• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B63H
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B63H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B63H
管理番号 1324901
異議申立番号 異議2016-700929  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-29 
確定日 2017-02-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第5904946号発明「燃料ガス主推進エンジンと燃料ガス発電エンジンを選択的に駆動する船舶」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5904946号の請求項1-6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5904946号の請求項1-6に係る特許についての出願は、2010(平成22年)10月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年10月16日、韓国)を国際出願日とする出願であって、平成28年3月25日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人株式会社日立ニコトランスミッション及び特許異議申立人大谷正名によりそれぞれ特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第5904946号の請求項1-6の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1-6」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
船舶の推進動力を得るための主推進エンジンと、
発電のための発電エンジンと、
前記発電エンジンで発電した電気を利用し動力を発生するモーターと、
船舶を推進するための推進体と、
前記主推進エンジンと前記推進体を連結する主クラッチと、
ギアボックスを通して前記推進体と前記モーターを連結する副クラッチと、を含み、
前記主推進エンジン及び前記モーターは選択的に前記推進体に動力連結され船舶の推進動力が得られ、
前記主推進エンジンはME-GIエンジンであり、前記ME-GIエンジンは、一定出力以上では石油と燃料ガスとの両方を燃料として使用し、一定出力以下では石油のみを燃料として使用するエンジンであるから、前記船舶が、前記主推進エンジンの前記一定出力以下で運航する時は、石油による汚染物質の排出を防止するために前記主推進エンジンは停止し、前記主クラッチは前記推進体と動力連結が切れ、前記副クラッチは前記ギアボックスを通して前記推進体と動力連結され、前記発電エンジンで発電した電気が前記モーター、前記ギアボックス及び前記副クラッチを経て前記推進体に伝達され船舶の推進動力が得られ、
前記主推進エンジンを高圧ガス噴射エンジンとすると共に、前記発電エンジンをDFエンジン、ガスエンジン及びガスタービンのいずれか一つとして、
前記船舶が、前記主推進エンジンの前記一定出力以下で運航する時に、燃料ガスを使用して前記発電エンジンを駆動して前記船舶を推進させることで、石油による汚染物質の排出を防止することができることを特徴とする船舶。
【請求項2】
液化燃料ガスを貯蔵するための液化燃料ガス燃料タンクを更に含み、
前記液化燃料ガス燃料タンクに貯蔵した液化燃料ガスが蒸発して発生する蒸発ガスは、前記主推進エンジン又は前記発電エンジンで燃料ガスとして使用し処理されることを特徴とする請求項1記載の船舶。
【請求項3】
前記一定出力以下とは、前記主推進エンジンの最大出力の40%以下であることを特徴とする請求項1記載の船舶。
【請求項4】
前記主推進エンジンに供給する燃料ガスの圧力は150ないし600バール(bar)であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項記載の船舶。
【請求項5】
前記モーターはモーター兼用発電機であり、前記主推進エンジンを通して伝達される動力中の一部は前記ギアボックス及び前記副クラッチを経て前記モーター兼用発電機に伝達され発電することを特徴とする請求項1記載の船舶。
【請求項6】
前記モーター兼用発電機により発電した電気は、配電盤を通して船舶の各種電気使用先に供給することを特徴とする請求項5記載の船舶。」

第3 申立理由の概要
1.特許異議申立人株式会社日立ニコトランスミッションの申立理由の概要
特許異議申立人株式会社日立ニコトランスミッションは証拠として下記の甲第1号証から甲第6号証(以下、「刊行物1-6」という。)を提出し、本件特許発明1-6は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1-6に係る特許を取り消すべきものである旨主張し、また、本件特許発明1-6は特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号の要件を満たしていないから、請求項1-6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

甲第1号証(刊行物1):特開2004-51050号公報
甲第2号証(刊行物2):三菱重工技報 船舶・海洋特集 次世代LNG船の推進プラント開発動向とハイブリッド推進 2004年 第41巻 第6号 第322頁?第325頁
甲第3号証(刊行物3):特開2008-126829号公報
甲第4号証(刊行物4):特開2005-219737号公報
甲第5号証(刊行物5):特開平9-209788号公報
甲第6号証(刊行物6):国立科学博物館 技術の系統化調査報告 第12集 4サイクルディーゼル機関の技術系統化調査 2008年3月28日

2.特許異議申立人大谷正名の申立理由の概要
特許異議申立人大谷正名は証拠として下記の甲第1号証から甲第7号証(以下、「刊行物7-13」という。)を提出し、本件特許発明1-6は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1-6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

甲第1号証(刊行物7):Comparative Study of Propulsion Alternatives for LNG Carriers MAN BW Diesel A/S September 1999
甲第2号証(刊行物8):S46MC-C Project Guide Two-stroke Engines MAN BW Diesel A/S 1st Edition May 1997
甲第3号証(刊行物9):Propulsion of LNG Carriers by MAN BW Two-Stroke Diesel Engines-ME and ME-GI Diesel Engines for LNG Carriers Peter Skjoldager 日本マリンエンジニアリング学会誌 第40巻 第3号(2005) 第35頁?第40頁
甲第4号証(刊行物10):二元燃料ディーゼル機関ガイドライン 財団法人日本海事協会 2008年11月 第4頁?第12頁
甲第5号証(刊行物11):特開平9-209788号公報
甲第6号証(刊行物12):特開2005-219737号公報
甲第7号証(刊行物13):二元燃料ディーゼル機関ガイドライン 佐々木千一 日本マリンエンジニアリング学会誌 第44巻 第6号(2009) 第60頁?第65頁

