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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23D
管理番号 1324850
異議申立番号 異議2016-700194  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-07 
確定日 2017-01-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5777895号発明「コーティング用油脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5777895号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について、訂正することを認める。 特許第5777895号の請求項1、5ないし7に係る特許を維持する。 特許第5777895号の請求項2ないし4、8に係る特許についての特許異議申立を却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5777895号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年7月17日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人関口喜代子より請求項1?8に対して特許異議の申立てがされ、平成28年6月6日付けで取消理由が通知され、平成28年7月28日に意見書の提出及び訂正請求(平成28年8月16日付けで手続補正)がされ、その訂正請求に対して平成28年9月23日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ランダムエステル交換油脂を、油相中に45?90質量%(油相基準)含有し、含まれる油脂の全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が15?45質量%であって、且つ該油相のSFC(固体脂含量)が10℃で44?66%、20℃で25?44%、30℃で5?25%、40℃で0?5%であることを特徴とするコーティング用油脂組成物。」とあるのを「ランダムエステル交換油脂を、油相中に45?90質量%(油相基準)含有し、含まれる油脂の全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が20?35.1質量%であって、
全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸のうち、20?50質量%が上記ランダムエステル交換油脂由来であり、
上記ランダムエステル交換油脂として下記エステル交換油脂(I)及びエステル交換油脂(II)を含有し、
且つ該油相のSFC(固体脂含量)が10℃で44?66%、20℃で25?44%、30℃で5?25%、40℃で0?5%であることを特徴とするベーカリー食品コーティング用油脂組成物。
エステル交換油脂(I):全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が20?60質量%であり、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が40?60質量%である油脂配合物(I)をランダムエステル交換してなる油脂
エステル交換油脂(II):ヨウ素価52?70のパーム分別軟部油を70質量%以上含有し、且つその全構成脂肪酸組成における不飽和脂肪酸含量が50質量%以上である油脂配合物(II)をランダムエステル交換してなる油脂」に訂正する。
なお、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2、3、4及び8の記載は以下のとおりである。
「 【請求項2】
上記ランダムエステル交換油脂が、その全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が20?60質量%であり、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が30?70質量%である油脂配合物(I)をランダムエステル交換してなるエステル交換油脂(I)を含有することを特徴とする請求項1記載のコーティング用油脂組成物。
【請求項3】
上記ランダムエステル交換油脂が、ヨウ素価52?70のパーム分別軟部油を70質量%以上含有し、且つその全構成脂肪酸組成における不飽和脂肪酸含量が50質量%以上である油脂配合物(II)をランダムエステル交換してなるエステル交換油脂(II)を含有することを特徴とする請求項1又は2記載のコーティング用油脂組成物。
【請求項4】
含まれる油脂の全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸の20?70質量%が、上記ランダムエステル交換油脂由来であることを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載のコーティング用油脂組成物。
・・・
【請求項8】
ベーカリー食品コーティング用であることを特徴とする請求項1?7の何れかに記載のコーティング用油脂組成物。」

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2、3、4及び8を削除する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4の何れか1項に記載のコーティング用油脂組成物。」とあるのを「請求項1に記載のベーカリー食品コーティング用油脂組成物。」に訂正する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5の何れか1項に記載のコーティング用油脂組成物。」とあるのを「請求項1又は5に記載のベーカリー食品コーティング用油脂組成物。」に訂正する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?6の何れかに記載のコーティング用油脂組成物。」とあるのを「請求項1、5及び6の何れかに記載のベーカリー食品コーティング用油脂組成物。」に訂正する。

なお、平成28年8月16日付け手続補正書による手続補正は、実質的に訂正の内容を変更するものではない。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、訂正前の請求項2、3、4及び8の各要件を限定し、さらに、油脂の全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量の割合を「20?35.1質量%」に減縮し、ランダムエステル交換油脂由来である全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸の割合の上限値を「50質量%」に減縮し、エステル交換油脂(I)の全構成脂肪酸組成における炭素数16以上の飽和脂肪酸含量の割合を「40?60質量%」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、訂正事項1は、訂正前の請求項2、3、4及び8の記載、明細書の段落【0025】、【0038】及び【0039】の記載並びに実施例3に係る記載に基づいたものであることから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものである。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2、3、4及び8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を変更し、又は拡張するものでもない。

