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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J |
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管理番号 | 1325832 |
異議申立番号 | 異議2016-700195 |
総通号数 | 208 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-04-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-03-07 |
確定日 | 2017-01-20 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5786556号発明「樹脂成形品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5786556号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 特許第5786556号の請求項1、3ないし8、10ないし13に係る特許を維持する。 特許第5786556号の請求項2、9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 特許第5786556号の請求項1ないし13に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成23年8月24日に特許出願され、平成27年8月7日に設定登録され、同年9月30日に特許公報が発行され、その後、特許異議申立人林法子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年7月4日付けで請求項1ないし13に係る特許について取消理由が通知され、その指定期間内である同年9月5日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、その訂正の請求に対して特許異議申立人から同年10月24日付けで意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「ポリカーボネート樹脂を射出成形することによる成形品の製造方法であって、射出成形時のシリンダー温度と金型温度との差が50℃?110℃であり、」とあるのを、「ポリカーボネート樹脂を射出成形することによる成形品の製造方法であって、前記ポリカーボネート樹脂における全構造単位に対する下記一般式(2)で表される化合物に由来する構造単位の割合が30モル%?95モル%であり、前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウム及びセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、前記ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の波長350nmにおける光線透過率が65%以上であり、前記ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の初期のイエローインデックス値が7以下であり、射出成形時のシリンダー温度と金型温度との差が50℃?110℃であり、」と訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項9を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2に記載の成形品の製造方法」とあるのを、「請求項1に記載の成形品の製造方法」と訂正し、同請求項5に「請求項1乃至4のいずれか1項に記載の成形品の製造方法」とあるのを、「請求項1、3又は4のいずれか1項に記載の成形品の製造方法」と訂正し、同請求項6に「請求項1乃至5のいずれか1項に記載の成形品の製造方法」とあるのを、「請求項1、3、4又は5のいずれか1項に記載の成形品の製造方法」と訂正し、同請求項7に「請求項1乃至6のいずれか1項に記載の成形品の製造方法」とあるのを、「請求項1、3、4、5又は6に記載の成形品の製造方法」と訂正し、同請求項8に「請求項1乃至7のいずれか1項に記載の成形品の製造方法」とあるのを、「請求項1、3、4、5、6又は7に記載の成形品の製造方法」と訂正し、同請求項10に「請求項1乃至9のいずれか1項に記載の成形品の製造方法」とあるのを、「請求項1、3、4、5、6、7又は8に記載の成形品の製造方法」と訂正し、同請求項11に「請求項1乃至10のいずれか1項に記載の成形品の製造方法」とあるのを、「請求項1、3、4、5、6、7、8又は10に記載の成形品の製造方法」と訂正し、同請求項12に「請求項1乃至11のいずれか1項に記載の成形品の製造方法」とあるのを、「請求項1、3、4、5、6、7、8、10又は11に記載の成形品の製造方法」と訂正し、同請求項13に「請求項1乃至12のいずれか1項に記載の樹脂成形品の製造方法」とあるのを、「請求項1、3、4、5、6、7、8、10、11又は12に記載の成形品の製造方法」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正事項1 ア 「下記一般式(2)で表される化合物に由来する構造単位」の割合を「30モル%?95モル%」と限定するものであり、「ポリカーボネート樹脂」に含まれる成分として「ナトリウム、カリウム及びセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」と限定するものであり、「ポリカーボネート樹脂を射出成形することによる成形」品の特性として「成形体(厚さ3mm)の波長350nmにおける光線透過率が65%以上」と限定するものであり、「ポリカーボネート樹脂を射出成形することによる成形」品の特性として「成形体(厚さ3mm)の初期のイエローインデックス値が7以下」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 訂正前の請求項1ないし13は、請求項1の記載を、請求項2ないし13が直接・間接に引用しているものであるから、訂正前の請求項1ないし13は、一群の請求項である。 