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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 A62B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A62B
管理番号 1325561
審判番号 不服2016-4838  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-04 
確定日 2017-03-14 
事件の表示 特願2011-198527「災害時要援護者のための施設を備えた建物」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月 4日出願公開、特開2013- 59398、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年9月12日の出願であって、平成27年6月25日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成27年8月18日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年2月2日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成28年4月4日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年4月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1.補正の内容
(1)請求項1について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
「【請求項1】
複数の階床を備え、避難階以外の同一階に、災害時要援護者のための施設として設けられた要援護者用室と健常者が使用する一般室とが設けられている建物であって、
前記要援護者用室及び前記一般室は同一の廊下にて、前記避難階への移動設備と繋がっており、
前記廊下の床面には、前記要援護者用室と繋がった前記災害時要援護者用の避難経路と、前記一般室と繋がった前記健常者用の避難経路と、を示す表示が施されており、
前記避難経路を示す表示は、前記災害時要援護者用の避難経路の表示の幅が前記健常者用の避難経路の表示の幅より広く、
前記要援護者用室及び前記一般室は前記廊下の片側に設けられていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。」(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。以下、同じ。)
とする補正(以下、「補正事項1」という。)を含んでいる。

(2)請求項2について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項2を、
「【請求項2】
請求項1に記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記要援護者用室は、前記一般室より前記移動設備の近くに設けられていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。」
とする補正(以下、「補正事項2」という。)を含んでいる。

(3)請求項3について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項3を、
「【請求項3】
請求項2に記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記要援護者用の避難通路は、前記健常者用の避難経路よりも内側回りで前記移動設備と繋がることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。」
とする補正(以下、「補正事項3」という。)を含んでいる。

(4)請求項4ないし10について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項4ないし10を、
「【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記同一階には、前記要援護者用室及び前記一般室のうちの少なくとも一方が複数設けられており、
前記避難経路が同一の前記移動設備に繋がった前記要援護者用室及び前記一般室は、前記廊下に沿う方向において、前記要援護者用室同士、または、前記一般室同士が連なって配置されていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記災害時要援護者が待機する一時待機エリアを示す表示が、前記災害時要援護者用の避難経路と連続して設けられていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項6】
請求項5に記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記一時待機エリアを示す表示は、前記移動設備に隣接して設けられていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記移動設備には、前記災害時要援護者用の避難経路及び前記健常者用の避難経路とそれぞれ連続して前記災害時要援護者用の避難経路及び前記健常者用の避難経路を示す表示が施されていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項8】
請求項7に記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記移動設備の途中に、休憩するための休憩場所が設けられていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記災害時要援護者用の避難経路には、前記災害時要援護者用の避難経路であることを認識可能な表示が施されていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、
前記要援護者用室には、前記災害時要援護者用の避難経路の表示と同じ表示が施されており、前記一般室には、前記健常者用の避難経路の表示と同じ表示が施されていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物。」
とする補正(以下、「補正事項4」という。)を含んでいる。

