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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1324891
異議申立番号 異議2016-700935  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-30 
確定日 2017-02-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第5895495号発明「シート状化粧料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5895495号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5895495号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成23年12月9日に特許出願され、平成28年3月11日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 中嶋美奈子より特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
特許第5895495号の請求項1ないし10の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものである。(以下、請求項1ないし10の特許に係る発明を纏めて「本件発明」ということがある。)

第3 申立理由の概要
特許異議申立人 中嶋美奈子は、甲第1?3号証(以下、「甲1」?「甲3」という。)を提出し、概略、以下のように主張している。

1 特許法第29条第2項について(同法第113条第2号)
(1)請求項1、2、4?6、8及び10に係る発明は、甲1及び甲3記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものである(以下、「取消理由1」という。)。
(2)請求項1、4?6、8及び10に係る発明は、甲2及び甲3記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものである(以下、「取消理由2」という。)。

2 特許法第36条第6項第1号について(同法第113条第4号)
本件の特許請求の範囲の記載には不備があり、請求項1ないし10の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである(以下、「取消理由3」という)。

3 証拠方法
(1)甲1:特開2006-151829号公報
(2)甲2:特開2004-345980号公報
(3)甲3:特開2006-45169号公報

第4 甲各号証の記載事項及び甲1、甲2に記載された発明
1 甲1は、シート状化粧料について、
(1a) 「 【請求項1】
シート状基材と、該シート状基材に乳化組成物を付着させてなり、該乳化組成物が、シリコーン、該シリコーンの溶解度パラメーターとの差が1以下の溶解度パラメーターを有するシリコーン誘導体、及び膨潤性粘土鉱物を含有することを特徴とするシート状化粧料。」とするものである。

(1b)そして、【表3】(【0050】)の実施例6には、
「下記の組成(質量%)の乳化組成物含有化粧料(化粧水)を、下記の不織布として示したシート状基材に含浸させたシート状化粧料。
ジメチルシリコーンオイルSH-200C-500cs(500mm^(2)/s)0.5(質量%)
ポリエーテル変性シリコーンSH-3749 0.1
モンモリロナイト 0.15
エタノール 20
エチルパラベン 0.05
メチルパラベン 0.05
ポリオキシエチレン(60)硬化ひまし油 0.05
1,3-ブチレングリコール 1
水酸化ナトリウム 0.2
香料 0.1
精製水 バランス
無水ケイ酸(サイリシア730) 5
不織布 第1層:コットン100%(15g/m^(2))
第2層:コットン/PE・PET芯鞘繊維=50/50(15g/m^(2))
第3層:PP・PEサーマルボンド(20g/m^(2))
第4層:コットン/PE・PET芯鞘繊維=50/50(15g/m^(2))
第5層:コットン100%(15g/m^(2))」(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

(1c)また【0010】には、「本発明で用いるシリコーンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、メチルポリシロキサンなどのジメチルシリコーンオイル……、などが挙げられる。これらの中でも、25℃における粘度が1?1000mm^(2)/sのジメチルシリコーンオイルが好ましい。前記粘度が、1mm^(2)/s未満であると、シリコーンオイルのすべり感がでないばかりでなく皮膚刺激の懸念を生じることがあり、1000mm^(2)/sより高粘度であると、べたつきが感じられることがある。」と記載されている。

(1d)【表2】?【表4】(【0049】?【0051】)には、実施例1?11のシート状化粧料の作製で使用される乳化組成物含有化粧料のシリコーン成分が、実施例1、3、5、6、8:ジメチルシリコーンオイルSH-200C-500cs(500mm^(2)/s)、実施例2、4、7:ジメチルシリコーンオイルSH-200C-100cs(100mm^(2)/s)、実施例9:環状シリコーンSH-245、実施例10:環状シリコーンSH-246及びメチルフェニルシリコーンSH-556、実施例11:ジメチルシリコーンオイルSH-200C-5000cs(5000mm^(2)/s)であることが記載されている。

