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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B |
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管理番号 | 1325668 |
審判番号 | 不服2014-24777 |
総通号数 | 208 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-12-04 |
確定日 | 2017-03-07 |
事件の表示 | 特願2010-526294「放射線放出装置及びその製法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年4月2日国際公開,WO2009/040401,平成22年12月24日国内公表,特表2010-541144〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続の経緯 特願2010-526294号(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年9月25日 ドイツ,以下「本件出願」という。)は,2008年9月25日に出願されたものとみなされた国際特許出願であって,その手続の概要は,以下のとおりである。 平成23年 8月 2日差出:手続補正書(1) 平成24年 4月25日起案:拒絶理由通知書(同年5月2日発送) 平成24年10月22日差出:意見書 平成24年10月22日差出:誤訳訂正書 平成25年 5月24日起案:拒絶理由通知書(同年6月3日発送) 平成25年12月 3日差出:手続補正書(2) 平成25年12月 3日差出:意見書 平成26年 7月25日起案:補正の却下の決定 (手続補正書(2)でした補正の却下) 平成26年 7月25日起案:拒絶査定(同年8月4日送達) 平成26年12月 4日差出:審判請求書 平成26年12月 4日差出:手続補正書(3) 平成27年12月21日起案:拒絶理由通知書 (平成28年1月5日発送,以下「本件拒絶理由通知」という。) 平成28年 6月30日差出:意見書(以下「本件意見書」という。) 平成28年 6月30日差出:手続補正書(4) (この手続補正書による補正を,以下「本件補正」という。) 2 本願発明 本件出願の請求項1?19に係る発明は,本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明は,次のとおりである(以下「本願発明」という。)。 「 作動中に第一の電荷の電荷担体を放出する第一の電極(100)と, 第一の電荷の電荷担体を輸送しかつドーピングについて勾配を有し,第一の電極(100)上に設けられているドーピングされた第一の輸送層(200)と, 第一の発光材料を有し,かつドーピングされた第一の輸送層(200)上に設けられている第一の発光層(400)と, 第二の発光材料を有し,かつ第一の発光層(400)上に設けられている第二の発光層(410)と, 第三の発光材料を有し,かつ第二の発光層(410)上に設けられている第三の発光層(420)と, 作動中に第二の電荷の電荷担体を放出し,かつ第三の発光層(420)上に設けられている第二の電極(110)と を含む放射線放出装置であって, ドーピングされた第一の輸送層(200)は第一の電極(100)に隣接しており,かつ,100nmを上回る層厚を有しており, ドーピングされた第一の輸送層(200)は3つの部分層に分かれており,第一の部分層と第三の部分層との間の範囲である第二の部分層のドーピング濃度は第一の部分層および第三の部分層におけるよりも高く, 前記の第一の発光材料は蛍光性であり,かつ第二および第三の発光材料はリン光性であり,3つの発光材料の発光する光の波長は異なっており, 前記第一の発光層は,第一の電荷の電荷担体を輸送するマトリックス材料のマトリックスを有し, 前記第二および第三の発光層は,第一の電荷の電荷担体を輸送する第一のマトリックス材料と,第二の電荷の電荷担体を輸送する第二のマトリックス材料とを有するマトリックスを有する, ことを特徴とする放射線放出装置。」 3 当合議体の拒絶の理由 本件拒絶理由通知の内容は,概略,本願発明は,その出願前日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例1及び2に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 引用例1:特開2007-27092号公報 引用例2:国際公開第2005/064994号 第2 当合議体の判断 1 引用例の記載及び引用発明 (1) 引用例1の記載 本件出願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった上記引用例1には,以下の事項が記載されている。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定に際して,特に参考にした箇所である。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 二つの電極の間に発光層を含む白色有機発光素子において: 前記発光層は, 白色を具現することができる青色発光層と; 青色以外の発光層と; を備え, 前記青色以外の発光層は, 正孔輸送物質と電子輸送物質の混合物と; 燐光物質と; を有することを特徴とする,白色有機発光素子。 【請求項2】 前記青色以外の発光層は,黄色発光層であることを特徴とする,請求項1に記載の白色有機発光素子。 【請求項3】 前記青色以外の発光層は,緑色・赤色混合発光層であることを特徴とする,請求項1に記載の白色有機発光素子 【請求項4】 前記青色以外の発光層は,緑色発光層及び赤色発光層であることを特徴とする,請求項1に記載の白色有機発光素子。」 イ 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は,白色有機発光素子及びその製造方法に関し,より詳細には,発光層の構造を改善して素子の発光効率及び寿命を改善させた白色有機発光素子及びその製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 有機発光素子(OLED:organic light emitting diode)は,一般的に基板,アノード,発光層を含む有機層,及びカソードを含む。上記OLED素子は発光層で電子と正孔が結合しながら光が発生する現象を利用した自発光型ディスプレイ装置であり,低い駆動電圧,高画質,早い応答速度及び広視野角の特性を持ち,軽量薄型の情報表示装置の具現ができるようにする長所を持つ。このような有機発光素子は,携帯電話だけでなく,その他の情報表示装置にまで応用領域が拡張されている。 