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審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2015700124 審決 特許

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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1324899
異議申立番号 異議2016-701026  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-28 
確定日 2017-02-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第5917763号発明「液体調味料及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5917763号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5917763号の請求項1ないし5に係る特許についての出願(以下「本件出願」という。)は、平成27年12月22日に特許出願され、平成28年4月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成28年10月28日付け及び同年11月15日付けでそれぞれ特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件の発明
特許第5917763号の請求項1ないし5の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
含水アルコール抽出した昆布エキスと、温水抽出した昆布だしとを、
原料昆布の使用量を同一に換算したときの前記昆布エキスと前記昆布だしとの質量混合比が、
4:6?8:2の範囲となるように混合すること、
前記昆布エキスが、以下の条件で昆布を含水アルコール抽出することにより得られたものであること、
抽出溶媒:20?60(v/w)%アルコール水溶液
抽出温度:30?70℃
抽出時間:2時間以内
並びに、
前記昆布だしが、以下の条件で昆布を温水抽出することにより得られたものであること、
抽出温度:60?80℃
抽出時間:2時間以内
を特徴とする、
液体調味料の製造方法。
【請求項2】
さらにトルラ酵母から製造された酵母エキスを混合すること、並びに、
前記酵母エキスの液体調味料に対する添加量が0.06?0.29質量/容量%の範囲であること、
を特徴とする、
請求項1に記載の液体調味料の製造方法。
【請求項3】
さらに平均粒径100μm以下の鰹節微粉砕物を混合することを特徴とする、
請求項1乃至2のいずれか1項に記載の液体調味料の製造方法。
【請求項4】
前記液体調味料が、
鍋つゆ、麺つゆ、たれ、調味酢、又は液体だしであることを特徴とする、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体調味料の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法により製造された液体調味料。」

第3 申立理由の概要
1 特許異議申立人 河原田隆は、主たる証拠として
甲第1号証:特許第3842284号公報(以下「刊行物1」という。)及び
甲第2号証:特許第4017783号公報(以下「刊行物2」という。)
並びに従たる証拠として
甲第3号証:ジャパンフードサイエンス、Vol.35 No.11(1996)日本食品出版株式会社p.35-40(以下「刊行物3」という。)及び
甲第4号証:特開2002-220号公報(以下「刊行物4」という。)
を提出し、特許第5917763号の請求項1ないし4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(以下「理由1」という。)し、特許請求の範囲の請求項5の記載は明確でなく特許第5917763号の請求項5に係る特許は特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものである(以下「理由2」という。)から、請求項1ないし5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

2 また、特許異議申立人 高橋麻衣子は、主たる証拠として
甲第1号証:特開昭52-117472号公報(以下「刊行物5」という。)
並びに従たる証拠として
甲第2号証:特開昭54-49369号公報(以下「刊行物6」という。)、
甲第3号証:特開2002-142711号公報(以下「刊行物7」という。)、
甲第4号証:特開2001-78705号公報(以下「刊行物8」という。)、
甲第5号証:ジャパンフードサイエンス、Vol.41 No.9(2002)日本食品出版株式会社p.37-40(以下「刊行物9」という。)、
甲第6号証:ジャパンフードサイエンス、Vol.50 No.9(2011)日本食品出版株式会社p.30-36(以下「刊行物10」という。)、
甲第7号証:特開2015-188375号公報(以下「刊行物11」という。)、
甲第8号証:特開2014-68639号公報(以下「刊行物12」という。)、
甲第9号証:特開2014-124117号公報(以下「刊行物13」という。)、
甲第10号証:特開2001-197868号公報(以下「刊行物14」という。)及び
甲第11号証:本件出願に係る平成28年3月22日提出の意見書
を提出し、特許第5917763号の請求項1ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(以下「理由3」という。)から、請求項1ないし5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

第4 刊行物等に記載された事項及び引用発明1ないし3
1 刊行物1には、
・「【請求項1】
粉砕した節類及び/又は海藻類を原料とし、抽出溶媒としてアルコール溶液を用いてエキスを製造する方法において、
抽出溶媒としてアルコール濃度の異なる3種類以上のアルコール溶液を用いて抽出を行い、
各濃度で抽出されたエキスを混合することを特徴とするエキスの製造方法。」
・「【0020】
また、海藻類としては、昆布類を用いることが好ましく、マコンブ、ミツイシコンブ、ナガコンブ、アツバコンブ、リシリコンブ、ガモメコンブ、ヒダカコンブ等が挙げられる。」
・「【0028】
また、抽出温度は20?80℃であることが好ましく、20?60℃であることがより好ましい。」
・「【0031】
例えば、抽出工程で、抽出溶媒のアルコール濃度を低濃度から高濃度へ変化させる場合においては、上記抽出溶媒のアルコール初濃度は0(水)?50%(v/v)が好ましく、0(水)?20%(v/v)がより好ましい。」
・「【0044】
更に、本発明においては、節類を水又はアルコール溶液を用いてバッチ式抽出法により抽出した節類抽出液、昆布、椎茸等を水又はアルコール溶液を用いて抽出した抽出液、又はそれらの混合液(以下、これらを節類等抽出液という)を、本発明の抽出方法によって得られたエキスと混合してエキスを得ることもできる。これにより、容易に任意の風味や呈味をより強調することができ、風味バランス及び呈味バランスにより優れたエキスを得ることができる。」
・「【0048】
本発明の製造方法によって得られたエキスは、非常に優れた風味・呈味を有しているので、醤油、味噌、合わせ酢、ソース類(焼きそば、焼きうどん、お好み焼き、野菜炒め等)、たれ類(焼肉、しゃぶしゃぶ、焼き魚、煮魚、納豆、湯豆腐、冷奴、ユッケ等)、つゆ類(めんつゆ、なべつゆ、天つゆ等)、ドレッシング等の調味料類や、カレー、ソースミックス、中華料理の素、混ぜご飯の素、米飯加工品、卵料理の素(卵豆腐、茶碗蒸し、玉子焼き等)等の調理品類、更には、スープ、味噌汁、吸い物等のスープ類や、缶詰類、麺類、漬物、佃煮、惣菜、のり、海藻サラダ、練り製品、米菓、スナック類等、様々な飲食品への利用が期待できる。」
と記載されているから、特に【0031】の記載からして、「抽出溶媒のアルコール初濃度は0(水)」の場合について抽出すると、
「粉砕した海藻類の昆布類を原料とし、抽出溶媒としてアルコール溶液を用いてエキスを製造する方法において、
抽出溶媒としてアルコール濃度の異なる3種類以上のアルコール溶液を用いて抽出を行い、
抽出工程で、抽出溶媒のアルコール濃度を低濃度から高濃度へ変化させる場合の、上記抽出溶媒のアルコール初濃度は0(水)であり、
抽出温度は20?80℃であり、
各濃度で抽出されたエキスを混合するエキスの製造方法」
の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