ウ 訂正事項3?5について
訂正事項3?5のうち、引用する請求項を削除する訂正は、訂正事項2により訂正前の請求項2、3、4及び8が削除されたことに伴い、それと整合させるものであるから明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、「コーティング用油脂組成物」を「ベーカリー食品コーティング用油脂組成物」に限定する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)まとめ
したがって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正を認める。

3.本件特許発明
本件特許第5777895号の請求項1、5?7に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」等ともいう。)は、上記訂正された明細書又は特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、5?7に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
ランダムエステル交換油脂を、油相中に45?90質量%(油相基準)含有し、含まれる油脂の全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が20?35.1質量%であって、
全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸のうち、20?50質量%が上記ランダムエステル交換油脂由来であり、
上記ランダムエステル交換油脂として下記エステル交換油脂(I)及びエステル交換油脂(II)を含有し、
且つ該油相のSFC(固体脂含量)が10℃で44?66%、20℃で25?44%、30℃で5?25%、40℃で0?5%であることを特徴とするベーカリー食品コーティング用油脂組成物。
エステル交換油脂(I):全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が20?60質量%であり、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が40?60質量%である油脂配合物(I)をランダムエステル交換してなる油脂
エステル交換油脂(II):ヨウ素価52?70のパーム分別軟部油を70質量%以上含有し、且つその全構成脂肪酸組成における不飽和脂肪酸含量が50質量%以上である油脂配合物(II)をランダムエステル交換してなる油脂
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
含まれる油脂の全構成脂肪酸組成において実質的にトランス脂肪酸を含有しないことを
特徴とする請求項1に記載のベーカリー食品コーティング用油脂組成物。
【請求項6】
結合脂肪酸の主体が飽和脂肪酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はショ糖脂肪酸エステルを、油相中に0.01?3質量%(油相基準)含有することを特徴とする請求項1又は5に記載のベーカリー食品コーティング用油脂組成物。
【請求項7】
チョコレートであることを特徴とする請求項1、5及び6の何れかに記載のベーカリー食品コーティング用油脂組成物。
【請求項8】(削除)」

4.取消理由の概要
平成28年6月6日付けで通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

<理由1>
・本件特許発明1、5、7
本件特許発明1、5及び7は、甲第2?4号証に記載された事項も参酌すると、甲第1号証に記載された発明であると認められる。

<理由2>
・本件特許発明1?8
(1)本件特許発明1?8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第5?8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件特許発明1?8は、甲第14号証に記載された発明及び甲第6、7、9?11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

[刊行物]
甲第1号証:特表昭56-500833号公報
甲第2号証:藤田哲、「食用油脂-その利用と油脂食品-」、株式会社幸書房、2000年4月5日、22頁、36?37頁
甲第3号証:欧州特許第0170431号明細書
甲第4号証:米国特許出願公開第2009/0074937号明細書
甲第5号証:特開2010-268749号公報
甲第6号証:国際公開2009/116396号
甲第7号証:国際公開2009/057451号
甲第8号証:特開2010-142152号公報
甲第9号証:Ralph E. Timms著、蜂屋巌訳、「製菓用油脂ハンドブック」、株式会社幸書房、2010年2月14日、1?2頁、75頁、151頁、308頁
甲第10号証:加藤秋男編、「パーム油・パーム核油の利用」、株式会社幸書房、1990年7月31日、158?160頁、164?165頁、170?171頁
甲第11号証:竹林やゑ子、「洋菓子材料の調理科学」、株式会社柴田書店、昭和55年12月1日、223?224頁
甲第14号証:特開2008-245577号公報

