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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D03D
審判 全部申し立て 2項進歩性  D03D
管理番号 1324833
異議申立番号 異議2016-700280  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-06 
確定日 2016-12-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5788626号発明「エアバッグ用基布およびエアバッグ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5788626号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-15〕について、訂正することを認める。 特許第5788626号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5788626号の請求項1ないし15に係る特許についての出願は、平成26年5月28日を国際出願日とする出願であって、平成27年8月7日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所により特許異議の申立てがされ、平成28年6月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年8月26日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成28年10月3日付けで意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。
請求項1に係る「140℃で400時間の熱処理後の基布を構成する構成糸の経緯方向のクリンプ率の差が5.0%以下であり、140℃で400時間の熱処理後の基布の縫製部強力の経熱保持率が80%以上であることを特徴とするエアバッグ用基布。」を、「140℃で400時間の熱処理後の基布を構成する構成糸の経緯方向のクリンプ率の差が5.0%以下であり、140℃で400時間の熱処理後の基布の縫製部強力の経熱保持率が80%以上であり、かつ、経緯方向の織密度の比(径方向/緯方向)が1.00以上1.09以下であることを特徴とするエアバッグ用基布。」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項
上記訂正事項に関連する記載として、明細書の段落0021には「経緯方向の織密度の比(径方向/緯方向)は、1.00から1.20であることが好ましい。より好ましくは1.00から1.09である。」との記載がある。
上記訂正は、明細書に記載された事項の範囲内において、エアバッグ用基布である織物の特性を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、これら訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-15〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし15に係る発明(以下「本件発明1ないし15」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
ポリアミド繊維織物からなり、該織物がチオエーテル基を有するカルボン酸の高級アルコールエステル及びチオエーテル基を有するカルボン酸の高級アルコールポリエーテルエステルから成る群から選ばれる少なくとも1種を含有する油分をポリアミド繊維に付与せしめて織物としたものであり、該織物のシクロヘキサン抽出油分中にチオエーテル基を有するカルボン酸の高級アルコールエステル及び/又はチオエーテル基を有するカルボン酸の高級アルコールポリエーテルエステルを基布重量に対して0.01重量%以上含有し、140℃で400時間の熱処理後の基布を構成する構成糸の経緯方向のクリンプ率の差が5.0%以下であり、140℃で400時間の熱処理後の基布の縫製部強力の経熱保持率が80%以上であり、かつ、経緯方向の織密度の比(径方向/緯方向)が1.00以上1.09以下であることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項2】
基布の縫製部強力の非縫製部強力に対する比率(縫製部強力/非縫製部強力)が60%以上である、請求項1に記載のエアバッグ用基布。
【請求項3】
140℃で400時間の熱処理後に、構成糸の引掛け強度が4.5cN/dtex以上である、請求項1または2に記載のエアバッグ用基布。
【請求項4】
140℃で400時間の熱処理後に、構成糸の糸-糸摩擦指数が1.5?3.5である、請求項1?3のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項5】
基布を構成する構成糸の引掛け強度が4.5cN/dtex?10.0cN/dtexである、請求項1?4のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項6】
構成糸の糸-糸摩擦指数が1.5?3.5であり、引掛け強度が7cN/dtex以上である、請求項1?5のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項7】
140℃で400時間の熱処理後に、基布の引張り強力が500N/cm以上である、請求項1?6のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項8】
引張り強力が500N/cm以上である、請求項1?7のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項9】
製織原糸に用いる原糸強度が8.0cN/dtex以上である、請求項1?8のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項10】
シクロヘキサン抽出油分量が基布重量に対して0.02重量%を超え0.3重量%未満である、請求項1?9のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項11】
シクロヘキサン抽出油分中にチオエーテル基を有するカルボン酸の高級アルコールエステル及び/又はチオエーテル基を有するカルボン酸の高級アルコールポリエーテルエステルを基布重量に対して0.015重量%以上含有する、請求項10に記載のエアバッグ用基布。
【請求項12】
シクロヘキサン抽出油分中に、無機性対有機性比率が1.50?1.70である成分を合計で油分全体の10重量%以上含有する、請求項10または11に記載のエアバッグ用基布。
【請求項13】
前記織物がポリアミド繊維に非イオン活性剤成分をさらに付与せしめて織物としたものであり、シクロヘキサン抽出油分中に非イオン活性剤成分を基布重量に対して0.01重量%以上含有する、請求項10?12のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項14】
請求項1?13のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布を縫製してなるエアバッグ。
【請求項15】
請求項14に記載のエアバッグを用いたエアバッグ装置。

