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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G21C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G21C
管理番号 1325221
審判番号 不服2016-1968  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-08 
確定日 2017-03-07 
事件の表示 特願2012-504667「進行波核分裂反応炉、核燃料アッセンブリ、およびこれらにおける燃焼度の制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月23日国際公開、WO2010/147614、平成24年 9月27日国内公表、特表2012-523007、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)4月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年4月6日、米国、2009年7月1日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年3月19日付けで拒絶理由が通知され、同年6月16日付けで手続補正がされ、同年12月22日付けで拒絶理由が通知され、平成27年3月5日付けで手続補正がされ、同年9月28日付け(同年10月6日送達)で拒絶査定(以下、「原査定」という)がされ、これに対し、平成28年2月8日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において同年9月27日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という)が通知され、同年12月26日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1、2に係る発明は、平成28年2月8日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるものと認められる以下のとおりである。なお、以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」といい、請求項2に係る発明を「本願発明2」という。

「【請求項1】
原子炉心、および、
当該原子炉心に配置されている少なくとも1つの核分裂反応炉の核燃料アッセンブリを備えており、
当該核燃料アッセンブリは、燃焼前面を生成するように、かつ所定の燃焼度値以下の燃焼度値をもたらすように構成されており、
所定の燃焼度値以下の燃焼度値をもたらすために、上記燃焼前面の後方にある第1位置から上記燃焼前面の前方にある第2位置まで移動する中性子放出体をさらに備えており、
上記燃焼前面は、上記少なくとも1つの核分裂反応炉の核燃料アッセンブリに対して移動する、進行波核分裂反応炉。
【請求項2】
原子炉心、および、
当該原子炉心に配置されている少なくとも1つの核分裂反応炉の核燃料アッセンブリを備えており、
当該核燃料アッセンブリは、燃焼前面を生成するように、かつ所定の燃焼度値以下の燃焼度値をもたらすように構成されている進行波核分裂反応炉であって、
核分裂反応炉の上記核燃料アッセンブリは、上記進行波核分裂反応炉における上記燃焼度値の制御に応じた、複数の構造的な材料の1つ以上に対する放射線損傷の制御が可能であり、
核分裂反応炉の上記核燃料アッセンブリは、所定の放射線損傷値以下の放射線損傷値をもたらすことによって上記放射線損傷値の制御が可能であり、
所定の放射線損傷値以下の放射線損傷値をもたらすために、上記燃焼前面の後方にある第1位置から上記燃焼前面の前方にある第2位置まで移動する中性子放出体をさらに備えており、
上記燃焼前面は、上記少なくとも1つの核分裂反応炉の核燃料アッセンブリに対して移動する、進行波核分裂反応炉。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
本願のその出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1 米国特許出願公開第2008/0123795号明細書
引用文献2 米国特許出願公開第2006/0171498号明細書
引用文献3 米国特許第5045275号明細書
引用文献4 米国特許出願公開第2006/0109944号明細書
引用文献5 特公昭50-034191号公報
引用文献6 特開昭60-003585号公報
引用文献7 国際公開第2008/097298号
引用文献8 特開平6-174882号公報

本願発明1及び本願発明2は、引用文献1ないし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

2 原査定の理由の判断
(1)請求項1について
ア 引用文献の記載事項及び引用発明
(ア)引用文献1
米国特許出願公開第2008/0123795号明細書(引用文献1)には、図面とともに次の記載がある。なお、下線は当審で付与したものであり、引用した記載の後に、当審で作成した日本語訳を付記する。以下、同様。

