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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G03B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03B
管理番号 1325274
審判番号 不服2015-9589  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-25 
確定日 2017-03-07 
事件の表示 特願2010-271866「一眼レフカメラのブレーキ機構を備えたミラー駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月 4日出願公開,特開2011-150301,請求項の数(11)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成22年12月6日(優先権主張 平成21年12月25日)の出願であって,平成26年6月23日付けで拒絶理由が通知され,同年9月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成27年2月25日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成27年5月25日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当審において,平成28年10月31日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,同年12月27日に意見書及び手続補正書が提出された。

第2 本願の請求項1に係る発明
本願の請求項1ないし11に係る発明は,平成28年12月27日提出の手続補正書によって補正された請求項1ないし11に記載された事項によって特定されるものと認められるところ,そのうち請求項1の記載は次のとおりである。なお,請求項2ないし11は,いずれも,請求項1の記載を直接又は間接的に引用する形式で記載されたものである。

「ミラー回転軸に揺動自在に枢支され,該ミラー回転軸を軸として,撮影光学系からの光を反射させてファインダー光学系に導く観察位置と,撮影光学系からの光を反射せずに撮像手段に入射させる退避位置に揺動するミラー;
該ミラーの揺動に連動して回転するブレーキドラム;
このブレーキドラムに接離するブレーキシューを有し,ブレーキレバー軸を中心に揺動可能なミラーブレーキ部材;
観察位置から退避位置へ揺動するように付勢された上記ミラーを,自身の原動回転動作により退避位置から観察位置に復帰させるモータ駆動のミラー制御カム;及び
上記ミラー制御カムの原動回転動作により,上記ミラーブレーキ部材を上記ブレーキレバー軸を中心に揺動させて上記ブレーキシューを上記ブレーキドラムに対して接離動作させるブレーキレバー制御機構;
を有することを特徴とする一眼レフカメラのブレーキ機構を備えたミラー駆動装置。」(以下,「本願発明」という。)

第3 原査定の拒絶の理由について
1 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は,概略次のとおりである。

本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開平9-303437号公報

引用文献1の【0009】には,「往復回転ギヤ22は,ミラー12が観察位置と退避位置との間を往復移動するとき,1回転以下の回転角で往復回転するもの」,【0014】には,「ミラー12が上昇位置から下降するときには,往復回転ギヤ22が方向を反転して反時計方向に回動する。」と記載されており,上記「往復回転ギヤ」は本願の「(ミラーを退避位置から観察位置に復帰させるモータ駆動の)ミラー制御カム」に相当する。

2 判断
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載
引用文献1は,本願の優先権主張の日(以下,「優先日」という。)より前に頒布された刊行物であって,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【0001】
【技術分野】本発明は,往復回転部材の制動装置,及びこの制動装置を適用した一眼レフカメラのミラー制動装置に関する。
【0002】
【従来技術及びその問題点】例えばカメラにおいては,1回転以下の回転角で往復回転する部材に,その回転終期だけブレーキをかける必要があることがある。ところが,往復回転部材に特定の回転位相でブレーキが作用するようにすると,往回転の回転終期と復回転の回転始期,あるいは往回転の回転始期と復回転の回転終期とにともにブレーキ作用が働いてしまう。例えば,フォーカルプレンシャッタでは,往回転(シャッタ走行時)の回転終期にブレーキ作用が働けばよいのに,復回転の回転始期にもブレーキが作用してしまい,動作スピードの上からもエネルギーロスの上からも好ましくない。
【0003】また一眼レフカメラのミラー(クイックリターンミラー)は,撮影レンズを透過した光をファインダー系に導く観察位置と,撮影光路から退避する退避位置との間を移動する。このミラー駆動機構は,基本的に,ギヤ機構によって,このミラーをミラー軸を中心に往復回転駆動するものであるが,そのギヤ機構中の1回転以下の往復回動部材に,ミラーの上昇と下降の終端時にブレーキを作用させると,ミラーが上昇端から下降を開始するとき,下降端から上昇を開始するときにもブレーキが作用してしまい,動作スピードの上からもエネルギーロスの上からも好ましくない。
【0004】
【発明の目的】本発明は,1回転以下の回動角を有する往復回転部材にブレーキ作用を与える際の以上の問題点を解決し,例えば,往回転の回転終期にはブレーキ作用が得られるが復回転の回転始期にはブレーキ作用が生じないというように,往復回転部材の往回転と復回転とで,同一の回転位相でありながら異なるブレーキ作用が得られる制動装置を得ることを目的とする。また本発明は,より具体的には,一眼レフカメラのミラーが上昇端と下降端に達する直前にはブレーキが作用するのに対し,ミラーが上昇端から下降を開始するとき,及び下降端から上昇を開始するときにはブレーキが作用しないミラーの制動装置を得ることを目的とする。
【0005】
【発明の概要】本発明の往復回転部材の制動装置は,1回転以下の回動角で往復回転する往復回転部材;この往復回転部材に形成したカム面;往復回転部材と連動して回転するブレーキドラム;及びカム面に係合する制御腕と,ブレーキドラムに係合するブレーキ腕とを有し,カム面形状に応じ揺動して上記ブレーキ腕をブレーキドラムに対して接離させるブレーキレバー;を備え,カム面は,形状の異なる2つのカム面を有し,ブレーキレバーの制御腕は弾性変形可能で,該往復回転部材の往回転と復回転との少なくとも一部の同一の回転位相で,該制御腕を2つのカム面の異なるカム面との係合可能位置に位置することを特徴としている。」

