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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B63B
管理番号 1325145
審判番号 無効2014-800029  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-02-24 
確定日 2017-01-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4509156号発明「船舶」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4509156号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る発明についての出願の経緯と、本件無効審判事件以外の無効審判事件の経緯は、以下のとおりである。

平成19年 9月13日 特許出願
平成22年 5月14日 登録(特許第4509156号)
平成23年12月 6日 無効審判(無効2011-800251)
同年12月22日 無効審判(無効2011-800262)
平成24年 4月10日 訂正請求書
同年10月26日 審決(無効2011-800251)
同年11月 5日 審決(無効2011-800262)
平成25年 9月10日 審決取消訴訟判決(無効2011-800251 )
同日 審決取消訴訟判決(無効2011-800262 )
平成26年 5月 2日 審決(無効2011-800262)
同年 5月 7日 審決(無効2011-800251)
同年 6月13日 審決の確定(無効2011-800251)
同日 審決の確定(無効2011-800262)

本件特許無効審判は、請求人 ジャパンマリンユナイテッド株式会社、外20名(以下「請求人」という。)により、被請求人 三菱重工業株式会社、外1名(以下「被請求人」という。)の本件特許についてなされたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成26年 2月24日 無効審判請求
同年 5月13日 答弁書、訂正請求書
同年 6月25日 手続補正書(前記訂正請求書の方式補正)
同年 9月29日 弁駁書
同年11月 6日 検証申出書
同年11月20日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年12月 4日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年12月18日 口頭審理
平成27年 1月23日 審決の予告
同年 3月30日 訂正請求書、上申書
同年 4月 8日 手続補正書
同年 5月20日 弁駁書
同年 6月 9日 訂正拒絶理由通知
同年 7月13日 意見書

第2 訂正請求
1 訂正の内容
被請求人により、平成27年3月30日に請求された訂正(以下「本件訂正」という。)の趣旨は、本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面を、訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲及び訂正図面のとおり請求項ごと又は一群の請求項ごとに訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は次のとおりである。
なお、下線部は訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
本件特許の特許請求の範囲における請求項1に、
「【請求項1】
バラスト水の取水時または排水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置を備えている船舶であって、
バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され、
前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することを特徴とする船舶。」
とあるのを、
「【請求項1】
船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと、バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と、バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられ、機関室に設置されたバラストポンプとを備えている船舶であって、
前記バラスト水処理装置は、前記取水口から取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統に対して、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており、
前記処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ、これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ、
前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点と、前記処理装置出口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点との間の前記バラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ、当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており、
さらに前記バラスト水配管系統には、前記バラストポンプの下流側で、かつ前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との前記連結点の上流側に、前記バラストポンプから前記バラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており
バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され、
前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することにより、緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することを特徴とする船舶。」
と訂正する。

(2)訂正事項2
本件特許の明細書の段落【0008】に、
「【0008】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明の請求項1に係る船舶は、バラスト水の取水時または排水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置を備えている船舶であって、バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され、前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することを特徴とするものである。」
とあるのを、
「【0008】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明の請求項1に係る船舶は、船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと、バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と、バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられ、機関室に設置されたバラストポンプとを備えている船舶であって、前記バラスト水処理装置は、前記取水口から取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統に対して、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており、前記処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ、これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ、前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点と、前記処理装置出口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点との間の前記バラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ、当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており、さらに前記バラスト水配管系統には、前記バラストポンプの下流側で、かつ前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との前記連結点の上流側に、前記バラストポンプから前記バラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており、バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され、前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することにより、緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することを特徴とするものである。」
と訂正する。

(3)訂正事項3
本件特許の特許請求の範囲における請求項2に、
「【請求項2】
前記バラスト水処理装置が前記舵取機室内またはその空間に設けたデッキに配設されていることを特徴とする請求項1に記載の船舶。」
とあるのを
「【請求項2】
前記バラスト水処理装置が第1処理ユニットと第2処理ユニットから成る分割構造をしており、前記第1処理ユニットが前記舵取機室内またはその空間に設けたデッキ上に配設され、前記第2処理ユニットが前記舵取機室の床面上に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の船舶。」
と訂正する。

(4)訂正事項4
本件特許の明細書の段落【0010】に、
「【0010】
上記の船舶においては、前記バラスト水処理装置を前記舵取機室内の空間に設けたデッキに配設することが好ましく、これにより、舵取機室内の空間をより一層有効に利用して、すなわち、空間を立体的に有効利用して種々のバラスト水処理装置を設置することができる。」
とあるのを、
「【0010】
上記の船舶においては、前記バラスト水処理装置が第1処理ユニットと第2処理ユニットから成る分割構造をしており、前記第1処理ユニットを前記舵取機室内の空間に設けたデッキ上に配設し、前記第2処理ユニットを前記舵取機室の床面上に設置することが好ましく、これにより、舵取機室内の空間をより一層有効に利用して、すなわち、空間を立体的に有効利用して種々のバラスト水処理装置を設置することができる。」
と訂正する。

(5)訂正事項5及び訂正事項12
本件特許の明細書の段落【0020】に、
「【0020】
図1において、図中の符号12はバラスト水の取水口、13はバラストポンプを示しており、取水口12から取水したバラスト水は、バラスト水配管系統14を通ってバラストタンク6へ供給される。
バラスト水処理装置20は、取水口12から取水したバラストをバラストタンク6へ供給するバラスト水配管系統14と処理装置入口側配管系統15、処理装置出口側配管系統16を介して連結されている。
図2及び図3は、バラスト水処理装置20、バラストポンプ13の運転により取水口12からバラストタンク6へバラスト水を供給するバラスト水配管系統14、そして、バラスト水処理装置20とバラスト水配管系統14との間を連結する処理水配管系統15の構成例を示す配管系統図である。なお、図2及び図3において、図中の符号17はバラスト水の排水口、V1?V7は開閉弁、CV1は逆止弁を示している。」
とあるのを、
「【0020】
図1において、図中の符号12はバラスト水の取水口、13はバラストポンプを示しており、取水口12から取水したバラスト水は、バラスト水配管系統14を通ってバラストタンク6へ供給される。
バラスト水処理装置20は、取水口12から取水したバラスト水をバラストタンク6へ供給するバラスト水配管系統14と、処理水配管系統15(処理装置入口側配管15a、処理装置出口側配管16)を介して連結されている。
図2及び図3は、バラスト水処理装置20、バラストポンプ13の運転により取水口12からバラストタンク6ヘバラスト水を供給するバラスト水配管系統14、そして、バラスト水処理装置20とバラスト水配管系統14との間を連結する処理水配管系統15の構成例を示す配管系統図である。なお、図2及び図3において、図中の符号17はバラスト水の排水口、V1?V7は開閉弁、CV1は逆止弁を示している。」
と訂正する。

(6)訂正事項6及び訂正事項13
本件特許の明細書の段落【0022】に、
「【0022】
上述した逆止弁CV1は、バラストポンプ13からバラスト水処理装置20へ向かう方向(図中に矢印で示す方向)の流れのみを許容する。また、このようなバラスト水の取水時においては、処理水配管15aに設けた開閉弁V6が開とされ、バラスト水配管14cに設けた開閉弁V2、バラスト水配管14fに設けた開閉弁V3及びバラスト水配管14gに設けた開閉弁V4,V5は全て閉とされる。バラスト水処理装置20に供給されたバラスト水は、バラスト水内に含まれる微生物類を除去または死滅させる処理を受けた後、開閉弁V7、処理装置出口側配管16、バラスト水配管14d及びバラスト水配管14eを通ってバラストタンク6に積載される。従って、バラストタンク6内には、微生物類が除去または死滅させられた状態のバラスト水が積載されることとなる。
なお、バラスト水処理装置20がバッファタンクを用いる場合は、処理装置出口側配管系統16の代わりに、バッファタンク用取水口12’と処理済水移送ポンプ13’、処理済水移送配管系統16’を介して連結されることとなり、バラスト水の流れとしてはその箇所のみ変更となる。」
とあるのを、
「【0022】
上述した逆止弁CV1は、バラストポンプ13からバラスト水処理装置20へ向かう方向(図中に矢印で示す方向)の流れのみを許容する。また、このようなバラスト水の取水時においては、処理装置入口側配管15aに設けた開閉弁V6が開とされ、バラスト水配管14cに設けた開閉弁V2、バラスト水配管14fに設けた開閉弁V3及びバラスト水配管14gに設けた開閉弁V4,V5は全て閉とされる。バラスト水処理装置20に供給されたバラスト水は、バラスト水内に含まれる微生物類を除去または死滅させる処理を受けた後、開閉弁V7、処理装置出口側配管16、バラスト水配管14d及びバラスト水配管14eを通ってバラストタンク6に積載される。従って、バラストタンク6内には、微生物類が除去または死滅させられた状態のバラスト水が積載されることとなる。
なお、バラスト水処理装置20がバッファタンクを用いる場合は、処理装置出口側配管16の代わりに、バッファタンク用取水口12’と処理済水移送ポンプ13’、処理済水移送配管系統16’を介して連結されることとなり、バラスト水の流れとしてはその箇所のみ変更となる。」
と訂正する。

(7)訂正事項7及び訂正事項14
本件特許の明細書の段落【0033】に、
「【0033】
また、舵取機室9は、バラストポンプ13が設置される機関室8に隣接して近いため、処理装置入口側配管系統15及び処理装置出口側配管系統16に必要となる配管長及び配管設置スペースが少なくてすみ、バラスト水処理に伴う圧力損失も最小限に抑えることができる。
また、舵取機室9は非防爆エリアであるから、各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点もある。
また、舵取機室9は、船舶の吃水より上方に位置するため、緊急時においてはバラスト水を容易に船外へ排水できるという利点もある。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。」
とあるのを、
「【0033】
また、舵取機室9は、バラストポンプ13が設置される機関室8に隣接して近いため、処理装置入口側配管15a及び処理装置出口側配管16に必要となる配管長及び配管設置スペースが少なくてすみ、バラスト水処理に伴う圧力損失も最小限に抑えることができる。
また、舵取機室9は非防爆エリアであるから、各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点もある。
また、舵取機室9は、船舶の吃水線より上方に位置するため、緊急時においてはバラスト水を容易に船外へ排水できるという利点もある。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。」
と訂正する。

(8)訂正事項8及び訂正事項15
本件特許の明細書の段落【0035】に、
「【0035】
1 LNG船
4 船尾部
6 バラストタンク
7 居住区
8 機関室
9 舵取機室
10 ボイド
12 取水口
12’ バッファタンク用取水口
13 バラストポンプ
13’ 処理済水移送ポンプ
14 バラスト水配管系統
15 処理装置入口側配管系統
16 処理装置出口側配管系統
16’ 処理済水移送配管系統
17 排水口
20 バラスト水処理装置
30 デッキ
40 吃水線」
とあるのを、
「【0035】
1 LNG船
4 船尾部
6 バラストタンク
7 居住区
8 機関室
9 舵取機室
10 ボイド
12 取水口
12’ バッファタンク用取水口
13 バラストポンプ
13’ 処理済水移送ポンプ
14 バラスト水配管系統
15 処理水配管系統
15a 処理装置入口側配管
16 処理装置出口側配管
16’ 処理済水移送配管系統
17 排水口
20 バラスト水処理装置
30 デッキ
40 吃水線」
と訂正する。

(9)訂正事項9及び訂正事項16
本件特許の明細書に添付した図面の【図1】を次のとおり訂正する。


(10)訂正事項10
本件特許の特許請求の範囲における請求項6に、
「【請求項6】
バラスト水の取水時または排水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置を備えている船舶であって、
バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで、船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設されていることを特徴とする船舶。」
とあるのを、
「【請求項6】
船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと、バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と、バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられ、機関室に設置されたバラストポンプとを備えている船舶であって、
前記バラスト水処理装置は、前記取水口から取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統に対して、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており、
前記処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ、これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ、
前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点と、前記処理装置出口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点との間の前記バラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ、当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており、
さらに前記バラスト水配管系統には、前記バラストポンプの下流側で、かつ前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との前記連結点の上流側に、前記バラストポンプから前記バラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており、
バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで、船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設され、
前記バラスト水処理装置が前記吃水線より上方に位置することにより、緊意時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することを特徴とする船舶。」
と訂正する。

(11)訂正事項11
本件特許の明細書の段落【0013】に、
「【0013】
本発明の請求項6に係る船舶は、バラスト水の取水時または排水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置を備えている船舶であって、バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで、船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設されていることを特徴とするものである。」
とあるのを、
「【0013】
本発明の請求項6に係る船舶は、船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと、バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と、バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられ、機関室に設置されたバラストポンプとを備えている船舶であって、前記バラスト水処理装置は、前記取水口から取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統に対して、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており、前記処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ、これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ、前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点と、前記処理装置出口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点との間の前記バラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ、当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており、さらに前記バラスト水配管系統には、前記バラストポンプの下流側で、かつ前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との前記連結点の上流側に、前記バラストポンプから前記バラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており、バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで、船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設され、前記バラスト水処理装置が前記吃水線より上方に位置することにより、緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することを特徴とするものである。」
と訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1及び10について

ア 訂正の目的について
訂正事項1及び10は、
(ア)訂正前の請求項1及び6において、バラスト水処理装置へのバラスト水の供給について、「バラスト水の取水時または排水時に」とされていたのを、「バラスト水の取水時に」と限定し、
(イ)訂正前の請求項1及び6に、「船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンク」との事項を付加し、
(ウ)訂正前の請求項1及び6に、「バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられ、機関室に設置されたバラストポンプ」との事項を付加し、
(エ)訂正前の請求項1及び6に、「前記バラスト水処理装置は、前記取水口から取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統に対して、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており、前記処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ、これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ、前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点と、前記処理装置出口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点との間の前記バラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ、当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており、さらに前記バラスト水配管系統には、前記バラストポンプの下流側で、かつ前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との前記連結点の上流側に、前記バラストポンプから前記バラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており」との事項を付加し、
(オ)訂正前の請求項1の「前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置する」との事項に「緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」との事項を付加し、訂正前の請求項6に「前記バラスト水処理装置が前記吃水線より上方に位置することにより、緊意時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」との事項を付加するものである。