2 刊行物2には、
・「【0007】
また、昆布などからグルタミン酸等のだし成分を抽出する方法としては、熱水抽出法、アルコール抽出法、またこれらの抽出法を組み合わせた方法などが工業的にすでに確立されている。」
と記載されているから、
「昆布などからグルタミン酸等のだし成分を抽出する、熱水抽出法とアルコール抽出法を組み合わせた方法」
の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

3 刊行物3には、
・「表2 そばつゆ(3倍濃縮)」に「原材料」として、「こんぶエキス」および「アロマイルド」の記載がある(37ページ左上)。

4 刊行物4には、
・「【0002】
【従来の技術】鰹魚体は、主に鰹節に加工されており、削節や粉節としての調味料用に利用されてきている。」
と記載されている。

5 刊行物5には、
・「特許請求の範囲
(1) 褐藻類の水抽出物と褐藻類のアルコール抽出物を含有する昆布様風味を有する調味料又は飲料。
(2) 褐藻類が昆布類である特許請求の範囲第(当審注:「第」は略字。以下本欄で同じ。)1項に記載の調味料又は飲料。
(3) 水抽出物とアルコール抽出物との比率が2:8ないし9:1である特許請求の範囲第1項に記載の調味料又は飲料。
(4) 褐藻類の水抽出液及び/又は褐藻類のアルコール抽出残査の水抽出液と、褐藻類のアルコール抽出液及び/又は褐藻類の水抽出残査のアルコール抽出液とを混合したのち、濃縮してアルコールを除去することを特徴とする、特許請求の範囲第1項に記載の調味料又は飲料の製法。
(5) 褐藻類の重量当り5?20倍量の水を用い、20?100℃で抽出することを特徴とする特許請求の範囲第4項に記載の調味料又は飲料の製法。
(6) 褐藻類の重量当り5?20倍量の80?100%アルコールを用い、20?80℃で抽出することを特徴とする、特許請求の範囲第4項に記載の調味料又は飲料の製法。」(1ページ左欄4行?右欄8行)
・「本発明者らはこれらの欠点を除くため研究の結果、一般に褐藻類の水抽出で、グルタミン酸を主体としたアミノ酸、マンニット、無機物、粘質物等を含む呈味エキスが得られるが、色素特にクロロフィル等の脂溶性色素及び香気成分は充分抽出されないこと、これに対しアルコール抽出では、褐藻類中の緑色色素及び香気成分は抽出されるが、呈味成分及び粘質物は抽出されないことを見出した。本発明はこの知見に基づいて水抽出物とアルコール抽出物を組合せることにより、初めて色調の安定した香味の優れた製品を得ることに成功したものである。」(2ページ左上欄8?19行)
・「本発明の調味料又は飲料は、所望により食塩その他の調味料、香料、色料等を含むことがてき、製品は液状でも粉末状でもよい。」(2ページ右上欄8?10行)
・「アルコール抽出には濃度80?100%のアルコールが用いられる。」(2ページ左下欄1?2行)
・「水抽出を行なう場合の水の量は、原料重量に対し容量で5?20倍量が好ましく、抽出温度は通常20?100℃である。アルコール抽出を行なう場合のアルコールの量は、原料重量に対し容量で80?100%アルコール5?20倍量が好ましく、抽出温度は通常20?80℃である。」(2ページ左下欄7?13行)
・「本発明においては、水抽出液及びアルコール抽出液を混合して減圧下に濃縮し、アルコールを除いた濃縮液をそのまま調味料又は飲料としてもよいが、これに食塩、砂糖、化学調味料その他を混和して製品としてもよい。」(2ページ右下欄10?14行)
・「本発明の調味料は褐藻類特有の強い旨味、緑色の色調及び優れた香気を有しているので、たれ、つゆ類などに好適であり、その他各種食品の風味改善にも有効である。」(2ページ右下欄18?21行)
・「実施例1
割砕昆布100gに水1l(当審注:「l」はアルファベット「エル」の小文字の筆記体。以下本欄で同じ。)を加え、80℃で40分間抽出したのち冷却濾(当審注:「濾」は「さんずい」に「戸」。以下本欄で同じ。)過し、残査に95%エタノール1lを加え、80℃で40分間抽出したのち濾過した。水抽出液とエタノール抽出液を合わせ、湯浴(65℃)上50mmHgで減圧濃縮して400m1とした。
比較のため、100gの割砕昆布に2lの水、無水エタノール又は各濃度の含水エタノールを加え、80℃で40分間抽出したのち濾過し、濾液を湯浴(55℃)上50mmHgで減圧濃縮して400mlとした。これらについて試験した結果を併せて第(当審注:「第」は略字)1表に示す。」(3ページ左上欄2?14行)
・「実施例2
割砕昆布1kgに水10l(当審注:「l」はアルファベット「エル」の小文字の筆記体。以下本欄で同じ。)を加え、30分間常温で攪拌したのち抽出液と抽出残査に分離し、残査に90%エタノール10lを加え、80℃で30分間還流加熱したのちエタノール抽出液と抽出残査に分離した。水抽出液とエタノール抽出液とを合わせ、湯浴(55℃)上で50mmHgの減圧下に濃縮してアルコールを除去すると、緑色の液体調味料4lが得られた。このものは優れた昆布特有の香味を有していた。
実施例3