【0003】 効果的に白色光を生成するOLED素子は,LCD(liquid crystal display)ディスプレイのバックライト,自動車内燈,及び事務室などの照明灯に広範囲に使用することができ,赤色,青色,緑色の三原色カラーフィルターを組み合わせて製造すればカラー平板ディスプレイとして使用することもできる。 【0004】 白色有機発光素子は,多様な方法によって得ることができるが,大きく二つに分けることができる。すなわち,一番目の方法としては発光層の構造を赤色,青色,緑色を放出する物質で構成された多層にすることである。しかし,この方法は多層膜の形成が容易ではなく,白色を出すために薄膜の厚さを一定の規則なしに白色が出るまで施行錯誤を通じて得なければならならず,電圧によっても色がたくさん変わって,かつ素子自体の安全性が落ちて寿命が非常に短いという短所がある。 【0005】 二番目の方法としては発光ホスト物質に有機発光色素をドーピングするか,混合するのである。この方法は,発光層の構造を多層にすることに比べて工程上簡単であるが,この方法もまた一定の規則なしに白色光を得るためには絶えずに試行錯誤を遂行しなければならず,白色カラーの調節がドーピング濃度の調節によってのみ可能であるから,寿命もドーピング濃度によって決められるという問題がある。したがって,発光効率が優秀で寿命が長い白色有機発光素子が引き続き求められている。 【0006】 そこで,本発明者たちは白色有機発光素子において,発光層を断層構造にしながら,発光層を構成するホストとして正孔輸送性を持つ物質と電子輸送性を持つ物質をそれぞれ少なくとも一種以上使用する場合,素子の発光効率及び素子の寿命を改善させることができることを見つけた。」 ウ 「【発明が解決しようとする課題】 【0009】 このように,従来の白色有機発光素子によれば,白色光を得るために試行錯誤が必要であったり,寿命が短いという問題がある。 【0010】 そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたもので,その目的は,発光効率と寿命を改善することが可能な,新規かつ改良された白色有機発光素子及びその製造方法を提供することにある。」 エ 「【課題を解決するための手段】 【0011】 上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,二つの電極の間に発光層を含む白色有機発光素子において:上記発光層は,白色を具現することができる青色発光層と;青色以外の発光層と;を備え,上記青色以外の発光層は,正孔輸送物質と電子輸送物質の混合物と;燐光物質と;を有することを特徴とする,白色有機発光素子が提供される。 【0012】 また,上記青色以外の発光層は,黄色発光層であってもよい。 【0013】 また,上記青色以外の発光層は,緑色・赤色混合発光層であってもよい。 【0014】 また,上記青色以外の発光層は,緑色発光層及び赤色発光層であってもよい。 【0015】 また,上記青色発光層を形成する物質は,FIrpic,ビフェニルアントラセン及び4,4′-ビス(ジフェニルアミノ)スチルベンからなる群より選択される一種以上の物質であってもよい。」 オ 「【発明の効果】 【0029】 以上説明したように,本発明によれば,発光層を多層構造,具体的に青色発光層と青色以外の発光層で構成させ,青色以外の発光層をホスト物質として正孔輸送性物質と電子輸送性物質を混合して使って,ドーパントとして燐光物質を使って形成することで,素子の安全性側面で優秀な特性を得ることができ,かつ素子の発光効率及び素子の寿命を改善させることができる。」 カ 「【発明を実施するための最良の形態】 【0030】 以下に,添付した図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する発明特定事項については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。 【0031】 本実施形態による白色有機発光素子は,第1電極(アノード)から第2電極(カソード)の間に,青色発光層と青色以外の発光層が積層された2層構造の発光層を形成した。ここで上記青色以外の発光層は,正孔輸送物質と電子輸送物質の混合物と,燐光物質と,で形成される。 【0032】 本実施形態による白色有機発光素子は,第1電極と発光層の間に正孔注入層及び/または正孔輸送層が順次にさらに積層されることが可能で,発光層と第2電極の間に正孔抑制層,電子輸送層及び/または電子注入層が順次に積層されている構造であることができる。それ以外にも各層界面特性を改善させるために中間層がさらに挿入されることができる。 【0033】 このように,白色有機発光素子で白色を具現する発光層を構成する青色発光層と青色以外の発光層は次のような構造であってもよい。例えば,青色発光層/黄色発光層または黄色発光層/青色発光層が順番に積層された2層構造であってもよい。または青色発光層/赤色・緑色混合発光層または赤色・緑色混合発光層/青色発光層が順番に積層された2層構造であってもよい。または青色発光層/緑色発光層/赤色発光層または赤色発光層/緑色発光層/青色発光層が順番に積層された3層構造であり得る。 【0034】 上記青色発光層の材料としては,この分野における一般的なものを使うことができ,蛍光物質または燐光物質が使用可能であり,具体的には,青色発光層の材料としてIr金属を含むIr誘導体が使われ,その例としてFIrpic(ビス(プルオロフェニルピリジン)イリジウムピコルリネート)などを使用することができ,蛍光材料としてビフェニルアントラセンなどのアントラセン誘導体をホストで使用することができ,スチリルベンゼン(styrylbenzene)係誘導体として4,4′-ビス(ジフェニルアミノ)スチルベン(PAS)などを使用することができる。 【0035】 上記青色以外の発光層は,正孔輸送物質と電子輸送物質の混合物をホストで使用し,燐光物質をドーパントで使って形成することができる。」 キ 「【0042】 図1?図3は,本発明の望ましい一実施形態による白色有機発光素子の積層構造を概略的に示した図面である。図1は本発明の第1の実施形態,図2は本発明の第2の実施形態図3は本発明の第3の実施形態を示す。 【0043】 図1を参照すれば,基板(10)上部に第1電極(20)が積層され,上記第1電極(20)上部に正孔注入層(30),正孔輸送層(40),青色発光層(50a),黄色発光層(50b),電子輸送層(60),電子注入層(70)及び第2電極(80)が順次積層されている白色有機発光素子である。 【0044】 図2の白色有機発光素子は,図1の白色有機発光素子で黄色発光層(50b)の代わりに,赤色・緑色混合発光層(50c)が介在された積層構造を持つ。 