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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B66B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B66B
管理番号 1325472
審判番号 不服2016-2768  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-24 
確定日 2017-03-21 
事件の表示 特願2015-524540「エレベータ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月26日国際公開、WO2015/040669、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願(以下、「本願」という。)は、平成25年9月17日を国際出願日とする出願であって、平成27年5月13日に国内書面とともに明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成27年7月16日に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成27年8月17日付けで拒絶理由が通知され、平成27年9月25日に意見書が提出されたが、平成27年12月21日付けで拒絶査定がされ、平成28年2月24日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成28年6月7日に上申書が提出され、平成28年10月20日付けで当審における拒絶理由が通知され、平成28年11月28日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年12月12日付けで当審における再度の拒絶理由が通知され、平成29年1月19日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成29年1月19日提出の手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、本願の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
救出階においてエレベータの乗場に設けられた避難運転モード要求スイッチと、
各階において前記エレベータの乗場に設けられた操作ボタンと、
通常運転モード時に前記操作ボタンが操作されると当該操作の行われた乗場のある階に移動するかごと、
前記かごの運転を制御し、前記避難運転モード要求スイッチが操作された状態に維持されている場合に前記かごに対して前記救出階と避難階との間を行き来する避難運転モードでの動作を維持させ、当該避難運転モードにおいて前記かごが前記救出階に到着すると前記かごの扉を開放し、その後、前記かごが前記救出階に停止している際に前記救出階の前記操作ボタンが操作されると前記かごの扉を閉鎖し、その後、前記かごを前記避難階へ移動させる制御装置と、
を備えたことを特徴とするエレベータ装置。
【請求項2】
前記エレベータの各階の乗場に設けられ、前記避難運転モード要求スイッチが操作された救出階に対応した番号を表示する救出階表示装置と、
前記エレベータの各階の乗場に設けられ、前記かごの移動方向を表示する移動方向表示装置と、
を備えた請求項1に記載のエレベータ装置。
【請求項3】
前記救出階の乗場又は前記かご内に設けられ、避難に前記かごを利用できる旨を表示する避難誘導表示装置、
を備えた請求項1又は請求項2に記載のエレベータ装置。
【請求項4】
前記避難階の乗場に設けられ、避難に前記かごを利用している旨を表示する使用状態表示装置、
を備えた請求項1?請求項3のいずれか一項に記載のエレベータ装置。
【請求項5】
前記救出階以外の階において前記エレベータの乗場に設けられ、前記避難運転モード要求スイッチが操作された状態に維持されている際に前記かごへ進入できない旨を表示する第1進入禁止表示装置、
を備えた請求項1?請求項4のいずれか一項に記載のエレベータ装置。
【請求項6】
前記救出階の乗場と前記避難階の乗場と前記かご内に設けられ、互いを利用して通話し得るように設けられた通報装置、
を備えた請求項1?請求項5のいずれか一項に記載のエレベータ装置。
【請求項7】
前記避難階の乗場に設けられた強制帰着運転モード要求スイッチ、
を備え、
前記かごは、前記強制帰着運転モード要求スイッチが操作された際に前記避難階に帰着する請求項1?請求項6のいずれか一項に記載のエレベータ装置。
【請求項8】
前記救出階の乗場及び前記避難階の乗場に設けられ、前記強制帰着運転モード要求スイッチが操作された際に前記かごへ進入できない旨を表示する第2進入禁止表示装置、
を備えた請求項7に記載のエレベータ装置。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の内容
(1)平成27年8月17日付け拒絶理由の内容

「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項1,2
・引用文献等1,2
・備考
引用文献1(特に、段落0016-0050参照)には、エレベータの乗場に設けられた避難運転モード要求スイッチ(FW制御キースイッチ19)と、該避難運転モード要求スイッチが操作された状態に維持されている場合は、救出階と避難階との間を行き来する避難運転モードでの動作を維持するかごと、かごが救出階に停止している際に操作された場合かごを避難階へ移動させる動作制御装置を備え、避難運転モード要求スイッチを用いてかごを避難階に向かわせるエレベータ装置の発明が記載されている。
引用文献2(特に、段落0018参照)には、管制運転時に乗場釦4を操作することによりドアを開閉させる技術が記載されている。
そして、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の上記技術を適用することは、当業者であれば容易に想到し得たことであり、その際、乗場釦の操作により戸閉後かごを避難階に向かわせることは、当業者が適宜設計し得る事項である。

・請求項3-6
・引用文献等1-3
・備考
引用文献3(特に、段落0016-0019,図5参照)には、エレベータの避難運転において、救出階、及びかごが利用可能か否か(かごを利用出来る旨及びかごへ進入できない旨)を表示する表示装置を設ける技術が記載されている。
そして、引用文献1記載の発明に引用文献3記載の上記技術を適用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。その際、かごの移動方向、かごの使用状態を表示する表示装置を設けることは、当業者が適宜設計し得る事項である。