割砕昆布500gに95%エタノール4lを加え、75℃で60分間還流加熱したのち抽出液と抽出残査に分離し、このエタノール抽出残査に水6lを加え、100℃で40分間抽出したのち水抽出液と抽出残査とに分離した。エタノールを抽出液と水抽出液を合わせて湯浴(60℃)上50mmHgで減圧濃縮すると、濃緑色の液体調味料1lが得られた。このものはきわめて優れた昆布特有の香味を有していた。
実施例4
実施例2で得られた調味料1lにデキストリン150g、グルタミン酸ソーダ50g、食塩130gを加えて噴霧乾燥すると、昆布特有の香味を有する淡緑色粉末調味料400gが得られた。
実施例5
(a)水抽出液と残査のエタノール抽出液とからの調味液
割砕昆布100gに水500mlを加え、80℃で20分間還流加熱したのち濾(当審注:「濾」は「さんずい」に「戸」。以下本欄で同じ。)布で濾過し、残査にさらに水500mlを加えて前記と同様にして抽出を行ない、濾液を前記の濾液と一緒にして水抽出液とした。残査に95%エタノール500mlを加え、水抽出の場合と同様にして2回の加熱還流抽出を行なつてエタノール抽出液を得た。これを前記の水抽出液と合わせ、湯浴(40℃)上30mmHgで減圧濃縮してエタノールを除去すると、調味液500mlが得られた(試料1)。
比較のため下記の3種の調味液を製造した。
(b)50%エタノール抽出液のみからの調味液
試料1の場合と同様に昆布100gに50%エタノール500mlを加え、80℃で20分間還流加熱したのち濾過し、残査をさらに毎回50%エタノール500mlを用いて処理して合計4回の抽出を行ない、それぞれの抽出液を合わて30mmHgで減圧濃縮し、調味液500mlを得た(試料2)。
(c)98%エタノール抽出液のみからの調味液
50%エタノールの代わりに98%エタノールを用い、その他は試料2の場合と同様にして抽出を行ない、調味液500mlを得た(試料3)。
(d)水抽出液のみからの調味液
50%エタノールの代わりに水を用い、その他は試料2の場合と同様にして抽出を行ない、調味液500mlを得た(試料4)。
以上4種の試料調味液を用い、訓練された20名のパネルにより、2点比較法で昆布特有の香気及び味の強さについて官能検査を実施した。その結果は第2?4表に示すとおりで、本発明の調味液(試料1)は比較試料の調味液に比して、昆布特有の香気と味が強く、調味料としてきわめて優れていることが認められた。」(3ページ右上欄下から5行?4ページ左上欄15行)
と記載されている。
また、3ページ右上欄の「第(当審注:「第」は略字)1表」中に「色調」及び「エキスの状態」として、
「本発明」の欄に「0.236」及び「濃緑色、色素分離せず」、
「水抽出」の欄に「0.0088」及び「褐色、 〃(当審注:「色素分離せず」を指す)」、
「10%エタノール抽出」の欄に「0.0099」及び「〃(当審注:「褐色」を指す) 〃(当審注:「色素分離せず」を指す)」、
「30%〃(当審注:「エタノール抽出」を指す)」の欄に「0.0422」及び「淡緑色、 〃(当審注:「色素分離せず」を指す)」、
「50%〃(当審注:「エタノール抽出」を指す)」の欄に「0.0434」及び「〃(当審注:「淡緑色」を指す) 〃(当審注:「色素分離せず」を指す)」、
「70%〃(当審注:「エタノール抽出」を指す)」の欄に「0.1322」及び「濃緑色色素が上層及び下層に分離し、中間層は淡褐色」、
「90%〃(当審注:「エタノール抽出」を指す)」の欄に「0.2596」及び「濃緑色色素が上層及び下層に分離し、中間層は無色」、
「100%〃(当審注:「エタノール抽出」を指す)」の欄に「0.2676」及び「〃(当審注:濃緑色色素が上層及び下層に分離し、中間層は無色」を指す)」
と記載されている。
そして、実施例1ないし5の記載から、抽出は水抽出とアルコール抽出の一方を行った後、その残査を用いて他方を行うことが記載されているから、
「褐藻類の昆布類の水抽出物と褐藻類の昆布類のアルコール抽出物を含有する昆布様風味を有する液体調味料の製法であって、
水抽出物とアルコール抽出物との比率が2:8ないし9:1であり、
褐藻類の昆布類の重量当り5?20倍量の水を用い、20?100℃で抽出し、
褐藻類の昆布類の重量当り5?20倍量の80?100%アルコールを用い、20?80℃で抽出し、
抽出は水抽出とアルコール抽出の一方を行った後、その残査を用いて他方を行い、
水抽出液と、アルコール抽出液とを混合したのち、濃縮してアルコールを除去する色調の安定した香味の優れた液体調味料の製法」
の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されている。

6 刊行物6には、
・「本発明者等は先に上記欠点を解消する調味料の製造法として、昆布の水抽出液とアルコール抽出液とを混合して、昆布特有の旨味と香気を有する調味料の製造法を確立した。」(1ページ右欄15?18行)
・「そしてまた香気が強すぎるためか若干生臭いという欠点もあった。」(2ページ左上欄4?6行)
と記載されている。