【0045】 図3の白色有機発光素子は,図1の白色有機発光素子で青色発光層(50a)/黄色発光層(50b)の2層構造の発光層の代わりに青色発光層(50a)/緑色発光層(50d)/赤色発光層(50e)の3階構造の発光層が介在された積層構造を持つ。 【0046】 それ以外にも図面には示されていないが,正孔抑制層がさらに積層されることも可能であり,その他,層間の界面特性を改善するための中問層をさらに形成することも可能である。 【0047】 以下,図面を参照して本発明の白色有機発光素子の製造方法について説明する。 【0048】 まず,基板(10)上部にパターニングされた第1電極(20)を形成する。ここで,上記基板(10)は通常的な有機発光素子で使用される基板を使用するが,透明性,表面平滑性,取り扱いの容易性及び防水性の優秀な硝子基板または透明プラスチック基板が望ましい。そして,上記基板の厚さは,0.3?1.1mmであることが望ましい。 【0049】 上記第1電極(20)の形成材料としては正孔注入が容易い伝導性金属またはその酸化物からなり,具体的な例として,ITO(Iindium Tin Oxide),IZO(Iindium Zinc Oxide),ニッケル(Ni),白金(Pt),金(Au),イリジウム(Ir)などを使用する。 【0050】 上記第1電極(20)が形成された基板を洗浄した後,UV/オゾン処理を実施する。この時,洗浄方法では,イソプロパノール(IPA),アセトンなど有機溶媒を利用する。また,洗浄されたITO基板を真空下でプラズマ処理することが望ましい。 【0051】 洗浄された基板(10)の第1電極(20)上部に正孔注入物質を真空熱蒸着,またはスピンコーティングして正孔注入層(30)を形成することができる。このように正孔注入層(30)を形成すれば,第1電極(20)と発光層(50)の接触抵抗を減少させると同時に,発光層(50)に対する第1電極(20)の正孔輸送能力が向上されて素子の駆動電圧と寿命特性が全般的に改善されるような効果を得ることができる。 【0052】 上記正孔注入層(30)の厚さは,300?1500Åであることが望ましい。もし,正孔注入層(30)の厚さが300Å未満の場合には寿命が短くなって,有機EL素子の信頼性が悪くなり,特にPM有機ELの場合には画素ショットを起こすことがあり,1500Åを超過する場合には駆動電圧上昇のため,望ましくない。 【0053】 上記正孔注入物質としては特に制限されないが,下記式に示すように,銅プタロシアニン(CuPc)またはスターバースト(Starburst)型アミン類であるTCTA,m-MTDATA,IDE406(出光社材料)などを正孔注入層で使用することができる。 【0054】 【化1】 【0055】 次に,上記正孔注入層(30)上部にまた正孔輸送物質を真空熱蒸着またはスピンコーティングして正孔輸送層(40)を形成することができる。上記正孔輸送物質は,特に制限されず,N,N′-ビス(3-メチルフェニル)-N,N′-ジフェニル-[1,1-ビフェニル]-4,4′ディアマン(TPD),N,N′-ジ(ナフタリン-1-日)-N,N′-ジフェニルベンジジン,N,N′-ジ(ナフタリン-1-イル)-N,N′-ジフェニル-ベンジジン:α-NPD),IDE320(出光社材料)などが使用される。ここで,正孔輸送層の厚さは100?400Åであることが望ましい。正孔輸送層の厚さが100Å未満の場合には,あまりに薄くて正孔輸送能力が低下され,400Åを超過する場合には駆動電圧上昇のため,望ましくない。 【0056】 【化2】 【0057】 次に,上記正孔輸送層(40)上部に真空熱蒸着またはスピンコーティングのような方法で発光層(50)を形成する。 【0058】 上記発光層(50)は,図1に示されたように青色発光層(50a)/黄色発光層(50b)で構成された2層構造であるか,図2に示されたように青色発光層(50a)/緑色・赤色発光層(50c)で構成された2層構造であることができ,図3に示されたように青色発光層(50a)/緑色発光層(50d)/赤色発光層(50e)で構成された3層構造であることも可能である。この場合,青色発光層(50a)を構成する材料としてはこの分野において一般的なものを使用することができ,例えば,CBPホストにFirpicを使用することができる。 【0059】 また,黄色発光層(50b),緑色・赤色発光層(50c),緑色発光層(50d)及び赤色発光層(50e)を構成するホスト物質としては,正孔輸送物質と電子輸送物質の混合物を使用することができ,ドーパント物質としてはそれぞれの色を出す燐光物質が使用される。例えば,正孔輸送物質としては,カルバゾール単位を含む物質を使用することができ,具体的には,1,3,5-トリスカルバゾリルベンゼン;4,4′-ビスカルバゾリルビフェニル;ポリビニールカルバゾール;m-ビスカルバゾイルビフェニル;4,4′-ビスカルバゾリル2,2′-ジメチルビフェニル;4,4′,4”-トリ(N-カルバゾリル)トリフェニルアミン;1,3,5-トリス(2-カルバゾリルフェニル)ベンゼン; 1,3,5-トリス(2-カルバゾリル5-メトキシフェニル)ベンゼン;ビ(4-カルバゾリルフェニル)シランからなるグループより一種以上選ばれることが望ましく,上記電子輸送物質としては有機金属系列物質として,アルミニウム,亜鉛,ベリリウムまたはカリウム系列の物質,オキサジアゾル単位を含む物質,トリアジン単位を含む物質,トリアゾル単位を含む物質,スピロプルオレン単位を含む物質を使用することができ,具体的には,ビス(8-ヒドロキシキノラト)ビフェノキシアルミニウム;ビス(8-ヒドロキシキノラト)フェノキシアルミニウム;ビス(2-メチル-8-ヒドロキシキノラト)ビフェノキシアルミニウム;ビス(2-メチル-8-ヒドロキシキノラト)フェノキシアルミニウム;ビス(2-(2-ヒドロキシフェニル)キノラト)亜鉛;2-(4-ビフェニルイル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール;2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-ペナントロリン(BCP);2,4,6-トリス(ジアリルアミノ)-1,3,5-トリアジン;3-フェニル-4-(1′-ナプチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾールからなるグループより一種以上選択されることが望ましい。 【0060】 黄色発光層(50b),赤色・緑色混合発光層(50c),緑色発光層(50d)及び赤色発光層(50e)で,黄色燐光ドーパントとしてIrpq2acac(ビス(フェニルキノリン) イリジウムアセチルアセトネート)を使用することができ,赤色燐光ドーパントとしてIr(piq)2acac(ビス(フェニルイソキノリン)イリジウムアセチルアセトネート)を使用することができ,緑色燐光ドーパントとしてIrppy3(トリス(フェニルピリジン)イリジウム)を使用することができる。 