・請求項7
・引用文献等1-4
・備考
エレベータ装置において、各乗場とかご内で互いに通話可能な通報装置を設けることは、従来周知の技術である(例えば、引用文献4の段落0016-0018,図1等参照)。

・請求項8,9
・引用文献等1-5
・備考
エレベータ装置において、避難階に強制帰着運転モード要求スイッチを設けることは、従来周知の技術である(例えば、引用文献5の段落0017,0023等参照)。

<引用文献等一覧>
1.国際公開第2013/001643号
2.特開2005-126155号公報
3.特開2013-10579号公報
4.特開2012-176813号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2003-276964号公報(周知技術を示す文献)」

(2)平成27年12月21日付け拒絶査定の内容

「 この出願については、平成27年 8月17日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
●理由(特許法第29条第2項)について

・請求項1-9
・引用文献等1-5
出願人は平成27年9月25日付け意見書において、「引用文献1に開示された発明は、火災等の緊急避難時に避難運転を行うエレベータ装置において、救出階に設けられた避難運転モード要求スイッチ(FW制御キースイッチ19)の操作により、避難誘導員(防火責任者)が避難運転を制御する構成となっております。これに対し、引用文献2に開示された発明は、地震等発生時の管制運転時にエレベータを休止するエレベータの制御装置において、乗場ボタンの操作によりドアを開閉できる構成となっております。非常時に避難運転を行う引用文献1に記載のエレベータ装置に、非常時に休止状態になる引用文献2に記載のエレベータの制御装置を組み合わせることは、当業者であっても困難であると思料致します。」と主張している。
しかしながら、引用文献1及び引用文献2記載の発明は、ともに非常時のエレベータ運転において、乗場の操作ボタンからエレベータの制御を行うという共通の技術分野に属する。そうすると、引用文献1記載の発明において、エレベータの制御を行う手段として、FW制御キースイッチ19の操作に代えて引用文献2記載の乗場釦の操作を適用する動機付けは十分にあるといえる。また、引用文献1記載の発明は、乗場にあるFW制御キースイッチ19の操作により、かごを避難階に直行させるものであるから、FW制御キースイッチ19の操作に代えて乗場釦の操作を適用したものにおいて、かごが避難階に直行するよう制御されることは明らかである。
よって、出願人の上記主張は採用できない。

したがって、請求項1に係る発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

請求項2-9に係る発明についても同様に、上記拒絶理由通知書に記載した理由を解消していない。

<引用文献等一覧>
1.国際公開第2013/001643号
2.特開2005-126155号公報
3.特開2013-10579号公報
4.特開2012-176813号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2003-276964号公報(周知技術を示す文献)」

2 原査定の理由についての判断
2-1 引用文献
(1)引用文献1(国際公開第2013/001643号)
(1-1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、以下の記載がある。なお、下線は、理解の一助のため当審で付したものである。