第4 刊行物の記載
1.刊行物1の記載事項及び刊行物発明
刊行物1には、「液化ガス運搬船の推進装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下同様。)。
(1)「【0011】
そこで、本発明は、BOGの利用効率を高めることができ、又、停泊中におけるBOGの無駄な消費を防止できて、地球環境対策の向上を図ることができ、更に、推進用主機関の燃料消費量を最小限に抑えることができる液化ガス運搬船の推進装置を提供しようとするものである。」

(2)「【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するために、主機関によりクラッチを介して推進用プロペラシャフトを回転駆動して推進できるようにし、且つ上記プロペラシャフトに、シャフトジェネレータが取り付けてある液化ガス運搬船の推進装置において、液化ガスタンクからのBOGを燃料ガスとして用いて発電するようにした燃料電池を設置して、該燃料電池にBOG送出ラインを接続し、且つ該燃料電池で発電した電力を電力供給回路を経て上記シャフトジェネレータへ供給するように、上記燃料電池と上記シャフトジェネレータとを船内の電力供給回路に接続した構成とする。
【0013】
液化ガスタンク内にて発生するBOGが燃料電池の燃料として供給されることにより、該燃料電池にて発電が行われる。この燃料電池にて発電された電力をシャフトジェネレータへ供給すると、該シャフトジェネレータにおいてプロペラシャフトを回転する回転駆動力が発生されることから、推進動力に加勢できる。又、クラッチを切ってプロペラシャフトを主機関からフリーな状態とすることにより、上記シャフトジェネレータからの出力によりプロペラシャフトと一体にプロペラが回転駆動されて、液化ガス運搬船の停泊時の非常航走手段となる。」

(3)「【0016】
図1は本発明の液化ガス運搬船の推進装置の実施の一形態として、液化ガス運搬船としてのLNG船の推進装置に適用する場合を示すもので、LNG船に搭載した主機関としてのディーゼル機関1の出力軸2に、先端部に推進用プロペラ3が一体に取り付けてあるプロペラシャフト4の基端部をクラッチ5を介し接続して、該クラッチ5を繋ぐことにより、上記ディーゼル機関1の出力を出力軸2、クラッチ5を介してプロペラシャフト4に伝達して該プロペラシャフト4と一体に推進用プロペラ3を回転駆動させてLNG船の推進力を得ることができるようにすると共に、上記クラッチ5を切ることにより、上記プロペラシャフト4と一体の推進用プロペラ3をフリー(回転自在)な状態にできるようにし、更に、上記プロペラシャフト4の中間部に、シャフトジェネレータ6を取り付けて設ける。上記シャフトジェネレータ6は、上記ディーゼル機関1によるプロペラシャフト4の回転駆動時に、該プロペラシャフト4の回転に伴って発電できて、該シャフトジェネレータ6の送電端7に接続してある電力供給回路8を経て船内の各種機器に発電した電力を供給することができるようにすると共に、上記送電端7に外部電力を供給することにより、上記シャフトジェネレータ6をモータとして作動させて上記プロペラシャフト4へ回転駆動力を付与することができるようにした構成とする。なお、上記シャフトジェネレータ6はインバーコンバータ9とシンクロナスコンデンサ10を補機として装備してなる構成としてある。
【0017】
更に又、液化ガスタンクとしてのLNGタンク11に一端を接続したBOG送出ライン12の他端を改質器13の改質室に接続し、上記LNGタンク11内にて発生して、BOG送出ライン12を通して送出されるBOG14を、改質器13にて改質して水素(H_(2))15を製造できるようにし、且つ上記改質器13の改質室の出口を水素供給ライン16を介して燃料電池17のアノード入口側に接続して、改質器13で改質された水素15を燃料ガスとして燃料電池17のアノードに供給できるようして、上記燃料電池17のアノードに水素15を、又、カソードに図示しない空気供給部から供給される空気をそれぞれ供給することによりアノードとカソードで電池反応させて発電できるようにし、上記燃料電池17の送電端18を、上記電力供給回路8に接続することにより、上記燃料電池17にて発電した電力によっても、電力供給回路8を経て船内の各種機器に給電が行えて必要電力を賄えるようにする。」

(4)「【0019】
上記構成としてある本発明の液化ガス運搬船の推進装置を用いてLNG船の推進を行う場合、通常は、所要の燃料をディーゼル機関1に供給して燃焼させることにより該ディーゼル機関1を運転させ、この状態にてクラッチ5を繋ぎ、上記ディーゼル機関1の出力によりプロペラシャフト4と一体に推進用プロペラ3を回転させることにより推進力を得て、LNG船の航走が行われるようにする。」

(5)「【0022】
上記のようなLNG船の航走時において、上記燃料電池17にてBOG14を改質してなる水素15を燃料として消費することにより発電される電力量が、船内の電力需要を上回って余剰が生じるようになる場合は、上記燃料電池17にて発電される電力の余剰分を、電力供給回路8を経てシャフトジェネレータ6へ供給すると、該シャフトジェネレータ6がモータとして作用させられて、該シャフトジェネレータ6よりプロペラシャフト4へを回転駆動力が付与されるようになるため推進動力に加勢することが可能になる。したがって、この状態にてクラッチ5を切ってプロペラシャフト4をディーゼル機関1の出力軸2から切り離してフリーな状態にすると、上記シャフトジェネレータ6の出力によりプロペラシャフト4と一体に推進用プロペラ3が回転駆動されて推進力が得られるようになるため、上記シャフトジェネレータ6へ電力供給することで得られる推進力、すなわち、電気推進によりLNG船の航走を行わせることが可能となる。」

