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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B63B 審判 全部申し立て 2項進歩性 B63B |
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管理番号 | 1325856 |
異議申立番号 | 異議2016-700435 |
総通号数 | 208 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-04-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-05-16 |
確定日 | 2017-02-03 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5814460号発明「揚荷装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5814460号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第5814460号の請求項に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5814460号の請求項1-5に係る特許についての出願は、2012年(平成24年)3月5日を国際出願日とする出願であって、平成27年10月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人喜古弥寿正及び特許異議申立人スペロセイキ株式会社によりそれぞれ特許異議の申立てがされ、平成28年8月29日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年10月25日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人喜古弥寿正及び異議申立人スペロセイキ株式会社から平成28年12月19日付けで意見書がそれぞれ提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである(下線部は訂正後の変更部分を示す。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「隔壁により内部が水密となるように区画された前記船倉内から搬出された粉粒体を垂直方向に移送する垂直移送手段と、」と記載されているのを、 「隔壁により内部が水密となるように区画された前記船倉内から搬出された粉粒体を垂直方向に移送する、縦型バケットエレベータからなる垂直移送手段と、」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「前記船倉の底部に設けられると共に前記垂直移送手段と接続され、前記船倉内の粉粒体を前記垂直移送手段の下端側に向けて水平方向に移送するエアスライダと、」と記載されているのを、 「前記船倉の底部に設けられると共に前記垂直移送手段と接続され、前記船倉内の粉粒体を前記垂直移送手段の下端側に向けて水平方向に移送するエアスライダと、を備え、」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1に「前記エアスライダは前記船倉毎に水密可能となるように配置され、」と記載されているのを、 「前記船倉が隔壁により内部が水密となるように区画されているため、前記エアスライダは前記船倉毎に水密可能となるように配置され、」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項1に「前記エアスライダと垂直移送手段の接続部に、流量調整弁を備える抜出ゲートが配置されていることを特徴とする揚荷装置。」と記載されているのを、 「前記エアスライダと垂直移送手段の接続部に、流量調整弁を備える抜出ゲートが配置され、前記船倉内の粉粒体の前記垂直移送手段への供給量を制御する制御手段を更に備え、前記制御手段は、前記垂直移送手段の駆動電動機の電流値又は電力量に基づいて、前記エアスライダの風量を調節して前記供給量を制御することを特徴とする揚荷装置。」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項2に「前記エアスライダは前記船倉毎に水密可能となるように配置され、」と記載されているのを、 「前記船倉が隔壁により内部が水密となるように区画されているため、前記エアスライダは前記船倉毎に水密可能となるように配置され、」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項3に「前記垂直移送手段は、縦型バケットエレベータ又は縦型スクリューコンベヤからなる」と記載されているのを、 「前記垂直移送手段は、縦型バケットエレベータからなる」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2記載の揚荷装置。」