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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する G02F
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する G02F
管理番号 1325142
審判番号 訂正2016-390127  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2016-10-07 
確定日 2017-01-19 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5884776号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5884776号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判に係る特許第5884776号は、平成25年6月22日に出願され、平成28年2月19日に特許権の設定登録がなされたものであり、平成28年10月7日付けで本件訂正審判が請求されたものである。
そして、本件訂正審判において、平成28年10月31日付けで手続補正書(方式)が提出され、審判請求書の「6.請求の理由」が補正された。

第2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第5884776号の特許権全体に対し、明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものである。

第3 訂正の内容
請求人が請求する訂正は、以下の訂正事項1及び訂正事項2からなる。(審決注:下線部が訂正箇所である。)

1.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「設定された照射領域に偏光光を照射する光照射器と、照射領域を通過するようにしてワークを搬送する搬送系とを備えた光配向用偏光光照射装置であって、
光照射器は、長尺な発光部を成す光源と、光源と照射領域の間に配置された偏光素子ユニットとを備えたものであり、
偏光素子ユニットは、発光部の長手方向に沿って並べられた複数の偏光素子より成るものであり、
ワークは一個ずつ切り離されたものであって、搬送系は、ワークを保持したワーク保持体を移動させることでワークを搬送するものであり、
搬送系は、発光部の長手方向に交差する第一の方向にワーク保持体を移動させることで照射領域を通過するようにワークを搬送するものであるとともに、偏光素子ユニットにおける各偏光素子の境界線の方向に交差する第二の方向にワーク保持体を移動させることが可能なものであり、
搬送系による第二の方向へのワーク保持体の移動は、ワークから見た各偏光素子の境界線の位置を光照射の際に第二の方向に相対的に変位させるものであることを特徴とする光配向用偏光光照射装置。」
とあるのを、
「設定された照射領域に偏光光を照射する光照射器と、照射領域を通過するようにしてワークを搬送する搬送系とを備えた光配向用偏光光照射装置であって、
前記光照射器は、長尺な発光部を成す光源と、前記光源と前記照射領域の間に配置された偏光素子ユニットとを備えたものであり、
前記偏光素子ユニットは、前記発光部の長手方向に沿って並べられた複数の偏光素子より成り、前記偏光素子の各々の間の境界線に遮光部を有し、前記偏光素子に対応する前記照射領域上の位置において照度低下が発生するものであり、
前記ワークは一個ずつ切り離されたものであって、前記搬送系は、前記ワークを保持したワーク保持体を移動させることで前記ワークを搬送するものであり、
前記搬送系は、前記発光部の長手方向に交差する第一の方向に前記ワーク保持体を移動させることで、光照射が行われている前記照射領域を通過させて往路移動及び復路移動するように前記ワークを搬送するものであるとともに、前記偏光素子ユニットにおける各偏光素子間の前記境界線の方向に交差する第二の方向に前記ワーク保持体を移動させることが可能なものであり、
前記搬送系による第二の方向へのワーク保持体の移動は、前記ワークから見た各偏光素子間の前記境界線の位置を光照射の際に第二の方向に相対的に変位させて、前記復路移動を前記往路移動と異なる経路を通るようにして、前記ワーク上における偏光光の露光量の均一性を向上させるものであることを特徴とする光配向用偏光光照射装置。」
に訂正する。

2.訂正事項2
願書に添付した明細書(以下「本件明細書」ということがある。)の段落【0011】に
「上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、設定された照射領域に偏光光を照射する光照射器と、照射領域を通過するようにしてワークを搬送する搬送系とを備えた光配向用偏光光照射装置であって、
光照射器は、長尺な発光部を成す光源と、光源と照射領域の間に配置された偏光素子ユニットとを備えたものであり、
偏光素子ユニットは、発光部の長手方向に沿って並べられた複数の偏光素子より成るものであり、
ワークは一個ずつ切り離されたものであって、搬送系は、ワークを保持したワーク保持体を移動させることでワークを搬送するものであり、
搬送系は、発光部の長手方向に交差する第一の方向にワーク保持体を移動させることで照射領域を通過するようにワークを搬送するものであるとともに、偏光素子ユニットにおける各偏光素子の境界線の方向に交差する第二の方向にワーク保持体を移動させることが可能なものであり、
搬送系による第二の方向へのワーク保持体の移動は、ワークから見た各偏光素子の境界線の位置を光照射の際に第二の方向に相対的に変位させるものあるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記光照射器は、第一第二の複数の光照射器となっており、
第一の光照射器における各偏光素子の境界線と、第二の光照射器における各偏光素子の境界線とは、前記第二の方向にお互いにずれているという構成を有する。」
とあるのを、
「上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、設定された照射領域に偏光光を照射する光照射器と、照射領域を通過するようにしてワークを搬送する搬送系とを備えた光配向用偏光光照射装置であって、
前記光照射器は、長尺な発光部を成す光源と、前記光源と前記照射領域の間に配置された偏光素子ユニットとを備えたものであり、
前記偏光素子ユニットは、前記発光部の長手方向に沿って並べられた複数の偏光素子より成り、前記偏光素子の各々の間の境界線に遮光部を有し、前記偏光素子に対応する前記照射領域上の位置において照度低下が発生するものであり、
前記ワークは一個ずつ切り離されたものであって、前記搬送系は、前記ワークを保持したワーク保持体を移動させることで前記ワークを搬送するものであり、
前記搬送系は、前記発光部の長手方向に交差する第一の方向に前記ワーク保持体を移動させることで、光照射が行われている前記照射領域を通過させて往路移動及び復路移動するように前記ワークを搬送するものであるとともに、前記偏光素子ユニットにおける各偏光素子間の前記境界線の方向に交差する第二の方向に前記ワーク保持体を移動させることが可能なものであり、
前記搬送系による第二の方向へのワーク保持体の移動は、前記ワークから見た各偏光素子間の前記境界線の位置を光照射の際に第二の方向に相対的に変位させて、前記復路移動を前記往路移動と異なる経路を通るようにして、前記ワーク上における偏光光の露光量の均一性を向上させるものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記光照射器は、第一第二の複数の光照射器となっており、
第一の光照射器における各偏光素子の境界線と、第二の光照射器における各偏光素子の境界線とは、前記第二の方向にお互いにずれているという構成を有する。」
に訂正する。

第4.当審の判断
1.訂正事項1について
(1)請求項1についての訂正事項1は、以下の訂正事項1-1ないし1-4に整理することができる。
ア 訂正事項1-1
請求項1において、「光照射器」、「光源」、「照射領域」、「偏光素子ユニット」、「発光部」、「ワーク」、「搬送系」、「ワーク保持体」及び「境界線」との記載について、それぞれ2回目以降に「前記」との記載を追加する訂正。

イ 訂正事項1-2
請求項1において、「偏光素子ユニットは、発光部の長手方向に沿って並べられた複数の偏光素子より成るものであり」とあるのを「前記偏光素子ユニットは、前記発光部の長手方向に沿って並べられた複数の偏光素子より成り、前記偏光素子の各々の間の境界線に遮光部を有し、前記偏光素子に対応する前記照射領域上の位置において照度低下が発生するものであり」とする訂正。