5.当審の判断
(1)理由1及び理由2(1)について(特許法第29条第1項3号及び第2項)
ア 甲1発明
取消理由通知において引用した甲第1号証には、以下の各事項が記載されている。
(1a)「本発明は複合冷菓製品及びその製造方法に関し、より詳細には脂肪をベースにするコーティング(被覆)を施した冷菓ならびに冷菓と脂肪をベースにした組成物の層とを接触させたその他の複合菓子に関する。」(第2頁右上欄3?6行)

(1b)「この範疇に関する特に望ましい脂肪は、パーム核油(50%-65%とパム油(50%-35%)とのランダムにエステル交換した配合物であり、60:40の比率が特に好ましい。」(第6頁右上欄9?12行)

(1c)「例5
(i) パーム核油(PKO)とパーム油(PO)との本発明によるさらに別のエステル交換配合物を以下のように製造する。
粗製配合物(60PKO:40PO)を減圧漂白器内で製造し、減圧乾燥し、6Nソーダ灰で中和し、洗浄して乾燥させる。乾燥した生成物を95-100℃において30分間にわたり1%のc300漂白土を用いて漂白し、ろ過して清潔な容器に移す。次に0.3-0.4%のナトリウムメトキシド触媒を用いてエステル交換し、処理を施した配合物を洗浄し、減圧乾燥して、1%のAA漂白土を用いて95-100℃において30分間にわたり後精製する。ろ別及び脱臭後、0.1%のレシチンを加える。
(ii)例4(i)で製造したエステル交換配合物を使用して、本発明による製菓用コーティング組成物を製造し、これを用いて例2及び3に示すように冷菓ブリケツトに外被を施す。
各組成物〔例4(A),4(B),4(C)及び4(D)〕の成分を以下に示す。

・・・ 4D
カカオ固型分(非脂肪) 5.1%
乳固型分(非脂肪) 18.8%
糖 30.6%
レシチン 0.5%
カカオ・バタ- 6.5%
バター脂 3.9%
例4(i)のエステル交換脂肪配合物 34.6%
(全脂肪含有量) (45.0%)」(第7頁右下欄15?第8頁左上欄19行)

以上の記載において、記載事項(1c)の例5の4(D)の組成に着目すると、甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、記載事項(1c)における「例4(i)」は「例5(i)」の誤記と認められる。
「全脂肪含有量が、45.0%であって、
カカオ固型分(非脂肪)5.1%
乳固型分(非脂肪)18.8%
糖30.6%
レシチン0.5%
カカオ・バタ-6.5%
バター脂3.9%
エステル交換脂肪配合物34.6%
を含む製菓用コーティング組成物。
但し、エステル交換脂肪配合物は、粗製配合物(60パーム核油(PKO):40パーム油(PO))をナトリウムメトキシド触媒を用いてエステル交換したもの。」

イ 本件特許発明1との対比・判断
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、
甲1発明において、エステル交換脂肪配合物は、ナトリウムメトキシド触媒を用いてエステル交換したものであるから、本件特許発明1の「ランダムエステル交換油脂」に相当し、その油相中の割合は77%(34.6/45.0×100)であり、本件特許発明1の「45?90質量%(油相基準)」の範囲内である。
しかし、甲1発明において、含まれる油脂の全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量の割合は、甲第2号証を参酌すると36.6質量%となり(特許異議申立書第55頁)、また、甲1発明において、全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸のうちランダムエステル交換油脂由来であるものの割合は、甲第2号証を参酌すると94.1質量%となる(特許異議申立書第61?62頁)。
よって、両者は、少なくとも以下の各点で相違し、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえない。

相違点1:含まれる油脂の全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量の割合は、本件特許発明1では、20?35.1質量%であるのに対し、甲1発明では、36.6質量%である点。
相違点2:全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸のうちランダムエステル交換油脂由来であるものの割合は、本件特許発明1では、20?50質量%であるのに対し、甲1発明では、94.1質量%である点。