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし15に係る特許に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

理由1.本件特許の請求項1ないし15に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
理由2.本件特許の請求項1ないし15に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明(以下「甲1発明」という。)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)甲第1号証の記載、本件特許発明1との対比
甲第1号証(特開2007-284826号公報)記載のものにおいて、「ナイロン66」はポリアミドであり、また、「ジオレイルチオジプロピオネート」は高級アルコールポリエーテルエステルであり、その含有量は「エアバック用コート基布」に対し、0.075%であると解される。
よって、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致している。

<相違点>
本件特許発明1は、「140℃で400時間の熱処理後の基布を構成する構成糸の経緯方向のクリンプ率の差が5.0%以下であり、140℃で400時間の熱処理後の基布の縫製部強力の経熱保持率が80%以上であり、かつ、経緯方向の織密度の比(径方向/緯方向)が1.00以上1.09以下である」のに対し、甲1発明では140℃で400時間の熱処理後の基布を構成する構成糸の経緯方向のクリンプ率、140℃で400時間の熱処理後の基布の縫製部強力の経熱保持率、経緯方向の織密度の比が不明である点。

(4)判断
ア.第29条第1項第3号
本件特許発明1と甲1発明とは、上記のとおり、相違点があるところ、かかる相違点が、実質的相違点でないとする証拠はない。
本件特許発明1が甲1発明であるとすることはできない。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし15についても、同様である。

イ.第29条第2項
本件特許発明1の課題、技術的意義は、以下のとおりである(段落0011)。
「本発明は、縫製部強力が高く、高速で高圧展開する際に、エアバッグとしての耐圧性に優れ、とりわけ、熱経時後も耐圧性が維持できるエアバッグ用基布およびエアバッグを提供することを目的とするものである。」
すなわち、本件特許発明1の主な課題は「熱経時後も耐圧性」であると解される。

甲1発明の課題、技術的意義は、以下のとおりである(段落0018、0020?0021)。
「特許文献1は紡糸油剤と整経油剤を使用するため製織時の対金属摩擦係数を低くすることは可能であるが、最適範囲が広範囲に渡っており油剤付着量が多くなりすぎると逆に対金属摩擦係数は高くなり製織性が悪化するばかりか精練を行わないためエラストマー樹脂との接着性が低下する。特許文献2はノンコートエアバッグ基布の引裂き強力を抑えることを目的とするもので、コート基布においては、むしろ油剤付着量が多いとエラストマー樹脂との接着性が低下する。また、特許文献3,4は製織前に追油しないことから、繊維の対金属摩擦係数が大きいものであった。」
「本発明によれば、エアバッグ用基布を製織するにあたり、製織性に優れ、織り斑や毛羽等による基布欠点が少ない高品質のエアバッグ用基布を得ることができる。
特に、本発明の製造方法によって得られるエアバッグ用基布は、エラストマー樹脂との接着性に優れ、塗布量が少なくてもガス遮断性に優れ、その結果、コンパクトで収納性に優れ、軽量性、柔軟性にも優れており、インフレータブルカーテンエアバッグ用として好適である。」
すなわち、甲1発明の主な課題は「製織性」であると解され、本件発明1と甲1発明とは、課題、技術的意義が異なる。

甲第1号証には、「140℃で400時間の熱処理後の基布を構成する構成糸の経緯方向のクリンプ率、140℃で400時間の熱処理後の基布の縫製部強力の経熱保持率、経緯方向の織密度の比」についての記載はなく、示唆もない。
また、これらの観点それ自体の周知性、これらの観点に着目する動機の存在についての証拠はない。
よって、本件特許発明1を、甲1発明に基いて容易想到とすることはできない。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし15についても、同様である。