7 刊行物7には、
・「【0003】食品に昆布だしの呈味を付与する技術としては、カリウム、グルタミン酸、糖アルコールを特定のバランスにて配合する方法(特開昭60-168363)が報告されている。この方法により、昆布のだしらしい呈味を付与することは可能であるが、昆布のフレッシュな香りや風味が求められる利用系においては、不十分である。
【0004】また、昆布などから香気成分を抽出する方法としては、抽出溶媒を昆布類に接触させることにより、香気を抽出する方法が知られている。ここで、抽出溶媒として、水、アルコールを用いる方法が知られている。水による抽出の場合には、香気成分の水への溶解性が低いために、香気成分の回収率が低く、また、抽出の際に加熱を必要とするために、加熱により香気成分が失われてしまうという欠点がある。
【0005】一方、アルコールあるいは含水アルコールによる抽出の場合には、昆布など香気成分のうちで良い香りを有する芳香性の成分がアルコールへの可溶性を有するため、かかる芳香性の成分を効率良く抽出できる点で優れている。また、抽出の際に使用されたアルコールは抽出液の保存安定性を保持させるのに有効である。」
・「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題の解決につき鋭意工夫を重ねた結果、カリウム、グルタミン酸、糖アルコールを特定のバランスにて配合して得られた混合物に、昆布よりアルコールあるいは含水アルコールを用いて抽出した昆布フレーバー組成物を配合することにより、昆布の香り、風味および昆布だしの呈味を強く有し、かつ、清澄性の良好な昆布エキス調味料を得ることが可能で有ることを見い出し、本発明を完成するに至った。」
・「【0009】そのままか破砕あるいは粉砕した昆布について、アルコールあるいは含水アルコールを用いて香気成分の抽出を行う。この際、必要に応じて、撹拌や振動させることが望ましい。含水アルコールは、15?100重量%のエタノールを含むものが使用されるが、香気成分の回収量、回収のしやすさ、抽出物の着色度及び取り扱い易さの観点から、25?70%であることが望ましい。」
と記載されている。

8 刊行物8には、
・「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題の解決につき鋭意工夫を重ねた結果、昆布粉末を含水アルコールに含浸させた後、香気成分を含む含水アルコールを液体、亜臨界状態または超臨界状態の二酸化炭素により洗浄・回収して香気成分と、香気成分回収工程後の残さについて、熱水抽出を行うことによって得られた抽出液またはその濃縮液を、前述の香気成分と混合することによって、昆布の呈味、香りおよび風味を良好に再現する調味料を得ることが可能で有ることを見い出し、本発明を完成するに至った。」
・「【0006】含水アルコールは、15?95重量%のアルコールを含むものが使用されるが、香気成分の回収量と抽出物の着色度の観点から、25?75%であることが望ましい。用いる含水アルコール中のアルコール濃度については、抽出の対象となる昆布の種類によって異なるが、事前のトライアルによって容易に設定することが可能である。
【0007】香気成分の抽出は、上記原料昆布を含水アルコールと混合して、香気成分をアルコール中に抽出した後、該香気成分を含む含水アルコールを液体、亜臨界または超臨界状態にある二酸化炭素と接触することにより、含水アルコール中の香気成分を洗浄、回収することにより行う。抽出および洗浄・回収にてエキス抽出物を得た後に、得られる残さから呈味成分を得るために熱水抽出を行う。この時の条件は、使用する昆布によって異なるが、通常は85?100°C、15?60分間の抽出を行うことが望ましい。このようにして得られた熱水抽出液をそのままでも用いることも可能であるが、調味料の重量当りの香り・風味の力価を高くするためには、濃縮を行うのが望ましい。濃縮操作は、工程中の褐変反応を抑制するために、減圧濃縮あるいは逆浸透膜濃縮を行うことが望ましい。
【0008】このようにして得られた、熱水抽出物液または濃縮液を、アルコール浸漬、液体、亜臨界または超臨界二酸化炭素による洗浄、回収処理によって得られた多量の香気成分を含む抽出物と混合することにより、昆布の呈味、香りおよび風味を良好に再現する調味料を得ることが可能である。」
と記載されている。

9 刊行物9には、
・「今回は新製品「アジパルスBF」の呈味特徴について,各種調味料に添加した際の効果を中心にご紹介したい.」(37ページ左欄下から2行?右欄1行)
・「コンブエキスの場合も生臭さが抑制されて,呈味が底上げされる傾向は同じであった.」(40ページ左欄7?8行)
と記載されている。
また、40ページの「表3 魚介エキスへのアジパルスBFの添加効果」中に「コンブエキス(上品なコンブの風味を有するクリアーなエキス)」の欄の「0.05%」の欄に対応した「官能評価コメント」の欄に「生臭さが抑えられ,全体的な呈味が底上げされる。」と記載されている。

10 刊行物10には、
・「本稿では,当社の調味料用途のトルラ酵母エキス製品群についてご紹介したい.」(30ページ左欄14?15行)
と記載されている。
また、31ページの「表1 製品一覧」中に「商品名」の欄に「アジパルスBF」と記載されている。

11 刊行物11には、
・「【0042】
本発明の液状調味料において必須ではないが、上記の出汁抽出液のほか、食酢、柑橘類、調味料類、増粘剤、香料、香辛料、酒類、油脂などが適宜配合されていてもよい。」
・「【0048】
液体調味料サンプルの作製においては、下記方法により、まず濃縮つゆを作製し、各試験区に応じて適宜希釈して使用することとした。液体調味料の製品サンプルの作製においては、原料を全量で2kgになるように、それぞれ表1に示す割合(質量%)で用意し、最終塩分濃度が7質量%となるように均一に混合した。ここでいう「塩分濃度」とは、単に食塩のみの濃度をいうものではなく、醤油等における塩分も含めた濃度のことをいう。魚節微粉末としては、同ロットで粒子サイズの異なる鰹節微粉末(即ち上記の魚節微粉末サンプルA?Gの7種類)を使用した。」
と記載されている。

12 刊行物12には、
・「【0027】
本発明において魚節微粉末の50%積算径は、0.05μm以上7.5μm以下という条件を満たす必要があり、好ましくは0.1μm以上6.0μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上2.1μm以下であり、最も好ましくは0.37μm以上0.64μm以下である。ちなみに、液体調味料に添加される従来の魚節微粉末の場合、非常に細かいものであっても、一般的に50%積算径の値は10μm超である。そしてこの値が7.5μm超の場合には、生臭みが増し、ざらつきによる食感の低下を来し、濁り等による外観の悪化を来す等の不具合が生じやすくなる。
【0028】
また、本発明において魚節微粉末の90%積算径は、0.2μm以上35μm以下という条件を満たす必要があり、好ましくは0.5μm以上20μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上10.9μm以下であり、最も好ましくは0.74μm以上1.4μm以下である。ちなみに、液体調味料に添加される従来の魚節微粉末の場合、非常に細かいものであっても、一般的に90%積算径の値は45μm超である。そしてこの値が35μm超の場合には、生臭みが増し、ざらつきによる食感の低下を来し、濁り等による外観の悪化を来す等の不具合が生じやすくなる。」
と記載されている。