(イ) 「【0007】
【発明の実施の形態】本発明を一眼レフカメラのミラー制動装置に適用した実施形態を説明する。図1に示すように,撮影レンズ11の後方に位置するクイックリターンミラー(以下単にミラー)12は,ミラーシート12aと,このミラーシート12a上の反射ミラー12bとを備え,その上端部のミラー軸13を中心に回動可能に支持されている。ミラー軸13は,図示しないミラーボックスに支持されている。このミラー12は,引張ばね14によって下降方向に回動付勢され,その下降回動端はストッパピン15が規制している。この下降回動端がミラー12の観察位置であり,撮影レンズ11を透過した被写体光は,反射ミラー12bで反射してピント板16上に結像する。ピント板16の上方には,ペンタプリズム(又はペンタミラー)17と接眼レンズ18が配置され,ピント板16上の被写体像が観察される。ミラー12の上昇回動端は,図示しないストッパにより規制される。
【0008】ミラーシート12aには,ミラー軸13と同軸のセクタギヤ19が形成され,このセクタギヤ19に駆動ギヤ20が噛み合っている。図2以下は,この駆動ギヤ20回りのミラー制動装置の構成例である。親板21に回転自在に支持された駆動ギヤ20は,同軸の小ギヤ20aを有し,この小ギヤ20aに往復回転ギヤ22が噛み合っている。駆動ギヤ20は,中間大ギヤ23aと噛み合い,中間大ギヤ23aと同軸の中間小ギヤ23bにはブレーキドラム24の小ギヤ24aが噛み合っている。
【0009】往復回転ギヤ22は,ミラー12が観察位置と退避位置との間を往復移動するとき,1回転以下の回転角で往復回転するもので,図示例では,図2に示す角度θが往復回転角である。この往復回転ギヤ22には,軸方向の上下2段の第1カム面(上カム面)25と第2カム面(下カム面)26が形成されている。この第1,第2のカム面25,26は,往復回転角の中心に対し対称な形状を有し,カム面25は,中心の大径の非ブレーキ区間25aの両側に小径のブレーキ区間25bを備えている。カム面26は,ブレーキ区間25bにほぼ対応する大径の非ブレーキ区間26aと,この非ブレーキ区間26aを非ブレーキ区間25aに接続する傾斜カム面26bと,非ブレーキ区間25aの下に位置する軸と直交する方向の案内面26cを有している。案内面26cの外周の大径部分26dは,カムとしての作用を持っていない。非ブレーキ区間25aと非ブレーキ区間26aは,往復回転ギヤ22を平面的にみたとき同一径の円弧上に位置している。また,カム面25と26の上記以外の区間は,非ブレーキ区間と同一径の円弧(円筒面)である。
【0010】親板21上には,軸30でブレーキレバー31が枢着されており,このブレーキレバー31は,制御腕32,ブレーキ腕33,及びばね腕34を一体に有している。このブレーキレバー31は,全体が弾性変形可能な金属材料から構成されていて,その制御腕32の先端には,該制御腕32の弾性変形により,第1,第2のカム面25,26に選択して係合するカムフォロア35が設けられている。ばね腕34は,親板21上に立てたポール36と係合して,ブレーキレバー31をそのカムフォロア35がカム面25,26に係合する方向に回動付勢している。ブレーキ腕33は,カム面25,26の形状に応じて,ブレーキレバー31が揺動すると,ブレーキドラム24に対して接離する。
【0011】上記構成の本装置は,次のように作動する。ミラー12が図1の観察状態にあるとき,各ギヤは,図2の位置にあり,ブレーキレバー31のカムフォロア35は,カム面26の非ブレーキ区間26aに係合している。カムフォロア35が非ブレーキ区間26aと非ブレーキ区間25aに係合する状態では,ブレーキレバー31のブレーキ腕33はブレーキドラム24と非接触の状態を保ち,カムフォロア35がブレーキ区間25bに係合する状態では,ブレーキ腕33はブレーキドラム24と接触する。