上記(ア)の訂正は、訂正前の請求項1及び6に記載の発明において、バラスト水処理装置へのバラスト水の供給時期が択一的であったものを一の時期に限定するものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるといえる。
上記(イ)?(オ)の訂正は、請求項1及び6に記載された発明において、バラスト水の取水、バラスト水処理装置への供給、排水に関する事項を具体的に特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるといえる。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内であること
本件特許の明細書(後記甲第29号証の3)には、以下の記載がある。
(a)「【0018】
・・・このバラスト水処理装置20は、船体の姿勢制御や復原性確保を目的としてバラストタンク6に積載されるバラスト水に含まれる種々の微生物類を除去または死滅させる装置である。・・・」
(b)「【0020】
図1において、図中の符号12はバラスト水の取水口、13はバラストポンプを示しており、取水口12から取水したバラスト水は、バラスト水配管系統14を通ってバラストタンク6へ供給される。
バラスト水処理装置20は、取水口12から取水したバラストをバラストタンク6へ供給するバラスト水配管系統14と処理装置入口側配管系統15、処理装置出口側配管系統16を介して連結されている。
図2及び図3は、バラスト水処理装置20、バラストポンプ13の運転により取水口12からバラストタンク6へバラスト水を供給するバラスト水配管系統14、そして、バラスト水処理装置20とバラスト水配管系統14との間を連結する処理水配管系統15の構成例を示す配管系統図である。なお、図2及び図3において、図中の符号17はバラスト水の排水口、V1?V7は開閉弁、CV1は逆止弁を示している。」
(c)「【0022】
上述した逆止弁CV1は、バラストポンプ13からバラスト水処理装置20へ向かう方向(図中に矢印で示す方向)の流れのみを許容する。また、このようなバラスト水の取水時においては、処理水配管15aに設けた開閉弁V6が開とされ、バラスト水配管14cに設けた開閉弁V2、バラスト水配管14fに設けた開閉弁V3及びバラスト水配管14gに設けた開閉弁V4,V5は全て閉とされる。バラスト水処理装置20に供給されたバラスト水は、バラスト水内に含まれる微生物類を除去または死滅させる処理を受けた後、開閉弁V7、処理装置出口側配管16、バラスト水配管14d及びバラスト水配管14eを通ってバラストタンク6に積載される。従って、バラストタンク6内には、微生物類が除去または死滅させられた状態のバラスト水が積載されることとなる。・・・」
(d)「【0023】
続いて、バラスト水の排水時について、図3を参照して説明する。なお、この排水時には、開閉弁V1,V6,V7が開から閉とされ、開閉弁V3,V4,V5が閉から開に変更される。
図3に示すバラスト水の排水時には、バラストポンプ13を運転することにより、バラストタンク6内のバラスト水が吸入される。バラストタンク6より吸入されたバラスト水は、バラスト水配管14e、開状態の開閉弁V3を備えたバラスト水配管14f及びバラスト水配管14bを通ってバラストポンプ13内に流入する。このバラスト水はバラストポンプ13により加圧送水され、逆止弁CV1を備えたバラスト水配管14b及び開閉弁V4,V5を備えたバラスト水配管14gを通って排水口17より船外へ排水される。」
(e)「【0026】
・・・このため、バラストポンプ13は、特別な事情がなければ船体後方の機関室8内に設置される。・・・」
(f)「【0033】
・・・
また、舵取機室9は、船舶の吃水より上方に位置するため、緊急時においてはバラスト水を容易に船外へ排水できるという利点もある。」

上記ア(ア)の訂正は、択一的記載の要素を削除したものであり、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の記載の範囲内においてされた訂正である。
上記ア(イ)の訂正は、上記(a)の記載に基づくものであるので、本件特許の願書に添付した明細書の記載の範囲内においてされた訂正である。
上記ア(ウ)?(エ)の訂正は、上記(b)?(e)及び【図2】、【図3】の記載に基づくものであるので、本件特許の願書に添付した明細書または図面の記載の範囲内においてされた訂正である。
上記ア(オ)の訂正は、上記(f)の記載に基づくものであるので、本件特許の願書に添付した明細書の記載の範囲内においてされた訂正である。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記ア(ア)の訂正は、訂正前の請求項1及び6の択一的記載の要素を削除したものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
上記ア(イ)?(オ)の訂正は、訂正前の請求項1及び6に限定を付加するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項3について

ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項2について、バラスト水処理装置が「第1処理ユニットと第2処理ユニットから成る分割構造をしており、前記第1処理ユニットが」前記舵取機室内またはその空間に設けたデッキ「上」に配設され、「前記第2処理ユニットが前記舵取機室の床面上に設置されている」との事項を付加するものである。
上記訂正事項3の訂正は、訂正前の請求項2に記載された発明におけるバラスト水処理装置の構造を2つの処理ユニットからなることを特定し、各処理ユニットの舵取機室内における設置位置を特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるといえる。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内であること
本件特許の明細書(甲第29号証の3)には、以下の記載がある。
(g)「【0019】
・・・
図1に示すバラスト水処理装置20は、第1処理ユニット21及び第2処理ユニット22を備えている。この場合の第1処理ユニット21及び第2処理ユニット22は、必要な処理能力をふたつのユニットに分割して配置したものであり、いずれのユニットも舵取機室9内に配置されている。・・・」
(h)「【0030】
また、舵取機室9は、舵取装置の上方に比較的大きな上部空間が存在するので、たとえば図1に示すように、この空間の中間位置等にデッキ30を形成してバラスト水処理装置20を設置することも可能である。このような構成は、舵取機室9内の空間を立体的に有効利用できるので、たとえば図1に示すように、第1処理ユニット21をデッキ30上に設置し、第2処理ユニット22を舵取機室9の床面上に設置するというような分割構造を容易にする。・・・」

上記訂正事項3の訂正は、上記(g)、(h)の記載に基づくものであるので、本件特許の願書に添付した明細書の記載の範囲内においてされた訂正である。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項2に限定を付加するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。


(3)訂正事項2、4?9、11?16について

ア 訂正の目的について
訂正事項2は、明細書の段落【0008】の記載について、上記訂正事項1による特許請求の範囲の訂正に伴い訂正するものであり、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであるので、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
同様に、訂正事項4及び11は、明細書の段落【0010】及び【0013】の記載について、上記訂正事項3及び10による特許請求の範囲の訂正に伴い訂正するものであるので、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正事項5及び12は、明細書の段落【0020】の記載について、誤記を訂正するとともに、上記訂正事項1による特許請求の範囲の訂正に伴い、用語を統一するよう訂正するものであるので、誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正事項6及び13は、明細書の段落【0022】の記載について、上記訂正事項1による特許請求の範囲の訂正に伴い、用語を統一するよう訂正するものであるので、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
同様に、訂正事項7及び14、訂正事項8及び15、訂正事項9及び16は、それぞれ明細書の段落【0033】、【0035】、【図1】の記載について、上記訂正事項1による特許請求の範囲の訂正に伴い、用語を統一するよう訂正するものであるので、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内であること
訂正事項2、4?9、11?16は、上記アで述べたとおり、訂正事項1、3及び10の訂正に伴う訂正であり、上記(1)及び(2)で述べたとおり、訂正事項1、3及び10が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内でされた訂正であるので、訂正事項2、4?9、11?16も願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内でされた訂正であるといえる。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項2、4?9、11?16は、上記アで述べたとおり、訂正事項1、3及び10の訂正に伴う訂正であり、上記(1)及び(2)で述べたとおり、訂正事項1、3及び10が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、訂正事項2、4?9、11?16も実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。

3 平成27年5月20日付け弁駁書における請求人の主張について
請求人は、平成27年5月20日付け弁駁書において、訂正は不適法である旨主張しており、その主張について以下検討する。

(1)訂正事項1及び10について
訂正事項1について、請求人は上記弁駁書で、次のように主張している。
「上記請求項1(本件訂正後)は、本件特許明細書に添付された図2及び図3(その説明は、段落【0021】?【0023】)に記載された実施例に基づくものと理解できるが、この実施例の構成の一部分のみを具体的に記載し、残部を一切記載していないため、上記請求項に記載されたとおりに理解すると、取水は可能であるが排水が不可能な構成となってしまっている。」(第7頁1?6行)
「上記のとおり、請求項1(本件訂正後)には、図2及び図3に基づき、取水口からバラストタンクに至る配管の構成として、取水口よりバラスト水を取水しバラスト水の排水時に排水口からバラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられるバラストポンプ(取水と排水の動作を行うものと理解できる。)や複数の弁の配置及び取水時と排水時に応じたそれらの開閉状態が具体的に記載されているが、バラストタンクから排水口に至る配管の構成については(図2及び図3には具体的に記載されているにもかかわらず)、何ら具体的に記載されていない。そればかりか、請求項1(本件訂正後)には、排水時にバラストタンクとバラストポンプとの間に位置する開閉弁V2と、V6及びV7とが共に閉状態になることが必須条件として記載されている。そのため、請求項1(本件訂正後)に記載された構成によれば、バラストポンプを動作してバラストタンク6からバラスト水を排水口へ導くことができず、この点において、当該発明は排水について実施不可能な構成というほかない。
そうすると、請求項1(本件訂正前)に係る発明では実施可能であったものが、請求項1(本件訂正後)に係る発明では(排水時に必須となる配管の具体的な構成が欠落しているために)実施不可能になっているという点で、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮であるとはいえない。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものではなく、また、明瞭でない記載の釈明や誤記の訂正にも該当しないので、特許法第134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものではなく、不適法なものである。」(第8頁1行?第9頁5行)
また、訂正事項10について、請求人は同弁駁書で、次のように主張している。
「ここで、上記請求項6(本件訂正後)の訂正内容を上記請求項1(本件訂正後)の訂正内容と比較すると、上記請求項6(本件訂正後)の『(中略)』との構成要件を除き、同一であり、これら同一の訂正事項については、上記6-2-1で述べた主張がそのまま当てはまるものである。
したがって、訂正事項10は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものではなく、また、明瞭でない記載の釈明や誤記の訂正にも該当しないので、特許法第134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものではなく、不適法なものである。」(第12頁18?27行)

請求人の上記主張は、要するに、本件訂正の訂正事項1及び10が請求項1及び6に記載の発明にバラストタンクから排水に至る配管の具体的な構成(図2及び図3に記載の配管構成)を特定しないことをもって、両発明が実施不可能となるとし、本件訂正が特許請求の範囲の減縮を目的としたものではないというものである。
しかしながら、バラスト水の排水は、開閉弁V2、V6及びV7が設けられていない適宜の配管経路から行えばよく、前記開閉弁が共に閉状態になるとしても、これをもって排水が不可能となるとはいえないことから、訂正後の請求項1及び6に記載の発明において、「バラストタンクから排水に至る配管の具体的な構成」を発明特定事項としなくてはならないとする理由はない。
そして、訂正事項1及び10が、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであることは、上記2(1)において判断したとおりである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(2)訂正事項3について
請求人は次のように主張している。
「本件特許明細書には、図1に記載された2ユニットからなる構成と、図2及び図3に記載された上記の配管構成とを組み合わせた実施例の記載や示唆はない。
したがって、訂正事項3によって構成された本件訂正発明2は、新規事項が追加されたものであり、不適法である。」(第10頁18?22行)

請求人は、要するに、本件訂正の訂正事項3により訂正された請求項2に記載の発明に対応する実施例が、明細書及び図面に記載または示唆されていないことから、訂正事項3は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内ではないと主張するものである。
しかしながら、本件特許の明細書の段落【0030】には、「また、舵取機室9は、舵取装置の上方に比較的大きな上部空間が存在するので、たとえば図1に示すように、この空間の中間位置等にデッキ30を形成してバラスト水処理装置20を設置することも可能である。このような構成は、舵取機室9内の空間を立体的に有効利用できるので、たとえば図1に示すように、第1処理ユニット21をデッキ30上に設置し、第2処理ユニット22を舵取機室9の床面上に設置するというような分割構造を容易にする。」と記載され、ここで、各処理ユニットは、バラストタンク及びバラストポンプ等と配管で接合されることは当然の事項であるので、図1に記載された2ユニットからなる構成と、図2及び図3に記載された配管構成との組み合わせについても、本件特許明細書及び図面から当業者が記載されていると認識し得るものであり、訂正事項3は新規事項の追加に当たらないことは明らかである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

4 小括
上記(1)及び(2)で述べたとおり、訂正事項1、3及び10は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされ、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、上記(3)で述べたとおり、訂正事項2、4?9、11?16は、誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的とし、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされ、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、上記訂正事項1に係る訂正後の請求項2?5は、訂正後の請求項1の記載をそれぞれ引用しているものであり、上記訂正事項3に係る訂正後の請求項3は、訂正後の請求項2の記載を引用しているものであることから、当該訂正後の請求項1?5は、特許法第134条の2第3項(特許法施行規則第46条の2)に規定する関係を有する一群の請求項である。
したがって、訂正事項1?16の訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とし、同法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであり、当該訂正は適法なものであるから、請求項ごと又は一群の請求項ごとに当該訂正することを認める。

第3 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲は上記訂正によって訂正されたので、その請求項1?6に記載された発明(以下、「本件特許発明1?6」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと、バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と、バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられ、機関室に設置されたバラストポンプとを備えている船舶であって、
前記バラスト水処理装置は、前記取水口から取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統に対して、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており、
前記処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ、これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ、
前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点と、前記処理装置出口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点との間の前記バラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ、当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており、
さらに前記バラスト水配管系統には、前記バラストポンプの下流側で、かつ前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との前記連結点の上流側に、前記バラストポンプから前記バラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており
バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され、
前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することにより、緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することを特徴とする船舶。
【請求項2】
前記バラスト水処理装置が第1処理ユニットと第2処理ユニットから成る分割構造をしており、前記第1処理ユニットが前記舵取機室内またはその空間に設けたデッキ上に配設され、前記第2処理ユニットが前記舵取機室の床面上に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記バラスト水処理装置のバッファタンクとしてアフト・ピーク・タンク等の船尾部ボイドスペースが使用されていることを特徴とする請求項1または2に記載の船舶。
【請求項4】
前記舵取機室は非防爆エリアであることを特徴とする請求項1に記載の船舶。
【請求項5】
前記舵取機室はバラストポンプが設置される機関室に隣接していることを特徴とする請求項1に記載の船舶。
【請求項6】
船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと、バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と、バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられ、機関室に設置されたバラストポンプとを備えている船舶であって、
前記バラスト水処理装置は、前記取水口から取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統に対して、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており、
前記処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ、これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ、
前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点と、前記処理装置出口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点との間の前記バラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ、当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており、
さらに前記バラスト水配管系統には、前記バラストポンプの下流側で、かつ前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との前記連結点の上流側に、前記バラストポンプから前記バラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており、
バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで、船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設され、
前記バラスト水処理装置が前記吃水線より上方に位置することにより、緊意時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することを特徴とする船舶。」

第4 当事者の主張
1 請求人の主張及び証拠方法
請求人は、「特許第4509156号の請求項1ないし請求項6に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由の概要は次のとおりである。
〔無効理由〕
本件特許の請求項1ないし請求項6に記載された各発明は、その出願前において、甲1号証が記録された検甲1発明または検甲第2号証に記載された発明と、甲第2号証ないし甲第12号証の1の刊行物に記載の発明または周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

