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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1325780
審判番号 不服2016-8057  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-01 
確定日 2017-03-09 
事件の表示 特願2012- 45666「p型酸化物、p型酸化物製造用組成物、p型酸化物の製造方法、半導体素子、表示素子、画像表示装置、及びシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月 8日出願公開、特開2012-216780〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成24年3月1日(国内優先権主張 優先日:平成23年3月31日)の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年 2月17日 審査請求
平成27年 6月12日 拒絶理由通知
平成27年 8月17日 意見書
平成28年 2月25日 拒絶査定
平成28年 6月 1日 審判請求・手続補正

第2 補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年6月1日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正により,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1は本件補正後の請求項1へ補正された。
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
組成式xAO・yCu_(2)O(xとyはモル比率を表し,0≦x<100,かつx+y=100である。)で表されるアモルファス酸化物からなり,
前記Aが,Mg,Ca,Sr,及びBaから選択される少なくともいずれかを含むことを特徴とするp型酸化物。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。(当審注。補正個所に下線を付した。下記(3)も同じ。)
「【請求項1】
組成式xAO・yCu_(2)O(xとyはモル比率を表し,0≦x<100,かつx+y=100である。)で表されるアモルファス酸化物からなり,
前記Aが,Mg,Ca,Sr,及びBaから選択される少なくともいずれかを含み,
前記Aが,Srである場合は,下記組成式(1)(ただし,下記組成式(1)中,0≦x<50,又は50<x<100,かつx+y=100である。)で表されることを特徴とするp型酸化物。
xSrO・yCu_(2)O ・・・組成式(1)」
(3)本件補正事項
本件補正は,補正前請求項1の「p型酸化物」について「前記Aが,Srである場合は,下記組成式(1)(ただし,下記組成式(1)中,0≦x<50,又は50<x<100,かつx+y=100である。)で表される
xSrO・yCu_(2)O ・・・組成式(1)」という限定を付加して,補正後請求項1とする補正(以下,「本件補正事項」という。)を含むものである。
2 補正の適否
本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載からみて,本件補正事項は,請求項1に記載されたp型酸化物のうち,モル比率が50のSrOを含むp型酸化物を除くにすぎず,新たな技術的事項を導入するものではないから,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであって,特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
そして,本件補正事項は前記1(3)のとおり,本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項を限定的に減縮するものであるから,特許法第17条の2第4項の規定に適合することは明らかであり,また,同法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項)につき,更に検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は,本件補正後の請求項1に記載された,次のとおりのものと認める。(再掲)
「組成式xAO・yCu_(2)O(xとyはモル比率を表し,0≦x<100,かつx+y=100である。)で表されるアモルファス酸化物からなり,
前記Aが,Mg,Ca,Sr,及びBaから選択される少なくともいずれかを含み,
前記Aが,Srである場合は,下記組成式(1)(ただし,下記組成式(1)中,0≦x<50,又は50<x<100,かつx+y=100である。)で表されることを特徴とするp型酸化物。
xSrO・yCu_(2)O ・・・組成式(1)」
(2)引用文献1の記載と引用発明
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張日前に国内で頒布された刊行物である特開2000-228516号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
