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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61M
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61M
管理番号 1325866
異議申立番号 異議2016-700612  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-12 
確定日 2017-02-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5843345号発明「β-アミロイド除去システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5843345号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-18〕について訂正することを認める。 特許第5843345号の請求項1ないし18に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5843345号の請求項1?18に係る特許についての出願は、平成23年7月8日(パリ条約による優先権主張 2010(平成22)年7月8日 アメリカ合衆国)に特許出願され、平成27年11月27日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年9月29日付けで通知された取消理由に対し、平成28年12月2日付けで特許権者により意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされたものであって、さらにその後、平成28年12月26日付けで申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1のとおりである。
(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1に「β-アミロイド除去システム」と記載されているのを、「β-アミロイド除去システム(ただし、中空糸膜が、ポリスルホン(PSf)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、及びポリアクリロニトリル(PAN)からなる群から選択される高分子のみを含有する場合には、血液透析システムではない)」に訂正する。

2 一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1?18に関し、請求項2?18は直接的又は間接的に請求項1を引用するものである。
よって、訂正前の請求項1?18に対応する訂正後の請求項1?18は、特許法第120条の5第4項に規定する「一の請求項の記載を他の請求項が引用する関係その他経済産業省令で定める関係を有する一群の請求項」に該当する。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び実質的拡張・変更の存否について
訂正事項1に係る訂正は、請求項1において、「β-アミロイド除去システム」を、「ただし、中空糸膜が、ポリスルホン(PSf)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、及びポリアクリロニトリル(PAN)からなる群から選択される高分子のみを含有する場合には、血液透析システムではない」と特定する、いわゆる「除くクレーム」を構成するものであって、新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-18〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
上記のように本件訂正請求による訂正は認められたので、本件特許の請求項1?18に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明18」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
β-アミロイドを吸着させて、血液中のβ-アミロイド濃度を低下させる中空糸膜と、
血液を体外に脱血するための血液回路と、
中空糸膜に通液させた血液を返血するための血液回路と、及び
血液回路と中空糸膜とを連結する可撓性チューブとを備え、
中空糸膜が、ポリスルホン(PSf)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ポリエーテルスルホンポリアリレートポリマアロイ(PEPA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリロニトリル(PAN)、及びセルローストリアセテート(CTA)からなる群から選択される高分子を含有する、β-アミロイド除去システム(ただし、中空糸膜が、ポリスルホン(PSf)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、及びポリアクリロニトリル(PAN)からなる群から選択される高分子のみを含有する場合には、血液透析システムではない)。
【請求項2】
β-アミロイド-アルブミン複合体から、β-アミロイドが中空糸膜に吸着し、アルブミンが血液中に遊離する、請求項1に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項3】
血液の流速が5?200mL/minである、請求項1又は2に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項4】
血液の流速が10?30mL/minである、請求項1?3のいずれか一項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項5】
血液が中空糸内腔を通液される、請求項1?4のいずれか一項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項6】
中空糸内腔の血液の線速度が200cm/min以下である、請求項1?5のいずれか一項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項7】
中空糸内腔の血液の線速度が5cm/min以下である、請求項1?6のいずれか一項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項8】
中空糸外面に気体又は液体が存在する、請求項1?7のいずれか一項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項9】
透析液が中空糸外面を通液される、請求項1?8のいずれか一項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項10】
透析液中のβ-アミロイド濃度が実質的に増加しない、請求項9に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項11】
血液が中空糸外面を通液される、請求項1?4のいずれか一項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項12】
中空糸内腔に気体又は液体が存在する、請求項11に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項13】
中空糸膜が、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、エチレンビニルアルコール共重合体、及びポリハイドロキシエチルメタクリレートをさらに含有する、請求項1?12のいずれか1項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項14】
中空糸膜が、ポリビニルピロリドンをさらに含有する、請求項1?12のいずれか1項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項15】
中空糸膜が、血液の注入口と、排出口を供えるハウジング内に収容されている、請求項1?14のいずれか一項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項16】
中空糸膜がハウジング内に収納され、注入口と排出口においてシールされている、請求項15に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項17】
中空糸膜が収納されたハウジングが、血液透析用カラムである、請求項15又は16に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項18】
中空糸膜断片がハウジング内に収容されている、請求項15に記載のβ-アミロイド除去システム。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?18に係る特許に対し、平成28年9月29日付けで特許権者に通知した取消理由は、概ね次の理由1及び2のとおりである。
(1)甲号証
甲第1号証:国際公開第2010/073580号
甲第2号証:Isabel R, et al., Plasma amyloid-β, Aβ_(1-42), load is reduced by haemodialysis, Journal of Alzheimer's Disease, 2006, 10, p439-443
甲第15号証:竹澤 真吾他, ハイパフォーマンスダイアライザー2008, 株式会社東京医学社, 2008年7月15日発行, 49?59頁