そして、請求人は、証拠方法として、以下の甲第1号証?甲第35号証、検甲1号証、検甲第2号証を提出している。

[証拠方法]
甲第1号証:“Environment-Friendly Ballast Water Treatment System (For ICBWM 2006)
甲第2号証:「船の科学 Vol.39 No.4」、p.28?34、船舶技術協会、1986年4月発行
甲第3号証:「船の科学 Vol.39 No.3」、p.36?41、船舶技術協会、1986年3月発行
甲第4号証:「船の科学 Vol.30 No.1」、p.66?77、船舶技術協会、1977年1月発行
甲第5号証:「船の科学 Vol.40 No.3」、p.28?32、船舶技術協会、1987年3月発行
甲第6号証:「Illustration of Hull Structures 英和版 船体構造イラスト集」、p.194?195、成山堂書店、2006年初版
甲第7号証:「内航辞典(抜粋)」、内航ジャーナル株式会社、平成6年3月30日発行
甲第8号証:「船舶工学用語集(抜粋)」、株式会社成山堂書店、1986年
甲第9号証:特開2006-272147号公報
甲第10号証:特開平6-10169号公報
甲第11号証:特開2006-27440号公報
甲第12号証の1:「鹿児島大学水産学部 実習船建造仕様書(抜粋)」(平成13年8月、鹿児島大学)
甲第12号証の2:入札公告(平成13年9月11日、鹿児島大学事務局長)(平成13年9月11日付官報掲載)
甲第13号証:特願2007-238381早期審査の事情説明書(平成22年2月12日付)
甲第14号証:陳述書(岡本幸彦作成)
甲第15号証:陳述書(吉田勝美作成)
甲第16号証:「平成18年度 海事の国際的動向に関する調査研究(海洋汚染防止関係) 第2回委員会議事概要(案)」(社団法人日本海難防止協会作成)
甲第17号証:ニュースリリース「バラスト水排出による周辺海域の生態系破壊を抑制する浄化システムを開発 東京湾でバラスト水浄化装置の実証実験を開始」(2006年9月25日、株式会社日立製作所、株式会社日立プラントテクノロジー)(http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2006/09/0925.html)
甲第18号証:甲第1号証のデータが記録されたCD-ROMの内容説明書
検甲第1号証:甲第1号証のデータが記録されたCD-ROM(岡本幸彦氏が配付を受けたもの)(表紙ラベルには、「3rd International Conference & Exhibition on Ballast Water Management(ICBWM 2006)」及び「Singapore 25-26 September 2006」と記載されたもの)
検甲第2号証:甲第1号証のデータが記録されたCD-ROM(吉田勝美が配付を受けたもの)(表紙ラベルには、「3rd International Conference & Exhibition on Ballast Water Management(ICBWM 2006)」及び「Singapore 25-26 September 2006」と記載されたもの。)
甲第19号証:”The MOTOR SHIP Vol.59 No.699、p.136、IPC Industrial Press Limited、 United Kingdom、 October 1978
甲第20号証:”The MOTOR SHIP Vol.59 No.701、p.34-36、IPC Industrial Press Limited、 United Kingdom、 December 1978
甲第21号証:「船の科学Vol.26 No.6」、p.62?67、船舶技術協会、1973年6月発行
甲第22号証:「船の科学Vol.41 No.12」、p.28?35、船舶技術協会、11988年12月発行
甲第23号証:”The MOTOR SHIP Vol.63 No.745”、p.34、 IPC Industrial Press Limited、 United Kingdom、 August 1982
甲第24号証:「船の科学 Vol.22 No.7」、p.63?64、船舶技術協会、1969年7月発行
甲第25号証:「船の科学 Vol.19 No.6」、p.55?66、船舶技術協会、1966年6月発行
甲第26号証:「船の科学 Vol.19 No.5」、p.69?75、船舶技術協会、1966年5月発行
甲第27号証:”The MOTOR SHIP”、p.31-36、Reed Business Information Ltd、United Kingdom、February 2001
甲第28号証:特許第4509156号公報
甲第29号証の1:無効2011-800262号事件の平成24年4月10日付け訂正請求書
甲第29号証の2:無効2011-800262号事件の平成24年4月10日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲
甲第29号証の3:無効2011-800262号事件の平成24年4月10日付け訂正請求書に添付された訂正明細書
甲第30号証:特開2007-44567号公報
甲第31号証:特開2002-192161号公報
甲第32号証:特開2005-21814号公報
甲第33号証:特開2005-88835号公報
甲第34号証:「バラスト管装置設計基準」、4.3の例3、海文堂出版、1971年6月20日発行
甲第35号証:「ポンプ設備便覧(本編)」、p.18、p.22、p.98、株式会社荏原製作所、1974年8月31日発行

なお、被請求人は、口頭審理において検甲1号証、検甲第2号証は本件特許出願前に外国で頒布された刊行物であること、及び、検証により、被請求人は、甲1号証が検甲第1号証、検甲第2号証に記録されたものであることを認めた。
また、甲第35号証について、被請求人は平成27年7月13日付けの意見書において、その成立性について争う旨主張している。

2 被請求人の主張
被請求人は、「本審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張に対し、請求人の主張には何れも理由がないものである旨の主張をしている。

そして、被請求人は、証拠方法として、以下の乙第1号証?乙第12号証を提出している。

[証拠方法]
乙第1号証:「船の科学Vol.51 No.8」、p.28?34、船舶技術協会、1998年8月10日発行
乙第2号証:「船の科学Vol.28 No.4」、p.50?57、船舶技術協会、1975年4月10日発行
乙第3号証:「船のメンテナンス技術(三訂板)」、p.16?19、船のメンテナンス研究会、平成18年10月28日発行
乙第4号証:特開平6-127467号公報
乙第5号証:特開平6-122397号公報
乙第6号証:”The MOTOR SHIP”、p.46、46A、46B、Reed Business Information Ltd、United Kingdom、vol.64、No.762、January 1984
乙第7号証:特開2002-46691号公報
乙第8号証:特開2009-166705号公報
乙第9号証:”The MOTOR SHIP”、p.26B、Reed Business Information Ltd、United Kingdom、vol.68、No.812、March 1988
乙第10号証:「関西造船協会誌」、p.105、第176号、昭和55年3月
乙第11号証:「関西造船協会誌」、p.145、第177号、昭和55年6月
乙第12号証:「関西造船協会誌」、p.129、第184号、昭和57年3月

第5 甲各号証の記載事項
検甲1号証(甲第1号証)、甲第2号証?甲第27号証、甲第30号証?甲第34号証には、以下の各事項が記載されている。

1 検甲1号証(甲第1号証)及び検甲1発明
(1a)
「Abstract
Hitachi Plant Technologies and Hitachi, Ltd. have jointly developed an environment-friendly ballast water treatment system. This system removes not only plankton and bacterium but also suspended solids from the ballast water after it is pumped into the ship. The system was originally developed to remove blue-green algae from water in lakes. The system consists of three units. The first unit makes flocs of the plankton, bacterium, suspended solids, and magnetic particles in the ballast water. The second unit magnetically removes the flocs from the water. The third unit filters the ballast water from the second unit. The ballast water treated by the system satisfies Regulation D-2. Since the treated ballast water is very clean and friendly to the natural environment, no creatures are killed when dumping the treated ballast water from the ship.
Mitsubishi Heavy Industries, Ltd. Nagasaki Shipyard Machinery Works has installed this system a ship being built.」
(訳文)「要約
日立プラントテクノロジーと日立は、環境に優しいバラスト水処理システムを共同で開発した。本システムは、プランクトン及びバクテリアを除去するのみならず、船舶内にポンプで注入された後のバラスト水から浮遊物をも取り除く。本システムは、元々、湖水から藍藻(blue-green algae)を取り除くために開発された。本システムは、3つのユニットから構成される。第1ユニットは、バラスト水中のプランクトン、バクテリア、浮遊物、及び磁粉のフロック(flocs)を生成する。第2ユニットは、これらのフロックをバラスト水から磁気的に除去する。第3ユニットは、第2ユニットからのバラスト水をフィルタリングする。本システムによって処理されたバラスト水は、基準D-2を満たす。この処理済バラスト水は大変クリーンであり、かつ自然環境に優しいので、この処理済バラスト水が船舶から投棄されても生物を殺傷することはない。
三菱重工業株式会社長崎造船所は、建造中の船舶に本システムを搭載した。」
(1b)
「1.0 Introduction
Table 1 shows a regulation form the International Marine Organization (IMO) regarding ballast water. The regulation indicates the maximum number of certain organisms that are allowed in ballast water to the dumped.
There are two ways to satisfy the regulation. The first way is to kill the organisms in ballast water by injecting toxic substances, but doing so makes the ballast water lethal to aquatic species. Consequently, an additional treatment to remove the toxic substances from the ballast water is required.
The second way is to remove the organisms from the ballast water. The ballast remains safe for aquatic species and is environmentally friendly. Accordingly, the second way was selected for our system.」
(訳文)「1. 0 イントロダクション
図表1に、バラスト水に関する国際海事機関(IMO)からの基準を示す。この基準は、投棄されるバラスト水中に許容される所定の微生物の最大数を示している。
この基準を満たすためには2つの方法がある。第1の方法は、有害物質を注入することによってバラスト水中の微生物を殺傷することであるが、そうすることは、バラスト水を水生種にとって致命的なものにしてしまう。従って、バラスト水からこの有害物質を取り除く追加処理が必要である。
第2の方法は、バラスト水から微生物を除去することである。このバラストは、水生種にとっての安全性を維持しており、環境に優しい。従って、我々のシステムには、この第2の方法が選択された。」
(1c)
「1.1 Ballast Water Treatment System
Figure 1 is a diagram of our system. There are three units in our system. The first unit performs two functions in sequence. The first function is to mix coagulant, magnetic particles, and ballast water rapidly and to make micro flocs of plankton, bacteria, magnetic particles, suspended solids, and others. The second function is to gather the micro flocs and to enlarge them using polymers.
The second unit magnetically removes the flocs from the ballast water. The unit consists of rotating magnetic disks that catch the flocs on their surfaces. Over 90% of the flocs are removed using the surfaces of the disks.


The third unit uses a rotating filter to remove the rest of the flocs. The quality of water then satisfies Regulation D-2.」
(訳文)「1.1 バラスト水処理システム
図1に我々のシステムのダイヤグラムを示す。我々のシステムには3つのユニットが存在する。第1のユニットは、2つの機能を順次実行する。第1の機能は、凝固剤と磁粉とバラスト水とを迅速に混ぜ合わせて、プランクトン、磁粉、浮遊物、その他の微小フロックを生成することである。第2の機能は、ポリマーを使用してこれらの微小フロックを収集し大きくすることである。
第2のユニットは、磁気的にバラスト水からこのフロックを取り除く。このユニットは、その表面のフロックを捕まえる回転磁気ディスクからなる。90%以上のフロックは、このディスクの表面を使って除去される。
第3のユニットは、残りのフロック取り除くための回転フィルタを使用する。これにより、水質は基準D-2を満たす。」
(1d)
「1.3 Installation Outline
Figure 6 shows the ship installation concept. The system is to be installed in a non-hazardous area such as the engine room or the steering room. The treatment system is active when pumping ballast water to the tanks and inactive when dumping to the sea.


(訳文)
「1.3 設置アウトライン
図6は、船舶設置コンセプトを示す。本システムは、機関室(engine room)や舵取機室(steering room)といった非防爆エリア(non-hazardous area)に設置されるべきである。本処理システムは、バラスト水をタンクにポンプで注入する際にはアクティブになり、バラスト水を海洋に投棄する際には非アクティブになる。」
(1e)
図6から、
(ア)上記(1d)の「タンク」は「バラストタンク」であること、
(イ)バラスト水の取水時の流路とバラストタンク内のバラスト水を排水する流路にポンプが設けられていること、
(ウ)図6における流路の左端が取水口となるとともに排水口となり、取水時に取水口よりバラスト水を吸入すること、排水時には排水口からバラスト水を排水すること
を看取しうる。

以上の記載において、上記(1c)及び(1d)に記載された「バラスト水処理システム」は船舶に備えられたものであるから、「バラスト水処理装置を備えた船舶」についても発明として認識しうるので、検甲第1号証には、下記の発明(以下「検甲1発明」という。)が記載されている。
〔検甲1発明〕
「バラストタンクと、バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物を処理して除去するとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理システムと、バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入する流路とバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水する流路に設けられたポンプとを備えている船舶であって、
バラスト水が供給される前記バラスト水処理システムが機関室(engine room)や舵取機室(steering room)といった非防爆エリア(non-hazardous area)に設置されている船舶」

2 甲第2号証
甲第2号証第30頁左には、最新鋭重量物運搬船”あるぷす丸”の船体側面構造図が記載され、第31頁左に船体水平断面構造図が2つ記載され、これらの図面を参酌すると、舵取機室(「STEERING GEAR RM」)が船舶後方に位置すること、舵取機室が吃水線より上方に位置すること、舵取機室は機関室(「ENGINE ROOM」)と隣接すること、舵取機室は、吃水線より上方かつバラストタンク(「No.1 WING W.B.T」、「No.2 WING W.B.T」「No.4 WING W.B.T」)の頂部より下方に配置されていること、船尾部にはアフト ピーク タンク(「A.P.T」)が配置されていることを看取しうる。

3 甲第3号証
甲第3号証第38頁左には、低温式LPG船”城山丸”の船体側面構造図が記載され、第39頁右下に、「3RD DECK」と題する図が記載され、両図から舵取機室(STEER.ENG)が船舶後方に位置すること、舵取機室が吃水線より上方に位置すること、舵取機室と機関室(「ENGINE ROOM」)は隣接すること、および舵取機室は、吃水線より上方かつバラストタンク(「NO.1 TOP.SIDE W.B.T」・・・)の頂部より下方に配置されていることを看取しうる。

4 甲第4号証
(4a)
甲第4号証第67,68頁には、油槽船”ESSO JAPAN”の船体側面構造図および船体水平断面構造図が記載され、両図から舵取機室が船舶後方に位置すること、舵取機室が吃水線より上方に位置すること、舵取機室と機関室は隣接すること、および、舵取機室は、吃水線より上方かつバラストタンクの頂部より下方に配置されていることを看取しうる。
(4b)
甲第4号証第67,68頁の最上図と最下図の船尾部には「A.P.T」と記された区画があり、このことから、舵取機室の下方にアフト ピーク タンクが配置されていることを看取しうる。

5 甲第5号証
甲第5号証第30頁に示される図面(油槽船”東京丸”の一般配置図)から、舵取機室が船舶後方に位置すること、舵取機室が吃水線より上方に位置すること、舵取機室と機関室は隣接すること、および、舵取機室は、吃水線より上方かつバラストタンクの頂部より下方に配置されていることを看取しうる。

6 甲第6号証
(6a)
「大型タンカーやバルクキャリアのように一軸プロペラ大型の貨物船の船尾には、3つの区画、即ち、操舵機室、船尾タンクおよび冷却水タンクが配置されている。操舵機室は、上甲板または船尾低甲板下に位置する。船尾楼は設けられない。内部構造は、通常、甲板桁および船側桁と梁柱で支持された縦肋骨式構造である。」(第194頁第19行?第22行)
(6b)
甲6号証の195頁の中段右側の船尾部側面図には、「Sreering gear Rm」(操舵機室)が「Eng.Em」(機関室)と隣接していることを看取しうる。
(6c)
甲6号証の195頁の中段右側の船尾部側面図には、「Sreering gear Rm」(操舵機室)が船舶後方にあること、その下に「APT」(船尾タンク)があることを看取しうる。

7 甲第7号証
(7a)
「【船尾水槽】(After-peak Tank)船尾隔壁より船尾の方へ設けられた水槽で、バラストタンクまたは清水タンクに使用され。船尾喫水トリムの調整を必要とする時にも利用できる。アフターピーク・タンクともいう。」(第215頁第24行?第27行)
(7b)
「【ボイドスペース】(Void Space)ルール上、空所にしなければならないスペース。構造上、設けなければならないスペース。構造上、利用できないスペース。タンカーではタンクとタンク、エンジンルームとタンクなどにあるコファダムのことをいうこともある。」(第331頁第12行?第16行)