2 甲2は、粉体含有化粧料及びシート状化粧料に関するものであって、
(2a)「【請求項1】
吸油量が50?200mL/100gであり、かつ、平均粒径が1?80μmである粉体を少なくとも含有してなることを特徴とする粉体含有化粧料。
【請求項2】
支持体層の少なくとも片面に肌接触層を設けてなる化粧料用基材において、前記支持体層は、秤量が5?50g/m^(2)である不織布から形成されると共に、前記肌接触層は、分割繊維と親水性繊維との質量比率(分割繊維/親水性繊維)が5/5?5/95であるウエブを含有することを特徴とする化粧料用基材。
【請求項3】
請求項2に記載の化粧料用基材に、請求項1に記載の粉体含有化粧料を含浸又は塗布してなることを特徴とするシート状化粧料。」が記載されている。

(2b)【表2】(【0072】)、【0093】、【表17】(【0104】)、【表15】(【0102】)の記載によれば、
比較例5として、
「化粧料用基材18として示される、
PPポイントエンボスサーマルボンド不織布(4g/m^(2))からなる支持層の片面に、レーヨン繊維1.7dtex×40mm(60質量%)、ポリエステル繊維1.6×44mm(20質量%)、ポリエステル/ポリエチレン分割型複合繊維(20質量%)からなる肌接触層を水流交絡法により作製した化粧料用基材に、
比較例2として示される下記の組成(質量%)の化粧水を含浸させたシート状化粧料。
無水ケイ酸(サンスフェアH33) 5.00(質量%)
ポリオキシエチレン(60)硬化ひまし油 0.05
ポリエチレングリコール#400 1.00
エタノール 20.00
IPMP(イソプロピルメチルフェノール) 0.05
パラオキシ安息香酸プロピル 0.05
パラオキシ安息香酸メチル 0.05
香料 0.05
精製水 バランス」(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。

(2c)【0073】には「……また、吸油量が多い粉体、例えば、吸油量が350mL/100gを超える比較例2?3では、さらさら感について十分な評価が得られていない。
従って、肌にさらさら感を付与するための因子が、吸油量が多い粉体を用いることに起因することではなく、粉体の吸油量を最適化することが効果的であることが認められる。」と記載されている。

(2d)【0074】?【0076】には、粉体含有化粧料(クリーム)の実施例10?14が記載され、【表3】には、実施例10、11、13では、成分として、「メチルポリシロキサン*2」(「*2 東レダウコーニングシリコーン社製 SH200C 30cs」)が含まれることが示されている。

(2e)【0077】、【0078】には、粉体含有化粧料(ハンドクリーム)の実施例15?17が記載され、【表5】には、実施例15?17に、成分として、「メチルポリシロキサン30cs*1」(「*1 東レダウコーニングシリコーン社製 SH200C 30cs」)が含まれることが示されている。

(2f)【0079】、【0080】には、粉体含有化粧料(乳液)の実施例18?21が記載され、【表6】には、実施例18、20、21に、成分として、「メチルポリシロキサン*1」(「*1 東レダウコーニングシリコーン社製 SH200C 10cs」)が含まれることが示されている。

3 甲3は、シート状化粧料に関するものであって、
(3a)【0014】に
「また、本発明のシート状化粧料は、より感触を高めるため、動粘度が25℃で1?200mm^(2)/sのシリコーン油を含有することができる。シリコーン油は肌への吸着性が高いという性質があるが、上記粉体の肌への吸着をより高める上で好ましい効果をもたらす。シリコーン油としては、メチルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、脂肪酸変性ポリシロキサン、高級アルコール変性ポリシロキサン、アミノ変性ポリシロキサンなどが挙げられる。これらの中で、メチルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサンが特に好ましい。また、上記動粘度が1mm^(2)/s以上であると皮膚刺激性等の問題がなく、好ましい。」と記載されている。

(3b)【表1】(【0026】)には、実施例6のシート状化粧料に含浸される液状組成物の成分は、粉体としてタルク、不飽和脂肪酸としてオレイン酸、リノール酸及びリノレン酸、溶媒としてエタノール及び水、酸化防止剤(BHT)、殺菌剤(イソプロピルメチルフェノール)、その他1,3-ブチレングリコール、ペムレンTR-1及びシリコーン油(6cst)であることが示されている。