(2)理由1
請求項1、2、5、8?10、15?17に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、又は甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができない。

(3)理由2
請求項1?10、13?17に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証、及び甲第15号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 甲号証の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証には、段落[0023]、[0037]、[0038]、図13、図16に関連して、次の発明が記載されている(以下、その発明を「甲1発明」という。)。
「PMMAからなる中空糸膜により構成されたダイアライザーと、
血液を体外に脱血するための血液回路と、
中空糸膜に通液させた血液を返血するための血液回路と、及び
血液回路と中空糸膜とを連結する可撓性チューブとを備える、
血液中のアミロイドβ濃度を低下させる人工透析システム。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、第440頁のTable 1、同頁左欄第12?13行、同頁左欄下から第2行?同頁右欄第1行、同頁右欄第11?12行に関連して、次の発明が記載されている(以下、その発明を「甲2発明」という。)。
「ポリスルホン、又はポリアクリロニトリルからなる中空糸膜と、
血液を体外に脱血するための血液回路と、
中空糸膜に通液させた血液を返血するための血液回路と、及び
血液回路と中空糸膜とを連結する可撓性チューブとを備える、
血液中のアミロイド-β濃度を低下させる血液透析システム。」

(3)甲第15号証
甲第15号証は、血液透析療法に用いられるダイアライザーに関し、特に第50頁右欄第2行?第51頁左欄第1行に関連して、次の事項が記載されている。
「旭化成クラレメディカルの中空糸膜は,疎水性であるポリスルホン(PS)(図2)と親水性であるポリビニルピロリドン(PVP)(図3)からなる合成膜です。この親水性であるポリビニルピロリドンを紡糸工程にて主に,血液が接触する中空糸内表面側に偏在化させることにより血液適合性を膜全体に付与しています。」

第4 当審の判断(理由1及び理由2について)
1 本件発明1について
(1)甲1発明との対比
甲1発明の人工透析システムは、血液中のアミロイドβ濃度を低下させるものであるので、「β-アミロイド除去システム」に相当する。そして、本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は下記の各点で相違する。
<相違点1>
β-アミロイドの除去に関し、本件発明1は、β-アミロイドを中空糸膜に吸着させ除去するのに対し、甲1発明は、β-アミロイドを中空糸膜に吸着させ除去するものかどうか不明な点。
<相違点2>
β-アミロイド除去システムに関し、本件発明1は、「中空糸膜が、ポリスルホン(PSf)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、及びポリアクリロニトリル(PAN)からなる群から選択される高分子のみを含有する場合には、血液透析システムではない」のに対し、甲1発明は、中空糸膜がPMMAからなる人工透析システムである点。

(2)甲2発明との対比
甲2発明の血液透析システムは、血液中のアミロイド-β濃度を低下させるものであるので、「β-アミロイド除去システム」に相当する。そして、本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者は下記の各点で相違する。
<相違点3>
β-アミロイドの除去に関し、本件発明1は、β-アミロイドを中空糸膜に吸着させ除去するのに対し、甲2発明は、β-アミロイドを中空糸膜に吸着させ除去するものかどうか不明な点。
<相違点4>
β-アミロイド除去システムに関し、本件発明1は、「中空糸膜が、ポリスルホン(PSf)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、及びポリアクリロニトリル(PAN)からなる群から選択される高分子のみを含有する場合には、血液透析システムではない」のに対し、甲2発明は、中空糸膜がポリスルホン、又はポリアクリロニトリルからなる血液透析システムである点。

(3)判断
ア)理由1(特許法第29条第1項第3号)について
本件発明1は、本件訂正請求により、訂正前の請求項1に係る発明から、甲1発明及び甲2発明を除くよう訂正されたものであるので、甲1発明又は甲2発明と同一ではなく、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。