8 甲第8号証
「船尾水槽 せんびすいそう after peak〔water〕tank 船尾隔壁後部に設けられたバラストタンク。」(第120頁右欄第15行?第17行)

9 甲第9号証
(9a)
「【0011】特に、IMO(国際海事機関)で締結された合意文書によれば、2009年迄に、バラスト水に含まれている動物プランクトンや植物プランクトンなどの微生物の個数を10ヶ未満/m^(3)に抑制し、バクテリアなどの細菌の個数を10ヶ未満/ccに抑制する必要がある」
(9b)
「【0040】図2に示すように、バラ積船1は、バラストタンク2の内部2aと機関室4を隔壁6によって隔離している。・・・」
(9c)
「【0042】図2に示すように、船底13には、バラストポンプ14及び注水管15を設置している。・・・」
(9d)
図2を上記(9b)、(9c)の記載と併せ見ると、機関室4にバラストポンプ14が配置されていることを看取しうる。

10 甲第10号証
(10a)
「【0010】図1(イ)(ロ)は本発明の一実施例を示すもので、炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムと水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムとを均一に混合してなる添加剤1又はこれらとチオ尿素、及びゼラチンを一定の混合比で調整したものを添加剤1として使用し、該添加剤1を収納する添加剤注入装置2を船舶3の機関室14内に設置し、該添加剤注入装置2からの添加剤投入管4を、海水5を海水取入口8からバラストタンク6内へ漲り込むパイプ9の途中に設けたバラストポンプ7の入口側に接続し、上記添加剤注入装置2に添加剤1を貯えて添加剤投入管4よりパイプ9に投入することにより、該パイプ9内の海水5と添加剤1が混合され、バラストポンプ7によりバラストタンク6内に送水されるようにする。・・・」
(10b)
図1(イ)から、機関室14にバラストポンプ7が配置されていることを看取しうる。

11 甲第11号証
「【0006】
一方、バラストタンク内の海水の注入と排出は毎度行われ、その場合の注水と排水は専用固定装置であるバラスト配管装置及び機関室内に設けられたバラストポンプを使って行われるが、この場合、バラスト水の排出後にバラストタンク内の底部には残液と共に沈殿物が残留する。」

12 甲第12号証の1
「5.舵機室
床には木製敷板を敷詰める。室内には舵取機械および付属機器・・ジャイロレピーター・電話等を備えること。舵機室入口付近には監督職員の指示により棚等を造作すること。」(第54頁第33行?第36行)

13 甲第19号証?甲第27号証
甲第19号証?甲第27号証のそれぞれの図面には、船舶後方に舵取機室が配設され、前記舵取機室が船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設されている船舶が示されている。

14 甲第30号証
(14a)
「【請求項1】
船舶のバラストタンクと、
該バラストタンクへ船舶外の一方の水源からバラスト水を供給するポンプを備えると共に、該ポンプの上流側と下流側とに各々供給弁を備えた供給管路と、
上記バラストタンクからバラスト水をポンプによって船舶外の他方の水源に排出するように該ポンプの上流側と下流側とに各々排出弁を備えた排出管路と、
上記供給用ポンプの下流側の部分管路にポンプに隣接して配置されたバラスト水処理部と、を有しており、
そこで、上記バラスト水処理部は、円筒壁で限定された環状流路内にポンプによってバラスト水を少なくとも8m/秒の高速度で環状流路に供給して高速水流を発生し、少なくとも円筒壁近傍での剪断作用と、内部で150rpm以上の高速度で回転する回転体による衝撃力とによってバラスト水に含まれている微生物や細菌を微粉砕して死滅させることを特徴とする船舶のバラスト水の処理装置。」
(14b)
「【請求項5】
上記バラスト水処理部は、上記供給管路において開閉弁を備えたバイパス管路によってバイパスされている請求項1記載の装置。」
(14c)
「【0016】
上記バラスト水処理部は、上記供給管路において開閉弁を備えたバイパス管路によってバイパスされ、それらの弁の開閉操作で保守点検を適時行うことが可能になる。・・・」
(14d)
「【0021】
次に、本発明の代表的な実施形態に係る船舶のバラスト水の処理装置を図面によって説明する。
図1において、本発明の代表的な実施形態の船舶のバラスト水の処理装置10は、荷降ろしを終えて空荷状態でスクリューを水中に沈めたり船体のバランスを取るために船舶1の外周部や船底に設けられたバラストタンク2と、該バラストタンク2へ一方の停泊港での荷降ろし中に海から吸入口3を経てバラスト水を供給するポンプPと、該ポンプPの上流側と下流側とに各々供給弁V1U、V1Dを備えた供給管路11(供給水流を矢印F1で示す)と、別の遠隔の停泊港で荷積みのためにバラストタンク2からバラスト水をポンプPによって船舶外の海に排出するように該ポンプPの上流側と下流側とに各々排出弁V2U、V2Dを備えた排出管路21(排出水流を矢印F2で示す)と、バラストタンク2からバラスト水をポンプPによって吸引後に該バラストタンク2に戻すように該ポンプPの上流側と下流側とに上記上流側排出弁V2Uと上記下流側供給弁V1Dを備えた循環管路31(循環水流を矢印F3で示す)と、ポンプPの下流側で直近の部分中間管路部12に配置されたバラスト水処理部100とを有しており、そこで、バラスト水処理部100は、ポンプPによって供給されてくる被処理バラスト水を円筒内壁で限定された環状流路内に第二ポンプP2によって少なくとも8m/秒の高速度で供給して、内円筒体内への落下による衝撃力や、円筒内壁近傍での水流層間での剪断力やバラスト水中の空気の気泡破裂によるキャビテーション作用によってバラスト水に含まれている微生物や細菌を微粉砕して死滅させるようにしている。
【0022】
ポンプPは、供給用ポンプと排出用ポンプと循環用ポンプとを兼ねており、またインバータ電動モータで駆動する方式を取ることでバラスト水処理部40への高速水流の供給にも使用され得るが、配管を簡便化するために高速水流発生用に第二ポンプP2を用意している。高速流による部材の損耗を防止するために、ポンプPの下流側において吸入口3と上流側供給弁V1Uとの間に砂などを捕捉するフィルター(図示省略)が適宜設けられる。更に、バラスト水処理部100の点検や修理のために、図2に示すようにバラスト水処理部100をバイパスするバイパス管路19と、バイパス管路19の開閉弁VBと、バラスト水処理部100の前後の開閉弁VBU、VBDが設けられる。」
(14e)
「【0023】
バラスト水供給(吸入)過程での処理運転:
吸入口3からポンプPまで延びて上流側の供給弁V1Uを備えた吸入管路部11Aと、ポンプPとバラスト水処理部100まで延びてそれらを備えた中間管路部12と、バラスト水処理部100からバラストタンク2まで延びて下流側の供給弁V1Dを備えた吐出管路部13とから構成された供給管路11において、バラストタンク2にバラスト水を供給する過程でポンプPを運転し、上記供給弁V1U、V1Dを開放すると共に排出弁V2U、V2Dを閉鎖してバラスト水の処理運転を行う。この処理運転は、航海が短い場合に実施され、航海が長い場合は省くこともできる。
【0024】
バラスト水排出過程での処理運転:
バラストタンク2から延びていて上流側排出弁V2Uを備えて吸入管路部11Aに上流側供給弁V1UとポンプPとの間で接続された排出上流側管路部22と、共有の中間管路部12と、吐出管路部13から船外まで延びた排出下流側管路部23とから構成された排出管路21において、バラストタンク2から船舶外にバラスト水を排出する過程でポンプPを運転し、上記排出弁V2U、V2Dを開放すると共に供給弁V1U、V1Dを閉鎖してバラスト水の処理運転を行う。比較的短い航海で、荷積み港のバラスト水の規制が厳しい場合に効果を発揮する。」
(14f)
図2から、バラスト水処理部100の上流側の部分中間管路部12に開閉弁VBUを、下流側の部分中間管路部12に開閉弁VBDを、それぞれ設け、上流側供給弁VBUの上流側の管路と下流側供給弁VBDの下流側の管路との間に、開閉弁VBを備えたバイパス管路19を設ける配管構造を看取しうる。

15 甲第31号証
(15a)
「【0063】図1は本発明の実施の形態に係る船舶のバラスト水の処理装置を示す説明図である。同図に示すように、給排水系Iは、従来より船舶1に設備されていたものであり、船舶1の外部から海水吸入口2を介してバラストタンク3に貯溜するバラスト水を汲み上げるとともに、このバラストタンク3に貯溜したバラスト水を船舶1の外部に排出するもので、駆動源としてのバラストポンプ4、バラスト水の流路となる管路5a,5b,5c,5d及び給排水を切換えるために各管路5a,5b,5c,5dにそれぞれ配設した4個の弁6a,6b,6c,6dを有している。・・・」
(15b)
「【0064】本形態に係る処理装置は、上記給排水系Iと一体的に構成したものである。すなわち、当該処理装置の中心な機能を果たすバラスト水の処理部 II は、管路5bの途中に設けてあり、バラストタンク3内に導入するバラスト水中、又はバラストタンク3から排出するバラスト水中に潜む有害微生物の無害化処理を行うものである。・・・」
(15c)
「【0065】上述の如きバラスト水の処理装置は、次のようなモードで運転する。
1)出発地の港でバラスト水を汲み上げる場合に有害微生物の処理を行う場合
この場合には、弁6a,6bを開状態とするとともに、弁6c,6dを閉状態とし、処理部 II を動作モードとした上で、バラストポンプ4を駆動してバラスト水を汲み上げる。この結果、汲み上げられたバラスト水は管路5a及びバラストポンプ4を通過し、管路5bを介してバラストタンク3内に貯溜される。ここで、管路5bを流通するバラスト水が処理部 II を流通する間に所定の無害化処理を行う。また、バラスト水の排出時は、次の2)と同態様で運転する。但し、この場合、処理部 II は、バラスト水を流通させるだけで停止しておく。
2)目的地の港でバラスト水を排出する場合に有害微生物の処理を行う場合
この場合には、弁6c,6dを開状態とするとともに、弁6a,6bを閉状態とし、処理部 II を動作モードとした上で、バラストポンプ4を駆動してバラスト水をバラストタンク3から導出する。この結果、導出されたバラスト水は管路5c及びバラストポンプ4を通過し、管路5b,5dを介して管路5dの開口端から船舶1外に排出される。ここで、管路5bを流通するバラスト水が処理部 II を流通する間に所定の無害化処理を行う。また、バラスト水の汲み上げ時は、上記1)と同態様で運転する。但し、この場合、処理部 II は、バラスト水を流通させるだけで停止しておく。・・・」
(15d)
「【0068】また、既存の給排水系Iに処理部IIを組み込む場合でも、既存の給排水系Iから分岐する分岐管路を別途設け、この分岐管路の途中に処理部IIを配設し、弁の切り換えによりバラスト水が処理部IIを流通するように構成したものでも良い。」

16 甲第32号証
(16a)
「【0009】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明を適用したバラスト水処理方法を実施可能な本発明を適用したバラスト水処理装置の全体構成の一例を示す。
バラスト水処理装置は、取水系1、処理済みバラスト水送水系である処理水系2、超音波処理部としての超音波処理ユニット3、等で構成されている。取水系1は、有害微生物を含む海水を取り入れる系であり、本例では、船外海水吸入系11、タンク海水吸入系12a?12c、バラストポンプ13、分岐送入系14、送水系と兼用されている第1バラスト水系15、第2バラスト水系16、等で構成されている。」
(16b)
「【0010】
処理水系2は、超音波処理ユニット3で有害微生物の少なくとも大部分を死滅させた後の海水を船舶のバラスト水として排出可能な水にする系であり、本例では、海水排出系21、第1タンク送水系22、第2タンク送水系23、分岐送出系24、吸入系と兼用されている前記第1バラスト水系15、第2バラスト水系16、等で構成されている。符号3aはポンプバイパス系である。」
(16c)
「【0011】
なお、以上の各系をそれぞれの目的に対応して使用可能にするために弁類が設けられるが、図ではそれらを省略している。又、分岐送入系14もしくは分岐送出系24に、図において二点鎖線で示す如く、超音波処理ユニット3で処理する水量に適合した専用ポンプ3bを設けるようにしてもよい。」
(16d)
「【0028】
なお、仮に全てのバラストタンクにバラスト水が入れられているとすれば、何れかのバラストタンクとして例えばタンク101から第1バラスト水系15を介してバラストポンプ13又は専用ポンプ3bによってバラスト水を取り出し、分岐送入系14から超音波処理ユニット3に入れてこのバラスト水を殺菌して排出可能な水とし、分岐送出系24か海水排出系21を経由して船外に排水する。このようにしてバラスト水を殺菌処理すれば、船が港内にいたり特定国の領海内を航行中であってもこれを排出することができる。タンク101が空になると、これまで説明したように順次タンク間でバラスト水を殺菌して移載することができる。」
(16e)
「【0029】
又、以上では超音波処理ユニット3を用いてバラスト水を殺菌してタンク間で移載する場合について説明したが、超音波処理ユニット3が能力の大きいものである場合や、荷積み又は荷揚げの時間が長いような場合には、これらの時間の間に、バラストタンク内の未処理バラスト水を超音波処理ユニット3で殺菌処理しつつ直接船外に排出したり、船外から船外海水吸入系11を介して海水を取り入れて超音波処理ユニット3で殺菌処理しつつ第1及び第2バラスト水系15、16からバラストタンクに入れるようにしてもよい。」