(ア)「 [0013] 巻上機1の運転は、エレベータコントローラ6により制御される。即ち、かご4の運行は、エレベータコントローラ6により制御される。エレベータコントローラ6には、メモリ7を含むマイクロコンピュータが用いられている。
[0014] かご4には、かご操作パネル(COP)9と、かご4内の利用率を調査する利用率検出手段10とが設けられている。利用率検出手段10としては、例えば、かご4内の利用状況を光学的に検出する光センサ、又はかご4内の利用状況を重量により検出する秤装置等が用いられる。
[0015] かご操作パネル9には、複数の行先階ボタン13と、かご内スピーカ14と、避難階ボタン(避難階スイッチ)15と、バイパスキースイッチ16とが設けられている。避難階ボタン15及びバイパスキースイッチ16の機能については後述する。
[0016] 各階の乗場には、乗場ドア装置11及び乗場操作パネル12が設けられている。乗場操作パネル12には、上下一対の乗場ボタン17と、乗場スピーカ18と、避難運転入力手段としてのFW制御キースイッチ19とが設けられている。
[0017] FW制御キースイッチ19は、防火責任者のみが避難運転指令信号を入力可能となっている。エレベータ装置の運転モードが避難モードに切り替わる緊急事態時に、防火責任者は、乗場に来て、FW制御キースイッチ19を用いてエレベータ装置による避難運転を制御する。
[0018] 次に、図2は図1のエレベータ装置を用いた緊急事態時の避難手順を示すフローチャートである。建物内に設けられた火災感知器又は煙感知器により火災が感知されると、感知器からエレベータコントローラ6に即座に信号が入力される(ステップS1)。建物内の火災の存在に関する情報を得ると、エレベータ装置の運転モードが自動的に避難モードに切り替えられる(ステップS2)。代替的に、建物が24時間監視システムを有する場合、避難モードへの切り替えは建物管理員が手動で行うこともできる。
[0019] 運転モードが避難モードに切り替わると、全てのかご呼び及び乗場呼びが消去され(ステップS3)、避難モードに関する音声アナウンス情報が乗場で待つ乗客に与えられる(ステップS4)。
[0020] 続いて、かご4が、他のいずれの階にも停止せずに、予め指定された避難階(例えば建物の玄関階)に移動される(ステップS5)。例えば、かご4が避難階の上方で上方へ移動していた場合、かご4は、まず減速され、ドアを閉めたまま停止された後、今度は下方への走行を開始されて、避難階まで移動される。
[0021] かご4が避難階に到着すると、かごドア装置及び乗場ドア装置11が開放され、かご4から出て係員(建物管理員、防火責任者又は消防士)からのさらなる指示に従うよう乗客に音声指示が与えられる(ステップS6)。このような音声指示は、かご内スピーカ14を介してかご4内の乗客に与えられる。
[0022] 防火責任者は、火災警報を聞くと、乗場に来てFW制御キースイッチ19にキーを挿入し、かご4を避難運転させるための避難運転指令信号を入力する(ステップS21)。エレベータコントローラ6は、緊急避難時に乗場操作パネル12からの避難運転指令信号に応じてかご4を避難運転する。また、エレベータコントローラ6は、避難運転指令信号の入力に応じて、避難運転として、避難運転指令信号が入力された階と避難階との間でかご4を移動させる。
[0023] なお、避難運転入力手段は、FW制御キースイッチ19に限定されるものではなく、例えば、IDカードの情報を読み取るカードリーダ、コードを読み取るコードリーダ、又は他の識別手段であってもよい。
[0024] 2人以上の防火責任者が異なる乗場でFW制御キースイッチ19を用いる場合、即ち、2以上の乗場のFW制御キースイッチ19から避難運転が申し入れられる場合がある。この場合、エレベータコントローラ6は、避難運転が最初に申し入れられたFW制御キースイッチ19からの避難運転指令信号のみを有効化する(ステップS22)。
[0025] また、この場合、エレベータコントローラ6は、他の避難運転の申し入れをメモリ7に保存する(ステップS23)。これにより、エレベータコントローラ6は、有効化しているFW制御キースイッチ19で避難運転の制御が取り消されると、避難運転の申し入れの順で次のFW制御キースイッチ19を有効化することができる。
[0026] 避難運転の申し入れ(呼び)がメモリ7に保存されると、防火責任者は、エレベータコントローラ6による何らかのフィードバックを得る(ステップS24)。また、別の階にいる防火責任者によって避難運転が実施される場合に、その旨の音声情報が乗場スピーカ18から乗場の待ち客に与えられる。
[0027] エレベータコントローラ6は、防火責任者から呼ばれた後に、利用率検出手段10を用いて、避難階においてかご4が無人になっているかどうかをチェックする(ステップS7)。このとき、ドアを一定時間(全ての乗客がかご4から降車するのに十分な時間)開放した後、閉じることにより、かご4が無人になったとみなすこともできる。この場合、ドアの開放中に、ドアの閉鎖を予告する音声情報をかご内スピーカ14からアナウンスするのが好適である。
[0028] 避難運転指令信号が有効化され、かご4が無人になったと判断すると、エレベータコントローラ6は、避難運転指令信号が入力された乗場(最初に呼ばれた階)にかご4を移動させる(ステップS8)。
[0029] 乗場にかご4が到着すると、防火責任者は、入居者がかご4に乗るのを手伝い、全避難手順を調整する(ステップS9)。また、防火責任者は、緊急事態に取るべき行動を乗客に指示する。さらに、防火責任者は、避難させる入居者の順序も決定する。
[0030] この後、防火責任者は、かご4内に乗客を乗せる余地があるかどうかを確認する(ステップS10)。かご4内に余地が残っていない場合、防火責任者は、FW制御キースイッチ19を用いて(即ち、パルスを送ることによって)、かご4を優先的に避難階へ向かわせる指令信号をエレベータコントローラ6に入力する。これにより、他の全ての呼びがバイパスされ、かご4は、他のいずれの階にも停止せずに避難階へ直行する(ステップS12)。
[0031] この優先機能は、緊急事態の場合に非常に重要である貴重な避難時間を節約させる。また、この優先機能は、避難運転指令信号が有効化されている乗場からのみエレベータコントローラ6に与えることができ、避難モード時にのみアクティブになる。
[0032] 優先機能がアクティブになると、乗場にいる待ち客は、音声指示でこの機能に関して知らされる(ステップS13)。この音声指示は、乗場スピーカ8を通して与えられる。また、音声指示として、乗場にいる待ち客に待機時間に関する情報を与えることで、待ち客のパニックを減らし得る。
[0033] かご4が避難階に到着すると、全ての乗客がかご4から降車される(ステップS14)。そして、かご4が無人であるかどうかをチェック(ステップS7)した後、再び呼び階にかご4が戻される(ステップS8)。
[0034] かご4が満員ではなく、避難させるべき階が無人になると、防火責任者は、FW制御キースイッチ19からキーを外し、防火責任者によるエレベータの制御を取り消す(ステップS15)。これにより、他の階から別の防火責任者がエレベータを制御する準備ができる。」(段落[0013]ないし[0034])