イ)理由1に関する申立人の意見について
申立人は、平成28年12月26日付け意見書の第13頁第4行?第8行において、「甲第17?22号証によれば、そもそも様々な素材からなる中空糸膜が、種々の治療法において「透析液の使用有無」、「ろ過の有無」等が適宜選択されながら、使用され得ることが明らかであるため、上記発明特定事項は、甲1発明(血液透析システムを開示)または甲2発明(血液透析システムを開示)に記載されているに等しい。」と主張する。
しかし、仮に、申立人が提出した甲第17号証(血液浄化療法ハンドブック、協同医書出版社、改訂第5版 増補版、2010年2月10日発行、第71?91頁)、甲第18号証(血液浄化療法ハンドブック、協同医書出版社、改訂第5版 増補版、2010年2月10日発行、第18?23頁)、甲第19号証(血液浄化療法スタッフマニュアル、医学書院、第2版、2005年11月1日発行、第51?55頁)、甲第20号証(集中治療とClinical Engineering 機器操作のコツとトラブルシューティング、総合医学社、集中治療 第11巻 臨時増刊号、1999年12月10日発行、第185?191頁)、甲第21号証(血液透析および血液透析濾過でのβ_(2)-ミクログロブリン除去性能比較:各種透析膜での検討、透析学会誌28(12)、第1553?1538頁、1995年)、甲第22号証(Adsorption of low molecular weight proteins to hemodialysis membranes: experimental results and simulations、Biomaterials 20 (1999) 第1621?1634頁)において「様々な素材からなる中空糸膜が、種々の治療法において「透析液の使用有無」、「ろ過の有無」等が適宜選択されながら、使用され得ることが明らか」だとしても、甲1発明及び甲2発明はあくまで血液透析システムにおいてβ-アミロイドが低減することを示したに過ぎず、そのような甲1発明や甲2発明に係る血液透析システムを含まない「β-アミロイド除去システム」までもが、甲1発明又は甲2発明に記載されているに等しいとする主張は採用できない。

ウ)理由2(特許法第29条第2項)について
事案に鑑み、まず相違点2、4について検討する。
甲1発明及び甲2発明に係る血液透析(人工透析)システムは、血液透析を行うことを前提とするものであり、使用される特定の中空糸膜(PMMA、ポリスルホン、又はポリアクリロニトリル)を、血液透析以外のシステムに用いることは、甲第1号証、甲第2号証、及び甲第5号証において開示も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明及び甲2発明に開示されたβ-アミロイドを除去する技術を、甲1発明及び甲2発明を除くよう構成された「β-アミロイド除去システム」に転用することは、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明1についての特許は、相違点1、3について検討するまでもなく、特許法第29条第2項に違反してされたものではない。

エ)理由2に関する申立人の意見について
申立人は、平成28年12月26日付け意見書の第13頁第11行?第17行において、「・・・仮にそうでないとしても、本件訂正発明1は、甲1発明または甲2発明の血液透析システムにおいて上記甲第17?22号証に記載の周知技術を適宜組み合わせることにより容易になし得る程度のものである。そうすると、当業者は、甲1発明または甲2発明の血液透析システムに、上記周知技術を適用することにより、実質的に本件訂正発明1におけるβ-アミロイド除去システムの構成とすることについて容易に想到し得る(同法第29条第2項、同法第113条第2号)。」と主張する。
ここで、「甲第17?22号証に記載の周知技術」が具体的に特定されておらず、甲1発明又は甲2発明に適用する技術が明確でないが、少なくとも甲第17?22号証の何れにも、「β-アミロイド除去システム」について記載も示唆もされていないから、これらに基づき、甲1発明及び甲2発明を除くよう構成された「β-アミロイド除去システム」が周知技術であるとはいえないし、甲1発明又は甲2発明を、甲1発明及び甲2発明を除くよう構成された「β-アミロイド除去システム」に転用することを開示するものであるともいえない。
したがって、上記相違点2、4に係る構成は、甲1発明、甲2発明及び甲第17?22号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものということはできない。
なお、仮に、甲第17?22号証の記載に基づき、甲1発明又は甲2発明を、血液透析システム以外の他の血液浄化システムに適用することができたとしても、血液透析を行わない「β-アミロイド除去システム」が周知であるとはいえないことは上述のとおりであるので、その血液浄化システムが、本件発明1に係る甲1発明及び甲2発明を除くよう構成された「β-アミロイド除去システム」であるとまでは示されたことでない。

(4)まとめ
したがって、本件発明1は、甲1発明又は甲2発明と同一であるとも、甲1発明、甲2発明、及び甲第15号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるともいえない。

2 本件発明2、5、8?10、15?17に関する理由1(特許法第29条第1項第3号)について
本件発明2、5、8?10、15?17は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
そうすると、本件発明2、5、8?10、15?17は、上記「1 本件発明1について」において示した理由と同様の理由により、甲1発明又は甲2発明と同一であるとはいえない。