次に、上記相違点1及び2について検討する。
上記相違点2に係り、甲1発明の全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸のうちランダムエステル交換油脂由来であるものの割合の94.1質量%を本件特許発明1の上限値50質量%以下とするには、さらにランダムエステル交換されていない炭素数14以下の飽和脂肪酸を併用する必要がある(特許異議申立書第62頁)。
ここで、甲第7号証には、特許異議申立書に記載のとおり「炭素数14以下の飽和脂肪酸を比較的多く含むランダムエステル交換油脂と炭素数14以下の飽和脂肪酸を比較的多く含むがランダムエステル交換されていない油脂(ラウリン系油脂)とを併用したコーティング用油脂組成物。」(特許異議申立書第62?63頁)が記載されているとしても、甲第7号証の「被覆チョコレート用油脂組成物」はラウリン酸(炭素数12)を主体とする油脂組成物である(明細書の段落[0018]参照)ことから、含まれる油脂の全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が20?35.1質量%というものではない。
そうすると、甲1発明において、甲第7号証を参酌し、相違点1に係る含まれる油脂の全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量の割合を35.1質量%以下に低下させつつ、甲1発明の製菓用コーティング組成物にエステル交換されていない油脂を追加、または、甲1発明のエステル交換脂肪配合物の一部をエステル交換されていない油脂に置き換えて、相違点2の本件特許発明1のようになすことを、当業者が容易に想到し得るものではない。
さらに、上記のような油脂の追加、または、置き換えした場合には、本件特許発明1に規定されている各SFC(固体脂含有量)を満たすものとは限らない。
また、他に上記相違点1及び2を容易になし得たとする証拠はない。
よって、甲1発明において、上記相違点1及び2の本件特許発明1のようになすことは、当業者が容易になし得たものとはいえない。

ウ 本件特許発明5?7との対比・判断
本件特許発明5?7と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも上記相違点1及び2において相違し、本件特許発明5及び7は、甲1発明であるとはいえない。また、上記検討したとおり、甲1発明において、上記相違点1及び2の本件特許発明5?7のようになすことは、当業者が容易になし得たものともいえない。

エ まとめ
本件特許発明1、5及び7は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
また、本件特許発明1及び5?7は、甲1発明及び甲第5?8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)理由2(2)について(特許法第29条第2項)
ア 甲14発明
取消理由通知において引用した甲第14号証には、以下の各事項が記載されている。
(14a)「【請求項1】
油脂中にラウリン系油脂を原料とするエステル交換油脂を40重量%以上及びSUS型トリグリセリドを20?50重量%並びに糖類を含む油脂組成物であって、当該油脂組成物をテンパリング処理することなしに被覆することを特徴とする、菓子又はパンの製造法。」

(14b)「【0009】
本発明の目的は、カカオマスを多量に配合しても、被覆作業において、テンパリング作業が不要で、かつ口溶け良好でカカオ感のある美味しいチョコレートを被覆した、常温流通可能な菓子又はパンを提供することである。」

(14c)「【0023】
本発明においては、アセチル化蔗糖脂肪酸エステルを添加することで、さらにブルームの抑制効果を高めることができるが、このアセチル化蔗糖脂肪酸エステルは、蔗糖脂肪酸エステル中の残存水酸基をアセチル基にて置換したタイプの蔗糖脂肪酸エステルで、脂肪酸としては炭素数16以上の長鎖飽和脂肪酸、エステル化度は3以上のものが好ましい。また、アセチル化蔗糖脂肪酸エステルの油脂組成物中への添加量は0.1?4重量%であり、下限未満の場合、効果の発現が弱く、上限を超えると価格的に高くなるとともに、効果の増大が少ない。」

(14d)「【0025】
本発明における油脂組成物を被覆される食品としては、常温流通が可能な菓子、パンであれば、特に限定されるものではないが、菓子としては、まんじゅう、蒸しようかん、カステラ、どら焼き、今川焼き、たい焼き、きんつば、ワッフル、栗まんじゅう、月餅、ボーロ、八つ橋、せんべい、かりんとう、ドーナツ、スポンジケーキ、ロールケーキ、エンゼルケーキ、パウンドケーキ、バウムクーヘン、フルーツケーキ、マドレーヌ、シュークリーム、エクレア、ミルフィユ、アップルパイ、タルト、ビスケット、クッキー、クラッカー、蒸しパン、プレッツェル、ウエハース、スナック菓子、ピザパイ、クレープ、スフレー、ベニェなどや、バナナ、りんご、イチゴなどの果物に油脂組成物を被覆した菓子が挙げられ、パンとしては、食パン、コッペパン、フルーツブレッド、コーンブレッド、バターロール、ハンバーガーバンズ、フランスパン、ロールパン、菓子パン、スイートドウ、乾パン、マフィン、ベーグル、クロワッサン、デニッシュペーストリー、ナンなどが挙げられる。」