(1-2)引用発明
上記(1-1)並びに図1及び2から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「避難運転指令信号が入力された乗場においてエレベータの乗場に設けられたFW制御キースイッチ19と、
各階において前記エレベータの乗場に設けられた乗場ボタン17と、
通常運転モード時に前記乗場ボタン17が操作されると当該操作の行われた乗場のある階に移動するかご4と、
前記かご4の運転を制御し、前記FW制御キースイッチ19が操作された状態に維持されている場合に前記かごに対して前記避難運転指令信号が入力された乗場と避難階との間を行き来する避難モードでの動作を維持させ、当該避難モードにおいて前記かご4が前記避難運転指令信号が入力された乗場に到着すると前記かご4の扉を開放し、その後、前記かご4が前記避難運転指令信号が入力された乗場に停止している際に前記避難運転指令信号が入力された乗場の前記FW制御キースイッチ19が操作されると前記かご4を前記避難階へ移動させるエレベータコントローラ6と、
を備えた、エレベータ装置。」

(2)引用文献2(特開2005-126155号公報)
(2-1)引用文献2の記載事項
引用文献2には、以下の記載がある。なお、下線は、理解の一助のため当審で付したものである。

(ア)「【0018】
次に、ドア制御装置6にドア開指令およびドア閉指令を発する設定手順について図2によりさらに詳細に説明する。サービスを行っているエレベーターにおいて、ステップS1で地震感知器が地震を検出すると、ステップS2に進み、最寄階停止運転指令が出る。ステップS3にて、最寄階に停止したエレベーターは、ドアが開き、かご内照明を消灯し、かご繰作盤8の開釦9が点灯する。次に、ステップS4で、ドア制御装置6にドア閉指令が設定され、ドアが閉まる。ステップS5では、ドアが閉じた後に、乗りかご1が停止している階の乗場釦4(上行き(UP)、下行き(DOWN)のどちらでも良い)が一定時間押されたかを乗場釦制御指令手段5Bにて判断する。乗場釦4が一定時間押されていない場合は、ステップS9に進み、休止状態を継続する。乗場釦4が一定時間押された場合は、ステップS6へ進み、ドア制御装置6にドア開指令が設定され、ドアが開く。その後、ステップS7で乗場釦4(上行き(UP)、下行き(DOWN)のどちらでも良い)が一定時間押されたかを乗場釦制御指令手段5Bにて判断し、乗場釦4が一定時間押された場合は、ステップS8へ進み、ドア閉指令がドア制御装置6に設定され、ドアが閉まる。乗場釦4が一定時間押されていない場合は、ステップS10で約15?20秒経過したかを判断し、経過しない間はステップS7に戻り、経過するとステップS8に進み、ドアが閉まる。そして、ステップS9に進み休止運転を継続する。
【0019】
このように、図2において、ステップS1は、エレベーターを休止するための所定の条件を満たしたことを検出する検出手段を構成しており、ステップS2?S4は、上記検出手段により上記所定の条件を満たしたことを検出されたときに、エレベーターを休止する休止手段を構成している。また、ステップS5は、上記休止手段によりエレベーターが休止状態となったときに、乗りかご1が休止している階の乗場釦に対して予め設定された所定操作がなされたか否かを判定する第1の操作判定手段を構成している。ステップS7は、上記ドア制御手段によりドアの開動作が行われた後に、乗りかご1が休止している階の乗場釦に対して予め設定された第2の所定操作がなされたか否かを判定する第2の操作判定手段を構成している。ステップS6およびS8は、上記操作判定手段により上記所定操作がなされたと判定されたときに、上記乗りかご1のドアが閉状態のときは開動作を、開状態のときは閉動作を行うとともに、第2の操作判定手段により上記第2の所定操作がなされたと判定されたときに、上記乗りかごのドアの閉動作を行うドア制御手段を構成している。
【0020】
なお、上記説明では、エレベーターを休止するための所定の条件を満たしたことを検出する検出手段として地震感知器を利用する場合について述べたが、この発明は、その他、休止スイッチを検出手段とする休止運転や管制運転などにも利用できることはいうまでもない。
【0021】
この発明によれば、以上説明したように、運転休止動作となったエレベーターの乗りかご1内に取り残されてドア開動作に手間取っている、あるいは、ドアの閉じる前に乗り込んでしまった、幼児や痴呆老人がいた場合に、ドアが閉じてしまった後でも、職員等の特定者が乗場釦4に対して予め決められた操作をする事により、ドアを開くことができるので、乗りかご1内の乗客を早く救出することができる。また、救出後に、職員等の特定者が乗場釦4に対して予め決められた操作をする事によりドアを閉めるようにしたので、乗客が乗っているままドアを閉じてしまうことを防止することができるとともに、ドア開状態のために再度誤って乗客が乗りかご1に乗ってしまうことを未然に防ぐことができる。」(段落【0018】ないし【0021】)