13 刊行物13には、
・「【0022】
上記魚節粉末の平均粒径は特に限定されないが、例えば10μm以上1000μm以下であることが好適である。例えば、平均粒径が10μm未満の魚節粉末が液体調味料に多く含まれていると、容器の底部に魚節粉末が固着する可能性があり、商品の外観悪化につながるおそれがある。逆に、平均粒径が1000μm超の魚節粉末を用いた場合には、食感が損なわれる可能性があるほか、独特の香味成分を十分に溶出させることが困難になる。」
と記載されている。

14 刊行物14には、
・「【0016】〔粉砕工程〕本発明では、魚介類を焙乾し、粉砕及び酵素分解する。該粉砕の粒径は63μm未満が好ましい。すなわち、得られる調味料のろ過液量、アミノ態窒素濃度、全窒素濃度、全窒素総量及び全窒素総量回収率が増加する並びに風味及びこく味が強い点から、粒径63μm未満に粉砕することが好ましい。また、このことに併せて、粉砕の粒度が小さくなる程、得られる調味料の全窒素総量及び全窒素総量回収率が更に増加する点から、更に好ましくは粒径38μm未満、もっと更に好ましくは風味及びこく味が非常に強い点から粒径10μm未満に粉砕する。粉砕時の温度は、蛋白質の変質や腐敗が生じなければよく、限定されない。低温粉砕、凍結粉砕でもよく、マイナス80℃?80℃が好ましい。また、粉砕条件は、乾式又は湿式のいずれでも良い。」
と記載されている。

15 特許異議申立人 高橋麻衣子の提出した甲第11号証には、
・「・4-ii)しかしながら、「昆布のだし感、味の伸び及び香りと味の余韻の伸び」等の官能的評価要素については、単一の含有成分や複数の含有成分の組み合わせでそれらの特性が正確かつ客観的に表現できるかというと、現在の技術常識を考慮しても、これら効果が起因する要因や数値的な表現ははなはだ困難であります。
そしてそのために、特別に訓練された本技術分野において専門性を有する官能検査員によって、対照に照らしてこれらの官能的な品質の差異を厳密に評価しているのであり、このような方法を採らざるを得ないのが現状であります(他の食品の評価と同様に)。
したがって、補正後の請求項5(当初請求項8)に係る液体調味料が、成分の特定や数値によって定義されていないことをもって、その明確性が無いと結論されるのは、当該技術分野における実情を無視するものであり、妥当でないものと思料いたします。」
と記載されている。

第5 当審の判断
1 理由1について
(1) 請求項1に係る発明(以下「本件発明」ともいう。)について
(1-1) 本件発明と引用発明1とを対比する。
本件発明の「含水アルコール抽出した昆布エキス」と引用発明1の「粉砕した海藻類の昆布類を原料とし、抽出溶媒としてアルコール溶液を用いて」「製造」した「エキス」とは「アルコール抽出した昆布エキス」の概念で共通している。
そして、引用発明1の「抽出溶媒のアルコール初濃度は0(水)」の場合の「エキス」は「水抽出した昆布だし」といえ、その「抽出温度は20?80℃であ」り、「粉砕した海藻類の昆布類を原料とし、抽出溶媒としてアルコール溶液を用いてエキスを製造する方法において、抽出溶媒としてアルコール濃度の異なる3種類以上のアルコール溶液を用いて抽出を行い、抽出工程で、抽出溶媒のアルコール濃度を低濃度から高濃度へ変化させる場合の、上記抽出溶媒のアルコール初濃度は0(水)であり」ということは、抽出工程で、抽出溶媒のアルコール濃度を低濃度から高濃度へ変化させて原料から抽出することにより、結果的に「水抽出した昆布だし」と「アルコール抽出した昆布エキス」とを混合しているといえるとともに、「エキス」は「調味料」といえる。
また、本件発明の「アルコール抽出した昆布エキス」の「抽出温度:30?70℃」と引用発明1の「アルコール抽出した昆布エキス」の「抽出温度は20?80℃であ」ることとは、「昆布エキスの抽出温度:30?70℃」の範囲で共通し、本件発明の「水抽出した昆布だし」の「抽出温度:60?80℃」と引用発明1の「水抽出した昆布だし」といえる「抽出溶媒のアルコール初濃度は0(水)」の場合の「エキス」の「抽出温度は20?80℃であ」ることとは、「昆布だしの抽出温度:60?80℃」の範囲で共通している。
したがって、両者は、
「アルコール抽出した昆布エキスと、水抽出した昆布だしとを、混合すること、
前記昆布エキスが、以下の条件で昆布をアルコール抽出することにより得られたものであること、
抽出温度:30?70℃
並びに、
前記昆布だしが、以下の条件で昆布を水抽出することにより得られたものであること、
抽出温度:60?80℃
(の)調味料の製造方法」
の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1-1>
昆布エキスの抽出に関し、本件発明では「含水アルコール抽出した昆布エキス」であって、「抽出溶媒:20?60(v/w)%アルコール水溶液、抽出温度:30?70℃、抽出時間:2時間以内」「の条件で昆布を含水アルコール抽出することにより得られたものである」のに対し、引用発明1では初濃度を水とした「アルコール濃度の異なる3種類以上のアルコール溶液を用いて抽出を行い、抽出工程で、抽出溶媒のアルコール濃度を低濃度から高濃度へ変化させ、抽出温度は20?80℃であ」る点。
<相違点1-2>
昆布だしの抽出に関し、本件発明では「温水抽出した昆布だし」が「抽出温度:60?80℃、抽出時間:2時間以内」「の条件で昆布を温水抽出することにより得られたものである」のに対し、引用発明1では「水抽出した昆布だし」が「抽出温度は20?80℃であ」る点。
<相違点1-3>
原料昆布と混合に関し、本件発明では「原料昆布の使用量を同一に換算したときの前記昆布エキスと前記昆布だしとの質量混合比が、4:6?8:2の範囲となるように混合する」のに対し、引用発明1ではそのように特定されておらず、抽出工程で、抽出溶媒のアルコール濃度を低濃度から高濃度へ変化させて原料から抽出することにより、結果的に「水抽出した昆布だし」と「アルコール抽出した昆布エキス」とを混合している点。
<相違点1-4>
調味料に関し、本件発明では「液体調味料」であるのに対し、引用発明では「調味料」であり、「液体」に特定されていない点。