(14e)「【0028】
(ラウリン系エステル交換油脂Aの調製)
ヤシ油50部、パーム分別ステアリン40部、菜種極度硬化油10部を原料とし、触媒としてナトリウムメチラートを用い既知の方法によりランダムエステル交換して得られた油脂をラウリン系エステル交換油脂(A)とした。
【0029】
(ラウリン系エステル交換油脂Bの調製)
パーム核油95部とパーム油5部との混合油脂を極度硬化した油脂90部、菜種極度硬化油10部を原料とし、触媒としてナトリウムメチラートを用い既知の方法によりランダムエステル交換して得られた油脂をラウリン系エステル交換油脂(B)とした。」

(14f)「【0031】
(実施例1)
カカオマス36部、砂糖39部にレシチン0.1部を加え、ニーダーで練り、ロールリファイナーで摩砕して18ミクロン程度の微粒子状態とし、次いでコンチェにてコンチングし、その間ラウリン系エステル交換油脂(A)25部を徐々に添加し、コンチングの終わり頃にレシチン0.3部を加えチョコレート生地である本発明の油脂組成物を調製した。このチョコレート生地を50℃の湯煎で完全融解した後、チョコレート品温を45℃に温調し、それを市販のデニッシュパンにコーチングし、5℃冷蔵庫内で急冷し、被覆後の表面の固化を観察した、さらに固化後、常温に戻し、パンに被覆されたチョコレートの風味、食感等を観察した。ブルーム発現の評価は、15℃恒温6時間→25℃12時間→15℃6時間を1サイクルとした温度条件下で保存し、経時でのブルームの発生を観察した。その結果、被覆後の表面の固化が早く、口溶けが良好で、カカオ感の強いチョコレート風味を持ち、食した際の風味の発現が良好で、3日間のサイクルテストでブルームが発生しない状態を保っていた。これらの結果を表にまとめた。」

(14g)「【0040】
<表>


以上の記載において、記載事項(14g)の<表>の実施例1?4の組成に着目すると、甲第14号証には以下の各発明が記載されていると認められる。
「カカオマス36部、砂糖39部、ラウリン系エステル交換油脂(A)25部、レシチン0.4部を含み、また、油脂組成物の油脂中にラウリン系エステル交換油脂を56%含むデニッシュパンのコーチング用チョコレート。」(以下「甲14-1発明」という。)

「カカオマス36部、砂糖39部、ラウリン系エステル交換油脂(B)25部、レシチン0.4部を含み、また、油脂組成物の油脂中にラウリン系エステル交換油脂を56%含むデニッシュパンのコーチング用チョコレート。」(以下「甲14-2発明」という。)

「カカオマス44部、砂糖36部、ラウリン系エステル交換油脂(A)20部、レシチン0.4部を含み、また、油脂組成物の油脂中にラウリン系エステル交換油脂を45%含むデニッシュパンのコーチング用チョコレート。」(以下「甲14-3発明」という。)

「カカオマス36部、砂糖39部、ラウリン系エステル交換油脂(A)25部、レシチン0.4部、アセチル化蔗糖脂肪酸エステル0.5部を含み、また、油脂組成物の油脂中にラウリン系エステル交換油脂を56%含むデニッシュパンのコーチング用チョコレート。」(以下「甲14-4発明」という。)
ただし、
ラウリン系エステル交換油脂(A)は、「ヤシ油50部、パーム分別ステアリン40部、菜種極度硬化油10部を原料とし、触媒としてナトリウムメチラートを用い既知の方法によりランダムエステル交換して得られた油脂」」であり、
ラウリン系エステル交換油脂(B)は、「パーム核油95部とパーム油5部との混合油脂を極度硬化した油脂90部、菜種極度硬化油10部を原料とし、触媒としてナトリウムメチラートを用い既知の方法によりランダムエステル交換して得られた油脂」である。

