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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02F
管理番号 1325513
審判番号 不服2016-6363  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-28 
確定日 2017-02-23 
事件の表示 特願2014-252747「液晶ディスプレイ保護板」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月11日出願公開、特開2015-108832〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年7月16日に出願した特願2009-167676号の一部を平成26年12月15日に新たな特許出願としたものであって(国内優先権主張平成20年9月3日)、平成26年12月17日に手続補正(自発)がなされ、平成27年10月1日付け拒絶理由通知に対して、同年12月1日に意見書の提出がなされたが、平成28年2月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月28日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、その後、当審において、同年10月3日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年12月5日に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし11に係る発明は、平成28年12月5日付けの手続補正により補正された請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「ポリカーボネート樹脂層と、少なくとも1つの、ゴム粒子を含むメタクリル樹脂層とを積層した樹脂基板と、
分子内に少なくとも3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を含む硬化性塗料によって、前記樹脂基板の前記ゴム粒子を含むメタクリル樹脂層の表面に形成された硬化被膜と、を含む耐擦傷性樹脂板、
を有する面内のリタデーション値が88nm?180nmである液晶ディスプレイ保護板であり、前記ポリカーボネート樹脂層の厚さが樹脂基板の厚さの72%以上83%以下である液晶ディスプレイ保護板。」(なお、下線は、請求人が手続補正書において付したものである。)

第3 刊行物の記載
(1)当審拒絶理由に引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平6-258633号公報(平成6年9月16日公開 以下「引用文献」という。)には、図とともに以下の記載がある(なお、下線は当審で付した。以下同じ。)。

ア 「【請求項1】 2枚の透明基板で液晶層が挾持され、該2枚の透明基板の外側にそれぞれ偏光板が配置され、前記液晶層の一方の面で表示されてなる液晶表示デバイスであって、前記液晶層の表示面側に配置されたフロント側偏光板の前面に位相差板が配置され、該位相差板はその光学軸が前記フロント側偏光板の吸収軸とほぼ35°?55°の角度をなすように配置されると共に、前記位相差板のリターデイションがほぼ110nm ?170nm の範囲に設定されてなる液晶表示デバイス。」

イ 「【0009】
【作用】本発明によれば、フロント側偏光板の前面に位相差板を配設しているため、位相差板の複屈折性により常光線と異常光線とのあいだに位相のズレが生じ、特定のリターデイションΔn・dでない限り位相差板の出口では楕円偏光となる。そのため、一定方向の吸収軸を有する偏光めがねを使用して、どの方向から見ても認識することができる。このばあい、楕円偏光の楕円率および可視光の波長(色)により見づらい範囲があるが、位相差板の光学軸の方向とフロント側偏光板の吸収軸の方向とのなす角度をほぼ35°?55°にすると共に、位相差板のリターデイションΔn・dをほぼ110nm ?170nm にすることにより、可視光の全波長領域に対して円偏光に近い楕円偏光となり、偏光めがねの吸収軸の方向がどちらの方向にあっても充分に認識できる。」

ウ 「【0010】
【実施例】つぎに、図面を参照しながら本発明を説明する。図1は本発明のTN型液晶表示デバイスを偏光めがねをかけて眺めたばあいの偏光めがねの吸収軸の方向などを示す分解説明図、図2は液晶セルに電界を印加したばあいに、位相差板から出た3種類の波長の光の偏光めがねの透過率を表わす図、図3は液晶セルに電界を印加したばあいに、位相差板から出た種々の波長の光の偏光めがねの透過率を表わすグラフである。
【0011】図1において、液晶層が2枚の透明基板に挾持された液晶セル1の両側にフロント側偏光板2およびリア側偏光板3が配設され、表示面側であるフロント側偏光板2の表面側にさらに位相差板4が配設されている。また裏面側には光源5が配設されている。液晶材料としては、たとえばTN液晶が用いられ、両透明基板間で90°のねじれが生じるため、両側の透明基板に設けられるラビング方向は、たとえば図1にA、Bで示されるように90°の方向をなしている。また両偏光板2、3の吸収軸の方向C、Dは図1に示すように、フロント側とリア側とで同じ方向にして、ネガ型TN液晶表示デバイスを構成している。6は偏光めがねを示し、位相差板4の光学軸の方向をE、偏光めがね6の吸収軸の方向をFで示している。位相差板4は、フロント側偏光板2の前に一定の間隙をあけて配置してもよいし、フロント側偏光板2の表面に密着または接着してもよい。また位相差板4の表面をアングレア処理し、乱反射機能をもたせてもよい。こうすることにより液晶表示パネル表面における外光反射による視認性の低下を防止する効果がある。位相差板4は、たとえばポリカーボネートなどの異常光線と常光線とのあいだで位相差を生じるフィルムからなり、高分子材料が熱延伸され、一軸延伸高分子フィルムに形成されている。また位相差板4は、雲母、人工雲母、水晶などの無機物により作製することもできる。位相遅れ(リターデイション)Rと屈折率n_(e) 、n_(o) とのあいだには
R=|n_(e )-n_(o) |×d=Δn・d
の関係が成り立つ。ここで、dは板材の厚さ、n_(e )は異常光線に対する屈折率、n_(o) は常光線に対する屈折率である。」