上記各相違点について検討する。
まず、相違点1-4について検討すると、調味料の使用の際の形態を適宜の状態にすることは設計者が選択し得る事項であって、液体状にし得る調味料において液体状として液体調味料とすることも設計的事項にすぎないところ、引用発明1は水抽出した昆布だしを混合するものであり、その混合したものも液体状態とできることからすると、引用発明1をして上記相違点1-4に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことにすぎない。
つぎに、相違点1-1、相違点1-2及び相違点1-3について検討すると、昆布エキスと昆布だしとを混合した液体調味料の成分は、昆布エキスと昆布だしの各成分及びその混合割合に応じて異なるものであるから、これらの相違点は併せて検討する。
そこで、相違点1-1について検討すると、引用発明1では初濃度を水とした「アルコール濃度の異なる3種類以上のアルコール溶液を用いて抽出を行い、抽出工程で、抽出溶媒のアルコール濃度を低濃度から高濃度へ変化させ、抽出温度は20?80℃であ」るから、具体的に実施するに際し、初濃度の水を除いたアルコール溶液として、「含水アルコール」であって、「20?60(v/w)%アルコール水溶液、抽出温度:30?70℃」とすることを妨げる特段の事情は見当たらないとともに、その抽出時間を2時間以内とすることを妨げる特段の事情も見当たらない。
また、相違点1-2について検討すると、引用発明1では「抽出温度は20?80℃であ」るから、具体的に実施するに際し、「抽出温度:60?80℃」として「温水抽出」とすることを妨げる特段の事情は見当たらないとともに、その抽出時間を2時間以内とすることを妨げる特段の事情も見当たらない。
しかしながら、相違点1-3について検討すると、引用発明1をして上記相違点1-3に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことといえない。すなわち、引用発明1は、その抽出工程が、初濃度を水とし抽出溶媒のアルコール濃度を低濃度から高濃度へ変化させて原料から抽出することにより、結果的に「水抽出した昆布だし」と「アルコール抽出した昆布エキス」とを混合しているのであって、原料から水で抽出し、さらに、水抽出した原料からアルコール抽出するものである。これに対し、本件発明は「原料昆布の使用量を同一に換算したときの前記昆布エキスと前記昆布だしとの質量混合比」を特定しており、一方で原料昆布を温水抽出し、他方で原料昆布を含水アルコール抽出した別々のものを、上記質量混合比が所定の範囲となるように混合するものである。そうすると、製造方法の発明において、明らかに抽出・混合工程の内容が相違し、該相違する工程の内容が等価であるといえる証拠や技術常識もないことからしても、引用発明1をして上記相違点1-3に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことといえない。
これは、以下のことからも裏付けられる。すなわち、引用発明1は、特に結果的に抽出できずに原料に残る成分に着目すると、水とアルコールのどちらでも抽出できない成分のみが原料に残ることとなる。これに対し、本件発明は、同じく結果的に抽出できずに原料に残る成分に着目すると、一方の温水抽出においては温水抽出されない成分が残り、他方の含水アルコール抽出においては含水アルコール抽出されない成分が残るから、水と含水アルコールのどちらでも抽出できない成分の他に、どちらかで抽出できる成分もある程度の量が原料に残ることとなる。したがって、引用発明1と本件発明とでは結果的に抽出できずに原料に残る成分やその量が異なる、すなわち抽出できる成分量が異なるのであるから、引用発明1の抽出方法に伴う混合方法に替えて、本件発明の抽出方法に伴う混合方法を採用しつつ、引用発明1をして上記相違点1-3に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことといえない。
そのうえ、引用発明1をして、相違点1-1及び相違点1-2の両方に係る本件発明の構成とすることにも格別な動機付けがあるとも認められないから、結局、引用発明1をして相違点1-1、相違点1-2及び相違点1-3に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことといえない。

そして、本件発明は、その特定された製造方法により、特許明細書の段落【0016】に記載された「異なる抽出方法を用いて得られた昆布抽出物を併用することで、昆布のだし感、味の伸び及び香りと味の余韻の伸びが、昆布エキス又は昆布だし単体の場合に比べて増強された液体調味料が得られる」という格別な効果を奏するものである。

よって、本件発明は、上記引用発明1から当業者が容易になし得たものではない。

(1-2) 本件発明と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「昆布などからグルタミン酸等のだし成分を抽出する、熱水抽出法」により得られるものは「水抽出した昆布だし」といえ、「昆布などからグルタミン酸等のだし成分を抽出する、」「アルコール抽出法」により得られるものは「アルコール抽出した昆布エキス」といえる。そして、引用発明2の、「熱水抽出法とアルコール抽出法を組み合わせた方法」により得られるものは「アルコール抽出した昆布エキスと、水抽出した昆布だしとを、混合する調味料」といえる。
したがって、両者は、
「アルコール抽出した昆布エキスと、水抽出した昆布だしとを、混合する調味料の製造方法」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点2-1>
コンブエキスの抽出に関し、本件発明では「抽出溶媒:20?60(v/w)%アルコール水溶液、抽出温度:30?70℃、抽出時間:2時間以内」の条件の「含水アルコール抽出」であるのに対し、引用発明2では「アルコール抽出」である点。
<相違点2-2>
昆布だしの抽出に関し、本件発明では「抽出温度:60?80℃、抽出時間:2時間以内」の条件の「温水抽出」であるのに対し、引用発明2では「熱水抽出」である点。
<相違点2-3>
原料昆布と混合に関し、本件発明では「原料昆布の使用量を同一に換算したときの前記昆布エキスと前記昆布だしとの質量混合比が、4:6?8:2の範囲となるように混合する」のに対し、引用発明2では特段特定されていない点。
<相違点2-4>
調味料に関し、本件発明では「液体調味料」であるのに対し、引用発明2では「調味料」であり液体に特定されていない点。