と記載されているのを、 「請求項2記載の揚荷装置。」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項5に「請求項4記載の揚荷装置。」と記載されているのを、 「請求項1又は4記載の揚荷装置。」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1の「隔壁により内部が水密となるように区画された前記船倉内から搬出された粉粒体を垂直方向に移送する、縦型バケットエレベータからなる垂直移送手段と、」は、「垂直移送手段」について「縦型バケットエレベータ」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的するものである。 そして、「垂直移送手段」が「縦型バケットエレベータからなる」という事項は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項3に記載されている事項であるから、新規事項の追加に該当しない。 また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2の「前記船倉の底部に設けられると共に前記垂直移送手段と接続され、前記船倉内の粉粒体を前記垂直移送手段の下端側に向けて水平方向に移送するエアスライダと、を備え、」は、平成28年8月29日付けの取消理由通知書の取消理由1(特許法第36条第6項第2号)で指摘した事項に応じて、エアスライダは揚荷装置に備えられる点を明確にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、エアスライダは揚荷装置に備えられるという事項は、願書に添付した明細書の段落【0017】に記載されている事項であるから、新規事項の追加に該当しない。 また、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3の「前記船倉が隔壁により内部が水密となるように区画されているため、前記エアスライダは前記船倉毎に水密可能となるように配置され、」は、平成28年8月29日付けの取消理由通知書の取消理由1(特許法第36条第6項第2号)で指摘した事項に応じて、船倉が隔壁により内部が水密となるように区画されていることで、エアスライダは船倉毎に水密可能となる点を明確にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項3は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1の「隔壁により内部が水密となるように区画された前記船倉」との記載から導かれる事項であるから、新規事項の追加に該当しない。 加えて、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項4の「前記エアスライダと垂直移送手段の接続部に、流量調整弁を備える抜出ゲートが配置され、前記船倉内の粉粒体の前記垂直移送手段への供給量を制御する制御手段を更に備え、前記制御手段は、前記垂直移送手段の駆動電動機の電流値又は電力量に基づいて、前記エアスライダの風量を調節して前記供給量を制御することを特徴とする揚荷装置。」は、訂正前の請求項4に記載されている発明特定事項を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当しない。 また、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)訂正事項5の「前記船倉が隔壁により内部が水密となるように区画されているため、前記エアスライダは前記船倉毎に水密可能となるように配置され、」は、は、平成28年8月29日付けの取消理由通知書の取消理由1(特許法第36条第6項第2号)で指摘した事項に応じて、船倉が隔壁により内部が水密となるように区画されていることで、エアスライダは船倉毎に水密可能となる点を明確にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項5は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項2の「隔壁により内部が水密となるように区画された前記船倉」との記載から導かれる事項であるから、新規事項の追加に該当しない。 加えて、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (6)訂正事項6の「前記垂直移送手段は、縦型バケットエレベータからなる」は、訂正前の請求項3の択一的記載の要素を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当しない。 