【0061】 上記正孔輸送物質と電子輸送物質は質量を基礎にして1:9?9:1で混合することが望ましく,上記正孔輸送物質と電子輸送物質の混合物に対する燐光物質の使用量は,1?20質量%で使用することが望ましい。 【0062】 本実施形態において,上記発光層(50)の全体厚さは20?60nmであることが望ましい。発光層の厚さが厚いほど駆動電圧が上昇するという短所のため,60nmを超過すれば適用しにくい。具体的には,青色発光層(50a)の厚さは10?50nmが望ましく,黄色発光層(50b)の厚さは10?50nmが望ましく,赤色・緑色混合発光層(50c)の厚さは10?50nmが望ましく,緑色発光層(50d)の厚さは5?45nmであり,赤色発光層(50e)の厚さは5?45nmの厚さが望ましい。 【0063】 図1?3には示されていないが,上記発光層(50)上に正孔抑制物質を真空蒸着,またはスピンコーティングして正孔抑制層を選択的に形成することができる。この時,使用する正孔抑制物質は特に制限されないが,電子輸送能力を持ちながら発光化合物より高いイオン化ポテンシャルを持たなければならず,代表的にBalq,BCP,TPBIなどが使用される。 【0064】 正孔抑制層の厚さは30?70Åであることが望ましい。もし,正孔抑制層の厚さが30Å未満の場合には,正孔抑制特性をよく具現することができず,70Åを超過する場合には駆動電圧上昇のため,望ましくない。 【0065】 【化3】 【0066】 上記発光層(50)または正孔抑制層上に電子輸送物質を真空蒸着またはスピンコーティングして電子輸送層(60)を形成する。電子輸送物質としては特に制限されず,Alq3を利用することができる。 【0067】 上記電子輸送層(60)の場合,厚さは150?600Åであることが望ましい。もし,電子輸送層(60)の厚さが150Å未満の場合には,電子輸送能力が低下され,600Åを超過する場合には駆動電圧上昇のため,望ましくない。 【0068】 また上記電子輸送層(60)上に電子注入層(70)を積層することができる。電子注入層(70)の形成材料としては,LiF,NaCl,CsF,Li2O,BaO,Liqなどの物質を利用することができる。上記電子注入層(70)の厚さは5?20Åであることが望ましい。もし,電子注入層(70)の厚さが5Å未満の場合には効果的な電子注入層としての役割ができず,20Åを超過する場合には駆動電圧が高くて望ましくない。 【0069】 【化4】 【0070】 次に,上記電子注入層(70)上部に第2電極(80)であるカソード用金属を真空熱蒸着して第2電極(80)であるカソードを形成することで白色有機発光素子が完成される。上記カソード金属としてはリチウム(Li),マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),アルミニウム-リチウム(Al-Li),カルシウム(Ca),マグネシウム-インジウム(Mg-In),マグネシウム-銀(Mg-Ag)などが利用される。」 ク 「【図面の簡単な説明】 【0096】 【図1】本発明の第1の実施形態にかかる白色有機発光素子を示す概略図である。 【図2】本発明の第2の実施形態にかかる白色有機発光素子を示す概略図である。 【図3】本発明の第3の実施形態にかかる白色有機発光素子を示す概略図である。 【図4】本発明の第1の実施形態にかかる白色有機発光素子の発光特性を示したグラフである。 【符号の説明】 【0097】 10 基板 20 第1電極 30 正孔注入層 40 正孔輸送層 50 発光層 50a 青色発光層 50b 黄色発光層 50c 緑色・赤色混合発光層 50d 緑色発光層 50e 赤色発光層 60 電子輸送層 70 電子注入層 80 第2電極」 ケ 【図1】?【図3】 【図1】「 」 【図2】「 」 【図3】「 」 (2) 引用発明 引用例1には,発明が解決しようとする課題に関して,「従来の白色有機発光素子によれば,白色光を得るために試行錯誤が必要であったり,寿命が短いという問題がある。…本発明は,このような問題に鑑みてなされたもので,その目的は,発光効率と寿命を改善することが可能な,新規かつ改良された白色有機発光素子及びその製造方法を提供することにある。」(段落【0009】及び【0010】)と記載されている。また,引用例1には,課題を解決するための手段として,「上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,二つの電極の間に発光層を含む白色有機発光素子において:上記発光層は,白色を具現することができる青色発光層と;青色以外の発光層と;を備え,上記青色以外の発光層は,正孔輸送物質と電子輸送物質の混合物と;燐光物質と;を有することを特徴とする,白色有機発光素子」(段落【0011】)が記載されている。そして,引用例1には,引用例1でいう「本発明」の白色有機発光素子の一実施形態として,【図3】の層構造を具備する白色有機発光素子が記載されている。 そうしてみると,引用例1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,参考のため,引用発明の認定の根拠となる刊行物1の段落番号等を併記する。 「 【0011】二つの電極の間に発光層を含む白色有機発光素子において:上記発光層は,白色を具現することができる青色発光層と;青色以外の発光層と;を備え,上記青色以外の発光層は,正孔輸送物質と電子輸送物質の混合物と;燐光物質と;を有する白色有機発光素子であって, 【図3】【0048】基板の上部に第1電極(20)を形成し, 【図3】【0051】第1電極(20)の上部に正孔注入層(30)を形成し, 【図3】【0055】正孔注入層(30)の上部に正孔輸送層(40)を形成し, 【図3】【0057】正孔輸送層(40)の上部に,【図3】正孔輸送層(40)側から順に【0058】青色発光層(50a)/緑色発光層(50d)/赤色発光層(50e)で構成された3層構造である発光層(50)を形成し, 【図3】【0066】発光層(50)の上部に電子輸送層(60)を形成し, 【図3】【0068】電子輸送層(60)の上部に電子注入層(70)を形成し, 【図3】【0070】電子注入層(70)の上部に第2電極(80)を形成してなる, 白色有機発光素子。」 (3) 引用例2の記載 本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった上記引用例2には,以下の事項が記載されている。なお,行数は,引用例2の各頁の左側に記載された数字に基づくものである。また,摘記事項キ及びクにおける下線は,当合議体が付したものであり,当合議体の判断において特に参考にした箇所である。 ア 1頁6?8行 「技術分野 本発明は有機EL素子,有機EL表示装置,有機EL素子の製造方法および有機EL素子の製造装置に関する。」 