(6)「【0023】
このように、本発明の液化ガス運搬船の推進装置においては、LNGタンク11にて発生するBOG14は、水素15に転換した後、熱効率が60%にも達する燃料電池17、すなわち、従来のガス焚きディーゼル機関にて燃焼させる場合に比して熱効率のよい燃料電池17に供給して、船内電力の生成のために消費させることができることから、BOG14の有するエネルギーの利用効率を高めることができ、このため温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を抑制することができ、又、燃料電池17は船内における配置上の制約が少ないため、改造等にも容易に対応することが可能になる。しかも、上記BOG14は、燃焼させることなく処理できるため、NO_(X)、SO_(X)、PM等の地球環境汚染物質の排出量を従来のものに比して少なくすることも可能になる。」

これらの記載事項(1)?(6)及び図面内容を総合し、本件特許発明1の発明特定事項に倣って整理すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

「主機関としてのディーゼル機関1と、
LNGタンク11からのBOG14を燃料ガスとして用いて発電するようにした燃料電池17と、
前記燃料電池17にて発電された電力を供給するとプロペラシャフト4を回転する回転駆動力を発生するシャフトジェネレータ6と、
前記プロペラシャフト4の先端部に一体に取り付けてある推進用プロペラ3と、
前記ディーゼル機関1の出力軸2に前記プロペラシャフト4の基端部を接続するクラッチ5と、を含み、
前記ディーゼル機関1を運転させ、この状態にて前記クラッチ5を繋ぎ、前記ディーゼル機関1の出力により前記プロペラシャフト4と一体に前記推進用プロペラ3を回転させることにより推進力を得てLNG船の航走を行う一方、上記燃料電池17にて発電される電力を前記シャフトジェネレータ6へ供給すると、前記シャフトジェネレータ6がモータとして作用させられて、この状態にて前記クラッチ5を切って前記プロペラシャフト4を前記ディーゼル機関1の出力軸2から切り離してフリーな状態にすると、前記シャフトジェネレータ6の出力により前記プロペラシャフト4と一体に前記推進用プロペラ3が回転駆動され、電気推進によりLNG船の航走を行わせることが可能となる、LNG船。」

2.刊行物2の記載事項及び刊行物発明
刊行物2には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(1)第323頁右欄10行目から同頁同欄21行目
「(2)間接方式(電気推進)
運転性能上DFEやガスタービンのプロペラ直結方式は難しいと考えられており,電気推進による間接方式が選択される.プロペラを駆動する電動機は2基を連結した冗長性の高い構成が求められ,高速型2基を減速する方式と,低速型の直結方式が候補とされる(前述の新造電気推進船では減速方式を採用).電気推進は高信頼性で振動・騒音が小さいことから客船用主機として知られるが,高価な装置ゆえに大型商船では採用されていない.初期投資の高さに見合った燃費改善が実現できるかが焦点となる傾向にある.」

(2)第324頁左欄1行目から第325頁左欄10行目
「3.ハイブリッドLNG推進
当社が独自に提案する”ハイブリッドLNG”は,推進部とBOG処理部各々において,ディーゼル直結推進と補助電気推進,再液化系とガス燃焼系を複合したシステムである.
3.1 推進部のハイブリッド
当社で建造し,2004年6月に就航したフェリーが世界で初めて採用したCRPポッド方式(図3)は次世代高速コンテナ船等,高速船や大出力船の推進方式として有望視されている.同方式は大出力化,燃費改善、高操船性が比較的容易に達成できる.
ハイブリッドLNGの推進部も類似した構成で,低速ディーゼル主機と電気推進部(POD)により構成する.
主機とPODの出力分担率はPOD単独による港内航行(低速航行)を基本要件とした上で,大洋航海での付加推進力を考慮して決定する.
3.2 BOG処理部のハイブリッド
ハイブリッドLNGの補助動力系統は再液化系統と連携し,状況に併せて再液化量と燃焼処理量を調整することでBOGを安全かつ効率的に処理する(図4)主機関排熱やBOGの一部を燃焼した際に発生する熱を利用するコジェネレーションシステムは,大きな動力消費先であるPOD電力や液化動力を供給する.LNG船の場合、液化動力はその他の船内動力に比べてかなり大きい(135000 ? 200000m^(3)船型において,全量液化する場合,3?5MW).
本システムは再液化システムも含め,既存の舶用(商用)技術で構成されており,乗組員の熟練への依存度は他の代替推進方式より低いと思われる.
3.3 ピークシェービングによる液化プラント最適化
LNG船のBOG量は一航海で大きく変動する(図5).
ハイブリッドLNGは一時的に多量のBOGが発生する場合,液化能力を超える分をボイラの燃料(熱源)として利用する.この液化のピークシェービングにより再液化システムは積荷航海の自然BOG量に最適化され,高い効率での運転が可能となる.
3.4 環境保全への対応
近年、欧州沿岸や米国西海岸海域を先鋒に低硫黄分燃料の義務化や,主機関や発電機関からの窒素酸化物(NO_(X))排出規制の強化の動きが活発化している.
LNGは硫黄分を含まないクリーンな燃料でもあり,A重油や低硫黄重油よりは安価である.ハイブリッドLNGは,大洋航海において高熱効率のディーゼル主機を主力に航行しBOGは再液化して保全するが,沿岸及び港内航行の低負荷時はポッドで巡航,BOGをボイラ燃料とし,余剰分を再液化して保全する.余剰ガス処理の無駄も無い上,高価なA重油や低硫低硫黄分重油等を使うことはなく,硫黄酸化物(SO_(X))排出量をゼロにする。またボイラによるガス燃焼プロセスは,内燃機関のそれに較べてNO_(X)排出量が極めて少ない(図6).」

以上の記載事項から次の事項が認定できる。
(3)図2の「ハイブリッド推進システム タービン複合 HYBRID/HRTC」についての部分も参照すると、図4のハイブリッドシステムにおいては、混焼ボイラー及び蒸気タービンにより発電機を駆動して発電するものと認められる。そして、電気推進部(POD)は、混焼ボイラー及び蒸気タービンにより発電した電力を利用し動力を発生するものと認められる。