ウ 訂正事項1-3
請求項1において、「搬送系は、発光部の長手方向に交差する第一の方向にワーク保持体を移動させることで照射領域を通過するようにワークを搬送するものであるとともに」とあるのを「前記搬送系は、前記発光部の長手方向に交差する第一の方向に前記ワーク保持体を移動させることで、光照射が行われている前記照射領域を通過させて往路移動及び復路移動するように前記ワークを搬送するものであるとともに」とする訂正。

エ 訂正事項1-4
請求項1において、「搬送系による第二の方向へのワーク保持体の移動は、ワークから見た各偏光素子の境界線の位置を光照射の際に第二の方向に相対的に変位させるものである」とあるのを「前記搬送系による第二の方向へのワーク保持体の移動は、前記ワークから見た各偏光素子間の前記境界線の位置を光照射の際に第二の方向に相対的に変位させて、前記復路移動を前記往路移動と異なる経路を通るようにして、前記ワーク上における偏光光の露光量の均一性を向上させるものである」とする訂正。

(2)訂正事項1-1について
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1において、「光照射器」、「光源」、「照射領域」、「偏光素子ユニット」、「発光部」、「ワーク」、「搬送系」、「ワーク保持体」及び「境界線」との用語がそれぞれ複数記載されているところ、これら複数記載された同一の用語が同一の要素を指すのか否か明瞭でないという不備がある。
訂正事項1-1は、「前記」との記載を追加することにより、上記の複数記載された同一の用語が同一の要素を指すことを明瞭にするものである。
したがって、訂正事項1-1は、特許法第126条ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正前の請求項1において、「光照射器」、「光源」、「照射領域」、「偏光素子ユニット」、「発光部」、「ワーク」、「搬送系」、「ワーク保持体」及び「境界線」との用語がそれぞれ複数記載されているところ、これら複数記載された同一の用語が同一の要素を指すべきものであることは、本件明細書及び図面における「光照射器1」、「光源3」、「照射領域R」、「偏光素子ユニット4」、「光源3の発光部」、「ワーク」又は「基板S」、「搬送系2」、「ワーク保持体」又は「ステージ5」及び「境界線40」についての記載から理解されることである。
したがって、訂正事項1-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 拡張・変更の存否について
上記アから明らかなとおり、訂正事項1-1は、「前記」との記載を追加することにより、複数記載された同一の用語が同一の要素を指すことを明瞭にするものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1-1は、特許法第126条6項の規定に適合する。

(3)訂正事項1-2について
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1において、偏光素子ユニットが、複数の偏光素子から成ることについては特定されていたが、かかる偏光素子の各々の間の境界線がいかなる構成を備えるかについては特定されていなかった。
これに対して、訂正事項1-2による訂正後の請求項1においては、「前記偏光素子の各々の間の境界線に遮光部を有し、前記遮光部に対する前記照射領域上の位置において照度低下が発生す」るとの事項が追加され、これにより偏光素子の各々の間の境界線の構成が特定された。
したがって、訂正事項1-2は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
よって、訂正事項1-2は、特許法第126条第1項ただし書き第1号に
規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
本件明細書において、段落【0008】に「このような問題を考慮し、特許文献1では、各偏光素子の境界部分を塞ぐように遮光板を設け、境界部分からは光が出射されないようにしている。遮光板を配置することで、遮光板の直下の位置を通過した領域では露光量が低下するが、無偏光の光が多く照射されて光配向が局所的に不十分になるよりは良いとの考えである。遮光板の直下の位置での偏光光の照度低下は、光源の出力を大きくして全体に照度を高くしたり、照射距離を長くして照度低下を緩和したりすることはできる。尚、以下の説明において、照度や露光量といった場合、偏光光についての照度や露光量を意味する。」と記載され、段落【0018】に「各偏光素子41を保持したフレーム42は、各偏光素子41を並べた方向に長い長方形の枠状である。尚、各境界線40を覆うようにして、遮光板43が設けられている。遮光板43は、境界線40の部分から無偏光光が出射されないようにするものである。」と記載されており、本件明細書には、偏光素子の各々の境界線に遮光部を有すること及び遮光部により照度低下が生じることが記載されている。
したがって、訂正事項1-2に係る「前記偏光素子の各々の間の境界線に遮光部を有し、前記遮光部に対する前記照射領域上の位置において照度低下が発生す」るとの事項は、本件明細書に記載した事項である。
よって、訂正事項1-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 拡張・変更の存否について
上記アから明らかなとおり、訂正事項1-2は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1-2は、特許法第126条6項の規定に適合する。

(4)訂正事項1-3について
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1において、第1の方向にワーク保持体を移動させることについて、照射領域を通過するようにワークを搬送するものであることは特定されていたが、ワークが通過する照射領域の照射状態及びワークの移動の向きについては特定されていなかった。
これに対して、訂正事項1-3による訂正後の請求項1においては、ワークが通過する照射領域について「光照射が行われている」こと及びワークの移動の向きが「往路移動及び復路移動」であることが特定された。
したがって、訂正事項1-3は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
よって、訂正事項1-3は、特許法第126条第1項ただし書き第1号に
規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
本件明細書の段落【0014】に、「具体的には、図1の装置は、設定された照射領域Rに偏光光を照射する光照射器1と、照射領域Rを通過するようにして基板Sを搬送する搬送系2とを備えている。図1に示すように、照射領域Rは、長方形の水平な領域として設定されている。」との記載があり、照射領域に光照射が行われており、かかる照射領域を、基板Sに対応するワークが通過することが記載されている。
また、本件明細書の段落【0027】に「図6(1)に示すように、初期状態において、ステージ5は基板搭載位置に位置している。基板Sがステージ5上に載置されて各保持ピン51で保持されると、搬送系2は、第一の駆動源613を駆動し、ベース板21及びステージ5を第一の方向に前進させる。ステージ5が第一の前進限度位置に達すると、第一の駆動源613は停止される。図6(2)に示すように、第一の前進限度位置は、ステージ5上の基板Sが照射領域Rを完全に通過する位置である。「完全に通過」とは、基板Sの後縁が照射領域Rを通過することを意味する。」と記載されるとともに、図6(1)及び図6(2)を参照すると、基板搭載位置から基板が照射領域を通過する往路移動について開示されている。
さらに、本件明細書の【0028】に、「次に、搬送系2は、第一の駆動源613を再び動作させ、ベース板21及びステージ5を第一の方向であって逆向きに移動させる。即ち、第一のボールねじ611が逆向きに回転するように第一の駆動源613を動作させる。第一の駆動源613は、ステージ5が照射領域Rを再び通過し、基板回収位置に達したら停止する(図6(4))。」と記載されるとともに、図6(3)及び図6(4)を参照すると、基板が照射領域を通過して、基板回収位置に移動する復路移動について開示している。
以上のことから、本件明細書において、ワークが照射領域を通過して、往復移動を行うことが記載されているといえる。
したがって、訂正事項1-3に係る「光照射が行われている前記照射領域を通過させて往路移動及び復路移動するように前記ワークを搬送する」との事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項である。
よって、訂正事項1-3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 拡張・変更の存否について
上記アから明らかなとおり、訂正事項1-3は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1-3は、特許法第126条6項の規定に適合する。