(5)明細書について
本件補正は、明細書の段落【0006】を、
「 【0006】
かかる目的を達成するために本発明の災害時要援護者のための施設を備えた建物は、複数の階床を備え、避難階以外の同一階に、災害時要援護者のための施設として設けられた要援護者用室と健常者が使用する一般室とが設けられている建物であって、
前記要援護者用室及び前記一般室は同一の廊下にて、前記避難階への移動設備と繋がっており、
前記廊下の床面には、前記要援護者用室と繋がった前記災害時要援護者用の避難経路と、前記一般室と繋がった前記健常者用の避難経路と、を示す表示が施されており、
前記避難経路を示す表示は、前記災害時要援護者用の避難経路の表示の幅が前記健常者用の避難経路の表示の幅より広く、
前記要援護者用室及び前記一般室は前記廊下の片側に設けられていることを特徴とする災害時要援護者のための施設を備えた建物である。
このような災害時要援護者のための施設を備えた建物によれば、廊下の床面に、災害時要援護者用の避難経路と、健常者用の避難経路と、を示す表示が施されているので、災害等により避難する際に、災害時要援護者と健常者とが互いに異なる経路にて避難するように促すことが可能である。このため、廊下にて、健常者と、健常者より避難速度が遅い災害時要援護者とが交錯することを防止することが可能である。
また、災害時要援護者用の避難経路は要援護者用室と繋がっており、健常者用の避難経路は一般室と繋がっているので、健常者と災害時要援護者とが交錯することをより効果的に防止することが可能である。
また、災害時要援護者用の避難経路の幅が健常者用の避難経路の幅より広いので、災害時要援護者が避難しやすい避難経路を確保することが可能である。例えば、災害時要援護者が介助者を伴って避難する場合や車椅子などを使用する場合にも、避難経路が広く確保されているので円滑に避難することが可能である。
また、かかる災害時要援護者のための施設を備えた建物であって、前記要援護者用室は、前記一般室より前記移動設備の近くに設けられていることが望ましい。また、前記要援護者用の避難通路は、前記健常者用の避難経路よりも内側回りで前記移動設備と繋がることが望ましい。」
とするとともに、段落【0015】及び【0016】を削除する補正(以下、「補正事項5」という。)を含んでいる。

2.補正の適否
(1)補正事項1について
本件補正の補正事項1は、請求項1に記載した発明を特定するために必要事項である「要援護者用室」及び「一般室」について、「廊下の片側に設けられている」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明1」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

ア 引用文献
a 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-349094号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「避難安全区画システム」が記載されている。
そして、段落【0026】ないし【0029】及び【0035】並びに図1等の記載からみて、引用文献1には次の発明が記載されているといえる。
「複数の階を備え、同一階に、緊急時要救出者を収容する収容スペースとしての病室11aと看護婦や事務員などが利用する事務局15aやナースステーション15bとが設けられている病院施設10であって、前記病室11a並びに前記事務局15a及び前記ナースステーション15bは通路12、通路12を介して避難階段13に繋がっている病院施設10。」(以下、「引用発明」という。)

b 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された特開2011-38335号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「歩行者誘導方式及びこれを用いた歩行施設または歩行者誘導システム」が記載されている。
そして、段落【0018】ないし【0021】及び図1等の記載からみて、引用文献2には次の技術が記載されているといえる。
「公共施設の通路や階段において、歩く速さに応じて通行領域を区分して、該通行領域を前記公共施設の通路や階段の床面に表示する技術。」(以下、「引用文献2記載技術」という。)

イ 対比
補正発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「階」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、補正発明1における「階床」に相当し、以下同様に、「緊急時要救出者」は「災害時要援護者」に、「緊急時要救出者を収容する収容スペースとしての病室11a」及び「病室11a」は「災害時要援護者のための施設として設けられた要援護者用室」及び「要援護者用室」に、「看護婦や事務員などが利用する事務局15aやナースステーション15b」及び「事務局15aやナースステーション15b」は「健常者が使用する一般室」及び「一般室」に、「病院施設10」は「建物」に、「通路12」は「廊下」に、「避難階段13」は「避難階への移動設備」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明において「前記病室11a並びに前記事務局15a及び前記ナースステーション15bは通路12、通路12を介して避難階段13に繋がっている」「階」は、避難元の階であって、避難先である「避難階」以外の階であると考えられるところ、引用発明において「同一階に、緊急時要救出者を収容する収容スペースとしての病室11aと看護婦や事務員などが利用する事務局15aやナースステーション15bとが設けられている」ことは、少なくとも「避難階以外の同一階に、緊急時要救出者を収容する収容スペースとしての病室11aと看護婦や事務員などが利用する事務局15aやナースステーション15bとが設けられている」ということができる。

したがって、引用発明と補正発明1とは、
「 複数の階床を備え、避難階以外の同一階に、災害時要援護者のための施設として設けられた要援護者用室と健常者が使用する一般室とが設けられている建物であって、
前記要援護者用室及び前記一般室は同一の廊下にて、前記避難階への移動設備と繋がっている建物。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
(a)補正発明1においては、「廊下の床面には、要援護者用室と繋がった災害時要援護者用の避難経路と、一般室と繋がった健常者用の避難経路と、を示す表示が施されており、前記避難経路を示す表示は、前記災害時要援護者用の避難経路の表示の幅が前記健常者用の避難経路の表示の幅より広」いのに対し、引用発明においては、そのような特定がない点(以下、「相違点1」という。)。
(b)補正発明1においては、「要援護者用室及び一般室は廊下の片側に設けられている」のに対し、引用発明においては、そのような特定がない点(以下、「相違点2」という。)。