(4)船舶が船舶を推進するための推進体を有するのは技術常識であり、併せて、図2の「ハイブリッド推進システム タービン複合 HYBRID/HRTC」についての部分、図3及び図4を参照すると、図4のハイブリッドシステムにおいて、低速ディーゼル主機は第1の推進体に連結され、電気推進部(POD)は第2の推進体に連結されているものと認められる。

(5)上記(1)に「電気推進による間接方式が選択される。プロペラを駆動する電動機」と記載されるように、通常、船舶の電気推進にはプロペラを駆動する電動機が用いられるのが技術常識であるから、図4のハイブリッドシステムにおいて、電気推進部(POD)は第2の推進体(プロペラ)を駆動する電動機を備えるものと認められる。

これらの記載事項(1)、(2)、認定事項(3)?(5)及び図面内容を総合し、本件特許発明1の発明特定事項に倣って整理すると、刊行物2には、以下の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されていると認められる。

「ハイブリッドLNGの推進部を構成する低速ディーゼル主機と、
発電機を駆動して発電するための混焼ボイラー及び蒸気タービンと、
ハイブリッドLNGの推進部を構成し、前記混焼ボイラー及び蒸気タービンにより発電した電力により利用し動力を発生する、電動機を備える電気推進部(POD)と、
船舶を推進するための第1の推進体及び第2の推進体と、を含み、
前記低速ディーゼル主機は前記第1の推進体に連結され、前記電気推進部(POD)は前記第2の推進体に連結され、
大洋航海において前記低速ディーゼル主機を主力に航行し、沿岸及び湾内航行の低負荷時はBOGを混焼ボイラー燃料とし、前記電気推進部(POD)で巡航する、LNG船。」

3.刊行物4の記載事項
刊行物4には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(1)「【0033】
図3は、図1のバージ装置とほとんど同じ構成を有するバージ装置1を示している。そのため対応する構成要素には同じ参照番号を用い、またそれらについてこの実施例に関連してさらに論じることはしない。主な違いは、タグ・ユニット4の機械装置にある。
【0034】
タグ・ユニット4の推進システム5は、一般に歯車53、軸54およびプロペラ55を有する、機械と電気を組み合わせた推進ユニット52を有している。この推進ユニット52は、歯車53に連結された2つの第2の燃焼機関61、例えばディーゼル機関、または同じ歯車53に連結された2つの電動機62から動力の供給を受けることができる。」

4.刊行物7の記載事項及び刊行物発明
刊行物7には、図面とともに以下の事項が記載されている(当審仮訳も併せて掲載する。)。
(1)第1頁中欄4行目から同頁同欄8行目
「This study compares five propulsion alternatives with the steam turbines for LNG carriers, in which all BOG(Boil Off Gas)from the tanks is used as fuel for propulsion, thus reducing the amount of conventional liquid fuel to be used.」
「この検討は、タンクからのボイルオフガスのすべてが推進のための燃料として使用され、従来の液体燃料の使用量を減少させる、LNG運搬船のための5つの推進代替方式を、蒸気タービン方式と比較するものである。」

(2)第1頁表1より抜粋
「Alternatives 1; Main engines A single 2-stroke 9K80MC-C-GI dual fuel diesel engine, using high-pressure gas injection + HFO, direct coupled to a single FPP.; PTO 2,400kW; Auxiliary engines 3 GenSets of 2,750kW burning MDO」
「代替方式 1;主機関 1基のFPPに直結された、高圧のガス噴射と重油を用いる1基の2ストローク9K80MC-C-GI二元燃料ディーゼル機関。;PTO 2,400kW;補機関 2,750kWの船舶用ディーゼルオイル焚き発電機関セット3台」

(3)第1頁表1より抜粋
「Alternatives 2a; Main engines Two 2-stroke 7S60MC-C-GI dual fuel diesel engines with shaft generators, using high-pressure gas injection and HFO, direct coupled to two CP-Propellers.; PTO 2x1,200kW; Auxiliary engines 3 GenSets of 2,750kW burning MDO」
「代替方式 2a;主機関 2基の可変ピッチプロペラに直結された、高圧のガス噴射と重油を用いる、軸発電機付きの2基の2ストローク7S60MC-C-GI二元燃料ディーゼル機関。;PTO 2×1,200kW;補機関 2,750kWの船舶用ディーゼルオイル焚き発電機関セット3台」

(4)第3頁中欄9行目から同頁同欄20行目
「In case of alternative 1 with only one 2-stroke main engine, if this is out of service the system is prepared to activate the propeller through a Power Take Home(PTH) system. In this cace the main engine is disconnected from the propeller by a cluch, and the generator on the tunnel gear acts as an electric motor driving the propeller through a step-up gear installed for the Power Take Off(PTO). This permits the vessel to operate at 11 knots.」
「1基の2ストローク主機関だけの代替方式1の場合には、このエンジンが故障状態においては、パワーテイクホーム(PTH)システムを介してプロペラを作動させるためのシステムが用意されている。この場合に、主機関はクラッチによりプロペラから切り離されており、そして、トンネルギヤ上の発電機がパワーテイクオフ(PTO)のために装備されているステップアップギヤを介してプロペラを駆動する電気モータとして機能する。これにより、船舶は11ノットで運航することができる。」

(5)第3頁右欄36行目から同頁同欄40行目
「For the chosen vessel, the option 2a(see Fig.1)with two 2-stroke diesel engines MANISES MAN BW type 7S60MC-C-GI + PTO is the most attractive.」
「選択された船舶に対しては、2基の2ストロークディーゼル機関:MANISES MAN B&W type 7S60MC-C-GI+PTOを備えるオプション2a(図1参照)が最も興味を引く。」