a「[0119]Referring now to FIG. 8 , in some embodiments a nuclear fission deflagration wave burnfront can be driven into areas of nuclear fission fuel as desired, thereby enabling a variable nuclear fission fuel burn-up. In a propagating burnfront nuclear fission reactor 800 , a nuclear fission deflagration wave burnfront 810 is initiated and propagated as described above. Actively controllable neutron modifying structures 830 can direct or move the burnfront 810 in directions indicated by areas 820 . In one embodiment, the actively controllable neutron modifying structures 830 insert neutron absorbers, such as without limitation Li6, B10, or Gd, into nuclear fission fuel behind the burnfront 810 , thereby driving down or lowering neutronic reactivity of fuel that is presently being burned by the burnfront 810 relative to neutronic reactivity of fuel ahead of the burnfront 810 , thereby speeding up the propagation rate of the nuclear fission deflagration wave. In another embodiment, the actively controllable neutron modifying structures 830 insert neutron absorbers into nuclear fission fuel ahead of the burnfront 810 , thereby slowing down the propagation of the nuclear fission deflagration wave. In other embodiments the actively controllable neutron modifying structures 830 insert neutron absorbers into nuclear fission fuel within or to the side of the burnfront 810 , thereby changing the effective size of the burnfront 810 .」
([0119]ここで図8によると、いくつかの実施形態では、核分裂爆燃波燃焼前線は、所望により、核燃料の領域へと駆動され、これによって、核燃料の燃焼度は可変となり得る。伝搬燃焼前線核分裂炉800では、核分裂爆燃波燃焼前線810は、上述したように誘起され伝搬される。活性制御可能な中性子修正構造830は、領域820で示される方向に燃焼前線810を導き動かす。一実施形態では、活性制御可能な中性子修正構造830は、限定するわけではないが、Li6、B10,またはGdなどの中性子吸収体を、燃焼前線810の後にある核燃料に挿入する。これによって、燃焼前線810の前における中性子反応度に比較して、燃焼前線810によって燃焼されつつある燃料の中性子反応度を押し下げ低減することができ、核分裂爆燃波の伝搬速度を上昇させることができる。他の実施形態では、活性制御可能な中性子修正構造830は、燃焼前線810の前にある核燃料に中性子吸収体を挿入し、これによって、核分裂爆燃波の伝搬の速度を落とす。他の実施形態では、活性制御可能な中性子修正構造830は、燃焼前線810の範囲内または横側における、核燃料に中性子吸収体を挿入し、これによって、燃焼前線810の有効な大きさを変化させる。)

b「[0127]In one embodiment, the neutron irradiation of material 1020 may be controlled by the duration and/or extent of the nuclear fission deflagration wave propagating burnfront 1030 . In another embodiment, the neutron irradiation of material 1020 may be controlled by control of the neutron environment (e.g., the neutron energy spectrum for Np237 processing) via neutron modifying structures. In another embodiment, the propagating nuclear fission deflagration wave reactor 1000 may be operated in a "safe" sub-critical manner, relying upon an external source of neutrons to sustain the propagating burnfront 1030 , while using a portion of the fission-generated neutrons for nuclear processing of the material 1020 . In some embodiments, the material 1020 may be present before nuclear fission ignition occurs within the propagating nuclear fission deflagration wave reactor 1000 , while in other embodiments the material 1020 may be added after nuclear fission ignition. In some embodiments, the material 1020 is removed from the propagating nuclear fission deflagration wave reactor 1000 , while in other embodiments it remains in place.」
([0127]一実施形態では、物質1020の中性子放射は、核分裂爆燃波伝搬燃焼前線1030の持続および/または範囲によって制御されてもよい。他の実施形態では、物質1020の中性子放射は、中性子修正構造を介して、中性子環境(例えば、Np237処理のための中性子エネルギースペクトル)を制御することによって制御されてもよい。他の実施形態では、物質1020の核プロセスのための核分裂生成中性子の一部を用いつつ、伝搬燃焼前線1030を維持するための中性子の外部源に依存して、伝搬核分裂爆燃波原子炉1000は、「安全な」臨界未満の状態で制御されてもよい。いくつかの実施形態では、物質1020は、伝搬核分裂爆燃波原子炉1000の中で核分裂点火が発生する前に存在していてもよく、他の実施形態では、物質1020は核分裂点火の後で添加されてもよい。いくつかの実施形態では、物質1020は伝搬核分裂爆燃波原子炉1000から除去され、他の実施形態では、該物質1020はそこに残される。)

c「FIG.8


上記記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「核分裂爆燃波燃焼前線は、核燃料の領域へと駆動され、これによって、核燃料の燃焼度は可変となり得、伝搬燃焼前線核分裂炉では、核分裂爆燃波燃焼前線は、誘起され伝搬され、
核分裂爆燃波燃焼前線を維持するために中性子の外部源に依存している
伝搬燃焼前線核分裂炉。」