したがって、訂正後の請求項1、3、4ないし8及び10ないし13は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。 ウ 「ポリカーボネート樹脂を射出成形することによる成形品の製造方法であって、ポリカーボネート樹脂における全構造単位に対する下記一般式(2)で表される化合物に由来する構造単位の割合が30モル%?95モル%」、「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウム及びセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」、「ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の波長350nmにおける光線透過率が65%以上」及び「ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の初期のイエローインデックス値が7以下」は、それぞれ、願書に添付した明細書の段落【0036】、段落【0057】、段落【0093】及び段落【0096】に記載されているから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。 エ 特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 (2) 訂正事項2 ア 請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 訂正前の請求項1ないし13は、請求項1の記載を、請求項2ないし13が直接・間接に引用しているものであるから、訂正前の請求項1ないし13は、一群の請求項である。 したがって、訂正後の請求項1、3、4ないし8及び10ないし13は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。 ウ 請求項2を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。 エ 請求項2を削除するものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 (3) 訂正事項3 ア 請求項9を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 訂正前の請求項1ないし13は、請求項1の記載を、請求項2ないし13が直接・間接に引用しているものであるから、訂正前の請求項1ないし13は、一群の請求項である。 したがって、訂正後の請求項1、3、4ないし8及び10ないし13は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。 ウ 請求項9を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。 エ 請求項9を削除するものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 (4) 訂正事項4 ア 上記訂正事項2及び3に係る訂正に伴って、従属項である請求項が引用する項番号の整合を図るために訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 訂正前の請求項1ないし13は、請求項1の記載を、請求項2ないし13が直接・間接に引用しているものであるから、訂正前の請求項1ないし13は、一群の請求項である。 したがって、訂正後の請求項1、3、4ないし8及び10ないし13は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。 ウ 明瞭でない記載の釈明をするものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。 エ 明瞭でない記載の釈明をするものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし13に係る発明(以下、それぞれ順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明13」といい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 下記一般式(2)で表される化合物に由来する構造単位と、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物に由来する構造単位とを含むポリカーボネート樹脂を射出成形することによる成形品の製造方法であって、 前記ポリカーボネート樹脂における全構造単位に対する下記一般式(2)で表される化合物に由来する構造単位の割合が30モル%?95モル%であり、 前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウム及びセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、 前記ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の波長350nmにおける光線透過率が65%以上であり、 前記ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の初期のイエローインデックス値が7以下であり、 射出成形時のシリンダー温度と金型温度との差が50℃?110℃であり、 シリンダー温度が210℃?270℃であり、 金型温度が90℃?200℃であることを特徴とする 成形品の製造方法。 【化1】 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 前記ポリカーボネート樹脂中の、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物の合計量が金属量として20ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の成形品の製造方法。 【請求項4】 前記長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物がマグネシウム化合物及びカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物であることを特徴とする請求項3に記載の成形品の製造方法。 