(2-2)引用文献2記載の技術
上記(2-1)及び図2から、引用文献2には次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「管制運転時に、最寄階に停止した乗りかご1のドアが閉じた後に、乗りかご1が停止している階の乗場釦4が一定時間押された場合は、ドア制御装置6によりドアが開き、その後、乗場釦4が一定時間押された場合は、ドア制御装置6によりドアが閉まる技術。」

(3)引用文献3(特開2013-10579号公報)
(3-1)引用文献3の記載事項
引用文献3には、以下の記載がある。なお、下線は、理解の一助のため当審で付したものである。

(ア)「【0016】
一方、上述した避難用エレベータの各階床における乗場には、例えば図4に示すようにエレベータ扉の上方に位置して大型の避難誘導表示装置5が設けられている。この避難誘導表示装置5には、通常運行時には、例えば図5(a)に示すようにこの乗場が災害時における避難用エレベータの乗場である旨の『避難用エレベータNo.3号機』の表示5aや、『このエレベータは災害時に使用可能です』の表示5bがなされる。
【0017】
これに対して災害時に当該乗場への前記避難用エレベータの運行ができないとき、前記避難誘導表示装置5には、前述した『このエレベータは災害時に使用可能です』の表示5dに代えて、例えば図5(b)に示すように『現在このエレベータは使用できません。No.1号機またはNo.2号機へお回りください』等の案内表示5cと共に、『13階で火災が発生しています』等の警報表示5dがなされる。
【0018】
ちなみに前記表示装置4および避難誘導表示装置5は、液晶ディスプレイや機械式のインフォメーションボートなどで構成され、更には停電時でも見易いように液晶バックライトや灯火による照明、更には照明を点滅させるなどの避難者の注意を引き付け得る手法が適宜採用される。またその電源については、通常運行時は常用電源が用いられ、災害時には常用電源に加えてエレベータ用自家発電源や蓄電池などが併用される。
【0019】
尚、災害時には前述した表示装置4および避難誘導表示装置5を用いた表示に加えて、スピーカを用いた音声案内を併用することも勿論可能である。そして通常時には、避難用に使用できるエレベータであることを周知させるための表示や音声案内などを行い、災害時には、避難用エレベータの運行の是非を表示や音声案内などを行う。また当該エレベータが使用できない場合は、他の運行可能な避難用エレベータへの移動や、他階からならば運行可能な避難用エレベータへの移動を促す表示や音声案内などを行うようにすることが好ましい。」(段落【0016】ないし【0019】)

(3-2)引用文献3記載の技術
上記(3-1)及び図1ないし9から、引用文献3には次の技術(以下、「引用文献3記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「避難用エレベータの各階床における乗場に、当該エレベータが災害時に使用可能か否かを表示する避難誘導表示装置5を設ける技術。」

(4)引用文献4(特開2012-176813号公報)
(4-1)引用文献4の記載事項
引用文献4には、以下の記載がある。なお、下線は、理解の一助のため当審で付したものである。

(ア)「【0016】
入力切替装置12は、乗場と乗りかご10の通信を制御する交換機である。入力切替装置12は、コントロールパネル11から乗りかご10の運行情報を入力し、乗りかご10から通信切替信号を入力し、乗りかご10内との間で映像信号及び音声信号のやり取りを行う。
【0017】
乗場呼びボタン13は、各階床の乗場に設置されている。乗場呼びボタン13の操作により、当該乗場の階床と行先方向を示す情報を含んだ乗場呼びの信号がコントロールパネル11に送られる。「乗場呼び」とは、各階の乗場に設置された乗場呼びボタン13の操作によって登録される呼びの信号であり、登録階と行先方向の情報が含まれる。
【0018】
防犯カメラ14は、撮像・通話装置であって、建物の各階床の乗場近傍に設置されており、撮像部と、インターフォンと、スピーカを備えている。防犯カメラ14で得られた映像信号及び音声信号は、入力切替装置12に送られる。」(段落【0016】ないし【0018】)

(4-2)引用文献4記載の技術
上記(4-1)及び図1ないし6から、引用文献4には次の技術(以下、「引用文献4記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「エレベータ装置において、各階床の乗場と乗りかご10内との間で通信可能な通信装置を設ける技術。」

(5)引用文献5(特開2003-276964号公報)
(5-1)引用文献5の記載事項
引用文献5には、以下の記載がある。なお、下線は、理解の一助のため当審で付したものである。