(イ)引用文献2
米国特許出願公開第2006/0171498号明細書(引用文献2)には、次の記載がある。
「[0093]Component # 48 neutron emitter drum driver (an electrically-driven gear box) sets position of neutron emitter 」
([0093]コンポーネント#48 中性子放出ドラム駆動部(電動式ギヤボックス)は、中性子放出体の位置を設定する。)
上記記載から、引用文献2には、「中性子放出体の位置を設定する機構を設ける」との技術事項が記載されているといえる。

(ウ)引用文献3
米国特許第5045275号明細書(引用文献3)には、次の記載がある。
「Since the entire control tube is filled with the neutron absorbing gas, flux distortions due to partially inserted rods are eliminated allowing for higher power densities of the core. Further, the flux profile of the core can be flattened by adjusting the worth of various control tubes within the reactor core and/or varying the number of control tubes in different regions of the core. 」(8欄26-32行)
(制御管は、中性子吸収性のガスで充填されているので、部分的に挿入されたロッドによって生じている中性子束の歪みは除去され、炉心のより高い出力密度を可能にする。さらに、炉心の中性子束分布は、反応炉の炉心内の様々な制御管に相当するものを調整すること、および/または、炉心の異なる領域での制御管の数を変化させることにより平坦化することができる。 )
上記記載から、引用文献3には、「炉心の異なる領域で中性子吸収性のガスで充填されている制御管の数を変化させることにより、炉心の中性子束分布を平坦化することができる」との技術事項が記載されているといえる。

(エ)引用文献4
米国特許出願公開第2006/0109944号明細書(引用文献4)には、次の記載がある。
「[0017] These needs and others are satisfied by the present invention, which is directed to a method of finding fuel loading patterns for a nuclear reactor core. The method uses an algorithm which incorporates the equations of a nuclear design quality flux solution (e.g., the Analytic Coarse Mesh Finite Difference Method (ACMFD)) directly into a form suitable for solution by a commercially available Mixed Integer Program (MIP) solver. 」
(これらおよび他の必要性は本発明によって満たされ、これは、原子炉炉心の燃料装荷パターンを見つける方法を対象としている。方法は、市販の混合整数計画(MIP)ソルバーによる解に適した形式に核設計品質束解(例えば、解析的粗メッシュ有限差分(ACMFD)法)の式を直接組み込むアルゴリズムを使用する。)
上記記載から、引用文献4には、「原子炉炉心の燃料装荷パターンを見つける方法は、アルゴリズムを使用する」との技術事項が記載されているといえる。

(オ)引用文献5
特公昭50-034191号公報(引用文献5)には、次の記載がある。
「この駆動によって燃料制御要素5及びこれによって包囲される燃料要素18が上下方向に駆動されることになる。
冷却材は冷却材入口45より圧力容器22内に導入され、各燃料要素の先端に設けた冷却材導入孔より各燃料要素内に導入され、燃料棒からの熱をうばって冷却し、自らは加熱されて炉上方に出される。燃料要素を出た冷却材は圧力容器に設けた冷却材出口(図示せず)より熱交換器(図示せず)に導入されてこゝで水あるいは他の液体と熱交換し、発生した蒸気がタービン(図示せず)の作動源として利用される。
原子炉起動前は燃料制御要素の制御域12は最下端まで、すなわち固定燃料要素によって形成される炉心領域に位置せしめてあり、原子炉が臨界になることがない。かかる場合には燃料制御要素5の燃料域6は炉心の下方に位置されることになる。原子炉を起動する場合にはキャンドモータを始動し、これによって燃料制御要素5の燃料域6を除々に炉心領域に挿入させると共に制御域12を引き抜いて行く。これによって炉心における燃料密度を増して核反応度を増大させ、臨界に達せしめる。
原子炉の運転継続によって燃料燃焼が進み、反応度の低下が生ずるが、この反応度低下を補うためにキャンドモータを駆動して燃料域6を更に炉心に挿入させる。」(2頁3欄3-21行)
上記記載から、引用文献5には、「燃料制御要素5の燃料域6を炉心に挿入させると共に制御域12を引き抜くことによって、核反応度を制御すること」の技術事項が記載されているといえる。