(5)訂正事項1-4について
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1において、第二の方向へのワーク保持体の移動について「第二の方向へのワーク保持体の移動は、ワークから見た各偏光素子の境界線の位置を光照射の際に第二の方向に相対的に変位させるものである」ことについて特定されていたが、第二の方向にワーク保持体が移動した結果、ワークから見た各偏光素子の境界線の位置がいかなる経路を通るかについては、特定されていなかった。
これに対して、訂正後の請求項1においては、ワークから見た各偏光素子間の境界線の位置について「前記復路移動を前記往路移動と異なる経路を通るようにして、前記ワーク上における偏光光の露光量の均一性を向上させる」ものであることが特定された。
したがって、訂正事項1-4は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
よって、訂正事項1-4は、特許法第126条第1項ただし書き第1号に
規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
本件明細書の段落【0030】に、「第一の方向に加え第二の方向へのステージ5の移動を行うのは、前述した境界線40の直下の位置における照度低下に起因した露光量の不均一化の問題を回避するためである。上述したように、実施形態の装置において搬送系2はステージ5を第一の方向において往復動させる。この際、ステージ5が同じ経路を通って戻ってくるのではなく、少し横方向にシフトさせ、異なる経路を通って戻ってくるようにしている。」との記載があり、露光量の不均一化の問題を回避するために、ステージが、往路移動と復路移動とで異なる経路を通ることが記載されている。このステージは、ワーク(基板)が載置されたものである。
また、本件明細書の段落【0031】に、「一方、異なる経路を通って基板Sが戻ってくると、往路で照度低下の箇所を通過した基板S上の箇所は、復路では照度低下の箇所ではない箇所を通過して戻ってくるから、全体として露光量は均一になる。」と記載され、往路移動において照度低下の箇所となった箇所が、復路移動において照度低下の箇所ではない箇所を通り、露光量が均一になるように往路移動と復路移動とで異なる経路を通ることについて開示されている。
以上のことから、本件明細書において、ワーク保持体が往路移動と復路移動とで異なる経路を通り、ワークに対する偏光光の露光量の均一性を向上させることが記載されているといえる。
したがって、訂正事項1-4に係る「前記復路移動と往路移動と異なる経路を通るようにして前記ワーク上における偏光光の露光量の均一性を向上させる」との事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項である。
よって、訂正事項1-4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 拡張・変更の存否について
上記アから明らかなとおり、訂正事項1-4は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1-4は、特許法第126条6項の規定に適合する。

(6)上記(2)ないし(5)のまとめ
上記(1)ないし(5)のとおりであるから、訂正事項1-1ないし訂正事項1-4からなる訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項及び第6項の規定に適合する。

(7)独立特許要件について
訂正事項1による訂正後の請求項1及び請求項2に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか検討するに、訂正後の請求項1及び請求項2に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第7項の規定に適合する。

2.訂正事項2について
(1)訂正の目的について
訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、本件明細書の段落【0011】を訂正するものである。
したがって、当該訂正事項2は、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(2)新規事項の有無、拡張・変更の存否について
訂正事項2は、本件明細書の段落【0011】において「本願の請求項1記載の発明」についての記載を、訂正事項1による訂正後の請求項1の記載に変更するものである。
したがって、訂正事項2は、訂正事項1と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項2は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