第5 当合議体の判断
1 取消理由1(甲1発明に基づいた進歩性欠如)について
(1)請求項1に係る発明について
ア 請求項1に係る発明と甲1発明とを対比する。
ア1 甲1発明の、第1?5層から成る「不織布」、「下記の組成(質量%)の化粧料を、下記の不織布として示したシート状基材に含浸させたシート状化粧料」、「無水ケイ酸(サイリシア730 5(質量%)」、「ポリオキシエチレン(60)硬化ひまし油 0.05(質量%)」は、それぞれ、請求項1に係る発明の「親水性繊維及び疎水性繊維からなるシート状基材」、「シート状基材に含浸された液体組成物とを有するシート状化粧料」、「(A)親水性粉体」であってその「(A)成分の含有量が1?5質量%」、「(C)ノニオン性界面活性剤」であってその「(C)成分の含有量が0.01?0.1質量%」であることに相当する。

ア2 また、甲1の【0010】((1c))の「これらの中でも、25℃における粘度が1?1000mm^(2)/sのジメチルシリコーンオイルが好ましい。」との記載、及び「mm^(2)/s」との単位は動粘度を表すものであることから、甲1発明の成分の「ジメチルシリコーンオイルSH-200C-500cs(500mm^(2)/s)」は、25℃における動粘度が500mm^(2)/sであるジメチルシリコーンオイルであるといえる。そうすると、甲1発明が「ジメチルシリコーンオイルSH-200C-500cs(500mm^(2)/s)0.5(質量%)」を含むことは、請求項1に係る発明が「(B)25℃の動粘度5?30mm^(2)/sであるジメチルポリシロキサン」を含みその「(B)成分の含有量が0.01?0.4質量%」であることと、ジメチルポリシロキサンを含み、その含有量が0.01?0.4質量%である点で共通するが、ジメチルポリシロキサンの25℃における動粘度の値が相違する。

ア3 甲1発明において、「無水ケイ酸(サイリシア730)」と「ジメチルシリコーンオイルSH-200C-500cs(500mm^(2)/s)」の重量比は、5/0.5=10となり、請求項1に係る発明で「(A)成分と(B)成分との含有質量比(A)/(B)が10?25」と特定される質量比の値の範囲に含まれる。

イ そうすると、請求項1に係る発明と甲1発明とは、
「親水性繊維及び疎水性繊維からなるシート状基材と、このシート状基材に含浸された液体組成物とを有するシート状化粧料であって、
前記液体組成物が、
(A)親水性粉体、
(B)ジメチルポリシロキサン、及び
(C)ノニオン性界面活性剤を含有し、
(A)成分の含有量が1?5質量%、(B)成分の含有量が0.01?0.4質量%であって、(A)成分と(B)成分との含有質量比(A)/(B)が10?25であり、
(C)成分の含有量が0.01?0.1質量%
であるシート状化粧料。」である点で一致し、
次の点で相違する。

<相違点1>
(B)成分のジメチルポリシロキサンの25℃の動粘度が、請求項1に係る発明は5?30mm^(2)/sであるのに対して、甲1発明は500mm^(2)/sである点。