また、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (7)訂正事項7の「請求項2記載の揚荷装置。」は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (8)訂正事項8の「請求項1又は4記載の揚荷装置。」は、訂正事項1により訂正前の請求項3に記載されている発明特定事項を、訂正事項4により訂正前の請求項4に記載されている発明特定事項を請求項1に付加したことに伴い、請求項4に加えて新たに請求項1を直接引用することとしたものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項8は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、訂正前の請求項1-5は、請求項3-5が、訂正の対象である請求項1及び2の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。 したがって、訂正の請求は、一群の請求項に対してなされたものである。 3.小括 したがって、上記訂正請求による訂正事項1-8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.本件特許発明 本件訂正請求により訂正された請求項1-5に係る発明(以下、「本件特許発明1-5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1-5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 粉粒体を複数に区画された船倉内に積載して運搬する粉粒体運搬船に設置され、前記船倉内から前記粉粒体を荷揚する揚荷装置であって、 隔壁により内部が水密となるように区画された前記船倉内から搬出された粉粒体を垂直方向に移送する、縦型バケットエレベータからなる垂直移送手段と、 前記船倉の底部に設けられると共に前記垂直移送手段と接続され、前記船倉内の粉粒体を前記垂直移送手段の下端側に向けて水平方向に移送するエアスライダと、を備え、 前記垂直移送手段は船倉毎に配置され、 前記船倉が隔壁により内部が水密となるように区画されているため、前記エアスライダは前記船倉毎に水密可能となるように配置され、 前記エアスライダと垂直移送手段の接続部に、流量調整弁を備える抜出ゲートが配置され、 前記船倉内の粉粒体の前記垂直移送手段への供給量を制御する制御手段を更に備え、前記制御手段は、前記垂直移送手段の駆動電動機の電流値又は電力量に基づいて、前記エアスライダの風量を調節して前記供給量を制御することを特徴とする揚荷装置。」 【請求項2】 粉粒体を複数に区画された船倉内に積載して運搬する粉粒体運搬船に設置され、前記船倉内から前記粉粒体を荷揚する揚荷装置であって、 隔壁により内部が水密となるように区画された前記船倉内から搬出された粉粒体を垂直方向に移送する垂直移送手段と、 前記船倉の底部に設けられると共に前記垂直移送手段と直接接続され、前記船倉内の粉粒体を前記垂直移送手段の下端側に向けて水平方向に移送するエアスライダとを備え、 前記垂直移送手段は少なくとも2つの隣接する船倉の隔壁部に、これらの船倉で共有するように配置され、 前記船倉が隔壁により内部が水密となるように区画されているため、前記エアスライダは前記船倉毎に水密可能となるように配置され、 前記垂直移送手段とエアスライダの接続部は、水密バタフライバルブにより閉塞可能に接続されていることを特徴とする揚荷装置。 【請求項3】 前記垂直移送手段は、縦型バケットエレベータからなることを特徴とする請求項2記載の揚荷装置。 【請求項4】 前記船倉内の粉粒体の前記垂直移送手段への供給量を制御する制御手段を更に備え、 前記制御手段は、前記垂直移送手段の駆動電動機の電流値又は電力量に基づいて、前記エアスライダの風量を調節して前記供給量を制御する ことを特徴とする請求項3記載の揚荷装置。 【請求項5】 前記制御手段は、 前記粉粒体の揚荷役時以外は前記抜出ゲート又は水密バタフライバルブを常時全閉とするように制御し、 前記粉粒体の揚荷役時は前記船倉のいずれかに損傷が生じた場合に、前記抜出ゲート又は水密バタフライバルブを全閉とするように制御する ことを特徴とする請求項1又は4記載の揚荷装置。」 2.取消理由の概要 訂正前の請求項1-5に係る特許に対して平成28年8月29日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア.請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 イ.