17 甲第33号証
(17a)
「【0020】
図2に示すように濾過装置10が組み込まれた海水供給・排出系統50は、前記船本体1に設置されている。」
(17b)
「【0028】
前記海水供給・排出系統50は、往路用配管51を備えている。この往路用配管51は、始端(図2中の左端)Sに海水の取水・排出配管52が連結され、かつ終端(図2中の右端)Eで前記9つのバラストタンク5a?5iに対する濾過海水の供給・排出を行うための9つのバラストタンク用配管53a?53iに分岐されている。前記往路用配管51は、途中に分岐された2つの配管51_(1),51_(2)が介装されている。」
(17c)
「【0030】
海水導入配管54は、前記往路用配管51(前記2つのバルブ70_(6),70_(7)間に位置する部分)から分岐され、先端が前記濾過装置10の海水導入部21にフランジ20を介して連結されている。濾過海水導出配管55は、一端が前記濾過装置10の濾過海水導出部25にフランジ24を介して連結され、他端が前記往路用配管51(前記2つのバルブ70_(7),70_(8)間に位置する部分)に連結されている。・・・」
(17d)
「【0034】
次に、前述した本発明の船舶(チップ船)の荷降ろし・荷揚げ時のバラスト水の供給・排出の操作を説明する。
【0035】
1)チップ船の荷降ろし時におけるバラスト水供給操作
まず、海水供給・排出系統50を構成する海水の取水・排出配管52のバルブ70_(14)、往路用配管51のバルブ70_(1),70_(6),70_(8)、分岐した2つの配管51_(1)、51_(2)のバルブ70_(2)?70_(5)、海水導入配管54のバルブ70_(9),濾過海水導出配管55のバルブ70_(10)、濾過海水導入配管57のバルブ70_(13)および所定のバラストタンク用配管(例えば53h)のバルブ70hを開き、前記往路用配管51のバルブ70_(7)、復路用配管58のバルブ70_(15)および排出配管59のバルブ70_(16)を閉じる。このようなバルブの開閉により前記海水供給・排出系統50において、海水が濾過装置10を経由してバラストタンク(例えば5h)に供給される流れになる。なお、濾過海水導入配管57のバルブ70_(13)では適量の濾過海水が高圧ポンプ63に導入されるように開度を調節する。
【0036】
分岐した2つの配管51_(1)、51_(2)に介装された2基のバラストポンプ62_(1),62_(2)を作動すると、海水は取水・排出配管52、往路用配管51、分岐した2つの配管51_(1)、51_(2)、往路用配管51および海水導入配管54を通して図3および図4に示す濾過装置10の筐体12および上下蓋付き濾過ドラム28で区画された濾過室17に供給される。・・・」
(17e)
「【0042】
2)チップ船の荷揚げ時におけるバラスト水排出操作
前述した操作で濾過海水(バラスト水)をバラストタンク5a?5i内に供給したチップ船は、積地に向けて空船航海され、その積地(港)でチップを荷揚げする。このとき、チップの荷揚げ重量に応じてバラスト水を海に排出する。
【0043】
すなわち、海水供給・排出系統50を構成する所定のバラストタンク用配管(例えば53h)のバルブ70h、復路用配管58のバルブ70_(15)、排出配管59のバルブ70_(16)および往路用配管51の2つの分岐配管51_(1)、51_(2)のバルブ70_(2)?70_(5)を開き、取水配管52のバルブ70_(14)、往路用配管51のバルブ70_(1),70_(6),70_(8)を閉じる。このようなバルブの開閉により前記海水供給・排出系統50において、船本体1に設置されたバラストタンク(例えば5h)内の濾過海水(バラスト水)が濾過装置10を経由せずに海水に排出される流れになる。この状態で、バラストタンク5h内のバラスト水はバラストタンク用配管53h、往路用配管51、復路用配管58、往路用配管51、分岐した2つの配管51_(1)、51_(2)、に流れ、ここに介装された前記バラストポンプ62_(1),62_(2)を作動することにより前記バラスト水が前記往路用配管51、排出配管59および取水・排出配管52を通して海に排出される。」

18 甲第34号証
「4.3 船別装置例」の「例3 撒積貨物船 64,000LT」の図面には、バラストポンプ(No.1 BALLAST PUMP、No.2 BALLAST PUMP)の吐出側に逆止弁(SWING CHECK VALV)を設けることが看取しうる。
(例3図面からの抜粋)


19 甲第35号証
(19a)
「(4) ポンプ及び駆動機に逆転対策が施されていない場合,逆流・逆転によってポンプ・駆動機に機械的事故が生じる。」(18頁左欄29?31行)
(19b)
「圧力上昇防止対策
方針 逆流をほとんど起こさぬようにする。
手段 自閉式逆止弁
特長 装置としては比較的簡単。圧力上昇は実揚程の2倍程度になる。II-4参照。」(22頁「表I A-4-1-2 ポンプ動力消失による水撃作用の防止策」)
(19c)
「§4.逆流防止方法
ポンプの吐出し側は吸込側に比べ圧力が高く,ポンプの停止時の逆流を防止する方法を必要に応じ講じなければならない。」(98頁1?4行)

第6 当審の判断
1 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と検甲1発明とを対比すると、後者の「バラストタンク」は、その機能からみて、前者の「船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンク」に相当する。
後者の「バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物を処理して除去するとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理システム」は、前者の「バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置」に相当する。
後者の「バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入する流路とバラスト水の排水時には排水口からバラストタンク内のバラスト水を排水する流路」は、前者の「バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口からバラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統」に相当する。
後者の「ポンプ」は、前者の「バラストポンプ」に相当する。
そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。

〔一致点〕
「船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと、バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と、バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられたバラストポンプとを備えている船舶。」

〔相違点1〕
本件特許発明1は、バラストポンプが「機関室に設置された」と特定されているのに対して、検甲1発明のポンプの配置は、そのように特定されていない点。
〔相違点2〕
本件特許発明1は、「バラスト水処理装置は、取水口から取水したバラスト水をバラストタンクへ供給するバラスト水配管系統に対して、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ、これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ、処理装置入口側配管とバラスト水配管系統との連結点と、処理装置出口側配管とバラスト水配管系統との連結点との間のバラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ、開閉弁は取水時と排水時に閉とされており、」と特定されているのに対して、検甲1発明は、そのような配管系統及び開閉弁の配置について特定されていない点。
〔相違点3〕
本件特許発明1は、「バラスト水配管系統には、バラストポンプの下流側で、かつ処理装置入口側配管とバラスト水配管系統との連結点の上流側に、バラストポンプからバラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており、」と特定されているのに対して、検甲1発明は、そのように特定されていない点。
〔相違点4〕
本件特許発明1は、「バラスト水が供給されるバラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され、」と特定されているのに対して、検甲1発明は、舵取機室内にバラスト水処理システムを配設することが選択的に例示されているにとどまり、また、その舵取機室が船舶後方にあることは特定されていない点。
〔相違点5〕
本件特許発明1は、「舵取機室は吃水線よりも上方に位置することにより、緊急時にバラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」と特定されているのに対して、検甲1発明は、そのように特定されていない点。

(2)判断
上記各相違点について以下検討する。
〔相違点1について〕
船舶において、バラストポンプを機関室に配置することは、本件特許に係る出願前に周知の事項である(前記第5の9(9d)、10(10b)、11を参照)。
検甲1発明を、上記相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、上記周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることといえる。

〔相違点2について〕
上記相違点2に係るバラスト水処理装置の配管系統及び開閉弁の配置は、甲第2号証?甲第28号証には開示されておらず、これらの文献から検甲1発明を相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることが容易に想到し得るとすることはできない。

請求人は、平成27年5月20日付けの弁駁書において、前記相違点2に対応する請求人の認定する相違点3について、以下のとおり主張している。
「ウ 相違点3についての容易想到性
本件訂正発明1は、バラスト水処理装置をバラスト水配管系統に対し分岐配管を介して設置するものであるが、バラスト水配管系統として取水時系統と排水時系統とを備える船舶、並びに、かかる船舶の配管系統に対し分岐配管を介してバラスト水処理装置を設置することは、甲第30号証?甲第33号証に示されるように周知慣用の事項である。」(第17頁18?23行)
「上述した甲第30号証?甲第33号証を踏まえると、バラスト水配管系統にバラスト水処理装置を設置しようとすれば、例えば取水時系統の配管に対し、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介してバラスト水処理装置を設置することが最も合理的かつ簡便な方法と言え、この場合に、処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管のそれぞれに開閉弁を設けること、これら開閉弁(本件特許明細書のV6及びV7)を取水時には共に開状態とし排水時には共に閉状態となるように制御することも通常の開閉弁の使用態様に過ぎない。また、取水時系統に対し分岐配管を介してバラスト水処理装置を設置した結果、その間の配管部分ははじめからなかったものとして、その開の開閉弁(V2)を閉じたままにしておくことにも、然したる技術的困難性はない。
以上述べたとおり、本件訂正後の発明の構成は、バラストタンク及びバラスト水配管系統を備えた周知慣用の船舶に、甲1発明のバラスト水処理装置を適用しようとすれば、いずれも当業者が適宜容易に採択しうる設計事項に過ぎない。」(第31頁2?16行)

上記主張に基づいて、甲第30号証?甲第33号証に記載されている事項の適用について検討する。
ア 甲第30号証について
甲第30号証には、バラスト水処理部100の上流側の部分中間管路部12に開閉弁VBUを、下流側の部分中間管路部12に開閉弁VBDを、それぞれ設け、開閉弁VBUの上流側の管路と開閉弁VBDの下流側の管路との間に、開閉弁VBを備えたバイパス管路19を設ける配管構造が記載されている(前記第5の14(14d)、(14f)を参照)。
本件特許発明1の相違点2に係る構成と甲第30号証に記載された上記配管構造とを対比すると、後者の「バラスト水処理部100」は前者の「バラスト水処理装置」に相当し、同様に、「部分中間管路部12」は「処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管」に、「開閉弁VBU、VBD」は処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管のそれぞれに設けられた「開閉弁」に、「バイパス管路19」はその構造からみて「バラスト水配管系統」に、「開閉弁VB」はバラスト水配管系統に設けられた「開閉弁」に、それぞれ相当するといえる。
そうすると、甲第30号証には、本件特許発明1の「バラスト水処理装置は、取水口から取水したバラスト水をバラストタンクへ供給するバラスト水配管系統に対して、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ」との構成、及び、「処理装置入口側配管とバラスト水配管系統との連結点と、処理装置出口側配管とバラスト水配管系統との連結点との間のバラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ、」との構成が記載されているといえる。
しかしながら、本件特許発明1では、排水時に、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管の夫々に設けられた開閉弁(V6、V7)、及び、処理装置入口側配管とバラスト水配管系統との連結点と、処理装置出口側配管とバラスト水配管系統との連結点との間のバラスト水配管系統に設けられた開閉弁(V2)が、全て閉となるのに対して、甲第30号証に記載の配管構造においては、バラスト水をバラストタンクから排水するときには、バラスト水処理部100が設けられた中間管路部12またはバイパス管路19のいずれかをバラスト水の流路としなければならず、そうすると、排水時には、中間管路部12の開閉弁VBU(V6に相当)、VBD(V7に相当)、バイパス管路19の開閉弁VB(V2に相当)の全てが閉じることはないといえる。
そうしてみると、検甲1発明に、甲第30号証に記載の事項を適用しても、相違点2に係る本件特許発明1の、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管に夫々設けられた開閉弁が「排水時には閉とされ」との構成、及び、処理装置入口側配管とバラスト水配管系統との連結点と、処理装置出口側配管とバラスト水配管系統との連結点との間のバラスト水配管系統に設けられた開閉弁を「排水時に閉とされており」との構成とすることはできない。

イ 甲第31号証について
甲第31号証には、バラストポンプ4の下流に処理部IIを設けること、既存の給排水系Iから分岐する分岐管路の途中に処理部IIを配設し、弁の切替によりバラスト水が処理部IIを流通するように構成することが記載されている(前記第5の15(15a)、(15b)、(15d)を参照)。
そして、請求人は当該記載に基づき、平成27年5月20日付けの弁駁書(第23頁参照)で、処理部IIの上流側の配管eに開閉弁iを設け、下流側の配管fに開閉弁jを設け、配管eと既存の給排水系Iとの連結点gと、配管fと既存の給排水系Iとの連結点hとの間のバイパス管路kに開閉弁mを設けた配管構造を提示している。
本件特許発明1の相違点2に係る構成と甲第31号証の記載に基づき請求人が提示する配管構造とを対比すると、後者の「開閉弁i、j」は前者の処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管のそれぞれに設けられた「開閉弁」に相当し、同様に、「開閉弁m」はバラスト水配管系統に設けられた「開閉弁」に相当するといえる。
しかしながら、甲第31号証に記載の配管構造において、バラスト水をバラストタンクから排水するときには、既存の給排水系Iまたは処理部IIを設けた分岐管路のいずれかをバラスト水の流路としなければならず、そうすると、既存の給排水系Iであるバイパス管路kに開閉弁mが設けられ、分岐管路である配管e、fに開閉弁i、jが設けられているとしても、排水時に開閉弁mを開とするか、開閉弁i、jを開としなければならず、すべての弁が閉じることはないといえる。
そうしてみると、検甲1発明に、甲第31号証に記載の事項を適用しても、相違点2に係る本件特許発明1の、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管に夫々設けられた開閉弁が「排水時には閉とされ」との構成、及び、処理装置入口側配管とバラスト水配管系統との連結点と、処理装置出口側配管とバラスト水配管系統との連結点との間のバラスト水配管系統に設けられた開閉弁を「排水時に閉とされており」との構成とすることはできない。

ウ 甲第32号証について
甲第32号証には、分岐送入系14、超音波処理ユニット3、分岐送出系24とからなる系と、この系をバイパスするポンプバイパス系3aとを設けること、各系をそれぞれの目的に対応して使用可能にするために弁類が設けられていることが記載されている(前記第5の16(16a)?(16c)を参照)。
甲第32号証に記載の配管構造においては、バラスト水をバラストタンクから排水するときには、超音波処理ユニット3が設けられている系またはポンプバイパス系3aのいずれかをバラスト水の流路としなければならず、そうすると、どちらの系に本件特許発明1における処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管のそれぞれに設けられた「開閉弁」、及び、バラスト水配管系統に設けられた「開閉弁」に相当する弁が設けられているとしても、排水時にすべての弁が閉じることはないといえる。
そうしてみると、検甲1発明に、甲第32号証に記載の事項を適用しても、相違点2に係る本件特許発明1の、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管に夫々設けられた開閉弁が「排水時には閉とされ」との構成、及び、処理装置入口側配管とバラスト水配管系統との連結点と、処理装置出口側配管とバラスト水配管系統との連結点との間のバラスト水配管系統に設けられた開閉弁を「排水時に閉とされており」との構成とすることはできない。

エ 甲第33号証について
甲第33号証には、往路用配管51から分岐した海水導入配管54をバルブ70_(9)を介して濾過装置10に連結し、濾過装置10から濾過海水導出配管55をバルブ70_(10)を介して往路用配管51に連結され、往路用配管51の海水導入配管54の分岐する箇所から濾過海水導出配管55が連結するまでの箇所の間にバルブ70_(7)が介装される配管構造が記載されている(前記第5の17(17b)、(17c)を参照)。
本件特許発明1の相違点2に係る構成と甲第33号証に記載のものとを対比すると、後者の「バルブ70_(9)、70_(10)」は前者の処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管のそれぞれに設けられた「開閉弁」に相当し、同様に、「バルブ70_(7)」はバラスト水配管系統に設けられた「開閉弁」に相当するといえる。
しかしながら、甲第33号証には、バラスト水供給操作時にバルブ70_(7)は閉じられることは記載されているものの、バラスト水排出操作時のバルブ70_(7)、70_(9)、70_(10)の開閉については明記されていない(前記第5の17(17d)、(17e)を参照)。
さらに補足すると、排水時にはバルブ70_(7)の上下流のバルブ70_(6)、70_(8)が閉となっているので、バルブ70_(7)、70_(9)、70_(10)の全てをわざわざ開閉する必要はない。
なお、バラスト水供給時の状態を保持しているとみることもできなくはないが、その場合でもバルブ70_(7)が閉であるとしても、バルブ70_(9)、70_(10)は開であるから、そのような仮定が成立したとしても、全てのバルブが閉であると認定することはできない。