第5 むすび
以上のとおり、本件訂正審判の請求に係る訂正事項1及び訂正事項2は、特許法第126条第1項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
光配向用偏光光照射装置
【技術分野】
【0001】
本願の発明は、光配向を行う際に行われる偏光光の照射技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶パネルを始めとする液晶表示素子の配向膜や、視野角補償フィルムの配向層を得る際、光照射により配向を行なう光配向と呼ばれる技術が採用されるようになってきた。以下、光照射により配向を生じさせた膜や層を総称して光配向膜と呼ぶ。尚、「配向」ないし「配向処理」とは、対象物の何らかの性質について方向性を与えることである。
【0003】
光配向は、光配向膜用の膜(以下、膜材という)に対して偏光光を照射することにより行われる。膜材は、例えばポリイミドのような樹脂製であり、所望の方向(配向させるべき方向)に偏光させた偏光光が膜材に照射される。所定の波長の偏光光の照射により、膜材の分子構造(例えば側鎖)が偏光光の向きに揃った状態となり、光配向膜が得られる。
【0004】
光配向膜は、それが使用される液晶パネルの大型化と共に大型化している。そのため、要求される偏光光の照射領域の幅は1500mm又はそれ以上となっており、顕著に幅広化してきている。このような幅の広い照射領域に偏光光を照射する偏光光照射装置として、例えば特許文献1に開示された装置がある。この装置は、照射領域の幅に相当する長さの棒状の光源と、この光源からの光を偏光するワイヤーグリッド偏光素子とを備え、光源の長手方向に対して直交する方向に搬送される膜材に対して偏光光を照射する。光配向には可視から紫外域の波長の偏光光を照射する必要があるため、棒状の光源としては高圧水銀ランプのような紫外線光源が使用されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-126464公報
【特許文献2】特許第4815995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光配向処理の品質の指標として重要なものに、露光量の均一性がある。露光量の均一性といった場合、単に積算露光量が膜材の面内で均一であることを意味するのでなく、偏光光がどれだけ均一な量で照射されているかということである。即ち、偏光されていない光(以下、無偏光光という)をなるべく照射しないようにし、偏光光だけを照射した状態として露光量を均一にする必要がある。局所的に無偏光光を多く含んだ状態で露光がされると、全体としての露光量分布が均一であったとしても、その部分だけ光配向が十分にされない状態となる。即ち、光配向の均一性という点では品質が低下することになる。
【0007】
偏光光の均一な照射という観点で問題になることは、偏光素子の有限性である。ワイヤーグリッド偏光素子は、可視から紫外域の光を偏光できるものとして優れたものであるが、大きなサイズのものを製造することが難しい。このため、複数のワイヤーグリッド偏光素子を並べてユニット化したものを使用し、照射領域をカバーしている。
複数のワイヤーグリッド偏光素子を並べた場合、各偏光素子の境界部分(端面の接触部分)からは無偏光光が照射され、各偏光素子の境界部分の直下の位置では光配向処理を行うことができない。このような不均一な照度分布の状態で光配向処理を行うと、ワーク(膜材)の表面のうち各偏光素子の境界部分の直下の位置を通過した領域では光配向が不十分な状態となり、光配向処理の面内均一性が低下する。
【0008】
このような問題を考慮し、特許文献1では、各偏光素子の境界部分を塞ぐように遮光板を設け、境界部分からは光が出射されないようにしている。遮光板を配置することで、遮光板の直下の位置を通過した領域では露光量が低下するが、無偏光の光が多く照射されて光配向が局所的に不十分になるよりは良いとの考えである。遮光板の直下の位置での偏光光の照度低下は、光源の出力を大きくして全体に照度を高くしたり、照射距離を長くして照度低下を緩和したりすることはできる。尚、以下の説明において、照度や露光量といった場合、偏光光についての照度や露光量を意味する。
【0009】
また、遮光板の直下の位置での照度低下の問題を解消するため、特許文献2は、光源及び偏光素子ユニットから成る光照射器をワークの搬送方向に二つ並べた構造を開示している。この構造では、偏光素子ユニットにおける各ワイヤーグリッド偏光素子の境界線が二つの光照射器において同一直線上に並ばないようにし、ワークの搬送方向に対して垂直な方向にずれた配置となるようにしている。二つの光照射器の間をワークが追加して偏光光が照射されると、一つの光照射器においては境界線の直下の位置(即ち、遮光板の直下の位置)を通過したワークの表面領域であっても、もう一つの光照射器では境界線の直下の位置を通過することはないので、全体として露光量は均一になる。
これら特許文献1や特許文献2の技術によってもある程度は均一な偏光光の照射は可能であるものの、高い生産性が要求されたり、より高い均一性が要求されたりする場合には十分に対応できない面がある。
【0010】
一方、このような光配向の技術において、偏光光照射の対象物(ワーク)は、膜材が連続して連なった長尺なもの(以下、長尺ワーク)である場合の他、膜材が基板上に既に設けられていて、膜材付きの基板がワークである場合がある。このような板状のものがワークである場合、搬送系としては種々のバリエーションがあり、自由度が大きい。従って、搬送系を工夫することで、上記遮光板の採用による照度分布不均一化を補償して均一性の高い光配向処理を実現できる可能性があると考えられる。
本願の発明は、上記の点を考慮して為されたものであり、搬送系を工夫することで露光量の面内均一性をより高くすることができる実用的な光配向技術を提供する意義を有している。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、設定された照射領域に偏光光を照射する光照射器と、照射領域を通過するようにしてワークを搬送する搬送系とを備えた光配向用偏光光照射装置であって、
前記光照射器は、長尺な発光部を成す光源と、前記光源と前記照射領域の間に配置された偏光素子ユニットとを備えたものであり、
前記偏光素子ユニットは、前記発光部の長手方向に沿って並べられた複数の偏光素子より成り、前記偏光素子の各々の間の境界線に遮光部を有し、前記遮光部に対応する前記照射領域上の位置において照度低下が発生するものであり、
前記ワークは一個ずつ切り離されたものであって、前記搬送系は、前記ワークを保持したワーク保持体を移動させることで前記ワークを搬送するものであり、
前記搬送系は、前記発光部の長手方向に交差する第一の方向に前記ワーク保持体を移動させることで、光照射が行われている前記照射領域を通過させて往路移動及び復路移動するように前記ワークを搬送するものであるとともに、前記偏光素子ユニットにおける各偏光素子間の前記境界線の方向に交差する第二の方向に前記ワーク保持体を移動させることが可能なものであり、
前記搬送系による第二の方向へのワーク保持体の移動は、前記ワークから見た各偏光素子間の前記境界線の位置を光照射の際に第二の方向に相対的に変位させて、前記復路移動を前記往路移動と異なる経路を通るようにして、前記ワーク上における偏光光の露光量の均一性を向上させるものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記光照射器は、第一第二の複数の光照射器となっており、
第一の光照射器における各偏光素子の境界線と、第二の光照射器における各偏光素子の境界線とは、前記第二の方向にお互いにずれているという構成を有する。
【発明の効果】
【0012】
以下に説明する通り、本願の請求項1記載の発明によれば、ワークを第一の方向に搬送して照射領域を通過させる際、ワークを第二の方向に搬送することでワークから見た各偏光素子の境界線の位置を第二の方向に相対的に変位した状態にするので、境界線の存在にかかわらず通過させるワークの被照射面内での露光量が均一になる。