エ 「【0013】前述の構成の液晶表示デバイスを製造し、位相差板4をフロント側偏光板2の表面に密着させ、位相差板4の光学軸の方向Eとフロント側偏光板2の吸収軸の方向Cとのなす角度αを、0?90°のあいだで5°または10°ずつ変えると共に、それぞれの角度αに対し、位相差板のリターデイションΔn・dを90?190nmの範囲で10nmずつ変化させた。それぞれのリターデイションΔn・dの値と角度αのときに、偏光めがね6の吸収軸Fを360 °回転させながら、観測者7が目視により液晶表示面の視認特性を測定した。表1にその結果を示す。
【0014】
【表1】


【0015】表1から明らかなように、リターデイションΔn・dがほぼ110 ?170nm 、かつ、角度αがほぼ35°?55°の範囲では、偏光めがね6の吸収軸方向Fを360 °どの方向に向けても液晶表示面が認識できた。とくにリターデイションが130nm?150nm 、角度αが45°の範囲で認識状態が最も優れており(表1のa)、またリターデイションが120nm ?160nm 、角度αが40°?50°の範囲でも良好に認識でき、好ましかった(表1のb)。さらにリターデイションが110nm ?170nm 、角度αが35°?55°の範囲でもやや視認特性は低下したが認識はできた(表1のc)。また、偏光めがねの角度によっては認識できないものを-で示した。
【0016】
……
【0018】また、前述の位相差板4を用いたばあいに、偏光めがね6の吸収軸の方向Fをフロント側偏光板2の吸収軸Cと同じ方向にしたときの各波長に対する偏光めがね6の光の透過率は図3に示すようになる。図3において横軸は波長、縦軸は光の透過率を示し、フロント側偏光板2の吸収軸方向Cと偏光めがね6の吸収軸方向Fとを同一方向とし、位相差板4がないときの光の透過率を100 %とした。図3に示されるように、可視光領域の全波長において、透過率が極端に低く(約30%以下)なる波長がないので、表示される色によって液晶表示デバイスの表示画面が見づらくなることはない。」

オ 「【0021】
【発明の効果】本発明によれば、液晶表示デバイスのフロント側偏光板の前面に、特定のリターデイションを有し、その光学軸が特定方向を向いた位相差板を配置しているため、偏光めがねをかけて眺めたばあいでも、見る方向によって液晶表示面が見えなくなるということがなくなる。……運転に支障をきたすことがない。」

カ 図1は、以下のものである。


キ 図3は、以下のものである。


(2)引用文献に記載された発明
ア 上記(1)アの記載からして、引用文献には、
「液晶表示デバイスのフロント側偏光板の前面に、その光学軸がフロント側偏光板の吸収軸とほぼ35°?55°の角度をなすように配置される位相差板であって、
リターデイションが110nmないし170nmの範囲に設定されてなる位相差板。」
が記載されているものと認められる。

イ 上記(1)ウ及び上記(1)エの記載を踏まえて、図1を見ると、以下のことが理解できる。
(ア)上記アの「液晶表示デバイス」は、「リア側偏光板側に光源が配置されたTN液晶表示デバイス」であってもよいこと。

(イ)上記アの「位相差板」は、「ポリカーボネートのフィルム」からなり、フロント側偏光板の前面に一定の間隙をあけて配置してもよいこと。

ウ 上記(1)エの記載を踏まえて、図1を見ると、
上記アの「ほぼ35°?55°の角度」及び「110nmないし170nm」は、具体的には、それぞれ、「45°」及び「120nmないし130nm」であってもよいことが理解できる。

エ 上記アないしウより、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「リア側偏光板側に光源が配置されたTN液晶表示デバイスのフロント側偏光板の前面に一定の間隙をあけて配置され、その光学軸がフロント側偏光板の吸収軸と45°の角度をなすように配置される位相差板であって、
ポリカーボネートのフィルムからなり、リターデイションが120nmないし130nmに設定されてなる位相差板。」

第4 対比・判断
1 本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「ポリカーボネートのフィルム」は、本願発明の「ポリカーボネート樹脂層」に相当する。
以下、同様に、「TN液晶表示デバイス」は、「液晶ディスプレイ」に、
「リターデイション」は、「面内のリタデーション値」に、それぞれ、相当する。

(2)引用発明の「位相差板」と本願発明の「液晶ディスプレイ保護板」は、液晶ディスプレイの前方に配置され、リターデイションを生じるものであるから、両者は、「液晶ディスプレイの前方に配置される光学板」で一致する。

(3)以上のことから、本願発明と引用発明とは以下の点で一致する。
<一致点>
「ポリカーボネート樹脂層を有する面内のリタデーション値が88nm?180nmである液晶ディスプレイの前方に配置される光学板。」