【0012】この状態において,図示しない駆動源により駆動ギヤ20がミラー上昇方向(図1では時計方向,図2では反時計方向)に回動されると,往復回転ギヤ22は図2で時計方向に回動する。すると,ブレーキレバー31のカムフォロア35は,往復回転ギヤ22と一体のカム面26の非ブレーキ区間26aから,傾斜カム面26bを通って,カム面25のカム面25c上に上がり,非ブレーキ区間25aに接触する(図4)。制御腕32の弾性は,このカム面26からカム面25へのカムフォロア35の接触高さの変更を許す。非ブレーキ区間26aと非ブレーキ区間25aは,同一の大径の円弧(円筒面)をなしており,この間,ブレーキ腕33はブレーキドラム24との非接触状態を維持する。
【0013】ミラー12が上昇端の近傍に達すると,カムフォロア35は,カム面25の非ブレーキ区間25aからブレーキ区間25bへと相対位置を変更する。案内面26cは,カムフォロア35が非ブレーキ区間25aから傾斜カム面26bを通って下段の非ブレーキ区間26aに移行するのを許さないように,非ブレーキ区間25aとブレーキ区間25bのカム面を囲むように径方向に突出している。カムフォロア35がブレーキ区間25bに接触可能な位置に来ると,ブレーキレバー31は反時計方向に揺動してブレーキ腕33がブレーキドラム24に接触し,ブレーキドラム24の回転,つまりミラー12の回動にブレーキをかける(図5)。この図5の状態では,ブレーキ腕33は,自身の弾性によってブレーキドラム24と強く接触し,この状態では,カムフォロア35はブレーキ区間25bに係合可能ではあるが,実際には接触しない。そして,ミラー12が上昇端(退避位置)に達すると(往復回転ギヤ22が一方の回動端に達すると),カムフォロア35はブレーキ区間25bの終端に達し,制御腕32は自身の弾性により,非ブレーキ区間26aとの接触位置に復帰する。以上がミラー12の上昇時のブレーキ作用である。
【0014】ミラー12が上昇位置から下降するときには,往復回転ギヤ22が方向を反転して反時計方向に回動する。すると,ブレーキレバー31のカムフォロア35は,往復回転ギヤ22と一体のカム面26の非ブレーキ区間26aから,傾斜カム面26bを通って,カム面25のカム面25c上に上がり,非ブレーキ区間25aに接触する(図6)。つまり,カムフォロア35は,往復回転ギヤ22の往回転(ミラー上昇回転)時に接触したブレーキ区間25bとは異なる非ブレーキ区間26aに接触した後,非ブレーキ区間25aに接触する。よって,この間,ブレーキ腕33はブレーキドラム24との非接触状態を維持する。ミラー12が下降端の近傍に達すると,カムフォロア35は,非ブレーキ区間25aからブレーキ区間25bへと相対位置を変更する。案内面26cは,カムフォロア35が傾斜カム面26bを通って下段の非ブレーキ区間26aに移行するのを許さない。カムフォロア35がブレーキ区間25bに接触可能な位置に来ると,ブレーキレバー31は反時計方向に揺動してブレーキ腕33がブレーキドラム24に接触し,ブレーキドラム24の回転にブレーキをかけ,従ってミラー12の回動にブレーキがかかる。つまり,カムフォロア35は,往復回転ギヤ22の往回転(ミラー上昇回転)時に接触した非ブレーキ区間26aとは異なるブレーキ区間25bに接触可能となる。この状態は,ミラー12の上昇時の終端における状態と同じであり,ブレーキ腕33は,自身の弾性によってブレーキドラム24と強く接触する。この状態では,カムフォロア35はブレーキ区間25bに係合可能ではあるが,実際には接触しない。そして,ミラー12が下降端(観察位置)に達すると(往復回転ギヤ22が他方の回動端に達すると),カムフォロア35はブレーキ区間25bの終端に達し,制御腕32は自身の弾性により,非ブレーキ区間26aとの接触位置に復帰する。以上がミラー12の下降時時のブレーキ作用である。
【0015】以上の実施例から明らかなように,ミラー12が上昇端と下降端に達する直前にはブレーキが作用するのに対し,ミラー12が上昇端から下降を開始するとき,及び下降端から上昇を開始するときにはブレーキが作用しない。よって,ミラー12の動作スピードが遅くなることがなく,エネルギーロスもない。」