請求項1、3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 ウ.本件特許は、請求項1、2の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 3.証拠方法及び公然実施された発明 証拠一覧: 甲第1-1号証:鶴雄丸の写真(全景写真、荷揚VSC投入部写真、抽出カットゲート写真)の写し 甲第1-2-1号証:2008年11月10日作製の4000T積み石炭灰兼炭酸カルシウム運搬船の全体配置図の写し 甲第1-2-2号証:甲第1-2-1号証における本件特許発明の発明特定事項の対応図の写し 甲第1-3-1号証:2009年11月17日作製の4000T積み石炭灰兼炭酸カルシウム運搬船のホールド内エアレーション配置図の写し 甲第1-3-2号証:甲第1-3-1号証における本件特許発明の発明特定事項の対応図の写し 甲第1-4-1号証:2009年11月7日作製の4000T積み石炭灰兼炭酸カルシウム運搬船の揚荷VSC下部詳細図の写し 甲第1-4-2号証:甲第1-4-1号証における本件特許発明の発明特定事項の対応図の写し 甲第1-5号証:2009年11月26日作製の4000T積み石炭灰兼炭酸カルシウム運搬船の抽出カットゲートの写し 甲第1-6号証:損傷時復元性計算書の表紙の写し 甲第1-7号証:鶴雄丸の損傷制御図の写し 甲第1-8号証:内航船舶明細書2015(一般社団法人日本海運集会所発行)の表紙、第13頁の写し 甲第1-9号証:NSユナイテッド内航海運株式会社船舶部取締役船舶部長の志賀辰也氏の「鶴雄丸の荷役設備についての陳述書」の写し 甲第1-10号証:NSユナイテッド内航海運株式会社船舶部の中村英毅氏の「鶴雄丸の荷役設備についての陳述書」の写し 甲第1-1号証?甲第1-10号証は、それぞれ特許異議申立人スペロセイキ株式会社による特許異議申立書の甲第1-1号証?甲第1-10号証である。 (1)甲第1-1号証には、鶴雄丸の全景写真(添付写真A)の撮影日が平成22年7月13日であることが記載され、また、甲第1-8号証には、鶴雄丸に関し、船舶番号:141261、船主名:NSユナイテッド内航海運(株)、竣工:2010.6.28、航行区域 船級:限近 NK、信号符号:JD3076、積荷:炭カル、石炭灰、造船所名:三浦造船所佐伯であることが記載されている。 (2)甲第1-9号証において、鶴雄丸を共同所有するNSユナイテッド内航海運株式会社船舶部取締役船舶部長の志賀辰也氏は、鶴雄丸(船舶番号141261)は、平成22年6月の竣工時より現在(平成28年4月28日)に至るまで甲第1-1号証の鶴尾丸の写真、及び、甲第1-2-1号証?甲第1-5号証の図面に示す荷役設備を有している旨陳述している。 甲第1-10号証において、NSユナイテッド内航海運株式会社船舶部の中村英毅氏も志賀辰也氏と同様の陳述をしている。 また、甲第1-6号証には、鶴雄丸が4000T積み石炭灰兼炭酸カルシウム運搬船であること、船番が1353であること、及び、株式会社三浦造船所が記載されており、さらに、甲第1-7号証には、鶴雄丸の損傷制御図が示されており、当該損傷制御図と甲第1-2-1号証の4000T積み石炭灰兼炭酸カルシウム運搬船の全体配置図とを対比すると極めて類似している。 以上から、鶴雄丸は、本件特許の出願日前に就航していたものであり、甲第1-1号証の鶴雄丸の写真に示された荷役設備、及び、甲第1-2-1号証?甲第1-5号証の図面に記載された荷役設備を有しているものと推認できる。 以下、甲第1-2-1号証?甲第1-5号証について検討する。 (3)甲第1-2-1号証?甲第1-3-2号証には、石炭灰兼炭酸カルシウムを複数に区画されたホールド内に積載して運搬する4000T積み石炭灰兼炭酸カルシウム運搬船に設置され、前記ホールド内から前記石炭灰兼炭酸カルシウムを荷揚する揚荷装置が記載されているものと認められる。 (4)甲第1-2-1号証?甲第1-3-2号証には、ホールド内から搬出された石炭灰兼炭酸カルシウムを垂直方向に移送する垂直移送手段が記載されているものと認められる。そして、石炭灰兼炭酸カルシウム運搬船等の粉粒体運搬船において、各ホールドは、隔壁により内部が水密となるように区画されるのが技術常識であるから、甲第1-2-1号証?甲第1-3-2号証に記載の各ホールドも、隔壁により内部が水密となるように区画されているものと認められる。 したがって、甲第1-2-1号証?甲第1-3-2号証には、隔壁により内部が水密となるように区画されたホールド内から搬出された石炭灰兼炭酸カルシウムを垂直方向に移送する垂直移送手段が記載されているものと認められる。 (5)甲第1-3-1号証?甲第1-4-2号証には、ホールドの底部に設けられると共に垂直移送手段と接続され、前記ホールド内の石炭灰兼炭酸カルシウムを前記垂直移送手段の下端側に向けて水平方向に移送するエアレーションが記載されているものと認められる。 (6)甲第1-2-1号証?