(6)第4頁図1の見出し
「Fig.1: Schematic arrangement of propulsion plant with two 2-stroke diesel engines burning gas and direct coupled to two controllable pitch propellers(CPP) with tunel gear power take off」
「図1:ガス焚きで、かつ、トンネルギヤ・パワーテイクオフ付きの、2基の可変ピッチプロペラ(CPP)に直結された、2基の2ストロークディーゼル機関を備える推進プラントの概略配置図」

これらの記載事項(1)?(6)及び図面内容を総合し、本件特許発明1の発明特定事項に倣って整理すると、刊行物7には、代替方式2aに係る以下の発明(以下、「刊行物7発明」という。)が記載されていると認められる。

「高圧のガス噴射と重油を用いる2ストローク二元燃料ディーゼル機関からなる主機関と、
船舶用ディーゼルオイル焚き発電機関セットと、
パワーテイクオフのための軸発電機SGと、
前記主機関に直結された可変ピッチプロペラと、を含むLNG運搬船。」

第5 判断
1.刊行物1発明について
(1)対比
ア.本件特許発明1と刊行物1発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、刊行物1発明の「主機関としてのディーゼル機関1」は本件特許発明1の「船舶の推進動力を得るための主推進エンジン」に相当し、以下同様に、「前記プロペラシャフト4の先端部に一体に取り付けてある推進用プロペラ3」は「船舶を推進するための推進体」に、「前記ディーゼル機関1の出力軸2に前記プロペラシャフト4の基端部を接続するクラッチ5」は「前記主推進エンジンと前記推進体を連結する主クラッチ」に、「LNG船」は「船舶」に、それぞれ相当する。

イ.刊行物1発明の「LNGタンク11からのBOG14を燃料ガスとして用いて発電するようにした燃料電池17」と、本件特許発明1の「発電のための発電エンジン」は、「発電手段」という限度で一致する。

ウ.刊行物1発明の「前記燃料電池17にて発電された電力を供給するとプロペラシャフト4を回転する回転駆動力を発生するシャフトジェネレータ6」と、本件特許発明1の「前記発電エンジンで発電した電気を利用し動力を発生するモーター」は、「前記発電手段で発電した電気を利用し動力を発生するモーター」という限度で一致する。

エ.刊行物1発明の「シャフトジェネレータ6」は、「前記シャフトジェネレータ6の出力により前記プロペラシャフト4と一体に前記推進用プロペラ3が回転駆動され、電気推進によりLNG船の航走を行わせる」という機能を発揮するものであるから、推進用プロペラ3に動力連結されているものと認められる。
同様に、刊行物1発明の「ディーゼル機関1」は、「前記ディーゼル機関1の出力により前記プロペラシャフト4と一体に前記推進用プロペラ3を回転させることにより推進力を得てLNG船の航走を行う」という機能を発揮するものであるから、推進用プロペラ3に動力連結されているものと認められる。
したがって、刊行物1発明の「前記ディーゼル機関1を運転させ、この状態にて前記クラッチ5を繋ぎ、前記ディーゼル機関1の出力により前記プロペラシャフト4と一体に前記推進用プロペラ3を回転させることにより推進力を得てLNG船の航走を行う一方、上記燃料電池17にて発電される電力を前記シャフトジェネレータ6へ供給すると、前記シャフトジェネレータ6がモータとして作用させられて、この状態にて前記クラッチ5を切って前記プロペラシャフト4を前記ディーゼル機関1の出力軸2から切り離してフリーな状態にすると、前記シャフトジェネレータ6の出力により前記プロペラシャフト4と一体に前記推進用プロペラ3が回転駆動され、電気推進によりLNG船の航走を行わせることが可能となる」という構成と、本件特許発明1の「前記主推進エンジン及び前記モーターは選択的に前記推進体に動力連結され船舶の推進動力が得られ」るという構成は、「前記主推進エンジン及び前記モーターは前記推進体に動力連結され船舶の推進動力が得られ」るという構成の限度で一致する。

したがって、両者は、以下の点で一致する。
「船舶の推進動力を得るための主推進エンジンと、
発電手段と、
前記発電手段で発電した電気を利用し動力を発生するモーターと、
船舶を推進するための推進体と、
前記主推進エンジンと前記推進体を連結する主クラッチと、を含み、
前記主推進エンジン及び前記モーターは前記推進体に動力連結され船舶の推進動力が得られる船舶。」

そして、本件特許発明1と刊行物1発明とは、以下の点で相違する。
<相違点1>
「発電手段」に関し、本件特許発明1では、「発電のための発電エンジン」であるのに対し、
刊行物1発明では、「燃料電池17」である点。

<相違点2>
本件特許発明1では、「ギアボックスを通して前記推進体と前記モーターを連結する副クラッチ」を含み、「前記主推進エンジン及び前記モーターは『選択的に』前記推進体に動力連結され船舶の推進動力が得られ」るという構成を有しているのに対し、
刊行物1発明では、そのように特定されていない点。