【請求項5】 前記ポリカーボネート樹脂の下記一般式(3)で表される炭酸ジエステル含有量が60重量ppm以下であることを特徴とする請求項1、3又は4に記載の成形品の製造方法。 【化5】 (一般式(3)において、A^(1)及びA^(2)は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1?炭素数18の脂肪族基、または、置換若しくは無置換の芳香族基であり、A^(1)及びA^(2)とは同一であっても異なっていてもよい。) 【請求項6】 前記ポリカーボネート樹脂の、芳香族モノヒドロキシ化合物含有量が700重量ppm以下であることを特徴とする請求項1、3、4又は5に記載の成形品の製造方法。 【請求項7】 前記ポリカーボネート樹脂中の下記一般式(4)で表される末端基の濃度が、20μeq/g以上160μeq/g以下の範囲であることを特徴とする請求項1、3、4、5又は6に記載の成形品の製造方法。 【化6】 【請求項8】 前記ポリカーボネート樹脂中の芳香環に結合した水素原子(H)の当量数を(A)、芳香環以外に結合した水素原子(H)の当量数を(B)とした場合に、A/(A+B)≦0.05 であることを特徴とする請求項1、3、4、5、6又は7に記載の成形品の製造方法。 【請求項9】 (削除) 【請求項10】 前記ポリカーボネート樹脂が、前記ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の波長320nmにおける光線透過率が30%以上であるものであることを特徴とする請求項1、3、4、5、6、7又は8に記載の成形品の製造方法。 【請求項11】 前記ポリカーボネート樹脂が、前記ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の初期のイエローインデックス(YI)値と、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm?400nm、放射照度1.5kW/m^(2)で、100時間照射処理した後に、透過光で測定したASTM D1925-70に準拠したイエローインデックス(YI)値との差の絶対値が6以下であるものであることを特徴とする請求項1、3、4、5、6、7、8又は10に記載の成形品の製造方法。 【請求項12】 射出成形が、射出プレス成形法であることを特徴とする請求項1、3、4、5、6、7、8、10又は11に記載の成形品の製造方法。 【請求項13】 成形品の最大投影面積が100?50,000cm^(2)であることを特徴とする請求項1、3、4、5、6、7、8、10、11又は12に記載の成形品の製造方法。」 第4 取消理由の概要 1 取消理由1、2 本件特許発明は、その優先日前に日本国内において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない(取消理由1)。 仮にそうでないとしても、本件特許発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(取消理由2)。 よって、本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるものである。 記 刊行物1 特開2009-161745号公報(特許異議申立書に添付された甲第1号証) 2 取消理由3 請求項1及び請求項3ないし13(請求項2を引用するものを除く。) 本件特許発明1は、「外観、低光学歪み性、耐光性、色相、透明性、熱安定性、及び機械的強度に優れた樹脂成形品の製造方法を提供することにある」との課題(段落【0009】)を解決するため、「一般式(2)で表される化合物に由来する構造単位と、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物に由来する構造単位とを含むポリカーボネート樹脂」を用いることを特定事項としている。 しかるところ、発明の詳細な説明には、「一般式(2)で表される化合物に由来する構造単位」の割合が所定範囲のもののみが上記課題を解決していることは実施例として記載されているものの、実施例以外の場合に上記課題が解決されると当業者が理解できる記載もないし、上記課題が解決されるとの出願時の技術常識があるともいえない。 よって、本件特許発明1は、「一般式(2)で表される化合物に由来する構造単位」の割合を何ら特定していないものも含むから、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。 本件特許発明3ないし13(請求項2を引用するものを除く。)についても同様である。 第5 対比・判断(取消理由1、2) 1 刊行物1に記載された発明 刊行物1の特に請求項1、5、6、段落【0007】及び段落【0220】の記載から、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「分子内に少なくとも一つの連結基-CH_(2)-O-を有するジヒドロキシ化合物と、脂環式ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジヒドロキシ化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを溶融重縮合してポリカーボネートを製造し、該ポリカーボネートを射出成形するレンズの製造方法であって、射出成形時の金型表面温度が30℃以上170℃以下、この時の樹脂温度が220℃以上290℃以下であり、前記分子内に少なくとも一つの連結基-CH_(2)-O-を有するジヒドロキシ化合物が下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含む製造方法。 【化1】 」 2 本件特許発明1について (1) 対比 本件特許発明1と引用発明とを対比すると、後者の「分子内に少なくとも一つの連結基-CH_(2)-O-を有するジヒドロキシ化合物と、脂環式ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジヒドロキシ化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを溶融重縮合してポリカーボネートを製造し、該ポリカーボネートを射出成形するレンズの製造方法であって、前記分子内に少なくとも一つの連結基-CH_(2)-O-を有するジヒドロキシ化合物が下記一般式(1)(式の記載を省略する。)