甲第1-3-2号証には、垂直移送手段はホールド毎に配置されることが記載されているものと認められる。 (7)上記(4)で述べたとおり、甲第1-2-1号証?甲第1-3-2号証に記載の各ホールドは、隔壁により内部が水密となるように区画されているものと認められる。 したがって、水密となるように区画されている各ホールド内のエアレーションは、各ホールドが隔壁により内部が水密となるように区画されているため、ホールド毎に水密可能となるように配置されているものと認められる。 (8)甲第1-3-1号証?甲第1-4-2号証には、エアレーションと垂直移送手段の接続部に、抽出カットゲートが配置されていることが記載されているものと認められる。 上記(2)で述べたとおり、鶴雄丸は本件特許の出願日前に就航していたものであるから、甲第1-1号証の鶴雄丸の写真に示された荷役設備、及び、甲第1-2-1号証?甲第1-5号証の図面に記載された荷役設備は、本件特許の出願日前に実施されていたものと認められる。 そして、船主の従業員や鶴雄丸の船員に対して、甲第1-1号証の鶴雄丸の写真に示された荷役設備、及び、甲第1-2-1号証?甲第1-5号証の図面に記載された荷役設備に関して守秘義務は課されていないものと推認されるから、上記荷役設備は、公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で実施されていたものと認められる。 以上より、本件特許の出願日前に就航していたものと認められる鶴雄丸において、以下の発明が公然実施されていたものと認められる(以下、「公然実施された発明」という。)。 「石炭灰兼炭酸カルシウムを複数に区画されたホールド内に積載して運搬する4000T積み石炭灰兼炭酸カルシウム運搬船に設置され、前記ホールド内から前記石炭灰兼炭酸カルシウムを荷揚する揚荷装置であって、 隔壁により内部が水密となるように区画された前記ホールド内から搬出された石炭灰兼炭酸カルシウムを垂直方向に移送する垂直移送手段と、 前記ホールドの底部に設けられると共に前記垂直移送手段と接続され、前記ホールド内の石炭灰兼炭酸カルシウムを前記垂直移送手段の下端側に向けて水平方向に移送するエアレーションと、を備え、 前記垂直移送手段はホールド毎に配置され、 前記ホールドが隔壁により内部が水密となるように区画されているため、前記エアレーションは前記ホールド毎に水密可能となるように配置され、 前記エアレーションと垂直移送手段の接続部に、抽出カットゲートが配置されている 揚荷装置。」 4.判断 (1)取消理由通知に記載した取消理由について ア.特許法第29条第1項第2号について (ア)本件特許発明1と公然実施された発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、公然実施された発明の「石炭灰兼炭酸カルシウム」は本件特許発明1の「粉粒体」に相当し、以下同様に、「ホールド」は「船倉」に、「4000T積み石炭灰兼炭酸カルシウム運搬船」は「粉粒体運搬船」に、「エアレーション」は「エアスライダ」に、それぞれ相当する。 (イ)公然実施された発明の「隔壁により内部が水密となるように区画された前記ホールド内から搬出された石炭灰兼炭酸カルシウムを垂直方向に移送する垂直移送手段」と、本件特許発明1の「隔壁により内部が水密となるように区画された前記船倉内から搬出された粉粒体を垂直方向に移送する、縦型バケットエレベータからなる垂直移送手段」は、「隔壁により内部が水密となるように区画された前記船倉内から搬出された粉粒体を垂直方向に移送する垂直移送手段」という限度で一致する。 (ウ)公然実施された発明の「前記エアレーションと垂直移送手段の接続部に、抽出カットゲートが配置されている」という構成と、本件特許発明1の「前記エアスライダと垂直移送手段の接続部に、流量調整弁を備える抜出ゲートが配置され」という構成は、「前記エアスライダと垂直移送手段の接続部に、ゲートが配置され」という構成の限度で一致する。 したがって、両者は、以下の点で一致する。 「粉粒体を複数に区画された船倉内に積載して運搬する粉粒体運搬船に設置され、前記船倉内から前記粉粒体を荷揚する揚荷装置であって、 隔壁により内部が水密となるように区画された前記船倉内から搬出された粉粒体を垂直方向に移送する垂直移送手段と、 前記船倉の底部に設けられると共に前記垂直移送手段と接続され、前記船倉内の粉粒体を前記垂直移送手段の下端側に向けて水平方向に移送するエアスライダと、を備え、 前記垂直移送手段は船倉毎に配置され、 前記船倉が隔壁により内部が水密となるように区画されているため、前記エアスライダは前記船倉毎に水密可能となるように配置され、 前記エアスライダと垂直移送手段の接続部に、ゲートが配置されている揚荷装置。」 そして、本件特許発明1と公然実施された発明とは、以下の点で相違している。 <相違点1> 「垂直移送手段」に関し、本件特許発明1では、「縦型バケットエレベータからなる垂直移送手段」であるのに対し、 公然実施された発明では、そのように特定されていない点。 <相違点2> 「ゲート」に関し、本件特許発明1では、「流量調整弁を備える抜出ゲート」であるのに対し、 公然実施された発明では、「抽出カットゲート」である点。 <相違点3> 本件特許発明1では、「前記船倉内の粉粒体の前記垂直移送手段への供給量を制御する制御手段を更に備え、前記制御手段は、前記垂直移送手段の駆動電動機の電流値又は電力量に基づいて、前記エアスライダの風量を調節して前記供給量を制御する」という構成を備えているのに対し、 公然実施された発明では、そのように特定されていない点。 上記のとおり、本件特許発明1は、公然実施された発明とは相違するから、特許法第29条第1項第2号に該当しない。 イ.特許法第29条第2項について 上記ア.で述べたとおり、本件特許発明1と公然実施された発明は、相違点1?3で相違する。 そこで、事案にかんがみ、相違点3について検討する。 平成28年8月29日付けの取消理由通知書において流量調整弁に関する周知例として引用した特開2005-22840号公報(段落【0031】、【0033】、【0036】及び図1、2、3等参照)には、バケットエレベータ4の負荷電流に基づいて流量調整ゲート14の開口面積を自動調整することでエアスライダコンベア3が搬送する粉粒体の流量を調整するという技術的事項は記載されているものの、バケットエレベータ4の負荷電流に基づいてエアスライダコンベア3の風量を調節する点については何ら記載も示唆もされていない。 一方、平成28年12月19日付けの意見書にて、異議申立人スペロセイキ株式会社が新たに提出した甲第8号証(粉粒体の空気輸送 日刊工業新聞社 昭和49年9月発行 第280頁から第284頁)、甲第9号証(エアスライドによる粉体の輸送 窯協72[7]1964 社団法人窯業協会 1964年発行 第64頁から第72頁)に記載されるように、本件特許の出願時において、エアスライダの風量を調節することでエアスライダが搬送する粉粒体の流量を調整することが可能であるという技術的事項は周知の技術的事項であったものと認められるが、粉粒体の垂直移送手段の駆動電動機の電流値又は電力量に基づいてエアスライダの風量を調節するという点まで周知の技術的事項であったものとは認められない。 また、本件特許発明1は、流量調整弁を備える抜出ゲートによってエアスライダから垂直移送手段への粉粒体の供給量を調整することに加えて、エアスライダの風量を調節することで粉粒体の供給量を調整するものと認められるところ、特開2005-22840号公報、甲第8号証、甲第9号証のいずれにも、流量調整弁の調整とエアスライダの風量調節の双方を実施することでエアスライダによる粉粒体の供給量を調整する点については、何ら記載も示唆もされていない。 そうすると、特開2005-22840号公報に記載の技術的事項、及び、甲第8号証、甲第9号証で例示される周知の技術的事項を参酌したとしても、公然実施された発明において、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者にとって容易であるとはいえない。 したがって、公然実施された発明において、少なくとも相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することは当業者にとって容易とはいえないから、本件特許発明1は、当業者が公然実施された発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。 また、本件特許発明3は、訂正事項7により、取消理由通知書において、特許法第29条第2項の対象とされていなかった請求項2のみを引用するものとなったから、当業者が公然実施された発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。 ウ.特許法第36条第6項第2号について 訂正事項2により、請求項1は「前記船倉の底部に設けられると共に前記垂直移送手段と接続され、前記船倉内の粉粒体を前記垂直移送手段の下端側に向けて水平方向に移送するエアスライダと、を備え、」と訂正された。 また、訂正事項3により、請求項1は「前記船倉が隔壁により内部が水密となるように区画されているため、前記エアスライダは前記船倉毎に水密可能となるように配置され、」と訂正され、訂正事項5により、請求項2は「前記船倉が隔壁により内部が水密となるように区画されているため、前記エアスライダは前記船倉毎に水密可能となるように配置され、」と訂正された。 これにより、請求項1及び2に係る発明は明確となった。 (2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について ア.