<相違点3>
本件特許発明1では、「前記主推進エンジンはME-GIエンジンであり、前記ME-GIエンジンは、一定出力以上では石油と燃料ガスとの両方を燃料として使用し、一定出力以下では石油のみを燃料として使用するエンジンであるから、前記船舶が、前記主推進エンジンの前記一定出力以下で運航する時は、石油による汚染物質の排出を防止するために前記主推進エンジンは停止し、前記主クラッチは前記推進体と動力連結が切れ、前記副クラッチは前記ギアボックスを通して前記推進体と動力連結され、前記発電エンジンで発電した電気が前記モーター、前記ギアボックス及び前記副クラッチを経て前記推進体に伝達され船舶の推進動力が得られ、
前記主推進エンジンを高圧ガス噴射エンジンとすると共に、前記発電エンジンをDFエンジン、ガスエンジン及びガスタービンのいずれか一つとして、
前記船舶が、前記主推進エンジンの前記一定出力以下で運航する時に、燃料ガスを使用して前記発電エンジンを駆動して前記船舶を推進させることで、石油による汚染物質の排出を防止することができる」という構成を有しているのに対し、
刊行物1発明では、「前記ディーゼル機関1を運転させ、この状態にて前記クラッチ5を繋ぎ、前記ディーゼル機関1の出力により前記プロペラシャフト4と一体に前記推進用プロペラ3を回転させることにより推進力を得てLNG船の航走を行う一方、上記燃料電池17にて発電される電力を前記シャフトジェネレータ6へ供給すると、前記シャフトジェネレータ6がモータとして作用させられて、この状態にて前記クラッチ5を切って前記プロペラシャフト4を前記ディーゼル機関1の出力軸2から切り離してフリーな状態にすると、前記シャフトジェネレータ6の出力により前記プロペラシャフト4と一体に前記推進用プロペラ3が回転駆動され、電気推進によりLNG船の航走を行わせることが可能となる」という構成を有している点。

(2)判断
相違点1について検討する。
例えば、刊行物2(第323頁左欄4行目から同頁同欄19行目に記載の発電機駆動用4サイクル内燃機関及び図2のDFエンジン発電機等参照)、刊行物3(段落【0016】及び図1に記載のガスエンジン発電機15等参照)、又は、刊行物4(段落【0023】及び図1、3に記載の第1の燃焼機関31等参照)に記載されるように、船舶用の発電手段として、発電エンジンを用いるという技術は、従来周知の技術である。
しかしながら、上記第4 1.(1)(段落【0011】)に「そこで、本発明は、BOGの利用効率を高めることができ、又、停泊中におけるBOGの無駄な消費を防止できて、地球環境対策の向上を図ることができ、更に、推進用主機関の燃料消費量を最小限に抑えることができる液化ガス運搬船の推進装置を提供しようとするものである。」と記載され、上記第4 1.(6)(段落【0023】)に「このように、本発明の液化ガス運搬船の推進装置においては、LNGタンク11にて発生するBOG14は、水素15に転換した後、熱効率が60%にも達する燃料電池17、すなわち、従来のガス焚きディーゼル機関にて燃焼させる場合に比して熱効率のよい燃料電池17に供給して、船内電力の生成のために消費させることができることから、BOG14の有するエネルギーの利用効率を高めることができ、このため温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を抑制することができ」と記載されるように、刊行物1発明は、LNG船において、BOGの利用効率を高め、地球環境対策の向上を図るという課題を解決すべく、熱効率が60%にも達する燃料電池17を発電手段として採用したものである。
そうすると、たとえ、船舶用の発電手段として発電エンジンを用いるという技術が従来周知の技術であったとしても、当該周知の技術を、刊行物1発明に適用し、発電手段として、燃料電池17に替えて、発電エンジンを採用することには、阻害要因があるといえる。
したがって、刊行物1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することは、当業者にとって容易であるとはいえない。

なお、刊行物5、6は、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項と直接関連するものではない。

(3)小括
以上から、刊行物1発明において、少なくとも相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することは当業者にとって容易とはいえないから、本件特許発明1は、当業者が刊行物1発明及び従来周知の技術に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
そして、本件特許発明2-6は、本件特許発明1をさらに限定したものであるので、本件特許発明1と同様に、当業者が刊行物1発明及び従来周知の技術に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

2.刊行物2発明について
(1)対比
ア.本件特許発明1と刊行物2発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、刊行物2発明の「ハイブリッドLNGの推進部を構成する低速ディーゼル主機」は本件特許発明1の「船舶の推進動力を得るための主推進エンジン」に相当し、以下同様に、「船舶を推進するための第1の推進体及び第2の推進体」は「船舶を推進するための推進体」に、「LNG船」は「船舶」に、それぞれ相当する。

イ.刊行物2発明の「発電機を駆動して発電するための混焼ボイラー及び蒸気タービン」と、本件特許発明1の「発電のための発電エンジン」は、「発電手段」という限度で一致する。

ウ.刊行物2発明の「ハイブリッドLNGの推進部を構成し、前記混焼ボイラー及び蒸気タービンにより発電した電力を利用し動力を発生する、電動機を備える電気推進部(POD)」と、本件特許発明1の「前記発電エンジンで発電した電気を利用し動力を発生するモーター」は、「前記発電手段で発電した電気を利用し動力を発生するモーター」という限度で一致する。

したがって、両者は、以下の点で一致する。
「船舶の推進動力を得るための主推進エンジンと、
発電手段と、
前記発電手段で発電した電気を利用し動力を発生するモーターと、
船舶を推進するための推進体と、を含む船舶。」

そして、本件特許発明1と刊行物2発明とは、以下の点で相違する。
<相違点a>
「発電手段」に関し、本件特許発明1では、「発電のための発電エンジン」であるのに対し、
刊行物2発明では、「混焼ボイラー及び蒸気タービン」である点。

<相違点b>
本件特許発明1では、「前記主推進エンジンと前記推進体を連結する主クラッチと、ギアボックスを通して前記推進体と前記モーターを連結する副クラッチと、を含み、前記主推進エンジン及び前記モーターは選択的に前記推進体に動力連結され船舶の推進動力が得られ」るという構成を有しているのに対し、
刊行物2発明では、「前記低速ディーゼル主機は前記第1の推進体に連結され、前記電気推進部(POD)は前記第2の推進体に連結され」るという構成を有している点。