イ 1頁10行,…(省略)…,29行?2頁19行 「背景技術 …(省略)… 有機EL素子の開発当初は,正極/発光層(有機EL層)/負極からなる単純な構造であったが,有機EL素子を高効率とするために,例えば正極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/負極,からなる,いわゆる積層型有機EL素子が提案されている。(例えば非特許文献1参照。) さらに,正極から注入される正孔の量を増大させるために,正極と正孔輸送層の間に2-TNATAなどからなる正孔注入層を設けて,有機EL素子の動作電圧を低下させる方法や(特許文献1参照),正孔輸送層にアクセプタをドープすることにより,当該正孔輸送層の導電性を上げて,有機EL素子の動作電圧の低下と高効率化を図る方法が提案されている。(特許文献2参照。) また,このように正孔輸送層にアクセプタをドープした場合には導電性は向上するものの,キャリアの閉じ込めが充分に行われず,負の方向での電圧印加に対して電流が流れる,すなわちリーク電流が発生するという問題がある。そのために,さらに電子を閉じ込めるための電子注入抑制層を形成して,導電性を向上して発光効率を高めながら,リーク電流を抑制する方法が提案されている(特許文献3参照。) [特許文献1]特開2001-254076号公報 [特許文献2]特開平4-297076号公報 [特許文献3]特開2002-196140号公報 しかしながら,上記の有機EL素子のいずれの場合も,リーク電流の抑制に関しては不十分である。」 ウ 3頁7?10行 「 本発明の具体的な課題は,有機EL素子の導電性を向上させて動作電圧を抑制しながら,有機EL素子のリーク電流を抑制することを可能とすることであり,さらに当該有機EL素子を用いた有機EL表示装置,当該有機EL素子の製造方法および当該有機EL素子の製造装置を提供することである。」 エ 3頁12?21行 「発明の開示 本発明による有機EL素子は,上記の問題を解決するために,正極と負極間に,少なくとも発光層と,前記発光層の正極側に隣接する正孔輸送層と,前記前記発光層の負極側に隣接する電子注入輸送層とを有する有機EL素子であって,前記正孔輸送層と前記正極の間に正孔注入層が形成され,当該正孔注入層は,その導電性を当該正孔注入層の厚さ方向に連続的に変化させることを特徴としている。 当該有機EL素子では,前記正孔注入層の導電性を当該正孔注入層の厚さ方向に連続的に変化させるように形成したため,正孔注入層中でキャリアが涸渇した領域が形成され,当該有機EL素子の導電性を向上させて動作電圧を抑制しながら,有機EL素子のリーク電流を抑制することを可能としている。」 オ 5頁27行?10行 「発明を実施するための最良の形態 次に,本発明の実施の形態に関して図面に基づき,説明する。 図2は,本発明による有機EL素子の構成の一例の断面を,模式的に示した図である。 図2を参照するに,図2に示した有機EL素子100は,例えばガラスからなる基板101上に,透明な電極,例えばITOからなる正極201が形成され,当該正極201と,例えばAlからなる負極701に,有機EL層からなる発光層501が狭持された構造になっている。 前記発光層501と前記負極701の間には,電子注入輸送層601が形成され,また,前記発光層501と前記正極201の間には,前記発光層501に接するように正孔輸送層401が形成されており,さらに当該正孔輸送層401と前記正極201の間には,当該正孔輸送層401と前記正極201に接するように正孔注入層301が形成されている。」 (当合議体注:図2は,次の図である。) カ 9頁4?17行 「 また,次に図3Cに示す正孔注入層301Cのように,当該正孔注入層301Cのアクセプタ濃度が,前記正極201の近傍と,前記正孔輸送層401の近傍の双方で低くなるように形成すると,さらにリーク電流を抑制する効果が大きくなる。 前記前記正孔注入層301Cでは,前記正極201に面する側にアクセプタ濃度が低い低濃度層301gが,また正孔輸送層401に面する側にアクセプタの濃度が低い低濃度層301fが形成され,さらに当該低濃度層301gと当該低濃度層301fの間に,アクセプタ濃度が高い高濃度層301eが形成されている。 そのため,前記正孔輸送層401を通過した電子が前記低濃度層301fと前記低濃度層301gによって当該正孔注入層301Cを通過することを阻止すると共に,アクセプタ濃度が高い高濃度層301eが形成されることによって,当該正孔注入層301Cの導電性を高く維持して,正孔が効率的に発光層に注入されるようにして有機EL素子の動作電圧を抑制する効果を奏する。」 (当合議体注:図3Cは,次の図である。) キ 12頁13行?13頁12行 「[実施例3] また,図4Cは,図2に示した有機EL素子で,正孔注入層に図3Cに示した正孔注入層301Cを用いた例を示した図であり,併記したグラフは正孔注入層のアクセプタ濃度を模式的に示したものである。 本実施例では,基板101,正極201,正孔輸送層(電子抑制層)401,発光層501,電子輸送層601にAlqおよび負極701の構造は実施例1に記載した場合と同一であり,実施例1に記載した方法で形成することが可能である。 本実施例では実施例1の場合と同様に,正孔注入層301Cには,2-TNATA,正孔注入層にドープするアクセプタにF4-TCNQを用いて以下のようにITO表面上に正孔注入層301Cを形成した。 まず,2-TNATAとF4-TCNQをそれぞれ蒸着速度0.1nm/s,0.00004nm/sで厚さ10nm(0.04%)蒸着して前記低濃度膜301gを形成した。さらに,2-TNATAとF4-TCNQをそれぞれ蒸着速度0.1nm/s,0.00016nm/sで厚さ20nm(0.16%)蒸着して前記高濃度膜301eを形成した。次に,2-TNATAとF4-TCNQをそれぞれ蒸着速度0.1nm/s,0.00004nm/sで厚さ10nm(0.04%)蒸着して前記低濃度膜301fを形成して正孔注入層301Cを形成した。 また,図4Cには前記x軸方向,すなわち正孔注入層の膜圧方向でのアクセプタの濃度を模式的に示した図を示してあるが,前記高濃度層301eではアクセプタ濃度が高く,前記低濃度層301g,301fではアクセプタ濃度が低くなっていることがわかる。 このような正孔注入層は40?50nm形成されることが好ましい。また,正孔注入層ではアクセプタ濃度が前記低濃度層301gから前記高濃度層301eにおいて少なくとも10%以上変化するようにすると,リーク電流を抑制する効果が大きくなり,好適である。また,アクセプタ濃度が前記高濃度層301eから前記低濃度層301fにおいて少なくとも10%以上変化するようにすると,リーク電流を抑制する効果が大きくなり,好適である。」 (当合議体注:図4Cは,次の図である。) ク 13頁16行?14頁9行 「 次に,上記実施例1?実施例3(正孔注入層100A?100Cを用いた場合)の有機EL素子のリーク電流,発光輝度,動作電圧,発光効率を比較した結果を図5に示す。