本件特許発明1について 特許異議申立人喜古弥寿正は、訂正前の請求項1に係る特許について、甲第1号証(特開平6-144357号公報)及び甲第2号証(特開2005-22840号公報)を提出し、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから特許を取り消すべきである旨主張している。 しかしながら、訂正後の請求項1に係る特許の「前記船倉内の粉粒体の前記垂直移送手段への供給量を制御する制御手段を更に備え、前記制御手段は、前記垂直移送手段の駆動電動機の電流値又は電力量に基づいて、前記エアスライダの風量を調節して前記供給量を制御する」という構成は、甲第1号証及び甲第2号証のいずれにも記載されておらず、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 また、特許異議申立書(第9頁)において、特許異議申立人喜古弥寿正は、甲第1号証に記載の発明におけるエアレーション装置39に代えて、甲第2号証に記載の発明の流量調整ゲート14を採用することで、訂正前の請求項1に係る発明の「前記エアスライダと垂直移送手段の接続部に、流量調整弁を備える抜出ゲートが配置されている」という構成を想到することは当業者にとって容易である旨主張している。 しかしながら、甲第1号証に記載の発明のエアレーション装置39はピット36内の粉体を流動化することで粉体を垂直コンベア35に円滑に流入させて汲み揚げられ易くするためのものであるところ(段落【0012】参照)、甲第2号証に記載の発明の流量調整ゲート14はエアスライダコンベア3が搬送する粉粒体の流量を調整するためのものであるから(段落【0033】参照)、両者の目的・機能はまったく異なるものであり、甲第1号証に記載の発明において、エアレーション装置39に代えて、甲第2号証に記載の発明の流量調整ゲート14を採用することの動機付けはなく、むしろ阻害要因があるとさえいえる。 したがって、上記異議申立人の主張には理由がない。 以上から、本件特許発明1は、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 イ.本件特許発明2について (ア)特許異議申立人喜古弥寿正の主張について 特許異議申立人喜古弥寿正は、訂正前の請求項2に係る特許について、甲第1号証(特開平6-144357号公報)及び甲第3号証(特開2009-67278号公報)を提出し、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから特許を取り消すべきである旨主張している。 そして、特許異議申立書(第13頁から第14頁)において、同特許異議申立人は、本件特許発明2の「前記垂直移送手段とエアスライダの接続部は、水密バタフライバルブにより閉塞可能に接続されている」との点について、横型スクリューコンベア32と縦型スクリューコンベア33との接続部に水密ゲート33aを設けることで、一方の船倉6が浸水しても他方の船倉6にはその浸水は及ばない構造とすることができるという甲第3号証に記載の技術的事項を参酌することで、甲第1号証に記載の発明において、垂直コンベア35とエアレーション装置37との接続部に水密ゲートなどの水密開閉機構を設けることは、当業者にとって容易である旨主張している。 しかしながら、甲第1号証に記載の発明において、垂直コンベア35とエアレーション装置37は、ともに、縦隔壁23と横隔壁24等によって水密に区分されている船倉25内に設置されているのだから(段落【0011】等参照)、垂直コンベア35とエアレーション装置37との接続部に、敢えて、水密ゲートなどの水密開閉機構を設けることの動機付けはないといえる。 したがって、上記異議申立人の主張には理由がない。 以上から、本件特許発明2は、甲第1号証に記載の発明及び甲第3号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (イ)特許異議申立人スペロセイキ株式会社の主張について 特許異議申立人スペロセイキ株式会社は、訂正前の請求項2に係る特許は、公然実施された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた旨主張している。 しかしながら、特許異議申立書(第13頁から第14頁)において、同異議申立人は、公然実施された発明は、訂正前の請求項2に係る特許の「前記垂直移送手段は少なくとも2つの隣接する船倉の隔壁部に、これらの船倉で共有するように配置され」との構成を有している旨主張しているところ、公然実施された発明は、「前記垂直移送手段はホールド毎に配置され」という構成を有しているのであって、「前記垂直移送手段は少なくとも2つの隣接する船倉の隔壁部に、これらの船倉で共有するように配置され」との構成は有していない。 したがって、上記異議申立人の主張には理由がない。 以上から、本件特許発明2は、公然実施された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 ウ.