上記各相違点について検討する。
まず、相違点2-4について検討すると、調味料の使用の際の形態を適宜の状態にすることは設計者が適宜選択し得る事項であって、液体状にし得る調味料において液体状として液体調味料とすることも設計的事項にすぎないところ、引用発明2は熱水抽出した昆布だしを混合するものであり、その混合したものも液体状態とできることからすると、引用発明2をして上記相違点2-4に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことにすぎない。
つぎに、相違点2-1、相違点2-2及び相違点2-3について検討すると、昆布エキスと昆布だしとを混合した液体調味料の成分は、昆布エキスと昆布だしの各成分及びその混合割合に応じて異なるものであるから、これらの相違点は併せて検討する。
そこで、相違点2-1について検討すると、引用発明2では「アルコール抽出」であるから、具体的に実施するに際し、相違点2-1に係る本件発明の構成とすることを妨げる特段の事情は見当たらない。
また、相違点2-2について検討すると、引用発明2では「熱水抽出」であるから、具体的に実施するに際し、相違点2-2に係る本件発明の構成とすることを妨げる特段の事情は見当たらない。
さらに、相違点2-3について検討すると、引用発明2では混合について特段特定されていないから、具体的に実施するに際し、相違点2-3に係る本件発明の構成とすることを妨げる特段の事情は見当たらない。
しかしながら、引用発明2をして、同時に相違点2-1、相違点2-2及び相違点2-3の三点に係る本件発明の構成とすることに動機付けがあるとは認められないから、結局、引用発明2をして相違点2-1、相違点2-2及び相違点2-3に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことといえない。

そして、本件発明は、その特定された製造方法により、特許明細書の段落【0016】に記載された「異なる抽出方法を用いて得られた昆布抽出物を併用することで、昆布のだし感、味の伸び及び香りと味の余韻の伸びが、昆布エキス又は昆布だし単体の場合に比べて増強された液体調味料が得られる」という格別な効果を奏するものである。

よって、本件発明は、上記引用発明2から当業者が容易になし得たものではない。

(2) 請求項2ないし4に係る発明について
請求項2ないし4に係る発明は、請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、引用発明1又は引用発明2から当業者が容易になし得たものではない。

(3) まとめ
以上のとおり、請求項1ないし4に係る発明は、引用発明1又は引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 理由2について
理由2の具体的内容は、請求項5はいわゆる「プロダクトバイプロセスクレーム」に該当し、且つ不可能・不実際的事情は存在しないため、請求項5に係る発明は不明確であるというものである。
たしかに、請求項5は、「液体調味料」という物の発明であるが、「請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法により製造された液体調味料」との記載は、製造方法の発明を引用する場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
そこで、特許権者が本件出願に係る平成28年3月22提出の意見書(甲第11号証)において、「第4 15」に摘記したとおり具体的に記載した主張について検討する。
請求項5に係る「液体調味料」は、天然物である昆布から抽出された様々な成分を含む組成物であり、これらの各成分のもたらす組成比によって、「昆布のだし感、味の伸び及び香りと味の余韻の伸び」(特許明細書【0016】)等が異なってくることは当技術分野における技術常識といえる。そうすると、「昆布のだし感、味の伸び及び香りと味の余韻の伸び」等の相違は、昆布から抽出された微量成分を含んだ様々な成分が寄与していて、定量的に数値範囲等で表記することはできないといった状況から、当技術分野では官能評価を採用しているといえる。換言すると、官能評価を特許明細書中に採用している請求項5に係る「液体調味料」の成分及び含有量等を全て明確に特定し、調味料の構造又は特性により直接特定するためには、極めて多数の成分を検出し、その量を特定することとなり、そのような多数の成分のうちの微量成分の中には、分析機器の検出限界未満の量のものも存在し得るといえる。
そうすると、請求項5に係る「液体調味料」を特定するために必要とされる全ての成分を出願時において解析することは不可能であるか、又は特許出願の性質上、迅速性等を必要とすることに鑑みて、請求項5に係る「液体調味料」を特定するために必要とされる全ての成分を特定する作業を行うことは著しく過大な経済的支出や時間を要するものであって非実際的であると認められるから、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能又はおよそ非実際的である事情が存在するといえる。
したがって、特許請求の範囲の請求項5の記載は、特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえる。
よって、理由2は採用できない。

3 理由3について
(1) 請求項1に係る発明(以下「本件発明」ともいう。)について
本件発明と引用発明3とを対比する。
本件発明の「含水アルコール抽出した昆布エキス」及び「昆布エキス」と引用発明3の「褐藻類の昆布類のアルコール抽出物」及び「アルコール抽出液」とは「アルコール抽出した昆布エキス」及び「昆布エキス」の概念で共通している。
本件発明の「温水抽出した昆布だし」及び「昆布だし」と引用発明3の「褐藻類の昆布類の水抽出物」及び「水抽出液」とは「水抽出した昆布だし」及び「昆布だし」の概念で共通している。
本件発明の「原料昆布の使用量を同一に換算したときの前記昆布エキスと前記昆布だしとの質量混合比が、4:6?8:2の範囲となるように混合する」態様と引用発明3の「水抽出物とアルコール抽出物との比率が2:8ないし9:1であり、昆布類の重量当り5?20倍量の水を用い、昆布類の重量当り5?20倍量の80?100%アルコールを用い、抽出は水抽出とアルコール抽出の一方を行った後、その残査を用いて他方を行い、水抽出液と、アルコール抽出液とを混合したのち、濃縮してアルコールを除去する」態様とは「昆布エキスと昆布だしとを混合する」概念で共通している。
また、本件発明の「アルコール抽出した昆布エキス」の「抽出温度:30?70℃」と引用発明3の「アルコールを用い、20?80℃で抽出し」ていることとは、「昆布エキス」の「抽出温度:30?70℃」の範囲で共通し、本件発明の「水抽出した昆布だし」の「抽出温度:60?80℃」と引用発明3の「水を用い、20?100℃で抽出し」ていることとは、「昆布だし」の「抽出温度:60?80℃」の範囲で共通している。