オ 甲第30号証?甲第33号証の適用について
上述のとおり、甲第30号証?甲第33号証には、バラスト水処理装置の流路とこれをバイパスする流路との2つの流路を設け、それぞれの流路に弁を設けた配管構造が記載ないし示唆されているといえる。
しかしながら、各甲号証に記載の配管構造におけるバラストタンクからバラスト水を排水する態様に注目すると、甲第30号証?甲第32号証のものにおいては、2つの流路を同時に閉じることはできず、また、甲第33号証のものにおいては、バイパス流路(往路用配管51)の弁(バルブ70_(7)、70_(9)、70_(10))の動作については明らかではない。
そうしてみると、甲第30号証?甲第33号証に記載の事項から、相違点2に係る本件特許発明1の、「バラスト水処理装置は、取水口から取水したバラスト水をバラストタンクへ供給するバラスト水配管系統に対して、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ」、「処理装置入口側配管とバラスト水配管系統との連結点と、処理装置出口側配管とバラスト水配管系統との連結点との間のバラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ、」との構成が本件特許出願前に周知であるとすることはできたとしても、全ての開閉弁を「排水時に閉とされており、」との構成を含めて周知慣用の事項とすることはできない。
したがって、検甲1発明に、甲第30号証?甲第33号証の記載事項を適用しても、相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

〔相違点3について〕
バラストポンプの吐出側に逆止弁を設けることは甲第34号証に記載されており(前記第5の18の甲第34号証の記載事項を参照)、本件特許出願前に周知の事項といえる。
そうしてみると、検甲1発明のバラストポンプの吐出側に逆止弁を設け、相違点3に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることといえる。
なお、第4の1のなお書きで述べたとおり、被請求人は甲第35号証の成立性について争っているが、甲第35号証の記載内容を参酌するまでもなく、バラストポンプの吐出側に逆止弁を設けることは、上述のとおり、甲第34号証の記載から本件特許出願前に周知の事項と判断できる。

〔相違点4について〕
検甲第1号証には、「1. 0 イントロダクション 図表1に、バラスト水に関する国際海事機関(IMO)からの基準を示す。この基準は、投棄されるバラスト水中に許容される所定の微生物の最大数を示している。この基準を満たすためには2つの方法がある。」(前記第5の1(1b)の訳文を参照)と記載されている。
また、甲第9号証の段落【0011】には、「特に、IMO(国際海事機関)で締結された合意文によれば、2009年までにバラスト水に含まれる動物プランクトンや植物プランクトンなどの微生物の個数を10ヶ未満/m^(3)に抑制し、バクテリアなどの最近の個数を10ヶ未満/ccに抑制する必要がある。」(前記第5の9(9a)を参照)と記載されている。
以上のことから、バラスト水処理装置を既存の船舶にも設置する義務が発生することは当業者には本件特許出願前に周知の事項であったといえる。
舵取機室が船舶後方にあり、かつ、吃水線よりも上方に位置することは、本件特許出願前に周知の事項である(前記第5の2?5の甲第2号証?甲第5号証の記載事項、及び、前記第5の13の甲第19号証?甲第27号証の記載事項を参照)。
そして、検甲第1号証には、「1.3 設置アウトライン 図6は、船舶設置コンセプトを示す。本システムは、機関室や舵取機室といった非防爆エリア(non-hazardous area)に設置されるべきである。」(前記第5の1(1d)の訳文を参照)と記載されており、舵取機室が設置区画のひとつの推奨区画(候補)として取り上げられているといえる。
してみると、本件特許出願前に周知の舵取機室が船舶後方に配設され前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置する船舶において、バラスト水処理装置を設置する区画として舵取機室を選択することは当業者にとって容易に想到し得ることである。
したがって、検甲1発明を、相違点4に係る本件特許発明1の構成とすることは、周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることといえる。

〔相違点5について〕
相違点4で検討したとおり、検甲1発明のバラスト水処理装置を吃水線よりも上方に位置する舵取機室に配置することは、当業者が容易に想到し得ることであり、そのような配置としたときに、バラスト水処理装置内の水は重力により自然に吃水線まで落下しようとする状態にあることは明らかとはいえるものの、その配置をもってして、緊急時に船外にまで排水することまでも明らかであるとはいえず、また、緊急時にバラスト水処理装置から船外に排水できるように構成することは、何れの甲号証にも示されていない。
そして、請求人は、相違点5は形式的な相違点に過ぎないとも主張する(弁駁書第33?35頁)が、「舵取機室は吃水線よりも上方に位置すること」のみによりバラスト水を船外に排水できるものではなく、本件特許発明1はそのための具体的な構成を備えることが必須であることは明らかであるので、相違点5は形式的な相違点に過ぎないとはいえない。
そうしてみると、検甲1発明を、相違点5に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。

(3)小括
以上のとおりであるので、本件特許発明1は、検甲1発明と甲第2号証?甲第12号証の1に記載の発明または周知の技術及び周知慣用の事項に基いて、当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

2 本件特許発明2について
(1)対比
本件特許発明2と検甲1発明とを対比すると、両者は前記1(1)の〔一致点〕と同様の点で一致し、前記1(1)の〔相違点1〕?〔相違点5〕と同様の点で相違することに加えて次の点で相違する。

〔相違点6〕
本件特許発明2は「バラスト水処理装置が第1処理ユニットと第2処理ユニットから成る分割構造をしており、前記第1処理ユニットが舵取機室内またはその空間に設けたデッキ上に配設され、前記第2処理ユニットが舵取機室の床面上に設置されている」と特定されているのに対して、検甲1発明は、そのように特定されていない点。

(2)判断
〔相違点1〕?〔相違点5〕については検討済みであるので、〔相違点6〕について検討する。
〔相違点6について〕
検甲第1号証には、「1.1 バラスト水処理システム 図1に我々のシステムのダイヤグラムを示す。我々のシステムには3つのユニットが存在する。」(前記第5の1(1c)の訳文を参照)と記載されている。
検甲1発明において、バラスト水処理装置を複数のユニットに分割することは、当業者が適宜になし得ることといえる。
そして、前記1(2)の〔相違点4について〕で検討したとおり、検甲1発明において、バラスト水処理装置を舵取機室に配設することは当業者が容易に想到し得ることであり、舵取り機室内におけるバラスト水処理装置を構成する各ユニットの配置は、当業者が適宜になし得る設計的事項といえる。
したがって、検甲1発明を、相違点6に係る本件特許発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るといえる。

(3)小括
以上、相違点1?6について総合的に勘案して、本件特許発明2は、検甲1発明と甲第2号証?甲第12号証の1に記載の発明または周知の技術及び周知慣用の事項に基いて、当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

3 本件特許発明3について
(1)対比
本件特許発明3と検甲1発明とを対比すると、両者は前記1(1)の〔一致点〕と同様の点で一致し、前記1(1)の〔相違点1〕?〔相違点5〕及び前記2(1)の〔相違点6〕と同様の点で相違することに加えて次の点で相違する。

〔相違点7〕
本件特許発明3は、「バラスト水処理装置のバッファタンクとしてアフト・ピーク・タンク等の船尾部ボイドスペースが使用されている」と特定されているのに対して、検甲1発明は、そのように特定されていない点。

(2)判断
〔相違点1〕?〔相違点6〕については検討済みであるので、〔相違点7〕について検討する。
〔相違点7について〕
舵取機室の下方に、アフト・ピーク・タンクが配置されている船舶は本件特許出願前に周知慣用である(例えば、前記第5の4(4b)、5、6(6c)を参照)。そしてバラスト水処理装置のバッファタンクとして利用する区画をどこにするかを検討する際には、船内で空いた空間であり、水を入れても支障のないボイドスペースを候補にあげることが容易に想像され、バラスト水処理装置が船尾部の舵取機室に設置されたものであれば、その際に船尾部のアフト・ピーク・タンク等のボイドスペースを選択することは当業者であれば容易に想到し得ることである。
そして、本件特許発明3による効果も、検甲1発明、周知慣用の事項から当業者が予測し得る範囲のものであって格別のものとはいえない。
したがって、検甲1発明を、相違点7に係る本件特許発明7の構成とすることは、周知慣用の事項に基づいて当業者が容易に想到し得るといえる。

(3)小括
以上、相違点1?7について総合的に勘案して、本件特許発明3は、検甲1発明と甲第2号証?甲第12号証の1に記載の発明または周知の技術及び周知慣用の事項に基いて、当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

4 本件特許発明4について
(1)対比
検甲1発明は「バラスト水処理システムが機関室や舵取機室といった非防爆エリアに設置されている」ので、本件特許発明4で特定される「舵取機室は非防爆エリアであること」との事項を有している。
本件特許発明4と検甲1発明とを対比すると、両者は前記1(1)の〔一致点〕と同様の点で一致し、前記1(1)の〔相違点1〕?〔相違点5〕と同様の点で相違する。

(2)判断
〔相違点1〕?〔相違点5〕については検討済みである。

(3)小括
相違点1?5について総合的に勘案して、本件特許発明4は、検甲1発明と甲第2号証?甲第12号証の1に記載の発明または周知の技術及び周知慣用の事項に基いて、当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

5 本件特許発明5について
(1)対比
本件特許発明5と検甲1発明とを対比すると、両者は前記1(1)の〔一致点〕と同様の点で一致し、前記1(1)の〔一致点〕と同様の点で一致し、前記1(1)の〔相違点1〕?〔相違点5〕と同様の点で相違することに加えて次の点で相違する。

〔相違点8〕
本件特許発明5は、「舵取機室はバラストポンプが設置される機関室に隣接している」と特定されているのに対し、検甲1発明では、そのように特定されていない点。

(2)判断
〔相違点1〕?〔相違点5〕については検討済みであるので、〔相違点8〕について検討する。
〔相違点8について〕
舵取機室は一般に機関室に隣接して設けられており、本件特許出願前に周知慣用の事項である(前記第5の2、3、4(4a)、5、6(6b)を参照)。
また、バラストポンプが設置される機関室を備えた船舶は本件特許出願前に周知である(前記第5の9(9d)、10(10b)を参照)。
上記1(2)の〔相違点4について〕で検討したとおり、検甲1発明のバラスト水処理装置を舵取り機室に配設することは、周知の事項に基づき当業者が容易に想到し得ることであり、その際、相違点8に係る本件特許発明5のように、舵取機室を機関室に隣接させることも、周知慣用の事項に基づき当業者が容易に想到し得ることである。

(3)小括
相違点1?5及び8について総合的に勘案して、本件特許発明5は、検甲1発明と甲第2号証?甲第12号証の1に記載の発明または周知の技術及び周知慣用の事項に基いて、当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

6 本件特許発明6について
(1)対比
本件特許発明6と検甲1発明とを対比すると、後者の「バラストタンク」は、その機能からみて、前者の「船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンク」に相当する。
後者の「バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物を処理して除去するとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理システム」は、前者の「バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置」に相当する。
後者の「バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入する流路とバラスト水の排水時には排水口からバラストタンク内のバラスト水を排水する流路」は、前者の「バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口からバラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統」に相当する。
後者の「ポンプ」は、前者の「バラストポンプ」に相当する。
そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。

〔一致点〕
「船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと、バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と、バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられたバラストポンプとを備えている船舶。」

〔相違点9〕
本件特許発明6は、バラストポンプが「機関室に設置された」と特定されているのに対して、検甲1発明のポンプの配置は、そのように特定されていない点。
〔相違点10〕
本件特許発明6は、「バラスト水処理装置は、取水口から取水したバラスト水をバラストタンクへ供給するバラスト水配管系統に対して、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ、これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ、処理装置入口側配管とバラスト水配管系統との連結点と、処理装置出口側配管とバラスト水配管系統との連結点との間のバラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ、開閉弁は取水時と排水時に閉とされており、」と特定されているのに対して、検甲1発明は、配管の構造及び開閉弁について特定されていない点。
〔相違点11〕
本件特許発明6は、「バラスト水配管系統には、バラストポンプの下流側で、かつ処理装置入口側配管とバラスト水配管系統との連結点の上流側に、バラストポンプからバラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており、」と特定されているのに対して、検甲1発明は、そのように特定されていない点。
〔相違点12〕
本件特許発明6は、「バラスト水が供給されるバラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで、船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設され、」と特定されているのに対して、検甲1発明は、舵取機室内にバラスト水処理システムを配設することが選択的に例示されているにとどまり、また、その舵取機室が船舶後方にあることは特定されていない点。
〔相違点13〕
本件特許発明6は、「バラスト水処理装置が吃水線より上方に位置することにより、緊意時にバラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」と特定されているのに対して、検甲1発明は、そのように特定されていない点。

(2)判断
〔相違点9〕?〔相違点11〕は、上記1(1)の〔相違点1〕?〔相違点3〕と同じであるので、その検討は上記1(2)の〔相違点1について〕?〔相違点3について〕で述べたとおりである。
〔相違点12〕、〔相違点13〕について以下検討する。
〔相違点12について〕
検甲第1号証には、「本システムは、機関室(engine room)や舵取機室(steering room)といった非防爆エリア(non-hazardous area)に設置されるべきである。」(前記第5の1(1d)の訳文を参照)と記載されており、検甲第1号証には、「バラスト水処理装置」を設置する非防爆エリアとして舵取機室が例示されている。そして、一般に舵取機室が船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設されていることは、本件特許出願前に周知慣用の事項である(前記第5の2、3、4(4a)、5を参照)。
検甲第1号証には、「1. 0 イントロダクション 図表1に、バラスト水に関する国際海事機関(IMO)からの基準を示す。この基準は、投棄されるバラスト水中に許容される所定の微生物の最大数を示している。この基準を満たすためには2つの方法がある。」(前記第5の1(1b)の訳文を参照)と記載されている。
また、甲第9号証には、「特に、IMO(国際海事機関)で締結された合意文によれば、2009年までにバラスト水に含まれる動物プランクトンや植物プランクトンなどの微生物の個数を10ヶ未満/m^(3)に抑制し、バクテリアなどの最近の個数を10ヶ未満/ccに抑制する必要がある。」(前記第5の9(9a)の段落【0011】を参照)と記載されている。
以上のことから、バラスト水処理装置を既存の船舶にも設置する義務が発生することは当業者には本件特許出願前に周知の事項であったといえる。
このような背景の基に、バラスト水処理装置の船舶内非防爆エリアでの設置区画を検討するにあたり、当業者が考慮することは、設置できる空間が存在すること、バラストタンクへの配管・ポンプなどを既存のものをできるだけ利用すること等と想定されるところ、検甲1発明に接した当業者はバラスト水処理装置を設置する区画として例示されている舵取機室か機関室の選択肢のうちの1つである舵取機室を選ぶことは当業者が容易に想到することである。
また、その舵取機室が吃水線より上方にありかつバラストタンクの頂部よりも下方にある事項が特殊なものではなく、周知慣用の事項であり、そのような周知慣用の事項に検甲1発明を適用することにより、舵取機室内にバラスト水処理装置を配設し、結果として、バラスト水処理装置は、船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設されることになる。