で表されるジヒドロキシ化合物を含む製造方法。」は前者の「下記一般式(2)(式の記載を省略する。)で表される化合物に由来する構造単位と、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物に由来する構造単位とを含むポリカーボネート樹脂を射出成形することによる成形品の製造方法」に相当する。 また、後者の「射出成形時の金型表面温度が30℃以上170℃以下、この時の樹脂温度が220℃以上290℃以下」であることは前者の「射出成形時のシリンダー温度が210℃?270℃であり、金型温度が90℃?200℃である」ことと一部重複一致している。 以上の点からみて、本件特許発明1と引用発明とは、 [一致点] 「下記一般式(2)で表される化合物に由来する構造単位と、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物に由来する構造単位とを含むポリカーボネート樹脂を射出成形することによる成形品の製造方法であって、射出成形時のシリンダー温度が210℃?270℃であり、金型温度が90℃?200℃」 である点で一致し、 次の点で一応相違する。 [相違点] 相違点1 本件特許発明1では、「ポリカーボネート樹脂における全構造単位に対する下記一般式(2)で表される化合物に由来する構造単位の割合が30モル%?95モル%であり、ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウム及びセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の波長350nmにおける光線透過率が65%以上であり、ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の初期のイエローインデックス値が7以下」であるのに対して、引用発明では、かかる特定事項を有さない点。 相違点2 本件特許発明1では、「射出成形時のシリンダー温度と金型温度との差が50℃?110℃」であるのに対して、引用発明では、かかる特定事項を有さない点。 (2) 判断 上記相違点について検討する。 ア 相違点1 「ポリカーボネート樹脂における全構造単位に対する下記一般式(2)で表される化合物に由来する構造単位の割合が30モル%?95モル%」である点は、刊行物1の請求項7及び段落【0067】に記載されている。 ところで、本件特許発明1の「射出成形時のシリンダー温度と金型温度との差が50℃?110℃」との記載は、優先権の主張の基礎とされた特願2010-189669号の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載されていないので、本件特許発明1についての優先権の主張は認められない。 したがって、本件特許発明1については、現実の出願日である平成23年8月24日が特許法第29条の規定の適用についての基準日となる。 そして、本件特許発明3ないし8及び10ないし13についても、本件特許発明1の構成をすべて含んでいるのであるから、本件特許発明1と同様に、現実の出願日である平成23年8月24日が特許法第29条の規定の適用についての基準日となる。 そうすると、「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウム及びセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」である点、「ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の波長350nmにおける光線透過率が65%以上」である点及び「ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の初期のイエローインデックス値が7以下」である点は、いずれも、特許権者が平成28年9月5日に提出された乙第1号証である国際公開2011/065505号の段落【0114】、段落【0051】及び段落【0063】に記載(以下、「周知の技術事項」という。)されている。 よって、引用発明において、上記相違点1に係る発明特定事項とすることは、上記周知の技術事項に基いて当業者が容易に推考し得ることである。 イ 相違点2 引用発明は、成形品としてレンズの成形の場合、射出成形条件として、特に金型表面温度と樹脂温度が重要であり、金型表面温度は30℃以上170℃以下が好ましく、また、この時の樹脂温度は220℃以上290℃以下となるようにするのが良いものであるが(段落【0220】)、金型表面温度と樹脂温度の差に着目するものではない。 他方、本件特許発明1は、「金型温度を一定にした状態で両者の差が110℃を越えるような温度までシリンダー温度を高くすると、樹脂組成物が分解しやすくなり、外観が悪くなる傾向となる。一方シリンダー温度をその差が50℃未満にまで低くすると良好な成形品が得難くなる」ものであるところ(段落【0099】)、かかる技術事項に基き、金型表面温度及び樹脂温度を特定した上で、金型表面温度と樹脂温度の差を特に限定することは、各証拠のいずれにも記載も示唆もない。 よって、引用発明の金型表面温度と樹脂温度の差に着目すること及びその動機づけを記載又は示唆する証拠があれば格別、かかる証拠のない本件においては、容易想到性を肯認することができない。 また、本件特許発明1による効果も(段落【0099】及び【表1】)、引用発明から当業者が予測し得たものであるとまではいえない。 (3) 小括 したがって、本件特許発明1は、引用発明であるとも、また、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 2 本件特許発明3ないし8及び10ないし13について 本件特許発明3ないし8及び10ないし13は、少なくとも上記相違点2で引用発明と相違する。 そうすると、上記本件特許発明1について検討した理由が妥当する。 したがって、本件特許発明3ないし8及び10ないし13は、引用発明であるとも、また、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 3 まとめ よって、本件特許発明1、3ないし8及び10ないし13は、特許法第29条の規定に違反しておらず、同法第113条第2号に該当しない。 第6 判断(取消理由3) 本件訂正請求の訂正により、請求項2は、削除されたので、取消理由3は解消された。 