イ 本件特許発明1との対比・判断
本件特許発明1と甲14-1発明?甲14-4発明とを対比すると、
甲14-1発明?甲14-4発明の「デニッシュパンのコーチング用チョコレート」は、本件特許発明1の「ベーカリー食品コーティング用油脂組成物」に相当し、
甲14-1発明?甲14-4発明において、ラウリン系エステル交換油脂(A)及び(B)は、ナトリウムメチラートを触媒として用いてランダムエステル交換したものであるから、それぞれ本件特許発明1の「ランダムエステル交換油脂」に相当し、油脂組成物の油相中の割合は56%または45%であり、いずれも本件特許発明1の「45?90質量%(油相基準)」の範囲内である。
また、甲14-1発明?甲14-4発明において、含まれる油脂の全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量の割合は、甲第2号証を参酌すると、甲14-1発明及び甲14-4発明が23.0?23.3%、甲14-2発明が35.4%、甲14-3発明が18.5?18.7%となり(特許異議申立書第104?105頁)、甲14-1発明及び甲14-4は、本件特許発明1の「20?35.1質量%」の範囲内である。
しかし、両者は、少なくとも以下の点で相異する。
相違点3:全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸のうちランダムエステル交換油脂由来であるものの割合は、本件特許発明1では、20?50質量%とされているのに対し、甲14-1発明?甲14-4発明では、そのような特定はされていない点。

上記相違点3について検討すると、
甲14-1発明?甲14-4発明において、油脂は、ラウリン系エステル交換油脂及びカカオマスに含まれるカカオ脂(カカオマス中の55%;甲第9号証参照)のみであり、カカオ脂の炭素数14以下の飽和脂肪酸量は、0.1%(甲第2号証参照)と非常に少ないことから、甲14-1発明?甲14-4発明において、全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸のうちランダムエステル交換油脂由来であるものの割合は、本件特許発明1の上限値50質量%を大きく超えているものと認められる。
そうすると、甲14-1発明?甲14-4発明の全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸のうちランダムエステル交換油脂由来であるものの割合を本件特許発明1の上限値50質量%以下とするには、さらにランダムエステル交換されていない炭素数14以下の飽和脂肪酸を多く含む油脂を併用する必要がある(特許異議申立書第110頁)。
ここで、甲第7号証には、特許異議申立書に記載のとおり「炭素数14以下の飽和脂肪酸を比較的多く含むランダムエステル交換油脂と炭素数14以下の飽和脂肪酸を比較的多く含むランダムエステル交換されていない油脂とを併用したコーティング用油脂組成物。」(第110頁)が記載されているとしても、甲第7号証の「被覆チョコレート用油脂組成物」はラウリン酸(炭素数12)を主体とする油脂組成物である(明細書の段落[0018]参照)ことから、含まれる油脂の全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が20?35.1質量%というものではない。
そうすると、甲14-1発明?甲14-4において、甲第7号証を参酌し、含まれる油脂の全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量の割合を本件特許発明1の35.1質量%以下としつつ、甲14-1発明?甲14-4発明のコーチング用チョコレートにエステル交換されていない油脂を追加、または、甲14-1発明?甲14-4発明のラウリン系エステル交換油脂の一部をエステル交換されていない油脂に置き換えて、相違点3の本件特許発明1のようになすことを、当業者が容易に想到し得るものではない。
さらに、上記のような油脂の追加、または、置き換えした場合には、ラウリン系エステル交換油脂の油相中の割合は減少するが、甲14-3発明は当該割合が45%であるから、上記場合には本件特許発明1に規定されている45質量%(油相基準)以上含有する条件を満たさないものとなり、また、甲14-1発明、甲14-2発明及び甲14-4発明についても上記条件を満たすものとは限らない。
また、他に上記相違点3を容易になし得たとする証拠はない。
よって、甲14-1発明?甲14-4発明において、上記相違点3の本件特許発明1のようになすことは、当業者が容易になし得たものとはいえない。