そして、本件特許明細書(甲第29号証の3)をみてみると、バラスト水処理装置と吃水線、バラスト頂部との上下方向の位置関係に関して次の記載がある。
ア 「具体的に説明すると、舵取機室9の空間は、上述した振動の問題があるため、通常機器類の設置に適さない場所(空間)として残されている。しかし、バラスト水処理装置20は、主としてLNG船1の停船時に使用されるものであるから、上述した振動のない状態での使用が可能となる。本発明者らは、上述した船舶構造に着目し、舵取機室9がバラスト水処理装置20の設置場所として最適であること発見したものである。」(段落【0027】)
イ 「バラストポンプ13の近傍という観点では、バラスト水処理装置20を機関室8内に設置することも考えられる。しかし、通常の船舶設計における機関室8内は、メンテナンスや操作性を考慮すると、特別な要件がある場合を除いて種々の機器類を配置する場所とされる。しかも、機関室8の内部は、通行性や作業性を考慮するとともに、機器類の設置及メンテナンスを可能にする必要最小限の空間を確保しているのが実情であり、実質的には余分な空間は存在しない。従って、機関室8内にバラスト水処理装置20を設置しようとすれば、機関室8を大型化するように船殻設計を変更するなど、船体構造や船型の大幅な変更が必要となる。
特に、既存船に適用する場合には、機関室8を改造してバラスト水処理装置20を設置することは、船体構造の大規模な改造工事が必要となる。このような改造工事は、コストや工事期間の増大を伴うものであるから、機関室8をバラスト水処理装置20の設置場所とすることには問題が多くきわめて困難である。」(段落【0028】)
ウ 「また、大気開放型のバラスト水処理装置20の場合、その構成上万が一の際に備え船舶の喫水線40以下に設置することは避けるべきである。一方、バラストタンク6の頂部以上にバラスト水処理装置20を設置しかつ既存のバラストポンプ13を利用する場合はバラストポンプ13の吐出圧力を上げる等の余分な改造が必要となり無駄が生じる。よって、大気開放型のバラスト水処理装置20の場合は、船舶の吃水線40より上方かつバラストタンク6の頂部より下方に位置する舵取機室9に設置することは極めて合理的であると言える。」(段落【0031】)
エ 「このように、上述した本発明の船舶構造によれば、今後設置が義務づけられるバラスト水処理装置20について、船体設計や船型の大幅な変更を必要とせず、しかも、新造船や既存の船舶を改造して設置する場合においても、多種多様な船舶に対して、多種多様な方式のバラスト水処理装置を容易に設置することができる。すなわち、本発明は、船舶構造としては必要である舵取機室9の空間を有効に利用し、配置上の制約や他の船舶構造に及ぼす影響が小さい舵取機室9が、船舶構造におけるバラスト水処理装置20の最適な設置場所であることを見いだしたものである。」(段落【0032】)
オ 「また、舵取機室9は、バラストポンプ13が設置される機関室8に隣接して近いため、処理装置入口側配管系統15及び処理装置出口側配管系統16に必要となる配管長及び配管設置スペースが少なくてすみ、バラスト水処理に伴う圧力損失も最小限に抑えることができる。
また、舵取機室9は非防爆エリアであるから、各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点もある。
また、舵取機室9は、船舶の吃水線より上方に位置するため、緊急時においてはバラスト水を容易に船外へ排水できるという利点もある。」(段落【0033】)

これらの記載内容及び本件特許図面の内容(甲第28号証を参照)を総合すると、本件特許明細書及び図面には、バラスト水処理装置の配置区画として舵取機室以外の区画は特に示されておらず、示されているのは舵取機室のみであって、また、非防爆エリアについては、当該舵取機室は非防爆エリアであるから利点がある旨が記載されているのみであることからすると、本件特許発明6において、本件特許明細書に示された課題を解決し得る非防爆エリアは、出願時には舵取機室以外は想定されていなかったものといえる。

以上のことから、上記したように非防爆エリアである舵取機室が吃水線より上方にあり、かつ、バラストタンクの頂部よりも下方にある周知慣用の船舶に検甲1発明に基づきバラスト水処理装置を配設することにより、相違点12に係る本件特許発明6の構成とすることは当業者が容易に想到し得ることである。

〔相違点13について〕
検甲1発明のバラスト水処理装置を吃水線より上方に位置させることは、当業者が容易に想到し得ることである。
しかしながら、「緊意時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成すること」は、上記1(2)の〔相違点5について〕で検討したとおり、当業者が容易に想到し得るとはいえない。
そうしてみると、検甲1発明を、相違点13に係る本件特許発明6の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。

(3)小括
以上のとおりであるので、本件特許発明6は、検甲1発明と甲第2号証?甲第12号証の1に記載の発明または周知の技術及び周知慣用の事項に基いて、当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