<相違点c>
本件特許発明1では、「前記主推進エンジンはME-GIエンジンであり、前記ME-GIエンジンは、一定出力以上では石油と燃料ガスとの両方を燃料として使用し、一定出力以下では石油のみを燃料として使用するエンジンであるから、前記船舶が、前記主推進エンジンの前記一定出力以下で運航する時は、石油による汚染物質の排出を防止するために前記主推進エンジンは停止し、前記主クラッチは前記推進体と動力連結が切れ、前記副クラッチは前記ギアボックスを通して前記推進体と動力連結され、前記発電エンジンで発電した電気が前記モーター、前記ギアボックス及び前記副クラッチを経て前記推進体に伝達され船舶の推進動力が得られ、
前記主推進エンジンを高圧ガス噴射エンジンとすると共に、前記発電エンジンをDFエンジン、ガスエンジン及びガスタービンのいずれか一つとして、
前記船舶が、前記主推進エンジンの前記一定出力以下で運航する時に、燃料ガスを使用して前記発電エンジンを駆動して前記船舶を推進させることで、石油による汚染物質の排出を防止することができる」という構成を有しているのに対し、
刊行物2発明では、「大洋航海において前記低速ディーゼル主機を主力に航行し、沿岸及び湾内航行の低負荷時はBOGを混焼ボイラー燃料とし、電気推進部(POD)で巡航する」という構成を有している点。

(2)判断
ア.相違点aについて
例えば、刊行物2(第323頁左欄4行目から同頁同欄19行目に記載の発電機駆動用4サイクル内燃機関及び図2のDFエンジン発電機等参照)、刊行物3(段落【0016】及び図1に記載のガスエンジン発電機15等参照)、又は、刊行物4(段落【0023】及び図1、3に記載の第1の燃焼機関31等参照)に記載されるように、船舶用の発電手段として、発電エンジンを用いるという技術は、従来周知の技術である。
しかしながら、上記第4 2.(2)に「またボイラによるガス燃焼プロセスは、内燃機関のそれに較べてNO_(X)排出量が極めて少ない(図6)。」と記載されるように、刊行物2発明では、電気推進部(POD)に電力を供給するためのの発電手段として、「混焼ボイラー及び蒸気タービン」を積極的に採用しているものと解されるから、たとえ、船舶用の発電手段として、発電エンジンを用いるという技術が従来周知の技術であったとしても、当該周知の技術を、刊行物2発明に適用し、電気推進部(POD)に電力を供給するための発電手段として、「混焼ボイラー及び蒸気タービン」に替えて、発電エンジンを採用する動機付けはないものといえる。
したがって、刊行物2発明において、相違点aに係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することは、当業者にとって容易であるとはいえない。

なお、刊行物1、5、6は、相違点aに係る本件特許発明1の発明特定事項と直接関連するものではない。

イ.相違点bについて
上記第4 3.(1)の記載事項及び図面内容を総合すると、刊行物4には、以下の技術的事項(以下、「刊行物4に記載の技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。
「燃焼機関61及び電動機62がプロペラ55に連結されてなるタグ・ユニット4の推進システム5。」
すなわち、刊行物4には、船舶用の推進システムにおいて、エンジンとモータとを共通の推進体に連結するという技術的事項が記載されている。

しかしながら、たとえ、刊行物4に記載の技術的事項を、刊行物2発明に適用できたとしても、刊行物2発明において、低速ディーゼル主機と電気推進部(POD)とを共通の推進体に連結するという構成を想到するにとどまり、相違点bに係る本件特許発明1の発明特定事項である「前記主推進エンジンと前記推進体を連結する主クラッチと、ギアボックスを通して前記推進体と前記モーターを連結する副クラッチと、を含み、前記主推進エンジン及び前記モーターは選択的に前記推進体に動力連結され船舶の推進動力が得られ」るという構成を想到するまでには至らない。
したがって、刊行物2発明において、相違点bに係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することは、当業者にとって容易であるとはいえない。

なお、刊行物1、3、5、6は、相違点bに係る本件特許発明1の発明特定事項と直接関連するものではない。

(3)小括
以上から、刊行物2発明において、少なくとも相違点a、bに係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することは当業者にとって容易とはいえないから、本件特許発明1は、当業者が刊行物2発明、刊行物4に記載の技術的事項及び従来周知の技術に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
そして、本件特許発明2-6は、本件特許発明1をさらに限定したものであるので、本件特許発明1と同様に、当業者が刊行物2発明、刊行物4に記載の技術的事項及び従来周知の技術に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

3.刊行物7発明について
(1)対比
本件特許発明1と刊行物7発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、刊行物7発明の「高圧のガス噴射と重油を用いる2ストローク二元燃料ディーゼル機関からなる主機関」は本件特許発明1の「船舶の推進動力を得るための主推進エンジン」に相当し、以下同様に、「船舶用ディーゼルオイル焚き発電機関セット」は「発電のための発電エンジン」に、「前記主機関に直結された可変ピッチプロペラ」は「船舶を推進するための推進体」に、「LNG運搬船」は「船舶」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は、以下の点で一致する。
「船舶の推進動力を得るための主推進エンジンと、
発電のための発電エンジンと、
船舶を推進するための推進体と、を含む船舶。」