(ウ) 「【0017】
【発明の効果】以上のように本発明の制動装置によれば,往復回転部材の往回転と復回転とで,同一の回転位相でありながら異なるブレーキ作用を得ることができる。また本発明は,一眼レフカメラのミラーの制動装置に適用すれば,上昇端と下降端に達する直前にはブレーキが作用するのに対し,ミラーが上昇端から下降を開始するとき,及び下降端から上昇を開始するときにはブレーキが作用しない装置が得られる。」

(エ) 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による往復回転部材の制動装置を一眼レフカメラのミラー駆動機構に適用した実施形態を示す,ミラーの観察位置での側面図である。
【図2】図1のミラーの駆動系(制動系)の平面図である。
・・・(中略)・・・
【図4】図2とは異なる作動状態の平面図である。
【図5】図2,図4とは異なる作動状態の平面図である。
【図6】図2,図4,図5とは異なる作動状態の平面図である。
・・・(中略)・・・
【図1】

【図2】

・・・(中略)・・・
【図4】

【図5】

【図6】



イ 引用文献1に記載された発明
前記ア(イ)の【0009】に記載されたミラー12の「退避位置」が【0007】に記載された「ミラー12の上昇回動端」を指しており,当該「退避位置」又は「上昇回動端」が,前記ア(ア)の【0003】において説明された従来の一眼レフカメラのミラーの退避位置と同様に,「撮影光路から退避する退避位置」であることが当業者に自明であるから,前記ア(ア)ないし(エ)の記載から,引用文献1に次の発明が記載されていると認められる。

「ミラーシート12aと反射ミラー12bとを備え,撮影レンズ11を透過した被写体光を反射してピント板16,ペンタプリズム17及び接眼レンズ18に導く観察位置と,撮影光路から退避する退避位置との間で,ミラー軸13を中心に往復回動可能に支持されるとともに,引張ばね14によって観察位置方向に回動付勢されたミラー12と,
前記ミラーシート12aに形成されたセクタギヤ19に噛み合うとともに,駆動源により回動される駆動ギヤ20と,
中間大ギヤ23aと同軸の中間小ギヤ23bに噛み合う小ギヤ24aを有し,前記中間大ギヤ23aが前記駆動ギヤ20と噛み合っているブレーキドラム24と,
前記駆動ギヤ20が有する同軸の小ギヤ20aと噛み合うとともに,第1カム面25及び第2カム面26が形成された往復回転ギヤ22と,
前記第1カム面25及び第2カム面26と係合するカムフォロア35が先端に設けられた制御腕32と,ブレーキドラム24に対して接離するブレーキ腕33と,前記カムフォロア35が前記第1カム面25及び第2カム面26に係合するように回動付勢するばね腕34とを一体に有し,軸30に枢着されたブレーキレバー31と,
を有し,
前記第1カム面25及び第2カム面26の形状は,前記ミラー12が観察位置にあるとき,前記ブレーキ腕33が前記ブレーキドラム24と非接触の状態となり,駆動源により前記駆動ギヤ20を回動して前記ミラー12を退避位置の方向へ回動させ,退避位置の近傍に達すると,前記ブレーキレバー31が揺動して前記ブレーキ腕33が前記ブレーキドラム24に接触することにより,その回転にブレーキをかけ,前記ミラー12が退避位置に達すると,前記ブレーキ腕33が前記ブレーキドラム24と非接触の状態に復帰し,前記ミラー12を退避位置から観察位置方向へ回動させ,観察位置の近傍に達すると,前記ブレーキレバー31が揺動して前記ブレーキ腕33が前記ブレーキドラム24に接触することにより,その回転にブレーキをかけ,前記ミラー12が観察位置に達すると,前記ブレーキ腕33が前記ブレーキドラム24と非接触の状態に復帰するようなものとされている,
一眼レフカメラのミラー制動装置。」(以下,「引用発明」という。)