(4)一方で、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
<相違点>
本願発明は、「ポリカーボネート樹脂層と、少なくとも1つの、ゴム粒子を含むメタクリル樹脂層とを積層した樹脂基板と、
分子内に少なくとも3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を含む硬化性塗料によって、前記樹脂基板の前記ゴム粒子を含むメタクリル樹脂層の表面に形成された硬化被膜と、を含む耐擦傷性樹脂板、を有する液晶ディスプレイ保護板であり、前記ポリカーボネート樹脂層の厚さが樹脂基板の厚さの72%以上83%以下である」のに対して、
引用発明は、「ポリカーボネートのフィルム」からなり、樹脂基板及び硬化被膜を含む「耐擦傷性樹脂板」を備えておらず、「液晶ディスプレイ保護板」と呼べるものであるか否か不明である点。

2 判断
(1)上記<相違点>について検討する。
ア 引用発明の「『ポリカーボネートのフィルム』からなる『位相差板』」を、「TN液晶表示デバイスのフロント側偏光板の前面に一定の間隙をあけて配置」した際に、表示面となるフィルム表面を保護する必要のあることは、当業者にとって明らかである(例えば、当審拒絶理由で引用した、特開2005-157082号公報(【0002】及び図1を参照。)ところ、表示面を保護する部材として、「ゴム粒子を含むメタクリル樹脂層と、その樹脂層の表面に、3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を含む硬化性塗料により形成された硬化被膜とからなる耐擦傷性樹脂板又はフィルム」を用いることは、原出願の出願時点で周知である(例えば、当審拒絶理由で引用した、特開2008-49697号公報(【要約】、【特許請求の範囲】、【0001】、【0016】及び【0030】を参照。)及び特開2004-143365号公報(【要約】、【特許請求の範囲】、【0001】及び【0038】を参照。)を参照。以下「周知技術」という。)。

イ してみると、引用発明の「『ポリカーボネートのフィルム』からなる『位相差板』」上に、上記周知技術の「耐擦傷性樹脂板」を積層することは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 上記イのようにした引用発明は、「ポリカーボネートのフィルム」上に、
「ゴム粒子を含むメタクリル樹脂層」と、
「3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を含む硬化性塗料により形成された硬化被膜」が積層されることになるから、
引用発明は、「ポリカーボネート樹脂層と、少なくとも1つの、ゴム粒子を含むメタクリル樹脂層とを積層した樹脂基板と、
分子内に少なくとも3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を含む硬化性塗料によって、前記樹脂基板の前記ゴム粒子を含むメタクリル樹脂層の表面に形成された硬化被膜と、を含む耐擦傷性樹脂板、を有する液晶ディスプレイ保護板」となる。

エ 次に、上記ウの「ポリカーボネート樹脂層と、少なくとも1つの、ゴム粒子を含むメタクリル樹脂層とを積層した樹脂基板」における「ポリカーボネート樹脂層」の厚み(以下「A」という。)について検討する。

(ア)リターデイションは、延伸形成時の縦方向の延伸割合、横方向の延伸割合及びフィルムの厚さを適宜調整することで所望の値に調整することができるものであるところ、ポリカーボネート樹脂等からなる位相差フィルムは、通常、20ないし1000μm程度の厚みに設定されるものである(例えば、特開2003-43253号公報(【0036】を参照。)、特開2001-318223号公報(【0008】及び【0025】を参照。)、特開2001-141925号公報(【0008】を参照。)、特開2000-47030号公報(【0017】を参照。)及び特開平5-241020号公報(表1を参照。)を参照。)。

(イ)一方、上記「ゴム粒子を含むメタクリル樹脂層」の厚み(以下「B」という。)については、上記「周知技術」で例示した特開2004-143365号公報(【要約】を参照。)に、100μmないし1800μmの厚みにすることが記載されている。

(ウ)そして、A及びBを、具体的にどの程度設定するかは、当業者が発明を実施する際に、延伸割合、必要なリターデイション及び耐擦傷性樹脂板としの強度等を勘案して上記範囲内から適宜定めるべき事項であって、Bを必要以上に厚くする必要のないことから、相対的にAを大きく、Bを小さくすることに何ら困難性は認められない。
また、本願明細書の記載を見ても、ポリカーボネート樹脂層の厚さを樹脂基板の厚さの72%以上83%以下とすることに臨界的な技術的意義は認められない。

オ 以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点>に係る本願発明の構成を備えることは、当業者が上記周知技術に基づいて容易になし得たことである。

(2)効果
本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術から予測し得る範囲内のものである。

3 まとめ
本願発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-22 
結審通知日 2016-12-27 
審決日 2017-01-10 
出願番号 特願2014-252747(P2014-252747)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小濱 健太  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 星野 浩一
恩田 春香
発明の名称 液晶ディスプレイ保護板  
代理人 中山 亨  
代理人 坂元 徹  

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