また,比較例として,正孔注入層で導電性を略均一としたものの結果を併記した。当該比較例の場合,正孔注入層を,2-TNATAとF4-TCNQをそれぞれ蒸着速度0.1nm/s,0.0001nm/sで厚さ40nm(0.1%)蒸着したものを用い,これ以外の構成は実施例1?実施例3の場合と同一とした。 図5を参照するに,実施例1?実施例3の場合において,比較例と比べた場合に,発光輝度,動作電圧,発光効率を同程度の値に保持しながら,比較例に比べてリーク電流が抑制された効果が確認された。すなわち,正孔注入層にアクセプタをドープして,発光輝度,発光効率を高くし,動作電圧を抑制する効果を維持しながら,アクセプタをドープした場合にリーク電流が増大するという従来の問題点を抑制する効果が確認された。 また,実施例1の場合には,実施例2の場合に比べてさらにリーク電流が低くなっているが,これは正孔注入層100Aの説明で記述したように,前記正極201に用いられるITOの膜の表面粗さ,すなわち膜の表面の凹凸に起因するリーク電流の増大を抑制する結果であると考えられる。 さらに,実施例3の場合には,実施例1および実施例2に比べてリーク電流が小さくなっており,正孔注入層の導電性,この場合アクセプタ濃度が,正極近傍と正孔輸送層近傍の双方で低くなるように形成されているため,リーク電流を抑制する効果が大きくなっていると共に,アクセプタのドープによって発光輝度,発光効率を高くし,動作電圧を抑制する従来の効果が維持されることも併せて確認された。」 (当合議体注:図5は,次の図である。) 2 対比及び判断 (1) 対比 本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。 ア 第一の電極 有機発光素子の動作原理に照らし合わせてみると,引用発明の「白色有機発光素子」は,「第1電極(20)」と「第2電極(80)」の間に駆動電圧を印加することにより,「第2電極(80)」から放出された電子が「電子注入層(70)」及び「電子輸送層(60)」を介して「発光層(50)」まで輸送され,また,「第1電極(20)」から放出された正孔が「正孔注入層(30)」及び「正孔輸送層(40)」を介して「発光層(50)」まで輸送され,「発光層(50)」において電子と正孔が結合して光を放出する素子と理解できる。 したがって,引用発明の「第1電極(20)」は,「白色有機発光素子」の動作中において,正孔を放出する陽極(アノード)として機能する。また,「正孔」は,見かけ上は,正の電荷を有する粒子として振る舞うから,本願発明の「第一の電荷の電荷担体」に対応付けることができる。 よって,引用発明の「第1電極(20)」は,本願発明の「第一の電極(100)」に相当する。また,引用発明の「第1電極(20)」は,本願発明の「作動中に第一の電荷の電荷担体を放出する第一の電極(100)」の要件を満たす。 イ 第一の輸送層 引用発明の「白色有機発光素子」は,「第1電極(20)の上部に正孔注入層(30)」を具備するとともに,「正孔注入層(30)の上部に正孔輸送層(40)」を具備し,さらに,「正孔輸送層(40)の上部に」「発光層(50)」を具備する。また,引用発明の「正孔注入層(30)」は,技術的にみて,「第1電極(20)」と「正孔輸送層(40)」の接触抵抗を減少させると同時に,「第1電極(20)」から「正孔注入層(30)」及び「正孔輸送層(40)」を介した「発光層(50)」への正孔の輸送能力を向上するための層である。 (当合議体注:刊行物1の段落【0051】には,「正孔注入層(30)を形成すれば,第1電極(20)と発光層(50)の接触抵抗を減少させると同時に,発光層(50)に対する第1電極(20)の正孔輸送能力が向上され」と記載されているが,引用発明の層構造を踏まえて正確に記載すると,以上のとおりとなる。) また,引用発明の「正孔注入層(30)」は,その層順からみて,「第1電極(20)」に隣接している。 したがって,引用発明の「正孔注入層(30)」は,本願発明の「第一の輸送層(200)」に相当する。また,引用発明の「正孔注入層(30)」は,本願発明の「第一の電荷の電荷担体を輸送し」,「第一の電極(100)上に設けられている」「第一の輸送層(200)」の要件,及び「第一の電極(100)に隣接しており」の要件を満たす。 ウ 第一の発光層?第三の発光層 引用発明の「白色有機発光素子」は,「正孔輸送層(40)の上部に,正孔輸送層(40)側から順に青色発光層(50a)/緑色発光層(50d)/赤色発光層(50e)で構成された3層構造である発光層(50)」を具備する。そこで,引用発明の各発光層の層順と本願発明の各発光層の層順を対比すると,引用発明の「青色発光層(50a)」,「緑色発光層(50d)」及び「赤色発光層(50e)」は,それぞれ,本願発明の「第一の発光層(400)」,「第二の発光層(410)」及び「第三の発光層(420)」に相当する。 また,引用発明の「青色発光層(50a)」,「緑色発光層(50d)」及び「赤色発光層(50e)」が,それぞれ,発光波長が青色である発光材料,発光波長が緑色である発光材料,及び発光波長が赤色である発光材料を含むことは,技術常識である。 以上まとめると,引用発明の「青色発光層(50a)」は,本願発明の「第一の発光材料を有し,かつ」「第一の輸送層(200)上に設けられている第一の発光層(400)」の要件を満たす。また,引用発明の「緑色発光層(50d)」は,本願発明の「第二の発光材料を有し,かつ第一の発光層(400)上に設けられている第二の発光層(410)」の要件を満たす。さらに,引用発明の「赤色発光層(50e)」は,本願発明の「第三の発光材料を有し,かつ第二の発光層(410)上に設けられている第三の発光層(420)」の要件を満たす。加えて,引用発明は,本願発明の「3つの発光材料の発光する光の波長は異なっており」の要件を満たす。 エ 第二の電極 引用発明の「白色有機発光素子」は,「発光層(50)の上部に電子輸送層(60)」を具備するとともに,「電子輸送層(60)の上部に電子注入層(70)」を具備し,さらに,「電子注入層(70)の上部に第2電極(80)」を具備する。すなわち,引用発明の「第2電極(80)」は,「白色有機発光素子」の動作中において,電子を放出する陰極(カソード)として機能する。また,「電子」は,負の電荷を有する粒子であるから,本願発明の「第二の電荷の電荷担体」に対応付けることができる。 したがって,引用発明の「第2電極(80)」は,本願発明の「第二の電極(110)」に相当する。また,引用発明の「第2電極(80)」は,本願発明の「作動中に第二の電荷の電荷担体を放出し,かつ第三の発光層(420)上に設けられている第二の電極(110)」の要件を満たす。 オ マトリックス及びリン光性 引用発明の「白色有機発光素子」において,「青色以外の発光層」,すなわち,「緑色発光層(50d)」及び「赤色発光層(50e)」は,それぞれ,「正孔輸送物質と電子輸送物質の混合物」及び「燐光物質」を有する。