3 本件発明2?10、13?17に関する理由2(特許法第29条第2項)について
本件発明2?10、13?17は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
そうすると、本件発明2?10、13?17は、甲1発明、甲2発明、及び甲第15号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 本件請求項3、14について(特許法第29条第1項第3号)
申立人は、本件発明1は甲1発明又は甲2発明と同一であることを前提として、特許異議申立書の第38頁第3行?第39頁第14行において、周知技術として甲第3号証(維持血液透析ガイドライン、透析会誌46(7)、2013年、第589?590頁)、甲第14号証(血液浄化療法ハンドブック、協同医書出版社、改訂第5版 増補版、第23?25、75?77頁、2010年2月10日)を参照しつつ「本件特許発明3は、甲第1号証に記載の発明である。」、「本件特許発明3は、甲第2号証に記載の発明である。」と主張する。
また、申立人は、本件発明1は甲1発明と同一であることを前提として、特許異議申立書の第56頁16行?第57頁9行において、甲第15号証の記載事項を参照しつつ「本件特許発明14は、甲第1号証に記載の発明である。」と主張する。
しかし、本件請求項3、14は、本件訂正請求により訂正された本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであり、上記第4の「1 本件発明1について」において示したとおり、本件発明1は、甲1発明又は甲2発明と同一であるとはいえないので、申立人の上記主張にはその前提において理由がない。

2 本件請求項11、12、及び18について(特許法第29条第2項)
申立人は、特許異議申立書の第53頁下から第1行?第54頁下から第5行において、「本件特許発明11は、甲1発明または甲2発明に、適宜周知技術(たとえば甲5、甲13発明)を組み合わせることにより、容易に想到し得る。」と主張する。
また、申立人は、特許異議申立書の第54頁下から第4行?第55頁下から第7行において、「本件特許発明12は、甲1発明または甲2発明に、適宜周知技術(たとえば甲5、甲13発明)を組み合わせることにより、容易に想到し得る。」と主張する。
さらに、申立人は、特許異議申立書の第63頁第1行?下から第1行において、「本件特許発明18は、甲1発明に、適宜周知技術(たとえば甲6発明)を組み合わせることにより、容易に想到し得る。」と主張する。
ここで、甲第5号証(特開2007-215992号公報)は「人工肺」に関し、甲第13号証(特開平1-115364号公報)は「多孔質中空糸膜および中空糸膜型人工肺」に関し、何れにおいても、血液が中空糸外面を通液される点、中空糸内腔に気体又は液体が存在する点が開示されているものと認められる。
また、甲第6号証(特開2009-297229号公報)は「血球除去モジュール」に関し、血球除去用吸着体として中空糸状または中実糸状の短繊維を用いることが開示されているものと認められる。
しかし、上記甲第5、6、及び13号証には、「β-アミロイド除去システム」について記載も示唆もされていないから、これらに基づき、甲1発明及び甲2発明を除くよう構成された「β-アミロイド除去システム」が周知技術であるとはいえないし、甲1発明又は甲2発明を、甲1発明及び甲2発明を除くよう構成された「β-アミロイド除去システム」に転用することを開示するものであるともいえない。
したがって、上記甲第5、6、13号証に記載された技術的事項を参酌したとしても、甲1発明又は甲2発明において、少なくとも上記第4 1(1)、(2)で示した相違点2、4に係る本件発明1の発明特定事項を満足させることは、当業者が容易になし得たこととはいえず、本件発明1の発明特定事項を全て含む本件請求項11、12、及び18に関する申立人の上記主張には理由がない。