ウ 本件特許発明5?7との対比・判断
本件特許発明5?7と甲14-1発明?甲14-4発明とを対比すると、両者は少なくとも上記相違点3において相違し、上記検討したとおり、甲14-1発明?甲14-4発明において、上記相違点3の本件特許発明5?7のようになすことは、当業者が容易になし得たものとはいえない。

エ まとめ
本件特許発明1及び5?7は、甲14-1発明?甲14-4発明及び甲第6、7、9?11号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、上記理由1及び2以外に、甲第6号証を主引用例とした取消理由2、甲第7号証を主引用例とした取消理由3及び甲第8号証を主引用例とした取消理由4を主張している。
しかし、甲第6号証及び甲第7号証については、いずれも本件特許発明1の「含まれる油脂の全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が20?35.1質量%」である点について記載されていなく、この点を容易に想到し得たとする根拠はない。
また、甲第8号証については、本件特許発明1の「ランダムエステル交換油脂を、油相中に45?90質量%(油相基準)含有」する点について記載されていなく、この点を容易に想到し得たとする根拠はない。

なお、特許異議申立書において、上記各点を容易に想到し得たとする根拠として、原料油脂の配合を適宜に調整した「例A」?「例G」を設定した上で、成分量を算出しているが(特許異議申立書第70頁表D、第88頁表F、第98?99頁)、甲第6号証?甲第8号証に接した当業者が、そのような特定の各「例」を設定する動機付けはない。

よって、本件特許発明1、5?7に係る特許は、上記取消理由2?4によって取り消すことはできない。

6.むすび
以上のとおり、本件特許発明1、5?7に係る特許は、取消理由通知に記載した理由及び特許異議申立書に記載された取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許発明1、5?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項2?4、8に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項2?4、8に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランダムエステル交換油脂を、油相中に45?90質量%(油相基準)含有し、含まれる油脂の全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が20?35.1質量%であって、
全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸のうち、20?50質量%が上記ランダムエステル交換油脂由来であり、
上記ランダムエステル交換油脂として下記エステル交換油脂(I)及びエステル交換油脂(II)を含有し、
且つ該油相のSFC(固体脂含量)が10℃で44?66%、20℃で25?44%、30℃で5?25%、40℃で0?5%であることを特徴とするベーカリー食品コーティング用油脂組成物。
エステル交換油脂(I):全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が20?60質量%であり、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が40?60質量%である油脂配合物(I)をランダムエステル交換してなる油脂
エステル交換油脂(II):ヨウ素価52?70のパーム分別軟部油を70質量%以上含有し、且つその全構成脂肪酸組成における不飽和脂肪酸含量が50質量%以上である油脂配合物(II)をランダムエステル交換してなる油脂
【請求項2】 (削除)
【請求項3】 (削除)
【請求項4】 (削除)
【請求項5】
含まれる油脂の全構成脂肪酸組成において実質的にトランス脂肪酸を含有しないことを特徴とする請求項1に記載のベーカリー食品コーティング用油脂組成物。
【請求項6】
結合脂肪酸の主体が飽和脂肪酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はショ糖脂肪酸エステルを、油相中に0.01?3質量%(油相基準)含有することを特徴とする請求項1又は5に記載のベーカリー食品コーティング用油脂組成物。
【請求項7】
チョコレートであることを特徴とする請求項1、5及び6の何れかに記載のベーカリー食品コーティング用油脂組成物。
【請求項8】 (削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-12-19 
出願番号 特願2011-11776(P2011-11776)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A23D)
P 1 651・ 121- YAA (A23D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 一宮 里枝  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 鳥居 稔
佐々木 正章
登録日 2015-07-17 
登録番号 特許第5777895号(P5777895)
権利者 株式会社ADEKA
発明の名称 コーティング用油脂組成物  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  

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