第7 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件訂正請求による訂正後の請求項1、3ないし8及び10ないし13に係る特許を取り消すことができない。 また、請求項2、9に係る特許は、本件訂正請求による訂正により削除されたため、特許異議申立人の請求項2、9に係る特許についての特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しない。 また、他に本件訂正請求による訂正後の請求項1、3ないし8及び10ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 下記一般式(2)で表される化合物に由来する構造単位と、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物に由来する構造単位とを含むポリカーボネート樹脂を射出成形することによる成形品の製造方法であって、 前記ポリカーボネート樹脂における全構造単位に対する下記一般式(2)で表される化合物に由来する構造単位の割合が30モル%?95モル%であり、 前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウム及びセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、 前記ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の波長350nmにおける光線透過率が65%以上であり、 前記ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の初期のイエローインデックス値が7以下であり、 射出成形時のシリンダー温度と金型温度との差が50℃?110℃であり、 シリンダー温度が210℃?270℃であり、 金型温度が90℃?200℃であることを特徴とする 成形品の製造方法。 【化1】 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 前記ポリカーボネート樹脂中の、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物の合計量が金属量として20ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の成形品の製造方法。 【請求項4】 前記長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物がマグネシウム化合物及びカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物であることを特徴とする請求項3に記載の成形品の製造方法。 【請求項5】 前記ポリカーボネート樹脂の下記一般式(3)で表される炭酸ジエステル含有量が60重量ppm以下であることを特徴とする請求項1、3又は4に記載の成形品の製造方法。 【化5】 (一般式(3)において、A^(1)及びA^(2)は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1?炭素数18の脂肪族基、または、置換若しくは無置換の芳香族基であり、A^(1)とA^(2)とは同一であっても異なっていてもよい。) 【請求項6】 前記ポリカーボネート樹脂の、芳香族モノヒドロキシ化合物含有量が700重量ppm以下であることを特徴とする請求項1、3、4又は5に記載の成形品の製造方法。 【請求項7】 前記ポリカーボネート樹脂中の下記一般式(4)で表される末端基の濃度が、20μeq/g以上160μeq/g以下の範囲であることを特徴とする請求項1、3、4、5又は6に記載の成形品の製造方法。 【化6】 【請求項8】 前記ポリカーボネート樹脂中の芳香環に結合した水素原子(H)の当量数を(A)、芳香環以外に結合した水素原子(H)の当量数を(B)とした場合に、A/(A+B)≦0.05 であることを特徴とする請求項1、3、4、5、6又は7に記載の成形品の製造方法。 【請求項9】 (削除) 【請求項10】 前記ポリカーボネート樹脂が、前記ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の波長320nmにおける光線透過率が30%以上であるものであることを特徴とする請求項1、3、4、5、6、7又は8に記載の成形品の製造方法。 【請求項11】 前記ポリカーボネート樹脂が、前記ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の初期のイエローインデックス(YI)値と、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm?400nm、放射照度1.5kW/m^(2)で、100時間照射処理した後に、透過光で測定したASTM D1925-70に準拠したイエローインデックス(YI)値との差の絶対値が6以下であるものであることを特徴とする請求項1、3、4、5、6、7、8又は10に記載の成形品の製造方法。 【請求項12】 射出成形が、射出プレス成形法であることを特徴とする請求項1、3、4、5、6、7、8、10又は11に記載の成形品の製造方法。 【請求項13】 成形品の最大投影面積が100?50,000cm^(2)であることを特徴とする請求項1、3、4、5、6、7、8、10、11又は12に記載の樹脂成形品の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-01-11 |
出願番号 | 特願2011-182760(P2011-182760) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(C08J)
P 1 651・ 121- YAA (C08J) P 1 651・ 113- YAA (C08J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 松岡 美和、加賀 直人、久保田 葵 |
特許庁審判長 |
小野寺 務 |
特許庁審判官 |
小柳 健悟 大島 祥吾 |
登録日 | 2015-08-07 |
登録番号 | 特許第5786556号(P5786556) |
権利者 | 三菱化学株式会社 |
発明の名称 | 樹脂成形品の製造方法 |
代理人 | 重野 剛 |
代理人 | 重野 剛 |