(ア)「【0017】図2は実施の形態1の電気回路を示すブロック図で、図1と同符合は同一部分を示す。131は避難階101に設けられて、救出運転中である旨を表示する表示器、13kは同じく中間階10kに設けられた表示器、13nは最上階に設けられた表示器、13cはかご1内に設けられた表示器で、総称する場合は「表示器13」とする。141は避難階101に設けられて、救出運転中である旨を報知する報知器、14kは同じく中間階10kに設けられた報知器、14nは最上階に設けられた報知器、14cはかご1内に設けられた報知器で、総称する場合は「報知器14」とする。15は避難階101又は管理室(図示しない。)に設けられて、かご1を避難階101へ強制帰着させる火災帰着スイッチである。
(中略)
【0023】図4は、火災時の不測の事態に対応するため、かご1を緊急に避難階101へ呼び戻す場合の処理を示す。火災帰着スイッチ15がONになると、割込みが発生して、他に優先して図4の処理がなされる。即ち、手順S31で、避難階101に設置された火災帰着スイッチ15をONにする。手順S32で、各階10に設けられた火災感知器12のいずれかが作動しておれば、手順S33に移り、かご呼び及び乗場呼びへの応答が阻止され、手順S34でかご1は避難階101へ帰着するように指令が出される。この指令に基いて昇降制御装置58は、かご1を避難階101へ帰着させる。」(段落【0017】ないし【0023】)

(5-2)引用文献5記載の技術
上記(5-1)及び図1ないし4から、引用文献5には次の技術(以下、「引用文献5記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「エレベータ装置において、避難階101に、かご1を緊急に避難階101へ帰着させるための火災帰着スイッチ15を設ける技術。」

2-2 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「避難運転指令信号が入力された乗場」は、その技術的意義からみて、本願発明1における「救出階」に相当し、以下同様に、「FW制御キースイッチ19」は「避難運転モード要求スイッチ」に、「乗場ボタン17」は「操作ボタン」に、「かご4」は「かご」に、「避難モード」は「避難運転モード」に、「エレベータコントローラ6」は「制御装置」に、「エレベータ装置」は「エレベータ装置」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「FW制御キースイッチ19が操作されるとかご4を避難階へ移動させる」は、「所定の操作がされるとかごを避難階へ移動させる」という限りにおいて、本願発明1における「操作ボタンが操作されるとかごの扉を閉鎖し、その後、かごを避難階へ移動させる」に相当する。

したがって、両者は、
「救出階においてエレベータの乗場に設けられた避難運転モード要求スイッチと、
各階において前記エレベータの乗場に設けられた操作ボタンと、
通常運転モード時に前記操作ボタンが操作されると当該操作の行われた乗場のある階に移動するかごと、
前記かごの運転を制御し、前記避難運転モード要求スイッチが操作された状態に維持されている場合に前記かごに対して前記救出階と避難階との間を行き来する避難運転モードでの動作を維持させ、当該避難運転モードにおいて前記かごが前記救出階に到着すると前記かごの扉を開放し、その後、前記かごが前記救出階に停止している際に前記救出階の所定のスイッチが操作されると前記かごを前記避難階へ移動させる制御装置と、
を備えた、エレベータ装置。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
「所定の操作がされるとかごを避難階へ移動させる」に関して、本願発明1においては「操作ボタンが操作されるとかごの扉を閉鎖し、その後、かごを避難階へ移動させる」のに対し、引用発明においては、「FW制御キースイッチ19が操作されるとかご4を避難階へ移動させる」点(以下、「相違点」という。)。

2-3 判断
上記相違点について検討する。
(1)課題及び作用効果について
本願発明1は、「特許文献1(審決注:国際公開第2009/047843号)に記載のものにおいては、特定者用呼び入力装置を操作した利用者の避難を前提としている。このため、当該救出階から大量の利用者を避難させる場合の効率が悪い。」(段落【0004】)ということを課題とし、本願発明1の発明特定事項を備えることにより、「この発明によれば、建物に残された者を効率的に避難させることができる。」(段落【0007】)という作用効果を奏するものである。
それに対し、引用発明は、「上記のような従来のエレベータ装置では、消防士が建物に到着してから、消防士がかごに乗って避難運転を実施するので、避難運転の完了までに時間がかかる。」ということを課題とし、引用文献1に記載された発明特定事項を備えることにより、「このようなエレベータ装置では、かご4を避難運転させるための避難運転指令信号が入力されるFW制御キースイッチ19を少なくとも1つの乗場に設け、エレベータコントローラ6は、緊急避難時にFW制御キースイッチ19からの避難運転指令信号に応じてかご4を避難運転するので、緊急避難時に、乗場にいる防火責任者の操作により、避難運転を人的に制御して、他の待ち客を優先して避難させることができ、建物内の入居者をより効率的に避難させることができる。また、システムにさらなる融通性を与えることができるとともに、避難者間の信頼も高めることができる。」(段落【0041】)という作用効果を奏するものである。
そうすると、両者は、「この発明は、エレベータ装置に関し、特に火災等の緊急避難時に避難運転を行うためのシステムに関するものである。」という点で共通するものの、引用発明は、特定者用呼び入力装置であるFW制御キースイッチ19を操作するものであるから、「特定者用呼び入力装置を操作した利用者の避難を前提としている。このため、当該救出階から大量の利用者を避難させる場合の効率が悪い。」という、本願発明1の課題を解決するものではないことが分かる。