(カ)引用文献6
特開昭60-003585号公報(引用文献6)には、次の記載がある。
「〔発明の実施例〕
実施例を第4図に示す。本発明の基本原理は、中性子吸収物質領域に付加した上記混在物質領域中の燃料親物質が燃焼初期では中性子吸収材、燃焼末期になるほど中性子増倍材となること、およびその中性子吸収材から中性子増倍材への転換がこの領域内の中性子スペクトルを軟化する減速材の存在により促進されることに着目したものである。
第4(a)図は、燃焼初期であり、制御棒は中性子吸収物質領域が100%挿入、これに付加した上記混在物質領域が炉心の下側に置かれた状態になっている。第4(b)図は、燃焼中期を示し、制御棒は中性子吸収物質領域と上記混在物質領域が、夫々、一部分だけ挿入されている。第4(c)図は、燃焼末期を示し、制御棒は上記混在物質領域が100%挿入され、中性子吸収物質領域は炉心上方に引き抜かれている。
第4(b)図のように、制御棒が中途挿入されている場合でも、上記混在物質は燃焼のあまり進まない間は中性子吸収材となるから、従来例(2)でみられた顕著な出力分布の歪は小さくなる。また、燃焼が進むにつれて、この混在物質領域では燃料親物質が中性子を吸収して核分裂性物質に転換されてゆくので、この領域は徐々に中性子増倍材としての性質を示すようになるが、この頃になると、中性子吸収物質領域は炉心の上方に大部分が引抜かれているから、従来例(2)でみられたような出力分布の平坦性が損なわれることはない。」(3頁右上欄1行-左下欄9行)
上記記載から、引用文献6には、「燃焼初期は、制御棒は中性子吸収物質領域が100%挿入、これに付加した上記混在物質領域が炉心の下側に置かれた状態になり、燃焼中期は、制御棒は中性子吸収物質領域と上記混在物質領域が、夫々、一部分だけ挿入された状態になり、燃焼末期は、制御棒は上記混在物質領域が100%挿入され、中性子吸収物質領域は炉心上方に引き抜かれていることで、出力分布の平坦性が損なわれることはない。」との技術事項が記載されているといえる。