また、請求項2記載の発明によれば、上記効果に加え、光照射器が複数設けられているので、露光量を多くするのが容易であり、二つの偏光素子ユニットにおいて偏光素子の境界線がずれているので、露光量が均一になる。そして、第二の方向の搬送を導入しているので、さらに露光量を均一にできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本願発明の実施形態に係る光配向用偏光光照射装置の斜視概略図である。
【図2】図1に示す光照射器1の断面概略図であり、(1)は、照射領域Rの短辺の方向での断面概略図、(2)は照射領域Rの長辺の方向での断面概略図である。
【図3】図1に示すステージ5の斜視概略図である。
【図4】搬送系2が備えるステージ移動機構61,62の平面概略図である。
【図5】搬送系2が備えるステージ移動機構61,62の正面概略図である。
【図6】実施形態の装置における搬送系2の動作を示した平面概略図である。
【図7】実施形態の装置における第二の方向への移動距離について示した平面概略図である。
【図8】第二の実施形態に係る光配向用偏光光照射装置の斜視概略図である。
【図9】第二の実施形態における各偏光素子ユニット4の配置位置を概略的に示した平面図である。
【図10】第二の実施形態の装置における搬送系2の動作を示した平面概略図である。
【図11】第二の実施形態の装置における第二の方向への移動距離について示した平面概略図である。
【図12】第三の実施形態の光配向用偏光光照射装置について示した平面概略図である。
【図13】第二の方向への基板Sの搬送を導入することで積算露光量が均一になることを確認した実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本願発明を実施するための形態(以下、実施形態)について説明する。
図1は、本願発明の実施形態に係る光配向用偏光光照射装置の斜視概略図である。図1に示す偏光光照射装置は、膜材付き液晶基板のような板状のワーク(以下、基板という)Sに対して光配向処理する装置となっている。
具体的には、図1の装置は、設定された照射領域Rに偏光光を照射する光照射器1と、照射領域Rを通過するようにして基板Sを搬送する搬送系2とを備えている。図1に示すように、照射領域Rは、長方形の水平な領域として設定されている。光照射器1は、長尺な発光部を成す光源3を含んでいる。光源3の発光部の長手方向は、照射領域Rの長辺の方向に一致している。
【0015】
図2は、図1に示す光照射器1の断面概略図であり、(1)は、照射領域Rの短辺の方向での断面概略図、(2)は照射領域Rの長辺の方向での断面概略図である。図2に示すように、光照射器1は、長尺な発光部を成す光源3と、光源3と照射領域Rに間に配置された偏光素子ユニット4とを備えている。
光源3としては、棒状の高圧水銀ランプが使用されている。この他、メタルハライドランプやLEDが使用されることもある。尚、棒状の光源3は長尺な発光部を成す光源3の一例であるが、点光源3を一列に並べたものも長尺な発光部を成すということができる。
【0016】
光源3の背後(照射領域Rとは反対側)には、ミラー31が配置されている。ミラー31は、光源3の長手方向に延びた長尺なものであり、光源3の背後を覆って光を照射領域Rの側に反射させて光の利用効率を高めるものである。ミラー31は、反射面の断面形状が楕円の円弧又は放物線を成している。
【0017】
偏光素子ユニット4は、複数の偏光素子41と、複数の偏光素子41を保持したフレーム42とより成るものである。この実施形態では、各偏光素子41は、ワイヤーグリッド偏光素子41である。各偏光素子41は、方形の板状であり、光源3の発光部の長手方向に並べられている。従って、各偏光素子41の境界線は、発光部の長手方向に垂直である。
【0018】
各偏光素子41を保持したフレーム42は、各偏光素子41を並べた方向に長い長方形の枠状である。
尚、各境界線40を覆うようにして、遮光板43が設けられている。遮光板43は、境界線40の部分から無偏光光が出射されないようにするものである。
また、光源3及びミラー31は、ランプハウス32内に収容されている。偏光素子ユニット4は、ランプハウス32の光照射用開口に取り付けられている。
【0019】
搬送系2は、基板Sを保持したワーク保持体を移動させることで基板Sを搬送するものである。この実施形態では、ワーク保持体としてはステージ5が使用されている。図3は、図1に示すステージ5の斜視概略図である。
図1及び図3に示すように、ステージ5は方形であり、上側のほぼ中央で基板Sを保持するようになっている。ステージ5は、上面から少し浮いた位置で基板Sを保持するよう保持ピン51を備えている。保持ピン51は、ステージ5によって一体に保持されており、ステージ5が移動すると、保持した基板Sも一緒に移動するようになっている。
保持ピン51は、方形の角の位置に四つ設けられている。この他、基板Sのサイズに応じて、中央の位置にも設けられることもある。各保持ピン51は、管状であり、不図示の真空排気系に接続されており、上端の開口から吸引して基板Sを真空吸着するものとなっている。
【0020】
尚、基板Sに対する保持ピン51の接触位置は、基板Sを使用した製品の製造プロセスにおいて支障のない位置となっている。例えば、基板Sが液晶ディスプレイ製造用のものであり、1枚の基板から複数の液晶ディスプレイを製造する場合、各液晶ディスプレイ製造のために使用する領域を外れた場所で保持ピン51が接触するようにする。
【0021】
搬送系2は、基板Sの搬送のため、ステージ5を移動させるステージ移動機構61,62を備えている。図4及び図5は、搬送系2が備えるステージ移動機構61,62の概略図であり、図4は、平面概略図、図5は正面概略図である。
この実施形態において、搬送系2は、第一第二の二つの異なる方向に基板Sを搬送するものとなっている。第一の方向は、光源3が成す発光部の長手方向に垂直な水平方向となっている。また、第二の方向は、偏光素子ユニット4における各偏光素子41の境界線40の方向に交差する方向である。この実施形態では、第二の方向は、各偏光素子41の境界線40の方向に垂直な水平方向である。前述したように、偏光素子ユニット4は、各境界線40の方向が発光部の長手方向に垂直な水平方向になるように配置されるから、第一の方向は各境界線40の方向に一致し、第二の方向は各境界線40の方向に垂直な水平方向となっている。
【0022】
第一の方向の搬送は、主たる搬送であり、基板Sの搭載位置から照射領域Rに基板Sを搬送し、且つ照射領域Rを通過させながら基板Sを回収位置に到達させるための搬送である。第二の方向の搬送は、基板Sの面内における露光量を均一にするための搬送である。
図1に示すように、搬送系2は、第一の方向にステージ5を移動させる第一のステージ移動機構61と、第二の方向にステージ5を移動させる第二のステージ移動機構62とを備えている。ステージ5は、ベース板21上に搭載されており、第一のステージ移動機構61は、ベース板21を移動させることでステージ5を移動させるものとなっている。第二のステージ移動機構62は、ベース板21に固定されており、ベース板21上でステージ5を移動させるものとなっている。
【0023】
この実施形態では、照射領域Rの一方の側に基板搭載位置が設定されている。第一のステージ移動機構61は、基板搭載位置から照射領域Rに向かって延びる第一のボールねじ611と、第一のボールねじ611の両側で第一のボールねじ611と平行に延びる一対の第一のリニアガイド612と、第一のボールねじ611を駆動する第一の駆動源613等から構成されている。
【0024】
図1に示すように、第一のボールねじ611及び一対の第一のリニアガイド612は、照射領域Rを貫いて水平に延びている。第一のボールねじ611の一端には第一の駆動源613が連結されており、他端は軸受けで支持されている。一対の第一のリニアガイド612は、各々両端が軸受けで支持されている。
ベース板21の下面のほぼ中央には、第一のボールねじ611に螺合された(ねじが噛み合っている)第一の被駆動ブロック22が固定されている。また、ベース板21の下面には、一対の第一のガイドブロック23が固定されている。第一のガイドブロック23の固定位置は、両側の第一のリニアガイド612の位置に対応している。第一のガイドブロック23内にはベアリングが設けられており、両側のリニアガイドが第一のガイドブロック23を貫通している。
【0025】