ウ.特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、本件特許発明1と甲1発明とは、同様の原料を用いて同様の製造方法によって作製されるから、上記相違点は実質的相違点でなく、仮に相違点であるとしても、望ましい特性を適宜設定したにすぎない旨、主張する。
しかし、本件発明1と甲1発明とは、課題、技術的意義が異なることから、甲1発明が本件発明と同じ特性であるとは、必ずしも言えない。
また、上記相違点が、「望ましい特性」であり、容易想到とする証拠もない。
特許異議申立人の主張は根拠がない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項1ないし15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド繊維織物からなり、該織物がチオエーテル基を有するカルボン酸の高級アルコールエステル及びチオエーテル基を有するカルボン酸の高級アルコールポリエーテルエステルから成る群から選ばれる少なくとも1種を含有する油分をポリアミド繊維に付与せしめて織物としたものであり、該織物のシクロヘキサン抽出油分中にチオエーテル基を有するカルボン酸の高級アルコールエステル及び/又はチオエーテル基を有するカルボン酸の高級アルコールポリエーテルエステルを基布重量に対して0.01重量%以上含有し、140℃で400時間の熱処理後の基布を構成する構成糸の経緯方向のクリンプ率の差が5.0%以下であり、140℃で400時間の熱処理後の基布の縫製部強力の経熱保持率が80%以上であり、かつ、経緯方向の織密度の比(経方向/緯方向)が1.00以上1.09以下であることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項2】
基布の縫製部強力の非縫製部強力に対する比率(縫製部強力/非縫製部強力)が60%以上である、請求項1に記載のエアバッグ用基布。
【請求項3】
140℃で400時間の熱処理後に、構成糸の引掛け強度が4.5cN/dtex以上である、請求項1または2に記載のエアバッグ用基布。
【請求項4】
140℃で400時間の熱処理後に、構成糸の糸-糸摩擦指数が1.5?3.5である、請求項1?3のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項5】
基布を構成する構成糸の引掛け強度が4.5cN/dtex?10.0cN/dtexである、請求項1?4のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項6】
構成糸の糸-糸摩擦指数が1.5?3.5であり、引掛け強度が7cN/dtex以上である、請求項1?5のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項7】
140℃で400時間の熱処理後に、基布の引張り強力が500N/cm以上である、請求項1?6のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項8】
引張り強力が500N/cm以上である、請求項1?7のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項9】
製織原糸に用いる原糸強度が8.0cN/dtex以上である、請求項1?8のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項10】
シクロヘキサン抽出油分量が基布重量に対して0.02重量%を超え0.3重量%未満である、請求項1?9のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項11】
シクロヘキサン抽出油分中にチオエーテル基を有するカルボン酸の高級アルコールエステル及び/又はチオエーテル基を有するカルボン酸の高級アルコールポリエーテルエステルを基布重量に対して0.015重量%以上含有する、請求項10に記載のエアバッグ用基布。
【請求項12】
シクロヘキサン抽出油分中に、無機性対有機性比率が1.50?1.70である成分を合計で油分全体の10重量%以上含有する、請求項10または11に記載のエアバッグ用基布。
【請求項13】
前記織物がポリアミド繊維に非イオン活性剤成分をさらに付与せしめて織物としたものであり、シクロヘキサン抽出油分中に非イオン活性剤成分を基布重量に対して0.01重量%以上含有する、請求項10?12のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布。
【請求項14】
請求項1?13のいずれか一項に記載のエアバッグ用基布を縫製してなるエアバッグ。
【請求項15】
請求項14に記載のエアバッグを用いたエアバッグ装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-12-14 
出願番号 特願2015-504794(P2015-504794)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D03D)
P 1 651・ 113- YAA (D03D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 千葉 成就
高橋 祐介
登録日 2015-08-07 
登録番号 特許第5788626号(P5788626)
権利者 旭化成せんい株式会社
発明の名称 エアバッグ用基布およびエアバッグ  
代理人 三間 俊介  
代理人 三間 俊介  
代理人 中村 和広  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 中村 和広  
代理人 齋藤 都子  
代理人 齋藤 都子  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  

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