(キ)引用文献7
国際公開第2008/097298号(引用文献7)には、次の記載がある。
「Referring now to FIGURE 8, in some embodiments a nuclear fission deflagration wave burnfront can be driven into areas of nuclear fission fuel as desired, thereby enabling a variable nuclear fission fuel burn-up. In a propagating burnfront nuclear fission reactor 800, a nuclear fission deflagration wave burnfront 810 is initiated and propagated as described above. Actively controllable neutron modifying structures 830 can direct or move the burnfront 810 in directions indicated by areas 820. In one embodiment, the actively controllable neutron modifying structures 830 insert neutron absorbers, such as without limitation Li6, BlO, or Gd, into nuclear fission fuel behind the burnfront 810, thereby driving down or lowering neutronic reactivity of fuel that is presently being burned by the burnfront 810 relative to neutronic reactivity of fuel ahead of the burnfront 810, thereby speeding up the propagation rate of the nuclear fission deflagration wave. In another embodiment, the actively controllable neutron modifying structures 830 insert neutron absorbers into nuclear fission fuel ahead of the burnfront 810, thereby slowing down the propagation of the nuclear fission deflagration wave. In other embodiments the actively controllable neutron modifying structures 830 insert neutron absorbers into nuclear fission fuel within or to the side of the burnfront 810, thereby changing the effective size of the burnfront 810.」(34頁4-18行)
(ここで図8によると、いくつかの実施形態では、核分裂爆燃波燃焼前線は、所望により、核燃料の領域へと駆動され、これによって、核燃料の燃焼度は可変となり得る。伝搬燃焼前線核分裂炉800では、核分裂爆燃波燃焼前線810は、上述したように誘起され伝搬される。活性制御可能な中性子修正構造830は、領域820で示される方向に燃焼前線810を導き動かす。一実施形態では、活性制御可能な中性子修正構造830は、限定するわけではないが、Li6、B10,またはGdなどの中性子吸収体を、燃焼前線810の後にある核燃料に挿入する。これによって、燃焼前線810の前における中性子反応度に比較して、燃焼前線810によって燃焼されつつある燃料の中性子反応度を押し下げ低減することができ、核分裂爆燃波の伝搬速度を上昇させることができる。他の実施形態では、活性制御可能な中性子修正構造830は、燃焼前線810の前にある核燃料に中性子吸収体を挿入し、これによって、核分裂爆燃波の伝搬の速度を落とす。他の実施形態では、活性制御可能な中性子修正構造830は、燃焼前線810の範囲内または横側における、核燃料に中性子吸収体を挿入し、これによって、燃焼前線810の有効な大きさを変化させる。)
上記記載から、引用文献7には、「活性制御可能な中性子修正構造830は、中性子吸収体を、燃焼前線810の後にある核燃料に挿入し、これによって、核分裂爆燃波の伝搬速度を上昇させ、他の実施形態では、燃焼前線810の前にある核燃料に中性子吸収体を挿入し、これによって、核分裂爆燃波の伝搬の速度を落とす。」との技術事項が記載されているといえる。
なお、この技術事項は、引用文献1の段落[0119]にも記載されている事項である。

(ク)引用文献8
特開平6-174882号公報(引用文献8)には、次の記載がある。
「【0006】また、従来の高速増殖炉は原子炉容器外部に照射される中性子の量が多く、遮蔽構造物内の空気中のアルゴンや窒素が放射化するので、それらの環境への放出を防ぐための厳重な格納設備が必要となり、上記冷却設備の大型化の問題とあいまって原子炉装置全体が大型化する問題があった。・・・(途中省略)・・・そこで、本発明の目的は、原子炉外部への発散される熱と中性子照射量が少なく、簡単な遮蔽構造物と冷却設備によって収容でき、熱の利用効率が高くかつ小型の高速増殖炉を提供することにある。
上記記載から、引用文献8には、「従来の高速増殖炉は原子炉容器外部に照射される中性子の量が多いことから、中性子照射量が少ない高速増殖炉を提供することが目的としてある。」の技術事項が記載されているといえる。

イ 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

引用発明の「伝搬核分裂爆燃波原子炉」は、本願発明1の「原子炉心;および当該原子炉心に配置されている少なくとも1つの核分裂反応炉の核燃料アッセンブリを備え」る「進行波核分裂反応炉」に相当する。
引用発明の「核分裂爆燃波燃焼前線」は、面状であることは明らかであり、「核燃料の領域」を「伝搬」するから、本願発明1の「燃焼前面は、上記少なくとも1つの核分裂反応炉の核燃料アッセンブリに対して移動する」とする構成の「燃焼前面」に相当する。
引用発明の「核分裂爆燃波燃焼前線は、核燃料の領域へと進行し、この進行につれて、核燃料の燃焼度は変化し得」ることにおいて、核燃料は核分裂爆燃波燃焼前線を生成するように構成されていることは明らかであり、また、原子炉運転途中状態では、「燃焼度」は、所定の燃焼度値以下となるように構成されるているものである。
引用発明の「核分裂爆燃波燃焼前線を維持するために中性子の外部源に依存している」ことと、本願発明1の「所定の燃焼度値以下の燃焼度値をもたらすために、上記燃焼前面の後方にある第1位置から上記燃焼前面の前方にある第2位置まで移動する中性子放出体をさらに備え」ることとは、共に「中性子放出体をさらに備える」点で共通する。