3 申立人が提出したその他の甲号証について
申立人は、特許異議申立書において、本件請求項1?18に記載の発明は、甲第1?第16号証に記載の発明に基づき、容易に発明をすることができたものであると主張する。
上記1又は2で示していない各甲号証は以下のとおりである。
甲第4号証(特開2003-265601号公報)は、血液回路を示すものである。
甲第7号証(国際公開第2005/028500号)、甲第10号証(Continuous hemodiafiltration in the treatment of reactive hemophagocytic syndrome refractory to medical therapy、Transfusion and Apheresis Science 40 (2009) p33-40)、甲第11号証(特開2005-237755号公報)、甲第12号証(体外循環による新生児急性血液浄化療法ガイドライン、日本未熟児新生児学会雑誌、第25巻、第1号、2013年、第89?97頁)は、血液の流速や中空糸内腔の血液の線速度を示すものである。
甲第8号証(Amount of adsorbed albumin loss by dialysis membranes with protein adsorption、The Japanese Society for Artificial Organs (2009) 12 p194-199)は、透析液へのアルブミンの漏出量について示すものである。
甲第9号証(血液浄化器:性能評価の基礎、ハイパフォーマンスメンブレン’07、東京医学社、腎と透析 第63巻別冊、2007年11月30日発行、第8?11頁)は、透析液へのキモトリプシノーゲンの漏出量について示すものである。
甲第16号証(ヘモフィールR CH 製品カタログ、東レ・メディカル株式会社、2007年4月発行)は、PMMA中空糸膜からなる持続緩徐式血液濾過器を示すものである。
しかし、上記甲第3?16号証には、「β-アミロイド除去システム」について記載も示唆もされていないから、これらに基づき、甲1発明及び甲2発明を除くよう構成された「β-アミロイド除去システム」が開示されているとはいえないし、甲1発明又は甲2発明を、甲1発明及び甲2発明を除くよう構成された「β-アミロイド除去システム」に転用することを開示するものであるともいえない。
したがって、上記甲第3?16号証に記載された技術的事項を参酌したとしても、甲1発明又は甲2発明において、少なくとも上記第4 1(1)、(2)で示した相違点2、4に係る本件発明1の発明特定事項を満足させることは、当業者が容易になし得たこととはいえないので、申立人の上記主張には理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由及び特許異議申立理由によっては、本件発明1?18についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?18についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-アミロイドを吸着させて、血液中のβ-アミロイド濃度を低下させる中空糸膜と、
血液を体外に脱血するための血液回路と、
中空糸膜に通液させた血液を返血するための血液回路と、及び
血液回路と中空糸膜とを連結する可撓性チューブとを備え、
中空糸膜が、ポリスルホン(PSf)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ポリエーテルスルホンポリアリレートポリマアロイ(PEPA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリロニトリル(PAN)、及びセルローストリアセテート(CTA)からなる群から選択される高分子を含有する、β-アミロイド除去システム(ただし、中空糸膜が、ポリスルホン(PSf)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、及びポリアクリロニトリル(PAN)からなる群から選択される高分子のみを含有する場合には、血液透析システムではない)。
【請求項2】
β-アミロイド-アルブミン複合体から、β-アミロイドが中空糸膜に吸着し、アルブミンが血液中に遊離する、請求項1に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項3】
血液の流速が5?200mL/minである、請求項1又は2に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項4】
血液の流速が10?30mL/minである、請求項1?3のいずれか一項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項5】
血液が中空糸内腔を通液される、請求項1?4のいずれか一項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項6】
中空糸内腔の血液の線速度が200cm/min以下である、請求項1?5のいずれか一項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項7】
中空糸内腔の血液の線速度が5cm/min以下である、請求項1?6のいずれか一項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項8】
中空糸外面に気体又は液体が存在する、請求項1?7のいずれか一項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項9】
透析液が中空糸外面を通液される、請求項1?8のいずれか一項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項10】
透析液中のβ-アミロイド濃度が実質的に増加しない、請求項9に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項11】
血液が中空糸外面を通液される、請求項1?4のいずれか一項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項12】
中空糸内腔に気体又は液体が存在する、請求項11に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項13】
中空糸膜が、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、エチレンビニルアルコール共重合体、及びポリハイドロキシエチルメタクリレートをさらに含有する、請求項1?12のいずれか1項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項14】
中空糸膜が、ポリビニルピロリドンをさらに含有する、請求項1?12のいずれか1項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項15】
中空糸膜が、血液の注入口と、排出口を供えるハウジング内に収容されている、請求項1?14のいずれか一項に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項16】
中空糸膜がハウジング内に収納され、注入口と排出口においてシールされている、請求項15に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項17】
中空糸膜が収納されたハウジングが、血液透析用カラムである、請求項15又は16に記載のβ-アミロイド除去システム。
【請求項18】
中空糸膜断片がハウジング内に収容されている、請求項15に記載のβ-アミロイド除去システム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-01-30 
出願番号 特願2011-152366(P2011-152366)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A61M)
P 1 651・ 121- YAA (A61M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 石田 宏之  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 関谷 一夫
橘 均憲
登録日 2015-11-27 
登録番号 特許第5843345号(P5843345)
権利者 学校法人藤田学園
発明の名称 β-アミロイド除去システム  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 内藤 和彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 江口 昭彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 江口 昭彦  

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