ウ 判断
まず、上記相違点1について検討する。
引用文献2記載技術は、通路の床面に、歩く速さに応じた通行領域を表示するものであるとはいえるが、要援護者用室と繋がった災害時要援護者用の避難経路と一般室と繋がった健常者用の避難経路とを表示するものではない。
そして、補正発明1は、「廊下の床面に」、「要援護者用室と繋がった災害時要援護者用の避難経路と、一般室と繋がった健常者用の避難経路と、を示す表示」を施すことによって、「災害等により避難する際に、災害時要援護者と健常者とが互いに異なる経路にて避難するように促すこと」により、「廊下にて、健常者と、健常者より避難速度が遅い災害時要援護者とが交錯することを防止することが可能」となり、さらに「災害時要援護者用の避難経路は要援護者用室と繋がっており、健常者用の避難経路は一般室と繋がっている」ことで、「健常者と災害時要援護者とが交錯することをより効果的に防止すること」を可能とする(本願の明細書の段落【0006】)との、引用発明及び引用文献2記載技術からは予測ができない格別な作用効果を奏するものである。

したがって、補正発明1は、上記相違点2について検討するまでもなく、引用発明及び引用文献2記載技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(2)補正事項2について
本件補正の補正事項2は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要事項である「要援護者用室」について、「一般室より移動設備の近くに設けられている」との限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項2に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そして、補正発明1が上記(1)ウに記載したように、引用発明及び引用文献2記載技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、該補正発明1をさらに限定した発明である本件補正後の請求項2に記載された発明(以下、「補正発明2」という。)も、引用発明及び引用文献2記載技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、本件補正の補正事項2は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(3)補正事項3について
本件補正の補正事項3は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要事項である「要援護者用の避難通路」について、「健常者用の避難経路よりも内側回りで移動設備と繋がる」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項3に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そして、補正発明2が上記(2)に記載したように、引用発明及び引用文献2記載技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、該補正発明2をさらに限定した発明である本件補正後の請求項3に記載された発明(以下、「補正発明3」という。)も、引用発明及び引用文献2記載技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、本件補正の補正事項3は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(4)補正事項4について
本件補正の補正事項4は、本件補正前の請求項2ないし8を、本件補正後の請求項1ないし3に従属するべく記載したことにより、本件補正前の請求項2ないし8に記載した発明に、上記補正事項1、2又は3に係る限定を付加するとともに、本件補正前の請求項9及び10を削除するものであり、本件補正前の請求項2ないし8に記載された発明と補正後の請求項4ないし10に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮と同条同項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そして、補正発明1ないし3が上記(1)ないし(3)に記載したように、引用発明及び引用文献2記載技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、該補正発明1ないし3をさらに限定した発明である本件補正後の請求項4ないし10に記載された発明(以下、「補正発明4ないし10」という。)も、引用発明及び引用文献2記載技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、本件補正の補正事項4は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(5)補正事項5について
本件補正の補正事項5は、上記補正事項1ないし3に係る補正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、特許法第17条の2第5項第4号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし10に係る発明は、補正発明1ないし10と同じであって、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものである。

そして、補正発明1は、上記第2の2.のとおり、当業者が引用発明及び引用文献2記載技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
また、補正発明1を直接又は間接的に引用する補正発明2ないし10は、補正発明1に係る発明をさらに限定した発明であるから、当業者が引用発明及び引用文献2記載技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-27 
出願番号 特願2011-198527(P2011-198527)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A62B)
P 1 8・ 575- WY (A62B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 三宅 龍平  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 中村 達之
槙原 進
発明の名称 災害時要援護者のための施設を備えた建物  
代理人 一色国際特許業務法人  

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