ウ <相違点1>についての検討
上記相違点に関して、甲1の【0010】((1c))には、「25℃における粘度が1?1000mm^(2)/sのジメチルシリコーンオイルが好ましい」なる記載があるが、特に、5?30mm^(2)/sの範囲のものを選択することは記載されていない。甲1((1d))の実施例で用いられているジメチルシリコーンオイルは、粘度が100mm^(2)/s、500mm^(2)/s、又は5000mm^(2)/s(実施例11のみ)のものだけである。
また、甲3には、動粘度が25℃で1?200mm^(2)/sのシリコーン油を用いること(下線は当合議体が付した。)は記載されている((3a))が、特に、動粘度が5?30mm^(2)/sの範囲のジメチルポリシロキサンを選択することは記載されていない。また、甲3の実施例6((3b))ではタルク、不飽和脂肪酸、酸化防止剤(BHT)と共にシリコーン油(6cst)が用いられているが、このシリコーン油(6cst)がジメチルポリシロキサンであるとは明記されていない。
ここで、甲1の【0010】の上記記載だけからは、一見すると、甲1発明において、粘度が1?1000mm^(2)/sの範囲のジメチルシリコーンオイルを自由に選択しうるようにも窺えるが、甲1発明は、甲1の請求項1((1a))に記載される、シリコーンと、該シリコーンの溶解度パラメーターとの差が1以下の溶解度パラメーターを有するシリコーン誘導体とを併用し、更に膨潤性粘土鉱物を含有する乳化組成物を用いることを必須の構成とする発明の一実施態様であるから、甲1発明においても当然に、「ジメチルシリコーンオイルSH-200C-500cs(500mm^(2)/s)」と溶解度パラメーターとの差が1以下の溶解度パラメーターを有するシリコーン誘導体(甲1発明においては「ポリエーテル変性シリコーンSH-3749」)とを併用することを必須の構成とするものである。
そうすると、そもそも甲1発明においては、動粘度が異なるジメチルシリコーンに変更すべき必要性(変更する動機付け)が見いだせないものであるが、仮に変更しようと試みた場合には、変更に伴って、シリコーン誘導体の方も、変更後のジメチルシリコーンと溶解度パラメーターとの差が1以下の溶解度パラメーターを有するシリコーン誘導体を見つけ出して同時に変更する必要があるとの制約があり、甲1発明において、ジメチルシリコーンは、動粘度が1?1000mm^(2)/sの範囲であれば自由に選択して変更できるというものではない。
そして、甲1には、1?1000mm^(2)/sと極めて広範な範囲から5?30mm^(2)/sを選択すべき開示も示唆も見当たらない。この点は、甲3にも記載されていない。
一方、請求項1に係る発明は、動粘度5?30mm^(2)/sのジメチルポリシロキサンを用いることにより、本件明細書(特に、実施例と比較例3、4とで対比される)に記載される効果を奏するものである。
したがって、甲1及び甲3の記載を参酌しても、甲1発明において<相違点1>にかかる構成を導き出すことはできない。

エ 特許異議申立人は、「また、甲第3号証の段落(0010)によれば、粉体を含有するシート状化粧料に、25℃の動粘度が1?20mm^(2)/sのシリコーン油(ジメチルポリシロキサン)を配合することにより、より感触を高めることができることが記載されている。また、ジメチルポリシロキサンの含有量は、粉体に対して100分の1量?10倍量が好ましいことも記載されており、甲第3号証の段落(0026)(表1)では粉体/シリコーン油の質量比で4/0.3=13.3となる量が使用されている。そうすると、甲1発明において、すべり感、すなわち、さらさら感を高める目的で、25℃における動粘度500mm^(2)/sのジメチルポリシロキサンに代えて、甲第1号証及び甲第3号証記載の25℃における動粘度1?20mm^(2)/sのジメチルポリシロキサンを粉体との質量比で13.3となる量配合することは、当業者が通常行う設計事項にすぎない。」と主張しているが、甲3の記載は上記ウのとおりであって、動粘度1?20mm^(2)/sのジメチルポリシロキサンを配合するとは記載されていないから、かかる主張は理由がない。

オ 小括
以上のとおり、請求項1に係る発明は、甲1発明及び甲1、甲3に記載された技術的事項から容易になし得るものではない。

(2)請求項2、4?6、8及び10に係る発明
請求項2、4?6、8及び10に係る発明は、請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記(1)の請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲1、甲3に記載された技術的事項から容易になし得るものではない。

(3)取消理由1についてのまとめ
したがって、請求項1、2、4?6、8及び10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとの取消理由1には、理由がない。

2 取消理由2(甲2発明に基づいた進歩性欠如)について
(1)請求項1に係る発明について
カ 請求項1に係る発明と甲2発明とを対比する。
カ1 甲2発明の、「PPポイントエンボスサーマルボンド不織布(4g/m^(2))からなる支持層の片面に、レーヨン繊維1.7dtex×40mm(60質量%)、ポリエステル繊維1.6×44mm(20質量%)、ポリエステル/ポリエチレン分割型複合繊維(20質量%)からなる肌接触層を水流交絡法により作製した化粧料用基材」、「下記の組成(質量%)の化粧水を含浸させたシート状化粧料」、「無水ケイ酸(サンスフェアH33)5.00(質量%)」、「ポリオキシエチレン(60)硬化ひまし油0.05(質量%)」は、それぞれ、請求項1に係る発明の「親水性繊維及び疎水性繊維からなるシート状基材」、「シート状基材に含浸された液体組成物とを有するシート状化粧料」、「(A)親水性粉体」であってその「(A)成分の含有量が1?5質量%」、「(C)ノニオン性界面活性剤」であってその「(C)成分の含有量が0.01?0.1質量%」であることに相当する。