第一の駆動源613はACサーボモータのようなモータであり、第一の駆動源613がボールねじを回転させると、一対の第一のリニアガイド612にガイドされながらベース板21及びステージ5が一体に直線移動する。これにより、ステージ5に保持された基板Sが第一の方向に搬送される。
また、第二のステージ移動機構62は、ベース板21上に固定された第二のボールねじ621と、同じくベース上に固定された一対の第二のリニアガイド622と、第二のボールねじ621を駆動する第二の駆動源623等から固定されている。
【0026】
第二のボールねじ621及び一対の第二のリニアガイド622は、第二の方向に延びるよう固定されている。ステージ5の下面中央には、第二のボールねじ621に螺合された第二の被駆動ブロック24が固定されている。また、ステージ5の下面には、一対の第二のガイドブロック25が固定されている。第二のガイドブロック25の固定位置は、両側の第二のリニアガイド622の位置に対応している。第二のガイドブロック25内にはベアリングが設けられ、両側のリニアガイドが第二のガイドブロック25を貫通している。
第二の駆動源623がボールねじを回転させると、一対の第二のリニアガイド622にガイドされながらベース板21上でステージ5直線移動する。これにより、ステージ5に保持された基板Sが第二の方向に搬送される。
【0027】
図6は、実施形態の装置における搬送系2の動作を示した平面概略図である。図6(1)に示すように、初期状態において、ステージ5は基板搭載位置に位置している。基板Sがステージ5上に載置されて各保持ピン51で保持されると、搬送系2は、第一の駆動源613を駆動し、ベース板21及びステージ5を第一の方向に前進させる。ステージ5が第一の前進限度位置に達すると、第一の駆動源613は停止される。図6(2)に示すように、第一の前進限度位置は、ステージ5上の基板Sが照射領域Rを完全に通過する位置である。「完全に通過」とは、基板Sの後縁が照射領域Rを通過することを意味する。
搬送系2は、第一の前進限度位置でベース板21及びステージ5を停止させた後、第二の駆動源623を動作させ、ベース板21上でステージ5を第二の方向に移動させる。第二の駆動源623は、ステージ5が第二の前進限度位置に達したら停止する(図6(3))。
【0028】
次に、搬送系2は、第一の駆動源613を再び動作させ、ベース板21及びステージ5を第一の方向であって逆向きに移動させる。即ち、第一のボールねじ611が逆向きに回転するように第一の駆動源613を動作させる。第一の駆動源613は、ステージ5が照射領域Rを再び通過し、基板回収位置に達したら停止する(図6(4))。
【0029】
図4に示すように、偏光光照射装置は、装置の各部を制御する制御部7を備えている。また、ベース板21やステージ5の位置を監視する不図示のセンサが各所に設けられており、各センサの信号が制御部7に送られるようになっている。さらに、実施形態の装置では、ロボットが基板Sをステージ5上に搭載し、また露光済みの基板Sをステージ5から回収することが想定されているが、ロボットとの間で制御部7は、信号のやり取りをするようになっている。
制御部7には、搬送系2の各駆動源を含む各部を最適に制御するためのシーケンスプログラムが実装されている。シーケンスプログラムは、センサからの信号に従い、各部に制御信号を送り、図6に示すように搬送系2を動作させる。
【0030】
上記搬送系2において、第二の方向への移動距離(図7にdmで示す)は、基板Sの面内における露光量均一化の観点から最適化される。以下、この点について図7を使用して説明する。図7は、実施形態の装置における第二の方向への移動距離について示した平面概略図である。
第一の方向に加え第二の方向へのステージ5の移動を行うのは、前述した境界線40の直下の位置における照度低下に起因した露光量の不均一化の問題を回避するためである。上述したように、実施形態の装置において搬送系2はステージ5を第一の方向において往復動させる。この際、ステージ5が同じ経路を通って戻ってくるのではなく、少し横方向にシフトさせ、異なる経路を通って戻ってくるようにしている。
【0031】
往路と復路とで照射領域Rを基板Sが通過する際、同じ経路であると、往路において境界線40の直下を通過した基板S上の箇所は、復路においても同様に境界線40の直下の位置を通過することになる。このような基板Sの搬送では、局所的な照度低下に起因した露光量の不均一化は解消されない。
一方、異なる経路を通って基板Sが戻ってくると、往路で照度低下の箇所を通過した基板S上の箇所は、復路では照度低下の箇所ではない箇所を通過して戻ってくるから、全体として露光量は均一になる。
【0032】
但し、この実施形態では、複数の偏光素子41が成す境界線40は複数存在している(偏光素子41は三つ以上)。従って、境界線40間daの距離(又はdaの整数倍の距離)に移動距離dmが一致してしまうと、往路で照度の低い位置を通過した基板S上の領域が復路でも照度の低い位置を通過することになってしまい、露光量の均一化は達成されない。従って、第二の方向への移動距離dmは、偏光素子ユニット4において各偏光素子41が成す境界線40の離間距離(以下、境界線40間距離)daの整数倍から外れていれば良い(dm≠n・da,nは整数)。タクトタイム短縮の観点から、移動距離dmは短い方が好ましい。従って、移動距離dmは、dm<daの範囲内で適宜決定される。
【0033】
また、移動距離dmが境界線40間距離daからどの程度外れれば良いかは、各境界線40の直下の領域における照度低下の状況がどのようであるかによる。図7には、第二の方向への移動距離dm、各境界線40間距離daとともに、境界線40の直下の領域における照度分布が概略的に示されている。ここに示す照度分布は、照射領域Rのうち境界線40の直下の位置を通る第二の方向の直線上での照度分布である。
図7(1)に示すように、照度分布の低下が境界線40の直下の位置のごく狭い領域に限られる場合、移動距離dmは、照度低下が生じている領域の片側の幅wを越える僅かな距離で足りる。
【0034】
一方、図7(2)に示すように、照度低下が生じている領域の幅wがある程度広い場合、その幅wを超えるように移動距離dmは設定されるが、幅wは、各境界線40間距離daの1/2を越えることはない。従って、移動距離dmは、各境界線40間距離daの1/2としておけば良いことになる。即ち、dm=da/2としておけば、幅wによらず均一な露光量が達成できることになる。但し、幅wが小さい場合には、dm<da/2としても良く、第二の方向への移動距離を小さくしてタクトタイムを短くすることはあり得る。
【0035】
また、幅wの取り方についても、必要な露光量均一性との関係から最適化される。例えば露光量均一性が±5%であれば、幅wは最大照度から10%以上低下している領域の片側の幅とされる。
いずれにしても、移動距離dmは、予め制御部7に入力されて制御値として記憶部に記憶される。そして、第二の駆動源623に対して動作量として送られる。
【0036】
以上の構成に係る実施形態の光配向用偏光光照射装置の全体の動作について、以下に説明する。以下の説明は、光配向用偏光光照射方法の説明でもある。
制御部7は、光源3を点灯させる。光源3からの光は各偏光素子41を経ることで偏光光となり、照射領域Rに照射される。搬送系2は、ベース板21及びステージ5をスタンバイ位置である基板搭載位置に位置させる。
【0037】
光配向される基板Sは、AGV(Auto Guided Vehicle)のようなロット搬送機構、又はエアコンベアのような枚葉搬送機構により偏光光照射装置まで搬送される。そして、不図示のロボットにより、一枚の基板Sがステージ5に搭載される。基板Sは、各保持ピン51の上に載置され、各保持ピン51上で真空吸着される。
【0038】
ロボットからの基板搭載完了の信号を受信すると、制御部7は、搬送系2に信号を送り、前述した一連の搬送動作を行わせる。これにより、ステージ5は照射領域Rを通過しながら往復し、通過の際、ステージ5上の基板Sに偏光光が照射される。そして、復路では移動距離dmだけシフトした経路を移動し、基板Sの面内の各点は均一に露光される。
【0039】
ベース板21が基板回収位置に達すると、制御部7は、真空吸着をオフにした後、ロボットに信号を送り、ステージ5から基板Sを回収させる。尚、この実施形態では、復路の移動距離は往路の移動距離と同じであり、従って基板回収位置は第二の方向の移動距離dmの分だけ基板搭載位置からシフトしている。ロボットは、この基板回収位置で基板Sを回収するよう予めティーチングされている。