してみると、本願発明1と引用発明とは、
「原子炉心、および、
当該原子炉心に配置されている少なくとも1つの核分裂反応炉の核燃料アッセンブリを備えており、
当該核燃料アッセンブリは、燃焼前面を生成するように、かつ所定の燃焼度値以下の燃焼度値をもたらすように構成されており、
上記燃焼前面は、上記少なくとも1つの核分裂反応炉の核燃料アッセンブリに対して移動し、
中性子放出体をさらに備える、進行波核分裂反応炉。」で一致する。

そして、本願発明1と引用発明とは、以下の相違点を有する。
(相違点1)中性子放出体について、本願発明1は、「所定の燃焼度値以下の燃焼度値をもたらすために、上記燃焼前面の後方にある第1位置から上記燃焼前面の前方にある第2位置まで移動する」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点。

ウ 判断
相違点1について検討する。
引用文献2には、「中性子放出体の位置を設定する機構を設ける」こと、
引用文献3には、「炉心の異なる領域で中性子吸収性のガスで充填されている制御管の数を変化させることにより、炉心の中性子束分布を平坦化することができる」こと、引用文献4には、「原子炉炉心の燃料装荷パターンを見つける方法は、アルゴリズムを使用する」こと、引用文献5には、「燃料制御要素5の燃料域6を炉心に挿入させると共に制御域12を引き抜くことによって、核反応度を制御すること」、引用文献6には、「燃焼初期は、制御棒は中性子吸収物質領域が100%挿入、これに付加した上記混在物質領域が炉心の下側に置かれた状態になり、燃焼中期は、制御棒は中性子吸収物質領域と上記混在物質領域が、夫々、一部分だけ挿入された状態になり、燃焼末期は、制御棒は上記混在物質領域が100%挿入され、中性子吸収物質領域は炉心上方に引き抜かれていることで、出力分布の平坦性が損なわれることはない。」こと、引用文献7には、「活性制御可能な中性子修正構造830は、中性子吸収体を、燃焼前線810の後にある核燃料に挿入し、これによって、核分裂爆燃波の伝搬速度を上昇させ、他の実施形態では、燃焼前線810の前にある核燃料に中性子吸収体を挿入し、これによって、核分裂爆燃波の伝搬の速度を落とす。」こと、引用文献8には、「従来の高速増殖炉は原子炉容器外部に照射される中性子の量が多いことから、中性子照射量が少ない高速増殖炉を提供することが目的としてある。」ことの技術事項が記載されているが、いずれの文献にも、「所定の燃焼度値以下の燃焼度値をもたらすために、」中性子放出体を「上記燃焼前面の後方にある第1位置から上記燃焼前面の前方にある第2位置まで移動する」との本願発明1の構成については、記載されていない。また、他に該構成が公知又は周知技術であることを示す証拠もないから、該構成を当業者が容易に想到することができたとはいえない。
よって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2ないし8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)請求項2について
ア 対比
本願発明2と引用発明とを対比する。
本願発明2と引用発明とは、
「原子炉心、および、
当該原子炉心に配置されている少なくとも1つの核分裂反応炉の核燃料アッセンブリを備えており、
当該核燃料アッセンブリは、燃焼前面を生成するように、かつ所定の燃焼度値以下の燃焼度値をもたらすように構成されており、
上記燃焼前面は、上記少なくとも1つの核分裂反応炉の核燃料アッセンブリに対して移動し、
中性子放出体をさらに備える、進行波核分裂反応炉。」で一致する。