また,上記ア及びエにおいて,本願発明の「第一の電荷の電荷担体」及び「第二の電荷の電荷担体」を,それぞれ,「正孔」及び「電子」に対応付けたところである。 そうしてみると,引用発明の「緑色発光層(50d)」及び「赤色発光層(50e)」における,「正孔輸送物質」,「電子輸送物質」及び「混合物」は,それぞれ,本願発明の「第一の電荷の電荷担体を輸送する第一のマトリックス材料」,「第二の電荷の電荷担体を輸送する第二のマトリックス材料」及び「マトリックス」に相当する。 また,引用発明の「緑色発光層(50d)」の発光材料,及び「赤色発光層(50e)」の発光材料は,それぞれ,本願発明の「第二」「の発光材料はリン光性であり」及び「第三の発光材料はリン光性であり」の要件を満たす。 カ 放射線放出装置 引用発明は「白色有機発光素子」であるから,光を放射する装置といえる。また,「光」は「放射線」に該当する。 したがって,引用発明の「白色有機発光素子」は,本願発明の「放射線放出装置」に相当する。 (2) 一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。 「 作動中に第一の電荷の電荷担体を放出する第一の電極(100)と, 第一の電荷の電荷担体を輸送し,第一の電極(100)上に設けられている第一の輸送層(200)と, 第一の発光材料を有し,かつ第一の輸送層(200)上に設けられている第一の発光層(400)と, 第二の発光材料を有し,かつ第一の発光層(400)上に設けられている第二の発光層(410)と, 第三の発光材料を有し,かつ第二の発光層(410)上に設けられている第三の発光層(420)と, 作動中に第二の電荷の電荷担体を放出し,かつ第三の発光層(420)上に設けられている第二の電極(110)と を含む放射線放出装置であって, 第一の輸送層(200)は第一の電極(100)に隣接しており, 第二および第三の発光材料はリン光性であり,3つの発光材料の発光する光の波長は異なっており, 前記第二および第三の発光層は,第一の電荷の電荷担体を輸送する第一のマトリックス材料と,第二の電荷の電荷担体を輸送する第二のマトリックス材料とを有するマトリックスを有する, 放射線放出装置。」 イ 相違点 本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。 (相違点1) 本願発明の「第一の発光材料」は,「蛍光性」であり,また,本願発明の「第一の発光層」は,「第一の電荷の電荷担体を輸送するマトリックス材料のマトリックス」を有するのに対して,引用発明の「青色発光層」の発光材料は明らかではなく,また,引用発明の「青色発光層」が「第一の電荷の電荷担体を輸送するマトリックス材料のマトリックス」を有するかも,一応,明らかではない点。 (相違点2) 本願発明の「第一の輸送層(200)」は,(A)「ドーピングについて勾配を有」する,(B)「ドーピングされた第一の輸送層(200)」であり,また,(C)「3つの部分層に分かれており,第一の部分層と第三の部分層との間の範囲である第二の部分層のドーピング濃度は第一の部分層および第三の部分層におけるよりも高」いのに対して,引用発明の「正孔注入層(30)」は,この構成を具備するか,明らかではない点。 (相違点3) 本願発明の「第一の輸送層(200)」は,「100nmを上回る層厚」を有しているのに対して,引用発明の「正孔注入層(30)」は,「100nmを上回る層厚」を有するか,明らかではない点。 (3) 判断 ア 相違点1について (ア)蛍光性について 引用例1の段落【0015】には,「上記青色発光層を形成する物質は,FIrpic,ビフェニルアントラセン及び4,4′-ビス(ジフェニルアミノ)スチルベンからなる群より選択される一種以上の物質であってもよい。」と記載され,蛍光性の発光材料が,具体的に挙げられている(ビフェニルアントラセン及び4,4′-ビス(ジフェニルアミノ)スチルベン。)。 したがって,引用例1には,引用発明の「青色発光層(50a)」の発光材料が「蛍光性」である発明も,実質的に開示されている。 あるいは,青色ドーパントについて,色純度や寿命等の観点により,青色リン光ドーパントではなく青色蛍光ドーパントを用いることは,周知慣用技術である(必要ならば,特開2006-172763号公報の段落【0047】を参照。)。引用例1には,青色発光層を形成する物質として,リン光発光材料のみならず蛍光発光材料も開示されているから,引用発明において蛍光発光材料を採用することは,引用発明を具体化しようとする当業者における一選択肢にすぎない。 (イ)マトリックスについて 引用発明の「青色発光層(50a)」は,その層順からみて,「正孔輸送層(40)」からの正孔を,「緑色発光層(50d)」へ輸送する役割も担う必要がある。したがって,引用発明の「青色発光層」が「第一の電荷の電荷担体を輸送するマトリックス材料のマトリックス」を有することは必然である。 あるいは,引用発明の「発光層(50)」は,「青色発光層(50a)/緑色発光層(50d)/赤色発光層(50e)で構成された3層構造」であり,かつ,引用発明では,「青色発光層(50a)」と「緑色発光層(50d)」の間に電荷発生層は存在しない。したがって,当業者において,「青色発光層(50a)」を介して「緑色発光層(50d)」に正孔,すなわち第一の電荷の電荷単体を輸送するべく,引用発明の「青色発光層(50a)」において「第一の電荷の電荷担体を輸送するマトリックス材料のマトリックス」の構成を採用することは,当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項にすぎない。 イ 相違点2について 引用発明は,「発光効率と寿命を改善することが可能な,新規かつ改良された白色有機発光素子及びその製造方法を提供すること」を目的とする(段落【0010】)。また,キャリアの閉じ込めを万全のものとしてリーク電流を防止することにより発光効率を高めるという課題は,有機EL(有機発光素子)において自明の課題である。 ここで,引用例2の12頁13行?13頁12行の実施例3(前記1(3)キ)には,正孔注入層の膜圧方向でのアクセプタ濃度を,低濃度層301gから高濃度層301eにおいて少なくとも10%以上変化するようにし,また,アクセプタ濃度が高濃度層301eから低濃度層301fにおいて少なくとも10%以上変化するようにすると,リーク電流を抑制する効果が大きくなり,好適であることが開示されている(以下「引用例2記載技術」という。)。加えて,引用例2の図5からは,引用例2に開示された実施例1?3のうち,特に実施例3がリーク電流を抑制する効果が大きく,発光効率も最も高くなっていることが理解できる。 そうしてみると,引用発明及び引用例2記載技術を心得た当業者が,引用発明の「正孔注入層(30)」の構成として,引用例2記載技術の構成を採用し発光効率の改善を試みることは,当業者が容易に発明できた事項である。