【0040】
以上説明した構成及び動作に係る実施形態の偏光光照射装置又は偏光光照射方法によれば、搬送系2が照射領域Rを通過させながら基板Sを往復させるものであり、往路の搬送が終了した後、復路の搬送の前に第二の方向に移動させることで復路の経路を往路とは異なる経路とするものであり、その際の移動距離dmが各偏光素子41における境界線40間距離daを外れたものであるので、各偏光素子41の境界線40の直下の位置における照度低下が補償され、基板Sの面内での露光量が均一になる。
【0041】
次に、第二の実施形態の装置及び方法について説明する。
図8は、第二の実施形態に係る光配向用偏光光照射装置の斜視概略図である。図8に示す第二の実施形態の装置は、二つの光照射器1を備えている。各光照射器1の構造は、第一の実施形態の装置が備えるものとほぼ同様である。
図8に示すように、二つの光照射器1は、光源3の発光部の長手方向が第一の方向に対して垂直な水平方向となっている。そして、二つの光照射器1は、偏光素子ユニット4における各偏光素子41の配置が互いにずれたものとなっている。この点について、図9を使用して説明する。図9は、第二の実施形態における各偏光素子ユニット4の配置位置を概略的に示した平面図である。
【0042】
図9に示すように、二つの光照射器1において偏光素子ユニット4は基本的に同じ構造のものであるが、各偏光素子41の配置位置が若干異なっている。即ち、一方の偏光素子ユニット4の各偏光素子41は、他方の偏光素子ユニット4の各偏光素子41に対して光源(図9中不図示)の発光部の長手方向にずれて配置されている。ずれ量は、この実施形態では、各偏光素子41の幅tの1/2となっている。
尚、このようにずれた位置とするには、フレーム42や各偏光素子41の寸法形状、各偏光素子41の数は、二つの偏光素子ユニット4で同じとしておき、ランプハウス32に対する取付位置をずらした位置としておけば良い。
【0043】
図10は、第二の実施形態の装置における搬送系2の動作を示した平面概略図である。第二の実施形態においても、搬送系2は、基板Sを保持したステージ5を第一の方向と第二の方向に移動させるものであり、第一の方向の移動は往復動であって往路と復路との双方で基板Sが照射領域Rを通過し、この際に基板Sに偏光光が照射される。そして、第二の方向の移動は、往路移動と往路移動との間に行われるもので、往路と復路とで基板Sが異なる経路を通って照射距離を通過するようにするものである。尚、二つの光照射器1はそれぞれの照射領域Rに偏光光を照射する。
【0044】
図11は、第二の実施形態の装置における第二の方向への移動距離について示した平面概略図である。尚、図11では、参考のため、第二の方向の移動をしない場合も示されている。図11(1)が移動しない場合、(2)が移動する場合である。
図11(1)(2)において、第一の光照射器1による照度分布をI1で示し、第二の光照射器1による照度分布をI2で示す。I1及びI2は、図7と同様に、各境界線40の直下の位置を通る第二の方向の直線上での照度分布である。また、Eは、往復の搬送が終了した後の基板Sの面内の露光量の分布を示す。
【0045】
上記説明から解るように、基板Sは、往路と復路とでそれぞれの照射領域Rを順次通過し、偏光光の照射を受ける。従って、露光量Eは、それぞれの照射領域Rの通過時の露光量を合算したものとなる。この場合、ステージ5が第二の方向に移動しない場合(同じ経路で往復する場合)でも、各偏光素子41の配置がずれているので、図7(1)に示すように、露光量Eはある程度は均一になる。
【0046】
第二の実施形態の装置は、露光量をさらに均一化させるため、第二の方向への移動距離dmを最適に設定する。図7(1)に示すように、第二の方向への移動をさせない場合の露光量Eの分布において、露光量が極小値をとっている箇所は、二つの偏光素子ユニット4のうちのいずれかの偏光素子ユニット4における境界線40の直下を通過した箇所である。第二の実施形態において、二つの偏光素子ユニット4は、一つの偏光素子41の幅の半分(t/2)だけずれて配置されているから、極小値を取る箇所の間隔もt/2となる。極小値を取る箇所は、いずれかの偏光素子ユニット4の境界線40の直下を通過した箇所であるから、各境界線間距離daがt/2であるとも言える。
【0047】
従って、図7(1)に示す状態からさらに露光量を均一にするには、境界線間距離da=t/2だから、移動距離dmは、t/2(又はその整数倍)に一致しなければ良いということになる。
そして、露光量が低下する領域の片側の幅wは、図7に示した場合と本質的に同様で、境界線40間距離daの1/2を越えることはない。従って、第一の実施形態の場合と同様で、移動距離dm=da/2=t/4(又はその自然数倍)としておけば最適ということになる。
第二の実施形態の場合も、照度低下領域の片側の幅wは、必要とされる露光量均一性の程度に応じて選択され、幅wが狭い場合、移動距離dmは、t/4よりも短い距離とされることもある。
【0048】
次に、第三の実施形態の装置について説明する。図12は、第三の実施形態の光配向用偏光光照射装置について示した平面概略図である。
第三の実施形態の装置は、搬送系2による搬送が第一第二の実施形態と異なっている。第一第二の実施形態では、第一の方向の基板Sの搬送は往復動であり、往路の搬送と復路の搬送との間で第二の方向の搬送が行われたが、第三の実施形態では、第一の方向の搬送と第二の方向の搬送とが同時に行われるようになっている。即ち、制御部7は、第一の駆動源613と第二の駆動源623に信号を送り、第一の駆動源613と第二の駆動源623とを同時に動作させる。但し、第二の駆動源623の動作は、第一の駆動源613の動作中に常に動作させる必要はなく、基板Sが照射領域Rを通過している最中にのみ動作すれば良い。
【0049】
図12には、第三の実施形態において、光量の面内均一性がより高くなる好適な基板Sの搬送が示されている。図12(1)に示すように、基板Sが第一の方向に搬送されてきて前縁が照射領域Rの縁に到達した時点で第二の方向の搬送が始まり、基板Sの後縁が照射領域Rを通過しきる時点で第二の方向の搬送が終了するのが好適である。図12(1)中、一点鎖線は、基板Sの前縁のある一点P1の軌跡を示し、二点鎖線は後縁のある一点P2の軌跡を示す。
【0050】
図12(1)に示す場合の他、図12(2)に示すように、第二の方向への移動が、照射領域Rを通過する時間帯を含む前後の時間帯にまたがって行われる場合でも良い。さらに、図12(3)に示すように、第二の方向への移動が直線的ではなく、ジグザグであっても良い。
図12に示すいずれの場合にも、第二の方向への移動距離dmは、前述した実施形態と同様とされる。尚、いずれの実施形態において、移動距離dmは、境界線間距離daの整数倍に一致しないことが必要とされるが、この他、第二の方向への移動により基板Sが一部でも照射領域Rを外れてしまうことがないようにしなければならない。
【0051】
この第三の実施形態では、基板Sの搬送を往路だけとすることが可能である。この場合、照射領域Rの一方の側で基板Sをステージ5に搭載し、他方の側で基板Sをステージ5から回収することになる。往路の搬送だけとすると、タクトタイムが短くなるので、生産性の点で好適である。
但し、第三の実施形態においても、往復の搬送を行って基板Sに偏光光を照射するようにしても良い。この場合、往路と復路との照射領域Rを通過中に第二の方向の搬送も同時に行うようにすることが好ましい。
【0052】
尚、往復の搬送によって基板Sに偏光光を照射するようにすると、往路のみの場合に比べて露光量が2倍になる(搬送速度を変えない場合)。従って、多くの露光量が必要な光配向処理の場合に好適となる。基板Sを往復搬送させると、照射領域Rの一方の側で基板Sの搭載と回収とを行うことができるので、装置やその周辺の構造が簡略化される。復路の分だけタクトタイムが長くなるが、搬送速度を高くすることでタクトタイムを短くすることもできる。
【0053】
上述した各実施形態において、搬送系2による第二の方向へのワーク保持体の移動は、基板Sから見た各偏光素子41の境界線40の位置を光照射の際に第二の方向に相対的に変位させるものであるということができる。光照射の際に境界線40の位置が相対的に変位していることで、境界線40の影響による照度低下の領域が基板Sの面内で変位し、これによって露光量の均一化を達成するものである。