したがって、両者は、
「アルコール抽出した昆布エキスと、水抽出した昆布だしとを、混合すること、
前記昆布エキスが、以下の条件で昆布をアルコール抽出することにより得られたものであること、
抽出温度:30?70℃
並びに、
前記昆布だしが、以下の条件で昆布を水抽出することにより得られたものであること、
抽出温度:60?80℃
(の)
液体調味料の製造方法」
の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点3-1>
昆布エキスの抽出に関し、本件発明では「含水アルコール抽出した昆布エキス」及び「昆布エキス」であって、「抽出溶媒:20?60(v/w)%アルコール水溶液、抽出温度:30?70℃、抽出時間:2時間以内」「の条件で昆布を含水アルコール抽出することにより得られたものである」のに対し、引用発明3では「80?100%アルコールを用い、20?80℃で抽出し」ている点。
<相違点3-2>
昆布だしの抽出に関し、本件発明では「温水抽出した昆布だし」が「抽出温度:60?80℃、抽出時間:2時間以内」「の条件で昆布を温水抽出することにより得られたものである」のに対し、引用発明1では「水を用い、20?100℃で抽出し」ている点。
<相違点3-3>
原料昆布と混合に関し、本件発明では「原料昆布の使用量を同一に換算したときの前記昆布エキスと前記昆布だしとの質量混合比が、4:6?8:2の範囲となるように混合する」のに対し、引用発明3ではそのように特定されておらず、「水抽出物とアルコール抽出物との比率が2:8ないし9:1であり、昆布類の重量当り5?20倍量の水を用い、昆布類の重量当り5?20倍量の80?100%アルコールを用い、抽出は水抽出とアルコール抽出の一方を行った後、その残査を用いて他方を行い、水抽出液と、アルコール抽出液とを混合したのち、濃縮してアルコールを除去する」点。

上記各相違点について検討する。
まず、昆布エキスと昆布だしとを混合した液体調味料の成分は、昆布エキスと昆布だしの各成分及びその混合割合に応じて異なるものであるから、これら相違点3-1、相違点3-2及び相違点3-3は併せて検討する。
そこで、相違点3-2について検討すると、引用発明3では「水を用い、20?100℃で抽出し」ているから、具体的に実施するに際し、「抽出温度:60?80℃」として「温水抽出」とすることは、当業者が設定し得ないことではないとともに、その抽出時間を2時間以内とすることもできないことではない。
しかしながら、相違点3-3について検討すると、引用発明3をして上記相違点3-3に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことといえない。すなわち、引用発明3は抽出を水抽出とアルコール抽出の一方を行った後、その残査を用いて他方を行い、その水抽出液とアルコール抽出液とを混合するものである。これに対し、本件発明は先に「1 (1) (1-1)」において検討したように、「原料昆布の使用量を同一に換算したときの前記昆布エキスと前記昆布だしとの質量混合比」を特定しており、一方で原料昆布を温水抽出し、他方で原料昆布を含水アルコール抽出した別々のものを、上記質量混合比が所定の範囲となるように混合するものである。そうすると、製造方法の発明において、明らかに抽出・混合工程の内容が相違し、該相違する工程の内容が等価であるといえる証拠や技術常識もないことからしても、引用発明3をして上記相違点3-3に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことといえない。
これは、両発明の抽出工程において抽出できる成分量からみても裏付けられることは、先に「1 (1) (1-1)」において検討したとおりである。
また、相違点3-1について検討すると、引用発明3をして上記相違点3-1に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことといえない。すなわち、刊行物5の「第(当審注:「第」は略字)1表」中の「本発明」、「水抽出」及び各「エタノール抽出」に係る「色調」の記載からして、特に「色調の安定した香味の優れた」引用発明3の「色調」に係る点について吟味すると、「本発明」の「色調」の「0.236」とするために所定のエタノール抽出が必要であることが窺えるから、引用発明3では80?100%アルコールを用いることを特定しているものと認められる。これは、例えば「色調」が「水抽出」では「0.0088」であり、「10%エタノール抽出」では「0.0099」であり、「70%エタノール抽出」では「0.1322」であるから、20?60%アルコール水溶液抽出と水抽出とを混合しても、「本発明」の「色調」の「0.236」とはできないことからも理解できる。そうすると、引用発明3をして上記相違点3-1に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そのうえ、引用発明1をして、相違点3-2に係る本件発明の構成とすることにも格別な動機付けがあるとも認められないから、結局、引用発明1をして相違点3-1、相違点3-2及び相違点3-3に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことといえない。

そして、本件発明は、その特定された製造方法により、特許明細書の段落【0016】に記載された「異なる抽出方法を用いて得られた昆布抽出物を併用することで、昆布のだし感、味の伸び及び香りと味の余韻の伸びが、昆布エキス又は昆布だし単体の場合に比べて増強された液体調味料が得られる」という格別な効果を奏するものである。

よって、本件発明は、上記引用発明3から当業者が容易になし得たものではない。

(2) 請求項2ないし5に係る発明について
請求項2ないし4に係る発明は、請求項1に係る発明を更に減縮したものであり、請求項5に係る発明は少なくとも請求項1に係る発明の方法により製造された液体調味料であるから、上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、引用発明3から当業者が容易になし得るものではない。

(3) まとめ
以上のとおり、請求項1ないし5に係る発明は、引用発明3から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由1ないし3及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-02-17 
出願番号 特願2015-249474(P2015-249474)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮岡 真衣  
特許庁審判長 中村 則夫
特許庁審判官 山崎 勝司
田村 嘉章
登録日 2016-04-15 
登録番号 特許第5917763号(P5917763)
権利者 株式会社Mizkan Holdings 株式会社Mizkan
発明の名称 液体調味料及びその製造方法  
代理人 高橋 洋平  
代理人 矢野 裕也  
代理人 矢野 裕也  

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