7 まとめ
上記1?6で述べたとおり、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえず、請求人の主張する無効理由は理由があるとはいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許発明1?6に係る特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
船舶
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば船舶のバラスト水に含まれる微生物類を処理して除去または死滅させるバラスト水処理装置を備えた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶のバラスト水は、船体の姿勢制御や復原性確保のためにバラストタンクに積載される海水または淡水であり、船舶の安全運航上欠くことのできないものである。このバラスト水は、空船時にポンプでバラスト水を吸い込んでバラストタンク内に積載(取水)し、貨物を積み込む港において積荷の進行に合わせて排出(排水)される。
上述したバラスト水には、種々の微生物類(水生生物)が含まれている。この微生物類には、微小な生物(バクテリア等の微生物やプランクトン等の浮遊生物等)に加えて、魚類等の卵や幼生等も含まれる。
【0003】
従って、バラスト水は積載地と異なる港(水域)に排水されることとなるため、バラスト水とともに移動した微生物類が新たな環境に定着すれば、その水域の生態系や水産業等の経済活動に影響を与えることが懸念される。また、バラスト水とともに移動した一部の病原菌は、人体の健康に直接影響を与えることも懸念される。
このため、国際海事機関(International Maritime Organization:IMO)においては、バラスト水に含まれる微生物類の管理に関する条約が批准され、バラスト水の取水時または排水時に微生物類を除去または死滅させることが求められる。
【0004】
このようなバラスト水中の微生物類を除去または死滅させる装置としては、流路内に設けたスリット板をバラスト水が所定流速以上で通過するようにして、スリット通過により乱れた流れの内部に存在する剪断現象(場所による流速の急激な差)を利用し、この剪断により液中の微生物を破壊して殺減する液中微生物殺滅装置が提案されている。また、スリット位置をずらしたスリット板を前後に配置しておき、前のスリット板で剪断により破壊されなかった微生物については、前のスリット板で発生させたキャビテーションを後側のスリット板で潰す際に生じる衝撃圧を利用して破壊することにより、さらに殺減させるようにした液中微生物殺滅装置も提案されている。(たとえば、特許文献1参照)
【特許文献1】特開2003-200156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したバラスト水処理装置は、荷役の進行と略同時に吸入または排水されるバラスト水を処理するものであるから、高い処理速度(たとえば、大型原油タンカーの場合には7000m3/hr程度)が求められる。このため、バラスト水処理装置自体が大型化する傾向にあり、船舶にバラスト水処理装置の適当な設置場所を確保することは、下記の理由により困難な状況にある。
【0006】
(1)バラスト水処理装置は、電気や薬剤などを使用する高度な処理レベルが求められるため、海洋環境下での波浪・風雨に対する耐食性を考慮すると、甲板等の船外よりも船内に設置することが好ましい。
(2)バラスト水処理装置を船内に配置する場合、貨物積載量の確保や可燃性貨物の積載に伴う危険区画等を考慮すると、船体中央部分に配置することを避け、船首または船尾に配置することが望ましい。
(3)一般的な船舶設計では、バラストポンプ等の機器類は船尾の機関室に配置される。このため、船首にバラスト水処理装置を配置すると、船尾のバラストポンプ近傍に設けられた取水口から船首まで長距離の配管が必要となる。
【0007】
このように、今後設置が義務づけられるバラスト水処理装置について、船体設計の大幅な変更を必要とせず、しかも、新造船に設置する場合はもとより、既存の船舶を改造して設置する場合にも容易に適用可能な構造の船舶が望まれる。すなわち、新造船や既存船の区別がなく、しかも、タンカー(LPG船、LNG船、油送船等)、貨物船(コンテナ船、ロールオン/ロールオフ船、一般貨物船等)及び専用船(ばら積貨物船、鉱石運搬船、自動車運搬船等)等のように多種多様な船舶(特に一般商船)に対して、多種多様な方式のバラスト水処理装置を船内適所に容易に設置可能とする構造の船舶が望まれている。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、多種多様な船舶に対して、多種多様な方式のバラスト水処理装置を船内適所に容易に設置可能とする船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明の請求項1に係る船舶は、船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと、バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と、バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられ、機関室に設置されたバラストポンプとを備えている船舶であって、前記バラスト水処理装置は、前記取水口から取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統に対して、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており、前記処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ、これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ、前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点と、前記処理装置出口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点との間の前記バラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ、当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており、さらに前記バラスト水配管系統には、前記バラストポンプの下流側で、かつ前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との前記連結点の上流側に、前記バラストポンプから前記バラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており、バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され、前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することにより、緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することを特徴とするものである。
【0009】
このような船舶によれば、バラスト水処理装置を船舶後方の舵取機室内に配設するようにしたので、船体構造や船型を大きく変更することなく、船舶内の空間を有効に利用して種々のバラスト水処理装置を容易に設置することができる。
また、上記の船舶において、前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置するので、緊急時にバラスト水を容易に船外へ排水することができる。
【0010】
上記の船舶においては、前記バラスト水処理装置が第1処理ユニットと第2処理ユニットから成る分割構造をしており、前記第1処理ユニットを前記舵取機室内の空間に設けたデッキ上に配設し、前記第2処理ユニットを前記舵取機室の床面上に設置することが好ましく、これにより、舵取機室内の空間をより一層有効に利用して、すなわち、空間を立体的に有効利用して種々のバラスト水処理装置を設置することができる。
【0011】
また、上記の船舶においては、前記バラスト水処理装置のバッファタンクとしてアフト・ピーク・タンク等の船尾部ボイドスペースを使用することが好ましく、これにより、バッファタンクを必要とする方式のバラスト水処理装置であっても、バッファタンクの新設が不要となる。
【0012】
また、上記の船舶において、前記舵取機室は非防爆エリアであることが好ましく、これにより、各種制御機器や電気機器類の制約が少なくなる。
また、上記の船舶において、前記舵取機室はバラストポンプが設置される機関室に隣接していることが好ましく、これにより、バラスト水処理に伴う圧力損失を最小限に抑えることができる。
【0013】
本発明の請求項6に係る船舶は、船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと、バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と、バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられ、機関室に設置されたバラストポンプとを備えている船舶であって、前記バラスト水処理装置は、前記取水口から取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統に対して、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており、前記処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ、これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ、前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点と、前記処理装置出口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点との間の前記バラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ、当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており、さらに前記バラスト水配管系統には、前記バラストポンプの下流側で、かつ前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との前記連結点の上流側に、前記バラストポンプから前記バラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており、バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで、船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設され、前記バラスト水処理装置が前記吃水線より上方に位置することにより、緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することを特徴とするものである。
【0014】
このような船舶によれば、バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアに配設されているので、船体構造や船型を大きく変更することなく、船舶後方の非防爆エリアを有効に利用して種々のバラスト水処理装置を容易に設置することができる。
【発明の効果】
【0015】
上述した本発明の船舶によれば、今後義務づけられるバラスト水処理装置を設置する際、船体設計や船型の大幅な変更を必要とせず、しかも、新造船や既存の船舶を改造して設置する場合においても、多種多様な船舶に対して、多種多様な方式のバラスト水処理装置を容易に設置可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る船舶の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図4は、船舶の一例としてLNG船1の船体構造を示す図である。このLNG船1は、船体前方より順に、船首部2、船体中央部3及び船尾部4に分類される。
船首部2は、LNG船1の航行方向前方に位置する部分であり、船首側倉庫等が設けられている。船首部2の後方に配置された船体中央部3には、複数(図示の例では3基)のLNGタンク5が船体軸線に沿って配列されている。また、船体中央部3には、球形としたLNGタンク5の下部周辺に形成される空間を利用して、複数に分割されたバラストタンク6が船体の左右両側に形成されている。
【0017】
船体中央部3の後方となる船尾部4には、たとえば図1に示すように、居住区7と、機関室8と、舵取機室9と、ボイド10とが設けられている。なお、図中の符号11は、LNG船1の船尾に設けられた船舶推進用のプロペラである。
居住区7は、船尾部4の上部前方に配置された空間部分であり、LNG船1の操舵室や乗員居室等が設けられている。
機関室8は、居住区7の下方に配置された空間部分であり、たとえばプロペラ11の駆動源となるエンジンやLNG船1内で使用する電力の発電設備など、各種の機械設備が設置されている。
舵取機室9は、機関室8の後方上部に配置された空間部分であり、LNG船1の舵(図示省略)を駆動させるための機械設備(舵取装置)等が設置されている。
ボイド10は、舵取機室9の下方または前方に形成された空間部分であり、船尾3の下部で船幅が絞られているため狭い空間となっている。このボイド10は、必要に応じてアフト・ピーク・タンク(aft peak tank)等の設置空間として利用される。
【0018】
上述したLNG船1の適所には、バラスト水処理装置20が設けられている。このバラスト水処理装置20は、船体の姿勢制御や復原性確保を目的としてバラストタンク6に積載されるバラスト水に含まれる種々の微生物類を除去または死滅させる装置である。すなわち、バラスト水処理装置20は、積み荷の状態等に応じてバラストタンク6内に取水したバラスト水が貨物の積載量を増すにつれて排水されることから、バラスト水に含まれる微生物類を除去または死滅させた状態で排水できるように取水時または排水時に処理して、取水港周辺に生息する微生物類が他の海域に排水されて生態系に影響を及ぼすことを防止するための装置である。
【0019】
上述したバラスト水処理装置20は、船舶後方となる船尾部4の舵取機室9内に配置されている。
図1に示すバラスト水処理装置20は、第1処理ユニット21及び第2処理ユニット22を備えている。この場合の第1処理ユニット21及び第2処理ユニット22は、必要な処理能力をふたつのユニットに分割して配置したものであり、いずれのユニットも舵取機室9内に配置されている。なお、バラスト水処理装置20については、第1処理ユニット21及び第2処理ユニット22に分割する構成に限定されることはなく、処理方式や諸条件に応じて適宜変更可能である。
【0020】
図1において、図中の符号12はバラスト水の取水口、13はバラストポンプを示しており、取水口12から取水したバラスト水は、バラスト水配管系統14を通ってバラストタンク6へ供給される。
バラスト水処理装置20は、取水口12から取水したバラスト水をバラストタンク6へ供給するバラスト水配管系統14と、処理水配管系統15(処理装置入口側配管15a、処理装置出口側配管16)を介して連結されている。
図2及び図3は、バラスト水処理装置20、バラストポンプ13の運転により取水口12からバラストタンク6へバラスト水を供給するバラスト水配管系統14、そして、バラスト水処理装置20とバラスト水配管系統14との間を連結する処理水配管系統15の構成例を示す配管系統図である。なお、図2及び図3において、図中の符号17はバラスト水の排水口、V1?V7は開閉弁、CV1は逆止弁を示している。
【0021】
また、図2及び図3の配管系統例では、バラスト水処理装置20が1ユニットとされ、図2は取水時の流れを示し、図3は排水時の流れを示している。
図2に示すバラスト水の取水時には、バラストポンプ13を運転することにより取水口12よりバラスト水が吸入される。取水口12より吸入されたバラスト水は、開状態の開閉弁V1を備えたバラスト水配管14a及びバラスト水配管14bを通ってバラストポンプ13内に流入する。このバラスト水はバラストポンプ13により加圧送水され、逆止弁CV1を備えたバラスト水配管14b及び処理装置入口側配管15aを通ってバラスト水処理装置20へ供給される。
【0022】
上述した逆止弁CV1は、バラストポンプ13からバラスト水処理装置20へ向かう方向(図中に矢印で示す方向)の流れのみを許容する。また、このようなバラスト水の取水時においては、処理装置入口側配管15aに設けた開閉弁V6が開とされ、バラスト水配管14cに設けた開閉弁V2、バラスト水配管14fに設けた開閉弁V3及びバラスト水配管14gに設けた開閉弁V4,V5は全て閉とされる。バラスト水処理装置20に供給されたバラスト水は、バラスト水内に含まれる微生物類を除去または死滅させる処理を受けた後、開閉弁V7、処理装置出口側配管16、バラスト水配管14d及びバラスト水配管14eを通ってバラストタンク6に積載される。従って、バラストタンク6内には、微生物類が除去または死滅させられた状態のバラスト水が積載されることとなる。
なお、バラスト水処理装置20がバッファタンクを用いる場合は、処理装置出口側配管16の代わりに、バッファタンク用取水口12’と処理済水移送ポンプ13’、処理済水移送配管系統16’を介して連結されることとなり、バラスト水の流れとしてはその箇所のみ変更となる。
【0023】
続いて、バラスト水の排水時について、図3を参照して説明する。なお、この排水時には、開閉弁V1,V6,V7が開から閉とされ、開閉弁V3,V4,V5が閉から開に変更される。
図3に示すバラスト水の排水時には、バラストポンプ13を運転することにより、バラストタンク6内のバラスト水が吸入される。バラストタンク6より吸入されたバラスト水は、バラスト水配管14e、開状態の開閉弁V3を備えたバラスト水配管14f及びバラスト水配管14bを通ってバラストポンプ13内に流入する。このバラスト水はバラストポンプ13により加圧送水され、逆止弁CV1を備えたバラスト水配管14b及び開閉弁V4,V5を備えたバラスト水配管14gを通って排水口17より船外へ排水される。
【0024】
このようにして、バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を除去または死滅させる処理を施すことで、バラストスタンク6内に積載されるバラスト水は微生物類が生息していないものと同等と見なせる。従って、LNG船1がバラスト水を積載して積荷の積載港へ航行し、同港で積載作業の進行に合わせてバラスト水を船外へ排水しても、積載港周辺水域の生態系に影響を及ぼすことはない。
ところで、上述した説明では、バラスト水の取水時にバラスト水処理装置20を通して微生物類を処理しているが、排水時に処理するようにしてもよい。
【0025】
さて、上述したバラスト水処理装置20は、LNG船1の後方となる舵取機室9内に配置されている。このバラスト水処理装置20は、荷役の進行に合わせて取水または排水されるバラスト水を処理するため、高い処理速度が求められて大型化する。このため、バラスト水処理装置20の設置には、大きなスペースが必要となる。また、バラスト水処理装置20には、種々の方式が存在するため、現状では大きな設置スペースが必要なことに変わりはないものの、設置スペースとして求められる条件(形状等)は多種多様となる。
【0026】
LNG船1のような通常の船舶は、プロペラ11及び航行用エンジンが船体後方に配置されている。このため、バラストポンプ13は、特別な事情がなければ船体後方の機関室8内に設置される。従って、バラスト水処理装置20は、配管長及び配管設置スペースの増加を抑制するため、バラストポンプ13の近傍に設置することが望ましい。
一方、舵取機室9は機関室8に隣接し、しかも、プロペラ11及び舵の直上に位置しているので、これらの駆動に起因する振動対策等から比較的広い空間が設けられている。このため、舵取機室9の内部には、バラスト水処理装置20の設置が可能となる大きな設置空間を容易に確保することができる。すなわち、舵取機室9には、船体構造や船型を大きく変更することなく、バラスト水処理装置20の設置に必要な空間を容易に確保することができる。
【0027】
具体的に説明すると、舵取機室9の空間は、上述した振動の問題があるため、通常機器類の設置に適さない場所(空間)として残されている。しかし、バラスト水処理装置20は、主としてLNG船1の停船時に使用されるものであるから、上述した振動のない状態での使用が可能となる。本発明者らは、上述した船舶構造に着目し、舵取機室9がバラスト水処理装置20の設置場所として最適であること発見したものである。
すなわち、バラスト水の取水または排水は、船舶が港に停船して荷役作業を行う際に実施されるので、バラスト水処理装置20の運転時には船舶航行用のエンジンや舵が駆動されることはなく、従って、舵取機室9は、バラスト水処理装置20の運転時に周囲の振動を考慮する必要はなく、バラスト水処理装置20の設置場所としては最適である。なお、要すれば航海中にも処理することがあるが、これを否定するものではない。
【0028】
バラストポンプ13の近傍という観点では、バラスト水処理装置20を機関室8内に設置することも考えられる。しかし、通常の船舶設計における機関室8内は、メンテナンスや操作性を考慮すると、特別な要件がある場合を除いて種々の機器類を配置する場所とされる。しかも、機関室8の内部は、通行性や作業性を考慮するとともに、機器類の設置及メンテナンスを可能にする必要最小限の空間を確保しているのが実情であり、実質的には余分な空間は存在しない。従って、機関室8内にバラスト水処理装置20を設置しようとすれば、機関室8を大型化するように船殻設計を変更するなど、船体構造や船型の大幅な変更が必要となる。
特に、既存船に適用する場合には、機関室8を改造してバラスト水処理装置20を設置することは、船体構造の大規模な改造工事が必要となる。このような改造工事は、コストや工事期間の増大を伴うものであるから、機関室8をバラスト水処理装置20の設置場所とすることには問題が多くきわめて困難である。
【0029】
また、舵取機室9は、機関室8の上部に配置された乗員の居住区7から近く、作業時等のアクセス面でも有利になる。このような観点から見ても、舵取機室9はバラスト水処理装置20の設置場所に適している。
また、舵取機室9は船内空間であるから、海洋環境下における波浪や風雨に対する腐食対策を施す必要がなく、この点でもバラスト水処理装置20の設置場所に適している。
【0030】
また、舵取機室9は、舵取装置の上方に比較的大きな上部空間が存在するので、たとえば図1に示すように、この空間の中間位置等にデッキ30を形成してバラスト水処理装置20を設置することも可能である。このような構成は、舵取機室9内の空間を立体的に有効利用できるので、たとえば図1に示すように、第1処理ユニット21をデッキ30上に設置し、第2処理ユニット22を舵取機室9の床面上に設置するというような分割構造を容易にする。従って、構成及び形状等が異なる各種方式のバラスト水処理装置20を設置する際には、諸条件に応じた柔軟な対応が可能となる。
なお、図1に示す構成例では、デッキ30の上に第1処理ユニット21を設置しているが、特に限定されるものではない。
【0031】
また、バラスト水処理装置20を舵取機室9に設置すると、バラスト水処理装置20がバッファタンクを必要とする方式の場合、近傍にあるボイド10に設置されるアフト・ピーク・タンク等をバッファタンクとして利用することができる。
このような構成とすれば、ボイド10の空間を有効利用してバッファタンクの設置スペースを容易に確保できる。すなわち、バッファタンクは単にバラスト水を貯蔵するものであるから、船尾に位置して複雑な形状となるボイド10内であっても、空間形状の制約を受けることなく有効利用が可能である。
また、大気開放型のバラスト水処理装置20の場合、その構成上万が一の際に備え船舶の喫水線40以下に設置することは避けるべきである。一方、バラストタンク6の頂部以上にバラスト水処理装置20を設置しかつ既存のバラストポンプ13を利用する場合はバラストポンプ13の吐出圧力を上げる等の余分な改造が必要となり無駄が生じる。よって、大気開放型のバラスト水処理装置20の場合は、船舶の吃水線40より上方かつバラストタンク6の頂部より下方に位置する舵取機室9に設置することは極めて合理的であると言える。
【0032】
このように、上述した本発明の船舶によれば、今後設置が義務づけられるバラスト水処理装置20について、船体設計や船型の大幅な変更を必要とせず、しかも、新造船や既存の船舶を改造して設置する場合においても、多種多様な船舶に対して、多種多様な方式のバラスト水処理装置を容易に設置することができる。すなわち、本発明は、船舶としては必要である舵取機室9の空間を有効に利用し、配置上の制約や他の船舶構造に及ぼす影響が小さい舵取機室9が、船舶におけるバラスト水処理装置20の最適な設置場所であることを見いだしたものである。
【0033】
また、舵取機室9は、バラストポンプ13が設置される機関室8に隣接して近いため、処理装置入口側配管15a及び処理装置出口側配管16に必要となる配管長及び配管設置スペースが少なくてすみ、バラスト水処理に伴う圧力損失も最小限に抑えることができる。
また、舵取機室9は非防爆エリアであるから、各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点もある。
また、舵取機室9は、船舶の吃水線より上方に位置するため、緊急時においてはバラスト水を容易に船外へ排水できるという利点もある。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る船舶の一実施形態として、バラスト水処理装置を設けた船舶の船尾部拡大図である。
【図2】バラスト水処理装置の取水時系統図である。
【図3】バラスト水処理装置の排水時系統図である。
【図4】船舶の一例としてLNG船の全体構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 LNG船
4 船尾部
6 バラストタンク
7 居住区
8 機関室
9 舵取機室
10 ボイド
12 取水口
12’ バッファタンク用取水口
13 バラストポンプ
13’ 処理済水移送ポンプ
14 バラスト水配管系統
15 処理水配管系統
15a 処理装置入口側配管
16 処理装置出口側配管
16’ 処理済水移送配管系統
17 排水口
20 バラスト水処理装置
30 デッキ
40 吃水線
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと、バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と、バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられ、機関室に設置されたバラストポンプとを備えている船舶であって、
前記バラスト水処理装置は、前記取水口から取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統に対して、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており、
前記処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ、これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ、
前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点と、前記処理装置出口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点との間の前記バラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ、当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており、
さらに前記バラスト水配管系統には、前記バラストポンプの下流側で、かつ前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との前記連結点の上流側に、前記バラストポンプから前記バラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており、
バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され、
前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することにより、緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することを特徴とする船舶。
【請求項2】
前記バラスト水処理装置が第1処理ユニットと第2処理ユニットから成る分割構造をしており、前記第1処理ユニットが前記舵取機室内またはその空間に設けたデッキ上に配設され、前記第2処理ユニットが前記舵取機室の床面上に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記バラスト水処理装置のバッファタンクとしてアフト・ピーク・タンク等の船尾部ボイドスペースが使用されていることを特徴とする請求項1または2に記載の船舶。
【請求項4】
前記舵取機室は非防爆エリアであることを特徴とする請求項1に記載の船舶。
【請求項5】
前記舵取機室はバラストポンプが設置される機関室に隣接していることを特徴とする請求項1に記載の船舶。
【請求項6】
船体の姿勢制御や復原性確保のためのバラストタンクと、バラスト水の取水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置と、バラスト水の取水時には取水口よりバラスト水を吸入しバラスト水の排水時には排水口から前記バラストタンク内のバラスト水を排水するバラスト水配管系統に設けられ、機関室に設置されたバラストポンプとを備えている船舶であって、
前記バラスト水処理装置は、前記取水口から取水したバラスト水を前記バラストタンクへ供給する前記バラスト水配管系統に対して、処理装置入口側配管及び処理装置出口側配管を介して連結されており、
前記処理装置入口側配管及び前記処理装置出口側配管には夫々開閉弁が設けられ、これら開閉弁は取水時には開とされ排水時には閉とされ、
前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点と、前記処理装置出口側配管と前記バラスト水配管系統との連結点との間の前記バラスト水配管系統にも開閉弁が設けられ、当該開閉弁は取水時と排水時に閉とされており、
さらに前記バラスト水配管系統には、前記バラストポンプの下流側で、かつ前記処理装置入口側配管と前記バラスト水配管系統との前記連結点の上流側に、前記バラストポンプから前記バラスト水処理装置へ向かう方向の流れのみを許容する逆止弁が設けられており、
バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで、船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設され、
前記バラスト水処理装置が前記吃水線より上方に位置することにより、緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成することを特徴とする船舶。
【図面】




 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2015-09-15 
結審通知日 2015-09-18 
審決日 2015-10-19 
出願番号 特願2007-238381(P2007-238381)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (B63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 亮  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 平田 信勝
和田 雄二
登録日 2010-05-14 
登録番号 特許第4509156号(P4509156)
発明の名称 船舶  
代理人 北原 潤一  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 中村 佳正  
代理人 北原 潤一  
代理人 藤田 考晴  
代理人 小林 浩  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 小栗 眞由美  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 川上 美紀  
代理人 北原 潤一  
代理人 長谷川 夕子  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 中村 佳正  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 小林 浩  
代理人 北原 潤一  
代理人 中村 佳正  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 小林 浩  
代理人 中村 佳正  
代理人 小林 浩  
代理人 北原 潤一  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 藤田 考晴  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 中村 佳正  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 小林 浩  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 中村 佳正  
代理人 北原 潤一  
代理人 三苫 貴織  
代理人 小林 浩  
代理人 北原 潤一  
代理人 小林 浩  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 北原 潤一  
代理人 長田 大輔  
代理人 小林 浩  
代理人 中村 佳正  
代理人 上田 邦生  
代理人 中村 佳正  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 石本 貴幸  
代理人 北原 潤一  
代理人 川上 美紀  
代理人 小林 浩  
代理人 小林 浩  
代理人 石本 貴幸  
代理人 小林 浩  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 北原 潤一  
代理人 長谷川 夕子  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 北原 潤一  
代理人 北原 潤一  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 中村 佳正  
代理人 小林 浩  
代理人 北原 潤一  
代理人 川上 美紀  
代理人 北原 潤一  
代理人 小林 浩  
代理人 小栗 眞由美  
代理人 長谷川 夕子  
代理人 中村 佳正  
代理人 三苫 貴織  
代理人 中村 佳正  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 小林 浩  
代理人 小林 浩  
代理人 北原 潤一  
代理人 北原 潤一  
代理人 小林 浩  
代理人 三苫 貴織  
代理人 中村 佳正  
代理人 中村 佳正  
代理人 藤田 考晴  
代理人 小栗 眞由美  
代理人 小林 浩  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 上田 邦生  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 長田 大輔  
代理人 小林 浩  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 中村 佳正  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 小林 浩  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 中村 佳正  
代理人 中村 佳正  
代理人 長田 大輔  
代理人 北原 潤一  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 石本 貴幸  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 中村 佳正  
代理人 上田 邦生  
代理人 中村 佳正  
代理人 北原 潤一  
代理人 北原 潤一  
代理人 中村 佳正  
代理人 江幡 奈歩  
代理人 小林 浩  
代理人 中村 佳正  
代理人 北原 潤一  
代理人 加藤 志麻子  

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