そして、本願発明2と引用発明とは、以下の相違点を有する。
(相違点2)本願発明2は、「核分裂反応炉の上記核燃料アッセンブリは、上記進行波核分裂反応炉における上記燃焼度値の制御に応じた、複数の構造的な材料の1つ以上に対する放射線損傷の制御が可能であり、核分裂反応炉の上記核燃料アッセンブリは、所定の放射線損傷値以下の放射線損傷値をもたらすことによって上記放射線損傷値の制御が可能であ」るのに対し、引用発明は、そのような特定がない点。

(相違点3)本願発明2は、中性子放出体を「所定の放射線損傷値以下の放射線損傷値をもたらすために、上記燃焼前面の後方にある第1位置から上記燃焼前面の前方にある第2位置まで移動す」るのに対し、引用発明は、そのような特定がない点。

イ 判断
相違点3について検討する。
引用文献8には、「従来の高速増殖炉は原子炉容器外部に照射される中性子の量が多いことから、中性子照射量が少ない高速増殖炉を提供することが目的としてある。」との技術事項が記載されており、当業者は、所定の放射線損傷値以下の放射線損傷値をもたらす制御をする動機があるといえる。
しかしながら、中性子放出体を「燃焼前面の後方にある第1位置から燃焼前面の前方にある第2位置まで移動する」構成については、引用文献2ないし7にも記載がない。また、他に該構成が公知又は周知技術であることを示す証拠もないから、相違点3に係る構成を当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
よって、本願発明2は、相違点2について検討するまでもなく、引用発明及び引用文献2ないし8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)小括
したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2ないし8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願発明2は、引用発明及び引用文献2ないし8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(1)(進歩性)
本願のその出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:米国特許出願公開第2008/0123795号明細書

本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
本願発明2は、引用文献1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

(2)(明確性)
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1,2に記載されている「当該原子炉心にさらされている少なくとも1つの核分裂反応炉の核燃料アッセンブリ」について、「さらされている」は「配置されている」(原文は、disposedであり、exposedではない。)の誤訳ではないか。

2 当審拒絶理由の判断
(1)進歩性について
ア 引用文献1の記載事項及び引用発明
引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記「第3」「2」「(1)」「ア」「(ア)引用文献1」に記載したとおりである。

イ 請求項1について
本願発明1と引用発明との対比及び判断については、上記「第3」「2」「(1)」「イ 対比」、「ウ 判断」に記載したとおりである。
よって、本願発明1は、引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。

ウ 請求項2について
(ア)対比
本願発明2と引用発明との対比及び判断については、上記「第3」「2」「(2)」「ア 対比」に記載したとおりである。

(イ)判断
相違点3について検討する。
原子炉において中性子の照射量が被覆材などの許容量未満となるように管理することは、技術常識といえる(例えば、特開2007-232429号公報の請求項1等参照。)。
しかしながら、中性子放出体を「燃焼前面の後方にある第1位置から燃焼前面の前方にある第2位置まで移動する」構成については、引用文献2ないし7にも記載がない。また、他に該構成が公知又は周知技術であることを示す証拠もないから、相違点3に係る構成を当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
よって、本願発明2は、相違点2について検討するまでもなく、引用発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

エ 当審拒絶理由の(1)(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、当審拒絶理由の(1)(進歩性)によっては、本願を拒絶することはできない。

(2)明確性について
本件補正により、請求項1及び2に記載の「さらされている」は「配置されている」と補正され明確となった。
よって、当審拒絶理由の(2)(明確性)は解消された。

(3)小括
したがって、当審拒絶理由の(1)(進歩性)及び(2)(明確性)によっては、本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-20 
出願番号 特願2012-504667(P2012-504667)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G21C)
P 1 8・ 121- WY (G21C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山口 敦司  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 森林 克郎
森 竜介
発明の名称 進行波核分裂反応炉、核燃料アッセンブリ、およびこれらにおける燃焼度の制御方法  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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