(ア)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,半導体積層薄膜構造,およびこれを用いたダイオード素子および半導体積層薄膜構造を含んだ電子デバイスに関する。」
(イ)「【0011】無機物層は酸化物であり,例えばSrCu_(2)O_(2) では_(,)Cu^(+) の陽イオンが酸化物中に導入されている。この陽イオンのd^(10)電子の準位は,酸素イオンの2p^(6) 電子の準位に近接しているため,これらの準位が混成する。陽イオンと酸素イオンにより混成された電子準位は,価電子帯上端のホールの強い局在化を和らげ,酸素イオン上に局在化したホールを比局在化し,室温においても,イオン化できる準位になり,P型導電性を示す。ホールは,結晶中でイオン化したCu空孔,または,過剰の酸素により生成される。」
(ウ)「【0016】
【発明の実施の形態】本発明の積層薄膜は,基板上に,少なくとも,1価のCuを含む複合酸化物を含有する無機物層と,少なくともn型導電性を示す層が積層されている構造体を有する。また,好ましくは無機物層のバンドギャップが2.5eV以上であり,さらに好ましくは無機物層がp型半導体である。
【0017】1価のCuを含む複合酸化物のうち,デラフオサイト化合物,例えば,CuAlO_(2) 化合物では,1価のCuと,3価のAlによるCu^(+),AlO^(2 -) がそれぞれc軸に垂直な2次元平面を形成し,交互に積層している。SrCu_(2)O_(2) は,O-Cu-Oのダンベル構造のユニットがジグザグにつながり,1次元のチェーンを結晶構造中で形成している。デラフオサイト化合物またはSrCu_(2)O_(2)は,エピタキシャル膜でもよいが,非晶質,多結晶の薄膜においてもp型導電性を示す薄膜が容易に得られる。ドーピングも可能である。また通電や温度による電気的特性変化も少なく,電極材との電気化学反応も少ない。さらに透光性にも優れている。
【0018】本発明で用いる1価のCuを含む複合酸化物としては,CuAlO_(2) に代表されるI-III-VI_(2) 族のデラフオサイト化合物である。または,SrCu_(2)O_(2) において,Srに代わり他のアルカリ土類金属,またはSc,Yおよび他の希土類金属を用いた,例えば,BaCu_(2)O_(2) 等のACu_(2)O_(2) (A:アルカリ土類金属,または希土類金属)で表されるものが好ましい。さらに,これらの化合物を用いた複数成分の組み合わせの混晶化合物が好ましい。
【0019】これらの化合物の組成比は厳密に上記した値をとるのではなく,それぞれの元素に関してある程度の固溶限を有している。従って,CuAlO_(2),SrCu_(2)O_(2) などの酸化物は,その範囲の組成比であればよい。
【0020】以上のような化合物の中でも,CuAlO_(2),CuGaO_(2),ACu_(2)O_(2) (A:アルカリ土類金属,または希土類金属で,特にSrが好ましい)およびこれらの混晶化合物は,組成制御が容易でp型のワイドギャップの半導体となるため特に好ましい。
【0021】また,本発明の無機物層は,バンドギャップが2.5eV以上,より好ましくは2.7eV以上,さらには3.0eV以上,特に3.2eVであることが好ましい。その上限は,特に規制されるものではないが,通常,4eV程度である。バンドギャップが2.5eV以上の無機物層に用いる材料は,上述した1価のCuを含む複合酸化物中より適宜選択して用いればよい。
【0022】さらに本発明の無機物層は,p型半導体であるとさらに好ましい。n型半導体層に対し,Cuを含む複合酸化物を含有する無機物層は,その界面のn型半導体側に,空乏層を発生させる役割を果たし,良好なダイオード特性が得られる。p型半導体の無機物層に用いる材料は,上述したデラフォサイト化合物中より適宜選択して用いればよい。これらの化合物の中には,そのままでp型半導体の性質を示すものもあるが,これらの化合物の作製時に公知のドーピング物質またはガスを添加してp型化を行うことが好ましい。また,ドーピングを行わず,組成をずらすことによりp型化を行うことが特に好ましい。p型半導体か否かはホール測定,またはゼーベック効果により判断することができる。」
イ 引用発明
前記アより,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「SrCu_(2)O_(2)の非晶質のp型導電性を示す薄膜。」
なお,「非晶質」とは「アモルファス」と同義であり,「短距離秩序はあるが,長距離秩序はない固体」のこと(清水編「アドバンスト エレクトロニクスI-2 アモルファス半導体」,1994年,培風館,p.1,以下,「非晶質の定義」という。)である。本願明細書(段落0116-0132及び図14-30)においても,X線回折のプロファイル形状により「アモルファス状態」を確認したことが記載されており,非晶質の定義と整合するものである。
そして,引用文献1には,SrCu_(2)O_(2) では,Cu^(+) の陽イオンのd^(10)電子の準位は,酸素イオンの2p^(6) 電子の準位に近接しているため,これらの準位が混成し,価電子帯上端のホールの強い局在化を和らげることにより,P型導電性を示し(前記(2)ア(イ)),O-Cu-Oのダンベル構造のユニットがジグザグにつながり,1次元のチェーンを結晶構造中で形成している(前記(2)ア(ウ))こと(以下,「P型導電性原理」という。)が記載されているが,非晶質の定義によれば,非晶質においても短距離秩序があることから,P型導電性原理を排斥するものではなく,当業者にとって,引用文献1には「非晶質」の「p型導電性を示す」薄膜が記載されていると認められる。
