、10^(-2)?10^(-4)Mの濃度を有する硝酸銀であり、前記HA粉末に対する硝酸銀の質量比が0.01?0.1の範囲内にあるか、 または、 銀塩溶液が、10^(-2)?10^(-4)Mの濃度を有するフッ化銀であり、前記HA粉末に対するフッ化銀の質量比が0.01?0.1の範囲内にある、請求項23および25から27のいずれか一項に記載の方法。 【請求項29】 銀含有カルシウム誘導体粉末もまた、以下の物質、即ち、カーボネート、フッ化物、ケイ素、マグネシウム、ストロンチウム、バナジウム、リチウム、銅、および亜鉛の1種または複数で置換される、請求項23、および25から28のいずれか一項に記載の方法。 【請求項30】 銀含有カルシウム誘導体粉末が、ゾルゲル法によって生成され、その後、基材上にプラズマ溶射され、プラズマ溶射するステップが、金属銀粒子の形成をもたらし、プラズマ溶射が還元環境下で実施される、医療用インプラントのための抗菌コーティングを調製するための方法であって、 銀含有カルシウム誘導体粉末が、 (a)カルシウム、銀、およびリン前駆体の組合せを混合して、均質なゾルゲル溶液を得るステップ、 (b)ゾルゲル溶液を、20?95℃の温度で適切な時間、経時変化させるステップ、 (c)ゾルゲル溶液を、室温を超える温度で適切な時間、乾燥し焼成するステップ、 (d)焼成した粉末を、後で行われるプラズマ溶射プロセスに合わせて所望の粒度分布に加工するステップ によるゾルゲル法によって生成される、方法。 【請求項31】 カルシウム前駆体が硝酸カルシウムである、請求項30に記載の方法。 【請求項32】 銀前駆体が硝酸銀である、請求項30または31に記載の方法。 【請求項33】 リン前駆体がリン酸2水素アンモニウムである、請求項30から32のいずれか一項に記載の方法。 【請求項34】 Ag前駆体濃度範囲が、0.1重量%から10重量%である、請求項30から33のいずれか一項に記載の方法。 【請求項35】 Ag前駆体濃度範囲が、0.5重量%から3.0重量%である、請求項34に記載の方法。 【請求項36】 フッ素およびカーボネート前駆体を、カルシウム、銀、およびリン前駆体と混合して、均質なゾルゲル溶液を得る、請求項30から35のいずれか一項に記載の方法。 【請求項37】 フッ素前駆体がフッ化アンモニウムである、請求項36に記載の方法。 【請求項38】 カーボネート前駆体が炭酸アンモニウムである、請求項36または37に記載の方法。 【請求項39】 Fおよび/またはカーボネート前駆体の濃度が10^(-2)?10^(-3)Mである、請求項36から38のいずれか一項に記載の方法。 【請求項40】 カーボネート、フッ化物、ケイ素、マグネシウム、ストロンチウム、バナジウム、リチウム、銅、または亜鉛前駆体、またはこれらの組合せを、カルシウム、銀、およびリン前駆体と混合して、均質なゾルゲル溶液を得る、請求項30から39のいずれか一項に記載の方法。 【請求項41】 溶射前の、銀含有カルシウム誘導体粉末配合物のサイズ分布が、未変性の純粋なカルシウム誘導体粉末と等しい、請求項23に記載の方法。 【請求項42】 銀含有カルシウム誘導体粉末を基材にプラズマ溶射するステップを含み、プラズマ溶射するステップが、金属銀粒子の形成をもたらし、プラズマ溶射が還元環境下で実施される、抗菌コーティングを生成する方法であって、 前記銀含有カルシウム誘導体粉末が、 a.カルシウムイオンを銀イオンと交換するのに十分な時間および温度で、カルシウム誘導体粉末を銀塩溶液中に懸濁するステップと、 b.前記イオン交換され洗浄されたカルシウム誘導体を乾燥するステップと によるイオン交換によって、 または (a)カルシウム、銀、および/またはリン前駆体の組合せを混合して、均質なゾルゲル溶液を得るステップ、 (b)ゾルゲル溶液を、20?95℃の温度で適切な時間、経時変化させるステップ、 (c)ゾルゲル溶液を、室温を超える温度で適切な時間、乾燥し焼成するステップ、 (d)焼成した粉末を、後で行われるプラズマ溶射プロセスに合わせて所望の粒度分布に加工するステップ によるゾルゲル法によって、 生成される、方法。 【請求項43】 銀金属粒子が、コーティングの厚さ全体にわたって分布している、請求項42に記載の方法。 【請求項44】 コーティングをさらに圧密化しまたはコーティングを基材に結合するのに、プロセス後の熱処理を必要としない、請求項42または43に記載の方法。 【請求項45】 コーティングが、銀を含有するカルシウム誘導体粉末の均質な配合物から形成される、請求項42から44のいずれか一項に記載の方法。 【請求項46】 銀をコーティングに組み込むのに、銀含有カルシウム誘導体粉末とその他の銀含有粉末とをブレンドする必要が無い、請求項45に記載の方法。 【請求項47】 カルシウム誘導体粉末が、粉末の表面に吸着された少なくとも部分的に過剰な銀反応物を含有する、請求項42から46のいずれか一項に記載の方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-12-02 |
出願番号 | 特願2010-548902(P2010-548902) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(A61L)
P 1 651・ 121- YAA (A61L) P 1 651・ 161- YAA (A61L) P 1 651・ 537- YAA (A61L) P 1 651・ 113- YAA (A61L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 渡邊 倫子、近藤 政克 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
小川 慶子 関 美祝 |
登録日 | 2015-08-07 |
登録番号 | 特許第5788179号(P5788179) |
権利者 | スミス アンド ネフュー インコーポレーテッド |
発明の名称 | コーティングおよびコーティング方法 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 村山 靖彦 |