そして、本件特許発明1と刊行物7発明とは、以下の点で相違する。
<相違点ア>
本件特許発明1では、「前記発電エンジンで発電した電気を利用し動力を発生するモーターと、
前記主推進エンジンと前記推進体を連結する主クラッチと、
ギアボックスを通して前記推進体と前記モーターを連結する副クラッチと、を含み、
前記主推進エンジン及び前記モーターは選択的に前記推進体に動力連結され船舶の推進動力が得られ、
前記主推進エンジンはME-GIエンジンであり、前記ME-GIエンジンは、一定出力以上では石油と燃料ガスとの両方を燃料として使用し、一定出力以下では石油のみを燃料として使用するエンジンであるから、前記船舶が、前記主推進エンジンの前記一定出力以下で運航する時は、石油による汚染物質の排出を防止するために前記主推進エンジンは停止し、前記主クラッチは前記推進体と動力連結が切れ、前記副クラッチは前記ギアボックスを通して前記推進体と動力連結され、前記発電エンジンで発電した電気が前記モーター、前記ギアボックス及び前記副クラッチを経て前記推進体に伝達され船舶の推進動力が得られ、
前記主推進エンジンを高圧ガス噴射エンジンとすると共に、前記発電エンジンをDFエンジン、ガスエンジン及びガスタービンのいずれか一つとして、
前記船舶が、前記主推進エンジンの前記一定出力以下で運航する時に、燃料ガスを使用して前記発電エンジンを駆動して前記船舶を推進させることで、石油による汚染物質の排出を防止することができる」という構成を有しているのに対し、
刊行物7発明では、そのように特定されていない点。

(2)判断
相違点アについて検討する。
上記第4 4.(1)、(2)、(4)の記載事項及び図面内容を総合すると、刊行物7には、代替方式1に係る以下の技術的事項(以下、「刊行物7に記載の技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。
「主機関の故障状態において、主機関をクラッチによりプロペラから切り離し、パワーテイクオフのための発電機を電気モータとして機能させることでプロペラを駆動して運航する、LNG運搬船。」

しかしながら、たとえ、刊行物7に記載の技術的事項(代替方式1の技術的事項)を、刊行物7発明(代替方式2a)に適用できたとしても、刊行物7発明(代替方式2a)において、主機関と可変ピッチプロペラを連結するクラッチを設け、主機関の故障状態において、主機関をクラッチにより可変ピッチプロペラから切り離し、パワーテイクオフのための軸発電機SGを電気モータとして機能させることで可変ピッチプロペラを駆動して運航するという構成を想到するにとどまり、相違点アに係る本件特許発明1の発明特定事項を想到するまでには至らない。
また、本件特許発明1は、本件特許明細書の段落【0003】から【0006】に記載されるように、一定出力以下では石油のみを燃料として使用するME-GIエンジンを主推進エンジンとして用いる船舶において、ME-GIエンジンが低出力の時にも、価格は安く環境汚染物質の排出が少ない液化燃料ガスを燃料として使用できるようにするという技術的課題を解決すべく、相違点アに係る本件特許発明1の発明特定事項を想到するに至ったものであるところ、刊行物7乃至刊行物13には、当該技術的課題について何ら記載も示唆もされていない。
したがって、刊行物7乃至刊行物13に接した当業者は、相違点アに係る本件特許発明1の発明特定事項を想到するに至った技術的課題を認識するものとはいえないことから、刊行物7発明において、相違点アに係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することは、当業者にとって容易であるとはいえない。

(3)小括
以上から、刊行物7発明において、相違点アに係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することは当業者にとって容易とはいえないから、本件特許発明1は、当業者が刊行物7発明及び刊行物7乃至13に記載の技術的事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
そして、本件特許発明2-6は、本件特許発明1をさらに限定したものであるので、本件特許発明1と同様に、当業者が刊行物7発明及び刊行物7乃至13に記載の技術的事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

4.請求項1の記載不備について
特許異議申立人株式会社日立ニコトランスミッションは、特許異議申立書において、請求項1の「前記主推進エンジンはME-GIエンジンであり、前記ME-GIエンジンは、一定出力以上では石油と燃料ガスとの両方を燃料として使用し、一定出力以下では石油のみを燃料として使用するエンジンであるから、前記船舶が、前記主推進エンジンの前記一定出力以下で運航する時は、石油による汚染物質の排出を防止するために前記主推進エンジンは停止し、前記主クラッチは前記推進体と動力連結が切れ、前記副クラッチは前記ギアボックスを通して前記推進体と動力連結され、前記発電エンジンで発電した電気が前記モーター、前記ギアボックス及び前記副クラッチを経て前記推進体に伝達され船舶の推進動力が得られ」との記載からは、【解釈A】「主推進エンジンの一定出力以下(即ち、石油のみを燃料として運航する条件下、以下同様)で運用する時は、”常に”前記主推進エンジンは停止している」且つ、「主推進エンジンの一定出力以下で運航する時は、”常に”モーターのみで推進する」、【解釈B】「主推進エンジンの一定出力以下であっても、主推進エンジンが停止するか否かは何ら問われない(つまり停止しなくても良い)」且つ、「主推進エンジンの一定出力以下で運航する時は、”常に”モーターのみで推進する」という2つの解釈が考え得るので、本件特許発明1は不明確であり、本件特許発明1及び本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2-6は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないと主張し、また、【解釈B】を採用した場合には、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張している。
しかしながら、請求項1には「前記船舶が、前記主推進エンジンの前記一定出力以下で運航する時は、石油による汚染物質の排出を防止するために前記主推進エンジンは停止し」と明記されているのだから、請求項1について上記【解釈B】を取り得ないことは明らかである。
したがって、特許異議申立人株式会社日立ニコトランスミッションの上記主張には理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1-6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1-6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-02-14 
出願番号 特願2012-535117(P2012-535117)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (B63H)
P 1 651・ 537- Y (B63H)
P 1 651・ 121- Y (B63H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柳幸 憲子岩▲崎▼ 則昌  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 平田 信勝
森林 宏和
登録日 2016-03-25 
登録番号 特許第5904946号(P5904946)
権利者 デウ シップビルディング アンド マリーン エンジニアリング カンパニー リミテッド
発明の名称 燃料ガス主推進エンジンと燃料ガス発電エンジンを選択的に駆動する船舶  
代理人 特許業務法人青莪  
代理人 佐原 雅史  
代理人 尋木 浩司  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