(2)対比
引用発明の「ミラー軸13」,「撮影レンズ11」,「撮影レンズ11を透過した被写体光を反射してピント板16,ペンタプリズム17及び接眼レンズ18に導く観察位置」,「撮影光路から退避する退避位置」,「ミラー12」,「ブレーキドラム24」,「ブレーキ腕33」,「軸30」,「ブレーキレバー31」及び「一眼レフカメラのミラー制動装置」が,本願発明の「ミラー回転軸」,「撮影光学系」,「撮影光学系からの光を反射させてファインダー光学系に導く観察位置」,「撮影光学系からの光を反射せずに撮像手段に入射させる退避位置」,「ミラー」,「ブレーキドラム」,「ブレーキシュー」,「ブレーキレバー軸」,「ミラーブレーキ部材」及び「一眼レフカメラのブレーキ機構を備えたミラー駆動装置」にそれぞれ相当する。
また,引用発明においては,駆動源により回動される駆動ギヤ20に,ミラーシート12aに形成されたセクタギヤ19が噛み合うとともに,中間大ギヤ23aも噛み合っており,当該中間大ギヤ23aと同軸の中間小ギヤ23bにの小ギヤ24aが噛み合っていて,駆動源による駆動ギヤ20の回動に伴って,「ミラー12」が回動するとともに「ブレーキドラム24」も回動するから,「ブレーキドラム24」(本願発明の「ブレーキドラム」に相当する。以下,「(2)対比」の欄中で,「」で囲まれた引用発明の構成に付された()内の文言は,当該引用発明の構成に相当する本願発明の発明特定事項を示す。)は,「ミラー12」(ミラー)の揺動に連動して回転するものであるといえる。したがって,引用発明の「ブレーキドラム24」は,本願発明の「ミラーの揺動に連動して回転するブレーキドラム」に相当する。
また,引用発明の「ミラー12」は,引張ばね14によって観察位置方向に回動付勢されているところ,本願発明の「観察位置から退避位置へ揺動するように付勢されたミラー」と,「観察位置及び退避位置のうちの一方から他方へ揺動するように付勢された」点で共通する。
また,引用発明においては,回動する「往復回転ギヤ22」の「第1カム面25及び第2カム面26」にブレーキレバー31の「カムフォロア35」が「ばね腕34」の付勢力により係合することで,「ブレーキレバー31」(ミラーブレーキ部材)が揺動して「ブレーキ腕33」(ブレーキシュー)が「ブレーキドラム24」(ブレーキドラム)に接離するよう構成されているから,引用発明の「ばね腕34」,「カムフォロア35」等からなる機構は,本願発明の「ブレーキレバー制御機構」と,「カムの回転動作により,ミラーブレーキ部材をブレーキレバー軸を中心に揺動させてブレーキシューをブレーキドラムに対して接離動作させる」点で共通する。
したがって,引用発明と本願発明は,
「ミラー回転軸に揺動自在に枢支され,該ミラー回転軸を軸として,撮影光学系からの光を反射させてファインダー光学系に導く観察位置と,撮影光学系からの光を反射せずに撮像手段に入射させる退避位置に揺動するミラー;
該ミラーの揺動に連動して回転するブレーキドラム;
このブレーキドラムに接離するブレーキシューを有し,ブレーキレバー軸を中心に揺動可能なミラーブレーキ部材;
カムの回転動作により,上記ミラーブレーキ部材を上記ブレーキレバー軸を中心に揺動させて上記ブレーキシューを上記ブレーキドラムに対して接離動作させるブレーキレバー制御機構;
を有し,
上記ミラーが,観察位置及び退避位置のうちの一方から他方へ揺動するように付勢された,
一眼レフカメラのブレーキ機構を備えたミラー駆動装置。」
である点で一致し,次の点で相違する。なお,引用発明において,ミラー12を観察位置から退避位置へ回動させるのは,駆動源により回動される駆動ギヤ20であり,ミラー12を退避位置から観察位置へ回動させるのは,引用文献1に明記はないものの,引張ばね14の弾性力あるいは駆動源により回動される駆動ギヤ20であることが明らかであって,「往復回転ギヤ22」はミラー12の回動に連動して回動する部材にすぎないから,当該「往復回転ギヤ22」が本願発明の「ミラーを,自身の原動回転動作により退避位置から観察位置に復帰させるモータ駆動のミラー制御カム」に相当するとはいえない。