本件特許発明3-5について (ア)特許異議申立人喜古弥寿正の主張について 本件特許発明3及び4は、本件特許発明2をさらに限定したものであり、本件特許発明5は、本件特許発明1又は2をさらに限定したものであるから、本件特許発明3-5は、甲第1号証に記載の発明、甲第2号証に記載の技術的事項、甲第3号証に記載の技術的事項及び甲第4号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (イ)特許異議申立人スペロセイキ株式会社の主張について 本件特許発明3及び4は、本件特許発明2をさらに限定したものであり、本件特許発明5は、本件特許発明1又は2をさらに限定したものであるから、本件特許発明3-5は、公然実施された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1-5を取り消すことはできない。 また、他に本件特許発明1-5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 粉粒体を複数に区画された船倉内に積載して運搬する粉粒体運搬船に設置され、前記船倉内から前記粉粒体を荷揚する揚荷装置であって、 隔壁により内部が水密となるように区画された前記船倉内から搬出された粉粒体を垂直方向に移送する、縦型バケットエレベータからなる垂直移送手段と、 前記船倉の底部に設けられると共に前記垂直移送手段と接続され、前記船倉内の粉粒体を前記垂直移送手段の下端側に向けて水平方向に移送するエアスライダと、を備え、 前記垂直移送手段は船倉毎に配置され、 前記船倉が隔壁により内部が水密となるように区画されているため、前記エアスライダは前記船倉毎に水密可能となるように配置され、 前記エアスライダと垂直移送手段の接続部に、流量調整弁を備える抜出ゲートが配置され、 前記船倉内の粉粒体の前記垂直移送手段への供給量を制御する制御手段を更に備え、前記制御手段は、前記垂直移送手段の駆動電動機の電流直又は電力量に基づいて、前記エアスライダの風量を調節して前記供給量を制御することを特徴とする揚荷装置。 【請求項2】 粉粒体を複数に区画された船倉内に積載して運搬する粉粒体運搬船に設置され、前記船倉内から前記粉粒体を荷揚する揚荷装置であって、 隔壁により内部が水密となるように区画された前記船倉内から搬出された粉粒体を垂直方向に移送する垂直移送手段と、 前記船倉の底部に設けられると共に前記垂直移送手段と直接接続され、前記船倉内の粉粒体を前記垂直移送手段の下端側に向けて水平方向に移送するエアスライダとを備え、 前記垂直移送手段は少なくとも2つの隣接する船倉の隔壁部に、これらの船倉で共有するように配置され、 前記船倉が隔壁により内部が水密となるように区画されているため、前記エアスライダは前記船倉毎に水密可能となるように配置され、 前記垂直移送手段とエアスライダの接続部は、水密バタフライバルブにより閉塞可能に接続されている ことを特徴とする揚荷装置。 【請求項3】 前記垂直移送手段は、縦型バケットエレベータからなることを特徴とする請求項2記載の揚荷装置。 【請求項4】 前記船倉内の粉粒体の前記垂直移送手段への供給量を制御する制御手段を更に備え、 前記制御手段は、前記垂直移送手段の駆動電動機の電流値又は電力量に基づいて、前記エアスライダの風量を調節して前記供給量を制御する ことを特徴とする請求項3記載の揚荷装置。 【請求項5】 前記制御手段は、 前記粉粒体の揚荷役時以外は前記抜出ゲート又は水密バタフライバルブを常時全閉とするように制御し、 前記粉粒体の揚荷役時は前記船倉のいずれかに損傷が生じた場合に、前記抜出ゲート又は水密バタフライバルブを全閉とするように制御する ことを特徴とする請求項1又は4記載の揚荷装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-01-24 |
出願番号 | 特願2014-503307(P2014-503307) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(B63B)
P 1 651・ 121- YAA (B63B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 川村 健一 |
特許庁審判長 |
氏原 康宏 |
特許庁審判官 |
和田 雄二 森林 宏和 |
登録日 | 2015-10-02 |
登録番号 | 特許第5814460号(P5814460) |
権利者 | 渦潮電機株式会社 宇部興産海運株式会社 株式会社椿本バルクシステム |
発明の名称 | 揚荷装置 |
代理人 | きさらぎ国際特許業務法人 |
代理人 | 特許業務法人安倍・下田国際特許事務所 |
代理人 | きさらぎ国際特許業務法人 |
代理人 | きさらぎ国際特許業務法人 |
代理人 | きさらぎ国際特許業務法人 |