(2)相違点について
引用文献2には、「管制運転時に、最寄階に停止した乗りかご1のドアが閉じた後に、乗りかご1が停止している階の乗場釦4が一定時間押された場合は、ドア制御装置6によりドアが開き、その後、乗場釦4が一定時間押された場合は、ドア制御装置6によりドアが閉まる技術。」(上記引用文献2記載の技術)が記載されている。
しかしながら、引用文献2記載の技術は、乗場釦4を一定時間押すと、ドア制御装置6によりドアが開き、その後、乗場釦4を一定時間押すと、ドア制御装置6によりドアが閉まるというものであるから、ドアを閉めるためには、乗場釦4を2回押すことが必要である。
また、引用文献2記載の技術は、最寄り階に停止した乗りかごについての制御であるから、救出階に停止した乗りかごの操作を行う本願発明1とは、前提において相違する。
すなわち、本願発明1の操作ボタンを押すと、かごの扉が閉まった後に救出階から避難階に移動するのに対して、引用文献2記載の技術においては、かごの扉が閉まった後は当該最寄り階に停止したままであって、他の階に移動しない。
また、引用文献2記載の技術において乗りかごのドアの開閉を行う目的は、乗りかご内に閉じ込められた乗客を救出するとともに、再度誤って乗客が乗りかごに乗ってしまうことを防ぐということであって、本願発明1の「かごを避難階に強制的に移動させる」という目的とは全く異なるものである。
また、引用発明は、建物火災のような緊急事態時におけるエレベータ装置を用いる建物の避難方法、すなわちエレベータの避難運転に関するものであるが、引用文献2記載の技術は、地震発生時に乗りかごを最寄り階に停止させる管制運転に関するものであるから、引用発明において、引用文献2記載の技術を適用する動機がない。
してみると、引用発明において、引用文献2記載の技術を適用することにより、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想到できたとすることはできない。

また、一般的なエレベータにおいては、操作ボタンが操作されると、閉じかけていた乗りかごの扉は開き、その後、操作ボタンを一定時間押しても乗りかごの扉は開いたままであって閉じない。それに対し、本願発明1は、操作ボタンを押すことにより乗りかごの扉が閉じるという、通常とは逆の作用を行うものであるから、一般的な技術から上記相違点に係る発明特定事項を想到することは困難である。

また、引用文献3ないし5記載の技術を参照しても、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想到することはできない。

(3)小括
よって、本願発明1は、引用発明並びに引用文献2ないし5記載の技術に基づいて、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

また、本願発明2ないし8は、本願発明1をさらに限定するものであるから、引用発明並びに引用文献2ないし5記載の技術に基づいて当業者が容易に想到することができたとはいえない。

よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することができない。


第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の内容
(1)平成28年10月20日付け拒絶理由の内容

「<理由1>
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)請求項1において、「前記救出階において前記エレベータの乗場に前記避難運転モード要求スイッチとは別に設けられた操作ボタン」という記載における「操作ボタン」は、救出階に設けられたものであり、「通常運転モード時に前記操作ボタンが操作されると当該操作の行われた乗場のある階に移動するかご」という記載における「操作ボタン」は、各階に設けられたものと解されるところ、「前記操作ボタンが操作されると前記避難階へ移動し」という記載における「前記操作ボタン」は、どの階に設けられた操作ボタンか、明確でない。

(2)請求項1において、「前記かごは、前記避難運転モード要求スイッチが操作された状態に維持されている場合に前記救出階と避難階との間を行き来する避難運転モードでの動作を維持され、当該避難運転モードにおいて前記救出階に停止している際に前記操作ボタンが操作されると前記避難階へ移動し」という事項と、「前記制御装置は、前記かごが前記救出階に到着すると前記かごの扉を開放する」という事項との時系列的な関係が明確でない。

(3)請求項1において、「当該避難運転モードにおいて前記救出階に停止している際に前記操作ボタンが操作されると前記避難階へ移動し」と記載されているが、「救出階に停止している際に前記操作ボタンが操作されると」、ドアの開閉状態にかかわらず「前記避難階へ移動」するのかどうか、明確でない。

(4)請求項1において、「前記かごは、前記避難運転モード要求スイッチが操作された状態に維持されている場合に前記救出階と避難階との間を行き来する避難運転モードでの動作を維持され、当該避難運転モードにおいて前記救出階に停止している際に前記操作ボタンが操作されると前記避難階へ移動し」という事項を、制御装置が行うのかどうか明確でない。

(5)請求項2において、「前記操作ボタンは、前記かごが前記救出階に停止している際に操作された場合に前記エレベータの扉を閉鎖する」と記載されているが、「前記操作ボタン」はどの階の操作ボタンか、明確でない。また、「エレベータの扉を閉鎖する」という事項を、制御装置が行うのかどうか明確でない。