また,引用例2記載技術の構成を採用してなる「正孔注入層(30)」は,(A)アクセプタ濃度(本願発明でいう「ドーピング濃度」)に,10%以上の変化,すなわち勾配を有する,(B)ドーピングされた「正孔注入層(30)」となり,また,(C)低濃度層301g,高濃度層301e及び低濃度層301fの3つの部分層に分かれており,低濃度層301gと低濃度層301fとの間の範囲である高濃度層301eのアクセプタ濃度は,低濃度層301g及び低濃度層301fにおけるよりも高いものとなるから,相違点2に係る構成を具備したものとなる。 したがって,引用発明において相違点2に係る構成を採用することは,引用例1が示唆する課題の延長線上にある,当業者の通常の創意工夫の範囲内の事項にすぎない。 ウ 相違点3について 引用例1の段落【0052】には,「上記正孔注入層(30)の厚さは,300?1500Åであることが望ましい。」と記載されている。したがって,相違点3に係る構成は,引用発明の「正孔注入層(30)」が取り得る厚さとして,引用例1が明示する範囲内の厚さにすぎない。加えて,引用例1の段落【0052】には,前記記載に続いて,「正孔注入層(30)の厚さが300Å未満の場合には寿命が短くなって,有機EL素子の信頼性が悪くなり,…1500Åを超過する場合には駆動電圧上昇のため,望ましくない。」というように,膜厚を薄く(厚く)することのメリット・デメリットが明示されている。そうしてみると,素子寿命よりも駆動電圧を重視する当業者ならば,引用発明を具体化するに際し膜厚を比較的薄く設計するし,駆動電圧よりも素子寿命を重視する当業者ならば,引用発明を具体化するに際し膜厚を比較的厚く設計するといえる。 したがって,駆動電圧よりも素子寿命を重視する当業者が,引用発明の「正孔注入層(30)」において,100nm(1000Å)を上回る層厚を採用することは,引用例1において予定されている事項にすぎない。 (4) 効果について ア 本願発明の効果に関して,請求人は,本件意見書において,「本願発明により,効率的で長い寿命の放射線放出装置を提供するという課題が解決されます。すなわち,放射線放出装置の電極は,直ちにまたは数百時間の運転の後に初めて生じる局所的な電気的なショートを生じさせうる凹凸を有しており,これは,装置の全体的な欠損を生じさせます。本願発明によれば,100nmを上回るドーピングされた第一の輸送層の層厚さにより,第一の電極の表面のこの凹凸を覆うことができ,それゆえに強い電場の高まりが電気的なショートを生じることを回避できます。ドーピングされた第一の輸送層のこのような厚さによって,放射線放出装置の寿命が向上します(本願明細書段落0016?0017)。」と主張している(意見書2頁)。 しかしながら,本願発明は,第一の輸送層(200)について,「100nmを上回る層厚を有しており」という構成を具備するにとどまり,「100nmを上回る層厚」と「第一の電極の表面の凹凸」の関係を規定するような構成は具備しない。また,本願発明は,第一の電極の材料が,通常突起ができやすいとされるITO等であることも規定していない。 例えば,本件補正前の【請求項12】には,「発光層(400,410,420)の方向を向いた第一の電極(100)及び/又は第二の電極(110)の表面は一定の高さを有する凹凸を有する,請求項1から11までのいずれか1項に記載の装置。」と記載され,また,【請求項13】には,「第一の電極(100)及び/又は第二の電極(110)に境界を成す層は,凹凸の高さよりも大きな層厚を有する,請求項12に記載の装置。」と記載されていたが,本願発明は,このような構成を具備するとは特定されていない。 請求人が主張する本願発明の効果は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。 なお,当合議体の拒絶理由通知でも指摘したとおり,第一の電極(100)及び/又は第二の電極(110)に境界を成す層を,凹凸の高さよりも大きな層厚を有するものとすることは,欠陥をなくすための当然の構成にすぎない。 イ 請求人は,本件意見書において,「本願発明と異なり,引用例1および引用例2のいずれも,電極に隣接したドーピングされた輸送層が100nmを上回る層厚を有していることは開示されていません。むしろ,これらの文献には,100nm以下の層厚さが開示されています(引用例1:明細書段落0067?0069,0077。電子輸送層および電子注入層ないし正孔注入層および正孔輸送層は共に100nmを上回る層厚さをとりません;引用例2:明細書段落12頁24行?13頁2行,13頁7?12行)。」とも主張している(意見書2頁)。 しかしながら,前記(3)ウで述べたとおり,引用例1の段落【0052】には,「正孔注入層(30)」の層厚として,100nmを上回る層厚の範囲が記載されている。また,引用発明と引用例2記載技術を組み合わせてなるものは,ドーピングされた「正孔注入層(30)」となる。 なお,引用例2の12頁24行?13頁2行には,膜厚の合計が40nmとなる正孔注入層が開示されている。したがって,仮に,引用発明に引用例2に記載された実施例3の構成をそのまま採用した場合には,正孔注入層の膜厚として40nmが採用されることになる。 しかしながら,引用例2の「技術分野」(前記1(3)ア),「背景技術」(同イ),課題(同ウ),「発明の開示」(同エ)及び「発明を実施するための最良の形態」(同オ及びカ)を参照しても,正孔注入層の膜厚に関して特段の記載はない。これら引用例2の記載に接した当業者ならば,引用例2に記載された膜厚は,必須のものではなく,適用対象に応じて適宜変更可能な値にすぎないと理解する。加えて,引用例2に開示された膜厚は,引用例1の段落【0052】に開示された膜厚の下限値(300Å=30nm)に極めて近いものである。したがって,少なくとも,駆動電圧よりも素子寿命を重視する当業者においては,引用例2に開示された正孔注入層の膜厚を参考にすることは考えられない。 第3 まとめ 本願発明は,本件出願の優先日前に,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-10-04 |
結審通知日 | 2016-10-11 |
審決日 | 2016-10-24 |
出願番号 | 特願2010-526294(P2010-526294) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H05B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中山 佳美 |
特許庁審判長 |
藤原 敬士 |
特許庁審判官 |
樋口 信宏 河原 正 |
発明の名称 | 放射線放出装置及びその製法 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 久野 琢也 |