カ2 甲2発明はジメチルポリシロキサンを成分として含まない。

キ そうすると、請求項1に係る発明と甲2発明とは、
「親水性繊維及び疎水性繊維からなるシート状基材と、このシート状基材に含浸された液体組成物とを有するシート状化粧料であって、
前記液体組成物が、
(A)親水性粉体、
(C)ノニオン性界面活性剤を含有し、
(A)成分の含有量が1?5質量%、(C)成分の含有量が0.01?0.1質量%
であるシート状化粧料。」である点で一致し、
次の点で相違する。

<相違点2>
請求項1に係る発明は、(B)成分として「25℃の動粘度5?30mm^(2)/sであるジメチルポリシロキサン」を、「含有量が0.01?0.4質量%」で含み、(A)成分の親水性粉体と(B)成分との含有質量比(A)/(B)が10?25であるのに対して、甲2発明はジメチルポリシロキサンを含まず、したがって、含有質量比(A)/(B)の特定もない点。

ク <相違点2>についての検討
上記相違点に関連して、甲2におけるシリコーンオイルに関する記載をみると、【表3】、【表5】、【表6】に、粉体含有化粧料(クリーム、ハンドクリーム、乳液)の実施例の成分の1つとして「メチルポリシロキサン」(東レダウコーニングシリコーン社製 SH200C 30cs、又は、東レダウコーニングシリコーン社製 SH200C 10cs)が記載されている((2d)?(2f))が、当該成分を配合する意味等の技術的な説明は全くない。
甲3に、動粘度5?30mm^(2)/sのジメチルポリシロキサンを選択する記載ないし示唆がないことは、上記1(1)ウのとおりである。
してみると、甲2及び甲3の記載を参酌しても、甲2発明において、25℃の動粘度5?30mm^(2)/sであるジメチルポリシロキサンを配合する動機付けがない。

ケ 特許異議申立人は、上記1(1)エと同様の主張をし、「甲第3号証と同じシート状化粧料である甲2発明において、すべり感等の感触を高める目的で、甲第3号証記載の25℃における動粘度1?20mm^(2)/sのジメチルポリシロキサンを粉体との質量比で13.3となる量配合することは、当業者が通常行う設計事項にすぎない。」と主張している。
しかしながら、甲2発明は「比較例2として示される下記の組成(質量%)の化粧水を含浸させたシート状化粧料」であるが、甲2の【0073】((2c))の「吸油量が350mL/100gを超える比較例2?3では、さらさら感について十分な評価が得られていない。」なる記載によれば、甲2発明で含浸されている化粧水(比較例2)が比較例たる理由は、比較例2で用いられている粉体の吸油量が甲2の請求項1((2a))で特定される最適な粉体の吸油量をはずれていることである。そうすると、さらさら感の評価を高めるために、甲2発明に対して当業者が行う改善策は、甲2の記載に従えば、特定の動粘度のジメチルポリシロキサンを更に配合することではなく、最適な吸油量の粉体の選択に向けられると考えるのが自然である。
加えて、甲3には動粘度1?20mm^(2)/sのジメチルポリシロキサンを配合するとは記載されていないことは上記1(1)エで述べたとおりである。
よって、特許異議申立人の主張は理由がない。

コ 小括
したがって、請求項1に係る発明は、甲2発明及び甲2、甲3に記載された技術的事項から容易になし得るものではない。

(2)請求項4?6、8及び10に係る発明
請求項4?6、8及び10に係る発明は、請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記(1)の請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、甲2発明及び甲2、甲3に記載された技術的事項から容易になし得るものではない。

(3)取消理由2についてのまとめ
したがって、請求項1、4?6、8及び10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとの取消理由2には、理由がない。