(3)本願補正発明と引用発明との対比
引用発明の「SrCu_(2)O_(2)」は「非晶質」であるから,本願補正発明の「組成式xAO・yCu_(2)O(xとyはモル比率を表し,0≦x<100,かつx+y=100である。)で表されるアモルファス酸化物からなり,前記Aが,Mg,Ca,Sr,及びBaから選択される少なくともいずれかを含」むを満たすものである。
引用発明の「p型導電性を示す薄膜」と本願補正発明の「p型酸化物」とは,「p型導電性の物」という点で共通する。
すると,本願補正発明と引用発明とは,下記アの点で一致するが,下記イの点で相違すると認められる。
ア 一致点
「組成式xAO・yCu_(2)O(xとyはモル比率を表し,0≦x<100,かつx+y=100である。)で表されるアモルファス酸化物からなり,
前記Aが,Mg,Ca,Sr,及びBaから選択される少なくともいずれかを含むことを特徴とするp型導電性の物。」
イ 相違点
(ア)相違点1
本願補正発明においては「p型導電性の物」が「p型酸化物」であるのに対し,引用発明においては「p型導電性の物」が「p型導電性を示す薄膜」である点。
(イ)相違点2
本願補正発明においては「前記Aが,Srである場合は,下記組成式(1)(ただし,下記組成式(1)中,0≦x<50,又は50<x<100,かつx+y=100である。)で表される,xSrO・yCu_(2)O ・・・組成式(1)」のに対し,引用発明においてはSrOとCu_(2)Oの組成比は50:50である点。
(4)相違点についての検討
ア 相違点1について
引用文献1には薄膜構造をダイオード素子や電子デバイスに用いることが示唆されており(前記(2)ア(ア)),引用発明1の「薄膜」を電子デバイスの用途等の広い用途に用いることができる材料としての「p型酸化物」として認識することは当業者が容易になしうることである。
イ 相違点2について
引用文献1には組成をずらすことによりp型化を行うことが示唆されており(前記(1)ア(ウ)【0022】),この示唆に従い,引用発明1「SrCu_(2)O_(2)」の組成をずらしてp型導電性の調整をすることは当業者が適宜なし得ることである。
(5)本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は,引用発明の構成から当業者が予測できる程度のもので,格別なものではない。
(6)まとめ
本願補正発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 むすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明の特許性の有無について
1 本願発明について
平成28年6月1日にされた手続補正は前記第2のとおり却下された。
そして,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,願書に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された,次のとおりのものと認める。
「組成式xAO・yCu_(2)O(xとyはモル比率を表し,0≦x<100,かつx+y=100である。)で表されるアモルファス酸化物からなり,
前記Aが,Mg,Ca,Sr,及びBaから選択される少なくともいずれかを含むことを特徴とするp型酸化物。」
2 引用発明
引用発明は,前記第2の2(2)のとおりである。
3 対比・判断
本願発明は,本願補正発明から「前記Aが,Srである場合は,下記組成式(1)(ただし,下記組成式(1)中,0≦x<50,又は50<x<100,かつx+y=100である。)で表される,xSrO・yCu_(2)O ・・・組成式(1)」という限定事項を削除したものである。
そうすると,前記第2の2(3)より,本願発明と引用発明とは相違点1で相違し,その余の点で一致すると認められる。
そして,前記第2の2(4)アのとおり,相違点1に係る構成を想到することは当業者が容易になし得ることであり,かつ,本願発明の効果は,引用発明の構成から当業者が予測できる程度のもので,格別なものではない。
よって,本願発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第4 結言
したがって,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-26 
結審通知日 2017-01-10 
審決日 2017-01-24 
出願番号 特願2012-45666(P2012-45666)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 棚田 一也  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 深沢 正志
小田 浩
発明の名称 p型酸化物、p型酸化物製造用組成物、p型酸化物の製造方法、半導体素子、表示素子、画像表示装置、及びシステム  
代理人 廣田 浩一  

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