相違点:
本願発明では,「ミラー」が観察位置から退避位置へ揺動するように付勢され,当該ミラーを自身の原動回転動作により退避位置から観察位置に復帰させるモータ駆動の「ミラー制御カム」を有しており,当該「ミラー制御カム」の原動回転動作により,「ブレーキレバー制御機構」によるミラーブレーキ部材の揺動及びブレーキシューの接離も行われるのに対して,
引用発明では,「ミラー12」は観察位置方向に回動付勢されており,ミラー12を自身の原動回転動作により退避位置から観察位置に復帰させるモータ駆動の「ミラー制御カム」は設けられておらず,「ばね腕34,カムフォロア35等からなる機構」によるブレーキレバー31の揺動及びブレーキ腕33の接離は,ミラー12の回動動作に連動して回転する「往復回転ギヤ22」の回転動作により行われる点。

(3)相違点の容易想到性についての判断
引用文献1には,観察位置から退避位置へ揺動するように付勢されたミラー12を,自身の原動回転動作により退避位置から観察位置に復帰させるモータ駆動の「ミラー制御カム」を設け,当該「ミラー制御カム」の原動回転動作により,ブレーキレバー31の揺動及びブレーキ腕33の接離を行うことについては記載も示唆もない。
また,前置報告書で提示された文献を含め,前述したような作用,機能を有する「ミラー制御カム」を開示する先行技術は見当たらない。
したがって,引用発明を,相違点に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者といえども,容易に想到し得たことではない。
よって,本願発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本願の請求項2ないし11は,いずれも,請求項1の記載を直接又は間接的に引用する形式で記載されたものであり,本願発明をさらに限定したものであるから,本願発明と同様に,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)小括
前記(3)のとおりであって,本願の請求項1ないし11に係る発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由は,概略,次のとおりである。

本願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法36条6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない。

一般に,「接離動作」とは,離間位置から接触位置への移動及び接触位置から離間位置への移動を意味する用語であるから,請求項1(平成28年12月27日提出の手続補正書による補正前の請求項1である。以下,本欄において,請求項及び明細書は前記補正前の請求項及び明細書を指す。)に記載された「接離動作させるブレーキレバー制御機構」は,「ブレーキレバー制御機構」が,接触位置から離間位置へ移動させるとともに,離間位置から接触位置へ移動させることを特定しているものと解されるところ,当該解釈を前提とすると,請求項5に係る発明は,前述したような「ブレーキレバー制御機構」とは独立して,ミラーブレーキ部材をブレーキドラムから離間させる「ブレーキ解除レバー」を備えていることになる。
しかしながら,本願明細書には,そのようなものは記載されていないから,請求項1記載の「接離動作」を,通常の意味に解する場合には,請求項5に係る発明及び当該請求項5の記載を引用する形式で記載された請求項6ないし11に係る発明は,本件出願の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないし,請求項1記載の「接離動作」が通常の意味でないとすると,当該「接離動作」が如何なる動作を意味しているのかが明確に特定できないから,請求項1に係る発明及び当該請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項2ないし11に係る発明は,明確でない。
また,本件出願の明細書に記載された「ミラー駆動ばねチャージレバー321」は「ブレーキ解除」機能を有していないから,「ミラー駆動ばねチャージレバーによるブレーキ解除のタイミング」なる発明特定事項が記載された請求項7に係る発明及び当該請求項7の記載を引用する形式で記載された請求項8ないし11に係る発明は,本件出願の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない,あるいは明確ではない。

2 判断
平成28年12月27日提出の手続補正書による補正によって,請求項1ないし11に係る発明は明確となり,かつ,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとなった。
よって,当審拒絶理由は解消した。

3 小括
以上のとおりであるから,当審拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。


第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-20 
出願番号 特願2010-271866(P2010-271866)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G03B)
P 1 8・ 537- WY (G03B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高橋 雅明  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 渡邉 勇
清水 康司
発明の名称 一眼レフカメラのブレーキ機構を備えたミラー駆動装置  
代理人 三浦 邦夫  
代理人 三浦 邦陽  

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