3 取消理由3(所謂「サポート要件」違反)について
(1)特許異議申立人は、請求項1に記載の「親水性粉体」及び「ノニオン界面活性剤」、請求項8、9に記載の「多価アルコール」ついて、本件明細書において課題(さらさら感及びその持続、白残りの抑制)を解決することが示されているのは、それぞれ「シリカ、タルク及びヒドロキシアパタイトの3種のみ」、「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びイソステアリン酸PEG-20グリセリルのみ」、「1,3-ブチレングリコールのみ」であるから、請求項に記載の「親水性粉体」、「ノニオン界面活性剤」、「多価アルコール」の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張している。

(2)そこで検討すると、
ア 「親水性粉体」について
請求項1に係る発明における「親水性粉体」について、本件明細書【0009】で明確に定義されており、ここで例示される「タルク、マイカ、セルロース、シルク、ヒドロキシアパタイト、シリカ等」のうち、シリカ、タルク、ヒドロキシアパタイトについては本件明細書に記載の実施例によって、本件発明の課題を解決できることが示されている。
そして、【0009】に示されるものは、シート状化粧料に用いられる粉体として、特殊なものとはいえないし、実施例で用いられたシリカ、タルク、ヒドロキシアパタイト以外の親水性粉体が、シート状化粧料に配合した際に、物理的化学的な性質として、シリカ、タルク、ヒドロキシアパタイトとは顕著に異なる性状を示すとの根拠となるような証拠が示されているわけでもない。
そうすると、シート状化粧料に配合される親水性粉体として、通常想定される範囲内のものにおいて、実施例で示されたものと同様に課題が解決できることを当業者が認識できるものといえる。

イ 「ノニオン界面活性剤」について
請求項1に係る発明における「ノニオン界面活性剤」について、本件明細書【0019】には、そのHLB値の好ましい範囲が明記されており、【0020】には、具体的なノニオン界面活性剤とそのHLB値が列記されている。また、実施例として、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60EO)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40EO)、イソステアリン酸PEG-20グリセリル、イソステアリン酸PEG-50水添ヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(100EO)、イソステアリン酸PEG-50グリセリルを用いた場合について、本件発明の上記課題が解決できることが示されている。
【0020】に示されるものは、化粧料に用いられるノニオン界面活性剤として通常のものであり、一般的に、界面活性剤はHLB値によってその性質が代表されるものであって、同程度のHLB値を持つノニオン界面活性剤であれば、その機能も大きく異なるものではないといえる。
そうすると、本件明細書の記載から、【0020】に示されるような通常のノニオン界面活性剤を用いた場合に、実施例で示されたものと同様に課題が解決できることを当業者は認識できるものといえる。

ウ 「多価アルコール」について
請求項8に係る発明における「多価アルコール」について、本件明細書【0023】には、多価アルコールを配合する技術的意味と具体的な化合物として、プロピレングリコール(PG)、ジプロピレングリコール(DPG)、1,3-ブチレングリコール(1,3-BG)、ポリエチレングリコール(PEG)、グリセリン等が挙げられている。また、1,3-ブチレングリコールを用いた実施例32?35(【表6】)が、1,3-ブチレングリコールを配合しない以外、その他の成分組成は同一である実施例1(【表1】)に比べて、「白残りのなさ」の点で優れていたことが記載されている。上記実施例からは、1,3-ブチレングリコールを配合しなくとも既に、本件発明の課題は解決されており、1,3-ブチレングリコールを配合することより、「白残りのなさ」の効果が更に向上することがわかる。
そうすると、【0023】に示されるものは、化粧料に用いられる多価アルコールとして通常のものであり、化粧料に配合した場合に1,3-ブチレングリコールと大きく作用が異なるともいえないので、1,3-ブチレングリコール以外の多価アルコールを配合した場合も、実施例で確認されているのと同様の効果を奏するものといえる。

エ してみると、上記ア?ウのとおり、請求項1に係る発明及び請求項1を引用する他の請求項に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明において、本件発明の課題を解決できることが裏付けられているといえる。

(4)取消理由3についてのまとめ
したがって、請求項1?10に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるとの取消理由3には、理由がない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立人が主張する取消理由1?3及び証拠方法によっては、請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-02-06 
出願番号 特願2011-270095(P2011-270095)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小出 直也岩下 直人團野 克也  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 関 美祝
小川 慶子
登録日 2016-03-11 
登録番号 特許第5895495号(P5895495)
権利者 ライオン株式会社
発明の名称 シート状化粧料  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  

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