(6)請求項2に記載された「前記操作ボタンは、前記かごが前記救出階に停止している際に操作された場合に前記エレベータの扉を閉鎖する」という事項と、請求項1に記載された「前記かごは、前記避難運転モード要求スイッチが操作された状態に維持されている場合に前記救出階と避難階との間を行き来する避難運転モードでの動作を維持され、当該避難運転モードにおいて前記救出階に停止している際に前記操作ボタンが操作されると前記避難階へ移動し」及び「前記制御装置は、前記かごが前記救出階に到着すると前記かごの扉を開放する」という事項との時系列的な関係が明確でない。

(7)請求項3において、「前記エレベータの乗場」とは、どの階の乗場か、明確でない。

したがって、上記(1)ないし(7)により、請求項1ないし3に係る発明は明確でない。

<理由2>
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



(1)明細書の発明の詳細な説明の段落【0041】には、「この際、当該救出階の乗場2の操作ボタンは、動作制御装置として機能する。例えば、避難誘導員は、乗場2の操作ボタンを押すと、制御装置は、扉8a、8cを閉鎖する。その後、かご3は、かご呼びに応じない。その後、制御装置は、かご3を避難階5に強制的に移動させる。・・・」と記載されており、乗場2の操作ボタンを押すと、扉8a、8cを閉鎖し、その後、制御装置は、かご3を避難階5に強制的に移動させることが記載されている。
ところが、特許請求の範囲の請求項1には、「当該避難運転モードにおいて前記救出階に停止している際に前記操作ボタンが操作されると前記避難階へ移動し」と記載されており、請求項1に係る発明は「乗場2の操作ボタンを押すと、制御装置は、扉8a、8cを閉鎖する」という動作をしないものを含んでいる。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

なお、上記の理由により、平成27年7月16日付け手続補正書及び平成28年2月24日付け手続補正書による補正は、新規事項の追加を含むおそれがある。

(2)明細書の発明の詳細な説明の段落【0041】には、「乗場2の操作ボタンを押すと、制御装置は、扉8a、8cを閉鎖する。」(下線部は当審で付した。)ということが記載されている。
ところが、特許請求の範囲の請求項2には、「前記操作ボタンは、前記かごが前記救出階に停止している際に操作された場合に前記エレベータの扉を閉鎖する・・・」と記載され、「操作ボタン」が「前記エレベータの扉を閉鎖する」ごとく記載されている。
よって、請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

なお、上記の理由により、平成27年7月16日付け手続補正書及び平成28年2月24日付け手続補正書による補正は、新規事項の追加を含むおそれがある。」

(2)平成28年12月12日付け拒絶理由の内容

「 本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



平成28年11月28日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1には、
「・・・前記救出階において前記エレベータの乗場に前記避難運転モード要求スイッチとは別に設けられた操作ボタンと、
通常運転モード時に前記操作ボタンが操作されると当該操作の行われた乗場のある階に移動するかごと、・・・」
と、救出階のみに、乗り場呼びボタンである操作ボタンが設けられていることが記載されている。
また、平成28年11月28日提出の意見書においても、
「これに対し、補正後の請求項1においては、「前記操作ボタン」は、「前記救出階」に設けられた操作ボタンです。」と主張している。
しかしながら、本願の明細書においては、
「通常運転モード時においては、乗場2の利用者は、移動したい方向に応じて操作ボタンを押す。例えば、利用者は、上方階に移動したい場合に上方ボタン10aを押す。例えば、利用者は、下方階に移動した場合に下方ボタン11aを押す。この際、制御装置は、当該操作の行われた乗場2のある階にかご3を移動させる。その後、制御装置は、扉8c等を開放する。このため、利用者はかご3に乗ることができる。・・・」(段落【0036】)と記載され、上方ボタン10aと下方ボタン11aとからなる操作ボタンが、(救出階以外にも)各階の乗場2に設けられていることが記載されている。
そうすると、特許請求の範囲の請求項1に記載されたものは、明細書に記載されたものと相違している。

(なお、本願の請求項1に係る発明は、各階に設けられた上方ボタン10aと下方ボタン11aとからなる操作ボタンについて、救出階においては、避難運転モードにおいて、かごの扉を閉鎖し、かごを避難階へ移動させるという操作を行う機能を持たせるところに特徴があると認められる。) 」

2 当審拒絶理由についての判断

平成29年1月19日付け手続補正書によって、本願の請求項1ないし8は、上記第2の請求項1ないし8のとおり補正された。
このことにより、本願発明1ないし8は明確になった。
また、本願発明1ないし8は発明の詳細な説明に記載されたものとなった。
よって、平成28年10月20日付け拒絶理由及び平成28年12月12日付け拒絶理由は解消された。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-03-06 
出願番号 特願2015-524540(P2015-524540)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (B66B)
P 1 8・ 121- WY (B66B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤村 聖子三宅 達  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 金澤 俊郎
槙原 進
発明の名称 エレベータ装置  
代理人 高橋 英樹  
代理人 小澤 次郎  
代理人 高田 守  

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