【0054】
尚、各実施形態において、第一の方向の基板Sの搬送は、光源3の発光部の長手方向に垂直な方向であったが、これに限られるものではない。第一の方向の搬送は、基板Sが照射領域Rを通過するようにするためのものであり、光源3の発光部の長手方向に交差していれば良い。光源3の発光部の長手方向に対して斜めの方向に基板Sを搬送しながら偏光光を照射させるようにしても各偏光素子41の境界線40の存在による露光量の不均一化を補償することができ、均一な露光を行うことができる。この場合も、第二の方向の移動を導入するとさらに露光量が均一になる。
【0055】
また、第二の方向は、上記各実施形態及び実施例では、各偏光素子41の境界線40の方向に垂直な方向であったが、これに限られるものではない。境界線40の方向に沿って基板Sを搬送させても露光量均一化の効果は得られないが、境界線40の方向に交差する方向であれば、効果が得られる。
尚、各実施形態及び実施例において、ステージ5は、搬送中に基板Sを保持する部材の一例として採用されたものであり、ステージ5以外の部材が採用されることもあり得る。
【0056】
また、搬送系2としては、前述したボールネジを駆動源で回転させるものの他、例えば特許第4581641号公報に開示されているような磁気を利用した搬送機構(リニアモータステージ)が採用されることもある。この機構は、上面に碁盤の目状に磁性体の凸極を並べたプラテン上に磁極を設けたステージ5を配置し、エア噴射等によってステージ5をプラテンから僅かに浮かせながら、ステージ5の磁極の極性を制御することでステージ5を移動させる機構である。この機構を採用する場合も、基板Sの搬送方向の精度を保つため、ステージ5の移動をガイドするリニアガイドを両側に設けることが好ましい。
尚、磁気を利用した搬送機構と、前述したようなボールねじと駆動源とを利用した搬送機構とを併用しても良い。例えば、第一の方向の搬送には磁気を利用した搬送機構(リニアモータステージ)を用い、第二の方向の搬送にはボールねじと駆動源とを利用した搬送機構を使用することが考えられる。
【0057】
また、第一第二の実施形態において、基板回収位置は、基板搭載位置に対して第二の方向に移動距離dmだけシフトした位置であったが、基板搭載位置と同じ位置で基板Sを回収しても良い。この場合は、往路と同じ距離だけ復路においてベース板21及びステージ5を移動させた後、第二の方向に移動距離dmだけ逆向きに移動させる動作が追加される。多少タクトタイムは長くなるが、ロボットは常に同じ位置で基板Sの搭載と回収を行うので、この点では簡略化される。
尚、ワークは、1個ずつ切り離されたものでワーク保持体によって保持されるものであれば、板状のものでなくとも良い。「切り離された」とは、帯状の連なったものでロールツーロールで搬送されるものを除外する趣旨である。
また、本発明は、偏光光の照度低下を補償するという意味においては、偏光素子ユニットの複数の偏光素子の境界部分に遮光板を設けない構造においても適用できるものである。
【実施例】
【0058】
次に、上記のように第二の方向への基板Sの搬送を導入することにより露光量が均一になることを確認した実験の結果について、実施例として説明する。図13は、第二の方向への基板Sの搬送を導入することで積算露光量が均一になることを確認した実験の結果を示す図である。
この実験では、第二の方向で見た照射領域Rの幅は1500mm、光源3は高圧水銀ランプであって照射領域Rでの平均の照度は約130mW/cm2であった。
【0059】
各偏光素子41の幅tは150mmであり、従って境界線間距離は150mmである。図13(1)には、第二の方向への移動を行わず、往路と復路とで同じ経路で基板Sを搬送して偏光光照射を行った際の露光量分布が示され、(2)には、往路の搬送の後、第二の方向に約距離75mm移動させてから復路の搬送を行った際の露光量分布がより均一になった露光量分布が示されている。露光量分布は、図7や図11と同様、第二の方向での分布である。
【0060】
図13(1)に示すように、第二の方向への移動を行わない場合、周期的に露光量が大きく低下する箇所が観察される。露光量の極小値となっている箇所は、各偏光素子41の境界線40の直下の位置を通過した箇所である。この例では、最小値は最大値に対して70.4%程度であった(±14.8%の均一性)。
一方、約80mmの第二の方向の移動を導入した実施例では、図13(2)に示すように、均一性は大きく向上した。この例では、最小値は最大値に対して85%程度であった(±7.5%の均一性)。このように、第二の方向の移動を適宜導入することで、露光量の均一性は大きく向上することが判った。
【符号の説明】
【0061】
1 光照射器
2 搬送系
21 ベース板
3 光源
4 偏光素子ユニット
40 境界線
41 偏光素子
43 遮光板
5 ステージ
61 第一のステージ移動機構
611 第一のボールねじ
612 第一のリニアガイド
613 第一の駆動源
62 第二のステージ移動機構
611 第二のボールねじ
612 第二のリニアガイド
613 第二の駆動源
7 制御部
S 基板
R 照射領域
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定された照射領域に偏光光を照射する光照射器と、照射領域を通過するようにしてワークを搬送する搬送系とを備えた光配向用偏光光照射装置であって、
前記光照射器は、長尺な発光部を成す光源と、前記光源と前記照射領域の間に配置された偏光素子ユニットとを備えたものであり、
前記偏光素子ユニットは、前記発光部の長手方向に沿って並べられた複数の偏光素子より成り、前記偏光素子の各々の間の境界線に遮光部を有し、前記遮光部に対応する前記照射領域上の位置において照度低下が発生するものであり、
前記ワークは一個ずつ切り離されたものであって、前記搬送系は、前記ワークを保持したワーク保持体を移動させることで前記ワークを搬送するものであり、
前記搬送系は、前記発光部の長手方向に交差する第一の方向に前記ワーク保持体を移動させることで、光照射が行われている前記照射領域を通過させて往路移動及び復路移動するように前記ワークを搬送するものであるとともに、前記偏光素子ユニットにおける各偏光素子間の前記境界線の方向に交差する第二の方向に前記ワーク保持体を移動させることが可能なものであり、
前記搬送系による第二の方向へのワーク保持体の移動は、前記ワークから見た各偏光素子間の前記境界線の位置を光照射の際に第二の方向に相対的に変位させて、前記復路移動を前記往路移動と異なる経路を通るようにして、前記ワーク上における偏光光の露光量の均一性を向上させるものであることを特徴とする光配向用偏光光照射装置。
【請求項2】
前記光照射器は、第一第二の複数の光照射器となっており、
第一の光照射器における各偏光素子の境界線と、第二の光照射器における各偏光素子の境界線とは、前記第二の方向にお互いにずれていることを特徴とする請求項1に記載の光配向用偏光光照射装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-12-22 
結審通知日 2016-12-27 
審決日 2017-01-10 
出願番号 特願2013-131208(P2013-131208)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (G02F)
P 1 41・ 851- Y (G02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 磯野 光司  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 河原 英雄
近藤 幸浩
登録日 2016-02-19 
登録番号 特許第5884776号(P5884776)
発明の名称 光配向用偏光光照射装置  
代理人 岸 慶憲  
代理人 相良 由里子  
代理人 松野 仁彦  
代理人 大塚 文昭  
代理人 松尾 和子  
代理人 松尾 和子  
代理人 相良 由里子  
代理人 岸 慶憲  
代理人 谷口 信行  
代理人 松野 仁彦  
代理人 大塚 文昭  
代理人 谷口 信行  

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